(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】視野検査方法、視野検査装置、および視野検査プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 3/024 20060101AFI20241001BHJP
【FI】
A61B3/024
(21)【出願番号】P 2020095662
(22)【出願日】2020-06-01
【審査請求日】2023-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 ちから
(72)【発明者】
【氏名】大谷 直也
【審査官】牧尾 尚能
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-220832(JP,A)
【文献】特開平09-122073(JP,A)
【文献】国際公開第2012/141240(WO,A1)
【文献】特開2014-166250(JP,A)
【文献】特開2014-087660(JP,A)
【文献】特表平08-503871(JP,A)
【文献】特表2011-502590(JP,A)
【文献】特開2008-36297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00- 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の検査点に対して、各検査点の推定感度と検査回数と正常感度とを取得する工程と、
前記各検査点に対して、前記推定感度と前記検査回数と前記正常感度とに基づいて、スコアを算出する工程と、
前記複数の検査点から、前記スコアが所定値以上である高スコア検査点を選択する工程と、
を含
み、
前記スコアを算出する工程は、
前記正常感度と前記推定感度との差分と、前記検査回数と、を変数とする関数を用いてスコアを算出する、
視野検査方法。
【請求項2】
複数の検査点に対して、各検査点の推定感度と検査回数と正常感度を取得する工程と、
前記各検査点に対して、前記推定感度と前記検査回数と前記正常感度とに基づいて、スコアを算出する工程と、
前記複数の検査点から、前記スコアが所定値以上である高スコア検査点を選択する工程と、を含み、
前記スコアは、前記推定感度の値が大きくなると増大し、かつ、前記検査回数が少なくなると減少する関数で定義されることを特徴とする、視野検査方法。
【請求項3】
前記各検査点は、検査毎に算出された推定感度に係る情報を保持しており、
前記スコアは、前記検査毎に算出された推定感度と前記正常感度との差分を前記検査回数について平均をとった値に基づく、請求項
1又は請求項2に記載の視野検査方法。
【請求項4】
前記スコアは、前記推定感度に対して単調増加する関数である、請求項
1から請求項3のいずれか1項に記載の視野検査方法。
【請求項5】
前記スコアは、前記検査回数に対して単調減少する関数である、請求項
1から請求項4
のいずれか1項に記載の視野検査方法。
【請求項6】
前記スコアは、前記推定感度と前記検査回数とを変数とした関数で計算されるUCB(Upper confidence bound)スコアを用いて定義されることを特徴とする、請求項1から
請求項5のいずれか一項に記載の視野検査方法。
【請求項7】
前記高スコア検査点の感度を追加検査する工程をさらに含む、請求項1から請求項
6のいずれか1項に記載の視野検査方法。
【請求項8】
前記取得する工程は、前記複数の検査点について感度を検査する工程を含む、請求項1から請求項
7のいずれか1項に記載の視野検査方法。
【請求項9】
前記複数の検査点について感度を検査する工程は、
前記複数の検査点から選択された第1検査点に対して、指標光を提示し、前記指標光に対する被検者の反応を取得し、第1検査を行う工程と、
前記第1検査の結果を、前記第1検査点とは異なる第2検査点に反映する工程と
を含む、請求項
8に記載の視野検査方法。
【請求項10】
複数の検査点に対して、各検査点の推定感度と検査回数とを取得する工程と、
前記各検査点に対して、前記推定感度と前記検査回数に基づいて、スコアを算出する工程と、
前記複数の検査点から、前記スコアが所定値以上である高スコア検査点を選択する工程と、を含み、
前記取得する工程は、前記複数の検査点について感度を検査する工程を含み、
前記複数の検査点について感度を検査する工程は、
前記複数の検査点から選択された第1検査点に対して、指標光を提示し、前記指標光に対する被検者の反応を取得し、第1検査を行う工程と、
前記第1検査の結果を、前記第1検査点とは異なる第2検査点に反映する工程と、
を含む視野検査方法。
【請求項11】
前記反映する工程は、
前記第1検査点における前記検査回数の増加を、前記第2検査点に反映する工程を含む、請求項
9又は請求項
10に記載の視野検査方法。
【請求項12】
前記反映する工程は、
前記第1検査点における前記指標光に対する前記被検者の反応を、前記第2検査点に反映する工程を含む、請求項
9から請求項
11のいずれか1項に記載の視野検査方法。
【請求項13】
前記反映する工程は、
前記第1検査点における第1推定感度を前記第2検査点に反映する工程と、
を含む、請求項
9から請求項
12のいずれか一項に記載の視野検査方法。
【請求項14】
前記第2検査点は、前記第1検査点の周囲に存在する点である、請求項9から請求項
13のいずれか1項に記載の視野検査方法。
【請求項15】
前記取得する工程は、各検査点における過去の視野検査結果に基づいて推定感度として取得する工程を含む、請求項1から請求項
14のいずれか1項に記載の視野検査方法。
【請求項16】
前記各検査点について予め記憶された正常感度を取得する工程をさらに含み、
前記スコアを算出する工程は、前記正常感度と前記推定感度との差分と、前記検査回数と、を変数とする関数を用いてスコアを算出する、請求項
10に記載の視野検査方法。
【請求項17】
前記各検査点は、検査毎に算出された推定感度に係る情報を保持しており、
前記スコアは、前記検査毎に算出された推定感度と前記正常感度との差分を前記検査回数について平均をとった値に基づく、請求
項16に記載の視野検査方法。
【請求項18】
前記スコアは、前記推定感度の値が大きくなると増大し、かつ、前記検査回数が少なくなると減少する関数で定義されることを特徴とする、請求項
10、請求項
16、請求項
17のいずれか一項に記載の視野検査方法。
【請求項19】
前記スコアは、前記推定感度に対して単調増加する関数である、請求項
18に記載の視野検査方法。
【請求項20】
前記スコアは、前記検査回数に対して単調減少する関数である、請求項
18又は請求項
19に記載の視野検査方法。
【請求項21】
前記スコアは、前記推定感度と前記検査回数とを変数とした関数で計算されるUCB(Upper confidence bound)スコアを用いて定義されることを特徴とする、請求項
10、
16、
17、
18、
19、
20のいずれか一項に記載の視野検査方法。
【請求項22】
前記高スコア検査点の感度を追加検査する工程をさらに含む、請求項
10、
16、
17、
18、
19、
20、
21のいずれか1項に記載の視野検査方法。
【請求項23】
メモリと、前記メモリに接続するプロセッサとを備え、
前記プロセッサは、
複数の検査点に対して、各検査点の推定感度と検査回数と正常感度とを取得するステップと、
前記各検査点に対して、前記推定感度と前記検査回数と前記正常感度とに基づいてスコアを算出するステップと、
前記複数の検査点から前記スコアが所定値以上の高スコア検査点を選択するステップと、
を行
い、
前記スコアを算出するステップは、前記正常感度と前記推定感度との差分と、前記検査回数と、を変数とする関数を用いてスコアを算出する、
視野検査装置。
【請求項24】
メモリと、前記メモリに接続するプロセッサとを備え、
前記プロセッサは、
複数の検査点に対して、各検査点の推定感度と検査回数と正常感度とを取得するステップと、
前記各検査点に対して、前記推定感度と前記検査回数と前記正常感度とに基づいてスコアを算出するステップと、
前記複数の検査点から前記スコアが所定値以上の高スコア検査点を選択するステップと、
を行い、
前記スコアは、前記推定感度の値が大きくなると増大し、かつ、前記検査回数が少なくなると減少する関数で定義されることを特徴とする、視野検査装置。
【請求項25】
メモリと、前記メモリに接続するプロセッサとを備え、
前記プロセッサは、
複数の検査点に対して、各検査点の推定感度と検査回数とを取得するステップと、
前記各検査点に対して、前記推定感度と前記検査回数とに基づいてスコアを算出するステップと、
前記複数の検査点から、前記スコアが所定値以上の高スコア検査点を選択するステップと、
を行い、
前記取得するステップは、前記複数の検査点について感度を検査するステップを含み、
前記複数の検査点について感度を検査するステップは、
前記複数の検査点から選択された第1検査点に対して、指標光を提示し、前記指標光に対する被検者の反応を取得し、第1検査を行うステップと、
前記第1検査の結果を、前記第1検査点とは異なる第2検査点に反映するステップと、
を行う、視野検査装置。
【請求項26】
コンピュータに、
複数の検査点に対して、各検査点の推定感度と検査回数と正常感度とを取得するステップと、
前記各検査点に対して、前記推定感度と前記検査回数と前記正常感度とに基づいてスコアを算出するステップと、
前記複数の検査点から、前記スコアが所定値以上の高スコア検査点を選択するステップと、
を実行させ
、
前記スコアを算出するステップは、前記正常感度と前記推定感度との差分と、前記検査回数と、を変数とする関数を用いてスコアを算出する、
視野検査プログラム。
【請求項27】
コンピュータに、
複数の検査点に対して、各検査点の推定感度と検査回数と正常感度とを取得するステップと、
前記各検査点に対して、前記推定感度と前記検査回数と前記正常感度とに基づいてスコアを算出するステップと、
前記複数の検査点から、前記スコアが所定値以上の高スコア検査点を選択するステップと、を実行させ、
前記スコアは、前記推定感度の値が大きくなると増大し、かつ、前記検査回数が少なくなると減少する関数で定義されることを特徴とする、視野検査プログラム。
【請求項28】
コンピュータに、
複数の検査点に対して、各検査点の推定感度と検査回数とを取得するステップと、
前記各検査点に対して、前記推定感度と前記検査回数とに基づいてスコアを算出するステップと、
前記複数の検査点から、前記スコアが所定値以上の高スコア検査点を選択するステップと、を実行させ、
前記取得するステップは、前記複数の検査点について感度を検査するステップを含み、
前記複数の検査点について感度を検査するステップは、
前記複数の検査点から選択された第1検査点に対して、指標光を提示し、前記指標光に対する被検者の反応を取得し、第1検査を行うステップと、
前記第1検査の結果を、前記第1検査点とは異なる第2検査点に反映するステップと、
を実行させる視野検査プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、視野検査方法、視野検査装置、および視野検査プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、被検眼への光刺激に対する感度を検査する視野検査装置が開示されている。被検者に負担を掛けない視野検査装置が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の技術の第1の態様の視野検査方法は、複数の検査点に対して、各検査点の推定感度と検査回数とを取得する工程と、前記各検査点に対して、前記推定感度と前記検査回数に基づいて、スコアを算出する工程と、前記複数の検査点から、前記スコアが所定値以上である高スコア検査点を選択する工程と、を含む。
【0005】
本開示の技術の第2の態様の視野検査装置は、メモリと、前記メモリに接続するプロセッサとを備え、前記プロセッサは、複数の検査点に対して、各検査点の推定感度と検査回数とを取得するステップと、前記各検査点に対して、前記推定感度および前記検査回数に基づいてスコアを算出するステップと、前記複数の検査点から前記スコアが所定値以上の高スコア検査点を選択するステップと、を行う。
【0006】
本開示の技術の第3の態様のプログラムは、コンピュータに、複数の検査点に対して、各検査点の推定感度と検査回数を取得するステップと、前記各検査点に対して、前記推定感度および前記検査回数に基づいてスコアを算出するステップと、前記複数の検査点から、前記スコアが所定値以上の高スコア検査点を選択するステップと、を実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】視野計110の構成を示すブロック図である。
【
図3】視野計110のCPU12の機能ブロック図である。
【
図4】視野計110のCPU12が実行する視野検査処理のフローチャートである。
【
図5A】検査対象となる検査点集合の概略図である。
【
図5B】被検者の反応を取得した検査点の隣接点の選択範囲を示した概略図である。
【
図5C】検査点および隣接点を被覆した状態を示した概略図である。
【
図6A】
図5Bに示した矩形領域内の隣接点選択の一態様を示した概略図である。
【
図6B】
図5Bに示した矩形領域内の隣接点選択の他の態様を示した概略図である。
【
図7A】新たな検査点を選択した場合の概略図である。
【
図7B】隣接点に対する検査点の結果の反映を示した概略図である。
【
図7C】検査点および隣接点を含む矩形領域を被覆した場合を示した概略図である。
【
図8A】検査点集合において被覆されていない検査点を選択した場合の概略図である。
【
図8B】隣接点に対する結果の反映を示した概略図である。
【
図8C】隣接点を含む矩形領域を被覆した結果、検査点集合の全ての検査点が被覆された場合を示した概略図である。
【
図9】関数f(i)の算出例を示した説明図である。
【
図10A】検査点の各々にステップ424で算出したUCBスコアをプロットした概略図である。
【
図10B】高UCBスコアの検査点を選択した場合を示した説明図である。
【
図11A】検査回数が0の場合における指標光の輝度値に対する検査回数の状態を示した概略図である。
【
図11B】検査回数が1の場合における指標光の輝度値に対する検査回数の状態を示した概略図である。
【
図11C】検査回数が2の場合における指標光の輝度値に対する検査回数の状態を示した概略図である。る。
【
図12】輝度値に対するその輝度値の指標光を被検者の被検眼12の視神経の検査点が認識する確率f
a,b(θ)の関係を示す輝度値-正答率曲線の概略図である。
【
図13】複数の検査点における検査輝度と被検者の反応を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本開示の技術の実施の形態を詳細に説明する。
【0009】
図1を参照して、眼科システム100の構成を説明する。
図1に示すように、眼科システム100は、静的視野検査装置(以下、「視野計」という)110と、管理サーバ装置(以下、「サーバ」という)140と、画像表示装置(以下、「ビューワ」という)150と、を備えている。
視野計110は、本開示の技術の「視野検査装置」の一例である。
【0010】
視野計110は、詳細には後述する被検者の被検眼の視野感度(輝度値)を検査する機器であり、緑内障および網膜色素変性症等の診断に用いられる。
【0011】
ここで、視野感度とは、被検眼の網膜に存在する視神経における検査対象となる検査点に到達し、被検者により認識された指標光の強度(輝度値:luminance(dB))である。なお、dBで表される輝度値が大きいほど、検査点に到達する指標光の強度が小さい。言い換えると、dBで表される輝度値が小さいほど、検査点に到達する指標光の強度は大きい。すなわち、dBで表される輝度値が大きいほど指標光は暗く、dBで表される輝度値が小さいほど指標光は明るい。
【0012】
サーバ140は、視野計110によって被検者の被検眼の視野感度の検査結果(推定感度等)を、患者IDに対応づけて記憶する。ビューワ150は、サーバ140から取得した被検眼の視野感度の検査結果等の医療情報を表示する。
【0013】
視野計110、サーバ140、およびビューワ150は、ネットワーク130を介して、相互に接続されている。
【0014】
【0015】
視野計110が水平面に設置された場合の水平方向を「X方向」、水平面に対する垂直方向を「Y方向」とし、被検眼12の前眼部の瞳孔の中心と眼球の中心とを結ぶ方向を「Z方向」とする。従って、X方向、Y方向、およびZ方向は互いに垂直である。
【0016】
図2に示すように、視野計110は、制御装置10、指標提示部30、外部記憶装置40、入力/表示部50、および応答部60を備えている。
【0017】
制御装置10は、CPU(Central Processing Unit(中央処理装置))12、ROM(Read-Only memory)14、RAM(Random Access Memory)16、および入出力(I/O)ポート18を有し、これらがバス20により相互に接続されている、コンピュータを備えている。ROM14には、後述する視野検査プログラムが記憶されている。
【0018】
ROM14は、本開示の技術の「メモリ」の一例である。CPU12は、本開示の技術の「プロセッサ」の一例である。メモリは、視野検査プログラムを格納する。プロセッサは、メモリと接続して、視野検査プログラムを実行する。
【0019】
I/Oポート18には、指標提示部30、外部記憶装置40、通信インターフェース(I/F)45、入力/表示部50、および応答部60が接続されている。
【0020】
入力/表示部50は、画像を表示したりオペレータから各種指示を受け付けたりするグラフィックオペレータインターフェースを有する。グラフィックオペレータインターフェースとしては、タッチパネル・ディスプレイが挙げられる。
【0021】
応答部60は、被検者(患者)により操作される図示しないスイッチと送信部とを備えている。後述する視野検査の際に、指標光を認識した場合に、被検者は、スイッチをオンする。送信部は、スイッチがオンされると、被検者が指標光を認識したことを示す認識信号を制御装置10に送信する。
【0022】
通信インターフェース(I/F)45は、ネットワーク130を介してサーバ140、およびビューワ150に接続されている。
【0023】
指標提示部30は、半球の内面が反射面であるドーム30Dと、ドーム30Dの内面の複数の位置の検査点に、指標を提示する(具体的には、光を投影する)、図示しない投影装置とを備えている。後述する視野検査のための視野検査プログラムに従った制御装置10による制御に従って、投影装置は、ドーム30Dの内面の異なる複数の位置の点(指標提示点)に、時間をずらして、指標を提示する。指標提示点は、被検眼の網膜に対応している。指標提示点からの指標光は、被検眼12の網膜における検査点に到達する。上記のように、指標光を認識した被検者はスイッチをオンし、送信部は、認識信号を制御装置10に送信する。
【0024】
なお、本開示の技術では、指標提示部30の構成は、ドーム30Dと投影装置とを備える構成に限定されない。本開示の技術では、例えば、ドーム30Dの内面の点が自発光する構成や、被検眼12の網膜の検査点に指標光を直接照射する構成が、指標提示部30の構成として採用可能である。
【0025】
サーバ140およびビューワ150は、CPU、RAM、ROM等を備えたコンピュータ、入力装置、ディスプレイ、および外部記憶装置等を備えている。
【0026】
図3に、視野計110のCPU12の機能ブロック図を示す。視野計110のCPU12が視野検査プログラムを実行することで実現される各種機能について説明する。視野検査プログラムは、表示処理機能、取得機能、判断機能、読み込み機能、間引き検査機能、推定機能、判定機能、追加検査機能、保存機能、算出機能、および可視化機能を備えている。CPU12がこの各機能を有する視野検査プログラムを実行することで、CPU12は、
図3に示すように、表示処理部72、取得部74、判断部76、読み込み部78、間引き検査部80、推定部82、判定部84、追加検査部86、保存部88、算出部90、および可視化部92として機能する。間引き検査部80及び追加検査部86は、本開示の技術の「計測部」の一例である。
【0027】
図4には、視野計110のCPU12が実行する視野検査処理のフローチャートが示されている。CPU12が視野検査プログラムを実行することで、
図4のフローチャートに示された視野検査処理が実現される。当該視野検査処理は、入力/表示部50に表示された図示しないスタートボタンがオペレータにより操作された場合にスタートする。
【0028】
ステップ400で、表示処理部72は、入力/表示部50に、患者IDの入力画面を表示する。オペレータにより入力/表示部50に、患者IDが入力される。ステップ402で、取得部74は、患者IDを取得する。
【0029】
ステップ404で、判断部76は、サーバ140に、取得した患者IDに対応して視野感度の検査結果が記憶されているのかを問い合わせる。すなわち、取得した患者IDに対応して、視野感度の検査結果が記憶されているかを問い合わせる。判断部76は、サーバ140からの問い合わせ結果を取得し、取得した問い合わせ結果に基づいて、患者IDに対応して視野感度の検査結果の過去データがあるか否かを判断する。過去データは、被検者毎、および各被検者の検査点に応じたデータである。過去データは、例えば、当該患者の視野感度や、後述する各検査点の推定感度および検査回数である。過去データは、過去に行われた全検査の取得データでもよく、最新の検査後に更新されたデータであってもよい。
【0030】
ステップ404で、患者IDに対応して視野感度の検査結果の過去データがあると判断された場合には、ステップ406で、読み込み部78は、入力された患者IDに対応する過去データから、検査点集合の各検査点の最新の推定感度(視野感度)および検査回数を読み込む。一方、ステップ404で、患者IDに対応して視野感度の検査結果の過去データがないと判断された場合には、ステップ408で、読み込み部78は、検査点集合の各検査点について予め規定された輝度値を読み込む。予め規定された輝度値は、例えば正常眼における検査点集合の各検査点についての参考値である。
【0031】
ステップ410で、間引き検査部80は、検査点集合から、間引き検査で実際に検査する第1検査点を選定する。
図5Aには、検査点集合が概念的に示されている。検査点は、例えば被検眼12の網膜の視神経について、指標光が被検眼12の瞳孔を介して到達する範囲に渡って各々配置されている。検査点集合は、複数の検査点であり、視野感度(輝度値)の検査対象となる検査点の集合である。まず、間引き検査部80は、検査点集合から、1つの第1検査点を選択する。1つの第1検査点は、検査点集合からランダムに選択されてもよく、操作者により選択されてもよく、過去データに基づいて自動的に選択されてもよい。
図5Aには、このように選択された、間引き検査で実際に検査する第1検査点が、四角囲みで示されている。本実施形態では、間引き検査部80において、ある程度データが蓄積されるまで、ランダムに第1検査点を選択する処理を複数回実施する。
【0032】
ステップ412では、間引き検査部80は、ステップ410で選択した第1検査点に照射する指標光の輝度値を選択する。ステップ412において、輝度値は、例えばランダムに選択されてもよく、操作者により選択されてもよく、過去データに基づいて自動的に選択されてもよい。
【0033】
ステップ414で、間引き検査部80は、ステップ410で選択した第1検査点に対して、ステップ412で選択した輝度値の指標光を照射する。より具体的には、間引き検査部80は、
図5Aにおいて、四角囲みで示した第1検査点に、ステップ412で選択した輝度値の指標光が入射されるように、投影装置を制御する。
【0034】
指標光が検査点に照射され、被検者が指標光を認識した場合には、被検者により、応答部60のスイッチがオンにされる。これにより認識信号が制御装置10に送信される。しかし、指標光が提示されても、被検者が認識しなかった場合には、応答部60のスイッチは被検者によってオンにされない。よって、指標を提示した時から所定時間経過しても認識信号が制御装置10に送信されない。ステップ416で、間引き検査部80は、被検者の反応を取得する。より具体的には、間引き検査部80は、指標を提示した時から所定時間経過する前に、認識信号が送信された場合には、指標を認識した、との被検者の反応を取得する。一方、上記所定時間経過しても認識信号が送信されなかった場合には、間引き検査部80は、指標を認識しなかった、との被検者の反応を取得する。
【0035】
ステップ418で、間引き検査部80は、被検者の反応を取得した第1検査点の検査結果を、第1検査点とは異なる第2検査点に反映する。間引き検査部80は、第1検査点の検査結果と、例えば同一の結果または近似する結果を、第2検査点に反映する。以下、実際に検査をして被検者の反応を取得した検査点を第1検査点、あるいは、被検者の反応を取得した検査点という。第2検査点とは、第1検査点とは異なる点であり、第1検査点の結果が反映される検査点である。第2検査点は、例えば第1検査点の周囲の検査点である。第2検査点は、例えば、第1検査点に隣接する検査点(隣接点)である。同一の結果を反映する、とは、第1検査点の検査結果を、第2検査点の検査結果としてみなすということである。一例として、まず、第1検査点に第1輝度値の指標光を提示した場合を以下に示す。被検者が第1輝度値の指標光を認識できた場合は、第1検査点で被検者は第1輝度値よりも高強度の輝度値の指標光を認識できるとみなす検査結果を得る。そしてさらに、第2検査点においても第1輝度値以上の輝度値の指標光を認識できるものとみなし、第2検査点に第1検査点での検査結果をコピーする。また、第1検査点で被検者が第1輝度値の指標光を認識できなかった場合は、第1検査点で被検者は第1輝度値よりも低強度の輝度値の指標光を認識できないとみなす検査結果を得る。そしてさらに、第2検査点においても第1輝度値よりも低強度の輝度値の指標光を認識できないものとみなして、第2検査点に被検者の反応を取得した検査点での検査結果をコピーする。
第2検査点に反映される第1検査点の検査結果は、第1検査点における指標に対する被検者の反応そのものでもよく、また後述するように第1検査点について算出された推定感度であってもよい。また、第1検査点の検査結果は、第1検査点の検査回数を含む。すなわち、第1検査点における検査回数の増加は、第2検査点にも反映される。検査回数の増加の反映は、第1検査点において検査をする都度反映されてもよく、複数の検査を行った後にまとめて反映されてもよい。
ステップ418における第2検査点への検査結果の反映を実行することにより、全体の処理を迅速化できる。なお、ステップ418における第2検査点への検査結果の反映は本実施形態で必須ではない。
【0036】
図5Bは、第2検査点が第1検査点の隣接点である場合について、隣接点の選択範囲を示した概略図である。隣接点は、
図5Bに示したように、被検者の反応を取得した検査点を中心とした矩形領域から選択される。
【0037】
図6Aは、
図5Bに示した矩形領域内の隣接点選択の一態様を示した概略図であり、
図6Bは、当該矩形領域内の隣接点選択の他の態様を示した概略図である。
図6Aに示した場合では、矩形領域内において、被検者の反応を取得した検査点の最近傍の4点を隣接点として選択する。
図6Bに示した場合では、矩形領域内に存在する8点を隣接点として選択する。本実施形態では、隣接点への検査結果の反映は、
図6Bに示した態様で行う。
【0038】
そして、ステップ418では、
図5Bに示した隣接点を含む矩形領域を
図5Cに示したようにマスク(被覆)して、手順を419に移行する。本実施形態では、検査点として被検者の反応に従って得られた検査結果と、隣接点として反映された検査結果とを等価な計測データとし、本開示の技術の推定感度算出に用いる。
【0039】
ステップ419で、推定部82は、各検査済点の推定感度(推定輝度値)を算出する。推定部82は、検査毎に各検査済点の推定感度を算出する。推定部82は、各検査済点の推定感度を算出するため、例えば、
図12に示す、輝度値に対するその輝度値の指標光を被検者の被検眼12の視神経の検査点が認識する確率f
a,b(θ)の関係を示す輝度値-正答率曲線を用いる。輝度値-正答率曲線は下記の式(1)により規定される。
【0040】
上記の式(1)において、aは0より大きい定数である。bは、R(Rは実数全体の集合)に含まれる値である。従って、
である。また、上記の式(1)中のθは、検査点における各検査で用いた指標光の輝度値である。
【0041】
図13は、検査点(3,-4)と検査点(4,2)とにおける検査輝度と被検者の反応を示した説明図である。推定部82は、上記曲線を示す式を用いて、各検査済点の尤度L(a,b)を算出する。
【0042】
例えば、検査点(3,-4)において1回目の検査では、輝度値が20dBであり、被検者の反応が認識した(Yes)の場合には、推定部82は、確率f
a,b(20)を用いる。2回目の検査では、輝度値が24dBであり、被検者の反応が認識しなかった(No)の場合には、推定部82は、(1-f
a,b(24))を用いる。3回目の検査では、輝度値が16dBであり、被検者の反応が認識した(Yes)の場合には、推定部82は、確率f
a,b(16)を用いる。推定部82は、検査の度、検査済点毎に、以上のようにそれまでの検査の結果に応じた値の積を用い、下記の式で示された尤度L(a,b)を算出する。
【0043】
さらに、推定部82は、下記の式のように、対数尤度l(a,b)を算出する。
【0044】
そして、推定部82は、対数尤度l(a,b)を最大化するbの値を以下のように算出して推定感度とする。
【0045】
ステップ420では、判定部84が判定条件を充足しているか否かを判定する。判定条件は、例えば、一定数の検査点が被覆されたか否かである。判定条件は、例えば、全ての検査点が被覆されたか否かである。また、判定条件は、例えば、一定数の検査を実行したか否かである。また、判定条件は、一定数の検査点(例えばすべての検査点)において推定感度が算出されたか否か、であってもよい。ステップ420で判定条件を充足する場合は、手順をステップ422に移行する。ステップ420で判定条件を充足しない場合は、手順をステップ410に移行して、検査点の選択からの手順を繰り返す。
【0046】
図7Aは、新たな検査点を選択した場合の概略図であり、
図7Bは、隣接点への結果の反映を示した概略図であり、
図7Cは、隣接点を含む矩形領域を被覆した場合を示した概略図である。
【0047】
図8Aは、検査点集合において被覆されていない検査点を選択した場合の概略図である。
図8Bは、選択された検査点の隣接点に対する検査結果の反映を示した概略図である。
図8Cは、隣接点を含む矩形領域を被覆した結果、検査点集合の全ての検査点が被覆された場合を示した概略図である。すなわち、
図8Aにおいて選択された検査点は、最後の検査点である。ステップ420では、
図8Cに示したような状態となった場合に、全ての検査点が被覆されたか否か、という判定条件を充足したと判定する。
図8C等に示したように、検査点および隣接点への被覆は複数が重複した領域が存在するので、検査点の各々は、複数の検査結果が紐付けられている場合がある。
【0048】
ステップ422で、保存部88は、検査点および当該検査点の隣接点の各々に紐付けられた推定感度、又は/および、検査点および当該検査点の隣接点の各々に紐付けられた、被検者が指標光を認識した輝度値、又は被検者が認識しなかった輝度値を含む検査結果を、外部記憶装置40に保存する。
【0049】
ステップ424で、算出部90は、被検者の視野感度を短時間かつ十分な精度で推定するため、各検査点の検査回数と被検者の視野感度の悪さとを考慮したスコアを算出する。算出されたスコアは、検査する検査点の優先度を評価するスコアであるため、以下検査優先スコアと記述することもある。検査優先スコアは、推定感度についての評価データ、および、前記推定感度の取得時の当該検査点における検査回数に基づいて算出される。推定感度についての評価データとは、算出された推定感度を評価する指標である。例えば、推定感度の評価データは当該検査点における正常感度と比較して算出される。正常感度とは、正常眼(健常眼)における当該検査点についての感度である。正常感度は、例えば外部記憶装置40等に標準データベースとして予め格納されている、正常眼における検査点集合の視野感度に関する情報から取得する。正常感度は、正常輝度値と言い換えることができる。推定感度についての評価データとして、例えば、当該検査点における正常感度と算出された推定感度との差分が用いられる。また、推定感度についての評価データとしては、例えば、当該検査点における正常感度と算出された推定感度との差分を用いた関数があげられる。
【0050】
検査優先スコアは、推定感度についての評価データに対して増加し、推定感度の取得時の当該検査点における検査回数に対して減少する関数で定義される。例えば、検査優先スコアは、推定感度についての評価データに対して単調増加し、推定感度の取得時の当該検査点における検査回数に対して単調減少する関数で定義される。本実施形態においては、検査優先スコアの一例として、UCB(Upper confindence bound)スコアを算出する。UCBスコアは、当該検査点における正常感度と過去の検査結果から算出される推定感度との差分と、検査回数と、に基づく関数の一例である。UCBスコアは、下記の式(2)によって算出される。
【0051】
前述のように、本実施形態では、検査において、検査点の周囲に複数存在する隣接点に検査対象である検査点と同じ検査結果を反映し、隣接点に反映された検査結果を検査点における検査結果と等価な計測値として扱う。また、
図8A~8Cに示したように、1つの検査点において検査結果の紐付けが重複して設定されることを妨げない。すなわち、検査点Aにおいて、実際に検査点Aを検査した結果と、検査点Aと隣接する検査点Bの検査結果が検査点Aに反映された結果とが、重複されて設定されてもよい。また、検査点Aにおいて、隣接する検査点Bの検査結果が検査点Aに反映された結果と、隣接する別の検査点Cの検査結果が検査点Aに反映された結果とが重複して設定されてもよい。
従って、
図4のステップ410~418の手順を1回分の検査とすると、ステップ410~418の手順をt回行った場合に、1つの検査点に複数の検査結果が紐付けられる。本実施形態では、1つの検査点に紐付けられた検査回数をN
i(t)とする。なお、検査回数は、検査点iにおける検査結果のサンプル数である。
【0052】
式(2)右辺の第1項は、前述のように、検査毎に算出された推定感度と検査点iにおける正常感度と差分を取って、その差分を検査回数Ni(t)について平均をとったものである。すなわち、式(2)右辺の第1項は、検査点iにおいて、第1検査後に算出された第1推定感度と検査点iにおける正常感度との第1差分と、第2検査後に算出された第2推定感度と検査点iにおける正常感度との第2差分と、について、第1差分と第2差分との和を求めて検査回数Ni(t)で除算したものである。
【0053】
正常感度と計測値との差は、被検者の視野感度に応じて、以下のようになる。
被検者の視野感度が悪い:正常感度-推定感度>0
被検者の視野感度が良い:正常感度-推定感度<0
従って、被検者の視野感度が悪い方が、式(2)右辺の第1項の値は大きい。
【0054】
式(2)右辺の第2項は、検査回数tに係る補正項である。検査回数tが少ない方が、第2項の値は大きくなる。従って、UCBスコアは、検査点iについて、視野感度が悪いほど、検査回数が少ないほど、大きな値となる。本実施形態では、後述するように、UCBスコアが大きな検査点を優先的に検査することにより、視野感度が悪い又は検査回数が少ない検査点を優先的に検査することができる。
【0055】
UCBスコアの算出は、上記の式(2)に限定されない。例えば、下記の式(3)のように、検査回数tに係る右辺の第2項に重み付けをしてもよい。
【0056】
【0057】
又は、式(5)に示したように、眼底の中心部に近い検査点ほどスコアが高くなるようにしてもよい。
【0058】
上記の式(5)は、式(2)の右辺に第3項を追加したものである。式(5)右辺の第3項f(i)は検査点iと眼底の中心部との距離が小さいほど大きくなる関数で、例えば次式のような形態が考えられる。
【0059】
上記の式中のi
xは、検査点iの眼底上のx座標、同i
yは、検査点iの眼底上のy座標である。
図9は、f(i)の算出例を示した説明図である。
図9に示したように、眼底の第1象限に存在する検査点i=(1,2)では、f(i)=1/3であり、眼底の第3象限に存在する検査点i=(-2,-2)では、f(i)=1/4なので、f(i)の値は、検査点が中心部に近いほど大きな値となる。従って、式(5)で算出したUCBスコアを適用すると、視野感度が悪い、検査回数が少ない検査点、又は眼底の中心部の検査点を優先的に検査することができる。
【0060】
なお、本実施形態においては検査優先スコアの例としてUCBスコアを挙げたが、その他にもKL-UCBスコアや、UCBスコアを応用した関数があげられる。例えば、上述したUCBスコアの式(2)を変形して、式(2)の右辺の第1項を、検査毎に算出された推定感度の中から最も高精度である感度(例えば、算出された最新の推定感度)と正常感度との差分としてもよい。
【0061】
ステップ426で、追加検査部86は、UCBスコアが所定値以上である検査点を選択する。すなわち、追加検査部86は、UCBスコアが高い検査点(高スコア検査点)を追加検査点として選択する。UCBスコアが所定値以上である検査点が複数ある場合には、追加検査部86は、追加検査点をランダムに選択してもよく、UCBスコアが最も高い検査点を選択してもよい。また、追加検査部86は、UCBスコアが所定値以上である検査点から、検査回数が少ない検査点から追加検査点を選択してもよい。
図10Aは、検査点の各々にステップ424で算出したUCBスコアをプロットした概略図であり、
図10Bは、高UCBスコアの検査点を選択した場合を示した説明図である。
図10A、および
図10Bでは、UCBスコアは「7」が最も高い値なので、
図10Bでは、「7」を示す検査点が選択されている。なお、
図10A、および
図10Bに示したUCBスコアは便宜上のものである。実際のUCBスコアは、整数値とは限らず、実数値として算出される。
【0062】
ステップ428では、追加検査部86は、ステップ426で選択した検査点に照射する指標光の輝度値を選択する。ステップ428において、輝度値は、例えばランダムに選択されるが、
図11A、
図11Bおよび
図11Cに示したように輝度値を選択してもよい。
【0063】
図11Aは、検査回数が0の場合における指標光の輝度値に対する検査回数の状態を示した概略図である。
図11Aでは、検査回数が0なので、縦軸方向に対してグラフが変化していない。
【0064】
図11Bは、検査回数が1の場合における指標光の輝度値に対する検査回数の状態を示した概略図である。
図11Bでは、輝度値28dBの指標光を被検者が認識できなかったので、輝度値が28dBより低輝度の輝度値も被検者が認識できないものとしてみなされている。
【0065】
図11Cは、検査回数が2の場合における指標光の輝度値に対する検査回数の状態を示した概略図である。
図11Cでは、輝度値16dBの指標光を被検者が認識できなかったので、輝度値が16dBより低輝度の輝度値も被検者が認識できないものとしてみなされている。また、
図11Bに示したように、輝度値が28dBより低輝度の輝度値を被検者が認識できないのであるから、
図11Cの場合では、輝度値16dBの指標光で検査を行ったことは、輝度値28dBの指標光で検査を行った場合を含むとみなし、輝度値28dBの指標光での検査回数を1増加させる。
【0066】
図11Bおよび
図11Cに示したように、ある輝度値の指標光を被検者が認識できなかった場合は、次の検査で指標光の輝度値の強度を所定の範囲で高めるようにして、指標光の輝度値を決定してもよい。
【0067】
ステップ430で、追加検査部86は、ステップ426で選択した検査点に対して、ステップ428で選択した輝度値の指標光を照射するように、投影装置を制御する。
【0068】
指標光が検査点に照射され、被検者が指標光を認識した場合には、被検者は、応答部60のスイッチをオンする。これにより認識信号が制御装置10に送信される。しかし、指標光が提示されても、被検者が認識しなかった場合には、被検者は、応答部60のスイッチをオンしない。よって、指標を提示した時から所定時間経過しても認識信号が制御装置10に送信されない。ステップ432で、追加検査部86は、前述のステップ416における間引き検査部80と同様に、被検者の反応を取得する。
【0069】
ステップ434では、前述のステップ418と同様に、被検者の反応を取得した検査点の検査結果を、異なる検査点に反映する。例えば、被検者の反応を取得した検査点に隣接する隣接点へ、被検者の反応を取得した検査点と同一の結果を反映する。ステップ434における隣接点への検査結果の反映は本実施形態で必須ではないが、実行することにより、全体の処理を迅速化できる。
【0070】
ステップ436で、前述のステップ419と同様に、推定部82は、各検査済点の推定感度(推定輝度値)を算出する。推定部82は、各検査済点の推定感度を算出するため、例えば、
図12に示す、輝度値に対するその輝度値の指標光を被検者の被検眼12の視神経の検査点が認識する確率f
a,b(θ)の関係を示す輝度値-正答率曲線を用いる。
【0071】
ステップ438では、判定部84が判定条件を充足しているか否かを判定する。判定条件の一例は、事前に設定された閾値を満たすか否かである。閾値としては、例えば、全ての検査点について所定のデータ数が取得されたか否か、すなわち、全ての検査点について所定回数の検査が実行されたか否か、があげられる。この場合、所定のデータ数は、例えば、間引き検査により得られたデータ数と追加検査により得られたデータ数の和である。
また、判定条件は、追加検査実行前の各検査点の推定感度と追加検査実行後の各検査点の推定感度との間に変化がない、あるいは変化量が微小であるか否か、であってもよい。追加検査を実行する前後において推定感度変化量が微小である場合には、得られている推定感度の精度が高いと考えられるため、これ以上の追加検査は不要と考えられるためである。変化量に関する閾値は事前に設定してもよい。
また、判定条件は、例えば、予め設定した検査回数を行ったか否かである。追加検査の回数は視野検査前に事前に設定された値であってもよく、間引き検査終了後にUCBスコアが一定値以上であると判断された高スコア検査点の数に応じて定められてもよい。
ステップ438で判定条件を充足する場合は、手順をステップ440に移行する。ステップ438で判定条件を充足しない場合は、手順をステップ424に移行して、追加検査部86により、高UCBスコア検査点の選択からの手順を繰り返す。
【0072】
ステップ440では、可視化部92は、検査結果に基づいて全ての検査点について算出した推定感度を表示した画面データを作成する可視化を行って処理を終了する。
【0073】
なお、本実施形態においては、各検査点の推定感度と検査回数とを取得する工程として、間引き検査処理により被検眼の網膜上に設定される複数の検査点についての推定感度を検査する工程を示したが、この限りではない。患者IDと紐づけられた各検査点における過去の視野検査結果に基づいて、各検査点の推定感度と検査回数についてのデータを取得してもよい。この場合には、間引き検査処理を行うことなく、より短時間で追加検査が必要な検査点の感度の検査をすることができる。また、各検査点の推定感度と検査回数とを取得する工程が、過去の計測データから推定感度と検査回数とのデータを取得する工程と、被検眼の網膜上に設定される複数の検査点についての推定感度を検査する工程と、の両方を含んでもよい。
【0074】
また、本実施形態においては、追加検査部86はUCBスコアが所定値以上である高スコア検査点を選択したが、これは高スコア検査点以外を追加検査点として選択できないということを意味しない。追加検査部86は、例えばランダムに、UCBスコアは所定値以下であるが検査回数が少ない検査点を選択してもよい。
【0075】
図14は視野感度マップ510Mである。視野感度マップ510Mは、視野感度分布の表示方法の一例である。視野感度マップ510Mは、検査点集合に含まれる複数の検査点の視野感度データの分布を表示したものである。視野感度マップ510Mは検査点集合全体について生成してもよく、検査点集合の一部について生成してもよい。
【0076】
以上のように、本実施形態では、被検者の、各検査点の検査回数と被検者の視野感度の悪さを考慮した検査優先スコアを用いて、次に検査する検査点を選定することにより、被検者の視野感度を短時間かつ十分な精度で推定することができる。
【0077】
本実施形態では、ある程度データが蓄積されるまでランダムに検査点を選択して取得した検査結果に基づいて検査優先スコアを算出する。そして、算出した検査優先スコアが高い検査点を優先的に検査して得た検査結果を用いて被検者の視野感度を推定する。
【0078】
本実施形態では、視野感度の悪さのみならず、検査回数の少ない検査点を優先して検査することにより、視野感度の悪さと検査回数の少なさとの双方を考慮した視野検査を実行できる。
【0079】
以上説明した各例では、コンピュータを利用したソフトウェア構成により視野検査処理が実現される場合を例示したが、本開示の技術はこれに限定されるものではない。例えば、コンピュータを利用したソフトウェア構成に代えて、FPGA(Field-Programmable Gate Array)またはASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェア構成のみによって、画像処理が実行されるようにしてもよい。画像処理のうちの一部の処理がソフトウェア構成により実行され、残りの処理がハードウェア構成によって実行されるようにしてもよい。
【0080】
このように本開示の技術は、コンピュータを利用したソフトウェア構成により視野検査処理が実現される場合とされない場合とを含むので、以下の技術を含む。
(第1の技術)
被検者の被検眼の視神経についての複数の検査点に対して、各検査点の推定感度を取得する取得部と、
各検査点に対して、前記推定感度についての評価データ、および、前記推定感度の取得時の当該検査点における検査回数に基づいて、検査優先スコアを算出する算出部と、
前記検査優先スコアが所定値以上である検査点の視野感度を計測する計測部と、
を備える視野検査装置。
(第2の技術)
取得部が、被検者の被検眼の視神経についての複数の検査点に対して、各検査点の推定感度を取得する取得工程と、
算出部が、各検査点に対して、前記推定感度についての評価データ、および、前記推定感度の取得時の当該検査点における検査回数に基づいて、検査優先スコアを算出する算出工程と、
計測部が、前記検査優先スコアが所定値以上である検査点の視野感度を計測する計測工程と、
を備える視野検査方法。
【0081】
以上の開示内容から以下の技術が提案される。
(第3の技術)
視野検査するためのコンピュータープログラム製品であって、
前記コンピュータープログラム製品は、それ自体が一時的な信号ではないコンピュータ可読記憶媒体を備え、
前記コンピュータ可読記憶媒体には、プログラムが格納されており、
前記プログラムは、
コンピュータに、
被検者の被検眼の視神経についての複数の検査点に対して、各検査点の推定感度を取得する取得ステップと、
各検査点に対して、前記推定感度についての評価データ、および、前記推定感度の取得時の当該検査点における検査回数に基づいて、検査優先スコアを算出する算出ステップと、
前記検査優先スコアが所定値以上である検査点の視野感度を計測する計測ステップと、
を実行させる、コンピュータープログラム製品。
【0082】
なお、制御装置10は、本開示の技術の「コンピュータープログラム製品」の一例である。
【0083】
以上説明した視野検査処理はあくまでも一例である。従って、主旨を逸脱しない範囲内において不要なステップを削除したり、新たなステップを追加したり、処理順序を入れ替えたりしてもよいことは言うまでもない。
【0084】
一例として、推定感度を算出するタイミングは、ステップ418の反応取得の後、ステップ424の検査優先スコアの算出前であれば、タイミングは限定されない。例えば、判定条件を従属しているかどうかの判定後に各検査点の推定感度を算出してもよい。また、推定感度を算出するタイミングは、ステップ424のUCBスコアの算出の直前であってもよい。また、推定感度を算出するタイミングは、ステップ424において行ってもよい。
【0085】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的にかつ個々に記載された場合と同様に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【符号の説明】
【0086】
110 視野計
10 制御装置
12 CPU
14 ROM
72 表示処理部
74 取得部
76 判断部
78 読み込み部
80 間引き検査部
82 推定部
84 判定部
86 追加検査部
88 保存部
90 算出部
92 可視化部
510M 視野感度マップ