(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】地下水位変動の検知方法
(51)【国際特許分類】
G01F 23/24 20060101AFI20240926BHJP
【FI】
G01F23/24 Z
(21)【出願番号】P 2021010283
(22)【出願日】2021-01-26
【審査請求日】2023-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】中里 裕臣
(72)【発明者】
【氏名】石田 聡
(72)【発明者】
【氏名】白旗 克志
(72)【発明者】
【氏名】土原 健雄
(72)【発明者】
【氏名】吉本 周平
【審査官】松山 紗希
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-503464(JP,A)
【文献】特開2013-205311(JP,A)
【文献】特開2003-090753(JP,A)
【文献】特開2003-227877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 23/00、23/14-23/2965
G01V 9/02
G01C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4本の電極を用いた地表電気探査の時系列測定を行うことで、地下水位変動を検知する地下水位変動の検知方法であって、
4本の前記電極の電極間隔を決定する電極間隔決定ステップと、
前記電極間隔決定ステップで決定した前記電極間隔で前記電極を設置する電極設置ステップと、
前記電極設置ステップで設置した場所で前記電極から得られる時系列見かけ比抵抗値を計測する計測ステップと
を有し、
前記電極間隔決定ステップでは、前記電極間隔を、表層比抵抗が変化しても測定値が変化しない浅層不感電極間隔とし、
前記計測ステップで計測した前記時系列見かけ比抵抗値から前記地下水位変動を検知する
ことを特徴とする地下水位変動の検知方法。
【請求項2】
前記電極間隔決定ステップでは、
前記電極間隔を、表層の比抵抗変化層厚と平均地下水位とを用いて決定する
ことを特徴とする請求項1に記載の地下水位変動の検知方法。
【請求項3】
前記電極間隔決定ステップでは、
前記電極間隔の決定にあたっては、更に地下水面の上下での比抵抗コントラストを用いる
ことを特徴とする請求項2に記載の地下水位変動の検知方法。
【請求項4】
前記電極設置ステップでは、前記電極を構成する一対の電流電極を地表下に埋設する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の地下水位変動の検知方法。
【請求項5】
前記電極を構成する一対の電位電極も前記地表下に埋設する
ことを特徴とする請求項4に記載の地下水位変動の検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地表電気探査の時系列測定を行うことで地下水位変動を検知する地下水位変動の検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沿岸域では海岸から内陸に向かって伝播する地下水位の振動成分の振幅比もしくは位相差を観測孔で観測し、観測孔間の帯水層の水頭拡散率、透水量係数、透水係数、貯留係数等の水理学的性質が推定されている(非特許文献1)。特許文献1では、この手法を応用して地下ダム止水壁の透水性を評価する手法を提案している。
例えば特許文献1の方法では、観測孔による地下水位の観測が必要であるが、特に地下ダム止水壁の透水性評価では止水壁の下流側に適当な観測孔がない場合があり、沿岸域地下水調査においても海水の存在が卓越する海岸付近では観測孔が設置されない場合がある。観測孔が設置されていない場合には、簡易に海岸付近の地下水位の振動成分を把握する手法が求められている。
一方、地盤の比抵抗を測定することで地下構造を推定する電気探査では、地下水面の上下の飽和度の違いによる比抵抗差を利用して地下水位の深度や地下水位の深度変化が推定されてきた。
非特許文献2では、地表に配置した探査電極の間隔を変化させ、水平多層構造を仮定して深度方向の比抵抗構造を求める1次元探査を繰り返し行い、地下水面と推定される比抵抗層境界の深度変化を求めている。非特許文献3では、地表に等間隔に多数の電極を配置した測線において、測線地下の断面の比抵抗構造を求める2次元探査を繰り返して行い、潮汐変動に対応した地下水面付近の比抵抗変化を明らかにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】白旗克志、吉本周平、土原健雄、石田聡著、「卓越潮汐に合わせ最適化した周波数分離法を組み合わせた潮汐応答法による沿岸域帯水層の水理定数推定」農業農村工学会論文集、1991年6月、No.308、p.I_51-I_60
【文献】高倉伸一著、「比抵抗法による地下水位変化のモニタ リングの試み」物理探査、1991年、第44巻、p.227-231
【文献】中里裕臣、黒田清一郎、井上敬資、竹内睦雄、汪振洋著、「比抵抗モニタリングによる地下水の潮位変動の可視化」、物理探査、2007年、第60巻、第6号、p.501-506
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法では観測孔を設置した上で地下水位の観測が必要である。
また、非特許文献2及び非特許文献3の方法によって地下水位変動を推定するためには、電極及び電線を設置し、更に電極及び電線を移動して探査測線を設置するために、多くの資材と労力を必要とする。測定には数10分から数時間を要することから、時間と共に変化する地下水位変動に起因する比抵抗変化を高頻度で求めることが困難であり、比抵抗変化の振動成分の周期や潮汐変動との位相差を正確に評価することができない。
これらの問題点に対し、必要最低限の4本の電極を定点に設置し、数分から10分間隔程度の高頻度の時系列測定によって得られる応答電位又は見かけ比抵抗の変化から、地下水位の振動成分を評価することが考えられる。
しかし、降雨や気温変化により地表付近の比抵抗が変化し、測定値に影響を及ぼすことから実施された例は無い。
【0006】
本発明は、降雨や気温変化による地表付近の短期的な日変化のノイズを除去することができ、省力的に精度よく地下水位変動を検知することができる地下水位変動の検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の本発明の地下水位変動の検知方法は、4本の電極を用いた地表電気探査の時系列測定を行うことで、地下水位変動を検知する地下水位変動の検知方法であって、4本の前記電極の電極間隔aを決定する電極間隔決定ステップS1と、前記電極間隔決定ステップS1で決定した前記電極間隔aで前記電極を設置する電極設置ステップS2と、前記電極設置ステップS2で設置した場所で前記電極から得られる時系列見かけ比抵抗値を計測する計測ステップS3とを有し、前記電極間隔決定ステップS1では、前記電極間隔aを、表層比抵抗が変化しても測定値が変化しない浅層不感電極間隔とし、前記計測ステップS3で計測した前記時系列見かけ比抵抗値から前記地下水位変動を検知することを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の地下水位変動の検知方法において、前記電極間隔決定ステップS1では、前記電極間隔aを、表層Dの比抵抗変化層厚と平均地下水位とを用いて決定することを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項2に記載の地下水位変動の検知方法において、前記電極間隔決定ステップS1では、前記電極間隔aの決定にあたっては、更に地下水面Xの上下での比抵抗コントラストを用いることを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の地下水位変動の検知方法において、前記電極設置ステップS2では、前記電極を構成する一対の電流電極11、12を地表下に埋設することを特徴とする。
請求項5記載の本発明は、請求項4に記載の地下水位変動の検知方法において、前記電極を構成する一対の電位電極13、14も前記地表下に埋設することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の地下水位変動の検知方法によれば、降雨や気温変化による地表付近の短期的な日変化のノイズを除去することができ、省力的に精度よく地下水位変動を検知することができる
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施例による地下水位変動の検知方法を説明する概念図
【
図2】表層厚0.1mにおける比抵抗変化時の測定値の変化率を示すグラフ
【
図3】表層厚0.2mにおける比抵抗変化時の測定値の変化率を示すグラフ
【
図4】表層厚0.5mにおける比抵抗変化時の測定値の変化率を示すグラフ
【
図5】表層厚1mにおける比抵抗変化時の測定値の変化率を示すグラフ
【
図6】表層厚2mにおける比抵抗変化時の測定値の変化率を示すグラフ
【
図7】表層厚と浅層不感電極間隔との関係を示すグラフ
【
図8】平均地下水位が1mにおける地下水面より上位を100Ωmとし地下水面下を50Ωm(淡水地下水を想定)とした場合の電極間隔による見かけ比抵抗値の変化率を示すグラフ
【
図9】平均地下水位が2mにおける同電極間隔による見かけ比抵抗値の変化率を示すグラフ
【
図10】平均地下水位が5mにおける同電極間隔による見かけ比抵抗値の変化率を示すグラフ
【
図11】平均地下水位が10mにおける同電極間隔による見かけ比抵抗値の変化率を示すグラフ
【
図12】平均地下水位が1mにおける地下水面より上位を100Ωmとし地下水面下を1Ωm(塩水地下水を想定)とした場合の電極間隔による見かけ比抵抗値の変化率を示すグラフ
【
図13】平均地下水位が2mにおける同電極間隔による見かけ比抵抗値の変化率を示すグラフ
【
図14】平均地下水位が5mにおける同電極間隔による見かけ比抵抗値の変化率を示すグラフ
【
図15】平均地下水位が10mにおける同電極間隔による見かけ比抵抗値の変化率を示すグラフ
【
図16】
図8から
図15に示す平均地下水位と浅層不感電極間隔との関係を示すグラフ
【
図17】地下水面より上位を100Ωmとし地下水面下を1Ωm(塩水地下水を想定)とし、表層Dの比抵抗変化層厚を変えた場合の平均地下水位と浅層不感電極間隔との関係を示すグラフ
【
図18】埋設電極と地表電極による見かけ比抵抗変化率を示すグラフ
【
図19】本実施例による地下水位変動の検知方法の検証結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の第1の実施の形態による地下水位変動の検知方法は、4本の電極の電極間隔を決定する電極間隔決定ステップと、電極間隔決定ステップで決定した電極間隔で電極を設置する電極設置ステップと、電極設置ステップで設置した場所で電極から得られる時系列見かけ比抵抗値を計測する計測ステップとを有し、電極間隔決定ステップでは、電極間隔を、表層比抵抗が変化しても測定値が変化しない浅層不感電極間隔とし、計測ステップで計測した時系列見かけ比抵抗値から地下水位変動を検知するものである。本実施の形態によれば、降雨や気温変化による地表付近の短期的な日変化のノイズを除去することができ、省力的に精度よく地下水位変動を検知することができる。
【0011】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による地下水位変動の検知方法において、電極間隔決定ステップでは、電極間隔を、表層の比抵抗変化層厚と平均地下水位とを用いて決定するものである。本実施の形態によれば、精度よく地下水位変動を検知することができる。
【0012】
本発明の第3の実施の形態は、第2の実施の形態による地下水位変動の検知方法において、電極間隔決定ステップでは、電極間隔の決定にあたっては、更に地下水面の上下での比抵抗コントラストを用いるものである。本実施の形態によれば、更に精度よく地下水位変動を検知することができる。
【0013】
本発明の第4の実施の形態は、第1から第3の実施の形態による地下水位変動の検知方法において、電極設置ステップでは、電極を構成する一対の電流電極を地表下に埋設するものである。本実施の形態によれば、電極間隔を浅層不感電極間隔より小さくしなければならない場合には、降雨や気温変化による地表付近の短期的な日変化のノイズの影響を受けるため、一対の電流電極を地表下に埋設することで日変化のノイズを除去して、省力的に精度よく地下水位変動を検知することができる。
【0014】
本発明の第5の実施の形態は、第4の実施の形態による地下水位変動の検知方法において、電極を構成する一対の電位電極も地表下に埋設するものである。本実施の形態によれば、一対の電位電極も地表下に埋設することで、更に精度よく地下水位変動を検知することができる。
【実施例】
【0015】
以下本発明の一実施例による地下水位変動の検知方法について説明する。
図1は本実施例による地下水位変動の検知方法を説明する概略図であり、
図1(a)は電気探査器の設置概念を示し、
図1(b)は地下水位変動の検知方法の処理流れを示している。
図1(a)に示すように、本実施例による地下水位変動の検知方法に用いる電気探査器は、一対の電流電極11、12と一対の電位電極13、14とからなる4本の電極10を用い、電流電極11と電流電極12との間に電流I(A)を流し、電位電極13と電位電極14とで検出される電位差V(V)を用いて抵抗値R(Ω)を算出する。
電位電極13と電位電極14との間の電極間隔をaとすると地下を均質と仮定したときの見かけ比抵抗は下記式となる。
見かけ比抵抗(Ωm)=2πaR
【0016】
図1(b)に示すように、本実施例による地下水位変動の検知方法は、電極間隔決定ステップ(S1)と、電極設置ステップ(S2)と、計測ステップ(S3)とを有し、S3における計測ステップで計測した時系列見かけ比抵抗値から地下水位変動を検知する。
S1における電極間隔決定ステップでは、4本の電極10の電極間隔aを決定する。S2における電極設置ステップでは、電極間隔決定ステップ(S1)で決定した電極間隔aで電極10を設置する。S3における計測ステップでは、電極設置ステップ(S2)で設置した場所で電極10から得られる時系列見かけ比抵抗値を計測する。
S1における電極間隔決定ステップでは、電極間隔aを、表層比抵抗が変化しても測定値が変化しない浅層不感電極間隔とする。
【0017】
図2から
図7を用いて浅層不感電極間隔について説明する。
図2は表層厚0.1mにおける比抵抗変化時の測定値の変化率を示すグラフ、
図3は表層厚0.2mにおける比抵抗変化時の測定値の変化率を示すグラフ、
図4は表層厚0.5mにおける比抵抗変化時の測定値の変化率を示すグラフ、
図5は表層厚1mにおける比抵抗変化時の測定値の変化率を示すグラフ、
図6は表層厚2mにおける比抵抗変化時の測定値の変化率を示すグラフ、
図7は表層厚と浅層不感電極間隔との関係を示すグラフである。
【0018】
図2から
図6では、電極間隔による見かけ比抵抗値の変化率を示しており、比抵抗100Ωmの均質地盤において、気温変化や降雨により比抵抗の増減が生じる表層D(比抵抗変化層)の層厚を変化させている。なお、地盤モデルは、比抵抗100Ωmの均質地盤の表層Dの比抵抗がプラスマイナス30%(70Ωm、90Ωm、100Ωm、110Ωm、120Ωm、130Ωm)変化するとき、比抵抗100Ωmの均質地盤を初期値として電極間隔a(見かけ探査深度)毎の見かけ比抵抗値の変化率をモデル計算している。
図2から
図6に示すように、均質地盤の場合、表層比抵抗が変化すると電極間隔aが小さい領域では測定値は表層比抵抗と同じ方向に変化するが、電極間隔aを拡げると変化率は小さくなり、さらに拡げると表層比抵抗と逆の方向に変化し、その間には表層比抵抗が変化しても測定値の変化率が小さい浅層不感電極間隔があることが分かる。浅層不感電極間隔は、比抵抗が変化する表層Dの層厚が大きいほど大きくなる。
このように、表層比抵抗が変化しても測定値が変化しないという、浅層不感電極間隔が存在することを見出せたことで、電極間隔aを浅層不感電極間隔で設置することで、降雨や気温変化による地表付近の短期的な日変化のノイズを除去することができ、省力的に精度よく地下水位変動を検知することができる。
【0019】
図7は、
図2から
図6に示す表層厚と浅層不感電極間隔との関係を示すグラフである。
図7に示すように、表層Dの比抵抗変化層厚が大きいほど、浅層不感電極間隔は大きくなるという関係がある。
従って、電極間隔aは、表層Dの比抵抗変化層厚を用いて決定することができる。
しかし、地下水面Xがある場合には、飽和度の違いにより地下水面Xの上下で地盤の比抵抗が変わることから、地下水面Xより上位を100Ωmとし、地下水面X下が50Ωm(淡水地下水を想定)と、地下水面X下が1Ωm(塩水地下水を想定)とについて、表層Dの比抵抗変化層厚を0.5mとし、地下水面Xが平均地下水位からプラスマイナス0.5mで変化する場合についてモデル計算を行った。
【0020】
図8から
図15では、平均地下水位を初期値とし、地下水位が平均地下水位からプラス0.5m変化した場合、及び地下水位が平均地下水位からマイナス0.5m変化した場合に、表層Dの比抵抗がプラスマイナス30%(70Ωm、80Ωm、90Ωm、110Ωm、120Ωm、130Ωm)変化するとき、電極間隔a(見かけ探査深度)毎の見かけ比抵抗値の変化率を示している。
【0021】
図8から
図11は、地下水面より上位を100Ωmとし地下水面下を50Ωm(淡水地下水を想定)とした場合の電極間隔による見かけ比抵抗値の変化率を示すグラフであり、
図8は平均地下水位が1mの場合、
図9は平均地下水位が2mの場合、
図10は平均地下水位が5mの場合、
図11は平均地下水位が10mの場合である。
【0022】
図8に示すように、地下水面Xが1m±0.5mで変化するときには、電極間隔aを3m程度とすると、表層Dの比抵抗変化の影響を受けずに、地下水面Xの変化による見かけ比抵抗変化を10%程度の変化率で検知することができる。なお、地下水面Xが1.5mに下がると電極間隔aが3~10mでは測定値が増加するが、電極間隔aが3mより狭くなっていくと表層Dの比抵抗変化の影響が大きくなっていく。
【0023】
また、
図9に示すように、地下水面Xが2m±0.5mで変化するときには、電極間隔aを4m程度とすると、表層Dの比抵抗変化の影響を受けずに、地下水面Xの変化による見かけ比抵抗変化を10%程度の変化率で検知することができる。
また、
図10に示すように、地下水面Xが5m±0.5mで変化するときには、電極間隔aを6m程度とすると、表層Dの比抵抗変化の影響を受けずに、地下水面Xの変化による見かけ比抵抗変化を5%程度の変化率で検知することができる。
また、
図11に示すように、地下水面Xが10m±0.5mで変化するときには、電極間隔aを10m程度とすると、表層Dの比抵抗変化の影響を受けずに、地下水面Xの変化による見かけ比抵抗変化を2%程度の変化率で検知することができる。
【0024】
図12から
図15は、地下水面より上位を100Ωmとし地下水面下を1Ωm(塩水地下水を想定)とした場合の電極間隔による見かけ比抵抗値の変化率を示すグラフであり、
図12は平均地下水位が1mの場合、
図13は平均地下水位が2mの場合、
図14は平均地下水位が5mの場合、
図15は平均地下水位が10mの場合である。
【0025】
図12に示すように、地下水面Xが1m±0.5mで変化するときには、電極間隔aを2m程度とすることにより、
図13に示すように、地下水面Xが2m±0.5mで変化するときには、電極間隔aを2.5m程度とすることにより、
図14に示すように、地下水面Xが5m±0.5mで変化するときには、電極間隔aを4.5m程度とすることにより、
図15に示すように、地下水面Xが10m±0.5mで変化するときには、電極間隔aを7m程度とすることにより、表層Dの比抵抗変化の影響を受けずに、地下水面Xの変化による見かけ比抵抗変化を検知することができる。
【0026】
図16は、
図8から
図15に示す平均地下水位と浅層不感電極間隔との関係を示すグラフである。
図16に示すように、平均地下水位が深いほど浅層不感電極間隔は大きくなるという関係があり、また、地下水面Xの上下での比抵抗コントラストが大きいほど同じ地下水位に対して浅層不感電極間隔は小さくなるという関係がある。
従って、電極間隔aは、平均地下水位を用いて決定することができる。
また、電極間隔aの決定にあたっては、更に地下水面Xの上下での比抵抗コントラストを用いることが好ましい。
【0027】
図17は、地下水面より上位を100Ωmとし地下水面下を1Ωm(塩水地下水を想定)とし、表層Dの比抵抗変化層厚を変えた場合の平均地下水位と浅層不感電極間隔との関係を示すグラフである。表層Dの比抵抗変化層厚を、0.1m、0.5m、及び1mとし、それぞれの表層Dの比抵抗をプラスマイナス30%変化させた。
図17に示すように、表層Dの比抵抗変化層厚が大きいほど、浅層不感電極間隔は大きくなる。
【0028】
以上のように、電極間隔aを浅層不感電極間隔とすることで、降雨や気温変化による地表付近の短期的な日変化のノイズを除去することができ、浅層不感電極間隔は、表層Dの比抵抗変化層厚、平均地下水位、及び地下水面Xの上下での比抵抗コントラストによって決定されるが、観測井や調査資料が十分でない場合には、これらのパラメータに基づいて浅層不感電極間隔を決定することが困難な場合がある。
しかし、海岸近くでは地下水位は標高0m付近であることから、例えば表層Dの比抵抗変化層厚が0.5mの場合には、浅層不感電極間隔を調査地点での標高とすることができる。また、非特許文献2に示されるように1次元探査を行い、地下水面深度を推定することも有効である。
なお、地下水面Xの深さ、表層Dの厚さ及び地下水面Xの上下の比抵抗コントラストが不明で、設定した電極間隔aによる時系列測定に表層Dの比抵抗変化による影響が出る場合がある。このような場合には、電極10を地表下に埋設することでその影響を軽減する。
【0029】
図18は埋設電極と地表電極による見かけ比抵抗変化率を示すグラフである。
図18では電極間隔aが5mで探査可能な深度5mより深い位置に地下水面Xがあり、
図7における浅層不感電極間隔よりも電極間隔aが小さい場合に相当し、地表電極では気温の変動による日変化の影響を受けるが、埋設電極ではこのような日変化の影響が除かれる。
【0030】
図18では、4本の電極を全て埋設した場合と、電流電極だけを埋設した場合とを地表電極と比較した見かけ比抵抗変化率を示しており、電流電極11、12だけを埋設した場合であっても、日変化の影響が除かれる。
このように、電極間隔aを浅層不感電極間隔より小さくすることで、降雨や気温変化による地表付近の短期的な日変化のノイズの影響を受けるが、一対の電流電極11、12を地表下に埋設することで日変化のノイズを除去して、省力的に精度よく地下水位変動を検知することができる。
また、一対の電流電極11、12とともに一対の電位電極13、14も地表下に埋設することで、更に精度よく地下水位変動を検知することができる。
【0031】
図19は、本実施例による地下水位変動の検知方法の検証結果を示すグラフである。
図19では、琉球石灰岩帯水層の海岸において、電極間隔aを10mとした地表電極による時系列見かけ比抵抗測定結果を、近傍観測孔での地下水位変化と比較した。
図19に示すように、近傍観測孔での地下水位の上昇と下降に伴う見かけ比抵抗値の低下と増大が把握された。
【0032】
以上のように、本実施例による地下水位変動の検知方法によれば、4本の電極10を用いた地表電気探査の時系列測定を行うことで地下水位変動を検知することができるため、この検知方法を異なる2か所の場所で行うことで、又は他の場所での観測孔を用いた地下水位検知と組み合わせることで、異なる2点間の帯水層の水頭拡散率、透水量係数、透水係数、貯留係数等の水理学的性質を推定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明による地下水位変動の検知方法によれば、特に海岸付近の地下水位の振動成分を簡易に把握することができる。
【符号の説明】
【0034】
10 電極
11、12 電流電極
13、14 電位電極
a 電極間隔
D 表層
E 不飽和層
F 飽和層
X 地下水面
S1 電極間隔決定ステップ
S2 電極設置ステップ
S3 計測ステップ