(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】レーザー光源及び光電子顕微鏡
(51)【国際特許分類】
H01S 3/136 20060101AFI20240927BHJP
G01N 23/227 20180101ALI20240927BHJP
G02B 21/00 20060101ALI20240927BHJP
G02F 1/37 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
H01S3/136
G01N23/227
G02B21/00
G02F1/37
(21)【出願番号】P 2021524838
(86)(22)【出願日】2020-06-01
(86)【国際出願番号】 JP2020021660
(87)【国際公開番号】W WO2020246438
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2019103808
(32)【優先日】2019-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】503098724
【氏名又は名称】株式会社オキサイド
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辛 埴
(72)【発明者】
【氏名】谷内 敏之
(72)【発明者】
【氏名】今井 信一
(72)【発明者】
【氏名】藤浦 和夫
(72)【発明者】
【氏名】古川 保典
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-073970(JP,A)
【文献】特開2014-059578(JP,A)
【文献】特開2004-055695(JP,A)
【文献】特開2004-070338(JP,A)
【文献】特開2000-340159(JP,A)
【文献】特開2014-191220(JP,A)
【文献】国際公開第99/014631(WO,A1)
【文献】特表2010-516476(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0005566(US,A1)
【文献】LIU et al.,Development of a vacuum ultraviolet laser-based angle-resolved photoemission system with a superhigh,REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS,米国,American Institute of Physics,2008年,Vol.79,023105
【文献】KANEDA et al.,CW Solid-State Ultraviolet Laser for Optical Disk Mastering Application, IEEE JOURNAL OF SELECTED TOPICS IN QUANTUM ELECTRONICS,米国,IEEE,1997年,VOL.3,NO.1,pp.35-39
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00-3/30
G02B 19/00-21/00
G02B 21/06-21/36
G01N 23/00-23/2276
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-7/00
IEEE Xplore
Scitation
JJAP
Optica
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コヒーレント光を出射する光電子顕微鏡用のレーザー光源であって、
連続波コヒーレント光を出射する第1レーザー光源と、
前記連続波コヒーレント光が循環する光路と、前記光路上に配置された非線形光学素子とを有する光共振器と、
前記連続波コヒーレント光より短波長であり、出力の波形が略矩形である準連続波コヒーレント光を出射する準連続波光源とを備え、
前記連続波コヒーレント光が前記光共振器に入射されて前記光路を循環している状態で、前記光共振器外より前記準連続波コヒーレント光が前記非線形光学素子に入射すると、非線形光学効果による和周波発生により、前記非線形光学素子から前記準連続波コヒーレント光より短波長の前記コヒーレント光が出射し、
前記連続波コヒーレント光の波長が750nmから2100nmであり、
前記準連続波コヒーレント光の波長が210nmから360nmであ
り、
前記コヒーレント光が、前記光電子顕微鏡が撮影している時間はハイレベルとなり、少なくとも測定試料表面の前記コヒーレント光の照射スポットの位置を移動させる時間はローレベルとなるように、前記レーザー光源は制御される、
レーザー光源。
【請求項2】
前記非線形光学素子が、CLBO又はβ-BBOである
請求項1に記載のレーザー光源。
【請求項3】
前記準連続波光源は、連続波コヒーレント光を出射する第2レーザー光源と、前記第2レーザー光源から出射された前記連続波コヒーレント光の出力の波形を略矩形に変調する光変調器とを有する
請求項1又は2に記載のレーザー光源。
【請求項4】
前記準連続波光源は、連続波コヒーレント光を出射する第2レーザー光源を有し、
前記第2レーザー光源が、発振と、発振の停止とを繰り返して前記準連続波コヒーレント光を生成する
請求項1又は2に記載のレーザー光源。
【請求項5】
前記準連続波光源は、出力がハイレベルとなるタイミングと前記光電子顕微鏡の撮影タイミングとが同期するように制御される
請求項1~4のいずれか1項に記載のレーザー光源。
【請求項6】
前記準連続波コヒーレント光の出力のデューティ比が、50%以下である
請求項1~5のいずれか1項に記載のレーザー光源。
【請求項7】
前記準連続波コヒーレント光のピーク出力が1W以上である
請求項1~6のいずれか1項に記載のレーザー光源。
【請求項8】
前記準連続波光源が波長可変である
請求項1~7のいずれか1項に記載のレーザー光源。
【請求項9】
前記準連続波光源が波長可変チタンサファイアレーザーを有し、
前記準連続波コヒーレント光が、前記波長可変チタンサファイアレーザーの第2高調波又は第3高調波から生成される
請求項1~8のいずれか1項に記載のレーザー光源。
【請求項10】
前記第2レーザー光源が、前記連続波コヒーレント光をマルチモード発振する
請求項3又は4に記載のレーザー光源。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のレーザー光源を備える光電子顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光源及び光電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
高いエネルギーをもつレーザーを励起光として試料に照射し、試料から放出された光電子を検出してイメージングする光電子顕微鏡が知られている。光電子顕微鏡は励起光の照射により物質から放出された光電子を拡大・結像する電子投影型の顕微鏡である。この技術は材料の化学マッピングや磁気イメージングに利用されて約20nmの空間分解能が得られている。特に、励起光として仕事関数より大きい光子エネルギーの励起光を用いると、仕事関数の大きさに強く依存したコントラストが得られ、導電性や価数、結晶性、磁性などを可視化することが可能である。
【0003】
このように、光電子顕微鏡は、高い分解能で材料の構造や物性を2次元に可視化できる装置であり、多くの分野での産業利用が期待される。その実現には、高分解能を維持したまま測定時間を短縮することが求められる。測定時間を短縮するためには、高いエネルギーを有する励起光を高強度で試料に照射して十分な光電子密度を得て高いコントラストを得ることが必要である。
【0004】
例えば、特許文献1には、和周波発生の技術を用いて高いエネルギーを有する(波長の短い)CW(Continuous Wave)レーザーを生成する手法が開示されている。具体的には、特許文献1には、循環光路上に非線形光学素子を有する共振器に第1レーザー及び第2レーザーを入射させ、第1レーザーを循環光路に循環させて非線形光学素子に通過させるとともに、第2レーザーを非線形光学素子にシングルパスさせることにより和周波を発生させて、第2レーザーよりも波長の短い第3レーザーを出力するレーザー装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のレーザー装置は、共振器内に基本波光(第1レーザー)を閉じ込め、共振器内の光電界を強調するタイプであり、共振器内の光路長を厳密に制御する必要がある。しかしながら、出力する第3レーザーの強度をあげるために、第1レーザー及び第2レーザーの強度を高めると、過大な熱負荷などによって非線形光学素子などの共振器内の光学部品の屈折率が変化し、屈折率の変化によって共振器長が変化する。その結果、共振器で第2レーザーが発振されなくなり、レーザー装置が停止してしまうという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、高エネルギーで高出力のレーザー光源及び当該レーザー光源を用いた光電子顕微鏡を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のレーザー光源は、コヒーレント光を出射する光電子顕微鏡用のレーザー光源であって、連続波コヒーレント光を出射する第1レーザー光源と、前記連続波コヒーレント光が循環する光路と、前記光路上に配置された非線形光学素子とを有する光共振器と、前記連続波コヒーレント光より短波長であり、出力の波形が略矩形である準連続波コヒーレント光を出射する準連続波光源とを備え、前記連続波コヒーレント光が前記光共振器に入射されて前記光路を循環している状態で、前記光共振器外より前記準連続波コヒーレント光が前記非線形光学素子に入射すると、前記非線形光学素子から前記準連続波コヒーレント光より短波長の前記コヒーレント光が出射する。
【0009】
本発明の光電子顕微鏡は、上記のレーザー光源を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、共振器内の光路を連続波コヒーレント光が循環している状態で、出力の波形が略矩形である準連続波コヒーレント光を非線形光学素子に入射させ、当該準連続波コヒーレント光より短波長のコヒーレント光を出射させるので、非線形光学結晶での光の吸収がない又は少ない期間が存在し、その分だけ光の吸収を抑制でき、非線形光学素子における熱負荷を軽減し、レーザー光源の実効的な出力向上を図ることができる。よって、通常よりも高強度で照射し測定スループットを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態のレーザー光源を用いた光電子顕微鏡の全体構成を示す概略図である。
【
図2】本発明の実施形態のレーザー光源の全体構成を示す概略図である。
【
図3】第2の波長の光の出力と第3の波長の光の出力との関係を説明する模式図である。
【
図4】光電子顕微鏡での撮影のタイミングと、準連続波コヒーレント光の出力がハイレベルとなるタイミングとを同期させる方法を説明する模式図である。
【
図5】波長266nmの準連続波コヒーレント光の平均出力と、波長213nmの準連続波レーザー7の平均出力との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6Aは、レーザー光源が出射したコヒーレント光が短波長の場合の検出深さを示す模式図であり、
図6Bは、レーザー光源が出射したコヒーレント光が長波長の場合の検出深さを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1)本発明の実施形態のレーザー光源を用いた光電子顕微鏡について
本実施形態のレーザー光源は、光電子顕微鏡の光源として用いられる。以下では、
図1に示す光電子顕微鏡1の光源として用いた場合を例として、本実施形態のレーザーを説明する。なお、以下で説明する光電子顕微鏡1は光電子顕微鏡の一例であり、光電子顕微鏡1の構成に種々の変更を加えてもよい。また、他の光電子顕微鏡の光源としても本発明の実施形態のレーザー光源を用いることができる。
【0013】
まずは、光電子顕微鏡1の全体構成について説明する。
図1に示すように、光電子顕微鏡1は、レーザー光源2と、波長板3と、集光レンズ4及び対物レンズ6で構成される照射レンズ系と、ビームセパレータ5と、チャンバー10と、エネルギー調整機構13と、電源14と、第1電子レンズ系21と、エネルギー分析器22と、エネルギースリット23と、第2電子レンズ系24と、電子ビーム検出器25とを備えている。
【0014】
レーザー光源2は、コヒーレント光としての準連続波レーザー7を出射するレーザー発振器である。準連続波レーザー7は、出力(強度)の波形が略矩形をしたレーザーであり、レーザーの波形に、出射状態(ハイレベルともいう)と休止状態(ローレベルともいう。)が繰り返し現れる。なお、出力が休止状態のときは、準連続波レーザー7の出力が休止しているのが好ましいが、完全に休止しておらず微弱な出力があってもよい。このように本明細書では、「準連続波」という語句は、出力の波形が略矩形であることを意味する。
【0015】
また、「略矩形」とは、波形が矩形であることに加え、波形が矩形に近い形状であることを意味する。例えば、波形が、矩形波の角が丸まった形状の波、矩形波の四角が下辺より上辺が短い台形状となった波、矩形波の上辺が円弧状となった波、円弧状の波、矩形波の上辺が波打っている形状の波、少なくとも1つ以上のピークを有する波などである。本実施形態では、準連続波レーザー7は、出力がこのような波形をしたレーザーである。準連続波レーザー7の波長は、準連続波レーザー7の照射により測定対象である測定試料30から光電子が放出されるように、準連続波レーザー7のエネルギーhνが測定試料30の仕事関数φよりも高くなるように選定している。より具体的には、測定試料30の観察領域の最表層を構成する物質の仕事関数φよりも高くなるようにする。このように、準連続波レーザー7の波長は、測定試料30を構成する物質の仕事関数φに応じて適宜選定される。レーザー光源2の構成については後述する。
【0016】
波長板3は、準連続波レーザー7の偏光を、直線偏光と左右円偏光とに切替えるための素子である。通常は、波長板3により準連続波レーザー7を直線偏光とするが、磁気円二色性を利用して測定試料30の磁気特性を測定する場合、波長板3により準連続波レーザー7を左右円偏光とする。
【0017】
照射レンズ系は、集光レンズ4で準連続波レーザー7を対物レンズ6に集光し、対物レンズ6で準連続波レーザー7を測定試料30の表面に集光して、準連続波レーザー7を測定試料30に照射させる。対物レンズ6は、測定試料30の表面近傍に焦点位置が来るように配置されている。集光レンズ4、対物レンズ6は、公知のレンズであり、準連続波レーザー7の照射領域、すなわち、測定試料30の観察領域のサイズなどに応じて適宜選定することができる。本実施形態では、照射レンズ系は、測定試料30の表面の一部に準連続波レーザー7をスポット状に集光するが、測定試料30の表面全体に準連続波レーザー7を集光することもできる。表面全体に集光することで、測定試料30全体を一度に観察することができる。ビームセパレータ5については後述する。
【0018】
チャンバー10は、気密性が高い構造をしており、図示しないターボ分子ポンプなどの真空ポンプが接続されている。チャンバー10は、真空ポンプにより、内部空間を所定真空度(1.0×10
-5~10
-8Torr)にされる。チャンバー10内には、測定試料30を載置するステージ11と対物レンズ6とが配置されている。なお、本実施形態の場合、チャンバー10とビームセパレータ5とが接続されており、ビームセパレータ5に対物レンズ6が固定されているが、
図1では便宜上、ビームセパレータ5と対物レンズ6とを別体の構成として示している。ステージ11には駆動機構12が接続されており、駆動機構12によりステージ11を互いに直交する3軸方向に移動させることができる。本実施形態の場合、ステージ11は、測定試料30を載置する載置面11aが準連続波レーザー7の光軸と直交するように配置されている。
【0019】
測定試料30は、準連続波レーザー7が表面に垂直に照射されるように、チャンバー10内のステージ11の載置面11aに載置される。
【0020】
さらに光電子顕微鏡1は、電源14を備えており、電源14の負極側がステージ11に接続され、正極側がグランドGに設置されて、測定試料30に負の電圧を印加することができる。電源14は、高電圧を出力できる一般的な電源である。本実施形態の場合、電源14によって、測定試料30に-20kVの電圧が印加されている。このため、測定試料30と、電圧を印加されていないビームセパレータ5との間に電界が生じ、この電界により、測定試料30から光電子を放出し易くすると共に、放出された光電子をビームセパレータ5へ加速し、電子ビーム27をビームセパレータ5へ引き込むようにしている。本明細書では、放出された多数の光電子をまとめて電子ビーム27と称している。
【0021】
光電子顕微鏡1は、電源14とステージ11の間にエネルギー調整機構13を備えている。エネルギー調整機構13は、所定電圧STVを出力する電源である。エネルギー調整機構13と電源14とは、直列に接続されており、STVと電源14の出力電圧との合計電圧を測定試料30に印加できる。エネルギー調整機構13は、STVの値を調整することで、測定試料30から放出された光電子のエネルギーEpを調整できる。なお、光電子のエネルギーEpは、本実施形態の場合、光電子の運動エネルギーをEkとすると、Ep=20kV+Ek-STVとなる。光電子の運動エネルギーEkは、測定試料30内の電子が準連続波レーザー7により励起されたことにより生じた運動エネルギーの値であり、物質中での電子のエネルギーEにより変わる。そのため、光電子のエネルギーEpも、物質中での電子のエネルギーEに依存する。
【0022】
ビームセパレータ5は、集光レンズ4で対物レンズ6に集光された準連続波レーザー7をそのまま透過させると共に、測定試料30から放出され、入射した電子ビーム27を第1電子レンズ系21の方向に偏向させ、準連続波レーザー7のパスと電子ビーム27のパスとを分離させる。ビームセパレータ5は、偏向した電子ビーム27の出射口に接続された第1電子レンズ系21に電子ビーム27を入射させる。第1電子レンズ系21は、複数の電子レンズで構成されており、入射した電子ビーム27を集束させる。第1電子レンズ系21は、一端がビームセパレータ5に接続され、他端がエネルギー分析器22に接続されており、電子ビーム27を集束させてエネルギー分析器22に入射させる。
【0023】
エネルギー分析器22は、公知のエネルギー分析器であり、入射した電子ビーム27を光電子のエネルギーEpごとに分離し、エネルギーEpごとに分離された電子ビーム27を出射する。エネルギー分析器22は、半球形状をしており、半球の平面部にビームの入射口と出射口とが設けられている。エネルギー分析器22は、入射口に第1電子レンズ系21が接続され、出射口に第2電子レンズ系24が接続されており、第1電子レンズ系21から入射した電子ビーム27を、光電子のエネルギーEpごとに分離し、第2電子レンズ系24に出射する。
【0024】
エネルギー分析器22の出射口には、エネルギースリット23が設けられている。エネルギースリット23は、板状部材の表面に、貫通した溝部が直線状に形成された通常のスリットである。エネルギースリット23は、溝部に照射された電子ビーム27を通過させ、板状部材に照射された電子ビーム27を遮断する。なお、実際上、板状部材に照射された電子ビーム27が完全に遮断されるわけではなく、これらの電子ビーム27の一部もエネルギースリット23を通過する。板状部材に照射された電子ビーム27の一部のみが通過するので、エネルギースリット23により、溝部に照射された電子ビーム27以外の電子ビーム27の強度が低下される。本実施形態では、エネルギースリット23の溝部の幅を40μmとしている。
【0025】
このようなエネルギースリット23が、エネルギー分析器22の出射口に配置されているので、エネルギー分析器22で分離された電子ビーム27の内、エネルギースリット23を通過した電子ビーム27が第2電子レンズ系24に入射する。このとき、エネルギー分析器22で光電子のエネルギーEpごとに電子ビーム27が分離されているので、電子ビーム27の出射口内の通過位置も、光電子のエネルギーEpごとに決まっている。そのため、エネルギースリット23の位置を調整することで、電子ビーム検出器25で検出する光電子のエネルギーEpを選択できる。光電子のエネルギーEpは、物質中(測定試料30中)での電子のエネルギーEに依存するので、エネルギースリット23の位置を変えることで、測定試料30中でのエネルギーEを選択し、検出する測定試料30中の電子を選択できる。
【0026】
一方で、光電子のエネルギーEp=20kV+Ek-STVであるので、STVの値を変えることで、光電子のエネルギーEpを変えることができる。したがって、STVの値を変えることで、電子ビーム検出器25で検出する光電子のエネルギーEpを選択でき、検出する測定試料30中の電子を選択できる。
【0027】
第2電子レンズ系24は、複数の電子レンズで構成されており、入射した電子ビーム27を電子ビーム検出器25に投影する。電子ビーム検出器25は、2次元の光電子検出器であり、投影された電子ビーム27の光電子を検出し、検出した光電子の強度に基づいて測定試料30の画像を生成する。電子ビーム検出器25は、図示しないPCが接続されており、生成された画像をPCに送出し、PCの記憶装置に画像を保存させたり、画像をPCのモニタに表示して光電子顕微鏡1の操作者に確認させたりできる。
【0028】
次に光電子顕微鏡1の動作について説明する。まず、光電子顕微鏡1は、チャンバー10内のステージ11の載置面11a上に測定試料30が載置される。その後、光電子顕微鏡1は、チャンバー10内が真空にされ、駆動機構12がステージ11を初期位置に移動させると共に対物レンズ6の焦点位置が測定試料30の表面近傍となるようにステージ11を移動させる。光電子顕微鏡1は、レーザー光源2をオンにし、測定試料30に準連続波レーザー7を照射する。
【0029】
上述の通り、準連続波レーザー7のエネルギーhνが測定試料30の最表層(本実施形態ではPt)の仕事関数φよりも高くなるように準連続波レーザー7の波長を選定しているので、測定試料30に準連続波レーザー7が照射されると、光電効果が生じ、測定試料30の電子が励起され、準連続波レーザー7が照射された領域から多数の光電子(電子ビーム27)が放出される。ビームセパレータ5は、電子ビーム27を第1電子レンズ系21に入射させ、第1電子レンズ系21は電子ビーム27をエネルギー分析器22に集光する。
【0030】
エネルギー分析器22は、電子ビーム27を光電子のエネルギーEpごとに分離し、エネルギースリット23によって第2電子レンズ系24に入射する電子ビーム27が選択される。第2電子レンズ系24は、エネルギースリット23を通過した電子ビーム27を電子ビーム検出器25に投影し、電子ビーム検出器25は、投影された電子ビーム27の光電子を検出し、検出した光電子の強度に基づいて画像を生成する。このようにして、光電子顕微鏡1は、測定試料30の準連続波レーザー7が照射された領域を撮影する。
【0031】
光電子顕微鏡1は、初期位置での撮影の終了後、駆動機構12によってステージ11を移動させ、測定試料30表面の準連続波レーザー7の照射スポットの位置を移動させ、再度、測定試料30の準連続波レーザー7が照射された領域を撮影する。このように光電子顕微鏡1は、撮影と移動を繰り返すことで、測定試料30の表面全体を走査し、測定試料30の表面全体を撮影した画像を取得する。ステージの移動量は、準連続波レーザー7の照射スポットの大きさなどを考慮して、測定試料30の表面全体を撮影した画像を生成できるように適宜設定される。
【0032】
(2)本発明の実施形態のレーザー光源について
次に、本実施形態のレーザー光源について、まずは、レーザー光源の全体構成について説明する。
図2に示すようにレーザー光源2は、連続波コヒーレント光100aを出射する第1レーザー光源100と、連続波コヒーレント光100aが循環するように構成された光路と光路上に配置された非線形光学素子114とを有する光共振器110と、連続波コヒーレント光100aより短波長であり、出力の波形が略矩形である準連続波コヒーレント光120aを出射する準連続波光源120とを備えている。本実施形態では、レーザー光源2は、さらに、光検出器103と、光検出器103の検出信号に基づいて後述する高反射ピエゾドライブミラー112を制御する制御装置101とを備えている。
【0033】
第1レーザー光源100は、連続波コヒーレント光100aとしてのCWレーザーを発振するCWレーザー光源である。CWレーザー光源としては、例えば、波長1064nmで発振する単一周波数動作のNd:YAGレーザーを用いることができる。Nd:YAGレーザー以外にも、同様の周波数で単一周波数動作するNdやYbを活性物質とするファイバーレーザー、その他の母結晶や構成元素が同じか、近いセラミクス、ポリクリスタルを母体とする固体レーザー及び半導体レーザーなどを用いることができ、単一周波数動作レーザーで、共振器長制御ができる範囲の周波数安定度が得られるものであれば、出力に応じて適宜選ぶことができる。本実施形態では、第1レーザー光源100として、発振周波数安定度1MHz以下、連続波出力10WでCWレーザーを出力する単一周波数動作Nd:YAGレーザー(波長1064nm)を用いている。連続波コヒーレント光100aの波長範囲は、750nmから2100nmであることが望ましい。連続波コヒーレント光100aを発振する第1レーザー光源100としては、光共振器110による電界強調のため波長スペクトルが単一周波数、狭帯域であるレーザー光源が良い。そして、このようなレーザー光源を利用することができ、かつ、当該レーザー光源が発振するレーザーを基本波として光電子顕微鏡に好適な紫外域の和周波を発生させることができる波長が、750nmから2000nmである。
【0034】
例えば、レーザー光源は、波長750nmから1000nmの間では、単一周波数の半導体レーザー光源から選ぶことができる。また、波長1030nmから1080nmの間では、Yb(イットリビウム)を活性物質とする、固体レーザー、ファイバーレーザー、又はその組み合わせのハイブリッドレーザーから選ぶことができる。さらに、波長950nmから1080nmの間では、Nd(ネオジウム)を活性物質とする固体レーザーから選ぶことができる。加えて、波長1400nmから1600nmまでの間では、Er(イリビウム)を主とした活性物質とするファイバーレーザーから選ぶことができる。さらに、波長1900nmから2100nmまでの間では、Tm(ツリウム)を活性物質とする固体レーザー、ファイバーレーザーから選ぶことができる。
【0035】
光共振器110は、インピーダンス整合ミラー111と、高反射ピエゾドライブミラー112と、第1高反射ミラー113と、第2高反射ミラー115と、非線形光学素子114とを備える。光共振器110は、これら4枚のミラーで光路を構成しており、インピーダンス整合ミラー111を透過して光共振器110内に入射した連続波コヒーレント光100aがインピーダンス整合ミラー111、高反射ピエゾドライブミラー112、第1高反射ミラー113、第2高反射ミラー115、インピーダンス整合ミラー111の順に光路を循環する。非線形光学素子114は、透過したレーザー光に例えば波長変換などの非線形光学効果を生じさせる結晶であり、第1高反射ミラー113と第2高反射ミラー115の間の光路上に配置され、入射した連続波コヒーレント光100aが光路を循環するときに透過するようになされている。非線形光学素子としては、例えば、CLBO(CsLiB6O10:セシウムリチウムボレート)結晶又はβ-BBO(β―BaB2O4:ベータホウ酸バリウム)結晶などを用いることができる。
【0036】
インピーダンス整合ミラー111は、第1レーザー光源100で発振された波長が1064nmの連続波コヒーレント光100aを光共振器110に入射させる導入ミラーであり、波長1064nmの光に対して高透過となっている。インピーダンス整合ミラー111は、波長1064nmの光に対して光共振器110を構成する非線形光学素子114の内部損失及び波長変換による損失さらに、上述の4つのミラーの各光学損失分をあわせた損失、即ち、光共振器110の内部損失にちょうど見合った透過率となるように選定されている。これにより連続波コヒーレント光100aと光共振器110とはインピーダンス整合し、連続波コヒーレント光100aに対して高反射な光共振器110でありながら、連続波コヒーレント光100aの波長と光共振器110の共振器長が整合した場合に、光共振器110を透過することができるようになっている。即ち、この条件が揃ったときに、連続波コヒーレント光100aは光共振器110内に取り込まれ、かつ、光共振器110内の連続波コヒーレント光100aの電界強度は最大となる。なお、共振器長は、上述の連続波コヒーレント光100aが循環する光路の長さである。
【0037】
第1高反射ミラー113は、波長1064nmの光に対して99%の反射率を有する低損失なミラーである。第2高反射ミラー115は、波長1064nmの光を所定の透過率で透過できるミラーであり、光共振器110外に配置された光検出器103に循環する連続波コヒーレント光100aの一部が入射するようになされている。
【0038】
高反射ピエゾドライブミラー112は、波長1064nmの光に対して99%の反射率を有する低損失なミラーと、ミラー台座に設置されたピエゾ素子とで構成され、配線102によって制御装置101に接続されている。高反射ピエゾドライブミラー112は、光検出器103の出力により、ピエゾ素子が制御装置101によってドライブされて連続波コヒーレント光100aの波長と共振器長が整合するように帰還制御されるようになされている。なお、高反射ピエゾドライブミラー112のピエゾ素子の代わりに、ボイスコイルモーターを用いる事が可能である。また、ピエゾ素子又はボイスコイルモーターそれぞれを単体で用いるのではなく、ハイブリッド型として両方を同時に用いることも可能である。また、連続波コヒーレント光100aの周波数を変えることで、連続波コヒーレント光100aの波長と光共振器110の共振器長を整合するようにしてもよい。この場合、光検出器103の出力を第1レーザー光源100にフィードバックし、連続波コヒーレント光100aの周波数を制御して、波長が共振器長に整合するように制御する。
【0039】
準連続波光源120は、連続波コヒーレント光100aより短波長であり、出力の波形が略矩形である準連続波コヒーレント光120aを出射する光源である。準連続波光源120は、出射する準連続波コヒーレント光120aが光共振器110外より非線形光学素子114に直接入射するにように配置される。準連続波光源120は、連続波コヒーレント光100aより短波長の連続波コヒーレント光を出射する第2レーザー光源121と、第2レーザー光源121から出射された連続波コヒーレント光の出力の波形を略矩形にする波形変換部122とを有している。
【0040】
第2レーザー光源121は、連続波コヒーレント光としてのCWレーザー(連続波コヒーレント光100aより短波長)を発振するCWレーザー光源である。本実施形態では、第2レーザー光源121として、266nm単一波長を連続発振する深紫外固体レーザー(オキサイド社製:製品名Frequad-M)を用いており、連続波出力を1Wとしている。なお、第2レーザー光源121の波長は、210nmから360nmの範囲であることが好ましい。この範囲の波長であれば、後述する非線形光学素子114での非線形効果による波長変換が生じやすく、また、レーザー光源2が高いエネルギーのコヒーレント光を出射できるからである。波形変換部122は、CWレーザーの出力の波形を矩形などの形状に変調する光変調器である。光変調器は、矩形波であるキャリア波でCWレーザーの出力を変調することで、出力波形が略矩形のレーザーを生成する。このようにして、準連続波光源120は、連続波コヒーレント光100aより短波長であり、出力の波形が略矩形である準連続波コヒーレント光120aを生成し、非線形光学素子114へ出射する。
【0041】
なお、光変調器は、キャリア波の波形を変えることで、レーザーの出力の波形を任意の波形に変調することができる。波形変換部122としては、光変調器の代わりに光チョッパーを用いることもできる。また、準連続波光源120は、波形変換部122を有していなくてもよい。この場合、第2レーザー光源121の印加電流値を制御し、第2レーザー光源121が出力するCWレーザーの強度を変えることで、レーザーの出力の波形を矩形波にし、準連続波コヒーレント光120aを生成する。さらには、第2レーザー光源121でのCWレーザーの発振と発振の停止を繰り返すことでも準連続波コヒーレント光120aを生成することができる。これらの準連続波コヒーレント光120aの生成方法のうち、光変調器を用いる方法及び印加電流値制御を行う方法については、準連続波コヒーレント光120aのデューティ比のみならず、出力の波形を矩形波以外の形状に変換することができる。
【0042】
ここで、
図2に示すレーザー光源2において、第1レーザー光源100で発振された波長1064nm(第1の波長λ
1)のCWレーザーと、準連続波光源120で発振された波長266nm(第2の波長λ
2)の準連続波コヒーレント光120aとが非線形光学素子114に入射する。この時、非線形光学素子114では、非線形光学効果による和周波発生により、第1の波長λ
1及び第2の波長λ
2とは異なる第3の波長λ
3のコヒーレント光が発生する。各波長の関係は、1/λ
1+1/λ
2=1/λ
3で表される。本実施形態では、第2の波長の光が出力の波形が略矩形の準連続波コヒーレント光120aであるので、コヒーレント光として、
図3に示すように、第2の波長の光(準連続波コヒーレント光120a)と同様の出力の波形で波長が213nmと第2の波長より短い準連続波レーザー7が非線形光学素子114で発生し、準連続波レーザー7がレーザー光源2の光共振器110から出射する。
【0043】
本実施形態では、和周波を発生させるための第2の波長の光として、CWレーザーではなく、準連続波コヒーレント光を用い、準連続波コヒーレント光である第3の波長の光(準連続波レーザー)を発生させるようにしている。この理由について説明する。和周波発生に用いる非線形光学素子としてのCLBO結晶又はβ-BBO結晶では、一般に、波長1064nmにおける光吸収は小さく、熱の発生が少ないため、加熱に伴う屈折率の変化による光路長の変化も生じにくい。そのため、非線形光学素子114に第2の波長の出力を入射させない限り、光共振器110の共振器長が保たれ、波長1064nm光の電界強度は保たれる。しかしながら、CLBO結晶又はβ-BBO結晶では、第2の波長である波長266nm及び和周波による発生光の波長(第3の波長)である213nmでは、光吸収が無視できなくなる。そのため、第2の波長の光としてCWレーザーを用いると、特に高出力動作させる場合に、非線形光学素子での光吸収による熱の発生が顕著に生じ、加熱に伴う屈折率の変化によって共振器長が変わり、安定な波長変換条件が満たされなくなる。すなわち、高出力な和周波発生を目的として第2の波長の光の入射強度を向上させると、和周波出力が向上しないばかりか、出力停止に陥ることがある。
【0044】
一方で、準連続波コヒーレント光120aは、出力がローレベル(休止状態)の時間が存在するので、出力がローレベルの時間の分だけ光共振器110内の非線形光学素子114での光の吸収を抑制でき、非線形光学素子114における熱負荷を軽減し、レーザー光源2の実効的な出力向上を図ることができる。以上の理由から本実施形態では、和周波発生のための第2の波長の光として、準連続波コヒーレント光120aを用いている。
【0045】
また、本実施形態では、光電子顕微鏡1の撮影タイミングと、準連続波レーザー7の出力がハイレベルとなるタイミングとが同期するように、レーザー光源2を制御するようにしている。より具体的には、レーザー光源2が、光電子顕微鏡1が撮影している期間中はハイレベルとなり、撮影と撮影の間のインターバルの時間(上述のスポットの移動時間や、光電子顕微鏡1の撮影条件(偏向、波長、電流、電圧など)を変える時間、試料へ刺激(電流や磁場の印加など)を加える時間など)はローレベルとなる準連続波レーザー7を出力するようにしている。
【0046】
このように、レーザー光源2を光電子顕微鏡1に用いて、光電子顕微鏡1の撮影タイミングと、準連続波レーザー7の出力がハイレベルとなるタイミングとを同期させることで、光電子顕微鏡1での撮影のために光の照射が必要なときのみ光共振器110の非線形光学素子114での光の吸収と発熱が生じ、それ以外の期間は光の吸収と発熱が生じない(場合によっては微弱な光の吸収と温度変化に寄与しない程度の発熱しか生じない)ので、非線形光学素子114での発熱をより効率的に抑制することができ、レーザー光源2の実効的な出力向上を図ることができる。
【0047】
光電子顕微鏡1の撮影タイミングと、準連続波レーザー7の出力がハイレベルとなるタイミングとの同期は、例えば、
図4に示すように、光電子顕微鏡1の電子ビーム検出器25をオンにするタイミング及びオフにするタイミングと、準連続波レーザー7の出力がハイレベルとなるタイミング及びローレベルとなるタイミングを同期することで実現することができる。より具体的には、光電子顕微鏡1の制御装置(不図示)又はレーザー光源の制御装置101が、光電子顕微鏡1の電子ビーム検出器25及びレーザー光源2の準連続波光源120の波形変換部122に同期信号を送信し、当該同期信号に基づいて電子ビーム検出器をオンにし、波長変換を開始するようにすることによって実現できる。
【0048】
なお、電子ビーム検出器25をオンにするタイミングのかわりに、駆動機構12によってステージ11を移動させて準連続波レーザー7のスポットが移動し終わったタイミングと同期させるようにしてもよい。また、光電子顕微鏡1の撮影タイミングと、準連続波レーザー7の出力がハイレベルとなるタイミングとが完全に同期している必要はなく、ある程度のずれは許容できる。さらに、光電子顕微鏡1での撮影時間を準連続波レーザー7の出力がハイレベルである時間よりも長くなるように設定してもよく、その逆に、短くなるように設定してもよい。
【0049】
また、上記のように光電子顕微鏡1での撮影時間とレーザー光源2の出力がハイレベルとなる時間を同期させた場合、準連続波レーザー7を出力するための準連続波コヒーレント光120a(第2の波長の光)のデューティ比Dが、D=ハイレベルの時間/(ハイレベルの時間+ローレベルの時間)=撮影時間/(撮影時間+撮影と撮影の間のインターバル時間)となるように第2レーザー光源121の出力を波形変換部122で変調する。
【0050】
準連続波コヒーレント光120aの出力のデューティ比Dは、50%以下とするのが望ましい。準連続波コヒーレント光120aの出力をデューティ比D=50%以下で変調することで、デューティ比D=100%の場合(すなわち変調しない場合)より準連続波レーザー7(第の3波長の光)の出力を増大することができる。なお、デューティ比Dの下限は、光電子顕微鏡1での撮影時間や準連続波コヒーレント光120aのピーク出力などを考慮して適宜設定できる。このことを示す実験結果を
図5に示す。
図5は、横軸が波長266nmの準連続波コヒーレント光120aの平均出力、縦軸が波長213nmの準連続波レーザー7の平均出力であり、準連続波コヒーレント光120aの平均出力と、当該準連続波コヒーレント光120aにより非線形光学素子114で発生した準連続波レーザー7の平均出力の関係を示すグラフである。なお、第1レーザー光源100の出力を5Wに設定している。
【0051】
図5によると、D=100%の場合、準連続波コヒーレント光120aの平均出力が増加すると、準連続波レーザー7の平均出力も増加していくが、準連続波コヒーレント光120aの平均出力が0.5Wを越えたあたりから準連続波レーザー7の平均出力が低下していく。一方で、D=50%の場合、すべての領域でD=100%の場合よりも準連続波レーザー7の平均出力が高く、準連続波コヒーレント光120aの平均出力の増加に伴い、その差も大きくなっていることがわかる。
【0052】
例えば、第1レーザー光源100で発振された連続波コヒーレント光100a(第1の波長の光)の出力を5Wとし、準連続波コヒーレント光120a(第2の波長の光)のピーク出力を1Wとし、デューティ比D=50%としたとき、準連続波コヒーレント光120aの平均出力は0.5Wであり、準連続波レーザー7の平均出力は0.16Wであった。この値は、デューティ比D=100%としたときの準連続波レーザー7の平均出力の約2倍の出力値であった。また、準連続波コヒーレント光120a(第2の波長の光)のピーク出力を1Wにできることを確認できた。デューティ比Dをさらに小さくして休止期間を長くすることで、非線形光学素子114での発熱を抑制し、準連続波コヒーレント光120a(第2の波長の光)のピーク出力を1W以上にすることができる。
【0053】
(3)作用及び効果
本実施形態のレーザー光源2は、準連続波レーザー(コヒーレント光)7を出射する光電子顕微鏡1に用いられ、連続波コヒーレント光100aを出射する第1レーザー光源100と、連続波コヒーレント光100aが循環する光路と、光路上に配置された非線形光学素子114とを有する光共振器110と、連続波コヒーレント光100aより短波長であり、出力の波形が略矩形である準連続波コヒーレント光120aを出射する準連続波光源120とを備え、連続波コヒーレント光100aが光共振器110に入射されて光路を循環している状態で、光共振器110外より準連続波コヒーレント光120aが非線形光学素子114に入射すると、非線形光学素子114より準連続波コヒーレント光120aより短波長の準連続波レーザー7が出射する。
【0054】
レーザー光源2は、共振器内の光路を連続波コヒーレント光が循環している状態で、出力の波形が略矩形である準連続波コヒーレント光を非線形光学素子に入射させ、当該準連続波コヒーレント光より短波長のコヒーレント光を出射させるので、非線形光学結晶での光の吸収がない又は少ない期間が存在し、その分だけ光の吸収を抑制でき、非線形光学素子における熱負荷を軽減し、レーザー光源の実効的な出力向上を図ることができる。さらに、レーザーの耐久性と試料のダメージを軽減することも可能である。よって、レーザー寿命を短くすることなく通常よりも高強度で照射し測定スループットを向上させることができる。
【0055】
(4)他の実施形態
なお、本発明は、上記の第1実施形態及び第2実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。準連続波光源120の第2レーザー光源121として、266nmの単一波長を連続発振(シングルモード発振)するレーザーを用いた場合について説明したが、本発明はこれに限られない。準連続波光源120の第2レーザー光源121として、マルチモード発振するレーザーを用いるようにしてもよい。第2レーザー光源121が発振するマルチモードレーザーとすることで、準連続波レーザー7の線幅が広がり、光電子顕微鏡1に用いた場合、測定試料30表面で生じるスペックルを抑制でき、撮影した画像のノイズを減少でき、解像度を上げることができる。
【0056】
また、準連続波光源120の第2レーザー光源121として、波長可変レーザーを用いてもよい。このようにすることで、レーザー光源2が出射するコヒーレント光としての準連続波レーザー7の波長(第3の波長)を可変にすることができる。種々の波長可変レーザーを光源として用いることができる。例えば、準連続波光源120が、第2レーザー光源121として波長可変チタンサファイアレーザーを用い、当該波長可変チタンサファイアレーザーの第2高調波及び第3高調波を使用して第2レーザー光源121の出射するレーザーの波長を210nmから360nmとし、同じ波長範囲の準連続波コヒーレント光120aを生成することで、レーザー光源2は、和周波により175nmから267nmの間の波長の準連続波レーザー7を出射できる。
【0057】
このような波長可変のレーザー光源2を光電子顕微鏡1に用いることで、測定試料の所望の深さ方向における情報を取得することができる。光電子顕微鏡の検出深さは放出する光電子の初速に大きく依存することが知られている。光電子の運動エネルギーが約20eV以下の場合、運動エネルギーが小さいほど、電子の非弾性平均自由行程が大きくなるため、検出深さが大きくなる傾向が一般に知られている。光電子の運動エネルギーは光源の波長に大きく依存する。したがって波長が長くなるほど光子エネルギーは小さいので、検出深さが大きくなる。
【0058】
この性質を利用すると測定試料の内部構造を直接観察することができる。この観察方法の模式図を
図6A、
図6Bに示す。測定試料は、表面に金属Cu層が形成されているとしている。また、Cuの仕事関数は4.5eVである。この時、レーザー光源2の光子エネルギーをCuの仕事関数よりも大きくなるように、すなわち、準連続波レーザー7の波長を275nm以下に設定する。ここで準連続波レーザー7の光子エネルギーを5.8eVに設定した場合(hν
1)と、4.6eVに設定した場合(hν
2)とで測定する。
【0059】
hν
1に設定した場合、hν
2に設定した場合よりも光電子の運動エネルギーが最大1.2eVと大きいため、検出深さが小さくなる。結果として相対的に試料表面に近い領域の情報を得ることが可能になる(
図6A)。一方、hν
2に設定した場合は、初速が最大0.1eVと小さいため、検出深さが大きくなる。結果として相対的に試料内部の情報を得ることが可能になる(
図6B)。
【0060】
従来、超短パルス光源では光パラメトリック増幅器等を使うことで、上述のような波長切り替えは可能だったが、長短パルスでは放出する光電子同士の空間電荷効果が大きいため、光電子顕微鏡の空間分解能が劣化するという問題があった。本変形例のレーザー光源2では、波長可変の準連続波光源120を用いるので、空間電荷効果による空間分解能劣化を抑えつつ、検出深さを任意に変えられる測定を実現できる。
【0061】
光電子顕微鏡の空間分解能を劣化させる要因として、電子レンズ系の各種収差の他に、空間電荷効果と光電子の小さな運動エネルギーがある。空間電荷効果は先述の通り、パルス光源の代わりに、準連続波の光源を用いることで可能である。一方、光電子の小さな運動エネルギーは電子の回折限界に関係しており、これを抑えるには大きな運動エネルギーの光電子を放出させる必要がある。これは可能な限り大きい光子エネルギーの光源を利用することが求められる。レーザー光源は、ランプ光源に比べて輝度が大きいものの、大きな光子エネルギー、つまり短い波長の準連続波光源を実現するのが困難であった。本発明は準連続波を出射するレーザー光源であり、かつ6.0eV(波長367nm)程度と大きな光子エネルギーを持つ準連続波レーザーを出射できることから、上述の2つの空間分解能劣化要因を同時に低減することが可能である。例えば、より高い空間分解能を得る場合、変形例の波長可変のレーザー光源を用い、レーザーの波長を可能な限り短くなるように設定し、測定を行う。
【0062】
また、本発明のレーザー光源2は、準連続波光源120の第2レーザー光源121が出射するレーザー(連続波コヒーレント光)の線幅を適宜変更することで、レーザー光源2が出射する準連続波レーザー7(コヒーレント光)の線幅を任意に調整することが可能である。この特徴を利用し、例えば、第2レーザー光源121を、上記の実施形態の様にシングルモード発振するレーザー光源とすることで、準連続波レーザー7の線幅を小さくすることができ、光電子顕微鏡1にレーザー光源2を用いたとき、光電子分光測定のエネルギー分解能を上げることができる。
【0063】
光電子分光測定を行う際、試料から放出された光電子の運動エネルギー分布をエネルギー分析器で分析するが、エネルギー分解能は主にエネルギー分析器のエネルギー分解能とレーザー光源の線幅に依存する。線幅は小さければ小さいほど、光子エネルギーの広がりが小さいので、測定のエネルギー分解能が向上する。
【0064】
従来はエネルギー分解能を上げるために、回折格子やエタロンなどを使用して光源の線幅を小さくしていた。この場合、光強度は回折格子やエタロンなどで減少するため、線幅を小さくするほど、光電子分光測定の信号強度が減少してしまい、測定スループットが低下するという問題があった。一方で、本発明では、レーザー発振の段階で任意の線幅に調整できるため、上述のような信号強度の低下がなく、高いエネルギー分解能と測定スループットを両立することが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 光電子顕微鏡
2 レーザー光源
7 準連続波レーザー
13 エネルギー調整機構
14 電源
21 第1電子レンズ系
22 エネルギー分析器
23 エネルギースリット
24 第2電子レンズ系
25 電子ビーム検出器
27 電子ビーム