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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】重合体、樹脂組成物及び医療用材料
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/50 20060101AFI20240930BHJP
   C08F 220/58 20060101ALI20240930BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20240930BHJP
   A61L 27/44 20060101ALI20240930BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20240930BHJP
   A61L 27/26 20060101ALI20240930BHJP
   C08F 220/28 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
A61L27/50 300
C08F220/58
C08L33/14
A61L27/44
A61L27/16
A61L27/26
C08F220/28
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023575838
(86)(22)【出願日】2023-04-06
(86)【国際出願番号】 JP2023014200
(87)【国際公開番号】W WO2023195514
(87)【国際公開日】2023-10-12
【審査請求日】2023-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2022064408
(32)【優先日】2022-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022154478
(32)【優先日】2022-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000162076
【氏名又は名称】共栄社化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 義徳
(72)【発明者】
【氏名】朴 峻秀
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢
(72)【発明者】
【氏名】上田 智也
(72)【発明者】
【氏名】荒木 久美子
(72)【発明者】
【氏名】竹中 直巳
(72)【発明者】
【氏名】久禮 文章
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特許第6624660(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0362814(US,A1)
【文献】国際公開第2023/171709(WO,A1)
【文献】Junsu PARK et al.,“Simultaneous control of the mechanical properties and adhesion of human umbilical vein endothelial cells to suppress platelet adhesion on a supramolecular substrate”,RSC Advances,2022年08月,Vol. 12, No. 43,p.27912-27917,DOI: 10.1039/d2ra04885j
【文献】Masaru TANAKA et al.,“Study of Blood Compatibility with Poly(2-methoxyethyl acrylate). Relationship between Water Structure and Platelet Compatibility in Poly(2-methoxyethylacrylate-co-2-hydroxyethylmethacrylate)”,Biomacromolecules,2001年12月20日,Vol. 3, No. 1,p.36-41,DOI: 10.1021/bm010072y
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/50
C08F 220/28
C08F 220/58
C08L 33/14
A61L 27/44
A61L 27/16
A61L 27/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-メトキシエチルアクリレート(A)及びホスト基を有する単量体(B)を構成単位とし、
ホスト基は下記一般式(5)
【化1】

(式中、R は、同一又は異なって、炭素数2~50のアシル基、
炭素数1~30のアルキル基又は-CONHR (R は炭素数1~20のア
ルキル基)を表すものである。xは、5~7の整数))
で表される構造である共重合体を含有し、
経口若しくは経鼻的に消化器管内に挿入若しくは留置されるカテーテル;
経口又は経鼻的に気道又は気管内に挿入又は留置されるカテーテル;
尿道又は尿管内に挿入又は留置されるカテーテル;
体腔、臓器、組織内に挿入又は留置されるカテーテル;
血管内に挿入又は留置されるカテーテル;
上記カテーテル用のガイドワイヤー、スタイレット;
各種器官挿入用の検査器具又は治療器具;
ステント、人工血管、人工気管、人工気管支;
体外循環治療用の医療器若しくはその回路;
人工関節、人工骨頭、縫合糸、歯科材料、各種吸着体、血漿交換膜、CAPD、IABP、ペースメーカー、血液バッグ、採尿バッグ又は輸血セット
である
ことを特徴とする医療用材料
【請求項2】
さらに、ゲスト基を有する単量体(C)を構成単位とする請求項1記載の医療用材料
【請求項3】
主鎖がホスト基中を貫通した構造を有する請求項1記載の医療用材料
【請求項4】
全体として2-メトキシエチルアクリレート(A)及びホスト基を有する単量体(B)を構成単位として有し、
ホスト基は下記一般式(5)
【化1】

(式中、R は、同一又は異なって、炭素数2~50のアシル基、
炭素数1~30のアルキル基又は-CONHR (R は炭素数1~20のア
ルキル基)を表すものである。xは、5~7の整数))
で表される構造である
2種以上の重合体の混合物である樹脂組成物を含有し、
経口若しくは経鼻的に消化器管内に挿入若しくは留置されるカテーテル類;
経口又は経鼻的に気道又は気管内に挿入又は留置されるカテーテル;
尿道又は尿管内に挿入又は留置されるカテーテル;
体腔、臓器、組織内に挿入又は留置されるカテーテル;
血管内に挿入又は留置されるカテーテル;
上記カテーテル用のガイドワイヤー、スタイレット;
各種器官挿入用の検査器具又は治療器具;
ステント、人工血管、人工気管、人工気管支;
体外循環治療用の医療器若しくはその回路;
人工関節、人工骨頭、縫合糸、歯科材料、各種吸着体、血漿交換膜、CAPD、IABP、ペースメーカー、血液バッグ、採尿バッグ又は輸血セット
である
ことを特徴とする医療用材料。
【請求項5】
樹脂組成物は、更に、ゲスト基を有する単量体(C)を構成単位として有する請求項4記載の医療用材料
【請求項6】
主鎖がホスト基中を貫通した構造を有する請求項4又は5記載の医療用材料
【請求項7】
人工血管である請求項1又は4記載の医療用材料。
【請求項8】
体外循環治療用の医療器は、人工心臓、人工肺、人工腎臓又は人工弁である請求項1又は4記載の医療用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体、樹脂組成物及び医療用材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人工血管用素材として一般に多く使用されているポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂は、血小板が粘着しやすく、生体適合性の改善が求められていた。このような生体適合性が高い樹脂として、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及び/又はアルコキシアルキル(メタ)アクリレートを主たる構成単位とする重合体を挙げることができる。
【0003】
このようなヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及び/又はアルコキシアルキル(メタ)アクリレートを主たる構成単位とする重合体は、機械的強度、弾性率等の性質を、血管等の生体組織と近似したものとすることが困難であり、このため、共重合成分によって化学的組成を調整することで、その性質を改善することが試みられている。(特許文献1)
【0004】
特許文献1においては、多官能(メタ)アクリレートをアルコキシアルキル(メタ)アクリレートと併用して使用することが記載されている。
【0005】
他方、シクロデキストリン等を利用したホスト-ゲスト反応によって弾性を有する重合体を得る試みが行われている。(特許文献2~6等)
【0006】
このようなホストーゲスト反応による架橋を生じるような重合体は、自己修復性能を有するものとして検討が行われている。このような架橋は、ホスト-ゲスト基の結合によるものであることから、このような架橋鎖が開裂した後も、再結合をすることができる。これによって、自己修復性能を得るものである。また、シクロデキストリンは、天然界にも存在する化合物であることから、生体に対する安全性も高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開20190-203102
【文献】国際公開2018/207934
【文献】国際公開2020/116590
【文献】国際公開2021/045215
【文献】国際公開2022/024908
【文献】特開2021-70768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートを主たる構成単位とする重合体において、物性の改善を行い、生体構成物質に極めて類似した物理的性質を有する重合体を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及び/又はアルコキシアルキル(メタ)アクリレート(A)及びホスト基を有する単量体(B)を構成単位とすることを特徴とする共重合体である。
上記共重合体は、さらに、ゲスト基を有する単量体(C)を構成単位とするものであってもよい。
上記共重合体は、主鎖がホスト基中を貫通した構造を有するものであってもよい。
【0010】
本発明は、全体としてアルコキシアルキル(メタ)アクリレート(A)及びホスト基を有する単量体(B)を構成単位として有し、2種以上の重合体の混合物であることを特徴とする樹脂組成物でもある。
上記樹脂組成物は、さらに、ゲスト基を有する単量体(C)を構成単位とするものであってもよい。
上記樹脂組成物は、主鎖がホスト基中を貫通した構造を有するものであってもよい。
【0011】
本発明は、上記共重合体及び/又は上記樹脂組成物を含有することを特徴とする医療用材料でもある。
上記医療用材料は、人工血管とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の重合体及び樹脂組成物は、生体安全性に優れ、かつ、その物理的性質が血管等の生体物質に極めて類似しており、医療用素材としての使用に適したものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1~4及び比較例1,2の血小板粘着試験の結果を示す図である。
図2】実施例1~4及び比較例1,2の血小板粘着試験及び接触角の結果を示す図である。
図3】実施例1~4及び比較例1,2のHUVEC接着試験の結果を示す図である。
図4】実施例1~4及び比較例1,2のHUVEC接着試験の結果を示す図である。
図5】実施例1~4及び比較例1,2の物理的性質を示す図である。
図6】Science,2018,359,1509-1513に記載された、各種素材の歪みと応力の関係を示す図である。
図7】実施例5~7の歪みと応力の関係を示す図である。
図8】実施例5~7のヤング率とタフネスとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において「(メタ)アクリレート」とは、「メタクリレート」又は「アクリレート」を意味するものである。
【0015】
アルコキシアルキル(メタ)アクリレートを主たる構成単位とする重合体は、生体適合性において優れているものの、上述したようにその物理的性質が不充分であることから、医療用素材として使用することが困難であった。
一方、多官能(メタ)アクリレートによる架橋構造を有する重合体は、物性の改善は得られるものの、自己修復性を有するものではない。本発明におけるホストーゲスト基による架橋鎖は、一旦結合が切断されても、その後再結合を生じることができるものであることから、優れた自己修復性能を有するものである。さらに、ホスト基中を主鎖が貫通した重合体は、可動性架橋重合体となりやすいため、これによって医療用素材としての使用に適した重合体となりやすい。
さらに、架橋鎖を有することから、弾性と強靭性とを有するものとなる。
これによって、血管などの生体材料に近い物性を持つ樹脂組成物とすることができる。
【0016】
また、人工血管として使用する場合、人工血管上に血小板が粘着することがある。人工血管として公知の素材であるPETを使用した場合にも、若干の血小板の粘着が生じている。血小板の粘着は、血管の詰まりの原因となる点で好ましくないものである。
【0017】
また、人工血管においては、その内壁にヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)が接着することが好ましい。これによって、HUVECが人工血管内壁を覆い、さらにヒト血管との界面接合などにより、血液漏出を抑制する。よって、内壁にHUVECが接着することは生体適合性という点で好ましいものである。したがって、人工血管においては、HUVECの接着能を有する素材であることが求められる。
【0018】
本発明の重合体は、血小板の粘着が少なく、かつ、HUVECの接着が多いという点でも好ましいものである。
【0019】
よって、物理的性質のみではなく、生体適合性という観点からみても、本発明の重合体は優れた性質を有するものである。
以下、本発明の重合体及び樹脂組成物について詳述する。
【0020】
なお、本発明は、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及び/又はアルコキシアルキル(メタ)アクリレート(A)及びホスト基を有する単量体(B)を構成単位とすることを特徴とする共重合体(第1の本発明)と、全体としてヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及び/又はアルコキシアルキル(メタ)アクリレート(A)及びホスト基を有する単量体(B)を構成単位として有し、2種以上の重合体の混合物であることを特徴とする樹脂組成物(第2の本発明)である場合とがある。
【0021】
特に、本発明の重合体が、ホスト基及びゲスト基の両方を有するものである場合には、ホスト基及びゲスト基の両方を有する重合体であっても、ホスト基を有する重合体とゲスト基を有する重合体の混合物であってもよい。
【0022】
ホスト-ゲスト反応を生じさせるためには、ホスト基とゲスト基とが同一の重合体分子中に存在するか否かは重要な事項ではなく、これらが同一分子中に存在しても、別個の分子中に存在しても、同等の作用によって同等の効果を得るものである。したがって、これらの共重合体(第1の本発明)と、組成物全体として必要な構成単位を含有する樹脂組成物(第2の本発明)の両方が、本発明の対象となる。なお、以後、これらを総称して「本発明の共重合体又は樹脂組成物」と記載することがある。
【0023】
(ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及び/又はアルコキシアルキル(メタ)アクリレート(A))
本発明におけるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及び/又はアルコキシアルキル(メタ)アクリレート(A)としては、特に限定されないが、炭素数が2~20のアルコキシアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及び/又はアルコキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましく挙げられ、より好ましくは炭素数が2~15のアルコキシアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及び/又はアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、さらに好ましくは炭素数が2~8のアルコキシアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及び/又はアルコキシアルキル(メタ)アクリレートが挙げられ、特に好ましくは炭素数が2~5のアルコキシアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及び/又はアルコキシアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0024】
上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及び/又はアルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、具体的には、下記一般式(1)で表される化合物が好ましく挙げられる。
CH=CR-COO-R-OR (1)
(式中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Rは、炭素数1~10のアルキレン基を表す。Rは、炭素数1~10のアルキル基又はHを表す。)
としては、炭素数1~5のアルキレン基が好ましく、炭素数1~3のアルキレン基がより好ましい。
としては、炭素数1~5のアルキル基又は水素が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。
【0025】
アルコキシアルキル(メタ)アクリレートは、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートが特に好ましい。これらのなかでも、2級水酸基を有するものであると、1級水酸基と比較して強すぎず適度な水素結合を有しているという点で好ましいものである。このような単量体としては、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0026】
上記アルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、具体的には、例えば、メトキシメチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシブチル(メタ)アクリレート、エトキシメチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシブチル(メタ)アクリレート等が好ましく挙げられる。なかでも、より一層優れた生体適合性を有し、伸びに優れたハイドロゲルを与える重合体を与えることができる点で、メトキシエチル(メタ)アクリレートが好ましく、2-メトキシエチルアクリレートがより好ましい。
本発明の単量体組成物は、上記アルコキシアルキル(メタ)アクリレートとして、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
【0027】
さらに、エーテル基を有する単量体であってもよい。このような単量体も、水素結合を形成することができるため、上述した水酸基含有単量体と同様の効果が得られる。このようなエーテル基を有する単量体としては、ビニルアルキルエーテル化合物、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸のアルキルエーテル化合物等を挙げることができる。
【0028】
(ホスト基)
本発明の共重合体又は樹脂組成物は、ホスト基を有するものである。ホスト基は下記一般式(5)
【0029】
【化1】
(式中、Rは、同一又は異なって、水素原子、炭素数2~50のアシル基、炭素数1~30のアルキル基又は-CONHR(Rは炭素数1~20のアルキル基)を表すものである。xは、5~7の整数))
で表される構造であることが好ましい。
【0030】
上記構造は、シクロデキストリン誘導体から1個の水素原子又は水酸基が除された1価の基である。上記シクロデキストリンは、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリン等が公知であるが、これらのいずれであってもよいし、これらの2以上を組み合わせて使用するものであってもよい。なお、念のための注記に過ぎないが、本明細書でのシクロデキストリンなる表記は、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンからなる群より選ばれる少なくとも1種を意味する。
【0031】
クロデキストリン1分子が有する水酸基の全個数をNとした場合、α-シクロデキストリンはN=18、β-シクロデキストリンはN=21、γ-シクロデキストリンはN=24である。本発明のホスト基においては、これらの水酸基は、すべてが水酸基のままであってよいし、一部又は全部が疎水性基によって置換されたものであってもよい。
【0032】
すなわち、上述した一般式(5)において、Rのすべてが水素原子である場合であってもよいし、一部又は全部が炭素数2~50のアシル基、炭素数1~30のアルキル基又は-CONHR(Rは炭素数1~20のアルキル基)で置換されたものであってもよい。
【0033】
水酸基が置換されていない場合、共重合体及び樹脂組成物は、親水性が高いものとなる。したがって親水性が求められる用途においては水酸基が多い重合体とすることができる。より具体的には、Rのうち、70%以上が水素原子であることが好ましく、80%以上が水素原子であることが好ましい。Rのすべてが水酸基であってもよい。
【0034】
上記R基を水素原子以外の官能基で置換した場合、シクロデキストリン基は疎水性が高いものとなる。したがって、高い疎水性が要求される用途においては、一部又は全部の水酸基を置換することが好ましい。より具体的には、Rのうち、70%以上の水酸基が置換されていることが好ましく、80%以上の水素原子が置換されていることが好ましい。Rのすべてが置換されていてもよい。
【0035】
前記ホスト基は、前記シクロデキストリン誘導体1分子中に存在する全水酸基数のうちの70%以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換された構造を有することが好ましい。この場合、ホスト基含有重合性単量体は、疎水性の重合性単量体に対してより高い親和性を示すことができる。前記ホスト基は、前記シクロデキストリン誘導体1分子中に存在する全水酸基数のうちの80%以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換されていることがより好ましく、全水酸基数のうちの90%以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換されていることが特に好ましい。
【0036】
前記ホスト基は、α-シクロデキストリン誘導体1分子中に存在する全水酸基のうちの13個以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換された構造を有することが好ましい。この場合、ホスト基含有重合性単量体は、疎水性の重合性単量体に対してより高い親和性を示すことができる。前記ホスト基は、α-シクロデキストリン誘導体1分子中に存在する全水酸基のうちの15個以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換されていることがより好ましく、全水酸基のうちの17個の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換されていることが特に好ましい。
【0037】
前記ホスト基は、β-シクロデキストリン誘導体1分子中に存在する全水酸基のうちの13個以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換された構造を有することが好ましい。この場合、ホスト基含有重合性単量体は、疎水性の重合性単量体に対してより高い親和性を示すことができる。前記ホスト基は、β-シクロデキストリン誘導体1分子中に存在する全水酸基のうちの17個以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換されていることがより好ましく、全水酸基のうちの19個以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換されていることが特に好ましい。
【0038】
前記ホスト基は、γ-シクロデキストリン誘導体1分子中に存在する全水酸基のうちの17個以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換された構造を有することが好ましい。この場合、ホスト基含有重合性単量体は、疎水性の重合性単量体に対してより高い親和性を示すことができる。前記ホスト基は、γ-シクロデキストリン誘導体1分子中に存在する全水酸基のうちの19個以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換されていることがより好ましく、全水酸基のうちの22個以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換されていることが特に好ましい。
【0039】
ホスト基を形成するためのシクロデキストリン誘導体は、前述の通り、シクロデキストリンが有する少なくとも1個の水酸基が炭化水素基、アシル基及び-CONHR(Rはメチル基又はエチル基)からなる群より選ばれる少なくとも1種の基で置換された構造を有することが好ましい。この構造を有することで、本発明のホスト基含有重合性単量体は、例えば、親水性の重合性単量体及び疎水性の重合性単量体のいずれに対しても高い親和性を示すことができ、ホスト基含有重合性単量体は、種々の重合性単量体との共重合が可能となる。なお、本明細書において、「炭化水素基、アシル基及び-CONHR(Rはメチル基又はエチル基)からなる群より選ばれる少なくとも1種の基」を便宜上、「炭化水素基等」と表記することがある。
【0040】
炭化水素基の種類は特に限定されない。前記炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基を挙げることができる。
【0041】
前記炭化水素基の炭素数の数は特に限定されない。ホスト基含有重合性単量体が親水性及び疎水性の重合性単量体の両方に対してより高い親和性を示し、かつ、ホスト-ゲスト相互作用が形成されやすいという観点から、炭化水素基の炭素数は1~4個であることが好ましい。
【0042】
炭素数が1~4個である炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基を挙げることができる。炭化水素基がプロピル基及びブチル基である場合は、直鎖状及び分岐鎖状のいずれであってもよい。
【0043】
炭化水素基は、本発明の効果が阻害されない限りは、置換基を有していてもよい。
【0044】
アシル基は、アセチル基、プロピオニル、ホルミル基等を例示することができる。アシル基は、さらに置換基を有することもできる。ホスト基含有重合性単量体が親水性及び疎水性の重合性単量体の両方に対してより高い親和性示し、かつ、ホスト-ゲスト相互作用を形成しやすく、また、靭性及び強度に優れる靭性及び強度に優れる高分子材料を得やすいという観点から、アシル基は、アセチル基であることが好ましい。
【0045】
-CONHR(Rはメチル基又はエチル基)は、メチルカルバメート基又はエチルカルバメート基である。ホスト基含有重合性単量体が親水性及び疎水性の重合性単量体の両方に対してより高い親和性示し、かつ、ホスト-ゲスト相互作用が形成されやすいという観点から、-CONHRは、エチルカルバメート基であることが好ましい。
【0046】
(ホスト基を有する単量体)
本発明のホスト基含有重合性単量体は、高分子材料に含まれる重合体を得るための原料となり得る。ホスト基含有重合性単量体を使用して得られる重合体は、例えば、可逆性を有するホスト-ゲスト相互作用によって、分子どうしが架橋された構造を有し得る。
【0047】
本発明のホスト基含有重合性単量体は、前記ホスト基を有し、かつ、重合性の化合物である限りは、その構造は特に限定されない。なお、本明細書でいう「重合性」とは、例えば、ラジカル重合、イオン重合、重縮合(縮合重合、縮重合)、付加縮合、リビング重合、リビングラジカル重合、その他、従来から知られている各種重合をする性質を有していることをいう。
【0048】
ホスト基含有重合性単量体は、合成の容易さ及び靭性及び強度に優れる靭性及び強度に優れる高分子材料を得やすいという観点から、ラジカル重合又は重縮合(縮合重合、縮重合)が可能である化合物であることが好ましい。
【0049】
ホスト基含有重合性単量体としては、ホスト基を有し、かつ、重合性を示す官能基を有している限りは、特にその種類は限定されない。重合性を示す官能基の具体例としては、アルケニル基、ビニル基等の他、-OH、-SH、-NH 、-COOH、-SOH、-PO H、イソシアネート基、エポキシ基(グリシジル基)等の樹脂に反応により組込まれる官能基等が挙げられる。これらの重合性を示す官能基は、シクロデキストリン誘導体において、シクロデキストリンが有する1個以上の水酸基の水素原子に置換されることで、シクロデキストリン誘導体に導入され得る。これにより、重合性を示す官能基を有するホスト基含有重合性単量体が形成される。
【0050】
ホスト基含有重合性単量体は、より詳細には、「ホスト基含有ビニル系単量体」及び「ホスト基含有非ビニル系単量体」に分類することができる。以下、順に説明する。
【0051】
(ホスト基含有ビニル系単量体)
ホスト基含有重合性単量体がホスト基含有ビニル系単量体である場合、該ホスト基含有ビニル系単量体は、前記ホスト基に加えて、ラジカル重合性を有する官能基を有するビニル化合物である。
【0052】
ラジカル重合性を有する官能基は、炭素-炭素二重結合を含む基を挙げることができ、具体的には、アクリロイル基(CH=CH(CO)-)、メタクリロイル基(CH=CCH(CO-)、その他、スチリル基、ビニル基、アリル基等が挙げられる。これらの炭素-炭素二重結合を含む基は、ラジカル重合性が阻害されない程度であればさらに置換基を有していてもよい。
【0053】
ホスト基含有重合性単量体の具体例としては、前記ホスト基が結合したビニル系の重合性単量体を挙げることができる。
【0054】
例えば、ホスト基含有ビニル系単量体は、下記の一般式(h1)
【0055】
【化2】
【0056】
(式(h1)中、Raは水素原子またはメチル基を表し、R は前記ホスト基を表し、Rはヒドロキシル基、チオール基、1個以上の置換基を有していてもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいチオアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個の置換基を有していてもよいアミノ基、1個の置換基を有していてもよいアミド基、アルデヒド基及びカルボキシル基からなる群より選択される1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基を表す。)で表される化合物を挙げることができる。
【0057】
あるいは、ホスト基含有重合性単量体は、下記の一般式(h2)
【0058】
【化3】
【0059】
(式(h2)中、Ra、R及びRはそれぞれ式(h1)のRa、R 及びRと同義である。)で表される化合物を挙げることができる。
【0060】
さらには、ホスト基含有重合性単量体は、下記の一般式(h3)
【0061】
【化4】
【0062】
(式(h3)中、Ra、R及びRはそれぞれ式(h1)のRa、R 及びRと同義である。nは1~20、好ましくは1~10、より好ましくは1~5の整数である。
Rbは、水素又は炭素数1~20のアルキル基(好ましくは炭素数1~10のアルキル基、より好ましくは炭素数1~6のアルキル基)を示す。
【0063】
なお、式(h1)、(h2)及び(h3)で表されるホスト基含有重合性単量体におけるホスト基Rは、シクロデキストリン誘導体から1個の水酸基が除された1価の基である場合の例である。
【0064】
また、ホスト基含有重合性単量体は、式(h1)、式(h2)及び式(h3)で表される化合物のうちの1種単独とすることができ、あるいは2種以上を含むことができる。この場合、式(h1)、式(h2)及び式(h3)のRaは互いに同一又は異なる場合がある。同様に、式(h1)、式(h2)及び式(h3)のR、並びに式(h1)、式(h2)及び式(h3)のRは各々互いに同一又は異なる場合がある。
【0065】
式(h1)~(h3)で定義される置換基は、特に限定されない。例えば、置換基としては、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、ハロゲン原子、カルボキシル基、カルボニル基、スルホニル基、スルホン基、シアノ基等を挙げることができる。
【0066】
(h1)~(h3)において、Rが1個の置換基を有していてもよいアミノ基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基であれば、アミノ基の窒素原子がC=C二重結合の炭素原子と結合し得る。
【0067】
(h1)~(h3)において、Rが1個の置換基を有していてもよいアミド基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基であれば、アミド基の炭素原子がC=C二重結合の炭素原子と結合し得る。
【0068】
(h1)~(h3)において、Rがアルデヒド基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基であれば、アルデヒド基の炭素原子がC=C二重結合の炭素原子と結合し得る。
【0069】
(h1)~(h3)において、Rがカルボキシル基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基である場合、カルボキシル基の炭素原子がC=C二重結合の炭素原子と結合し得る。
【0070】
(h1)~(h3)で表されるホスト基含有重合性単量体は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル誘導体(すなわち、Rが-COO-)、(メタ)アクリルアミド誘導体(すなわち、Rが-CONH-又は-CONR-であり、Rは前記置換基と同義である)であることが好ましい。この場合、重合反応が進みやすく、また、得られる高分子材料の靭性及び強度もより高くなり得る。なお、本明細書において(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタクリルのいずれかを示す。
【0071】
前記-CONR-のRとしては、例えば、炭素数1~20のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましく、炭素数1~6のアルキル基が特に好ましい。
【0072】
ホスト基含有重合性単量体は、下記の一般式(h4)
【化5】
(式中、Rは、
(ア)下記一般式(2)
-R-NH-R (2)
(Rは、炭素数3~20のアルキレン基であり、直鎖でも分岐していても良く、置換基があっても良い。
は、(メタ)アクリロイル基又は炭素数3~50のビニル基含有アルキル基を表す。
)、
(イ)下記一般式(3)
-R-NHCONH-R (3)
(Rは、炭素数3~20のアルキレン基であり、直鎖でも分岐していても良く、置換基があっても良い。
は、炭素数4~50の(メタ)アクリロイルオキシアルキル基又は炭素数3~50のビニル基含有アルキル基を表す。)
又は(ウ)下記一般式(4)
-R-OCONH-R (4)
(R及びRは上記と同じ。)
のいずれか1つを表す。
は、水素原子、炭素数2~50のアシル基又は炭素数1~30のアルキル基を表す。RHは、上記ホスト基を挙げることができる。なお、ここでのホスト基は、一般式(5)で表される構造である。
【0073】
-CONHRは、メチルカルバメート基又はエチルカルバメート基であることが好ましい。シクロデキストリン誘導体が、併用するその他の重合性単量体に溶解しやすく、かつ、シクロデキストリン誘導体からなる重合体がホスト-ゲスト相互作用を形成しやすいという観点から、-CONHRは、エチルカルバメート基であることが好ましい。
【0074】
上記(h4)のシクロデキストリン誘導体において、上記重合性不飽和基を有するRとRHとは、アミノ基由来の窒素原子を介して連結している。
【0075】
上記一般式(h4)において、Rは、その1つとして、
(ア)下記一般式(h4-1)
-R-NH-R (h4-1)
(Rは、炭素数3~20のアルキレン基であり、直鎖でも分岐していても良く、置換基があっても良い。
は、(メタ)アクリロイル基又は炭素数3~50のビニル基含有アルキル基を表す。)
で表される。
一般式(h4-1)に示される構造を有する(h4)のシクロデキストリン誘導体は、R-N-R-NH―という、ジアミノアルキル化合物に由来する構造を有するものである。
【0076】
本発明において、シクロデキストリン誘導体の製造に使用するジアミノアルキル化合物は、アルキル基の炭素数が少なすぎると毒性面で好ましくない。また、本発明のシクロデキストリン誘導体の重合時の主鎖とシクロデキストリンとの距離が近すぎると、立体障害も含めた分子の自由度が低下するため、機能発現面でも好ましくない。一方、炭素数が多すぎると、合成面(特に再沈殿や再結晶等による精製工程)、原料調達面等を考慮した場合や、重合時の主鎖とシクロデキストリンとの距離が離れすぎてしまうことによる機能発現や物性低下の懸念により、好ましくない。以上のことから、ジアミノアルキル基の炭素数Rは、3~20が好ましい。より好ましくは3~10であり、さらに好ましくは3~5である。
【0077】
上記Rは、ラジカル重合性を示す官能基であり、アクリロイル基(CH=CH(CO)-)又はメタクリロイル基(CH=CCH(CO)-)を挙げることができる。この場合、これらの炭素-炭素二重結合を含む基は、ラジカル重合性が阻害されない程度であればさらに置換基を有していてもよい。
また、Rは、炭素数3~50のビニル基含有アルキル基であってもよい。
【0078】
また、上記一般式(h4)において、Rは、(イ)下記一般式(3)
-R-NHCONH-R (3)
(Rは、炭素数2~20のアルキレン基であり、直鎖でも分岐していても良く、置換基があっても良い。
は、炭素数4~50の(メタ)アクリロイルオキシアルキル基又は炭素数3~50のビニル基含有アルキル基を表す。)であってもよい。
【0079】
上記一般式(3)に示すように、当該シクロデキストリン誘導体は、尿素結合を介して、ラジカル重合性を示す官能基を有するものであり、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基又はビニル基含有アルキル基を有する構造である。
【0080】
(メタ)アクリロイルオキシアルキル基のアルキル基の炭素数は、1~10が好ましく、具体的には、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート等のイソシアネートに由来する構造が挙げられる。
【0081】
ジアミノアルキル基の炭素数Rは、上記Rと同様の理由により、3~20が好ましい。さらに好ましくは、3~10である。
【0082】
また、上記一般式(h4)において、Rは、(ウ)下記一般式(4)
-R-OCONH-R (4)
(R及びRは上記と同じ。)であってもよい。
【0083】
上記一般式(4)に示すように、当該シクロデキストリン誘導体は、ウレタン結合を介して、ラジカル重合性を示す官能基を有するものであり、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基又はビニル基含有アルキル基を有する構造である。
【0084】
これらのなかでも(h4)に該当するホストモノマーを使用した場合には、得られた重合体の物理的性質が特に優れたものとなる点で好ましいものである。
【0085】
なお、上述した(h1)~(h4)で表される化合物は、例えば、上述した特許文献2~5において開示された公知の化合物である。よって、これらの文献を参照することによって製造することができる。
【0086】
式(h1)で表されるホスト基含有重合性単量体の具体例として、下記(h1-1)~(h1-6)を挙げることができる。
【0087】
【化6】
【0088】
式(h1-1)、(h1-2)及び(h1-3)で表される化合物は、式(h1)において、Rが-CONR-(R=メチル基)であって、それぞれ、α-シクロデキストリン誘導体、β-シクロデキストリン誘導体、γ-シクロデキストリン誘導体から一個の水酸基が除されたホスト基を有している。また、いずれも、シクロデキストリン誘導体におけるN-1個の水酸基の水素原子がメチル基で置換されている。なお、これら(h1-1)、(h1-2)及び(h1-3)で表される化合物では、後記するシクロデキストリン誘導体における水酸基の水素原子のメチル置換と同じ反応により、各化合物中のアミド部位の窒素原子のメチル置換を行うことができる。つまり、一段階の反応で、シクロデキストリン部位のメチル化及びアミド部位のメチル化を行うことでき、式(h1-1)、(h1-2)及び(h1-3)で表される化合物を容易に得ることができるという利点がある。
後記式(h2-1)、(h2-2)及び(h2-3)も同様である。
【0089】
式(h1-4)、(h1-5)及び(h1-6)で表される化合物は、式(h1)において、Rが-CONH-であって、それぞれ、α-シクロデキストリン誘導体、β-シクロデキストリン誘導体、γ-シクロデキストリン誘導体から一個の水酸基が除されたホスト基を有している。また、いずれも、シクロデキストリン誘導体におけるN-1個の水酸基の水素原子がメチル基で置換されている。
【0090】
さらに、式(h1)で表されるホスト基含有重合性単量体の具体例として、下記(h1-7)~(h1-9)を挙げることができる。
【0091】
【化7】
【0092】
式(h1-7)、(h1-8)及び(h1-9)で表される化合物は、式(h1)においてRが-CONH-であって、それぞれ、α-シクロデキストリン誘導体、β-シクロデキストリン誘導体、γ-シクロデキストリン誘導体から一個の水酸基が除されたホスト基を有している。また、いずれも、シクロデキストリン誘導体におけるN-1個の水酸基の水素原子がアセチル基(各式において「Ac」と表示)で置換されている。
【0093】
さらに、式(h1)で表されるホスト基含有重合性単量体の具体例として、下記式(h1-10)を挙げることができる。
【0094】
【化8】
【0095】
式(h1-10)において、少なくとも1個のXは水素原子であり、また、少なくとも1個のXは-CONHC(エチルカルバメート基)である。nは5,6又は7である。
【0096】
式(h1-10)で表される化合物は、式(h1)においてRが-CONH-であって、シクロデキストリン誘導体から1個の水酸基が除されたホスト基を有している。また、シクロデキストリン誘導体におけるN-1個の水酸基の水素原子が前記Xで置換されている。
【0097】
式(h2)で表されるホスト基含有重合性単量体の具体例として、下記(h2-1)~(h2-9)を挙げることができる。
【0098】
【化9】
【0099】
式(h2-1)、(h2-2)及び(h2-3)で表される化合物は、式(h2)においてRが-CONR-(R=メチル基)であって、それぞれ、α-シクロデキストリン誘導体、β-シクロデキストリン誘導体、γ-シクロデキストリン誘導体から一個の水酸基が除されたホスト基を有している。また、いずれも、シクロデキストリン誘導体におけるN-1個の水酸基の水素原子がメチル基で置換されている。
【0100】
式(h2-4)、(h2-5)及び(h2-6)で表される化合物は、式(h2)においてRが-CONH-であって、それぞれ、α-シクロデキストリン誘導体、β-シクロデキストリン誘導体、γ-シクロデキストリン誘導体から一個の水酸基が除されたホスト基を有している。また、いずれも、シクロデキストリン誘導体におけるN-1個の水酸基の水素原子がメチル基で置換されている。
【0101】
式(h2-7)、(h2-8)及び(h2-9)で表される化合物は、式(h2)においてRが-COO-であって、それぞれ、α-シクロデキストリン誘導体、β-シクロデキストリン誘導体、γ-シクロデキストリン誘導体から一個の水酸基が除されたホスト基を有している。また、いずれも、シクロデキストリン誘導体におけるN-1個の水酸基の水素原子がメチル基で置換されている。
【0102】
式(h3)で表されるホスト基含有重合性単量体の具体例として、下記(h3-1)~(h3-6)を挙げることができる。
【0103】
【化10】
【0104】
式(h3-1)、(h3-2)及び(h3-3)で表される化合物は、式(h3)においてRが-COO-、n=2及びRbが水素原子であって、それぞれ、α-シクロデキストリン誘導体、β-シクロデキストリン誘導体、γ-シクロデキストリン誘導体から一個の水酸基が除されたホスト基を有している。また、いずれも、シクロデキストリン誘導体におけるN-1個の水酸基の水素原子がアセチル基(Ac)で置換されている。式(h3-1)、(h3-2)及び(h3-3)において、Rbの位置の水素原子は、メチル基で置き換えられてもよい。
【0105】
上記(h1-1)~(h1-9)、(h2-1)~(h2-9)及び(h3-1)~(h3-3)で表されるホスト基含有重合性単量体はいずれもアクリル系であるが、メタ位の水素がメチル基に置き換えられた構造、すなわちメタクリル系であっても本発明の効果は阻害されない。重合性を示す官能基を有している限りは、特にその種類は限定されない。
重合性を示す官能基の具体例としては、アルケニル基、ビニル基等の他、-OH、-SH、-NH、-COOH、-SOH、-POH、イソシアネート基、エポキシ基(グリシジル基)等が挙げられる。これらの重合性を示す官能基は、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体において、シクロデキストリンが有する1個以上の水酸基の水素原子に置換されることで、シクロデキストリン誘導体に導入され得る。これにより、重合性を示す官能基を有するホスト基含有重合性単量体が形成される。
【0106】
ホスト基含有重合性単量体としては、ラジカル重合性を有する官能基を有するビニル化合物にホスト基が結合(例えば、共有結合)した化合物を挙げることができる。
ラジカル重合性を有する官能基は、炭素-炭素二重結合を含む基を挙げることができ、具体的には、アクリロイル基(CH=CH(CO)-)、メタクリロイル基(CH=CCH(CO)-)、その他、スチリル基、ビニル基、アリル基等が挙げられる。これらの炭素-炭素二重結合を含む基は、ラジカル重合性が阻害されない程度であればさらに置換基を有していてもよい。
【0107】
また、ホスト基含有重合性単量体は、式(h1)、式(h2)、式(h3)及び式(h4)で表される化合物のうちの1種単独とすることができ、あるいは2種以上を含むことができる。この場合、式(h1)、式(h2)及び式(h3)のRaは互いに同一又は異なる場合がある。同様に、式(h1)、式(h2)、式(h3)及び式(h4)のR、並びに式(h1)、式(h2)及び式(h3)のRは各々互いに同一又は異なる場合がある。式(h1)~(h4)で定義される置換基は、特に限定されない。例えば、置換基としては、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、ハロゲン原子、カルボキシル基、カルボニル基、スルホニル基、スルホン基、シアノ基等を挙げることができる。
【0108】
(h1)~(h3)において、Rが1個の置換基を有していてもよいアミノ基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基であれば、アミノ基の窒素原子がC=C二重結合の炭素原子と結合し得る。
【0109】
(h1)~(h3)において、Rが1個の置換基を有していてもよいアミド基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基であれば、アミド基の炭素原子がC=C二重結合の炭素原子と結合し得る。
【0110】
(h1)~(h3)において、Rがアルデヒド基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基であれば、アルデヒド基の炭素原子がC=C二重結合の炭素原子と結合し得る。
【0111】
(h1)~(h3)において、Rがカルボキシル基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基である場合、カルボキシル基の炭素原子がC=C二重結合の炭素原子と結合し得る。
【0112】
(h1)~(h3)で表されるホスト基含有重合性単量体は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル誘導体(すなわち、Rが-COO-)、(メタ)アクリルアミド誘導体(すなわち、Rが-CONH-又は-CONR-であり、Rは上記置換基と同義である)であることが好ましい。この場合、重合反応が進みやすく、また、得られる高分子材料の靭性及び強度もより高くなり得る。なお、本明細書において(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタクリルのいずれかを示す。
【0113】
ホスト基を有する高分子化合物は、上記ホスト基含有重合性単量体に基づく単量体単位と、以下で詳述するその他のラジカル重合性単量体に基づく単量体単位を含む。
【0114】
本発明の重合体および樹脂組成物は、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及び/又はアルコキシアルキル(メタ)アクリレート及びホスト基を有する単量体に由来する構成単位を必須とするものである。さらに、このようなホスト基による物理的性質の改善という効果を得るためには、さらにゲスト基を有するものとするか、樹脂の主鎖がホスト基を貫通した構造を有するものとすることが好ましい。
【0115】
(ゲスト基を有する場合)
本発明の重合体及び樹脂組成物を、さらにゲスト基を有するものとした場合、ホストーゲスト相互作用による架橋を分子中に有するものとすることができる。
このような架橋を導入することによって、樹脂の物理的性質を血管等の生体材料に類似したものとすることができる。
【0116】
(ゲスト基)
ゲスト基は、上記ホスト基とホスト-ゲスト相互作用をすることができる基である限りはその種類は限定されず、公知のゲスト基を広く例示することができる。
【0117】
ゲスト基としては、炭素数3~30の直鎖又は分岐状の炭化水素基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基及び有機金属錯体等が挙げられ、これらは一以上の置換基を有していてもよい。より具体的なゲスト基としては、炭素数4~18の鎖状又は環状のアルキル基が挙げられる。炭素数4~18の鎖状のアルキル基は直鎖及び分岐のいずれでもよい。環状のアルキル基は、かご型の構造であってもよい。置換基としては、前述の置換基と同様であり、例えば、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素等)、水酸基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、保護されていてもよい水酸基等を挙げることができる。
【0118】
ゲスト基は、その他、例えば、アルコール誘導体;アリール化合物;カルボン酸誘導体;アミノ誘導体;環状アルキル基又はフェニル基を有するアゾベンゼン誘導体;桂皮酸誘導体;芳香族化合物及びそのアルコール誘導体;アミン誘導体;フェロセン誘導体;アゾベンゼン;ナフタレン誘導体;アントラセン誘導体;ピレン誘導体:ペリレン誘導体;フラーレン等の炭素原子で構成されるクラスター類;ダンシル化合物の群から選ばれる少なくとも1種が例示されるゲスト分子から一個の原子(例えば、水素原子)が除されて形成される1価の基を挙げることもできる。
【0119】
ゲスト基のさらなる具体例としては、t-ブチル基、n-オクチル基、n-ドデシル基、イソボルニル基、アダマンチル基及びこれらに上記置換基が結合した基を挙げることができる。
【0120】
(ゲスト基含有重合性単量体)
ゲスト基含有重合性単量体は、重合性単量体がゲスト基で置換された化合物である。
【0121】
ゲスト基としては、前記ホスト基とホスト-ゲスト相互作用をすることができる基である限りはその種類は限定されない。
【0122】
ゲスト基としては、炭素数3~30の直鎖又は分岐状の炭化水素基、炭素数3~30の直鎖又は分岐状のフルオロアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基及び有機金属錯体等が挙げられ、これらは一以上の置換基を有していてもよい。より具体的なゲスト基としては、炭素数4~18の鎖状又は環状のアルキル基が挙げられる。炭素数4~18の鎖状のアルキル基は直鎖及び分岐のいずれでもよい。環状のアルキル基は、かご型の構造であってもよい。置換基としては、前述の置換基と同様であり、例えば、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素等)、水酸基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、保護されていてもよい水酸基等を挙げることができる。
【0123】
ゲスト基は、その他、例えば、アルコール誘導体;アリール化合物;カルボン酸誘導体;アミノ誘導体;環状アルキル基又はフェニル基を有するアゾベンゼン誘導体;桂皮酸誘導体;芳香族化合物及びそのアルコール誘導体;アミン誘導体;フェロセン誘導体;アゾベンゼン;ナフタレン誘導体;アントラセン誘導体;ピレン誘導体:ペリレン誘導体;フラーレン等の炭素原子で構成されるクラスター類;ダンシル化合物の群から選ばれる少なくとも1種が例示されるゲスト分子から一個の原子(例えば、水素原子)が除されて形成される1価の基を挙げることもできる。
【0124】
ゲスト基のさらなる具体例としては、-CHCHCFCFCFCFCFCF基等のフッ素化アルキル基、t-ブチル基、n-オクチル基、n-ドデシル基、イソボルニル基、アダマンチル基及びこれらに前記置換基が結合した基を挙げることができる。
【0125】
ゲスト基含有重合性単量体の具体例としては、前記ゲスト基が結合したビニル系の重合性単量体(以下、「ゲスト基含有ビニル系単量体」と表記することがある)を挙げることができる。
【0126】
例えば、ゲスト基含有ビニル系単量体は、下記の一般式(g1)
【0127】
【化11】
【0128】
(式(g1)中、Raは水素原子またはメチル基を示し、Rは前記ゲスト基を示し、Rは式(h1)のRと同義である。)
で表される化合物を挙げることができる。
【0129】
式(g1)で表される重合性単量体の中でも、(メタ)アクリル酸エステル又はその誘導体(すなわち、Rが-COO-)、(メタ)アクリルアミド又はその誘導体(すなわち、Rが-CONH-又は-CONR-であり、Rは前記置換基と同義である)であることが好ましい。この場合、重合反応が進みやすく、また、得られる高分子材料の靭性及び強度もより高くなり得る。
【0130】
ゲスト基含有ビニル系単量体の具体例としては、実施例でRF6として示した単量体、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸n-ドデシル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアダマンチル、1-(メタ)アクリルアミドアダマンタン、2-エチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート、N-ドデシル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸t-ブチル、1-アクリルアミドアダマンタン、N-(1-アダマンチル)(メタ)アクリルアミド、N-ベンジル(メタ)アクリルアミド、N-1-ナフチルメチル(メタ)アクリルアミド、エトキシ化o-フェニルフェノールアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、イソステアリルアクリレート、ノニルフェノールEO付加物アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0131】
ゲスト基含有ビニル系単量体は、公知の方法で製造することができる。また、ゲスト基含有重合性単量体は、市販品を使用することもできる。
【0132】
(可動性架橋重合体)
上記ホスト基含有重合性単量体を構成単位とする重合体は、ホスト基含有ビニル単量体及び以下で詳述するその他の重合性単量体の種類によっては、可動性架橋重合体となり得る。ここでいう可動性架橋重合体とは、重合体中の架橋点が移動可能に形成されていることを意味する。例えば、重合体側鎖に結合しているホスト基(シクロデキストリン構造)の環内を、他の重合体の主鎖が貫通した構造を有し、かつ、その主鎖がホスト基の環を通してスライドできるように形成されている重合体を、可動性架橋重合体ということができる。高分子材料が可動性架橋重合体である場合、より優れた靭性を有することができる。
【0133】
例えば、単量体として、前記ホスト基含有ビニル単量体のホスト基を貫通できるサイズの単量体を含有する場合、該重合性単量体混合物の重合体は、可動性架橋重合体を形成しやすい。このような貫通できるサイズの単量体が、ホスト基(シクロデキストリン構造)の環内を貫通しながら重合が進行するからである。
【0134】
共重合体又は樹脂組成物が可動性架橋重合体を形成しているか否かについては、例えば、共重合体又は樹脂組成物の膨潤試験の結果から判定することができる。例えば、重合体A1-1を、化学架橋剤を使用せずに調製し、得られた重合体A1-1を溶媒に加えた場合において、溶解せずに膨潤現象が見られた場合を可動性架橋重合体が形成されていると判断でき、溶解した場合を可動性架橋重合体が形成されていないと判断できる。
【0135】
可動性架橋重合体は、重合体が架橋構造を形成していることに加えて、架橋点が移動可能に形成されていることから、ホスト基環内を高分子鎖がスライドできるように形成されている。これにより、可動性架橋重合体に応力が加わったとしても、その応力を緩和させる作用が発揮される。結果として、可動性架橋重合体は優れた靭性及び強度を有することができ、破壊エネルギーに優れた材料になり得る。この観点から、高分子材料は、前記ホスト基含有ビニル単量体のホスト基を貫通できるサイズの重合性単量体を含有する単量体を構成単位として含むことが好ましい。
【0136】
(その他のラジカル重合性単量体)
その他のラジカル重合性単量体は、上記アルコキシ(メタ)アクリレート、ホスト基含有重量体、ゲスト基含有単量体に該当せず、かつ、上記ホスト基含有重合性単量体及び後記するゲスト基含有重合性単量体と共重合可能な各種の化合物を挙げることができる。上記その他のラジカル重合性単量体としては、公知である各種のビニル系重合性単量体を挙げることができる。
【0137】
ビニル系重合性単量体の具体例としては、下記一般式(a1)
【0138】
【化12】
(式(a1)中、Raは水素原子またはメチル基、Rはハロゲン原子、ヒドロキシル基、チオール基、1個の置換基を有していてもよいアミノ基又はその塩、1個の置換基を有していてもよいカルボキシル基又はその塩、1個以上の置換基を有していてもよいアミド基又はその塩、1個以上の置換基を有していてもよいフェニル基を示す)
で表される化合物を挙げることができる。
【0139】
式(a1)中、Rが1個の置換基を有するカルボキシル基である場合、カルボキシル基の水素原子が炭化水素基、メトキシポリエチレングリコール(エチレングリコールのユニット数は1~20、好ましくは1~10、特に好ましくは、2~5)、エトキシポリエチレングリコール(エチレングリコールのユニット数は1~20、好ましくは1~10、特に好ましくは、2~5)等で置換されたカルボキシル基(すなわち、エステル)が挙げられる。
式(a1)中、Rが1個以上の置換基を有するアミド基、すなわち、第2級アミド又は第3級アミドである場合、第1級アミドの1個の水素原子又は2個の水素原子が互いに独立に炭化水素基又はヒドロキシアルキル基(例えば、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシエチル基)で置換されたアミド基が挙げられる。
【0140】
中でも、式(a1)中、Rが、水素原子が炭素数1~10のアルキル基で置換されたカルボキシル基、1個以上の水素原子が炭素数1~10のアルキル基で置換されたアミド基であることが好ましい。この場合、その他のラジカル重合性単量体は比較的疎水性が高く、ホスト基重合性単量体との共重合が進行しやすい。より好ましくは、置換基である上記アルキル基の炭素数2~8、特に好ましくは2~6であり、この場合、得られる高分子材料の靭性及び強度も向上しやすい。このアルキル基は直鎖及び分岐のいずれであってもよい。
【0141】
式(a1)で表される単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸、アリルアミン、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、エトキシ-ジエチレングリコールアクリレート、メトキシ-トリエチレングルコールアクリレート、メトキシ-ポリエチレングリコールアクリレート、スチレン等が挙げられる。これらは1種単独で使用でき、又は2種以上を併用できる。
【0142】
(各単量体の含有量)
本発明の共重合体又は樹脂組成物において、上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及び/又はアルコキシアルキル(メタ)アクリレート(A)の含有量は、全単量体成分100質量%に対して、80~99.5質量%であることが好ましい。上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及び/又はアルコキシアルキル(メタ)アクリレートとホスト基含有単量体とをそれぞれ特定範囲量で含むことにより、本発明の単量体組成物は、生体適合性を有し、生体物質に類似した物理的性質を有する重合体とすることができる。上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及び/又はアルコキシアルキル(メタ)アクリレート(A)の含有量が80質量%未満であると、生体適合性が低下するおそれがある。
上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及び/又はアルコキシアルキル(メタ)アクリレートの含有量は、全単量体成分100質量%に対して、85質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。また、上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及び/又はアルコキシアルキル(メタ)アクリレートの含有量は、全単量体成分100質量%に対して、99質量%以下が好ましく、98質量%以下がより好ましい。
【0143】
本発明の共重合体又は樹脂組成物において、ホスト基含有重合性単量体単位の含有量は特に限定されない。例えば、共重合体又は樹脂組成物を構成する単量体単位の全モル数に対して、ホスト基含有重合性単量体単位を0.01~10モル%含むことができる。この場合、高分子材料において、ホスト-ゲスト相互作用や、可動性架橋性重合体が生じやすく、機械的強度が向上しやすい。本発明の共重合体又は樹脂組成物を構成する単量体単位の全モル数に対して、ホスト基含有重合性単量体単位は、0.05モル%以上含むことが好ましく、0.1モル%以上含むことがより好ましく、0.5モル%以上含むことがさらに好ましく、1モル%以上含むことが特に好ましい。また、本発明の共重合体又は樹脂組成物を構成する単量体単位の全モル数に対して、ホスト基含有重合性単量体単位は、8モル%以下含むことが好ましく、6モル%以下含むことがより好ましく、5モル%以下含むことがさらに好ましく、4モル%以下含むことが特に好ましい。
【0144】
本発明の共重合体又は樹脂組成物において、ゲスト基含有重合性単量体単位の含有量は特に限定されない。例えば、本発明の共重合体又は樹脂組成物を構成する単量体単位の全モル数に対して、ゲスト基含有重合性単量体単位を0.01~10モル%含むことができる。この場合、高分子材料において、ホスト-ゲスト相互作用が生じやすく、機械的強度が向上しやすい。ゲスト基を有する高分子化合物を構成する単量体単位の全モル数に対して、ゲスト基含有重合性単量体単位は、0.05モル%以上含むことが好ましく、0.1モル%以上含むことがより好ましく、0.5モル%以上含むことがさらに好ましく、1モル%以上含むことが特に好ましい。また、本発明の共重合体又は樹脂組成物を構成する単量体単位の全モル数に対して、ゲスト基含有重合性単量体単位は、8モル%以下含むことが好ましく、6モル%以下含むことがより好ましく、5モル%以下含むことがさらに好ましく、4モル%以下含むことが特に好ましい。
【0145】
本発明の共重合体又は樹脂組成物を構成する重合体の重合方法は特に限定されるものではなく、一般的な方法によって行うことができる。具体的には、熱によるラジカル重合、光によるラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合等を挙げることができる。これらのなかでも、特にラジカル重合によるものであることが特に好ましい。
【0146】
上記光によるラジカル重合を行う場合は、光重合開始剤を使用することが好ましい。上記光重合開始剤としては特に限定されず、例えば、1―ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(商品名:IRGACURE184)、2―ヒドロキシ―2―メチルプロピオフェノン(商品名:IRGACURE1173)、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン等のアセトフェノン系開始剤;ベンゾイン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン等のベンゾイン系開始剤;ベンゾフェノン、[4-(メチルフェニルチオ)フェニル]フェニルメタノン、4-ヒドロキシベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン系開始剤;2-クロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン等のチオキサントン系開始剤;2,4,6-トリメチルベンゾイルージフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド系開始剤;1,2-オクタンジオン、1-[4-(フェニルチオ)フェニル]、2-(0―ベンゾイルオキシム)、エタノン、1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾイルー3-イル]―、1-(0―アセチルオキシム)等のオキシムエステル系開始剤等を使用することができる。上記光重合開始剤の使用量は、本発明の共重合体又は樹脂組成物を構成する単量体の全量に対して、0.1~2重量%であることが好ましい。
【0147】
光重合を行う場合の条件は特に限定されず、光源としては高圧水銀ランプ、LEDランプ、メタルハライドランプ等を挙げることができる。
【0148】
上記熱反応によるラジカル重合反応を行う場合は、ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。ラジカル重合開始剤としては特に限定されず、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、ジクミルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド等を使用することができる。上記熱重合開始剤の使用量は、本発明の共重合体又は樹脂組成物を構成する単量体の全量に対して、0.1~2重量%であることが好ましい。
【0149】
本発明の共重合体又は樹脂組成物がホスト基含有ビニル単量体及びゲスト基含有ビニル単量体に由来する構成単位を含む場合、その製造においては、ホスト基含有ビニル単量体及びゲスト基含有ビニル単量体の包接化合物1を形成し、これを利用した重合を行うこともできる。
【0150】
例えば、ホスト基含有ビニル単量体及びゲスト基含有ビニル単量体を含む単量体A1を超音波処理及び/又は加熱処理を行う工程により、ホスト基含有ビニル単量体及びゲスト基含有ビニル単量体の包接化合物1が形成され得る。以下、包接化合物1を形成するための前記工程を「包接化合物形成工程」ということがある。
【0151】
この包接化合物1は、ホスト基とゲスト基とのホスト-ゲスト相互作用が起こることで形成される。このような包接化合物1が形成されると、単量体A1がより均一な溶液となり得るので、重合反応A1が進行しやすく、また、得られる重合体は、ホスト-ゲスト相互作用が形成されやすくなり、結果として、得られる高分子材料の靭性及び強度が向上しやすい。
【0152】
包接化合物形成工程における超音波処理は特に限定されず、例えば、公知の方法で行うことができる。
【0153】
包接化合物形成工程における加熱処理の条件も特に限定されない。例えば、加熱温度は、20~100℃、好ましくは50~80℃である。また、加熱時間は、1分~12時間、好ましくは15分~1時間である。加熱手段も特に限定されず、例えば、ホットスターラーを用いる方法、恒温槽を用いる方法等が挙げられる。加熱と共に又は加熱に替えて前記超音波処理を施すこともできる。
【0154】
包接化合物形成工程において、包接化合物が形成されたか否かについては、例えば、単量体Aの状態を目視することで判定することができる。具体的には、包接化合物が形成されていなければ、単量体Aは懸濁した状態あるいは静置すると相分離した状態であるが、包接化合物が形成されると、ジェル状又はクリーム状等の粘性を有する状態となり得る。また、包接化合物が形成されると、単量体A1は透明となり得る。
【0155】
ホスト基含有ビニル単量体は、ホスト基が炭化水素基等を有していることから、ゲスト基ビニル単量体との親和性が高いため、従来のホスト基含有ビニル単量体に比べると、より包接化合物1が形成されやすい。その結果、単量体A1が包接化合物1を形成する場合、単量体A1はより均一な溶液となりやすく、高分子材料の靭性及び強度が顕著に向上しやすい。
【0156】
包接化合物形成工程により包接化合物1が形成された単量体A1を重合反応A1の原料として使用する場合であって、単量体A1がさらに第3の重合性単量体を含む場合、第3の重合性単量体は包接化合物1が形成された後に単量体A1に加えてもよいし、あるいは、包接化合物1が形成される前に単量体A1に加えてもよい。重合開始剤、溶媒等も包接化合物1の形成前の添加及び形成後の添加いずれであってもよい。
【0157】
単量体A1を使用した重合反応(以下これを「重合反応A1」と記すことがある)においては、単量体A1の他、重合開始剤を使用することができる。重合開始剤の種類は特に限定されず、上述した公知の重合開始剤を使用できる。
【0158】
重合反応A1は、溶媒を使用してもよいし、溶媒を使用する場合は、溶媒の種類は特に限定されない。溶媒の使用量も特に限定されない。
【0159】
あるいは、重合反応A1は、溶媒の不存在下で行うこともできる。単量体A1は、ホスト基含有ビニル単量体を含み、特にホスト基が炭化水基等を有していることから、親水性及び疎水性の重合性単量体のいずれの単量体に対しても高い親和性を示す。そのため、重合反応Aでは、溶媒を使用せずとも単量体A1が均一な溶液となり得る。
【0160】
本発明は、上述したようなホスト成分および必要に応じてゲスト成分を有する樹脂成分(A)中で重合反応を行うことによって得られた重合体(B)をさらに有するものであってもよい。
【0161】
樹脂成分(A)の溶液中で、重合反応を行うと、得られた重合体は、樹脂成分(A)の架橋構造中に絡みつくような状態で形成されると推測される。樹脂成分(A)中に重合体(B)の重合前モノマーが細部まで侵入した状態で重合反応が進行する結果、相互侵入した非架橋状態の異種ポリマーの網目構造が形成されることによって、物性への影響を及ぼし、強靭性を有するものになると推測される。
さらに、ホスト基が上述した式(5)で表されるものであることによって、環状の水酸基による水素結合を生じるため、弾性・強靭性を有すると推測される。
【0162】
樹脂溶液において、重合体(B)の重合において樹脂成分(A)は、樹脂成分(A)と溶媒との合計量に対して10~50重量%であることが好ましい。
【0163】
重合体(B)は、不飽和結合の重合によって得られたものであることが好ましい。このような重合体を構成する単量体は特に限定されるものではなく、各種アクリル系単量体、ビニル系単量体等を挙げることができる。
【0164】
これらのうち、上述した樹脂成分(A)の樹脂溶液に均一に溶解させられる成分であることが特に好ましい。このようなものを使用することによって、得られた重合体が、樹脂成分(A)の三次元構造を有する樹脂鎖中に重合体が存在することとなり、本発明の効果を良好に得ることができる。
【0165】
このような単量体として具体的には例えば、上述したヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及び/又はアルコキシアルキル(メタ)アクリレート(A)等を挙げることができ、具体的には、例えば、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、4-メトキシブチル(メタ)アクリレート、4-エトキシブチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。樹脂成分(A)と溶解し、重合後も部分的な分離や結晶化を起こさないような適度に相溶性を有する極性のモノマーであれば、これらのモノマーに限定されるものではなく、またこれらの2種以上を併用して使用するものであってもよい。
【0166】
重合体(B)の重合方法は特に限定されるものではなく、一般的な方法によって行うことができる。具体的には、熱によるラジカル重合、光によるラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合等を挙げることができる。これらのなかでも、特にラジカル重合によるものであることが特に好ましい。
【0167】
上記光によるラジカル重合を行う場合は、光重合開始剤を使用することが好ましい。上記光重合開始剤としては特に限定されず、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(商品名:IRGACURE184)、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン(商品名:IRGACURE1173)、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン等のアセトフェノン系開始剤;ベンゾイン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン等のベンゾイン系開始剤;ベンゾフェノン、[4-(メチルフェニルチオ)フェニル]フェニルメタノン、4-ヒドロキシベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン系開始剤;2-クロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン等のチオキサントン系開始剤;2,4,6-トリメチルベンゾイルージフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド系開始剤;1,2-オクタンジオン、1-[4-(フェニルチオ)フェニル]、2-(0-ベンゾイルオキシム)、エタノン、1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾイル-3-イル]-、1-(0-アセチルオキシム)等のオキシムエステル系開始剤等を使用することができる。上記光重合開始剤の使用量は、重合体(B)を構成する単量体の全量に対して、0.1~2重量%であることが好ましい。
【0168】
光重合を行う場合の条件は特に限定されず、光源としては高圧水銀ランプ、LEDランプ、メタルハライドランプ等を挙げることができる。
【0169】
上記熱反応によるラジカル重合反応を行う場合は、ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。ラジカル重合開始剤としては特に限定されず、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、ジクミルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド等を使用することができる。上記熱重合開始剤の使用量は、重合体(B)を構成する単量体の全量に対して、0.1~2重量%であることが好ましい。
【0170】
(微粒子化されたセルロースファイバー(C))
本発明の重合体や樹脂組成物を医療用材料として使用する場合、更に、微粒子化されたセルロースファーバー(C)を併用するものであってもよい。微粒子化されたセルロースファイバーは、木質繊維(パルプ)をナノオーダーにまで微細化したものであり、天然由来の素材として近年特に注目されているものである。微粒子化されたセルロースファイバーは、フィラーとしての使用が検討されており、樹脂中に配合した場合に、強度が改善されることが知られ、このような観点からの検討が多くなされている。
【0171】
微粒子化されたセルロースファイバーは、粒子径を特に限定されるものではないが、例えば、X線CTで測定した平均粒子径が1~30μmであることが好ましい。このような微粒子化されたセルロースファイバーは、いわゆるセルロースナノファイバーと呼ばれる、ナノオーダーまで微細化したものであってもよい。
【0172】
本発明の医療用材料においても、このような微粒子化されたセルロースファイバー(C)を使用することで、好適な強靭性が得られるものである。
【0173】
上記微粒子化されたセルロースファイバーは、特に限定されるものではないが、なかでも、特に、その表面の水酸基の少なくとも一部がポリカルボン酸によってエステル化されたものであることが好ましい。このような表面処理を施すことによって、本発明の共重合体又は樹脂組成物や重合体(B)との親和性が高くなり、均一に混合することができる点で特に好ましいものである。
【0174】
上記微粒子化されたセルロースファイバー(C)は、セルロース及びセルロース誘導体の少なくとも一方を採用することができる。中でも、上記本発明の共重合体又は樹脂組成物との水素結合が起こりやすい観点から、セルロース材料は、セルロース誘導体であることが好ましい。
【0175】
上記セルロース誘導体は、例えば、セルロースが他の官能基で修飾された化合物であり、いわゆる変性セルロースと称することもできる。具体的にセルロース誘導体は、セルロースを構成している構造単位における水酸基又は該水酸基の水素原子が、他の官能基で置換された構造を有する。好ましくは、セルロースを構成している構造単位における水酸基が、他の官能基で置換された構造を有する。
【0176】
上記セルロース誘導体は、カルボキシ基、水酸基、アミノ基及びアミド基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基Fを有する化合物で変性されたセルロースであることが好ましい。つまり、上記セルロース誘導体は、セルロースを構成している構造単位(グルコースユニット)における水酸基が、カルボキシ基、水酸基、アミノ基及びアミド基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基Fで置換された構造を有することが好ましい。この場合、セルロース材料は、上記重合体Aとの水素結合が起こりやすいので、高分子複合材料は、優れた柔軟性、強靭性及び硬さを有することができる。
【0177】
中でも、上記セルロース誘導体において、上記官能基Fは、カルボキシ基及び水酸基からなる群より選ばれる1種であることが好ましい。
【0178】
セルロース誘導体は、例えば、セルロースを、上記官能基(例えば、官能基F)を有する化合物で変性させることで得ることができる。ここで、上記官能基を有する化合物を「化合物F」と表記する。
【0179】
化合物Fとしては、例えば、カルボキシ基を有する化合物、水酸基を有する化合物、アミノ基を有する化合物、アミド基を有する化合物が挙げられ、これらは、例えば、公知の化合物を広く採用することができる。
【0180】
具体的に、化合物Fとしては、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメシン酸、シュウ酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、マロン酸等を挙げることができる。中でも、セルロース誘導体の製造が容易であり、また、重合体Aとの水素結合も起こりやすいという観点から、化合物Fはクエン酸であることが好ましい。
【0181】
従って、セルロース誘導体は、クエン酸変性セルロースであることが好ましい。
【0182】
セルロース誘導体において、上記化合物Fに由来する官能基の導入量は、例えば、0.1~5mmol/g、好ましくは0.5~3mmol/g、より好ましくは1~2mmol/gである。
【0183】
セルロース誘導体の具体的な製造方法としては、例えば、セルロースと上記化合物Fとを反応する方法を挙げることができる。セルロースと上記化合物Fとの反応方法は特に限定されず、例えば、公知の縮合反応、付加反応等を広く採用することができる。
【0184】
セルロースと上記化合物Fとの反応は、例えば、触媒の存在下で行うことができる。触媒の種類は特に限定されず、例えば、酸、アルカリ等を挙げることができる。触媒はアルカリであることが好ましく、具体的には、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、有機アミン等を挙げることができる。
【0185】
セルロースと上記化合物Fとの反応温度も特に限定されず、反応性等に応じて適宜選択することができる。例えば、セルロースと上記化合物Fとの反応は、20~200℃、好ましくは50~150℃とすることができる。反応時間も特に限定されず、反応温度に応じて適切な時間とすることができ、例えば、30分から20時間である。
【0186】
セルロースと上記化合物Fとの反応は、各種溶媒中で行うことができ、あるいは、無溶媒で行うこともできる。
【0187】
セルロース材料に含まれるセルロース又はセルロース誘導体の分子量も特に限定されない。例えば、セルロース又はセルロース誘導体の重量平均分子量は5千~100万、好ましくは1万~90万、より好ましくは、10万~80万である。
【0188】
上記微粒子化されたセルロースファイバーは、上述した本発明の共重合体又は樹脂組成物の重量に対して、1~10重量%の割合で配合することが好ましい。上述した割合で配合することで、好適に物性を改善できる点で好ましい。上記下限は、2重量%であることがより好ましく、4重量%であることがさらに好ましい。上記上限は、8重量%であることがより好ましく、6重量%であることがさらに好ましい。
【0189】
(成型方法)
本発明の共重合体又は樹脂組成物は、溶媒を含有する組成物をキャスト法等の方法で成型することで所定の形状に成形するもの、等を使用することができる。
【0190】
(医療用材料)
本発明の共重合体又は樹脂組成物は、医療用材料として特に好適に使用することができる。上記共重合体又は樹脂組成物を適用することができる医療用材料としては、具体的には、例えば以下を挙げることができる。
胃管カテーテル、栄養カテーテル、経管栄養用(ED)チューブ等の経口又は経鼻的に消化器管内に挿入又は留置されるカテーテル類;酸素カテーテル、酸素カヌラ、気管内チューブのチューブやカフ、気管切開チューブのチューブやカフ、気管内吸引カテーテル等の経口又は経鼻的に気道又は気管内に挿入又は留置されるカテーテル類;尿道カテーテル、導尿カテーテル、バルーンカテーテルのカテーテルやバルーン等の尿道又は尿管内に挿入又は留置されるカテーテル類;吸引カテーテル、排液カテーテル、直腸カテーテル等の各種体腔、臓器、組織内に挿入又は留置されるカテーテル類;留置針、サーモダイリューションカテーテル、IVHカテーテル、血管造影用カテーテル、血管拡張用カテーテル及びダイレーターもしくはイントロデユーサ等の血管内に挿入又は留置されるカテーテル類;あるいは、これらのカテーテル用のガイドワイヤー、スタイレット等;各種器官挿入用の検査器具や治療器具等;ステント類や人工血管、人工気管、人工気管支等;体外循環治療用の医療器(人工心臓、人工肺、人工腎臓、人工弁等)やその回路類;人工関節、人工骨頭、縫合糸、歯科材料、各種吸着体、血漿交換膜、CAPD、IABP、ペースメーカー、血液バッグ、採尿バッグ、輸血セット;等。
【0191】
本発明の医療用材料は、人工血管であることが特に好ましい。上述したように、本発明の共重合体及び樹脂組成物は、血管と類似した物理的性質を有し、かつ、生体適合性にも優れたものである。したがって、人工血管用素材として特に好適に使用することができる。
【0192】
本発明の医療用材料が人工血管である場合、本発明の共重合体又は樹脂組成物を公知の方法によってチューブ状に成形したものや、公知の医療用材料をチューブ状に成形し、その内面を本発明の共重合体又は樹脂組成物によってコーティングしたもの等とすることができる。
【実施例
【0193】
以下、実施例に基づいて、本発明を具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0194】
以下の実施例において使用する各モノマーはそれぞれ以下のものを意味する。
【化13】
【0195】
(実施例1~4、比較例1~3)
液体モノマーの2-methoxyethyl acrylate(MEA)にTAcγCDモノマー(TAcγCDAAmMe)、RF6モノマー及び光開始剤であるIRGACURE 184を溶かした。その後、1時間超音波照射してから10 cm(縦)×10 cm(横)× 1 mm(奥行)のテフロン(登録商標)モールドに流しこんだ後、高圧水銀ランプによる紫外線照射を1時間行い、フィルムを作製した。得られたフィルムは60-70℃の過量のお湯に5分間浸した後、80℃の対流オーブンにて24時間、同温度で24時間真空乾燥して共重合体のフィルムを得た。各共重合体の仕込み量を表1にまとめた。
これらにおいて、MEA:TAcγCDAAmMe:RF6=100:0:0(比較例1)、99:1:0(実施例1),99:0:1(比較例2)、98:1:1(実施例2)、98:2:0(実施例3)、98:0:2(比較例3)、96:2:2(実施例4)の割合で同様の手法でポリマーを得た。なお、以下の幾つかの例において、TAcγCDAAmMe、RF6の共重合割合をそれぞれx,yで表すことがある。すなわち、比較例1は、(x,y)=(0,0)、実施例2は、(x,y)=(1,1)等と表記することがある。
なお、TAcγCDAAmMeの合成は、特許第6950984号に記載の製造例、Macromoleculules 2019, 52, 7, 2659-2668およびMacromoleculules 2019, 52, 18, 6953-6962に記載の合成方法に従って行った。
【0196】
【表1】
【0197】
(血小板粘着試験及び接触角の測定)
このようにして得たフィルム上のポリマーのうち、比較例1,2実施例1,2及び人工血管用の素材として知られているPETについて、以下の方法によって、血小板の粘着試験を行った。さらに、重力下の静的接触角測定法(Sessile drop method)及び液中気泡法(Captive bubble method)からの接触角を測定した。
【0198】
(血小板粘着試験の試験方法)
ヒト全血を5分間400 rcf(1600 rpm)で遠心分離して上澄みを回収し、これを多血小板血漿(Platelet Rich Plasma; PRP)とした。その後、残りの血液をさらに10分間2500 rcf(4000 rpm)にて遠心分離してその上澄みを回収し、これを少血小板血漿(Platelet Poor Plasma; PPP)とした。その後、PRPとPPPを適量混合し、血小板濃度を調整した血小板懸濁液(血小板の播種密度:4×107 cells/cm2)を調製した。
高分子フィルム(基板)を8 mm(縦)×8 mm(横)に切り取った後、200 μLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を滴下してから1時間静置した。調製した血小板懸濁液を200 μL基板上に滴下してから、1時間37℃でインキュベートした。その後、1 wt% glutaraldehydeのPBS溶液に2時間37℃で浸漬し粘着した血小板を基板上に固定した。その後、PBSとPBS希釈液(同量の水で希釈)の順で洗浄してから水で2回洗浄した。その後、乾燥してから走査型電子顕微鏡によって基板表面の観察を行い、血小板の粘着数をカウントした。
【0199】
血小板の粘着試験の結果を図1図2に示した。接触角の測定結果を図2に示した。
図1,2の結果から、MEAを使用した樹脂は、PETと比べて、血小板粘着及び血小板活性化抑制が図られている。
さらに、ホスト基、ゲスト基の両方が存在する場合は、MEAの単独重合体とほぼ同等の血小板粘着及び血小板活性化抑制効果が得られる。
このような低血小板粘着性や活性化抑制効果は、水中における親水性によって達成されると推測される。
【0200】
(HUVEC接着性試験方法)
高分子基板を30分紫外線照射による滅菌作業したあと、PBSで洗浄してから500 μLのHUVEC用培地(EGM-2, Lonza)中に1時間37℃で静置した。その後、HUVECを播種(1.0×104cells/cm2)し1,24,72時間インキュベートした。4 % paraformaldehyde溶液でHUVECを基板上に固定化した後、Phalloidin、4’,6-diamidino-2-phenylindole、抗vinculin抗体(Alexa Fluor 488-conjugated anti-mouse IgG (H+L))を用いて免疫染色した後、共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した。
【0201】
このような試験を、PET、比較例1,実施例2のサンプルについて行った。
結果を図3,4に示す。
【0202】
図3,4の結果から、実施例2のサンプルは、比較例1に比べて、HUVEC接着性が向上したことが明らかになった。
【0203】
(真応力、真歪み、及びヤング率の測定)
ヤング率は公称応力―公称歪み曲線で表した引張試験結果の歪み1~4%における勾配より算出した。真応力及び真歪みに関しては下記の式、
真歪み = ln (1+公称歪み)
真応力 = 公称応力×exp(真歪み)
によって、これらを測定した、結果を図5に示す。
さらに、参考として、Science,2018,359,1509-1513に記載された、各種素材の歪みと応力の関係を図6に示す。
【0204】
図5,6から、本発明の素材は、生体材料に近い挙動を示すことが明らかとなった。さらに、これらが有するヤング率も、血管に近い値であることも明らかである。
【0205】
(実施例5~7)
実施例5~7において使用する単量体は以下のものである。なお、SH-02は、国際公開2022/024908の実施例に記載された方法によって合成した。
【化14】
【0206】
(重合反応)
MEAにホスト(SH-02またはTAcβAAmMe)とゲスト分子及び開始剤のBAPOを溶かした。その後、ポリテトラフルオロエチレン製鋳型(横5cmX縦5cmX厚み1mm)にモノマー溶液を充填させた。45分間光照射(波長420nm)して重合を行った。得られたフィルムは80℃の対流オーブンにて24時間静置した後、80℃にて24時間真空乾燥した。重合時の各原料の仕込み量を表2にまとめた。なお、表中の各単量体及び光重合開始剤の配合割合は、重量比である。なお、これらの実施例においては、いずれもMEA:ホストモノマー:ゲストモノマー:BAPOは、モル比98:1:1:0.5である。
【0207】
【表2】
【0208】
このようにして得られた重合体について、引張試験を行った。
引張試験は、引張速度1mm/秒で行った。結果を図7,8に示す。
これらの結果から、いずれの結果においても、タフネス性に優れた重合体が得られていることが明らかである。また、ヤング率は、上述した実施例1~3と同様、血管に近い値であることが明らかとなった。このようなヤング率を有し、かつ強度に優れた材料を得ることができた。
したがって、これらの重合体も人工血管等の医療用材料として好適に使用できるものである。
【0209】
また、上記実験結果からみて、3-ヒドロキシ-1-アダマンチルメタクリレートをゲストモノマーとしたときに、特にタフネス性に優れる重合体が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0210】
本発明の共重合体は、人工血管等の医療用材料として好適に使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8