(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】連続した液体クロマトグラフ
(51)【国際特許分類】
G01N 30/26 20060101AFI20241001BHJP
G01N 30/46 20060101ALI20241001BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20241001BHJP
B01J 20/281 20060101ALI20241001BHJP
G01N 30/02 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
G01N30/26 M
G01N30/46 A
G01N30/26 Z
G01N30/88 Q
G01N30/46 Z
B01J20/281 R
G01N30/02 B
(21)【出願番号】P 2020027943
(22)【出願日】2020-02-21
【審査請求日】2023-01-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】植松 原一
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特公平07-043362(JP,B2)
【文献】特開平01-291159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00-30/96
B01J 20/281-20/292
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換カラムを用いる第一液体クロマトグラフ系と、
アフィニティカラムを用いる第二液体クロマトグラフ系と、
が切替えバルブを介して接続されたSA1c分析装置であって、
前記切替えバルブが、
前記第一液体クロマトグラフ系と前記第二液体クロマトグラフ系が繋がった流路となる第一の状態と、
前記第一液体クロマトグラフ系と前記第二液体クロマトグラフ系が独立した流路となる第二の状態と、
をとることが可能である、
前記第一液体クロマトグラフ系と前記第二液体クロマトグラフ系は、それぞれ送液ポンプに接続され、それらの送液ポンプの吸引側にそれぞれ切替え弁を配して、
前記第二液体クロマトグラフ系に流通する切替え弁により、組成が異なる2種の溶離液を選択できる、
SA1c分析装置。
【請求項2】
さらに、前記第一液体クロマトグラフ系に流通する切替え弁により、前記第二液体クロマトグラフ系に使用される溶離液のいずれかと異なる3種の溶離液を選択できる、
請求項1に記載のSA1c分析装置。
【請求項3】
前記第二液体クロマトグラフ系における異なる2種の溶離液が、それぞれ
非糖化成分を溶出させるバッファと、糖化成分を溶出させるバッファであり、
糖化成分を溶出させるバッファをステップグラジエントで実施する、
請求項1に記載のSA1c分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続した液体クロマトグラフに関するものである。
【背景技術】
【0002】
糖尿病の判断基準の指標として、血液中の糖化ヘモグロビン(SA1c)の割合を基に診断することが多く、その測定方法としてイオン交換クロマトグラフィ、アフィニティクロマトグラフィが例示できる。いずれの方法でも、塩濃度、組成の異なる複数のバッファを切替えて(ステップグラジエント)、目的である糖化ヘモグロビンを分離し、全体の占める割合からSA1c%を算出するものである。
イオン交換クロマトグラフィでは異常ヘモグロビン種の検体では、電荷の値が異なるため、正確に糖化されたヘモグロビンの量を算出できない、検体中に含まれる共存物質影響を受けるといった事例が報告されている。
一方、アフィニティクロマトグラフィでは、糖化/非糖化で分離するため、前記のような影響を受けにくいとされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、精密分離が得意なイオン交換クロマトグラフィと、検体の特性の影響を受けにくいアフィニティクロマトグラフィを、1回の検体注入で連続して行うことを可能とする装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。
【0005】
すなわち本発明の一態様は、イオン交換カラムを用いる第一液体クロマトグラフ系と、アフィニティカラムを用いる第二液体クロマトグラフ系と、が切替えバルブを介して接続された分析装置であって、前記切替えバルブが、前記第一液体クロマトグラフ系と前記第二液体クロマトグラフ系が繋がった流路となる第一の状態と、前記第一液体クロマトグラフ系と前記第二液体クロマトグラフ系が独立した流路となる第二の状態と、をとることが可能であることを特徴とする。
【0006】
また本発明の別態様は、イオン交換カラムを用いる第一液体クロマトグラフ系と、アフィニティカラムを用いる第二液体クロマトグラフ系と、切替えバルブと、前記切替えバルブに接続された保留ループと、を備えた分析装置であって、前記切替えバルブは、前記第一液体クロマトグラフ系のみが前記保留ループと繋がった流路となる第一の状態と、前記第二液体クロマトグラフ系のみが前記保留ループと繋がった流路となる第二の状態と、をとることが可能であることを特徴とする。
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0008】
イオン交換カラムを用いる第一液体クロマトグラフ系とは、少なくとも、複数のバッファを切替え可能な送液部、検体注入部、分析カラム、検出部を含んでなり、当該分析カラムがイオン交換カラムであることを特徴とする。
【0009】
アフィニティカラムを用いる第二液体クロマトグラフ系とは、複数のバッファを切替え可能な送液部、分析カラム、検出部を含んでなり、該分析カラムがアフィニティカラムであることを特徴とする。なお、第一液体クロマトグラフ系で分析されるものと同一の検体を第二液体クロマトグラフ系でも分析するため、第二液体クロマトグラフ系では検体注入部は備えていない。
【0010】
図1にシステム構成の一例を示す。符号1~14までは第一液体クロマトグラフ系の構成要素、符号15~25までは第二液体クロマトグラフ系の構成要素を示している。
切替えバルブ26により、第一液体クロマトグラフ系の可視光検出器14の出口が第二液体クロマトグラフ系の分析カラム24の上流側に流れる状態(状態1)と、可視光検出器14の出口がそのままドレンに流れる状態(状態2)の、2つの状態に切替え可能である。
切替えバルブ26が状態1の場合、アフィニティクロマトグラフィ用バッファは、分析カラム24を通らず、そのままドレンに流れる流路をとり、状態2の場合、第二液体クロマトグラフ系ではアフィニティクロマトグラフィ用バッファがそのまま分析カラム24に流れる流路をとる。
図2は切替えバルブ26が状態1の場合、
図3は切替えバルブ26が状態2の場合の流路を分かり易く示した図である。
【0011】
具体的な装置の操作方法としては以下の通りである。
まず、切替えバルブ26を状態1の流路とする。第一液体クロマトグラフ系にて複数の分画(ピーク)に分離された溶出液についてカラム24にそのまま導入させる。第一液体クロマトグラフ系にて分離された成分は、第二液体クロマトグラフ系では全く溶出されないため、カラム24のヘッド部に留まり、濃縮される。
次に、切替えバルブ26を状態2に切替え、カラム24にアフィニティクロマトグラフィ用バッファ1を流す。切替えのタイミングとしては、第一液体クロマトグラフ系での分析に十分な時間が経過してからとする。切替えバルブ26を状態2に切替え、時間T1までバッファ1を送液し、非糖化成分を溶出させ、時間T2までバッファ2を送液し糖化成分を溶出させる。
図4は切替えバルブ26の状態と第一液体クロマトグラフ系、第二液体クロマトグラフ系で得られるクロマトグラムを模式的に示した図である。
【0012】
本システムでは、検体の測定を実施する前に、第一液体クロマトグラフ系のみの測定で良いか、又は第一液体クロマトグラフ系と第二液体クロマトグラフ系の両方を測定するかを選択することが可能であり、検体の素性が予め分かっている際に有効な方法である。
【0013】
図5にシステム構成の別例を示す。符号1~14までは第一液体クロマトグラフ系の構成要素、符号15~25までは第二液体クロマトグラフ系の構成要素を示している。
切替えバルブ26により、第一液体クロマトグラフ系の可視光検出器14の出口が1分析分のバッファ送液容量以上の容量を有する保留ループ27を経由してドレンに流れる状態(状態1)、可視光検出器14の出口がそのままドレンに流れる状態(状態2)と、の、2つの状態に切替え可能である。保留ループ27の容量は、例えば、第一液体クロマトグラフ系の流量が1.5mL/min、分離時間が1.5分の場合、2.25mL以上の容量が必要である。
切替えバルブ26が状態1の場合、アフィニティクロマトグラフィ用バッファは保留ループ27を経由せず、分析カラム24に流れる流路をとり、状態2の場合、第二液体クロマトグラフ系ではアフィニティクロマトグラフィ用バッファは、保留ループ27を経由して分析カラム24に流れる流路をとる。
図6は切替えバルブ26が状態1の場合、
図7は切替えバルブ26が状態2の場合の流路を分かり易く示した図である。
【0014】
具体的な装置の操作方法としては以下の通りである。
まず、切替えバルブを状態1の流路とする。第一液体クロマトグラフ系にて分離された成分は、検出器14を通過後、保留ループ27に導かれる。1分析が終了した時点、つまり、1分析分の溶出液が保留ループ27内に収まった時点で、切替えバルブを状態2とする。これにより、保留ループ27内に収まった溶出液がアフィニティクロマトグラフィ用バッファ1で分析カラム24に導入することが可能となる。時間T1までバッファ1を送液し、非糖化成分を溶出させ、時間T2までバッファ2を送液し糖化成分を溶出させる。
【0015】
本システムでは、第一液体クロマトグラフ系で得られたクロマトグラムパターンや定量結果を判断材料として、第二液体クロマトグラフ系による測定を行うか否かを自動で実行する場合などに有効な方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、イオン交換クロマトグラフィとアフィニティクロマトグラフィを1回の検体注入で連続して行うことを可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のシステム構成を示した図である。上段部が第一液体クロマトグラフ系、下段部が第二液体クロマトグラフ系の役割を果たす部分である。切替えバルブ26の太線は状態1、細線は状態2を示している。
【
図2】
図1の装置において、切替えバルブ26が状態1の場合の流路を示した図である。
【
図3】
図1の装置において、切替えバルブ26が状態2の場合の流路を示した図である。
【
図4】
図1の装置における第一液体クロマトグラフ系、第二液体クロマトグラフ系による分離を連続して行う際の様子を模式的に示した図である。上段が第一液体クロマトグラフ系、下段が第二液体クロマトグラフ系での分離を示している。中段は切替えバルブ26の状態を示している。
【
図5】本発明のシステム構成の別例を示した図である。上段部が第一液体クロマトグラフ系、下段部が第二液体クロマトグラフ系の役割を果たす部分である。切替えバルブ26の太線は状態1、細線は状態2を示している。
【
図6】
図1の装置において、切替えバルブ26が状態1の場合の流路を示した図である。
【
図7】
図1の装置において、切替えバルブ26が状態2の場合の流路を示した図である。
【
図8】実施例1で使用したシステム構成を示した図である。
【
図9】実施例1の測定で得られたクロマトグラムである。図aはキャリブレータ1、図bはキャリブレータ2である。それぞれ、上段が第一液体クロマトグラフ系で得られたクロマトグラム、下段が第二液体クロマトグラフ系で得られたクロマトグラムである。
【
図10】実施例1のキャリブレータの分析結果から計算された検量線である。図aは第一液体クロマトグラフ系、図bは第二液体クロマトグラフ系で得られた結果をそれぞれ示している。
【
図11】実施例1の測定で得られたクロマトグラムである。図aは第一液体クロマトグラフ系、図bは第二液体クロマトグラフ系で得られたクロマトグラムを重ね描いた図である。いずれも、実線は無添加、短破線はシアン酸ナトリウムを添加、長破線はアセトアルデヒドを添加した結果を示している。
【
図12】実施例1で、第一液体クロマトグラフ系からの検体を含む溶出液が、アフィニティカラムに完全にトラップされたかを検証した図である。
【
図13】実施例1で、第一液体クロマトグラフ系からの検体を含む溶出液をアフィニティカラムに導入する時間(バルブ切替え時間)を変化させた場合の、第二液体クロマトグラフ系で得られたクロマトグラムでのA0ピークの溶出挙動を示した図ある。図aは検体注入からのA0ピークの溶出時間、図bは切替え時間からのA0ピークの溶出時間を示している。
【
図14】実施例1で、第一液体クロマトグラフ系からの検体を含む溶出液をアフィニティカラムに導入する時間(バルブ切替え時間)を変化させた場合の、第二液体クロマトグラフ系で得られたクロマトグラムでのA1cピークの溶出挙動を示した図である。図aは検体注入からのA1cピークの溶出時間、図bは切替え時間からのA1cピークの溶出時間を示している。
【
図15】実施例2で使用したシステム構成を示した図である。
【
図16】実施例2で得られたクロマトグラムを示した図である。図aは第一液体クロマトグラフ系で得られたクロマトグラム、図bは第二液体クロマトグラフ系で得られたクロマトグラムである。図中実線はキャリブレータ1、破線はキャリブレータ2を示している。
【
図17】実施例2のキャリブレータの分析結果から計算された検量線である。図aは第一液体クロマトグラフ系、図bは第二液体クロマトグラフ系で得られた結果を示している。
【
図18】実施例2で、バルブの切替え時間を変化させた場合の、第二液体クロマトグラフ系で得られたクロマトグラムの変化を示した図である。
【
図19】実施例2で、バルブの切替え時間を変化させた場合の、定量結果への影響を示した図である。図aは総面積、図bはA1cピーク面積、図cはA1c面積%を示している。
【実施例】
【0018】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制限されるものではない。
【0019】
(実施例1)
図8に本検証で使用したシステム構成を示す。
第一液体クロマトグラフ系は、送液ポンプ8、試料注入機構9、イオン交換カラム13及び可視光検出器14を接続した。また、送液ポンプ8の吸引側に切替え弁5~7を配し、塩濃度等が異なる3種の溶離液1~3が選択できるようにした。
第二液体クロマトグラフ系は、送液ポンプ20、アフィニティカラム24及び可視光検出器25を接続した。また、送液ポンプ20の吸引側に切替え弁18、19を配し、組成が異なる2種の溶離液15、16が選択できるようにした。
また、第一液体クロマトグラフ系の出口と第二液体クロマトグラフ系の入口を、2つの流路構成がとれる2位置切替え6方バルブ26で接続した。恒温槽10、21は、1つに集約し、イオン交換カラム13とアフィニティカラム24の両方を収納した。
いずれの構成機器も、全て東ソー(株)製の8020シリーズのHPLCを用いた。
【0020】
第一液体クロマトグラフ系の分析カラムおよび溶離液は、東ソー(株)製グリコヘモグロビン分析計GHbVIII用のものを使用した。
第二液体クロマトグラフ系の分析カラムは東ソー(株)製TSKgel Borate5PW(2.5mmID*15mmL)(リガンド:m-アミノフェニルボロン酸)を使用した。
SA1c吸着用溶離液(pH8.8)の組成は、以下のように調整した。
HEPES 10mM
塩化マグネシウム・6水和物 50mM
塩化ナトリウム 500mM
アジ化ナトリウム 0.1%
SA1c脱着用溶離液(pH8.8)の組成は、以下のように調整した。
HEPES 10mM
塩化ナトリウム 500mM
D-ソルビトール 30mM
アジ化ナトリウム 0.1%
【0021】
検体として、東ソー(株)製のキャリブレータ(Cal_1:HbA1c 5.9%[NGSP]、Cal_2:HbA1c 10.9%[NGSP])、コントロール(Ctl_1:HbA1c 5.0±0.3%[NGSP]、Ctl_2:HbA1c 10.1±0.5%[NGSP])を使用した。使用する際は、同取扱説明書の手順で溶解・希釈して用いた。併せて、実際の血液検体も使用した。使用する際は、東ソー(株)製グリコヘモグロビン分析計(HLC-723シリーズ)専用の溶血/洗浄液にて溶解・希釈して用いた。
【0022】
その他の測定条件は以下の通りである(共通)。
送液流量 :1.25mL/min
カラム温度 :40℃
検出波長 :415nm(単波長)
検出器レスポンス :0.15s
データ収集サンプリングピッチ:100ms
【0023】
バルブ26は、状態1の場合、第一液体クロマトグラフ系と第二液体クロマトグラフ系が流路と繋がった流路となり、第一液体クロマトグラフ系で分離された成分がアフィニティカラム24に全量流れ込む流路となる。
バッファの切替えタイミング(ステップグラジエント)及びバルブ26の切替えタイミングは以下の通りとした。
まず、バルブ26を状態2で、それぞれのカラムをバッファ1で初期化した。続いて、バルブ26を状態1に切替え、検体を注入し分析を開始した。第一液体クロマトグラフ系では、0.45分までバッファ1、0.45~0.80分までバッファ2、0.80~1.70分までバッファ3が流れるステップグラジエントを実施した。
開始から2.50分後にバルブ26を状態2に切替えた。
第二液体クロマトグラフ系では、4.0分までバッファ1、4.0~6.0分までバッファ2が流れるステップグラジエントを実施した。
図9にキャリブレータ1、2を測定し得られたクロマトグラムを示す。いずれも、上段が第一液体クロマトグラフ系、下段が第二液体クロマトグラフ系で得られたクロマトグラムである。なお、バルブの切替えのタイミングは「SW」と示し、以降の図でも同様である。
【0024】
下段のクロマトグラムから分かるように、0.0~2.5分までの間、ピークは検出されない。つまり、第一液体クロマトグラフ系で分離された検体は、アフィニティカラムに全く溶出せず、カラム入口で濃縮されていることとなる。バルブ26を状態1から2に切替えることにより、アフィニティカラムにアフィニティクロマトグラフィ用バッファ1が流れ込み、非糖化ヘモグロビンが溶出し、更にバッファ2に切替えることで、糖化ヘモグロビンが溶出していることが分かる。
【0025】
図10はこの結果を基にした検量線である。横軸が全ピーク面積に対する糖化ヘモグロビンピーク面積比(A1c面積%)、縦軸は糖化ヘモグロビン%(A1c%)を示している。
【0026】
次に、コントロール1、2、全血、全血に0.25g/Lの割合でシアン酸ナトリウム、アセトアルデヒドを添加し、37℃下、1時間反応させた後、即溶血/希釈した検体について前記検量線から定量を実施した。
【0027】
図11に得られたクロマトグラムを示す。
コントロール1、2および実検体に関しては、第一液体クロマトグラフ系と第二液体クロマトグラフ系でほぼ同じ値が得られているが、シアン酸ナトリウム、アセトアルデヒドを添加した検体では、第一液体クロマトグラフ系と第二液体クロマトグラフ系で差異が見られる。
クロマトグラムから分かるように、第一液体クロマトグラフ系では、定量目的であるA1cピークに妨害ピークがかぶり、正しく定量できていない。シアン酸ナトリウム添加検体では、0.19%低く、アセトアルデヒドを添加した検体では、0.98%高い値と計算されてしまう。第二液体クロマトグラフ系では添加による値の変動がほぼ見られない。
【0028】
【0029】
さらに、バルブ26の切替え時間(SW)及び第二液体クロマトグラフ系でのバッファ切替えを表2のように変化させ、定量性等の結果に影響しないか、検証を行った。なお、バッファ切り替えは、バルブ切り替え時間を基点とした場合、バッファ1から2への切替え時間は1.50分、バッファ2から1への切替え時間は3.50分と、一定になるように設定してある。
【0030】
【0031】
図12にキャリブレータ2を測定し得られた第二液体クロマトグラフ系で得られたクロマトグラムを示す。また、
図13にA0ピークの溶出時間の変化、
図14はA1cピークの溶出時間の変化を示す。
図13、14は共に、図aは試料注入を基点とした溶出時間、図bはバルブ切り替えを基点とした時間で表示してある。これらから分かるように、バルブ切り替え時間を遅くすると、各成分ピークはそれに伴い遅くなるが、切替え時間を基点としてみると、各成分ピークの溶出時間、ピーク形状は、ほぼ同じになっている。このことからも、第一液体クロマトグラフ系で分離された検体は、アフィニティカラムおよびイオン交換クロマトグラフィ用バッファ1~3では全く溶出していないことが分かる。
【0032】
(実施例2)
図15に本検証で使用したシステム構成を示す。
切替えバルブ26周辺の流路構成以外は、実施例1と同様である。バルブ26は、状態1の場合、保留ループ27は分析カラム24の上流に接続した流路、状態2の場合、保留ループ27は検出器14下流側に接続された流路となる。
【0033】
実施例2での測定条件は下記の通りとした。なお、これ以外の条件は、実施例1と同じである。
第一液体クロマトグラフ系
ステップグラジエント:0.00分~0.25分 バッファ1
0.25分~0.55分 バッファ2
0.55分~1.05分 バッファ3
設定流速 :1.25mL/min
保留ループ容量 :3.24mL(内径1.0mm×4m SUS チューブ)
バルブ切替え時間 :2.00分
第二液体クロマトグラフ系
分析カラム :TSKgel Borate5PW
(7.5mmID*75mm)
ステップグラジエント:0.0分~9.00分 バッファ1
9.00~15.00分 バッファ2
設定流速 :1.25mL/min
【0034】
まず、バルブ26を状態1で、それぞれのカラムをバッファ1で初期化した。続いて、バルブ26を状態1としたまま、検体を注入し分析を開始した。第一液体クロマトグラフ系では、上記ステップグラジエントを実施した。検出器14からの溶出液は保留ループ27に導かれることとなる。全成分の分析が終了する時間である2.0分にバルブ26を状態2に切替えた。これにより、保留ループ27内に保留された、分離成分を含むイオン交換クロマトグラフィ用バッファは、分析カラム24の上流に配されることとなる。
【0035】
保留ループ27内に保留された液は、アフィニティクロマトグラフィ用バッファ1により押し流され、分析カラム24に導入され、分離が開始される。
検体注入から9分後、アフィニティクロマトグラフィ用バッファ2に切り替えた。
【0036】
図16にキャリブレータ1、2を測定し得られたクロマトグラムを示す。図aは第一液体クロマトグラフ系、図bは第二液体クロマトグラフ系で得られたクロマトグラムである。図aで分かるように、第一液体クロマトグラフ系では約2分で分離が終了している。つまり、第一液体クロマトグラフ系の検出器出口に配された保留ループ27内に、1分析分完全に保留されている。バルブを切替えた後は、保留ループ27は第二液体クロマトグラフ系に配されるため、この容量分はイオン交換クロマトグラフィ用バッファがアフィニティカラム内を流れることとなる。
【0037】
表3に検量線作成用のキャリブレータ1、2及びコントロール1、2の測定定結果を示す。なお、キャリブレータ1、2で得られた結果から
図17に示す検量線が取得できた。
【0038】
【0039】
次に、回収率の検証を行った。
【0040】
図18に、バルブの切替え時間を0.5~3.0分まで変化させた場合の第二液体クロマトグラフ系のクロマトグラムを示す。なお、図中の破線は切り替え時間を示しており、時間軸を、切り替え時間を基準となるようにずらして配置してある。
図19は、第二液体クロマトグラフ系で得られた定量結果を示した図である。図aは縦軸がピーク総面積、図bは縦軸がA1cピーク面積、図cは縦軸がA1c面積%である。また、表4は第一液体クロマトグラフ系及び第二液体クロマトグラフ系で得られた定量結果を示した表である。
【0041】
【0042】
図18、19から分かるように、バルブの切替え時間を基準とした場合、第二液体クロマトグラフ系で得られたクロマトグラムにおいて、各成分ピークの溶出時間に変化は見られない。つまり、バルブを切り替えた以降、正常にアフィニティ分離がなされていると言える。
【0043】
保留ループ27の容量は、約3.24mLであり、計算上、イオン交換溶出液の約2.6分を保留できる。第一液体クロマトグラフ系での分離は2分弱で終了している。容量に換算すると、2.5mL(2分×1.25mL/min)となる。切替え時間が2分以上であれば、第一液体クロマトグラフ系での分離帯を全て保留ループに収めることができ、100%の量を第二液体クロマトグラフ系に負荷できるが、切り替え時間を3分とした場合、保留ループの容量を超えてしまうため、第一液体クロマトグラフ系の分離帯の一部は保留ループから排出され、第二液体クロマトグラフ系への負荷量が減る結果となる。また、切り替え時間が極端に短い場合、第一液体クロマトグラフ系の分離帯を完全に保留ループ内に収められず、A1c面積%も正確に算出できないことも分かる。
【符号の説明】
【0044】
1.イオン交換クロマトグラフィ用バッファ1
2.イオン交換クロマトグラフィ用バッファ2
3.イオン交換クロマトグラフィ用バッファ3
4.イオン交換クロマトグラフィ用脱気装置
5.イオン交換クロマトグラフィ用バッファ1 開閉機構
6.イオン交換クロマトグラフィ用バッファ2 開閉機構
7.イオン交換クロマトグラフィ用バッファ3 開閉機構
8.イオン交換クロマトグラフィ用送液ポンプ
9.イオン交換クロマトグラフィ用試料注入機構
10.イオン交換クロマトグラフィ用恒温槽
11.イオン交換クロマトグラフィ用ラインフィルタ
12.イオン交換クロマトグラフィ用プレヒートコイル
13.イオン交換カラム
14.イオン交換クロマトグラフィ用可視光検出器
15.アフィニティクロマトグラフィ用バッファ1
16.アフィニティクロマトグラフィ用バッファ2
17.アフィニティクロマトグラフィ用脱気装置
18.アフィニティクロマトグラフィ用バッファ1 開閉機構
19.アフィニティクロマトグラフィ用バッファ2 開閉機構
20.アフィニティクロマトグラフィ用送液ポンプ
21.アフィニティクロマトグラフィ用恒温槽
22.アフィニティクロマトグラフィ用ラインフィルタ
23.アフィニティクロマトグラフィ用プレヒートコイル
24.アフィニティカラム
25.アフィニティクロマトグラフィ用可視光検出器
26.流路切替え機構
27.保留ループ