(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
H05H 1/46 20060101AFI20240926BHJP
【FI】
H05H1/46 B
H05H1/46 R
(21)【出願番号】P 2021143191
(22)【出願日】2021-09-02
【審査請求日】2024-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2020180598
(32)【優先日】2020-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122507
【氏名又は名称】柏岡 潤二
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【氏名又は名称】大森 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】金子 和史
(72)【発明者】
【氏名】石田 洋平
【審査官】坂上 大貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-194943(JP,A)
【文献】特開2019-091526(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0148112(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00-1/54
C23C 16/00-16/56
H01L 21/302
21/3065
21/461
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ本体と、
前記チャンバ本体内に供給されるガスを励起させるための電力供給部と、
を備え、
前記電力供給部は、制御器から指示された設定周波数、設定帯域幅、及び設定キャリアピッチにそれぞれ応じた中央周波数、帯域幅及びキャリアピッチを有する電力であって、制御器から指示された設定パルス周波数、設定デューティ比、Highレベルの設定パワー及びLowレベルの設定パワーにそれぞれ応じたパルス周波数、デューティ比、Highレベル及びLowレベルとなるようにパワーがパルス変調され、かつ、前記設定パルス周波数及び前記設定デューティ比によって定まるパルスON時間が、帯域幅を有する電力が持つパワー変動周期よりも長い、電力を供給する、
プラズマ処理装置。
【請求項2】
前記電力供給部は、
パルス変調されたマイクロ波を前記電力として発生するマイクロ波発生部と、
前記マイクロ波発生部から伝搬されたマイクロ波を出力する出力部と、
前記マイクロ波発生部から前記出力部に伝搬される進行波の一部を出力する第1の方向性結合器と、
前記第1の方向性結合器から出力される前記進行波の前記一部に基づいて前記出力部における前記進行波のパワーのHighレベル及びLowレベルのそれぞれを示す第1のHigh測定値及び第1のLow測定値を決定する測定部と、
を有し、
前記マイクロ波発生部は、
第1のHigh測定値及び第1のLow測定値を所定の移動平均時間及び所定のサンプリング間隔で平均化し、
平均化された前記第1のHigh測定値及び前記Highレベルの設定パワーに基づいて、パルス変調された前記マイクロ波のHighレベルのパワーを制御し、
平均化された前記第1のLow測定値及び前記Lowレベルの設定パワーに基づいて、パルス変調された前記マイクロ波のLowレベルのパワーを制御する、
請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記電力供給部は、前記出力部に戻された反射波の一部を出力する第2の方向性結合器をさらに有し、
前記測定部は、前記第2の方向性結合器から出力される前記反射波の一部に基づいて前記出力部における前記反射波のパワーのHighレベル及びLowレベルのそれぞれを示す第2のHigh測定値及び第2のLow測定値をさらに決定し、
前記マイクロ波発生部は、
前記第2のHigh測定値及び前記第2のLow測定値を所定の移動平均時間及び所定のサンプリング間隔で平均化し、
平均化された前記第1のHigh測定値、平均化された前記第2のHigh測定値及び前記Highレベルの設定パワーに基づいて、パルス変調された前記マイクロ波のHighレベルのパワーを制御し、
平均化された前記第1のLow測定値、平均化された前記第2のLow測定値及び前記Lowレベルの設定パワーに基づいて、パルス変調された前記マイクロ波のLowレベルのパワーを制御する、
請求項2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記設定パルス周波数及び前記設定デューティ比によって定まるパルスLow時間は、帯域幅を有するマイクロ波が持つパワー変動周期よりも長い、請求項2又は3に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記Lowレベルは0である、請求項1~3の何れか一項に記載のプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、マイクロ波を用いたプラズマ処理装置を開示する。このプラズマ処理装置は、帯域幅を有するマイクロ波を出力するマイクロ波出力装置を備える。マイクロ波出力装置は、パルス変調されたマイクロ波のパワーを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の装置にあっては、マルチキャリアによる帯域幅を有するマイクロ波(電力の一例)のパルス変調されたパワーを精度良く制御するために、改善の余地がある。本開示は、マルチキャリアによる帯域幅を有する電力のパルス変調されたパワーを精度良く制御できるプラズマ処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様においてはプラズマ処理装置が提供される。プラズマ処理装置は、チャンバ本体と、チャンバ本体内に供給されるガスを励起させるための電力を出力する電力供給部とを備える。電力供給部は、制御器から指示された設定周波数、設定帯域幅及び設定キャリアピッチにそれぞれ応じた中央周波数及び帯域幅を有するマイクロ波であって、制御器から指示された設定パルス周波数、設定デューティ比、Highレベルの設定パワー及びLowレベルの設定パワーにそれぞれ応じたパルス周波数、デューティ比、Highレベル及びLowレベルとなるようにパワーがパルス変調され、かつ、設定パルス周波数及び設定デューティ比によって定まるパルスON時間が、帯域幅を有する電力が持つパワー変動周期よりも長い、電力を供給する。なお、デューティ比はパルスON時間をパルス周期(パルスON時間+パルスOFF時間)で割った値である。
【発明の効果】
【0006】
本開示の種々の態様及び実施形態によれば、マルチキャリアによる帯域幅を有する電力のパルス変調されたパワーを精度良く制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態に係るプラズマ処理装置の一例を示す図である。
【
図3】波形発生部におけるマイクロ波の生成原理を説明する図である。
【
図4】パワーがパルス変調されたマイクロ波の一例である。
【
図5】異なるキャリアピッチを有するマイクロ波の一例を示す図である。
【
図6】マイクロ波をパルス変調するための同期信号の一例である。
【
図7】マイクロ波のパワーフィードバックに関する構成の一例を示す図である。
【
図8】マイクロ波のパワーフィードバックに関する構成の他の例を示す図である。
【
図9】マイクロ波出力装置のパワーフィードバックに関する詳細構成の第1例を示す図である。
【
図10】マイクロ波出力装置のパワーフィードバックに関する詳細構成の第2例を示す図である。
【
図11】マルチキャリアによる帯域幅を有するマイクロ波(パルス変調なし)の波形の一例である。
【
図12】
図11に示されるマイクロ波をBB周期で平均化して得られた波形の一例である。
【
図13】マルチキャリアによる帯域幅を有するマイクロ波(パルス変調なし)のパワーの移動平均の一例である。
【
図14】マルチキャリアによる帯域幅を有するマイクロ波(キャリアピッチ10kHz、パルス変調あり)の検波出力の一例である。
【
図15】マルチキャリアによる帯域幅を有するマイクロ波(キャリアピッチ10kHz、パルス変調あり)のパワーの測定結果を纏めた表である。
【
図17】キャリアピッチ、BB周期及びパルスON時間の一例を示す表である。
【
図18】マルチキャリアによる帯域幅を有するマイクロ波(キャリアピッチ500.1kHz、パルス変調あり)の検波出力の一例である。
【
図19】マルチキャリアによる帯域幅を有するマイクロ波(キャリアピッチ500.1kHz、パルス変調あり)のパワーの測定結果を纏めた表である。
【
図20】マイクロ波のパワーフィードバックに関する構成の他の例を示す図である。
【
図21】パルスON信号とBB周期とのタイミングを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、種々の例示的実施形態について説明する。
【0009】
一態様においてはプラズマ処理装置が提供される。プラズマ処理装置は、チャンバ本体と、チャンバ本体内に供給されるガスを励起させるためのマイクロ波を出力するマイクロ波出力装置とを備える。マイクロ波出力装置は、マイクロ波発生部、出力部、第1の方向性結合器及び測定部を備える。マイクロ波発生部は、制御器から指示された設定周波数、設定帯域幅及び設定キャリアピッチにそれぞれ応じた中央周波数及び帯域幅を有するマイクロ波であって、制御器から指示された設定パルス周波数、設定デューティ比、Highレベルの設定パワー及びLowレベルの設定パワーにそれぞれ応じたパルス周波数、デューティ比、Highレベル及びLowレベルとなるようにパワーがパルス変調された該マイクロ波を発生する。なお、デューティ比はパルスON時間をパルス周期(パルスON時間+パルスOFF時間)で割った値である。出力部は、マイクロ波発生部から伝搬されたマイクロ波を出力する。第1の方向性結合器は、マイクロ波発生部から出力部に伝搬される進行波の一部を出力する。測定部は、第1の方向性結合器から出力される進行波の一部に基づいて出力部における進行波のパワーのHighレベル及びLowレベルのそれぞれを示す第1のHigh測定値及び第1のLow測定値を決定する。設定パルス周波数及び設定デューティ比によって定まるパルスON時間は、帯域幅を有するマイクロ波が持つパワー変動周期よりも長い。マイクロ波発生部は、第1のHigh測定値及び第1のLow測定値を所定の移動平均時間及び所定のサンプリング間隔で平均化する。マイクロ波発生部は、平均化された第1のHigh測定値及びHighレベルの設定パワーに基づいて、パルス変調されたマイクロ波のHighレベルのパワーを制御し、平均化された第1のLow測定値及びLowレベルの設定パワーに基づいて、パルス変調されたマイクロ波のLowレベルのパワーを制御する。
【0010】
このプラズマ処理装置では、マルチキャリアによる帯域幅を有するマイクロ波のパワーがパルス変調される。そして、平均化された第1のHigh測定値及びHighレベルの設定パワーに基づいて、パルス変調されたマイクロ波のHighレベルのパワーが制御される。さらに、平均化された第1のLow測定値及びLowレベルの設定パワーに基づいて、パルス変調されたマイクロ波のLowレベルのパワーが制御される。このように、マイクロ波のパワーがパルス変調され、かつ、Highレベル及びLowレベルのパワーが設定パワーに基づいて制御されることにより、マルチキャリアによる帯域幅を有するマイクロ波のパルス変調されたパワーを制御できる。そして、設定パルス周波数及び設定デューティ比によって定まるパルスON時間は、帯域幅を有するマイクロ波が持つパワー変動周期よりも長いという条件を満たすことにより、Highレベルのパワーの波形を切り出して適切に平均化することができる。このため、結果としてパワーの揺らぎ(設定パワーとの差異)が抑えられる。よって、この装置は、帯域幅を有し、パルス変調されたマイクロ波のパワーを精度良く制御できる。
【0011】
一実施形態においては、マイクロ波出力装置は、出力部に戻された反射波の一部を出力する第2の方向性結合器をさらに備えてもよい。測定部は、第2の方向性結合器から出力される反射波の一部に基づいて出力部における反射波のパワーのHighレベル及びLowレベルのそれぞれを示す第2のHigh測定値及び第2のLow測定値をさらに決定する。マイクロ波発生部は、第2のHigh測定値及び第2のLow測定値を所定の移動平均時間及び所定のサンプリング間隔で平均化し、平均化された第1のHigh測定値、平均化された第2のHigh測定値及びHighレベルの設定パワーに基づいて、パルス変調されたマイクロ波のHighレベルのパワーを制御し、平均化された第1のLow測定値、平均化された第2のLow測定値及びLowレベルの設定パワーに基づいて、パルス変調されたマイクロ波のLowレベルのパワーを制御する。
【0012】
このように構成することで、プラズマ処理装置は、反射波のパワーに基づいたパワー制御を行える。さらに、プラズマ処理装置は、反射波のパワーであっても、Highレベルのパワーの波形を切り出して適切に平均化することができる。
【0013】
一実施形態においては、設定パルス周波数及び設定デューティ比によって定まるパルスLow時間は、帯域幅を有するマイクロ波が持つパワー変動周期よりも長くてもよい。
【0014】
一実施形態においては、Lowレベルは0であってもよい。この場合、プラズマ処理装置は、ON/OFF制御されたパワーの波形を切り出して適切に平均化することができる。
【0015】
以下、図面を参照して種々の実施形態について詳細に説明する。各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附す。
【0016】
[プラズマ処理装置]
図1は、一実施形態に係るプラズマ処理装置を示す図である。
図1に示されるように、プラズマ処理装置1は、チャンバ本体12、及び、マイクロ波出力装置16を備える。プラズマ処理装置1は、ステージ14、アンテナ18、及び、誘電体窓20を更に備え得る。
【0017】
チャンバ本体12は、その内部に処理空間Sを提供する。チャンバ本体12は、側壁12a及び底部12bを有する。側壁12aは、略筒形状に形成される。この側壁12aの中心軸線は、鉛直方向に延びる軸線Zに略一致する。底部12bは、側壁12aの下端側に設けられる。底部12bには、排気用の排気孔12hが設けられる。また、側壁12aの上端部は開口である。
【0018】
側壁12aの上端部の上には誘電体窓20が設けられる。この誘電体窓20は、処理空間Sに対向する下面20aを有する。誘電体窓20は、側壁12aの上端部の開口を閉じている。この誘電体窓20と側壁12aの上端部との間にはOリング19が介在する。このOリング19により、チャンバ本体12がより確実に密閉される。
【0019】
ステージ14は、処理空間S内に収容される。ステージ14は、鉛直方向において誘電体窓20と対面するように設けられる。また、ステージ14は、誘電体窓20と当該ステージ14との間に処理空間Sを挟むように設けられる。このステージ14は、その上に載置される被加工物WP(例えば、ウエハ)を支持するように構成される。
【0020】
一実施形態において、ステージ14は、基台14a及び静電チャック14cを含む。基台14aは、略円盤形状を有しており、アルミニウムといった導電性の材料から形成されている。基台14aの中心軸線は、軸線Zに略一致する。この基台14aは、筒状支持部48によって支持される。筒状支持部48は、絶縁性の材料から形成されており、底部12bから垂直上方に延びる。筒状支持部48の外周には、導電性の筒状支持部50が設けられる。筒状支持部50は、筒状支持部48の外周に沿ってチャンバ本体12の底部12bから垂直上方に延びる。この筒状支持部50と側壁12aとの間には、環状の排気路51が形成される。
【0021】
排気路51の上部には、バッフル板52が設けられる。バッフル板52は、環形状を有する。バッフル板52には、当該バッフル板52を板厚方向に貫通する複数の貫通孔が形成される。このバッフル板52の下方には上述した排気孔12hが設けられる。排気孔12hには、排気管54を介して排気装置56が接続される。排気装置56は、自動圧力制御弁(APC:Automatic Pressure Control valve)と、ターボ分子ポンプといった真空ポンプとを有する。この排気装置56により、処理空間Sを所望の真空度まで減圧することができる。
【0022】
基台14aは、高周波電極を兼ねる。基台14aには、給電棒62及びマッチングユニット60を介して、高周波バイアス用の高周波電源58が電気的に接続される。高周波電源58は、被加工物WPに引き込むイオンのエネルギーを制御するのに適した一定の周波数、例えば、13.56MHzの高周波を、設定されたパワーで出力する。
【0023】
さらに、高周波電源58は、パルス生成器を有し、高周波パワー(RFパワー)をパルス変調して基台14aに印加してもよい。この場合、高周波電源58は、HighレベルのパワーとLowレベルのパワーとが周期的に繰り返される高周波パワーとなるようにパルス変調する。高周波電源58は、パルス生成器により生成された同期信号PSS-Rに基づいてパルス調整する。同期信号PSS-Rは、高周波パワーの周期及びデューティ比を決定する信号である。パルス変調時の設定の一例として、パルス周波数は10Hz~250kHzであり、パルスのデューティ比(パルス周期に対するHighレベルパワー時間の比)は10%~90%である。
【0024】
マッチングユニット60は、高周波電源58側のインピーダンスと、主に電極、プラズマ、チャンバ本体12といった負荷側のインピーダンスとの間で整合をとるための整合器を収容する。この整合器の中には自己バイアス生成用のブロッキングコンデンサが含まれる。マッチングユニット60は、高周波パワーがパルス変調される場合、同期信号PSS-Rに基づいて整合をとるように動作する。
【0025】
基台14aの上面には、静電チャック14cが設けられる。静電チャック14cは、被加工物WPを静電吸着力で保持する。静電チャック14cは、電極14d、絶縁膜14e、及び、絶縁膜14fを含んでおり、概ね円盤形状である。静電チャック14cの中心軸線は軸線Zに略一致する。この静電チャック14cの電極14dは、導電膜によって構成されており、絶縁膜14eと絶縁膜14fとの間に設けられる。電極14dには、直流電源64がスイッチ66及び被覆線68を介して電気的に接続される。静電チャック14cは、直流電源64より印加される直流電圧により発生するクーロン力によって、被加工物WPを吸着保持することができる。また、基台14a上には、フォーカスリング14bが設けられる。フォーカスリング14bは、被加工物WP及び静電チャック14cを囲むように配置される。
【0026】
基台14aの内部には、冷媒室14gが設けられる。冷媒室14gは、例えば、軸線Zを中心に延在するように形成される。この冷媒室14gには、チラーユニットからの冷媒が配管70を介して供給される。冷媒室14gに供給された冷媒は、配管72を介してチラーユニットに戻される。この冷媒の温度がチラーユニットによって制御されることにより、静電チャック14cの温度、ひいては被加工物WPの温度が制御される。
【0027】
また、ステージ14には、ガス供給ライン74が形成される。このガス供給ライン74は、伝熱ガス、例えば、Heガスを、静電チャック14cの上面と被加工物WPの裏面との間に供給するために設けられる。
【0028】
マイクロ波出力装置16は、チャンバ本体12内に供給される処理ガスを励起させるためのマイクロ波を出力する。マイクロ波出力装置16は、マイクロ波の周波数、パワー、及び、帯域幅を可変に調整するよう構成される。マイクロ波出力装置16は、例えば、マイクロ波の帯域幅を略0に設定することによって、単一周波数のマイクロ波を発生することができる。また、マイクロ波出力装置16は、その中に複数の周波数成分を有する帯域幅を有したマイクロ波を発生することができる。これら複数の周波数成分のパワーは同一のパワーであってもよく、帯域内の中央周波数成分のみが他の周波数成分のパワーよりも大きいパワーを有していてもよい。一例において、マイクロ波出力装置16は、マイクロ波のパワーを0W~5000Wの範囲内で調整することができる。マイクロ波出力装置16は、マイクロ波の周波数又は中央周波数を2400MHz~2500MHzの範囲内で調整することができる。マイクロ波出力装置16は、マイクロ波の帯域幅を0MHz~100MHzの範囲で調整することができる。また、マイクロ波出力装置16は、帯域内におけるマイクロ波の複数の周波数成分の周波数のピッチ(キャリアピッチ)を0~1MHzの範囲内で調整することができる。
【0029】
マイクロ波出力装置16は、パルス生成器を有し、マイクロ波のパワーをパルス変調して出力してもよい。この場合、マイクロ波出力装置16は、HighレベルのパワーとLowレベルのパワーとが周期的に繰り返されるパワーとなるようにマイクロ波をパルス変調する。マイクロ波出力装置16は、パルス生成器により生成された同期信号PSS-Mに基づいてパルス調整する。同期信号PSS-Mは、マイクロ波パワーの周期及びデューティ比を決定する信号である。パルス変調時の設定の一例として、パルス周波数は1Hz~20kHzであり、パルスのデューティ比(パルス周期に対するHighレベルパワー時間の比)は10%~90%である。マイクロ波出力装置16は、高周波電源58により出力される、パルス変調させた高周波パワーと同期させるように、マイクロ波パワーをパルス変調してもよい。
【0030】
プラズマ処理装置1は、導波管21、チューナ26、モード変換器27、及び、同軸導波管28を更に備える。マイクロ波出力装置16の出力部は、導波管21の一端に接続される。導波管21の他端は、モード変換器27に接続される。導波管21は、例えば、矩形導波管である。導波管21には、チューナ26が設けられる。チューナ26は、スタブ26a,26b,26cを有する。スタブ26a,26b,26cの各々は、導波管21の内部空間に対するその突出量を調整可能なように構成される。チューナ26は、基準位置に対するスタブ26a,26b,26cの各々の突出位置を調整することにより、マイクロ波出力装置16のインピーダンスと負荷、例えば、チャンバ本体12のインピーダンスとを整合させる。
【0031】
モード変換器27は、導波管21からのマイクロ波のモードを変換して、モード変換後のマイクロ波を同軸導波管28に供給する。同軸導波管28は、外側導体28a及び内側導体28bを含む。外側導体28aは、略円筒形状を有しており、その中心軸線は軸線Zに略一致する。内側導体28bは、略円筒形状を有しており、外側導体28aの内側で延在する。内側導体28bの中心軸線は、軸線Zに略一致する。この同軸導波管28は、モード変換器27からのマイクロ波をアンテナ18に伝送する。
【0032】
アンテナ18は、誘電体窓20の下面20aの反対側の面20b上に設けられる。アンテナ18は、スロット板30、誘電体板32、及び、冷却ジャケット34を含む。
【0033】
スロット板30は、誘電体窓20の面20b上に設けられる。このスロット板30は、導電性を有する金属から形成されており、略円盤形状を有する。スロット板30の中心軸線は軸線Zに略一致する。スロット板30には、複数のスロット孔30aが形成される。複数のスロット孔30aは、一例においては、複数のスロット対を構成する。複数のスロット対の各々は、互いに交差する方向に延びる略長孔形状の二つのスロット孔30aを含む。複数のスロット対は、軸線Z周りの一以上の同心円に沿って配列される。また、スロット板30の中央部には、後述する導管36が通過可能な貫通孔30dが形成される。
【0034】
誘電体板32は、スロット板30上に設けられる。誘電体板32は、石英といった誘電体材料から形成されており、略円盤形状である。この誘電体板32の中心軸線は軸線Zに略一致する。冷却ジャケット34は、誘電体板32上に設けられる。誘電体板32は、冷却ジャケット34とスロット板30との間に設けられる。
【0035】
冷却ジャケット34の表面は、導電性を有する。冷却ジャケット34の内部には、流路34aが形成される。この流路34aには、冷媒が供給されるように構成される。冷却ジャケット34の上部表面には、外側導体28aの下端が電気的に接続される。また、内側導体28bの下端は、冷却ジャケット34及び誘電体板32の中央部分に形成された孔を通って、スロット板30に電気的に接続される。
【0036】
同軸導波管28からのマイクロ波は、誘電体板32内を伝搬して、スロット板30の複数のスロット孔30aから誘電体窓20に供給される。誘電体窓20に供給されたマイクロ波は、処理空間Sに導入される。
【0037】
同軸導波管28の内側導体28bの内孔には、導管36が通っている。また、上述したように、スロット板30の中央部には、導管36が通過可能な貫通孔30dが形成される。導管36は、内側導体28bの内孔を通って延在しており、ガス供給系38に接続される。
【0038】
ガス供給系38は、被加工物WPを処理するための処理ガスを導管36に供給する。ガス供給系38は、ガス源38a、弁38b、及び、流量制御器38cを含み得る。ガス源38aは、処理ガスのガス源である。弁38bは、ガス源38aからの処理ガスの供給及び供給停止を切り替える。流量制御器38cは、例えば、マスフローコントローラであり、ガス源38aからの処理ガスの流量を調整する。
【0039】
プラズマ処理装置1は、インジェクタ41を更に備え得る。インジェクタ41は、導管36からのガスを誘電体窓20に形成された貫通孔20hに供給する。誘電体窓20の貫通孔20hに供給されたガスは、処理空間Sに供給される。そして、誘電体窓20から処理空間Sに導入されるマイクロ波によって、当該処理ガスが励起される。これにより、処理空間S内でプラズマが生成され、当該プラズマからのイオン及び/又はラジカルといった活性種により、被加工物WPが処理される。
【0040】
プラズマ処理装置1は、制御器100を更に備える。制御器100は、プラズマ処理装置1の各部を統括制御する。制御器100は、CPUといったプロセッサ、ユーザインタフェース、及び、記憶部を備え得る。
【0041】
プロセッサは、記憶部に記憶されたプログラム及びプロセスレシピを実行することにより、マイクロ波出力装置16、ステージ14、ガス供給系38、排気装置56等の各部を統括制御する。
【0042】
ユーザインタフェースは、工程管理者がプラズマ処理装置1を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボード又はタッチパネル、プラズマ処理装置1の稼働状況等を可視化して表示するディスプレイ等を含んでいる。
【0043】
記憶部には、プラズマ処理装置1で実行される各種処理をプロセッサの制御によって実現するための制御プログラム(ソフトウエア)、及び、処理条件データ等を含むプロセスレシピ等が保存される。プロセッサは、ユーザインタフェースからの指示等、必要に応じて、各種の制御プログラムを記憶部から呼び出して実行する。このようなプロセッサの制御下で、プラズマ処理装置1において所望の処理が実行される。
【0044】
[マイクロ波出力装置16の構成例]
図2は、マイクロ波出力装置の一例を示す図である。
図2に示されるように、マイクロ波出力装置16は、制御器100及び波形発生器161を有する演算装置100aに接続されている。
【0045】
波形発生器161は、マイクロ波の波形を発生する。波形発生器161は、制御器100により指定された設定周波数及び設定帯域幅にそれぞれ応じた中央周波数及び帯域幅を有するマイクロ波の波形を発生する。波形発生器161は、マイクロ波の波形をマイクロ波出力装置16へ出力する。
【0046】
マイクロ波出力装置16は、波形発生器161により発生されたマイクロ波の波形を、制御器100の設定に応じてパルス変調し、マイクロ波として出力する。マイクロ波出力装置16は、マイクロ波発生部16a、導波管16b、サーキュレータ16c、導波管16d、導波管16e、第1の方向性結合器16f、第2の方向性結合器16h、測定部16k(測定部の一例)、及び、ダミーロード16jを有する。
【0047】
マイクロ波発生部16aは、制御器100から指示された設定値に応じたパルス周波数、デューティ比、Highレベル及びLowレベルとなるようにパワーがパルス変調されたマイクロ波を発生する。設定値は、パルス周波数、設定デューティ比、Highレベルの設定パワー及びLowレベルの設定パワーを含む。
【0048】
マイクロ波発生部16aは、パワー制御部162、減衰器163、増幅器164、増幅器165、及び、モード変換器166を有する。
【0049】
波形発生器161は、減衰器163に接続される。減衰器163は、一例として、印加電圧値によって減衰量(減衰率)を変更可能な機器である。減衰器163には、パワー制御部162が接続される。パワー制御部162は、印加電圧値を用いて減衰器163におけるマイクロ波の減衰率(減衰量)を制御する。パワー制御部162は、波形発生器161により出力されたマイクロ波が、設定値に応じたパワーのマイクロ波となるように、減衰器163におけるマイクロ波の減衰率(減衰量)を制御する。設定値は、制御器100により指示されたパルス周波数、設定デューティ比、Highレベルの設定パワー及びLowレベルの設定パワーを含む。
【0050】
パワー制御部162は、一例として、制御部162a及びパルス生成器162bを有する。制御部162aは、プロセッサであり得る。制御部162aは、制御器100から設定プロファイルを取得する。制御部162aは、設定プロファイルの中からパルス変調のために必要な情報(パルス周波数及びデューティ比)をパルス生成器162bへ出力する。パルス生成器162bは、取得した情報に基づいて同期信号PSS-Mを生成する。制御部162aは、同期信号PSS-M、及び、制御器100によって設定された設定プロファイルに基づいてマイクロ波の減衰率(減衰量)を決定する。
【0051】
制御部162aは、高周波電源58のパルス生成器58aから生成された同期信号PSS-Rを取得してもよい。パルス生成器162bは、同期信号PSS-Rと同期した同期信号PSS-Mを生成してもよい。この場合、マイクロ波パワーのパルス変調と高周波パワーのパルス変調とを同期させることができる。
【0052】
減衰器163の出力は、増幅器164及び増幅器165を介してモード変換器166に接続される。増幅器164及び増幅器165は、マイクロ波をそれぞれに所定の増幅率で増幅する。モード変換器166は、増幅器165から出力されるマイクロ波の伝搬モードをTEMからTE01に変換する。このモード変換器166におけるモード変換によって生成されたマイクロ波は、マイクロ波発生部16aの出力マイクロ波として出力される。
【0053】
マイクロ波発生部16aの出力は導波管16bの一端に接続される。導波管16bの他端は、サーキュレータ16cの第1ポート261に接続される。サーキュレータ16cは、第1ポート261、第2ポート262A、及び、第3ポート263Aを有する。サーキュレータ16cは、第1ポート261に入力されたマイクロ波を第2ポート262Aから出力し、第2ポート262Aに入力したマイクロ波を第3ポート263Aから出力するように構成される。サーキュレータ16cの第2ポート262Aには導波管16dの一端が接続される。導波管16dの他端は、マイクロ波出力装置16の出力部16tである。
【0054】
サーキュレータ16cの第3ポート263Aには、導波管16eの一端が接続される。導波管16eの他端はダミーロード16jに接続される。ダミーロード16jは、導波管16eを伝搬するマイクロ波を受けて、当該マイクロ波を吸収する。ダミーロード16jは、例えば、マイクロ波を熱に変換する。
【0055】
第1の方向性結合器16fは、導波管16bの一端と他端との間に設けられる。第1の方向性結合器16fは、マイクロ波発生部16aから出力されて、出力部16tに伝搬するマイクロ波(即ち、進行波)の一部を分岐させて、当該進行波の一部を出力するように構成される。
【0056】
第2の方向性結合器16hは、導波管16eの一端と他端との間に設けられる。第2の方向性結合器16hは、出力部16tに戻されたマイクロ波(即ち、反射波)について、サーキュレータ16cの第3ポート263Aに伝送された反射波の一部を分岐させて、当該反射波の一部を出力するように構成される。
【0057】
測定部16kは、第1の方向性結合器16fから出力された進行波の一部に基づき、出力部16tにおける進行波のパワーのHighレベル及びLowレベルのそれぞれを示す第1のHigh測定値pf(H)及び第1のLow測定値pf(L)を決定する。また、測定部16kは、第2の方向性結合器16hから出力された反射波の一部に基づき、出力部16tにおける反射波のパワーのHighレベル及びLowレベルのそれぞれを示す第2のHigh測定値pr(H)及び第2のLow測定値pr(L)を決定する。
【0058】
測定部16kは、パワー制御部162に接続される。測定部16kは、測定値をパワー制御部162に出力する。パワー制御部162は、進行波と反射波との測定値の差、即ちロードパワー(実効パワー)が、制御器100によって指定される設定パワーに一致するように、減衰器163を制御する(パワーフィードバック制御)。
【0059】
チューナ26は、チューナ制御部260を有する。チューナ制御部260は、制御器100の信号に基づいて、マイクロ波出力装置16側のインピーダンスとアンテナ18側のインピーダンスとを整合するようにスタブ26a、26b,26cの突出位置を調整する。チューナ制御部260は、図示しないドライバ回路及びアクチュエータにより、スタブ26a、26b,26cを動作させる。
【0060】
チューナ制御部260は、パルス生成器162bにより生成されたマイクロ波パワー用の同期信号PSS-M、及び、高周波電源58のパルス生成器58aにより生成された高周波パワー用の同期信号PSS-Rの少なくとも一方を取得してもよい。例えば、チューナ制御部260は、同期信号PSS-Mを制御部162aから取得する。チューナ制御部260は、同期信号PSS-Rを制御部162aから取得してもよいし、高周波電源58のパルス生成器58aから直接取得してもよい。チューナ制御部260は、同期信号を考慮して、スタブ26a、26b,26cを動作させてもよい。
【0061】
[波形発生部の詳細]
図3は、波形発生部におけるマイクロ波の生成原理を説明する図である。
図3に示されるように、波形発生器161は、例えば、基準周波数と位相を同期させたマイクロ波を発振することが可能なPLL(Phase Locked Loop)発振器と、PLL発振器に接続されたIQデジタル変調器とを有する。波形発生器161は、PLL発振器において発振されるマイクロ波の周波数を制御器100により指定された設定周波数に設定する。そして、波形発生器161は、PLL発振器からのマイクロ波と、当該PLL発振器からのマイクロ波とは90°の位相差を有するマイクロ波とを、IQデジタル変調器を用いて変調する。これにより、波形発生器161は、帯域内において複数の周波数成分を有するマイクロ波、又は、単一周波数のマイクロ波を生成する。
【0062】
波形発生器161は、例えば、N個の複素データシンボルに対する逆離散フーリエ変換を行って連続信号を生成することにより、複数の周波数成分を有するマイクロ波を生成することが可能である。この信号の生成方法は、ディジタルテレビ放送等で用いられるOFDMA(Orthogonal Frequency-Division Multiple Access)変調方式と同様の方法であり得る(例えば特許5320260号参照)。
【0063】
一例では、波形発生器161は、予めデジタル化された符号の列で表された波形データを有する。波形発生器161は、波形データを量子化し、量子化したデータに対して逆フーリエ変換を適用することにより、IデータとQデータとを生成する。そして、波形発生器161は、Iデータ及びQデータの各々に、D/A(Digital/Analog)変換を適用して、二つのアナログ信号を得る。波形発生器161は、これらアナログ信号を、低周波成分のみを通過させるLPF(ローパスフィルタ)へ入力する。波形発生器161は、LPFから出力された二つのアナログ信号を、PLL発振器からのマイクロ波、PLL発振器からのマイクロ波とは90°の位相差を有するマイクロ波とそれぞれミキシングする。そして、波形発生器161は、ミキシングによって生成されたマイクロ波を合成する。これにより、波形発生器161は、一又は複数の周波数成分を有するマイクロ波を生成する。
【0064】
[マイクロ波の一例]
マイクロ波発生部16aから出力されるマイクロ波パワーは、HighレベルのパワーとLowレベルのパワーとを繰り返すようにパルス状に変調された波形となる。
図4は、パワーがパルス変調されたマイクロ波の一例である。
図4に示されるように、マイクロ波は、制御器100から指示された設定周波数、設定帯域幅、及び設定キャリアピッチにそれぞれ応じた中央周波数、帯域幅、及びキャリアピッチを有する。マイクロ波は、制御器100から指示された設定値に応じたパルス周波数、デューティ比、Highレベルのパワー及びLowレベルのパワーを有する。設定値は、パルス周波数、設定デューティ比、Highレベルの設定パワー及びLowレベルの設定パワーを含む。Lowレベルのパワーは、Highレベルのパワーよりも低いパワーである。Lowレベルのパワーは、プラズマ生成状態を維持するのに必要な最も低いレベルより高いパワーとしてもよいし、0としてもよい。マイクロ波の1つの波形をキャリアという。キャリアピッチは、キャリアの間隔であり、キャリアピッチの逆数が、帯域幅を有するマイクロ波が持つパワー変動周期のうち最も長い周期になる。
【0065】
図5の(A)及び(B)は、異なるキャリアピッチを有するマイクロ波の一例である。
図5の(A)は、設定周波数が2460MHz、設定帯域幅が10MHz、設定キャリアピッチが10kHzのマイクロ波である。設定帯域幅を設定キャリアピッチで除算して1を加算することでキャリア数を得ることができる。ここではキャリア数は1001である。
図5の(B)は、設定周波数が2460MHz、設定帯域幅が10.1MHz、キャリアピッチが10.1kHzのマイクロ波である。キャリア数は1001である。
図5の(A)及び(B)に示されるように、いずれのマイクロ波もパワーは1500Wである。つまり、パワーが同一であってもキャリアピッチ及び設定帯域幅は異なるように設定することができる。
【0066】
[マイクロ波の同期信号の一例]
図6は、マイクロ波をパルス変調するための同期信号の一例である。
図6に示されるように、同期信号PSS-Mは、ON状態(High状態)とOFF状態(Low状態)とが交互に出現するパルス信号である。同期信号PSS-Mのパルス周期PT1は、Highレベルとなるタイミングの間隔で定義する。HighレベルとLowレベルとの差分をΔとすると、High時間HTは、パルスの立ち上がり期間PUにおいて0.5Δとなるタイミングからパルスの立ち下がり期間PDにおいて0.5Δとなるタイミングまでの期間として定義する。パルス周期PT1に対するHigh時間HTの比がデューティ比である。パルス生成器162bは、制御器100により指定されたパルス周波数(1/PT1)及びデューティ比(HT/PT1×100[%])に基づいて、
図6に示されるような同期信号を生成する。
【0067】
[パワーフィードバックの一例]
図7は、マイクロ波のパワーフィードバックに関する構成の一例を示す図である。
図7に示されるように、パワーフィードバックは、測定部16k、制御部162a及び減衰器163によって実現する。
【0068】
図7に示されるように、波形発生器161は、マルチキャリアによる帯域幅を有するマイクロ波を出力する。制御部162a及び減衰器163は、帯域幅を有するマイクロ波をパルス変調する。マイクロ波発生部16aは、パルス変調されたマイクロ波を出力する。測定部16kは、マイクロ波の進行波及び反射波のパワーを計測し、制御部162aへ出力する。制御部162aは、進行波のパワー検出値と反射波のパワー検出値との差分が設定値となるようにパワーフィードバックを行う。このようなフィードバックループによって、制御器100によって指定された設定値を実現する。
【0069】
ここで、マイクロ波のパワーがパルス変調されている場合においては、Lowレベルのパワーを0とした場合を除き、Highレベルのパワー及びLowレベルのパワーを、それぞれ個別にフィードバック制御する必要がある。つまり、測定部16kは、第1のHigh測定値pf(H)、第1のLow測定値pf(L)、第2のHigh測定値pr(H)及び第2のLow測定値pr(L)を計測し、計測結果を制御部162aへ出力する。制御部162aは、同期信号PSS-Mに基づいて、HighレベルのパワーのフィードバックとLowレベルのパワーのフィードバックとを切り替える。
【0070】
制御部162aは、Highレベルのパワーのフィードバック時には、第1のHigh測定値pf(H)、第2のHigh測定値pr(H)及びHighレベルの設定パワーに基づいて、パルス変調されたマイクロ波のHighレベルのパワーを制御する。制御部162aは、Lowレベルのパワーのフィードバック時には、第1のLow測定値pf(L)、第2のLow測定値pr(L)及びLowレベルの設定パワーに基づいて、パルス変調されたマイクロ波のLowレベルのパワーを制御する。
【0071】
より具体的には、制御部162aは、Highレベルのパワーのフィードバック時には、第1のHigh測定値pf(H)と第2のHigh測定値pr(H)との差分を制御する。制御部162aは、差分が制御器100によって指定された設定Highパワーに近づくように、マイクロ波出力装置16から出力されるマイクロ波のHighレベルのパワーを制御する。また、制御部162aは、Lowレベルのパワーのフィードバック時には、第1のLow測定値pf(L)と第2のLow測定値pr(L)との差分を制御する。制御部162aは、差分が制御器100によって指定された設定Lowパワーに近づくように、マイクロ波出力装置16から出力されるマイクロ波のLowレベルのパワーを制御する。これにより、出力部16tに結合される負荷に供給されるマイクロ波のロードパワーが、設定パワーに近づけられる。なお、Lowレベルのパワーを0とした場合には、Highレベルのパワーフィードバックのみを行えばよい。
【0072】
[フィードバックの制御モードの切り替え]
制御部162aは、制御モードに応じてフィードバックの演算を変更してもよい。制御モードは、制御器100によって指定され得る。例えば、制御器100から指示された制御モードがPLモードである場合には、制御部162aは、上述したとおり、進行波と反射波とのパワー差分を用いてマイクロ波のパワーを制御する。制御器100から指示された制御モードがPfモードである場合には、制御部162aは、進行波のパワーのみを用いてマイクロ波のパワーを制御する。より具体的な一例として、制御部162aは、制御器100から指示された制御モードがPfモードである場合には、以下のように動作する。制御部162aは、第1のHigh測定値pf(H)がHighレベルの設定パワーに近づくように、パルス変調されたマイクロ波のHighレベルのパワーを制御する。さらに、制御部162aは、第1のLow測定値pf(L)がLowレベルの設定パワーに近づくように、パルス変調されたマイクロ波のLowレベルのパワーを制御する。
【0073】
[マイクロ波パワーと高周波パワーとの同期信号の関係]
マイクロ波パワー及び高周波パワーは共にパルス制御されている。
図7に示される構成では、高周波パワーの同期信号PSS-Rは、制御部162aに入力されていない。また、マイクロ波の同期信号PSS-Mは高周波電源58に入力されていない。このため、マイクロ波パワー及び高周波パワーは非同期となる。
【0074】
一実施形態においては、マイクロ波パワー及び高周波パワーを同期させてもよい。この場合、高周波パワーのパルス変調がマイクロ波の反射波に与える影響を小さくすることができる。
図8は、マイクロ波のパワーフィードバックに関する構成の他の例を示す図である。
図7に示された非同期のパワーフィードバックの構成と比較すると、他の例においては、マイクロ波出力装置が、高周波パワーと同期するようにパワーがパルス変調されたマイクロ波を発生する点が相違し、その他は同一である。高周波電源58のパルス生成器58aは、高周波パワーの同期信号PSS-Rを制御部162aへ出力する。制御部162aは、パルス生成器162bに対して同期信号PSS-Rと同期するための同期トリガを出力する。パルス生成器162bは、同期トリガに基づいて同期信号PSS-Rと同期するマイクロ波パワーの同期信号PSS-Mを生成する。制御部162aは、同期信号PSS-Mを用いて減衰器163を制御する。これにより、高周波パワーと同期するようにパワーがパルス変調されたマイクロ波が出力される。
【0075】
[パワーフィードバックに関する詳細構成]
[詳細構成の第1例]
図9は、マイクロ波出力装置のパワーフィードバックに関する詳細構成の第1例を示す図である。
図9に示されるように、マイクロ波発生部16aの制御部162aは、制御器100から設定プロファイルを取得する。設定プロファイルは、Highレベルの設定パワーPfH、Lowレベルの設定パワーPfL、設定パルス周波数、デューティ比、及び、同期番号を少なくとも含む。同期番号は、同期の種別を選択する識別子である。例えば、識別子「1」では、マイクロ波のパワーがHighレベルとなるタイミングを、高周波パワーがHighレベルとなるタイミングに同期させる。識別子「2」では、マイクロ波のパワーがLowレベルとなるタイミングを、高周波パワーがLowレベルとなるタイミングに同期させる。同期番号が指定されない場合には、マイクロ波の同期信号と高周波の同期信号とは非同期となる。あるいは、同期番号の1つを非同期に割り当ててもよい。設定プロファイルは、センター周波数、変調波形、設定キャリアピッチ、及び、PL/Pfモードの設定を含んでもよい。変調波形は、設定帯域幅である。制御部162aは、制御器100から取得されたパルス周波数及びデューティ比を、パルス生成器162bへ出力する。
【0076】
制御部162aは、パルス入力器167aを備えている。制御部162aは、パルス入力器167aを介して、高周波パワーの同期信号PSS-Rを取得する。制御部162aは、同期信号PSS-R及び同期番号に基づいて、同期トリガを生成する。なお、制御部162aは、同期番号が指定されない場合には、同期トリガは生成しなくてもよい。制御部162aは、パルス出力器167dを備えている。制御部162aは、パルス出力器167dを介して、同期トリガをパルス生成器162bへ出力する。
【0077】
パルス生成器162bは、パルス周波数及びデューティ比と、同期トリガとに基づいて、マイクロ波の同期信号PSS-Mを生成する。パルス生成器162bは、マイクロ波の同期信号と高周波の同期信号とが非同期の場合には、パルス周波数及びデューティ比に基づいて、マイクロ波の同期信号PSS-Mを生成する。
【0078】
制御部162aは、同期信号PSS-Mに基づいて、減衰器163への印加電圧値を決定する。制御部162aは、印加電圧値をD/A変換器167fへ出力する。D/A変換器167fは、出力(設定)された電圧値のデジタル信号をアナログ信号へ変換する。制御部162aは、D/A変換器167fを介して、減衰器163へ電圧を印加する。これにより、パルス変調されたマイクロ波がマイクロ波発生部16aから出力される。
【0079】
測定部16kは、第1の方向性結合器16f及び第2の方向性結合器16hから出力されたマイクロ波に係る進行波パワー及び反射波パワーを、進行波パワーの測定値pf、反射波パワーの測定値prとして出力する。
【0080】
制御部162aは、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器167b,167cを備えている。制御部162aは、A/D変換器167b,167cを介して、進行波のパワーの測定値pf及び反射波のパワーの測定値prを測定部16kから取得する。
【0081】
制御部162aは、記憶部162cを参照可能に構成されている。制御部162aは、記憶部162cに格納された定義データDA1を参照して、測定値(pf,pr)から取得すべきデータを特定することができる。定義データDA1は、例えばデータ点をサンプリングする期間を限定するマスク(フィルタ)を含む。定義データDA1は、例えば、制御部162aが内部設定を入力して記憶部162cに予め格納される。
【0082】
制御部162aは、定義データDA1を参照する。制御部162aは、進行波のパワーの測定値pfに含まれるHighレベルの測定値pfH及びLowレベルの測定値pfLを検出する。さらに、制御部162aは、反射波のパワーの測定値prに含まれるHighレベルの測定値prH及びLowレベルの測定値prLを検出する。定義データDA1は、一例として、Highレベルとなるタイミングから所定時間経過するまでのH検出マスク時間(第1マスク期間)はHighレベルの測定値(pfH,prH)をサンプリングできないとする定義を含む。定義データDA1は、一例として、Lowレベルとなるタイミングから所定時間経過するまでのL検出マスク時間(第2マスク期間)はLowレベルの測定値(pfL,prL)をサンプリングできないとする定義を含む。定義データDA1は、一例として、H検出マスク時間の終了からLowレベルとなるタイミングまでのH検出区間(第1サンプル期間)においてHighレベルのパワーを測定するという定義を含む。さらに、定義データDA1は、L検出マスク時間の終了からHighレベルとなるタイミングまでのL検出区間(第2サンプル期間)においてLowレベルのパワーを測定するという定義を含む。
【0083】
制御部162aは、検出された測定値(pfH,pfL,prH,prL)を、記憶部162cに時系列で記憶する。これにより時系列バッファDA2が生成される。時系列バッファDA2は、測定値の平均処理に用いられる。制御部162aは、時系列バッファDA2を参照して、各測定値(pfH,pfL,prH,prL)の移動平均時間を算出する。制御部162aは、各移動平均時間を用いて、平均化された測定値(Pf(H),Pf(L),Pr(H),Pr(L))をそれぞれ算出する。
【0084】
制御部162aは、平均化された測定値(Pf(H),Pf(L),Pr(H),Pr(L))と、Highレベルの設定パワーPfH及びLowレベルの設定パワーPfLとを用いて減衰器163の印加電圧値を決定する。制御部162aは、平均化された測定値、Highレベルの設定パワーPfH及びLowレベルの設定パワーPfLとを用いて、マイクロ波発生部16aの出力が設定パワーに近づくように、減衰器163の印加電圧値を決定する。例えば、制御部162aは、マイクロ波のパワーに第1の減衰量を与えるための第1信号(Highレベルのパワー用の印加電圧値)、及び、マイクロ波のパワーに第2の減衰量を与えるための第2信号(Lowレベルのパワー用の印加電圧値)を決定する。そして、制御部162aは、D/A変換器167fを介して、減衰器163へ電圧を印加する。これにより、パワーフィードバックが行われる。
【0085】
制御部162aは、平均化された測定値を制御器100へ出力してもよい。平均化された測定値は、装置の稼働情報又はログ情報として制御器100の記憶部に記憶されるか、装置外部へ出力される。
【0086】
[詳細構成の第2例]
図10は、マイクロ波出力装置のパワーフィードバックに関する詳細構成の第2例を示す図である。
図9に示される第1例に係る構成と比較して、第2例に係る構成は、D/A変換器167fの替わりにHigh信号用のD/A変換器167g、及び、Low信号用のD/A変換器167hを備える。さらに、第2例に係る構成は、パルス出力器167dから同期信号PSS-Mが制御部162aへ出力されない。第1例と第2例は、これらの点が相違し、その他は同一である。このため、
図9と重複する説明は省略する。
【0087】
制御部162aには、Highレベルのパワー用の印加電圧値をD/A変換するD/A変換器167g(第1の変換器)と、Lowレベルのパワー用の印加電圧値をD/A変換するD/A変換器167h(第2の変換器)とが接続されている。D/A変換器167gは、Highレベルのパワー用の印加電圧値に応じたアナログ信号が出力されるように予め設定されている。D/A変換器167hは、Lowレベルのパワー用の印加電圧値に応じたアナログ信号が出力されるように予め設定されている。D/A変換器167g及びD/A変換器167hと減衰器163との間には、D/A変換器167g及び減衰器163の接続と、D/A変換器167h及び減衰器163の接続とを切り替えるソリッドステート・リレーK1(スイッチ)が設けられている。ソリッドステート・リレーK1は、パルス出力器167dから同期信号PSS-Mを直接参照し、接続を切り替える。これにより、第2例の構成は、第1例の構成と比較して、Highレベルのパワー用の印加電圧値とLowレベルのパワー用の印加電圧値とを高速に切り替えることができる。つまり、第2例の構成は、第1例の構成と比較して、より短い周期でマイクロ波のパワーをパルス変調することができる。
【0088】
[マイクロ波のパワーの平均化]
マルチキャリアによる帯域幅を有するマイクロ波のパワーの波形は周期性を有する。一例として、帯域幅10MHz、キャリアピッチを10kHzでパルス変調でないときには、マイクロ波のパワーは1周期100μsである。一般的に検波器の出力は振幅に応じた出力であり、これをパワーに換算する場合、被測定マイクロ波がマルチキャリアによる帯域幅を有する場合とそうでない場合で誤差を生ずる。帯域幅を有する場合でも1周期100μsで平均すればパワー測定値が検波出力から換算されるパワーと一致する。さらに1周期以上を繰り返し平均化することで検波出力とパワーの測定値が一致するようになり、パワーの精度が向上する。この検波出力をもとにパワーフィードバックするので設定パワーとパワー測定値が一致する。以下、測定例に基づいて説明する。
【0089】
図11の(A)~(C)は、マルチキャリアによる帯域幅を有するマイクロ波(パルス変調なし)の波形の一例である。横軸が周波数(MHz)、縦軸がパワー(dBm)である。設定帯域幅(設定BB幅)は10MHz、設定キャリアピッチは10kHzである。0μs~100μsの間を1μs刻みでサンプリングした。周波数は2455MHZ~2465MHz幅であり、パワーは0~7000Wの間である。
図11の(A)は、時間t=0μsのときのマイクロ波の波形である。
図11の(B)は、時間t=10μsのときのマイクロ波の波形である。
図11の(C)は、時間t=70μsのときのマイクロ波の波形である。
図11の(A)~(C)に示されるように、帯域幅を有するマイクロ波は、1μsごとでの瞬時の波形形状が異なることが確認された。
【0090】
図12の(A)及び(B)は、
図11に示されるマイクロ波をBB周期で平均化して得られた波形の一例である。横軸が周波数(MHz)、縦軸がパワー(W)である。BB周期とは、帯域幅を有するマイクロ波のパワー変動周期であり、ここでは1周期100μsである。
図12の(A)に示されるように、BB周期の1周期分を平均するとBB波形となる10MHz分の幅においてフラットな波形となることが確認された。
図12の(B)は、
図12の(A)に示される例よりも周波数軸の分解能を上げた場合の例である。
図12の(B)に示されるように、周波数軸の分解能を上げていくとキャリアピッチ10kHzの波形(1001本のキャリア)が確認された。
【0091】
図13の(A)及び(B)は、マルチキャリアによる帯域幅を有するマイクロ波(パルス変調なし)のパワーの移動平均の一例である。横軸が時間(μs)、縦軸がパワー(W)である。
図13の(A)は、パワーフィードバック制御下で100μs周期のマルチキャリアを1μsでサンプリングした波形である。帯域幅10MHz、キャリアピッチ10kHz、設定パワー1000Wである。
図13の(A)に示されるように、パワーフィードバック制御が行われた場合、BB周期で繰り返しのパワー変動が起こる。
図13の(A)の波形を移動平均することで
図13の(B)に示す波形を得られる。100μs周期のマルチキャリアにおいて1μsサンプルデータを100個(100μs)で移動平均した。
図13の(B)に示されるように、時間に対してパワーは一定となることが確認された。一方、パワー変動の詳細を確認したところ、10MHzの帯域幅を有するマイクロ波(パルス変調なし)は、ばらつき(1μsサンプル時において標準偏差68W)があることが確認された。
【0092】
続いて、パルス変調した場合の波形について説明する。帯域幅10MHz、キャリアピッチ10kHz、1周期100μsでパルス変調するときに、パルス周波数とデューティ比によって設定された波形のON時間及びOFF時間による切り出し、つまり抽出が周期的に行われた場合には、1周期100μsのうち特定の区間のみを検出する。以下、具体的に説明する。
【0093】
図14の(A)~(E)は、マルチキャリアによる帯域幅を有するマイクロ波(キャリアピッチ10kHz、パルス変調あり)の検波出力の一例である。横軸が時間(μs)、縦軸がパワー(W)である。設定帯域幅は10MHz、設定キャリアピッチは10kHz、設定パワーは1000Wである。パルス変調の条件は、設定周波数10kHz、設定デューティ比が50%である。つまり、パルスON時間が50μs、パルスOFF時間が50μsである。
図14の(A)~(E)においては、パルスON時間に波形の切り出しを行った。
図14の(A)はt=0μsのときにパルス変調が開始される場合の測定結果である。
図14の(B)はt=20μsのときにパルス変調が開始される場合の波形である。
図14の(C)はt=40μsのときにパルス変調が開始される場合の波形である。
図14の(D)はt=60μsのときにパルス変調が開始される場合の波形である。
図14の(E)はt=80μsのときにパルス変調が開始される場合の波形である。
図14の(A)~(E)に示されるように、パルス変調の開始タイミングによって波形の形状が変化し、検波出力が変化することが確認された。
【0094】
図15は、マルチキャリアによる帯域幅を有するマイクロ波(キャリアピッチ10kHz、パルス変調あり)のパワーの測定結果を纏めた表である。各パルス変調の開始タイミングごとに、平均パワー、標準偏差(ばらつき)、最大パワー及び最小パワーを測定した。パルス変調の開始タイミングは、0μs~90μsとした。
図15に示されるように、パルス変調の開始タイミングごとに、平均パワー、標準偏差(ばらつき)、最大パワー及び最小パワーがそれぞれ変化することが確認された。これは、パルスON時間に切り出される波形がBB周期の1周期分に満たないためである。
【0095】
このようなパルス変調の開始タイミングに依存したパワー変動の対策として、パルス変調の設定ON時間及びBB周期を、以下の条件が満たされるように設定する。
設定パルスON時間>BB周期
つまり、設定パルス周波数及び設定デューティ比によって定まるパルスON時間は、帯域幅を有するマイクロ波が持つパワー変動周期よりも長いという関係を満たすように、各種パラメータを設定する。これにより、帯域幅を有するマイクロ波の1周期分のパワー変動を確保できる。パルスON時間は、設定パルス周波数及び設定デューティ比を変更することで調整可能である。BB周期は、BB幅及びキャリアピッチを調整することで変更可能である。このため、上記条件を満たすように適宜調整することができる。なお、プラズマ処理装置で複数の設定パルスON時間を実行可能にする場合には、設定パルスON時間の最小値がBB周期よりも長いという条件を満たす必要がある。同様に、プラズマ処理装置で複数のBB周期を実行可能にする場合には、BB周期の最大値がパルスON時間よりも短いという条件を満たす必要がある。
【0096】
図16は、パルスON時間の一例を示す表である。
図16に示されるように、設定するパルス周波数を1kHz、設定するデューティ比を10%とすると、パルス周期は1000μs、パルスON時間は100μsとなる。設定するパルス周波数を1kHz、設定するデューティ比を90%とすると、パルス周期は1000μs、パルスON時間は900μsとなる。設定するパルス周波数を5kHz、設定するデューティ比を10%とすると、パルス周期は200μs、パルスON時間は20μsとなる。設定するパルス周波数を5kHz、設定するデューティ比を90%とすると、パルス周期は200μs、パルスON時間は180μsとなる。設定するパルス周波数を10kHz、設定するデューティ比を10%とすると、パルス周期は100μs、パルスON時間は10μsとなる。設定するパルス周波数を10kHz、設定するデューティ比を90%とすると、パルス周期は100μs、パルスON時間は90μsとなる。設定するパルス周波数を15kHz、設定するデューティ比を10%とすると、パルス周期は66.6μs、パルスON時間は6.66μsとなる。設定するパルス周波数を15kHz、設定するデューティ比を90%とすると、パルス周期は66.6μs、パルスON時間は59.94μsとなる。設定するパルス周波数を20kHz、設定するデューティ比を10%とすると、パルス周期は50μs、パルスON時間は5μsとなる。設定するパルス周波数を20kHz、設定するデューティ比を90%とすると、パルス周期は50μs、パルスON時間は45μsとなる。設定するパルス周波数を50kHz、設定するデューティ比を10%とすると、パルス周期は20μs、パルスON時間は2μsとなる。設定するパルス周波数を50kHz、設定するデューティ比を90%とすると、パルス周期は20μs、パルスON時間は18μsとなる。このように、パルスON時間は、設定パルス周波数及び設定デューティ比を変更することで調整可能である。
【0097】
図17は、キャリアピッチ、BB周期及びパルスON時間の一例を示す表である。
図17に示されるように、シングルピーク(SP)の場合、キャリア数は1である。設定するBB幅を10MHz、設定するキャリアピッチを10kHzとすると、キャリア数が1001、BB周期が100μsとなる。設定するBB幅を10.1MHz、設定するキャリアピッチを10.1kHzとすると、キャリア数が1001、BB周期が99.0099μsとなる。この場合、パルスON時間(の最小値)は100μsに設定すればよい。設定するBB幅を10.01MHz、設定するキャリアピッチを100.1kHzとすると、キャリア数が101、BB周期が9.999μsとなる。この場合、パルスON時間(の最小値)は10μsに設定すればよい。設定するBB幅を10.005MHz、設定するキャリアピッチを200.1kHzとすると、キャリア数が51、BB周期が4.9975μsとなる。この場合、パルスON時間(の最小値)は5μsに設定すればよい。設定するBB幅を1.0002MHz、設定するキャリアピッチを500.1kHzとすると、キャリア数が3、BB周期が1.9996μsとなる。この場合、パルスON時間(の最小値)は2μsに設定すればよい。設定するBB幅を2.5005MHz、設定するキャリアピッチを500.1kHzとすると、キャリア数が6、BB周期が1.9996μsとなる。この場合、パルスON時間(の最小値)は2μsに設定すればよい。設定するBB幅を5.001MHz、設定するキャリアピッチを500.1kHzとすると、キャリア数が11、BB周期が1.9996μsとなる。この場合、パルスON時間(の最小値)は2μsに設定すればよい。設定するBB幅を10.002MHz、設定するキャリアピッチを500.1kHzとすると、キャリア数が21、BB周期が1.9996μsとなる。この場合、パルスON時間(の最小値)は2μsに設定すればよい。設定するBB幅を20.004MHz、設定するキャリアピッチを500.1kHzとすると、キャリア数が41、BB周期が1.9996μsとなる。この場合、パルスON時間(の最小値)は2μsに設定すればよい。設定するBB幅を50.01MHz、設定するキャリアピッチを500.1kHzとすると、キャリア数が101、BB周期が1.9996μsとなる。この場合、パルスON時間(の最小値)は2μsに設定すればよい。設定するBB幅を99.5199MHz、設定するキャリアピッチを500.1kHzとすると、キャリア数が200、BB周期が1.9996μsとなる。この場合、パルスON時間(の最小値)は2μsに設定すればよい。このように、BB周期は、BB幅及びキャリアピッチを調整することで変更可能である。つまり、設定パルス周波数、設定デューティ比、BB幅及びキャリアピッチのうちの少なくとも1つを調整して、設定パルスON時間>BB周期となる関係を満たすように変更することができる。
【0098】
図18の(A)~(E)は、マルチキャリアによる帯域幅を有するマイクロ波(キャリアピッチ500.1kHz、パルス変調あり)の検波出力の一例である。横軸が時間(μs)、縦軸がパワー(W)である。設定帯域幅は10.002MHz、設定キャリアピッチは500.1kHz、設定パワーは1000Wである。つまり、BB周期は1.9996μsとなる。パルス変調の条件は、設定パルス周波数10kHz、設定デューティ比が50%である。つまり、パルスON時間が50μs、パルスOFF時間が50μsである。パルスON時間はBB周期よりも約25倍の周期である。
図18の(A)~(E)においては、パルスON時間に波形の切り出しを行った。
図18の(A)はt=0μsのときにパルス変調が開始される場合の測定結果である。
図18の(B)はt=20μsのときにパルス変調が開始される場合の波形である。
図18の(C)はt=40μsのときにパルス変調が開始される場合の波形である。
図18の(D)はt=60μsのときにパルス変調が開始される場合の波形である。
図18の(E)はt=80μsのときにパルス変調が開始される場合の波形である。
図18の(A)~(E)に示されるように、パルス変調の開始タイミングに関わらず波形の形状が均一となり、検波出力が安定することが確認された。
【0099】
図19は、マルチキャリアによる帯域幅を有するマイクロ波(キャリアピッチ500.1kHz、パルス変調あり)のパワーの測定結果を纏めた表である。各パルス変調の開始タイミングごとに、平均パワー、標準偏差(ばらつき)、最大パワー及び最小パワーを測定した。パルス変調の開始タイミングは、0μs~90μsとした。
図19に示されるように、パルス変調の開始タイミングに関わらず、平均パワー、標準偏差(ばらつき)、最大パワー及び最小パワーが一定になることが確認された。これは、パルスON時間に切り出される波形がBB周期の1周期分以上を満たすためである。
図15及び
図19を比較することにより、パルスON時間は、帯域幅を有するマイクロ波が持つパワー変動周期よりも長いという関係を満たすことで、各パルスで安定したマイクロ波の投入を実現できることが確認された。つまり、帯域幅を有するマイクロ波によるプラズマのロバスト性を確保したまま各パルスのパワー投入を安定させることが確認された。
【0100】
[マイクロ波のパワーの平均化の改善]
図20は、マイクロ波のパワーフィードバックに関する構成の他の例を示す図である。
図20に示される構成は、
図7に示される構成と比較して、パルス生成器162bと波形発生器161とがケーブルなどで通信可能に接続される点が相違し、その他は同一である。以下では、相違点を中心に説明し、重複する説明は繰り返さない。
【0101】
パルス生成器162bで生成された同期信号PSS-Mは、波形発生器161へ送信される。波形発生器161は、同期信号PSS-Mに基づくタイミングでマイクロ波の波形を発生させる。これにより、帯域幅を有するマイクロ波出力とパルス信号とを同期させることができる。上述したとおり、パルスON時間がBB周期よりも長いという関係を満たすことができれば各パルスで安定したマイクロ波の投入を実現できる。しかし、BB周期とパルスON時間とが近い値になるほど、平均パワー及びばらつきが不安定になるおそれがある。
図21の(A)~(C)は、パルスON信号とBB周期とのタイミングを説明する図である。横軸が時間(μs)、縦軸がパワー(W)である。グラフの下のタイムチャートはパルスON時間(Highレベル)、パルスOFF時間(Lowレベル)のタイミングを示す。
図21の(A)に示される波形は、BB周期の開始とともにパルスON時間が開始されている場合である。
図21の(B)に示される波形は、BB周期の開始から0.5μsずれてパルスON時間が開始されている場合である。
図21の(C)に示される波形は、BB周期の開始から1.0μsずれてパルスON時間が開始されている場合である。
図21の(A)~(C)に示されるように、パルスON時間中の余り部分(図中破線)に現れる波形形状に変化が生じることがわかる。このため、帯域幅を有するマイクロ波出力とパルス信号とを同期させることで、各パルスの波形を一定とすることができるので、平均パワー及びばらつきをより安定にすることができる。
【0102】
以上、種々の実施形態について説明してきたが、上述した実施形態に限定されることなく種々の変形態様を構成可能である。
【0103】
上述した実施形態では、マイクロ波発生部16aと波形発生器161とが分離している例を説明したが、一つの装置として構成されていてもよい。
【0104】
上述した実施形態では、マイクロ波パワーの同期信号を高周波パワーの同期信号に合わせて生成する例を説明したが、高周波パワーの同期信号をマイクロ波パワーの同期信号に合わせて生成する場合であってもよい。
【0105】
プラズマ処理装置1がPfモードのみ用いる場合、測定部16kは反射波を測定する構成を備えていなくてもよい。
【0106】
上述した実施形態では、ON/OFF制御のパルスを用いる例を説明したが、High/Low制御のパルスを用いた場合にも適用が可能である。この場合、パルスON(Highレベル)時間が帯域幅を有するマイクロ波が持つパワー変動周期よりも長く、かつパルスOFF(Lowレベル)時間が帯域幅を有するマイクロ波が持つパワー変動周期よりも長くてもよい。
【0107】
以上の説明から、本開示の種々の実施形態は、本開示の範囲及び主旨から逸脱することなく種々の変更をなし得ることが、理解されるであろう。したがって、本明細書に開示した種々の実施形態は限定することを意図しておらず、真の範囲と主旨は、添付の特許請求の範囲によって示される。
【0108】
上述したマイクロ波のパワー制御は、パルス変調されたRF信号(RF電力)のパワー制御にも適用できる。例えば、
図1に示されるプラズマ処理装置は、容量結合プラズマ型(CCP;CapacitivelyCoupled Plasma)、又は誘導結合プラズマ型(ICP;Inductively Coupled Plasma)のプラズマ処理装置に変更され得る。
図1に示されるプラズマ形成用のマイクロ波出力装置16(電力供給部の一例)は、RF信号の高周波を印加する高周波電源(電力供給部の一例)に変更され得る。高周波電源は、少なくとも1つのインピーダンス整合回路を介してチャンバ本体12に結合される。一実施形態において、RF信号は、13MHz~150MHzの範囲内の周波数を有する。これにより、処理空間Sに供給された処理ガスからプラズマが形成される。この高周波電源及び/又は高周波電源58からのRF信号がパルス化され得る。パルス化されたRF信号は、上述したマイクロ波と同様に、設定パルス周波数及び設定デューティ比によって定まるパルスON時間が、帯域幅を有する高周波が持つパワー変動周期よりも長くなるように、設定される。これにより、各パルスで安定した高周波の投入を実現できる。
【符号の説明】
【0109】
1…プラズマ処理装置、12…チャンバ本体、14…ステージ、16…マイクロ波出力装置、16a…マイクロ波発生部、16f…第1の方向性結合器、16h…第2の方向性結合器、16k…測定部(測定部の一例)、16t…出力部、18…アンテナ、20…誘電体窓、26…チューナ、27…モード変換器、28…同軸導波管、30…スロット板、32…誘電体板、34…冷却ジャケット、38…ガス供給系、58…高周波電源、60…マッチングユニット、100…制御器、161…波形発生器、162…パワー制御部、163…減衰器、164…増幅器、165…増幅器、166…モード変換器。