(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】樹脂、樹脂前駆体組成物、塗液組成物、電子写真感光体、電子写真感光体の製造方法、成形物および電子デバイス
(51)【国際特許分類】
C08G 64/42 20060101AFI20240930BHJP
C08G 64/04 20060101ALI20240930BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20240930BHJP
C08K 5/3415 20060101ALI20240930BHJP
C09D 169/00 20060101ALI20240930BHJP
G03G 5/05 20060101ALI20240930BHJP
G03G 5/147 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
C08G64/42
C08G64/04
C08L69/00
C08K5/3415
C09D169/00
G03G5/05 101
G03G5/147 502
(21)【出願番号】P 2022512702
(86)(22)【出願日】2021-04-01
(86)【国際出願番号】 JP2021014163
(87)【国際公開番号】W WO2021201227
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2020066230
(32)【優先日】2020-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】彦坂 高明
(72)【発明者】
【氏名】千葉 一徳
(72)【発明者】
【氏名】平田 賢吾
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-511728(JP,A)
【文献】特開2003-286347(JP,A)
【文献】特開平04-366174(JP,A)
【文献】特開平04-117458(JP,A)
【文献】特開平02-088613(JP,A)
【文献】特開平02-233760(JP,A)
【文献】特開平08-059533(JP,A)
【文献】特開昭61-130338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 64/00-64/42
C08L 69/00
C08K 5/3415
C09D 169/00
G03G 5/05
G03G 5/147
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネー
ト樹脂であって、
前記
芳香族ポリカーボネート樹脂は、アリル基とマレイミド基との反応による高分子鎖間の結合を有
し、
前記高分子鎖間の結合は、高分子鎖に2つ以上のアリル構造を有する高分子と、2官能以上のマレイミド基を有する化合物との反応による結合であって、エン反応による結合のみ有するか、ディールス・アルダー反応による結合のみ有するか、又はエン反応による結合及びディールス・アルダー反応による結合の両方を有し、
前記アリル構造は、下記一般式(AL1)で表される構造を含み、
前記マレイミド基は、下記一般式(MA4)で表される構造を含む、
ことを特徴とする樹脂。
【化1】
【化6】
(前記一般式(AL1)において、
X
1
は、各々独立に、
単結合、
-C(-R
11
)
2
-、
-O-、
-S-、
-SO-、
-SO
2
-、
-N(-R
12
)-,
-P(-R
13
)-、
-P=O(-R
14
)-、
カルボニル、
エステル、
アミド、
炭素数2以上、20以下のアルキレン、
炭素数2以上、20以下のアルキリデン、
炭素数8以上、20以下のアルキリデンアリーレンアルキリデン、
環形成炭素数3以上、20以下のシクロアルキレン、
環形成炭素数3以上、20以下のシクロアルキリデン、
環形成炭素数6以上、12以下のアリーレン、
環形成炭素数4以上、20以下のビシクロアルカンジイル、
環形成炭素数5以上、20以下のトリシクロアルカンジイル、
環形成炭素数4以上、20以下のビシクロアルキリデン、
環形成炭素数5以上、20以下のトリシクロアルキリデン、および
ナフチレン基からなる群から選択される1種又は2種以上からなる基であり、
R
11
~R
14
は、各々独立に、
水素原子、
ハロゲン原子、
炭素数1以上、10以下のアルキル、
環形成炭素数6以上、12以下のアリール、または
炭素数1以上、10以下のフッ化アルキルである。)
【請求項2】
請求項
1に記載の樹脂において、
前記高分子鎖間の結合は、高分子鎖の主鎖に2つ以上のアリル基を有する高分子と、2官能以上のマレイミド基を有する化合物との反応による、
ことを特徴とする樹脂。
【請求項3】
請求項
1または請求項
2に記載の樹脂において、
前記高分子は、前記高分子鎖の末端に、アリル構
造を2つ以上持たない、
ことを特徴とする樹脂。
【請求項4】
請求項
1から請求項
3のいずれか一項に記載の樹脂において、
前記高分子は、前記高分子鎖の主鎖中に、アリル構
造を1つ以上持つ、
ことを特徴とする樹脂。
【請求項5】
請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載の樹脂において、
下記一般式(UN1
)で表される構
造を含む、
ことを特徴とする樹脂。
【化7】
(前記一般式(UN1
)において、Ar
3
は、各々独立に、下記一般式(UN11)で表される基である。)
【化8】
(前記一般式(UN11)において、
m3は、0、1または2であり、
n3は、4であり、
複数のR
3は、各々独立に
水素原子、
ハロゲン原子、
炭素数1以上、10以下のアルキル、
環形成炭素数6以上、12以下のアリール、または
炭素数1以上、10以下のフッ化アルキルであり、
X
3は、各々独立に、
単結合、
-C(-R
31)
2-、
-O-、
-S-、
-SO-、
-SO
2-、
-N(-R
32)-,
-P(-R
33)-、
-P=O(-R
34)-、
カルボニル、
エステル、
アミド、
炭素数2以上、20以下のアルキレン、
炭素数2以上、20以下のアルキリデン、
環形成炭素数3以上、20以下のシクロアルキレン、
環形成炭素数3以上、20以下のシクロアルキリデン、
環形成炭素数6以上、20以下のアリーレン、
環形成炭素数4以上、20以下のビシクロアルカンジイル、
環形成炭素数5以上、20以下のトリシクロアルカンジイル、
環形成炭素数4以上、20以下のビシクロアルキリデン、および
環形成炭素数5以上、20以下のトリシクロアルキリデンからなる群から選択される1種または2種以上からなる基であり、
R
31~R
34は、各々独立に、
水素原子、
ハロゲン原子、
炭素数1以上、10以下のアルキル、
環形成炭素数6以上、12以下のアリール、または
炭素数1以上、10以下のフッ化アルキルである。)
【請求項6】
架橋反応により、請求項1から請求項
5のいずれか一項に記載の樹脂を作製できる、
ことを特徴とする樹脂前駆体組成物。
【請求項7】
請求項
6に記載の樹脂前駆体組成物と、有機溶剤とを含む、
ことを特徴とする塗液組成物。
【請求項8】
請求項1から請求項
5のいずれか一項に記載の樹脂を最外層に含む、
ことを特徴とする電子写真感光体。
【請求項9】
請求項
7に記載の塗液組成物を湿式成形法で導電性基体に塗布する工程と、
加熱を行うことにより、前記塗液組成物中の有機溶剤を除去する工程と、
前記有機溶剤を除去する工程における加熱と同時、または引き続き加熱を行うことにより、前記塗液組成物中の樹脂前駆体組成物の架橋反応を行う工程と、を備える、
ことを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【請求項10】
請求項1から請求項
5のいずれか一項に記載の樹脂を含む、
ことを特徴とする成形物。
【請求項11】
請求項1から請求項
5のいずれか一項に記載の樹脂を含む、
ことを特徴とする電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂、樹脂前駆体組成物、塗液組成物、電子写真感光体、電子写真感光体の製造方法、成形物および電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、機械的性質、熱的性質および電気的性質に優れていることから、様々な産業分野において成形品の素材に用いられてきた。近年、ポリカーボネート樹脂は、その光学的性質などをも併せて利用した機能的な製品の分野においても多用されている。そして、ポリカーボネート樹脂が利用される分野の拡大に伴って、ポリカーボネート樹脂に対する要求性能も多様化し、従来のポリカーボネート樹脂だけではなく、様々な化学構造を有するポリカーボネート樹脂が提案されてきている。
【0003】
機能的な製品の一例として、ポリカーボネート樹脂を電荷発生材料および電荷輸送材料といった機能性材料のバインダー樹脂として使用した有機電子写真感光体がある。
この有機電子写真感光体には、適用される電子写真プロセスに応じて、所定の感度、電気特性、および光学特性を備えていることが要求される。電子写真感光体は、その感光層の表面に、コロナ帯電、トナー現像、紙への転写、およびクリーニング処理などの操作が繰返し行われるため、これら操作を行う度に電気的および機械的な外力が加えられる。したがって、長期間にわたって電子写真の画質を維持するためには、電子写真感光体の表面に設けた感光層に、これら外力に対する耐久性が要求される。また、有機電子写真感光体は、通常、機能性材料と共にバインダー樹脂を有機溶剤に溶解し、導電性基板等にキャスト製膜する方法で製造されるため、有機溶剤への溶解性および安定性が求められる。
【0004】
従来、感光体用バインダー樹脂として、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンまたは1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等を原料とするポリカーボネート樹脂が使用されてきたが、耐久性の点で充分に満足できなかった。耐久性の改善策の一つとして、感光層の耐摩耗性を向上させることが考えられる。感光層の耐摩耗性を向上させるための効果的な技術としては、ポリカーボネートを架橋する技術が知られている。
【0005】
特許文献1には、ラジカル開始剤を用いた架橋反応によって、アリル基を有するポリカーボネート樹脂を架橋する技術が開示されている。特許文献1によれば、架橋ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂よりも機械強度(引張り強度等)が良好である。
【0006】
特許文献2には、エポキシ基などを有するポリカーボネート樹脂を、イオン機構で架橋した架橋ポリカーボネート樹脂が記載されている。
【0007】
特許文献3には、二重結合を有するポリカーボネートと複数のケイ素-水素結合を有する化合物とを白金触媒存在下に反応させることによる架橋技術が記載されている。
また、特許文献3には、二重結合を有するポリカーボネートとケイ素原子上にアルコキシ基および水素を有する化合物とを白金触媒存在下に反応させ、その後に加水分解と縮合反応を行うことによる架橋技術が記載されている。
【0008】
特許文献4には、アリル基を有するポリカーボネート共重合体を120℃以上260℃以下に加熱した状態で電子線を照射することによる架橋技術が開示されている。
【0009】
特許文献5には、アリル基を有するポリカーボネートに、特定構造のトリアリールアミン、およびトリアリールアミン構造を持たないラジカル重合性化合物を用いて、無触媒で加熱により架橋する方法が開示されている。
【0010】
特許文献6には、脂肪族-芳香族ポリエステルの末端にアントラセン骨格を有する樹脂をビスマレイミドで鎖長伸長した樹脂が記載されている。
【0011】
特許文献7には、フラン構造を有する脂肪族ポリエステル、ポリアミド、またはポリウレアと多官能マレイミドとの反応による架橋樹脂が開示されている。
【0012】
非特許文献1には、脂肪族-芳香族ポリエステルの一部にアントラセンジカルボン酸骨格を導入した樹脂を2官能のマレイミド化合物で架橋した樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開平10-77338号公報
【文献】特開平9-319102号公報
【文献】特開2000-44668号公報
【文献】特開2007-314719号公報
【文献】特開2010-72019号公報
【文献】特開2003-286347号公報
【文献】米国特許第3435003号明細書
【非特許文献】
【0014】
【文献】Macromolecules 1999,32,5786~5792
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1に記載のポリカーボネート樹脂においては、ラジカル開始剤を使用することで電荷輸送物質(Charge Transport Material,CTM)が変質したり、加えた開始剤が感光体に残存するため感光体として使用した際に残留電位が上昇したりするおそれがあった。
【0016】
特許文献2に記載の架橋ポリカーボネート樹脂においては、開始反応にアミノ基などの求核性基を持つ化合物、または無水カルボン酸基などの酸性基を使用する。そのため、CTMが変質したり、加えた化合物が感光体に残存するため感光体として使用した際に残留電位が上昇するという問題があった。また、特許文献2には、開示された樹脂が架橋していることを確認した記載が無く、開示された物性向上の効果が、架橋構造に由来したものであるかが不明確であった。
【0017】
特許文献3に記載のポリカーボネートにおいては、白金触媒を使用するため、CTMが変質したり、加えた触媒が感光体に残存するため感光体として使用した際に残留電位が上昇するという問題があった。また、塗液中での反応抑制が困難であり、塗液保管中に粘度が上昇したり、ゲル化するなどの問題が有った。
【0018】
特許文献4に記載のポリカーボネートにおいては、電子線を照射した際にCTMが変質し、感光体として使用した際に残留電位が上昇するという問題があった。
【0019】
上記に見られるように、電気特性悪化の原因となるラジカル開始剤、反応触媒を含まず、またCTMを変質させるUV、電子線などを用いること無く架橋ポリカーボネート、および架橋ポリアリレートが得られる例もある。
このような例として、特許文献5には、ラジカル重合活性が高く、開始剤の使用やUVの照射なく加熱するだけでラジカル重合するモノマーを使用し、そこにアリル基を持つポリカーボネートを共存させる技術が報告されている。しかしながら、開始剤や光照射がなくてもラジカル重合するモノマーを使用していることから当該重合性モノマー単独の重合物が主に生成し、相対的にラジカル重合活性が低いアリル基を持つポリカーボネートと当該重合性モノマーの反応確率は低いと考えられる。そのため、得られた組成物はポリマーの緻密な3次元網目構造を持つのではなく、ポリカーボネート樹脂とラジカル重合モノマーの架橋重合物が別々に存在し、その一部分のみが結合された組成物になっていると考えられる。そして、通常、低分子として存在する電荷輸送物質が高分子量化することによる物性向上の効果が支配的で、ポリカーボネート部分が架橋されることによる物性向上は不十分なものであった。また、開始剤がなくてもラジカル重合が進行する高活性な化合物を使用しているため、塗液組成物の段階で重合が進行することを抑制するのが困難であり、塗液保管中の粘度の上昇や、ゲル化などの問題があった。
【0020】
これらの要求を満たしうる架橋技術として、特許文献6には、ポリカーボネート以外の樹脂を用いた例としては、ディールス・アルダー反応による脂肪族-芳香族ポリエステルの分子量伸長反応による直鎖高分子が開示されている。しかしながら、特許文献6に記載の発明の目的は、ディールス・アルダー反応により形成された結合が高温で解離するレトロディールス・アルダー反応を起こすことを利用し、高温では低粘度化により溶融粘度が低下することで熱成形性が向上し、実用温度域では分子量が増大していることで機械物性が向上し、かつ直鎖構造を持つことで可溶性を保持することを特徴とした技術である。そして、この目的は、架橋構造を導入することで耐溶剤性の向上や機械的強度を向上することを目指す本発明の目的とは異なる。また、特許文献6には、当該特許文献6に記載の技術を芳香族ポリカーボネート、または全芳香族ポリエステルに適用することは記載も示唆も無い。
【0021】
また、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、またはポリウレアをディールス・アルダー反応で架橋する例が特許文献7に記載されている。しかしながら、これらの例は、軟質な脂肪族樹脂を架橋することで耐溶剤性の付与と、使用目的であるダイアフラムシールや接着剤に適用可能なエラストマーを得ることを目的としている。そして、これらの例の技術思想は、機械的強度が高い芳香族ポリカーボネートや、全芳香族ポリエステルを架橋によりさらに高強度化する本発明の思想とは異なるものである。また、特許文献7には、当該特許文献7に記載の技術を芳香族ポリカーボネート、または全芳香族ポリエステルに適用することは記載も示唆も無い。
【0022】
非特許文献1には、ポリエチレンテレフタレート(PET)にアントラセンジカルボン酸骨格を導入し、2官能のマレイミド化合物により架橋する例が記載されている。この例の目的は、加熱架橋により機械物性を向上させる点では本発明の目的と類似するが、非特許文献1には、当該非特許文献1に記載の技術をポリカーボネートやポリアリレートに適用する例は記載も示唆も無い。またPETは、電子写真感光体用途に使用することを考えると、通常、塗布溶剤として使用されるTHFなどの有機溶剤への溶解性が低く、またトリアリールアミンなどの電荷輸送物質との相溶性が悪く、当該用途には使用できない。
【0023】
本発明の第一の目的は、電気特性悪化の原因となるラジカル開始剤または反応触媒などを含まず、かつ、電荷輸送物質(CTM)を変質させるUVまたは電子線などを用いること無く製造でき、複数の重合性成分が有る場合に単独成分のみの重合体が実質的に含まれない新規な構造を持つ芳香族ポリカーボネートおよびポリアリレートの少なくともいずれかの樹脂を提供することである。本発明の第二の目的は、塗液組成物の段階での反応が起こりにくいことで特性変化の少ない特徴を持つ樹脂前駆体組成物、および塗液組成物を提供することである。また、本発明の第三の目的は、前記樹脂を含むことにより、耐溶剤性が良好であり、耐摩耗性に優れ、機械的劣化が起こりにくく、残留電位の悪化が無い電子写真感光体および電子写真感光体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の一態様によれば、芳香族ポリカーボネートおよびポリアリレートからなる群から選択される少なくとも1つの樹脂であって、前記樹脂は、アリル基とマレイミド基との反応による高分子鎖間の結合を有することを特徴とする樹脂が提供される。
【0025】
本発明の一態様によれば、架橋反応により、前述の本発明の一態様に係る樹脂を作製できることを特徴とする樹脂前駆体組成物が提供される。
【0026】
本発明の一態様によれば、前述の本発明の一態様に係る樹脂前駆体組成物と、有機溶剤とを含むことを特徴とする塗液組成物が提供される。
【0027】
本発明の一態様によれば、前述の本発明の一態様に係る樹脂を最外層に含むことを特徴とする電子写真感光体が提供される。
【0028】
本発明の一態様によれば、前述の本発明の一態様に係る塗液組成物を湿式成形法で導電性基体に塗布する工程と、加熱を行うことにより、前記塗液組成物中の有機溶剤を除去する工程と、前記有機溶剤を除去する工程における加熱と同時、または引き続き加熱を行うことにより、前記塗液組成物中の樹脂前駆体組成物の架橋反応を行う工程と、を備えることを特徴とする電子写真感光体の製造方法が提供される。
【0029】
本発明の一態様によれば、前述の本発明の一態様に係る樹脂を含むことを特徴とする成形物が提供される。
【0030】
本発明の一態様によれば、前述の本発明の一態様に係る樹脂を含むことを特徴とする電子デバイスが提供される。
【0031】
本発明の一態様によれば、芳香族ポリカーボネートおよびポリアリレートの少なくともいずれかの樹脂において、電気特性悪化の原因となるラジカル開始剤または反応触媒などを含まず、かつ、電荷輸送物質(CTM)を変質させるUVまたは電子線などを用いること無く製造でき、重合性成分の単独重合体が実質的に含まれない新規な構造を持つ樹脂を提供することができる。また、本発明の一態様によれば、塗液組成物の段階での反応が起こりにくいことで特性変化の少ない特徴を持つ樹脂前駆体組成物、および塗液組成物を提供することができる。また、本発明の一態様によれば、前記樹脂を含むことにより、耐摩耗性に優れ、機械的劣化が起こりにくく、残留電位の悪化が無い電子写真感光体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明者らは、前記した課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、アリル基とマレイミド基の反応により架橋可能な構造を有する架橋前駆体ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、およびその共重合樹脂が溶液安定性に優れ、得られた架橋樹脂の耐溶剤性、耐摩耗性が優れ、電子写真感光体として使用した際の電気特性が良好である事を見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成された。
【0033】
[樹脂]
本実施形態に係る樹脂は、芳香族ポリカーボネートおよびポリアリレートからなる群から選択される少なくとも1つの樹脂である。具体的な樹脂としては、芳香族ポリカーボネート、ポリアリレート、および芳香族ポリカーボネート-ポリアリレート共重合体(以下、これらを単に「PC類」ともいう)が挙げられる。
以下に、本発明の一実施形態に係るPC類、このPC類を用いた塗液組成物、電子写真感光体および電子デバイスについて詳細に説明する。
【0034】
本実施形態に係る樹脂は、アリル基とマレイミド基との反応による高分子鎖間の結合を有する。
本実施形態に係る樹脂は、アリル基とマレイミド基との反応により架橋可能な構造を有するアリルおよびマレイミドの少なくとも1つを構造中に有する高分子と、それぞれの相手方の基を持つ架橋剤または高分子との組合せで架橋反応させて得ることができる。
【0035】
本実施形態に係る樹脂における高分子鎖間の結合は、例えば、以下のような組合せの反応により形成できる。
(i)高分子鎖に2つ以上のアリル構造を有する高分子と、2官能以上のマレイミド基を有する化合物との反応
(ii)高分子鎖に2つ以上のマレイミド構造を有する高分子と、2官能以上のアリル基を有する化合物との反応
(iii)高分子鎖に2つ以上のアリル構造を有する高分子と、高分子鎖に2つ以上のマレイミド構造を有する高分子との反応
(iv)一本の高分子鎖にアリル基およびマレイミド基の双方の構造を持ち、高分子鎖一本当たりの前記アリル基および前記マレイミド基の平均個数がそれぞれ1以上である高分子の反応
【0036】
本実施形態に係る樹脂における高分子鎖間の結合は、例えば、下記(i-1)の反応であってもよい。
(i-1)
高分子鎖の主鎖に2つ以上のアリル基を有する高分子と、2官能以上のマレイミド基を有する化合物との反応
【0037】
本実施形態に係る樹脂における高分子鎖間の結合は、例えば、下記(iii-1)~(iii-8)の少なくともいずれかの反応であってもよい。
【0038】
(iii-1)
2つのマレイミド構造を有する高分子であって、高分子鎖の両末端に当該マレイミド構造を1つずつ有する高分子と、
高分子鎖に2つを超えるアリル構造を有する高分子と、の反応
【0039】
(iii-2)
2つのマレイミド構造を有する高分子であって、高分子鎖の両末端に当該マレイミド構造を1つずつ有する高分子と、
高分子鎖に2つを超えるアリル構造を有する高分子であって、当該高分子鎖の両末端に当該アリル構造を1つずつ有し、かつ主鎖内にも当該アリル構造を1以上有する高分子と、の反応
【0040】
(iii-3)
2つのマレイミド構造を有する高分子であって、高分子鎖の両末端に当該マレイミド構造を1つずつ有する高分子と、
高分子鎖に2つを超えるアリル構造を有する高分子であって、当該高分子鎖の一方の末端に当該アリル構造を1つ有し、他方の末端には当該アリル構造を有さず、かつ主鎖内に当該アリル構造を2つ以上有する高分子と、の反応
【0041】
(iii-4)
2つのマレイミド構造を有する高分子であって、高分子鎖の両末端に当該マレイミド構造を1つずつ有する高分子と、
高分子鎖の両末端にはアリル構造を有さず、かつ主鎖内に2つを超えるアリル構造を有する高分子と、の反応
【0042】
(iii-5)
2つのアリル構造を有する高分子であって、高分子鎖の両末端に当該アリル構造を1つずつ有する高分子と、
高分子鎖に2つを超えるマレイミド構造を有する高分子との反応
【0043】
(iii-6)
2つのアリル構造を有する高分子であって、高分子鎖の両末端に当該アリル構造を1つずつ有する高分子と、
高分子鎖に2つを超えるマレイミド構造を有する高分子であって、当該高分子鎖の両末端にマレイミド構造を1つずつ有し、かつ主鎖内にもマレイミド構造を1つ以上有する高分子と、の反応
【0044】
(iii-7)
2つのアリル構造を有する高分子であって、高分子鎖の両末端に当該アリル構造を1つずつ有する高分子と、
高分子鎖に2つを超えるマレイミド構造を有する高分子であって、当該高分子鎖の一方の末端にマレイミド構造を1つ有し、他方の末端にはマレイミド構造を有さず、かつ主鎖内にマレイミド構造を2つ以上有する高分子と、の反応
【0045】
(iii-8)
2つのアリル構造を有する高分子であって、高分子鎖の両末端に当該アリル構造を1つずつ有する高分子と、
高分子鎖の両末端にはマレイミド構造を有さず、かつ主鎖内に2つを超えるマレイミド構造を有する高分子と、の反応
【0046】
本実施形態に係る樹脂における高分子鎖間の結合に使用される高分子は、高分子鎖の末端に、アリル構造およびマレイミド構造の少なくとも一方を2つ以上持たないことも好ましい。
【0047】
例えば、前記(i)の反応の場合、2つ以上のアリル構造を有する高分子において、高分子鎖の一方の末端及び他方の末端の少なくともいずれかの末端には、アリル構造が結合していなくてもよく、また、高分子鎖の末端にはアリル構造が結合していなくてもよい。
【0048】
例えば、前記(ii)の反応の場合、2つ以上のマレイミド構造を有する高分子において、高分子鎖の一方の末端及び他方の末端の少なくともいずれかの末端には、マレイミド構造が結合していなくてもよく、また、高分子鎖の末端にはマレイミド構造が結合していなくてもよい。
【0049】
例えば、前記(iii)の反応の場合、2つ以上のアリル構造を有する高分子において、高分子鎖の一方の末端及び他方の末端の少なくともいずれかの末端には、アリル構造が結合しておらず、かつ、2つ以上のマレイミド構造を有する高分子において、高分子鎖の一方の末端及び他方の末端の少なくともいずれかの末端には、マレイミド構造が結合していなくてもよく、また、高分子鎖の末端にはアリル構造及びマレイミド構造が結合していなくてもよい。
【0050】
本実施形態に係る樹脂における高分子鎖間の結合に使用される高分子は、高分子鎖の主鎖中に、アリル構造およびマレイミド構造の少なくとも一方を1つ以上持つことも好ましい。
【0051】
例えば、前記(i)の反応の場合、2つ以上のアリル構造を有する高分子において、高分子鎖の主鎖にアリル構造が1つ以上結合していてもよく、また、高分子鎖の主鎖に全てのアリル構造が結合していてもよい。
【0052】
例えば、前記(ii)の反応の場合、2つ以上のマレイミド構造を有する高分子において、高分子鎖の主鎖にマレイミド構造が1つ以上結合していてもよく、また、高分子鎖の主鎖に全てのマレイミド構造が結合していてもよい。
【0053】
例えば、前記(iii)の反応の場合、2つ以上のアリル構造を有する高分子において、高分子鎖の主鎖にアリル構造が1つ以上結合し、かつ、2つ以上のマレイミド構造を有する高分子において、高分子鎖の主鎖にマレイミド構造が1つ以上結合していてもよい。
また、例えば、前記(iii)の反応の場合、2つ以上のアリル構造を有する高分子において、高分子鎖の主鎖に全てのアリル構造が結合し、かつ、2つ以上のマレイミド構造を有する高分子において、高分子鎖の主鎖に全てのマレイミド構造が結合していてもよい。
【0054】
高分子鎖の主鎖にアリル構造又はマレイミド構造が結合する場合、アリル構造又はマレイミド構造が、高分子鎖の主鎖に直接結合していてもよいし、他の基を介して高分子鎖の主鎖に結合していてもよい。
【0055】
本実施形態に係る樹脂における高分子鎖間の結合に使用される高分子は、高分子鎖の末端に、アリル基およびマレイミド基の少なくとも一方を2つ以上持たないことも好ましい。
【0056】
例えば、前記(iv)の反応の場合、一本の高分子鎖にアリル基およびマレイミド基の双方の構造を持つ高分子としては、以下の態様の高分子が挙げられる。
(iv-1)高分子鎖の一方の末端及び他方の末端の少なくともいずれかの末端には、アリル基およびマレイミド基が結合していない高分子
(iv-2)高分子鎖の一方の末端には、アリル基およびマレイミド基の一方が結合し、高分子鎖の他方の末端には、アリル基およびマレイミド基のいずれも結合せず、高分子鎖の主鎖にアリル基およびマレイミド基の他方が少なくとも1つ結合する高分子
(iv-3)高分子鎖の末端にはアリル基およびマレイミド基が結合していない高分子
【0057】
本実施形態に係る樹脂における高分子鎖間の結合に使用される高分子は、高分子鎖の主鎖中に、アリル基およびマレイミド基の少なくとも一方を1つ以上持つことも好ましい。
【0058】
例えば、前記(iv)の反応の場合、一本の高分子鎖にアリル基およびマレイミド基の双方の構造を持つ高分子において、高分子鎖の主鎖にアリル基およびマレイミド基のいずれか1つ以上が結合していてもよく、また、高分子鎖の主鎖に全てのアリル基およびマレイミド基が結合していてもよい。
【0059】
例えば、前記(iv)の反応の場合、一本の高分子鎖にアリル基およびマレイミド基の双方の構造を持つ高分子としては、以下の態様の高分子が挙げられる。
(iv-4)高分子鎖の両末端にマレイミド基が1つずつ結合し、かつ高分子鎖の主鎖にアリル基が少なくとも1つ結合する高分子
【0060】
高分子鎖の主鎖にアリル基又はマレイミド基が結合する場合、アリル基又はマレイミド基が、高分子鎖の主鎖に直接結合していてもよいし、他の基を介して高分子鎖の主鎖に結合していてもよい。
【0061】
本実施形態に係る樹脂における高分子鎖間の結合は、高分子鎖の末端同士のみの結合ではないことも好ましい。
すなわち、本実施形態に係る樹脂における高分子鎖間の結合は、一方の高分子の末端に結合しているアリル基およびマレイミド基の一方と、他方の高分子の主鎖に結合しているアリル基およびマレイミド基の他方との結合であるか、及び一方の高分子の主鎖に結合しているアリル基およびマレイミド基の一方と、他方の高分子の主鎖に結合しているアリル基およびマレイミド基の他方との結合の少なくともいずれかを持つことも好ましい。
【0062】
高分子鎖の末端同士のみの結合ではないことにより、高分子鎖同士の3次元架橋が起こり、樹脂の耐溶剤性などが向上し易くなる。
また、高分子鎖の末端同士の結合でなくても、反応性基を2つ持つ高分子鎖同士の結合の場合も、同様に3次元架橋は起こらず、直鎖状の高分子になる。そのため、本実施形態に係る樹脂における高分子鎖間の結合は、高分子鎖に2つの反応点(反応性基)を持つ高分子同士(例えば、末端に反応性基を持つ高分子同士)のみの反応による結合ではないことも好ましい。
【0063】
また、本実施形態に係る樹脂における高分子鎖間の結合は、高分子鎖の末端同士の結合を含んでいてもよい。
【0064】
本実施形態において、アリル基またはアリル構造としては、マレイミド基と反応を起こす構造であれば、特に限定されずに適用できる。反応性の高さより、例えば、ジアリルビスフェノール骨格を有する化合物または樹脂、アリルフェノール、並びにオイゲノールが挙げられる。
【0065】
本実施形態において、アリル基またはアリル構造は、下記式(AL1)、(AL2)および(AL3)で表される構造の少なくともいずれかの構造を含むことが好ましい。下記式(AL1)で表されるアリル構造は、アリル基を2つ有する。
【0066】
【0067】
【0068】
(前記一般式(AL1)において、
X1は、各々独立に、
単結合、
-C(-R11)2-、
-O-、
-S-、
-SO-、
-SO2-、
-N(-R12)-,
-P(-R13)-、
-P=O(-R14)-、
カルボニル、
エステル、
アミド、
炭素数2以上、20以下のアルキレン、
炭素数2以上、20以下のアルキリデン、
炭素数8以上、20以下のアルキリデンアリーレンアルキリデン、
環形成炭素数3以上、20以下のシクロアルキレン、
環形成炭素数3以上、20以下のシクロアルキリデン、
環形成炭素数6以上、12以下のアリーレン、
環形成炭素数4以上、20以下のビシクロアルカンジイル、
環形成炭素数5以上、20以下のトリシクロアルカンジイル、
環形成炭素数4以上、20以下のビシクロアルキリデン、
環形成炭素数5以上、20以下のトリシクロアルキリデン、および
ナフチレン基からなる群から選択される1種又は2種以上からなる基であり、
R11~R14は、各々独立に、
水素原子、
ハロゲン原子、
炭素数1以上、10以下のアルキル、
環形成炭素数6以上、12以下のアリール、または
炭素数1以上、10以下のフッ化アルキルである。)
前記一般式(AL1)~(AL3)において、*は、結合位置を示す。
【0069】
本実施形態において、マレイミド基またはマレイミド構造としては、アリル基と反応を起こす構造であれば、特に限定されずに適用でき、以下ものが好適に使用される。
マレイミド基またはマレイミド構造を有する化合物または樹脂としては、例えば、4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、m-フェニレンビスマレイミド、ビスフェノール A ジフェニルエーテルビスマレイミド(2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、)、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、1,6-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン、4,4’-ジフェニルエーテルビスマレイミド、4,4’-ジフェニルスルフォンビスマレイミド、1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、4,4’-メチレンジアニリンを有するジフェニルメタン-4,4’-ビスマレイミドポリマー、N,N’-(2,2’-ジエチル-6,6’-ジメチレンジフェニレン)ビスマレイミド、N,N’-(4-メチル-m-フェニレン)ビスマレイミド、N,N’-m-フェニレンジマレイミド、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、ポリフェニルメタンビスマレイミドなどのビスマレイミド類、N-フェニルマレイミドなどのモノマレイミド類、下記化合物(MA4-1)で分子末端が停止された構造を有するPC類が挙げられる。
【0070】
【0071】
本実施形態において、マレイミド基またはマレイミド構造は、下記一般式(MA1)で表される構造を含むことが好ましい。
【0072】
【0073】
(前記一般式(MA1)において、
X2は、単結合、又は他の骨格との連結基であり、
当該連結基としてのX2は、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子およびホウ素原子からなる群から選択される少なくともいずれかの原子を含み、連結基を構成する原子同士の結合様式が全て共有結合からなる基である。)
前記一般式(MA1)において、*は、結合位置を示す。
【0074】
本実施形態において、マレイミド基またはマレイミド構造を複数有する化合物または高分子が、前記一般式(MA1)で表される構造を複数含むことも好ましい。
当該化合物または高分子が前記一般式(MA1)で表される構造を複数含む場合、複数の前記一般式(MA1)で表される構造は、互いに同一であるか又は異なり、複数の前記一般式(MA1)で表される構造は、互いに単結合で結合するか又は他の基を介して連結されていることが好ましい。
【0075】
本実施形態において、マレイミド基またはマレイミド構造は、下記一般式(MA2)および一般式(MA3)で表される構造の少なくともいずれかの構造中に含まれることが好ましい。
【0076】
【0077】
【0078】
(前記一般式(MA2)におけるX2、並びに前記一般式(MA3)におけるX21およびX22は、各々独立に、前記一般式(MA1)におけるX2と同義であり、
前記一般式(MA3)におけるY2は、芳香族ポリカーボネート骨格またはポリアリレート骨格を含む基である。)
【0079】
本実施形態において、マレイミド基またはマレイミド構造は、下記一般式(MA4)で表される構造を含むことが好ましい。下記一般式(MA4)において、*は、結合位置を示す。
【0080】
【0081】
本実施形態において、アリル基またはアリル構造と、マレイミド基またはマレイミド構造との割合は、目標とする物性や目的とする用途に応じて適宜設定可能である。
マレイミド基のモル数MMAに対するアリル基のモル数MALのモル比(MAL/MMA)は、0.01以上、100以下であることが好ましく、0.1以上、10以下であることがより好ましく、0.2以上、5以下であることがさらに好ましい。モル比MAL/MMAが0.01以上、100以下であれば、架橋が十分に進行し、耐溶剤性および機械物性が向上し易い。
【0082】
本実施形態に係る樹脂が有する、アリル基とマレイミド基との反応による高分子鎖間の結合としては、例えば、以下の構造のような結合が挙げられる。
【0083】
【0084】
【0085】
(前記一般式(CL-AM11)および(CL-AM12)において、X1は、前記一般式(AL1)におけるX1と同義であり、X2は、前記一般式(MA1)におけるX2と同義であり、*は、結合位置を示す。)
【0086】
(前記一般式(CL-AM13)において、X1は、前記一般式(AL1)におけるX1と同義であり、X21およびX22は、各々独立に、前記一般式(MA1)におけるX2と同義であり、Y2は、前記一般式(MA3)におけるY2と同義であり、*は、結合位置を示す。)
【0087】
【0088】
【0089】
(前記一般式(CL-AM21)、(CL-AM22)、(CL-AM31)および(CL-AM32)において、X2は、前記一般式(MA1)におけるX2と同義であり、*は、結合位置を示す。)
【0090】
(前記一般式(CL-AM23)および(CL-AM33)において、X21およびX22は、各々独立に、前記一般式(MA1)におけるX2と同義であり、Y2は、前記一般式(MA3)におけるY2と同義であり、*は、結合位置を示す。)
【0091】
【0092】
(前記一般式(CL-AM14)において、X1は、前記一般式(AL1)におけるX1と同義であり、前記一般式(CL-AM14)、(CL-AM24)及び(CL-AM34)において、*は、結合位置を示す。)
【0093】
高分子鎖間の結合は、アリル基とマレイミド基とのエン反応(Ene reaction)による結合でもよく、アリル基とマレイミド基とのエン反応に続いて起こるディールス・アルダー反応(Diels-Alder reaction)による結合でもよい。本実施形態に係る樹脂は、アリル基とマレイミド基との反応による高分子鎖間の結合として、エン反応による結合のみ有していてもよいし、ディールス・アルダー反応による結合のみ有していてもよいし、エン反応による結合及びディールス・アルダー反応による結合の両方を有していてもよい。例えば、前記一般式(CL-AM11)において、エン反応による両方の結合に対して、さらに、ディールス・アルダー反応が起こり、下記一般式(CL-AM111)で表される結合が形成されていてもよい。また、例えば、前記一般式(CL-AM11)において、エン反応による一方の結合に対して、さらに、ディールス・アルダー反応が起こり、エン反応による他方の結合に対してはディールス・アルダー反応が起こらず、下記一般式(CL-AM112)又は(CL-AM113)で表される結合が形成されていてもよい。前記一般式(CL-AM12)、(CL-AM13)、(CL-AM14)、(CL-AM21)、(CL-AM22)、(CL-AM23)、(CL-AM24)、(CL-AM31)、(CL-AM32)、(CL-AM33)および(CL-AM34)で表される結合においても、エン反応による結合の少なくともいずれかの結合に対してディールス・アルダー反応が起こって結合が形成されていてもよい。
【0094】
【0095】
【0096】
(前記一般式(CL-AM111)、(CL-AM112)および(CL-AM113)において、X1は、前記一般式(AL1)におけるX1と同義であり、X2は、前記一般式(MA1)におけるX2と同義であり、*は、結合位置を示す。)
【0097】
本実施形態に係る樹脂は、下記一般式(UN1)および一般式(UN2)で表される構造の少なくともいずれかの構造を含むことが好ましい。
【0098】
【0099】
(前記一般式(UN1)および一般式(UN2)において、Ar3、Ar31およびAr32は、各々独立に、下記一般式(UN11)で表される基である。)
前記一般式(UN1)および一般式(UN2)において、*は、結合位置を示す。
【0100】
【0101】
(前記一般式(UN11)において、
m3は、0、1または2であり、
n3は、4であり、
複数のR3は、各々独立に
水素原子、
ハロゲン原子、
炭素数1以上、10以下のアルキル、
環形成炭素数6以上、12以下のアリール、または
炭素数1以上、10以下のフッ化アルキルであり、
X3は、各々独立に、
単結合、
-C(-R31)2-、
-O-、
-S-、
-SO-、
-SO2-、
-N(-R32)-,
-P(-R33)-、
-P=O(-R34)-、
カルボニル、
エステル、
アミド、
炭素数2以上、20以下のアルキレン、
炭素数2以上、20以下のアルキリデン、
環形成炭素数3以上、20以下のシクロアルキレン、
環形成炭素数3以上、20以下のシクロアルキリデン、
環形成炭素数6以上、20以下のアリーレン、
環形成炭素数4以上、20以下のビシクロアルカンジイル、
環形成炭素数5以上、20以下のトリシクロアルカンジイル、
環形成炭素数4以上、20以下のビシクロアルキリデン、および
環形成炭素数5以上、20以下のトリシクロアルキリデンからなる群から選択される1種または2種以上からなる基であり、
R31~R34は、各々独立に、
水素原子、
ハロゲン原子、
炭素数1以上、10以下のアルキル、
環形成炭素数6以上、12以下のアリール、または
炭素数1以上、10以下のフッ化アルキルである。)
前記一般式(UN11)において、*は、結合位置を示す。
【0102】
前記一般式(AL1)中のR11~R14並びに前記一般式(UN11)中のR3が示すハロゲン原子は、各々独立に、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子が挙げられる。
【0103】
前記一般式(AL1)中のR11~R14並びに一般式(UN11)中のR3が示す炭素数1以上、10以下のアルキルは、各々独立に、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル、イソヘキシル、sec-ヘキシル、tert-ヘキシル、イソヘプチル、sec-ヘプチル、tert-ヘプチル、イソオクチル、sec-オクチル、tert-オクチル、イソノニル、sec-ノニル、tert-ノニル、イソデシル、sec-デシル、およびtert-デシル等の基が挙げられる。
【0104】
前記一般式(AL1)中のR11~R14並びに前記一般式(UN11)中のR3が示す環形成炭素数6以上、12以下のアリールは、各々独立に、例えば、フェニル、ナフチル、およびビフェニル等の基が挙げられる。
【0105】
前記一般式(AL1)中のR11~R14並びに前記一般式(UN11)中のR3が示す炭素数1以上、10以下のフッ化アルキルは、各々独立に、例えば、前述の一般式(UN11)のR3が示す炭素数1以上、10以下のアルキルで例示したアルキルにおいて、炭素原子が持つ少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換されたアルキルの基が挙げられる。
【0106】
前記一般式(AL1)中のX1並びに前記一般式(UN11)中のX3が示す炭素数2以上、20以下のアルキレンは、各々独立に、直鎖状又は分岐状のアルキレン基が挙げられ、例えば、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、へキシレン、オクチレン、およびデシレン等の基が挙げられる。
前記一般式(AL1)中のX1並びに前記一般式(UN11)中のX3が示す炭素数2以上、20以下のアルキリデンは、各々独立に、例えば、エチリデン、プロピリデン、ブチリデン、ヘキシリデン、オクチリデン、デシリデン、ペンタデシリデン、およびイコシリデン等の基が挙げられる。
【0107】
前記一般式(AL1)中のX1並びに前記一般式(UN11)中のX3が示す炭素数3以上、20以下のシクロアルキレンは、各々独立に、例えば、シクロプロピレン、シクロブチレン、シクロへキシレン、シクロオクチレン、シクロデシレン、シクロペンタデシレン、およびシクロイコシレン等の基が挙げられる。
前記一般式(AL1)中のX1並びに前記一般式(UN11)中のX3が示す炭素数3以上、20以下のシクロアルキリデンは、各々独立に、例えば、シクロプロピリデン、シクロブチリデン、シクロヘキシリデン、シクロオクチリデン、シクロデシリデン、シクロペンタデシリデン、シクロドデシリデン、およびシクロイコシリデン等の基が挙げられる。
前記一般式(AL1)中のX1が示す環形成炭素数6以上、12以下のアリーレン並びに前記一般式(UN11)中のX3が示す環形成炭素数6以上、20以下のアリーレンは、各々独立に、例えば、フェニレン、ナフチレン、およびビフェニレン等の基が挙げられる。
【0108】
前記一般式(AL1)中のX1が示す炭素数8以上、20以下のアルキリデンアリーレンアルキリデンは、各々独立に、前述の例示したアルキリデンおよびアリーレンがこの順番で結合してなる基が挙げられる。アルキリデンアリーレンアルキリデンとしては、例えば、下記式(L1)又は式(L2)で表される基が挙げられる。
【0109】
【0110】
前記一般式(AL1)中のX1並びに前記一般式(UN11)中のX3が示す環形成炭素数4以上、20以下のビシクロアルカンジイルは、各々独立に、例えば、上述のシクロアルキレンの二環体が例示され、環形成炭素数5以上、20以下のトリシクロアルカンジイルは、各々独立に、上述のシクロアルキレンの三環体が例示される。例えば、アダマンタンジイル基、およびトリシクロデカンジイル基等の基が挙げられる。
前記一般式(AL1)中のX1並びに前記一般式(UN11)中のX3が示す環形成炭素数4以上、20以下のビシクロアルキリデンは、各々独立に、上述のシクロアルキリデンの二環体が例示され、環形成炭素数5以上、20以下のトリシクロアルキリデンは、各々独立に、上述のシクロアルキリデンの三環体が例示される。例えば、アダマンチリデン基、トリシクロデカニリデン基、およびトリシクロデシリデン基等の基が挙げられる。
【0111】
前記一般式(UN11)中、X3のR31からR34が示すハロゲン原子、炭素数1以上、10以下のアルキル、環形成炭素数6以上、12以下のアリール、および炭素数1以上、10以下のフッ化アルキルは、前記一般式(UN11)中のR3が示す基と同様の基が例示される。
【0112】
[樹脂前駆体組成物]
本実施形態に係る樹脂前駆体組成物は、架橋反応により、前述の本実施形態に係る樹脂を作製できる。
すなわち、本実施形態に係る樹脂前駆体組成物は、アリル基とマレイミド基との反応により架橋可能な構造を有するアリルおよびマレイミドの少なくとも1つを構造中に有する高分子と、それぞれの相手方の基を有する架橋剤または高分子とを含む。
なお、架橋反応可能な基の組み合わせとして、一方がアリル基である場合の「相手方」は、マレイミド基であり、一方がマレイミド基である場合の「相手方」は、アリル基である。
【0113】
本実施形態に係る樹脂前駆体組成物において、アリル基またはアリル構造を有する化合物または高分子、マレイミド基またはマレイミド構造を有する化合物または高分子、並びにアリル基とマレイミド基との割合については、本実施形態に係る樹脂と同様である。
【0114】
樹脂前駆体組成物中のアリル基、およびマレイミド基の濃度は、目標とする物性や目的とする用途に応じて適宜設定可能だが、アリル基、およびマレイミド基の少なくともいずれかの基を持つ組成物の合計量に対して、アリル基の合計モル数、およびマレイミド基の合計モル数のうち少ない方のモル数で計算したものを官能基濃度とした場合、この官能基濃度は、0.01mmol/g以上、10mmol/g以下であることが好ましく、0.03mmol/g以上、7mmol/g以下であることがより好ましく、0.1mmol/g以上、5mmol/g以下であることがさらに好ましく、0.3mmol/g以上、5mmol/g以下であることがよりさらに好ましい。
この官能基濃度が0.01mmol/g以上であれば、耐溶剤性および機械物性を向上させるための架橋密度を得やすい。
この官能基濃度が10mmol/g以下であれば、架橋密度が高くなり過ぎることを抑制し易い。架橋密度が高くなり過ぎると、架橋物の靭性が不足したり、未反応の官能基が残りやすく、架橋反応やその他の副反応が経時的に進行して、材料の物性が変化したり、劣化したりするおそれがある。
【0115】
本実施形態に係る樹脂前駆体組成物は、例えば、以下の(b1)~(b4)の少なくともいずれかの成分を含有していることが好ましい。
(b1)高分子鎖に2つ以上のアリル構造を有する高分子および2官能以上のマレイミド基を有する化合物
(b2)高分子鎖に2つ以上のマレイミド構造を有する高分子および2官能以上のアリル基を有する化合物
(b3)高分子鎖に2つ以上のアリル構造を有する高分子および高分子鎖に2つ以上のマレイミド構造を有する高分子
(b4)一本の高分子鎖にアリル基およびマレイミド基の双方の構造を持ち、高分子鎖一本当たりの前記アリル基および前記マレイミド基の平均個数がそれぞれ1以上である高分子
【0116】
本実施形態に係る樹脂前駆体組成物は、例えば、下記(b1-1)の成分を含有していることも好ましい。
【0117】
(b1-1)
高分子鎖の主鎖に2つ以上のアリル基を有する高分子と、2官能以上のマレイミド基を有する化合物
【0118】
本実施形態に係る樹脂前駆体組成物は、例えば、以下の(b3-1)~(b3-8)の少なくともいずれかの成分を含有していることも好ましい。
【0119】
(b3-1)
2つのマレイミド構造を有する高分子であって、高分子鎖の両末端に当該マレイミド構造を1つずつ有する高分子、及び
高分子鎖に2つを超えるアリル構造を有する高分子
【0120】
(b3-2)
2つのマレイミド構造を有する高分子であって、高分子鎖の両末端に当該マレイミド構造を1つずつ有する高分子、及び
高分子鎖に2つを超えるアリル構造を有する高分子であって、当該高分子鎖の両末端に当該アリル構造を1つずつ有し、かつ主鎖内にも当該アリル構造を1以上有する高分子
【0121】
(b3-3)
2つのマレイミド構造を有する高分子であって、高分子鎖の両末端に当該マレイミド構造を1つずつ有する高分子、及び
高分子鎖に2つを超えるアリル構造を有する高分子であって、当該高分子鎖の一方の末端に当該アリル構造を1つ有し、他方の末端には当該アリル構造を有さず、かつ主鎖内に当該アリル構造を2つ以上有する高分子
【0122】
(b3-4)
2つのマレイミド構造を有する高分子であって、高分子鎖の両末端に当該マレイミド構造を1つずつ有する高分子、及び
高分子鎖の両末端にはアリル構造を有さず、かつ主鎖内に2つを超えるアリル構造を有する高分子
【0123】
(b3-5)
2つのアリル構造を有する高分子であって、高分子鎖の両末端に当該アリル構造を1つずつ有する高分子、及び
高分子鎖に2つを超えるマレイミド構造を有する高分子
【0124】
(b3-6)
2つのアリル構造を有する高分子であって、高分子鎖の両末端に当該アリル構造を1つずつ有する高分子、及び
高分子鎖に2つを超えるマレイミド構造を有する高分子であって、当該高分子鎖の両末端にマレイミド構造を1つずつ有し、かつ主鎖内にもマレイミド構造を1つ以上有する高分子
【0125】
(b3-7)
2つのアリル構造を有する高分子であって、高分子鎖の両末端に当該アリル構造を1つずつ有する高分子、及び
高分子鎖に2つを超えるマレイミド構造を有する高分子であって、当該高分子鎖の一方の末端にマレイミド構造を1つ有し、他方の末端にはマレイミド構造を有さず、かつ主鎖内にマレイミド構造を2つ以上有する高分子
【0126】
(b3-8)
2つのアリル構造を有する高分子であって、高分子鎖の両末端に当該アリル構造を1つずつ有する高分子、及び
高分子鎖の両末端にはマレイミド構造を有さず、かつ主鎖内に2つを超えるマレイミド構造を有する高分子
【0127】
本実施形態に係る樹脂前駆体組成物が含有する高分子は、高分子鎖の末端に、アリル構造およびマレイミド構造の少なくとも一方を2つ以上持たないことも好ましい。
【0128】
例えば、前記(b1)の成分を含有する組成物の場合、2つ以上のアリル構造を有する高分子において、高分子鎖の一方の末端及び他方の末端の少なくともいずれかの末端には、アリル構造が結合していなくてもよく、また、高分子鎖の末端にはアリル構造が結合していなくてもよい。
【0129】
例えば、前記(b2)の成分を含有する組成物の場合、2つ以上のマレイミド構造を有する高分子において、高分子鎖の一方の末端及び他方の末端の少なくともいずれかの末端には、マレイミド構造が結合していなくてもよく、また、高分子鎖の末端にはマレイミド構造が結合していなくてもよい。
【0130】
例えば、前記(b3)の成分を含有する組成物の場合、2つ以上のアリル構造を有する高分子において、高分子鎖の一方の末端及び他方の末端の少なくともいずれかの末端には、アリル構造が結合しておらず、かつ、2つ以上のマレイミド構造を有する高分子において、高分子鎖の一方の末端及び他方の末端の少なくともいずれかの末端には、マレイミド構造が結合していなくてもよく、また、高分子鎖の末端にはアリル構造及びマレイミド構造が結合していなくてもよい。
【0131】
本実施形態に係る樹脂前駆体組成物が含有する高分子は、高分子鎖の主鎖中に、アリル構造およびマレイミド構造の少なくとも一方を1つ以上持つことも好ましい。
【0132】
例えば、前記(b1)の成分を含有する組成物の場合、2つ以上のアリル構造を有する高分子において、高分子鎖の主鎖にアリル構造が1つ以上結合していてもよく、また、高分子鎖の主鎖に全てのアリル構造が結合していてもよい。
【0133】
例えば、前記(b2)の成分を含有する組成物の場合、2つ以上のマレイミド構造を有する高分子において、高分子鎖の主鎖にマレイミド構造が1つ以上結合していてもよく、また、高分子鎖の主鎖に全てのマレイミド構造が結合していてもよい。
【0134】
例えば、前記(b3)の成分を含有する組成物の場合、2つ以上のアリル構造を有する高分子において、高分子鎖の主鎖にアリル構造が1つ以上結合し、かつ、2つ以上のマレイミド構造を有する高分子において、高分子鎖の主鎖にマレイミド構造が1つ以上結合していてもよい。
また、例えば、前記(b3)の成分を含有する組成物の場合、2つ以上のアリル構造を有する高分子において、高分子鎖の主鎖に全てのアリル構造が結合し、かつ、2つ以上のマレイミド構造を有する高分子において、高分子鎖の主鎖に全てのマレイミド構造が結合していてもよい。
【0135】
高分子鎖の主鎖にアリル構造又はマレイミド構造が結合する場合、アリル構造又はマレイミド構造が、高分子鎖の主鎖に直接結合していてもよいし、他の基を介して高分子鎖の主鎖に結合していてもよい。
【0136】
本実施形態に係る樹脂前駆体組成物が含有する高分子は、高分子鎖の末端に、アリル基およびマレイミド基の少なくとも一方を2つ以上持たないことも好ましい。
【0137】
例えば、前記(b4)の成分を含有する組成物の場合、一本の高分子鎖にアリル基およびマレイミド基の双方の構造を持つ高分子としては、以下の態様の高分子が挙げられる。
(b4-1)高分子鎖の一方の末端及び他方の末端の少なくともいずれかの末端には、アリル基およびマレイミド基が結合していない高分子
(b4-2)高分子鎖の一方の末端には、アリル基およびマレイミド基の一方が結合し、高分子鎖の他方の末端には、アリル基およびマレイミド基のいずれも結合せず、高分子鎖の主鎖にアリル基およびマレイミド基の他方が少なくとも1つ結合する高分子
(b4-3)高分子鎖の末端にはアリル基およびマレイミド基が結合していない高分子
【0138】
本実施形態に係る樹脂前駆体組成物が含有する高分子は、高分子鎖の主鎖中に、アリル基およびマレイミド基の少なくとも一方を1つ以上持つことも好ましい。
【0139】
例えば、前記(b4)の成分を含有する組成物の場合、一本の高分子鎖にアリル基およびマレイミド基の双方の構造を持つ高分子において、高分子鎖の主鎖にアリル基およびマレイミド基のいずれか1つ以上が結合していてもよく、また、高分子鎖の主鎖に全てのアリル基およびマレイミド基が結合していてもよい。
【0140】
例えば、前記(b4)の成分を含有する組成物の場合、一本の高分子鎖にアリル基およびマレイミド基の双方の構造を持つ高分子としては、以下の態様の高分子が挙げられる。
(b4-4)高分子鎖の両末端にマレイミド基が1つずつ結合し、かつ高分子鎖の主鎖にアリル基が少なくとも1つ結合する高分子
【0141】
高分子鎖の主鎖にアリル基又はマレイミド基が結合する場合、アリル基又はマレイミド基が、高分子鎖の主鎖に直接結合していてもよいし、他の基を介して高分子鎖の主鎖に結合していてもよい。
【0142】
本実施形態に係る樹脂前駆体組成物を用いた場合に形成される樹脂における高分子鎖間の結合は、高分子鎖の末端同士のみの結合ではないことも好ましい。
すなわち、本実施形態に係る樹脂前駆体組成物を用いた場合に形成される樹脂における高分子鎖間の結合は、一方の高分子の末端に結合しているアリル基およびマレイミド基の一方と、他方の高分子の主鎖に結合しているアリル基およびマレイミド基の他方との結合であるか、及び一方の高分子の主鎖に結合しているアリル基およびマレイミド基の一方と、他方の高分子の主鎖に結合しているアリル基およびマレイミド基の他方との結合の少なくともいずれかを持つことも好ましい。
【0143】
高分子鎖の末端同士のみの結合ではないことにより、高分子鎖同士の3次元架橋が起こり、樹脂の耐溶剤性などが向上し易くなる。
また、高分子鎖の末端同士の結合でなくても、反応性基を2つ持つ高分子鎖同士の結合の場合も、同様に3次元架橋は起こらず、直鎖状の高分子になる。そのため、本実施形態に係る樹脂前駆体組成物を用いた場合に形成される樹脂における高分子鎖間の結合は、高分子鎖に2つの反応点(反応性基)を持つ高分子同士(例えば、末端に反応性基を持つ高分子同士)のみの反応による結合ではないことが好ましい。
【0144】
また、本実施形態に係る樹脂前駆体組成物を用いた場合に形成される樹脂における高分子鎖間の結合は、高分子鎖の末端同士の結合を含んでいてもよい。
【0145】
上記の各成分のうち、高分子鎖に2つ以上のアリル構造を有する高分子(ポリカーボネート重合体)を例に挙げて、詳細に説明する。
【0146】
本実施形態に係るポリカーボネート重合体(以下、PC重合体ともいう)の第一の形態は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位A単独の繰り返し単位を有するPC重合体であるか、もしくは下記一般式(1)で表される繰り返し単位Aと、下記一般式(2)で表される繰り返し単位Bとを有するPC重合体であって、かつ、下記一般式(1A)で表されるビスクロロホーメートオリゴマー、下記一般式(2A)で表されるビスクロロホーメートオリゴマーおよび下記一般式(2C)で表されるビスクロロホーメートオリゴマーの少なくともいずれかを原料として得られる。
【0147】
【0148】
【0149】
前記一般式(1)および一般式(1A)において、Ar33は、前記一般式(AL1)中の下記一般式(AL11)で表される基であり、n31は、平均量体数を表す。また、平均量体数n31は、1.0以上、10以下である。
【0150】
【0151】
(前記一般式(AL11)において、X1は、前記一般式(AL1)におけるX1と同義であり、*は、結合位置を示す。)
【0152】
前記一般式(2)および一般式(2A)において、Ar34は、前記一般式(UN11)で表される基であり、n32は、平均量体数を表す。また、平均量体数n32は、1.0以上、10以下である。
*は、結合位置を示す。
前記一般式(2C)において、Ar33は、前記一般式(AL1)中の前記一般式(AL11)で表される基であり、Ar34は、前記一般式(UN11)で表される基である。また、n33およびn34は、それぞれ平均量体数を表す。また、平均量体数n33およびn34の合計は、1.0以上、10以下である。
ただし、Ar33およびAr34は、互いに異なる。前記一般式(2C)において、各繰り返し単位は必ずしも連続していなくてもよい。
平均量体数の算出方法は、後述する実施例において説明する方法が挙げられる。
【0153】
このようなPC重合体は、少なくとも2つのアリル基を有する前記一般式(AL1)中の前記一般式(AL11)で表される基などが含まれる繰り返し単位Aを有するので、高分子鎖に2つ以上のアリル構造を持つ高分子となる。
【0154】
前記一般式(1)で表される繰り返し単位A単独の繰り返し単位を有するPC重合体、および前記一般式(1)で表される繰り返し単位Aと、前記一般式(2)で表される繰り返し単位Bとを有するPC重合体は、下記一般式(100)で表されることが好ましい。
【0155】
【0156】
前記一般式(100)において、aは、前記繰り返し単位Aにおけるモル共重合比を表し、bは、前記繰り返し単位Bにおけるモル共重合比を表す。
aは、[Ar33]/([Ar33]+[Ar34])であり、bは、[Ar34]/([Ar33]+[Ar34])であり、bが0の場合も含む。[Ar33]は、PC重合体中のAr33で表される基を含む繰り返し単位Aのモル数を表し、[Ar34]は、PC重合体中のAr34で表される基を含む繰り返し単位Bのモル数を表す。
【0157】
なお、前記一般式(100)において、各繰り返し単位は必ずしも連続していない。
前記一般式(100)で表されるPC重合体は、ブロック共重合体、交互共重合体、およびランダム共重合体など、いずれであってもよい。
本実施形態に係るPC重合体の第二の形態は、前記したPC重合体の連鎖末端として、前記一般式(AL2)および一般式(AL3)で表される構造のいずれかを有するものである。また、前記一般式(100)で表されるPC重合体において、Ar33を含まなくてもよいが、Ar33を含まないPC重合体の場合、連鎖末端は前記一般式(AL2)および一般式(AL3)で表されるいずれかの構造を合計で、1分子当たり平均で2つ以上含むことが必要である。ただし、高分子鎖の末端に、アリル基を2つ以上持たないとき、前記一般式(100)で表されるPC重合体は、Ar33を含むことが好ましい。他方、Ar33を含む骨格の場合には、1分子当たりにAr33に含まれるアリル基と上記連鎖末端に含まれるアリル基の数の合計が2以上であれば良い。
【0158】
本実施形態に係るPC重合体の連鎖末端は、上記特定の末端基以外に、本願の要求を満たす範囲で一価の芳香族基または一価のフッ素含有脂肪族基により封止されていることが好ましい。
一価の芳香族基は、脂肪族基を含有する基であってもよい。
一価のフッ素含有脂肪族基は、芳香族基を含有する基であってもよい。
また、一価の芳香族基および一価のフッ素含有脂肪族基には、アルキル基、ハロゲン原子、およびアリール基からなる群から選択される少なくともいずれかの置換基が付加していてもよい。これらの置換基には、アルキル基、ハロゲン原子、およびアリール基からなる群から選択される少なくともいずれかの置換基がさらに付加していてもよい。また、置換基が複数ある場合、これらの置換基同士が互いに結合して環を形成してもよい。
【0159】
連鎖末端を構成する一価の芳香族基は、環形成炭素数6から12のアリール基を含むことが好ましい。このようなアリール基としては、例えば、フェニル基やビフェニル基が挙げられる。
芳香族基に付加する置換基、および芳香族基に付加しているアルキル基に付加する置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子が挙げられる。また、芳香族基に付加する置換基として炭素数1から20のアルキル基が挙げられる。このアルキル基は、上記のようにハロゲン原子が付加した基であってもよく、アリール基が付加した基であってもよい。
【0160】
連鎖末端を構成する一価のフッ素含有脂肪族基としては、フッ素含有アルコールから誘導される一価の基が挙げられる。
【0161】
フッ素含有アルコールとしては、炭素数2から6である複数のフルオロアルキル鎖同士が、エーテル結合を介して連結し、全フッ素原子数が13から19のものが好ましい。全フッ素原子数が13以上であれば、十分な撥水性、撥油性を発現させることができる。一方、全フッ素原子数が19以下であれば、重合時の反応性の低下を抑制し、得られたPC重合体の機械的強度、表面硬度、および耐熱性などの少なくともいずれかが向上し得る。
さらに、一価のフッ素含有脂肪族基としては、エーテル結合を2つ以上有するフッ素含有アルコールから誘導される一価の基でも好ましい。このようなフッ素含有アルコールを用いることで、塗液組成物におけるPC重合体の分散性が良くなり、成形体や電子写真感光体における耐摩耗性を向上させ、摩耗後の、表面潤滑性、撥水性および撥油性を保持することができる。
【0162】
あるいは、フッ素含有アルコールとしては、下記一般式(30)もしくは(31)で表されるフッ素含有アルコール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノールなどのフッ素含有アルコール、または下記一般式(32)、(33)、もしくは(34)で表されるエーテル結合を介したフッ素含有アルコールも好ましい。
【0163】
H(CF2)n1CH2OH・・・(30)
F(CF2)m1CH2OH・・・(31)
【0164】
前記一般式(30)において、n1は1から12の整数であり、前記一般式(31)において、m1は1から12の整数である。
【0165】
F-(CF2)n
31-OCF2CH2-OH・・・(32)
F-(CF2CF2)n
32-(CF2CF2O)n
33-CF2CH2OH・・・(33)
CR3-(CF2)n
35-O-(CF2CF2O)n
34-CF2CH2OH・・・(34)
【0166】
前記一般式(32)において、n31は1から10の整数であり、好ましくは、5から8の整数である。
前記一般式(33)において、n32は0から5の整数であり、好ましくは、0から3の整数である。n33は1から5の整数であり、好ましくは、1から3の整数である。
前記一般式(34)において、n34は1から5の整数であり、好ましくは、1から3の整数である。n35は0から5の整数であり、好ましくは、0から3の整数である。Rは、CF3またはFである。
【0167】
本実施形態において、電気特性や耐摩耗性の改善の点から、PC重合体の連鎖末端は、下記一般式(35)で表されるフェノールから誘導される一価の基または下記一般式(36)で表されるフッ素含有アルコールから誘導される一価の基により封止されていることが好ましい。
【0168】
【0169】
前記一般式(35)において、R30は炭素数1から10のアルキル基、または炭素数1から10のフルオロアルキル基を表し、pは1から3の整数である。
前記一般式(36)において、Rfは、炭素数が5以上、かつ、フッ素原子数が11以上であるパーフルオロアルキル基、あるいは下記一般式(37)で表されるパーフルオロアルキルオキシ基を示す。
【0170】
【0171】
前記一般式(37)において、Rf2は炭素数1から6の直鎖または分岐のパーフルオロアルキル基である。mxは1から3の整数である。
【0172】
本実施形態に係るPC重合体の製造方法の一態様としては、前記一般式(1A)で表されるビスクロロホーメートオリゴマー化合物、および前記一般式(2A)で表されるビスクロロホーメートオリゴマー化合物の少なくともいずれかと、有機溶剤と、アルカリ水溶液と、ビスフェノール化合物などのモノマーを用い、有機層と水層とを混合して界面重縮合反応を行う製造方法が挙げられる。
【0173】
本実施形態に係るPC重合体の製造方法において、連鎖末端を生成させる末端封止剤としては、一価のカルボン酸およびその誘導体や、一価のフェノールを用いることができる。
例えば、p-tert-ブチル-フェノール、p-フェニルフェノール、p-クミルフェノール、p-パーフルオロノニルフェノール、p-(パーフルオロノニルフェニル)フェノール、p-(パーフルオロヘキシル)フェノール、p-tert-パーフルオロブチルフェノール、p-パーフルオロオクチルフェノール、1-(p-ヒドロキシベンジル)パーフルオロデカン、p-〔2-(1H,1H-パーフルオロトリドデシルオキシ)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロピル〕フェノール、3,5-ビス(パーフルオロヘキシルオキシカルボニル)フェノール、p-ヒドロキシ安息香酸パーフルオロドデシル、p-(1H,1H-パーフルオロオクチルオキシ)フェノール、2H,2H,9H-パーフルオロノナン酸などが好適に用いられる。
【0174】
あるいは、連鎖末端を生成させる末端封止剤として、前記一般式(30)または(31)で表されるフッ素含有アルコール、または1,1,1,3,3,3-ヘキサフロロ-2-プロパノールなどの一価のフッ素含有アルコールも好適に用いられる。また、連鎖末端を生成させる末端封止剤として、前記一般式(32)、(33)、または(34)で表されるエーテル結合を介したフッ素含有アルコールを用いることも好ましい。
【0175】
連鎖末端を生成させる末端封止剤としては、これらの中でも、電気特性や耐摩耗性の改善の点から、前記一般式(35)で表される一価のフェノールまたは前記一般式(36)で表される一価のフッ素含有アルコールを用いることが好ましい。
【0176】
前記一般式(35)で表される一価のフェノールとしては、例えば、p-tert-ブチル-フェノール、p-パーフルオロノニルフェノール、p-パーフルオロヘキシルフェノール、p-tert-パーフルオロブチルフェノール、p-パーフルオロオクチルフェノールなどが好適に用いられる。すなわち、本実施形態においては、連鎖末端は、p-tert-ブチル-フェノール、p-パーフルオロノニルフェノール、p-パーフルオロヘキシルフェノール、p-tert-パーフルオロブチルフェノール、およびp-パーフルオロオクチルフェノールからなる群から選ばれる末端封止剤を用いて封止されていることが好ましい。
【0177】
前記一般式(36)で表されるエーテル結合を介したフッ素含有アルコールとしては、例えば、以下の化合物が挙げられる。すなわち、本実施形態の連鎖末端は、下記フッ素含有アルコールのいずれかから選ばれる末端封止剤を用いて封止されていても好ましい。
【0178】
【0179】
末端封止剤の添加割合は、架橋反応性官能基(アリル、またはマレイミド基)が末端に有る場合と、主鎖又は側鎖に有る場合とで適正な割合が異なる。
アリル、またはマレイミド基を末端に含む場合は、末端の分率により架橋性反応基の濃度、および分子量が連動して変化する。主鎖、および末端の繰り返し単位の合計に対するアリル、またはマレイミド末端基の共重合組成のモル百分率として、好ましくは0.1モル%以上、33モル%以下であり、さらに好ましくは0.5モル%以上、25モル%以下である。末端封止剤の添加割合が、33モル%以下であると機械的強度の低下を抑制でき、0.1モル%以上であると架橋による特性向上の効果を得る事ができる。
アリル、またはマレイミド以外の末端が含まれる場合は、主鎖および末端の繰り返し単位の合計に対する連鎖末端の共重合組成のモル百分率として、好ましくは0.05モル%以上、30モル%以下であり、さらに好ましくは0.1モル%以上、10モル%以下である。末端封止剤の添加割合が、30モル%以下であると機械的強度の低下を抑制でき、0.05モル%以上であると成形性の低下を抑制できる。
【0180】
また、本実施形態に係るPC重合体の製造方法において用いることができる分岐剤は、特に限定されないが、分岐剤の具体例としては、フロログルシン、ピロガロール、4,6-ジメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-2-ヘプテン、2,6-ジメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-3-ヘプテン、2,4-ジメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5-トリス(2-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、トリス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2-ビス〔4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル〕プロパン、2,4-ビス〔2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル〕フェノール、2,6-ビス(2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェノール、2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)プロパン、テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、テトラキス〔4-(4-ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェノキシ〕メタン、2,4-ジヒドロキシ安息香酸、トリメシン酸、シアヌル酸、3,3-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-2-オキソ-2,3-ジヒドロインドール、3,3-ビス(4-ヒドロキシアリール)オキシインドール、5-クロロイサチン、5,7-ジクロロイサチン、5-ブロモイサチンなどが挙げられる。
これら分岐剤の添加割合は、繰り返し単位A、繰り返し単位B、および連鎖末端の共重合組成のモル百分率で、または繰り返し単位A、および連鎖末端の共重合組成のモル百分率で30モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。分岐剤の添加割合が30モル%以下であると、成形性の低下を抑制できる。
【0181】
界面重縮合を行う場合、酸結合剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウムなどのアルカリ金属水酸化物や、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、酢酸カルシウムなどのアルカリ金属弱酸塩、アルカリ土類金属弱酸塩、ピリジンなどの有機塩基が挙げられる。界面重縮合を行う場合に好ましい酸結合剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物である。また、これらの酸結合剤は、混合物としても用いることができる。酸結合剤の使用割合も反応の化学量論比(当量)を考慮して適宜調製すればよい。具体的には、原料である二価フェノールの水酸基の合計1モル当たり、1当量もしくはそれより過剰量の酸結合剤を使用すればよく、好ましくは1~10当量の酸結合剤を使用すればよい。
【0182】
本実施形態に係るPC重合体の製造方法で用いる溶媒としては、得られた重合体に対して一定以上の溶解性を示せば問題無い。溶媒としては、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素や、塩化メチレン、クロロホルム、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,1,1,2-テトラクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素、シクロヘキサノン、アセトン、アセトフェノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどのエーテル類などが好適なものとして挙げられる。これら溶媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、互いに混ざり合わない2種の溶媒を用いて界面重縮合反応を行ってもよい。
【0183】
本実施形態に係るPC重合体の製造方法で用いる有機溶剤として、実質的に水と混じりあわなく、最終的に得られるポリカーボネート重合体を5質量%以上溶解可能な有機溶剤を用いることが好ましい。有機溶剤は、実質的に水と混じりあわなく、最終的に得られるポリカーボネート重合体を5質量%以上溶解可能な有機溶剤であることが好ましい。
ここで、「実質的に水と混じりあわない」有機溶剤とは、常温常圧条件で、水と有機溶剤を1:9~9:1の組成範囲で混合した場合に、均一な層からなる溶液(ゲル化物および不溶物のいずれもみられない溶液)が得られない有機溶剤である。
また、有機溶剤が「最終的に得られるポリカーボネート重合体を5質量%以上溶解可能」とは、温度20~30℃、常圧の条件で測定した際のポリカーボネート重合体の溶解度である。
また、「最終的に得られるポリカーボネート重合体」とは、本実施形態のポリカーボネート重合体の製造方法における重合工程を経て得られる重合体のことである。
このような有機溶剤としては、例えば、トルエンなどの芳香族炭化水素類、シクロヘキサノンなどのケトン類、および塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。中でも、溶解性が高いことから、塩化メチレンが好ましい。
【0184】
また、本実施形態のPC重合体の製造方法で用いる触媒としては、特に限定されないが、例えば、トリメチルアミンや、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、ピリジン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジメチルアニリンなどの第三級アミン、トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、トリブチルベンジルアンモニウムクロライド、トリオクチルメチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイドなどの四級アンモニウム塩、テトラブチルホスホニウムクロライド、テトラブチルホスホニウムブロマイドなどの四級ホスホニウム塩などが好適である。
さらに、必要に応じて、本実施形態のPC重合体の反応系に亜硫酸ナトリウムやハイドロサルファイト塩などの酸化防止剤を少量添加してもよい。
【0185】
[塗液組成物]
本実施形態に係る塗液組成物は、本実施形態に係る樹脂前駆体組成物と、有機溶剤とを含む。
【0186】
本実施形態に係る有機溶剤としては、樹脂前駆体組成物などの材料の溶解性、成形後の乾燥速度、成形物への残留時の影響、および危険性(火災、または健康有害性)を考慮し、適宜選定可能である。
本実施形態に係る有機溶剤としては、環状エーテル類(テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、およびジオキソランなど)、環状ケトン類(シクロヘキサノン、シクロペンタノン、およびシクロヘプタノンなど)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン、およびクロロベンゼンなど)、ケトン類(メチルエチルケトン(MEK)、およびメチルイソブチルケトン(MIBK)など)、ハロゲン化炭化水素類(ジクロロメタン、およびクロロホルムなど)、エステル類(酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、および酢酸ブチルなど)、エーテル類(エチレングリコールジメチルエーテル、およびエチレングリコールモノエチルエーテルなど)、アミド類(ジメチルホルムアミド(DMF)、およびジメチルアセトアミド(DMAc)など)、および非プロトン性極性溶媒(ジメチルスルホキシド(DMSO)など)などが挙げられる。
【0187】
本実施形態に係る塗液組成物中の、本実施形態に係る樹脂前駆体組成物の濃度は、同塗液組成物の使用法に合わせた適切な粘度となる濃度であればよく、0.1質量%以上40質量%以下であることが好ましく、1質量%以上35質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上30質量%以下であることがさらに好ましい。40質量%以下であれば、粘度が高くなりすぎることもなく塗工性が良好となる。0.1質量%以上であれば、適度な粘度に保つことができ、均質な膜が得られる。また、塗工後の乾燥時間の短縮や、容易に目標とする膜厚とするのに適度な濃度となる。
【0188】
塗液組成物には、本実施形態に係る樹脂前駆体組成物および有機溶剤以外に、添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、低分子化合物、着色剤(例えば、染料、および顔料など)、機能性化合物(例えば、電荷輸送材、電子輸送材、正孔輸送材、および電荷発生材など)、充填材(例えば、無機または有機のフィラー、ファイバー、および微粒子など)、酸化防止剤、紫外線吸収剤、並びに酸捕捉剤などが挙げられる。また、塗液組成物には、本発明の一実施形態に係る樹脂前駆体組成物以外の他の樹脂が含まれていてもよい。
これら添加剤や他の樹脂としては、樹脂前駆体組成物と配合し得る物質として公知の物質を用いることができる。
【0189】
また、電荷輸送物質を含む場合、製品性能の観点から、本実施形態に係る塗液組成物中の樹脂前駆体組成物と電荷輸送物質との割合は、質量比で20:80から80:20の範囲であることが好ましく、30:70から70:30の範囲であることがより好ましい。
本実施形態に係る塗液組成物中、本実施形態に係る樹脂前駆体組成物は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0190】
本実施形態に係る塗液組成物は、通常、積層型電子写真感光体の感光層の形成に好適に用いられる。積層型電子写真感光体の感光層は、少なくとも電荷発生層と電荷輸送層とを含むことが好ましく、本実施形態に係る塗液組成物は、電荷輸送層の形成に好適に用いられる。また、本実施形態に係る塗液組成物に、上記電荷発生物質をさらに含有させることにより、単層型の電子写真感光体の感光層の形成に使用することも可能である。
また、本実施形態に係る塗液組成物は、感光体の保護層の形成に使用することも可能である。
【0191】
[成形物]
本実施形態に係る成形物は、本実施形態に係る樹脂を含む。本実施形態に係る成形物は、後述する電子写真感光体の用途の他に、様々な用途に使用できる。例えば、電子デバイスなどの基板、絶縁層、保護層、接着層、導電層、および構造材としての用途に好適に用いることができる。
【0192】
また、本実施形態に係る成形物は、本実施形態に係る樹脂前駆体組成物を用いて作製できる。
本実施形態に係る樹脂前駆体組成物を用いる場合、その成形方法としては、湿式成形法、および溶融成形法のいずれの方法も適用できる。
【0193】
湿式成形法により成形物を得る場合には、(i)架橋反応が進行する温度で成形する方法、(ii)架橋が実質的に進行しない温度でウェット成形物を得た後、溶剤を除去する工程中に架橋反応が進行する温度に上昇させ、乾燥と架橋を同時に行う方法、(iii)架橋が実質的に進行しない温度で湿式成形、乾燥によりドライ成形物を得た後、成形物を架橋反応が進行する温度に上昇させ架橋する方法を採用できる。これらの方法は、いずれであっても構わない。
なお、湿式成形法においては、前述の本実施形態に係る塗液組成物を用いることができる。
【0194】
架橋温度は、目標とする物性や目的とする用途に応じて適宜設定可能である。この架橋温度に合わせて架橋性官能基の種類、アリル/マレイミド比、官能基濃度を調整して架橋方法を設定すれば良い。
【0195】
一例として、電子写真感光体向けの架橋温度は、通常、湿式成形によりウェット成形品を得た後、乾燥工程で架橋させることが好ましく、その温度は機能性低分子化合物が変質しない温度で行うことが求められる。例えば、電子写真感光体向けの架橋温度は、60℃以上170℃以下であることが好ましく、80℃以上160℃以下であることがより好ましく、100℃以上150℃以下であることがさらに好ましい。架橋温度が170℃以下であれば、電荷輸送物質などの機能性低分子化合物の変質を抑制し易い。架橋温度が60℃以上であれば、乾燥が十分進行し、長時間乾燥しなくとも架橋させ易い。
【0196】
一方で、電子デバイスの用途では、塗工製膜時の乾燥や硬化速度により膜物性を調整するためプロセスが高温になるものがある。そこで、電子デバイス向けの架橋温度は、60℃以上250℃以下であることが好ましく、100℃以上200℃以下であることがより好ましい。架橋温度が250℃以下であれば、電子部品の故障およびその他の有機材料の分解を防止できる。架橋温度が60℃以上であれば、架橋が十分進行する。なお、60℃未満のような低温で架橋が進行する材料は、塗液組成物中でも一部反応が進行することで粘度が上昇するなど、塗工液の安定性に問題がでるおそれがある。
【0197】
本実施形態において、樹脂前駆体組成物の架橋は、触媒や重合開始剤などを添加することなく実施することができる。ただし、本実施形態の効果を阻害しない限りでは、他の架橋システムとの併用などの目的で、触媒や重合開始剤などの物質を添加しても構わない。
【0198】
[電子写真感光体]
本実施形態に係る電子写真感光体は、本実施形態に係る樹脂を最外層に含むことが好ましい。
本実施形態に係る電子写真感光体は、基板と、この基板上に設けられた感光層とを有し、この感光層に、本実施形態に係る樹脂を含む。
本実施形態の電子写真感光体は、本実施形態に係る樹脂を感光層中に用いる限り、公知の種々の形一般式の電子写真感光体はもとより、どのような電子写真感光体としてもよいが、感光層が、少なくとも1層の電荷発生層と少なくとも1層の電荷輸送層とを有する積層型電子写真感光体、または、一層に電荷発生物質と電荷輸送物質とを有する単層型電子写真感光体とすることが好ましい。
【0199】
本実施形態に係る樹脂は、感光層中のどの部分にも使用してもよいが、本実施形態の効果を十分に発揮するためには、電荷輸送層中において電荷移動物質のバインダー樹脂として使用するか、単一の感光層のバインダー樹脂として使用することが望ましい。また、感光層のみならず、表面保護層として使用することが望ましい。電荷輸送層を2層有する多層型の電子写真感光体の場合には、そのいずれかの電荷輸送層に使用することが好ましい。
本実施形態の電子写真感光体において、本実施形態に係る樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。また、所望に応じて本実施形態の目的を阻害しない範囲で、他のポリカーボネートなどのバインダー樹脂成分を含有させてもよい。さらに、酸化防止剤などの添加物を含有させてもよい。
【0200】
本実施形態の電子写真感光体は、感光層を導電性基板上に有する。感光層が電荷発生層と電荷輸送層とを有する場合、電荷発生層上に電荷輸送層が積層されていてもよく、また逆に電荷輸送層上に電荷発生層が積層されていてもよい。また、一層中に電荷発生物質と電荷輸送物質を同時に含む感光層であってもよい。さらにまた、必要に応じて表面層に導電性または絶縁性の保護膜が形成されていてもよい。最外層に本実施形態に係る樹脂を用いることで、耐溶剤性や、耐摩耗性に優れた電子写真感光体を得ることができる。
さらに、各層間の接着性を向上させるための接着層あるいは電荷のブロッキングの役目を果すブロッキング層などの中間層などが形成されていてもよい。
【0201】
本実施形態の電子写真感光体に用いられる導電性基板材料としては、公知の材料など各種の材料を使用することができ、具体的には、アルミニウム、ニッケル、クロム、パラジウム、チタン、モリブデン、インジウム、金、白金、銀、銅、亜鉛、真鍮、ステンレス鋼、酸化鉛、酸化錫、酸化インジウム、ITO(インジウムチンオキサイド:錫ドープ酸化インジウム)もしくはグラファイトからなる、板、ドラム、およびシート、蒸着、スパッタリング、または塗布などによりコーティングするなどして導電処理した、ガラス、布、紙、およびプラスチックのフィルム、シートもしくはシームレスベルト、並びに電極酸化などにより金属酸化処理した金属ドラムなどを使用することができる。
【0202】
前記電荷発生層は少なくとも電荷発生材料を有する。この電荷発生層はその下地となる基板上に真空蒸着もしくはスパッタ法などにより電荷発生材料の層を形成するか、またはその下地となる基板上に電荷発生材料を、バインダー樹脂を用いて結着してなる層を形成することによって得ることができる。バインダー樹脂を用いる電荷発生層の形成方法としては公知の方法など各種の方法を使用することができる。通常、例えば、電荷発生材料をバインダー樹脂と共に適当な溶媒により分散若しくは溶解した塗液組成物を、所定の下地となる基板上に塗布し、乾燥せしめて湿式成形体として得る方法が好適である。
【0203】
前記電荷発生層における電荷発生材料としては、公知の各種の材料を使用することができる。具体的な化合物としては、セレン単体(例えば、非晶質セレン、および三方晶セレンなど)、セレン合金(例えば、セレン-テルルなど)、セレン化合物もしくはセレン含有組成物(例えば、As2Se3など)、周期律表第12族および第16族元素からなる無機材料(例えば、酸化亜鉛、およびCdS-Seなど)、酸化物系半導体(例えば、酸化チタンなど)、シリコン系材料(例えば、アモルファスシリコンなど)、無金属フタロシアニン顔料(例えば、τ型無金属フタロシアニン、およびχ型無金属フタロシアニンなど)、金属フタロシアニン顔料(例えば、α型銅フタロシアニン、β型銅フタロシアニン、γ型銅フタロシアニン、ε型銅フタロシアニン、X型銅フタロシアニン、A型チタニルフタロシアニン、B型チタニルフタロシアニン、C型チタニルフタロシアニン、D型チタニルフタロシアニン、E型チタニルフタロシアニン、F型チタニルフタロシアニン、G型チタニルフタロシアニン、H型チタニルフタロシアニン、K型チタニルフタロシアニン、L型チタニルフタロシアニン、M型チタニルフタロシアニン、N型チタニルフタロシアニン、Y型チタニルフタロシアニン、Y型オキソチタニルフタロシアニン、α型オキソチタニルフタロシアニン、β型オキソチタニルフタロシアニン、X線回折図におけるブラック角2θが27.3±0.2度に強い回折ピークを示すチタニルフタロシアニン、およびガリウムフタロシアニンなど)、シアニン染料、アントラセン顔料、ビスアゾ顔料、ピレン顔料、多環キノン顔料、キナクリドン顔料、インジゴ顔料、ペリレン顔料、ピリリウム染料、スクアリウム顔料、アントアントロン顔料、ベンズイミダゾール顔料、アゾ顔料、チオインジゴ顔料、キノリン顔料、レーキ顔料、オキサジン顔料、ジオキサジン顔料、トリフェニルメタン顔料、アズレニウム染料、トリアリールメタン染料、キサンチン染料、チアジン染料、チアピリリウム染料、ポリビニルカルバゾール、並びにビスベンゾイミダゾール顔料などが挙げられる。これら化合物は、1種を単独であるいは2種以上の化合物を混合して、電荷発生物質として用いることができる。これら電荷発生物質の中でも、好適な電荷発生物質としては、特開平11-172003号公報に具体的に記載の電荷発生物質が挙げられる。
【0204】
前記電荷輸送層は、下地となる基板上に、電荷輸送物質をバインダー樹脂で結着してなる層を形成することによって、湿式成形体として得ることができる。
前記した電荷発生層や電荷輸送層のバインダー樹脂としては、特に制限はなく、公知の各種の樹脂を使用することができる。具体的には、例えば、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアセタール、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリウレタン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド、ポリケトン、ポリアクリルアミド、ブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニリデン-塩化ビニル共重合体、メタクリル樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体、シリコン樹脂、シリコンアルキッド樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、スチレン-アルキッド樹脂、メラミン樹脂、ポリエーテル樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリ-N-ビニルカルバゾール、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリスルホン、カゼイン、ゼラチン、ポリビニルアルコール、エチルセルロース、ニトロセルロース、カルボキシ-メチルセルロース、塩化ビニリデン系ポリマーラテックス、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ビニルトルエン-スチレン共重合体、大豆油変性アルキッド樹脂、ニトロ化ポリスチレン、ポリメチルスチレン、ポリイソプレン、ポリチオカーボネート、ポリアリレート、ポリハロアリレート、ポリアリルエーテル、ポリビニルアクリレート、およびポリエステルアクリレートなどが挙げられる。
これらは、1種を単独で用いることもできるし、また、2種以上を混合して用いることもできる。なお、電荷発生層および電荷輸送層の少なくともいずれかにおけるバインダー樹脂としては、前記した本実施形態のPC重合体を使用することが好適である。
【0205】
電荷輸送層の形成方法としては、公知の各種の方式を使用することができるが、電荷輸送物質を本実施形態のPC重合体とともに適当な溶媒に分散または溶解した塗液組成物を、所定の下地となる基板上に塗布し、乾燥して湿式成形体として得る方法が好適である。電荷輸送層形成に用いられる電荷輸送物質とPC重合体との配合割合は、好ましくは質量比で20:80から80:20までの範囲、さらに好ましくは30:70から70:30までの範囲である。
この電荷輸送層において、本実施形態のPC重合体は1種単独で用いることもでき、また2種以上混合して用いることもできる。また、本実施形態の目的を阻害しない範囲で、他のバインダー樹脂を本実施形態のPC重合体と併用することも可能である。
【0206】
このようにして形成される電荷輸送層の厚さは、通常5μm以上100μm以下程度、好ましくは10μm以上50μm以下、さらに好ましくは15μm以上40μm以下である。この厚さが5μm以上であれば、初期電位が低くなることもなく、100μm以下であれば、電子写真特性の低下を防ぐことができる。
本実施形態のPC重合体と共に使用できる電荷輸送物質としては、公知の各種の化合物を使用することができる。このような化合物としては、例えば、カルバゾール化合物、インドール化合物、イミダゾール化合物、オキサゾール化合物、ピラゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ピラゾリン化合物、チアジアゾール化合物、アニリン化合物、ヒドラゾン化合物、芳香族アミン化合物、脂肪族アミン化合物、スチルベン化合物、フルオレノン化合物、ブタジエン化合物、キノン化合物、キノジメタン化合物、チアゾール化合物、トリアゾール化合物、イミダゾロン化合物、イミダゾリジン化合物、ビスイミダゾリジン化合物、オキサゾロン化合物、ベンゾチアゾール化合物、ベンズイミダゾール化合物、キナゾリン化合物、ベンゾフラン化合物、アクリジン化合物、フェナジン化合物、ポリ-N-ビニルカルバゾール、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ポリビニルアクリジン、ポリ-9-ビニルフェニルアントラセン、ピレン-ホルムアルデヒド樹脂、エチルカルバゾール樹脂、あるいはこれらの構造を主鎖や側鎖に有する重合体などが好適に用いられる。これら化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
これら電荷輸送物質の中でも、特開平11-172003号公報において具体的に例示されている化合物、および以下の構造で表される電荷輸送物質が特に好適に用いられる。
【0207】
【0208】
【0209】
【0210】
【0211】
【0212】
【0213】
【0214】
【0215】
【0216】
【0217】
【0218】
【0219】
【0220】
【0221】
なお、本実施形態に係る電子写真感光体においては、電荷発生層、電荷輸送層、および表面保護層の少なくともいずれかに本実施形態に係る樹脂前駆体組成物をバインダー樹脂として用いることが好適である。
【0222】
本実施形態に係る電子写真感光体においては、前記導電性基板と感光層との間に、通常使用されるような下引き層を設けることができる。この下引き層としては、例えば、微粒子(例えば、酸化チタン、酸化アルミニウム、ジルコニア、チタン酸、ジルコン酸、ランタン鉛、チタンブラック、シリカ、チタン酸鉛、チタン酸バリウム、酸化錫、酸化インジウム、および酸化珪素など)、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、カゼイン、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、セルロース、ニトロセルロース、ポリビニルアルコール、並びにポリビニルブチラール樹脂などの成分を使用することができる。また、この下引き層に用いる樹脂として、前記バインダー樹脂を用いてもよいし、本実施形態に係る樹脂前駆体組成物を用いてもよい。これら微粒子および樹脂は、単独または種々混合して用いることができる。これらの混合物として用いる場合には、無機質微粒子と樹脂を併用すると、平滑性のよい皮膜が形成されることから好適である。
【0223】
この下引き層の厚みは、0.01μm以上10μm以下、好ましくは0.1μm以上7μm以下である。この厚みが0.01μm以上であると、下引き層を均一に形成することが可能となり、また10μm以下であると電子写真特性が低下することを抑制できる。
また、前記導電性基体と感光層との間には、通常使用されるような公知のブロッキング層を設けることができる。このブロッキング層としては、前記のバインダー樹脂と同種の樹脂を用いることができる。また本実施形態に係る樹脂前駆体組成物を用いてもよい。このブロッキング層の厚みは、0.01μm以上20μm以下、好ましくは0.1μm以上10μm以下である。この厚みが0.01μm以上であると、ブロッキング層を均一に形成することが可能となり、また20μm以下であると電子写真特性が低下することを抑制できる。
【0224】
さらに、本実施形態に係る電子写真感光体には、感光層の上に、保護層を積層してもよい。この保護層には、前記のバインダー樹脂と同種の樹脂を用いることができる。また、本実施形態に係る樹脂前駆体組成物を用いることが特に好ましい。この保護層の厚みは、0.01μm以上20μm以下、好ましくは0.1μm以上10μm以下である。そして、この保護層には、前記電荷発生物質、電荷輸送物質、添加剤、金属およびその酸化物、窒化物、または塩、合金、カーボンブラック、並びに有機導電性化合物などの導電性材料を含有していてもよい。
【0225】
さらに、この電子写真感光体の性能向上のために、本発明の効果を失わない範囲で前記電荷発生層および電荷輸送層には、結合剤、可塑剤、硬化触媒、流動性付与剤、ピンホール制御剤、および分光感度増感剤(増感染料)などを添加してもよい。また、繰り返し使用に対しての残留電位の増加、帯電電位の低下、および感度の低下を防止する目的で種々の化学物質、酸化防止剤、界面活性剤、カール防止剤、およびレベリング剤などの添加剤を添加することができる。
【0226】
前記結合剤としては、例えば、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリケトン樹脂、ポリカーボネート共重合体、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリレート樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリイソプレン樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ポリクロロプレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、エチルセルロース樹脂、ニトロセルロース樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ホルマール樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル/塩化ビニル共重合樹脂、およびポリエステルカーボネート樹脂などが挙げられる。また、熱硬化性樹脂および光硬化性樹脂の少なくとも一方も使用できる。いずれにしても、電気絶縁性で通常の状態で皮膜を形成し得る樹脂であり、本実施形態の効果を損なわない範囲であれば、特に制限はない。
【0227】
前記可塑剤の具体例としては、例えば、ビフェニル、塩化ビフェニル、o-ターフェニル、ハロゲン化パラフィン、ジメチルナフタレン、ジメチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジエチレングリコールフタレート、トリフェニルフォスフェート、ジイソブチルアジペート、ジメチルセバケート、ジブチルセバケート、ラウリル酸ブチル、メチルフタリールエチルグリコレート、ジメチルグリコールフタレート、メチルナフタレン、ベンゾフェノン、ポリプロピレン、ポリスチレン、およびフルオロ炭化水素などが挙げられる。
【0228】
前記硬化触媒の具体例としては、例えば、メタンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、およびジノニルナフタレンジスルホン酸などが挙げられ、流動性付与剤としては、例えば、モダフロー、およびアクロナール4Fなどが挙げられ、ピンホール制御剤としては、例えば、ベンゾイン、およびジメチルフタレートが挙げられる。これら可塑剤、硬化触媒、流動性付与剤、およびピンホール制御剤は、本発明の効果を失わない範囲で前記電荷輸送物質に対して、5質量%以下で用いることが好ましい。
【0229】
また、分光感度増感剤としては、増感染料を用いる場合には,例えば、トリフェニルメタン系染料(例えば、メチルバイオレット、クリスタルバイオレット、ナイトブルー、およびビクトリアブルーなど)、アクリジン染料(例えば、エリスロシン、ローダミンB、ローダミン3R、アクリジンオレンジ、およびフラペオシンなど)、チアジン染料(例えば、メチレンブルー、およびメチレングリーンなど)、オキサジン染料(カプリブルー、およびメルドラブルーなど)、シアニン染料、メロシアニン染料、スチリル染料、ピリリウム塩染料、並びにチオピリリウム塩染料などが適している。
【0230】
感光層には、感度の向上、残留電位の減少、反復使用時の疲労低減などの目的で、本発明の効果を失わない範囲で電子受容性物質を添加することができる。その具体例としては、例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸、無水フタル酸、テトラクロロ無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸、3-ニトロ無水フタル酸、4-ニトロ無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水メリット酸、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、o-ジニトロベンゼン、m-ジニトロベンゼン、1,3,5-トリニトロベンゼン、p-ニトロベンゾニトリル、ピクリルクロライド、キノンクロルイミド、クロラニル、ブロマニル、ベンゾキノン、2,3-ジクロロベンゾキノン、ジクロロジシアノパラベンゾキノン、ナフトキノン、ジフェノキノン、トロポキノン、アントラキノン、1-クロロアントラキノン、ジニトロアントラキノン、4-ニトロベンゾフェノン、4,4’-ジニトロベンゾフェノン、4-ニトロベンザルマロンジニトリル、α-シアノ-β-(p-シアノフェニル)アクリル酸エチル、9-アントラセニルメチルマロンジニトリル、1-シアノ-(p-ニトロフェニル)-2-(p-クロロフェニル)エチレン、2,7-ジニトロフルオレノン、2,4,7-トリニトロフルオレノン、2,4,5,7-テトラニトロフルオレノン、9-フルオレニリデン-(ジシアノメチレンマロノニトリル)、ポリニトロ-9-フルオレニリデン-(ジシアノメチレンマロノジニトリル)、ピクリン酸、o-ニトロ安息香酸、p-ニトロ安息香酸、3,5-ジニトロ安息香酸、ペンタフルオロ安息香酸、5-ニトロサリチル酸、3,5-ジニトロサリチル酸、フタル酸、およびメリット酸などの電子親和力の大きい化合物が好ましい。これら化合物は電荷発生層および電荷輸送層のいずれに加えてもよく、その配合割合は、本発明の効果を失わない範囲で電荷発生物質または電荷輸送物質の量を100質量部としたときに、0.01質量部以上200質量部以下、好ましくは0.1質量部以上50質量部以下である。
【0231】
また、表面性の改良のため、四フッ化エチレン樹脂、三フッ化塩化エチレン樹脂、四フッ化エチレン六フッ化プロピレン樹脂、フッ化ビニル樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、二フッ化二塩化エチレン樹脂およびそれらの共重合体、並びにフッ素系グラフトポリマーなどを本発明の効果を失わない範囲で用いてもよい。これら表面改質剤の配合割合は、前記バインダー樹脂に対して、本発明の効果を失わない範囲で0.1質量%以上60質量%以下、好ましくは5質量%以上40質量%以下である。この配合割合が0.1質量%以上であれば、表面耐久性および表面エネルギー低下などの表面改質が充分となり、60質量%以下であれば、電子写真特性の低下を招くこともない。
【0232】
前記酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、芳香族アミン系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、スルフィド系酸化防止剤、および有機リン酸系酸化防止剤などが好ましい。これら酸化防止剤の配合割合は、本発明の効果を失わない範囲で前記電荷輸送物質に対して、通常、0.01質量%以上10質量%以下、好ましくは0.1質量%以上2質量%以下である。
このような酸化防止剤の具体例としては、特開平11-172003号公報の明細書に記載された化学一般式[化94]から[化101]の化合物が好適である。
これら酸化防止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい、そして、これらは前記感光層のほか、表面保護層や下引き層、ブロッキング層に添加してもよい。
【0233】
前記電荷発生層および電荷輸送層の少なくとも一方の形成の際に使用する前記溶媒の具体例としては、例えば、芳香族系溶媒(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、およびクロロベンゼンなど)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、およびシクロヘキサノンなど)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、およびイソプロパノールなど)、エステル(例えば、酢酸エチル、およびエチルセロソルブなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、四塩化炭素、四臭化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラクロロエタンなど)、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、およびジオキサンなど)、スルホキシド(例えば、ジメチルスルホキシドなど)、並びにアミド(例えば、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミドなど)などを挙げることができる。これらの溶媒は、1種単独で使用してもよく、あるいは、2種以上を混合溶媒として使用してもよい。
【0234】
単層型電子写真感光体の感光層は、前記の電荷発生物質、電荷輸送物質、および添加剤を用い、本実施形態に係る樹脂前駆体組成物をバインダー樹脂として適用することで容易に形成することができる。また、電荷輸送物質としては前述したホール輸送性物質および電子輸送物質の少なくとも一方を添加することが好ましい。電子輸送物質としては、特開2005-139339号公報に例示される電子輸送物質が好ましく適用できる。
各層の塗布は公知の装置など各種の塗布装置を用いて行うことができ、具体的には、例えば、アプリケーター、スプレーコーター、バーコーター、チップコーター、ロールコーター、ディップコーター、およびドクタブレードなどを用いて行うことができる。
【0235】
電子写真感光体における感光層の厚さは、5μm以上100μm以下、好ましくは8μm以上50μm以下であり、これが5μm以上であると初期電位が低くなることを防ぐことができ、100μm以下であると電子写真特性が低下することを抑制することができる。電子写真感光体の製造に用いられる電荷発生物質:バインダー樹脂の比率は、質量比で1:99から30:70までの範囲、好ましくは3:97から15:85までの範囲である。また、電荷輸送物質:バインダー樹脂の比率は、質量比で20:80から80:20までの範囲、好ましくは30:70から70:30までの範囲である。
【0236】
このようにして得られる電子写真感光体は、感光層中に本実施形態に係る樹脂前駆体組成物からなる架橋樹脂をバインダー樹脂として有しているため、耐溶剤性、耐久性(耐摩耗性)に優れるとともに、優れた電気特性(電子写真特性)を有しており、長期間にわたって優れた電子写真特性を維持する感光体である。そして、電子写真感光体は、複写機(モノクロ、マルチカラー、フルカラー、アナログ、デジタル)、プリンター(レーザー、LED、液晶シャッター)、ファクシミリ、製版機、およびこれら複数の機能を有する機器など各種の電子写真分野に好適に用いられる。
【0237】
[電子写真感光体の製造方法]
本実施形態に係る電子写真感光体の製造方法は、本実施形態に係る塗液組成物を湿式成形法で導電性基体に塗布する工程と、加熱を行うことにより、この塗液組成物中の有機溶剤を除去する工程と、この有機溶剤を除去する工程における加熱と同時、または引き続き加熱を行うことにより、この塗液組成物中の樹脂前駆体組成物の架橋反応を行う工程と、を備える方法である。
【0238】
導電性基体に塗布する工程において、塗液組成物の塗布厚みは、本実施形態に係る電子写真感光体の感光層の厚さに応じて、適宜設定できる。
有機溶剤を除去する工程において、本実施形態に係る塗液組成物における有機溶剤の種類に応じて、適宜設定できる。
樹脂前駆体組成物の架橋反応を行う工程において、加熱温度は、本実施形態に係る成形物における電子写真感光体向けの架橋温度と同様である。
【0239】
[電子デバイス]
本実施形態に係る電子デバイスは、本実施形態に係る樹脂を含むことが好ましい。
また、本実施形態に係る電子デバイスは、本実施形態に係る成形物を含むことも好ましい。
【実施例】
【0240】
次に、本発明を実施例および比較例によってさらに詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されず、本発明の思想を逸脱しない範囲での種々の変形および応用が可能である。
【0241】
[製造例:オリゴマーの調製]
<製造例1:ビスフェノールZオリゴマー(ビスクロロホーメート)の合成>
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)60.0g(224ミリモル)を塩化メチレン1080mLで懸濁し、そこにホスゲン66.0g(667ミリモル)を加えて溶解させた。これにトリエチルアミン44.0g(435ミリモル)を塩化メチレン120mLに溶解させた液を、温度5℃から15℃の範囲で滴下した。次に、30分間撹拌後、塩化メチレンを所定濃度になるまで留去した。残液に、純水210mL、濃塩酸1.2g、ハイドロサルファイト450mgを加え洗浄した。その後、純水210mLで5回洗浄を繰り返し、分子末端にクロロホーメート基を有するビスフェノールZオリゴマーの塩化メチレン溶液を得た。得られた溶液のクロロホーメート濃度は1.12モル/L、固形物濃度は0.225kg/L、平均量体数は1.03であった。以後この得られた原料をZ-CFという。
【0242】
尚、下記一般式(X1)で表されるビスクロロホーメート化合物の平均量体数(nX)は、次の数式(数1)を用いて求めた。
平均量体数(nX)=1+(Mav-M1)/M2・・・(数1)
(前記数式(数1)において、Mavは(2×1000/(CF価))であり、M2は(M1-98.92)であり、M1は、下記一般式(X1)において、nX=1のときのビスクロロホーメート化合物の分子量であり、CF価(N/kg)は(CF値/濃度)であり、CF値(N)は反応溶液1Lに含まれる下記一般式(X1)で表されるビスクロロホーメート化合物中のクロル原子数であり、濃度(kg/L)は反応溶液1Lを濃縮して得られる固形分の量である。ここで、98.92は、ビスクロロホーメート化合物同士の重縮合で脱離する2個の塩素原子、1個の酸素原子および1個の炭素原子の合計の原子量である。)
なお、2種類以上の原料を用いてビスクロロホーメートを合成した場合の平均量体数を求める際には、用いた原料の分子量をモル比で平均した分子量に基づきM1を算出して求める。例として、分子量268のモノマーを366モル、分子量214のモノマーを108モル使用して合成した場合、M1は、次の計算式で算出される。
M1=(268×(366÷(366+108))+214×(108÷(366+108))+124.9
このM1の計算式における「124.9」は、使用するモノマーの水素原子2つが無くなり、炭素原子、酸素原子、および塩素原子がそれぞれ2つ増加した際の分子量増分である。
【0243】
【0244】
前記一般式(X1)において、ArX1は、2価の基である。例えば、製造例1に係るビスクロロホーメート化合物(ビスフェノールZオリゴマー)の場合は、下記一般式(10)で表される2価の基が、ArX1に相当する。
【0245】
【0246】
前記一般式(1A)で表されるビスクロロホーメートオリゴマーの場合は、Ar33が、ArX1に相当し、n31が、nXに相当する。
前記一般式(2A)で表されるビスクロロホーメートオリゴマーの場合は、Ar34が、ArX1に相当し、n32が、nXに相当する。
【0247】
<製造例2:ビスフェノールZ・3,3’-ジメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニルオリゴマー(ビスクロロホーメート)の合成>
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)98g(366ミリモル)、3,3’-ジメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニル22g(103ミリモル)を塩化メチレン2400mLで懸濁し、そこにホスゲン138g(1395ミリモル)を加えて溶解させた。これにトリエチルアミン93.8g(929ミリモル)を塩化メチレン256mLに溶解させた液を、温度16℃から19℃の範囲で滴下した。次に、140分間撹拌後、塩化メチレンを所定濃度になるまで留去した。残液に、純水1100mL、濃塩酸2.4g、ハイドロサルファイト450mgを加え洗浄した。その後、純水210mLで5回洗浄を繰り返し、分子末端にクロロホーメート基を有するビスフェノールZオリゴマー、および3,3’-ジメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニルオリゴマーの塩化メチレン溶液を得た。得られた溶液のクロロホーメート濃度は0.57モル/L、固形物濃度は0.11kg/L、平均量体数は1.02であった。以後この得られた原料をZOCBP-CFという。
【0248】
[合成例1]
(PC重合体の製造)
メカニカルスターラー、撹拌羽根、邪魔板を装着した反応容器に、製造例1のZ-CF(76mL)と塩化メチレン(114mL)を注入した。これに末端停止剤としてp-tert-ブチルフェノール(以下、PTBPと表記)(0.151g)を添加し、十分に混合されるように撹拌した。反応器内の温度が10℃になるまで冷却した後、この溶液に調製した1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンと2,2-ビス(3-アリル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン溶液(溶液調製法:2.36Nの水酸化カリウム水溶液65mL(水酸化カリウム8.6g)を調製し、室温以下に冷却した後、酸化防止剤としてハイドロサルファイトを0.25g、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン7.9g、および2,2-ビス(3-アリル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン4.9gを添加し、完全に溶解して調製した)を全量添加し、撹拌しながらトリエチルアミン水溶液(7vol%)を1.0mL添加し、3時間撹拌を継続した。
得られた反応混合物を塩化メチレン1L、水0.1Lで希釈し、洗浄を行った。下層を分離し、さらに水0.25Lで1回、0.03N塩酸0.25Lで1回、水0.25Lで3回の順で洗浄を行った。得られた塩化メチレン溶液を、撹拌下メタノールに滴下投入し、得られた再沈物をろ過、乾燥することにより下記構造のPC重合体(PC-1)を得た。
【0249】
(PC重合体の特定)
このようにして得られたPC重合体(PC-1)を塩化メチレンに溶解して、濃度0.5g/dLの溶液を調製し、20℃における還元粘度[ηsp/C]を測定したところ、1.10dL/gであった。なお、得られたPC重合体(PC-1)の構造および組成を1H-NMRスペクトルにより分析したところ、下記の繰り返し単位、繰り返し単位数、および組成からなるPC重合体であることが確認された。
【0250】
なお、還元粘度は、離合社製、自動粘度測定装置VMR-042を用い、自動粘度用ウッベローデ改良型粘度計(RM型)で測定した。1H-NMRスペクトルは、日本電子株式会社製の核磁気共鳴装置JNM-ECZ400Sで測定した。
1H-NMRスペクトルの測定条件は以下の通りである。
【0251】
(1H-NMRスペクトルの測定条件)
・溶媒 :CD2Cl2
・測定濃度(サンプル量/溶媒量):1.5mg/mL
・積算回数:64回(約3min)
【0252】
【0253】
PC重合体(PC-1)における組成比(モル%)は、ジアリルビスA:BisZ=15:85であった。なお、この組成比において、「ジアリルビスA」は、2,2-ビス(3-アリル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンに由来する繰り返し単位の略称であり、「BisZ」は、ビスフェノールZに由来する繰り返し単位の略称である。
PC重合体(PC-1)におけるアリル基濃度は、1.05mmol/gであった。
【0254】
[合成例2]
(PC重合体の製造)
メカニカルスターラー、撹拌羽根、および邪魔板を装着した反応容器に、製造例2のZOCBP-CF(184mL)と塩化メチレン(41mL)を注入した。これに末端停止剤としてN-(4-ヒドロキシフェニル)マレイミド(以下、Male1と表記)(2.968g)を添加し、十分に混合されるように撹拌した。反応器内の温度が10℃になるまで冷却した後、この溶液に調製した3,3’-ジメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニル溶液(溶液調製法:2.5mol/Lの炭酸カリウム水溶液60mL(炭酸カリウム20.9g)を調製し、室温以下に冷却した後、酸化防止剤としてハイドロサルファイトを0.1g、3,3’-ジメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニル7.3gを添加して調製した)を全量添加し、撹拌しながらトリエチルアミン水溶液(7vol%)を2.7mL添加し、3時間撹拌を継続した。
3時間撹拌後、得られた反応混合物を塩化メチレン0.5L、および水0.1Lで希釈し、洗浄した。洗浄後の下層を分離し、上層をさらに水0.15Lで一回、0.03N塩酸0.15Lで1回、水0.15Lで3回の順で洗浄した。得られた塩化メチレン溶液を、撹拌下メタノールに滴下投入し、得られた再沈物をろ過、乾燥することにより下記構造のPC重合体(PC-2)を得た。
【0255】
(PC重合体の特定)
PC重合体(PC-2)を塩化メチレンに溶解して、濃度0.5g/dLの溶液を調製し、20℃における還元粘度[ηsp/C]を測定したところ、0.23dL/gであった。得られたPC重合体(PC-2)の構造および組成を1H-NMRスペクトルにより分析したところ、下記の繰り返し単位、繰り返し単位数、および組成からなるPC重合体であることが確認された。
【0256】
【0257】
PC重合体(PC-2)における組成比(モル%)は、OCBP:BisZ:Male1=50:40:10であった。なお、この組成比において、「OCBP」は、3,3’-ジメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニルに由来する繰り返し単位の略称であり、「BisZ」は、ビスフェノールZに由来する繰り返し単位の略称であり、Male1は、N-(4-ヒドロキシフェニル)マレイミドに由来する単位の略称である。
PC重合体(PC-2)におけるマレイミド基濃度は、0.39mmol/gであった。
【0258】
(実施例1)
<アリル基を有するポリカーボネートとマレイミド基を有するポリカーボネートからなる塗液調製と、架橋樹脂膜の調製>
PC重合体(PC-1)を1.05g、並びに下記式(MA4-2)で表される2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン0.45gをスクリューキャップ付きのサンプルチューブに計り取り、THF10mLに溶解して、THF溶液を調製した。ギャップ200μmのアプリケータを用い、50μm厚のポリイミドフィルムにキャスト成膜した。キャスト成膜後、1時間風乾し、さらに、真空乾燥機で50℃、16時間加熱処理し、溶剤を除去した。16時間加熱処理後に得られたフィルムを減圧乾燥機にて、減圧度1Pa以上100Pa以下、200℃、3時間加熱して架橋処理した。2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパンは、MI-BisAと略記する場合がある。
【0259】
【0260】
(比較例1)
摩耗試験に用いるための比較例1に係る評価フィルムは、実施例1における2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパンを使用せず、PC-1の使用量を1.5gに変更する以外、実施例1と同様にして作製した。
【0261】
〔性能評価〕
(耐溶剤性(塩化メチレン溶解性)の評価)
ポリイミドフィルムから架橋処理後の膜を剥離した。剥離した架橋処理後の膜を塩化メチレン中に投入し、外観を確認し、下記評価基準に即して評価した。得られた結果を表1に示す。
耐溶剤性の評価の詳細は、以下の通りである。厚さ20~30μmのフィルムを1cm×2cmの長方形に切り出してサンプルを作製した。サンプルを8mLのサンプルチューブに入れた。続いて、サンプルチューブに塩化メチレンを8mL入れ、サンプルを塩化メチレン中に完全に浸漬した。振とう機を用い、サンプルチューブを室温で1時間、振とう速度120rpmで振とうした後、外観を確認した。評価基準は以下のとおりである。
A:不溶(膨潤が生じないか又は僅かに膨潤し、フィルム形状を保っていた。)
B:膨潤(不溶分は、ひと塊だが、溶剤膨潤によりフィルム形状を保っていなかった。)
C:細切れ(細切れの不溶分が有ったが、大部分が溶解した。)
D:溶解(不溶分を目視で確認できなかった。)
【0262】
(耐摩耗性)
前記実施例および比較例で調製したフィルムサンプルのキャスト面の耐摩耗性をスガ摩耗試験機NUS-ISO-3型(スガ試験機社製)を用いて評価した。試験条件は、4.9Nの荷重をかけた摩耗紙(粒径3μmのアルミナ粒子を含有)をキャスト面(感光層表面を模した面)と接触させて2,000回往復運動を行い、質量減少量(摩耗量)を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0263】