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特許7562848線形加速器におけるマルチ周波数共振器動作のためのシステム、装置、及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】線形加速器におけるマルチ周波数共振器動作のためのシステム、装置、及び方法
(51)【国際特許分類】
   H05H 7/22 20060101AFI20240930BHJP
   H01J 37/30 20060101ALI20240930BHJP
   H01J 37/317 20060101ALI20240930BHJP
   H01J 37/04 20060101ALI20240930BHJP
   H01J 37/248 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
H05H7/22
H01J37/30 A
H01J37/317 Z
H01J37/04 Z
H01J37/248 B
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2023517393
(86)(22)【出願日】2021-07-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-04
(86)【国際出願番号】 US2021043484
(87)【国際公開番号】W WO2022060470
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-05-02
(31)【優先権主張番号】17/024,295
(32)【優先日】2020-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390040660
【氏名又は名称】アプライド マテリアルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】APPLIED MATERIALS,INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】3050 Bowers Avenue Santa Clara CA 95054 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】クルンチ, ピーター エフ.
(72)【発明者】
【氏名】ブラニク, デーヴィッド ティー.
(72)【発明者】
【氏名】シンクレア, フランク
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0371562(US,A1)
【文献】特表2004-524651(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0256578(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 3/00-15/00
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
RF信号を出力するようにアレンジされたRF電力アセンブリ、
前記RF信号を受信するように結合され、第1の出力端及び第2の出力端を備える共振器、並びに
イオンビームを伝送するようにアレンジされ、前記共振器に結合されたドリフトチューブアセンブリ、を備える装置であって、前記ドリフトチューブアセンブリは、
前記第1の出力端に結合された第1のACドリフトチューブ電極、及び
前記第2の出力端に結合され、前記第1のACドリフトチューブ電極から第1の間隙だけ分離された第2のACドリフトチューブ電極を備え、
前記RF電力アセンブリは、RF電圧源と、前記共振器への出力を第1の固有モード周波数から第2の固有モード周波数に切り替えるようにスイッチング可能であるコントローラと、を含み
前記第1の固有モード周波数において、前記第1のACドリフトチューブ電極における第1の電圧V1は、前記第2のACドリフトチューブ電極の第2の電圧V2と位相がπラジアンずれており、
前記第2の固有モード周波数において、前記第1のACドリフトチューブ電極における電圧は、前記第2のACドリフトチューブ電極の電圧と同じ大きさ及び同じ極性である、
装置。
【請求項2】
前記ドリフトチューブアセンブリは、三重間隙加速器構成を備え、第1の接地されたドリフトチューブ電極が、前記第1のACドリフトチューブ電極の上流に配置され、前記第1のACドリフトチューブ電極から第2の間隙だけ分離され、第2の接地されたドリフトチューブ電極が、前記第2のACドリフトチューブ電極の下流に配置され、前記第2のACドリフトチューブ電極から第3の間隙だけ分離されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第1の固有モード周波数は、少なくとも13.56MHzである、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記第1の固有モード周波数は、13.56MHz、20MHz、又は27.12MHzである、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記第1の固有モード周波数の前記第2の固有モード周波数に対する比は、1/√2である、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記第1のACドリフトチューブ電極は、軸方向に沿って第1の長さを有し、前記第2のACドリフトチューブ電極は、前記軸方向に沿って第2の長さを有し、前記ドリフトチューブアセンブリは、前記軸方向に沿って無電界領域を規定し、前記無電界領域は、前記第1の長さ、前記第2の長さ、及び前記第1の間隙の合計に等しい前記軸方向に沿った距離だけ延在する、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
線形加速器を動作させる方法であって、
ドリフトチューブアセンブリを通して第1のイオンビームを導くことであって、前記ドリフトチューブアセンブリは、
共振器の第1の出力端に結合された第1のACドリフトチューブ電極、及び
前記共振器の第2の出力端に結合され、前記第1のACドリフトチューブ電極から第1の間隙だけ分離された第2のACドリフトチューブ電極を備える、第1のイオンビームを導くこと
第1の周波数で第1のRF信号を前記共振器に供給することであって、前記第1の周波数は、前記共振器の第2の固有モードを表す、RF信号を前記共振器に供給すること、
前記ドリフトチューブアセンブリを通して第2のイオンビームを導くことであって、前記第2のイオンビームは、第2の質量/電荷(M/q)比を有し、前記第1のイオンビームは、前記第2のM/q比よりも小さい第1のM/q比を有する、第2のイオンビームを導くこと、並びに
第2の周波数で第2のRF信号を前記共振器に供給することであって、前記第2の周波数は、前記共振器の第1の固有モードを表す、第2のRF信号を前記共振器に供給することを含み、
第1の固有モード周波数において、前記第1のACドリフトチューブ電極における第1の電圧V1は、前記第2のACドリフトチューブ電極の第2の電圧V2と位相がπラジアンずれており、
第2の固有モード周波数において、前記第1のACドリフトチューブ電極における電圧は、前記第2のACドリフトチューブ電極の電圧と同じ大きさ及び同じ極性である、
方法。
【請求項8】
前記第1の固有モード周波数において、前記第1のACドリフトチューブ電極における前記第1の電圧V1は、V1=Vo cos(ωt)で与えられ、前記第2のACドリフトチューブ電極における前記第2の電圧V2は、V2=Vo cos(ωt+π)で与えられ、
前記第2の固有モード周波数において、前記第1のACドリフトチューブ電極における電圧と前記第2のACドリフトチューブ電極における電圧は、V=Vo cos(ωt)で与えられる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
記第2のイオンビームは、第2のエネルギーを有し、前記第1のイオンビームは、前記第2のエネルギーよりも大きい第1のエネルギーを有する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記線形加速器は、複数の加速段を備え、前記第1のACドリフトチューブ電極及び前記第2のACドリフトチューブ電極は、前記線形加速器の下流の加速段に配置され、前記方法は、
前記線形加速器の上流段に配置され、前記下流の加速段に対して上流の第2のドリフトチューブアセンブリを通して、前記第1のイオンビームを導くことであって、前記第2のドリフトチューブアセンブリは、
第2の共振器の第1の出力端に結合された第3のACドリフトチューブ電極、及び
前記第2の共振器の第2の出力端に結合され、前記第3のACドリフトチューブ電極から第2の間隙だけ分離された第4のACドリフトチューブ電極を備える、前記第1のイオンビームを導くこと、並びに
前記第2の周波数で前記第2のRF信号を前記第2の共振器に供給することを更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
上流の加速段は、前記第1のイオンビームを第1のイオンエネルギーで受け取り、
下流段は、前記上流の加速段で導かれたイオンビームを前記第1のイオンエネルギーよりも大きい第2のイオンエネルギーで受け取る、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ドリフトチューブアセンブリは、三重間隙加速器構成を備え、第1の接地されたドリフトチューブ電極が、前記第1のACドリフトチューブ電極の上流に配置され、且つ前記第1のACドリフトチューブ電極から第2の間隙だけ分離され、第2の接地されたドリフトチューブ電極が、前記第2のACドリフトチューブ電極の下流に配置され、且つ前記第2のACドリフトチューブ電極から第3の間隙だけ分離されている、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の周波数は、少なくとも13.56MHzである、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の周波数は、13.56MHz、20MHz、又は27.12MHzである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の固有モード周波数の前記第2の固有モード周波数に対する比は、1/√2である、請求項7に記載の方法。
【請求項16】
前記第1のACドリフトチューブ電極は、軸方向に沿って第1の長さを有し、前記第2のACドリフトチューブ電極は、前記軸方向に沿って第2の長さを有し、前記ドリフトチューブアセンブリは、前記軸方向に沿って無電界領域を規定し、前記無電界領域は、前記第1の長さ、前記第2の長さ、及び前記第1の間隙の合計に等しい前記軸方向に沿った距離だけ延在する、請求項7に記載の方法。
【請求項17】
前記共振器は、前記第2のACドリフトチューブ電極における瞬時電圧と等しい、前記第1のACドリフトチューブ電極における瞬時電圧を生成する、請求項7に記載の方法。
【請求項18】
高エネルギーイオン注入システムであって、
第1のエネルギーでイオンビームを生成するようにアレンジされたイオン源及び抽出システム、
前記イオン源の下流に配置され、前記イオンビームを前記第1のエネルギーよりも大きい第2のエネルギーに加速するようにアレンジされた、複数の加速段を備える線形加速器、並びに
複数のRF電力アセンブリを備え、前記複数の加速段に複数のRF信号を個別に出力するようにアレンジされた、RF電力システムを備え、
前記RF電力システムは、RF電圧源と、前記複数の加速段の第1の共振器の第1の固有モード周波数に対応する第1のRF信号を前記線形加速器に送信し、前記複数の加速段の第2の共振器の第2の固有モード周波数に対応する第2のRF信号を前記線形加速器に送信するようにアレンジされているコントローラと、を含み
前記第1の共振器および前記第2の共振器のうちの所与の共振器について、
前記第1の固有モード周波数において、前記第1のRF信号が入力される加速段内の第1のドリフトチューブ電極における第1の電圧V1は、前記第1のRF信号が入力される加速段内の第2のドリフトチューブ電極の第2の電圧V2と位相がπラジアンずれており、前記第2のドリフトチューブ電極は、前記第1のRF信号が入力される加速段内の前記第1のドリフトチューブ電極から離れており、
前記第2の固有モード周波数において、前記第1のドリフトチューブ電極における振動電圧は、前記第2のドリフトチューブ電極の振動電圧と同じ大きさ及び同じ極性である、
高エネルギーイオン注入システム。
【請求項19】
前記第1の共振器及び前記第2の共振器は、単一の共振器であり、前記線形加速器の所与の加速段に対応し、
前記複数のRF電力アセンブリの第1のRF電力アセンブリは、前記単一の共振器に結合され、前記第1のRF信号から前記第2のRF信号に出力を切り替えるようにスイッチング可能である、請求項18に記載の高エネルギーイオン注入システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 本開示は、広くは、イオン注入装置に関し、特に、高エネルギービームラインイオン注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002] イオン注入は、衝突を介してドーパント又は不純物を基板の中に導入する工程である。イオン注入システムは、イオン源と、一連のビームライン構成要素とを備えてよい。イオン源は、イオンが生成されるチャンバを備えてよい。イオン源は、チャンバの近くに配置された電源及び抽出電極アセンブリも備えてよい。ビームライン構成要素は、例えば、質量分析器、第1の加速又は減速段、コリメータ、及び第2の加速又は減速段を含んでよい。光線を操作するための一連の光学レンズのように、ビームライン構成要素は、特定の種、形状、エネルギー、及び/又は他の性質を有するイオン若しくはイオンビームをフィルタし、集束させ、及び操作することができる。イオンビームは、ビームライン構成要素を通過し、プラテン又はクランプ上に取り付けられた基板又はウエハに向けて誘導されてよい。
【0003】
[0003] 約1MeV以上のイオンエネルギーを生成することができる注入装置は、高エネルギーイオン注入装置又は高エネルギーイオン注入システムと呼ばれることが多い。あるタイプの高エネルギーイオン注入装置は、線形加速器、すなわちリニアック(LINAC)と呼ばれ、チューブとしてアレンジされた一連の電極がイオンビームを導き、且つ、一連のチューブに沿ってますます高いエネルギーにまで加速する。それらの電極は、AC電圧信号を受信する。既知の(RF)リニアックは、13.56MHz~120MHzで印加されるRF電圧によって駆動される。RFリニアックイオン注入装置の動作上の1つの課題は、最大量のイオンが加速段を通して導かれ得るように、特定の質量/電荷比(M/q)を持つイオンを加速するために加速段がアレンジされることである。M/q比の異なるイオンを効率よく導くためには、ドリフトチューブ電極の電極長を変更するなどのハードウェアの変更が必要になる場合がある。これら及び他の考慮事項に関して本開示が提供される。
【発明の概要】
【0004】
[0004] 一実施形態では、装置が、RF信号を出力するようにアレンジされたRF電力アセンブリ、RF信号を受信するように結合され、第1の出力端及び第2の出力端を備える共振器、並びに、イオンビームを伝送するように構成され、共振器に結合されたドリフトチューブアセンブリを含んでよい。したがって、ドリフトチューブアセンブリは、第1の出力端に結合された第1のACドリフトチューブ電極、及び、第2の出力端に結合され、第1のACドリフトチューブ電極から第1の間隙だけ分離された第2のACドリフトチューブ電極を含んでよい。RF電力アセンブリは、第1の固有モード周波数から第2の固有モード周波数に出力を切り替えるようにスイッチング可能であってよい。
【0005】
[0005] 線形加速器を動作させる方法が提供される。該方法は、ドリフトチューブアセンブリを通して第1のイオンビームを導くことを含んでよい。ドリフトチューブアセンブリは、共振器の第1の出力端に結合された第1のACドリフトチューブ電極、及び、共振器の第2の出力端に結合され、第1のACドリフトチューブ電極から第1の間隙だけ分離された第2のACドリフトチューブ電極を含んでよい。該方法は、第1の周波数でRF信号を共振器に供給することを含んでよく、第1の周波数は、共振器の第2の固有モードを表す。
【0006】
[0006] 高エネルギーイオン注入システムが提供される。高エネルギーイオン注入システムは、第1のエネルギーでイオンビームを生成するようにアレンジされたイオン源及び抽出システム、並びに、分析器の下流に配置された線形加速器を含んでよい。したがって、線形加速器は、イオンビームを第1のエネルギーよりも大きい第2のエネルギーに加速するようにアレンジされてよい。線形加速器は、複数の加速段とRF電力システムとを含んでよい。RF電力システムは、複数のRF電力アセンブリを備え、複数のRF信号を複数の加速段に個別に出力するようにアレンジされている。RF電力システムは、複数の加速段の第1の共振器の第1の固有モード周波数に対応する第1のRF信号を線形加速器に送信し、複数の加速段の第2の共振器の第2の固有モード周波数に対応する第2のRF信号を線形加速器に送信するようにアレンジされてよい。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】[0007] 本開示の実施形態による例示的な装置を示す。
図1A】[0008] 本開示の実施形態による例示的なイオン注入システムを示す。
図2】[0009] 共振器を動作させるための第1のシナリオの下でのドリフトチューブアセンブリの一般的な特徴を示す。
図3】[0010] 共振器を動作させるための第2のシナリオの下での図2のドリフトチューブアセンブリの電気的特性を示す。
図4】[0011] 共振器を動作させるための第1のシナリオの下での図2のドリフトチューブアセンブリの位置の関数としての電気的特性を示す。
図5】[0012] 共振器を動作させるための第2のシナリオの下での図3のドリフトチューブアセンブリの位置の関数としての電気的特性を示す。
図5A】[0013] 10MeVまでのイオンエネルギーの関数として示される、種々のイオン種、水素、ホウ素、及びリンについての理想的なチューブ長のリストを提供する。
図6】[0014] 三重間隙リニアックドリフトチューブ構成を1つの周波数で動作させるためのモデリング結果を提示する。
図7】[0015] 三重間隙リニアックドリフトチューブ構成を第2の周波数で動作させるためのモデリング結果を提示する。
図8】[0016] 例示的なプロセスフローを提示する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[0017] 図面は、必ずしも縮尺通りではない。図面は、単なる表現であり、本開示の特定のパラメータを表すことを意図しない。図面は、本開示の例示的な実施形態を示すことを意図しており、したがって、範囲を限定するものと見なされるべきではない。図面では、同様の番号が同様の要素を表す。
【0009】
[0018] 次に、本開示による装置、システム、及び方法を、システム及び方法の実施形態が示された添付の図面を参照しながら、以下でより完全に説明する。該システム及び方法は、多くの異なる形態で具現化されてよく、本明細書で説明される実施形態に限定されるものと見做されない。その代わりに、これらの実施形態は、本開示が一貫しており且つ完全となるように提供され、当業者にシステム及び方法の範囲を完全に伝えることになる。
【0010】
[0019] 図面に現れるような半導体製造デバイスの構成要素の形状寸法及び配向に関して、これらの構成要素及びそれらの構成部分の相対的な配置及び配向を記述するために、本明細書では「上部(top)」、「底部(bottom)」、「上部(upper)」、「下部(lower)」、「垂直(vertical)」、「水平(horizontal)」、「横方向(lateral)」、及び「縦方向(longitudinal)」などの用語が使用され得る。専門用語には、具体的に言及された単語、その派生語、及び同様の意味の単語が含まれる。
【0011】
[0020] 本明細書で使用されるように、単数形で列挙され、単語「1つ(a)」又は「1つ(an)」が前に付いた要素又は操作は、複数の要素又は操作を含む可能性があると理解される。更に、本開示の「一実施形態」への言及は、列挙された特徴も組み込んだ追加の実施形態の存在を排除するものとして解釈されることを意図するものではない。
【0012】
[0021] ベースラインアーキテクチャに基く改良された高エネルギーイオン注入システム及び構成要素(特に、線形加速器に基くイオン注入装置)のためのアプローチが本明細書で提供される。簡潔さのために、イオン注入システムは、本明細書で「イオン注入装置」とも称されてよい。様々な実施形態は、線形加速器の加速段内の有効ドリフト長を柔軟に調整する能力を提供する新規なアプローチを必然的に伴う。
【0013】
[0022] 図1は、本開示の実施形態による装置の概略図を示している。装置10は、RF電圧源40‐A及びコントローラ50を含む線形加速器114として図示されているリニアックの加速段20‐A、ならびに関連付けられた電気回路を含む。図1で示されているように、線形加速器114は、加速段20‐B…20‐Nとして示されている複数の加速段を含んでよい。様々な実施形態では、線形加速器114の段のうちの1以上が、本明細書で詳細に説明される加速段20‐Aの構成要素を含んでよい。
【0014】
[0023] 装置10の動作を文脈に置くために、図1Aは、イオン注入装置100を示している。イオン注入装置100は、ビームラインイオン注入装置を表してよいが、幾つかの要素は説明の明瞭性のために図示されていない。イオン注入装置100は、当該技術分野で知られているように、イオン源102と、ターミナル104内に配置されたガスボックス107とを含んでよい。イオン源102は、第1のエネルギーでイオンビーム106を生成するための抽出構成要素及びフィルタ(図示せず)を含む抽出システムを含んでよい。第1のイオンエネルギー向けの適切なイオンエネルギーの例は、5keVから100keVの範囲であるが、複数の実施形態は、この文脈に限定されない。高エネルギーイオンビームを生成するために、イオン注入装置100は、イオンビーム106を加速させるための様々な追加の構成要素を含む。
【0015】
[0024] イオン注入装置100は、図示されているように、イオンビーム106の軌道を変更することによって、知られている装置のようにイオンビーム106を分析するように機能する分析器110を含んでよい。イオン注入装置100はまた、バンチャ112と、バンチャ112の下流に配置された線形加速器114(破線で示されている)とを含んでよい。その場合、線形加速器114は、イオンビーム106を加速して、線形加速器114に入る前のイオンビーム106のイオンエネルギーよりも高い、高エネルギーイオンビーム115を生成するようにアレンジされる。バンチャ112は、イオンビーム106を連続的なイオンビームとして受け取ってよく、イオンビーム106を束ねられたイオンビームとして線形加速器114に出力してよい。線形加速器114は、図示されているように、直列にアレンジされた複数の加速段(20‐Aから20‐N)を含んでよい。様々な実施形態では、高エネルギーイオンビーム115のイオンエネルギーが、イオンビーム106のための最終イオンエネルギー又は略最終イオンエネルギーを表してよい。様々な実施形態では、イオン注入装置100が、フィルタ磁石116、スキャナ118、コリメータ120などの更なる構成要素を含んでよい。その場合、スキャナ118及びコリメータ120の一般的な機能は周知であり、本明細書ではこれ以上詳細に説明しない。したがって、高エネルギーイオンビーム115によって表される高エネルギーイオンビームは、基板124を処理するための最終ステーション122に供給されてよい。高エネルギーイオンビーム115の非限定的なエネルギー範囲は、500keV~10MeVを含む。その場合、イオンビーム106のイオンエネルギーは、線形加速器114の様々な加速段を通して段階的に高められる。
【0016】
[0025] 図1を参照すると、1つの加速段の詳細が示されており、加速段20‐Aが、三重間隙電極アセンブリとしてアレンジされている。本明細書で使用されるときに、「三重間隙」又は「三重間隙構成」という用語は、所与の加速段内の電極間に3つの間隙が存在することを指してよい。加速段20‐Aでは、電極アセンブリが、G1としても図示されている第1の接地されたドリフトチューブ電極34、E1としても図示されている第1のACドリフトチューブ電極30、E2としても図示されている第2のACドリフトチューブ電極32、及びG2としても図示されている第2の接地されたドリフトチューブ電極36を含む。この電極の構成は、全て中空の円筒としてアレンジされ、そこを通してイオンビーム106を導く。本開示の様々な実施形態によれば、イオンビーム106は、束ねられたイオンビームとして受け取られてよい。それは、イオンビーム106が、互いから分離された複数のパケットとして受け取られることを意味する。したがって、イオンビーム106の異なるイオンパケットは、異なる時刻に加速段20‐Aに到着し、それに従って加速され、加速段20‐Aを通して順番に導かれる。
【0017】
[0026] 図1で示されているように、RF電圧源40‐Aは、共振器22と電気的に結合されており、共振器22内でRF電圧信号を駆動する。同様な共振器が、リニアック114の他の加速段内に含まれてよく、幾つかの実施形態では、RF電圧源40‐B…40‐Nとして図示されている、専用のRF電圧源に個別に結合されてよい。共振器22は、第1のACドリフトチューブ電極30に結合された第1の出力端24、及び第2のACドリフトチューブ電極32に結合された第2の出力端26を有する。RF電圧が共振器22に送られると、RF電圧の周波数及び共振器22の構成に従って、共振器22が共振してよい。特に、共振器22は、第1の固有モード周波数に相当する基本(共振)周波数を示すことになる。
【0018】
[0027] 知られている線形加速器におけるように、共振器22は基本周波数で励起されてよい。共振器22が共振器22の基本周波数で励起されると、第1のACドリフトチューブ電極30に現れる瞬時電圧と、第2のACドリフトチューブ電極32に現れる瞬時電圧とは、等しい大きさ且つ逆極性で振動することになる。そのようなシナリオでは、ACドリフトチューブ電極の各々が、図2でGap1、Gap2、及びGap3の表記で示され以下でより詳細に説明される三重間隙構成によって形成される3つの間隙の各々内で、イオンビーム106を加速させることになる。
【0019】
[0028] 本開示の複数の実施形態によれば、装置10は、複数の周波数でRF信号を共振器22に送信するように調整可能であってよい。例えば、コントローラ50及びRF電圧源40‐Aは、第1の固有モード周波数から第2の固有モード周波数(コントローラ50内で概略的に図示されている)にRF電圧信号の出力を切り替えるようにスイッチング可能であるRF電力アセンブリを形成するとみなされてよい。その場合、第1の固有モード周波数と第2の固有モード周波数は、共振器22の特性である。注目すべきことに、共振器22の異なる固有モードの特性である共振器22の異なる離散周波数特性の間での切り替え能力は、以下の図面に関して説明されるように、加速段20‐Aに様々な利点を与える。
【0020】
[0029] 図2及び図3は、加速段20‐Aの動作の2つのモード間の差を示している。特に、図2は、共振器22(図示せず)を動作させるための第1のシナリオの下で、ドリフトチューブアセンブリ30‐Aの一般的な特徴を示すブロック図である。ドリフトチューブアセンブリ30‐Aは、E1、E2、G1、及びG2と称される図1の前述された電極を含む。図2で示されているように、連続する電極の各対の間に間隙が存在する。第1の接地されたドリフトチューブ電極34と第1のACドリフトチューブ電極30との間にGap1が存在し、第1のACドリフトチューブ電極30と第2のACドリフトチューブ電極32との間にGap2が存在し、第2の接地されたドリフトチューブ電極36と第2のACドリフトチューブ電極32との間にGap3が存在する。
【0021】
[0030] 共振器22にRF電圧が印加されると、第1のACドリフトチューブ電極30と第2のACドリフトチューブ電極32は、図2でそれぞれV1、V2として示されている振動電圧を経験することになる。共振器22が基本周波数動作で動作されると、第1のACドリフトチューブ電極30と第2のACドリフトチューブ電極32とによって経験される振動電圧は、「三重間隙」加速段を生成することになる。第1の加速間隙が、第1の接地されたドリフトチューブ電極34と第1のACドリフトチューブ電極30との間に生じ、物理的な間隙すなわちGap1に相当する。Gap2に相当する第2の加速間隙が、第1のACドリフトチューブ電極30と第2のACドリフトチューブ電極32との間に存在し、Gap3に相当する第3の加速間隙が、第2の接地されたドリフトチューブ電極36と第2のACドリフトチューブ電極32との間に存在する。
【0022】
[0031] 言い換えると、第1の接地されたドリフトチューブ電極34は、接地電位に固定されたままなので、RF電圧が共振器22の第1の端部から受け取られたときに、第1の接地されたドリフトチューブ電極34と第1のACドリフトチューブ電極30との間で、Gap1を挟んで振動する電位差が生じることになる。第2のACドリフトチューブ電極32は、第2の端部(図1参照)で共振器22に結合されており、共振器は、基本周波数すなわち第1の固有モードで動作するので、第1のACドリフトチューブ電極30と第2のACドリフトチューブ電極32とにおける瞬時電圧は逆極性となり、間隙Gap2を挟んで第2の電位差を生成する。図2で示されているように、第1のACドリフトチューブ電極30における電圧V1は、V1=Vo cos(ωt)で表されてよく、一方、第2のACドリフトチューブ電極32は、V2=Vo cos(ωt+π)によって与えられる。V1とV2の位相が互いに180度(π)ずれている構成では、図2のシナリオの動作周波数(ω)が、共振器22の第1の固有モードに対応する。第2の接地されたドリフトチューブ電極36は、接地電位に固定されたままなので、RF電圧が共振器22の第2の端部から受け取られたときに、第2の接地されたドリフトチューブ電極36と第2のACドリフトチューブ電極32との間で、Gap3を挟んで振動する電位差が生じることになる。これらの間隙は、それぞれ、Gap1、Gap2、及びGap3を挟んで、t=0ラジアンで第1の加速電界、t=πラジアンで第2の加速電界、t=2πラジアンで第3の加速電界を生成する。
【0023】
[0032] したがって、図2示されている動作のモードの下で、ドリフトチューブアセンブリ30‐Aは、3つの間隙を通してイオンビーム106を加速するように作用する。その場合、ビーム移送の方向(図面における水平軸)に沿った様々なドリフトチューブ電極の長さは、束ねられたパケットとしてのイオンビーム106の移送を最適化するように調整されてよい。第1のACドリフトチューブ電極30の長さは、DE1として示され、一方、第2のACドリフトチューブ電極の長さは、DE2として示されている。これらの長さは、所与のイオンエネルギー及びM/q比でイオンのパケットを加速して、ドリフトチューブアセンブリ20‐Aを通る最大イオン加速度をもたらすように最適化されてよい。所与のイオンエネルギー及びM/q比では、長さDE1が、印加されたRF電圧信号の周波数に基づいて、イオンのパケットが第1のACドリフトチューブ電極30を通って所定の時間だけドリフトするように設定されてよい。このドリフト時間のタイミングによって、イオンのパケットを最大限に加速するような、RF電圧信号のサイクル中の適切なポイントにあるときに、イオンのパケットが第2のドリフトチューブ電極32内に受け取られることを確実にする。注目すべきことに、第2のACドリフトチューブ電極32の長さが、第2のACドリフトチューブ電極32を横断するイオンの相対的に高いエネルギーを考慮して、DE1よりも長くてよいように図示されている。
【0024】
[0033] 図2の動作のシナリオは、相対的に低いイオンエネルギーを有する及び/又は相対的に高いM/q比を有するイオンにとって殊に適切であってよい。その場合、イオンの速度(したがって、ドリフト時間)は、相対的に小さくなる。
【0025】
[0034] 図3は、共振器22(図示せず)を動作させるための第2のシナリオの下で、ドリフトチューブアセンブリ30‐Aの一般的な特徴を示すブロック図である。このシナリオでは、共振器22が、共振器22の第2の固有モードに対応する第2のより高い周波数(ωとしても示されている)で動作される。本開示の複数の実施形態によれば、図2の基本周波数すなわち第1の固有モード周波数の図3の第2の固有モード周波数に対する比は、1/√2である。幾つかの実施形態によれば、第1の固有モード周波数は、20MHz、若しくは27.12MHz、又は40MHzの周波数を含む、少なくとも13.56MHzである。したがって、所与の第1の固有モード周波数に対して、第2の固有モード周波数は、√2倍だけ大きくなる。この図3の「第2の高調波動作」は、相対的に低いM/qのイオンをより高いエネルギーで加速するときに、イオン注入装置の動作に殊に適していてよい。前述された説明と一貫して、相対的に高い速度のイオンは、加速間隙間の飛行時間を増加させるために、相対的に長いドリフトチューブ長を必要とすることになる。それは、イオンの到着時間が、所与の振動する電圧電極のピーク電圧移送と一致するためである。図3の動作シナリオでは、以下のやり方でこの特徴を実現する。
【0026】
[0035] 図3のシナリオ(図2でも同様)では、図1の構成で示されているように、印加されるRF電圧は、共振器22を介してドリフトチューブアセンブリに印加される。RF電圧の周波数は、共振器22の第2の固有モード(第2の高調波)を表すので、第1のACドリフトチューブ電極30における振動する電圧は、V=Vo cos(ωt)によって与えられ、任意の所与の瞬間において、第2のACドリフトチューブ電極32における振動する電圧(V=Vo cos(ωt))と同じ大きさ及び同じ極性である。この事情により、第2の固有モード周波数で動作するときに、ドリフトチューブアセンブリ20‐Aの幾つかの特徴がもたらされる。図2のシナリオとは対照的に、ドリフトチューブアセンブリ20‐Aの3つの物理的な間隙は、Gap1を挟んでt=0ラジアンの第1の加速電界と、Gap3を挟んでT=πの第2の加速電界とを生成し、一方で、Gap2を挟んで加速電界は存在しない。したがって、Gap1及びGap3だけが、加速間隙として作用し、一方で、Gap3は、加速間隙として作用しない。別の言い方をすれば、図3の動作シナリオは、ドリフトチューブアセンブリ20‐Aを、ちょうど2つの加速間隙を保有するという意味で二重間隙加速段に変えるとみなされてよい。
【0027】
[0036] 本実施形態の動作を更に説明するために、図4は、共振器22を動作させるための第1のシナリオの下で、図2のドリフトチューブアセンブリ20‐Aの位置の関数として電位及び電界を示している。その場合、印加される電圧は、共振器22の第1の固有モードの周波数特性を有する。図5は、共振器22を動作させるための第2のシナリオの下で、図3のドリフトチューブアセンブリの位置の関数としての電気特性を示している。その場合、印加される電圧は、共振器22の第2の固有モードの周波数特性を有する。
【0028】
[0037] 特に、図4は、イオンビームの伝搬の方向(Z座標又は軸(メートル)で示されている)に沿った位置の関数として、z座標に沿ったシミュレートされた電圧及び電界の分布を示している。図4及び図5に描かれている事例では、示されている電圧の最大振幅が、約100,000Vであり、その電圧は、共振器22に印加されたRF電圧の最大振幅に対応してよい。基本周波数すなわち第1の固有周波数で共振するときに、第1のACドリフトチューブ電極30と第2のACドリフトチューブ電極32との電圧は、互いにπラジアンだけ位相がずれており、任意の所与の時刻においてその状態を維持する。第2の固有周波数で共振するときに、第1のACドリフトチューブ電極30と第2のACドリフトチューブ電極32との電圧は同じである。電圧Vは、Z座標に沿った位置の関数として所与の時刻の瞬間において印加される電圧の大きさを表しており、一方、電界Ezは、Z座標に沿った位置の関数としてZ方向(Z軸に沿った方向を意味する)に沿った電界の大きさを表している。したがって、Ezの大きさが大きいほど、Z軸方向の加速電界が大きくなり、イオンを高エネルギーに加速させる傾向がある。
【0029】
[0038] 原理的には、第1の接地されたドリフトチューブ電極34内では、電圧がゼロとなり、曲線Vは、第1の接地されたドリフトチューブ電極34の出口(下流)側に相当するZ座標=0までゼロに近い値を示す。間隙Gap1を挟んで電圧が低下し、第1のACドリフトチューブ電極30への入口において-100,000Vになる。第1のACドリフトチューブ電極30内では、電圧が一定で、その後、Gap2を挟んで+100,000Vの電位に切り替わる。第2のACドリフトチューブ電極32内では、電圧は一定で、その後、Gap3を挟んで0Vの電位まで低下する。発達する同時発生的な電界は、第1の接地されたドリフトチューブ電極34内でゼロを示し、Gap1の中間において約-4.5E6V/mの値まで増加し、第1のACドリフトチューブ電極30内で約ゼロまで低下する。同時発生的な電界は、Gap2の中間において約+4.5E6V/mの値まで増加し、第2のACドリフトチューブ電極32内で約ゼロまで低下する。発達する同時発生的な電界はまた、Gap3の中間において約-4.5E6V/mの値に切り替わり、第2の接地されたドリフトチューブ電極36内で約ゼロまで低下する。したがって、図4の構成では、3つの異なる加速間隙が形成される。その場合、加速電界の大きさは、4.5E6V/mに到達してよい。
【0030】
[0039] 記述されたように、図5は、図4で示されたものと同じ共振器トポロジー及びドリフトチューブアセンブリについての電圧及び電界分布を示しているが、共振器22は、次により高い高調波周波数(第2の固有モードを意味する)で印加されたRF電圧で動作される。このとき、第1のACドリフトチューブ電極30と第2のACドリフトチューブ電極32に現れる電圧は、等しい大きさ及び同じ極性で同時に振動する。
【0031】
[0040] 原理的には、第1の接地されたドリフトチューブ電極34では、電圧がゼロとなり、曲線Vは、第1の接地されたドリフトチューブ電極34の出口(下流)側に相当するZ座標=0までゼロに近い値を示す。間隙Gap1を挟んで電圧が増大し、第1のACドリフトチューブ電極30への入口において+~100,000Vになる。第1のACドリフトチューブ電極30内では、電圧が一定で、Gap2を挟んで略一定のままであり、第2のACドリフトチューブ電極32内でも一定のままで継続し、次いで、Gap3を挟んでゼロまで低下する。発達する同時発生的な電界は、第1の接地されたドリフトチューブ電極34内でゼロを示し、Gap1の中間において約+4E6V/mの値まで増加し、第1のACドリフトチューブ電極30内で約ゼロまで低下する。同時発生的な電界はまた、間隙Gap2内及び第2のACドリフトチューブ電極32内でゼロに近い大きさを示し、Gap3の中間において約-4E6V/mの値まで降下し、第2の接地されたドリフトチューブ電極36内でゼロまで戻る。
【0032】
[0041] したがって、図5の構成は、Gap1とGap3に対応するちょうど2つの加速間隙を提供し、一方で、Gap2を挟んで加速は行われない。言い方を変えると、Gap2を挟んで2つのACドリフトチューブ電極の電圧を共に事実上ゼロに固定することによって、図5の構成は、連続した加速間隙(Gap1とGap3)の間の無電界ドリフトスペースを増加させることによって、知られている長いドリフトチューブの二重間隙加速段を模倣する、より長い準ドリフトチューブを生成する。特に、第1のACドリフトチューブ電極の第1の長さは、DE1によって表され、第2のACドリフトチューブ電極の第2の長さは、DE2によって表され、図5のドリフトチューブアセンブリ20‐Aは、第1の長さDE1、第2の長さDE2、及び間隙DG2の合計と等しい、軸方向(z軸)に沿った距離だけ延在する無電界領域によって特徴付けられる。図5の非限定的な一実施例では、この無電界領域が、約0.1mであり、示されているACドリフトチューブ電極のいずれかの長さよりもかなり長い。
【0033】
[0042] より長い有効ドリフトチューブを生成することの利点を示すために、図5Aは、10MeVまでのイオンエネルギー上昇の関数として示されている、種々のイオン種、水素、ホウ素、及びリンについての理想的なチューブ長のリストを提供する。この長さは、指定されたイオンがAC電圧の180度又はπラジアンに相当する時間において移動する距離である。チューブ長はまた、信号周波数の関数でもあり、線形加速器において一般的に使用される13.56MHzについて、ならびに40MHzについて図示されている。注目すべきことに、どのイオンエネルギーについても、図示されている両方の周波数でも、リン酸イオンからホウ素イオンへの切り替えが、理想的なドリフトチューブ長を2倍を超えて増加させることをもたらす。更に、所与の核種においてイオンエネルギーを増加させると、理想的なドリフトチューブ長が増加する。例えば、40MHzのRF共振器を使用してホウ素イオンを加速する場合、イオンエネルギーを500keVから2MeVにすると、理想的なドリフトチューブ長が3.7cmから7.4cmになる。
【0034】
[0043] 上述された考察に鑑みて、ドリフトチューブアセンブリ20‐Aは、イオンエネルギーを大きくしたいとき又はイオン種のM/q比を小さくしたいときに、共振器の第1の固有モードに対応する周波数における動作から、第2の固有モードに対応する周波数へ切り替えられてよい。この柔軟性により、イオン種やイオンエネルギーを変更するときに、性能を最適化するために、普通であれば必要になり得るハードウェアの大幅な変更が回避されてよい。
【0035】
[0044] 図6は、三重間隙リニアックドリフトチューブ構成を1つの周波数で動作させるためのモデリング結果を提示し、一方で、図7は、三重間隙リニアックドリフトチューブ構成を第2の周波数で動作させるためのモデリング結果を提示している。特に、図6は、三重間隙加速器が基本周波数(第1の固有モード)で動作しているときの、共振器22の共振器コイルの周りの磁場線を示し、一方で、図7は、同じ共振器が次に最も高い高調波(第2の固有モード)で動作しているときの、磁場線を示している。図7では、共振器コイルの中央を通って磁場線の方向が分岐している。このように磁場の経路が複雑になると、同じ電流の変化率でより大きな電圧が生成されるので、コイルは実質的に大きな自己インダクタンスを示し、第2の固有モードの共振周波数は、第1の固有モードの周波数よりも大きくなる。
【0036】
[0045] 図1及び図2に戻ると、本開示の更なる複数の実施形態によれば、線形加速器の加速段を選択するために、RF信号が第2の固有モード周波数で選択的に印加されてよい。例えば、第1のRF信号が、共振器22の第1の固有モード(基本)周波数で加速段20‐Aに印加されてよい。一方で、第2のRF信号が、同様な共振器22の第2の固有モード(基本)周波数で加速段20‐Bに印加されてよい。イオンエネルギーは、第1の加速段の下流に配置された第2の加速段でより高くなるので、上で開示されたように、事実上「二重間隙」加速段の生成が、2つのACドリフトチューブ電極から形成された実質的により長いドリフトチューブを通して相対的に速いイオンを導くために適切であってよい一方、イオンエネルギーが相対的に低い上流の加速段では、個々のACドリフトチューブ電極が、適切なタイミングでイオンビームを移送するために十分な長さを個別に確保してよい。
【0037】
[0046] したがって、コントローラ50は、所与のイオン種、イオン荷電状態、及びイオンエネルギーについて適切なように、RF電圧源から適切な加速段に送信されるRF信号の周波数を、第1の固有モード周波数と第2の固有モード周波数との間で選択的に切り替えるように採用されてよい。
【0038】
[0047] 図8は、例示的なプロセスフロー800を描いている。ブロック802では、第1のACドリフトチューブ及び第2のACドリフトチューブを備えるドリフトチューブアセンブリを通してイオンビームを導く動作が行われる。ブロック804では、イオンビームがドリフトチューブアセンブリを通して導かれている間に、RF信号が、ドリフトチューブアセンブリに結合された共振器の第2の固有モードに対応する周波数で共振器に供給される。ブロック806では、ドリフトチューブアセンブリを通して第2のイオンビームが導かれる。その場合、第2のイオンビームは、イオンビームと比較して、より低いエネルギー又はより低いM/q比を有してよい。ブロック808では、第2のイオンビームがドリフトチューブアセンブリを通して導かれている間に、第2のRF信号が、共振器の第1の固有モードに対応する第2の周波数で共振器に印加される。
【0039】
[0048] 上記に鑑みて、本明細書で開示される実施形態によって、少なくとも以下の利点が実現される。RF信号を第2の固有モード周波数で共振器に選択的に印加するためのアプローチを提供することによって、本アプローチは、加速段内のハードウェアの面倒な交換なしに、ドリフトチューブアセンブリのドリフトチューブにおける有効ACドリフトチューブ長を調整する第1の利点を提供する。本実施形態はまた、リニアックベースの加速器の能力を、遅延なしに複数の異なる質量のイオンを処理するように拡張する第2の利点も提供する。というのも、ドリフトチューブアセンブリに対するハードウェアの変更が回避されてよいからである。本実施形態によって与えられる更なる1つの利点は、イオンエネルギーが相対的に高い下流段などの加速段を選択するために、第2の固有モードの励起周波数を選択的に印加することによって、所与のイオン種の所与のイオンビームの移送効率を改善する能力である。
【0040】
[0049] 本開示の特定の実施形態が本明細書に記載されているが、本開示は、当該技術分野が許す限り広い範囲内にあり、本明細書を同様に読むことができるため、本開示はこれに限定されない。したがって、上記の説明は、限定として解釈されるべきではない。当業者は、本明細書に添付された特許請求の範囲及び精神の範囲内での他の修正を想定することになる。
図1
図1A
図2
図3
図4
図5
図5A
図6
図7
図8