(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】珪化物系合金薄膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20240930BHJP
H10N 10/851 20230101ALI20240930BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20240930BHJP
C01B 33/06 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
C23C14/06 E
H10N10/851
C23C14/34 K
C23C14/34 A
C23C14/34 R
C01B33/06
(21)【出願番号】P 2020157537
(22)【出願日】2020-09-18
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000095
【氏名又は名称】弁理士法人T.S.パートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【氏名又は名称】小川 利春
(74)【代理人】
【識別番号】100181331
【氏名又は名称】金 鎭文
(74)【代理人】
【識別番号】100183597
【氏名又は名称】比企野 健
(74)【代理人】
【識別番号】100161997
【氏名又は名称】横井 大一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【氏名又は名称】泉名 謙治
(72)【発明者】
【氏名】秋池 良
(72)【発明者】
【氏名】召田 雅実
(72)【発明者】
【氏名】舟窪 浩
(72)【発明者】
【氏名】清水 荘雄
(72)【発明者】
【氏名】青山 航大
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-149523(JP,A)
【文献】特開2016-008316(JP,A)
【文献】特開2016-044326(JP,A)
【文献】特開2019-147728(JP,A)
【文献】特開2005-232583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
C01B 33/00-33/193
H10N 10/851-855
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ土類金属とシリコンを主成分とする珪化物系合金薄膜であり、当該合金薄膜を構成する元素の原子比が、アルカリ土類金属、シリコンの含有量をそれぞれX、Siとしたときに
20at%≦X/(X+Si)≦45at%
55at%≦Si/(X+Si)≦80at%
であり、
薄膜内に存在する結晶相が主に立方晶相と三方晶相からなり、X線回折による立方晶(210)面によるピーク強度をC、三方晶(101)面によるピーク強度をTとしたとき、以下の関係式を満たす珪化物合金薄膜
の製造方法であり、
0.1≦T/(C+T)≦0.3
スパッタ法により基板上に成膜し、スパッタ時における基板温度が、590℃~630℃である珪化物合金薄膜の製造方法。
【請求項2】
アルカリ土類金属がストロンチウムである請求項1に記載の珪化物合金薄膜
の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の珪化物合金薄膜の製造方法であり、珪化ストロンチウムをターゲットとするスパッタ法により基板上に成膜する珪化物合金薄膜の製造方法。
【請求項4】
珪化ストロンチウムスパッタリングターゲットが、含有酸素量が1.5重量%以下の珪化ストロンチウムバルク多結晶体である、請求項
3に記載の珪化物合金薄膜の製造方法。
【請求項5】
スパッタ時における放電電力として、ターゲットに与える電力密度が、3.0W/cm
2以上10W/cm
2以下である、請求項
1~4のいずれか一項に記載の珪化物合金薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換特性に優れた珪化物系合金薄膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱エネルギーと電気エネルギーとの相互変換が可能な素子として熱電変換素子が知られている。この熱電変換素子は、p型及びn型の二種類の熱電変換材料(熱電材料)を用いて構成されており、この二種類の熱電材料を電気的に直列に接続し、熱的に並列に配置した構成とされている。この熱電変換素子は、両端子間に電圧を印加すれば、正孔の移動及び電子の移動が起こり、両面間に温度差が発生する(ペルチェ効果)。また、この熱電変換素子は、両面間に温度差を与えれば、やはり正孔の移動及び電子の移動が起こり、両端子間に起電力が発生する(ゼーベック効果)。
【0003】
このため、ペルチェ効果を利用したパーソナルコンピュータのCPU、冷蔵庫、カーエアコン等の冷却用の素子としての検討、ゼーベック効果を利用したごみ焼却炉等から生ずる廃熱を利用した発電装置用の素子としての検討が進められている。特に、自動車のエンジンの廃熱量は無視できないほど多量であるため、エンジンの廃熱を利用して発電することも考えられており、その温度域は数百度と言われている。
【0004】
従来、熱電変換素子を構成する熱電材料として、Bi2Te3が主に実用化されており、Bi-Te系の材料でn型の熱電材料を形成する際には一般にSeが添加される。しかし、これらの熱電材料を構成する元素のBi、Te及びSeは毒性が強いため、環境汚染のおそれがある。そのため、環境負荷の少ない、即ち毒性を有しない熱電材料が望まれている。また、Bi-Te系の材料は100℃程度での利用が主であり、自動車の排熱利用に対しては適していない。さらには、自動車の廃熱回収に使用するには軽量で資源的に豊富な材料が望まれている。
【0005】
珪化物系の熱電材料としてMg2Siが知られている(例えば、特許文献1参照)。同族元素を用いた薄膜の作製方法としてBaSi2系(例えば、特許文献2参照)が提案されているが、薄膜中に複数のSrSi2結晶多形を有したものに関する検討はこれまで知られておらず、どのような熱電特性を持つか不明であった。
SrSi2系(例えば、特許文献3参照)が報告されているが、より優れた熱電特性、特により高いゼーベック係数が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-368291号公報
【文献】特開2016-008316号公報
【文献】特開2019-149523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、熱電変換特性の高い(特に、ゼーベック係数およびパワーファクターが高い)珪化物系合金薄膜及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような背景に鑑み、本発明者らは鋭意検討を重ねた。その結果、特定の組成を有し、且つ、立方晶と三方晶相が特定の要件を満たす、アルカリ土類金属とシリコンを主成分とする珪化物系合金薄膜が優れた熱電変換特性を有することを見出するとともに、該薄膜を得る製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の態様は以下の通りである。
(1) アルカリ土類金属とシリコンを主成分とする珪化物系合金薄膜であり、当該合金薄膜を構成する元素の原子比が、アルカリ土類金属、シリコンの含有量をそれぞれX、Siとしたときに
20at%≦X/(X+Si)≦45at%
55at%≦Si/(X+Si)≦80at%
であり、
薄膜内に存在する結晶相が主に立方晶相と三方晶相からなり、X線回折による立方晶(210)面によるピーク強度をC、三方晶(101)面によるピーク強度をTとしたとき、以下の関係式を満たす珪化物合金薄膜。
0.1≦T/(C+T)≦0.3
(2) アルカリ土類金属がストロンチウムである(1)に記載の珪化物合金薄膜。
(3) 前記(1)又は(2)に記載の珪化化物合金薄膜を用いた熱電変換素子。
(4) 前記(1)又は(2)に記載の珪化物合金薄膜の製造方法であり、珪化ストロンチウムをターゲットとするスパッタ法により基板上に成膜する珪化物合金薄膜の製造方法。
(5) 珪化ストロンチウムスパッタリングターゲットが、含有酸素量が1.5 wt%以下の珪化ストロンチウムバルク多結晶体である、前記(4)に記載の珪化物合金薄膜の製造方法。
(6) スパッタ時における放電電力として、ターゲットに与える電力密度が、3.0W/cm2以上10W/cm2以下である、前記(4)又は(5)に記載の珪化物合金薄膜の製造方法。
(7) スパッタ時における基板温度が、590℃~690℃である、前記(4)~(6)のいずれか一項に記載の珪化物合金薄膜の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、10mΩ・cm以下の低い電気抵抗率、100μV/K以上の高いゼーベック係数、及び5W/mK以下の低い熱伝導率という優れた熱電変換特性を有する珪化物系合金薄膜が提供できる。
また、本発明の珪化物合金薄膜を用いることで、室温域で高効率な熱電変換素子を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の内容を以下に示す。
本発明の珪化物合金薄膜はアルカリ土類金属とシリコンを主成分とする。その中で、アルカリ土類金属はカルシウム、ストロンチウム、バリウムから選ばれることが好ましく、特に好ましくはストロンチウムであり、複数含んでいてもよい。
【0012】
本発明における珪化物合金薄膜は、アルカリ土類金属をX、シリコンをSiとした場合、以下に示される組成で規定される。
20at%≦X/(X+Si)≦45at%
55at%≦Si/(X+Si)≦80at%
好ましくは
25at%≦X/(X+Si)≦40at%
60at%≦Si/(X+Si)≦75at%
さらに好ましくは
30at%≦X/(X+Si)≦37at%
63at%≦Si/(X+Si)≦70at%
である。
【0013】
上記の特定の組成を満たすことにより、高いゼーベック係数、低い熱伝導率及び高いパワーファクターを有し、高い熱電変換効率を達成することが可能となる。
【0014】
また、本発明の珪化物合金薄膜は薄膜内に立方晶相と三方晶相を含み、以下の特定の式を満たすものである。
すなわち、この立方晶相と三方晶相の存在比率は、X線回折による立方晶(210)面によるピーク強度をC、三方晶(101)面によるピーク強度をTとしたとき、以下の式で定義される。
0.1≦T/(C+T)≦0.3
好ましくは
0.1≦T/(C+T)≦0.25
である。
この特定の式を満たすことにより、高いゼーベック係数、低い熱伝導率及び高いパワーファクターを有し、高い熱電変換効率を達成することが可能となる。
【0015】
過剰な三方晶相の存在(すなわち、T/(C+T)>0.3である場合)は、ゼーベック係数の低下と熱伝導率の上昇をもたらし、結果的に熱電変換性能を低下させる。一方、三方晶相の存在比率が低い場合(すなわち、T/(C+T)<0.1である場合)電気抵抗が高くなり、熱電変換性能が悪化する。
【0016】
本発明の珪化物合金薄膜の厚みは50nm以上が好ましく500nm以上が更に好ましい。薄膜の厚みが50nm以上であることにより、十分な結晶性、伝導性を示し、より良好な熱電特性を得ることができる。薄膜の厚みの上限は、特に制限されないが、薄膜の厚みは、通常、100nm以下である。
【0017】
本発明の珪化物合金薄膜の表面粗さ(Ra)は好ましくは20nm以下、より好ましくは15nm以下である。表面が平坦であることで表層の面積が減少し、表層酸化を抑制することが可能となる。表面粗さ(Ra)は、JIS R 1683により測定される。
【0018】
本発明の珪化物合金薄膜は、基板上に成膜されていることが好ましい。この基板材料としては、例えばサファイア、無機ガラス、シリコン、等が例示できる。なかでも、結晶性の良い膜を作製するためには、サファイア基板が好ましく、その方位は(0001)面に配向した基板が好ましい。これにより、基板の結晶性に合わせて薄膜の結晶性も向上するため、その熱電特性がより向上する。
【0019】
熱電変換材料の性能を評価する指数として、パワーファクターPF=S2σや、無次元性能指数:ZT=(S2/(ρ・κ))Tが用いられている。ここで、S:ゼーベック係数、ρ:抵抗率、κ:熱伝導率、T:絶対温度である。すなわち、熱電変換材料において、良好な熱電特性を得るには、ゼーベック係数S及び電気抵抗率ρが低く、熱伝導率κが低いことが必要である。
【0020】
本発明の珪化物系合金薄膜は、室温において、10Ω・cm以下、特には、1.0×10-2Ω・cm以下の電気抵抗率を有することができる。これにより、熱電変換材料としての指数がより大きくなり、良好な熱電変換特性を示す。また、100μV/K以上、特には、120μV/K以上のゼーベック係数を有することができる。これにより、熱電変換材料としての指数がより大きくなり、良好な熱電変換特性を示す。更に、5w/mK以下、特には3w/mK以下の熱伝導率を有することができる。これにより、良好な熱電変換特性を示す。
【0021】
次に、本発明の珪化物系合金薄膜の製造方法の一例について説明するが、この方法に限定されるものではない。
本発明の珪化物系合金薄膜の製造方法は、スパッタ法により基板上に成膜する製造方法が好ましい。スパッタ法において、安定した放電特性や、不純物の混入を低減するため、本発明では、空気との反応性も小さく、酸素量を抑制することが可能であるから、珪化ストロンチウムスパッタリングターゲットを用いることが好ましい。
【0022】
本発明で好ましくは使用される珪化ストロンチウムスパッタリングターゲットは、含有酸素量が、好ましくは1.5重量%以下、より好ましくは1.0重量%以下、より好ましくは0.7重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下のバルク多結晶体であることが好ましい。
【0023】
ここで、含有酸素量を測定する方法としては、当該多結晶体を熱分解させ、炭素・窒素・水素分析装置を用いて熱伝導度法により酸素量を測定する方法が使用できる。また、XPS(X線光電子分光)、EPMAなどの元素分析により測定する方法なども挙げられる。
【0024】
珪化ストロンチウムスパッタリングターゲットのバルク多結晶体は、密度が3.0g/cm3以上であることが好ましく、3.2g/cm3以上がさらに好ましい。これにより、バルク体中に開気孔が少なくなり、表面の酸化が進みにくくなる。ここで密度とは嵩密度であり、寸法計測による方法、アルキメデス法により計測できる。
【0025】
珪化物系合金薄膜の組成を調整する方法は、特に限定はなく、各元素を別のスパッタリングターゲットとして準備し、共にスパッタする方法が挙げられる。また、ベースとなるスパッタリングターゲット、例えば、シリコンターゲットの上にストロンチウム元素源の破片を設置し、スパッタすることでもよい。ストロンチウム元素、及びシリコン元素量の調整は、各元素を別のスパッタリングターゲットとして準備する場合は、例えば、スパッタ時の放電電力、スパッタ時のガス圧、ガス組成を調整することなどにより可能となる。各元素ターゲットの破片を使用する場合、破片の大きさ、数、設置位置などを選択することで調整することができる。また、一体物のスパッタリングターゲットを作製する場合は特開2015-221744などを参考にすることができる。
【0026】
珪化物系合金薄膜の製造方法では、立方晶SrSi2相と三方晶相SrSi2を共存させるためには、スパッタ時における基板温度は590℃~690℃が好ましく、590℃~650℃がより好ましい。前記範囲とすることで熱電特性の高い立方晶と電気伝導性の高い三方晶の存在比率T/(C+T)を、上述の範囲にすることが可能となり、良好な熱電特性を有する結晶相を有する珪化物系合金薄膜となる。
【0027】
本発明の珪化物系合金薄膜の製造方法では、成膜におけるガス圧は、10mtorr以上であることが好ましく、更に好ましくは20mtorr以上である。成膜ガス圧は、500mtorr以下が好ましく、更に好ましくは400mtorr以下である。この範囲とすることで、成膜時に安定的に放電を維持することが可能であり、粒子が基板に到達する際のエネルギーを適切に調整し、結晶性の良い膜を得ることが可能となる。
【0028】
本発明の珪化物系合金薄膜の製造方法では、スパッタ時における放電電力として、ターゲットに与える電力密度は、10W/cm2以下であることが好ましく、さらに好ましくは5W/cm2以下である。これにより、粒子に与えるエネルギーが抑制でき、より歪の少ない膜を得ることができる。電力密度は3.0W/cm2以上が好ましく、さらに好ましくは3.5W/cm2以上である。そうすることで、安定した放電が可能となり、熱電特性の高い立方晶と電気伝導性の高い三方晶の存在比率T/(C+T)を、上述の範囲にすることが可能となる。
【0029】
成膜に用いるガスはアルゴン、窒素などのガスを使用可能であるが、酸素の影響を抑制するために、水素を含有することが好ましい。水素を含有させることでスパッタリングターゲット中の酸素と反応させ、膜中の酸素を低減することが可能となる。
次に、珪化ストロンチウムスパッタリングターゲットに好ましく使用されるバルク多結晶体の好ましい製造方法を説明する。
【0030】
(合金化工程)
ストロンチウム源、珪素源を含む原料を合金化する工程である。合金化方法は特に限定されないが、極力酸素を含有させないような方法が好ましく、そのためには容器などに酸素を含有する機材をなるべく使用しない装置であるアーク溶解法が好ましい。アーク溶解法とは電極から放電させることで被処理物質を局所的に加熱し溶融する手法である。この方法は簡便に高温処理が可能となり、合金化処理方法として優れている。また、雰囲気制御もできるために、不活性ガス雰囲気中などで処理が可能であり、得られる合金の含有する酸素量をより低酸素量とすることが可能となる。
【0031】
例えば、ストロンチウム源に金属ストロンチウム、珪素源にシリコンを用いた場合、ストロンチウムの融点が約780℃、沸点が約1400℃、シリコンの融点が約1400℃であることから、双方を均一に溶融するためにも、高速で昇温が可能であるアーク溶解炉は有効である。
【0032】
ストロンチウム源はストロンチウムの単体金属、ストロンチウム合金の少なくともいずれかであることが好ましく、特に好ましいストロンチウム合金として、珪化ストロンチウム合金を挙げることができる。
珪素源はシリコンの単体金属、シリコン合金の少なくともいずれかであることが好ましく、特に好ましいシリコン合金として、珪化ストロンチウム合金を挙げることができる。
【0033】
ここで、原料に珪化ストロンチウム合金を含む場合、当該珪化ストロンチウム合金はストロンチウム源、及び珪素源とすることもできる。
【0034】
ストロンチウム源の平均粒径は1mmより大きいことが好ましく、さらに好ましくは8mm以上である。これにより、酸化が抑制され、安定してバルク多結晶体中の酸素量を低下させる効果が得られる。
【0035】
合金化工程において、ストロンチウム源、珪素源を混合しアーク溶解処理を行う、アーク溶解処理を一段階行う方法、又は、ストロンチウム源と珪素源をアーク溶解処理し、その後溶解物を反転し、改めてアーク溶解処理を行う、アーク溶解処理を二段階行う方法のいずれでもよいが、前述のアーク溶解処理を二段階行う方法が好ましい。これにより、まず、バルク多結晶体において、珪素が十分に拡散する、すなわち、珪化ストロンチウムへの固溶が十分におきるため、固溶していない珪素の存在により焼結体強度が低下するという問題を解決することもできる。具体的に溶解する手段として、先にストロンチウムが溶解されるように原料を設置する。
【0036】
例えば、水冷鋳型の底部にシリコンを設置後、その上部に金属ストロンチウムを設置することで、アーク溶解初期にストロンチウムがアーク放電に晒されるようにする。そうすることで初期にストロンチウムを溶解し、その後シリコンを合金化できるようになる。ただし、水冷鋳型の底部は温度が低いため、溶解時間を長くするなどの工夫が必要である。
【0037】
合金化処理においてアーク溶解法を用いる場合、材料重量当たりのアークの出力の強さは、融点差の大きな材料の合金化に影響を与える。例えば、バリウムと珪素の合金化の場合は、バリウムの融点約730℃、沸点約1640℃と融解後揮発までの温度に一定の幅があるため、初期出力100~200A、溶解中の出力は10~30A/g(溶解金属投入量当たりの放電電流量)の出力範囲で溶解が可能であり、ある程度容易に溶解が可能であるが、金属ストロンチウムは融点約780℃、沸点が1400℃とシリコンの溶融温度範囲ではストロンチウムが揮発し所望の組成比の珪化ストロンチウム合金を得ることが困難である。
【0038】
特にストロンチウム源として金属ストロンチウムを用いる場合、初期の放電電流は100A未満であることが好ましく、より好ましくは70A以下、さらに好ましくは50A以下である。初期の放電電流は20A以上が好ましく、更に好ましくは30A以上である。そうすることで金属ストロンチウムを溶解させ、かつ揮発を抑制した状態で合成を開始することが可能となる。溶解後の合金物に対しては5~10A/Sr-g(ストロンチウム投入量当たりの放電電流値)の放電電流をかける。そしてその反応時間を3分以上行うことで、珪素の溶融温度よりも低い温度で珪化ストロンチウムへの合金化が進行することで、揮発を抑制し、珪素が残留しない、珪素とストロンチウムの合金化を進めることが可能となる。
【0039】
また、アーク溶解法を使用することで局所的に加熱を行うことにより、ストロンチウムと珪素の界面のみを優先的に加熱し、反応を促進することが可能となる。
【0040】
ストロンチウム源として、金属ストロンチウムを使用する場合、塊形状であることが好ましい。粉末形状では、表層酸化が進行し、合金に酸素を取り込む安くなると共に、ストロンチウム溶解時に酸化膜が揮発しストロンチウム添加量が減少する。その直径は1mm以上が好ましく、5mm以上がさらに好ましく、更に好ましくは10mm以上である。そうすることで表層を低減し、酸化を抑制すると共に、安定的にストロンチウムを投入することが可能となる。
【0041】
珪素源は粉末であることが好ましく、粉末の平均粒径は10mm以下、更には5mm以下であることが好ましい。平均粒径とは粉末もしくは粉砕後の破砕物の平均粒子径を示し、粒度分布計、粒子寸法計測などで測定されるD50平均粒径を指す。
【0042】
平均粒径が10mmより大きくとなると、溶解時に未溶解や未反応のシリコンの残渣が残ることで珪化ストロンチウム合金体中に発生するシリコン粗粒によって割れが生じるため、珪化ストロンチウムバルク多結晶体を製造することが困難となる。また、平均粒径が小さいとアーク溶解法を使用する際に放電のエネルギーによりシリコン粉末が溶融する前に飛散し、また、表面張力により溶液中に浮遊してしまうため、安定的、かつ必要な組成比に溶解することが困難となるけ傾向があるため、シリコン粉末の平均粒径は0.1mm以上であるのが好ましい。
【0043】
また、原料であるストロンチウム源及び珪素源の酸素含有量は極力少ないことが望ましく、具体的には20atm%以下が好ましく、10atm%以下がより好ましい。原料中の酸素含有量を少なくすることで、多結晶体に残留する酸素が減少し、成膜した珪化ストロンチウム膜の酸素量も減少することで純度も向上する。例えば、ストロンチウム源として金属ストロンチウムを用いる場合、ストロンチウムは空気に触れると速やかに酸化が進行するため、酸素量を軽減するためには、空気に触れないように溶解装置に設置することが好ましい。
【0044】
(粉砕工程)
合金化工程で得られたストロンチウム合金を粉砕する工程である。得られる合金の酸素含有量を増加させないため、合金化工程から粉砕工程の間において、珪化ストロンチウム合金は、不活性ガス、又は乾燥ガスの雰囲気にて行うことが好ましく、粉砕も不活性ガス、乾燥ガス雰囲気にて行うことが好ましい。ドープ元素含有合金の粉末表面の酸化を防ぎ、酸素含有量を低く抑えることができるからである。粉砕は、乳鉢を使用する方法、ボールミルを使用する方法、ビーズミルを使用する方法を例示することができる。
【0045】
(ホットプレス工程)
珪化ストロンチウム合金の粉末を600℃~1100℃でホットプレス処理する工程である。この工程により、得られるバルク多結晶体がより均一となり、その熱電変換特性が安定したものとなる。ホットプレス法は粉末を加圧しながら温度を与えることで焼結を進める装置であり、加熱時に一軸加圧を行なうことで焼成時の被処理物内の元素の拡散を補助するため、拡散係数が低い元素を含有する場合、又は金属など粒子径が大きい粉末を処理する場合など、焼結しにくい材料でも焼結できる焼成法である。ホットプレス法により焼成を行なうことで密度が向上し、例えば、3.0g/cm3以上の高い密度を有する珪化ストロンチウム多結晶体を得ることが可能となる。
【0046】
ホットプレス工程に供する、珪化ストロンチウム合金の粉末は、ストロンチウム源、珪素源を含む原料を前述するアーク溶解により処理することで得られた珪化ストロンチウム合金であることが好ましい。
【0047】
ホットプレス工程に供する珪化ストロンチウム合金の粒径(D50%、篩式粒度分布計)は、10μm~200μmが好ましく、更に好ましくは30μm~150μmである。そうすることで、粉末が微細となり、焼結性が向上することでバルク多結晶体の密度が向上する。ただし、10μm未満では粉末の酸化が進行しやすく、また、粉末充填時の密度が低下するため、低酸素、高密度の焼結体を得ることが困難となる。
【0048】
ホットプレス処理における焼成温度は600℃~1000℃であり、好ましくは、700℃~1000℃である。600℃より低い温度では焼結が進まず、密度が成形体密度と同程度にしか向上しない。また、1000℃よりも高い温度にて焼成を行なうと融点が近いために珪化ストロンチウムが溶融する可能性がある。
【0049】
ホットプレス処理における圧力は10MPa~100MPaが好ましい。これにより、多結晶体の密度をより向上させることができ、かつ、一般的に用いられるカーボン製の金型でも使用に耐えうるからである。
【0050】
ホットプレス処理は酸素を含まない雰囲気で行なうことが好ましく、真空、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気のいずれかであることが好ましい。ホットプレス処理の焼成温度における保持時間は30分以上が望ましく、さらには1時間以上が望ましい。保持時間が短いと内部まで均一に加熱できず多結晶体として保形が難しい。
【0051】
バルク多結晶体は、所定の寸法に加工してもよい。加工方法は特に限定されないが、平面研削法、ロータリー研削法又は円筒研削法等を用いることができる。水と反応するために加工時の水の取扱には注意を要する。必要に応じて、熱電変換素子用途に適した形状に加工してもよい。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれに限定して解釈されるものではない。
【0053】
(結晶性の確認方法)
XRD装置(装置名:ブルカーAXS社 D8 Discover)を用いて20°~50°まで走査し、あおり角0°~90°の範囲で測定したデータを積分して得た回折図形についてピーク位置から含有される結晶相を同定した。
参考とした結晶相のJCPDSカードは、立方晶は00―020―1215であり、三方晶相は、Phys.Rev.B 84, 184503(2011)を参考とし、点群P-3m1、164、a=3.89Å、c=5.01Åとし、(101)ピーク31.35°、(102)ピーク:44.05°として同定した。
得られた回折パターンから、立方晶(210)面によるピーク強度Cと三方晶(101)面によるピーク強度Tを求め、T/(C+T)を算出した。
【0054】
(膜中の添加元素量の確認方法)
波長分散型蛍光X線分析装置(装置名:PANalytical社 PW2404)を用いて、元素分析を実施し、添加元素の含有率を計算した。
(膜の電気抵抗率の測定方法)
ゼーベック係数測定装置(装置名:アルバック社 ZEM-3)により室温から400℃まで加熱し各温度の膜抵抗率を測定した。
【0055】
(半導体型の判別方法)
ゼーベック係数測定装置(装置名:アルバック社 ZEM-3)を用いて室温から400℃まで加熱した際のゼーベック係数の絶対値より判断した。正の値:p型 負の値:n型である。
(ゼーベック係数の測定方法)
ゼーベック係数測定装置(装置名:アルバック社 ZEM-3)を用いて室温から400℃まで加熱し各温度のゼーベック係数を算出した。
(膜の熱伝導率の測定方法)
薄膜熱物性測定装置(ピコサーム社製PicоTR)を用いてピコ秒サーモリフレクタンス法により、測定を行った。
(熱電変換材料の性能評価)
無次元性能指数:ZT=(S2/(ρ・κ))Tに基づいて性能評価がされた。なお、S:ゼーベック係数、ρ:抵抗率、κ:熱伝導率、T:絶対温度である。
【0056】
[実施例1]
以下に示される条件で、ターゲットの放電パワー:50W(3.8W/cm2)として、(0001)サファイア基板(京セラ社製5mm角、0.5mm厚み)上に、基板温度600℃にてスパッタ成膜試験を実施した。
(スパッタ条件)
放電方式 :RFスパッタ
成膜装置 :マグネトロンスパッタ装置
ターゲット :2inchφ珪化ストロンチウムターゲット
ターゲット―基板間距離:60mm
成膜圧力 :20mTorr
導入ガス :アルゴン100sccm
【0057】
[実施例2]
基板温度680℃とした以外は実施例1と同様の方法で成膜を実施した。
[実施例3]
基板温度を650℃とした以外は実施例1と同様の方法で成膜を実施した。
[実施例4]
基板温度630℃とした以外は実施例1と同様の方法で成膜を実施した。
[実施例5]
基板温度を620℃とした以外は実施例1と同様の方法で成膜を実施した。
[実施例6]
基板温度を590℃とした以外は実施例1と同様の方法で成膜を実施した。
【0058】
[比較例1]
ターゲットの放電パワー:30W(2.3W/cm2)として、基板温度520℃とした以外は実施例1と同様の方法で成膜を実施した。
[比較例2]
ターゲットの放電パワー:30W(2.3W/cm2)として基板温度490℃とした以外は実施例1と同様の方法で成膜を実施した。
[比較例3]
ターゲットの放電パワー:50W(3.8W/cm2)として基板温度530℃とした以外は実施例1と同様の方法で成膜を実施した。
【0059】
[比較例4]
ターゲットの放電パワー:50W(3.8W/cm2)として基板温度520℃とした以外は実施例1と同様の方法で成膜を実施した。
[比較例5]
ターゲットの放電パワー:20W(1.5W/cm2)として基板温度500℃とした以外は実施例1と同様の方法で成膜を実施した。
[比較例6]
ターゲットの放電パワー:30W(2.3W/cm2)として、基板温度760℃とした以外は実施例1と同様の方法で成膜を実施した。
上記実施例1~6及び比較例1~6において、それぞれ得られた薄膜についての50℃における物性を表1、2に示す。
【0060】
【0061】
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明を用いることで、高い性能を有する熱電変換素子を作製可能となり、広範囲の温度域の排熱を効率的に利用できるようになる。