(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】シリコン単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20240927BHJP
C30B 15/20 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C30B29/06 502H
C30B15/20
C30B29/06 502J
(21)【出願番号】P 2020023535
(22)【出願日】2020-02-14
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】312007423
【氏名又は名称】グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】森 由行
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-188338(JP,A)
【文献】特開2009-292702(JP,A)
【文献】特開2011-148691(JP,A)
【文献】特開2008-150283(JP,A)
【文献】国際公開第2019/123706(WO,A1)
【文献】特開2006-306640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 15/20
C30B 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径300mmのウェーハを製造するため、チョクラルスキー法によってシリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶の製造方法であって、
前記シリコン単結晶の引き上げ中に、磁束密度2500Gauss以上3000Gauss以下の水平磁場を印加し、
前記シリコン単結晶の直胴部育成工程において、
前記シリコン単結晶中の酸素濃度をA(×10
18atoms/cm
3)とし、前記シリコン単結晶の引上速度をB(mm/min)としたとき、
B≧-1/4A+0.75
、0.4≦A<1.8となるように、
前記シリコン単結晶中の酸素濃度A及び前記シリコン単結晶の引上速度Bの値を制御
し、
前記シリコン単結晶の直胴部育成工程において、前記シリコン単結晶を取り囲む水冷体の温度を調整し、前記直胴部の結晶軸部における熱応力を、ミーゼス応力で18MPa以下とすることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(CZ法)によりシリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶の製造方法に関し、特に、シリコン単結晶の引き上げ中における内部転位(有転位化)を抑制できるシリコン単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CZ法によるシリコン単結晶の育成は、
図9に示すようなチャンバ50内に設置した石英ルツボ51に原料であるポリシリコンを充填し、石英ルツボ51の周囲に設けられたヒータ52によってポリシリコンを加熱して溶融し、シリコン融液Mとした後、シードチャックに取り付けた種結晶(シード)Pを当該シリコン融液に浸漬し、シードチャックおよび石英ルツボ51を同方向または逆方向に回転させながらシードチャックを引上げることにより行う。
【0003】
一般に、引上げ開始に先立ち、シリコン融液Mの温度が安定した後、種結晶Pをシリコン融液Mに接触させて種結晶Pの先端部を溶解するネッキングを行う。ネッキングとは、種結晶Pとシリコン融液Mとの接触で発生するサーマルショックによりシリコン単結晶に生じる転位を除去するための不可欠の工程である。
このネッキングによりネック部P1が形成される。また、このネック部P1は、一般的に、直径が3~4mmで、その長さが30~40mm以上必要とされている。
【0004】
また、引上げ開始後の工程としては、ネッキング終了後、直胴部直径にまで結晶を広げる肩部C1の形成工程、製品となる単結晶を育成する直胴部C2の形成工程、直胴部形成工程後の単結晶直径を徐々に小さくするテール部(図示せず)の形成工程が行われる。
【0005】
ところで、前記シリコン単結晶の引き上げ工程の際に結晶が有転位化すると、有転位化した結晶から切り出したウェーハは多くの転位を含んでいるため、デバイスの製造に使用することができない。
このような課題に対し、特許文献1(特開2006-347853号)には、単結晶を育成する際の雰囲気ガスに水素原子含有物質の気体を含ませることによって、熱応力に起因する有転位化を抑制するシリコン単結晶の育成方法が開示されている。
【0006】
具体的には、前記雰囲気ガス中における水素原子含有物質の気体の水素分子分圧を40~400Paとするとともに、前記雰囲気ガス中における酸素ガスの濃度を、前記水素原子含有物質の気体の水素分子換算での濃度をαとし、酸素ガス濃度をβとしたとき、体積の割合がα-2β≧3%を満たすものとしている。
【0007】
特許文献1に開示された方法によれば、水素原子含有物質の気体中の水素元素が、シリコン結晶の格子間に入り込むため、シリコン結晶の格子間原子の濃度を高めたことと同じとなり、シリコンの凝固の過程でシリコン融液から結晶内に取り込まれる格子間原子の数を低減させることができる。
それにより、熱応力により発生する転位クラスター(過剰な格子間シリコンの凝集体として形成される10μm程度の欠陥)を起点とするスリップ転位を抑制することができる。
【0008】
尚、特許文献2(特開2002-187796号)には、磁場を印加して単結晶を引き上げる際、育成中の単結晶が有転位化した場合に、磁場を印加せずに単結晶製造条件よりもヒータの出力を上げて前記有転位化した単結晶を溶解し、その後再び磁場を印加するとともにヒータの出力を前記単結晶製造条件として前記単結晶を再び引き上げる方法が開示されている。
【0009】
この方法によれば、磁場を印加せずにメルトバック(再溶融化)した後の単結晶引き上げ時に、溶融液表面の異物が単結晶内に取り込まれることが抑制され、肩部形成工程での有転位化を抑制することが可能となり、歩留まりの大幅向上が達成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2006-347853号
【文献】特開2002-187796号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、一般に単結晶の引上速度が低速化するに伴い格子間原子導入量が多くなり、結晶内への歪導入量が増加する傾向がある。一方、結晶内への酸素導入量が多くなるに伴いスリップ耐性が高くなる傾向がある。
ここで、結晶中の歪量が増えて、歪とスリップ耐性との均衡が崩れると、応力の大きい結晶中央部から転位が導入される。このような転位は結晶内部に生じるため(内部転位と呼ぶ)、結晶表面において有転位/無転位の指標となる晶癖線が消失せず、転位の確認をするにはウェーハ状にスライスした後の検査が必要である。
しかしながら、特許文献1、2に開示された発明にあっては、前記晶癖線の有無により判定可能な転位を基準にしたものであり、前記内部転位については考慮されていなかった。
【0012】
本願発明者は、歪量に影響する結晶引上速度と、歪と均衡を保つためのスリップ耐性に影響する結晶酸素濃度との関係に着目し、鋭意、研究の結果、CZ法によるシリコン単結晶の育成の際、結晶酸素濃度と引上速度とを制御することにより結晶の内部転位を抑制できることを見出し、本発明をするに至った。
【0013】
本発明は、前記したような事情の下になされたものであり、スリップ耐性を向上するための酸素濃度を結晶中に確保するとともに、シリコン単結晶を引き上げる際の内部転位の発生を防止することのできるシリコン単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するためになされた、本発明に係るシリコン単結晶の製造方法は、直径300mmのウェーハを製造するため、チョクラルスキー法によってシリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶の製造方法であって、前記シリコン単結晶の引き上げ中に、磁束密度2500Gauss以上3000Gauss以下の水平磁場を印加し、前記シリコン単結晶の直胴部育成工程において、前記シリコン単結晶中の酸素濃度をA(×1018atoms/cm3)とし、前記シリコン単結晶の引上速度をB(mm/min)としたとき、
B≧-1/4A+0.75、0.4≦A<1.8となるように、前記シリコン単結晶中の酸素濃度A及び前記シリコン単結晶の引上速度Bの値を制御し、前記シリコン単結晶の直胴部育成工程において、前記シリコン単結晶を取り囲む水冷体の温度を調整し、前記直胴部の結晶軸部における熱応力を、ミーゼス応力で18MPa以下とすることに特徴を有する。
【0015】
このように本願発明によれば、結晶直胴部の育成における結晶中の酸素濃度と引上速度とを、それらの相関式に基づき決まる各々の閾値以上となるよう制御し、シリコン単結晶を育成した。
これにより、スリップ耐性が向上する酸素濃度を結晶中に確保するができ、また、前記相関式により決まる閾値以上の引上速度が確保されるため、格子間原子の導入量が抑制されて結晶内部に歪が蓄積され難くなり、結晶中の歪が原因となって生じる内部転位の発生を抑制することができる。
【0016】
尚、前記シリコン単結晶中の酸素濃度Aの下限値は、0.4×1018atoms/cm3であり、上限値は、1.8×1018atoms/cm3であることが望ましい。
また、前記シリコン単結晶の直胴部育成工程において、前記シリコン単結晶を取り囲む水冷体の温度を調整し、前記直胴部の結晶軸部における熱応力を、ミーゼス応力で18MPa以下とすることが望ましい。
前記酸素濃度と引上速度とが、相関式に基づき決まる各々の閾値以上となるよう制御された場合には、結晶軸部の熱応力をミーゼス応力18MPa以下と小さな熱応力とすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、熱応力によるスリップ耐性を向上するための酸素濃度を結晶中に確保するとともに、シリコン単結晶を引き上げる際の内部転位の発生を防止することのできるシリコン単結晶の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明に係るシリコン単結晶の製造方法が実施される単結晶引上装置の断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の単結晶引上装置によるシリコン単結晶の製造方法の流れを示すフローである。
【
図3】
図3は、本発明のシリコン単結晶の製造方法を説明するためのグラフである。
【
図4】
図4は、本発明の実験1の結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、本発明の実施例及び比較例の結果を示す写真である。
【
図6】
図6は、本発明の実験2の結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、本発明の実験3の結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、本発明の実施例の結果を示すシミュレーション画像である。
【
図9】
図9は、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げる工程を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るシリコン単結晶の製造方法について図面を用いながら説明する。
図1は、本発明に係るシリコン単結晶の製造方法が実施される単結晶引上装置の断面図である。
図2は、
図1の単結晶引上装置によるシリコン単結晶の製造方法の流れを示すフローである。
【0020】
この単結晶引上装置1は、円筒形状のメインチャンバ10aの上にプルチャンバ10bを重ねて形成された炉体10を備え、この炉体10内に鉛直軸回りに回転可能、且つ昇降可能に設けられたカーボンサセプタ(或いは黒鉛サセプタ)2と、前記カーボンサセプタ2によって保持された石英ガラスルツボ3(以下、単にルツボ3と称する)とを具備している。
【0021】
前記ルツボ3は、直胴部3aと、その下に形成された底部3bと有しており、カーボンサセプタ2の回転と共に鉛直軸回りに回転可能となされている。
また、カーボンサセプタ2の下方には、このカーボンサセプタ2を鉛直軸回りに回転させる回転モータなどの回転駆動部14と、カーボンサセプタ2を昇降移動させる昇降駆動部15とが設けられている。
尚、回転駆動部14には回転駆動制御部14aが接続され、昇降駆動部15には昇降駆動制御部15aが接続されている。
【0022】
また単結晶引上装置1は、ルツボ3に装填された半導体原料(原料ポリシリコン)を溶融してシリコン溶融液M(以下、単に溶融液Mと呼ぶ)とする抵抗加熱によるサイドヒータ4と、ワイヤ6を巻き上げ、育成される単結晶Cを引き上げる引き上げ機構9とを備えている。前記引き上げ機構9が有するワイヤ6の先端には、種結晶Pが取り付けられている。
【0023】
尚、サイドヒータ4には供給電力量を制御するヒータ駆動制御部4aが接続され、引き上げ機構9には、その回転駆動の制御を行う回転駆動制御部9aが接続されている。
また、この単結晶引上装置1においては、炉体2の外側に磁場印加用電磁コイル8が設置される。この磁場印加用電磁コイル8に所定の電流が印加されると、ルツボ3内のシリコン溶融液Mに対し所定強度の水平磁場が印加されるようになっている。磁場印加用電磁コイル8には、その動作制御を行う電磁コイル制御部8aが接続されている。
【0024】
即ち、本実施形態においては、溶融液M内に磁場を印加して単結晶を育成するMCZ法(Magnetic field applied CZ法)が実施され、それによりシリコン溶融液Mの対流を制御し、単結晶化の安定を図るようになされる。
【0025】
また、ルツボ3内に形成される溶融液Mの上方には、単結晶Cの周囲を包囲する輻射シールド7が配置されている。この輻射シールド7は、上部と下部が開口形成され、育成中の単結晶Cに対するサイドヒータ4や溶融液M等からの余計な輻射熱を遮蔽すると共に、炉内のガス流を整流するものである。
尚、輻射シールド7の下端と溶融液面との間のギャップは、育成する単結晶の所望の特性に応じて所定の距離を維持するよう制御される。
【0026】
また、輻射シールド7の内側には、円筒状の水冷体12が配置されている。この水冷体12には、冷却水供給手段12aによって冷却水が供給され、循環することによって所定温度が維持されるように構成されている。
【0027】
また、この単結晶引上装置1は、記憶装置11aと演算制御装置11bとを有するコンピュータ11を備え、回転駆動制御部14a、昇降駆動制御部15a、電磁コイル制御部8a、回転駆動制御部9a、冷却水供給手段12aは、それぞれ演算制御装置11bに接続されている。
【0028】
このように構成された単結晶引上装置1において、例えば、直径300mmの単結晶Cを育成する場合、次のように引き上げが行われる。即ち、最初にルツボ3に原料ポリシリコン(例えば350kg)を装填し、コンピュータ11の記憶装置11aに記憶されたプログラムに基づき結晶育成工程が開始される。
【0029】
先ず、炉体10内が所定の雰囲気(主にアルゴンガスなどの不活性ガス)となされ、ルツボ3内に装填された原料ポリシリコンが、サイドヒータ4による加熱によって溶融され、溶融液Mとされる(
図2のステップS1)。さらに、ルツボ3が所定の高さ位置において所定の回転速度(rpm)で回転動作される(
図2のステップS2)。
【0030】
次いで、磁場印加用電磁コイル8に所定の電流が流され、溶融液M内に1000~4000Gaussの範囲内で設定された磁束密度(例えば2500Gauss)で水平磁場が印加開始される(
図2のステップS3)。
また、ワイヤ6が降ろされて種結晶Pが溶融液Mに接触され、種結晶Pの先端部を溶解するネッキングが行われ、ネック部P1が形成開始される(
図2のステップS4)。
ネック部P1が形成されると、サイドヒータ4への供給電力や、引き上げ速度、磁場印加強度などをパラメータとして引き上げ条件が調整され、ルツボ3の回転方向とは逆方向に所定の回転速度で種結晶Pが回転開始される。
【0031】
そして、結晶径が徐々に拡径されて肩部C1が形成され(
図2のステップS5)、製品部分となる直胴部C2を形成する工程に移行する(
図2のステップS6)。
ここで、コンピュータ11は、直胴部C2の育成において、
図3に示すように横軸xを結晶酸素濃度A(×10
18atoms/cm
3)とし、縦軸yを引上速度B(mm/min)としたときに、一次関数の相関式B=-1/4A+0.75により決まるA,Bの値を閾値として、各々がそれ以上の値となるように引上速度と結晶酸素濃度とを制御する。
【0032】
具体的には、結晶酸素濃度の値は、例えば製品となるウェーハの目標酸素濃度の値となるよう設定され、Aを酸素濃度の目標値とすると、前記相関式に酸素濃度値A(×1018atoms/cm3)を代入した引上速度値B=-1/4A+0.75(mm/min)が引上速度の閾値とされる。即ち、コンピュータ11は、酸素濃度が目標値A以上となるように引き上げ制御を行うとともに、引上速度B以上で引き上げ制御を行う。
【0033】
このように前記結晶酸素濃度Aの単結晶Cを育成する際、引上速度B以上に制御することによって、格子間原子の導入量が抑制されて結晶内部に歪が蓄積され難くなり、結晶中の歪が原因となって生じる内部転位の発生が抑制される。
尚、結晶酸素濃度Aの範囲は、0.4(×1018atoms/cm3)以上1.8(×1018atoms/cm3)未満であることが望ましい。これは結晶酸素濃度Aについて、低酸素濃度の限界が0.4(×1018atoms/cm3)であり、1.8(×1018atoms/cm3)以上であると、結晶引上げ中に有転位化する虞があるためである。
また、引上速度Bの範囲は、0.3(mm/min)以上1.1(mm/min)未満であることが望ましい。これは引上げ速度Bについて、0.3(mm/min)未満だと結晶引上げ中に有転位化する割合が増加するためであり、1.1(mm/min)以上だと結晶が変形する虞があるためである。
【0034】
尚、単結晶中における酸素は、次のようにして導入される。シリコン融液Mがルツボ3の側壁に接して(沿って)流れる際、融点におけるシリコンは化学的に活性であるため、シリコン融液Mはルツボ3の石英成分と反応し、ルツボ3の側壁を溶解し、シリコン融液M中にO(酸素)が取り込まれる。
【0035】
このようにO(酸素)が導入されたシリコン融液Mから育成される単結晶中の酸素濃度を制御するには、好ましくは炉内圧を調整する(炉内圧を上げると結晶酸素濃度が下がる)ことによりシリコン融液Mの流れ(対流)を制御して行うことができる。
【0036】
また、水冷体12の温度が調整されることによって、育成される直胴部C2の温度が例えば1412℃から800℃まで冷却され、結晶軸部の熱応力がミーゼス応力で例えば18MPa以下に抑制される。
このように結晶内部の熱応力が低く抑えられ、直胴部C2の育成において、結晶酸素濃度が目標値A以上に制御されることにより、結晶酸素導入量が確保されてスリップ耐性が向上する。
【0037】
シリコン単結晶Cの直胴部C2の形成が進むにつれ、ルツボ3を収容するカーボンサセプタ2は上昇移動され、位置固定された輻射シールド7及びサイドヒータ4に対する溶融液面M1の位置が維持される。
また、例えば1000~4000Gaussの範囲、より好ましくは2000~3000Gaussで設定された磁束密度の磁場が印加されていることにより、溶融液Mの自然対流が抑制される)。尚、水平磁場の磁束密度を800~1000Gaussの範囲に低く設定すると、溶融液Mが不安定となり、結晶変形が生じ易くなる。
【0038】
そして、所定の長さまで直胴部C2が形成されると、最終のテール部工程に移行する(
図2のステップS7)。このテール部工程においては、結晶下端と溶融液Mとの接触面積が徐々に小さくなり、単結晶Cと溶融液Mとが切り離され、シリコン単結晶が製造される。
【0039】
以上のように、本実施の形態によれば、結晶直胴部の育成における結晶中の酸素濃度と引上速度とを、それらの相関式に基づき決まる各々の閾値以上となるよう制御し、シリコン単結晶を育成した。また直胴部育成において結晶軸部の熱応力は、ミーゼス応力18MPa以下に抑制される。
これにより、スリップ耐性を向上するための酸素濃度を結晶中に確保することができ、また、前記相関式により決まる閾値以上の引上速度が確保されるため、格子間原子の導入量が抑制されて結晶内部に歪が蓄積され難くなり、結晶中の歪が原因となって生じる内部転位の発生を抑制することができる。
【実施例】
【0040】
本発明に係るシリコン単結晶の製造方法について、実施例に基づきさらに説明する。
(実験1)
実験1では、上述の実施形態に示した構成の単結晶引上装置において、ルツボに360kgの原料ポリシリコンを投入し、直径307mmのシリコン単結晶の引上げを行なった。シリコン溶融液の自然対流を抑制するために、引上中に印加する水平磁場の磁束密度は2500Gaussに設定した。
【0041】
また、単結晶を取り囲む水冷体の温度を調整し、単結晶表面から水冷体表面までの距離を55mmとし、ミーゼス応力を18MPa以下に調整した。磁場強度は、3000Gaussとした。
また、不活性ガスとしては、Arガスを用い、不活性ガスの流量は、130l/minとした。また、炉内圧を15~80Torrとした。更に、ルツボの回転数を0.5rpmとし、単結晶の回転数を9.5rpmとした(回転方向は互いに逆方向とした)。
【0042】
また、実験1では、110回の引上試行を実施した。
そして、試行ごとに目標とする結晶酸素濃度を設定し、引上げ速度を種々換えて、引上げを行った。実験1における各試行の結果を
図4のグラフに示す。
図4のグラフは、縦軸yを平均引上速度(mm/min)とし、横軸xを結晶中央の酸素濃度(10
18atoms/cm
3)として、各試行における平均引上速度と結晶中央の酸素濃度とをプロットしたものである。
また各試行において、得られた単結晶をエッチドウェーハに加工し、斜光を当てて面透過による内部転位の有無を確認した。そして、各試行において、
図4に示すように、内部転位が無いものを◇で示し、内部転位があるものを×で示す。
【0043】
この
図4のグラフからして、相関式y=-1/4x+0.75(yは平均引上速度(mm/min)、xは結晶中央の酸素濃度(10
18atoms/cm
3))において、x=Bとしたときのyの値Aを平均引上速度の閾値とし、結晶酸素濃度B以上かつ引上速度A以上となると、内部転位が無いことが判明した。
【0044】
尚、
図5(a)に、内部転位の有無を検査した際の内部転位が無い場合の写真を示し、
図5(b)に、内部転位が有る場合の写真を示す。
図5(b)に示す結果の例では、5~20mm程度の大きさの十字状の反射が数カ所見られるが、晶癖線が消失していないため、それらは内部転位と確認できる。
【0045】
この実験1の結果、
図4のグラフに示すように、相関式y=-1/4x+0.75のxに目標酸素濃度を代入したときのyの値以上で単結晶を引き上げた場合に、内部転位が発生しないことが確認された。
【0046】
(実験2)
実験2では、上記実験1の条件のうち、シリコン融液の流れ(対流)に影響を及ぼす磁束密度、不活性ガスの流量、炉内圧、ルツボ及び単結晶の回転数の条件を変更した。その他の条件は、実験1の条件と同じである。
具体的には、磁束密度は2000Gauss、不活性ガスの流量は130l/minとした。また、炉内圧を15~80Torrとした。更に、ルツボの回転数を0.5rpmとし、単結晶の回転数を9.5rpmとした(回転方向は互いに逆方向とした)。
【0047】
実験2における各試行の結果を
図6のグラフに示す。
図6のグラフは、縦軸yを平均引上速度(mm/min)とし、横軸xを結晶中央の酸素濃度(10
18atoms/cm
3)として、各試行における平均引上速度と結晶中央の酸素濃度とをプロットしたものである。各試行において、内部転位が無いものを◇で示し、内部転位があるものを×で示す。
実験2の結果、
図6のグラフに示すように、相関式y=-1/4x+0.75のxに目標酸素濃度を代入したときのyの値以上で単結晶を引き上げた場合に、内部転位が発生しなかった。
【0048】
(実験3)
実験3では、上記実験1、2の条件のうち、シリコン融液の流れ(対流)に影響を及ぼす磁束密度、不活性ガスの流量、炉内圧、ルツボ及び単結晶の回転数の条件を変更した。その他の条件は、実験1、2の条件と同じである。
具体的には、磁束密度は3000Gauss、不活性ガスの流量は130l/minとした。また、炉内圧を15~80Torrとした。更に、ルツボの回転数を2.0rpmとし、単結晶の回転数を9.5rpmとした(回転方向は互いに逆方向とした)。
【0049】
実験3における各試行の結果を
図7のグラフに示す。
図7のグラフは、縦軸yを平均引上速度(mm/min)とし、横軸xを結晶中央の酸素濃度(10
18atoms/cm
3)として、各試行における平均引上速度と結晶中央の酸素濃度とをプロットしたものである。各試行において、内部転位が無いものを◇で示し、内部転位があるものを×で示す。
実験3の結果、
図7のグラフに示すように、相関式y=-1/4x+0.75のxに目標酸素濃度を代入したときのyの値以上で単結晶を引き上げた場合に、内部転位が発生しなかった。
【0050】
以上実験1~3の結果より、内部転位の発生を抑制するために、平均引上速度(mm/min)と結晶中央の酸素濃度(1018atoms/cm3)との相関式y=-1/4x+0.75を定義することができ、相関式y=-1/4x+0.75のxに目標酸素濃度を代入し、yの値以上で単結晶を引き上げた場合に、内部転位が発生しないことが確認された。
【0051】
(実験4)
実験4では、上記実験1の試行のうち、引上速度を0.55mm/min、結晶酸素濃度を1.1E18atoms/cm
3とした条件において、結晶内部に発生する熱応力をシミュレーションにより確認した。
このシミュレーションにおいては、STR社製の総合伝熱解析ソフトCGSim_Basicを用い、パラメータとして熱膨張率2.6×10
-6K
-1、ヤング率185GPa、ポワソン比0.28、密度2330kg/m
3に設定した。
図8に、このシミュレーション結果を示す。
図8において、固液界面より150mm上付近の結晶軸部では、熱応力18MPaと小さく、スリップ耐性を向上させることができることを確認した。
【0052】
以上の実験1~4の結果から、本発明によれば、単結晶の直胴部育成中における歪が原因となって生じる内部転位の発生を防止することができると確認した。
【符号の説明】
【0053】
1 単結晶引上装置
2 カーボンサセプタ
3 石英ガラスルツボ(ルツボ)
4 サイドヒータ
6 ワイヤ
7 輻射シールド
8 磁場印加用電磁コイル
9 引き上げ機構
10 炉体
11 コンピュータ
11a 記憶装置
11b 演算制御装置
12 水冷体
14 回転駆動部
15 昇降駆動部
C シリコン単結晶
M シリコン融液
C1 肩部
C2 直胴部