(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】シリカを担持したリン酸カルシウム結晶
(51)【国際特許分類】
C01B 25/32 20060101AFI20240930BHJP
C01B 33/24 20060101ALI20240930BHJP
A61L 27/10 20060101ALN20240930BHJP
A61L 27/12 20060101ALN20240930BHJP
A61L 27/42 20060101ALN20240930BHJP
A61L 27/56 20060101ALN20240930BHJP
【FI】
C01B25/32 B
C01B33/24
A61L27/10
A61L27/12
A61L27/42
A61L27/56
(21)【出願番号】P 2020191183
(22)【出願日】2020-11-17
【審査請求日】2023-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 悠紀
(72)【発明者】
【氏名】槇田 洋二
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 靖子
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 貴士
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-500935(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102040207(CN,A)
【文献】特表2010-523250(JP,A)
【文献】特表2012-514573(JP,A)
【文献】特表2009-541358(JP,A)
【文献】国際公開第2018/074429(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/32
C01B 25/45
C01B 33/24
A61L 27/00 - 27/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムイオン及びリン酸イオンを含み、水酸化物イオン及び/又はハロゲン化物イオンをさらに含んでもよいリン酸カルシウムの結晶であ
り、結晶構造に含まれる、前記カルシウムイオン、前記リン酸イオン、前記水酸化物イオン、及び前記ハロゲン化物イオンのうち少なくとも1つのイオンの一部がケイ酸イオンに置換されている、リン酸カルシウム
の結晶
であって、
前記リン酸カルシウムがリン酸八カルシウムであり、
前記リン酸八カルシウムの結晶構造を構成する水和層にケイ酸イオンが含まれる、
結晶。
【請求項2】
請求項
1に記載の結晶を含む、粉末状組成物。
【請求項3】
請求項
1に記載の結晶を含む、ブロック材。
【請求項4】
請求項
1に記載の結晶を含む、多孔体。
【請求項5】
請求項1に記載の結晶を
溶液中に浸漬して、アパタイト相を含むケイ酸含有リン酸カルシウムの結晶を得る工程を含む、
ケイ酸含有
アパタイトの製造方法。
【請求項6】
前記溶液が炭酸を含有せず、前記アパタイト相が炭酸を含有しない、請求項
5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記溶液が炭酸を含有し、前記アパタイト相が炭酸を含有する、請求項
5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカを担持したリン酸カルシウム結晶に関する。詳細には、カルシウムイオン及びリン酸イオンを含み、水酸化物イオン及び/又はハロゲン化物イオンをさらに含んでもよいリン酸カルシウムの結晶であって、結晶構造に含まれる、前記カルシウムイオン、前記リン酸イオン、前記水酸化物イオン、及び前記ハロゲン化物イオンのうち少なくとも1つのイオンの一部がケイ酸イオンに置換されている、リン酸カルシウム結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
骨の新陳代謝である骨リモデリングプロセスは、骨補填材の骨置換の割合を制御する。骨細胞と免疫細胞は骨リモデリングプロセスに必須的及び中心的な役割を果たす。これらの細胞を制御することで、骨リモデリングプロセスを制御することができる(例えば、非特許文献1)。
【0003】
ケイ酸イオンは骨芽細胞の活性を増強することが知られ、骨生産量を増大することが知られている(非特許文献2、特許文献3)。市販品としては、ORTHOREBIRTH株式会社からレボシス(英語名:ReBOSSIS)というは綿形状の人工骨充填材が販売されている。本製品は、綿形状であること、β-TCP(β-リン酸三カルシウム)、生体吸収性ポリマー、骨形成を促進させるSiV(ケイ素含有炭酸カルシウム)を主成分としていることが特徴である。
【0004】
リン酸カルシウムや炭酸カルシウムにシリカを担持する場合、通常はシリカ源として有機シリカを使用する(非特許文献4)。しかし、有機シリカが加水分解して生成し、残存する有機分子は、製品化において大きな懸念材料である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】BMC Med.,9, 66-75 (2011)
【文献】Acta Biomater., 5, 57-62 (2008)
【文献】Mater. Sci. Eng.: C, 42, 672-680 (2014)
【文献】J. Mater. Chem. B, 2, 1250 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、無機シリカ源を用いた骨補填に有用な材料を簡便に製造する技術の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、無機シリカ源としてケイ酸塩を用いることで、シリカが担持されたリン酸カルシウム結晶を簡便に製造できることを見出し、本発明を完成させた。本発明は下記の通りである。
【0008】
〔1〕カルシウムイオン及びリン酸イオンを含み、水酸化物イオン及び/又はハロゲン化物イオンをさらに含んでもよいリン酸カルシウムの結晶であって、結晶構造に含まれる、前記カルシウムイオン、前記リン酸イオン、前記水酸化物イオン、及び前記ハロゲン化物イオンのうち少なくとも1つのイオンの一部がケイ酸イオンに置換されている、リン酸カルシウム結晶。
〔2〕前記リン酸カルシウムがリン酸八カルシウムである、〔1〕に記載の結晶。
〔3〕前記リン酸八カルシウムの結晶構造を構成する水和層にケイ酸イオンが含まれる、〔2〕に記載の結晶。
〔4〕アパタイト相を含む、〔1〕に記載の結晶。
〔5〕前記アパタイト相が炭酸を含有しない、〔4〕に記載の結晶。
〔6〕前記アパタイト相が炭酸を含有する、〔4〕に記載の結晶。
〔7〕〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の結晶を含む、粉末状組成物。
〔8〕〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の結晶を含む、ブロック材。
〔9〕〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の結晶を含む、多孔体。
【0009】
〔10〕カルシウム、リン酸の少なくとも1つを含むセラミックを、ケイ酸塩を含む水溶液中で加水分解する工程を含む、ケイ酸含有リン酸カルシウム結晶の製造方法。
〔11〕前記セラミックが易溶性リン酸カルシウムである、〔10〕に記載の製造方法。〔12〕前記加水分解工程によって得られるリン酸カルシウムがリン酸八カルシウムである、〔10〕又は〔11〕に記載の製造方法。
〔13〕前記易溶性リン酸カルシウムが、リン酸水素カルシウム二水和物、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム水和物、リン酸二水素カルシウム無水和物、リン酸三カルシウムα相、又はリン酸三カルシウムβ相である、〔11〕又は〔12〕に記載の製造方法。
【0010】
〔14〕易溶性リン酸カルシウムをケイ酸塩水溶液中で加水分解し、ケイ酸含有リン酸カルシウム結晶を得る工程、及び
前記得られたケイ酸含有リン酸カルシウム結晶を更に処理する工程を含む、
ケイ酸含有リン酸カルシウム結晶の製造方法。
〔15〕前記更に処理する工程が、溶液中に前記ケイ酸含有リン酸カルシウムを浸漬する工程を含み、
前記ケイ酸含有リン酸カルシウム結晶が、アパタイト相を含むケイ酸含有リン酸カルシウム結晶である、
〔14〕に記載の製造方法。
〔16〕前記溶液が炭酸を含有せず、前記アパタイト相が炭酸を含有しない、〔15〕に記載の製造方法。
〔17〕前記溶液が炭酸を含有し、前記アパタイト相が炭酸を含有する、〔15〕に記載の製造方法。
【0011】
〔18〕易溶性リン酸カルシウムをケイ酸塩水溶液中で加水分解し、ケイ酸含有リン酸カルシウム結晶を得る工程、
前記得られたケイ酸含有リン酸カルシウム結晶を含む粉末状組成物を得る工程、及び、
溶液中に前記得られた粉末状組成物を浸漬する工程を含む、
ケイ酸含有アパタイトの粉末状組成物の製造方法。
〔19〕易溶性リン酸カルシウムをケイ酸塩水溶液中で加水分解し、ケイ酸含有リン酸カルシウム結晶を得る工程、
前記得られたケイ酸含有リン酸カルシウム結晶を含むブロック材を得る工程、及び、
溶液中に前記得られたブロック材を浸漬する工程を含む、
ケイ酸含有アパタイトのブロック材の製造方法。
〔20〕易溶性リン酸カルシウムをケイ酸塩水溶液中で加水分解し、ケイ酸含有リン酸カルシウム結晶を得る工程、
前記得られたケイ酸含有リン酸カルシウム結晶を含む多孔体を得る工程、及び、
溶液中に前記得られた多孔体を浸漬する工程を含む、
ケイ酸含有アパタイトの多孔体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、無機シリカ源を用いた骨補填に有用な材料を簡便に製造することができる。特に、リン酸八カルシウムにケイ酸を担持出来れば、リン酸八カルシウムは他のリン酸カルシウムの前駆体であり、溶解析出反応を経ずに他のリン酸カルシウムに相転移するため、他のリン酸カルシウムへのケイ酸担持も期待される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一態様に係る実施例1の結果(XRDパターン)を示すグラフ。
【
図2】本発明の一態様に係る実施例1の結果(ケイ素含有量)を示すグラフ。
【
図3】本発明の一態様に係る実施例1の結果(FT-IR)を示すグラフ。
【
図4】本発明の一態様に係る実施例1の結果(NMRスペクトラ)を示すグラフ。
【
図5】本発明の一態様に係る実施例1の結果(SEM像)を示す写真(図面代用写真)。
【
図6】本発明の一態様に係る実施例2の結果(XRDパターン)を示すグラフ。
【
図7】本発明の一態様に係る実施例2の結果(FT-IR)を示すグラフ。
【
図8】本発明の一態様に係る実施例2の結果(ケイ素含有量)を示すグラフ。
【
図9】本発明の一態様に係る実施例3の結果(XRDパターン)を示すグラフ。
【
図10】本発明の一態様に係る実施例3の結果(SEM像)を示す写真(図面代用写真)。
【
図11】本発明の一態様に係る実施例4の結果(XRDパターン)を示すグラフ。
【
図12】本発明の一態様に係る実施例4の結果(SEM像)を示す写真(図面代用写真)。
【
図13】本発明の一態様に係る実施例5の結果(試料の形状)を示す写真(図面代用写真)。
【
図14】本発明の一態様に係る実施例5の結果(XRDパターン)を示すグラフ。
【
図15】本発明の一態様に係る実施例5の結果(FT-IR)を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一態様は、
カルシウム、リン酸の少なくとも1つを含むセラミック、好ましくは易溶性リン酸カルシウムを、ケイ酸イオン、ケイ酸コロイドなどの、溶液を介してセラミックと反応する状態のケイ酸イオンを生じさせるケイ酸塩を含む水溶液中で加水分解する工程を含む、ケイ酸含有リン酸カルシウム結晶(好ましくはリン酸八カルシウム結晶)の製造方法である。
【0015】
前記易溶性リン酸カルシウムとしては、好ましくは、リン酸水素カルシウム二水和物、リン酸水素カルシウム無水和物、リン酸二水素カルシウム水和物、リン酸二水素カルシウム無水和物、リン酸三カルシウムα相、又はリン酸三カルシウムβ相、リン酸四カルシウム(TTCP)、アモルファスリン酸カルシウム(ACP)である。
【0016】
前記ケイ酸塩としては、水ガラス(Na2SiO3)、ケイ酸カリウム、ケイ酸セシウム、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウムなどが挙げられる。この中でも水ガラスは、カウンターカチオンであるナトリウムイオンがリン酸八カルシウム(Ca8(HPO4)2(PO4)4・5H2O;OCP)形成を誘導するため好ましい。また、水ガラスは塩基性であるため、従来のOCP調製法と相性が良いため好ましい。
【0017】
前記易溶性リン酸カルシウムを、前記ケイ酸塩の溶液、コロイド状態の粒子を含む水溶液中で加水分解する際の条件としては、下記が挙げられる。
【0018】
前記ケイ酸塩の溶液、コロイド状態の粒子を含む水溶液中の前記ケイ酸塩の濃度は、好ましくは0.001mоl/L以上、より好ましくは0.01mоl/L以上、さらに好
ましくは0.1mоl/L以上であり、一方で、好ましくは10.0mоl/L以下、より好ましくは5.0mоl/L以下、さらに好ましくは2.0mоl/L以下である。
【0019】
前記ケイ酸塩を含む水溶液中の前記易溶性リン酸カルシウムの含量は特に限定されない。用いる易溶性リン酸カルシウムの相、溶液の組成に応じて適宜設定すればよい。
【0020】
前記加水分解時の反応温度は、好ましくは0℃以上、より好ましくは4℃以上、さらに好ましくは25℃以上であり、一方で、好ましくは99℃以下、より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは80℃以下である。
【0021】
前記加水分解時の反応時間は、好ましくは10分間以上、より好ましくは30分間以上、さらに好ましくは1時間以上であり、一方で、好ましくは14日間以下、より好ましくは7日間以下、さらに好ましくは5日間以下である。
【0022】
前記加水分解時のpHは、特に限定されないが、ケイ酸イオン、又はコロイド状のケイ酸が溶液中で安定して分散するように設定すればよい。
【0023】
本態様は、前記得られたケイ酸含有リン酸カルシウム結晶を洗浄する工程や、その後に乾燥する工程を含んでよい。
洗浄工程は、前記得られたケイ酸含有リン酸カルシウム結晶を、例えば蒸留水で洗浄する工程を含んでよく、常法に従うことができる。また、乾燥工程は、前記洗浄工程後に、前記得られたケイ酸含有リン酸カルシウム結晶を、例えば乾燥機で乾燥する工程を含んでよい。
【0024】
本発明の他の態様は、
易溶性リン酸カルシウムをケイ酸塩水溶液中で加水分解し、ケイ酸含有リン酸カルシウム結晶を得る工程、及び
前記得られたケイ酸含有リン酸カルシウム結晶を更に処理する工程を含む、
ケイ酸含有リン酸カルシウム結晶(好ましくはリン酸八カルシウム結晶)の製造方法である。
【0025】
前記ケイ酸含有リン酸カルシウム結晶を得る工程については、前記態様を援用する。
【0026】
前記得られたケイ酸含有リン酸カルシウム結晶を更に処理する工程により、ケイ酸含有リン酸カルシウム結晶を製造することができる。
例えば、前記得られたケイ酸含有リン酸カルシウム結晶を更に処理する工程が、溶液中に前記ケイ酸含有リン酸カルシウムを浸漬する工程を含むことにより、前記ケイ酸含有リン酸カルシウム結晶として、アパタイト相を含むケイ酸含有リン酸カルシウム結晶を製造することができる。
【0027】
ここでいう反応終了時とは、熱力学的に安定相が完全に形成し、これ以上溶液の組成、温度、圧力に変化がない場合、巨視的には新たな反応が起きない状態を指す。
【0028】
前記水溶液に含まれる水以外の溶媒の組成については特に限定されないが、該溶媒は、水と任意の割合で混合する、或いはコロイド状に均一に分散するものであればよい。
【0029】
前記溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパン-1-オール、ブタン-1-オール、ペンタン-1-オール、ヘキサン-1-オール、ヘプタン-1-オール、オクタン-1-オール、ノナン-1-オール、デカン-1-オールなどの第一級アルコール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)、ブタン-2-オール、ペンタン-2-オール
、ヘキサン-2-オール、シクロヘキサノールなどの第二級アルコール、tert-ブチルアルコール、2-メチルブタン-2-オール、2-メチルペンタン-2-オール、2-メチルヘキサン-2-オール、3-メチルペンタン-3-オール、3-メチルオクタン-3-オールなどの第三級アルコールをはじめとする一価アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどの二価アルコール、グリセリンなどの三価アルコール、フェノールなどの芳香環アルコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)などのポリエーテル、ポリアクリル酸、ポリカルバリン酸などのポリカルボン酸、酢酸、吉草酸、カプロン酸、ラウリン酸、パルチミン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸などの脂肪酸、ペンタン、ブタン、ヘキサン、セプタン、オクタンなどのアルカン、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテルなどのエーテル、ベンゼン、トルエン、ピクリン酸、TNTといった芳香族化合物、ナフタレン、アズレン、アントラセンなどの多環芳香族炭化水素、クロロメタン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などの有機ハロゲン化合物、酢酸エチル、酪酸メチル、サリチル酸メチル、ギ酸エチル、酪酸エチル、カプロン酸エチル、酢酸オクチル、フタル酸ジブチル、炭酸エチレン、エチレンスルフィドのようなエステル類、シクロペンタン、シクロヘキサン、デカリンなどのシクロアルカン、ビシクロアルカン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトンなどのケトン、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、バニリンなどのアルデヒド、アミノメタン、アミノエタン、エチレンジアミン、トリエチルアミン、アニリンなどのアミン化合物、グルコース、フルクトース、トレイトールなどの糖類、メタンチオール、エタンチオール、プロパンチオール、チオフェノールなどのチオール類、ジメチルスルフィド、ジフェニルスルフィド、アスパラガス酸、シスタミン、シスチンなどのジスルフィド化合物、などを挙げることができる。これらは、単独で用いてもよいし、複数を混合して使用してもよい。
【0030】
前記溶液は、炭酸を含有する態様も、含有しない態様も、いずれも好ましい態様である。前記溶液が炭酸を含有する場合には、前記アパタイト相は炭酸を含有し、前記溶液が炭酸を含有しない場合には、前記アパタイト相は炭酸を含有しない。
【0031】
前記溶液における炭酸源としては、例えば、炭酸ガス、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウムなどが挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、複数を混合して使用してもよい。
【0032】
前記溶液は、上記のほかに、他のイオンや他の分子を含んでよい。それらは最終生成物である、アパタイト相を含むケイ酸含有リン酸カルシウム結晶に若干ながら取り込まれるため、用途に応じて、前記溶液に添加してもよい。特に、pH調整の為に、水酸化ナトリウム水溶液や塩酸などを添加することは、通常あり得ることである。
【0033】
前記溶液に添加する前記他のイオンとしては、無機化合物の塩や有機化合物の塩が挙げられ、特に蒸留水などの溶媒に接触させたときに、良好に溶解し、機能を発揮する塩が挙げられる。前記無機化合物の塩は、無水塩のみならず、含水塩も含む。前記無機化合物の塩、有機化合物の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩、ストロンチウム塩などのアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、鉄塩、ニッケル塩、コハバルト塩、銅塩などの遷移金属塩、ランタン塩、セリウム塩、イットリウム塩、プラセオジム塩、ネオジム塩、サマリウム塩、ユウロピウム塩、ホルミウム塩、ジスプロシウム塩などの希土類塩、アンモニウム塩などの無機塩、トリス(ヒドロキシメチル)、アミノメタン塩、フェニルグリシンアルキルエステル塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン塩、エチレンジアミン塩、グルコサミン塩、グアニシジン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、N-メチルグルカミン塩、t-オクチルアミン塩、ジベンシジ
ルアミン塩、モルホリン塩、プロカイン塩、ジエタノールアミン塩、N-べンジル-N-フェネチルアミン塩、ピペラジン塩、クロロプロカイン塩、テトラメチルアンモニウム塩などの有機アミン塩、フェノール塩などを挙げることができる。
【0034】
前記溶液に添加する前記他の分子としては、カルボキシル基、シラノール基、リン酸基、スルホ基、ヒドロキシル基、チオール基などのカルシウムと化学結合する官能基を組成中に持つ分子が挙げられる。
【0035】
ここで、カルボキシル基を持つ分子とは、組成中に-COOHで表される官能基を1つ以上持つ分子のことをいう。
【0036】
カルボキシル基を持つ分子としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸、カルボン酸チオール、ハロゲン化カルボン酸、アミノ酸、芳香族酸、ヒドロキシ酸、糖酸、ニトロカルボン酸、ポリカルボン酸などに分類される物質、これらの誘導体、及びこれらを重合させた物質が挙げられる。すなわち、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ギ酸、吉草酸、コハク酸、クエン酸、メルカプトウンデカン酸、チオグリコール酸、アスパラガス酸、α-リボ酸、β-リボ酸、ジヒドロリボ酸、クロロ酢酸、マロン酸、アコニット酸、リンゴ酸、シュウ酸、酒石酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、オキサロ酢酸、α-ケトグルタル酸、オキサロコハク酸、ピルビン酸、イソクエン酸、α-アラニン、β-アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、システイン、ヒドロキシプロリン、o-ホスホセリン、デスモシン、ノバリン、オクトビン、マンノビン、サッカロピン、N-メチルグリシン、ジメチルグリシン、トリメチルグリシン、シトルリン、グルタチオン、クレアチン、γ-アミノ酪酸、テアニン、乳酸、フォリン酸、葉酸、パントテン酸、安息香酸、サリチル酸、o-フタル酸、m-フタル酸、p-フタル酸、ニコチン酸、ピコリン酸、没食子酸、メリト酸、ケイ皮酸、ジャスモン酸、ウンデシレン酸、レブリン酸、イズロン酸、グルクロン酸、ガラクツロン酸、グリセリン酸、グルコン酸、ムラミン酸、シアル酸、マンヌロン酸、グリコール酸、グリオキシル酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトロ酢酸、ニトロヒドロケイ皮酸、ニトロ安息香酸、ポリアクリル酸、ポリクエン酸、ポリイタコン酸並びにこれらの塩などを挙げることができる。これらは、単独で使用してもよいし、複数を混合して使用してもよい。
【0037】
ここで、シラノール基を持つ分子とは、組成中に-SiO4R3で表される官能基を持つものをいう。Rは、H又はアルキル基である。
【0038】
シラノール基を持つ分子としては、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(γ-MPTS)、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、オルトケイ酸、メタケイ酸、メタ二ケイ酸並びにこれらの塩などを挙げることができる。
【0039】
ここで、リン酸基を持つ分子とは、組成中に-PO4R2で表される官能基をいう。Rは、H又はアルキル基である。
【0040】
リン酸基を持つ分子としては、アデノシン三リン酸(ATP)、アデノシン二リン酸(ADP)、ヌクレオチド、グルコース-6-リン酸、フラビンモノヌクレオチド、ポリリン酸、10-メタクリロイルオキシデシル二水素リン酸(MDP)、フィチン酸、並びにこれらの塩などを挙げることができる。
【0041】
ここで、スルホ基を持つ分子とは、組成中に-SO3Rで表される官能基をいう。Rは
、H又はアルキル基である。
【0042】
スルホ基を持つ分子としては、ベンゼンスルホン酸、タウリン、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、キシレンシラノール、ブロモフェノールブルー、メチルオレンジ、4,4’-ジイソチオシアノ-2,2’-スチルベンジスルホン酸(DIDS)、アゾルビン、アマランス、インジゴカルミン、ウォーターブルー、クレゾールレッド、クマシーブリリアントブルー、コンゴーレッド、スルファニル酸、タートラジン、チモールブルー、トシルアジド、ニューコクシン、ピラニン、メチレンブルー、ヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、サイクラミン酸ナトリウム、サッカリン、タウコロール酸、イセチオン酸、システイン酸、10-カンファースルホン酸、4-ヒドロキシ-5-アミノナフタレン-2,7-ジスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、並びにこれらの塩などを挙げることができる。
【0043】
ここで、ヒドロキシ基を持つ分子とは、組成中に-OHで表される官能基をいう。
【0044】
ヒドロキシル基を持つ分子としては、アルコールに分類される化合物、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)、ヒドロキシルアミン、ヒドロキサム酸、フェノール、アルドールに分類される化合物、糖に分類される化合物、グリコールに分類される化合物、イノシトール、糖アルコールに分類される化合物、パンテテイン、並びにこれらの塩などを挙げることができる。
【0045】
ここで、チオール基を持つ分子とは、組成中に-SHで表される官能基をいう。Rは、H又はアルキル基である。
【0046】
チオール基を持つ分子としては、カプトプリル、メタンチオール、エタンチオール、システイン、グルタチオン、チオフェノール、アセチルシステイン、1,2-エタンジチオール、システアミン、ジチオエリトリトール、ジチオトレイトール、ジメルカプロール、チオグリコール酸、チオプロニン、2-ナフタレンチオール、ブシラミン、フラン-2-イルメタンチオール、D-ペニシラミン、マイコチオール、メスナ、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、3-メルカプトピルビン酸、並びにこれらの塩などを挙げることができる。
【0047】
前記溶液中に前記ケイ酸含有リン酸カルシウムを浸漬する際の条件としては、下記が挙げられる。
【0048】
前記溶液が炭酸を含有する場合、前記水溶液中の前記炭酸源の濃度は、好ましくは0.01mоl/L以上、より好ましくは0.05mоl/L以上、さらに好ましくは0.1mоl/L以上であり、一方で、好ましくは10.0mоl/L以下、より好ましくは5.0mоl/L以下、さらに好ましくは3.0mоl/L以下である。
【0049】
前記水溶液中の前記ケイ酸含有リン酸カルシウムの濃度は、特に限定されない。
【0050】
前記浸漬時の反応温度は、好ましくは25℃以上、より好ましくは37℃以上、さらに好ましくは50℃以上であり、一方で、好ましくは99℃以下、より好ましくは95℃以下、さらに好ましくは90℃以下である。
【0051】
前記浸漬時の反応時間は、好ましくは30分間以上、より好ましくは1時間以上、さらに好ましくは2時間以上であり、一方で、好ましくは14日間以下、より好ましくは10日間以下、さらに好ましくは7日間以下である。
【0052】
前記浸漬時のpHは、特に限定されないが、好ましくは4.0以上、より好ましくは6.0以上、さらに好ましくは8.0以上である。
【0053】
本態様は、前記ケイ酸含有リン酸カルシウム結晶を洗浄する工程や、その後に乾燥する工程を含んでよい。
洗浄工程は、前記ケイ酸含有リン酸カルシウム結晶を、例えば蒸留水で洗浄する工程を含んでよく、常法に従うことができる。また、乾燥工程は、前記洗浄工程後に、前記ケイ酸含有リン酸カルシウム結晶を、例えば乾燥機で乾燥する工程を含んでよい。
【0054】
前記得られたケイ酸含有リン酸カルシウム結晶は、常法により、粉末状組成物、ブロック材、多孔体の形態にすることができる。そして、いずれの形態についても、前記溶液中に浸漬することにより、それぞれ、ケイ酸含有アパタイトの粉末状組成物、ケイ酸含有アパタイトのブロック材、ケイ酸含有アパタイトの多孔体を製造することができる。
【0055】
すなわち、本発明の他の態様として、
易溶性リン酸カルシウムをケイ酸塩水溶液中で加水分解し、ケイ酸含有リン酸カルシウム結晶を得る工程、
前記得られたケイ酸含有リン酸カルシウム結晶を含む粉末状組成物を得る工程、及び、
溶液中に前記得られた粉末状組成物を浸漬する工程を含む、
ケイ酸含有アパタイトの粉末状組成物の製造方法;
易溶性リン酸カルシウムをケイ酸塩水溶液中で加水分解し、ケイ酸含有リン酸カルシウム結晶を得る工程、
前記得られたケイ酸含有リン酸カルシウム結晶を含むブロック材を得る工程、及び、
溶液中に前記得られたブロック材を浸漬する工程を含む、
ケイ酸含有アパタイトのブロック材の製造方法;及び
易溶性リン酸カルシウムをケイ酸塩水溶液中で加水分解し、ケイ酸含有リン酸カルシウム結晶を得る工程、
前記得られたケイ酸含有リン酸カルシウム結晶を含む多孔体を得る工程、及び、
溶液中に前記得られた多孔体を浸漬する工程を含む、
ケイ酸含有アパタイトの多孔体の製造方法
を挙げることができる。
【0056】
前記溶液中に、粉末状組成物、ブロック材、又は多孔体を浸漬する工程については、前記溶液中に前記ケイ酸含有リン酸カルシウムを浸漬する際の条件を援用する。
【0057】
本態様は、前記得られた粉末状組成物、ブロック材、又は多孔体を洗浄する工程や、その後に乾燥する工程を含んでよい。
洗浄工程は、前記得られた粉末状組成物、ブロック材、又は多孔体を、例えば蒸留水で洗浄する工程を含んでよく、常法に従うことができる。また、乾燥工程は、前記洗浄工程後に、前記得られた粉末状組成物、ブロック材、又は多孔体を、例えば乾燥機で乾燥する工程を含んでよい。
【0058】
本発明の他の態様は、
カルシウムイオン及びリン酸イオンを含み、水酸化物イオン及び/又はハロゲン化物イオンをさらに含んでもよいリン酸カルシウムの結晶であって、結晶構造に含まれる、前記カルシウムイオン、前記リン酸イオン、前記水酸化物イオン、及び前記ハロゲン化物イオンのうち少なくとも1つのイオンの一部がケイ酸イオンに置換されている、リン酸カルシウム結晶である。
【0059】
前記結晶は、前記リン酸カルシウムとして、例えば、リン酸八カルシウム、水酸アパタ
イト、炭酸アパタイトが挙げられる。
尚、前記リン酸カルシウムがリン酸八カルシウムである場合、本態様に係る結晶は、前記態様に係る製造方法で製造されるケイ酸含有リン酸八カルシウム結晶のことである。
【0060】
前記結晶は、前記ケイ酸イオンの含有量が、好ましくは10原子%以上、より好ましくは12原子%以上、さらに好ましくは15原子%以上であり、一方で、好ましくは50原子%以下、より好ましくは30原子%以下、さらに好ましくは25原子%以下である。尚、リン酸カルシウムの化学量論的組成として、CaとPO4の比率は単一化合物中50%以上である。
【0061】
また、前記結晶は、アパタイト相を含むことが好ましい。
また、前記結晶は、前記アパタイト相が炭酸を含有する態様も、含有しない態様も、いずれも好ましい態様である。
【0062】
前記結晶とは、粉末試料のXRDパターンにおいて明確な回折ピークが得られ、また、結晶成長を阻害しない自由空間で成長した場合、結晶構造に起因する固有の外形を示す粒子のことを指す。
【0063】
前記結晶は、前記リン酸カルシウムがリン酸八カルシウムである場合、前記リン酸八カルシウムの結晶構造を構成する水和層にケイ酸イオンが含まれることが好ましい。
【0064】
前記結晶の結晶学的情報は、例えば、X線回折法(XRD)により常法に従い得ることができる。装置としては、例えば、MiniFlex600(株式会社リガク、日本)が挙げられる。
【0065】
また、前記結晶中の元素含有量は、例えば、蛍光X線分析法(XRF)により常法に従い評価することができる。装置としては、例えば、SEA2210(セイコーインスツルメンツテクノロジー株式会社、日本)が挙げられる。
【0066】
また、前記結晶の化学振動スキームは、例えば、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)により常法に従い評価することができる。装置としては、例えば、Nicolet NEXUS670(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社、米国)が挙げられる。
【0067】
また、前記結晶の微細構造は、例えば、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)により常法に従い評価することができる。装置としては、例えば、JSM-6700F(日本電子株式会社、日本)が挙げられる。前記結晶の表面の電荷蓄積を防止するために、前記結晶にOsなどを用いてスパッタコーティングをしてもよい。
【0068】
本発明の他の一態様は、前記結晶を含む、粉末状組成物である。
前記粉末状組成物は、前記結晶を含む限りその態様は制限されない。前記粉末状組成物は、前記結晶からなる粉末(すなわち、前記粉末状組成物における前記結晶の含有率が100%)であってよいが、他の成分を含んでもよい。前記粉末状組成物における前記結晶の含有率は、好ましくは1%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは30%以上である。尚、前記含有率は、XRDにおけるピーク強度を測定することにより算出できる。
【0069】
本発明の他の一態様は、前記結晶を含む、ブロック材である。
前記ブロック材は、前記結晶を含む限りその態様は制限されない。前記ブロック材は、前記結晶からなるブロック材(すなわち、前記ブロック材における前記結晶の含有率が1
00%)であってよいが、他の成分を含んでもよい。前記ブロック材における前記結晶の含有率は、好ましくは1%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは30%以上である。前記含有率は、例えば、XRDを用いて測定することができる。
【0070】
本発明の他の一態様は、前記結晶を含む、多孔体である。
孔の形状は特に限定されない。通常は、連通多孔体、孤立気孔体、ハニカム構造体などがあげられる。また、気孔率は特に限定されない。好ましくは、30%以上、さらに好ましくは、50%以上、特に好ましくは70%以上である。気孔サイズは特に限定されない、好ましくは10μm以上、1000μm以下、特に好ましくは100μm以上、700μm以下、さらに好ましくは、200μm以上、500μm以下である。
【実施例】
【0071】
以下に実施例を記載するが、いずれの実施例も、限定的な意味として解釈される実施例ではない。尚、以下の実施例におけるX線回折(XRD:MiniFlex600、株式会社リガク、日本)パターンは、ターゲット:Cu、波長:0.15406nmを用いて測定されたものである。
【0072】
[実施例1]シリカ担持OCP粉末の調製
富士フイルム和光純薬工業株式会社より購入したケイ酸ナトリウム溶液試薬を蒸留水にて希釈し、1mol/L Na2SiO3となるように調製した。本希釈溶液を50mL遠沈管に20mL分注したのち、ここに同じく富士フイルム和光純薬工業株式会社より購入したリン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)粉末を2.39g投入し、60℃にて24時間反応させた。反応後の試料を蒸留水で数回洗浄したのち、40℃の乾燥機中にて完全に乾燥させた。
【0073】
(特性評価)
加速電圧及び振幅をそれぞれ40kV、15mAとし、X線回折(XRD:MiniFlex600、株式会社リガク、日本)により、サンプルの結晶学的情報を得た。特性評価については5°/分の操作速度で3°から70°にわたり、結晶学的パラメータ解析については1°/分の操作速度で2°から12°にわたり2θの値で回折角を連続的にスキャンした。
【0074】
また、フーリエ変換赤外分光(FT-IR:Nicolet NEXUS670、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社、米国)により、GeSeで作られた減衰全反射プリズムを有する硫酸トリグリシン検出器(32スキャン、解像度2cm-1)を用いて、サンプルの化学振動スキームの特性を評価した。測定を行うためのバックグラウンドとして大気雰囲気を使用した。
【0075】
また、加速電圧を5kVとし、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM:JSM-6700F、日本電子株式会社、日本)により、サンプルの微細構造を評価した。表面の電荷蓄積を防止するため、サンプルにOsを用いてスパッタコーティングをした。
【0076】
また、加速電圧を15kVとし、蛍光X線分析法(XRF:SEA2210、セイコーインスツルメンツテクノロジー株式会社、日本)により、試料の化学組成を評価した。これにより、ICP-AESでは測定が困難なケイ素の含有量についても測定した。尚、他の元素についても測定を行い、元素比を測定した。
【0077】
サンプルをXRDにて評価した。
図1に異なるケイ酸ナトリウム濃度で処理した試料のXRDパターンを示す。ケイ酸ナトリウム濃度が1mol/Lにおいては、4.7°付近にOCPに特徴的な回折ピークが観察された。一方で、濃度がそれよりも低い場合、濃い
場合いずれにおいてもアパタイトが形成した。ここでOCPピークを示した試料について、便宜上OCP-silicaと呼称することにする。
【0078】
試料中のケイ素含有量について、XRFにて測定した。
図2に、試料中のケイ酸イオンの含有量と処理したケイ酸ナトリウム溶液の濃度の関係性を示す。尚、低濃度においては、出発物質のDCPDが多量に残存していたことから、ここでは測定データは省いてある。OCP-silica中のケイ酸含有量は凡そ18原子%であった。
【0079】
次に、FT-IRにてOCP試料中の官能基の状態について評価した。
図3に、試料のFT-IRスペクトラを示す。参照試料として、二酸化ケイ素粉末、及びケイ素を含まない溶液中で調製したOCP(OCP-Na)のスペクトラについても示す。OCP-silicaでは、OCP-Naに観察される、リン酸カルシウムのピークに加え、二酸化ケイ素の吸収バンドについても観察された。このことから、OCP-silica中にはケイ酸イオンが担持されていることが示唆される。
【0080】
また、含水層に対応し、層間発達を支配する要因であるP5 PO4の吸収バンドについて拡大して評価したところ、OCP-silicaにおいては、P5 PO4の吸収バンドがほとんど観察されなかった。
【0081】
OCP-silicaにおいては、P5 PO
4の吸収バンドがほとんど観察されないにもかかわらず、層状構造をなしていることから、PO
4の状態についてさらに評価した。
図4に、試料の
31P固体NMRスペクトラを示す。OCPの4つあるPの吸収ピーク(P1、P2/P4、P3、P5/P6)のうち、OCP-silicaには、含水層に存在するPO
4に相当するP5/P6に対応するピークが全く観察されなかった。これより、P5/P6の位置、すなわち含水層の部分にケイ酸イオンが置換していることが分かった。
【0082】
OCP-silicaの微細構造について、SEMで観察した。
図5に、試料のSEM像を示す。OCP-silicaにおいては、10-20nm程度の不定形粒子が緻密に集合した構造をなしていた。また、出発物質であるDCPDの形態を維持した仮像状態の構造をなしていた。
【0083】
[実施例2]OCP-silicaからのシリカ含有アパタイトの調製
実施例1にて調製したOCP-silica粉末を出発物質とし、シリカ担持アパタイトの調製を試みた。0.4gのOCP-silica粉末を、0~2mol/Lの(NH4)2CO3溶液20mLに浸漬し、80℃にて3日間反応させた。処理後の粉末は、蒸留水で数回洗浄後、80℃で完全に乾燥させた。
【0084】
(特性評価)
加速電圧及び振幅をそれぞれ40kV、15mAとし、X線回折(XRD:MiniFlex600、株式会社リガク、日本)により、サンプルの結晶学的情報を得た。特性評価については5°/分の操作速度で3°から70°にわたり、結晶学的パラメータ解析については1°/分の操作速度で2°から12°にわたり2θの値で回折角を連続的にスキャンした。
【0085】
また、フーリエ変換赤外分光(FT-IR:Nicolet NEXUS670、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社、米国)により、GeSeで作られた減衰全反射プリズムを有する硫酸トリグリシン検出器(32スキャン、解像度2cm-1)を用いて、サンプルの化学振動スキームの特性を評価した。測定を行うためのバックグラウンドとして大気雰囲気を使用した。
【0086】
また、加速電圧を15kVとし、蛍光X線分析法(XRF:SEA2210、セイコーインスツルメンツテクノロジー株式会社、日本)により、試料の化学組成を評価した。これにより、ICP-AESでは測定が困難なケイ素の含有量についても測定した。尚、他の元素についても測定を行い、元素比を測定した。
【0087】
サンプルをXRDにて評価した。
図6に異なる(NH
4)
2CO
3濃度で処理した試料のXRDパターンを示す。いずれの(NH
4)
2CO
3濃度においても処理後の試料は、アパタイト単相になっていた。
【0088】
次に、試料中の炭酸含有動態についてFT-IRにて測定した。
図7に試料のFT-IRスペクトラを示す。試料のスペクトラは、PO
4の吸収バンドと、シラノール基に対応する吸収バンドの両方が観察され、ケイ酸イオンが含有されていることが分かった。また、(NH
4)
2CO
3濃度の増大に伴い、試料中のCO
3吸収バンドに対応するバンド(1400-1500cm
-1)の吸収強度が増大していることが分かった。
【0089】
試料中のケイ酸含有量について、XRFにて測定した。
図8に試料のケイ酸含有量を示す。処理後のアパタイト試料中には、凡そ15-17原子%のケイ酸イオンが含有されていた。この含有量は、出発物質のOCP-silicaの90-95%程度であった。
【0090】
[実施例3]ケイ酸担持OCP加熱処理によるケイ酸担持リン酸カルシウムの調製
実施例1にて調製したОCP-silicaをアルミナ焼皿に適量載せ、電気炉にて加熱することにより、ОCP-silicaから他のリン酸カルシウムの調製を試みた。この手法の長所として、溶液を介した物質のやり取りが無いため、揮発性成分を除けば、生成物を構成する組成は、出発物質として用いたОCP-silicaと同じになる。
【0091】
加熱後の試料のXRDパターンを、
図9に示す。200℃から、800℃まで加熱した試料については、OCPのピークが消失し、アパタイト単相になった様子が観察された。一方で1000℃以上に加熱した場合は、アパタイトのピークに加え、二酸化ケイ素の化合物であるクリストバライトのピークが確認された。
【0092】
試料の微細構造について、SEMにて観察を行った。
図10に、加熱実験を行った試料のSEM像を示す。800℃までの試料については、加熱前の試料と概形に大きな変化は観察されなかったものの、1000℃以上に加熱した試料では、粒状の構造が基材のОCP-silicaに形成している様子が観察され、1250℃ではその傾向が更に顕著になり、粒状構造のサイズが増大する様子が観察された。
【0093】
[実施例4]ケイ酸担持OCP顆粒の調製
富士フイルム和光純薬工業株式会社より購入したケイ酸ナトリウム溶液試薬を蒸留水にて希釈し、1mol/L Na2SiO3となるように調製した。本希釈溶液を50mL遠沈管に10mL分注したのち、ここに同じく富士フイルム和光純薬工業株式会社より購入したリン酸水素カルシウム二ナトリウム及び、リン酸二水素ナトリウムをそれぞれ蒸留水に溶解させ1mol/L溶液とした溶液を、それぞれ1mL、9mLずつ分注し、混合した。溶液は、混合直後は溶液であったが、直ぐにゼリー状のゲルとなった。本ゼリー状のゲルは、バイブレーターなどで強力に攪拌することで混合によって形成したゲル構造を破壊、細粒化し、流動性を持つゲル流体となった。
【0094】
富士フイルム和光純薬工業株式会社より購入したリン酸二水素カルシウム水和物粉末と、リン酸三カルシウムβ相粉末をモル比1:1にて秤量後、これらを自動乳鉢にて乾燥状態でよく混合し、ブルッシャイトセメント粉末を得たのち、70℃にて保管した。
【0095】
パン型造粒機に前項で調製した粉末を適量投入し、40rpmで回転させ、粉末がパン型造粒機の底面を流れ落ちるように調整後、霧吹きにて蒸留水を噴霧し、硬化反応を惹起させることにより、顆粒状のリン酸水素カルシウム二水和物成型体からなる粒子を得た。これを自動振動ふるいにて分級し、250-500μmの顆粒を得た。これを70℃にて加熱することにより、リン酸水素カルシウムからなる顆粒状粒子を得た。
【0096】
前項にて調製したリン酸水素カルシウム顆粒状粒子1gを、上記の通り調製したゲル流体に浸漬し、70℃にて2日間反応させた。反応後、試料を蒸留水で洗浄することにより
、反応溶液、ゲル流体を除去後、40℃で乾燥させることにより、
図9に示すように顆粒状粒子からなる試料を得た。
【0097】
調製した試料について、実施例1、2同様にXRDにて同定したところ、
図11に示すようにリン酸八カルシウム単相となっていることが確認できた。さらに、FT-IR、XRF測定により、試料中にケイ素イオン及び、シラノール基が検出された。このことから、顆粒状粒子はケイ酸担持リン酸八カルシウムから構成されていることが分かった。
【0098】
顆粒状粒子をSEMにて観察したところ、
図12に示すように板状結晶が緻密に絡み合った構造をなしており、溶解析出反応によりケイ酸担持リン酸八カルシウム結晶が形成し、顆粒状粒子を維持していることが分かった。
【0099】
[実施例5]ケイ酸担持OCP顆粒からのケイ酸担持アパタイト顆粒の調製
実施例4にて調製したケイ酸担持OCP顆粒0.4gを、0-2mol/L炭酸アンモニウ
ム溶液20mLに投入し、80℃にて3日間反応させた。反応後の試料については、蒸留
水で良く洗浄後、乾燥させた。
【0100】
反応後の試料の形状は、炭酸濃度に関わらず、出発物質として用いたケイ酸担持OCP顆粒の概形を保っていた(
図13)。
【0101】
反応後の試料を、実施例4と同様にXRDにて測定したところ、アパタイト単相になっていることを確認した(
図14)。
【0102】
試料中の炭酸含有動態についてFT-IRにて測定した。
図15に試料のFT-IRスペクトラを示す。試料のスペクトラは、PO
4の吸収バンドと、シラノール基に対応する吸収バンドの両方が観察され、ケイ酸イオンが含有されていることが分かった。また、(NH
4)
2CO
3濃度の増大に伴い、試料中のCO
3吸収バンドに対応するバンド(1400-1500cm
-1)の吸収強度が増大していることが分かった(
図15)。