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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20241001BHJP
   G03G 21/00 20060101ALI20241001BHJP
   H05B 3/10 20060101ALI20241001BHJP
   H05B 3/03 20060101ALI20241001BHJP
   H05B 3/00 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
G03G15/20 515
G03G21/00 310
H05B3/10 A
H05B3/03
H05B3/00 335
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020158608
(22)【出願日】2020-09-23
(65)【公開番号】P2021196597
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2020103660
(32)【優先日】2020-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】矢部 謙治
(72)【発明者】
【氏名】古市 祐介
(72)【発明者】
【氏名】足立 知哉
【審査官】松山 紗希
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-091003(JP,A)
【文献】特開2005-140875(JP,A)
【文献】特開2008-116765(JP,A)
【文献】特開平09-062163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
G03G 15/00
G03G 21/00
G03G 21/14
H05B 3/10
H05B 3/03
H05B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱部材を有する加熱装置と、
表面に画像を担持する像担持体と、
前記像担持体の表面に像担持体保護剤を供給する保護剤供給部材と、
前記像担持体保護剤を前記保護剤供給部材へ接触させるように付勢する保護剤付勢部材と、
を備える画像形成装置であって、
前記加熱部材は、基材と、発熱体と、電極部と、前記発熱体と前記電極部とを接続する導電部と、を有し、
前記発熱体に対して、前記加熱部材の発熱領域における長手方向中央を基準として対称に同じ大きさの電流を流した場合に、前記加熱部材の温度は、前記加熱部材の発熱領域における長手方向中央を基準として互いに対称な一方の位置よりも他方の位置で大きくなり
前記保護剤付勢部材の付勢力は、前記一方の位置側よりも前記他方の位置側で大きい画像形成装置。
【請求項2】
加熱部材を有する加熱装置と、
表面に画像を担持する像担持体と、
前記像担持体の表面に像担持体保護剤を供給する保護剤供給部材と、
前記像担持体保護剤を前記保護剤供給部材へ接触させるように付勢する保護剤付勢部材と、
を備える画像形成装置であって、
前記加熱部材は、基材と、発熱体と、電極部と、前記発熱体と前記電極部とを接続する導電部と、を有し、
前記発熱体に対して、前記加熱部材の発熱領域における長手方向中央を基準として対称に同じ大きさの電流を流した場合に、前記加熱部材に流れる電流の二乗の合計値は、前記加熱部材の発熱領域における長手方向中央を基準として互いに対称な一方の位置よりも他方の位置で大きくなり
前記保護剤付勢部材の付勢力は、前記一方の位置側よりも前記他方の位置側で大きい画像形成装置。
【請求項3】
前記他方の位置側に、前記像担持体を駆動させる駆動装置を備える請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記電極部は、第1電極部及び第2電極部を有し、
前記導電部は、前記発熱体と前記第1電極部とを接続する第1導電部と、前記発熱体から前記基材の長手方向のうち第1方向側に伸びて前記第2電極部に接続される第2導電部と、前記第2導電部から分岐し、前記第1方向とは反対の第2方向側に伸びて前記第1導電部を介さずに前記第2導電部又は前記第2電極部に接続される分岐経路の少なくとも一部を構成する第3導電部と、を有する請求項1から3のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記分岐経路上に、前記第3導電部と、前記第1電極部及び前記第2電極部とは別の第3電極部と、前記第3導電部を介して前記第3電極部に接続される発熱体と、が配置される請求項4に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記加熱部材の前記発熱体が設けられた面に沿って長手方向と交差する方向を、短手方向とすると、
前記加熱部材の短手方向寸法に対する前記発熱体の短手方向寸法の比が、25%以上80%未満である請求項1から5のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記加熱部材の前記発熱体が設けられた面に沿って長手方向と交差する方向を、短手方向とすると、
前記加熱部材の短手方向寸法に対する前記発熱体の短手方向寸法の比が、40%以上80%未満である請求項1から5のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機又はプリンタなどの画像形成装置として、トナーを用いて画像を形成する電子写真方式の画像形成装置が知られている。
【0003】
一般的に、電子写真方式の画像形成装置には、トナー画像を用紙に定着させる定着装置が搭載されている。定着装置は、用紙を加熱するヒータなどの加熱部材を備えており、用紙が定着装置を通過する際に、加熱部材によって用紙が加熱されることにより、用紙上のトナーが溶融し用紙に定着される。
【0004】
例えば、特許文献1(特開2016-62024号公報)には、定着装置が備える加熱部材として、長手状の基板に、発熱体及び電気接点、これらを電気的に接続する導体パターンなどが設けられた板状のヒータが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような導体パターンが基板に設けられている加熱部材においては、発熱体を発熱させる際、導体パターンへの通電により導体パターンでも発熱が生じる。このため、加熱部材全体の発熱分布は、導体パターンの発熱の影響を受けることになる。
【0006】
従って、導体パターンの発熱分布にばらつきがあると、それが原因で加熱部材の温度分布にもばらつきが生じる。さらに、このような加熱部材の温度分布のばらつきは、像担持体の表面に像担持体保護剤を供給する保護剤供給部材にも影響を与えるため、像担持体保護剤の供給量にもばらつきが生じる虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、加熱部材を有する加熱装置と、表面に画像を担持する像担持体と、前記像担持体の表面に像担持体保護剤を供給する保護剤供給部材と、前記像担持体保護剤を前記保護剤供給部材へ接触させるように付勢する保護剤付勢部材と、を備える画像形成装置であって、前記加熱部材は、基材と、発熱体と、電極部と、前記発熱体と前記電極部とを接続する導電部と、を有し、前記発熱体に対して、前記加熱部材の発熱領域における長手方向中央を基準として対称に同じ大きさの電流を流した場合に、前記加熱部材の温度は、前記加熱部材の発熱領域における長手方向中央を基準に互いに対称な一方の位置よりも他方の位置で大きくなり、前記保護剤付勢部材の付勢力は、前記一方の位置側よりも前記他方の位置側で大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、像担持体保護剤の供給量のばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る画像形成装置の概略構成図である。
図2】本実施形態に係る保護剤供給装置の概略構成図である。
図3】本実施形態に係る定着装置の概略構成図である。
図4】前記定着装置の斜視図である。
図5】前記定着装置の分解斜視図である。
図6】前記定着装置が備える加熱ユニットの斜視図である。
図7】前記加熱ユニットの分解斜視図である。
図8】本実施形態に係るヒータの平面図である。
図9】前記ヒータの分解斜視図である。
図10】前記ヒータにコネクタが接続された状態を示す斜視図である。
図11】前記ヒータの平面図である。
図12】全ての抵抗発熱体を発熱させた場合のブロックごとの給電線の発熱量を示す図である。
図13】一部の発熱部のみを発熱させた場合のブロックごとの給電線の発熱量を示す図である。
図14】ヒータの温度分布とブラシローラの温度分布との関係を示す図である。
図15】本実施形態に係る保護剤供給装置の構成を示す図である。
図16】本発明の他の実施形態に係る保護剤供給装置の構成を示す図である。
図17】フィルミング抑制効果を調べた試験結果を示す図である。
図18】駆動装置が片側に配置された例を示す図である。
図19】小型化されたヒータの平面図である。
図20】他のヒータの平面図である。
図21】さらに別のヒータの平面図である。
図22】他の定着装置の構成を示す図である。
図23】別の定着装置の構成を示す図である。
図24】さらに別の定着装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付の図面に基づき、本発明について説明する。なお、本発明を説明するための各図面において、同一の機能もしくは形状を有する部材又は構成部品等の構成要素については、判別が可能な限り同一符号を付すことにより一度説明した後ではその説明を省略する。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係る画像形成装置の概略構成図である。
【0012】
図1に示す画像形成装置100は、画像形成部200と、転写部300と、定着部400と、記録媒体供給部500と、記録媒体排出部600と、を備えている。
【0013】
画像形成部200には、4つの作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkと、露光装置6と、が設けられている。各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkは、画像形成装置本体に対して着脱可能に構成されている。また、各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkは、カラー画像の色分解成分に対応するイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの異なる色の現像剤を収容している以外、基本的に同様の構成である。具体的に、各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkは、表面に画像を担持する像担持体である感光体2と、感光体2の表面を帯電させる帯電手段である帯電ローラ3と、感光体2上にトナー画像を形成する現像手段である現像装置4と、感光体2の表面をクリーニングするクリーニング手段であるクリーニングブレード5と、感光体2の表面に像担持体保護剤を供給する保護剤供給装置7と、を備えている。露光装置6は、画像情報に基づいて感光体2の帯電面を露光して静電潜像を形成する潜像形成手段である。
【0014】
転写部300には、記録媒体である用紙に画像を転写する転写装置8が設けられている。なお、画像が形成(転写)される記録媒体は、紙(普通紙、厚紙、薄紙、コート紙、ラベル紙、封筒などを含む)のほか、OHPシートなどの樹脂製のシートであってもよい。転写装置8は、中間転写ベルト11と、4つの一次転写ローラ12と、二次転写ローラ13と、を有している。中間転写ベルト11は、表面に画像を担持してその画像を用紙に転写する転写部材であり、無端状のベルト部材で構成されている。各一次転写ローラ12は、中間転写ベルト11を介してそれぞれ別の感光体2に接触している。これにより、中間転写ベルト11と各感光体2との間に、中間転写ベルト11と各感光体2とが接触する一次転写ニップが形成されている。一方、二次転写ローラ13は、中間転写ベルト11を介して中間転写ベルト11を張架する複数のローラの1つに接触し、中間転写ベルト11との間に二次転写ニップを形成している。
【0015】
定着部400には、用紙を加熱する加熱装置であって、用紙を加熱することにより用紙上の画像を定着させる定着装置9が設けられている。
【0016】
記録媒体供給部500には、用紙Pを収容する給紙カセット14と、給紙カセット14から用紙Pを送り出す給紙ローラ15と、が設けられている。
【0017】
記録媒体排出部600には、用紙を画像形成装置外に排出する一対の排紙ローラ17と、排紙ローラ17によって排出された用紙を載置する排紙トレイ18と、が設けられている。
【0018】
次に、図1を参照しつつ本実施形態に係る画像形成装置100の印刷動作について説明する。
【0019】
印刷動作開始の指示があると、各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkの感光体2、及び中間転写ベルト11が回転を開始する。また、給紙ローラ15が回転することにより、給紙カセット14から用紙Pが送り出される。送り出された用紙Pは、一対のタイミングローラ16に接触して一旦停止される。
【0020】
各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkでは、まず、帯電ローラ3によって感光体2の表面が均一な高電位に帯電される。次いで、原稿読取装置によって読み取られた原稿の画像情報、あるいは端末からプリント指示されたプリント画像情報に基づいて、露光装置6が各感光体2の表面(帯電面)に露光する。これにより、露光された部分の電位が低下して各感光体2の表面に静電潜像が形成される。そして、この静電潜像に対して現像装置4からトナーが供給され、各感光体2上にトナー画像が形成される。各感光体2上に形成されたトナー画像は、各感光体2の回転に伴って一次転写ニップ(一次転写ローラ12の位置)に達すると、回転する中間転写ベルト11上に順次重なり合うように転写される。かくして、中間転写ベルト11上にフルカラーのトナー画像が形成される。また、感光体2から中間転写ベルト11へトナー画像が転写された後、各感光体2上に残留するトナー及びその他の異物はクリーニングブレード5によって除去される。さらに、クリーニングされた各感光体2の表面に対して、保護剤供給装置7から像担持体保護剤である潤滑剤が供給され、感光体2は次の静電潜像の形成に備えられる。
【0021】
中間転写ベルト11上に転写されたトナー画像は、中間転写ベルト11の回転に伴って二次転写ニップ(二次転写ローラ13の位置)へ搬送され、タイミングローラ16によって搬送されてきた用紙P上に転写される。そして、トナー画像が転写された用紙Pは、定着装置9へと搬送され、定着装置9によって用紙Pにトナー画像が定着される。その後、用紙Pは排紙ローラ17によって排紙トレイ18へ排出され、一連の印刷動作が完了する。
【0022】
以上の印刷動作の説明は、フルカラー画像を形成するときの動作についてであるが、4つの作像ユニットのうち、いずれか1つを使用して単色画像を形成したり、2つ又は3つの作像ユニットを使用して、2色又は3色の画像を形成したりすることも可能である。
【0023】
図2は、本実施形態に係る保護剤供給装置7の概略構成図である。
【0024】
図2に示すように、本実施形態に係る保護剤供給装置7は、像担持体保護剤としての潤滑剤80と、潤滑剤80を感光体2へ供給する潤滑剤供給部材(保護剤供給部材)としてのブラシローラ81と、潤滑剤80を保持する潤滑剤保持部材(保護剤保持部材)としての潤滑剤ホルダ85と、潤滑剤ホルダ85を介して潤滑剤80をブラシローラ81へ付勢する潤滑剤付勢部材(保護剤付勢部材)としてのバネ82と、感光体2へ供給された潤滑剤80を均一な薄層にする層状化部材としての塗布ブレード83と、塗布ブレード83を感光体2の表面へ接触するように付勢する層状化部材付勢手段としてのバネ84と、を備えている。
【0025】
ブラシローラ81は、感光体2の表面に接触しており、感光体2の回転方向とは反対方向に回転する。ブラシローラ81が回転すると、ブラシローラ81によって潤滑剤80が掻き取られると共に、掻き取られた潤滑剤80が感光体2の表面に供給される。そして、感光体2の表面に供給された潤滑剤80は、塗布ブレード83によって均一な厚さに薄層化される。潤滑剤80、ブラシローラ81及び塗布ブレード83は、感光体2上の最大画像形成領域以上の範囲に渡って長手状に配置されている。
【0026】
このように、感光体2の表面に薄層化された潤滑剤80が供給されることにより、感光体2のクリーニング性が向上し、クリーニング不良による異常画像の発生を抑制することが可能である。潤滑剤供給部材は、ブラシローラ81のほか、発泡ポリウレタンなどから成るウレタンローラであってもよい。
【0027】
潤滑剤80は、例えば、脂肪酸金属塩と無機潤滑剤とを少なくとも含有した粉体を圧縮して構成される。
【0028】
潤滑剤80を構成する脂肪酸金属塩の例としては、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸鉛、ステアリン酸鉄、ステアリン酸ニッケル、ステアリン酸コバルト、ステアリン酸銅、ステアリン酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸カドミウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、オレイン酸亜鉛、オレイン酸マグネシウム、オレイン酸鉄、オレイン酸コバルト、オレインサン銅、オレイン酸鉛、オレイン酸マンガン、パルミチン酸亜鉛、パルミチン酸コバルト、パルミチン酸鉛、パルミチン酸マグネシウム、パルミチン酸アルミニウム、パルミチン酸カルシウム、カプリル酸鉛、カプリン酸鉛、リノレン酸亜鉛、リノレン酸コバルト、リノレン酸カルシウム、リシノール酸亜鉛、リシノール酸カドミウム及びそれらの混合物があるが、これに限るものではない。また、これらを混合して使用してもよい。
【0029】
また、潤滑剤80を構成する無機潤滑剤とは、その物質自身がへき開して潤滑する、又は内部滑りを起こすものを指す。この例としては、マイカ、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、タルク、カオリン、モンモリロナイト、フッ化カルシウム、又はグラファイト、などがあるがこれに限るものではない。例えば窒化ホウ素は、原子がしっかりと組み合った六角網面が、広い間隔で重なり、層と層とをつなげるのは、弱いファンデルワールス力のみであるため、その層間は容易にへき開し、潤滑する。
【0030】
続いて、本実施形態に係る定着装置9の構成について説明する。
【0031】
図3に示すように、本実施形態に係る定着装置9は、定着ベルト20と、加圧ローラ21と、ヒータ22と、ヒータホルダ23と、ステー24と、温度センサ19と、を備えている。
【0032】
定着ベルト20は、回転可能に設けられた第1回転部材であって、用紙Pの未定着トナー担持面側(画像形成面側)に配置されて未定着トナーを用紙Pに定着させる定着部材である。定着ベルト20は、例えば、外径が25mmで厚みが40~120μmの筒状基材を有する無端状のベルト部材で構成される。基材の材料は、ポリイミドのほか、PEEKなどの耐熱性樹脂であってもよいし、ニッケル又はSUSなどの金属材料であってもよい。また、耐久性を高めると共に離型性を確保するため、基材の外周面に、PFA又はPTFEなどのフッ素樹脂から成る離型層が設けられてもよい。また、基材と離型層との間に、ゴムなどから成る弾性層が設けられてもよい。さらに、基材の内周面に、ポリイミド又はPTFEなどから成る摺動層が設けられてもよい。
【0033】
加圧ローラ21は、定着ベルト20とは別の回転可能な第2回転部材であって、定着ベルト20の外周面に対向するように配置された対向部材である。また、加圧ローラ21は、定着ベルト20の外周面に圧接されて、定着ベルト20との間にニップ部Nを形成する加圧部材でもある。加圧ローラ21は、例えば、外径が25mmであって、鉄製の芯金と、この芯金の外周面に設けられたシリコーンゴム製の弾性層と、弾性層の外周面に設けられたフッ素樹脂製の離型層とを有するローラなどにより構成される。
【0034】
ヒータ22は、定着ベルト20の内周面に接触し、定着ベルト20を内側から加熱する加熱部材である。本実施形態では、ヒータ22が、板状の基材50と、基材50上に設けられた第1絶縁層51と、第1絶縁層51上に設けられた導体層52と、導体層52を被覆する第2絶縁層53と、により構成されている。また、導体層52は、発熱部60を有している。
【0035】
基材50は、例えば、ステンレス(SUS)、鉄、又はアルミニウム等の金属材料で構成される。また、基材50の材料として、金属材料のほか、セラミック又はガラス等を用いることも可能である。基材50にセラミックなどの絶縁材料を用いた場合は、基材50と導体層52との間の第1絶縁層51を省略することが可能である。一方、金属材料は、急速加熱に対する耐久性に優れ、加工もしやすいため、低コスト化を図るのに好適である。金属材料の中でも、特にアルミニウム又は銅は熱伝導性が高く、温度ムラが発生しにくい点で好ましい。また、ステンレスはこれらに比べて安価に製造できる利点がある。
【0036】
各絶縁層51,53は、例えば、耐熱性ガラスなどの絶縁性を有する材料で構成される。また、これらの材料として、セラミック又はポリイミドなどを用いてもよい。また、基材50の第1絶縁層51及び第2絶縁層53が設けられる面とは反対側の面に、別途絶縁層が設けられてもよい。
【0037】
本実施形態では、発熱部60が基材50よりもニップ部N側に配置されているが、これとは反対に、基材50が発熱部60よりもニップ部N側に配置されてもよい。ただしその場合は、発熱部60の熱が基材50を介して定着ベルト20に伝達されることになるため、基材50は窒化アルミニウムなどの熱伝導率の高い材料で構成されることが望ましい。
【0038】
また、本実施形態では、ヒータ22から定着ベルト20への熱伝達効率を高めるため、ヒータ22が定着ベルト20の内周面に対して直接接触するように配置されている。しかしながら、これに限らず、ヒータ22は、定着ベルト20に対して非接触又は低摩擦シートなどを介して間接的に接触するように配置されてもよい。また、定着ベルト20に対するヒータ22の接触箇所は、定着ベルト20の外周面であってもよい。本実施形態のように、定着ベルト20の内周面にヒータ22を接触させている場合は、定着ベルト20の外周面の傷付きを抑制でき、定着品質の低下を回避できる利点がある。
【0039】
ヒータホルダ23は、定着ベルト20の内側でヒータ22を保持するヒータ保持部材である。ヒータホルダ23は、ヒータ22の熱によって高温になりやすいため、耐熱性の材料で構成されることが望ましい。特に、ヒータホルダ23が、LCP又はPEEKなどの低熱伝導性の耐熱性樹脂で構成される場合は、ヒータホルダ23の耐熱性を確保しつつ、ヒータ22からヒータホルダ23への伝熱が抑制されるので、効率的に定着ベルト20を加熱することが可能である。
【0040】
ステー24は、定着ベルト20の内側に配置される補強部材である。ステー24によってヒータホルダ23のニップ部N側の面とは反対の面が支持されることにより、ヒータホルダ23が加圧ローラ21の加圧力によって撓むのが抑制される。これにより、定着ベルト20と加圧ローラ21との間に均一な幅のニップ部Nが形成される。ステー24は、その剛性を確保するため、SUS又はSECCなどの鉄系金属材料によって形成されることが好ましい。
【0041】
温度センサ19は、ヒータ22の温度を検知する温度検知手段である。温度センサ19の検知結果に基づいてヒータ22の出力が制御されることにより、定着ベルト20の温度が所望の温度(定着温度)となるように維持される。温度センサ19は、接触型又は非接触型のいずれでもよい。例えば、温度センサ19として、サーモパイル、サーモスタット、サーミスタ、又はNCセンサなどの公知の温度センサを適用可能である。
【0042】
本実施形態に係る定着装置9においては、印刷動作が開始されると、ヒータ22に電力が供給されることにより、発熱部60が発熱し、定着ベルト20が加熱される。また、加圧ローラ21が回転駆動され、定着ベルト20が従動回転を開始する。そして、定着ベルト20の温度が所定の目標温度(定着温度)に到達した状態で、図3に示すように、未定着トナー画像が担持された用紙Pが、定着ベルト20と加圧ローラ21との間(ニップ部N)に進入することにより、回転する定着ベルト20と加圧ローラ21によって搬送されると共に、未定着トナーが加熱及び加圧されてトナー画像が用紙Pに定着される。
【0043】
図4は、本実施形態に係る定着装置9の斜視図、図5は、その分解斜視図である。
【0044】
図4及び図5に示すように、本実施形態に係る定着装置9は、矩形の枠状に形成された装置フレーム40を備えている。装置フレーム40は、一対の側壁部28及び前壁部27を一体に有する第1装置フレーム25と、後壁部29を有する第2装置フレーム26と、によって構成されている。第1装置フレーム25と第2装置フレーム26は、一対の側壁部28に設けられた複数の係合突起28aが、後壁部29に設けられた複数の係合孔29aに係合することにより組み付けられる。
【0045】
定着ベルト20及び加圧ローラ21は、一対の側壁部28によって支持される。このため、各側壁部28には、加圧ローラ21の回転軸などを挿通させるための挿通溝28bが設けられている。挿通溝28bは、その一端側(後壁部29側)で開口し、これとは反対側の端では開口しない突き当て部が形成されている。この突き当て部には、加圧ローラ21の回転軸を回転可能に支持する軸受30が設けられている。加圧ローラ21が各側壁部28によって支持された状態では、加圧ローラ21の軸方向の一端に設けられた駆動伝達部材としての駆動伝達ギヤ31が、側壁部28よりも外側に露出した状態で配置される。これにより、定着装置9が画像形成装置本体に搭載されると、駆動伝達ギヤ31が画像形成装置本体に設けられているギヤに連結され、駆動源からの駆動力を伝達可能な状態となる。また、駆動伝達ギヤ31に代えて、駆動伝達ベルトを張架するプーリ又はカップリング機構などの駆動伝達部材を用いてもよい。
【0046】
定着ベルト20の長手方向の両端には、定着ベルト20及びステー24などを支持する一対の支持部材32が設けられている。各支持部材32には、ガイド溝32aが形成されている。図5に示すように、一対の支持部材32と、定着ベルト20、ステー24、ヒータホルダ23、及びヒータ22を組み付けた状態で、各支持部材32のガイド溝32aを各側壁部28の挿通溝28bの縁に沿わせながら各支持部材32を各側壁部28に組み付けることにより、定着ベルト20、ステー24、ヒータホルダ23及びヒータ22が、各側壁部28に支持される。また、各支持部材32が、後壁部29との間に設けられた付勢部材としての一対のバネ33によって付勢されることにより、定着ベルト20が加圧ローラ21へ加圧され、ニップ部が形成される。
【0047】
また、後壁部29には、画像形成装置本体に対する定着装置本体の位置決めを行う位置決め部としての孔部29bが設けられている。一方、画像形成装置本体には、位置決め部としての突起101(図5参照)が設けられている。この突起101が、定着装置9の孔部29bに対して挿入されることで、突起101と孔部29bが嵌合し、画像形成装置本体に対する定着装置本体の位置決めがなされる。なお、孔部29bが設けられる位置は、後壁部29の長手方向の中央よりもいずれか一方の端寄りの位置であることが好ましい。このような位置に孔部29bが設けられることにより、孔部29bが設けられない端側では、温度変化に伴う長手方向の伸縮が許容され、装置フレーム40の歪を抑制することが可能である。
【0048】
図6は、ヒータ22などを一対の支持部材32によって支持した加熱ユニットの斜視図、図7は、その加熱ユニットの分解斜視図である。
【0049】
図6に示すように、ヒータ22及びヒータホルダ23は、図の左右方向へ長く伸びる長手状の部材である。ヒータ22及びヒータホルダ23は、定着装置に組み込まれた状態で、定着ベルト20の長手方向又は加圧ローラ21の軸方向へ長手状に配置される。また、同様にステー24も、定着ベルト20の長手方向又は加圧ローラ21の軸方向へ長手状に配置される。
【0050】
図6及び図7に示すように、ヒータホルダ23には、ヒータ22を収容するための矩形の収容凹部23aが設けられている。収容凹部23aは、ヒータ22とほぼ同等の形状及びサイズに形成されている。ただし、収容凹部23aの長手方向寸法L2はヒータ22の長手方向寸法L1よりも若干長く設定されている。このため、熱膨張によってヒータ22がその長手方向に伸びても、ヒータ22と収容凹部23aとの干渉を回避できる。
【0051】
一対の支持部材32は、定着ベルト20の内側に挿入されて定着ベルト20を支持するC字状のベルト支持部32bと、定着ベルト20の端面に接触して定着ベルト20の長手方向の移動(片寄り)を規制するフランジ状のベルト規制部32cと、ヒータホルダ23及びステー24の長手方向の両端近傍部分が挿入されてこれらを支持する支持凹部32dと、を有している。定着ベルト20は、その長手方向の両端にベルト支持部32bが挿入されることで、ベルト非回転時において基本的に周方向(ベルト回転方向)の張力が作用しない、いわゆるフリーベルト方式で支持される。
【0052】
また、図6及び図7に示すように、ヒータホルダ23の長手方向の中央よりも一端側には、位置決め部としての位置決め凹部23eが設けられている。この位置決め凹部23eに対して、図6及び図7における左側の支持部材32の嵌合部32eが嵌合することにより、ヒータホルダ23と支持部材32との位置決めがなされる。一方、図6及び図7における右側の支持部材32には、嵌合部32eは設けられておらず、ヒータホルダ23との長手方向の位置決めはされない。このように、支持部材32に対するヒータホルダ23の位置決めをヒータホルダ23の長手方向の片側のみとすることで、温度変化に伴うヒータホルダ23の長手方向の伸縮が許容される。
【0053】
また、図7に示すように、ステー24の長手方向の両端近傍部分には、各支持部材32に対するステー24の移動を規制する段差部24aが設けられている。各段差部24aは支持部材32に突き当たることで支持部材32に対するステー24の長手方向の移動を規制する。ただし、これら段差部24aのうち少なくとも一方は、支持部材32に対して隙間(ガタ)を介して配置される。このように、少なくとも一方の段差部24aが支持部材32に対して隙間を介して配置されることにより、温度変化に伴うステー24の伸縮が許容される。
【0054】
図8は、本実施形態に係るヒータ22の平面図、図9は、その分解斜視図である。
【0055】
図9に示すように、ヒータ22の基材50上には、第1絶縁層51を介して発熱部60を構成する複数の抵抗発熱体59が配置されている。各抵抗発熱体59は、基材50の長手方向Zに渡って一列に並んで配置されている。導体層52は、複数の抵抗発熱体59のほか、複数の電極部61と、複数の給電線(導電部)62と、が設けられている。各抵抗発熱体59は、複数の給電線62を介して複数の電極部61のいずれか2つに電気的に接続されている。図8に示すように、各抵抗発熱体59の全体及び各給電線62の大部分は、第2絶縁層53によって覆われ、絶縁性が確保されている。また、各抵抗発熱体59は、互いに間隔をあけて配列されているため、隣り合う抵抗発熱体59同士の間は絶縁領域(第2絶縁層53)が介在している。一方、各電極部61は、後述のコネクタが接続できるように、第2絶縁層53によってほとんど覆われておらず露出した状態となっている。
【0056】
抵抗発熱体59は、例えば、銀パラジウム(AgPd)及びガラス粉末などを調合したペーストをスクリーン印刷などにより基材50に塗工し、その後、当該基材50を焼成することによって形成することができる。また、抵抗発熱体59の材料として、銀合金(AgPt)又は酸化ルテニウム(RuO)などの抵抗材料を用いてもよい。
【0057】
電極部61及び給電線62は、抵抗発熱体59よりも小さい抵抗値の導体で構成されている。例えば、電極部61及び給電線62は、銀(Ag)又は銀パラジウム(AgPd)などの材料を基材50上にスクリーン印刷することによって形成される。
【0058】
図10は、ヒータ22に給電部材としてのコネクタ70が接続された状態を示す斜視図である。
【0059】
図10に示すように、コネクタ70は、樹脂製のハウジング71と、ハウジング71に設けられた複数のコンタクト端子72と、を有している。各コンタクト端子72は、板バネで構成されている。また、各コンタクト端子72には、給電用のハーネス73が接続されている。
【0060】
図10に示すように、コネクタ70は、ヒータ22及びヒータホルダ23を一緒に挟むようにして取り付けられる。これにより、ヒータ22及びヒータホルダ23は、コネクタ70によって一緒に保持される。また、この状態で、コネクタ70の各コンタクト端子72の先端(接触部72a)が、それぞれ対応する電極部61に弾性的に接触(圧接)することにより、各コンタクト端子72と各電極部61とが電気的に接続される。また同様に、図10に示す電極部61とは反対側の端にある電極部61に対しても、コネクタ70が接続される。これにより、コネクタ70を介して画像形成装置に設けられた電源から発熱部60へ電力が供給可能な状態となる。
【0061】
以下、図11に基づき、本実施形態に係るヒータ22の構成についてさらに詳しく説明する。
【0062】
図11に示すように、本実施形態に係るヒータ22には、7つの抵抗発熱体59A~59Gと、3つの電極部61A~61Cと、これらを接続する4つの給電線62A~62Dと、が設けられている。3つの電極部61A~61Cのうち、2つの電極部61A,61Cは、各抵抗発熱体59A~59Gよりも基材50の長手方向Zの一端側(図11における左側)に配置され、残りの1つの電極部61Bは、各抵抗発熱体59A~59Gよりも基材50の長手方向Zの他端側(図11における右側)に配置されている。各抵抗発熱体59A~59Gは、一端側に配置される2つの電極部61A,61Cのうちのいずれかと、他端側に配置される1つの電極部61Bに対して、電気的に接続されている。
【0063】
詳しくは、7つの抵抗発熱体59A~59Gのうち、両端以外の各抵抗発熱体59B~59Fは、第1給電線62Aを介して第1電極部61Aに並列に接続されると共に、第2給電線62Bを介して第2電極部61Bに並列に接続されている。一方、両端の各抵抗発熱体59A,59Gは、第3給電線62C又は第4給電線62Dを介して第3電極部61Cに並列に接続されると共に、第2給電線62Bを介して第2電極部61Bに並列に接続されている。
【0064】
このような接続構造とすることで、本実施形態では、両端以外の各抵抗発熱体59B~59Fで構成される第1発熱部60Aと、両端の各抵抗発熱体59A,59Gで構成される第2発熱部60Bとを、互いに独立して発熱制御することが可能である。具体的に、第1電極部61A及び第2電極部61Bに電圧を印加して両電極部61A,61B間に電位差を生じさせた場合は、両端以外の各抵抗発熱体59B~59Fが通電し、第1発熱部60Aのみが発熱する。一方、第3電極部61C及び第2電極部61Bに電圧を印加して両電極部61C,61B間に電位差を生じさせた場合は、両端の各抵抗発熱体59A,59Gが通電するため、第2の発熱部60Bのみが発熱する。また、全ての電極部61A~61Cに電圧を印加して第1電極部61Aと第2電極部61の間及び第3電極部61Cと第2電極部61Bの間でそれぞれ電位差を生じさせた場合は、全ての抵抗発熱体59A~59Gが通電するため、第1の発熱部60A及び第2の発熱部60Bの両方が発熱する。例えば、A4サイズ(通紙幅:210mm)以下の比較的小さい幅サイズの用紙を通紙する場合は、第1の発熱部60Aのみを発熱させ、A3サイズ(通紙幅:297mm)以上の比較的大きい幅サイズの用紙を通紙する場合は、第1の発熱部60Aに加え第2の発熱部60Bも発熱させることで、用紙幅に応じた発熱領域とすることが可能である。
【0065】
ここで、本実施形態に係るヒータ22に生じる温度のばらつき(温度分布偏差)について説明する。
【0066】
一般的に、上記のような抵抗発熱体が給電線を介して電極部に接続されたヒータにおいては、抵抗発熱体を発熱させる際、給電線への通電により給電線でもわずかながら発熱が生じる。従って、給電線の発熱分布によっては、ヒータの温度分布にばらつきが生じる虞がある。特に、画像形成装置の高速化に伴い、発熱量を増大させるべく発熱体へ流れる電流を大きくすると、給電線で生じる発熱量も大きくなるため、その影響を無視できなくなる。
【0067】
図12では、全ての抵抗発熱体59A~59Gに対して電流が20%ずつ流れた場合に、抵抗発熱体59A~59Gごとに区画された各ブロック内で発生する各給電線62A,62B,62Dの発熱量とその合計値を示す。ここで、基材50の抵抗発熱体59が設けられている面に沿って長手方向Zと交差する方向Y(図11参照)を、基材50の「短手方向」と称すると、本実施形態では、各給電線62A,62B,62Dの短手方向Yに伸びる部分は短く、その部分における発熱量はわずかであることから無視し、長手方向Zに伸びる部分で発生する発熱量のみを算出している。また、発熱量(W)は下記式(1)で表されることから、図12の表に示す発熱量は、便宜的に各給電線に流れる電流(I)の二乗として算出している。よって、算出された発熱量の数値は、あくまで簡易的に算出された値であり、実際の発熱量とは異なるものである。
【0068】
【数1】
【0069】
発熱量の算出方法について、図12における第1ブロック及び第2ブロックを例に説明すると、第1ブロックにおいては、第1給電線62Aに流れる電流が100%、第4給電線62Dに流れる電流が20%であるので、それぞれの二乗の合計値である10400(10000+400)が第1ブロックにおける給電線の合計発熱量となる。また、第2ブロックにおいては、第1給電線62Aに流れる電流が80%、第2給電線62Bに流れる電流が20%、第4給電線62Dに流れる電流が20%であるので、これらの二乗の合計値である7200(6400+400+400)が第2ブロックにおける給電線の合計発熱量となる。また、他のブロックにおいても、同様にして発熱量を算出している。
【0070】
そして、各ブロックの合計発熱量を縦軸に表したものが、図12中のグラフである。このグラフを見てわかるように、各給電線の合計発熱量は、両端側のブロックで大きく、反対に中央側のブロックでは低くなる。また、中央に対して対称のブロック同士(例えば、第1ブロックと第7ブロック)における各給電線の合計発熱量も異なっている。このように、給電線の発熱分布には基材の長手方向Zに渡ってばらつきがあるため、このばらつきによってヒータの発熱分布にもばらつきが発生する。
【0071】
また、このような給電線の発熱に起因する温度のばらつきは、全ての抵抗発熱体を発熱させる場合(図12に示す例)だけに限らず、一部の抵抗発熱体を発熱させる場合でも発生し得る。特に、ヒータの小型化又は画像形成装置の高速化に伴って、給電線に意図しない分流が生じた場合は、温度のばらつきが顕著となる虞がある。また、意図しない分流は、ヒータを短手方向に小型化すべく、給電線の幅をヒータの短手方向に小さくした結果、給電線の抵抗値が大きくなった場合、あるいは画像形成装置を高速化するため、抵抗発熱体の発熱量を増加させるべく、抵抗発熱体の抵抗値を小さくした場合に、発生しやすくなる。すなわち、小型化又は高速化に伴って給電線の抵抗値と抵抗発熱体の抵抗値とが相対的に接近した場合は、これまで通電しなかった経路にも通電し得る(意図しない分流が発生し得る)状態となる。
【0072】
例えば、図13に示すように、両端以外の各抵抗発熱体59B~59F(第1発熱部60A)のみに通電した場合に、図の左から2番目の抵抗発熱体59Bを通過した電流の一部が、その先の第2給電線62Bの分岐部Xにて第2電極部61B側とは反対側(図の左側)にも流れる意図しない分流が発生することがある。分流した電流は、図13における左端の抵抗発熱体59Aを通過し、さらに、第3給電線62C、第3電極部61C、第4給電線62Dを介して右端の抵抗発熱体59Gを通過した後、第2給電線62Bに合流する。
【0073】
このように、意図しない分流は、分岐部Xから図13中の一点鎖線K3で示す分岐経路を通って第2給電線62Bに至る。また、このような意図しない分流は、本実施形態に係るヒータ22のような、導電経路が、両端以外の各抵抗発熱体59B~59F(第1発熱部60A)と第1電極部61Aとを接続する第1導電経路(第1導電部)K1と、両端以外の各抵抗発熱体59B~59Fからヒータ22の長手方向のうちの第1方向S1側(図13における右方向)に伸びて第2電極部61Bに接続される第2導電経路(第2導電部)K2と、第2導電経路K2から分岐し、第1方向S1とは反対の第2方向S2側(図13における左方向)に伸びて第1導電経路K1を介さずに第2導電経路K2又は第2電極部61Bに接続される第3導電経路(分岐経路)K3と、を少なくとも有する構成であれば生じ得る。また、本実施形態では、第3導電経路(分岐経路)K3が、第2給電線62Bの一部(分岐部Xから図13における左側の部分)と、第3給電線62Cと、第4給電線62Dとから成る第3導電部のほか、両端の各抵抗発熱体59A,59G(第2発熱部60B)と、第3電極部61Cと、を含む導電経路で構成されている。なお、第3導電経路K3は、抵抗発熱体及び電極部を含まない給電線のみの導電経路であってもよい。そのような場合も、意図しない分流は生じる可能性がある。
【0074】
図13中の表及びグラフに、意図しない分流が発生した場合のブロックごとの各給電線62A,62B,62Dで生じる発熱量及びその合計値を示す。この例では、両端以外の各抵抗発熱体59B~59Fへ電流が20%ずつ均等に流れた場合に、そのうちの一部の電流が分岐部Xにおいて5%分流したとして、発熱させるブロック(第2ブロック~第6ブロック)ごとの各給電線62A,62B,62Dの発熱量を算出している。なお、発熱量の算出方法は、図12に示す例で説明した方法と同様である。また、図12及び図13では、電流が一方向に流れる様子を示しているが、ヒータ22に流れる電流は直流に限らず交流であってもよい。
【0075】
図13中の表及びグラフに示すように、この場合も、給電線の合計発熱量は、両端側のブロックで大きく、反対に中央側のブロックでは低くなり、ばらつきが発生する。ただし、図13の場合は、図12とは反対に、グラフの右側のブロックよりも左側のブロックの温度が高くなる。
【0076】
以上のように、本実施形態に係る定着装置においては、ブロックごとの給電線の発熱量のばらつきに起因して、ヒータの温度分布も長手方向に渡ってばらつきが発生する。また、このようなヒータにおける温度分布のばらつきの影響は、定着装置に留まらず、画像形成装置内に搭載される他の装置にも影響を与える。従って、上述の潤滑剤を供給する保護剤供給装置7にもヒータの温度分布の影響が及び、これにより潤滑剤の供給量にばらつきが発生する虞がある。
【0077】
一般的に、潤滑剤供給量は、潤滑剤に対する潤滑剤供給部材(例えば、図2に示すブラシローラ81)の摩擦力に応じて変化するため、潤滑剤供給部材の回転速度又は材質が潤滑剤供給量を特定する設計時のパラメータとなる。しかしながら、潤滑剤供給部材の硬度はその温度に応じて変化するため、潤滑剤供給部材の温度が変化すると潤滑剤供給量も変動する。すなわち、潤滑剤供給部材の温度が高いほど、潤滑剤供給部材が柔らかくなるため、潤滑剤供給量は低下する傾向にある。
【0078】
このため、潤滑剤供給部材が上記のようなヒータの温度分布のばらつきの影響を受けて、温度の高い部分と温度の低い部分とが生じると、これに伴って潤滑剤供給量にもばらつきが発生する。例えば、図14に示す例のように、ヒータ22の温度が、複数の抵抗発熱体59A~59Gが配列された発熱領域Hにおける長手方向Zの一端e1側(第1ブロック側)よりも他端e2側(第7ブロック側)で高くなる場合は、これに応じてブラシローラ81の温度も、一端e1側よりも他端側e2側で高くなるため、他端e2側に対応する部分で潤滑剤供給量が少なくなる。その結果、ブラシローラ81の温度偏差によって片側(温度が高い側)における潤滑剤供給量が必要量を下回ると、異常画像の発生原因となる、いわゆるフィルミングと称される現象が発生し、感光体のクリーニング性が低下する虞がある。
【0079】
このように、潤滑剤供給量(潤滑剤消費量)と画像形成装置内の温度(特にブラシローラ81の温度)との間には相関関係があり、温度の高い箇所では潤滑剤供給量が低下する傾向にある。ただし、潤滑剤供給量に影響を与える要素は、上述の画像形成装置内の温度及びブラシローラ81の摩擦力のほか、潤滑剤80をブラシローラ81に向かって付勢するバネ82(図2参照)の付勢力もある。すなわち、バネ82の付勢力が大きいほど、ブラシローラ81に対して潤滑剤80が強く押し付けられるため、潤滑剤80がブラシローラ81によって掻き取られやすくなり、潤滑剤80の消費量(供給量)は多くなる。このように、潤滑剤供給量は、画像形成装置内の温度又はバネの付勢力と相関関係があるため、画像形成装置内の温度に基づいてバネの付勢力を設定することにより、潤滑剤供給量を調整することが可能である。
【0080】
そこで、本実施形態に係る画像形成装置においては、上記のような潤滑剤供給量のばらつきを抑制するため、潤滑剤を付勢するバネの付勢力を以下のように設定している。
【0081】
図15は、本実施形態に係る保護剤供給装置7の構成を示す図である。
【0082】
図15に示すように、本実施形態に係る保護剤供給装置7は、潤滑剤80をブラシローラ81に向かって付勢する潤滑剤付勢部材として、一対のバネ82A,82Bを備えている。一対のバネ82A,82Bは、潤滑剤80の長手方向中央mを基準に一端80a側と他端80b側との互いに対称な位置に配置されている。
【0083】
本実施形態に係る保護剤供給装置7においては、潤滑剤供給量のばらつきを抑制するため、ブラシローラ81の温度分布に応じて、潤滑剤80の一端80a側のバネ82Aと他端80b側のバネ82Bとで付勢力を異ならせている。すなわち、図15に示すように、ブラシローラ81の温度が相対的に高い他端80b側のバネ82Bの付勢力F2を、ブラシローラ81の温度が相対的に低い一端80a側のバネ82Aの付勢力F1よりも大きくしている(F1<F2)。各バネ82A,82Bの付勢力を互いに異ならせる方法としては、例えば、反発力の異なる種類のバネを用いてもよいし、バネの圧縮量を異ならせてもよい。
【0084】
このように、本実施形態に係る保護剤供給装置7においては、ヒータ22の温度分布の影響を受けてブラシローラ81の温度が高くなる側に配置されるバネ82Bの付勢力F2を、温度の低い側に配置されるバネ82Aの付勢力F1よりも大きくしている。これにより、温度が相対的に高く、潤滑剤供給量が低下する傾向にある側で、大きな付勢力F2によって潤滑剤80がブラシローラ81に押し付けられるため、潤滑剤供給量を増やすことができる。その結果、潤滑剤80の長手方向における一端80a側と他端80b側で潤滑剤供給量のばらつきが抑制され、感光体のクリーニング性を向上させることが可能となる。
【0085】
ここで、本実施形態では、上述の図12に示す例の場合(全ての抵抗発熱体59A~59Gを発熱させた場合)と、図13に示す例の場合(両端以外の抵抗発熱体59B~59Fを発熱させた場合)とでは、ヒータ22の温度が高くなる側が発熱領域の長手方向中央(第4ブロック)を基準に互いに反対側となる。このため、それぞれの場合において、ブラシローラ81の温度が高くなる側も互いに反対側となり、これに伴う潤滑剤供給量のばらつきも長手方向で反対側となる。しかしながら、本実施形態に係るヒータ22においては、図12に示す例の場合の方が、図13に示す例の場合よりも、温度分布のばらつきが顕著となるため、図15に示す本実施形態では、図12に示す例の場合の発熱分布に対応させてバネの付勢力を決定している。これにより、温度分布のばらつきが顕著となる場合の潤滑剤供給量のばらつきを効果的に抑制することができ、感光体のクリーニング性を向上させることが可能となる。
【0086】
ブラシローラ81のうち、どちらの端部側の温度が高くなるかの確認は、ブラシローラ81の温度を実際に測定するほか、ヒータ22の温度を測定することにより代用できる。従って、図14に示す例のヒータ22において、発熱領域Hにおける長手方向中央c(第4ブロック)を基準に互いに対称な一方の位置と他方の位置で温度を測定し、一方の位置(図の左側)よりも他方の位置(図の右側)で温度が高い場合は、これに倣って、潤滑剤80を付勢するバネ82の付勢力を前記一方の位置側よりも前記他方の位置側で大きくすればよい。なお、ヒータ22上の温度測定対象となる位置は、発熱領域Hの長手方向中央cを基準に互いに対称な位置であれば、発熱領域Hの長手方向両端e1,e2の各位置、あるいは長手方向両端e1,e2と長手方向中央cとの間の各中間位置など、任意の位置を選択可能である。
【0087】
また、上述の式(1)に示すように、ヒータ22の温度(発熱量)は、発熱領域Hにおいて流れる電流の二乗の合計値を用いて表すことができる。従って、ヒータ22の発熱領域Hの長手方向中央cを基準に互いに対称な位置の電流を測定し、測定されたそれぞれの電流の二乗の合計値を比較することにより、ブラシローラ81の温度が高くなる側を決定してもよい。すなわち、電流の二乗の合計値が、互いに対称な一方の位置よりも他方の位置で大きい場合は、これに倣って、潤滑剤80を付勢するバネ82の付勢力を前記一方の位置側よりも前記他方の位置側で大きくすればよい。なお、ヒータ22の電流を測定する互いに対称な位置も、上記温度を測定する場合と同様、任意の位置を選択可能である。
【0088】
次に、図16に、本発明の他の実施形態に係る保護剤供給装置7の構成を示す。
【0089】
図16に示す保護剤供給装置7は、潤滑剤80をブラシローラ81に向かって押圧する一対の押圧部材86A,86Bを備えている。一対の押圧部材86A,86Bは、潤滑剤80の長手方向中央mを基準に一端80a側と他端80b側にそれぞれ配置されている。また、各押圧部材86A,86Bは、潤滑剤ホルダ85に設けられた支軸87を中心に回動可能に構成されている。潤滑剤80を付勢する各バネ82A,82Bは、潤滑剤ホルダ85に設けられた固定部88と各押圧部材86A,86Bとの間で張架され、各押圧部材86A,86Bに引張力を作用している。これにより、各押圧部材86A,86Bによって潤滑剤ホルダ85が図16の上方へ押し上げられ、潤滑剤80がブラシローラ81に対して押圧される。
【0090】
本実施形態では、上述の潤滑剤供給量のばらつきを改善するため、各バネ82A,82Bの引張度合いを異ならせている。すなわち、各バネ82A,82Bの引張度合いを異ならせ、ブラシローラ81の温度が高い側に対応して配置されるバネ82Bの付勢力F2を、温度が低い側に対応して配置されるバネ82Aの付勢力F1よりも大きくしている。これにより、上述の実施形態と同様、潤滑剤供給量のばらつきを抑制することができ、感光体のクリーニング性を向上させることが可能である。また、本実施形態においても、ブラシローラ81のどちらの端側の温度が高くなるかについては、上述の実施形態と同様、ブラシローラ81の温度を実際に測定するほか、ヒータ22の温度(発熱量)、又はヒータ22に流れる電流の二乗の合計値に基づいて決定すればよい。
【0091】
図17は、フィルミング抑制効果を調べた試験結果を示す図である。
【0092】
本試験では、本発明の実施例1~3に係る保護剤供給装置と、比較例に係る保護剤供給装置とを用いて、それぞれの場合における感光体上のフィルミング抑制レベルを調べた。図17に示すグラフにおいて、縦軸はフィルミング抑制レベルを示しており、数値が高いほどフィルミング抑制効果が高い。横軸は上述のヒータの各抵抗発熱体(各ブロック1~7)に対応する位置を示す。また、図17において、一点鎖線が実施例1、二点鎖線が実施例2、実線が実施例3、点線が比較例の試験結果である。
【0093】
本発明の実施例1~3では、ブラシローラの温度が高くなる側でのバネ(潤滑剤付勢部材)の付勢力を相対的に大きくし、さらに、各実施例における付勢力の左右偏差を、実施例1よりも実施例2において大きくし、実施例2よりも実施例3において大きくしている。一方、比較例では、バネの付勢力を潤滑剤の一端側と他端側で同じにし、左右偏差が無いようにしている。
【0094】
図17に示すように、本試験結果によれば、本発明の実施例1~3は、いずれも比較例に比べてフィルミング抑制効果が高い結果となった。さらに、本発明の実施例1~3の中で比較すると、付勢力の左右偏差がより大きい実施例ほど高いフィルミング抑制効果が得られた。すなわち、ブラシローラの温度が高くなる側でバネ(潤滑剤付勢部材)の付勢力をより大きくするほど、潤滑剤供給量のばらつきを効果的に抑制でき、ひいては感光体のクリーニング性を向上させることができることを確認できた。
【0095】
以上のように、本発明によれば、加熱部材の温度分布にばらつきがある画像形成装置においても、像担持体保護剤の供給量のばらつきを抑制することができ、像担持体に対する像担持体保護剤の供給ムラ又は供給不足による異常画像の発生を抑制できるようになる。
【0096】
また、潤滑剤に含まれる脂肪酸金属塩としてステアリン酸亜鉛を用いた場合、あるいは潤滑剤に含まれる無機潤滑剤として窒化ホウ素を用いた場合は、感光体に対する潤滑剤供給量を経時的に安定確保することができるようになるので、感光体の磨耗による劣化又はフィルミングなどの抑制に効果的である。また、このような潤滑剤を用いた場合は、潤滑剤の長寿命化も図れるようになる。
【0097】
また、本発明は、図18に示すような、感光体2を回転駆動させる駆動装置700が、ヒータ22の発熱領域Hにおける長手方向中央cを基準として片側(図の右側)に配置される構成にも好適である。この構成においては、駆動装置700がヒータ22の発熱量が高くなる側(第7ブロック側)に配置されているため、ヒータ22の熱と駆動装置700の駆動に伴って生じる熱とが相まって、ブラシローラ81の軸方向の片側(図の右側)において温度がより一層高くなる。そのため、このような駆動装置700が片側に配置された構成においては、駆動装置700側に配置されるバネ82Bの付勢力F2を大きくすることが好ましい。これにより、潤滑剤供給量のばらつきを効果的に抑制することが可能となる。
【0098】
また、本発明によれば、加熱部材の温度分布のばらつきに起因する像担持体保護剤の供給ムラの課題を改善できるため、温度分布のばらつきが発生しやすい小型のヒータ、あるいは高速化のために発熱量を増大させたヒータを用いた構成にも対応できるようになる。
【0099】
ところで、ヒータをその短手方向に小さくする方法として、次の3つの方法が挙げられる。
【0100】
1つ目の方法は、発熱部(抵抗発熱体)を短手方向に小さくする方法である。しかしながら、この方法では、発熱部が短手方向に小さくなる結果、定着ベルトが加熱される加熱領域の幅が小さくなる。このため、定着ベルトに与える熱量をこれまでと同じ程度に確保しようとした場合に、昇温ピーク値が高くなるといった問題が生じる。昇温ピーク値が高くなると、ヒータの裏面に設けられているサーモスタット又はヒューズなどの過昇温検知装置の温度が耐熱温度を超えたり、過昇温検知装置が誤作動したりする虞がある。また、昇温ピーク値が高くなると、ヒータから定着ベルトへの伝熱効率も低下するため、エネルギー効率の観点からも好ましくない。このように、発熱部を短手方向に小さくする方法は採用し難い事情がある。
【0101】
2つ目の方法としては、発熱部と、電極部と、給電線のいずれも設けられていない部分を短手方向に小さくする方法がある。しかしながら、この方法では、発熱部と給電線との間又は電極部と給電線との間の間隔が小さくなるため、絶縁性の確保ができなくなる虞がある。現状のヒータの構造から鑑みれば、発熱部と給電線との間又は電極部と給電線との間の間隔をさらに小さくすることは厳しい状況にある。
【0102】
残る3つ目の方法としては、給電線を短手方向に小さくする方法である。この方法は、上記2つの方法に比べて実現の余地がある。しかしながら、給電線を短手方向に小さくすると、給電線の抵抗値が大きくなるため、ヒータの導電経路上で意図しない分流が発生し、温度分布のばらつきが顕著になる虞がある。特に、画像形成装置の高速化に対応すべく発熱部の発熱量を増大させるために、発熱部の抵抗値を小さくすると、給電線の抵抗値と発熱部の抵抗値が相対的に近づくため、意図しない分流が発生しやすくなる。また、このような意図しない分流を回避する方法として、給電線を短手方向に小さくした分、反対に厚さ方向(長手方向及び短手方向に交差する方向)に大きくすることで、断面積を確保し、給電線の抵抗値が大きくなるのを抑制することも考えられる。しかしながら、その場合、給電線をスクリーン印刷することが困難になり、給電線の形成方法の変更を強いられることになるため、給電線を厚くする解決策は採用し難い。従って、ヒータの短手方向の小型化を実現するには、抵抗値が上昇するのを見越したうえで給電線を短手方向に小さくし、これに伴って発生し得る意図しない分流及び発熱分布のばらつきに対しては別途対策を講じる必要がある。そのため、本発明においては、上述のように、潤滑剤を付勢するバネの付勢力を互いに対称な位置の一方よりも他方において大きくすることにより、温度分布のばらつきに起因する潤滑剤の供給ムラを抑制し、小型化又は高速度化に対応できるようにしている。
【0103】
具体的に、本発明は、次のような小型のヒータを備える画像形成装置に適用された場合に特に大きな効果が期待できる。
【0104】
下記表1に、ヒータを短手方向に小型化した場合の発熱分布のばらつきを示す。表1に示す結果を得るための試験では、図19に示す基材50の短手方向寸法Qに対する各抵抗発熱体59A~59Gの短手方向寸法Rの比(R/Q)を異ならせた場合の、各ヒータの発熱領域の長手方向中央と端の温度差を測定した。また、各ヒータの表面温度測定は、フリアシステムズ社製の赤外線サーモグラフィ(FLIR T620)を用いて行った。なお、短手方向寸法比(R/Q)が80%以上である場合は、基材50の短手方向寸法に対する各抵抗発熱体59A~59Gの短手方向寸法の割合が大きくなり過ぎ、給電線の設置スペースを確保することが現実的に困難であるため、測定を保留している。
【0105】
【表1】
【0106】
表1に示すように、短手方向寸法比(R/Q)が大きくなるほど、発熱領域の長手方向中央と端の温度差が大きくなる。このため、短手方向寸法比(R/Q)が大きいヒータ、すなわち短手方向に小型化されたヒータにおいては、長手方向両端における温度のばらつきも顕著となる虞がある。特に、短手方向寸法比(R/Q)が25%以上又は40%以上となるヒータにおいては、発熱領域における長手方向中央と端の温度差が大きくなる(5℃以上になる)ため、長手方向両端における温度のばらつきも顕著となる虞がある。従って、本発明は、特にこのような短手方向寸法比(R/Q)が25%以上80%未満又は40%以上80%未満となるヒータを備える画像形成装置に適用された場合に、大きな効果を期待できる。
【0107】
また、定着装置が備えるヒータは、図19に示すようなブロック状(四角形状)の抵抗発熱体59A~59Gを有するヒータ22に限らず、図20に示すような、直線を折り返したような形状の抵抗発熱体59A~59Gを有するヒータ22であってもよい。なお、図20に示すヒータ22の場合、上記抵抗発熱体59A~59Gの短手方向寸法Rは、折り返されるように形成された抵抗発熱体の1つの線状の部分の太さではなく、抵抗発熱体全体の短手方向寸法を意味する。また、図19又は図20に示す例では、ヒータ22の基材50が長方形に形成されているため、基材50の短手方向寸法Qは、長手方向Zにおけるどの位置でも同じ寸法であるが、基材50は、長手方向Zの位置によって短手方向寸法Qが変化する形状であってもよい。ただし、その場合は、各抵抗発熱体59A~59Gが配置されている長手方向範囲内(発熱領域内)の基材50の最小の短手方向寸法を、上記基材50の短手方向寸法Qとする。
【0108】
さらに、定着装置が備えるヒータは、図21に示すような1つの抵抗発熱体59が基材50の長手方向Zに伸びるように配置されたものであってもよい。この例では、抵抗発熱体59の上下2辺のうち、一辺(図21における上側の辺)が第1給電線62Aを介して第1電極部61Aに接続され、他の辺(図21における下側の辺)が第2給電線62Bを介して第2電極部61Bに接続されている。また、各電極部61A,61Bは、いずれも基材50の長手方向Zの中央よりも一端側(同じ端側)に配置され、各給電線62A,62Bは基材50の長手方向Zに渡って反対方向に折り返されることなく配置されている。
【0109】
このようなヒータ22において、各電極部61A,61B間に電位差を生じさせ抵抗発熱体59を発熱させた場合、温度分布のばらつきが発生する。例えば、図21に示す発熱領域Hの長手方向中央cとそれよりも両端e1,e2側の任意の対称位置α1,α2の各位置で、各給電線62A,62Bで流れる電流を、90%、50%、10%とすると、各給電線62A,62Bにおいて生じる発熱量は、図21中の表に示すような値となる。なお、この場合も、発熱量は、便宜的に各給電線に流れる電流の二乗(I)として算出している。
【0110】
図21中の表に示すように、各給電線62A,62Bの合計発熱量は、長手方向の一端e1側(図の右端側)よりも他端e2側(図の左端側)で高くなるので、上記のようなヒータの温度分布のばらつきに起因する像担持体保護剤の供給ムラの課題が発生し得る。そのため、このようなヒータを備える定着装置においても上述の各実施形態に係る構成を適用することにより、潤滑剤の供給ムラを抑制することが可能となる。
【0111】
また、ヒータにおける温度のばらつきを抑制するために、PTC特性を有する抵抗発熱体を用いてもよい。PTC特性とは、温度が高くなると抵抗値が高くなる(一定電圧をかけた場合に、ヒータ出力が下がる)特性である。PTC特性を有する発熱部とすることで、低温では高出力によって高速で立ち上がり、高温では低出力により過昇温を抑制することができる。例えば、PTC特性のTCR係数を300~4000ppm/℃程度にすれば、ヒータに必要な抵抗値を確保しながら、低コスト化を図れる。より好ましくは、TCR係数を500~2000ppm/℃とするのがよい。
【0112】
抵抗温度係数(TCR)は、下記式(2)を用いて算出することができる。式(2)中のT0は基準温度、T1は任意温度、R0は基準温度T0における抵抗値、R1は任意温度T1における抵抗値である。例えば、図11に示す上述のヒータ22において、第1電極部61Aと第2電極部61Bとの間の抵抗値が、25℃(基準温度T0)で10Ω(抵抗値R0)であり、また、125℃(任意温度T1)で12Ω(抵抗値R1)であるとすると、式(2)から抵抗温度係数は2000ppm/℃となる。
【0113】
【数2】
【0114】
また、画像形成装置が備える定着装置は、上述の定着装置に限らず、図22図24に示すような定着装置であってもよい。以下、図22図24に示す各定着装置の構成について簡単に説明する。
【0115】
図22に示す定着装置9は、定着ベルト20の加圧ローラ21側とは反対側に、押圧ローラ90が配置されている点において、上述の定着装置とは異なっている。この場合、押圧ローラ90とヒータ22とによって定着ベルト20を挟んで加熱するように構成されている。一方、加圧ローラ21側では、定着ベルト20の内周にニップ形成部材91が配置されている。ニップ形成部材91は、ステー24によって支持されており、ニップ形成部材91と加圧ローラ21とによって定着ベルト20を挟んでニップ部Nを形成している。
【0116】
次に、図23に示す定着装置9では、上述の押圧ローラ90が省略されており、定着ベルト20とヒータ22との周方向接触長さを確保するために、ヒータ22が定着ベルト20の曲率に合わせて円弧状に形成されている。その他は、図22に示す定着装置9と同じ構成である。
【0117】
続いて、図24に示す定着装置9では、定着ベルト20のほかに加圧ベルト92が設けられ、加熱ニップ(第1ニップ部)N1と定着ニップ(第2ニップ部)N2とが分けて構成されている。すなわち、加圧ローラ21に対して定着ベルト20側とは反対側にも、ニップ形成部材91とステー93が配置され、ニップ形成部材91とステー93を内包するように加圧ベルト92が配置されている。その他は、図3に示す定着装置9と同じ構成である。
【0118】
このような、図22図24に示すような定着装置を備える画像形成装置においても、本発明を適用することにより、像担持体保護剤の供給ムラを抑制できるようになり、画質の向上を図って小型化又は高速度化に対応できるようになる。
【0119】
また、上述の各実施形態では、加熱装置の一例である定着装置を備える画像形成装置に本発明を適用した場合を例に説明したが、本発明は、これに限らず、定着以外の目的で用紙などのシートを加熱する加熱装置が搭載された画像形成装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0120】
7 保護剤供給装置
9 定着装置(加熱装置)
22 ヒータ(加熱部材)
59 抵抗発熱体(発熱体)
60 発熱部
61 電極部
62 給電線(導電部)
80 潤滑剤(像担持体保護剤)
81 ブラシローラ(保護剤供給部材)
82 バネ(保護剤付勢部材)
100 画像形成装置
c 発熱領域の長手方向中央
H 発熱領域
K1 第1導電経路
K2 第2導電経路
K3 第3導電経路(分岐経路)
P 用紙(記録媒体)
S1 第1方向
S2 第2方向
Y ヒータ(基材)の短手方向
Z ヒータ(基材)の長手方向
【先行技術文献】
【特許文献】
【0121】
【文献】特開2016-62024号公
図1
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図5
図6
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