IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-多孔質中空糸膜の製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】多孔質中空糸膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/08 20060101AFI20241001BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20241001BHJP
   B01D 67/00 20060101ALI20241001BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20241001BHJP
   B01D 71/26 20060101ALI20241001BHJP
   D01F 6/04 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
B01D69/08
B01D63/02
B01D67/00
B01D69/00
B01D71/26
D01F6/04 C
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020073459
(22)【出願日】2020-04-16
(65)【公開番号】P2021169065
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2022-11-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】篠田 亜美
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 圭
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-221401(JP,A)
【文献】特開昭64-051101(JP,A)
【文献】国際公開第2018/092342(WO,A1)
【文献】特開2000-288357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
D01F 1/00- 6/96
9/00- 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リオレフィン系樹脂を含む原料を溶融紡糸して中空糸を得る紡糸工程と、
前記中空糸を延伸して中空糸膜を得る延伸工程と、
前記延伸工程の後、前記中空糸膜を熱緩和処理する1回目の熱緩和工程と、
前記1回目の熱緩和工程の後、前記中空糸膜を親水化処理する親水化工程と、
前記親水化工程の後、前記中空糸膜を熱緩和処理する2回目の熱緩和工程とを有する、下記の測定方法で得られる収縮率が3%以下である多孔質中空糸膜の製造方法であって、
前記1回目の熱緩和工程における緩和率は、前記2回目の熱緩和工程における緩和率より高いことを特徴とする、多孔質中空糸膜の製造方法。
測定方法:長さ400mmの多孔質中空糸膜を、エタノールに10分間浸漬した後、純水に10分間浸漬し、60℃の雰囲気中で30分間乾燥した後、室温で5分間冷却する浸漬処理を行い、処理後の前記多孔質中空糸膜の長さL1(単位:mm)を測定し、下記式(I)により収縮率(単位:%)を算出する。
収縮率=(400-L1)/400×100 ・・・(I)
【請求項2】
前記熱緩和処理が、前記中空糸膜を熱緩和温度Tの雰囲気中で加熱する処理であり、前記熱緩和温度Tは前記中空糸膜を構成するポリオレフィン系樹脂の融点以下であり、前記熱緩和温度Tと前記融点との差が5~35℃である、請求項に記載の多孔質中空糸膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質中空糸膜及びその製造方法、並びに前記多孔質中空糸膜を有する中空糸膜エレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、生活排水や工場排水等の浄化処理には、多孔質中空糸膜が好適に用いられる。多孔質中空糸膜は、複数の多孔質中空糸膜を一方向に引き揃えて一体的に保持した中空糸膜エレメントの形態で用いられることが多い。
【0003】
多孔質中空糸膜を用いた水処理では、被処理水を貯留した処理槽に中空糸膜エレメントを浸漬し、例えば、多孔質中空糸膜の外方から内方へ被処理水を吸引することによって、汚濁物質を多孔質中空糸膜の外面で捕捉する。
また、汚濁物質によって多孔質中空糸膜が目詰まりするのを防止するために、必要に応じて、中空糸膜エレメントを洗浄する。
ここで、例えば、特許文献1には、排水処理の処理槽から中空糸膜エレメントを引き上げて洗浄する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-31839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
中空糸膜エレメントを処理槽から引き上げて洗浄し、再び処理槽に浸漬して使用する操作を繰り返すと、性能が低下したり、多孔質中空糸膜の糸切れが生じたりするため、その場合には新品に交換する必要がある。
本発明者の知見によれば、中空糸膜エレメントを処理槽から引き上げて空気中で洗浄操作を行うと、多孔質中空糸膜が乾燥して収縮する場合があり、多孔質中空糸膜の収縮が大きいと性能低下や糸切れが生じやすい。
本発明は、中空糸膜エレメントの製品寿命を延ばすことができる多孔質中空糸膜及びその製造方法、並びに前記多孔質中空糸膜を有する中空糸膜エレメントの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] ポリオレフィン系樹脂からなり、下記の測定方法で得られる収縮率が3%以下である、多孔質中空糸膜。
測定方法:長さ400mmの多孔質中空糸膜を、エタノールに10分間浸漬した後、純水に10分間浸漬し、60℃の雰囲気中で30分間乾燥した後、室温で5分間冷却する浸漬処理を行い、処理後の前記多孔質中空糸膜の長さL1(単位:mm)を測定し、下記式(I)により収縮率(単位:%)を算出する。
収縮率=(400-L1)/400×100 ・・・(I)
[2] 前記ポリオレフィン系樹脂のガラス転移温度が40℃以下である、[1]の多孔質中空糸膜。
[3] 前記ポリオレフィン系樹脂がポリエチレンを含む、[1]又は[2]の多孔質中空糸膜。
[4] [1]~[3]のいずれかの多孔質中空糸膜の複数本と、前記複数本の多孔質中空糸膜の両端に接続された集水管とを有する、中空糸膜エレメント。
[5] 請求項1~3のいずれか一項に記載の多孔質中空糸膜を製造する方法であって、前記ポリオレフィン系樹脂を含む原料を溶融紡糸して中空糸を得る紡糸工程と、前記中空糸を延伸して中空糸膜を得る延伸工程と、前記中空糸膜を熱緩和処理する熱緩和工程とを有する、多孔質中空糸膜の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の多孔質中空糸膜は、水に浸漬した後に乾燥したときの収縮率が小さいため、洗浄に伴う性能低下や糸切れが生じ難い。
本発明の中空糸膜エレメントは、水に浸漬した後に乾燥したときの多孔質中空糸膜の収縮率が小さいため、洗浄に伴う性能低下や糸切れが生じ難い。
本発明の多孔質中空糸膜の製造方法によれば、水に浸漬した後に乾燥したときの収縮率が小さい多孔質中空糸膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の中空糸膜エレメントの一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<多孔質中空糸膜>
本実施形態の多孔質中空糸膜はポリオレフィン系樹脂からなる。
本明細書において、ポリオレフィン系樹脂とは、アルケン(水素原子の一部がフッ素原子に置換されていてもよい。)に基づく単位の1種以上からなる重合体である。ここで、ポリオレフィン系樹脂の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-4メチルペンテン-1、ポリフッ化ビニリデン、ポリオレフィン系共重合樹脂などが挙げられる。多孔質中空糸膜を構成するポリオレフィン系樹脂は1種でもよく、2種以上の混合物でもよい。また、ポリオレフィン系樹脂以外の樹脂、有機材料、無機材料との混合物でもよい。
液体濾過時に膜材からの溶出を抑制できる溶融紡糸多孔化の容易性の点で、多孔質中空糸膜を構成するポリオレフィン系樹脂が、ポリエチレン又はポリプロピレンを含むことが好ましく、特にポリエチレンを含むことがより好ましい。
【0010】
一般的に水処理における膜濾過温度は40℃以下であることが多い。多孔質中空糸膜の使用温度がガラス転移温度よりも高いと、多孔質中空糸膜を構成しているポリマー鎖が動けるため、残存応力が生じやすい。残留応力は多孔質中空糸膜の収縮の原因となる。したがって、多孔質中空糸膜を構成するポリオレフィン系樹脂のガラス転移温度(以下、Tgともいう。)が40℃以下であると、本発明を適用することによる効果が得られやすい。
Tgが40℃以下であるポリオレフィン系樹脂の具体例としては、ポリエチレン(Tg:-125℃)、ポリプロピレン(Tg:0℃)が挙げられる。
多孔質中空糸膜を構成するポリオレフィン系樹脂が2種以上である場合、それぞれのTgが40℃以下であることが好ましい。
【0011】
本実施形態の多孔質中空糸膜は、前記ポリオレフィン系樹脂からなる中空糸膜の表面(外側表面、内側表面及び孔内部の表面)の少なくとも一部にコーティング層を有してもよい。例えば、多孔質中空糸膜の表面に、親水性樹脂、界面活性剤、無機粒子等が存在してもよい。
【0012】
多孔質中空糸膜の平均孔径は特に限定されない。例えば0.02~0.5μmが好ましい。
本明細書において、多孔質中空糸膜の平均孔径は、JIS K 3832に準拠した細孔径分布測定装置を用いて得られた細孔径分布におけるピーク値である。
【0013】
多孔質中空糸膜の外径および内径は特に限定されない。使用用途やエレメント形状などにより任意に選ぶことができる。一般的には外径300~1000μm程度の範囲で選ばれることが多い。
【0014】
本実施形態の多孔質中空糸膜は、下記の測定方法で得られる収縮率が3%以下である。
前記収縮率が低いほど寸法安定性に優れる。前記収縮率は2%以下が好ましく、1.5%以下がより好ましい。
【0015】
収縮率の測定方法:長さ400mmの多孔質中空糸膜を、エタノールに10分間浸漬した後、純水に10分間浸漬し、60℃の雰囲気中で30分間乾燥した後、室温で5分間冷却する浸漬処理を行い、処理後の前記多孔質中空糸膜の長さL1(単位:mm)を測定し、下記式(I)により収縮率(単位:%)を算出する。
収縮率=(400-L1)/400×100 ・・・(I)
【0016】
前記収縮率は、具体的に以下の方法で測定する。
(1)まず、多孔質中空糸膜(1フィラメント)を500mmの長さに切断して試験体とする。試験体の一端を固定し、他端を自重で垂下させる。他端の先端に50mg/dtexの荷重をかけた状態で、両端を除く長さ400mmの部分(被測定部分)に印をつける。
(2)次に、浸漬処理を行う。すなわち、試験体をエタノール(室温)に10分間浸漬した後、取り出し、続いて純水(室温)に10分間浸漬して取り出す。試験体の一端を固定し他端を自重で垂下させた状態で、雰囲気温度60℃の乾燥機内で30分間乾燥させた後、室温で5分間冷却する。
(3)次いで、前記(1)と同様に試験体の他端の先端に50mg/dtexの荷重をかけた状態で、前記(1)で印をつけた前記被測定部分の長さL1(単位:mm)を測定する。
(4)前記式(I)により収縮率を算出する。
なお、本明細書において「室温」とは、特に断りの無い限り23℃±2℃の範囲内の温度を意味する。
【0017】
本実施形態の多孔質中空糸膜に、中空糸膜を補強するための支持体(例えば、編紐や組紐等の繊維状物)を設けてもよく、設けなくてもよい。本発明を適用することによる効果が優位に示される点で、支持体を含まない多孔質中空糸膜が好適である。
【0018】
<多孔質中空糸膜の製造方法>
本実施形態の多孔質中空糸膜は、ポリオレフィン系樹脂を含む原料を溶融紡糸して中空糸を得る紡糸工程と、前記中空糸を延伸して中空糸膜を得る延伸工程と、前記中空糸膜を熱緩和処理する熱緩和工程とを有する方法で製造される。紡糸工程と延伸工程との間に、任意の工程を設けてもよい。
延伸工程と熱緩和工程との間に任意の工程を設けてもよい。
熱緩和工程の後に、延伸を伴わない任意の工程を設けてもよい。
【0019】
[紡糸工程~延伸工程]
紡糸工程から延伸工程までは公知の方法を用いることができる。
例えば、ポリオレフィン系樹脂を含む原料を溶融紡糸し、冷却固化して中空糸を得て、中空糸を延伸することによって、内面から外面にかけてスリット状の微細孔が相互につながった連通孔を有する多孔質中空糸膜を形成することができる。
例えば、特願2017-081783号公報の段落0033~0049に記載の方法等を用いることができる。
【0020】
延伸工程では、中空糸を搬送しながら加熱して延伸し、中空糸膜とする。
延伸時の雰囲気温度(延伸温度t)は、中空糸を構成するポリオレフィン系樹脂のビカット軟化点以下であることが好ましい。延伸温度tがビカット軟化点以下であると、多孔質中空糸膜の孔径を拡大しやすい。延伸温度tがビカット軟化点を超えると孔が閉塞する場合がある。
【0021】
紡糸工程の後、延伸工程に先立って、中空糸をアニール処理(定長熱処理)することが好ましい。
アニール処理では、中空糸を巻き取った状態で加熱することが好ましい。アニール処理を行う際の加熱温度(雰囲気温度)は、中空糸を構成するポリオレフィン系樹脂の融点以下とする。
例えばポリオレフィン系樹脂としてポリエチレンを用いる場合、雰囲気温度105~130℃、8~16時間の条件で、中空糸を加熱することが好ましい。
【0022】
アニール処理を行う場合、アニール処理の後、冷延伸を行ってから、前記延伸温度tで行う延伸(熱延伸)を行うことが好ましい。
冷延伸は、比較的低い温度下で膜の構造破壊を起きせ、ミクロなクラッキングを発生させる延伸である。冷延伸を行う際の雰囲気温度は、中空糸を構成するポリオレフィン系樹脂のビカット軟化点より20℃以上低い温度(ビカット軟化点-20℃以下)が好ましい。下限は0℃以上が好ましい。冷延伸の延伸倍率は1.2~1.8倍が好ましい。
アニール処理及び冷延伸を行う場合の延伸工程は、冷延伸に引き続いて熱延伸を行う2段延伸でもよく、冷延伸に引き続いて熱延伸を2段以上の多段に分割して行う多段延伸でもよい。
【0023】
中空糸に対する多孔質中空糸膜の総延伸倍率は、2~5倍が好ましい。総延伸倍率が2倍以上であると空孔率が高くなりやすく、5倍以下であると破断伸度が高くなりやすい。
【0024】
[熱緩和工程]
熱緩和工程では、延伸工程で生じた残存応力を緩和できる温度で、中空糸膜を加熱(熱緩和処理)した後、冷却する。中空糸膜を搬送しながら加熱することが好ましい。送り出し速度より巻き取り速度を遅くして、中空糸膜を弛緩させた状態で加熱することが好ましい。
熱緩和処理における雰囲気温度(熱緩和温度T)は、中空糸膜を構成するポリオレフィン系樹脂の融点以下とする。熱緩和温度Tと融点との差は5~35℃が好ましい。
熱緩和処理における、(1-巻き取り速度/送り出し速度)×100で表される緩和率(単位:%)は0%以上であり、0~35%が好ましく、10~20%がより好ましい。緩和率が上記範囲内であると製造の安定性と収縮率および膜性能を両立させる点で好ましい。
【0025】
熱緩和工程において、熱緩和処理を複数回行ってもよい。
複数回の熱緩和処理の条件は同じであってもよく、異なってもよい。また、生産及び品質安定性の観点で、熱緩和処理は2回以上行うことが好ましい。
【0026】
1回の熱緩和処理において、中空糸膜が熱緩和温度Tの雰囲気中に存在する時間(加熱時間)は5秒~10分間が好ましく、10秒~5分間がより好ましい。上記範囲内であると残存応力を十分低減できるとともに、生産性良く製造することができる。
【0027】
熱緩和工程における、熱緩和温度T、緩和率、加熱時間、及び熱緩和処理の回数のうちの1つ以上を変化させることで、多孔質中空糸膜の収縮率を調整することができる。
例えば、熱緩和温度Tを高めると収縮率が低下する傾向がある。熱緩和率を高めると収縮率が低下する傾向がある。加熱時間を長くすると収縮率が低下する傾向がある。熱緩和処理の回数を増やすと収縮率が低下する傾向がある。
【0028】
[親水化工程]
必要に応じて、中空糸膜を親水化処理することにより、多孔質中空糸膜に親水性を付与することできる。親水化処理は公知の方法を用いることができる。
例えば、中空糸膜の表面(外側表面、内側表面及び孔内部の表面)の少なくとも一部を、親水性樹脂でコーティングする方法で親水化処理できる。具体的には、特許第3628446号公報の段落0029に記載の方法等を用いることができる。
【0029】
親水化処理は、延伸工程の後かつ熱緩和工程の前に行ってもよく、延伸工程及び熱緩和工程の後に行ってもよく、熱緩和工程の途中で行ってもよい。すなわち、熱緩和工程において熱緩和処理を複数回行う場合、熱緩和処理と熱緩和処理の間で親水化処理を行ってもよい。
【0030】
<中空糸膜エレメント>
本実施形態の中空糸膜エレメントは、複数本の多孔質中空糸膜と、前記複数の多孔質中空糸膜の両端に接続された集水管とを有する。
図1は本実施形態の中空糸膜エレメントの一態様を示す平面図である。
本態様の中空糸膜エレメントは、複数本の多孔質中空糸膜1が一方向に引き揃えられたシート物2と、シート状物2の多孔質中空糸膜1の長さ方向の両端部にそれぞれ設けられた集水管3、4を備える。
多孔質中空糸膜1の長さ方向の両端は開口しており、多孔質中空糸膜1と集水管3、4とは連通している。具体的に、集水管3、4の管壁には、集水管3、4の長さ方向に沿う直線状のスリット(図示略)が設けられている。このスリットにシート状物2の端部が挿入され、多孔質中空糸膜1の開口を保った状態で、樹脂硬化物等のポッティング材で、シート状物2の端部と集水管3(4)とが固定されている。
本態様において、多孔質中空糸膜1の外部から内部へ通過した濾過水は、集水管3、4を通って中空糸膜エレメントの外部へ排出されるようになっている。
【0031】
本態様の中空糸膜エレメントは、水処理装置の構成部材として好適に用いられる。例えば、生活排水や工場排水等の浄化処理に用いられる水処理装置の構成部材として好適である。
本態様の中空糸膜エレメントは、複数の中空糸膜エレメントを一体的に取り扱えるように構成した中空糸膜モジュールの形態で用いることが好ましい。
例えば、中空糸膜モジュールは、複数の中空糸膜エレメントと、前記複数の中空糸膜エレメントを一体的に支持する支持部材を備える。支持部材は、各中空糸膜エレメントの集水管(枝管)と連通する集水管(幹管)を兼ねてもよい。
中空糸膜モジュールの構成、及び水処理装置の構成は、公知の構成を用いることができる。
【0032】
本実施形態の中空糸膜エレメントを構成する多孔質中空糸膜は、水に浸漬した後に乾燥した際の収縮率が小さいため、洗浄に伴う性能低下や糸切れが生じ難く、中空糸膜エレメントの長寿命化、交換回数の低減を図ることができる。
【実施例
【0033】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0034】
(参考例)
ポリエチレン(密度0.965g/cm、MFR:0.7g/10分、Tg:-125℃、ビカット軟化点128℃)を原料とし、中空糸膜製造用ノズルを用いて溶融紡糸し、冷却固化して、内径609μm、膜厚161μmの中空糸を得た。
中空糸をボビンに巻いた状態で、115℃、16時間の条件でアニール処理した。
アニール処理した中空糸を、室温で、延伸倍率が1.8倍になるように冷延伸した後、延伸温度114℃で熱延伸した後、親水化処理して多孔質中空糸膜を得た。熱延伸の延伸倍率は、冷延伸を含めた総延伸倍率が6.6倍となるように設定した。
得られた多孔質中空糸膜の外径、内径、平均孔径を表1に示す。また、得られた多孔質中空糸膜について、上記の方法で収縮率を測定した。結果を表1に示す(以下、同様)。
【0035】
(例1)
参考例1と同様にして中空糸を製造し、アニール処理し、冷延伸し、熱延伸し、親水化処理した。得られた中空糸膜に対して、熱緩和温度118℃、緩和率0%の条件で熱緩和処理をして多孔質中空糸膜を得た。
【0036】
(例2)
例1において、熱緩和処理の緩和率を15%に変更したほかは、例1と同様にして多孔質中空糸膜を得た。
【0037】
(例3)
参考例1と同様にして中空糸を製造し、アニール処理し、冷延伸し、熱延伸した。得られた中空糸膜に対して、熱緩和温度118℃、緩和率20%の条件で1回目の熱緩和処理をした後、参考例1と同様にして親水化処理した。親水化処理後の中空糸膜に対して、熱緩和温度90℃、緩和率0%の条件で2回目の熱緩和処理をして多孔質中空糸膜を得た。
【0038】
(例4)
例3において、2回目の熱緩和処理の熱緩和温度を110℃に変更したほかは、例3と同様にして多孔質中空糸膜を得た。
【0039】
(例5)
例4において、2回目の熱緩和処理の緩和率を3%に変更したほかは、例4と同様にして多孔質中空糸膜を得た。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示されるように、熱緩和処理の条件を変えることによって多孔質中空糸膜の収縮率を3%以下に調整できた。
【符号の説明】
【0042】
1 多孔質中空糸膜
2 シート状物
3、4 集水管
図1