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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】複合成形品および溝付き樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20240926BHJP
   B29C 65/70 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C65/70
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020083760
(22)【出願日】2020-05-12
(65)【公開番号】P2021178432
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】見置 高士
(72)【発明者】
【氏名】香村 友美
【審査官】和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/027777(WO,A1)
【文献】特開2014-018995(JP,A)
【文献】国際公開第2014/125999(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/008748(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/14
B29C 65/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー照射により接合部の表面に溝が形成された樹脂Aからなる第1成形品と、樹脂Bにより成形で一体化された複合成形品であり、
前記樹脂Aは繊維状の無機化合物を含んでおらず、
前記樹脂AのTGAによる空気中での熱分解温度が300℃以上であり、且つ前記樹脂Aの前記熱分解温度と、融点又はガラス転移温度のいずれか高い値との差が130℃以上であり、
前記接合部の垂直方向を0°とした場合の前記溝の深さ方向の角度θが、0<θ<90°であり、
前記溝は、縞状または格子状に形成されている複合成形品。
【請求項2】
前記深さ方向の角度θが、10≦θ≦80°である請求項1に記載の複合成形品。
【請求項3】
レーザー照射により接合部の表面に溝が形成された樹脂Aからなる溝付き樹脂成形品であって、
前記樹脂Aは繊維状の無機化合物を含んでおらず、
前記樹脂AのTGAによる空気中での熱分解温度が300℃以上であり、且つ前記樹脂Aの前記熱分解温度と、融点又はガラス転移温度のいずれか高い値との差が130℃以上であり、
前記溝の深さ方向の角度θは、前記接合部の垂直方向を0°とした場合、0<θ<90°であり、
前記溝が、縞状または格子状に形成されている溝付き樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合成形品およびこの複合成形品を形成するための溝付き樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、電気製品、産業機器等をはじめとした分野では、二酸化炭素の排出量削減、製造コストの削減等の要請に応えるため、金属成形品の一部を樹脂成形品に置き換える動きが広がっている。これに伴い、樹脂成形品と金属成形品とを一体化した複合成形品が広く普及している。これに限らず、同種又は異種の材料からなる成形品を一体化した複合成形品も広く普及している。
【0003】
一の成形品と他の成形品とを一体化した複合成形品の製造方法として、例えば特許文献1には、一方の樹脂成形品の表面に電磁放射線を照射することで該表面にナノ構造を形成し、その後、該表面に他方の樹脂成形品を接して充填、成形し、一体化させることが提案されている。
【0004】
特許文献2には、ガラス繊維を含有する第1樹脂成形品の接合面にレーザーにより溝を形成し、その接合面に第2樹脂を射出成型することで複合成形品とする技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2011-529404号公報
【文献】特開2015-91642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一の成形品と他の成形品とを接合したときの強度に関し、さらなる改良の余地がある。特に、樹脂成形品にガラス繊維等の無機充填剤が含まれていない場合にさらなる改良の余地がある。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、樹脂成形品にガラス繊維等の繊維状無機充填剤が含まれていない場合であっても、他の成形品と接合したときの強度をよりいっそう高めることの可能な複合成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、下記によって達成された。
1) レーザー照射により接合部の表面に溝が形成された樹脂Aからなる第1成形品と、樹脂Bにより成形で一体化された複合成形品であり、該樹脂Aは繊維状の無機化合物を含んでおらず、該樹脂AのTGAによる空気中での熱分解温度が300℃以上であり、且つ該樹脂Aの該熱分解温度と、融点又はガラス転移温度のいずれか高い値との差が130℃以上であり、該接合部の垂直方向を0°とした場合の該溝の深さ方向の角度θが、0<θ<90°である複合成形品。
2) 前記深さ方向の角度θが、10<θ<80°である前記1記載の複合成形品。
3) 前記溝の深さは前記溝の短手方向の長さの1/2以上である、前記1又は2に記載の複合成形品。
4) レーザー照射により接合部の表面に溝が形成された樹脂Aからなる溝付き樹脂成形品であって、該溝の深さ方向の角度θは、該接合部の垂直方向を0°とした場合、0<θ<90°である溝付き樹脂成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の複合成形品は、溝の角度θが存在することによってより強固に接合し成形品の破壊を抑えるアンカーの役割を果たし、結果として複合成形体の強度を著しく高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の溝の角度θを示す第1成形品の模式図である。
図2】本発明の複合成形品の実施態様の一例である。
図3】本発明の複合成形品の実施態様の別の一例である。
図4】本発明の第1成形品の接合部に形成された縞状の溝を示す模式図である。
図5】本発明の縞状の溝を示す概略断面図である。
図6】本発明の第1成形品の接合部に形成された格子状の溝を示す模式図である。
図7】本発明の複合成形品の引張試験を示す概略図である。
図8】従来の複合成形品の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0012】
<複合成形品>
本発明の複合成形品は、レーザー照射により接合部の表面に溝が形成された樹脂Aからなる第1成形品と、樹脂Bにより成形で一体化された複合成形品であり、該接合部の垂直方向を0°とした場合の該溝の深さ方向の角度θが、0<θ<90°であることを特徴とする。
【0013】
<第1成形品>
≪溝≫
第1成形品の表面には複数の溝が形成されている。本発明は、溝付きの樹脂成形品である第1成形品の溝を有する面を接合部として、他の成形品と一体化して複合成形品を製造する。
【0014】
第1成形品の表面に形成される溝は、複数の溝を設けることにより、アンカーの効果がより高まる。複数の溝は、1本の溝で隣り合う形で折り返し形成しても良いし、複数の溝で形成しても良い。
【0015】
複数の溝は両端が繋がった溝を等高線のように並べて設けても良いし、交差しない縞状に形成されても、溝が交差する格子状に形成されてもよく、水玉状に形成されてもよい。溝を格子状に形成する場合は、ひし形状であっても良い。
【0016】
溝の長さは特に限定されるものでなく、溝が短い場合、開口部の形状は四角形であってもよいし、丸形や楕円形であってもよい。アンカー効果を得るためには、溝は長い方が好ましい。
【0017】
本発明の隣り合う溝の間隔は、溝の幅の0.5倍以上8倍以下、すなわち溝の幅が200μmであれば150μm以上1600μm以下、であることが好ましく、溝の幅の1倍以上4倍以下、すなわち溝の幅が200μmであれば200μm以上800μm以下、であることがより好ましい。
【0018】
隣り合う溝の間隔は、溝の形状が斜格子状であれば1000μm以下であることが好ましく、一方向の直線状であれば1000μm以下であることがより好ましい。また、溝の深さは、溝の短手方向の長さの1/2以上、好ましくは1倍以上、更に好ましくは3倍以上程度である。
【0019】
≪溝の深さ方向の角度θ≫
図1は本発明の第1成形品の模式図である。上部が接合部、矢印の方向が接合部の垂直方向であり、θが溝の深さ方向の角度である。θは0<θ<90°であり、10≦θ≦80°であることが好ましく、さらに15≦θ≦70°、特に20≦θ≦60°であることが好ましい。
【0020】
溝の深さ方向に角度θを付けることでθ=0°の場合よりも、複合成形品における第1成形品の接合強度を大きく向上させることができる。特に垂直方向の引張力に対しては角度θが抵抗となり、大きな効果が得られる。
【0021】
≪第1成形品の樹脂A≫
第1成形品の樹脂Aは、レーザー照射により溝を形成できるものであり、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂が適用できる。樹脂Aの熱分解温度は空気中でTGAにより測定することが出来、300℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは450℃以上である。
【0022】
樹脂Aの熱分解温度と、融点又はガラス転移温度のいずれか高い値との差は130℃以上が好ましく、より好ましくは150℃以上、最も好ましいのは200℃以上である。130℃未満の場合、レーザー照射により樹脂Aをガス化させ溝を形成するときに周囲が溶融してしまい、微細な形状を加工することが難しい。
【0023】
第1成形品に好適な樹脂として例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ポリアミド(PA)等を挙げることができる。
【0024】
樹脂Aには、本発明の効果を害さない範囲で、その他の成分が含まれていてもよい。その他の成分としては、例えば、核剤、顔料、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤及び難燃剤等の添加剤等を挙げることができる。
【0025】
≪レーザー照射による溝の形成方法≫
本発明の第1成形品にレーザーの照射を行い、樹脂を部分的に除去することで、複数の溝を形成することによって得られる。
【0026】
レーザーの照射は、照射対象材料の種類やレーザー装置の出力等をもとに設定されるが、樹脂に適度のエネルギーを照射して溝を形成しないと、設定どおりの幅や深さの溝を形成することが難しい場合があるため、複数回に分けて行うことが好ましい。
【0027】
また、微細な溝を形成するためにレーザーは連続波ではなくパルス波が有効である。連続波の場合、周囲を溶融させやすく微細な溝を形成するにはレーザー出力と速度の制御が困難である。パルス波のパルス幅は50ns以下程度が好ましい。
【0028】
θの調整は、レーザーをθと同角度で接合部に対して照射することですることができる。樹脂Aには、レーザー照射の吸収を向上させるために色素、染料等のレーザー吸収剤を添加することもできる。レーザー吸収剤としては、カーボンブラックが好ましい。
【0029】
なお、溝部のラマン分光分析によって、樹脂の炭化層が存在することが確認できれば、溝がレーザー光照射によって形成されたものであると判断することができる。
【0030】
<複合成形品>
図2、3は本発明の複合成形品の概略拡大断面の模式図である。図2では、溝が同方向に並列的に形成されている、各溝のθが同一の場合である。図3では、逆向きのθを有する溝による複合成形品を示している。0<θ<90°以外にθ=0°が含まれていてもよい。その場合、溝面積の60%以上が0<θ<90°であることが好ましい。
【0031】
≪樹脂B≫
樹脂Bは、射出成形可能な樹脂であれば熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の種類は特に問わない。例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアセタール(POM)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)等を挙げることができる。
【0032】
<複合成形品の形成方法>
本発明の複合成形品は、多重成形に限らず、超音波溶着、熱板溶着、レーザー溶着、高周波誘導加熱溶着、熱プレス成形等、樹脂成形品の加熱によっても得られる。また、塗装や印刷、接着剤などの室温硬化や加熱硬化、湿気硬化、二液硬化、UV硬化、ホットメルトなどによっても得られる。
【0033】
二重成形の場合、第1成形品を金型に入れ、この金型の内部に、溝を有する面を接触面として、熱可塑性の樹脂Bを封入する。その際樹脂Bは溝にも入り込み、この状態で冷却することにより複合成形品を形成することができる。
【0034】
このように、二重成形は、樹脂Bを金型内部に封入する際の圧力により、溝の内部まで充填することが容易である。
【実施例
【0035】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、特に断りの無い限り、測定は23℃50%RHの雰囲気下で行った。
<実施例1>
【0036】
実施例において使用した材料は下記のとおりである。
≪樹脂A≫
A-1 PPS:ポリプラスチックス社製 ジュラファイド(登録商標)0220A9 HD9100
A-2 LCP:ポリプラスチック社製 ラペロス(登録商標)A9500VD3003
A-3 POM:ポリプラスチックス社製 ジュラコン(登録商標)M90-44 CD3068
【0037】
≪樹脂B≫
B-1 POM:ポリプラスチックス社製 ジュラコン(登録商標)M450-44 CF2001
【0038】
<第1成形品の作製>
≪試験片の作製≫
第1成形品は、ASTM D256のアイゾット試験片形状(W12.7×D6.4×L63.5mm ノッチは未作成)で作製した。
樹脂Aを、下記成形条件で、ASTMのアイゾット試験片金型に射出成形した。
PPS:シリンダー温度310℃、金型温度140℃
LCP:シリンダー温度310℃、金型温度80℃
POM:シリンダー温度190℃、金型温度80℃
【0039】
ついでレーザー照射装置にて、照射径80μmレーザーにより接合部に対して所定の角度から表面処理し第1成形品を作製した。縞状は、図4および図5のようなピッチ1.0mm、幅80μm、深さ約1000μmの溝となるように照射した。格子状は、図6および5のような格子となるように同方向ピッチ2.0mm、幅80μm、深さ300μmの溝となるように照射した。
【0040】
なお、表中「逆」とは、ハの字となるように照射した2度目の照射角度を表し、1度目の照射位置に対して180°逆側から照射したことを示す。
【0041】
≪レーザー照射条件≫
レーザー波長 :1064nm
レーザー照射径:80μm
照射機 :キーエンス社製レーザー マーカー MD-X1520
レーザー出力 :22.5W
照射速度 :20mm/s
パルス幅:4.6ns
【0042】
<複合成形品の作製>
上記で作製した試験片を、ASTM曲げ試験片金型を用い、樹脂Bよりシリンダー温度190℃、金型温度80℃の条件にて二重成形を行い、図7のようなASTMの曲げ試験片(12.7×6.4×127 D790)mmを作製した。接合部の断面積は、81.3mm(12.7×6.4mm)である。
【0043】
<接合強度測定>
作製した複合成形品試料について、万能試験機を用いて、ASTMの曲げ試験片の引張破壊強度を測定し、接合部の断面積より引張応力を算出した。結果を表1、2に示す。
破壊速度:10mm/min/
試験機 :島津製作所製万能試験機 AG-20kNXDplus
【0044】
<重量減少温度>
樹脂Aを10mg測り、セイコー電子製TG/DTA6200にて空気雰囲気下 10℃/minで昇温し、1%重量減少温度を重量減少温度とした。
【0045】
<融点、ガラス転移温度>
樹脂Aを5mg測り、Perkinelmer社のDIAMOND DSCを用いて窒素下 10℃/min条件にて融点を測定した。なお、A-2LCPは、液晶ポリマーであり、溶融状態で液晶性を示すためガラス転移温度は測定していない。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
表1および2から、本発明の0<θ<90°を有する溝は、θ=0に対して接合強度が改善されていることが分かる。
【符号の説明】
【0050】
1 第1成形品(樹脂A)
2 接合部の垂直方向
3 溝
4 接合部
5 複合成形品
6 樹脂B
P 引張張力
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8