(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】水素製造装置、水素分離膜及び水素分離膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 3/38 20060101AFI20240927BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20240927BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20240927BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240927BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20240927BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20240927BHJP
C01B 3/56 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C01B3/38
B01D53/22
B01D69/02
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/02 500
C01B3/56 Z
(21)【出願番号】P 2020161352
(22)【出願日】2020-09-25
【審査請求日】2023-08-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年3月2日 http://www3.scej.org/meeting/85a/にて公開
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度 国土交通省 水管理・国土保全局 GAIA(下水道技術研究開発)プロジェクト「下水汚泥消化ガスの水蒸気改質反応により高純度水素を製造する膜反応器の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】501241645
【氏名又は名称】学校法人 工学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤松 憲樹
(72)【発明者】
【氏名】中尾 真一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 優斗
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-240637(JP,A)
【文献】特開2019-137580(JP,A)
【文献】国際公開第2011/071138(WO,A1)
【文献】特開2006-239663(JP,A)
【文献】特表2005-528198(JP,A)
【文献】Kazuki AKAMATSU et al.,Development of hydrogen-selective dimethoxydimethylsilane-derived silica membranes with thin active separation layer by chemical vapor deposition,Journal of Membrane Science,2019年03月11日,Vol. 580,p. 268-274
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/38
B01D 53/22
B01D 69/02
B01D 69/10
B01D 69/12
B01D 71/02
C01B 3/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオガスを供給するバイオガス供給器、
筒体の内部に、前記バイオガス供給器から供給されたバイオガスから水素ガスを製造する触媒と水素ガスを選択的に透過する水素分離膜とが配置された膜反応器、及び、
前記膜反応器により分離された純度99%以上の水素ガスを回収する回収器を備え、
前記水素分離膜は、多孔質支持体と、前記多孔質支持体上に形成され、平均細孔径が
0.2nm~0.3n
mであるアモルファスシリカ層と、からなる水素分離膜であ
り、
前記多孔質支持体は、少なくとも支持層と、中間層とを備える二層構造であり、前記支持層は、平均細孔径が30nm~1000nmであり、厚みが0.5mm~3mmの多孔質体であり、前記中間層は、平均細孔径が1nm~20nmであり、厚みが0.5μm~10μmの多孔質体である水素製造装置。
【請求項2】
バイオガスを供給するバイオガス供給器、
筒体の内部に、前記バイオガス供給器から供給されたバイオガスから水素ガスを製造する触媒と水素ガスを選択的に透過する水素分離膜とが配置された膜反応器、及び、
前記膜反応器により分離された純度99%以上の水素ガスを回収する回収器を備え、
前記水素分離膜は、多孔質支持体と、前記多孔質支持体上に形成され、下記測定方法にて測定した水素透過率が2×10
-7mol m
-2s
-1Pa
-1以上であり、且つ、水素ガス及びヘリウムガス以外の気体の気体透過率が、前記水素透過率の100分の1以下であるアモルファスシリカ層と、からなる水素分離膜であ
り、
前記多孔質支持体は、少なくとも支持層と、中間層とを備える二層構造であり、前記支持層は、平均細孔径が30nm~1000nmであり、厚みが0.5mm~3mmの多孔質体であり、前記中間層は、平均細孔径が1nm~20nmであり、厚みが0.5μm~10μmの多孔質体である水素製造装置。
(測定方法)
製膜後の水素分離膜に対し、供給側に水素ガスを供給して、供給側圧力を0.2MPaGとし、膜間差圧0.2MPaのデットエンド方式で水素ガスを透過させ、透過側から得られる透過気体の流量を、石鹸膜流量計を用いて測定し、得られた透過気体流量から、水素ガスの透過率を算出する。測定は500℃にて行う。
【請求項3】
前記アモルファスシリカ層は、ジメトキシジメチルシランを含むシリカ源由来のアモルファスシリカからなる層である請求項1又は請求項2に記載の水素製造装置。
【請求項4】
前記中間層の細孔内部及び中間層の表面にアモルファスシリカ層を有する請求項1
~請求項3のいずれか1項に記載の水素製造装置。
【請求項5】
平均細孔径が30nm~1000nm
であり、厚みが0.5mm~3mmの酸化アルミニウム多孔質支持体
、
前記多孔質支持体の一方の面に、
平均細孔径が1nm~20nmであり、厚みが0.5μm~10μmの多孔質体である中間層、及び、ジメトキシジメチルシランを含むシリカ源由来のアモルファスシリカからなり、かつ平均細孔径が0.2nm~0.3nmであるアモルファスシリカ層を有する水素分離膜。
【請求項6】
前記中間層の細孔内部及び中間層の表面にアモルファスシリカ層を有し、前記アモルファスシリカ層における水素の分離活性領域の厚みが5nm~15nmであり、前記アモルファスシリカ層の
透過ガス導入側の端部から、反対側の端部までの長さである膜長が6cm以上である請求項5に記載の水素分離膜。
【請求項7】
平均細孔径が30nm~1000nm
であり、厚みが0.5mm~3mmの酸化アルミニウム多孔質体の一方の面に、
平均細孔径が1nm~20nmであり、厚みが0.5μm~10μmの多孔質体である中間層を形成し、前記中間層の前記酸化アルミニウム多孔質体と接する側の面とは反対側の面に、ジメトキシジメチルシランを含むシリカ源を用いて、化学蒸着法にて、平均細孔径が0.2nm~0.3nmであるアモルファスシリカ層を形成する工程を有する水素分離膜の製造方法。
【請求項8】
前記化学蒸着法が、対向拡散化学蒸着法である請求項7に記載の水素分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水素製造装置、水素分離膜及び水素分離膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境保持、及びエネルギー高効率利用の観点から、下水道事業で発生する下水汚泥バイオガスの有効利用が検討されている。しかしながら、バイオガスをそのまま発電に使用するバイオガス発電はエネルギー効率が低いという問題がある。
下水汚泥バイオガスは、メタンと二酸化炭素を主成分とした混合ガスであり、メタンの水蒸気改質反応を利用して、下水汚泥バイオガスから水素を製造する方法が試みられている。
近年、水素はクリーンなエネルギー源として注目が集まっている。天然の水素は自然界には殆ど存在しないため、水素の製造に際しては、水素原子を含む化合物から水素を生成することが行われる。しかし、例えば、化石燃料の改質、水の電気分解などによる水素の製造は、エネルギーの非効率さ、二酸化炭素の排出等が問題となる。
【0003】
このため、水素を含む化合物から、水素のみを選択的に取り出す方法が検討されている。なかでも、例えば、メタンの水蒸気改質反応により得られた水素のみを、反応系から取り出すことで、水素を効率よく製造できる。
水素の選択的な透過に用いる水素分離膜として実用化されている膜としては、パラジウム膜が挙げられる。パラジウム(以下、Pdとも称する)は、多量の水素を吸蔵し得る金属として知られており、薄膜化することで水素分離膜として使用される。Pdからなる水素分離膜は、溶解拡散機構により、Pd膜の表面で水素の解離と再結合が行われ、混合気体から水素のみを選択的に分離することができる。Pdは貴金属であって高価であることに加え、水素溶解に伴い、経時により膜が劣化する水素脆性の発現などの問題があり、選択的水素分離膜としてPdを用いない方法が望まれている。
【0004】
Pdを使用しない水素分離膜として、例えば、酸素と、気化させたシリカ源とを用いて多孔質基材の細孔を一部閉塞するようにシリカが成膜された、耐熱性が良好な水素分離膜が提案されている(特許文献1参照)。
水素分離膜のシリカ源として、ジメトキシジメチルシランを用いることが提案され、ジメトキシジメチルシランをシリカ源として適用することにより、従来公知のテトラメトキシシランをシリカ源とする水素分離膜に比較して、より薄く、より温度安定性が良好な水素分離膜が得られることが開示されている(非特許文献1参照)。
また、実験段階ではあるが、Pdの使用量を低減させる水素分離方法として、多孔質セラミック基材の内部にPd膜を形成し、且つ、水素分離用のシリカ膜を組み合わせることで、反応の効率の向上と反応温度の低減を図る方法が検討されている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】J.Membr.Sci.Vol.580 pp.268-274(2019)
【文献】一般社団法人 富山水素エネルギー促進協議会 「炭化水素燃料等からの二酸化炭素を排出しない水素製造技術の研究開発動向調査」pp.34-35(2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のシリカ膜は、水素透過速度は良好ではあるが、細孔径が0.4nm以上であり、バイオガスから水素を製造する膜反応器に用いる水素分離膜としての水素分離性にはなお改良の余地があった。
非特許文献1に記載の水素分離膜は、薄膜で温度安定性が良好であることは開示されてはいるが、得られた水素分離膜を、膜反応器などに適用してバイオガスの処理に用いるという着目はない。
【0008】
非特許文献2に記載の水素分離装置は、パラジウム膜の温度に起因する耐久性を向上させる目的でなされ、パラジウムの使用を前提とする技術である。さらに、併用する水素分離膜についての特段の工夫はなされておらず、シリカを含む水素分離膜を使用した水素分離膜に関しては記載されていない。
【0009】
本発明の一実施形態の課題は、パラジウムなどの貴金属を膜材料として用いることなく作製した水素分離膜を用い、バイオガスから、効率よく水素を製造し得る水素製造装置を提供することである。
本発明の別の実施形態の課題は、水素製造装置に用い得る水素分離性と耐久性が良好な水素分離膜、及び水素分離性と耐久性が良好な水素分離膜の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題の解決手段は、以下の実施形態を含む。
<1> バイオガスを供給するバイオガス供給器、筒体の内部に、バイオガス供給器から供給されたバイオガスから水素ガスを製造する触媒と水素ガスを選択的に透過する水素分離膜とが配置された膜反応器、及び、膜反応器により分離された純度99%以上の水素ガスを回収する回収器を備え、前記水素分離膜は、多孔質支持体と、前記多孔質支持体上に形成され、平均細孔径が0.3nm以下であるアモルファスシリカ層と、からなる水素分離膜である水素製造装置。
<2> バイオガスを供給するバイオガス供給器、筒体の内部に、前記バイオガス供給器から供給されたバイオガスから水素ガスを製造する触媒と水素ガスを選択的に透過する水素分離膜とが配置された膜反応器、及び、前記膜反応器により分離された純度99%以上の水素ガスを回収する回収器を備え、前記水素分離膜は、多孔質支持体と、前記多孔質支持体上に形成され、下記測定方法にて測定した水素透過率が2×10-7mol m-2s-1Pa-1以上であり、且つ、水素ガス及びヘリウムガス以外の気体の気体透過率が、前記水素透過率の100分の1以下であるアモルファスシリカ層と、からなる水素分離膜である水素製造装置。
(測定方法)
製膜後の水素分離膜に対し、供給側に水素ガスを供給して、供給側圧力を0.2MPaGとし、膜間差圧0.2MPaのデットエンド方式で水素ガスを透過させ、透過側から得られる透過気体の流量を、石鹸膜流量計を用いて測定し、得られた透過気体流量から、水素ガスの透過率を算出する。測定は500℃にて行う。
【0011】
<3> 前記アモルファスシリカ層は、ジメトキシジメチルシラン(以下、DMDMSとも称する)シリカ源由来のアモルファスシリカからなる層である<1>又は<2>に記載の水素製造装置。
<4> 前記多孔質支持体は、少なくとも支持層と中間層とを備える二層構造であり、前記支持層は、平均細孔径が30nm~1000nmの多孔質体であり、前記中間層は、平均細孔径が1nm~20nmの多孔質体である<1>~<3>のいずれか1つに記載の水素製造装置。
<5> 前記中間層の細孔内部及び中間層の表面にアモルファスシリカ層を有する<4>に記載の水素分離装置。
【0012】
<6> 平均細孔径が30nm~1000nmの酸化アルミニウム多孔質支持体、及び、前記多孔質支持体の一方の面に、ジメトキシジメチルシラン由来のアモルファスシリカからなり、かつ、平均細孔径が0.2nm~0.3nmであるアモルファスシリカ層を有する水素分離膜。
<7> 前記中間層の細孔内部及び中間層の表面にアモルファスシリカ層を有し、前記アモルファスシリカ層における水素の分離活性領域の厚みが5nm~15nmであり、前記アモルファスシリカ層の膜長が6cm以上である<6>に記載の水素分離膜。
<8> 平均細孔径が30nm~1000nmの酸化アルミニウム多孔質体の一方の面に、シリカ源としてジメトキシジメチルシランを用いて、化学蒸着法にて、平均細孔径が0.2nm~0.3nmであるアモルファスシリカ層を形成する工程を有する水素分離膜の製造方法。
<9> 前記化学蒸着法が、対向拡散化学蒸着法(対向拡散CVD法)である<8>に記載の水素分離膜の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一実施形態によれば、パラジウムなどの貴金属を膜材料として用いることなく、バイオガスから、効率よく水素を製造し得る水素製造装置を提供することができる。
本発明の別の実施形態によれば、水素製造装置に用い得る水素分離性と耐久性が良好な水素分離膜及び水素分離性と耐久性が良好な水素分離膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示の水素製造装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【
図2】
図1に示す水素製造装置に用いられる膜反応器の概略断面図である。
【
図3】水素製造装置に用い得る膜反応器の別の態様を示す概略断面図である。
【
図4】
図1に示す水素製造装置に用いられる水素分離膜の一実施形態を示す部分拡大断面図である。
【
図5】
図1に示す水素製造装置に用いられる水素分離膜におけるアモルファスシリカ層の概略図である。
【
図6】本開示の水素分離膜の一例における水素/窒素選択性と、水素透過性との関連を示すグラフである。
【
図7】実施例1の水素製造装置における水素分離膜の製膜後の乾燥雰囲気下における水素透過率と窒素透過率の温度依存性を示すアレニウスプロットである。
【
図8】(A)は、実施例1の水素製造装置及び比較例1の水素製造装置の、メタン70体積%二酸化炭素30体積%を含む混合ガスにおけるメタン供給量とメタン転化率との関連を示すグラフであり、(B)は、温度とメタン転化率との関連を示すグラフである。
【
図9】(A)は、実施例1の水素製造装置及び比較例1の水素製造装置の、メタン50体積%二酸化炭素50体積%を含む混合ガスにおけるメタン供給量とメタン転化率との関連を示すグラフであり、(B)は、温度とメタン転化率との関連を示すグラフである。
【
図10】実施例1の水素製造装置において、混合ガスのメタンと二酸化炭素との混合組成を6時間ごとに変化させた場合のメタン転化率の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の水素製造装置、水素分離膜及び水素分離膜の製造方法について、具体的な実施形態を挙げて詳細に説明する。本開示は、以下の実施形態に限定されず、その主旨に反しない限りにおいて、種々の変型例により実施することができる。変型例は、例えば、装置のスケールアップ、装置における各部材を、同等の性能を有する部材に置換すること、効果を損なわない範囲においての装置の各部材の配置位置の変更、水素分離膜を構成する触媒の種類、量、及び充填態様の変更などを包含する。
【0016】
本開示において「~」を用いて記載した数値範囲は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を表す。本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
また、本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。図面における寸法の比率は、必ずしも実際の寸法の比率を表すものではない。
【0017】
<水素製造装置>
本開示の水素製造装置の実施形態の一つは、バイオガスを供給するバイオガス供給器、筒体の内部に、バイオガス供給器から供給されたバイオガスから水素ガスを製造する触媒と水素ガスを選択的に透過する水素分離膜とが配置された膜反応器、及び、膜反応器により分離された純度99%以上の水素ガスを回収する回収器を備え、前記水素分離膜は、多孔質支持体と、前記多孔質支持体上に形成され、平均細孔径が0.3nm以下であるアモルファスシリカ層と、からなる水素分離膜である。
【0018】
また、本開示の水素製造装置の別の実施態様の一つとして、バイオガスを供給するバイオガス供給器、筒体の内部に、前記バイオガス供給器から供給されたバイオガスから水素ガスを製造する触媒と水素ガスを選択的に透過する水素分離膜とが配置された膜反応器、及び、前記膜反応器により分離された純度99%以上の水素ガスを回収する回収器を備え、前記水素分離膜は、多孔質支持体と、前記多孔質支持体上に形成され、下記測定方法にて測定した水素透過率が2×10-7mol m-2s-1Pa-1以上であり、且つ、水素ガス及びヘリウムガス以外の気体の気体透過率が、前記水素透過率の100分の1以下であるアモルファスシリカ層と、からなる水素分離膜である水素製造装置が挙げられる。
(測定方法)
製膜後の水素分離膜に対し、供給側に水素ガスを供給して、供給側圧力を0.2MPaGとし、膜間差圧0.2MPaのデットエンド方式で水素ガスを透過させ、透過側から得られる透過気体の流量を、石鹸膜流量計を用いて測定し、得られた透過気体流量から、水素ガスの透過率を算出する。測定は500℃にて行う。
水素分離膜におけるアモルファスシリカ層の平均細孔径が0.3nm以下であり、当該アモルファスシリカ層が水素の分離活性層として機能することは、上記で測定した水素分離膜の500℃における水素透過率が2×10-7mol m-2s-1Pa-1以上であり、且つ、水素ガス及びヘリウムガス以外の気体の気体透過率が、前記水素透過率の100分の1以下であることにより推定される。
なお、評価の対象となる水素分離膜の水素ガス及びヘリウムガス以外の気体の気体透過率は、例えば、Journal of Membrane Science Vol.251(2005)pp151-158に記載の方法により測定することができる。
【0019】
本開示の水素製造装置について図面を参照して説明する。
図1は、本開示の水素製造装置の一実施形態を示す概略構成図である。
図1に示す水素製造装置10は、バイオガス供給器12と、バイオガス供給器12に連結され、バイオガス供給器12から供給されるバイオガスを膜反応器14Aに搬送するパイプ24Aと、バイオガスを処理する膜反応器14Aとを備える。
図1に示す態様では、膜反応器14Aは、中空の筒体の内部に、バイオガスから水素ガスを製造する触媒18と、触媒により製造された高純度、具体的には、純度99%以上の水素ガスを選択的に透過する水素分離膜16とを備える。
パイプ24Aから搬送されたバイオガスは、二重の円筒のうち、触媒18が充填された内側の円筒(水素分離膜)の中心部に供給され、触媒18の機能により、水素ガスと二酸化炭素とに分離され、水素ガスが製造される。製造された水素ガスは、水素分離膜16を通過して、二重の円筒からなる膜反応器14Aの最外層である水素分離膜16と外筒との間に誘導され、膜反応器14Aの外部に導出される。
導出された水素ガスは、パイプ用の温度制御装置24Bを備えたパイプ24Aを介して、冷却器を備えた気液分離装置20Aに供給され、残存する水蒸気が水として分離され、高純度の水素ガスとして、パイプ24Aを介して図示されない水素ガスの回収器にて回収される。
【0020】
パイプ用の温度制御装置は、水素製造装置におけるパイプのサイズ、素材などにより、公知の温度制御装置から適宜選択される。一般的には、温度制御機能を有するヒータなどが挙げられる。小スケールの水素製造装置では、リボンヒータなどを用いることができる。
膜反応器14Aの外側には、膜反応器14A内の温度を制御する温度制御装置22が取り付けられ、膜反応器14A内部の温度を、反応効率に好適な温度に制御している。
バイオガス供給器12と膜反応器14Aとを接続するパイプ24A、得られた水素ガスを導出するパイプ24Aの外側には、それぞれパイプ用温度制御装置24Bが取り付けられ、パイプ内を搬送される気体の液化が生じない範囲に温度が制御されている。
膜反応器14Aにて水素ガスが分離された二酸化炭素を含む混合ガスは、円筒形の膜反応器14Aの中心部を通って膜反応器14Aの外部へ導出される。導出された混合ガスは、パイプ用の温度制御装置24Bを備えたパイプ24Aを介して、冷却器を備えた気液分離装置20Bに供給され、気液分離装置20Bにて残存する水蒸気が水として分離され、図示されない回収器にて回収される。
【0021】
図2は、
図1で示す水素製造装置10の膜反応器14Aの概略断面図である。
図2に示すように、膜反応器14Aは、円筒形の外管17と、水素分離膜16からなる内管の二重管構造をなす。
バイオガスは、円筒形の内管である、触媒18が充填された水素分離膜16の内部の流路に導入され、触媒18により生成された水素は、
図2に示された矢印の方向に、水素分離膜16を通過して二重の円筒形の水素分離膜16と、外管17との間の空間に導出される。
図2に示す円筒形の膜反応器14Aでは、円筒形の膜反応器14Aの中央部、即ち、水素分離膜16である内管の内部に触媒18が充填されているが、膜反応器の態様はこれに限定されない。
図3は、円筒形の膜反応器の別の態様を示す概略断面図である。
図3に示す膜反応器14Bでは、円筒形の膜反応器14Bの水素分離膜16と外管17との間の空間に触媒18が充填されている。
図3に示す膜反応器14Bでは、バイオガス供給器12から供給されたバイオガスは、円筒形の膜反応器14Bの外管17と水素分離膜16との間の空間に導入され、触媒18により生成された水素ガスは、二重構造の円筒形の内管である水素分離膜16を、図に示される矢印の方向に通過して、円筒形の膜反応器14Bにおける水素分離膜16の内側に導かれる。
なお、
図3では、外管17の中に、水素分離膜16が1つのみ有する態様が記載されているが、これに限定されず、外管の中に、複数の水素分離膜が存在する構造であってもよい。
【0022】
膜反応器は、触媒を含みバイオガスから水素を生成する領域と、得られた水素を導出する領域とが、水素分離膜を介して区画されていれば、どのような形状であってもよい。なかでも、
図2及び
図3に示す、二重構造の円筒形の内側の円筒が水素分離膜16であることで、簡易な構造で効率よく、水素を分離することができるため好ましい。
図2及び
図3に示す円筒形の膜反応器のサイズは、目的に応じて任意に選択することができる。
水素製造装置のサイズを適切な範囲とすることができるという観点からは、外径が30mm~150mmの範囲が好ましく、40mm~80mmの範囲がより好ましい。
また、水素分離膜を備えた内筒の外径は、5mm~20mmの範囲が好ましく、5mm~10mmの範囲がより好ましい。
膜反応器の長さ、即ち、円筒形の膜反応器の筒長が長いと、よりサイズの大きい水素分離膜を格納することができる。
十分な量の水素を製造することができるという観点から、膜反応器に格納された水素分離膜の膜長は、6cm以上とすることが好ましく、8cm以上であることがより好ましい。なお、水素分離膜の膜長とは、膜反応器に格納された水素分離膜のバイオガス導入側の端部から、反対側の端部までの長さを意味する。
【0023】
膜反応器のサイズが上記範囲において、より効率のよい水素の製造が可能となる。
1台の水素製造装置は、膜反応器を1つのみ備えてもよく、2以上を備えてもよい。膜反応器は、並列に備えてもよく、直列に備えてもよいが、水素製造効率の観点からは、複数の膜反応器を並列に配置することが好ましい。
水素の製造量をより向上させる目的で、1基の水素製造装置に対し、膜反応器を2基以上、並列に配列することも可能である。
1基の水素製造装置に対する膜反応器の数は、水素製造装置の目的に応じて適宜選択することができる。例えば、下水処理施設などに水素製造装置を導入する場合には、大量のバイオガスを処理するため、1000基以上の膜反応器を備えることも可能である。
【0024】
膜反応器内に充填され、バイオガスから水素を生成する触媒には、特に制限はなく、公知の改質触媒をいずれも使用することができる。
改質触媒としては、活性種としてニッケル(Ni)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)等を含む触媒を用いることができる。
触媒は市販品を用いてもよく、金属前駆体から調整することもできる。
市販品としては、例えば、田中貴金属工業(株)、改質触媒TRC10-2A(商品名、直径約2mm)等が挙げられる。
触媒の調製方法としては、例えば、Ni触媒は、活性種をNiとして、前駆体であるNickel(II)Nitrate Hexahydrate水溶液に、Ce0.15Zr0.85O2を加えて反応させ、乾燥して粉体をして取り出し、電気炉内で500℃~600℃程度の温度で焼成し、その後、500℃~600℃程度で加熱し、水素還元することで得ることができる。
触媒は、通常、球状の担体に触媒用の金属前駆体を担持させたものを用いる。触媒のサイズは、担体のサイズに依存し、Ni触媒では、400μm~2000μmとすることができ、500μm~750μmが好ましい。
Rh触媒としては、γ-アルミナを担体として含浸法で得たRh/ALO-6触媒が好ましく用いられる。担体となる球状のALO-6の平均粒子径は1.6mm程度である。
膜反応器中に充填する触媒の量は目的に応じて適宜選択すればよい。
【0025】
<水素分離膜>
図4は、水素製造装置10に用いられる水素分離膜16の一実施形態を示す部分拡大断面図である。
図4に示す水素分離膜16は、多孔質支持体25の一方の面に、水素分離機能を備えるアモルファスシリカ層30を有する。アモルファスシリカ層は後述のように、多孔質支持体25の面上のみならず、多孔質支持体25が有する細孔内に形成されることがある。
アモルファスシリカ層30を保持する多孔質支持体25は、気体透過性を有する細孔を備える支持体であれば、特に制限なく、使用することができる。
図4に示す実施形態では、多孔質支持体25は、支持層26と中間層28との二層構造を示し、支持層26は、平均細孔径が50nm~200nmの多孔質体であり、中間層28は、平均細孔径が3nm~5nmの多孔質体であることが好ましい。
強度及び気体透過性が良好であり、コスト的にも有利である支持層26と、アモルファスシリカ層30の保持性がより良好であり、支持層26よりも小さい細孔を有する中間層28と、を備える
図4に示す二層構造の多孔質支持体25を用いることが、アモルファスシリカ層をより安定に固定化でき、アモルファスシリカ層がより長期間安定するという観点から好ましい。
本開示においては、中間層の支持層と接する側の面とは反対側の面を「中間層の表面」と称する。
【0026】
二層構造の多孔質支持体においては、少なくとも中間層の支持層側とは反対側にアモルファスシリカ層を有する。アモルファスシリカ層は中間層の面上のみに形成されてもよく、中間層の面上のみならず、さらに、中間層の細孔の内部に至るまでアモルファスシリカ層が形成されていてもよい。
なかでも、二層構造の多孔質支持体において、中間層の細孔の内部及び中間層の表面にアモルファスシリカ層を有することが好ましい。
細孔の内部にアモルファスシリカ層を有することで、アモルファスシリカ層が細孔中に充填された状態でより緻密に、且つ、より安定に存在するため、アモルファスシリカ層の分子篩としての機能がより向上し、アモルファスシリカ層において、水素の分離機能が良好な分離活性領域として機能すると考えられる。分離活性領域については、後述する。
【0027】
ここで、「細孔の内部にアモルファスシリカ層を有する」とは、細孔の内壁面に前記アモルファスシリカ層が形成された状態、及び、細孔内がアモルファスシリカ層で充填された場合の双方を指す。例えば、後述の化学蒸着法でアモルファスシリカ層を成膜する場合、気相状態のシリカ前駆体が、細孔の内部に侵入し、細孔の内壁面にてアモルファスシリカ層に転化する。さらに化学蒸着を継続すると、細孔の内壁面に形成されたアモルファスシリカ層の厚みが増し、細孔径内がアモルファスシリカ層で充填されることがある。これらのいずれをも、細孔の内部にアモルファスシリカ層を有すると称する。
本開示の水素分離膜の好ましい態様として、中間層の細孔内部及び中間層の表面にアモルファスシリカ層を有し、アモルファスシリカ層における水素の分離活性領域の厚みが5nm~15nmであり、アモルファスシリカ層の膜長が6cm以上である態様が挙げられる。
【0028】
多孔質支持体としては、細孔径が適切であり、入手が容易という観点から、多孔質セラミックスが挙げられ、耐熱性が良好であるという観点からは、金属酸化物、金属窒化物、及び金属窒化物が好ましく、より具体的には、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア等の支持体が好ましく挙げられ、α-アルミナ支持体がより好ましい。
管状の多孔質支持体の場合、例えば、外径が3mm~20mm程度、内径が1mm~15mm程度であり、管の厚みが1mm~3mm程度の多孔質管状支持体が好適である。
多孔質支持体の平均細孔径は30nm~1000nmの範囲が好ましく、平均細孔径が50nm~500nmの範囲がより好ましく、80nm~180nmの範囲がさらに好ましい。
【0029】
二層構造の多孔質支持体としては、支持層に平均細孔径が20nm~1000nm、好ましくは、80nm~180nmの管状α-アルミナを用い、管状の支持層の外面に中間層として、平均細孔径が1nm~20nm、好ましくは、3nm~5nmのγ-アルミナ層を有する支持体が好ましい。
支持層の厚みは目的に応じて任意に選択することができる。水素製造装置のサイズ等を考慮すれば、支持層の厚みは、0.5mm~3mmとすることができ、1mm~2mmの範囲であることが、強度と気体透過性のバランスの観点から好ましい。
中間層の厚みは、通常0.5μm~10μmとすることができ、1μm~5μmの範囲であることが好ましい。
【0030】
多孔質支持体としての支持層に、中間層を設ける方法には特に制限はなく、多孔質層の公知の製造方法を適宜適用することができる。
なかでも、支持層がアルミナ等の耐熱性が良好な材料である場合、以下に詳述するベーマイトゾルを含む中間層形成材料を支持層にコーティングし、焼成する方法が好ましい。ベーマイトゾルを含む中間層形成材料を用いる中間層の形成方法によれば、中間層形成材料のコーティング量、焼成温度、さらに、コーティングと焼成とを複数回行うなどの方法で、任意の厚みの中間層を形成することができる。
【0031】
二層構造の多孔質支持体の製造方法としては、例えば、α-アルミナ製の管状多孔質支持層の環の外面に、中間層形成材料であるベーマイトゾルを2回~3回ディップコーティングし、 焼成して平均細孔径が3nm~5nmのγ-アルミナ中間層を形成する方法が挙げられる。中間層形成用材料を管状の支持層にコーティングする際には、支持層である環の内部に中間層形成用材料が侵入しないように環の端部を封止するなどの処理を行うことが好ましい。
ベーマイトゾルは、アルミニウム-s-ブトキシド(ALSB)と、2-プロパノールと、ガリウム(III)ニトレート-8-ハイドレートとを用いて、又は、アルミニウム-s-ブトキシド(ALSB)と、2-プロパノールと、1mol/L(リットル)硝酸とを用いて、常法により製造することができる。
【0032】
多孔質支持体の平均細孔径は、例えば、ASTM F316-86(JIS K 3832)バブルポイント法に基づく、貫通細孔径評価装置を用いて細孔径分布を測定することにより測定することができる。測定に用いられる装置をしては、西華デジタルイメージ(株)、パームポロメーター等が挙げられる。
【0033】
図5は、水素分離膜16におけるアモルファスシリカ層30の概略図である。
図5では、アモルファスシリカ層が模式的に示され、ケイ素(Si)原子が黒色の丸印で示され、酸素原子が白色の丸で示されている。Si原子と酸素原子からなるアモルファスシリカ層は、
図5に示すように、Si-O-Siで示されるシロキサン結合が、三次元的にネットワークを構成したアモルファス構造を持ち、三次元的に形成された二酸化ケイ素の網目構造が分子篩の役割を果たすと考えられる。
本開示におけるアモルファスシリカ層は、二酸化ケイ素の網目構造により形成される細孔の平均細孔径が0.3nm以下であるため、水素(分子サイズ0.289nm)及び水蒸気(分子サイズ0.265nm)は透過するが、バイオガスに含まれるメタン(分子サイズ0.38nm)、二酸化炭素(分子サイズ0.33nm)等は、透過し得ない。さらに、シリカは疎水的であるため、水蒸気は、水素と比べてアモルファスシリカ層をより透過しにくい。このため、平均細孔径が0.3nm以下のアモルファスシリカ層によれば、効率よく水素を分離することができると考えられる。例えば、水素分離膜を若干の水蒸気が透過しても、装置の下流に設けられた気液分離装置にて水蒸気は水として回収されるため、純度の高い水素が製造される。
アモルファスシリカ層の平均細孔径が0.3nm以下であり、アモルファスシリカ層において水素の分離活性領域として機能することは、例えば、多孔質支持体と、アモルファスシリカ層と、からなる水素分離膜において、純度99%以上の水素ガスを回収する回収器を備え、水素分離膜の既述の測定方法により測定した水素透過率が2×10
-7mol m
-2s
-1Pa
-1以上であり、且つ、水素ガス及びヘリウムガス以外の気体の気体透過率が、前記水素透過率の100分の1以下であることにより推定される。
【0034】
なお、本開示の水素製造装置に用いる水素分離膜を製膜後単独で測定した場合の水素透過率は上記の通りであるが、膜反応器にこの水素分離膜を組み込み、水素製造装置を実際に駆動させる場合には、分離対象とする気体に水蒸気が含まれるため、膜反応器としての水素透過率は、水素分離膜を製膜後に単独で測定した水素透過率に比較して、低下する傾向にある。膜反応器における水素透過率は、5×10-8mol m-2s-1Pa-1以上であれば、実用上問題のないレベルであり、1×10-7mol m-2s-1Pa-1以上であることが好ましい。
【0035】
<水素分離膜の製造方法>
本開示の水素製造装置に用い得る水素分離膜の製造方法には特に制限はなく、公知の多孔質支持体表面にアモルファスシリカ層を形成する方法であれば、いずれも適用することができる。アモルファスシリカ層の製造方法としては、例えば、ゾルゲル法、化学蒸着法(以下、CVD法と称することがある)などが挙げられる。
なかでも、得られるアモルファスシリカ層の耐久性、特に耐水蒸気性がより良好であるという観点からは、シリカ源をCVD法で多孔質支持体上に形成する方法が好ましい。ゾルゲル法により形成されたシリカ層にはシラノール基が多く残存するが、CVD法によれば、形成されたアモルファスシリカ層に残存するシラノール基は少ないため、得られたアモルファスシリカ層は耐水蒸気性により優れると本発明者らは考えている。
【0036】
アモルファスシリカ層の製膜に用いられるCVD法には、多孔質支持体の一方の面にシリカ源由来のシリカ前駆体と、酸化剤、好ましくは酸素とを供給してアモルファスシリカ層を形成する一方拡散CVD法と、多孔質支持体の一方の面にシリカ源由来のシリカ前駆体を供給し、多孔質支持体の他方の面に酸化剤を供給する対向拡散CVD法がある。
なかでも、対向拡散CVD法によれば、多孔質支持体の両側面を等しい圧力に保つことで、多孔質支持体の細孔内に拡散したシリカ前駆体と酸化剤とが細孔内で接触してシリカが生成され、多孔質の細孔内において細孔壁にアモルファスシリカ層が形成され、細孔がシリカ層で充填されることで反応が自動的に終息する。一方、多孔質支持体において、シリカ層で充填されていない細孔内では、シリカ前駆体と酸素との反応が継続する。従って、全ての細孔がアモルファスシリカ層で充填されるまで反応が継続し、再現性よく、高性能のアモルファスシリカ層を得ることが容易となる。
即ち、対向拡散CVD法により、既述の好ましい態様である二重構造の多孔質支持体の中間層の面上のみならず、中間層の細孔内部にもアモルファスシリカ層を有する水素分離膜を簡易に製造することができる。
【0037】
アモルファスシリカ層の製膜は、対向拡散CVD法を例に挙げれば、シリカ源であるケイ素化合物をバブラー内に配置して、窒素ガスを供給しながら加熱して、ケイ素化合物の蒸気を筺体内に供給する。筺体内の温度は300℃~650℃とすることができる。筺体内のシリカ源としてのケイ素化合物の蒸気を多孔質支持体の一方の面に供給し、他方の面に酸素を流通して多孔質支持体内で両者を反応させることで実施できる。
反応は、膜長10mm~100mmまでの管状の多孔質支持体の場合、ケイ素化合物蒸気の濃度を約0.93mol/m3、酸素の流通量200mL/minによれば、約60分間で十分な量のアモルファスシリカ層が形成される。
その後、ケイ素化合物蒸気を停止して、筺体内を酸素でパージし、酸素の供給を止めて多孔質支持体内部に窒素を供給してパージしてアモルファスシリカ層を得る。
【0038】
アモルファスシリカ層の製造に使用し得るシリカ源としては、ジメトキシジメチルシラン(DMDMS)、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)、ヘキサメチルジシロキサン(HMDS)、テトラメチルオルトシリケート(TMOS)、トリメチロキシ(メチル)シリケート(TMMS)、メトキシトリメチルシリケート(MTMS)、フェニルトリメトキシシラン(PTMS)、ジメトキシジフェニルシラン(DMDPS)、トリエトキシエチルシラン、ジエトキシジエチルシラン、エトキシトリエチルシラン、メトキシトリフェニルシラン等が挙げられる。
化合物名の後ろのかっこ内は当該化合物の略称であり、以下、各化合物をかっこ内の略称で記載することがある。DMDMS、TEOS、HMDS、TMOS、TMMS、MTMS、PTMS、及びDMDPSの構造を以下に示す。
【0039】
【0040】
なかでも、形成されたアモルファスシリカ層の細孔が0.3nm以下となりやすいシリカ源としては、DMDMS、TMOS、HMDS、TEOS、TMMS、MTMS等が好ましく、DMDMSがより好ましい。即ち、シリカ層は、DMDMSを含むシリカ源由来のアモルファスシリカ層であることがより好ましい。
【0041】
本開示の水素分離膜の製造方法は、平均細孔径が30nm~1000nmの酸化アルミニウム多孔質体に、ジメトキシジメチルシランを含むシリカ源を用いて、CVD法にて、平均細孔径が0.2nm~0.3nmであるアモルファスシリカ層を形成する工程を有することが好ましい。
多孔質支持体としては、既述のように、少なくとも支持層と、中間層とを備える二層構造であり、支持層は、平均細孔径が50nm~200nmの多孔質体であり、中間層は、平均細孔径が3nm~5nmの多孔質体であることが好ましく、二層構造の支持体の中間層に対して、対向拡散CVD法にて中間層の表面のみならず細孔内にもアモルファスシリカ層を形成することがより好ましい。
なお、二層構造の多孔質支持体の製造方法の一例は、既述の通りである。
【0042】
多孔質支持体における支持層及び中間層の厚みは、水素分離膜を切断して断面を得て、断面をプラチナスパッタリングして、電界放出型走査電子顕微鏡(Field Emission-Scanning Electron Microscope:FE-SEM)にて観察することで、測定できる。FE-SEM装置としては、例えば、JSM-6701F(日本電子株式会社製)が挙げられる。FE-SEMの加速電圧は、例えば10.0kVとすることができる。
【0043】
アモルファスシリカ層の厚みには特に制限はない。一般に、水素分離膜におけるシリカ層の膜厚が厚いと水素分離効率は良好になるが、気体透過性が低くなる傾向にある。そのような観点からは、アモルファスシリカ層における分離活性領域の厚みは、5nm~100nmとすることができ、5nm~15nmの範囲が好ましい。
ここで、アモルファスシリカ層における分離活性領域とは、アモルファスシリカ層において、緻密であり、水素の分離性に寄与する領域を指す。本発明者らは、細孔を有しない中間層の表面にフリーの状態で生成されるシリカ膜よりも、中間層の細孔内部に形成されたアモルファスシリカ層であって、より緻密な構造を有する領域の方が、水素の分離活性が高い分離活性領域として機能すると推定しており、この領域をアモルファスシリカ層における分離活性領域と称する。アモルファスシリカ層における分離活性領域は、後述のX線光電子分光法(XPS)による分析の結果、形成されたアモルファスシリカ層の深さ方向の元素組成から、Al2pが増加し、Si2pが減少している領域として確認することができる。
【0044】
アモルファスシリカ層の膜厚及びアモルファスシリカ層における分離活性領域の厚みは、形成された水素分離膜におけるアモルファスシリカ層を、多孔質支持体側とは反対側の面から、膜の深さ方向にX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:以下、XPSと称する)により元素組成分析を行うことで測定できる。本開示では、Al K線源を搭載したXPS VG ESCALAB 250 spectrometer(Thermo Fisher Scientific製)を使用し、チャンバー内圧力:10-8Pa未満、エッチング速度0.05nm/sで測定した値を採用している。XPSによる分析の対象とした元素及び電子軌道は、Si:2p、Al:2p、O:1s、C:1sである。
【0045】
本開示の水素製造装置に使用される水素分離膜としては、平均細孔径が30nm~1000nmの酸化アルミニウム多孔質支持体、及び、多孔質支持体の一方の面に、ジメトキシジメチルシランを含むシリカ源由来の、平均細孔径が0.2nm~0.3nmである分離活性領域を含むアモルファスシリカ層を有する水素分離膜が好ましく、多孔質支持体が有する細孔の内部に至るまでアモルファスシリカ層が形成されている水素分離膜であることがより好ましい。
【0046】
本開示の水素分離膜は、水素分離性と気体透過性とが良好である。
水素分離膜の気体透過率(ガス透過率とも称する)は、以下の方法で測定することができる。
透過ガスの流量が比較的大きい場合、例えば、1mL/min程度以上である場合には、ガス透過率は、石鹸膜流量計(Bubble Flow Meter、以下、BFMとも称する)を用いて測定することができる。
供給側、例えば、
図2に示す断面図の膜反応器の場合、管状の多孔質支持体の外側(管状の多孔質支持体の外側、即ち、水素分離膜を有する側)にガスを供給して供給側圧力を0.2MPaGとし、膜間差圧0.2MPaのデットエンド方式でガスを透過させ、透過側(管状の多孔質支持体の内側、即ち、多孔質支持体の支持層側)から得られる透過ガスの流量を石鹸膜流量計(BFM)((株)堀場製作所製)を用いて測定することができる。
【0047】
透過ガス流量が小さく、BFMでは測定ができない場合には、圧力変化法により透過ガスの流量を測定する。圧力変化法は、供給側圧力を0.25MPaGとし、油回転真空ポンプ(株式会社アルバック製)を用いて透過側を1時間以上真空引きし、約0.35MPaの膜間差圧を与える。透過側の真空ポンプにつながるラインを遮断することで、透過ガスが透過側に溜まり圧力が上昇していくので、この圧力上昇速度を測定し、透過側体積から透過ガス量を計算することができる。
【0048】
<水素製造装置における水素透過量>
シリカ源としてDMDMSを用いて、対向拡散CVD法で作製したアモルファスシリカ層を有する水素分離膜の、水素透過性と、窒素に対する水素の選択率の理論値との関連を、
図6に白色の丸印(○)として示している。
本発明者らの検討によれば、窒素に対する水素(H
2/N
2)の選択性は、10
3を超えることが好ましく、
図6では、H
2/N
2の選択性:10
3のラインを破線にて示している。即ち、この破線を超える範囲がH
2/N
2の選択性が好ましい範囲である。
【0049】
図6中には、CVD法で作製された水素分離膜の結果(CVD:黒色の丸印:●で表記)、プラズマCVD法で作製された水素分離膜の結果(PECVD:白色の三角印:△で表記)、及び、ゾルゲル法で作製された水素分離膜の結果(sol-gel:白色の四角印:□で表記)をそれぞれ併記している。併記された上記水素分離膜は、いずれも製膜にDMDMS以外のシリカ源を用いて作製されている。
なお、一般に、気体透過性と、異種の気体同士の選択性とはトレードオフの関係であることが知られている。
図6に明らかなように、H
2/N
2の選択性が10
3を超える範囲では、本開示の水素製造装置に用いられるDMDMSを用いて対向拡散CVD法で作製したシリカ膜を備える本開示の水素分離膜が、最も優れた水素透過性を示す。このことから、本開示の水素分離膜は、H
2/N
2の気体選択性と水素透過性とが高いレベルで両立していることがわかる。
このように、本開示の水素製造装置に用いられる水素透過膜は、水素透過性と、水素選択性のいずれも良好であることが期待される。
【実施例】
【0050】
以下、本開示の水素製造装置、及び水素分離膜をその製造方法とともに実施例を挙げて具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に制限されず、その主旨を超えない限りにおいて種々の変型例にて実施することができる。
なお、気体の混合率を示す「%」は、特に断らない限り「体積%」を表す。
【0051】
〔実施例1〕
-水素分離膜の製造-
1.多孔質支持体の作製
(1-1.多孔質基材の準備)
多孔質支持体の支持層として、管状のα-アルミナ基材(株式会社ノリタケカンパニーリミテド製)を用いた。管状の基材は、外径6mm、内径4mm、細孔径はカタログ値で150nmであった。管状の基材を、長さ120mmにダイヤモンドカッターを用いて切断し、両端20mmをガラスシールした。従って、長さ120mmの管状の基材において、多孔質基材として機能する箇所、即ち、後述のシリカ膜を製膜して水素分離膜として機能する箇所の長さは80mm(8cm)である。
【0052】
(1-2.中間層形成用コーティング液の調製)
準備した基材に、γ-アルミナコーティングして中間層を形成した。
Aluminum s-Butoxide(ALSB:富士フイルム和光純薬(株))500g、2-propanol(富士フイルム和光純薬(株))500mL、Gallium(III)nitrate 8-hydrate(富士フイルム和光純薬(株))25gを準備した。
ベーマイトゾルの調製は窒素置換したグローブボックス(アズワン株式会社製)内にて行った。
【0053】
ビーカーに2-propanol 3.60g(0.06 mol)を入れ, ビーカーの内壁を濡らした。壁面を濡らしたビーカーにALSB 24.6 g(0.10 mol)を試薬びんから直接入れ、1時間撹拌した。
500mLビーカーに純水360 mLを入れ、ホットスターラー上で90℃に加熱し、液面調節用の純水により、必要に応じて500mLビーカーに純水を補充した。
グローブボックス内でALSBと2-propanolの混合液を100 mL滴下びんに入れ、 滴下びんの上口に窒素バルーンをつけた。グローブボックスから窒素バルーンをつけた滴下びんを取り出し、ホットスターラー上で準備していた90℃の純水を激しく撹拌し、ここにALSBと2-propanolの混合液を滴下した。
2-propanolが蒸発するまで、90℃で撹拌し続けた。アルコール臭がなくなることで、2-propanolの蒸発を確認した。
Gallium(III)nitrate 8-hydrate 17.14 g(0.04 mol)を純水108g(6mol)に加え、ビーカーの口をパラフィルム(商品名、(株)エル・エム・エス:プラスチックパラフィンフィルム)で覆って1時間以上撹拌し、硝酸ガリウム水溶液を作製した。
2-propanolを蒸発させて混合液を500mL三角フラスコに移し、三角フラスコの口をアルミホイルで覆って放冷した。
放冷後、激しく撹拌しながら、硝酸ガリウム水溶液をゆっくり滴下した。12時間以上撹拌してベーマイトゾルを得た。
【0054】
得られたベーマイトゾルを用いて、コーティング液を調製した。
50mLメスシリンダーに純水47.5mLを入れ、さらに1M-HNO3(富士フイルム和光純薬(株))2.5mLを入れた。この溶液を、撹拌子を入れた100mL三角フラスコに移した。撹拌子を用いて、泡立たないように静かに攪拌しながら、100L三角フラスコにPoly(vinyl alcohol)500〔Completely Hydrolyzed(PVA)(富士フイルム和光純薬(株))〕1.75gを加えた。100mL三角フラスコをホットプレートスターラーへ移動し、難溶なPVAを加熱溶解させた。三角フラスコの口をアルミホイルで塞ぎ、90℃に加熱しながら攪拌を継続した。40分後、撹拌した状態のまま放冷し、PVA溶液を得た。
50mLビーカーに、得られたPVA溶液20mLと、前記で得たベーマイトゾル30mLを入れ、撹拌子を入れた後にビーカーの口をパラフィルムで覆い、15分間撹拌してコーティング液を得た。
【0055】
(1-3.中間層の形成)
1-1.にて準備した管状の支持層(基材)の外表面に中間層を形成するため、管状の基材の内側にコーティング溶液が侵入しないように基材の片側、即ち、ディップするとき下側をシールテープで塞いだ。
1-2.で得られたコーティング溶液を、気泡が入らないように試験管に入れ、全長120mmの基材をコーティング溶液に5秒間ディップした。基材の出し入れの際に、試験管の壁に触れないように注意して行った。
ディップした基材を電気マッフル炉KM-600(株式会社アドバンテック製)に入れ、まず60℃に加熱して3時間保持し、6時間かけて炉内温度を60℃から600℃に昇温し、600℃で3時間保持し、その後、3時間かけて室温(25℃)まで降温した。
このディップコーティング、焼成を3回繰り返して行うことで、α-アルミナ支持層に、γアルミナ中間層が積層された二層構造の多孔質支持体を作製した。
なお、細孔径測定用に、長さ20mmの基材を準備して同様に中間層を形成し、多孔質支持体の評価用試料を得た。
【0056】
2.水素分離膜の製膜
水素分離膜の製膜は、公知の方法により行った。酸素ガスは、Mass Flow Controller(MFC:コフロック株式会社製)を備えたボンベから供給し、シリカ源は、バブラー内に配置し、キャリアガスによりバブリングすることで供給した。また、シリカ源を含むガスの流量制御のため、必要に応じて、窒素をキャリアガスとしてMFCを備えたボンベから供給した。
シリカ源となるケイ素化合物はバブラーに入れ、窒素を流量200mL/minでバブラーに供給し、バブリングすることでシリカ源であるケイ素化合物の蒸気を筐体に供給した。配管内でのケイ素化合物の凝縮を防ぐために配管にはパイプ用温度制御装置としてのリボンヒータを巻き、ヒータで加熱して配管温度を180℃に保った。また、氷水コールドトラップ(気液分離装置)
により、未反応のケイ素化合物を回収した。バブラーの温度は、COOLNIT CL-150R(タイテック(株)製)を用いて作った恒温水槽にバブラーを浸すことで制御した。
【0057】
シリカ源としては、東京化成工業(株)製(商品コード:D1052)のDMDMSを使用した。DMDMSは、分子式:C4H12O2Si、分子量:120.22、比重:0.846~0.8660、沸点:81℃、融点:-5℃である。構造式は先に記載した通りである。
【0058】
まず、成膜装置における筐体の炉、リボンヒータ、バブラーの温調の電源を入れた。炉は室温(25℃)から600℃まで1.5時間かけて昇温し、配管外側のリボンヒータは180℃に設定した。
全ての温度が安定したら、氷水コールドトラップを準備し、筐体を通らないガスラインを用いてDMDMS蒸気濃度測定を行い、DMDMS蒸気濃度が約0.93mol/m-3となるようにバブラー温度を調整した。
バブラー温度を調整後、筐体において、管状の多孔質支持体の外側にDMDMS蒸気を供給し、2分後、管状の多孔質支持体の内側に酸素を200mL/minで流通させて水素分離膜の製膜を対向拡散CVD法により開始した。
60分後、DMDMS蒸気の供給を止め、多孔質支持体の外側には窒素を全開の流量で流通させ、内側には酸素を200mL/min流通し、筐体内をパージした。
1時間後、酸素の供給を止め、基材内側に窒素を全開の流量で数分間パージし、水素分離膜の製膜を終了した。多孔質基材に形成されたアモルファスシリカ層の膜長は8cmである。
【0059】
-水素分離膜の評価-
1.多孔質支持体の細孔径
多孔質支持体の細孔径の測定は、Nano-Perm Porometer(西華デジタルイメージ(株)製)を用いて行った。細孔径の測定に際しては、管状の多孔質支持体の一方をエポキシ系接着剤((株)ITWパフォーマンスポリマーズ&フルイズ ジャパン製 DEV-TUBE S-208)等を用いて金属土台に固定し、他方の端部を密閉して行った。
γ-アルミナ中間層の無次元透過係数とKelvin径の関係を用いて解析したところ、Kelvin径3.2nm~4.2nmにかけて無次元透過係数が最も減少しているため、細孔径分布のピークは、3.2nm~4.2nmにあると推定された。
【0060】
2.気体透過性
水素分離膜の製膜に用いた製膜装置を用いてガス透過試験を行った。
供給側(管状の多孔質支持体の外側)に水素ガスを供給して供給側圧力を0.2MPaGとし、膜間差圧0.2MPaのデットエンド方式で水素ガスを透過させ、透過側(環状の多孔質支持体内側)から得られる透過ガスの流量を石鹸膜流量計(Bubble Flow Meter:BFM)((株)堀場製作所製)を用いて測定した。BFMを用いて測定した透過ガス流量から、水素分離膜のガス透過率を算出した。測定は500℃にて行った。
その結果、500℃における水素透過率は、3.36×10-7mol m-2s-1Pa-1であり、水素透過率が良好であることが確認された。
【0061】
3.耐水蒸気性
500℃で水素分離膜の外側に水蒸気を含むガスを流通させ、水素透過率の経時変化を測定した。また、耐水蒸気試験前後には窒素透過率を測定した。
メタン水蒸気改質反応は、一般的にS/C=3で行うため、水素をキャリアガスとしてSteam/H2モル比=3の混合ガス(すなわち、水蒸気圧76kPaのガス)を流通させた。水流量 32μL min-1、水素流量13mL min-1で行った。高圧ケミカルポンプNRX型(日本精密科学株式会社製)を用いて、水をリボンヒータで180℃に保った配管内に供給することによって気化させ、水蒸気を供給した。
その結果、はじめの20時間で水素透過率が減少したが、水素透過率は1×10-7mol m-2s-1Pa-1以上を95時間維持した。水蒸気の影響を受けた場合も、膜反応器として問題のない水素透過率を示すことが確認された。
上記評価の結果、アモルファスシリカ層の耐水蒸気性は良好であることが確認された。
また、窒素透過率は、試験前が2.08×10-10mol m-2s-1Pa-1であり、試験後が2.35×10-10mol m-2s-1Pa-1であった。窒素透過率は圧力変化法で測定している。
【0062】
4.アモルファスシリカ層の断面観察
SEMによる断面観察の結果、5000倍にて、支持層であるα-アルミナ層と、中間層であるγ-アルミナ層を観察することができ、多孔質支持体が二重構造であること、中間層の厚みは約5μmであることが確認された。
XPSによる分析の結果、深さ方向の元素組成から、分離活性層と考えられるAl2pが増加し、Si2pが減少している部分、即ち、アモルファスシリカ層において水素の分離活性が良好な分離活性領域の膜厚は約10nmであった。
【0063】
5.製膜後の乾燥雰囲気下における水素透過率と窒素透過率
本評価に用いた水素分離膜について、製膜後の乾燥雰囲気下における水素透過率と窒素透過率についてアレニウスの式の対数を適用して作成したアレニウスプロットを
図7に示す。
図7に明らかなように、実施例1で得た膜長8cmであり、分離活性層のアモルファスシリカ層の厚みが約10nmである実施例1に係る水素分離膜は、気体透過性とガス選択性とが高いレベルで両立していることが推定される。
【0064】
-膜反応器の製造-
得られた水素分離膜を備えた管状の多孔質支持体の内側にロジウム触媒を充填した。環状の多孔質支持体の両端部はガラスウールを詰めることで、充填したロジウム触媒を固定した。このようにして膜反応器を得た。
【0065】
-水素製造装置の作製-
得られた膜反応器を、
図1に示す水素製造装置10における膜反応器14Aとしてセットした。配管用のパイプ24Aは、ステンレス管(SUS管Swagelok製)を用いた。
高圧ケミカルポンプNRX型(日本精密科学(株))を用いて、パイプ用温度制御装置24Bとしてのリボンヒータで180℃に保った配管24A内に水を供給し、気化させることで水蒸気を供給した。
反応圧力は、バックプレッシャーレギュレーター(TESCOM Corporation製44-2362-24)により制御した。透過側の出口ガスは、気液分離装置20Aにより、反応側の出口ガスは、気液分離装置20Bにより、それぞれ水蒸気をトラップして、気体ガスのみを回収した。
【0066】
気液分離装置20Aを経て回収された水素ガスを、ガスクロマトグラフィー(GC)-Aを用いて分析した。
各種標準ガス(ジーエルサイエンス株式会社製)をガスタイトシリンジ(HAMILTON製)に採取し、GCインジェクションに注入することで検量線を作成した。GC-Aでは、水素及びメタンの検量線を作成した。
GCの検出器は、いずれも、熱伝導度型検出器(Thermal Conductivity Detector:TCD)を用いた。
GCの測定条件を下記表1に示す。
【0067】
【0068】
気液分離装置20Bを経て回収された二酸化炭素を含むガスは、ガスクロマトグラフィー(GC)-Bを用いて分析した。GC-Bでは、水素,一酸化炭素、メタン、及び二酸化炭素の検量線を作成した。
測定条件を下記表2に示す。
【0069】
【0070】
-水素製造装置の評価-
1.CH
470%+CO
230%の混合ガス
バイオガスのモデルとして、CH
470%+CO
230%の混合ガスを用いて、バイオガス供給器12から水素製造装置に供給した。水素製造装置によるメタン転化率を測定した。
実施例1の水素分離膜を備えた水素製造装置におけるメタン供給量とメタン転化率との関係を
図8(A)に示す。また、供給したバイオガスの温度とメタン転化率との関係を
図8(B)に示す。
参考例として、無孔管内に触媒を充填し、水素分離性能を有しない従来の触媒充填反応器の評価結果を併記した。
図8(A)及び
図8(B)の結果より、実施例1の水素製造装置は、従来の触媒充填反応器を搭載した水素製造装置に対し、メタンの変換率が良好であり、より効率よく水素を製造できることが分かる。
【0071】
2.CH
450%+CO
250%の混合ガス
バイオガスのモデルとして、CH
450%+CO
250%の混合ガスをバイオガス供給器12から水素製造装置に供給し、同様に評価した。
実施例1の水素分離膜を備えた水素製造装置におけるメタン供給量とメタン転化率との関係を
図9(A)に示す。また、供給したバイオガスの温度とメタン転化率との関係を
図9(B)に示す。
参考例として、無孔管内に触媒を充填し、水素分離膜を有しない従来の触媒充填反応器を備えた水素製造装置の評価結果を併記した。
図9(A)及び
図9(B)の結果より、実施例1の水素製造装置は、従来の触媒充填反応器を搭載した水素製造装置に対し、メタン転化率が良好であり、より効率よく水素を製造できることが分かる。
【0072】
3.バイオガスにおけるメタン濃度の変動に対する評価
6時間ごとに,モデルとなるバイオガスの組成を、下記表3に示す組成に切り替えて、膜反応器を搭載した水素製造装置を連続30時間運転した。
【0073】
【0074】
図10は、実施例1の水素製造装置において、混合ガスのメタンと二酸化炭素との混合組成を6時間ごとに変化させた場合の運転時間とメタン転化率との関係を示すグラフである。
図10に明らかなように、混合ガスの組成物を変えて30時間連続運転した場合において、実施例1の水素製造装置は、約80%以上の良好なメタン転化率を維持した。
評価に使用した評価前の水素分離膜の水素透過率は、7.19×10
-8mol m
-2s
-1Pa
-1であり、評価試験後は、9.15×10
-8mol m
-2s
-1Pa
-1であった。また、水素分離膜の製膜後の水素/窒素選択性は、2.54×10
3であった。
このことから、実施例1の水素製造装置における水素分離膜は、バイオガスの組成の変動に対する安定性に優れていることが確認された。
【0075】
実施例1の結果より、本開示の水素製造装置は、水素の選択性,気体透過性がいずれも良好であった。また、バイオガスの如く、組成が変動するガスの処理用途に用いても安定な反応性が期待でき、その応用範囲は広い。
【符号の説明】
【0076】
10 水素製造装置
12 バイオガス供給器
14A 膜反応器
14B 膜反応器
16 水素分離膜
18 触媒
20A 気液分離装置
20B 気液分離装置
22 温度制御装置
24A パイプ(配管)
24B パイプ用温度制御装置
26 支持層
28 中間層
30 アモルファスシリカ層