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  • 特許-カテーテルシャフト、及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】カテーテルシャフト、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 29/12 20060101AFI20240927BHJP
   A61L 29/02 20060101ALI20240927BHJP
   A61L 29/06 20060101ALI20240927BHJP
   A61L 29/14 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
A61L29/12 100
A61L29/02
A61L29/06
A61L29/14
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020045430
(22)【出願日】2020-03-16
(65)【公開番号】P2021145710
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520091568
【氏名又は名称】アドバンスドメディカルワークス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】兼松 孝之
(72)【発明者】
【氏名】糸谷 一男
(72)【発明者】
【氏名】堀井 友明
(72)【発明者】
【氏名】森田 大作
(72)【発明者】
【氏名】森賀 亮
【審査官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第07419633(US,B1)
【文献】特開2010-005293(JP,A)
【文献】特開2004-141296(JP,A)
【文献】特開2001-293082(JP,A)
【文献】特表2008-528246(JP,A)
【文献】特開2014-001360(JP,A)
【文献】特開2009-254836(JP,A)
【文献】特開2005-013495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 29/12
A61L 29/02
A61L 29/06
A61L 29/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と、板状アルミナ粒子とを含有するチューブ形状の成形体からなるカテーテルシャフトであって、
前記板状アルミナ粒子は下記式で示されるアスペクト比が5~500であり、
前記カテーテルシャフトの中心軸を、輪切りに対して垂直方向に切断した断面の走査型電子顕微鏡写真を観察したとき、前記板状アルミナ粒子の板面の輪郭線と前記カテーテルシャフトの表面の輪郭線とがなす平均配向角が20°以下であるカテーテルシャフト。
アスペクト比=板状アルミナ粒子の平均粒子径L/板状アルミナ粒子の平均厚さD
【請求項2】
前記板状アルミナ粒子の含有量が、前記カテーテルシャフト100質量%に対して、5~60質量%である、請求項1に記載のカテーテルシャフト。
【請求項3】
前記カテーテルシャフトの外径が0.25~3.3mmである、請求項1又は2に記載のカテーテルシャフト。
【請求項4】
前記カテーテルシャフトの内径が0.2~3.0mmである、請求項1~3のいずれか一項に記載のカテーテルシャフト。
【請求項5】
前記カテーテルシャフトの、(外径-内径)/2で示される厚さが0.01~2mmである、請求項1~4のいずれか一項に記載のカテーテルシャフト。
【請求項6】
前記板状アルミナ粒子の平均厚さが500nm以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のカテーテルシャフト。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド樹脂、又は、ポリアミドエラストマーである、請求項1~のいずれか一項に記載のカテーテルシャフト。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂と、前記板状アルミナ粒子とを含有する樹脂組成物をチューブ形状に押出成形する、請求項1~7のいずれか一項に記載のカテーテルシャフトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテルシャフト、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
経皮的冠動脈形成術(以下、「PCI」という。)は、狭心症、心筋梗塞等の虚血性心疾患の内科的治療の一つである。狭くなったり塞がったりした冠動脈を血管の内側から、先端に風船のついた医療用バルーンカテーテルで拡げることで、身体に大きな傷をつけることなく、虚血性心疾患の治療をすることができる。
【0003】
医療用バルーンカテーテルは、例えば、図2に示されるように、ハブ12の一端にカテーテルシャフト10が取り付けられ、カテーテルシャフト10の先にバルーン11、及び中間部にガイドワイヤー導入口14を備える。ハブ12の他端には加圧流体注入口13が取り付けられている。心臓血管内狭窄部等に、バルーン11を挿入し拡張させることにより、狭窄部の形成を行うことができる。
【0004】
PCIの治療後に再び冠動脈が狭くなってしまうこと(再狭窄)を予防する為に、ステントという小さな網目状の金属の筒を冠動脈の内側から押し拡げて留置することもある。このPCIは手首の動脈や足の付け根から細いカテーテルを通して治療を行う為、冠動脈バイパス手術(外科的手術)に比べて患者の身体の負担も少なく低侵襲といえる。また、冠動脈以外の全身の末梢動脈疾患のカテーテル治療(以下、「EVT」という。)も行われている。
【0005】
医療用バルーンカテーテルは、例えば、特許文献1~3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-244385号公報
【文献】特開2004-065413号公報
【文献】特開2005-013495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、PCIやEVTと呼ばれる低侵襲治療に使用されるカテーテルは、近年、より高度な病変、つまりは石灰化病変や屈曲病変といった病変への使用が検討されている。石灰化病変は、通常の病変と比較して硬く、バルーンカテーテルで拡張するために高圧を掛ける必要がある。このため、病変を拡張するバルーンだけでなく、バルーンに導通しているカテーテルシャフトにも耐圧性能が求められる。
【0008】
加えて、より低侵襲な医療用カテーテルの開発が望まれており、これを実現するために、カテーテルシャフトを細く、薄肉化する必要がある。すなわち、カテーテルシャフトは、高強度や力伝達性能と、それとは相反する特性である高い柔軟性や薄さを同時に兼ね備えることが求められている。
【0009】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、PCI用、EVT用等の医療用カテーテルに適用可能な、機械物性に優れるカテーテルシャフト及びその製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、カテーテルシャフトの成形材料に特定の板状アルミナ粒子を配合することで、カテーテルシャフトが機械物性に優れることを見出だし、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
【0011】
[1] 熱可塑性樹脂と、板状アルミナ粒子とを含有するチューブ形状の成形体からなるカテーテルシャフトであって、
前記板状アルミナ粒子は下記式で示されるアスペクト比が5~500であるカテーテルシャフト。
アスペクト比=板状アルミナ粒子の平均粒子径L/板状アルミナ粒子の平均厚さD
[2] 前記板状アルミナ粒子の含有量が、前記カテーテルシャフト100質量%に対して、5~60質量%である、前記[1]に記載のカテーテルシャフト。
[3] 前記カテーテルシャフトの外径が0.25~3.3mmである、前記[1]又は[2]に記載のカテーテルシャフト。
[4] 前記カテーテルシャフトの内径が0.2~3.0mmである、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載のカテーテルシャフト。
[5] 前記カテーテルシャフトの、(外径-内径)/2で示される厚さが0.01~2mmである、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載のカテーテルシャフト。
[6] 前記板状アルミナ粒子の平均厚さが500nm以下である、前記[1]~[5]のいずれか一項に記載のカテーテルシャフト。
[7] 前記カテーテルシャフトの中心軸を、輪切りに対して垂直方向に切断した断面の走査型電子顕微鏡写真を観察したとき、前記板状アルミナ粒子の板面の輪郭線と前記カテーテルシャフトの表面の輪郭線とがなす平均配向角が20°以下である、前記[1]~[6]のいずれか一項に記載のカテーテルシャフト。
[8] 前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド樹脂、又は、ポリアミドエラストマーである、前記[1]~[7]のいずれか一項に記載のカテーテルシャフト。
[9] 前記熱可塑性樹脂と、前記板状アルミナ粒子とを含有する樹脂組成物をチューブ形状に押出成形する、前記[1]~[8]のいずれか一項に記載のカテーテルシャフトの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、機械物性に優れるカテーテルシャフト及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】カテーテルシャフトの模式図である。
図2】医療用バルーンカテーテルの模式図である。
図3】カテーテルシャフトの直交断面のSEM像の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態におけるカテーテルシャフト及びその製造方法を説明する。
【0015】
≪カテーテルシャフト≫
本実施形態のカテーテルシャフトは、熱可塑性樹脂と、板状アルミナ粒子とを含有するチューブ形状の成形体からなる。
【0016】
図1は、本実施形態のカテーテルシャフトの模式図である。
【0017】
本実施形態のカテーテルシャフトとしては、熱可塑性樹脂と、板状アルミナ粒子とを含有するチューブ形状の成形体であれば限定されず、ストロー状成形体、中空円筒状成形体を含む。
【0018】
カテーテルシャフトの外径d1は、医療用カテーテルとして使用するときの低侵襲を実現するため、3.3mm以下であることが好ましく、2.7mm以下であることがより好ましく、2.4mm以下であることがさらに好ましく、1.8mm以下であることが特に好ましい。本実施形態のカテーテルシャフトは、耐圧性、及び引張強度の機械物性に優れるので、より細い外径d1が達成可能である。カテーテルシャフトの外径d1は、強度を確保するため、0.25mm以上であることが好ましく、0.35mm以上であることがより好ましく、0.40mm以上であることがさらに好ましく、0.45mm以上であることが特に好ましい。カテーテルシャフトの外径d1は、0.25~3.3mmであることが好ましく、0.35~2.7mmであることがより好ましく、0.40~2.4mmであることがさらに好ましく、0.45~1.8mmであることが特に好ましい。
【0019】
カテーテルシャフトの内径d2は、0.2~3.0mmであることが好ましく、0.35~2.4mmであることがより好ましく、0.4~2.0mmであることがさらに好ましく、0.8~1.5mmであることが特に好ましい。
【0020】
カテーテルシャフトの、(外径d1-内径d2)/2で示される厚さは、2mm以下であることが好ましく、1.6mm以下であることがより好ましく、1.2mm以下であることがさらに好ましい。本実施形態のカテーテルシャフトは、耐圧性、及び引張強度の機械物性に優れるので、より薄い厚さが達成可能である。カテーテルシャフトの、(外径d1-内径d2)/2で示される厚さは、0.01~2mmであることが好ましく、0.02~1.6mmであることがより好ましく、0.04~1.2mmであることがさらに好ましい。
【0021】
本実施形態のカテーテルシャフトの中心軸を、輪切りに対して垂直方向に切断した断面の走査型電子顕微鏡写真を観察したとき、前記板状アルミナ粒子の板面の輪郭線と前記カテーテルシャフトの表面の輪郭線とがなす平均配向角は、20°以下であることが好ましく、15°以下であることがより好ましく、10°以下であることがさらに好ましい。
【0022】
板状アルミナ粒子が、前記板状アルミナ粒子の板面と前記カテーテルシャフトの表面の輪郭線とがなす平均配向角が20°以下となるように配向していることにより、実施形態のカテーテルシャフトは優れた機械物性を備える。実施形態のカテーテルシャフトは、より好ましくは平均配向角が15°以下、さらに好ましくは平均配向角が10°以下であると、アスペクト比の比較的小さい板状アルミナ粒子を使用した場合においても優れた機械物性を発現でき、あるいは同等のアスペクト比の板状アルミナ粒子を使用した場合でも、より優れた機械物性を備えることができる。
【0023】
前記平均配向角の評価方法としては、走査型電子顕微鏡(例えばJCM-7000)を用いて、対象のカテーテルシャフトの試料の中心軸を、輪切りに対して垂直方向に切断した断面の状態を観察し、SEM像に映り込んでいる板状アルミナ粒子の配向状態を確認し、カテーテルシャフトの表面の輪郭の直線を角度0°としたとき、その直線に平行な直線に対する各板状アルミナ粒子の配向角(-90°<θ<90°)を見積もり、それらの絶対値の平均値を、対象のカテーテルシャフトの平均配向角と定める。
【0024】
本実施形態のカテーテルシャフトにおいて、板状アルミナ粒子は熱可塑性樹脂マトリックス中で分散していることが好ましく、板状アルミナ粒子の一次粒子が熱可塑性樹脂マトリックス中で分散していることがより好ましい。ここでいう「分散」とは、「板状アルミナ粒子同士又は板状アルミナ粒子の一次粒子同士が互いに接触していない状態」をいう。
【0025】
板状アルミナ粒子の含有量は、前記カテーテルシャフト100質量%に対して、5~60質量%であることが好ましく、5~50質量%であることがより好ましく、10~40質量%であることが特に好ましい。
板状アルミナ粒子の含有量が、前記下限値以上であることで、カテーテルシャフトの機械物性が優れる。前記上限値以下であることで、熱可塑性樹脂マトリックス中で板状アルミナ粒子同士が接触することを避けることができ、熱可塑性樹脂と板状アルミナ粒子とを含有する樹脂組成物の溶融状態での流動性を好ましく保ち、カテーテルシャフト中の板状アルミナ粒子を好適に分散させることができ、カテーテルシャフトを安定的に形成することができる。
【0026】
熱可塑性樹脂の含有量は、前記カテーテルシャフト100質量%に対して、40~95質量%であることが好ましく、50~95質量%であることがより好ましく、60~90質量%であることが特に好ましい。熱可塑性樹脂の含有量が前記下限値以上であると、樹脂組成物に優れた成形性を付与できることから好ましい。一方、樹脂の含有量が前記上限値以下であると、カテーテルシャフトの機械物性が優れることから好ましい。
【0027】
本実施形態のカテーテルシャフトは、後述する耐圧性、及び引張強度の機械物性に優れるので、PCI用、EVT用等の、より低侵襲な医療用カテーテルに適用が可能である。
【0028】
本実施形態のカテーテルシャフトは、例えば、図2に示されるように、医療用カテーテル1として用いることができる。医療用カテーテル1は、ハブ12の一端にカテーテルシャフト10が取り付けられ、カテーテルシャフト10の先にバルーン11、及び中間部にガイドワイヤー導入口14を備える。ハブ12の他端には加圧流体注入口13が取り付けられている。心臓血管内狭窄部等に、バルーン11を挿入し拡張させることにより、狭窄部の形成を行うことができる。
【0029】
医療用カテーテルのカテーテルシャフトは、一層のものとして形成することができ、多層のものとして形成することができる。本実施形態のカテーテルシャフトは、医療用カテーテルのアウターシャフトとして利用することができ、医療用カテーテルのインナーシャフトとして利用することもできる。
【0030】
カテーテルシャフトの製造方法については、後に詳記する。以下に、熱可塑性樹脂と、板状アルミナ粒子について説明する。
【0031】
[熱可塑性樹脂]
前記熱可塑性樹脂としては、医療用カテーテルシャフトの成形材料に使用される熱可塑性樹脂が用いられうる。
カテーテルシャフトの成形材料として、熱可塑性樹脂に前記板状アルミナ粒子を配合することで、カテーテルシャフトの材料強度が増す効果が得られると考えられる。
このような熱可塑性樹脂として、具体的には、ナイロン11(ポリアミド11)、ナイロン12(ポリアミド12)等のポリアミド樹脂、又は、ポリエーテルブロックアミド等のポリアミドエラストマーが好適に用いられうる。
【0032】
[板状アルミナ粒子]
板状アルミナ粒子は、水熱法、フラックス法等の公知慣用の製造方法で製造することが出来るが、中でも好ましい製造方法としては、モリブデン化合物及び珪素或いは珪素原子を含む化合物からなる形状制御剤の存在下、アルミニウム化合物を焼成するアルミナ粒子の製造方法にて製造することが出来る。
本形態に係る、好ましい製造方法で得られる板状アルミナ粒子は、粒子内にモリブデンを含み、かつ、多角の板状である。また、本発明の効果を損なわない限り、原料または形状制御剤などからの不純物を含んでもよい。なお、板状アルミナ粒子はさらに有機化合物等を含んでいてもよい。
【0033】
本発明でいう「板状」は平均粒子径を厚さで除したアスペクト比が2以上であることを指す。なお、本明細書において、「板状アルミナ粒子の厚さ」は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定された値を採用するものとする。また、「板状アルミナ粒子の平均粒子径」は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により測定された体積基準の累積粒度分布から、体積基準メディアン径D50として算出された値とする。
【0034】
板状アルミナ粒子は、平均厚さが0.01~0.5μm、平均粒子径が0.1~500μm、平均厚さに対する平均粒子径の比率であるアスペクト比が5~500であることが好ましい。板状アルミナ粒子のアスペクト比が5以上であると、2次元の配向特性を有しうることから好ましく、板状アルミナ粒子のアスペクト比が500以下であると、機械的強度に優れるからである。より好ましくは、平均厚さが0.03~3μm、平均粒子径が1~50μm、平均厚さに対する平均粒子径の比率であるアスペクト比が15~100である。
【0035】
本発明の板状アルミナ粒子における、その平均厚さ、平均粒子径、アスペクト比等は、モリブデン化合物と、アルミニウム化合物と、形状制御剤との使用割合、形状制御剤の種類、形状制御剤とアルミニウム化合物との存在状態を選択することにより、制御することができる。
【0036】
≪カテーテルシャフトの製造方法≫
本実施形態のカテーテルシャフトの製造方法は、前記熱可塑性樹脂と、前記板状アルミナ粒子とを含有する樹脂組成物をチューブ形状に押出成形する。
熱可塑性樹脂とアスペクト比が5~500である板状アルミナ粒子とを含有する樹脂組成物を、チューブ形状に押出成形する方法であれば、特に限定されず、公知の押出成形法、押出チューブ成形法等の成形方法を採用することができる。
【0037】
板状アルミナ粒子としては、上述したものが用いられ、板状アルミナ粒子の平均厚さ、アスペクト比等の好ましい性状は上述したものと同じであるからここでは説明を省略する。
【0038】
本実施形態のカテーテルシャフトは、熱可塑性樹脂と所定の板状アルミナ粒子とを含有する樹脂組成物を、チューブ形状に成形することで、前記板状アルミナ粒子の板面の輪郭線と前記カテーテルシャフトの表面の輪郭線とがなす平均配向角が20°以下となるように配向させることができる。
【0039】
板状アルミナ粒子の含有量は、樹脂組成物の100質量%に対して、5~60質量%であることが好ましく、5~50質量%であることがより好ましく、10~40質量%であることがさらに好ましい。板状アルミナ粒子の含有量が前記下限値以上であると、機械物性に優れるカテーテルシャフトが得られることから好ましい。一方、板状アルミナ粒子の含有量が前記上限値以下であると、成形性に優れた樹脂組成物を得ることができることから好ましい。
【0040】
前記熱可塑性樹脂としては、前述の公知慣用の熱可塑性樹脂を例示できる。中でも、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド樹脂、ポリエーテルブロックアミド等のポリアミドエラストマーがより好ましい。
【0041】
熱可塑性樹脂の含有量は、樹脂組成物の100質量%に対して、40~95質量%であることが好ましく、50~95質量%であることがより好ましく、60~90質量%であることが特に好ましい。樹脂の含有量が前記下限値以上であると、樹脂組成物に優れた成形性を付与できることから好ましい。一方、樹脂の含有量が前記上限値以下であると、カテーテルシャフトの機械物性が優れることから好ましい。
【0042】
前記樹脂組成物は、板状アルミナ粒子と熱可塑性樹脂、さらに必要に応じてその他の配合物を混合することにより得られる。その混合方法に特に限定はなく、公知慣用の方法により、混合される。
【0043】
熱可塑性樹脂と板状アルミナ粒子等との混合方法としては、熱可塑性樹脂、板状アルミナ粒子、および必要に応じてその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダー、混合ロールなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常100~350℃の範囲であり、好ましくは、200~300℃の範囲である。
【0044】
前記樹脂組成物は、板状アルミナ粒子及び熱可塑性樹脂を含む原料を単純にドライブレンドした樹脂組成物から、溶融混練してペレット状樹脂組成物として得ることが好ましい。
次に、前記ペレット状樹脂組成物を、流動性がある状態にて所望のチューブ形状となる様に押圧成形し、空気中又は水中で常温まで冷却することで連続したチューブ形状の成形体とすることができる。
【0045】
成形温度としては、前記熱可塑性樹脂が溶融するが分解しない温度であれば限定されないが、上記溶融混練の温度を参考に、適切な温度を選択することが好ましい。具体的には、前記溶融混練において採用した温度と同温度又はより高い温度で、ダイ(金型、ダイス)に加圧して成形を行うことができる。すなわち、チューブ外径d1とチューブ内径d2に略対応した環状(二重円筒状)のスリットが設けられたダイに前記ペレット状樹脂組成物の溶融物を押圧し、スリット外に押し出すことで、連続したチューブ形状の成形体を押圧成形することができる。
こうして得られた連続したチューブ形状の成形体を、成形体の円筒の長さ方向を所望の長さで切断することで、所定の長さのカテーテルシャフトとすることができる。
【0046】
前記樹脂組成物の流動性や板状アルミナ粒子等のフィラー充填性をより高められることから、樹脂組成物にカップリング剤を外添してもよい。なお、カップリング剤を外添することで、樹脂組成物と板状アルミナ粒子の密着性が更に高められ、樹脂組成物と板状アルミナ粒子との間の密着性が向上し、カテーテルシャフトの機械物性が向上しうる。
更に、カップリング剤はあらかじめ板状アルミナ粒子の表面に添着または反応による被覆といった、いわゆる表面処理による局在化を行ったうえで、樹脂組成物に添加する方法でも構わない。
板状アルミナ粒子表面への提供方法としては、浸漬塗工や化学蒸着(CVD)を採用することができる。中でも、熱CVD法は、真空設備が不要で、比較的簡便でより効果的な性能改善が認められるので、好ましい。
【0047】
前記カップリング剤としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、iso-プロピルトリメトキシシラン、iso-プロピルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクテニルトリメトキシシラン等のアルキル基の炭素数が1~22までのアルキルトリメトキシシランまたはアルキルトリクロロシラン類、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリクロロシラン類、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p-クロロメチルフェニルトリメトキシシラン、p-クロロメチルフェニルトリエトキシシラン類等、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、グリシドキシオクチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン等のビニルシラン、さらに、エポキシ系、アミノ系、ビニル系の高分子タイプのシラン等の有機シラン化合物が挙げられる。なお、上記有機シラン化合物は、単独で含まれていても、2種以上を含んでいてもよい。
【0048】
上述のカップリング剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
カップリング剤の添加量は特に制限されないが、樹脂組成物の100質量%に対して、0.01~5質量%であることが好ましく、0.1~3質量%であることがより好ましい。
【0050】
樹脂組成物は、カップリング剤の他、着色剤(顔料、染料)、軟化剤(可塑剤)等の、添加剤を含有していてもよい。
【実施例
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断わりがない限り、「%」は「質量%」を表わす。
【0052】
<板状アルミナ粒子の合成>
[合成例1]
水酸化アルミニウム(日本軽金属株式会社製、平均粒子径12μm)50gと、二酸化珪素(関東化学)0.65gと、三酸化モリブデン(太陽鉱工株式会社製)1.72gとを乳鉢で混合し、混合物を得た。得られた混合物を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて5℃/分の条件で1100℃まで昇温し、1200℃で10時間保持し焼成を行なった。その後5℃/分の条件で室温まで降温後、坩堝を取り出し、34.2gの薄青色の粉末を得た。得られた粉末を乳鉢で、106μm篩を通るまで解砕した。
【0053】
続いて、得られた前記粉末を0.5%アンモニア水の150mLに分散し、分散溶液を室温(25~30℃)で0.5時間攪拌後、ろ過によりアンモニア水を除き、水洗浄と乾燥を行う事で、粒子表面に残存するモリブデンを除去し、33.5gの薄青色の粉末を得た。
得られた粉末はSEM観察により形状が多角板状であり、凝集体が極めて少なく、優れた取り扱い性を有する板状形状の粒子であることが確認された。さらに、X線回折(XRD)測定を行ったところ、α-アルミナに由来する鋭いピーク散乱が現れ、α結晶構造以外のアルミナ結晶系ピークは観察されなく、緻密な結晶構造を有する板状アルミナであることを確認した。さらに、蛍光X線定量分析の結果から、得られた粒子は、モリブデンを三酸化モリブデン換算で0.8%含むものであり、ケイ素を二酸化ケイ素換算で、1.9質量%含むものであることを確認した。
【0054】
[合成例2]
水酸化アルミニウム(日本軽金属株式会社製、平均粒子径2μm)142.3gと、二酸化珪素(関東化学株式会社製、特級)2.8gと、三酸化モリブデン(太陽鉱工株式会社製)4.7gと、を乳鉢で混合し、混合物を得た。得られた混合物を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて5℃/分の条件で1200℃まで昇温し、1200℃で10時間保持し焼成を行なった。その後5℃/分の条件で室温まで降温後、坩堝を取り出し、95gの薄青色の粉末を得た。得られた粉末を乳鉢で、106μm篩を通るまで解砕した。
【0055】
続いて、得られた前記薄青色粉末の50gを0.5%アンモニア水の150mLに分散し、分散溶液を室温(25~30℃)で0.5時間攪拌後、ろ過によりアンモニア水を除き、水洗浄と乾燥を行う事で、粒子表面に残存するモリブデンを除去し、47gの薄青色の粉末を得た。得られた粉末はSEM観察により形状が多角板状であり、凝集体が極めて少なく、優れた取り扱い性を有する板状形状の粒子であることが確認された。さらに、X線回折(XRD)測定を行ったところ、α-アルミナに由来する鋭いピーク散乱が現れ、α結晶構造以外のアルミナ結晶系ピークは観察されなく、緻密な結晶構造を有する板状アルミナ粒子であることを確認した。また、α化率は99%以上(ほぼ100%)であった。さらに、蛍光X線定量分析の結果から、得られた粒子は、モリブデンを三酸化モリブデン換算で0.3質量%含むものであり、ケイ素を二酸化ケイ素換算で、2.2質量%含むものであることを確認した。
【0056】
<球状アルミナ粒子>
比較のため、デンカ株式会社製の球状アルミナ粒子(DAW-07)を用いた。
【0057】
(平均粒子径Lの計測)
上記の板状アルミナ粒子及び球状アルミナ粒子の試料について、レーザー回折式粒度分布計HELOS(H3355)&RODOS(株式会社日本レーザー製)を用い、分散圧3bar、引圧90mbarの条件でメディアン径D50(μm)を求め、平均粒子径Lとして算出した。評価結果を表1に示した。
【0058】
(平均厚さDの計測)
上記試料について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、50個の厚さを測定した平均値を採用し、平均厚さD(μm)とした。評価結果を表1に示した。
【0059】
上記試料のアスペクト比L/Dは下記の式を用いて求めた。評価結果を表1に示した。
【0060】
(アスペクト比L/D)
アスペクト比=板状アルミナ粒子の平均粒子径L/板状アルミナ粒子の平均厚さD
【0061】
合成例1及び合成例2で得られた板状アルミナ粒子のα化率及びMo量の分析は、以下の方法により求めた。
【0062】
(α化率の分析)
作製した試料を0.5mm深さの測定試料用ホルダーにのせ、一定荷重で平らになる様充填し、それを広角X線回折装置(株式会社リガク製 Rint-Ultma)にセットし、Cu/Kα線、40kV/30mA、スキャンスピード2度/分、走査範囲10~70度の条件で測定を行った。α-アルミナと遷移アルミナの最強ピーク高さの比よりα化率を求めた。
【0063】
(板状アルミナ粒子内に含まれるモリブデン量及びケイ素量の分析)
蛍光X線分析装置PrimusIV(株式会社リガク製)を用い、作製した試料約70mgをろ紙にとり、PPフィルムをかぶせて組成分析を行った。
蛍光X線(XRF)分析結果により求められるモリブデン量を、板状アルミナ粒子100質量%に対する三酸化モリブデン換算(質量%)により求めた。蛍光X線(XRF)分析結果により求められるケイ素量を、板状アルミナ粒子100質量%に対する二酸化ケイ素換算(質量%)により求めた。
【0064】
<カテーテルシャフトの作製>
[実施例1]
合成例1の板状アルミナ粒子(24質量部)及びアルケマ株式会社のポリアミド11(RILSAN(登録商標) BESVO A MED)(76質量部)を、二軸混練押出機を用いて、溶融・混練及び押出を行い、押し出されたストランドを冷却し、切断してペレット状樹脂組成物を得た。
【0065】
得られたペレット状樹脂組成物を、二軸スクリュー押出成形機(東洋精機製作所製2D25S)にて220~240℃の条件で加熱溶融させ、押出成形して、実施例1のカテーテルシャフトとしてのチューブ形状の成形体を得た。実施例1のカテーテルシャフトの外径は1.32mmであり、内径は1.14mmであり、厚さは0.09mmであった。
【0066】
[実施例2]
合成例2の板状アルミナ粒子(11質量部)及びアルケマ株式会社のポリアミド11(RILSAN(登録商標) BESVO A MED)(89質量部)を、二軸混練押出機を用いて、溶融・混練及び押出を行い、押し出されたストランドを冷却し、切断してペレット状樹脂組成物を得た。
【0067】
得られたペレット状樹脂組成物を、二軸スクリュー押出成形機(東洋精機製作所製2D25S)にて220~240℃の条件で加熱溶融させ、押出成形して、実施例2のカテーテルシャフトとしてのチューブ形状の成形体を得た。実施例2のカテーテルシャフトの外径は1.32mmであり、内径は1.14mmであり、厚さは0.09mmであった。
【0068】
[実施例3]
合成例2の板状アルミナ粒子(24質量部)及びアルケマ株式会社のポリアミド11(RILSAN(登録商標) BESVO A MED)(76質量部)を、二軸混練押出機を用いて、溶融・混練及び押出を行い、押し出されたストランドを冷却し、切断してペレット状樹脂組成物を得た。
【0069】
得られたペレット状樹脂組成物を、二軸スクリュー押出成形機(東洋精機製作所製2D25S)にて220~240℃の条件で加熱溶融させ、押出成形して、実施例3のカテーテルシャフトとしてのチューブ形状の成形体を得た。実施例3のカテーテルシャフトの外径は1.32mmであり、内径は1.14mmであり、厚さは0.09mmであった。
【0070】
[実施例4]
合成例2の板状アルミナ粒子(37質量部)及びアルケマ株式会社のポリアミド11(RILSAN(登録商標) BESVO A MED)(63質量部)を、二軸混練押出機を用いて、溶融・混練及び押出を行い、押し出されたストランドを冷却し、切断してペレット状樹脂組成物を得た。
【0071】
得られたペレット状樹脂組成物を、二軸スクリュー押出成形機(東洋精機製作所製2D25S)にて220~240℃の条件で加熱溶融させ、押出成形して、実施例4のカテーテルシャフトとしてのチューブ形状の成形体を得た。実施例4のカテーテルシャフトの外径は1.32mmであり、内径は1.14mmであり、厚さは0.09mmであった。
【0072】
[比較例1]
アルケマ株式会社のポリアミド11(RILSAN(登録商標) BESVO A MED)のペレット状樹脂組成物を、二軸スクリュー押出成形機(東洋精機製作所製2D25S)にて220~240℃の条件で加熱溶融させ、押出成形して、比較例1のカテーテルシャフトとしてのチューブ形状の成形体を得た。比較例1のカテーテルシャフトの外径は1.32mmであり、内径は1.14mmであり、厚さは0.09mmであった。
【0073】
[比較例2]
デンカ株式会社製の球状アルミナ粒子(DAW-07)(24質量部)及びアルケマ株式会社のポリアミド11(RILSAN(登録商標) BESVO A MED)(76質量部)を、二軸混練押出機を用いて、溶融・混練及び押出を行い、押し出されたストランドを冷却し、切断してペレット状樹脂組成物を得た。
【0074】
得られたペレット状樹脂組成物を、二軸スクリュー押出成形機(東洋精機製作所製2D25S)にて220~240℃の条件で加熱溶融させ、押出成形して、比較例2のカテーテルシャフトとしてのチューブ形状の成形体を得た。比較例2のカテーテルシャフトの外径は1.32mmであり、内径は1.14mmであり、厚さは0.09mmであった。
【0075】
<平均配向角の測定>
次の手順で、実施例1~4のカテーテルシャフトの板状アルミナ粒子の平均配向角を測定した。
(1)カテーテルシャフトを約5mmの長さに切断した。
(2)さらに、輪切りに対して垂直方向に切断して、略直方体形状の試料を取り出し、エポキシ樹脂で包埋して、カテーテルシャフトの中心軸の断面を観察できる様に、ビューラー社製Automet250pro研磨機によって研磨することにより、中心軸の断面の面出しを行った。
(3)日本電子製の走査型電子顕微鏡(SEM)JCM-7000を用いて、それらの試料の中心軸の断面の状態を観察し、250μm×190μmの視野のSEM像に映り込んでいる板状アルミナ粒子の配向状態を確認した。
【0076】
(4)そして、カテーテルシャフトの外側の表面の輪郭の直線を角度0°とし、その直線に平行な直線に対する各板状アルミナ粒子の板面の輪郭線との配向角(-90°<θ<90°)を見積もり、それらの配向角の絶対値の平均値を求めることにより、カテーテルシャフト中の板状アルミナ粒子の平均配向角を計算した。
【0077】
より具体的には、カテーテルシャフトの試料の外側の表面の輪郭の直線を視野に入れて、視野中でその表面の輪郭の直線が画面の長辺に対して平行になるよう、試料の角度を調整した。その後、試料の断面の内部に視野を移動させ、その移動後の視野で撮像した。
図3は、カテーテルシャフトの中心軸の断面のSEM像の模式図である。
図3の模式図に示すように、各板状アルミナ粒子はカテーテルシャフトの断面に概ね針状に観察された。
写真に針状に映り込んだ板状アルミナ粒子の長手方向の二端の座標を計測して、それらの値から表面の輪郭の直線の方向、すなわち、写真の長辺方向とのなす角を計算する。その後、任意の視野の写真を撮影し、計測を少なくとも100個の板状アルミナ粒子に対して行い、それらの配向角の絶対値の平均値を計算した。
結果は表1の通りである。
【0078】
<耐圧試験>
次の手順で実施例1~4及び比較例1~2のカテーテルシャフトの耐圧試験を行った。
(1)カテーテルシャフトを50mmの長さに切断した。
(2)切断したカテーテルシャフトの一方の端部をクランプで挟んで確実にシールし、他方の端部を、加圧流体を加える為の接続コネクタにつなぐことにより、耐圧試験機Hydraulic Pressure Tester ModelHPT-1000 (Confluent Medical Technologies社製)の加圧流体源に接続した。
(3)加圧流体源に接続した状態のカテーテルシャフトを37℃の温水の入った恒温水槽Water Bath Model WB10(PolyScience社製)に浸けた。
(4)耐圧試験機で、流体の圧力を0atmから5秒毎に1atmずつ上昇させていき、破裂時の圧力を耐圧値(atm)として測定した。1atm=101.325Paである。
結果は表1の通りである。
【0079】
<引張試験>
次の手順で実施例1~4及び比較例1~2のカテーテルシャフトの引張試験を行った。
(1)カテーテルシャフトを45mmの長さに切断した。
(2)37℃の恒温水槽に、2時間浸漬した。
(3)恒温水槽から取り出したカテーテルシャフトをチャック間距離25mmに設定した卓上型材料試験機STA-1225(株式会社エー・アンド・デイ社製)に設置した。
(4)100mm/minの引張速度で引張試験を実施して、卓上型材料試験機からデータを連続して取得し、破断時の荷重を引張破断荷重(N)として測定した。なお、いずれのカテーテルシャフトの引張試験も、破断時の荷重が最大荷重であった。
結果は表1の通りである。
【0080】
【表1】
【0081】
表1に示される通り、板状アルミナ粒子を含有する実施例1~4のカテーテルシャフトは、比較例1,2のカテーテルシャフトよりも、耐圧値が大きく、耐圧性に優れていた。カテーテルシャフトの成形材料に板状アルミナ粒子を加えることで、カテーテルシャフトの機械的強度の向上が見られた。実施例1~4のカテーテルシャフトは、現在、市販されている素材で作製された比較例1のカテーテルシャフトよりも耐圧性に優れているので、薄肉化し、より細いカテーテルシャフトの適用が可能である。また、球状アルミナ粒子を含有する比較例2のカテーテルシャフトは比較例1のカテーテルシャフトよりも、引張破断荷重が小さかったのに対して、板状アルミナ粒子を含有する実施例1~4のカテーテルシャフトは、比較例1のカテーテルシャフトと同じ程度の引張破断荷重の値を保っていた。
【0082】
本発明のカテーテルシャフトは、耐圧性及び引張強度の機械物性に優れるので、PCI用、EVT用等の、より低侵襲な医療用カテーテルに適用が可能である。
【符号の説明】
【0083】
1・・・医療用カテーテル、10・・・カテーテルシャフト、11・・・バルーン、12・・・分岐ハブ、13・・・加圧流体注入口、14・・・ガイドワイヤー導入口。
図1
図2
図3