IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】積層ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20241001BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20241001BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20241001BHJP
   C08L 65/00 20060101ALI20241001BHJP
   C08L 25/08 20060101ALI20241001BHJP
   C08L 33/02 20060101ALI20241001BHJP
   C08L 33/04 20060101ALI20241001BHJP
   C08K 5/06 20060101ALI20241001BHJP
   C08K 5/3492 20060101ALI20241001BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20241001BHJP
   C08K 5/1515 20060101ALI20241001BHJP
   C08G 63/183 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B27/30 A
B32B27/18 Z
C08L65/00
C08L25/08
C08L33/02
C08L33/04
C08K5/06
C08K5/3492
C08K5/29
C08K5/1515
C08G63/183
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020129677
(22)【出願日】2020-07-30
(65)【公開番号】P2022026284
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雄三
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-154111(JP,A)
【文献】特開2016-132706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08J 7/04-7/06
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
C08G 63/00-64/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの少なくとも一方の表面に、下記化合物(A)、(B)及び(C)を含有する樹脂組成物からなる硬化樹脂層を有し、前記樹脂組成物中の全不揮発成分に占める割合として、下記化合物(A)が2~30質量%、下記化合物(B)が5~50質量%、下記化合物(C)が15~85質量%である、積層ポリエステルフィルム。
(A)(a1)チオフェンまたはチオフェン誘導体からなる化合物に他の陰イオン化合物によりドーピングされた重合体、及び(a2)チオフェンまたはチオフェン誘導体からなる化合物中に陰イオン基を持ち自己ドープされた重合体から選ばれる1種以上
(B)スチレン構造を有する(メタ)アクリル系重合体
(C)(c1)ポリグリセリン、及び(c2)ポリグリセリンへのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる1種以上の化合物またはその誘導体
【請求項2】
前記(メタ)アクリル系重合体のアクリル構造が(メタ)アクリル酸構造である、請求項1に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項3】
150℃、90分間の条件で熱処理した後のフィルムヘーズ変化量(ΔH)が1.0%以下である請求項1または2に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記硬化樹脂層の表面抵抗率が1×10(Ω/□)以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記樹脂組成物が、架橋剤として、メラミン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、及びカルボジイミド化合物から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1~4のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項6】
前記樹脂組成物中の全不揮発成分に占める割合として、前記化合物(A)が2~15質量%である、請求項1~5のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項7】
前記化合物(C)が下記一般式(3)で表される化合物であり、下記一般式(3)中のnが3以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【化1】
【請求項8】
工程保護フィルムである、請求項1~のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項9】
粘着層を介して、ITO層表面に請求項1~のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルムを貼り合わせたフィルム積層体。
【請求項10】
前記ITO層がパターン化したITO層である、請求項に記載のフィルム積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、機械的強度、寸法安定性、平坦性、耐熱性、耐薬品性、光学特性等に優れた特性を有し、コストパフォーマンスに優れるため、各種用途に使用されている。
【0003】
ポリエステルフィルムの用途として、ディスプレイやタッチパネルの加工工程で、他の部材を保護する工程保護フィルムが挙げられるが、工程保護フィルムの基材にポリエステルフィルムを用いた場合に生じる課題として、フィルム中からのエステル環状三量体等のオリゴマーの析出、および静電気の発生が挙げられる。
【0004】
例えばポリエステルフィルムに低熱収縮化のために150℃で1時間処理する(特許文献1)、ITOの結晶化のために150℃で熱処理を行う(特許文献2)などの処理が行われる場合がある。このような高温長時間の処理を行うとポリエステルフィルム中に含有されるオリゴマーが、フィルム表面に析出・結晶化する。これによりフィルム外観の白化による視認性の低下、後加工での欠陥の発生、工程内や部材の汚染などの問題が生じる。
【0005】
また、ポリエステルフィルムは、プラスチックフィルム共通の問題として、静電気が発生して帯電しやすいという特徴があり、加工現場において、静電気による異物等の付着或いは巻き込みによる不具合を生じる場合がある。
【0006】
このため種々の帯電防止対策が講じられている。一般的には、表面に帯電防止性を有する機能層を設ける方法がある。ポリエステルフィルムに塗工される帯電防止剤としては、四級アンモニウム基に代表されるカチオン性の基を含むカチオン性化合物、スルホネート基やホスホネート基に代表されるアニオン性の基を含むアニオン性化合物が主に用いられる。しかし、これらはイオン導電性で帯電防止能が周囲の湿気や水分の影響を受けやすく、特に低湿度下では導電性が低下し、所望の帯電防止能が得られなくなる欠点がある。アニオン系の帯電防止剤においてこの傾向がより顕著となることが多い。
【0007】
また近年、環境問題への関心の高まり、一緒に組み込まれる他部材への影響の懸念などからポリエステルフィルムにハロゲンの不使用を求められることが多い。しかしカチオン系の帯電防止剤の場合、四級アンモニウム基の対アニオンが塩化物イオンの化合物が一般的である。対アニオンをモノアルキル硫酸イオン、アルキルスルホン酸イオン等とした帯電防止剤も有るがイオンの移動度が低くなり帯電防止性能が劣る。
【0008】
電子導電性化合物は、上記イオン導電性化合物に比べるとより優れた帯電防止性を発現することが可能であり、湿度による影響も受けにくい。電子導電性化合物としては、種々の導電性有機ポリマー化合物、中でもポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリイソチアナフテン、ポリチオフェンなどの導電性高分子化合物が提案されている。ポリチオフェン化合物は、優れた導電性を持ち、フィルムに塗布した際には高い帯電防止性、透明性を発現させることが可能である(特許文献3、4)。しかし、電子導電性化合物の帯電防止剤は空気に曝されることで構造が変化するため、使用環境によっては製造直後に比べ帯電防止性が低下する場合がある(特許文献5)。
【0009】
また、上記のようにオリゴマーの析出を減らし、かつ帯電防止性を付与する方法として、オリゴマーの析出を抑制する下引き層と帯電防止性を有する下引き層を順次積層する方法が提案されている(特許文献6)。この方法でも両方の性能を付与することができるが、2層の加工が必要なため加工コストの点が課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2007-42473号公報
【文献】特開2007-200823号公報
【文献】特開2003-154594号公報
【文献】特開平9-131843号公報
【文献】特開2020-29485公報
【文献】特開2016-187866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、高温で処理した際のポリエステルフィルムからのオリゴマーの析出を減らすことでフィルム外観の白化による視認性の低下、後加工での欠陥の発生、工程内や部材の汚染などの不具合の発生を防止し、かつ良好な帯電防止性を有することで異物等の付着或いは巻き込みによる不具合を抑制できる積層ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記実情に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、特定の構成からなる積層ポリエステルフィルムを用いれば、上記の課題を容易に解決できることを知見し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下の[1]~[8]を提供するものである。
【0013】
[1]ポリエステルフィルムの少なくとも一方の表面に、下記化合物(A)、(B)及び(C)を含有する樹脂組成物からなる硬化樹脂層を有する積層ポリエステルフィルム。
(A)(a1)チオフェンまたはチオフェン誘導体からなる化合物に他の陰イオン化合物によりドーピングされた重合体、及び(a2)チオフェンまたはチオフェン誘導体からなる化合物中に陰イオン基を持ち自己ドープされた重合体、から選ばれる1種以上
(B)スチレン構造を有する(メタ)アクリル系重合体
(C)(c1)ポリグリセリン、及び(c2)ポリグリセリンへのアルキレンオキサイド付加物、から選ばれる1種以上の化合物またはその誘導体
[2]前記(メタ)アクリル系重合体のアクリル構造が(メタ)アクリル酸構造である、上記[1]に記載の積層ポリエステルフィルム。
[3]150℃、90分間の条件で熱処理した後のフィルムヘーズ変化量(ΔH)が1.0%以下である上記[1]または[2]に記載の積層ポリエステルフィルム。
[4]前記硬化樹脂層の表面抵抗率が1×10(Ω/□)以下である上記[1]~[3]のいずれか一つに記載の積層ポリエステルフィルム。
[5]前記樹脂組成物が、架橋剤として、メラミン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、及びカルボジイミド化合物から選ばれる少なくとも1種を含有する上記[1]~[4]のいずれか一つに記載の積層ポリエステルフィルム。
[6]工程保護フィルムである、上記[1]~[5]のいずれか一つに記載の積層ポリエステルフィルム。
[7]粘着層を介して、金属層表面に上記[1]~[5]のいずれか一つに記載の積層ポリエステルフィルムを貼り合わせたフィルム積層体。
[8]前記金属層がパターン化した金属層である、上記[7]に記載のフィルム積層体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高温で処理した場合でもポリエステルフィルムからのオリゴマーの析出が抑制され、かつ静電気による異物の付着或いは巻き込みによる不具合も抑制した積層ポリエステルフィルムが提供でき、その工業的な利用価値は高い。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。ただし、本発明は次に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
本発明の積層ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の表面に、下記化合物(A)、(B)及び(C)を含有する樹脂組成物からなる硬化樹脂層を有する。
(A)(a1)チオフェンまたはチオフェン誘導体からなる化合物に他の陰イオン化合物によりドーピングされた重合体、及び(a2)チオフェンまたはチオフェン誘導体からなる化合物中に陰イオン基を持ち自己ドープされた重合体、から選ばれる1種以上
(B)スチレン構造を有する(メタ)アクリル系重合体
(C)(c1)ポリグリセリン、及び(c2)ポリグリセリンへのアルキレンオキサイド付加物、から選ばれる1種以上の化合物またはその誘導体
【0016】
<ポリエステルフィルム>
積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルム(基材)は、単層構造であっても多層構造であってもよい。多層構造の場合、2層構造、3層構造などでもよいし、本発明の要旨を逸脱しない限り、4層またはそれ以上の多層であってもよく、層数は特に限定されない。また、ポリエステルフィルムとしては二軸延伸ポリエステルフィルムが、薄膜化や寸法安定性の点などから好ましい。
【0017】
使用するポリエステルは、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。ホモポリエステルからなる場合、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものが好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール及び1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート等が例示される。
一方、共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸及びオキシカルボン酸等の1種または2種以上が挙げられ、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、4-シクロヘキサンジメタノール及びネオペンチルグリコール等の1種または2種以上が挙げられる。
【0018】
ポリエステルの重合触媒としては、特に制限はなく、従来公知の化合物を使用することができ、例えばチタン化合物、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、マンガン化合物、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物及びカルシウム化合物等が挙げられる。
【0019】
オリゴマー成分の析出量を抑えるために、オリゴマー成分の含有量が少ないポリエステルを原料としてフィルムを製造してもよい。オリゴマー成分の含有量が少ないポリエステルの製造方法としては、種々公知の方法を用いることができ、例えばポリエステル製造後に固相重合する方法等が挙げられる。また、ポリエステルフィルムを3層以上の構成とし、ポリエステルフィルムの最外層を、オリゴマー成分の含有量が少ないポリエステル原料を用いた層とすることで、オリゴマー成分の析出量を抑えてもよい。また、ポリエスエルは、エステル化もしくはエステル交換反応をした後に、さらに反応温度を高くして減圧下で溶融重縮合して得てもよい。
【0020】
ポリエステルフィルム中にはフィルムの耐候性の向上、被着体(例えば液晶)などの劣化防止のために、紫外線吸収剤を含有させることも可能である。紫外線吸収剤は、紫外線を吸収する化合物で、ポリエステルフィルムの製造工程で付加される熱に耐えうるものであれば特に限定されない。
【0021】
紫外線吸収剤としては、有機系紫外線吸収剤と無機系紫外線吸収剤があるが、透明性の観点から有機系紫外線吸収剤が好ましい。有機系紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、例えば、環状イミノエステル系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系などが挙げられる。耐久性の観点からは環状イミノエステル系、ベンゾトリアゾール系がより好ましい。また、紫外線吸収剤を2種類以上併用して用いることも可能である。
【0022】
ポリエステルフィルム中には、易滑性の付与および各工程での傷発生防止を主たる目的として、粒子を配合することも可能である。配合する粒子の種類は、易滑性を付与可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の無機粒子、アクリル樹脂、スチレン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等の有機粒子等が挙げられる。さらに、ポリエステル製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
【0023】
使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0024】
また、用いる粒子の平均粒径は、通常5μm以下、好ましくは0.01~3μmの範囲である。5μm以下であると、フィルムの表面粗度が粗くなりすぎず、後工程において各種の表面機能層を形成させる場合等に不具合が生じず好ましい。
【0025】
さらにポリエステルフィルム中の粒子含有量は、通常5質量%未満、好ましくは0.0003~3質量%の範囲である。粒子が無い場合、あるいは少ない場合は、フィルムの透明性が高くなり、良好なフィルムとなるが、滑り性が不十分となる場合があるため、塗布層中に粒子を入れることにより、滑り性を向上させる等の工夫が必要な場合がある。また、粒子含有量が5質量%未満であるとフィルムの透明性が十分担保できる。
粒子を含有させる場合、例えば、表層と、中間層を設けて、表層に粒子を含有させることが好ましい。この場合、より好ましくは、粒子を含有する表層、中間層、及び粒子を含有する表層をこの順に有する多層構造とするとよい。
【0026】
ポリエステルフィルム中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、多層のポリエステルフィルムであれば、各層を構成するポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化もしくはエステル交換反応終了後、添加するのが良い。
【0027】
なお、ポリエステルフィルム中には、上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
【0028】
ポリエステルフィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、通常10~350μm、好ましくは25~250μm、さらに好ましくは38~125μmの範囲である。
【0029】
次にポリエステルフィルムの製造例について具体的に説明するが、以下の製造例に何ら限定されるものではない。例えば、二軸延伸ポリエステルフィルムを製造する場合、先に述べたポリエステル原料の乾燥したペレットを、押出機を用いてダイから溶融シートとして押し出し、冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る方法が好ましい。この場合、シートの平面性を向上させるためシートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、静電印加密着法及び/または液体塗布密着法が好ましく採用される。
次に得られた未延伸シートは二軸方向に延伸される。その場合、まず、前記の未延伸シートを一方向にロールまたはテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70~120℃、好ましくは80~110℃であり、延伸倍率は通常2.5~7倍、好ましくは3.0~6倍である。次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に延伸するが、その場合、延伸温度は通常70~170℃であり、延伸倍率は通常3.0~7倍、好ましくは3.5~6倍である。
そして、引き続き180~270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る。上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
【0030】
また、ポリエステルフィルムの製造に同時二軸延伸法を採用することもできる。同時二軸延伸法は、前記の未延伸シートを通常70~120℃、好ましくは80~110℃で温度コントロールされた状態で機械方向及び幅方向に同時に延伸し配向させる方法であり、延伸倍率としては、面積倍率で4~50倍、好ましくは7~35倍、さらに好ましくは10~25倍である。
そして、引き続き、170~250℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、延伸配向フィルムを得る。上述の延伸方式を採用する同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式及びリニアー駆動方式等、従来公知の延伸方式を採用することができる。
【0031】
<樹脂組成物>
本発明の積層ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの表面に硬化樹脂層を備え、硬化樹脂層が下記の化合物(A)、(B)、(C)を含有する樹脂組成物から形成されることを必須の要件とする。
(A)(a1)チオフェンまたはチオフェン誘導体からなる化合物に他の陰イオン化合物によりドーピングされた重合体、及び(a2)チオフェンまたはチオフェン誘導体からなる化合物中に陰イオン基を持ち自己ドープされた重合体から選ばれる1種以上
(B)スチレン構造を有する(メタ)アクリル系重合体
(C)(c1)ポリグリセリン、及び(c2)ポリグリセリンへのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる1種以上の化合物またはその誘導体
【0032】
(化合物(A))
化合物(A)は、(a)チオフェンまたはチオフェン誘導体からなる化合物に、他の陰イオン化合物によりドーピングされた重合体、または(b)チオフェンまたはチオフェン誘導体からなる化合物中に陰イオン基を持ち自己ドープされた重合体である。これらの物質は、優れた導電性を示し好適である。化合物(A)としては、たとえば下記式(1)もしくは(2)の化合物を、ポリ陰イオンの存在下で重合して得られるものが例示される。なお、重合体(a)と重合体(b)を併用してもよい。
【0033】
【化1】
【0034】
上記式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭素数が1~20の脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基などを表す。
【0035】
【化2】
【0036】
上記式(2)中、nは1~4の整数を表す。
【0037】
重合時に使用するポリ陰イオンとしては、例えばポリ(メタ)アクリル酸、ポリマレイン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸などが例示される。かかる重合体の製造方法としては、例えば特開平7-90060号公報に示されるような方法が採用できる。
【0038】
本発明においては、上記式(2)の化合物においてnが2であり、ポリ陰イオンとしてポリスチレンスルホン酸を用いたものが好適に用いられる。
【0039】
またこれらのポリ陰イオンが酸性である場合、一部または全てが中和されていてもよい。中和に用いる塩基としてはアンモニア、有機アミン類、アルカリ金属水酸化物が好ましい。
【0040】
(化合物(B))
化合物(B)は、スチレン構造を有する(メタ)アクリル系重合体である。
【0041】
スチレン構造とはスチレンおよびスチレン誘導体のことであり、例えば、スチレンにメチル基やエチル基等のアルキル基やフェニル基等が置換基として導入されていてもよい。加熱処理によるオリゴマーの析出防止効果の観点から、好ましくは炭素数が4以下のアルキル基が置換されたスチレンまたは置換基がないスチレンであり、より好ましくはスチレンである。
【0042】
(メタ)アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸アルキルエステルを構成単位とする重合体であり、当該化合物(B)はスチレン又はスチレン誘導体と、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの共重合体である。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」という表現を用いる場合、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の一方又は両方を意味するものとする。また、同様に「(メタ)アクリレート」は「アクリレート 」及び「メタクリレート」の一方又は両方、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の一方又は両方を意味するものとする。
【0043】
また、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルへキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基を含有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルであってもよい。
これらは1種のみで用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、加熱処理によるオリゴマーの析出防止効果の観点から、好ましくは(メタ)アクリル酸であり、より好ましくはアクリル酸である。すなわち、(メタ)アクリル系重合体のアクリル構造は、(メタ)アクリル酸構造であることが好ましい。
なお、(メタ)アクリル系重合体はラジカル重合可能な二重結合を有するものであってもよい。
【0044】
また、スチレン構造を有する(メタ)アクリル系重合体には、これらと共重合可能な他の重合性モノマーを組み合わせることも可能である。共重合可能なモノマーとしては、例えば、モノブチルヒドロキシフマレート、モノブチルヒドロキシイタコネートのような水酸基含有二塩基酸エステル化合物、(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミドまたは(メタ)アクリロニトリル等の種々の窒素含有化合物;プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル等の各種のビニルエステル類;γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等の種々の珪素含有重合性モノマー類;燐含有ビニル系モノマー類;塩化ビニル、塩化ビリデン等の各種のハロゲン化ビニル類;ブタジエン等の各種共役ジエン類等が挙げられる。
【0045】
スチレン構造を有する(メタ)アクリル系重合体中の(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸アルキルエステルの割合は、スチレン構造を有する(メタ)アクリル系重合体を構成するモノマー全量基準で、例えば3モル%以上であり、好ましくは5~40モル%、より好ましくは10~30モル%、さらに好ましくは15~25モル%の範囲である。(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸アルキルエステルの割合が3モル%以上であると、加熱処理によるオリゴマー析出防止効果が発現する。また、前記上限値以下であると、スチレン構造の比率が上昇し、帯電防止性能の耐久性が担保できる。
【0046】
スチレン構造を有する(メタ)アクリル系重合体中のスチレン及びスチレン誘導体の割合は、スチレン構造を有する(メタ)アクリル系重合体を構成するモノマー全量基準で、例えば50~97モル%であり、好ましくは60~95モル%、より好ましくは、70~90モル%であり、さらに好ましくは75~85モル%である。スチレン及びスチレン誘導体の割合が前記下限値以上であると、帯電防止性能の耐久性が担保され、前記上限値以下であると加熱処理によるオリゴマー析出効果が担保される。
【0047】
(化合物(C))
(化合物(C))は、ポリグリセリン、またはポリグリセリンへのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる1種以上の化合物またはその誘導体である。ポリグリセリンとは、下記一般式(3)で表される化合物である。
【0048】
【化3】
【0049】
上記式中のnは2以上であり、本発明においては、式中のnは通常2~20、好ましくは3~15、より好ましくは3~12の範囲である。
【0050】
ポリグリセリンへのアルキレンオキサイド付加物とは、一般式(3)で表されるポリグリセリンのヒドロキシル基にアルキレンオキサイドを付加重合した構造を有するものである。
【0051】
ここで、ポリグリセリン骨格のヒドロキシル基ごとに、付加されるアルキレンオキサイドの構造は異なっていても構わない。また、少なくとも分子中一つのヒドロキシル基に付加されていればよく、全てのヒドロキシル基にアルキレンオキサイドまたはその誘導体が付加されている必要はない。
【0052】
ポリグリセリンに付加されるアルキレンオキサイドとして好ましいものは、エチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドである。アルキレンオキサイドのアルキレン鎖が長くなりすぎると、疎水性が強くなり、塗布液中での分散性が悪化し、硬化樹脂層の帯電防止性や透明性が悪化する傾向がある。特に好ましいものはエチレンオキサイドである。
また、その付加数は、最終的な化合物としての数平均分子量で200~2000の範囲になるものが好ましく、300~1000の範囲がより好ましく、400~900の範囲ものがさらに好ましい。
【0053】
上記ポリグリセリン、またはポリグリセリンへのアルキレンオキサイド付加物は、1種を単独で又は2種以上を複数併用してもよい。
【0054】
(架橋剤)
本発明に係る樹脂組成物には、硬化樹脂層の耐久性向上、特に帯電防止性能の耐久性を目的として、架橋剤を含有してもよい。
架橋剤としては、種々公知の架橋剤が使用できるが、例えば、メラミン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート系化合物、カルボジイミド系化合物、オキサゾリン化合物、シランカップリング化合物等が挙げられる。これらの中でも空気に曝した後の帯電防止性の低下を抑制する点からメラミン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート系化合物、カルボジイミド系化合物が好ましく、オリゴマー析出をより効果的に抑制できる点からメラミン化合物またはカルボジイミド化合物がより好ましい。
【0055】
(メラミン化合物)
メラミン化合物とは、化合物中にメラミン骨格を有する化合物のことであり、例えばアルキロール化メラミン誘導体、アルキロール化メラミン誘導体にアルコールを反応させて部分的あるいは完全にエーテル化した化合物、及びこれらの混合物を用いることができる。エーテル化に用いるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール及びイソブタノール等が好適に用いられる。また、メラミン化合物としては、単量体、あるいは2量体以上の多量体のいずれであってもよく、あるいはこれらの混合物を用いてもよい。さらに、メラミンの一部に尿素等を共縮合したものも使用できるし、メラミン化合物の反応性を上げるために触媒を使用することも可能である。
【0056】
(エポキシ化合物)
エポキシ化合物とは、分子内にエポキシ基を有する化合物であり、例えばエピクロロヒドリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン及びビスフェノールA等の水酸基やアミノ基との縮合物や、ポリエポキシ化合物、ジエポキシ化合物、モノエポキシ化合物並びにグリシジルアミン化合物等がある。
ポリエポキシ化合物としては、例えばソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアネート、グリセロールポリグリシジルエーテル及びトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ジエポキシ化合物としては、例えばネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル及びポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、モノエポキシ化合物としては、例えばアリルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル及びフェニルグリシジルエーテル、グリシジルアミン化合物としてはN,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノ)シクロヘキサン等が挙げられる。密着性向上の観点から、ポリエーテル系のエポキシ化合物が好ましい。また、エポキシ基の量としては、2官能より、3官能以上の多官能であるポリエポキシ化合物が好ましい。
【0057】
(イソシアネート化合物)
イソシアネート化合物とは、イソシアネート、あるいはブロックイソシアネートに代表されるイソシアネート誘導体構造を有する化合物のことである。イソシアネートとしては、例えばトリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート及びナフタレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族イソシアネート、メチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート及びヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)及びイソプロピリデンジシクロヘキシルジイソシアネート等の脂環族イソシアネート等が例示される。また、これらイソシアネートのビュレット化物、イソシアヌレート化物、ウレトジオン化物及びカルボジイミド変性体等の重合体や誘導体も挙げられる。これらは単独で用いても、複数種併用してもよい。上記イソシアネートの中でも、紫外線による黄変を避けるために、芳香族イソシアネートよりも脂肪族イソシアネートまたは脂環族イソシアネートがより好ましい。
【0058】
ブロックイソシアネートの状態で使用する場合、そのブロック剤としては、例えば重亜硫酸塩類、フェノール、クレゾール及びエチルフェノールなどのフェノール系化合物、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール、ベンジルアルコール、メタノール及びエタノールなどのアルコール系化合物、イソブタノイル酢酸メチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル及びアセチルアセトンなどの活性メチレン系化合物、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン系化合物、ε‐カプロラクタム、δ‐バレロラクタムなどのラクタム系化合物、ジフェニルアニリン、アニリン及びエチレンイミンなどのアミン系化合物、アセトアニリド、酢酸アミドの酸アミド化合物、ホルムアルデヒド、アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトンオキシム及びシクロヘキサノンオキシムなどのオキシム系化合物が挙げられ、これらは単独でも2種以上の併用であってもよい。
【0059】
また、イソシアネート系化合物は単体で用いてもよいし、各種ポリマーとの混合物や結合物として用いてもよい。イソシアネート系化合物の分散性や架橋性を向上させるという意味において、ポリエステル樹脂やウレタン樹脂との混合物や結合物を使用することが好ましい。
【0060】
(カルボジイミド化合物)
カルボジイミド化合物とは、カルボジイミド構造を有する化合物のことであり、分子内にカルボジイミド構造を1つ以上有する化合物であるが、より良好な密着性等のために、分子内に2つ以上のカルボジイミド構造を有するポリカルボジイミド系化合物がより好ましい。
【0061】
カルボジイミド化合物は従来公知の技術で合成することができ、一般的には、ジイソシアネート化合物の縮合反応が用いられる。ジイソシアネート化合物としては、特に限定されるものではなく、芳香族系、脂肪族系いずれも使用することができ、具体的には、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルジイソシアネート及びジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0062】
カルボジイミド化合物に含有されるカルボジイミド基の含有量は、カルボジイミド当量(カルボジイミド基1molを与えるためのカルボジイミド化合物の重さ[g])で、通常100~1000、好ましくは250~800、より好ましくは300~700の範囲である。上記範囲で使用することで、塗膜の耐久性が向上する。
【0063】
さらに本発明の主旨を損なわない範囲において、ポリカルボジイミド化合物の水溶性や水分散性を向上するために、界面活性剤を添加することや、ポリアルキレンオキシド、ジアルキルアミノアルコールの四級アンモニウム塩及びヒドロキシアルキルスルホン酸塩などの親水性モノマーを添加して用いてもよい。
【0064】
(オキサゾリン化合物)
オキサゾリン化合物とは、分子内にオキサゾリン基を有する化合物であり、特にオキサゾリン基を含有する重合体が好ましく、付加重合性オキサゾリン基含有モノマー単独もしくは他のモノマーとの重合によって作成できる。付加重合性オキサゾリン基含有モノマーは、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン及び2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリン等を挙げることができ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。これらの中でも2-イソプロペニル-2-オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。他のモノマーは、付加重合性オキサゾリン基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば制限はなく、例えばアルキル(メタ)アクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基及びシクロヘキシル基)等の(メタ)アクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸及びその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第三級アミン塩等)等の不飽和カルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;(メタ)アクリルアミド、N-アルキル(メタ)アクリルアミド及びN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等)等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα-オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等の含ハロゲンα,β-不飽和モノマー類;スチレン、α-メチルスチレン等のα,β-不飽和芳香族モノマー等を挙げることができ、これらの1種または2種以上のモノマーを使用することができる。密着性向上の観点から、オキサゾリン化合物のオキサゾリン基量は、好ましくは0.5~10mmol/g、より好ましくは1~9mmol/g、さらに好ましくは3~8mmol/g、特に好ましくは4~6mmol/gの範囲である。
【0065】
(シランカップリング化合物)
シランカップリング化合物とは、1つの分子中に有機官能基とアルコキシ基などの加水分解基を有する有機ケイ素化合物である。例えば、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有化合物;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどのビニル基含有化合物;p-スチリルトリメトキシシラン、p-スチリルトリエトキシシランなどのスチリル基含有化合物;3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシランなどの(メタ)アクリル基含有化合物;3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチルブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノ基含有化合物;トリス(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、トリス(トリエトキシシリルプロピル)イソシアヌレートなどのイソシアヌレート基含有化合物;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジエトキシシランなどのメルカプト基含有化合物などが挙げられる。
【0066】
(その他成分)
硬化樹脂層の形成には、塗布外観や透明性の向上等のために、バインダーとして従来公知の各種のポリマー、例えばポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等を併用することも可能である。また、本発明の主旨を損なわない範囲において、ブロッキング性や滑り性改良等を目的として粒子を併用することも可能である。
【0067】
樹脂組成物中の全不揮発成分に占める割合として、化合物(A)は通常2~30質量%、より好ましくは3~15質量%、さらに好ましくは5~12質量%である。化合物(A)の比率が前記上限値以下であると、硬化樹脂層の強度や透明性が良好である。
一方、化合物(A)の比率が下限値以上であると、十分な帯電防止性能が得られ、かつ、空気に曝した後の帯電防止性が低下することがない。
【0068】
樹脂組成物中の全不揮発成分に占める割合として、化合物(B)は通常5~80質量%、好ましくは10~50質量%、より好ましくは15~40質量%の範囲である。化合物(B)の比率が前記上限値以下であると、他の成分の比率が高くなるため、十分な帯電防止性が得られ、また塗工外観が不十分になることがない。一方、化合物(B)の比率が前記下限値以上であるとオリゴマーの析出を十分に抑制でき、かつ十分な造膜性が確保でき、均一な塗膜が得られる。
【0069】
樹脂組成物中の全不揮発成分に占める割合として、化合物(C)は通常10~85質量%、好ましくは40~70質量%、より好ましくは45~65質量%の範囲である。化合物(C)の比率が前記上限値以下であると、他の成分の比率が高くなるため帯電防止性や造膜性が十分となる。一方、化合物(C)の比率が上記下限値以上であると、硬化樹脂層の透明性が良好となる。
【0070】
架橋剤を併用する場合、樹脂組成物中の全不揮発成分に占める割合として通常30質量%以下、好ましくは1~25質量%、さらに好ましくは3~20質量%の範囲である。この範囲で架橋剤を用いることで、十分な帯電防止性能が得られ、かつ空気に曝した後の帯電防止性の悪化が抑制できるほか、硬化樹脂層の強度が向上する。
【0071】
<硬化樹脂層>
本発明に係る硬化樹脂層は、上述の樹脂組成物により形成される。
硬化樹脂層の厚みは、好ましくは0.002μm以上1.0μm以下、より好ましくは0.005μm以上0.25μm以下、さらに好ましくは0.02μm以上0.10μm以下である。硬化樹脂層の厚みが上記の範囲内であれば、オリゴマー成分の析出を抑制し、かつ良好な帯電防止性を付与できる。
なお、硬化樹脂層中には、樹脂組成物の各種化合物の未反応物、反応後の化合物、あるいはそれらの混合物が存在しているものと推測できる。
【0072】
<硬化樹脂層の形成方法>
次に積層ポリエステルフィルムを構成する硬化樹脂層の形成方法について説明する。
硬化樹脂層の形成方法は特に限定されず、例えば、リバースグラビアコート、ダイレクトグラビアコート、ロールコート、ダイコート、バーコート、カーテンコート等、従来公知の塗工方式を用いることができる。
また、硬化樹脂層の形成方法としては、インラインコーティング及びオフラインコーティングがある。乾燥及び硬化条件に関しては、特に限定されるわけではなく、例えばオフラインコーティングにより硬化樹脂層を設ける場合、通常、80~200℃で3~40秒間、好ましくは100~180℃で3~40秒間を目安として熱処理を行うのが良い。
一方、インラインコーティングにより硬化樹脂層を設ける場合、通常、70~280℃で3~200秒間を目安として熱処理を行うのが良い。
【0073】
本発明では、ポリエステルフィルムの製膜工程中にフィルム表面を処理する、インラインコーティングにより形成されるのが好ましい。
インラインコーティングは、ポリエステルフィルム製造の工程内でコーティングを行う方法であり、具体的には、ポリエステルを溶融押し出ししてから延伸後熱固定して巻き上げるまでの任意の段階でコーティングを行う方法である。通常は、溶融、急冷して得られる未延伸シート、延伸された一軸延伸フィルム、熱固定前の二軸延伸フィルム、熱固定後で巻き上げ前のフィルムの何れかにコーティングする。以下に限定するものではないが、例えば逐次二軸延伸においては、特に長手方向(縦方向)に延伸された一軸延伸フィルムにコーティングした後に横方向に延伸する方法が優れている。かかる方法によれば、製膜と硬化樹脂層形成を同時に行うことができるため製造コスト上のメリットがあり、また。コーティング後に延伸を行うために、硬化樹脂層の厚みを延伸倍率により変化させることもでき、オフラインコーティングフィルムに比べ、薄膜コーティングをより容易に行うことができる。また、延伸前にフィルム上に硬化樹脂層を設けることにより、硬化樹脂層をポリエステルフィルムと共に延伸することができ、それにより硬化樹脂層をポリエステルフィルムに強固に密着させることができる。さらに、二軸延伸ポリエステルフィルムの製造において、クリップ等によりフィルム端部を把持しつつ延伸することで、フィルムを縦及び横方向に拘束することができ、熱固定工程において、しわ等が入らず平面性を維持したまま高温をかけることができる。それゆえ、塗布後に施される熱処理が他の方法では達成されない高温とすることができるために、硬化樹脂層の造膜性が向上し、硬化樹脂層とポリエステルフィルムをより強固に密着させることができ、さらには、強固な硬化樹脂層とすることができ、硬化樹脂層上に形成され得る各種の機能層との密着性や耐湿熱性等の性能を向上させることができる。
【0074】
インラインコーティングによって硬化樹脂層を設ける場合は、上述の一連の化合物を水溶液または水分散体として、固形分濃度(全不揮発成分)が0.1~50質量%程度を目安に調整した硬化樹脂層組成物をポリエステルフィルム上に塗布する要領にて積層ポリエステルフィルムを製造するのが好ましい。
【0075】
また、オフラインコーティングあるいはインラインコーティングに係わらず、必要に応じて熱処理と紫外線照射等の活性エネルギー線照射とを併用してもよい。本発明の積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルムにはあらかじめ、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理を施してもよい。
【0076】
<積層ポリエステルフィルムの物性>
本発明の積層ポリエステルフィルムは、熱処理(150℃、90分間)前後におけるフィルムヘーズ変化量(ΔH)が1.0%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。ポリエステルフィルムは、熱処理によるフィルム表面へのオリゴマー成分の析出によりフィルムヘーズが大きくなることが知られており、ΔHは熱処理前後におけるフィルム表面へのオリゴマー成分の析出を示す指標である。
フィルムヘーズ変化量(ΔH)が1.0%以下である場合には、オリゴマー成分の析出による汚染を抑制できているとすることができる。
【0077】
本発明の積層ポリエステルフィルムの帯電防止性は、硬化樹脂層表面を測定した表面抵抗率で評価できる。硬化樹脂層の表面抵抗率が低いほど、帯電防止性が良好であるといえる。表面抵抗率が1×1012Ω/□以下であれば帯電防止性を持つといえ、1×10Ω/□以下であれば良好な帯電防止性であるといえ、さらに1×10Ω/□以下であればきわめて良好な帯電防止性能といえ好ましい。また表面抵抗率の下限は特にないが、導電剤のコストを勘案すると1×10Ω/□以上とするのが好ましい。
【0078】
硬化樹脂層中の各種成分の分析は、例えばTOF-SIMS、ESCA、蛍光X線等の分析によって行うことができる。
【0079】
ポリエステルフィルムに含まれるオリゴマー成分の析出が抑制される機構は以下のように推察される。ポリエステルフィルムはガラス転移点以上に加熱することでオリゴマー成分がその表面に析出してくるが、スチレン構造を有する(メタ)アクリル系重合体を用いた樹脂組成物からなる硬化樹脂層をポリエステルフィルム上に形成することで、スチレンに含まれる芳香族環がフィルムと並行に積み重なった構造となってオリゴマー成分の析出を妨げていると推測している。
【0080】
電子導電性化合物の帯電防止剤を含む硬化樹脂層であっても、空気に曝した後の帯電防止性の悪化が抑制される機構は以下のように考えている。特許文献5に記載があるように、電子導電性化合物の帯電防止剤を含む硬化樹脂層は製造後に空気に触れた状態で数日経過すると帯電防止性が悪化することが知られている。
本発明における電子導電性化合物はチオフェンまたはチオフェン誘導体からなる化合物に、他の陰イオン化合物によりドーピングされた重合体、またはチオフェンまたはチオフェン誘導体からなる化合物中に陰イオン基を持ち自己ドープされた重合体であり、このポリチオフェンが空気中の酸素で酸化されるために帯電防止性の悪化が生じる。良好な帯電防止性能を発現するメカニズムに関しては、推測の域を超えないが、スチレン構造を有する(メタ)アクリル系重合体を用いることでポリチオフェンと空気中の酸素との接触を抑制することで、帯電防止性の低下が抑制されていると考えられる。
【0081】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、高温で処理した際のポリエステルフィルムからのオリゴマー析出を低減しながら、それでいて、良好な帯電防止性を有し、例えば工程保護フィルムとして好適に用いることができる。工程保護フィルムは、フィルムなどの他の部材に貼り合わせて、当該他の部材を保護することなどに使用される。
特に、粘着層を介して、金属層表面に貼り合わせたフィルム積層体構成での使い方に好適である。ここで、金属層はパターン化されていてもよい。
具体的にはITO層を基材フィルム上にスパッタ処理する製造工程において、粘着層を介して、本発明の積層ポリエステルフィルムを貼り合わせた状態で、ITOの結晶化工程(例えば、150℃、90分以上のような高温雰囲気下に晒される状態)を通過しても、フィルムの透明性・帯電防止性を維持した状態であり、フィルムを貼り合わせたままの状態でITO層の検査を行うことも可能である。
【実施例
【0082】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない範囲において、以下の実施例に限定されるものではない。また、本発明で用いた測定法及び評価方法は次の通りである。
【0083】
(1)ポリエステルの固有粘度
ポリエステルに非相溶な成分を除去したポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(質量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0084】
(2)粒子の平均粒径
TEM(Hitachi社製 H-7650、加速電圧100V)を使用してポリエステルフィルムを観察し、粒子10個の粒径の平均値を平均粒径とした。
【0085】
(3)硬化樹脂層の膜厚
硬化樹脂層の表面をRuOで染色し、エポキシ樹脂中に包埋した。その後、超薄切片法により作成した切片をRuO染色し、硬化樹脂層断面を透過型電子顕微鏡(TEM)(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、H-7650、加速電圧100kV)を用いて測定した。
【0086】
(4)ヘーズの測定方法
村上色彩技術研究所製ヘーズメーター「HM-150」を使用して、JIS K 7136に準じて測定した
【0087】
(5)加熱によるオリゴマーの析出
試料フィルムにおいて、硬化樹脂層が設けられた面とは反対側の面に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート80質量部、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート20質量部、光重合開始剤(商品名:イルガキュア184、チバスペシャルティケミカルズ株式会社製)5質量部、メチルエチルケトン200質量部の混合塗液を乾燥膜厚が3μmになるように塗布し、紫外線を照射(積算光量で200mJ/cm)して硬化させ、ハードコート層を設けた。得られたハードコート層付き試料フィルムのフィルムヘーズを上記(4)に記載の方法で測定した。
次いでハードコート層付きフィルムサンプルの硬化樹脂層表面が露出する状態でケント紙を重ねて固定し、窒素雰囲気下で、150℃で90分間放置して熱処理を行ったのち、上記(4)に記載の方法でフィルムヘーズを測定した。
熱処理後のフィルムヘーズと熱処理前のフィルムヘーズとの差を計算し、フィルムヘーズ変化量(ΔH)とした。
フィルムヘーズ変化量が低いほど、熱処理によるオリゴマー成分(エステル環状三量体成分)の析出が少ないことを示している。
【0088】
(6)表面抵抗率
三菱ケミカル社製低抵抗率計:ロレスタGP MCP-T600を使用し、温度23℃,相対湿度50%の測定雰囲気でサンプルを30分間調湿後に表面抵抗率を測定した。抵抗値が測定可能な範囲の上限を超えていた場合は測定不可とした。
【0089】
(7)表面抵抗率の耐久性
温度23℃、相対湿度50%に調整された恒温恒湿室の壁面に試料フィルムを測定面が壁と反対側(室内側)になるように貼り付け、14日連続で室内光を当てて処理したのち上記(6)と同様の手順で表面抵抗率を測定して貼り付け前と比較した。この壁面には屋外光はあたらず、白色蛍光灯による約500ルクスの照明を受けていた。
◎:処理後の表面抵抗率の増大が10倍未満
〇:処理後の表面抵抗率の増大が10倍以上50倍未満
△:処理後の表面抵抗率の増大が50倍以上
×:処理後の抵抗値が測定可能な範囲の上限を超えて測定不可
【0090】
実施例、比較例中で使用したポリエステル原料は次のとおりである。
【0091】
<ポリエステル(1)の製造方法>
テレフタル酸ジメチル100質量部とエチレングリコール55質量部とを出発原料とし、触媒として酢酸マグネシウム・四水塩0.04質量部を反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物にエチルアシッドフォスフェート0.02質量部を添加した後、三酸化アンチモン0.04質量部を加えて、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、固有粘度0.65に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させ、固有粘度0.65のポリエステル(1)を得た。
【0092】
<ポリエステル(2)の製造方法>
テレフタル酸ジメチル100質量部とエチレングリコール45質量部とを出発原料とし、触媒として酢酸マグネシウム・四水塩0.06質量部を反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物にエチルアシッドフォスフェート0.03質量部を添加した後、エチレングリコールに分散させた平均粒径2.7μmのシリカ粒子を0.3質量部、三酸化アンチモン0.03質量部を加えて、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、固有粘度0.65に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させ、固有粘度0.65のポリエステル(2)を得た。
【0093】
硬化樹脂層を形成するための樹脂組成物としては下記を用いた。
(化合物(A))
(A1):ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸からなる導電剤(アグファゲバルト社製 Orgacon ICP1010)を濃アンモニア水で中和してpH=9とした導電剤、不揮発成分;1.2質量%、溶媒;水
【0094】
(化合物(B))
(B1):下記の組成で重合したアクリル樹脂水分散体
スチレン/アクリル酸=85/15(質量%)、不揮発成分;30質量%
(B2):下記の組成で重合したアクリル樹脂水分散体(比較化合物)
エチルアクリレート/n-ブチルアクリレート/メチルメタクリレート/N-メチロールアクリルアミド/アクリル酸=65/21/10/2/2(質量%)
【0095】
(化合物(C))
(C1):前記式(3)で平均n=4であるポリグリセリン
(C2):前記式(3)で平均n=10であるポリグリセリン
(C3):前記式(3)で平均n=4であるポリグリセリン骨格にポリエチレンオキサイドが平均4分子付加した化合物
【0096】
(架橋剤)
(D1):メラミン化合物
ヘキサメトキシメチロールメラミン
(D2)エポキシ化合物
水溶性ポリグリセロールポリグリシジルエーテル
(D3):カルボジイミド化合物
ポリカルボジイミド化合物カルボジライト SV-02(カルボジイミド当量:430)(日清紡株式会社製)
(D4):イソシアネート化合物
以下の方法で調製したブロックポリイソシアネート
ヘキサメチレンジイソシアネート1000質量部を60℃で攪拌し、触媒としてテトラメチルアンモニウム・カプリエート0.1質量部を加えた。4時間後、リン酸0.2質量部を添加して反応を停止させ、イソシアヌレート型ポリイソシアネート組成物を得た。得られたイソシアヌレート型ポリイソシアネート組成物100質量部、数平均分子量400のメトキシポリエチレングリコール42.3質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート29.5質量部を仕込み、80℃で7時間保持した。その後反応液温度を60℃に保持し、イソブタノイル酢酸メチル35.8質量部、マロン酸ジエチル32.2質量部、ナトリウムメトキシドの28%メタノール溶液0.88質量部を添加し、4時間保持した。n-ブタノール58.9質量部を添加し、反応液温度80℃で2時間保持し、その後、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート0.86質量部を添加してブロックポリイソシアネートを得た。
【0097】
実施例1
ポリエステル(1)とポリエステル(2)とを質量比で82/18でブレンドしたものをA層、およびポリエステル(1)のみをB層の原料として、押出機にそれぞれを供給し、285℃に加熱溶融し、A層を二分配して最外層(表層)、B層を中間層とする2種三層(A/B/A)の層構成で、押出条件で厚み構成比がA/B/A=5/90/5となるよう共押出し、表面温度40~50℃の鏡面冷却ドラムに密着させながら冷却固化させ、未延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを作成した。このフィルムを85℃の加熱ロール群を通過させながら長手方向に3.7倍延伸し、一軸配向フィルムとした。この一軸延伸フィルムの片面に、下記表1に示す樹脂組成物1(塗布液1、不揮発成分濃度;3.0質量%)を塗布し、次いでこのフィルムをテンター延伸機に導き、100℃で幅方向に4.3倍延伸し、さらに230℃で熱処理を施した後、幅方向に2%の弛緩処理を行い、膜厚(乾燥後)が0.03μmの硬化樹脂層を有する、厚み50μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた積層ポリエステルフィルムの熱処理後のヘーズと熱処理前のフィルムヘーズ変化量(ΔH)は0.1%であり、表面抵抗値は3×10(Ω/□)であり、14日連続で室内光を当てて処理した後の表面抵抗率の増大が10倍以上50倍未満であった。このフィルムの特性を下記表2に示す。
【0098】
実施例2~18
硬化樹脂層組成物を表1に示す組成に変更する以外は実施例1と同様に実施して、積層ポリエステルフィルムを得た。結果を表2に示す。
【0099】
比較例1~5
硬化樹脂層組成物を表1に示す組成に変更する以外は実施例1と同様に実施して、積層ポリエステルフィルムを得た。
【0100】
比較例6
硬化樹脂層を設けなかったこと以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。結果を表2に示す。
【0101】
【表1】

【0102】
【表2】

【0103】
表2に示す結果から明らかなように、本発明の積層ポリエステルフィルムは、ヘーズが低く、透明性が高いことがわかる。また、表面抵抗率は1×10(Ω/□)以下であり、帯電防止性能に優れることがわかる。さらに、熱処理後のヘーズと熱処理前のフィルムヘーズ変化量(ΔH)が1.0%以下であり、熱処理によってもフィルムヘーズが悪化しないことがわかる。また、表面抵抗率の耐久性も高いことが明らかとなった。
一方、比較例1及び3では、表面抵抗率が測定可能な範囲の上限を超え(表2では測定不可と記載)、また比較例4及び5では、熱処理後のヘーズと熱処理前のフィルムヘーズ変化量(ΔH)が1.0%を超え、熱処理によってオリゴマーの析出が確認された。さらに比較例2では、造膜性が悪く均一な塗膜が得られなかった(表2ではヘーズ欄に塗工不可と記載)。
また、本発明の硬化樹脂層を有さない比較例6で得られたポリエステルフィルムは表2に示すとおり、加熱処理によるフィルムヘーズ上昇(ΔH)は1.5%であり、表面抵抗値は測定可能な範囲の上限を超えていた。