(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】マーカー、マーカー留置具及びマーカー検出装置
(51)【国際特許分類】
A61B 90/00 20160101AFI20240930BHJP
A61M 5/178 20060101ALI20240930BHJP
A61M 37/00 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
A61B90/00
A61M5/178
A61M37/00
(21)【出願番号】P 2024537137
(86)(22)【出願日】2023-10-19
(86)【国際出願番号】 JP2023037923
【審査請求日】2024-06-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(73)【特許権者】
【識別番号】319016932
【氏名又は名称】ニレック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】隅田 哲雄
【審査官】滝沢 和雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-059806(JP,A)
【文献】特開2013-233267(JP,A)
【文献】特表2017-534370(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0030262(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0369237(US,A1)
【文献】国際公開第2018/193932(WO,A1)
【文献】特開2007-167645(JP,A)
【文献】特開2007-275191(JP,A)
【文献】特表2019-502522(JP,A)
【文献】特表2013-538081(JP,A)
【文献】特開2009-018196(JP,A)
【文献】特表2018-509945(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0344130(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 90/00
A61M 5/178
A61M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテーテル又は注射針の内腔に
流体と共に装填され、プッシャーで押し出されて生体組織に刺入され、留置される、蛍光色素を含有するマーカーであって、
該マーカーは、前記内腔
と摺接する摺接部分を有すると共に、該マーカーの表面又は内部に流体の流路を有し、
該摺接部分と該流路は次の(i)及び(ii)
(i)該マーカーの使用時に該マーカーが前記内腔に流体と共に装填され
、前記プッシャーの先端が前記内腔で注射針の軸方向に押し込まれた場合に、前記プッシャーがマーカーに到達しないことにより該マーカーがプッシャーで直接押圧され
る前は、流体は前記流路を通って注射針から押し出されるが
、マーカーは
前記摺接部分と前記内腔との摩擦によって
前記内腔に保持され、
(ii)前記プッシャーが(i)よりもさらに押し込まれて内腔に装填されたマーカーがプッシャー
の先端で
注射針の軸方向に直接押圧されたときには
該マーカーが注射針から押し出される
、
を可能とするマーカー。
【請求項2】
摺接部分が、
外形変形可能にショアD硬度40~70の可撓性樹脂で形成され
ている請求項1記載のマーカー。
【請求項3】
マーカーは外形が筒状、柱状又は砲弾型であり、
摺接部分として、注射針の内面に摺接するフレアー形状を有する請求項1記載のマーカー。
【請求項4】
マーカーは外形が筒状、柱状又は砲弾型であり、
摺接部分として、マーカーの周面に、注射針の内面に摺接する複数個の半球状の突出部を有する請求項1記載のマーカー。
【請求項5】
液体の流路が、マーカーの周面の、前記突出部の非形成部分で形成される請求項
4記載のマーカー。
【請求項6】
マーカーは外形が筒状、柱状又は砲弾型であり、流体の流路として、周面にマーカーの長手方向に
非螺旋形に直線状に伸びた溝が形成されている請求項1記載のマーカー。
【請求項7】
マーカーの外形が筒状、柱状又は砲弾型であり、流体の流路として、軸方向に伸びた、プッシャーが貫通しない貫通孔が形成されている請求項1記載のマーカー。
【請求項8】
請求項1記載のマーカーを生体組織に刺入し、留置するマーカー留置具であって、
注射針、
該注射針が一端に取り付けられたチューブ、
チューブの他端と連通するシリンダー、
シリンダー内を摺動するピストン、
一端がチューブに挿入され、他端がシリンダー内でピストンと繋がっているプッシャー、
及び
シリンダーに注射液を供給する液体供給部、を有し、
チューブ又は注射針
の内腔が
前記マーカーの摺接部分と摺接可能であり、該内腔が、該摺接部分との摩擦により、次の(a1)及び(a2)
(a1)前記マーカーがチューブ又は注射針
の内腔に装填されると共に、シリンダーに液体供給部から注射液が充填された状態で、ピストンによってプッシャー
の先端が注射針の軸方向に押し込まれ
た場合に、プッシャーが前記マーカー
に到達しないことによりプッシャーがマーカーを直接押圧する前は
、注射液は前記マーカー
の流路を通って注射針から押し出されるが、マーカーは前記摺接部分と前記内腔との摩擦により前記内腔に保持さ
れ、
(a2)前記マーカーがチューブ又は注射針
の内腔に装填された状態で、プッシャー
の先端が
(a1)よりも注射針の軸方向に押し込まれて前記マーカーを
注射針の軸方向に直接押圧
したときには前記マーカーを注射針から押し出す、
を可能とする内径又は形状を有す
るマーカー留置具。
【請求項9】
請求項1記載のマーカーを生体組織に刺入し、留置するマーカー留置具であって、注射針、及び
注射針内を摺動するプッシャーを備え、
注射針
の内腔が
前記マーカーの摺接部分と摺接可能であり、該内腔が、該内腔と該摺接部分との摩擦により、次の(b1)及び(b2)
(b1)前記マーカーが注射針に
注射液と共に装填された状態でプッシャー
の先端が注射針内に押し込まれ
た場合に、プッシャーが前記マーカーを直接押圧する前は
、注射液は前記マーカーの流路を通って注射針から押し出されるが、前記マーカー
は前記摺接部分との摩擦により前記注射針内に保持さ
れ、
(b2)前記マーカーが注射針に装填された状態でプッシャー
の先端が
(b1)よりも注射針内に押し込まれて前記マーカーを
注射針の軸方向に直接押圧することで前記マーカーを注射針から押し出す、
を可能とする内径又は形状を有す
るマーカー留置具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体組織に留置されるマーカー、マーカー留置具及びマーカー検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
外科手術では、予め患部の位置を特定しておくマーカーとして、内視鏡用クリップ装置に装着して患部を挟持する医療用のクリップが使用されている。例えば、ステンレス等の金属製の板バネを概略「>」字型に折り曲げ成形したクリップ本体と、クリップ本体に外嵌させてクリップ本体を閉じるカシメリングからなるクリップ(特許文献1)が使用されている。
【0003】
しかしながら、金属製の板バネとカシメリングからなるクリップを外科手術時に患部のマーカーとして使用した場合、患部をステープラーと呼ばれる自動縫合器で切離するときにステープラーがクリップを噛むと、クリップが金属製であるためにクリップが破断しないのでステープラーが動かなくなるという問題がある。
【0004】
これに対し、本発明者は蛍光色素を含有した樹脂製のクリップを提案している(特許文献2)。このクリップによれば、樹脂製であることによりステープラーがクリップを噛んでも動かなくなるという問題が解消される。さらに、管腔臓器の粘膜をクリップで挟持した後に漿膜側から励起光を照射して蛍光色素を発光させると、クリップの位置を漿膜側から明確に確認することができるというメリットがある。しかしながら、このクリップは金属製の従来のクリップに対して生体組織を挟持する力が弱い。
【0005】
一方、消化管ポリープ手術では、内視鏡用注射針を用いて病変部の粘膜下層に生理食塩水を注入することにより膨隆部を形成し、この膨隆部をマーカーとしてスネアで引き絞り、切除するという内視鏡的粘膜切除術(EMR)が行われている(特許文献3)。しかしながら、内視鏡用注射針を用いて病変部に注射針を刺す場合でも穿刺位置によって注射針の向きが変わることなどにより粘膜面に対する注射針の侵入角度は一定しない。そのため、針先が消化管を貫通してしまい、膨隆部を形成できない場合がある。また、注入された生理食塩水が体内で吸収されることにより膨隆部は消失してしまう。特許文献2に記載の蛍光色素を含有したクリップで病変部をマークする場合のように、病変部をより明確に特定できるようにしたいという要望もある。
【0006】
また、非触知癌のマーカーとして、直径1~2mm、長さ5~15mm程度の埋込型のマーカーが使用されている。即ち、非触知癌は、MRI検査、マンモグラフィー、超音波検査等によってその位置が特定される。非触知癌には、診断時に非触知性のものと、診断時には触知性であったが化学療法により非触知性になったものが含まれる。しかしながら、非触知癌を、MRI等で位置を特定しつつ外科的に切除することはできない。そこで、手術時に使用しやすい手段で非触知癌を含む切除範囲を定められるようにするため、予めMRI等で非触知癌の位置を観察しつつ、その非触知癌の周りの生体組織に埋込型のマーカーを埋め込んでおき、手術時にマーカー検出手段によりマーカーの位置を特定するという手法がとられている。この手法は、切除範囲を必要最小限にするために有用であり、また、生体組織に埋め込まれたマーカーは、術後の経過観察すべき部位を精確に知るためにも有用となる。
【0007】
埋込型のマーカーの種類とその位置の特定手法としては、例えば、磁性体ワイヤーで形成された内径2mm未満のコイルをマーカーとし、交番磁場によりマーカーを励起し、磁束密度の変化からマーカーを検出するプローブを使用するシステム(特許文献4)、酸化鉄等の強磁性材料のナノ粒子を生体吸収性ゲルに分散させたものをマーカーとし、手持ち式磁力計でマーカーの位置を特定する方法(特許文献5)、感光性ダイオードを備えたパッシブタグをマーカーとし、プローブとして超広帯域レーダを使用するシステム(特許文献6)、マーカーとしてRFID(Radio Frequency Identification)のパッシブタグを使用するシステム(LOCalizer(登録商標)、ホロジック社)等が知られている。
【0008】
しかしながら、これらの埋込型のマーカーには金属が用いられているためにMRIやCTのノイズ源となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第6572229号公報
【文献】特許第6675674号公報
【文献】特許第6382444号公報
【文献】特表2021-523751号公報
【文献】特表2015-524689号公報
【文献】特表2018-524059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、病変部又はその近傍に留置するマーカーであって、従前のクリップとも注射液による膨隆部とも金属製の埋込型マーカーともマーキングの手法が異なり、脱落の虞がなく、MRIやCTのノイズ源とならず、簡便かつ確実に病変部に留置することができる新たな構成のマーカーとその留置具を提供し、また、病変部又はその近傍に留置したマーカーを精確に検出することができ、外科手術時に簡便に使用することのできるマーカー検出装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、埋込型マーカーを、蛍光色素を含有する成形品とすることが、MRIやCTのノイズ源とならずにマーカーを検出できるようにする点で好ましく、その表面又は内部に流体の流路を設けることが、マーカーの留置を容易にする点で好ましいこと、さらに蛍光色素を含有するマーカーの検出手法としては、蛍光画像の作成により埋込位置を特定するのではなく、生体組織に押し付けることのできるプローブ型の装置で蛍光強度によって埋込位置を特定することが好ましいことを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
即ち、本発明は、カテーテル又は注射針の内腔に装填され、プッシャーで押し出されて生体組織に刺入され、留置される、蛍光色素を含有するマーカーであって、
内腔に装填されたマーカーがプッシャーで直接押圧されずに、内腔に充填された流体が押出力を受けたときにはマーカーが内腔に保持されるように、マーカーの表面又は内部における流体の流路として、表面凹凸及び貫通孔の少なくとも一方を有する成形品であり、
内腔に装填されたマーカーがプッシャーで直接押圧されたときには注射針から押し出されるマーカーを提供する。
【0013】
また本発明は、前記マーカーを生体組織に刺入し、留置する第1のマーカー留置具として、
注射針、
該注射針が一端に取り付けられたチューブ、
チューブの他端と連通するシリンダー、
シリンダー内を摺動するピストン、
一端がチューブに挿入され、他端がシリンダー内でピストンと繋がっているプッシャー、及び
シリンダーに注射液を供給する液体供給部、を有し、
チューブ又は注射針が、次の(a1)及び(a2)
(a1)前記マーカーがチューブ又は注射針内に装填されると共に、シリンダーに液体供給部から注射液が充填された状態で、ピストンによってプッシャーが押し込まれても、プッシャーが前記マーカーを直接押圧する前は前記マーカーをチューブ又は注射針内に保持させる、
(a2)前記マーカーがチューブ又は注射針内に装填された状態で、プッシャーが前記マーカーを直接押圧することで前記マーカーを注射針から押し出す、
を可能とする内径又は形状を有するマーカー留置具を提供する。
【0014】
また、第2のマーカー留置具として、
注射針、及び
注射針内を摺動するプッシャーを備え、
注射針が、次の(b1)及び(b2)
(b1)前記マーカーが注射針に装填された状態でプッシャーが注射針内に押し込まれても、プッシャーが前記マーカーを直接押圧する前は前記マーカーを注射針内に保持させる、
(b2)前記マーカーが注射針に装填された状態でプッシャーが前記マーカーを直接押圧することで前記マーカーを注射針から押し出す、
を可能とする内径又は形状を有するマーカー留置具を提供する。
【0015】
さらに、本発明は、生体組織に留置された、蛍光色素を含有するマーカーを検出するプローブ型のマーカー検出装置であって、
光不透過性材料で形成された筒状の内筒部、
内筒部の周囲に配置された励起光出射部、
内筒部内で該内筒部の先端面よりも後部寄りに設けられた励起光カットフィルター、
内筒部内で励起光カットフィルターよりも後部寄りに設けられた受光素子、及び
受光素子で受光された蛍光の強度の出力部
を有するマーカー検出装置を提供する。
【発明の効果】
【0016】
管腔臓器の粘膜等の生体組織に対し、本発明のマーカーと第1のマーカー留置具を経内視鏡的に使用すると、病変部に注射針を刺入して注射液を注出し、そこに膨隆部が形成された場合には、その場でマーカーを押し出すことができるので病変部にマーカーを留置することができる。一方、生体組織の病変部に注射針を刺入して注射液を注出しても、そこに膨隆部が形成されない場合には、注射針が生体組織を貫通していることがわかるので、注射針の刺入をやり直すことができる。したがって、マーカーを病変部に確実に留置することができる。
【0017】
また、乳、肺、気管支等の生体組織に対しては、本発明の第2のマーカー留置具を使用することにより、本発明のマーカーを刺入し、留置することができる。
【0018】
こうして生体組織に留置されたマーカーは脱落のリスクがない。また、MRIやCTのノイズ源となる金属を、マーカーの形成材料に使用することが不要であるため、マーカーがMRI画像やCT画像にアーチファクトを引き起こすこともない。また、蛍光色素を含有しているので、マーカーに励起光を照射することによりマーカーに蛍光を発光させ、蛍光強度の強い部分を探すことによりマーカーの埋込位置を特定することができる。
【0019】
生体組織に埋め込まれた本発明のマーカーを検出するための蛍光の検出装置については特に制限はないが、本発明のマーカー検出装置によれば、受光センサとして映像素子ではなく受光素子を使用し、かつ受光素子を、筒状の内筒部の先端面よりも後部に設けているので、マーカーを検出するときの指向性が高まり、マーカーの検出位置の精度を高めることができる。
【0020】
また、プローブ型であることにより、外科手術時に本発明のマーカー検出装置を生体組織に押しつけて上下左右に動かしたり、押し込んだりすることができ、そのときの蛍光の受光強度によってマーカーの埋込位置を特定することができる。特に、プローブを動かして埋込位置を探し出すときに、受光強度に応じて音量又は高低が変わる音が発せられるようにすると、検出者は、プローブを動かしている生体組織から目を離すこと無く、受光強度が強い位置を知ることができるので、マーカーの埋込位置を簡便に特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1C】
図1Cは、実施例のマーカー1AのB-B断面図である。
【
図2C】
図2Cは、実施例のマーカー1BのD-D断面図である。
【
図3C】
図3Cは、実施例のマーカー1CのF-F断面図である。
【
図4】
図4は、第1のマーカー留置具の実施例の全体構成図である。
【
図6】
図6は、第1のマーカー留置具の作用の説明図である。
【
図7】
図7は、第1のマーカー留置具の作用の説明図である。
【
図8A】
図8Aは、移動抵抗調整部として縮径部分を有する注射針の側面図である。
【
図8B】
図8Bは、移動抵抗調整部として針先を内側に湾曲させた部分を有する注射針の斜視図である。
【
図9A】
図9Aは、第1のマーカー留置具の使用方法の説明図である。
【
図9B】
図9Bは、第1のマーカー留置具の使用方法の説明図である。
【
図9C】
図9Cは、第1のマーカー留置具の使用方法の説明図である。
【
図9D】
図9Dは、第1のマーカー留置具の使用方法の説明図である。
【
図9E】
図9Eは、第1のマーカー留置具の使用方法の説明図である。
【
図10】
図10は、第1のマーカー留置具の使用方法の説明図である。
【
図11】
図11は、第1のマーカー留置具の使用方法の説明図である。
【
図12】
図12は、第1のマーカー留置具の使用方法の説明図である。
【
図15】
図15は、マーカー検出装置の実施例の斜視図である。
【
図16B】
図16Bは、マーカー検出装置のプローブの先端部の拡大断面図とその正面図である。
【
図17】
図17は、マーカー検出装置の使用方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、各図中、同一符号は同一又は同等の構成要素を表している。
【0023】
[マーカー]
図1Aは、本発明の一実施例のマーカー1Aの側面図であり、
図1BはそのA矢視図であり、
図1CはそのB-B断面図である。このマーカー1Aは蛍光色素を含有している。また、マーカー1Aは、カテーテル又は注射針11の内腔に装填され、プッシャーで押し出されて生体組織に刺入され、留置されるように特定形状に形成された成形品である。
【0024】
即ち、上述のマーカー1Aを含む本発明のマーカー1は、例えば、
図4に示す第1のマーカー留置具10Aや
図13Aに示す第2のマーカー留置具10Bの内腔に装填された後、プッシャー23が注射針11方向に押し込まれ始めても、マーカー1がプッシャー23で機械的に直接押圧されず、内腔に充填された注射液、空気などの流体が押出力を受けたときには、流体はマーカー留置具の注射針11から押し出されるが、マーカー1は表面摩擦等の移動抵抗により内腔に保持される。一方、マーカー1がプッシャー23で直接押圧されたときにはマーカー1もマーカー留置具の注射針から押し出される。マーカーがこのように内腔に保持され又は内腔から押し出されるという内腔での可動性を有するように、本発明のマーカーは内腔での移動抵抗を調整する形状を有し、また、流体の流路となる表面凹凸又は貫通孔を有する。マーカーの形状の詳細については後述する。
【0025】
(マーカーの形成材料)
本発明のマーカー1は、該マーカー1に蛍光色素を含有させられる限り、樹脂、セラミックス、セルロース成形品、MRIやCTのノイズ源とならないチタン等の金属など種々の材料で形成することができる。好ましくは、外形変形可能な可撓性樹脂で成形する。硬いものでマーカー1を構成すると、例えば、胃、腸等にマーカーを留置した場合に、蠕動によってマーカーが当初の留置位置から移動するおそれがある。
【0026】
マーカー1の硬さとしては、デュロメータで計測したショアA(JIS K 6253)としてA10~A90、または、ショアD(JIS K 6253)としてD40~D70の範囲が好ましい。
【0027】
このような可撓性樹脂としては、軟質ポリ塩化ビニル、熱可塑性ポリウレタン、シリコーン、エチレン酢酸ビニル共重合体等の医療器具に用いられる樹脂を挙げることができる。
【0028】
マーカー1には蛍光色素を含有させる。これにより、外科手術時に病変位置を、マーカーが発する蛍光強度の強い箇所として特定することができ、また、蛍光カメラによって視認することが可能となる。マーカー1には、硫酸バリウム等の放射線不透過性の造影剤を含有させてもよい。これにより、病変位置をX線撮影により確認することができる。
【0029】
蛍光色素としては、600~1400nmの赤色光乃至近赤外光の波長域、好ましくは700~1100nmの赤色光乃至近赤外光の波長域で蛍光を発するものが好ましい。このような波長域の光は、皮膚、脂肪、筋肉等の人体組織に対して透過性が高く、例えば、直腸等の管状の人体組織の粘膜から漿膜面まで良好に到達することができる。
【0030】
上述の波長域の蛍光を発する蛍光色素としては、リボフラビン、チアミン、NADH(nicotinamide adenine dinucleotide)、インドシアニングリーン(ICG)、特開2011-162445号公報に記載のアゾ-ホウ素錯体化合物、WO2016/132596号公報に記載の縮合環構造を有する色素、特許5177427号公報に記載のボロンジピロメテン骨格を有する色素、特開2020-74905号公報に記載のシリカ粒子と化学結合する色素、特開2020-105170号公報に記載のフタロシアニン系色素等をあげることができる。
【0031】
マーカー1に蛍光色素を含有させる具体的な態様としては、例えば、二軸混練機を使用して樹脂に蛍光色素を混練し、その後、射出成形にてマーカー1を成形すればよい。この場合、樹脂中の蛍光色素の好ましい濃度は当該蛍光色素や樹脂の種類等に応じて設定することができ、通常、0.001~1質量%とすることが好ましい。
【0032】
また、可撓性樹脂等で形成したマーカー1の表面に蛍光色素を含有する塗布膜を形成してもよい。
【0033】
(マーカーの形状)
本発明においてマーカー1の形状は、概略、円柱状、角柱状等の柱状又は筒状、砲弾型、螺旋状又はコイル状とすることができるが、前述のように、
図4に示す第1のマーカー留置具10Aや
図13Aに示す第2のマーカー留置具10Bの内腔に装填された後、マーカー1がプッシャー23で機械的に直接押圧されずに、内腔に充填された注射液、空気などの流体の液圧又は空気圧だけでは注射針11から押し出されないようにするため、マーカーには移動抵抗調整部を設けることが好ましい。
【0034】
本発明のマーカーにおいて移動抵抗調整部としては、例えば、
図1A、
図1Bに示す実施例のマーカー1Aのように、注射針11又はチューブの内面に摺接する複数個の半球状の突出部5を砲弾型のマーカー1Aの周面に設けることができる。この突出部5は、注射針11又はチューブの内面との摩擦によりマーカー1Aの移動抵抗を高める。また、移動抵抗調整部として、マーカー1Aの端部に、注射針11又はチューブの内面に摺接するフレアー形状6aを設けても良い。このマーカー1Aでは、フレアー形状6aが放射状に設けられている。
【0035】
一方、このマーカー1Aでは、突出部5が形成されていない部分のマーカー1Aの周面が注射液等の流体の流路7aとなる。よって、
図4に示した第1のマーカー留置具10Aにマーカー1を装填し、ピストン21を押し込んだ場合に、注射液Aだけを流路7aを通して注射針11から注出させることが可能となり、また、この注出によりマーカー1にかかる液圧を逃すことができる。また、
図13Aに示した第2のマーカー留置具10Bにマーカー1を装填し、プッシャー23を押し込んだ場合に、プッシャー23がマーカー1に到達しないときには空気だけを流路7a(
図1A)を通して注射針11から吐出させることが可能となる。
【0036】
図2A、
図2B、
図2Cに示すマーカー1Bも概略砲弾型の外形を有し、移動抵抗調整部として、砲弾型の端部に注射針11又はチューブの内面に摺接するフレアー形状6bを有する。このマーカー1Bのフレアー形状6bは中心角θが約180°の半円弧状に形成されているので、
図1A、
図1Bに示したマーカー1Aの放射状のフレアー形状6aよりも変形しにくく、マーカーの移動抵抗を高めることができる。
【0037】
また、マーカー1Bは、流路としてマーカーの周面に長手方向に形成された溝7bを有する。
【0038】
図3A、
図3B、
図3Cに示すマーカー1Cも概略砲弾型の外形を有し、移動抵抗調整部として、砲弾型の端部の全周に形成されたフレアー形状6cを有する。このフレアー形状6cは上述の半円弧状のフレアー形状6bよりもさらに移動抵抗を高めることができる。
【0039】
また、マーカー1Cは、流路として、マーカーの中心部を通る軸方向に形成された貫通孔7cを有する。
【0040】
製造が容易な点から、マーカーとしては
図1Aに示したマーカー1Aが好ましい。
[マーカー留置具]
(第1のマーカー留置具)
図4は、本発明の第1のマーカー留置具の一実施例の全体構成図であり、マーカー1が装填された状態を表している。第1のマーカー留置具10Aは、内視鏡の鉗子孔に挿通して使用することができ、管腔臓器等の生体組織に刺入されて留置される本発明のマーカー1、マーカー1を通すことのできる管経の注射針11、注射針11が一端に取り付けられたチューブ(内筒チューブともいう)12、チューブ12の他端と連通するシリンダー20、シリンダー20内を摺動するピストン21を有する。ピストン21のシリンダー側の端部には、ゴム製ピストンヘッド22が取り付けられている。
【0041】
第1のマーカー留置具10Aにおいて、マーカー1は、チューブ12のシリンダー20側の開口端からチューブ12内に挿入することができ、チューブ12の注射針11寄りの端部近傍又は注射針11の内腔に装填される。あるいは、注射針11の針管にマーカー1を装填した後に、注射針11をチューブ12に取り付けてもよい。
【0042】
なお、
図4ではマーカー1が注射針11内に装填されているが、本発明においてマーカー1はチューブ12内に装填されていてもよい。
【0043】
注射針11のサイズは、一般的な内視鏡用注射針と同様とすることができ、例えば19ゲージ(内径0.70mm、外径1.06mm)、長さ3~10mm、20ゲージ(内径0.58mm、外径0.88mm)、長さ3~10mmのものを使用することができる。
【0044】
ただし、前述のようにマーカー1が注射液の液圧だけで押圧されるときは注射針11から押し出されず、注射針11内に保持させる移動抵抗がマーカー1に生じるように、注射針11の内径又は形状が定められる。チューブ12も同様である。例えば、マーカー1が、注射針11又はチューブ12の管内を摺接するように注射針11又はチューブ12の内径の大きさ又は形状が定められる。また、
図8Aに示すように、注射針11に形成した1個又は複数個の縮経部分11aによって移動抵抗調整部を形成してもよい。縮経部分11aは、例えばポンチなどで注射針11を凹ますことにより形成することができる。この他、移動抵抗調整部として、
図8Bに示すように注射針11の針先11bを内側に湾曲させた部分を設けても良い。
【0045】
チューブ12の外側には外筒チューブ13があり、チューブ12は、操作部(図示せず)によって外筒チューブ13から突出させたり、外筒チューブ13の中に引き込んだりすることができる。なお、チューブ12と外筒チューブ13はカテーテルとも称される。
【0046】
注射針11、チューブ12、注射針11又はチューブ12に装填されたマーカー1、外筒チューブ13、シリンダー20、プッシャー23及びピストン21により、ディスポーザブル製品を構成することができる。
【0047】
なお、チューブ12、外筒チューブ13及びプッシャー23は、第1のマーカー留置具10Aを使用する生体組織の部位によって、フレキシブルに形成してもよく、リジッドに形成してもよい。例えば、膀胱鏡で使用する場合にはリジッドとすることができ、胃腸内視鏡で使用する場合には、フレキシブルとすることが好ましい。
【0048】
ピストン21にはピストンヘッド22を介してプッシャー23の端部が繋がっている。プッシャー23はチューブ12に挿入され、プッシャー23の端部は注射針11近傍に達している。したがって、ピストン21がシリンダー20に押し込まれてプッシャー23がマーカー1を機械的に直接押圧することによりマーカー1は注射針11から押し出されることとなる。
なお、ピストン21とプッシャー23は、一体に形成しても、別体としてもよい。
【0049】
シリンダー20には、注射液Aを供給する液体供給部30が設けられている。注射液Aとしては、例えば、生理食塩水、ヒアルロン酸液等を使用することができる。
【0050】
液体供給部30はシリンジ31とプランジャ32を有し、2方弁などのバルブ33を介してシリンダー20と連通している。
図5に示すように、バルブ33を開け、シリンジ31内の注射液Aをプランジャ32で押し込むことにより、膨隆部の形成に適した液量(通常、1~2mL)の注射液Aをシリンダー20内に注出することができる。なお、本発明では、液体供給部30をシリンジとプランジャで構成することに限られず、トリガー機構を用いて注射液を定量吐出させてもよい。
【0051】
この第1のマーカー留置具10Aによれば、
図6に示すように、マーカー1が注射針11又はチューブ12の内腔に装填されると共にシリンダー20及びチューブ12に注射液Aが充填され、バルブ33が閉じられた状態でピストン21がシリンダー20に押し込まれた場合に、その押し込み量によってプッシャー23がマーカー1に達しないとき(即ち、マーカーがプッシャーで直接押圧されないとき)には、注射液Aが注射針11から注出されるが、マーカー1はチューブ12又は注射針11の内腔に保持される。言い換えると、注射液Aがピストン21によって押し込まれるときの液圧だけではマーカー1は注射針11から押し出されない。一方、
図7に示すようにピストン21がシリンダー20にさらに押し込まれてプッシャー23がマーカー1を機械的に直接押圧するとマーカー1は注射針11から押し出される。
【0052】
(第1のマーカー留置具の使用方法)
(使用方法1)
第1のマーカー留置具10Aは、マーカーを管腔臓器の生体組織に留置する場合に使用することが好ましい。この場合、まず、内視鏡の鉗子孔にマーカー留置具10Aを挿入しセットする。液体供給部30からシリンダー20に注射液Aを供給し、注射針11、チューブ12、シリンダー20に注射液Aを充填する。バルブ33を閉じ、シリンダー20にピストン21を少し押し込み、注射針11から注射液が注出することを確認する。
【0053】
次に、口、鼻、肛門等の自然開口部、切開孔、その他の開口部から注射針11を管腔臓器に挿入し、内視鏡観察下で
図9Aに示すように管腔臓器の粘膜41の病変部42の近傍に注射針11を穿刺する。そして、
図9Bに示すようにピストン21を押して粘膜41内に注射液Aを注入し、膨隆部43ができることを確認する。膨隆部43の形成により、注射針11が管腔臓器の壁を貫通していないことがわかるので、この確認後に
図9Cに示すようにピストン21をさらに押してプッシャー23でマーカー1を押すことにより、マーカー1を粘膜41内に押し込み、留置する。
【0054】
これに対し、注射液Aを注入しても膨隆部が形成されない場合には、
図9Dに示すように、注射針11が管腔臓器の壁を貫通して漿膜面44の外に注射液Aが注出されたと考えられる。この場合には、注射針11の穿刺からやり直す。
【0055】
注射液Aの注入によって粘膜41に形成された膨隆部は、おおむね注入後1時間程度で消失する。
【0056】
粘膜41内にマーカー1を留置した後は、
図9Eに示すように近赤外蛍光内視鏡50で漿膜面44側から励起光L1を照射し、マーカー1が発する蛍光L2によってマーカー1の位置を精確に視認することができる。したがって、外科手術時の患部の位置の精確な特定が容易となる。
【0057】
(使用方法2)
本発明の第1のマーカー留置具10Aの使用方法としては、
図10に示すように、注射針11又はチューブ12内に複数個のマーカー1a、1bを装填しておいてもよい。
【0058】
この場合、針先側の第1のマーカー1aを上述のように粘膜41に留置した後、注射針11を粘膜から引き抜き、ピストン21を引き戻し、注射針11内でプッシャー23を第2のマーカー1bから引き離す。次に液体供給部30のバルブ33を開いてシリンダー20内に注射液Aを供給する。この後は前述と同様に、バルブ33を閉じて注射針11を粘膜41に刺入し、ピストン21を押して注射液Aを粘膜41に注入し、膨隆部の確認後にピストン21をさらに押して第2のマーカー1bを粘膜41に押し込む。
【0059】
このように第1のマーカー留置具10Aの注射針11又はチューブ12内に複数個のマーカー1a、1bを収容しておくと、内視鏡の鉗子孔にマーカー留置具10Aを一度セットすることでマーカー1a、1bを連射することができる。したがって、例えば、
図11に示すように、消化管の癌の位置を特定する場合に、病変部42の口側に第1のマーカー1aを留置し、肛門側に第2のマーカー1bを留置することができ、
図12に示すように、近赤外蛍光内視鏡50を用いて消化管の漿膜面44から励起光L1を照射することで第1のマーカー1aと第2のマーカー1bが発する蛍光L2によって、消化管の癌の位置を精確に特定することが可能となる。
【0060】
また、第1のマーカー留置具10Aに複数個のマーカー1a、1bを収容しておくことにより、一つのマーカー留置具で生体組織の複数箇所にマーカーを留置できる点で医師の負担が軽減すると共に、マーカー留置具のコストカットをすることが可能となる。よって、本発明はマーカー留置具内に複数個のマーカーが収容された留置具10Aも包含する。
【0061】
(第2のマーカー留置具)
図13Aは、本発明の第2のマーカー留置具の一実施例の断面図であり、マーカー1が注射針に装填された状態を表している。第2のマーカー留置具10Bは、注射針11、及び注射針11内を摺動するプッシャー23を備えている。プッシャー23の注射針11と反対側の端部は、太径の押圧部23aとなっている。
【0062】
注射針11の外周面の端部には、指掛け部24を設けることが好ましい。また、針先近傍の注射針11の内部には、注射針11からマーカー1が不用意に抜け出ないようにするため、サラシニミツロウ等で形成された仮栓25が設けられている。
【0063】
管腔臓器の壁内にマーカーを留置する場合には、マーカーを装填した注射針が管腔臓器の壁を突き抜ける虞があるので、前述のように、注射液の膨隆部を形成して針先の位置の適否を確認するが(
図9A~
図9E)、マーカーを留置すべき部位が乳等のように、そのような虞がない場合、または、肺、気管支等のように注射液の注出が好ましくない部位の場合には、注射液を注出することなくマーカーを押し出す第2のマーカー留置具10Bを用いることが好ましい。
【0064】
第2のマーカー留置具10Bの注射針11も第1のマーカー留置具10Aの注射針11と同様に本発明のマーカー1に移動抵抗を生じさせる内径を有している。また、本発明のマーカー1は、前述のように空気の流路となる表面凹凸又は貫通孔を有する。したがって、
図13Aに示すように、マーカー1が装填された注射針11の中にプッシャー23を押し込んでいく場合に、押し込みと同時にマーカー1が飛び出すことはない。プッシャー23を押し込んでもプッシャー23がマーカー1に達せず、マーカー1が直接押圧される前の状態では、空気等の流体がマーカー1の流路を通って注射針11から押し出され、マーカー1は注射針11内に保持される。次に、
図13Bに示すように、プッシャー23がマーカー1を直接押圧するようになると、プッシャー23と共にマーカー1が移動し、
図13Cに示すように注射針11から押し出される。
【0065】
(第2のマーカー留置具の使用方法)
第2のマーカー留置具10Bを用いて本発明のマーカー1を、例えば乳の病変部に留置する場合、
図14Aに示すように、プッシャー23を押し込んでマーカー1を注射針11の先端部に移動させた後,皮膚を穿刺し、超音波検査又はマンモグラフィーにより病変部および注射針11を画像上で確認しながらマーカー1を病変部あるいはその近傍に留置する。病変部を摘出する手術の際には,励起光L1の照射によりマーカー1から発せられる蛍光を蛍光カメラ(図示せず)で観察しながら行う。蛍光カメラとしては、赤乃至赤外の蛍光L2の蛍光画像を表示するだけでなく、蛍光画像と共に、可視光画像も重ねて表示できるものが好ましい。
【0066】
なお、第2のマーカー留置具10Bの注射針11にも複数個のマーカーを装填することができ、したがって、容易に複数個のマーカー1を病変部の周りに留置させることができる。
【0067】
こうして生体組織にマーカー1が留置されると、化学療法、放射線療法等により当初の病変部が非触知化しても、
図14Bに示すように、マーカー1が励起光の照射により蛍光を発するので、当初の病変部の位置を容易に知ることができ、また、外科手術時にはマーカーの位置を目安にすることで、切除範囲を必要最低限の範囲とすることができる。
【0068】
[マーカー検出装置]
(マーカー検出装置の構成)
図15は、本発明のプローブ型のマーカー検出装置60の一実施例の斜視図であり、
図16Aはマーカー検出装置60の断面図、
図16Bは、マーカー検出装置60のプローブの先端部の拡大断面図とその正面図(G矢視図)である。
【0069】
このマーカー検出装置60は、生体組織に留置された、蛍光色素を含有するマーカーを検出するプローブ型の装置であり、上述の本発明のマーカー1を検出するのに適している。なお、このマーカー検出装置60で検出するマーカーは、蛍光色素を含有するものであればよく、樹脂製でもセラミック製でも金属製でもよく、蛍光色素含有液体でもよい。前述のように移動抵抗が調整された本発明のマーカーに限られない。
【0070】
マーカー検出装置60のプローブ61は、金属等の光不透過性材料で形成された筒状の内筒部62、内筒部62の周囲に配置された励起光出射部63、内筒部62内で該内筒部62の先端面よりも後部寄りに設けられた励起光カットフィルター64(64a、64b)、内筒部62内で励起光カットフィルター64よりも後部寄りに設けられた受光素子65を有する。プローブ61の最外面は筒状の外筒部66で形成され、励起光出射部63を囲んでいる。
【0071】
外筒部66の内側において励起光出射部63の前面には透明硝子部材67が設けられている。透明硝子部材67は、外筒部66と内筒部62の間を埋めている。受光素子65と励起光出射部63は基板68に接続されている。
【0072】
一方、プローブ61の後端には、把持部70が形成されており、把持部70の内部に電池ボックス71とスピーカー72が設けられている。スピーカー72は、受光素子65で受光された蛍光の強度に応じた音量又は高低の音を発する。電池ボックス71の背面には基板73が設けられている。また、把持部70の後端面にはマーカー検出装置60のメインスイッチ74が設けられている。
【0073】
ここで、励起光出射部63としては、マーカー1が含有する蛍光色素を励起させる赤乃至近赤外の波長の光を発するLEDを設けることが好ましい。LED63は内筒部62の周りに複数個設けることができる。また、LED63は、外筒部66の先端面よりも後部寄りに設けることが好ましい。これにより励起光の指向性を高めることができる。例えば、励起光出射部63が砲弾型のLEDで形成され、外筒部66の内径D1が10~16mmの場合に、励起光出射部63と外筒部66の先端面との距離K1は2~4mmとすることが好ましい。
【0074】
これに対し、プローブ外の光源から光ファイバーで励起光出射部63に導光することは、マーカー検出装置の構成が複雑になり、光損出も生じることから好ましくない。
【0075】
受光素子65としては、赤乃至近赤外の波長の光に感度を有するフォトダイオード、フォトトランジスタ等を設けることが好ましい。受光素子がアレイ状に配置されたCCD等の映像素子を設けることは不要である。フォトダイオード等の受光素子を単体で設けることにより、蛍光の受光強度を高めることができる。また、映像素子を設けないことにより、焦点を合わせるためのレンズ系や、光量を調節する絞りといった光学系が不要となり、マーカー検出装置の構成を簡単にし、安価に製造することが可能となる。
【0076】
また、受光素子65を内筒部62の先端面よりも後部寄りに設けることにより、受光素子65で受光される蛍光の指向性を高め、生体組織に留置されているマーカーを検出する際の位置精度を高めることができる。例えば、内筒部62の内径D2が3~6mmで、受光素子65が砲弾型のフォトダイオードの場合に、内筒部62の先端面と受光素子65との距離K2は5~9mmとすることが好ましく、外筒部66の先端面と受光素子65との距離K3は8~15mmとすることが好ましい。
【0077】
受光素子65の前面に配置されている励起光カットフィルター64は、必要に応じてカット波長の異なるもの64a、64bを重ねて設けることができる。
【0078】
受光素子65で検出された蛍光の強度の出力部としてはスピーカー72に代えて、又はスピーカー72と共にbluetooth又はWi-Fiの発信装置を設けても良く、ディスプレイを設けても良い。
【0079】
(マーカー検出装置の使用方法)
マーカー検出装置の使用方法としては、例えば、乳の病変部を外科手術により切除するときにその病変部又は病変部近傍に予め留置されたマーカーを検出する場合、
図17に示すようにプローブ61の先端部を乳に押し付け、前後左右又は上下に動かし、マーカー1が発する蛍光の検出強度の強い箇所を探し出すことが好ましい。プローブ61の先端部を乳に押し付けて動かすことにより、皮下深部に埋め込まれているマーカー1であってもプローブ61との距離が近づき、受光素子65での受光強度が高まるので検出が容易となる。また、プローブ61の押し付けにより、マーカー1とプローブ61との間の血液を排除することができるので、血液によって励起光や蛍光が散乱されたり吸収されたりすることを抑えることができ、これによっても受光素子65での受光強度を高めることができる。
【0080】
マーカー検出装置60がスピーカー72を備えていると、外科医は音の高低又は強弱によって容易にマーカーが留置されている箇所を探し出すことができる。また、マーカー検出装置60がbluetooth又はWi-Fiの発信装置を備えていると、発信装置からの電波を受信したパソコン、タブレット、スマートフォン等の受信装置80のディスプレイ81に蛍光強度の出力波形を表示させることができる。
【0081】
このマーカー検出装置60によれば、マーカーが発する蛍光を、映像素子で検出することなく、単体のフォトダイオード等の受光素子で検出し、さらに、検出時の指向性を高めており、しかも、プローブ61を生体組織に押し付けつつプローブ61を前後左右又は上下に動かすことができるので、生体組織内に留置されているマーカー1を位置精度高く、高感度に検出することができる。したがって、例えば、生体組織の表面から深さ4cmまでの位置に留置されているマーカーを確実に検出することができる。
【0082】
一般に、生体組織内に留置されているマーカーを蛍光カメラで撮る場合に、深さ2cm程度までの深さにあるマーカーは検出することができるが、2cmよりも深い位置にあるマーカーは検出することができないので、蛍光カメラに比して本発明のマーカー検出装置の検出感度が優れていることがわかる。
【0083】
なお、生体組織内でマーカーが留置されている箇所をマーカー検出装置60によって検出し、検出箇所近傍を切開することによりマーカーを蛍光カメラによって検出できるようになった後は、蛍光カメラでマーカーの位置を確認しつつ病変部を切除してもよい。この場合、蛍光カメラとしては、マーカーが発する蛍光像と、生体組織からの可視光像を同時に表示できるものが好ましく、例えば、HyperEye Medical System(ミズホ株式会社)を使用することができる。
【符号の説明】
【0084】
1、1a、1b、1A、1B、1C マーカー
5 突出部
6a、6b、6c フレアー形状
7a、7b 流路、溝
7c 流路、貫通孔
10A 第1のマーカー留置具
10B 第2のマーカー留置具
11 注射針
11a 縮経部分
11b 針先
12 チューブ(内筒チューブ)
13 外筒チューブ
20 シリンダー
21 ピストン
22 ピストンヘッド
23 プッシャー
23a 押圧部
24 指掛け部
25 仮栓
30 液体供給部
31 シリンジ
32 プランジャ
33 バルブ
41 管腔臓器の粘膜
42 病変部
43 膨隆部
44 管腔臓器の漿膜面
45 乳
50 近赤外蛍光内視鏡
60 マーカー検出装置
61 プローブ
62 内筒部
63 励起光出射部、LED
64、64a、64b 励起光カットフィルター
65 受光素子
66 外筒部
67 透明硝子部材
68 基板
70 把持部
71 電池ボックス
72 スピーカー
73 基板
74 メインスイッチ
80 受信装置
81 ディスプレイ
A 注射液
D1 外筒部の内径
D2 内筒部の内径
K1 励起光出射部と外筒部の先端面との距離
K2 内筒部の先端面と受光素子との距離
K3 外筒部の先端面と受光素子との距離
L1 励起光
L2 蛍光
【要約】
脱落の虞がなく、MRIやCTのノイズ源とならず、簡便かつ確実に病変部に留置することができ、また、留置した位置を精確に検出することができるマーカーとその留置具、及びマーカー検出装置を提供する。マーカー留置具が、内腔にマーカーが装填されるカテーテル又は注射針11と、その内腔に押し込まれるプッシャー23を有する。マーカー1は蛍光色素を含有する。マーカー1がプッシャー23で直接押圧されずに、内腔に充填された流体で押出力を受けたときにはマーカー1が内腔に保持されるように、マーカー1の表面又は内部には流体の流路7a、7b、7cとして、表面凹凸(突出部5、フレアー形状6a、6b)及び貫通孔7cの少なくとも一方が設けられる。マーカー1はプッシャー23で直接押圧されたときには注射針11から押し出され、生体組織に刺入され、留置される。マーカー検出装置60はプローブ型であり、受光素子によりマーカーが発する蛍光の強度を検出する。