(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】接着剤層形成用組成物、積層体の製造方法および処理方法
(51)【国際特許分類】
C09J 167/06 20060101AFI20240926BHJP
C09J 4/00 20060101ALI20240926BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240926BHJP
C09J 5/00 20060101ALI20240926BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C09J167/06
C09J4/00
C09J11/06
C09J5/00
B32B27/00 D
(21)【出願番号】P 2020174012
(22)【出願日】2020-10-15
【審査請求日】2023-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 一幸
(72)【発明者】
【氏名】吉村 和明
(72)【発明者】
【氏名】滑川 崇平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 恵
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-002374(JP,A)
【文献】特開2014-206727(JP,A)
【文献】特開2020-173433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 201/02
C09J 4/00
C09J 11/06
C09J 7/30
C09J 5/00
C09J 167/06
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を透過する支持体と、被着体との間に、接着剤層を備えた積層体において、
前記支持体側から光を照射することにより、前記積層体から前記支持体と前記被着体を分離可能とする接着剤層形成用組成物であって、
前記接着剤層形成用組成物は、(A)不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂を必須成分として含み、
前記(A)不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂の量子化学計算により算出される最低励起三重項状態(T1)のエネルギー値は2.90eV以下であ
り、
前記(A)不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂は、下記一般式(1)で表される樹脂である、
接着剤層形成用組成物。
【化1】
(式(1)中、Arは、それぞれ独立して炭素数6~14の芳香族炭化水素基であり、結合している水素原子の一部分は炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基またはアリールアルキル基、炭素数3~10のシクロアルキル基またはシクロアルキルアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、およびハロゲン基からなる群から選択される置換基で置換されていてもよい。R
1
は、それぞれ独立して炭素数2~4のアルキレン基であり、lは、それぞれ独立して0~3の数である。Gは、それぞれ独立して(メタ)アクリロイル基、下記一般式(2)または下記一般式(3)で表される置換基であり、Yは、少なくとも1つの芳香族炭化水素基を含む、4価のカルボン酸残基である。Zは、それぞれ独立して水素原子または下記一般式(4)で表される置換基であり、1個以上は下記一般式(4)で表される置換基である。nは平均値が1~20の数である。)
【化2】
【化3】
(式(2)、(3)中、R
2
は水素原子またはメチル基であり、R
3
は炭素数2~10の2価のアルキレン基またはアルキルアリーレン基であり、R
4
は炭素数2~20の2価の飽和または不飽和の炭化水素基であり、pは0~10の数である。)
【化4】
(式(4)中、Wは2価または3価のカルボン酸残基であり、mは1または2の数である。)
【請求項2】
(B)少なくとも1つ以上のエチレン性不飽和結合を有する光重合性モノマーと、
(C)光重合開始剤および/または(D)増感剤と、
を含む、請求項
1に記載の接着剤層形成用組成物。
【請求項3】
(E)2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物を含む、請求項1
または2に記載の接着剤層形成用組成物。
【請求項4】
前記(A)不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂は、重量平均分子量が1000以上100000以下であり、酸価が50mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である請求項1~
3のいずれか一項に記載の接着剤層形成用組成物。
【請求項5】
支持体および被着体のいずれか一方または双方の表面に、請求項1~
4のいずれか一項に記載の接着剤層形成用組成物を用いて接着剤層を形成する工程と、
前記形成された接着剤層を介して、前記支持体と前記被着体とを接着させる工程と、
を含む積層体の製造方法。
【請求項6】
支持体、
請求項1~4のいずれか一項に記載の接着剤層形成用組成物を用いて形成された接着剤層、および被着体を有する積層体を準備する工程と、
光を照射して前記支持体と前記被着体とを分離する工程と、
を有する、積層体の処理方法であって、
前記支持体は、10nm以上400nm以下の波長の光を透過し、
前記積層体は、前記接着剤層への光の照射により、前記支持体と前記被着体とを分離可能である、積層体の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤層形成用組成物、積層体の製造方法および処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタル機器などの高機能化に伴い、搭載されるフレキシブルディスプレイ、半導体チップなどは薄型化されており、薄型化によって強度が低下したフレキシブルディスプレイ、半導体チップなどを従来の自動搬送で搬送することは困難であった。
【0003】
そこで、薄型化されたフレキシブルディスプレイ、半導体チップなどを容易に搬送するための方法が検討されている。たとえば、ガラス基板等の支持体上に接着剤層を介して固定された半導体ウエハ等の被着体を有する積層体に対して、光を支持体側から接着剤層に向けて照射することにより、接着剤層を変質または分解して接着力を低減させて、支持体と被着体とを分離する方法である。
【0004】
たとえば、特許文献1には、素子を樹脂層が形成された基板上に配置する工程と、基板上に配置された素子を樹脂層へのレーザー照射により、上記基板から分離して、別の基板上に配置する工程と、を有する電子デバイスの製層方法が記載されている。特許文献1によると、樹脂層にガラス転移温度と熱分解温度との差が150℃以下である樹脂を用いることにより、レーザーアブレーション時の樹脂の軟化を抑制できるので、基板から素子を分離する際に、軟化した部分から生じる屑の発生を低減できるとされている。
【0005】
また、特許文献2には、支持体と仮固定材(分離層および接着剤層)と処理対象物とを有する積層体を形成する工程と、対象物を加工し、積層体を移動する工程と、分離層に光を照射する工程と、支持体と対象物とを分離する工程とを有する対象物の処理方法が記載されている。特許文献2によると、上記分離層は、光を吸収して分解または変質して、支持体と対象物とを分離できるとされている。
【0006】
また、特許文献3には、支持体と、被支持基板と、被支持基板における支持体によって支持される側の面に配置される接着層と、支持基板と、被支持基板との間に配置される分離層とを有する積層体において、分離層に光を照射し、分離層に含まれる重合体を変質させて、被支持基板から支持体を分離する方法が記載されている。特許文献3によると、上記分離層は、光が照射されることにより変質して接着性を失うので、支持基板と被支持基板とを容易に分離することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2016/158264号
【文献】国際公開第2017/056662号
【文献】特許第5580800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らの知見によると、特許文献1~3に記載の積層体では、所望するレーザー加工性を得ることができなかった。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、レーザー加工性に優れた接着剤層形成用組成物、当該接着剤層形成用組成物を含む接着剤層を有する積層体の製造方法および処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記積層体の形成に用いられる接着剤層の課題を解決すべく検討を行った結果、不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂を含む接着剤層形成用組成物が接着剤層として好適であることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明にかかる接着剤層形成用組成物は、光を透過する支持体と、被着体との間に、接着剤層を備えた積層体において、前記支持体側から光を照射することにより、前記積層体から前記支持体と前記被着体を分離可能とする接着剤層形成用組成物であって、前記接着剤層形成用組成物は、(A)不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂を必須成分として含み、前記(A)不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂の量子化学計算により算出される最低励起三重項状態(T1)のエネルギー値は2.90eV以下である。
【0012】
本発明にかかる積層体の製造方法は、支持体および被着体のいずれか一方または双方の表面に、上記接着剤層形成用組成物を用いて接着剤層を形成する工程と、前記形成された接着剤層を介して、前記支持体と前記被着体とを接着させる工程と、を含む。
【0013】
本発明にかかる積層体の処理方法は、支持体、接着剤層、および被着体を有する積層体を準備する工程と、光を照射して前記支持体と前記被着体とを分離する工程と、を有する、積層体の処理方法であって、前記支持体は、10nm以上400nm以下の波長の光を透過し、前記積層体は、前記接着剤層への光の照射により、前記支持体と前記被着体とを分離可能である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、レーザー加工性に優れた接着剤層形成用組成物、当該接着剤層形成用組成物を含む接着剤層を有する積層体の製造方法および処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。なお、本発明において、各成分の含有量について、小数第一位が0であるときは、小数点以下の表記を省略することがある。
【0016】
1.接着剤層形成用組成物
本発明の一実施形態に係る接着剤層形成用組成物は、(A)不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂を必須成分として含む。
【0017】
[(A)成分]
(A)成分である不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂は、1分子中に重合性不飽和基と、アルカリ可溶性を発現するための酸性基を有していることが好ましく、重合性不飽和基とカルボキシ基との両方を有していることがより好ましい。上記樹脂であれば、特に限定されることなく、広く使用することができる。本発明においては、(A)成分は、下記一般式(1)で表される不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂であることが好ましい。
【0018】
【0019】
式(1)中、Arは、それぞれ独立して炭素数6~14の芳香族炭化水素基であり、結合している水素原子の一部分は炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基またはアリールアルキル基、炭素数3~10のシクロアルキル基またはシクロアルキルアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、およびハロゲン基からなる群から選択される置換基で置換されていてもよい。R1は、それぞれ独立して炭素数2~4のアルキレン基であり、lは、それぞれ独立して0~3の数である。Gは、それぞれ独立して(メタ)アクリロイル基、下記一般式(2)または下記一般式(3)で表される置換基であり、Yは、4価のカルボン酸残基である。Zは、それぞれ独立して水素原子または下記一般式(4)で表される置換基であり、1個以上は下記一般式(4)で表される置換基である。nは平均値が1~20の数である。
【0020】
【0021】
【0022】
式(2)、(3)中、R2は水素原子またはメチル基であり、R3は炭素数2~10の2価のアルキレン基またはアルキルアリーレン基であり、R4は炭素数2~20の2価の飽和または不飽和の炭化水素基であり、pは0~10の数である。
【0023】
【0024】
式(4)中、Wは2価または3価のカルボン酸残基であり、mは1または2の数である。
【0025】
また、上記一般式(1)で示されるYは、少なくとも1つの芳香族炭化水素基を含むことが好ましい。芳香族炭化水素基の例には、フェニル基、ビフェニル基、ベンゾフェノン基、ナフタレン基、ビフェニルエーテル基などが含まれる。上記芳香族炭化水素基の中では、ビフェニル基、ベンゾフェノン基、またはナフタレン基であることが好ましい。上記Yが、芳香族炭化水素基であると、樹脂(の構造単位)のLUMO(最低空軌道)の値が小さくなる。これにより、HOMO(最高被占軌道)-LUMOエネルギーギャップが小さくなるので、最低励起三重項状態(T1)の値も小さくなる。
【0026】
次に、上記一般式(1)で表される(A)不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂の製造方法について詳細に説明する。
【0027】
先ず、下記一般式(5)で表される、1分子内にいくつかのオキシアルキレン基を有してもよい、ビスアリールフルオレン骨格を有するエポキシ化合物(a-1)(以下、単に「エポキシ化合物(a-1)」ともいう)に、(メタ)アクリル酸、下記一般式(6)または下記一般式(7)で表される(メタ)アクリル酸誘導体のいずれか一方もしくは両方を反応させて、エポキシ(メタ)アクリレートであるジオール化合物を得る。なお、上記ビスアリールフルオレン骨格は、ビスナフトールフルオレン骨格またはビスフェノールフルオレン骨格であることが好ましい。
【0028】
【0029】
式(5)中、Arは、それぞれ独立して、炭素数6~14の芳香族炭化水素基であり、結合している水素原子の一部分は炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基またはアリールアルキル基、炭素数3~10のシクロアルキル基またはシクロアルキルアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、またはハロゲン基で置換されていてもよい。R1は、それぞれ独立して、炭素数2~4のアルキレン基であり、lは、それぞれ独立して、0~3の数である。
【0030】
【0031】
【0032】
式(6)、(7)中、R2は水素原子またはメチル基であり、R3は炭素数2~10の2価のアルキレン基またはアルキルアリーレン基であり、R4は炭素数2~20の2価の飽和または不飽和の炭化水素基であり、pは0~10の数である。
【0033】
上記エポキシ化合物(a-1)と上記(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸誘導体との反応は、公知の方法を使用することができる。たとえば、特開平4-355450号公報には、2つのエポキシ基を有するエポキシ化合物1モルに対し、約2モルの(メタ)アクリル酸を使用することにより、重合性不飽和基を含有するジオール化合物が得られることが記載されている。本発明において、上記反応で得られる化合物は、式(8)で表される重合性不飽和基を含有するジオール(d)(以下、単に「一般式(8)で表されるジオール(d)」ともいう)である。
【0034】
【0035】
(式(8)中、Arは、それぞれ独立して、炭素数6~14の芳香族炭化水素基であり、結合している水素原子の一部分は炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基またはアリールアルキル基、炭素数3~10のシクロアルキル基またはシクロアルキルアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、またはハロゲン基で置換されていてもよい。Gは、それぞれ独立して、(メタ)アクリロイル基、下記一般式(2)または下記一般式(3)で表される置換基であり、R1は、それぞれ独立して、炭素数2~4のアルキレン基であり、lは、それぞれ独立して、0~3の数である。)
【0036】
【0037】
【0038】
式(2)、(3)中、R2は水素原子またはメチル基であり、R3は炭素数2~10の2価のアルキレン基またはアルキルアリーレン基であり、R4は炭素数2~20の2価の飽和または不飽和の炭化水素基であり、pは0~10の数である。
【0039】
一般式(8)で表されるジオール(d)の合成、およびそれに続く多価カルボン酸またはその無水物を反応させての、一般式(1)で表される不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂の製造においては、通常、溶媒中で必要に応じて触媒を用いて反応を行う。
【0040】
溶媒の例には、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート等のセロソルブ系溶媒、ジグライム、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の高沸点のエーテル系もしくはエステル系の溶媒、シクロヘキサノン、ジイソブチルケトン等のケトン系溶媒等が含まれる。なお、使用する溶媒、触媒等の反応条件に関しては特に制限されないが、例えば、水酸基を持たず、反応温度より高い沸点を有する溶媒を反応溶媒として用いることが好ましい。
【0041】
また、エポキシ基とカルボキシ基またはヒドロキシル基との反応においては触媒を使用することが好ましく、特開平9-325494号公報には、テトラエチルアンモニウムブロマイド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等のアンモニウム塩、トリフェニルホスフィン、トリス(2,6-ジメトキシフェニル)ホスフィン等のホスフィン類等が記載されている。
【0042】
次に、上記エポキシ化合物(a-1)と上記(メタ)アクリル酸誘導体との反応で得られる一般式(8)で表されるジオール(d)と、ジカルボン酸もしくはトリカルボン酸またはその酸無水物(b)と、テトラカルボン酸またはその酸二無水物(c)とを反応させて、下記一般式(1)で表される1分子内にカルボキシ基および重合性不飽和基を有するアルカリ可溶性樹脂を得ることができる。
【0043】
【0044】
式(1)中、Arは、それぞれ独立して、炭素数6~14の芳香族炭化水素基であり、結合している水素原子の一部分は炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基またはアリールアルキル基、炭素数3~10のシクロアルキル基またはシクロアルキルアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、またはハロゲン基で置換されていてもよい。R1は、それぞれ独立して、炭素数2~4のアルキレン基であり、lは、それぞれ独立して、0~3の数である。Gは、それぞれ独立して、(メタ)アクリロイル基、下記一般式(2)または下記一般式(3)で表される置換基であり、Yは4価のカルボン酸残基である。Zは、それぞれ独立して、水素原子または下記一般式(4)で表される置換基であり、1個以上は下記一般式(4)で表される置換基である。nは平均値が1~20の数である。
【0045】
【0046】
【0047】
(式(2)、(3)中、R2は水素原子またはメチル基であり、R3は炭素数2~10の2価のアルキレン基またはアルキルアリーレン基であり、R4は炭素数2~20の2価の飽和または不飽和の炭化水素基であり、pは0~10の数である。)
【0048】
【0049】
式(4)中、Wは2価または3価のカルボン酸残基であり、mは1または2である。
【0050】
一般式(1)で表される不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂を合成するために使用される酸成分は、一般式(8)で表されるジオール(d)分子中の水酸基と反応し得る多価の酸成分であり、ジカルボン酸もしくはトリカルボン酸またはそれらの酸一無水物(b)とテトラカルボン酸またはその酸二無水物(c)とを併用することが必要である。上記酸成分のカルボン酸残基は、飽和炭化水素基または不飽和炭化水素基のいずれでもよい。また、これらのカルボン酸残基には-O-、-S-、カルボニル基等のヘテロ元素を含む結合を含んでいてもよい。
【0051】
上記ジカルボン酸もしくはトリカルボン酸またはそれらの酸一無水物(b)の例には、鎖式炭化水素ジカルボン酸もしくはトリカルボン酸、脂環式炭化水素ジカルボン酸もしくはトリカルボン酸、芳香族炭化水素ジカルボン酸もしくはトリカルボン酸、またはそれらの酸一無水物等が含まれる。
【0052】
上記鎖式炭化水素ジカルボン酸またはトリカルボン酸の酸一無水物の例には、コハク酸、アセチルコハク酸、マレイン酸、アジピン酸、イタコン酸、アゼライン酸、シトラリンゴ酸、マロン酸、グルタル酸、クエン酸、酒石酸、オキソグルタル酸、ピメリン酸、セバシン酸、スベリン酸、ジグリコール酸等の酸一無水物、および任意の置換基が導入されたジカルボン酸またはトリカルボン酸の酸一無水物等が含まれる。
【0053】
また、上記脂環式炭化水素ジカルボン酸またはトリカルボン酸の酸一無水物の例には、シクロブタンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、ノルボルナンジカルボン酸等の酸一無水物、および任意の置換基が導入されたジカルボン酸またはトリカルボン酸の酸一無水物等が含まれる。
【0054】
また、上記芳香族炭化水素ジカルボン酸またはトリカルボン酸の酸一無水物の例には、フタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸等の酸一無水物、および任意の置換基が導入されたジカルボン酸またはトリカルボン酸の酸一無水物が含まれる。
【0055】
上記ジカルボン酸またはトリカルボン酸の酸一無水物の中では、コハク酸、イタコン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロトリメリット酸、フタル酸、トリメリット酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸であることが好ましく、テトラヒドロフタル酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸であることがより好ましい。
【0056】
また、ジカルボン酸もしくはトリカルボン酸においては、それらの酸一無水物を用いることが好ましい。上述したジカルボン酸またはトリカルボン酸の酸一無水物は、その1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
また、上記テトラカルボン酸またはその酸二無水物(c)の例には、鎖式炭化水素テトラカルボン酸、脂環式炭化水素テトラカルボン酸、芳香族炭化水素テトラカルボン酸、またはそれらの酸二無水物等が含まれる。
【0058】
上記鎖式炭化水素テトラカルボン酸の例には、ブタンテトラカルボン酸、ペンタンテトラカルボン酸、ヘキサンテトラカルボン酸、および脂環式炭化水素基、不飽和炭化水素基等の置換基が導入された鎖式炭化水素テトラカルボン酸等が含まれる。
【0059】
また、上記脂環式炭化水素テトラカルボン酸の例には、シクロブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、シクロヘキサンテトラカルボン酸、シクロへプタンテトラカルボン酸、ノルボルナンテトラカルボン酸、および鎖式炭化水素基、不飽和炭化水素基等の置換基が導入された脂環式テトラカルボン酸等が含まれる。
【0060】
また、芳香族炭化水素テトラカルボン酸の例には、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸、ナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸等が含まれる。
【0061】
また、ビス無水トリメリット酸アリールエステル類を用いることもできる。ビス無水トリメリット酸アリールエステル類とは、例えば、国際公開第2010/074065号に記載された方法で製造される化合物群であり、構造的には芳香族ジオール(ナフタレンジオール、ビフェノール、ターフェニルジオール等)の2個のヒドロキシル基と2分子の無水トリメリット酸のカルボキシ基が反応してエステル結合した形の酸二無水物である。これらの化合物を以下、芳香族ジオールのビス無水トリメリット酸エステルと記載する。
【0062】
上記テトラカルボン酸またはその酸二無水物の中では、ビフェニルテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸、ナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸であることが好ましく、ビフェニルテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸、ナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸であることがより好ましい。また、上記テトラカルボン酸またはその酸二無水物においては、その酸二無水物を用いることが好ましい。さらに、ナフタレンジオールのビス無水トリメリット酸エステルも好ましく用いることができる。なお、上述したテトラカルボン酸またはその酸二無水物、および芳香族ジオールのビス無水トリメリット酸エステルは、その1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
一般式(8)で表されるジオール(d)と酸成分(b)および(c)との反応については、特に限定されるものではなく、公知の方法を採用することができる。たとえば、特開平9-325494号公報には、反応温度が90~140℃でエポキシ(メタ)アクリレートとテトラカルボン酸二無水物を反応させる方法が記載されている。
【0064】
ここで、化合物の末端がカルボキシ基となるように、エポキシ(メタ)アクリレート(d)、ジカルボン酸もしくはトリカルボン酸またはそれらの酸一無水物(b)、テトラカルボン酸二無水物(c)とのモル比が(d):(b):(c)=1.0:0.01~1.0:0.2~1.0となるように反応させることが好ましい。
【0065】
たとえば、酸一無水物(b)、酸二無水物(c)を用いる場合には、重合性不飽和基を含有するジオール(d)に対する酸成分の量〔(b)/2+(c)〕のモル比[(d)/〔(b)/2+(c)〕]が0.5~1.0となるように反応させることが好ましい。ここで、モル比が1.0以下である場合には、未反応の重合性不飽和基を含有するジオールの含有量を増大させることがないのでアルカリ可溶性樹脂組成物の経時安定性を高めることができる。一方、モル比が0.5を超える場合には、一般式(2)で表されるアルカリ可溶性樹脂の末端が酸無水物とならないので、未反応酸二無水物の含有量が増大するのを抑制できることから、アルカリ可溶性樹脂組成物の経時安定性を高めることができる。なお、一般式(2)で表されるアルカリ可溶性樹脂の酸価、分子量を調整する目的で、(b)、(c)および(d)の各成分のモル比は、上述の範囲で任意に変更することができる。
【0066】
本発明の接着剤層形成用組成物における、上述の一般式(1)で表される(A)不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂の含有量は、固形分の全質量に対して10質量%以上90質量%以下であることが好ましく、30質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。上記(A)成分の含有量が固形分の全質量に対して10質量%以上であると、照射される光(例えば紫外線)を吸収して変質しやすいため、容易に支持体と被着体とを分離できる。また、90質量%以下であると、硬化後の接着剤層の架橋密度が高くなりすぎないので、光を照射された際にアブレーションされやすく、残渣が生じにくい。
【0067】
(A)不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂の量子化学計算により算出される最低励起三重項状態(T1)のエネルギーは、2.90eV以下であり、2.0eV以上2.90eV以下であることが好ましい。最低励起三重項状態(T1)が2.0eV以上である、(A)成分を用いることにより、樹脂の分解反応の活性化エネルギーを下げることができ、分解反応を促進することができる。また、最低励起三重項状態(T1)が2.9eV以下である、(A)成分を用いることにより、レーザーのエネルギーで樹脂の分解と分解生成物のガス化が容易に進行し、発生したガスの圧力で接着層を効率的に剥離することができる。
【0068】
本発明において、一般式(1)で表される(A)不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂を用いたときに最低励起三重項状態(T1)のエネルギーが、2.9eV以下となるのは、一般式(1)に示されるYが少なくとも1つの芳香族炭化水素基を含む樹脂である。また、Yが少なくとも1つの芳香族炭化水素基を含むためには、上述の芳香族炭化水素テトラカルボン酸またはその酸二無水物を用いることが好ましい。
【0069】
上記芳香族炭化水素テトラカルボン酸またはその酸二無水物として、ビフェニルテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸、ナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸等を用いることにより、上記Yは芳香族炭化水素基を含む構造となる。そして、一般式(1)で表される(A)不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂の最低励起三重項状態(T1)のエネルギーが2.9eV以下の樹脂を得ることができる。また、上記芳香族炭化水素テトラカルボン酸またはその酸二無水物として、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸、ナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸等のナフタレン化合物を用いることにより、最低励起三重項状態(T1)のエネルギーが2.0eV以上2.9eV以下の樹脂を得ることができる。
【0070】
また、芳香族炭化水素テトラカルボン酸またはその酸二無水物として、上記ビフェニルテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸を用い、芳香族ジカルボン酸またはトリカルボン酸の酸一無水物として、1,8-ナフタレンジカルボン酸、および2,3-ナフタレンジカルボン酸等のナフタレン化合物を用いることによっても、最低励起三重項状態(T1)のエネルギーが2.0eV以上2.9eV以下の樹脂を得ることができる。
【0071】
一般式(1)で表される(A)不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂の量子化学計算により算出される最低励起三重項状態(T1)のエネルギーは、例えば、「Gaussian16,RevisionB.01」ソフトウエアパッケージ(Gaussian Inc.)を使用して算出することができる。計算手法としては、(A)成分の構成単位(末端は水素で置換)の分子構造(分子座標)に対し、電荷0および多重度1で、密度汎関数法(DFT)により、汎関数にB3LYP、基底関数に6-31G(d)を用いて、基底状態の構造最適化計算を実施する(Gaussian入力ライン「#B3LYP/6-31G(d)OPT」)。次に、構造最適化された分子構造において、電荷0および多重度1を用い、時間依存密度汎関数法(TDDFT)により、汎関数にB3LYP、基底関数に6-31G(d)を用いて最低励起三重項エネルギー(T1)を計算する(Gaussian入力ライン「#B3LYP/6-31G(d)td=(50-50,nstates=4)」)。このようにして、(A)成分の最低励起三重項状態(T1)のエネルギー値を求めることができる。なお、DFTおよびTDDFTの計算には、代わりに同様の機能を持つ計算化学ソフトウェアを用いてもよい。
【0072】
また、一般式(1)で表される(A)不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂の酸価は50mgKOH/g以上200mgKOH/gであることが好ましく、60mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であることがより好ましい。酸価が50mgKOH/g以上である場合には、アルカリ現像時に残渣が残りにくくなり、200mgKOH/g以下である場合には、アルカリ現像液の浸透が早くなり過ぎないので、剥離現像を抑制することができる。なお、酸価は、電位差滴定装置「COM-1600」(平沼産業株式会社製)を用いて1/10N-KOH水溶液で滴定して求めることができる。
【0073】
また、一般式(1)で表される(A)不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定(HLC-8220GPC、東ソー株式会社製)によるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、通常1000以上100000以下であることが好ましく、1500以上30000以下であることがより好ましく、2000以上15000以下であることがさらに好ましい。重量平均分子量(Mw)が1000以上の場合には、支持体と被着体との密着性を向上させることができる。また、重量平均分子量(Mw)が100000未満である場合には、塗布に好適な感光性樹脂組成物の溶液粘度に調整しやすく、支持体または被着体の表面への塗布に時間を要しすぎることがない。
【0074】
また、本発明の一実施形態に係る接着剤層形成用組成物は、(B)少なくとも1つ以上のエチレン性不飽和結合を有する光重合性モノマーと、(C)光重合開始剤および/または(D)増感剤と、を含む。以下、各成分について説明する。
【0075】
[(B)成分]
(B)少なくとも1個以上のエチレン性不飽和結合を有する光重合性モノマーの例には、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ソルビトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、またはジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレート、フォスファゼンのアルキレンオキサイド変性ヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、デンドリマー型多官能アクリレートなどが含まれる。これらの光重合性モノマーは、その1種類のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して5質量部以上200質量部以下であることが好ましい。(B)成分の含有量が(A)成分100質量部に対して5質量部以上であると、樹脂に占める光反応性官能基が十分にあるため、十分な架橋構造を形性できるので耐薬品性が向上する。また、200質量部以下であると、硬化後の接着剤層の架橋密度が過剰に高くなるのを抑制するので、光を照射された際にアブレーションされやすく、残渣が生じにくい。
【0077】
[(C)成分]
(C)光重合開始剤の例には、2-[4-(メチルチオ)ベンゾイル]-2-(4-モルホリニル)プロパン、2-(o-クロロフェニル)-4,5-フェニルビイミダゾール、2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジ(m-メトキシフェニル)ビイミダゾール、2-(o-フルオロフェニル)-4,5-ジフェニルビイミダゾール、2-(o-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルビイミダゾール、2、4,5-トリアリールビイミダゾール等のビイミダゾール系化合物類、2-トリクロロメチル-5-スチリル-1,3,4-オキサジアゾ-ル、2-トリクロロメチル-5-(p-シアノスチリル)-1,3,4-オキサジアゾール、2-トリクロロメチル-5-(p-メトキシスチリル)-1,3,4-オキサジアゾール等のハロメチルジアゾール化合物類、2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-メチル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-フェニル-4、6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-(4-クロロフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-(4-メトキシフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-(4-メトキシナフチル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-(4-メトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-(3,4,5-トリメトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-(4-メチルチオスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン等のハロメチル-s-トリアジン系化合物類、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-,2-(O-ベンゾイルオキシム)、1-(4-フェニルスルファニルフェニル)ブタン-1,2-ジオン-2-オキシム-O-ベンゾア-ト、1-(4-メチルスルファニルフェニル)ブタン-1,2-ジオン-2-オキシム-O-アセタート、1-(4-メチルスルファニルフェニル)ブタン-1-オンオキシム-O-アセタート等のO-アシルオキシム系化合物類、ベンジルジメチルケタール、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン等のイオウ化合物、2-エチルアントラキノン、オクタメチルアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、2,3-ジフェニルアントラキノン等のアントラキノン類、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、クメンパーオキシド等の有機過酸化物、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-メルカプトベンゾオキサゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール等のチオール化合物などが含まれる。なお、これら光重合開始剤は、その1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0078】
(C)成分の含有量は、(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対して0.1質量部以上30質量部以下であることが好ましく、0.3質量部以上20質量部以下であることがより好ましい。上記(C)成分の含有量が0.1質量部以上であると、適度な光重合の速度を有するので、感度の低下を抑制できる。また、30質量部以下であると、感度が過剰に高まるのを抑制して、光を照射してアブレーションする際に生じる焦げ、剥離カスなどが生じにくくなる。なお、接着剤層形成用組成物をフォトリソグラフィーによりパターンを形成する場合には(C)成分を含有し、パターンを形成しない場合またはフォトリソグラフィー以外の方法でパターンを形成する場合には(C)成分を含有しなくてもよい。
【0079】
[(D)成分]
(D)光増感剤の例には、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ベンゾフェノン、4,4’-ビスジメチルアミノベンゾフェノン(ミヒラーケトン)、4-フェニルベンゾフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4,4’-ジエチルアミノベンゾフェノン、アセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアセトフェノン、p-ジメチルアミノプロピオフェノン、ジクロロアセトフェノン、トリクロロアセトフェノン、p-tert-ブチルアセトフェノン等のアセトフェノン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル類、2-ジメチルアミノエチル安息香酸、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸(n-ブトキシ)エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4-ジメチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシル、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルサルファイド、アクリル化ベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン等のチオキサントン系、4,4’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン等のアミノベンゾフェノン系、10-ブチル-2-クロロアクリドン、2-エチルアンスラキノン、9,10-フェナンスレンキノン、カンファーキノン等が含まれる。なお、これら光増感剤は、その1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0080】
(D)成分の含有量は、(C)成分の合計量100質量部に対して0.5質量部以上400質量部以下であることが好ましく、1質量部以上300質量部以下であることがより好ましい。(D)成分の含有量が0.5質量部以上であると、光重合開始剤の感度を向上させて、光重合の速度を速めることができる。また、400質量部以下であると、過剰に反応が促進するのを抑制して、光を照射してアブレーションする際に生じる焦げ、剥離カスなどが生じにくくなる。
【0081】
[(E)成分]
また、本発明の接着剤層形成用組成物は、(E)成分として、2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物を含んでいてもよい。
【0082】
(E)エポキシ基を2個以上有するエポキシ化合物の例には、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールフルオレン型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物(例えば、EPPN-501H:日本化薬株式会社製)、フェノールアラルキル型エポキシ化合物、ナフタレン骨格を含むフェノールノボラック化合物(例えば、NC-7000L:日本化薬株式会社製)、ビフェニル型エポキシ化合物(例えば、jERYX4000:三菱ケミカル株式会社製)、ナフトールアラルキル型エポキシ化合物、トリスフェノールメタン型エポキシ化合物、テトラキスフェノールエタン型エポキシ化合物、多価アルコールのグリシジルエーテル、多価カルボン酸のグリシジルエステル、メタクリル酸とメタクリル酸グリシジルの共重合体に代表される(メタ)アクリル酸グリシジルをユニットとして含む(メタ)アクリル基を有するモノマーの共重合体、3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(例えば、セロキサイド 2021P:株式会社ダイセル製)、ブタンテトラカルボン酸テトラ(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)修飾ε-カプロラクトン(例えば、エポリードGT401:株式会社ダイセル製)、四国化成工業株式会社製のHiREM-1に代表されるエポキシシクロヘキシル基を有するエポキシ化合物、ジシクロペンタジエン骨格を有する多官能エポキシ化合物(例えば、HP7200シリーズ:DIC株式会社製)、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物(例えば、EHPE3150:株式会社ダイセル製)、エポキシ化ポリブタジエン(例えば、NISSO-PB・JP-100:日本曹達株式会社製)、シリコーン骨格を有するエポキシ化合物等が含まれる。
【0083】
(E)エポキシ基を2個以上有するエポキシ化合物の中では、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールフルオレン型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物が好ましく、ビフェニル型エポキシ化合物がより好ましい。ビフェニル型のエポキシ化合物を用いることにより、光照射により分離するために必要となる光吸収能と、光硬化時の感光性樹脂組成物のパターニング性を両立することができるとともに、感光性樹脂組成物を設計する自由度を大きくできる。
【0084】
(E)成分のエポキシ化合物のエポキシ当量は100g/eq以上300g/eq以下であることが好ましく、100g/eq以上250g/eq以下であることがより好ましい。また、(E)成分のエポキシ化合物の数平均分子量(Mn)は100~5000であることが好ましい。上記エポキシ当量が100g/eq以上300g/eq以下であり、上記エポキシ化合物の数平均分子量(Mn)は100~5000であると、良好な耐溶剤性を有する硬化膜となり得る。また、エポキシ当量が300g/eq以下であると、後工程でアルカリ性の薬液を使う場合でも十分な耐アルカリ性を維持することができる。なお、これらの化合物は、その1種類の化合物のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0085】
(E)成分の含有量は、固形分の全質量に対して0質量部以上60質量部以下であることが好ましく、5質量部以上50質量部以下であることがより好ましい。(E)成分の含有量が固形分の全質量に対して5質量部以上であると、十分な架橋構造を形性できるので耐薬品性が向上する。また、60質量部以下であると、硬化後の接着剤層の架橋密度が過剰に高くなるのを抑制するので、光を照射された際にアブレーションされやすく、残渣が生じにくい。なお、(A)成分や(B)成分との組み合わせによっては、(E)成分の含有量が0質量部であっても必要な耐薬品性等を確保できる。
【0086】
[(F)成分]
また、本発明の一実施形態に係る接着剤層形成用組成物は、(F)成分として溶剤を含んでいてもよい。
【0087】
(F)接着剤層形成用組成物に含まれる溶剤の例には、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、3-メトキシ-1-ブタノール、エチレングリコールモノブチルエーテル、3-ヒドロキシ-2-ブタノン、ジアセトンアルコール等のアルコール類、α-もしくはβ-テルピネオール等のテルペン類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、N-メチル-2-ピロリドン等のケトン類、トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類、セロソルブ、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、カルビトール、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、3-メトキシブチルアセテート、3-メトキシ-3-ブチルアセテート、3-メトキシ-3-メチル-1-ブチルアセテート、セロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類等が含まれる。これらを用いて溶解、混合させることにより、均一な溶液状の組成物とすることができる。これらの溶剤は、塗布性等の必要特性とするためにこれらを単独または2種以上を併用してもよい。溶剤の量は、目標とする粘度によって変化するが、感光性樹脂組成物溶液中60~90質量%であることが好ましい。
【0088】
本発明の一実施形態に係る接着剤層形成用組成物には、必要に応じて硬化剤、硬化促進剤、熱重合禁止剤および酸化防止剤、可塑剤、充填剤、レベリング剤、消泡剤、界面活性剤、カップリング剤等の添加剤を配合することができる。
【0089】
硬化剤の例には、エポキシ樹脂の硬化に寄与するアミン系化合物、多価カルボン酸系化合物、フェノール樹脂、アミノ樹脂、ジシアンジアミド、ルイス酸錯化合物等が含まれる。硬化促進剤の例には、エポキシ樹脂の硬化促進に寄与する三級アミン、四級アンモニウム塩、三級ホスフィン、四級ホスホニウム塩、ホウ酸エステル、ルイス酸、有機金属化合物、イミダゾール類等が含まれる。熱重合禁止剤および酸化防止剤の例には、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ピロガロール、tert-ブチルカテコール、フェノチアジン、ヒンダードフェノール系化合物等が含まれる。可塑剤の例には、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、リン酸トリクレジル等が含まれる。充填剤の例には、ガラスファイバー、シリカ、マイカ、アルミナ等が含まれる。消泡剤やレベリング剤の例には、シリコーン系、フッ素系、アクリル系の化合物が含まれる。界面活性剤の例には、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤などが含まれる。カップリング剤の例には、3-(グリシジルオキシ)プロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等が含まれる。
【0090】
本願発明の接着剤層形成用組成物は、必要な部分に塗布して用いることができ、フォトリソグラフィーにより必要なパターンを形成するプロセスを経て用いることもできる。
【0091】
2.積層体の製造方法
本発明の一実施形態に係る積層体の製造方法は、(1)支持体および被着体のいずれか一方または双方の表面に、上述の接着剤層形成用組成物を含む接着剤層を形成する工程と、(2)形成された接着剤層を介して、前記支持体と前記被着体とを接着させる工程と、を含む。以下、各工程について説明する。
【0092】
[接着剤層を形成する工程]
接着剤層の形成工程は、支持体および被着体のいずれか一方または双方の表面に、上述の接着剤層形成用組成物を含む接着剤層を形成する工程である。
【0093】
(支持体)
支持体は、その表面に接着剤層を形成することができれば、その種類は限定されない。
【0094】
本発明においては、上記支持体はレーザー透過性を有することが好ましい。とくに、上記支持体は、10nm以上400nm以下の波長の光(レーザー)を透過させることがより好ましく、100nm以上400nm以下の波長の光(レーザー)を透過させることがさらに好ましい。上記レーザー透過性を有する支持体の例には、ガラス基板、アクリル基板、サファイヤ基板、石英基板などが含まれる。ただし、ガラス基板、アクリル基板については、使用する光の波長の透過率が十分である組成の基板を用いることが必要である。上記支持体の中では、ガラス基板であることが好ましい。
【0095】
(被着体)
被着体の例には、半導体ウエハ、半導体チップ、発光素子、光学系ガラスウエハ、金属箔、研磨パッド、樹脂塗膜、配線層などが含まれる。
【0096】
(接着剤層)
接着剤層は、接着剤を、上述の支持体および上述の被着体のいずれか一方または双方の表面に付与することで形成される。上記接着剤は、上述の(A)不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂を含む接着剤層形成用組成物であることが好ましい。上記不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂は硬化した後の架橋密度が低いため、レーザーを照射されるとアブレーションされやすいため、レーザー加工性に優れる。
【0097】
上記接着剤の付与方法の例には、公知の溶液浸漬法、スピンコート法、インクジェット法、スプレー法、ローラーコーター機、ランドコーター機、スリットコーター機やスピナー機を用いる方法などが含まれる。
【0098】
上記付与方法で、接着剤を付与した後、溶剤を乾燥させる(プリベーク)ことにより、接着剤層が形成される。なお、プリベークはオーブン、ホットプレート等により加熱することによって行われる。プリベークにおける加熱温度および加熱時間は使用する溶剤に応じて適宜選択され、例えば、60~110℃の温度で1~3分間行われる。
【0099】
接着剤層の厚さは、任意に選択することができる。本発明においては、接着剤層の厚さは、0.1μm以上50μm以下であることが好ましく、0.5μm以上30μm以下であることがより好ましい。接着剤層の厚さが0.1μm以上であると、接着剤層が被着体を接着するための十分な保持力を有することができる。また、50μm以下であると、光または熱硬化により十分に接着剤層を硬化させることができる。
【0100】
また、本工程では、接着剤を、上述の支持体および上述の被着体のいずれか一方または双方の表面に付与した後、接着剤層にパターニングを施すための、露光工程および現像工程を有していてもよい。接着剤層にパターニングを施すことにより、被着体を接着させる部分にのみ接着剤層を形成することができ、支持体と被着体を分離する工程(後述)において、被着体の剥離不良や位置ずれを抑制することができる。
【0101】
露光工程に使用する光の例には、可視光線、紫外線、遠紫外線、電子線、X線等が含まれる。上記光の中では、紫外線(波長250~400nm)であることが好ましい。また、現像工程では、アルカリ現像に適した現像液を用いる。上記現像液の例には、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム、ジエタノールアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等の水溶液が含まれる。これらの現像液は、樹脂層の特性に合わせて適宜選択されうるが、必要に応じて界面活性剤を添加してもよい。現像温度は、20~35℃であることが好ましく、市販の現像機や超音波洗浄機等を用いて微細な画像を精密に形成することができる。なお、アルカリ現像後は、通常、水洗される。現像処理法としては、シャワー現像法、スプレー現像法、ディップ(浸漬)現像法、パドル(液盛り)現像法等を適用することができる。
【0102】
[支持体および被着体を接着させる工程]
支持体および被着体を接着させる工程は、上述の接着剤層を介して、上述の支持体および被着体を接着させる工程である。
【0103】
上記支持体と上記被着体とを接着させる方法としては、例えば、支持体の表面に形成された接着剤層の表面に、被着体(接着剤層と接触する面に接着剤が付与されている)を接触させて加熱しながら加圧する方法がある。また、支持体と被着体との接着条件は、加圧時の温度が、室温以上200℃以下であることが好ましく、30℃以上150℃以下であることがより好ましい。接着時の圧力は、0.01MPa以上20MPa以下であることが好ましく、0.03MPa以上15MPa以下であることがより好ましい。また、必要に応じて、加圧熱圧着終了後に、120℃~250℃の温度で熱硬化させることもできる。上記条件で、支持体と上記被着体とを接着させることにより、被着体が接着剤層を介して支持体の表面により強固に固定される。
【0104】
また、上記接着させる工程では、光硬化で支持体および被着体を接着させてもよい。接着剤層を光硬化させる方法の例としては、高圧水銀ランプを用いて光を照射する方法がある。また、支持体と被着体との接着条件は、照射する光の波長が200~500nmであることが好ましい。照射する光の露光量は、25mJ/cm2以上3000mJ/cm2以下であることが好ましく、50mJ/cm2以上2000mJ/cm2以下であることがより好ましい。
【0105】
このようにして、本発明の積層体が形成される。
【0106】
なお、上記積層体は、10nm以上400nm以下の波長のレーザー(後述)を支持体側から接着剤層に対して照射することにより、支持体と被着体を分離可能である。
【0107】
3.積層体の処理方法
本発明の一実施形態に係る積層体の処理方法は、(1)上述の積層体を準備する工程と、(2)上記積層体に光を照射して上記支持体と上記被着体とを分離する工程と、を含む。以下、各工程について説明する。
【0108】
[積層体を用意する工程]
積層体を用意する工程は、上述のように積層体を形成するか、または、すでに形成されている積層体を用意する工程である。
【0109】
[支持体と被着体とを分離する工程]
支持体と被着体とを分離する工程は、接着剤層に光を照射することにより、支持体と被着体とを分離する工程である。
【0110】
照射される光は、支持体と被着体とを分離できれば、特に限定されない。本発明においては、上記光は紫外線であることが好ましく、上記紫外線の波長は、10nm以上400nm以下であることがより好ましく、100nm以上400nm以下であることがさらに好ましい。上記紫外線の波長が10nm以上であると、接着剤層の成分である重合体が光を吸収することで変質を起こして、強度および接着力が低下させるので、支持体と被着体とを容易に分離することができる。また、波長が400nm以下であると、加工部の接着剤層が光を吸収するので、硬化膜の残渣が生じるのを抑制することができる。
【0111】
上記紫外線の光源の例には、低水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、遠紫外線灯レーザーが含まれる。上記光源の中では、レーザーであることが好ましい。
【0112】
上記レーザーの例には、固体レーザー、液体レーザー、気体レーザーが含まれる。また、上記固体レーザーの例には、半導体励起レーザーなどが含まれる。液体レーザーの例には、色素レーザーなどが含まれる。気体レーザーの例には、エキシマレーザーなどが含まれる。上記レーザーの中では、半導体励起レーザーであることが好ましい。
【0113】
上記半導体励起レーザーの例には、Nd:YAGレーザー、Nd:YLFレーザー、Nd:ガラスレーザー、Nd:YVO4レーザー、Yb:YAGレーザー、Ybドープファイバーレーザー、Er:YAGレーザー、Tm:YAGレーザーなどが含まれる。エキシマレーザーの例には、KrFレーザー、XeClレーザー、ArFレーザー、F2レーザーなどが含まれる。上記レーザーの中では、Nd:YAGレーザーであることが好ましい。
【0114】
また、接着剤層に照射する光の出力および積算光量は、光源等の種類によって異なるが、照射する光がレーザーである場合には、上記出力は、0.1mW以上200W以下であるものを用いることができる。また、上記積算光量は、1mJ/cm2以上50J/cm2以下であることが好ましい。積算光量が、0.1mJ/cm2以上であると、アブレーションの際に生じる焦げ、剥離カスなどが生じにくい。50J/cm2以下であるとアブレーションの速度を適正に制御して適正な加工をすることができる。
【0115】
接着剤層に光(レーザー)を照射する方法としては、支持体側からレーザーを接着剤層の全面に照射することが好ましい。レーザーを照射する方法は、特に限定されず、公知の方法で行うことができる。
【0116】
上記積層体は、上記接着剤層への光(レーザー)の照射により、上記支持体と上記被着体とを分離可能である。
【0117】
本発明の本発明の一実施形態に係る積層体の処理方法においては、支持体と被着体とを分離する工程の前に、用意された積層体を加工する工程を含んでもよい。
【0118】
上記積層体を加工する方法には、ダイシング、裏面研削などの被着体の薄膜化、フォトファブリケーション、半導体チップの積層、各種素子の搭載、樹脂封止などが含まれる。
【0119】
また、本発明の一実施形態に係る積層体の処理方法においては、上記加工処理された積層体をある装置から別の装置へ移動させる工程を含んでもよい。上記積層体の移動させる方法としては、ロボットアームなどが含まれる。
【0120】
このようにして、本発明の積層体が処理される。
【実施例】
【0121】
以下、実施例および比較例に基づいて、本発明の実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0122】
まず、(A)成分である不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂の合成例から説明するが、これらの合成例における樹脂の評価は、断りのない限り以下の通りに行った。
【0123】
なお、各種測定機器について、同一の機種を使用した場合には、2か所目から機器メーカー名を省略している。また、実施例において、測定用硬化膜付き基板の作製に使用しているガラス基板は、全て同じ処理を施して使用している。また、各成分の含有量について、小数第一位が0であるときは、小数点以下の表記を省略することがある。
【0124】
[固形分濃度]
合成例中で得られた樹脂溶液1gをガラスフィルター〔重量:W0(g)〕に含浸させて秤量し〔W1(g)〕、160℃にて2時間加熱した後の重量〔W2(g)〕から次式より求めた。
固形分濃度(重量%)=100×(W2-W0)/(W1-W0)
【0125】
[酸価]
樹脂溶液をジオキサンに溶解させ、電位差滴定装置「COM-1600」(平沼産業株式会社製)を用いて1/10N-KOH水溶液で滴定して求めた。
【0126】
[分子量]
ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)「HLC-8220GPC」(東ソー株式会社製、溶媒:テトラヒドロフラン、カラム:TSKgelSuper H-2000(2本)+TSKgelSuper H-3000(1本)+TSKgelSuper H-4000(1本)+TSKgelSuper H-5000(1本)(東ソー株式会社製)、温度:40℃、速度:0.6ml/min)にて測定し、標準ポリスチレン(東ソー株式会社製、PS-オリゴマーキット)換算値として重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0127】
合成例で記載する略号は次のとおりである。
BPFE :ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂(一般式(1)でArがベンゼン環で、lが0のエポキシ樹脂、エポキシ当量256g/eq)
BNFE :ビスナフトールフルオレン型エポキシ樹脂(一般式(1)でArがナフタレン環で、lが0のエポキシ樹脂、エポキシ当量281g/eq)
YD-7011R:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポトートYD-7011R、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、「エポトート」は同社に登録商標)
YX8000 :水添エポキシ樹脂(「jER YX8000」、エポキシ当量205g/eq、三菱ケミカル株式会社製、「jER」は同社の登録商標)
BPDA :3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
BTDA :3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
HPMDA :1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物
THPA :1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸無水物
TPP :トリフェニルホスフィン
AA :アクリル酸
PGMEA :プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
【0128】
[合成例1]
還流冷却機付き250mLの四つ口フラスコ中に、BPFE(50.00g、0.10mol)、AA(14.07g、0.20mol)、TPP(0.26g)、およびPGMEA(40.00g)を仕込み、100~105℃で12時間攪拌して、反応生成物を得た。その後、PGMEA(25.00g)を仕込み固形分が50質量%となるように調整した。
【0129】
次いで、得られた反応生成物にBPDA(14.37g、0.05mol)およびTHPA(7.43g、0.05mol)を仕込み、115~120℃で6時間攪拌し、不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂(A)-1を得た。得られた樹脂溶液の固形分濃度は57.0質量%であり、酸価(固形分換算)は96mgKOH/gであり、GPC分析によるMwは3600であった。
【0130】
[合成例2]
還流冷却機付き250mLの四つ口フラスコ中に、BPFE(50.00g、0.10mol)、AA(14.07g、0.20mol)、TPP(0.26g)、およびPGMEA(40.00g)を仕込み、100~105℃で12時間攪拌して、反応生成物を得た。その後、PGMEA(25.00g)を仕込み固形分が50質量%となるように調整した。
【0131】
次いで、得られた反応生成物にBTDA(15.73g、0.05mol)およびTHPA(7.43g、0.05mol)を仕込み、115~120℃で6時間攪拌し、不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂(A)-2を得た。得られた樹脂溶液の固形分濃度は57.4質量%であり、酸価(固形分換算)は105mgKOH/gであり、GPC分析によるMwは3200であった。
【0132】
[合成例3]
還流冷却機付き250mLの四つ口フラスコ中に、BPFE(50.00g、0.10mol)、AA(14.07g、0.20mol)、TPP(0.26g)、およびPGMEA(40.00g)を仕込み、100~105℃で12時間攪拌して、反応生成物を得た。その後、PGMEA(25.00g)を仕込み固形分が50質量%となるように調整した。
【0133】
次いで、得られた反応生成物にナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物(13.09g、0.05mol)およびTHPA(7.43g、0.05mol)を仕込み、115~120℃で6時間攪拌し、不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂(A)-3を得た。得られた樹脂溶液の固形分濃度は56.6質量%であり、酸価(固形分換算)は101mgKOH/gであり、GPC分析によるMwは3300であった。
【0134】
[合成例4]
還流冷却機付き250mLの四つ口フラスコ中に、BPFE(50.00g、0.10mol)、AA(14.07g、0.20mol)、TPP(0.26g)、およびPGMEA(40.00g)を仕込み、100~105℃で12時間攪拌して、反応生成物を得た。その後、PGMEA(25.00g)を仕込み固形分が50質量%となるように調整した。
【0135】
次いで、得られた反応生成物にナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物(13.09g、0.05mol)およびTHPA(7.43g、0.05mol)を仕込み、115~120℃で6時間攪拌し、不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂(A)-4を得た。得られた樹脂溶液の固形分濃度は56.6質量%であり、酸価(固形分換算)は99mgKOH/gであり、GPC分析によるMwは3400であった。
【0136】
[合成例5]
還流冷却機付き250mLの四つ口フラスコ中に、BPFE(50.00g、0.10mol)、AA(14.07g、0.20mol)、TPP(0.26g)、およびPGMEA(40.00g)を仕込み、100~105℃で12時間攪拌して、反応生成物を得た。その後、PGMEA(25.00g)を仕込み固形分が50質量%となるように調整した。
【0137】
次いで、得られた反応生成物にBPDA(14.37g、0.05mol)および1,8-ナフタレンジカルボン酸無水物(9.68g、0.05mol)を仕込み、115~120℃で6時間攪拌し、不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂(A)-5を得た。得られた樹脂溶液の固形分濃度は57.6質量%であり、酸価(固形分換算)は97mgKOH/gであり、GPC分析によるMwは3700であった。
【0138】
[合成例6]
還流冷却機付き250mLの四つ口フラスコ中に、BPFE(50.00g、0.10mol)、AA(14.07g、0.20mol)、TPP(0.26g)、およびPGMEA(40.00g)を仕込み、100~105℃で12時間攪拌して、反応生成物を得た。その後、PGMEA(25.00g)を仕込み固形分が50質量%となるように調整した。
【0139】
次いで、得られた反応生成物にBPDA(14.37g、0.05mol)および2,3-ナフタレンジカルボン酸無水物(9.68g、0.05mol)を仕込み、115~120℃で6時間攪拌し、不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂(A)-6を得た。得られた樹脂溶液の固形分濃度は57.6質量%であり、酸価(固形分換算)は95mgKOH/gであり、GPC分析によるMwは3600であった。
【0140】
[合成例7]
還流冷却機付き250mLの四つ口フラスコ中に、BPFE(50.00g、0.10mol)、AA(14.07g、0.20mol)、TPP(0.26g)、およびPGMEA(40.00g)を仕込み、100~105℃で12時間攪拌して、反応生成物を得た。その後、PGMEA(25.00g)を仕込み固形分が50質量%となるように調整した。
【0141】
次いで、得られた反応生成物にBPDA(10.06g、0.03mol)およびTHPA(11.89g、0.08mol)を仕込み、115~120℃で6時間攪拌し、不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂(A)-7を得た。得られた樹脂溶液の固形分濃度は57.0質量%であり、酸価(固形分換算)は98mgKOH/gであり、GPC分析によるMwは2300であった。
【0142】
[合成例8]
還流冷却機付き250mLの四つ口フラスコ中に、BPFE(50.00g、0.10mol)、AA(14.07g、0.20mol)、TPP(0.26g)、およびPGMEA(40.00g)を仕込み、100~105℃で12時間攪拌して、反応生成物を得た。その後、PGMEA(25.00g)を仕込み固形分が50質量%となるように調整した。
【0143】
次いで、得られた反応生成物にBPDA(19.25g、0.07mol)およびTHPA(0.30g、0.002mol)を仕込み、115~120℃で6時間攪拌し、不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂(A)-8を得た。得られた樹脂溶液の固形分濃度は56.3質量%であり、酸価(固形分換算)は97mgKOH/gであり、GPC分析によるMwは4700であった。
【0144】
[合成例9]
還流冷却機付き250mLの四つ口フラスコ中に、BNFE(50.00g、0.09mol)、AA(12.82g、0.20mol)、TPP(0.23g)、およびPGMEA(40.00g)を仕込み、100~105℃で12時間攪拌して、反応生成物を得た。その後、PGMEA(25.00g)を仕込み固形分が50質量%となるように調整した。
【0145】
次いで、得られた反応生成物にBPDA(13.09g、0.04mol)およびTHPA(6.77g、0.04mol)を仕込み、115~120℃で6時間攪拌し、不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂(A)-9を得た。得られた樹脂溶液の固形分濃度は56.1質量%であり、酸価(固形分換算)は91mgKOH/gであり、GPC分析によるMwは3500であった。
【0146】
[合成例10]
還流冷却機付き250mLの四つ口フラスコ中に、BNFE(50.00g、0.09mol)、AA(12.82g、0.20mol)、TPP(0.23g)、およびPGMEA(40.00g)を仕込み、100~105℃で12時間攪拌して、反応生成物を得た。その後、PGMEA(25.00g)を仕込み固形分が50質量%となるように調整した。
【0147】
次いで、得られた反応生成物にBTDA(14.33g、0.04mol)およびTHPA(6.77g、0.04mol)を仕込み、115~120℃で6時間攪拌し、不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂(A)-10を得た。得られた樹脂溶液の固形分濃度は56.5質量%であり、酸価(固形分換算)は90mgKOH/gであり、GPC分析によるMwは2700であった。
【0148】
[合成例11]
還流冷却機付き250mLの四つ口フラスコ中に、BPFE(50.00g、0.10mol)、AA(14.07g、0.20mol)、TPP(0.26g)、およびPGMEA(40.00g)を仕込み、100~105℃で12時間攪拌して、反応生成物を得た。その後、PGMEA(25.00g)を仕込み固形分が50質量%となるように調整した。
【0149】
次いで、得られた反応生成物にHPMDA(10.95g、0.05mol)およびTHPA(7.43g、0.05mol)を仕込み、115~120℃で6時間攪拌し、不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂(A)-11を得た。得られた樹脂溶液の固形分濃度は56.0質量%であり、酸価(固形分換算)は105mgKOH/gであり、GPC分析によるMwは4000であった。
【0150】
[合成例12]
還流冷却機付き250mLの四つ口フラスコ中に、YD-7011R(50.00g、0.05mol)、AA(7.59g、0.11mol)、TPP(0.14g)、およびPGMEA(40.00g)を仕込み、100~105℃で12時間攪拌して、反応生成物を得た。その後、PGMEA(20.00g)を仕込み固形分が50質量%となるように調整した。
【0151】
次いで、得られた反応生成物にBPDA(5.42g、0.02mol)およびTHPA(6.41g、0.04mol)を仕込み、115~120℃で6時間攪拌し、不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂(A)-12を得た。得られた樹脂溶液の固形分濃度は53.7質量%であり、酸価(固形分換算)は68mgKOH/gであり、GPC分析によるMwは7300であった。
【0152】
[合成例13]
還流冷却機付き250mLの四つ口フラスコ中に、3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(25.00g、0.10mol)、AA(14.28g、0.20mol)、TEAB(0.63g)、およびPGMEA(40.00g)を仕込み、100~105℃で20時間攪拌して、反応生成物を得た。その後、PGMEA(20.00g)を仕込み固形分が50質量%となるように調整した。
【0153】
次いで、得られた反応生成物にBPDA(10.29g、0.03mol)およびTHPA(11.97g、0.08mol)を仕込み、120~125℃で8時間攪拌した。さらに、GMA(11.60g、0.08mol)を仕込み、105~110℃で8時間攪拌し、不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂(A)-13を得た。得られた樹脂溶液の固形分濃度は64.8質量%であり、酸価(固形分換算)は55mgKOH/gであり、GPC分析によるMwは4200であった。
【0154】
[合成例14]
還流冷却機付き250mLの四つ口フラスコ中に、YX8000(50.00g、0.12mol)、AA(17.58g、0.24mol)、TPP(0.32g)、およびPGMEA(40.00g)を仕込み、100~105℃で20時間攪拌して、反応生成物を得た。その後、PGMEA(20.00g)を仕込み固形分が50質量%となるように調整した。
【0155】
次いで、得られた反応生成物にHPMDA(13.67g、0.06mol)およびTHPA(9.28g、0.06mol)を仕込み、115~120℃で6時間攪拌し、不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂(A)-14を得た。得られた樹脂溶液の固形分濃度は58.3質量%であり、酸価(固形分換算)は115mgKOH/gであり、GPC分析によるMwは4000であった。
【0156】
表1に記載の配合量(単位は質量%)で実施例1~12、比較例1~4の接着剤層形成用組成物を調製した。表1で使用した配合成分は以下のとおりである。
【0157】
(不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂)
(A)-1:合成例1で得られた樹脂溶液(固形分濃度57.0質量%)
(A)-2:合成例2で得られた樹脂溶液(固形分濃度57.4質量%)
(A)-3:合成例3で得られた樹脂溶液(固形分濃度56.6質量%)
(A)-4:合成例4で得られた樹脂溶液(固形分濃度56.6質量%)
(A)-5:合成例5で得られた樹脂溶液(固形分濃度57.6質量%)
(A)-6:合成例6で得られた樹脂溶液(固形分濃度57.6質量%)
(A)-7:合成例7で得られた樹脂溶液(固形分濃度57.0質量%)
(A)-8:合成例8で得られた樹脂溶液(固形分濃度56.3質量%)
(A)-9:合成例9で得られた樹脂溶液(固形分濃度56.1質量%)
(A)-10:合成例10で得られた樹脂溶液(固形分濃度56.5質量%)
(A)-11:合成例11で得られた樹脂溶液(固形分濃度56.0質量%)
(A)-12:合成例12で得られた樹脂溶液(固形分濃度53.7質量%)
(A)-13:合成例13で得られた樹脂溶液(固形分濃度64.8質量%)
(A)-14:合成例14で得られた樹脂溶液(固形分濃度58.3質量%)
【0158】
(光重合性モノマー)
(B):ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとヘキサアクリレートとの混合物(DPHA、日本化薬株式会社製)
【0159】
(光重合開始剤)
(C):2-[4-(メチルチオ)ベンゾイル]-2-(4-モルホリニル)プロパン(「Omnirad907」IGMResins B.V.社製、「Omnirad」は同社の登録商標)
【0160】
(光増感剤)
(D):ミヒラーケトン
【0161】
(エポキシ化合物)
(E):ビフェニル型エポキシ樹脂(jER YX4000、三菱ケミカル株式会社製)
【0162】
(溶剤)
(F):プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)
【0163】
【0164】
[評価]
(A)不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂の最低励起三重項状態(T1)のエネルギーの算出、および実施例1~12、比較例1~4の接着剤層形成用組成物を硬化してなる硬化膜を用いて、以下の評価を行った。
【0165】
[最低励起三重項状態(T1)のエネルギーの算出方法]
不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂((A)-1~11)の最低励起三重項状態(T1)のエネルギーは、下記一般式(9)で表される(A)成分の構成単位を基に、量子化学計算により求めた。最低励起三重項状態(T1)のエネルギーを求めるため、「Gaussian16,RevisionB.01」ソフトウエアパッケージ(Gaussian Inc.)を使用した。具体的には、以下の計算手法によって、最低励起三重項エネルギー(T1)を得た。まず、一般式(9)で表される(A)成分の構成単位(末端は水素で置換)の分子構造(分子座標)に対し、電荷0および多重度1で、密度汎関数法(DFT)により、汎関数にB3LYP、基底関数に6-31G(d)を用いて、基底状態の構造最適化計算を実施した(Gaussian入力ライン「#B3LYP/6-31G(d)OPT」)。次に、構造最適化された分子構造において、電荷0および多重度1を用い、時間依存密度汎関数法(TDDFT)により、汎関数にB3LYP、基底関数に6-31G(d)を用いて最低励起三重項エネルギー(T1)を計算した(Gaussian入力ライン「#B3LYP/6-31G(d)td=(50-50,nstates=4)」)。なお、DFTおよびTDDFTの計算には、代わりに同様の機能を持つ計算化学ソフトウェアを用いてもよい。
【0166】
【0167】
また、不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂((A)-12、13、14)の最低励起三重項状態(T1)のエネルギーは、それぞれ下記一般式(10)、一般式(11)、および一般式(12)で表される(A)成分の構成単位を基に、上述の量子化学計算により求めた。
【0168】
【0169】
【0170】
【0171】
(レーザー加工性評価用の硬化膜付き基板の作製)
表1に示した感光性樹脂組成物を、予め低圧水銀灯で波長254nmの照度1000mJ/cm2の紫外線を照射して表面を洗浄した、125mm×125mmの合成石英ガラス基板(以下「石英ガラス基板」という)上に、加熱硬化処理後の膜厚が1.0μmとなるようにスピンコーターを用いて塗布し、ホットプレートを用いて90℃で1分間プリベークをして乾燥膜を作製した。次いで、熱風乾燥機を用いて250℃で30分間、本硬化(ポストベーク)し、実施例1~12、比較例1~4に係る硬化膜付き基板を得た。
【0172】
[レーザー加工性評価]
(評価方法)
本硬化(ポストベーク)後の硬化膜(塗膜)に対して、フラッシュランプ励起Nd:YAGQ-SWレーザー発振器「Callisto」(株式会社ブイ・テクノロジー製)を用いて、レーザー(レーザー波長:266nm)を石英ガラス基板側から照射した。3~550mJ/cm2のレーザーエネルギーで硬化膜(塗膜)の加工(塗膜除去)を行い、加工した硬化膜(塗膜)を光学顕微鏡にて観察した。なお、○以上を合格とした。
【0173】
(評価基準)
○:20mJ/cm2以下でレーザー照射部に塗膜残渣がない
△:20mJ/cm2超50mJ/cm2以下でレーザー照射部に塗膜残渣がない
×:50mJ/cm2超でレーザー照射部に塗膜残渣がある
【0174】
(現像残渣評価用の硬化膜付き基板の作製)
表1に示した接着剤層形成用組成物を、125mm×125mmのガラス基板「#1737」(コーニング社製)(以下「ガラス基板」という)上に、加熱硬化処理後の膜厚が3.0μmとなるようにスピンコーターを用いて塗布し、ホットプレートを用いて90℃で1分間プリベークをして硬膜(塗膜)を作製した。次いで、波長365nmの照度が30mW/cm2の超高圧水銀ランプで300mJ/cm2の紫外線を照射して、感光部分の光硬化反応を行った。
【0175】
次いで、露光した上記露光膜を23℃の0.8%TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)現像液により1kgf/cm2のシャワー圧にて、パターンが現れ始める現像時間(ブレイクタイム=BT)から10秒の現像処理を行った後、5kgf/cm2のスプレー水洗を行い、露光膜の未露光部分を除去してガラス基板上に30μm径のドットパターンを形成し、熱風乾燥機を用いて250℃で30分間、本硬化(ポストベーク)し、実施例1~12、比較例1~4に係る硬化膜付き基板を得た。
【0176】
[現像残渣評価]
(評価方法)
得られた硬化膜付き基板の硬化膜(塗膜)の30μm径のドットパターンを、光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、パターンエッジ部分のギザつきおよび基板上の接着剤層形成用組成物由来の残渣を観察した。なお、○以上を合格とした。
【0177】
(評価基準)
○:パターンエッジ部および基材上に残渣は確認されない
△:パターンエッジ部および基材上の一部に残渣が確認される
×:パターンエッジ部および基材上の残渣が顕著である
-:パターン形成していない
【0178】
(耐薬品性評価用の硬化膜付き基板の作製)
表1に示した感光性樹脂組成物を、ガラス基板「#1737」上に、加熱硬化処理後の膜厚が3.0μmとなるようにスピンコーターを用いて塗布し、ホットプレートを用いて90℃で3分間プリベークをして乾燥膜を作製した。次いで、波長365nmの照度が30mW/cm2の超高圧水銀ランプで100mJ/cm2の紫外線を照射して、光硬化反応を行った。その後、熱風乾燥機を用いて230℃で30分間、本硬化(ポストベーク)し、実施例1~12、比較例1~4に係る硬化膜付き基板を得た。
【0179】
[耐薬品性評価]
(評価方法)
得られた硬化膜付き基板の硬化膜(塗膜)を、アセトン、5wt%水酸化ナトリウム水溶液、5wt%塩酸にそれぞれ30分間浸漬した後、洗浄・乾燥した。その後、試験後の硬化膜(塗膜)の膜厚を触針式段差形状測定装置「P-17」(ケーエルエー・テンコール株式会社製)を用いて測定した。なお、△以上を合格とした。
【0180】
耐薬品性評価における残膜率は、試験前の膜厚をL1とし、試験後の膜厚をL2として、下記式から算出した。
残膜率(%)=L2/L1×100
【0181】
(評価基準)
○:残膜率が90%以上である
△:残膜率が80%以上、90%未満である
×:残膜率が80%未満である
【0182】
上記評価結果を表2に示す。
【0183】
【0184】
本発明の不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂を含む、接着剤層形成用組成物を接着剤層に用いた積層体は、レーザー加工性に優れることがわかった。これは、不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂は硬化した後の架橋密度が低いため、レーザーを照射されるとアブレーションされやすいためであると考えられる。
【0185】
また、本発明の、一般式(1)で表される不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂のYが芳香族炭化水素基であると、最低励起三重項状態(T1)のエネルギー値が、2.90eV以下とでき、レーザー加工性に優れることがわかった。これは、Yが、芳香族炭化水素基であると、樹脂(の構造単位)のLUMO(最低空軌道)の値が小さくなる。これにより、HOMO(最高被占軌道)-LUMOエネルギーギャップが小さくなるので、最低励起三重項状態(T1)の値も小さくなるためであると考えられる。
【0186】
また、(E)成分として、2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物を含む接着剤層形成用組成物は、耐薬品性に優れることがわかった。これは、(E)成分を含むことにより、十分な架橋構造を形性できるためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0187】
本発明は、様々な製品の製造時に使用され得る接着剤を有する積層体を提供することができる。特に、半導体ウエハ等の支持体に仮止めして加工する工程にとって好適な積層体を提供することができる。