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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】紙カップ用積層体、及び紙カップ
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/10 20060101AFI20240930BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20240930BHJP
   B65D 3/22 20060101ALI20240930BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
B32B27/10
B32B5/18
B65D3/22 B
B65D65/40 D
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020219561
(22)【出願日】2020-12-28
(65)【公開番号】P2022104378
(43)【公開日】2022-07-08
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】上野 友央
(72)【発明者】
【氏名】西野 嘉貢
(72)【発明者】
【氏名】高野 宏行
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-214365(JP,A)
【文献】特開2019-043145(JP,A)
【文献】特開2014-030942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 3/00-3/30
B65D 65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面層として、低密度ポリオレフィンを含む発泡層と、紙基材層と、バイオマスポリエチレン樹脂からなる内面層とを備える紙カップ成型用積層体であって、
紙基材と、内面層の間に、中間層を設けず、
前記内面層を構成するバイオマスポリエチレン樹脂は、
密度0.945g/cm 3 以上、0.960g/cm 3 以下の高密度ポリエチレン樹脂と、
密度0.910g/cm 3 以上、0.925g/cm 3 以下の低密度ポリエチレン樹脂との混合物であり、
且つ、平均密度が0.935g/cm 3 以上、0.945g/cm 3 以下であることを特徴とする、
紙カップ成型用積層体。
【請求項2】
請求項1記載の紙カップ成型用積層体からなる紙カップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス由来のポリエチレン樹脂層を備えた紙カップ成型用積層体、及び紙カップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
持続可能な開発目標(SDGs)を達成すべく、化石燃料からの脱却が望まれており、その一つの手段としてバイオマス素材の活用が提案されている。
【0003】
バイオマス樹脂としては、ポリ乳酸(PLA)が知られているが、ポリオレフィン、PETなどの汎用樹脂とは性質が大きく異なるため、広く普及するには至っていない。このため、再生可能な植物原料からエチレンを製造し、これを用いてバイオマス由来のポリエチレン樹脂(以下「バイオマスポリエチレン樹脂」という)を合成する取り組みが進められている(特許文献1)。
【0004】
ところが、ポリエチレン樹脂の用途は多岐に渡るため、それぞれの用途においてバイオマスポリエチレン樹脂の最適な使用態様は明らかになっていなかった。特に、本発明の対象である紙カップ用途においては、カップにとって重要な物性である成型時のポリエチレン樹脂間で起こる界面剥離や、液漏れについては何ら考慮されていないのが実態であった(特許文献2~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2011-506628号公報
【文献】特開2014-133338号公報
【文献】特開2015-214365号公報
【文献】特開2017-196777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、環境負荷が小さく、成型時の界面剥離や、液体を注いだ際に液漏れしにくい紙カップ用積層体および紙カップを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、少なくとも、紙基材層と、バイオマスポリエチレン樹脂からなる内面層とを備える紙カップ成型用積層体であって、バイオマスポリエチレン樹脂の密度が0.92g/cm3以上、0.95g/cm3以下であることを特徴とする紙カップ成型用積層体により、前記課題を解決し得ることを見出した。
【発明の効果】
【0008】
本発明の完成により、環境負荷が小さく、優れた物性を有する紙カップ用積層体および紙カップを製造することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1の構成を断面図で説明したものである。
図2】脚部の断面図である。
図3】液漏れのルートを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、少なくとも、紙基材層と、バイオマスポリエチレン樹脂からなる内面層とを備える紙カップ成型用積層体に関するものである。以下、詳細について説明を行う。
【0011】
紙基材
本発明の積層体を構成する紙基材には特に限定はないが、非塗工紙、塗工紙などを使用することができる。また、容器としての強靭さを実現する観点から紙基材の坪量は150~400g/m2とすることが好ましく、250~350g/m2とすることがより好ましい。
【0012】
非塗工紙は、原料パルプにクレー、タルク、二酸化チタン、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム粉末等の填料を加え、必要に応じてサイズ剤、紙力増強剤、定着剤等を添加して製造することができる。また、紙面強度を向上させるため、スチレン系樹脂、スチレン・マレイン酸樹脂、澱粉、カルボキシメチル化セルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド等の薬品を表面に塗工してもよい。
【0013】
塗工紙としては、炭酸カルシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム等の顔料と、ポリビニルアルコール、スチレン・ブタジエンラテックス、メチルメタクリレート・ブタジエンラテックス等の接着剤とを含む塗工液を調整し、表面に塗工することで得ることができる。
【0014】
内面層
本発明では、バイオマスポリエチレン樹脂からなる内面層を備えることが必要である。詳細なメカニズムは明らかではないが、内面層にバイオマスポリエチレン樹脂を用いることで、カップ強度やラミネート強度が向上することが明らかになってきた。なお、カップ強度とは、胴部と底部の接着力を指し、カップ強度を高めることで、水などを注いだ際の液漏れを防止できる。また、ラミネート強度とは、紙基材と内面層間のラミネート強度を指し、ラミネート強度を高めることで、界面剥離などの成型時のトラブルを防止できる。
【0015】
ここで、バイオマスポリエチレン樹脂とは、植物由来のエチレンから合成されたポリエチレン樹脂を指す。植物由来のエチレンは、植物(トウモロコシ、サトウキビ、タピオカ等)を発酵させて得られたエタノール等を原料として、周知の方法により製造することができる。なお、本発明では、化石燃料由来のポリエチレン樹脂を石化ポリエチレン樹脂と称し、バイオマスポリエチレン樹脂と区別して扱う。
【0016】
また、「バイオマス度」(ポリオレフィン樹脂中のバイオマス由来の炭素濃度)とは、放射性炭素(C14)測定によりバイオマス由来の炭素の含有量を測定した値であり、より具体的には、バイオベース濃度試験規格「ASTM-D6866-20」に従った測定によって算出された、全炭素中におけるバイオマス起源の炭素の含有量(質量%)をいう。大気中の二酸化炭素にはC14が一定量含まれており、大気中の二酸化炭素を取り入れて成長する植物のC14の含有量も同程度である。一方、化石燃料にはC14が殆ど含まれていない。したがって、ポリオレフィン樹脂に含まれるC14の割合を測定することにより、ポリオレフィン樹脂中のバイオマス由来の炭素濃度「バイオマス度」を算出することができる。
【0017】
なお、本発明では、バイオマス度100%である必要は無く、バイオマス度5%以上のポリエチレン樹脂をバイオマスポリエチレン樹脂と称する。ポリエチレン樹脂の一部をバイオマス由来の素材に置き換えれば、化石燃料の使用量を削減するという目的を達成できるためである。
【0018】
また、本発明では、バイオマスポリエチレン樹脂として、密度が0.93g/cm3以上、0.97g/cm3以下の高密度バイオマスポリエチレン樹脂を含むことが好ましく、0.945g/cm3以上、0.960g/cm3以下の高密度バイオマスポリエチレン樹脂を含むことがより好ましい。高密度バイオマスポリエチレン樹脂を含むことにより、カップ強度が向上し、液体を注いだ際の液漏れを防止できる。
【0019】
さらに、バイオマスポリエチレン樹脂として、密度が0.90g/cm3以上、0.93g/cm3未満の低密度バイオマスポリエチレン樹脂を含むことが好ましく、0.910g/cm3以上、0.925g/cm3以下の低密度バイオマスポリエチレン樹脂を含むことがより好ましい。低密度バイオマスポリエチレン樹脂を含むことによりラミネート強度が向上し、界面剥離を防止することができる。
【0020】
さらに、高密度バイオマスポリエチレン樹脂と低密度バイオマスポリエチレン樹脂を含むだけでなく、内面層を構成するバイオマスポリエチレン樹脂(高密度バイオマスポリエチレン樹脂と低密度バイオマスポリエチレン樹脂の混合物)の平均密度が0.92g/cm3以上、0.95g/cm3以下であることが必要であり、0.935g/cm3以上、0.945g/cm3以下であることがより好ましい。内面層を構成するバイオマスポリエチレン樹脂の平均密度をこの範囲に調整することで、液漏れや界面剥離を防止することができる。
【0021】
さらに、紙基材層と、内面層の間に、中間層を設けない方が好ましい。中間層を設けると使用する資材が増加し、環境負荷が大きくなるためである。なお、やむを得ず中間層を設ける場合には、ポリ乳酸フィルム、PETフィルム、CPPフィルム、OPPフィルムおよびナイロンフィルム等、並びにこれらのフィルムに酸化アルミニウム等を蒸着したバリアフィルムなどを適宜選択して用いることができる。なお、これらのフィルムは、バイオマス由来の原料であるか、化石燃料由来の原料であるかに係わらず使用することができる。
【0022】
外面層
本発明では、紙基材を挟んで内面層とは反対の面に外面層を有していてもよい。外面層を設けることで、防水性や断熱性を高めることができる。
【0023】
本発明では、外面層として発泡層を設けてもよい。この際、発泡層には、密度0.91g/cm3以上、0.93g/cm3未満の低密度ポリオレフィン樹脂を用いることが好ましい。発泡層に融点の低い低密度ポリオレフィン樹脂を用いることで、発泡加工の際に内面層を発泡させることなく、外面層のみを発泡させることができる。
【0024】
外面層を防水層として利用する場合には、外面層の素材に特に限定はなく、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂などを適宜利用することができる。
【0025】
製造方法
内面層及び外面層の形成方法には特に限定はないが、押出ラミネート等を用いることができる。
【0026】
押出ラミネート条件
押出ラミネートの方法としては、シングルラミネート法、タンデムラミネート法、サンドウィッチラミネート法、共押出ラミネート法などを適宜選択することができる。
【0027】
ラミネート時のポリエチレン樹脂の(Tダイ直下)温度としては、260~350℃が好ましく、280~330℃がより好ましい。この範囲であれば、ポリエチレン樹脂層と紙基材間のラミネート強度や、を好適なものとすることができる。また、冷却ロールの表面温度は10~50℃の範囲で制御することが好ましい。
【0028】
ラミネート後のポリエチレン樹脂層の厚みには特に限定はないが、30~150μmが好ましく、40~100μmがより好ましい。この範囲であれば、カップ成型後に充分なカップ強度を実現できる。
【0029】
また、引取速度が遅すぎると、生産性が悪いため、引取速度は40m/分以上が好ましく、60m/分がより好ましい。
一方、引取速度が速すぎると、ポリエチレン樹脂がネックインしやすく生産性が低下しやすい。したがって、引張速度は130m/分以下が好ましく、110m/分以下がより好ましい。
【0030】
次に、エアギャップについて説明する。ここで、エアギャップとはTダイの押出口からニップロールまでの距離を指す。
【0031】
ラミネート加工時のエアギャップを広げすぎるとポリエチレン樹脂がネックインして生産性が低下すため、エアギャップは250mm以下が好ましく、200mm以下がより好ましい。
【0032】
本発明では、ポリエチレン樹脂がエアギャップを通過している間に、オゾンガス及び/又は酸素ガスで表面処理することが好ましい。オゾンガス及び/又は酸素ガスで表面処理することにより、酸化被膜の形成を促進し、基材層とポリエチレン樹脂間のラミネート強度を向上させることができる。オゾンガス及び/又は酸素ガスの処理量には特に限定はないが、ポリエチレン樹脂の酸化を促進する観点で0.5mg/m2以上が好ましい。
【実施例
【0033】
試作例1
(工程1)紙基材の片面に、ポリエチレン樹脂(SBC818:SHC7260LS-L=90:10)を押出ラミネートによって積層し、厚さ40μmの内面層を設けて積層体(試作例1)を製造した。加工条件は以下の通りである。
【0034】
(ラミネート加工条件)
紙基材:水分量23g/m2、坪量320g/m2
押出温度(Tダイ出口温度):320℃
引取速度(ラミネート速度):60m/分
エアギャップ:80mm
【0035】
試作例2~24
内面層に用いるポリエチレン樹脂を表1-1、表1-2の通り変更して、試作例1と同様のラミネート条件で積層体(試作例2~24)を製造した。本実施例で使用したポリエチレン樹脂は表2の通りである。なお、表1~3において、”LDPE”は低密度ポリエチレン樹脂、”HDPE”は高密度ポリエチレン樹脂を指す。また、バイオマスポリエチレン樹脂を”バイオ”、石化ポリエチレン樹脂を”石化”と略して表示している。
【0036】
【表1】
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
試作例1から胴部材と底部材を切り出し、公知の紙カップ成形機を使用して紙カップ(実施例1)を作製した。また、実施例1と同様の方法で、試作例2~24から紙カップ(実施例2~16、比較例1~8)を作製した。
紙カップの形状は以下の通りである。
高さ;107mm(脚部の高さ:9mm)
口径;95mm(口緑部あり)
底径;64mm
テーパー角度;6.5°
【0040】
評価:密度
密度勾配法によるプラスチックの密度の標準試験法(ASTM D1505-10)に従って測定した。なお、事前に試験片(ペレットサンプルから作製)を23℃で40時間静置し、試験片の温度を安定させておいた。
【0041】
評価:ラミネート強度
試作例の内面層(樹脂層側)にカッターで十字の切込み(大きさ:一片約30mm、深さ:約50μm(※切込みが紙基材に達するが、基材を貫通していない程度)を入れ、当該箇所を覆うように粘着テープ(布テープ50mm、25mm巻121-50、ニチバン社製)を貼り付けて、勢いよく粘着テープを剥がした。この際の剥離界面に基づいて以下のように評価した。
なお、紙剥けしている場合と比較して、界面剥離している場合にはラミネート強度も低いため、成型時の不良が起こりやすい。
○(良好):全面的に紙剥けしている。
※紙剥け・・・紙基材が基材破壊を起こしている状態
○△:紙剥けと紙基材/樹脂間の界面剥離が混在しており、紙剥けしている面積が大きい。
△:紙剥けと紙基材/樹脂間の界面剥離が混在しており、界面剥離している面積が大きい。
×(不良):全面的に紙基材/樹脂間の界面剥離が起こっている。
【0042】
評価:液漏れ
紙カップ(実施例1~16、比較例1~8)をそれぞれ50個用意し、ここにスコアロール液300mL充填して、30分間静置後に液漏れが発生した紙カップの個数を数えた。
スコアロール液:水1000mL、スコアロールコンク(スコアロール700、北広ケミカル) 1mL、エリオクロムブラックT 0.5g
【0043】
本実施例によれば、バイオマスポリエチレン樹脂の方が液漏れしにくい傾向であることがわかる。なお、本発明の検討過程で、カップ強度の低下、及び液漏れは以下のような理由で発生することが解ってきた。
先ず、脚部を形成する際には、熱と圧力が掛かり、ポリエチレン樹脂が少なからず流動する。ポリエチレン樹脂の厚みが多少薄くなる程度であれば液漏れには影響しないが、流動性が高い場合には、局所的にポリエチレン樹脂がほとんど存在せず、紙基材同士が相対してしまうような部位(ピンホール)が生じる。そして、ピンホールの発生した紙カップに液体を注いでしばらく静置すると、当該ピンホールから液体が紙基材に浸透して液漏れが起こる。なお、ピンホールが多いほどカップ強度が低下する傾向があるため、カップ強度の強さと液漏れには相関性が認められる。
【0044】
【表3】
【0045】
【表3】
【符号の説明】
【0046】
1・・・紙基材
2・・・内面層
11・・・胴部紙基材
12・・・胴部内面層
21・・・底部紙基材
22・・・底部内面層
31・・・液漏れのルート
図1
図2
図3