(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】電磁波シールド用炭素材料フィラー、電磁波シールド材料、及び電磁波シールド用炭素材料含有成形体
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20240926BHJP
C01B 32/00 20170101ALI20240926BHJP
【FI】
H05K9/00 W
H05K9/00 M
C01B32/00
(21)【出願番号】P 2021057699
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2023-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2020062905
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】宮永 俊明
(72)【発明者】
【氏名】藤 和久
(72)【発明者】
【氏名】梶岡 信由
(72)【発明者】
【氏名】小川 淳一
(72)【発明者】
【氏名】平本 健治
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-251620(JP,A)
【文献】特開2017-123390(JP,A)
【文献】特開2018-006270(JP,A)
【文献】特開2006-140138(JP,A)
【文献】特表2019-532889(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0266739(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
H05K 9/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を吸収するために成形材料に配合される易黒鉛化炭素材料からなるフィラーであって、下記(1)から(3)を満たすことを特徴とする電磁波シールド用炭素材料フィラー。
(1)X線回折測定(XRD)で測定される前記易黒鉛化炭素材料の002面の面間隔d 002が0.338nm以上であること。
(2)前記易黒鉛化炭素材料をX線回折測定(XRD)で測定した際に検出される「00 2面」のピーク強度(A)と、「100面」および「004面」から選択されるより高いピーク強度(B)との相対強度比(A/B)値が2.5以上27未満であること。
(3)粉末状を有し、平均粒子径D50が1μm以上5mm以下であること。
【請求項2】
易黒鉛化炭素材料の原料が、石炭及び/又は石油由来の重質油である請求項1に記載の電磁波シールド用炭素材料フィラー。
【請求項3】
平均粒子径D50が5μm以上3mm以下である請求項1又は2に記載の電磁波シールド用炭素材料フィラー。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の電磁波シールド用炭素材料フィラーを、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又はバインダーピッチから選択される成形材料に配合したことを特徴とする電磁波シールド材料。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の電磁波シールド用炭素材料フィラーを、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又はバインダーピッチから選択される成形材料に配合して固化したことを特徴とする電磁波シールド用炭素材料含有成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールド用炭素フィラーに関するもので、従来の電磁波シールド用材料は実現できなかった軽量性を有し、且つ高い電磁波シールド性を発現することを可能とする易黒鉛化炭素材料からなる電磁波シールド用炭素材料フィラーを提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル通信を利用した各種システムや電波を利用したセンサー及びそのモニタリング機器等は目覚ましい進化と普及が進んでおり、我々日常生活の一般機器等にも広く設置されている。
【0003】
しかしながら、通信システムを多用した日常においては、異なるシステム間において、類似の周波数を利用する機器においては、本来システムが他の通信電波に影響されて誤作動を生ずる可能性が指摘されており、事実、センサーの誤作動によるシステム障害が確認されている。
【0004】
また、無線やラジオ等においても、類似の周波数で強い電波が使用されると、そのシステムが雑音を生じ、使えなくなる障害も発生している。
【0005】
このような事例への対策のため、従前より、導電性を有する鉄箔や金網、細い銅製繊維を使用した電磁波シールド材や、導電塗料により構成された電磁波シールド性を有する塗料などが使用されてきた。
【0006】
特に樹脂成型品においては、樹脂が導電性を有さないために、導電性を有する金属フィラーや金属繊維、各種炭素材料や炭素繊維を配合して、導電性を有する樹脂組成物にすることによって電磁波シールド性を有する努力を図ってきた。
【0007】
なかでも、炭素材料は金属系無機材料に比較して低比重であるため、電磁波シールド性を有する樹脂組成物用充填フィラーとして着目されており、さまざまな開発事例が報告されている。
【0008】
特許文献1~4は、電磁波シールド性を有する樹脂組成物に用いられた各種炭素材料に関する文献である。
特許文献1では、カーボンブラックと黒鉛の粒子径を特徴づけて併用することによって高い電磁波シールド性を有することを提案している。この他、特許文献2では膨張黒鉛と炭素繊維の組み合わせによる提案であり、特許文献3はファーネスブラックと炭素繊維短繊維の組み合わせを提案している。さらに、特許文献4では、カーボンナノチューブ、カーボンブラック及びカーボンファイバーを配合する提案を行っている。
【0009】
しかしながら、これらの炭素材料では、充分な電磁波シールド性を得るには不十分である。
そのため、特許文献5~7では、これらの各種炭素材料の組み合わせに対して、金属系及び無機系の導電性フィラーを併用添加することによって、さらに高い電磁波シールド性を得る提案がなされている。
【0010】
特許文献5では、カーボンブラックとNiなどの金属成分を併用するカーボンブラック組成物を提案している。また、特許文献6では、無機充填剤、カーボンブラック及びステンレス繊維を併用添加することを提案している。特許文献7は、金属で被覆された炭素繊維及びグラファイトを併用する材料を提案している。特許文献8では、加熱処理した石炭コークス粉にカーボン(黒鉛)または金属系の鱗片状フィラーを併用した導電性粉末材料を電磁波シールド材に使用することが提案されている。
【0011】
しかしながら、これらの提案例においては、高い電磁波シールド性を有するものの、複数の材料を組み合わせる必要があることや、金属系材料を併用することによって比重が高くなってしまうこと、炭素繊維の使用は材料コストを高くしてしまうなど、実用的な電磁波シールド材料としては必ずしも好ましいものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2003-258491号公報
【文献】特開2000-95947号公報
【文献】特開平8-172292号公報
【文献】特開2014-133842号公報
【文献】特表2006-513120号公報
【文献】特開平6-73248号公報
【文献】特開2005-298653号公報
【文献】特開H6-251620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のとおり、各種電磁波シールド性を有する材料が提案されているが、高い電磁波シールド性を有し、且つ低コストで軽量性を満たす材料を炭素材料単独でも両立させた事例は未だ見られない。
本発明の目的は、従来の電磁波シールド用材料は実現できなかった軽量性を有し、且つ高い電磁波シールド性を発現することを可能とする易黒鉛化炭素材料からなる電磁波シールド用炭素材料フィラーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者はこれらの欠点を改善すべく鋭意検討した結果、炭素材料の結晶構造と電磁波シールド性の関係に着目し、結晶構造を比較的自由に制御・作製できる易黒鉛化炭素材料において、その結晶構造を構造制御することによって、炭素材料特有の軽量性を維持しながら、且つ高い電磁波シールド性を発現する易黒鉛化炭素材料を実現した。即ち、本発明者は、結晶構造を比較的自由に制御・作製できる易黒鉛化炭素材料において、その主要結晶面と二次結晶面の構成比率をある一定の範囲内となるように規定することによって、本発明を完成するに至ったのである。
【0015】
本発明は、電磁波を吸収するために樹脂材料に配合される易黒鉛化炭素材料からなるフィラーであって、下記(1)から(3)を満たすことを特徴とする電磁波シールド用炭素材料フィラーである。
(1)X線回折測定(XRD)で測定される前記易黒鉛化炭素材料の002面の面間隔d 002が0.338nm以上であること。
(2)前記易黒鉛化炭素材料をX線回折測定(XRD)で測定した際に検出される「00 2面」のピーク強度(A)と、「100面」および「004面」から選択されるより高いピーク強度(B)との相対強度比(A/B)値が2.5以上27未満であること。
(3)粉体状を有し、平均粒子径D50が1μm以上5mm以下であること。
【0016】
本発明の電磁波シールド用炭素材料フィラーは、易黒鉛化炭素材料の原料が、石炭及び/又は石油由来の重質油であることが好適であり、さらに平均粒子径D50が5μm以上3mm以下の粉体状であることが好適である。
【0017】
本発明は、上記電磁波シールド用炭素材料フィラーを、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又はバインダーピッチから選択される成形材料に配合したことを特徴とする電磁波シールド材料である。
本発明は、上記電磁波シールド用炭素材料フィラーを、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又はバインダーピッチから選択される成形材料に配合して固化したことを特徴とする電磁波シールド用炭素材料含有成形体である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電磁波シールド用炭素材料フィラーとして特定の易黒鉛化炭素材料フィラーを使用することにより、単独フィラーでも高い電磁波シールド性を実現できる。この易黒鉛化炭素材料フィラーを樹脂材料やバインダーピッチに含有してなる組成物は電磁波シールド材料として有用であり、この電磁波シールド材料を成形・固化することによって軽量で各種形状に加工が容易な電磁波シールド用炭素材料含有成形体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例1(電磁波シールド:62dB)のXRDチャートである。
【
図2】比較例1(電磁波シールド:11dB)のXRDチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
炭素材料には黒鉛や石炭、木炭、カーボンブラックのようなものから、易黒鉛化炭素、難黒鉛化炭素などの多様な種類が存在するが、本発明の電磁波シールド用炭素材料フィラーとして使用する炭素材料は、易黒鉛化炭素材料である事が求められる。ここで、易黒鉛化炭素材料とは、熱処理される温度やその履歴時間によって、その結晶構造が容易に変化する炭素材料であり、2500℃以上の熱処理を行うことによって最終的には黒鉛構造を有することも可能な炭素材料である。
より具体的には、本発明の炭素材料である易黒鉛化炭素とは、X線回折装置(XRD)を使用して測定される002面の面間隔d0 02が0.338nm以上の炭素材料であり、0.343~0.360nmの範囲にあることが好ましい。d002が0.338nm未満であると炭素材料の黒鉛化が進みすぎてしまうため、粉砕時に燐片状となり比表面積が大きくなりすぎて樹脂などへの充填が難しくなったり、後述する電磁波シールド性の高い結晶構造から外れてしまうために適さない。
【0022】
本発明の電磁波シールド用炭素材料フィラーとしての易黒鉛化炭素材料は、その炭素材料を構成する主要結晶面、すなわちX線回折測定(XRD)で測定した際に検出される「002面」のピーク強度(A)と、「100面」および「004面」から選択されるより高いピーク強度(B)との相対強度比α(=A/B)値が2.5以上27未満であることが好ましく、より望ましくは16.0以上26.5未満であり、最も好ましくは19.0 以上26.0未満である。
本発明では、これらのピーク高さ(強度)を測定し、一番高いピーク高さとなる「00 2面」のピークを第一ピーク強度(A)、「100面」および「004面」のいずれかで他方よりも高いピーク高さのピークを第二ピーク強度(B)として、それらのピークの相対強度比(A/B)を計算した。
主要結晶面(002面)と二次結晶面(100面又は004面)の構成比率を上記所定範囲内にすることにより、高い電磁波シールド性を発現できる。
なお、主要結晶面(002面)のピーク強度は、好ましくは1000cps以上、より好ましくは5000cps以上、さらに好ましくは10000cps以上である。上限は、好ましくは13000cps以下、より好ましくは12000cps以下である。
また、二次結晶面(100面又は004面)のピーク強度は、好ましくは100cps以上、より好ましくは200cps以上である。上限は、好ましくは1000cps以下、より好ましくは700cps以下である。
【0023】
本発明の電磁波シールド用炭素材料フィラーとしての易黒鉛化炭素材料は、その体積固有抵抗値が2.0mΩcm以下である。炭素材料の電磁波シールド性はその電気伝導性にあると推測されており、体積固有抵抗値が2.0mΩcm以下であると炭素材料を単独で使用してもある程度の電磁波シールド性を発現させることができる。
【0024】
本発明の電磁波シールド用炭素材料フィラーは、平均粒子径D50が1μm以上、5.0mm以下の粉体状であることが望ましい。粒子径D50はより好ましくは5.0μm~3.0mmであり、最も好ましくは10.0μm~2.5mmである。D50が5.0mm以上の大きさでも電磁波シールド性は十分に発現するが、混錬や成型時の取扱いが難しく、ボイドの発生などによって好ましい強度を有した形状を作製しがたくなる。
【0025】
炭素材料フィラーの形状は、その楕円長短比が0.1~0.5であることが好ましく、0.2~0.4であることがより好ましい。炭素材料フィラーの形状は炭素結晶の成長度合いに影響を受けることから楕円長短比が前記範囲内にあることによりフィラーとしての配合性と電磁波シールド性能のバランスを両立することができる。
なお、楕円長短比とは、炭素材料フィラーの断面を樹脂等に埋設したものをSEM等の方法にて観察して楕円相当短軸長さ(La)と楕円相当長軸長さ(Lb)を求め、(La)/(Lb)比を計算し、これを数十個以上の粒子について行い、その平均値から求められる数値であって、具体的には、SEM等の方法にて観察した粒子画像について、画像解析ソフト(WinROOF:三谷商事株式会社製)などを用いて解析することができる。
【0026】
本発明の電磁波シールド用炭素材料フィラーとなる易黒鉛化炭素材料の原料は、石油および石炭系の重質油や合成樹脂などを使用することができるが、石炭又は石油由来の重質油であることが好ましく、芳香属性に富むことから炭素材料の収率がよく、腐食性の硫黄(S)分が少なく、バナジウム(V)、鉄(Fe)等の不純物や揮発分が少ない石炭系重質油を使用することが特に好ましい。
なお、石油系重質油とは、石油系ピッチ、アスファルト、重油類、重質原油等が例示され、石炭系重質油とは、高炉で用いられる製鉄用コークスを製造する際にコークス炉から副生するコールタール、タール系重質油、タールピッチ、等が例示される。これらは水素化されていても良いし、石炭系重質油と石油系重質油をブレンドして使用することもできる。
【0027】
易黒鉛化炭素材料の製造方法は、一般公知の方法であれば本発明においては特に限定されるものではないが、大量に製造可能であるという観点からディレードコーキング法によることが好ましい。
【0028】
以下、ディレードコーキング法を用いた本発明の炭素材料フィラーの製造についてを説明するが、記載の方法にのみ限定されることではなく、ディレードコーキング法以外の方法でも本発明の炭素材料フィラーが得られることは予め述べておく。
【0029】
ディレードコーキング法による石炭系重質油から易黒鉛化炭素材料の製造方法は、ディレードコーカー等を用いて原料である石炭系重質油を最高到達温度が400℃~700℃ 程度の温度で24時間程度、熱分解・重縮合反応を進めることによって、まず原料の重質油の炭化物を得る。
【0030】
次に、上記炭化物を、粗粉砕してロータリーキルンを用いて低酸素雰囲気で最高到達温度800℃~1500℃で焼成することにより、本発明の電磁波シールド用炭素材料フィラーとして好適なXRDパラメーターを示すように易黒鉛化炭素材料の結晶構造を調整する。
焼成処理は、炭化物中の水分、揮発分を除去するとともに、高分子成分として残存する炭化水素を炭素に転化して結晶の成長を促進するものであり、焼成温度は、好ましくは700~2000℃、より好ましくは900~1500℃の範囲である。
なお、炭化物の焼成処理には、大量の熱処理が可能な設備であればロータリーキルン以外にもリードハンマー炉、シャトル炉、トンネル炉、ローラーハースキルンあるいはマイクロウェーブ等の設備を用いることができるが、特にこれらに限定されるものではない。また、これらのか焼処理設備は、連続式又はバッチ式のどちらでもよい。
【0031】
上記で得られた石炭系生コークスもしくは石炭系か焼コークスは、冷却後にジェットミルなどにより粉砕・分級して所望の粒度に調整されたのち、電磁波シールド用炭素材料フィラーとして供される。
【0032】
本発明の炭素材料フィラーは、単独でも十分に電磁波シールド効果を有するが、金属粉や磁性体粉末などの材料と併用することでより広範囲な電磁波シールド性能を付与することもできる。
【0033】
本発明の電磁波シールド用炭素材料フィラーは、実使用上は、自由な形状の成形体を作製する上において、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又はバインダーピッチなどを結合剤として固化された電磁波シールド用炭素材料含有成形体として使用される。このとき例えば、本発明の易黒鉛化炭素材料の大型のインゴット固形体から切削加工によっても、電磁波シールド性を有する成型体は作製可能であるが、実使用上の加工コストが増大となるため、望ましい工法とはいえない。また、電磁波シールド用炭素材料含有成形体はさまざまな形状で使用されることが想定されるため、従来設備を使用でき、取扱いも大きく変わらない熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂が、結合剤としてより好ましい。
より好ましくは、ポリプロピレンなナイロンといった熱可塑性樹脂に本発明の電磁波シールド炭素材料フィラーを配合・混錬したのち、射出または押出成形することにより電磁波シールドコンポジット成形体を得ることであり、こうして得られた電磁波シールド成形体は家電分野や産業機械分野、運輸・交通分野などに広く展開できるだけでなく、炭素材料フィラーを使用しているために軽量なことから、特に交通・運輸機器などにおける利用が最適である。
【実施例】
【0034】
以下、本発明について実施例と比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、各種測定、評価は下記によるものである。
【0035】
[電磁波シールドの測定]
電磁波シールドは、一般社団法人KEC関西電子工業振興センターが開発したKEC法に準じたテクノサイエンスジャパン製KEC法評価機器で測定し、1MHzの周波数の電磁波のシールド性を評価した。50dB以上を「○」とした。
【0036】
[X線回折によるd002の測定]
BRUKER製DISCOVOER-D8機にて測定した試料の002面の面間隔(d)は002面に起因する26°付近の最大ピーク強度の回折角度θから、Braggの式d=λ/{2×Sin(θ/2)}より求めた。なお、λは使用したX線回折の線源CuのKα1の波長0.15405nmを用いた。
【0037】
[X線回折におけるピーク強度とその比率の測定]
BRUKER製DISCOVOER-D8機にて、試料となる炭素材料の回折角度10~90度におけるX線回折図形を測定し、002面に起因する26°付近のX線回折ピーク、100面に起因する43°付近のX線回折ピーク及び、004面に起因する54°付近のX線回折ピークのピーク強度を算出し、「002面」のピーク強度(A)、「100 面」および「004面」から選択されるより高いピーク強度(B)として、それらのピークの相対強度比(A/B)を計算した。
なお、ピーク強度の算出に際しては、回折ピーク左右の変曲点を結ぶ線をベースラインとして各ピークの頂点からグラフの横軸へ下ろした垂線のうち、ベースラインと垂線の交点から頂点までの長さの回折強度(cps)をピーク高さ(強度)とすることにより行っている。
【0038】
[平均粒子径(D50)の測定方法]
LA-920(HORIBA社製)にて、分散媒を水+活性剤(ライオン社製、商品名ママレモン)として測定を行った。なお、平均粒子径(D50)は体積平均粒子径を使用している。
【0039】
実施例1~4、比較例1~3
石炭由来の重質油を原料として、ディレードコーキング法、すなわちディレードコーカーを用いて500℃程度の温度で24時間程度、熱分解・重縮合反応して生コークスを得た後、ロータリーキルンを用いて低酸素雰囲気のもと800℃~1800℃の範囲内にある計7水準の最高到達温度にて焼成することにより、結晶構造の異なる7種類の易黒鉛化炭素材料を作製した。これら数種類の易黒鉛化炭素材料を、ジェットミルでD50が25 μm以下となるように粉砕・分級し、電磁波シールド用炭素材料フィラーを得た。得られた各電磁波シールド用炭素材料フィラーは、その結晶構造をX線回折法により測定した。次いで、市販のポリプロプレン樹脂を結合剤として使用し、電磁波シールド用炭素材料 フィラー60重量部、ポリプロピレン樹脂40重量部で配合し、射出成形機を用いて固化することにより、150mm×150mm×厚み3mmの平板を作製した。この平板(成形体)を用いて電磁波シールド性の測定を行った。表1に結果を示す。
【0040】
【0041】
実施例5~7、比較例4~5
実施例3と同じ易黒鉛化炭素材料を用い、粉砕条件を変更すること以外同様にして、数種類の粒度D50の電磁波シールド用炭素材料フィラー、次いで結合剤を用いて固化することにより平板(電磁波シールド用炭素材料含有成形体)を作製した。
この平板を用いて電磁波シールド性を測定し、併せて成形性の評価も行った。表2に結果を示す。なお、実施例5~7は、いずれも成形性が良好(○)であったが、比較例4(D50:0.5μm)は、増粘のため成形性が悪く(△)、比較例5(D50:5,500μ m)は、成形体が脆くなり、平板を作成できなかった(×)。
【0042】
【0043】
表1の実施例および比較例の結果から見られるように、電磁波シールド用炭素材料フィラーである易黒鉛化炭素材料の炭素材料を構成する主要結晶面、すなわちX線回折測定(XRD)で測定した際に検出される「002面」のピーク強度(A)と、「100面」および「004面」から選択されるより高いピーク強度(B)との相対強度比(A/B)値を適切に選定して構造制御することによって、高い電磁波シールド性を有する電磁波シールド用炭素材料フィラーが得られることが確認された。
また、表2の実施例および比較例の結果から見られるように、同じ易黒鉛化炭素材料であっても、粒度が異なると実使用上の使いやすさが異なるために、所定の粒度範囲において、高い電磁波シールド性を有し、成形性にも優れる電磁波シールド用炭素材料フィラーが得られることが確認された。