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特許7561174半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒、および半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒、および半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240926BHJP
   C30B 1/02 20060101ALI20240926BHJP
   C30B 29/04 20060101ALI20240926BHJP
   C30B 33/00 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
H01L21/304 621C
C30B1/02
C30B29/04 Z
C30B33/00
【請求項の数】 36
(21)【出願番号】P 2022201670
(22)【出願日】2022-12-17
(65)【公開番号】P2024086507
(43)【公開日】2024-06-27
【審査請求日】2024-06-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511267686
【氏名又は名称】エレメント シックス リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100180426
【弁理士】
【氏名又は名称】剱物 英貴
(72)【発明者】
【氏名】ネド ボーガン
(72)【発明者】
【氏名】大島 龍司
【審査官】鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/077844(WO,A1)
【文献】特開2022-018650(JP,A)
【文献】特開2022-062809(JP,A)
【文献】特許第7033824(JP,B1)
【文献】特許第5554449(JP,B2)
【文献】特開2015-134718(JP,A)
【文献】特表2012-530676(JP,A)
【文献】特表2015-505810(JP,A)
【文献】特開平11-071197(JP,A)
【文献】特表2018-501176(JP,A)
【文献】特開平02-000385(JP,A)
【文献】特開2005-272191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C30B 1/02
C30B 29/04
C30B 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
HPHT単結晶ダイヤモンド砥粒を用いた半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒であって、
前記HPHT単結晶ダイヤモンド砥粒に対して行われたラマン分光法によるダイヤモンドピーク測定で得られたダイヤモンドピーク波数の平均値が、IIa型単結晶ダイヤモンドに対して行われたラマン分光法による測定で得られたダイヤモンドピーク波数の平均値より小さく、
前記HPHT単結晶ダイヤモンド砥粒は800℃未満の温度でアニールが行われてなる
ことを特徴とする半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒。
【請求項2】
切断加工、または研磨・研削加工に用いる、請求項1に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒。
【請求項3】
炭素化合物に由来する結晶核および/または結晶欠陥を備える、請求項1または2に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒。
【請求項4】
平滑な結晶面を有する、請求項1または2に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒。
【請求項5】
平均粒子径が0.25~50μm以下である、請求項1または2に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒。
【請求項6】
HPHTIb型合成ダイヤモンド粒子に、イオン、電子線、陽子線、中性子線、およびガンマ線の少なくとも1種を照射した後、800℃未満の温度で10~240分間のアニールを行う、請求項1または2に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【請求項7】
無定形炭素、並びに水素および/または水酸基を有する炭素化合物からなる原料を、質量比で前記無定形炭素:前記炭素化合物=7:3~4:6の混合比で混合し、圧力が5~10GPaであり、温度が1300~1800℃である条件で1~300秒保持することによって前記ダイヤモンド砥粒を合成する、請求項6に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【請求項8】
前記無定形炭素はカーボンブラックであり、前記炭素化合物は脂肪族炭化水素、アルコール、および多価アルコールの少なくとも1種である、請求項7に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【請求項9】
前記脂肪族炭化水素はポリエチレンであり、前記アルコールはメタノールであり、前記多価アルコールはペンタエリスリトールまたはキシリトールである、請求項8に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【請求項10】
平滑な結晶面を有する、請求項3に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒。
【請求項11】
平均粒子径が0.25~50μm以下である、請求項3に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒。
【請求項12】
平均粒子径が0.25~50μm以下である、請求項4に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒。
【請求項13】
HPHTIb型合成ダイヤモンド粒子に、イオン、電子線、陽子線、中性子線、およびガンマ線の少なくとも1種を照射した後、800℃未満の温度で10~240分間のアニールを行う、請求項3に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【請求項14】
無定形炭素、並びに水素および/または水酸基を有する炭素化合物からなる原料を、質量比で前記無定形炭素:前記炭素化合物=7:3~4:6の混合比で混合し、圧力が5~10GPaであり、温度が1300~1800℃である条件で1~300秒保持することによって前記ダイヤモンド砥粒を合成する、請求項13に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【請求項15】
前記無定形炭素はカーボンブラックであり、前記炭素化合物は脂肪族炭化水素、アルコール、および多価アルコールの少なくとも1種である、請求項14に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【請求項16】
前記脂肪族炭化水素はポリエチレンであり、前記アルコールはメタノールであり、前記多価アルコールはペンタエリスリトールまたはキシリトールである、請求項15に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【請求項17】
HPHTIb型合成ダイヤモンド粒子に、イオン、電子線、陽子線、中性子線、およびガンマ線の少なくとも1種を照射した後、800℃未満の温度で10~240分間のアニールを行う、請求項4に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【請求項18】
無定形炭素、並びに水素および/または水酸基を有する炭素化合物からなる原料を、質量比で前記無定形炭素:前記炭素化合物=7:3~4:6の混合比で混合し、圧力が5~10GPaであり、温度が1300~1800℃である条件で1~300秒保持することによって前記ダイヤモンド砥粒を合成する、請求項17に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【請求項19】
前記無定形炭素はカーボンブラックであり、前記炭素化合物は脂肪族炭化水素、アルコール、および多価アルコールの少なくとも1種である、請求項18に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【請求項20】
前記脂肪族炭化水素はポリエチレンであり、前記アルコールはメタノールであり、前記多価アルコールはペンタエリスリトールまたはキシリトールである、請求項19に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【請求項21】
HPHTIb型合成ダイヤモンド粒子に、イオン、電子線、陽子線、中性子線、およびガンマ線の少なくとも1種を照射した後、800℃未満の温度で10~240分間のアニールを行う、請求項5に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【請求項22】
無定形炭素、並びに水素および/または水酸基を有する炭素化合物からなる原料を、質量比で前記無定形炭素:前記炭素化合物=7:3~4:6の混合比で混合し、圧力が5~10GPaであり、温度が1300~1800℃である条件で1~300秒保持することによって前記ダイヤモンド砥粒を合成する、請求項21に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【請求項23】
前記無定形炭素はカーボンブラックであり、前記炭素化合物は脂肪族炭化水素、アルコール、および多価アルコールの少なくとも1種である、請求項22に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【請求項24】
前記脂肪族炭化水素はポリエチレンであり、前記アルコールはメタノールであり、前記多価アルコールはペンタエリスリトールまたはキシリトールである、請求項23に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【請求項25】
HPHTIb型合成ダイヤモンド粒子に、イオン、電子線、陽子線、中性子線、およびガンマ線の少なくとも1種を照射した後、800℃未満の温度で10~240分間のアニールを行う、請求項10に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【請求項26】
無定形炭素、並びに水素および/または水酸基を有する炭素化合物からなる原料を、質量比で前記無定形炭素:前記炭素化合物=7:3~4:6の混合比で混合し、圧力が5~10GPaであり、温度が1300~1800℃である条件で1~300秒保持することによって前記ダイヤモンド砥粒を合成する、請求項25に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【請求項27】
前記無定形炭素はカーボンブラックであり、前記炭素化合物は脂肪族炭化水素、アルコール、および多価アルコールの少なくとも1種である、請求項26に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【請求項28】
前記脂肪族炭化水素はポリエチレンであり、前記アルコールはメタノールであり、前記多価アルコールはペンタエリスリトールまたはキシリトールである、請求項27に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【請求項29】
HPHTIb型合成ダイヤモンド粒子に、イオン、電子線、陽子線、中性子線、およびガンマ線の少なくとも1種を照射した後、800℃未満の温度で10~240分間のアニールを行う、請求項11に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【請求項30】
無定形炭素、並びに水素および/または水酸基を有する炭素化合物からなる原料を、質量比で前記無定形炭素:前記炭素化合物=7:3~4:6の混合比で混合し、圧力が5~10GPaであり、温度が1300~1800℃である条件で1~300秒保持することによって前記ダイヤモンド砥粒を合成する、請求項29に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【請求項31】
前記無定形炭素はカーボンブラックであり、前記炭素化合物は脂肪族炭化水素、アルコール、および多価アルコールの少なくとも1種である、請求項30に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【請求項32】
前記脂肪族炭化水素はポリエチレンであり、前記アルコールはメタノールであり、前記多価アルコールはペンタエリスリトールまたはキシリトールである、請求項31に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【請求項33】
HPHTIb型合成ダイヤモンド粒子に、イオン、電子線、陽子線、中性子線、およびガンマ線の少なくとも1種を照射した後、800℃未満の温度で10~240分間のアニールを行う、請求項12に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【請求項34】
無定形炭素、並びに水素および/または水酸基を有する炭素化合物からなる原料を、質量比で前記無定形炭素:前記炭素化合物=7:3~4:6の混合比で混合し、圧力が5~10GPaであり、温度が1300~1800℃である条件で1~300秒保持することによって前記ダイヤモンド砥粒を合成する、請求項33に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【請求項35】
前記無定形炭素はカーボンブラックであり、前記炭素化合物は脂肪族炭化水素、アルコール、および多価アルコールの少なくとも1種である、請求項34に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【請求項36】
前記脂肪族炭化水素はポリエチレンであり、前記アルコールはメタノールであり、前記多価アルコールはペンタエリスリトールまたはキシリトールである、請求項35に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板などの半導体部材を加工するための半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒、および半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは物質上最高の硬度を持ち、シリコンなどの種々の材料を研磨・研削する砥石、集積回路の切断に用いる砥石など、幅広く利用されている。近年では、単結晶質ダイヤモンドを用いた砥粒が注目されている。
【0003】
単結晶質ダイヤモンドには、天然ダイヤモンドや合成ダイヤモンドがある。天然ダイヤモンドは、そのほとんどがIa型であり、格子もしくは格子間に窒素を有する。また、天然ダイヤモンドにはIIa型の天然ダイヤモンドが存在するものの、不純物の含有量や結晶組織のばらつきが大きく、品質や性能が安定しない。さらに、天然ダイヤモンドは、採掘量に応じて価格が変動するため、安定供給に課題を残し、高価でもある。一方、合成ダイヤモンドは、天然ダイヤモンドよりも一定品質のものを安定供給することができる。
【0004】
ところで、ダイヤモンド砥粒を用いた砥石は、加工量が大きいことに加えて、長期間使用することができるように、従来から高い耐久性能が要求されている。例えば特許文献1には、高い靭性や耐摩耗性を備えるダイヤモンドを用いた加工方法が開示されている。同文献によれば、ダイヤモンドに電子線を照射して孤立空孔欠陥を与えることにより、靭性や耐摩耗性硬度が向上する、とされている。
【0005】
また、特許文献2には、光学フィルタリング用途、機械的用途、および宝石用途に適用されるように、高濃度と一様な分布状態の両方を満たした窒素欠陥を有する単結晶CVD合成ダイヤモンド材料が開示されている。同文献に開示されている合成法は、成長させたままの窒素空孔欠陥が所定濃度以上存在し、好ましくはアニールされると共に/或いは照射されたものでもよいことも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5554449号
【文献】特開2015-505810号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の発明では、アニール温度が低くても1000℃と高く、孤立空孔欠陥がダイヤモンドに多数存在する。同文献には、孤立空孔欠陥は、クラックの進展を阻害するために高い靭性および耐摩耗性を示すことが記載されており、高い靭性を示すためには多くの孤立空孔欠陥が形成される必要がある、と記載されている。しかし、特許文献1に記載のダイヤモンド材料は靭性に優れるため、長時間加工したとしてもダイヤモンドの形態が維持される。また、耐摩耗性に優れているとは言え、ダイヤモンド材料と被加工物との接点である加工点が加工前の鋭利な状態で恒常的に維持されることはない。研磨・研削加工においては、靱性及び/又は耐摩耗性を有したダイヤモンド材料を用いると砥石が目つぶれしてしまい、所望の加工精度が得られなくなる。また、切断加工においては、良質なカットラインが徐々に得られなくなる。
【0008】
また、特許文献1の段落0020および0032には、単結晶化学気相堆積(Chemical Vapor Depositon、以下、適宜、「CVD」と称する。)ダイヤモンド板を切削刃の形成に用い、独特の色によるブランド化をもたらすため、電子線などの照射後に約700℃、もしくは約700℃を超える温度に加熱されてもよいことが記載されている。しかし、単結晶CVDダイヤモンド板を砥粒に用いるためには、数限りないCVD成膜による生成および粉砕の工程が必要であり、現実的ではない。実際、1回のCVD成膜で得られるCVDダイヤモンドは数g程度であり、砥石向けの砥粒を大量に得ることは不可能に近い。また、CVDダイヤモンドの中でも特に単結晶質ダイヤモンドは、単結晶ダイヤモンドの微結晶が同じ方位で集合したものであるため、HPHTにより製造された単結晶ダイヤモンドのように砥粒として用いることは不適切である。このため、特許文献1に記載の切削刃は、砥粒ではないために砥石に用いられるものではない。また、高温高圧(High―Pressure High-Temperature、以下、適宜、「HPHT」と称する。)とCVDで生成したダイヤモンドの結晶の構造は大きく異なるため、特許文献1に記載の発明のように、高靭性のHPHTダイヤモンドを得るためには、前述のように1000℃以上の高温でアニールを行う必要がある。
【0009】
特許文献2に記載のCVDダイヤモンドは、前述のように、機械的用途に限らず、光学フィルタリング用途や宝石用途などにも用いられるため、研磨・研削加工、切断加工などの、研磨・研削、切断などの機械加工用途に適しているとは言い難い。また、同文献には機械的用途に用いられることが記載されており、CVDダイヤモンドの非一様な耐摩耗性や破壊靭性の低下などの問題点を解決するため、窒素空孔欠陥が一様に分布するダイヤモンドを提供することが記載されている。このため、特許文献2に記載のCVDダイヤモンドから作製した砥粒であっても、特許文献1と同様に、研削・研磨加工や切断加工の課題が残る。
【0010】
近年では、電子部品の小型化が進む中、半導体部材の小型化や高品質化が要求されており、短時間で高品質な半導体部材の加工が要求されている。このような状況下において、研磨・研削加工、切断加工などの加工に用いられる砥粒および砥石の耐久性能は、更なる最適化が必要である。
【0011】
そこで、本発明の課題は、半導体部材の加工面の品質が優れるとともに高い耐久性能を備える半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒、および半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
従来では、半導体部材の加工においては、高い耐久性能を備える観点から、特許文献1および特許文献2に記載のように、高い靭性を備えるダイヤモンドが要求されていた。しかし、本発明者らは、鋭意検討した結果、半導体加工用砥石に用いられるダイヤモンド砥粒が高い靭性を備えると、むしろ砥石の耐久性能が劣ると考えた。靭性が低いダイヤモンドでは、用いた砥粒のへき開によりダイヤモンド砥粒が長期間の使用により破砕し、再び砥粒エッジを形成し自生発刃が形成される。破砕後のダイヤモンド砥粒には鋭利なエッジが発生するため、長期間使用したとしても高い加工精度が維持される。したがって、ダイヤモンド砥粒としては、従来とは逆に、むしろ靭性が低いものを使用する必要がある。また、ダイヤモンド砥粒が硬く靱性が低いと優れた加工面が得られる可能性がある。
【0013】
硬く靱性の低いダイヤモンドとしては窒素の含有量が極めて少ないIIa型の天然ダイヤモンドが挙げられる。しかし、天然ダイヤモンドは、前述のように不純物の含有量や結晶組織のばらつきが大きく、品質や性能が安定しない。さらに、天然ダイヤモンドは、採掘量に応じて価格が変動するため、安定供給に課題を残し、高価でもある。
【0014】
そこで、本発明者らは、人工的に製造されるIb型の合成ダイヤモンドを用いて高品質のダイヤモンドを用いることに着目して鋭意検討を行った。従来では、靭性を向上させるために電子線をダイヤモンド材料に照射し、高温でのアニールにより靱性を向上させていたが、本発明者らは、靭性が低いダイヤモンド砥粒の方が結晶のへき開及び/又は摩耗によって加工時に砥粒の自生発刃性が向上し、その結果、砥石の耐久性能が低下することなく、研磨・研削加工面の品質も向上すると考えた。
【0015】
ここで、特許文献1および2には、各々ダイヤモンドが変色することが記載されているが、色の制御方法については具体的に開示されていない。これは、電子線などの照射前の状態やアニール前の状態など、原料の状態に応じて変化するためである。そして、これらの文献に記載の発明では、靱性を向上させるためにはアニール温度を一定以上の温度にまで上げているが、靱性が高ければよいとされており、変色のための具体的な制御手段は開示されていない。このため、靱性が高すぎないように程よく制御するためには、ダイヤモンドの色だけでは制御することができない。
【0016】
さらに、電子線などの照射やアニールによりダイヤモンドの組織にどのような影響があるのか、再検討が行われた。窒素を含むダイヤモンドはその結晶の炭素と窒素の結合長が炭素と炭素の結合よりも短い。この為、ダイヤモンド結晶は圧縮応力を有していることが考えられる。一方で、ダイヤモンドに電子線などが照射されると、ダイヤモンド結晶中の窒素近傍領域の接合または炭素同士の接合が損傷し、ダイヤモンドの圧縮応力が緩和することが考えられる。そして、損傷した部分がアニールにより再結合して損傷が回復すると推察される。これらを鑑みると、特許文献1や特許文献2では、高い靱性が要求されることから、アニール温度を高くせざるをえなかった。このように、これらの文献では種々のダイヤモンドの色が開示されているが、靱性とダイヤモンドの色との相関は不明であるため、ダイヤモンドの色ではダイヤモンドの組織の状態を判別することができない。
【0017】
本発明者らは、研削・研磨用の砥石に用いるダイヤモンド砥粒や、切断用の部材に用いるダイヤモンド砥粒には、特許文献1や特許文献2に開示されているダイヤモンド材料とは異なり、前述のように、低靭性のものを用いる必要があることに着目した。そこで、低靭性を示すダイヤモンドの組織について、詳細に検討が行われた。その結果、本発明者らは、ダイヤモンドの結晶の内部応力を高精度に調整することにより、所望の低靭性を備えるダイヤモンド砥粒が得られることに着目した。そして、本発明者らは、窒素の含有が極めて少なく内部に結晶応力を極めて有さないIIa型の天然ダイヤモンドであれば、程よい低靭性が得られることに思い至り、ラマン分光測定によって詳細な分析を行った。
【0018】
その結果、従来では高い靱性により高い耐久性能を得るために、800℃を超える高いアニール温度でのアニールが行われていたが、敢えて、アニール温度を800℃未満に下げて所定の時間だけアニールを行ったところ、所望の低靭性を示す温度領域が存在する知見が得られた。また、電子線などを照射しただけのダイヤモンドは、内部応力が緩和されることによりラマン分光法による測定結果が低端数側にシフトし、アニール温度が高くなるに連れて内部応力が増加することにより高波数側にシフトする知見も得られた。
【0019】
これらの知見に基づいて更に検討をした結果、アニール温度を下げた場合には、IIa型の天然ダイヤモンドに近づく知見が得られた。さらには、ラマン分光法による測定結果により得られた波数の平均値が、IIa型の天然ダイヤモンドより低い場合に、初めて、所望の低靭性が得られ、砥石として用いた場合に高品質な加工面が長期間に渡り得られる知見が得られ、本発明は完成した。
これらの知見により得られた本発明は以下のとおりである。
【0020】
(1)HPHT単結晶ダイヤモンド砥粒を用いた半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒であって、
前記HPHT単結晶ダイヤモンド砥粒に対して行われたラマン分光法によるダイヤモンドピーク測定で得られたダイヤモンドピーク波数の平均値が、IIa型単結晶ダイヤモンドに対して行われたラマン分光法による測定で得られたダイヤモンドピーク波数の平均値より小さいことを特徴とする半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒。
【0021】
(2)切断加工、または研磨・研削加工に用いる、(1)に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒。
【0022】
(3)炭素化合物に由来する結晶核および/または結晶欠陥を備える、(1)または(2)に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒。
【0023】
(4)平滑な結晶面を有する、(1)~(3)のいずれか1項に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒。
【0024】
(5)平均粒子径が0.25~50μm以下である、(1)~(4)のいずれか1項に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒。
【0025】
(6)HPHTIb型合成ダイヤモンド粒子に、イオン、電子、陽子、中性子、およびガンマ線の少なくとも1種を照射した後、800℃未満の温度で10~240分間のアニールを行う、(1)~(5)のいずれか1項に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【0026】
(7)無定形炭素、並びに水素および/または水酸基を有する炭素化合物からなる原料を、質量比で前記無定形炭素:前記炭素化合物=7:3~4:6の混合比で混合し、圧力が5~10GPaであり、温度が1300~1800℃である条件で1~300秒保持することによって前記ダイヤモンド砥粒を合成する、(6)に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【0027】
(8)無定形炭素はカーボンブラックであり、前記炭素化合物は脂肪族炭化水素、アルコール、および多価アルコールの少なくとも1種である、(6)または(7)に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【0028】
(9)脂肪族炭化水素はポリエチレンであり、前記アルコールはメタノールであり、前記多価アルコールはペンタエリスリトールまたはキシリトールである、(8)に記載の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、種々の条件で作製したダイヤモンドにおいて、ラマン分光法により785nmのレーザーを照射して得られた測定の結果を示す図である。
図2図2は、ハブブレードに保護層を形成する工程の概要を説明するためのハブブレード断面模式図である。
図3図3は、ハブブレードの断面模式図であり、図3(A)は、砥石を形成した後の基台の状態を模式的に示す断面模式図であり、図3(B)は、図3(A)に示す基台の外周部分を拡大した断面模式図である。
図4図4は、ハブブレードの断面模式図であり、図4(A)は、基台を除去した後の基台の状態を模式的に示す断面模式図であり、図4(B)は、図4(A)に示す基台の外周部分を拡大した断面模式図である。
図5図5は、図5は、ハブブレードの断面模式図であり、図5(A)は、保護層を除去した後の基台の状態を模式的に示す断面模式図であり、図5(B)は、図5(A)に示す基台の外周部分を拡大した断面模式図である。
図6図6は、完成した電着砥石を模式的に示す斜視図である。
図7図7は、Ib型合成ダイヤモンド(As)、電子線照射後のダイヤモンド(XP)、および電子線照射後に650℃でアニールを行ったダイヤモンド(XP-AN)のダイヤモンド砥粒を用いた切断砥石でシリコン基板を切断した切断長と摩耗量との関係を示す図である。
図8図8は、図7で示した3種類のダイヤモンド砥粒を用いたハブブレード砥石のカット寿命を示すグラフである。
図9図9は、砥粒を用いた砥石が装着された研削装置の斜視図である。
図10図10は、図7で示した3種類のダイヤモンド砥粒を用いたグラインドホイール砥石で研削した研削面の表面粗さを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施形態を図面に基づいて詳述する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
1.半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒
(1)加工砥石
本発明に係る半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒を用いた半導体部材加工砥石は、高品質の加工面を形成することができるため、半導体部材を加工するために用いられる砥石である。例えば、切断用砥石としてはハブブレードが挙げられる。研削・研磨用砥石としてはグラインドホイールが挙げられる。
【0031】
ハブブレードは、主にダイシング装置で使用されている切断砥石である。アルミニウムやステンレスなどで構成される円盤状のハブである基台の外周に、ダイヤモンド砥粒が分散されたニッケルまたはニッケル合金を電着して構成される。
【0032】
従来のシリコン基板は厚く、ウエハ自体にも剛性があったため加工が容易であった。しかし、近年の電子機器は小型化が進み、それに搭載される電子部品も薄型化・小型化が要求され、電子部品を構成するシリコン基板を切断して得られるチップも同様の仕様が要求されている。そのため、厚さが0.1mm以下の剛性の低いシリコン基板が用いられるようになり、切断砥石の寿命が短いと切断面のチッピングが大きくなる。
【0033】
グラインドホイールは、略長方体の砥石が円盤基台の端部に複数設けられた研削・研磨砥石であり、グラインドホイール砥石が回転しながら基板と接触することにより、基板が研削・研磨される。基板は砥石との接触によって摩擦し、この際の摩擦熱によって砥石が消耗しやすくなる。加工砥石は、タイヤモンド砥粒を樹脂(レジン)、ガラス質(ビトリファイド)などの結合剤で結合させてなる。
【0034】
しかしながら、従来のグラインドホイールに設けられた砥石を構成する砥粒は、高い靱性を備えるダイヤモンド砥粒であるため、使用時間が長くなるにつれて研削・研磨の効率が劣化する。このため、研削・研磨時間を短くするためにグラインドホイールの回転数を上げる必要が生じる。ただ、回転数が上がると基板が発熱してしまう。また、砥石が破損することがあり、寿命は短い。
【0035】
これらに対し、ハブブレード、グラインドホイールに用いられる砥石は、本発明に係る半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒を備える。本発明に係る半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒は、従来品とは異なり、靱性が低いため、剛性が低いシリコン基板であっても長期間に渡り欠けなどが発生しない。本発明に係る半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の詳細については後述する。
【0036】
(2)半導体部材
本発明において、半導体部材とは、シリコン基板、樹脂基板、ガラス板、GaN基板、サファイヤ基板などの基板、半導体基板上に1層以上の半導体膜が積層された半導体基板、樹脂でモールドされた半導体基板、半導体基板からから切断された半導体チップをいう。また、半導体部材は、複数の半導体チップを備える半導体ウエハをも含む。
【0037】
(3)ダイヤモンド砥粒
Ib型ダイヤモンドは窒素原子が存在することにより炭素と窒素の結合により原子間距離が短くなるため、圧縮応力が付与された状態になる。これに電子線等を照射すると窒素の近傍および/または炭素同士の接合が損傷する。この損傷により結晶内の圧縮応力が緩和し、Ib型ダイヤモンドの靭性が低下すると推察される。したがって、本発明のように損傷が適度に形成されたタイヤモンド砥粒は、窒素原子の含有が極めて少ないIIaダイヤモンドの特性に近似するようになるため、衝撃のような応力が加わる切断加工において、使用が継続されることにより次々にタイヤモンド砥粒が破砕し、自生発刃するため、優れた耐久性能を発揮する。
【0038】
一方で、特許文献1に記載のダイヤモンド材料は、アニール温度が高いと、アニールによって損傷部分の再結合箇所が多くなり、再結合によって結晶内の炭素の接合が回復しクラックの進展を阻害するように機能してしまい、高い靭性を示すと推察される。このため、窒素近傍や炭素同士の接合損傷は、必要以上に多くならないようにしなければならない。
【0039】
このような損傷個所を備えるダイヤモンドは、アニール処理により、損傷個所が再結合して修復される。再結合が行われると再び圧縮応力が付与され、従来のダイヤモンドより靭性及び/または耐摩耗性が適度に増加する。この状態のタイヤモンド砥粒は、靭性及び/または耐摩耗性が向上することにより、砥粒の自生発刃の性能が弱く、その耐久性能によりタイヤモンド砥粒が破砕され難くなる。このため、砥粒の自生発刃の性能を向上させることができず、研削・研磨加工および切断加工において砥粒が耐久性能を発揮するため、アニールによる損傷箇所での適度の修復は重要であり適切な温度範囲が存在する。
【0040】
このように、本発明に係る半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒は、強度および靭性が種々の加工に影響を及ぼすため、半導体部材加工砥石の耐久性能を制御することができる。これにともない、加工時のチッピングなどが抑制されることにより、高品質の加工面が得られる。このように、ダイヤモンド砥粒の靱性を鑑みた技術思想が従来とは正反対である本発明に係る半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒は、ラマン分光測定により結晶内部の応力をラマンピークの波数シフトによって確認することができる。この測定は、785nmのレーザーを照射して得られる。
【0041】
ダイヤモンド砥粒のラマンピークは、Ib型単結晶ダイヤモンド砥粒に、電子線を照射することにより、IIa型ダイヤモンドと比較して大幅に低端数側にシフトする。その後、アニール温度を500~1100℃の範囲で温度を上げると、徐々に高波数側にシフトする。800℃を超えるとIIa型のダイヤモンド砥粒と同程度の波数分布を示す。このため、800℃未満で天然のIIaダイヤモンドより低波数にシフトし、結晶内部の応力が緩和したダイヤモンドが得られる。このように、アニール温度が800℃未満であるダイヤモンド砥粒は、内部応力の緩和した低靱性砥粒であり半導体部材加工砥石として適した組織である。
【0042】
本発明において、ラマン分光測定により得られた波数分布は、得られたラマンピークの各波数での頻度を集計して得られる。また、波数の平均値は、各波数の頻度と波数とを乗じた合計を求め、求めた合計を度数で除して算出される。なお、波数シフトは、ダイヤモンド砥粒の内部応力を表す。そして、本発明では、得られたダイヤモンド砥粒の波数の平均値は、IIa型の天然ダイヤモンドより低い。波数の平均値がIIa型の天然ダイヤモンドより低い場合に低靭性を示すダイヤモンドとなり、砥石として用いた場合に高品質な加工面が長期間に渡り維持される。IIa型の波数の平均値から得られた波数の平均値を差し引き、差し引いた値をIIa型の波数の平均値で除して100を乗じて算出された差の割合は、好ましくは0.0001%以上であることが好ましく、より好ましくは0.0005%以上であり、更に好ましくは0.0010%以上であり、特に好ましくは0.0014%以上であり、最も好ましくは0.0020%以上である。上限は特に限定されないが、好ましくは1.0000%以下であり、より好ましくは0.1000%以下であり、更に好ましくは0.0100%以下であり、特に好ましくは0.0030%以下である。
【0043】
このように、本発明に係る半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒は、従来と比較して窒素近傍や炭素接合の損傷が適度に残存する。これは、技術常識に逆行するものであり、これにより初めて半導体部材加工砥石の耐久性能と高品質の加工面を得ることができる。
【0044】
また、本発明に係る半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒は、HPHTにより製造されるため、CVDで製造されたダイヤモンドとは異なり、結晶粒界がない単結晶質である。CVDダイヤモンドで損傷を制御しようとしても、粒界により砥粒全体に渡る内部応力の制御が困難であるため、程よい靱性を示すことができない。このため、より高い靱性および又は耐久性能を試みるダイヤモンド砥粒には、HPHTダイヤモンド砥粒を用いる必要がある。
【0045】
本発明の半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の粒径は0.25~50μmであることが好ましい。この範囲であれば粒子が大きすぎないために幅広い用途に使用できる。例えば、ハブブレードに用いる場合には1~30μmであることが好ましく、1~5μmであることが更に好ましい。グライドホイールに用いる場合には、0.25~50μmであることが好ましく、3~40μmであることが更に好ましく、3~30μmであることが最も好ましい。本発明では、例えば、レーザー回折散乱方式の粒度分布測定機(例えば、Malvern Instruments社製、型式:Mastersizer2000、マイクロトラックベル社製、型式:MicrotracMT3000、MicrotracUPAなど)で測定された体積平均径D50値を平均粒子径とすることができる。
【0046】
また、本発明のダイヤモンド砥粒は、炭素化合物に由来する結晶核および/または結晶欠陥を備えてもよい。従来のダイヤモンド粒子であれば、結晶核や結晶欠陥が残存すると、これらを含む面で結晶界面が形成され、多結晶になってしまう。しかし、本発明に係る単結晶ダイヤモンドは、これら及びその周辺を含む全領域において結晶方位が揃っており、合成されたダイヤモンド粒子は単結晶である。
【0047】
本発明に係る単結晶ダイヤモンド粒子は、後述するように、好ましくは金属触媒を用いずに製造してもよいために極めて純度が高く、且つ分解した炭素化合物の炭素以外の成分は単結晶ダイヤモンド粒子内に残留せずに外部に放出されるため、欠陥が極めて少ない。
【0048】
炭素化合物に由来する結晶核および/または結晶欠陥はTEM画像などで容易に確認することができる。ただ、この欠陥はたまたま試料の表面で観察されたものであり、粒子の奥にまで到達しているものではない。このようなわずかな欠陥が存在したとしても、結晶核およびその周辺を含む全領域において結晶方位が揃っている。また、結晶核や結晶欠陥は、後述する炭素化合物に由来するものである。結晶核や結晶欠陥は、生成前の炭素化合物の構造がある程度残ったものである。
【0049】
本発明に係る単結晶ダイヤモンド砥粒は、平滑な結晶面を有していてもよい。後述するように、イラディエーションおよび必要に応じてアニールを行った場合であっても、平滑面は維持される。また、平滑面を備える単結晶ダイヤモンド砥粒を用いることは、本発明に係る半導体部材加工砥石に用いる場合には、特に効果がある。単結晶ダイヤモンド砥粒が平滑面を備えると、応力が砥粒に均一に加わるため、均質な自生発刃が発生するため、加工砥石として高い性能が維持される。
【0050】
2.半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法
本発明に係る半導体部材加工砥石用ダイヤモンド砥粒の製造方法は、高温高圧法を用いた単結晶ダイヤモンドの製造方法であって、ダイヤモンド砥粒の製造方法が従来と異なる他は、従来と同様に製造することができる。原料は、黒鉛、無定型炭素などの炭素原料と触媒金属としてFe、Co、Ni、Mnなどを混合したものである。これらの原料の不純物濃度は100ppm未満であり、算術平均粒子径で5~1000μmであればよい。炭素原料と触媒金属との混合比は、3:7~7:3であればよい。
【0051】
これを、従来のHPHTで用いる圧力媒体に導入し、黒鉛の相平衡図において、ダイヤモンドの熱力学的安定領域の温度と圧力で合成する。圧力は6GPa以上が更に好ましく、温度は1400℃以上が更に好ましい。圧力は9.5GPa以下であることがより好ましく、8GPa以下であることが更に好ましく、温度は1700℃以下であることがより好ましく、1600℃以下であることが更に好ましい。圧力を上記範囲内にまで上げた後、温度を上記範囲にまで上げることが、ダイヤモンドの収率の観点から好ましい。HPHTに用いる合成装置としては、例えば、1軸プレスに代表されるベルト型などのアンビル・シリンダ型、アンビル対向型のトロイダル型やチェチェビツァ型、多軸プレスのテトラヘドラル型、マルチアンビル型などが挙げられる。
【0052】
原料が熱力学的安定領域に曝される時間は30分以下であることが好ましい。この時間内であれば、炭素源原料からダイヤモンドへの高い変換率が得られる。下限は特に限定されないが、1秒以上であればよい。
【0053】
圧力プロファイルと温度プロファイルは特に限定されず、装置の仕様の範囲内において、加圧速度と昇温速度を設定すればよい。
【0054】
次に、所定の砥粒径を得るためにHPHT法で製造したダイヤモンド粒子を粉砕してもよい。粉砕手段は特に限定されないが、ボールミル、ジェットミル等の粉砕機で行えばよい。得られた粉砕粉末の粒径は、前述のように、0.25~50μmであることが好ましい。
【0055】
そして、粉砕後のダイヤモンド粒子に、イオン、電子、陽子、中性子、およびガンマ線の少なくとも1種を照射してダイヤモンド砥粒を製造する。照射の条件は特に限定されず、従来と同程度であればよい。1×1015/cm~1×1019/cmの線量であればよい。照射エネルギは、30keV~12Mevの範囲で適宜調整されればよい。照射時のダイヤモンド粒子の温度は、ダイヤモンド砥粒の靱性が高くならないようにするため、後述するアニール温度よりも高くなければよい。室温であってもよく、100℃以上800℃未満であってもよい。
【0056】
その後、800℃未満の温度で10~240分間のアニールを行う。従来は、高い靭性を得るため、少なくとも1000℃以上という高温でアニールが行われていた。これに対し、本発明のダイヤモンド砥粒の製造では、なるべく靭性が向上しないように従来よりも低い温度でアニールを行う必要がある。アニール温度の下限は特に限定されないが、適度な靱性が得られるようにするため、室温以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。アニール時間は、ダイヤモンド砥粒の特性に大きく影響しないが、製造時間が長くなり過ぎないようにするため、上述の範囲内であればよく、30~120分間であることがより好ましい。昇降温速度は特に限定されないが、アニール装置が制御可能な範囲であれば特に限定されず、例えば5~20℃/min.であればよい。
【0057】
研磨・研削砥石に使用する場合、アニール温度は600℃以上800℃未満であることが好ましく、600~700がより好ましい。これらの砥石では、従来よりも低い靭性の範囲において、アニールによってわずかに靭性が向上することにより、加工時にダイヤモンド砥粒に微細な破砕が発生し、表面粗さが低くなるか又はチッピングが少なくなり、砥石の耐久性能が向上するとともに高品質の加工面が得られる。
【0058】
切断砥石に使用する場合、アニール温度は室温以上800℃未満が好ましく、室温~650℃がより好ましい。低靭性ダイヤモンド砥粒が、衝撃に近い応力が加わる切断砥石に適用されると、砥石の耐久性能が向上するとともに高品質の加工面が得られる。
【0059】
なお、上述した工程は、ダイヤモンド砥粒の製造、照射、アニールの順で説明したが、アニールと照射の順は逆でも所望の特性が得られる。
【0060】
また、ダイヤモンド砥粒の製造方法として、金属触媒を用いない原料を選択してもよい。例えば、無定形炭素および炭素化合物からなる原料を、炭素の相平衡図においてダイヤモンドの熱力学的安定領域の圧力および温度に曝すことによってダイヤモンドを合成してもよい。金属不純物を含まない場合、イラディエーションによるダイヤモンド結合への影響が顕著であるため、より低端数側にシフトすると考えられる。これは、アニール温度が800℃未満の範囲で顕著である。さらに、本発明に係る半導体加工砥石に用いるダイヤモンド砥粒は、金属不純物が含まないことに加えて、炭素化合物に由来する結晶核および/または結晶欠陥を備えるため、砥石に用いられることにより、より鋭利で均質な自生発刃が生成するために高品質の加工面が得られやすく、優れた加工性能が得られる。
【0061】
本発明に係る製造方法に用いる「無定形炭素」とは、非晶質であって、一定の結晶構造を有さない炭素等で構成されているものをいう。これらの中でも、取扱いが容易である固体のものが好ましく、カーボンブラックが好ましい。また、不可避的不純物を含んでもよい。
なお、本発明では、ダイヤモンドや黒鉛などの一定の結晶構造を有するものは、本発明における「無定形炭素」から除外される。また、後述する「炭素化合物」も「無定形炭素」から除外される。
【0062】
本発明に係る製造方法では、原料の純度に限定されず単結晶ダイヤモンドを製造することができる。好ましくは、カーボンブラックを含む無定形炭素は、不純物濃度が30ppm未満であり、算術平均粒子径で16~200nmである。より好ましくは16~100nmであり、さらに好ましくは16~70nmである。この範囲であれば、温度プロファイル及び圧力プロファイルを複雑化する必要がない。
【0063】
本発明で用いる炭素化合物とは、Cを含有する化合物であれば特に限定されず、例えば一酸化炭素、二酸化炭素、青酸、シアン酸塩、チオシアン酸塩を含む無機化合物材料、および有機材料を包含する。しかしながら、無定形炭素および金属塩は含まれない。炭素化合物は特に限定されるものではないが、タイヤ、トナー、毛髪、木材、廃プラスチックなど熱分解可能なもので炭素化する物質あれば、限定されない。このようなリサイクル資源を用いる場合、熱分解により炭素化が容易になるように小さく粉砕すれば原料として使用することができる。また、石炭、コークス、木炭、煤(スス)、ガラス状炭素、のような固体のもの、ナフサ(ガソリン)、灯油、軽油、重油のような液体のもの、および天然ガスのような気体のものも含まれる。
【0064】
また、炭素化合物は有機化合物が好ましく、室温で液体または固体であることが好ましく、原料として取り扱いやすいように、特に個体であることが好ましい。合成の際にダイヤモンドに寄与しない元素が残存せず合成の際に分解して外部に放出するようにするため、有機化合物は水素、酸素、炭素からなることがより好ましく、水素及び/または水酸基並びに炭素であることが特に好ましい。
【0065】
上記の他に、本発明で用いる炭素化合物は、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、および脂環式炭化水素を含む。それらは飽和炭化水素または不飽和炭化水素であってもよく、また、モノマー、オリゴマー、ポリマーであってもよい。
例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどのアルカン、エテン(エチレン)、プロペン(プロピレン)、ブテン(ブチレン)、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセンなどのアルケン、エチン(アセチレン)、プロピン(メチルアセチレン)、ブチン、ペンタイン、ヘキシン、ヘプチン、オクチン、ノニネ、デシンなどのアルキン、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカンなどのシクロアルカン、プロパジエン(アレン)、ブタジエン、ペンタジエン(ピペリレン)、ヘキサジエン、ヘプタジエン、オクタジエン、ノナジエン、デカジエンなどのアルカジエンアルカンが例示される。これらは、メタノール、エタノール、プロパノールなどの水酸基を備えるアルコール、スルホン基、ニトロ基、ニトロソ基、エポキシ基、アルデヒド基、アミノ基、アシル基、カルボニル基、カルボキシル基等などの置換基を有していてもよく、これらのオリゴマーであってもよく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリマーであってもよい。
【0066】
また、単結晶ダイヤモンドと同様に、ラマンスペクトルにおいて1330~1340cm-1付近にショルダピークが見られることが好ましい。さらに、有機化合物はsp混成軌道の炭素原子を有することが好ましく、炭素数は1~10が好ましく、4~6が好ましく、5が特に好ましい。特に、有機化合物としては多価アルコールが好ましい。多価アルコールとしては3価~8価のアルコールが好ましく、4価がより好ましい。多価アルコール中の炭素元素はすべてsp混成軌道を有することがさらに好ましい。
【0067】
ダイヤモンドはsp混成軌道を有する四面体構造であり、炭素化合物中にこの炭素構造が存在すると、合成の際に結晶核としての機能を果たす。このため、ダイヤモンドの成長をより効率的に促進させるためには、炭素化合物がsp混成軌道を有する炭素構造を含むことが好ましく、分岐を備えることが好ましい。更には、これらに加えて、炭素化合物がダイヤモンドの四面体構造に近い構造を有することが好ましい。これらに加えて、5つの炭素原子で四面体構造を成すことが最も好ましい。これらの末端に水酸基を有していてもよく、加熱すると脱離ガスとして放出される観点から、多価アルコールであることが好ましい。
【0068】
本発明において、上述の好ましい無定形炭素と炭素化合物を用いることにより、耐久性能に優れる単結晶ダイヤモンドを、更に、安価で収率が高く短時間で合成することができる理由は、以下のように推察される。
従来の高温高圧法では溶融金属と黒鉛を用いている。溶融金属が高温で溶けることによって黒鉛が溶融金属によって分解されてダイヤモンドが生成する。しかしながら、一定の結晶構造を有さない炭素である無定形炭素は、ランダムな構造を有するため、特定の構造を有するものと比較してダイヤモンドへの構造変換が容易である。このため、従来のように、溶融金属による黒鉛の構造変化に必要な高いエネルギは必要とされず,核物質としてsp混成軌道を有する有機化合物があれば、炭素からダイヤモンドへの転換の起点となり、ダイヤモンドの生成が容易であると推察される。
また、高温高圧環境下に曝された原料中の水酸基は、無定形炭素と反応し、COやCOとして脱離する。残存したsp混成軌道を有する炭素は、ダイヤモンド結晶の最小構造である結晶核となる。そして、この結晶核が起点になり、無定形炭素がダイヤモンド構造へと転換される。したがって、本発明では、欠陥が少なく耐久性能に優れる単結晶ダイヤモンド粒子を安価で且つ高い収率で製造することができると推察される。
【0069】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,2-ブタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチルトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、3-メチル-4,3-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステル、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジグリセリン、キシリトール、トリグリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸、ソルビトール、ペルセイトール、ショ糖等が挙げられる。
【0070】
これらの中でも、3価のアルコールとしては、グリセリン、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。4価のアルコールとしては、ペンタエリスリトール、ジグリセリンなどが挙げられる。5価のアルコールとしては、キシリトールなどが挙げられる。6価のアルコールとしては、ソルビトールなどが挙げられる。7価のアルコールとしては、ペルセイトールなどが挙げられる。8価のアルコールとしては、ショ糖などが挙げられる。これらの中で、4価のアルコールが好ましく、ペンタエリスリトールが最も好ましい。
【0071】
上述した炭素化合物は、1種もしくは2種以上を混合したものであってもよく、
上述した炭素化合物は、不可避的不純物を含有してもよい。不可避的不純物を含有する場合であっても、前述の効果に影響することはない。
【0072】
本発明において、無定形炭素と炭素化合物との組み合わせは、好ましくは無定形炭素がカーボンブラックであり、炭素化合物がsp3混成軌道および四面体構造を有する多価アルコールであり、最も好ましくはカーボンブラックとペンタエリスリトールの組み合わせである。この組み合わせであれば、原料の総重量に対して95%以上、好ましくは99%以上がダイヤモンドに転換することがある。
【0073】
無定形炭素と炭素化合物の混合比は、無定形炭素からダイヤモンドへの変換時の体積収縮による圧力減衰の観点から、質量比で、(無定形炭素):(炭素化合物)=7:3~4:6が望ましく、6:4~5:5であることが特に望ましい。無定形炭素と炭素化合物を上記範囲で秤量した後、出発原料を混合する。混合方法は一般的な方法でよい。例えば、上記出発原料を粉体混合機に投入し、大気圧もしくは減圧下で1~30分程度混合すればよい。これによって、100μm以下の混合粉末が得られる。
【0074】
前述のように混合した混合粉末を、金属触媒を用いた原料の場合と同様の条件でダイヤモンド砥粒を製造することができる。
【実施例
【0075】
本発明を以下の実施例により説明する。本発明が以下の実施例に限定されることはない。
本発明の効果を立証するため、表1に示すダイヤモンド砥粒を用い、ハブブレード、グラインドホイールを作成し、各々の評価を行った。
【0076】
(1) ダイヤモンド砥粒の作製
本実施例では、HPHTで合成されたIb型ダイヤモンド粒子を以下のように作製した。原料は、算術平均粒径が30μmの黒鉛(グラファイト)と算術平均粒径が30μmのFeNiCo合金を触媒金属として用い、黒鉛を50g、FeNiCo合金粉末を50g秤量し、粉体混合機に投入して混合粉末を得た。
【0077】
ダイヤモンドの合成は、「トロイド」型の高圧チャンバーで行った。加圧力は、HPHT法で一般的に用いられている室温でのBi、Tl、Baの相転移の近似曲線を用いて校正し、油圧計が示す圧力とした。加熱温度は、熱電対を用いて入力電力と温度で校正し、入力電力から求めた温度とした。原料の加熱は、グラファイト製ヒーターに電流を流す直熱加熱式で行った。これらの装置構成を用い、温度が1250℃であり、圧力が5.5MPaである条件で、大気中で混合粉末をHPHTに曝した。
【0078】
高温高圧法により合成された試料は、減圧完了時点で圧力媒体と混じった状態であるため、まずは篩で圧力媒体の粒子を除去し、次に脱イオン水で洗浄する。次に、粉末をブロモホルム(CHBg)の液体に入れて、カーボンブラックとダイヤモンド粒子とを分離する。ダイヤモンド粒子をろ過し、脱イオン水で洗浄し、ダイヤモンド粒子を得た。
【0079】
このようにして作製したダイヤモンド粒子に、水簸分級を行った。得られたダイヤモンド粒子の平均粒子径は、算術平均粒径で30μmある。得られたダイヤモンド粒子の平均粒径は、レーザー回折散乱方式の粒度分布測定機(例えば、Malvern Instruments社製、型式:Mastersizer2000)により体積平均粒子径D50を平均粒子径として計測された。
【0080】
そして、得られた砥粒に電子線を照射した。電子照射は、Isotronplc.社製の装置を用い、4.5MeV、20mA、50%の走査幅で2時間、実施した。試料が受けた全線量は1.95×1018/cmであった。その後、表1に示す条件で、大気中でアニールを行い、単結晶ダイヤモンド砥粒を得た。単結晶であることは、TEM画像により確認した。
【0081】
得られたダイヤモンド砥粒に対して、ラマン分光法測定を行った。ラマン分光法測定は、ラマン分光分析装置(WITech株式会社製装置名:レーザラマン分光装置、型番alpha300R)で行い、図1に示すように各ダイヤモンド砥粒の測定を行った。
【0082】
図1は、種々の条件で作成したダイヤモンドにおいて、ラマン分光法により785nmのレーザーを照射して得られたマッピング測定の結果を示す図である。図1中、IIaは天然ダイヤモンド、Ib(As Received)はIb型合成ダイヤモンド、XPはIb(AsReceived)に電子線を照射したダイヤモンド、XP-AN500はXPに500℃のアニール処理を施したダイヤモンド、XP-AN650はXPに650℃のアニール処理を施したダイヤモンド、XP-AN800はXPに800℃のアニール処理を施したダイヤモンド、XP-AN950はXPに950℃のアニール処理を施したダイヤモンド、XP-AN1100はXPに1100℃のアニール処理を施したダイヤモンド、の結果である。図1において、波数分布が高波数側にシフトすると圧縮応力により靭性が高くなる。一方で、波数分布が低波数側にシフトすると引張応力により靭性が低いことを示す。
各試料での波数分布の平均は表1に示すとおりである。ダイヤモンド砥粒の粒径は算術平均粒径で30μmである。
【0083】
【表1】
【0084】
表1では、「IIaとの差」が「-」である場合には、IIaより高波数側にシフトしていることを表し、「IIaとの差」が「+」である場合には、IIaより低波数側にシフトしていることを表す。図1および表1に示すように、XPの波数分布は、アニール温度によらず、Ib(AsReceived)と比較して低波数側にシフトしていることがわかる。そして、アニール温度が高くなるにつれて波数分布が高波数側にシフトし、800℃で天然のダイヤモンドより高波数側にシフトし、適切な研削・研磨砥石や切断砥石から逸脱する傾向にあることがわかる。このように、XPおよびアニール温度が800℃未満である低靭性ダイヤモンド砥粒は、半導体部材加工砥石として適した組織である。
【0085】
(1) ハブブレードによる評価
(1-1) ハブブレードの作製
アルミニウムで形成された環状の基台に半導体加工砥石用ダイヤモンド砥粒が分散されたニッケルめっき浴槽中で砥粒を含むニッケルめっき層を電着により形成した。そして、基台に形成されためっき層に砥粒が分散されてなる砥石を形成した。砥石に重なる基台の一部を薬液で除去した。保護層を除去する際には、保護層の一部を除去して砥石の保護層で覆われていた領域を露出させた。詳細は以下の通りである。
【0086】
はじめに、アルミニウムを含む材料で形成された環状の基台にニッケルめっきからなるニッケルめっき層を形成した。図2は、ハブブレードに保護層(ニッケルめっき層)を形成する工程の概要を説明するための断面模式図である。
【0087】
基台4とニッケル電極6とをめっき浴槽2内のニッケルめっき液に浸漬させた。基台4は、アルミニウムの金属材料で円盤状(円環状)に形成されており、その表面には、後述する砥石の形状に対応したマスク4aが設けられていた。なお、図2に示すように、外周部分において基台4の表面の一部が露出するマスク4aを使用した。
【0088】
基台4は、スイッチ8を介して直流電源10のマイナス端子(負極)に接続された。一方、ニッケル電極6は、直流電源10のプラス端子(正極)に接続された。
【0089】
基台4とニッケル電極6とをめっき浴槽2内のニッケルめっき液に浸漬させた後には、基台4を陰極、ニッケル電極6を陽極としてニッケルめっき液に直流電流を流し、マスク4aで覆われていない基台4の表面にニッケルめっき層を形成した。具体的には、図2に示すように、モータ等の回転駆動源12でファン14を回転させてニッケルめっき液を攪拌しながら、基台4と直流電源10との間に配置されたスイッチ8を短絡させた。これにより、マスク4aで覆われていない基台4の領域に保護層16であるニッケルめっき層が形成され、保護層16に砥粒とニッケルめっき層が積層され、ニッケルめっき層中に砥粒が概ね均等に分散された砥石を形成した。
【0090】
ニッケルめっき液は、硫酸ニッケルや硝酸ニッケル等のニッケル(イオン)を含む材料を溶解させた電解液であり、表1に示すダイヤモンド砥粒を、ニッケルめっき液Bの体積に対して混入した。ニッケルめっき液Aは、硫酸ニッケルを270g/L、塩化ニッケルを45g/L、ホウ酸を40g/L含むニッケルめっき液B(ワット浴)であり、本実施例では6Lを使用した。
【0091】
図3は、ハブブレードの断面模式図であり、図3(A)は、砥石を形成した後の基台4の状態を模式的に示す断面模式図であり、図3(B)は、図3(A)に示す基台4の外周部分を拡大した断面模式図である。図3(A)及び図3(B)に示すように、保護層16に重なる所望の厚さの砥石36が形成され、砥石の形成は終了した。
【0092】
その後には、砥石16に重なる基台4の一部を薬液で除去した。図4は、ハブブレードの断面模式図であり、図4(A)は、基台を除去した後の基台4の状態を模式的に示す断面図であり、図4(B)は、図4(A)に示す基台4の外周部分を拡大した断面図である。なお、図4(A)及び図4(B)に示すように、基台除去工程を実施する前には、砥石を形成する工程で使用したマスク4aを除去した。
【0093】
基台4を除去する際には、基台4の外周部分に薬液(エッチング用の薬液)を作用させて、図4(A)及び図4(B)に示すように、基台4の外周部分の一部を除去した。薬液としては、アルミニウムを溶解する水酸化ナトリウム溶液を用いた。これにより、基台4で覆われていた保護層16の一部が露出した。
【0094】
なお、本実施例では、基台4と砥石36との間に保護層16を設けたので、上述した薬液がニッケルめっき層(砥石36)を通過しても、この通過した薬液によって基台4が除去されることはない。
【0095】
その後には、保護層16の一部を除去して、砥石36の保護層16で覆われていた領域を露出させた。図5は、ハブブレードの断面模式図であり、図5(A)は、保護層を除去した後の基台4の状態を模式的に示す断面模式図であり、図5(B)は、図5(A)に示す基台4の外周部分を拡大した断面模式図である。
【0096】
保護層を除去する際には、基台の除去を経て露出した保護層16に薬液(エッチング用の薬液)を作用させて、図5(A)及び図5(B)に示すように、保護層16の一部を除去した。砥石36の一部が露出した。
【0097】
図6は、完成した電着砥石を模式的に示す斜視図である。上述の手順により、円盤状の基台4の外周部分に円環状の砥石部36が固定されたハブタイプの電着砥石1が完成する。
【0098】
(1-2) ハブブレードの評価
上述のように作製した各ハブブレードにおいて、ブレード消耗量、およびカット寿命を評価した。各々の評価条件は以下のとおりである。
厚さ400μmのシリコンウエハを被加工物とし、前述のように種々のダイヤモンド砥粒を用いたハブブレードとシリコンウエハとの接触部位に切削水を供給しながら切削加工を行った。なお、切削ブレードの回転速度は、約30000rpmとした。シリコンウエハの各分割予定ラインを切削する際のチャックテーブルの切削送り速度は120mm/秒で一定とし、100000mmを切削した。また、シリコンウエハに対する切込み深さは切り刃の最下端がシリコンウエハを切り抜け、ダイシングテープに30μm切り込む深さとした。
【0099】
・ブレード消耗量、およびカット寿命
図7は、Ib型合成ダイヤモンド(As-Received)、電子線照射後のダイヤモンド(XP)、および電子線照射後に650℃でアニールを行ったダイヤモンド(XP-Anneal)のダイヤモンド砥粒を用いた切断砥石でシリコン基板を切断した切断長と摩耗量との関係を示す図である。図8は、図7で示した3種類のダイヤモンドを用いたハブブレードのカット寿命を示すグラフである。なお、図9は、図8において、100000mmをカットした後におけるブレード消耗量において、As-Receivedを100%とした時の、各々のブレード消耗量の割合(%)を表したものである。図7および図8に示すように、本実施例のXPおよびXP-ANは、いずれもAs-Receivedよりブレード消耗量が70%程度少なく、カット寿命が長い結果が得られた。
【0100】
(2) グラインドホイールによる評価
(2-1) グラインドホイールによるウエハの研削および砥石の作製
フェノールからなる合成樹脂結合剤中に、表1に示す種々のダイヤモンド砥粒を分散させた結合剤組織によって砥粒が結合されたレジノイド研削砥石を作製した。ダイヤモンド砥粒の平均粒径は30μmであった。この研削砥石が装着された研削装置でシリコンウエハを研削する。詳細を以下で説明する。
【0101】
図9は、砥粒を用いた砥石が装着された研削装置の斜視図である。なお、同図におけるX軸方向は、研削装置100の幅方向であり、Y軸方向は研削装置100の奥行き方向であり、Z軸方向は鉛直方向である。
【0102】
研削装置100は、図9に示すように、被加工物であるウエハWを複数枚収容した第一のカセット111および第二のカセット112と、第一のカセット111からウエハWを搬出する搬出手段と第二のカセット112に研削済みのウエハWを搬入する搬入手段とを兼用する共通の搬出入手段113と、ウエハWの中心位置合わせを行う位置合わせ手段114と、ウエハWを搬送する搬送手段115,116と、ウエハWを吸引保持する3つのチャックテーブル117~119と、これらのチャックテーブル117~119をそれぞれ回転可能に支持して回転するターンテーブル120と、各チャックテーブル117~119に保持されたウエハWに加工としての研削処理を施す加工手段である研削手段30,40と、研削後のウエハWを洗浄する洗浄手段151と、研削後のチャックテーブル117~119を洗浄する洗浄手段152とを備える。
【0103】
上記研削装置100においては、第一のカセット111に収容されたウエハWが搬出入手段113の搬出動作によって位置合わせ手段114に搬送され、ここで中心位置合わせがされた後、搬送手段115によってチャックテーブル117~119のいずれかの上に搬送され載置された。同図ではチャックテーブル117上に搬送され載置された。本実施例における3つのチャックテーブル117~119は、ターンテーブル120に対して周方向に等間隔に配置され、それぞれが回転可能であるとともにターンテーブル120の回転に伴ってXY平面上を移動する構成である。チャックテーブル117~119は、ウエハWを吸引保持した状態において、所定角度、例えば反時計方向に120度回転することにより研削手段130の直下に配置されている。
【0104】
研削手段130は、チャックテーブル117~119に保持されたウエハWを研削するものであり、基台121のY軸方向における端部に立設された壁部122に設けられた。研削手段130は、壁部122においてZ軸方向に配設された一対のガイドレール131にガイドされ、かつモータ132の駆動により上下動する支持部133に支持され、支持部133の上下動に伴ってZ軸方向に上下動するように構成された。研削手段130は、回転可能に支持されたスピンドル134aを回転させるモータ134と、スピンドル134aの先端にホイールマウント135を介して装着されてウエハWの裏面を研削する研削ホイール136とを備える。研削ホイール136は、その下面に円環状に固着された粗研削用の研削砥石137を備える。
【0105】
粗研削は、以下のように行われた。研削ホイール136がモータ134によりスピンドル134aが回転することで回転し、かつZ軸方向の下方に研削送りされることで、回転する研削砥石137がウエハWの裏面に接触することにより、チャックテーブル117に保持され研削手段130の直下に位置づけられたウエハWの裏面を研削することで行われた。ここで、チャックテーブル117に保持されウエハWの粗研削が終了すると、ターンテーブル120が反時計方向に所定角度だけ回転することにより、粗研削されたウエハWが研削手段140の直下に配置されている。
【0106】
研削手段140は、チャックテーブル117~119に保持されたウエハWを研削するものであり、壁部122においてZ軸方向に配設された一対のガイドレール141にガイドされ、かつモータ142の駆動により上下動する支持部143に支持され、支持部143の上下動に伴ってZ軸方向に上下動するように構成される。研削手段140は、回転可能に支持されたスピンドル144aを回転させるモータ144と、スピンドル144aの先端にホイールマウント145を介して装着されてウエハWの裏面を研削する研削ホイール146とを備える。研削ホイール146は、その下面に円環状に固着された仕上げ研削用の研削砥石147を備えた。つまり、研削手段140は、研削手段130と基本構成は同一であり、研削砥石137,147の種類のみが異なる構成である。
【0107】
仕上げ研削は、以下のように行われた。研削ホイール146がモータ144によりスピンドル144aが回転することで回転し、かつZ軸方向の下方に研削送りされることで、回転する研削砥石147がウエハWの裏面に接触することにより、チャックテーブル117に保持され研削手段140の直下に位置づけられたウエハWの裏面を研削することで行われた。ここで、チャックテーブル117に保持されウエハWの仕上げ研削が終了すると、ターンテーブル120が反時計方向に所定角度だけ回転することにより、図11に示す初期位置に戻された。この位置で、裏面が仕上げ研削されたウエハWは、搬送手段116によって洗浄手段151に搬送され、洗浄により研削屑が除去された後に、第二のカセット112に搬出入手段113の搬入動作によって搬入された。なお、洗浄手段152は、仕上げ研削されたウエハWが搬送手段116によって取り上げられて空き状態となったチャックテーブル117の洗浄を、純水により行った。なお、他のチャックテーブル118、119に保持されたウエハWに対する粗研削、仕上げ研削、他のチャックテーブル118、119に対するウエハWの搬出入等もターンテーブル120の回転位置に応じて同様に行われた。
【0108】
ここで、研削砥石137,147は、ダイヤモンド砥粒を含む。研削砥石137,147は、ダイヤモンド砥粒をビトリファイドで混練しで構成されている。
【0109】
被加工物であるウエハWとしてシリコンウエハを用い、研削砥石137に用いたダイヤモンド砥粒の平均粒径は、30μmである。
【0110】
(2-2) グラインドホイールの評価
グラインドホイールの評価は、研削を行った後のウエハの表面粗さで行われた。
【0111】
・表面粗さ
各々の砥石を用いて研削されたシリコンウエハの表面粗さは、研磨面をChapman MP3300を用いて実施された。図10は、図7で示した3種類のダイヤモンド砥粒を用いたグラインドホイールで研削した研削面の表面粗さを示すグラフである。図10に示すように、本実施例のXPおよびXP-ANは、いずれもAsと比較して表面粗さが小さい結果が得られた。実施例の中でも、グラインドホイールにおいては、XPの表面粗さよりXP-ANの表面粗さの方が優れることがわかった。
【0112】
ダイヤモンド粒子の原料を以下のように変更した。非晶質炭素として算術平均粒径40nmのカーボンブラック粉末(商品名:東海カーボン株式会社製、トーカブラック#4500)、算術平均粒径20~40nmの炭を使用し、ペンタエリスリトール(東京化成工業株式会社、商品コード(P0039))、キシリトール(東京化成工業株式会社、商品コード(X0018))を表2に示すように秤量し、圧力、温度、処理時間を表1の条件に設定し、粉末混合機に入れて混合粉末を得た。
これ以外は、上記と同様にしてダイヤモンド砥粒を製造し、上記と同様にして評価した。その結果、表2の試料1~6のいずれにおいても、上記結果と同等以上の結果が得られた。
【0113】
【表2】
【符号の説明】
【0114】
1 電着砥石
2 めっき浴槽
4 基台
4a マスク
6 銅電極
8 スイッチ
10 直流電源
12 回転駆動源
14 ファン
16 保護層(銅メッキ層)
22 めっき浴槽
26 ニッケル電極
28 スイッチ
30 直流電源
32 回転駆動源
34 ファン
36 砥石部
A 銅めっき液
B ニッケルめっき液
C 添加剤
10研削装置
11 第一のカセット
12 第二のカセット
13 搬出入手段
15,16 搬送手段
17~19 チャックテーブル
20 ターンテーブル
30,40 研削手段
37,47 研削砥石
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10