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特許7563081粘着剤層付き偏光フィルム、粘着シート、積層部材及び画像表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】粘着剤層付き偏光フィルム、粘着シート、積層部材及び画像表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20241001BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20241001BHJP
   C08F 265/06 20060101ALI20241001BHJP
   C08F 2/50 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
G02B5/30
G09F9/30 349E
C08F265/06
C08F2/50
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2020163236
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2021056510
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2019181625
(32)【優先日】2019-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】多田 博信
(72)【発明者】
【氏名】井田 和孝
【審査官】辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-109102(JP,A)
【文献】特開2007-279234(JP,A)
【文献】特表2013-522393(JP,A)
【文献】国際公開第2018/101252(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/031426(WO,A1)
【文献】特許第6538252(JP,B1)
【文献】特開2007-156066(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107903355(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102212317(CN,A)
【文献】国際公開第2008/038956(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/026762(WO,A1)
【文献】特開2018-203993(JP,A)
【文献】特開2018-024785(JP,A)
【文献】特開2012-159850(JP,A)
【文献】Agnieszka KOWALCZYK et al.,“Influence of a phosphorus-based methacrylate monomer on features of thermally curable self-adhesive structural tapes”,International Journal of Adhesion and Adhesives,2018年10月,Vol. 85,p.286-292,DOI: 10.1016/j.ijadhadh.2018.07.002
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G09F 9/30
C08F 265/06
C08F 2/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光フィルムと、前記偏光フィルムの少なくとも一方の面に粘着剤層とを有する粘着剤層付き偏光フィルムであって、
前記粘着剤層は、分子内水素引き抜き型開始剤(A)、及び、炭素-炭素二重結合を有するラジカル重合性官能基及びラジカル発生基を分子内に有する化合物(C)を含む粘着剤組成物から形成され、前記分子内水素引き抜き型開始剤(A)と前記化合物(C)との配合比率〔(A)/(C)〕は質量基準で85/15~60/40であり、
前記偏光フィルムは、分子間水素引き抜き型開始剤を含む粘着剤組成物から形成された粘着剤層を貼着し、25℃、90%RHで2日間静置した後に測定される、波長300~400nmにおける偏光子の吸光度が3.5以上である、
粘着剤層付き偏光フィルム。
【請求項2】
前記粘着剤組成物が、ベースポリマー(b1)、ベースポリマーを構成するモノマー成分の混合物(b2)及びその部分重合物(b3)からなる群から選ばれる少なくとも一種の粘着剤成分(B)を更に含む、請求項1に記載の粘着剤層付き偏光フィルム。
【請求項3】
前記炭素-炭素二重結合を有するラジカル重合性官能基及びラジカル発生基を分子内に有する化合物(C)が、(メタ)アクリロイル基と、ベンゾフェノン構造、ベンジル構造、o-ベンゾイル安息香酸エステル構造、チオキサントン構造、3-ケトクマリン構造、2-エチルアントラキノン構造及びカンファキノン構造からなる群から選ばれる少なくとも1つの構造と、を有する、請求項1又は2に記載の粘着剤層付き偏光フィルム。
【請求項4】
前記分子内水素引き抜き型開始剤(A)が、ベンゾイルギ酸メチル系光重合開始剤及びオキシフェニル系光重合開始剤の少なくとも一方である、請求項1~のいずれか一項に記載の粘着剤層付き偏光フィルム。
【請求項5】
前記ベンゾイルギ酸メチル系光重合開始剤が、フェニルグリオキシル酸メチルである、請求項に記載の粘着剤層付き偏光フィルム。
【請求項6】
前記粘着剤組成物が、前記化合物(C)以外の架橋剤を更に含む、請求項1~のいずれか一項に記載の粘着剤層付き偏光フィルム。
【請求項7】
前記化合物(C)以外の架橋剤が、(メタ)アクリロイル基を2個以上有する多官能(メタ)アクリレートである、請求項に記載の粘着剤層付き偏光フィルム。
【請求項8】
前記分子内水素引き抜き型開始剤(A)が、前記粘着剤成分(B)100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下の範囲で含有される、請求項2に記載の粘着剤層付き偏光フィルム。
【請求項9】
前記粘着剤層が、光硬化性層である、請求項1~のいずれか一項に記載の粘着剤層付き偏光フィルム。
【請求項10】
分子内水素引き抜き型開始剤(A)と、炭素-炭素二重結合を有するラジカル重合性官能基及びラジカル発生基を分子内に有する化合物(C)と、を含む粘着剤組成物から形成される粘着剤層を有前記分子内水素引き抜き型開始剤(A)と前記化合物(C)との配合比率〔(A)/(C)〕は質量基準で85/15~60/40である、粘着シート。
【請求項11】
前記粘着剤組成物が、ベースポリマー(b1)、ベースポリマーを構成するモノマー成分の混合物(b2)及びその部分重合物(b3)からなる群から選ばれる少なくとも一種の粘着剤成分(B)を更に含む、請求項10に記載の粘着シート。
【請求項12】
前記炭素-炭素二重結合を有するラジカル重合性官能基及びラジカル発生基を分子内に有する化合物(C)が、(メタ)アクリロイル基と、ベンゾフェノン構造、ベンジル構造、o-ベンゾイル安息香酸エステル構造、チオキサントン構造、3-ケトクマリン構造、2-エチルアントラキノン構造及びカンファキノン構造からなる群から選ばれる少なくとも1つの構造と、を有する、請求項10又は11に記載の粘着シート。
【請求項13】
前記分子内水素引き抜き型開始剤(A)が、ベンゾイルギ酸メチル系光重合開始剤及びオキシフェニル系光重合開始剤の少なくとも一方である、請求項1012のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項14】
前記ベンゾイルギ酸メチル系光重合開始剤が、フェニルグリオキシル酸メチルである、請求項13に記載の粘着シート。
【請求項15】
前記粘着剤組成物が、前記化合物(C)以外の架橋剤を更に含む、請求項1014のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項16】
前記化合物(C)以外の架橋剤が、(メタ)アクリロイル基を2個以上有する多官能(メタ)アクリレートである、請求項15に記載の粘着シート。
【請求項17】
前記粘着剤層が、光硬化性層である、請求項1016のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項18】
前記分子内水素引き抜き型開始剤(A)が、粘着剤成分(B)100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下の範囲で含有される、請求項11に記載の粘着シート。
【請求項19】
前記粘着シートの厚みが10μm以上500μm以下である、請求項1018のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項20】
請求項1019のいずれか一項に記載の粘着シートを画像表示装置構成部材と貼り合わせた構成を有する積層部材。
【請求項21】
前記画像表示装置構成部材が偏光フィルムである、請求項20に記載の積層部材。
【請求項22】
請求項20又は21に記載の積層部材を備えた画像表示装置。
【請求項23】
請求項1~のいずれか一項に記載の粘着剤層付き偏光フィルムを有する画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばパソコン、モバイル端末(PDA)、ゲーム機、テレビ(TV)、カーナビ、タッチパネル、ペンタブレット等のような画像表示装置の構成部材として好適に用いることができる粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像表示装置の視認性を向上させるために、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)等の画像表示パネルと、その前面側(視認側)に配置する保護パネルやタッチパネル部材との間の空隙を接着剤で充填することにより、入射光や表示画像からの出射光の空気層界面での反射を抑えることが行われている。
【0003】
このような画像表示装置構成部材間の空隙を粘着剤で充填する方法として、画像表示装置構成部材間の空隙を、粘着シートを用いて充填する方法が知られている。例えば特許文献1には、紫外線によって硬化させることで得られる粘着シートが開示されている。
【0004】
上記紫外線等の光硬化は熱硬化に比べて反応が制御しやすいため、粘着シート作製工程でのハンドリング性に優れる。
【0005】
また、特許文献2には、紫外線によって1次架橋した粘着シートを画像表示装置構成部材に貼合後、画像表示装置構成部材を介して粘着シートに紫外線照射し2次硬化させる方法が開示されている。
【0006】
更に、特許文献3には、マクロモノマーを構成単位として含有する(メタ)アクリル系共重合体、架橋剤及び架橋開始剤を含む光硬化性組成物であって、小角X線散乱測定における1次元散乱プロファイルの半値幅X1(nm-1)が0.05<X1<0.30であることを特徴とする光硬化性組成物について開示されており、かかる組成物によれば、室温状態でシート状を保持しつつ自着性を示すことができ、未硬化状態において加熱すると、軟化乃至流動し、例えばマクロモノマーのガラス転移温度以上に加熱することにより軟化乃至流動し、貼合面の凹凸部に追従して隅々まで充填できることができ、更には、光硬化することにより、優れた凝集力を発揮できることも開示されている。
【0007】
また、特許文献4には、水酸基含有アクリル系樹脂、エチレン性不飽和基を一つ有するエチレン性不飽和化合物、架橋剤及び、光重合開始剤を含有する粘着剤組成物であり、上記光重合開始剤が、特定の構造部位を有する分子内水素引き抜き型光重合開始剤を含有することを特徴とする粘着剤組成物について開示されており、かかる組成物によれば、優れた段差追従性と耐ブリスター性をバランスよく両立することができ、更には粘着物性(粘着力、保持力)、耐湿熱性、光学特性(透明性)にも優れた、高レベルの信頼性を有する粘着シートを得ることができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2006-169438号公報
【文献】特許第4971529号公報
【文献】国際公開第2018/101252号
【文献】特開2018-109102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、近年、液晶表示装置等の画像表示装置の軽量化や薄型化に伴い偏光フィルムの薄膜化が進み、変色が起きる偏光フィルムが発生することがある。
本発明者らは、このような変色が発生する原因について検討したところ、内部のポリビニルアルコール(PVA)層(偏光子)の特定のヨウ素イオン濃度が高くなると偏光フィルムが変色することを見出した。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、偏光フィルムを変色させることのない粘着剤層付き偏光フィルム及び粘着シートを提供することにある。より具体的には、粘着剤層と偏光フィルムとを貼り合わせた後、高湿度下に曝しても偏光フィルムを変色させることのない粘着剤層付き偏光フィルム及び粘着シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明で提供する粘着剤層付き偏光フィルムは、偏光フィルムと、前記偏光フィルムの少なくとも一方の面に粘着剤層とを有する粘着剤層付き偏光フィルムであって、前記粘着剤層は、分子内水素引き抜き型開始剤(A)を含む粘着剤組成物から形成され、前記偏光フィルムは、分子間水素引き抜き型開始剤を含む粘着剤組成物から形成された粘着剤層を貼着し、25℃、90%RHで2日間静置した後に測定される、波長300~400nmにおける偏光子の吸光度が3.5以上である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施形態に係る粘着剤層付き偏光フィルムは、当該粘着剤層が偏光フィルム、特には偏光フィルムを構成するPVA層に対する耐変色性を有するため、熱、湿度、材料等に敏感な、とりわけ、特定の粘着成分と反応して特定のヨウ素イオン濃度が高くなる偏光フィルムを使用した場合であっても、変色を抑制することができる。
【0013】
また、本発明の別の実施形態に係る粘着シートは、例えば特定の粘着剤成分と反応して特定のヨウ素イオン濃度が高くなるような偏光フィルムに適用した場合であっても、粘着剤成分の反応による、特定のヨウ素イオン濃度の上昇に基づく偏光フィルムの変色を抑制しつつ、優れた耐発泡信頼性を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例で行った耐黄変信頼性の評価試験方法に用いるサンプルの断面図を示す。
図2】実施例で行った耐発泡信頼性の評価試験方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。但し、本発明は、下記実施形態に限定されるものではない。
【0016】
<粘着剤層付き偏光フィルム>
本発明の粘着剤層付き偏光フィルム(以下、省略して「本偏光フィルム」とも称する。)は、偏光フィルムと、前記偏光フィルムの少なくとも一方の面に粘着剤層とを有する。
また、前記粘着剤層は、分子内水素引き抜き型開始剤(A)を含む粘着剤組成物から形成される。
このような粘着剤組成物から形成された粘着剤層は、偏光フィルムの偏光子、すなわち、PVA層が分子内水素引き抜き型開始剤(A)と反応してヨウ素イオン濃度が高くなることがないため変色を抑えることができる。
【0017】
〔偏光フィルム〕
「偏光フィルム」は、自然光を直線偏光に変換する機能を有するフィルムであり、通常、PVA系樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン/酢酸ビニル(EVA)樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル系樹脂等のフィルムにヨウ素又は二色性色素が吸着配向しているものが挙げられ、通常ヨード染色されたPVA系樹脂フィルムが代表的である。
【0018】
また、偏光フィルムの変色メカニズムは、特定波長(400~450nm)に吸収があるヨウ素イオン濃度(I5 -)が増加することによるものと推定される。より具体的には、分子間水素引き抜き型開始剤を含む粘着剤成分を使用すると当該開始剤が偏光子に移行してPVA層中のヨウ素錯体に作用し、前記特定波長に吸収がある特定のヨウ素イオン濃度(I5 -)が増加して、波長300~400nmのPVA層の吸光度が上昇することにより、偏光フィルムに変色が生じるものと考えられる。
したがって、本発明においては、分子間水素引き抜き型開始剤を含む粘着剤により黄変をきたす偏光フィルムに対して好適に使用することができる。
かかる観点から、本偏光フィルムに使用される偏光フィルムは、下述する「実施例」の欄に記載されている、分子間水素引き抜き型開始剤を含む粘着剤組成物から形成された粘着剤層を貼着、より具体的には、下述する比較例1の粘着剤組成物から形成された粘着シートを貼着し、25℃、90%RHで2日間静置した後に、紫外可視近赤外分光光度計において測定される、波長300~400nmにおける偏光子の吸光度が3.5以上であり、4以上であることが好ましい。
なお、上記条件において測定された波長300~400nmにおける偏光子の吸光度が3.5以上とは、下述する比較例1から偏光フィルムが黄変していることを示す。
【0019】
また、分子間水素引き抜き型開始剤を含む粘着剤を用いることで生じる偏光フィルムの変色は、とりわけ端部において顕著であることから、本偏光フィルムに使用される偏光フィルムの端部は、上記と同じく、分子間水素引き抜き型開始剤を含む粘着剤組成物から形成された粘着剤層を貼着、より具体的には、下述する比較例1の粘着剤組成物から形成された粘着シートを貼着し、25℃、90%RHで2日間静置した後に、紫外可視近赤外分光光度計において測定される、波長300~400nmにおける偏光子の吸光度が3.5以上であり、4以上であることが好ましい。
なお、「端部」とは、偏光フィルムの幅方向の端部をいい、偏光フィルムの全幅に対して5%又は95%の位置を示し、中央部とは偏光フィルム全幅に対して50%の位置を示す。
【0020】
〔分子内水素引き抜き型開始剤(A)〕
上記分子内水素引き抜き型開始剤(A)としては、フェニルグリオキシル酸メチル等のベンゾイルギ酸メチル系光重合開始剤、メチルベンゾイルホルメート、オキシフェニル酢酸2-[2-オキソ-2-フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステルとオキシフェニル酢酸2-(2-ヒドロキシ-エトキシ)エチルエステルとの混合物等のオキシフェニル系光重合開始剤が挙げられ、なかでもベンゾイルギ酸メチル系光重合開始剤が好ましい。
これらは単独で若しくは2種以上を併せて用いてもよい。
【0021】
上記分子内水素引き抜き型開始剤(A)の市販品としては、例えば、IGM RESINS B.V.社製の「Omnirad MBF」、「Omnirad 754」等が挙げられる。
【0022】
なお、必ずしも、その作用機序は明確ではないが、分子内水素引き抜き型開始剤(A)は、分子間水素引き抜き型開始剤に比べて活性状態の保持力が弱いことから偏光子には移行できず、変色を抑えることができると推定している。すなわち、本発明では、分子間水素引き抜き型開始剤を用いることなく、分子内水素引き抜き型開始剤(A)を用いることが好ましい。
【0023】
また、上記の中でも、とりわけ、水分を含んだ偏光フィルムに対しての耐黄変信頼性の観点から、下記の構造式で表されるフェニルグリオキシル酸メチルが好ましい。
また、フェニルグリオキシル酸メチルは室温(23℃)で液体状態のため、粘着剤組成物中に混合する際、分散性に優れ均一に混合することができ、また、マスターバッチ化しやすい等の優れた利点もある。
【0024】
例えば、特開2013-40256号公報には、光重合開始剤の一例としてフェニルグリオキシル酸メチルを用いることができる旨が記載されている。
しかしながら、特開2013-40256号公報には、光重合開始剤は放射線照射により単独で硬化するためにのみ使用されることが記載されているのみであり、本発明のように分子内水素引き抜き型開始剤(A)を選択することにより、偏光フィルムの変色を抑えられることができることが一切記載されていない。
その点において本発明は特開2013-40256号公報と比較して有用な発明である。
【0025】
【化1】
【0026】
上記分子内水素引き抜き型開始剤(A)の添加量は、特に制限されるものではなく、典型的には、下述する粘着剤成分(B)〔ベースポリマー(b1)を使用する場合にはベースポリマー、ベースポリマーの代わりにベースポリマーを構成するモノマー成分の混合物(b2)を使用する場合には当該混合物の合計量、当該混合物の部分重合物(b3)を用いる場合は、未反応モノマーと当該部分重合物の合計量〕100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下、なかでも0.2質量部以上5質量部以下、その中でも0.5質量部以上3質量部以下の割合で調整することが特に好ましい。但し、他の要素とのバランスでこの範囲を超えてもよい。
【0027】
<粘着剤層>
本発明における粘着剤層(以下、省略して「本粘着剤層」とも称する。)は、前記分子内水素引き抜き型開始剤(A)を含む粘着剤組成物から形成される。
また、前記粘着剤組成物は、ベースポリマー(b1)、ベースポリマーを構成するモノマー成分の混合物(b2)及びその部分重合物(b3)からなる群から選ばれる少なくとも一種の粘着剤成分(B)を含むことが好ましい。
この粘着剤層は、単層であっても多層であってもよく、また、多層の場合には、その表面層が前記粘着剤組成物からなる粘着剤層であることが好ましい。
【0028】
<粘着剤組成物>
前記粘着剤組成物(以下、省略して「本組成物」とも称する。)は、前記分子内水素引き抜き型開始剤(A)を含む。
また、本組成物は、ベースポリマー(b1)、ベースポリマーを構成するモノマー成分の混合物(b2)及びその部分重合物(b3)からなる群から選ばれる少なくとも一種の粘着剤成分(B)を含むことが好ましい。
【0029】
なお、「ベースポリマー」とは、粘着剤組成物中における最も含有割合の多いポリマー成分をいい、より好ましくは、本組成物中における主成分となるポリマー成分又は本組成物中に50質量%を超えて含まれるポリマー成分をいう。
【0030】
上記ベースポリマー(b1)の含有量は、粘着剤組成物の全質量を基準として、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが最も好ましい。
また、その上限値としては、99.9質量%以下であることが好ましい。
【0031】
また、粘着剤成分(B)として、前記ベースポリマー(b1)の代わりに、前記ベースポリマー(b1)を形成するためのモノマー成分の混合物(b2)及び該混合物の部分重合物(b3)の少なくとも一方を用いてもよい。
【0032】
前記部分重合物(b3)とは、前記モノマー成分の混合物の一部の分量を重合反応させて得られる結果物をいう。より具体的には、前記モノマー成分が部分的に重合してなるポリマー又はオリゴマーと、未反応のモノマー成分とを含む。
【0033】
また、本偏光フィルムにおいて、貼合信頼性を高めるという観点から、本組成物は紫外線照射により硬化する光硬化性粘着剤組成物であることが好ましい。
【0034】
前記ベースポリマー(b1)としては、例えば(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体、ゴム系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、エポキシ系ポリマー、フッ素系ポリマー等を挙げることができる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。なかでも、(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体が好ましい。
【0035】
前記(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体としては、例えばアルキル(メタ)アクリレートの単独重合体の他、これと共重合性を有するモノマー成分とを共重合することにより得られる共重合体を挙げることができる。
また、(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体としてより好ましくは、アルキル(メタ)アクリレートと、これと共重合可能なカルボキシ基含有モノマー、水酸基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、アミド基含有モノマー及びその他ビニルモノマーからなる群から選ばれる少なくとも一種のモノマーとを、モノマー成分として含む共重合体を挙げることができる。
また、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートを包括する意味である。
なお、本発明において、「(共)重合体」とは、重合体及び共重合体を包括する意味であり、「(メタ)アクリル」とはアクリル及びメタクリルを包括する意味である。
【0036】
〔粘着剤成分(B)の詳細〕
また、上記(b1)~(b3)について、より具体的には、側鎖の炭素数4~18の直鎖又は分岐アルキル(メタ)アクリレート(以下「共重合性モノマーa」とも称する。)と、これと共重合可能なカルボキシ基含有モノマー(以下「共重合性モノマーb」とも称する。)、ビニルモノマー(以下「共重合性モノマーc」とも称する。)、側鎖の炭素数が1~3の(メタ)アクリレート(以下「共重合性モノマーd」とも称する。)及び水酸基含有モノマー(以下「共重合性モノマーe」とも称する。)からなる群から選ばれる少なくとも一種のモノマー成分から構成される共重合体(b1)、これらのモノマー成分の混合物(b2)又はその部分重合物(b3)を挙げることができる。
【0037】
また、(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体、(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体を構成するモノマー成分の混合物又はその部分重合物の中でも、(α)共重合性モノマーaと、共重合性モノマーb及び/又は共重合性モノマーcとを含むモノマー成分から構成される共重合体、これらのモノマー成分の混合物又はその部分重合物や、(β)共重合性モノマーaと、共重合性モノマーb及び/又は共重合性モノマーcと、共重合性モノマーd及び/又は共重合性モノマーeとを含むモノマー成分から構成される共重合体、これらのモノマー成分の混合物又はその部分重合物を好適な例示として挙げることができる。
なかでも、(α)が好ましく、共重合性モノマーaと共重合性モノマーb及び共重合性モノマーcとを含むモノマー成分から構成される共重合体、これらのモノマー成分の混合物又はその部分重合物が特に好ましい。
【0038】
上記側鎖の炭素数4~18の直鎖又は分岐アルキル(メタ)アクリレート(共重合性モノマーa)としては、例えば、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、3,5,5-トリメチルシクロヘキサン(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
上記共重合性モノマーaは、共重合体の全モノマー成分中に、30質量%以上90質量%以下の範囲で含有されることが好ましく、なかでも35質量%以上88質量%以下、その中でも特に40質量%以上85質量%以下、更に55質量%以上85質量%以下の範囲で含有されることが更に好ましい。
【0040】
上記カルボキシ基含有モノマー(共重合性モノマーb)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルマレイン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルコハク酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸等を挙げることができ、なかでも(メタ)アクリル酸が好ましい。
これらは1種又は2種以上を組み合わせてもよい。
なお、「(メタ)アクリロイル」はアクリロイル及びメタクリロイルを包括する意味である。
【0041】
上記共重合性モノマーbは、共重合体の全モノマー成分中に1.2質量%以上15質量%以下、なかでも優れた粘着物性を得る観点から1.5質量%以上10質量%以下、その中でも特に2質量%以上8質量%以下の範囲で含有されることが好ましい。
【0042】
上記ビニルモノマー(共重合性モノマーc)としては、ビニル基を分子内に有する化合物が挙げられる。このような化合物としては、アルキル基の炭素数が1~12である(メタ)アクリル酸アルキルエステル類並びに分子内にヒドロキシル基、アミド基及びアルコキシルアルキル基等の官能基を有する官能性モノマー類並びにポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類並びに酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル及びラウリン酸ビニル等のビニルエステルモノマー並びにスチレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレン、α-メチルスチレン及びその他の置換スチレン等の芳香族ビニルモノマーを例示することができ、なかでもビニルエステルモノマーが好ましい。これらは1種又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0043】
上記共重合性モノマーcは、共重合体の全モノマー成分中に1.2質量%以上40質量%以下、なかでも優れた粘着物性を得る観点から1.5質量%以上35質量%以下、その中でも特に2質量%以上30質量%以下の範囲で含有されることが好ましい。
【0044】
上記側鎖の炭素数が1~3の(メタ)アクリレート(共重合性モノマーd)としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0045】
上記共重合性モノマーdは、共重合体の全モノマー成分中に0質量%以上70質量%以下の範囲で含有されることが好ましく、なかでも3質量%以上65質量%以下、その中でも特に5質量%以上60質量%以下の範囲で含有されることが更に好ましい。
【0046】
上記水酸基含有モノマー(共重合性モノマーe)としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0047】
上記共重合性モノマーeは、共重合体の全モノマー成分中に0質量%以上30質量%以下の範囲で含有されることが好ましく、なかでも0質量%以上25質量%以下、その中でも特に0質量%以上20質量%以下の範囲で含有されることが更に好ましい。
【0048】
上記に掲げるものの他、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物基含有モノマー、(メタ)アクリル酸グリシジル、α-エチルアクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3,4-エポキシブチル等のエポキシ基含有モノマー、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル系モノマー、(メタ)アクリルアミド、N-t-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、マレイン酸アミド、マレイミド等のアミド基を含有するモノマー、ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルカルバゾール等の複素環系塩基性モノマー等も必要に応じて適宜用いることができる。
【0049】
(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体、(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体を構成するモノマー成分の混合物又はその部分重合物の最も典型的な具体的な例としては、例えば2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリート、デシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート等の共重合性モノマーaと、(メタ)アクリル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルマレイン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルコハク酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸等の共重合性モノマーbと、有機官能基等をもつヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノメチル、酢酸ビニル、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、フッ素化(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート等の共重合性モノマーcと、を共重合させて得られる(メタ)アクリル酸エステル共重合体、これらのモノマー成分の混合物又はその部分重合物を挙げることができる。
【0050】
上記(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体は、上記の共重合性モノマーを例えば、溶液ラジカル重合、懸濁重合、塊状重合、乳化重合等の従来公知の方法に従って重合することで得ることができる。
また、本発明においては、上記(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体の代わりに、上記共重合性モノマー成分の混合物及び上記混合物の部分重合物の少なくとも一方を用いてもよい。
【0051】
(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体の質量平均分子量は、5万以上150万以下、なかでも7万以上130万以下、その中でも特に10万以上120万以下であることが好ましい。
【0052】
ここで、質量平均分子量は以下の方法によって、測定される。
(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体(A)4mgをテトラヒドロフラン(THF)12mLに溶解させたものを測定試料とし、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)分析装置(装置名:東ソー社製HLC-8320GPC)を用いて、下記の条件で分子量分布曲線を測定し、質量平均分子量(Mm)を求める。
・ガードカラム:TSKguardcolumnHXL
・分離カラム:TSKgelGMHXL(4本)
・温度:40℃
・注入量:100μL
・ポリスチレン換算
・溶媒:THF
・流速:1.0mL/min
【0053】
凝集力の高い粘着剤組成物を得たい場合は、分子量が大きい程分子鎖の絡み合いにより凝集力が得られる観点から、(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体の質量平均分子量は70万以上150万以下、特に80万以上130万以下であることが好ましい。
一方、流動性や応力緩和性の高い粘着剤組成物を得たい場合は、(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体の質量平均分子量は10万以上70万以下、特に15万以上60万以下であることが好ましい。
また、粘着シート等を成形する際に溶剤を使用しない場合には、分子量が大きなポリマーを使用することが難しいため、(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体の質量平均分子量は10万以上70万以下、特に15万以上60万以下、なかでも特に20万以上50万以下であることが好ましい。
【0054】
〔化合物(C)〕
本組成物には、偏光フィルムに対する耐黄変信頼性と共に耐発泡信頼性を優れたものとするために、炭素-炭素二重結合を有するラジカル重合性官能基及びラジカル発生基を分子内に有する化合物〔化合物(C)〕を分子内水素引き抜き型開始剤(A)と併用することが好ましい。
【0055】
ここで、前記「炭素-炭素二重結合を有するラジカル重合性官能基」としては、例えば(メタ)アクリロイル基、ビニル基等の不飽和二重結合を有する官能基を挙げることができる。
他方、化合物(C)において前記「ラジカル発生基」とは、紫外線等の活性エネルギー線による励起下で重合反応を開始させるラジカルを発生する基を意味する。
【0056】
このように前記化合物(C)は、炭素-炭素二重結合を有するラジカル重合性官能基を分子内に有することから、例えば紫外線照射により自身が重合してポリマー化するため、偏光フィルムに移行せず偏光フィルムを変色させる虞を低減できる傾向がある。
【0057】
また、前記「ラジカル発生基」としては、とりわけ、活性エネルギー線の照射により励起され、水素引抜反応を生じさせることでラジカルを発生させる構造が好ましい。
上記化合物(C)がラジカル発生基を備えていることにより、例えば上記化合物(C)同士を重合させたり、ベースポリマー(b1)の分子間に架橋構造を形成したりすることができるので粘着剤樹脂組成物の凝集力を向上させることができる。
【0058】
前記化合物(C)としては、炭素-炭素二重結合を有するラジカル重合性官能基を分子内に有し、且つ、ラジカル発生基、すなわち、活性エネルギー線の照射を受けるとラジカルを発生する官能基を有するものであればよい。
とりわけ、ベースポリマー(b1)の分子等から水素を引き抜いてラジカルを発生させることが可能である構造を有するものが好ましい。
【0059】
前記化合物(C)として、例えば(メタ)アクリロイル基と、ベンゾフェノン構造、ベンジル構造、o-ベンゾイル安息香酸エステル構造、チオキサントン構造、3-ケトクマリン構造、2-エチルアントラキノン構造及びカンファキノン構造からなる群から選ばれる少なくとも1つの構造と、を有する化合物を挙げることができる。
【0060】
前記の中でもとりわけ、化合物(C)は、(メタ)アクリロイル基とベンゾフェノン構造とを有する化合物であることが好ましい。
より具体的には、4-アクリロイルオキシベンゾフェノン、4-アクリロイルオキシエトキシベンゾフェノン、4-アクリロイルオキシ-4'-メトキシベンゾフェノン、4-アクリロイルオキシエトキシ-4'-メトキシベンゾフェノン、4-アクリロイルオキシ-4'-ブロモベンゾフェノン、4-アクリロイルオキシエトキシ-4'-ブロモベンゾフェノン、4-メタクリロイルオキシベンゾフェノン、4-メタクリロイルオキシエトキシベンゾフェノン、4-メタクリロイルオキシ-4'-メトキシベンゾフェノン、4-メタクリロイルオキシエトキシ-4'-メトキシベンゾフェノン、4-メタクリロイルオキシ-4'-ブロモベンゾフェノン、4-メタクリロイルオキシエトキシ-4'-ブロモベンゾフェノン及びこれらの混合物等を挙げることができる。なかでも4-メタクリロイルオキシベンゾフェノンが好ましい。
【0061】
前記化合物(C)の含有量の下限値としては、粘着剤成分(B)〔ベースポリマー(b1)を使用する場合にはベースポリマー、ベースポリマーの代わりにベースポリマーを構成するモノマー成分の混合物(b2)を使用する場合には当該混合物の合計量、当該混合物の部分重合物(b3)を用いる場合は、未反応モノマーと当該部分重合物の合計量〕100質量部に対して0.2質量部以上であることが好ましく、0.3質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることが最も好ましい。
【0062】
また、その上限値としては、粘着剤成分(B)100質量部に対して5質量部以下であることが好ましく、2質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下であることが最も好ましい。
【0063】
また、分子内水素引き抜き型開始剤(A)と化合物(C)との配合比率〔分子内水素引き抜き型開始剤(A)/化合物(C)〕は質量基準で、通常、99/1~1/99であり、好ましくは90/10~40/60であり、より好ましくは85/15~60/40である。
【0064】
〔化合物(C)以外の架橋剤〕
本組成物は必要に応じて上記化合物(C)以外の架橋剤を含んでもよい。例えば上記粘着剤成分(B)としての(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体を架橋する際には、(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体中に導入した水酸基やカルボキシ基等の反応性基と化学結合しうる架橋剤を添加し、加熱や養生により反応させる方法や、架橋剤としての(メタ)アクリロイル基を2個以上有する多官能(メタ)アクリレート及び光重合開始剤等の反応開始剤を添加し、紫外線照射等によって架橋する方法を挙げることができる。
なかでも、本組成物中のカルボキシ基等の極性官能基を反応消費せず、極性成分由来の高い凝集力や粘着物性を維持できる観点から、紫外線等の光照射による架橋方法が好ましい。
【0065】
上記架橋剤としては、例えば(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、イソシアネート基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、アジリジン基、ビニル基、アミノ基、イミノ基、アミド基から選ばれる少なくとも1種の架橋性官能基を有する架橋剤を挙げることができ、1種又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。なかでも、(メタ)アクリロイル基を2個以上有する多官能(メタ)アクリレートが好ましい。
なお、架橋性官能基は、脱保護可能な保護基で保護されていてもよい。
【0066】
架橋剤の含有量は、本組成物の柔軟性と凝集力をバランスさせる観点から、前記粘着剤成分(B)〔ベースポリマー(b1)を使用する場合にはベースポリマー、ベースポリマーの代わりにベースポリマーを構成するモノマー成分の混合物(b2)を使用する場合には当該混合物の合計量、当該混合物の部分重合物(b3)を用いる場合は、未反応モノマーと当該部分重合物の合計量〕100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下の割合で配合するのが好ましく、なかでも0.05質量部以上8質量部以下、その中でも0.1質量部以上5質量部以下であることが特に好ましい。
【0067】
〔酸化防止剤〕
上記以外にも、本組成物は必要に応じて酸化防止剤を含有してもよい。酸化防止剤としては、例えば、2,2'-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、ヘキサメチレングリコール-ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメート)、テトラキス〔メチレン(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメート)〕メタン、トリエチレングリコール-ビス-3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ベンジル)ベンゼン、n-オクタデシル-3-(4'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-t-ブチルフェノール)プロピオネート、4,4'-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4'-ブチリデン-ビス-(6-t-ブチル-3-メチル-フェノール)等のヒンダードフェノール系酸化防止剤、硫黄系、アミン系等の各種酸化防止剤が挙げられる。
【0068】
〔その他の配合剤〕
更に、本組成物は、通常の粘着剤組成物に配合される公知の成分を適宜含有してもよい。例えば光安定化剤、紫外線吸収剤、金属不活性化剤、防錆剤、老化防止剤、吸湿剤、発泡剤、消泡剤、無機粒子、粘度調整剤、粘着付与樹脂、光増感剤、蛍光剤等の各種の添加剤や、反応触媒(三級アミン系化合物、四級アンモニウム系化合物、ラウリル酸スズ化合物等)等を適宜含有させることが可能である。
【0069】
(粘着剤組成物の調製)
本組成物は、例えば分子内水素引き抜き型開始剤(A)、粘着剤成分(B)及び必要に応じてその他の成分をそれぞれ所定量混合することにより得られる。
また、本組成物は、上記粘着剤成分(B)として、ベースポリマー(b1)の代わりに上記ベースポリマーを構成するモノマー成分の混合物(b2)及び上記混合物の部分重合物(b3)の少なくとも一方を用いてもよい。これらの混合方法としては、特に制限されず、各成分の混合順序も特に限定されない。
また、本組成物製造時に熱処理工程を入れてもよく、この場合は、予め、本組成物の各成分を混合してから熱処理を行うことが望ましい。
上記の混合においては、各種の混合成分を濃縮してマスターバッチ化したものを使用してもよい。
【0070】
また、上述のとおり混合方法としても特に制限されず、例えば万能混練機、プラネタリミキサー、バンバリーミキサー、ニーダー、ゲートミキサー、加圧ニーダー、三本ロール、二本ロール等を用いることができる。本組成物の各成分を混合する際は、必要に応じて溶剤を用いて混合してもよい。また、本組成物は、溶剤を含まない無溶剤系として使用することもできる。無溶剤系として使用することで溶剤が残存せず、耐熱性及び耐光性が高まるという利点を備えることができる。
【0071】
<粘着シート>
本発明の粘着シート(以下、省略して「本粘着シート」とも称する。)は、粘着剤層を有する。
また、上記粘着剤層は、分子内水素引き抜き型開始剤(A)と、炭素-炭素二重結合を有するラジカル重合性官能基及びラジカル発生基を分子内に有する化合物(C)とを含む粘着剤組成物から形成される。
【0072】
また、上記粘着剤組成物は、ベースポリマー(b1)、ベースポリマーを構成するモノマー成分の混合物(b2)及びその部分重合物(b3)からなる群から選ばれる少なくとも一種の粘着剤成分(B)を含むことが好ましい。
【0073】
なお、前記分子内水素引き抜き型開始剤(A)、粘着剤成分(B)及び化合物(C)の具体的内容については、上述したとおりであり、好ましい形態も同じである。
【0074】
とりわけ、上記粘着剤層は光硬化性を有することが好ましい。より具体的には、上記粘着剤層が紫外線照射により硬化する光硬化性粘着剤組成物から形成されることが好ましい。
【0075】
また、とりわけ、上記粘着剤組成物が、分子内水素引き抜き型開始剤(A)と、粘着剤成分(B)と、炭素-炭素二重結合を有するラジカル重合性官能基及びラジカル発生基を分子内に有する化合物(C)とを含むことが好ましく、更には、前記の構成において、分子内水素引き抜き型開始剤(A)として、ベンゾイルギ酸メチル系光重合開始剤及びオキシフェニル系光重合開始剤の少なくとも一方を使用することが、より好ましい。
【0076】
<粘着シートの形態>
本粘着シートは、通常、離型フィルム上に本組成物を単層又は多層のシート状に成形した離型フィルム付き粘着シートとして用いられるが、直接被着体に本組成物を塗布しシート状に形成して使用してもよい。かかる離型フィルムの材質としては、例えばポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、フッ素樹脂等を挙げることができる。これらの中でも、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂が特に好ましい。
【0077】
また、本粘着シートは、ロール状であっても枚葉状であってもよい。
なかでも、とりわけ、種々の形状に加工された形態の粘着シートであることが好ましく、本粘着シートを挟むように離型フィルムが積層され、外層を成す該離型フィルムの外縁が本粘着シートの粘着剤層の外縁よりも外側に張り出した構成を有し、枚葉状(例えば粘着剤層及び離型フィルムの平面形状が長方形等の矩形状)に切断された形態の離型フィルム付き粘着シートであることが好ましい。
また、このような形状の離型フィルム付き粘着シートは、とりわけ、リペア部品として使用されることが好ましい。
リペア部品として使用される粘着シートは、様々な種類の偏光フィルムを搭載した画像表示装置に適用できることが求められるが、本粘着シートは、どのような偏光フィルムが使用された画像表示装置に適用した場合であっても、偏光フィルムの変色を抑制できることから、その有用性は高い。
【0078】
(多層構成)
本粘着シートを多層とする場合、すなわち、中間層と最外層とを備えた積層構成とする場合には、最外層は、上記単層の場合と同様に、凹凸追随性と耐発泡信頼性とを兼ね備えていることが好ましいため、上記の本粘着剤組成物を用いて形成することが好ましい。
他方、中間層は、画像表示装置構成部材との粘着には寄与しないため、透明性を損なわず、かつ、最外層の硬化反応を阻害しない程度の光透過性を有し、かつ、カット性及びハンドリング性を高める性質を有していることが好ましい。
【0079】
中間層を形成する粘着剤成分(例えばベースポリマー)の種類は、透明樹脂であれば、特に限定するものではないが、上記同様の粘着剤成分(B)を用いることが好ましい。この際、透明性の確保や作製し易さ等の観点から、最外層の粘着剤成分(B)(例えばベースポリマー(b1))と同一の樹脂を用いることが好ましい。
【0080】
中間層は、紫外線架橋によって硬化するように形成してもよいし、熱によって硬化するように形成してもよい。
また、特に後硬化しないように形成してもよい。但し、最外層との密着性等を考慮すると、後硬化するように形成するのが好ましく、特に紫外線架橋するように形成することが好ましい。その際、光重合開始剤の含有量が多くなると光透過率が低下するため、中間層における光重合開始剤の外層における含有率よりも低い含有率で光重合開始剤を含むことが好ましい。
【0081】
また、本粘着シートは、潜在的な紫外線反応性を有するように、言い換えれば紫外線反応性を残すように、粘着剤層を紫外線架橋して1次硬化させることが好ましい。上記1次硬化させる場合は、上記離型フィルムを介して紫外線を照射して粘着剤層を紫外線架橋させればよい。この際、紫外線の照射量を制御することで、紫外線架橋の程度を調整することも可能であるが、上述のように、離型フィルムを介して紫外線を照射することで、紫外線を一部遮断するようにして紫外線架橋の程度を調整することも可能である。
【0082】
本粘着シートは、光学的に透明な透明粘着シートであることが好ましい。
ここで、「光学的に透明」とは、全光線透過率が80%以上であることを意図し、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。
【0083】
また、本粘着シートの厚みは、10μm以上500μm以下であることが実用性から好ましく、なかでも15μm以上400μm以下であることがより好ましく、その中でも特に20μm以上350μm以下であることが更に好ましい。
【0084】
<積層部材>
本発明の積層部材(以下、省略して「本部材」とも称する。)は、本粘着シートが、画像表示装置構成部材と貼り合わせた構成を有する。
ここで、上記画像表示装置構成部材としては、例えばタッチパネル、画像表示パネル、表面保護パネル及び偏光フィルム等を挙げることができ、これらのうちの何れか、或いは2種類以上の組み合わせからなる積層体であってもよい。
本発明の粘着シートを貼り合わせる画像表示装置構成部材としては、偏光フィルムが好ましい。すなわち、本粘着シートを偏光フィルムと貼り合わせた構成を有する積層部材とすることが好ましい。
上記偏光フィルムを構成するPVA層は、近年の薄膜化によりヨウ素密度が上昇し、水分や粘着剤と反応しやすくなり、そのため変色が起こりやすくなっている。本粘着シートは、偏光フィルムと貼り合わせ積層部材とした後、高湿度下に曝してもPVA層の変色を抑制することができるものである。
【0085】
<画像表示装置>
本発明の画像表示装置(以下、省略して「本装置」とも称する。)は、本部材又は本偏光フィルムを有する。より具体的には、表面保護パネル/本粘着シート/タッチパネル、タッチパネル/本粘着シート、本偏光フィルム/画像表示パネル等を内蔵する装置を挙げることができる。
【0086】
<粘着シート、積層部材及び画像表示装置の製造方法>
以下、本発明の粘着シート、積層部材及び画像表示装置の製造方法を記載するが、この方法に限られるものではない。典型的には下記の工程(1)、(2)によりシート、積層部材及び画像表示装置を得ることが好ましいが、下記工程(1)の1次硬化を省略してもかまわない。
【0087】
〔工程(1)〕
工程(1)では、例えば本組成物を加熱溶融(ホットメルト)し、これを透明離型樹脂シート上に塗布して単層又は多層のシート状に成形し、シート状の粘着剤層とする。
また、上記シート状の粘着剤層は、潜在的な紫外線反応性を有するように、言い換えれば紫外線反応性を残すように、シート状の粘着剤層を紫外線架橋して1次硬化させてもよい。
上記1次硬化させる場合は、上記透明離型樹脂シートを介して紫外線を照射してシート状の粘着剤層を紫外線架橋させればよい。
【0088】
この際、紫外線の照射量を制御することで、紫外線架橋の程度を調整することも可能であるが、上述のように、透明離型樹脂シートを介して紫外線を照射することで、紫外線を一部遮断するようにして紫外線架橋の程度を調整することも可能である。
【0089】
ここで、透明離型樹脂シートの例としては、例えばポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂のキャストフィルムや延伸フィルムに、シリコーン樹脂を塗布して離型処理したものや、離型紙等を適宜選択して用いることができ、特に剥離力の異なる透明離型樹脂シートや厚みの異なる透明離型樹脂シートを用いることが好ましい。
【0090】
なお、前記「シート状の粘着剤層」、すなわち後述する2次硬化前の本粘着シートの厚み、紫外線の照射量、照射波長、照射装置等は適宜調整すればよい。
【0091】
〔工程(2)〕
工程(2)では、工程(1)で得られた前記「シート状の粘着剤層」を介して2つの画像表示装置構成部材を積層した後、少なくとも一方の画像表示装置構成部材側から紫外線を照射し、この部材を介して、前記「シート状の粘着剤層」を紫外線架橋させて2次硬化させる。
【0092】
上記画像表示装置構成部材を介して前記「シート状の粘着剤層」に紫外線架橋反応を起こさせるためには、前記「シート状の粘着剤層」内の光重合開始剤が励起され、ラジカルを発生させるために有効な波長の光が充分量届く必要があるため、一方の画像表示装置構成部材の紫外線透過率が一定以上であることが好ましい。
具体的に言えば、例えば前記「シート状の粘着剤層」の紫外線を照射する側に、ガラス板を積層する場合には上記ガラス板の紫外線透過率が一定以上であることが好ましく、また、例えばガラス板と粘着剤と保護シートを積層する場合にはこれらガラス板、粘着剤及び保護シートの積層体の紫外線透過率が一定以上であることが好ましい。
よって、前記「シート状の粘着剤層」の紫外線照射側に積層する画像表示装置構成部材の紫外線透過率、すなわちUV-A波の波長範囲315~400nmにおける光線透過率が20%以上であることが好ましく、特に30%以上、なかでも特に40%以上であることがより一層好ましい。
【0093】
このような光線透過率を備え得る部材としては、例えばポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、トリアセチルセルロース樹脂(TAC)、ジアセチルセルロース樹脂等のセルロース樹脂、スチレン樹脂等から構成されるものを挙げることができる。これらの中でも、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂及びトリアセチルセルロース樹脂等は、吸湿性が高く、保管中に樹脂に吸収された水分が、高温下で使用された場合に樹脂からアウトガスとして放出されやすい性質を有する。本発明の画像表示装置によれば、このようなアウトガスの放出に起因する発泡を抑えることができるため、画像表示装置を構成する樹脂部材として、前記ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂及びトリアセチルセルロース樹脂等から構成される樹脂部材を使用することが可能である。
【0094】
(語句の説明等)
なお、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
また、画像表示パネル、保護パネル等のように「パネル」と表現する場合、板体、シート及びフィルムを包含するものである。
【0095】
本明細書において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわりのない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」、「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上」の意と共に、「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「Y以下」の意と共に、「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
更に、「x及びyの少なくとも一方(x,yは任意の構成又は成分)」とは、xのみ、yのみ、x及びy、という3通りの組合せを意味するものである。
【実施例
【0096】
以下、実施例及び比較例により更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0097】
〔実施例1〕
2-エチルヘキシルアクリレート76質量部、酢酸ビニル20質量部及びアクリル酸4質量部からなる共重合体(B-1、質量平均分子量40万)1kgに対して、分子内水素引き抜き型開始剤としてフェニルグリオキシル酸メチル(A-1、三洋貿易社製、SBPI-716)30gを添加して均一混合し、粘着剤組成物を得た。
【0098】
得られた粘着剤組成物を、剥離処理した2枚のポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱ケミカル社製、ダイアホイルMRV、厚み100μm/三菱ケミカル社製、ダイアホイルMRQ、厚み75μm)で挟み、厚み150μmとなるようシート状に賦形し、透明両面粘着シート1を作製した。かかる透明両面粘着シート1について、後述する各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0099】
〔実施例2〕
2-エチルヘキシルアクリレート76質量部、酢酸ビニル20質量部及びアクリル酸4質量部からなる共重合体(B-1、質量平均分子量40万)1kgに対して、分子内水素引き抜き型開始剤としてフェニルグリオキシル酸メチル(A-1、三洋貿易社製 SBPI-716)27g、4-メタクリロイルオキシベンゾフェノン3g(C-1、MCCユニテック社製、MBP)を添加して均一混合し、粘着剤組成物を得た。
【0100】
得られた粘着剤組成物を、剥離処理した2枚のポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱ケミカル社製、ダイアホイルMRV、厚み100μm/三菱ケミカル社製、ダイアホイルMRQ、厚み75μm)で挟み、厚み150μmとなるようシート状に賦形し、透明両面粘着シート2を作製した。かかる透明両面粘着シート2について、後述する各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0101】
〔実施例3〕
2-エチルヘキシルアクリレート76質量部、酢酸ビニル20質量部及びアクリル酸4質量部からなる共重合体(B-1、質量平均分子量40万)1kgに対して、分子内水素引き抜き型開始剤としてフェニルグリオキシル酸メチル(A-1、三洋貿易社製、SBPI-716)24g、4-メタクリロイルオキシベンゾフェノン6g(C-1、MCCユニテック社製、MBP)を添加して均一混合し、粘着剤組成物を得た。
【0102】
得られた粘着剤組成物を、剥離処理した2枚のポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱ケミカル社製、ダイアホイルMRV、厚み100μm/三菱ケミカル社製、ダイアホイルMRQ、厚み75μm)で挟み、厚み150μmとなるようシート状に賦形し、透明両面粘着シート3を作製した。かかる透明両面粘着シート3について、後述する各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0103】
〔実施例4〕
2-エチルヘキシルアクリレート76質量部、酢酸ビニル20質量部及びアクリル酸4質量部からなる共重合体(B-1、質量平均分子量40万)1kgに対して、分子内水素引き抜き型開始剤としてフェニルグリオキシル酸メチル(A-1、三洋貿易社製、SBPI-716)21g、4-メタクリロイルオキシベンゾフェノン9g(C-1、MCCユニテック社製、MBP)を添加して均一混合し、粘着剤組成物を得た。
【0104】
得られた粘着剤組成物を、剥離処理した2枚のポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱ケミカル社製、ダイアホイルMRV、厚み100μm/三菱ケミカル社製、ダイアホイルMRQ、厚み75μm)で挟み、厚み150μmとなるようシート状に賦形し、透明両面粘着シート4を作製した。かかる透明両面粘着シート4について、後述する各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0105】
〔実施例5〕
2-エチルヘキシルアクリレート76質量部、酢酸ビニル20質量部及びアクリル酸4質量部からなる共重合体(B-1、質量平均分子量40万)1kgに対して、架橋剤としての紫外線硬化樹脂プロポキシ化ペンタエリスリトールトリアクリレート(新中村化学社製、ATM-4PL)を200g、分子内水素引き抜き型開始剤としてフェニルグリオキシル酸メチル(A-1、三洋貿易社製、SBPI-716)30gを添加して均一混合し、粘着剤層用樹脂組成物を得た。
【0106】
得られた粘着剤組成物を、剥離処理した2枚のポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱ケミカル社製、ダイアホイルMRV、厚み100μm/三菱ケミカル社製、ダイアホイルMRQ、厚み75μm)で挟み、厚み150μmとなるようシート状に賦形し、透明両面粘着シート5を作製した。かかる透明両面粘着シート5について、後述する各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0107】
〔実施例6〕
2-エチルヘキシルアクリレート40質量部、ラウリルアクリレート44質量部、アクリルアミド3質量部、メチルメタクリレート6.5質量部、イソボニルメタクリレート6.5質量部からなる共重合体(B-2、質量平均分子量12万)1kgに対して、分子内水素引き抜き型開始剤としてフェニルグリオキシル酸メチル(A-1、三洋貿易社製、SBPI-716)15gを添加して均一混合し、粘着剤組成物を得た。
【0108】
得られた粘着剤組成物を、剥離処理した2枚のポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱ケミカル社製、ダイアホイルMRV、厚み100μm/三菱ケミカル社製、ダイアホイルMRQ、厚み75μm)で挟み、厚み150μmとなるようシート状に賦形し、透明両面粘着シート6を作製した。かかる透明両面粘着シート6について、下述する各種評価を行った。結果は表1に示す。
【0109】
〔比較例1〕
2-エチルヘキシルアクリレート76質量部、酢酸ビニル20質量部及びアクリル酸4質量部からなる共重合体(B-1、質量平均分子量40万)1kgに対して、分子間水素引き抜き型開始剤として4-メチルベンゾフェノンと2,4,6-トリメチルベンゾフェノンの混合物(A'-1、IGM社製、エザキュアTZT)15gを添加して均一混合し、粘着剤組成物を得た。
【0110】
次に、前記粘着剤組成物を、剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱ケミカル社製、ダイアホイルMRV、厚み100μm)上に厚み150μmとなるようシート状に成形した後、剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱ケミカル社製、ダイアホイルMRQ、厚み75μm)を被覆して、粘着シート7を作製した。かかる粘着シート7について、後述する各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0111】
〔比較例2〕
2-エチルヘキシルアクリレート76質量部、酢酸ビニル20質量部及びアクリル酸4質量部からなる共重合体(B-1、質量平均分子量40万)1kgに対して、分子間水素引き抜き型開始剤としてカルボキシメトキシベンゾフェノンとポリテトラメチレングリコールのジエステル(A'-2、IGM社製、Omnipol BP)15gを添加して均一混合し、粘着剤組成物を得た。
【0112】
次に、前記粘着剤組成物を、剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱ケミカル社製、ダイアホイルMRV、厚み100μm)上に厚み150μmとなるようシート状に成形した後、剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱ケミカル社製、ダイアホイルMRQ、厚み75μm)を被覆して、粘着シート8を作製した。かかる粘着シート8について、後述する各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0113】
〔比較例3〕
2-エチルヘキシルアクリレート76質量部、酢酸ビニル20質量部及びアクリル酸4質量部からなる共重合体(B-1、質量平均分子量40万)1kgに対して、分子間水素引き抜き型開始剤としてカルボキシメトキシベンゾフェノンとポリエチレングリコールのジエステル200(A'-3、LGM社製、Omnipol 682)15gを添加して均一混合し、粘着剤組成物を得た。
【0114】
次に、前記粘着剤組成物を、剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱ケミカル社製、ダイアホイルMRV、厚み100μm)上に厚み150μmとなるようシート状に成形した後、剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱ケミカル社製、ダイアホイルMRQ、厚み75μm)を被覆して、粘着シート9を作製した。かかる粘着シート9について、後述する各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0115】
<各種評価>
(1)耐黄変信頼性
事前に市販の偏光フィルム(層構成=TAC層/PVA層/TAC層、図1のPOL)の保護フィルムを剥がし25℃×90RH%環境下にて2日間静置した。
2日間静置後に上記実施例及び比較例で作製した粘着シート1~9(粘着シート厚み150μm、図1のOCA)の片面の剥離フィルムを剥がし、その露出面にPETフィルム(東洋紡社製、コスモシャインA4100、100μm)をハンドローラーにて貼着した。
次に、前記PETフィルム付き粘着シートを30mm×30mmに切り出した後、残る剥離フィルムを剥がして、図1の層構成となるように偏光フィルムをハンドローラーにて貼着した。貼合品を60℃×0.2MPa環境下で20分間オートクレーブ処理した。更に、PETフィルムを介して、波長365nmの積算光量が8000mJ/cm2となるよう高圧水銀ランプにて紫外線を照射し、紫外線架橋させて、耐黄変信頼性評価用サンプルを作製した(図1参照)。
【0116】
この耐黄変信頼性評価用サンプルを25℃×90%RHで2日間静置した後、アセトンを用いて耐黄変信頼性評価用サンプルから偏光フィルムに用いられているPVA層のみを分離させ、PVA層が黄変しているかを目視にて確認した。
【0117】
耐黄変信頼性について、PVA層の外観が黄色くなったものを「×(poor)」、変色がないものを「○(good)」と判定した。結果は表1に示す。
【0118】
下述する比較例に示す通り、上記市販の偏光フィルムは、分子間水素引き抜き型開始剤を含む粘着剤により黄変するものであるが、当該黄変の程度を定量化するために、比較例1における耐黄変信頼性評価用サンプルの変色部(端部)における偏光子の吸光度を以下のように測定したところ3.5以上であった。ここから、耐黄変信頼性試験で×の評価である比較例1の吸光度が3.5以上であるため、耐黄変信頼性試験で〇の評価である実施例の吸光度はこれよりも低いことがわかる。
【0119】
(偏光子の吸光度)
測定装置として、紫外可視近赤外分光光度計(島津製作所社製「SolidSpec-3700DUV」)を使用し、以下の測定条件に基づき、分光器からの光をそのまま入れ、偏光フィルム2枚(1枚はブランクの偏光フィルムであり、もう1枚が上記耐黄変信頼性評価用サンプルである。)を直交させて重ねて吸光度を測定した。
【0120】
<測定条件>
・スリット幅 5nm
・測定速度 低速
・光源 重水素ランプ 310nm以下、ハロゲンランプ 310nm以上
・検出器 PMT (870nm以下)
・付属装置 大型試料室 積分球(60mmφ)スペクトラロン
・入射角 0°(透過測定)
【0121】
(2)耐発泡信頼性
実施例3及び4で作製した透明両面粘着シート3及び4(厚み150μm)の片面の剥離フィルムを剥がしソーダライムガラス板(54×82mm、厚み0.55mm)にハンドロールにて貼合した(図2の(a))。その後図2の(b)、(c)のようにフィルム側から1mm及び2mmのスタンプ跡を作製した。更に、残った剥離フィルムを剥がし、図2の(d)のように偏光フィルム付き化学強化ガラス板(54×82mm、厚み0.55mm)をそらせながらハンドロールで貼合した。
次に、貼合品を60℃×0.2MPa環境下で20分間オートクレーブ処理した。このサンプルを、PETフィルムを介して、波長365nmの積算光量が3000mJ/cm2となるよう高圧水銀ランプにて紫外線を照射し、85℃の環境下に6時間静置後の外観を目視にて確認した。その結果、いずれのサンプルも気泡の発生が認められなかった。
【0122】
(3)総合評価
上記耐黄変信頼性、耐発泡信頼性の評価結果を基に、以下の評価基準で総合評価を行った。
◎・・・「〇」が2つである
〇・・・「〇」が1つである
×・・・「〇」がない
【0123】
【表1】
【0124】
(評価結果)
実施例1~6の粘着シートは光重合開始剤として分子内水素引き抜き型開始剤(A)を含有することで、偏光フィルムの耐黄変信頼性に優れるものであった。
【0125】
一方、光重合開始剤として分子間水素引き抜き型開始剤であるベンゾフェノン構造を有する比較例1~3のサンプルは偏光フィルムの黄変を発生させることが分かった。
【0126】
また、実施例3及び4のように上記化合物(C)を含有するものは耐黄変信頼性と耐発泡信頼性を兼備できることが確認された。
【0127】
なお、偏光フィルムの種類によって黄変すること、すなわち、分子間水素引き抜き型開始剤を含む粘着剤組成物を使用しても黄変しない偏光フィルムも存在することを確かめるために上記の偏光フィルムとは別の市販の偏光フィルムを準備した。
当該偏光フィルムを用いて、上記の耐黄変信頼性と同様の試験を行ったが、比較例1の粘着剤を使用しても当該偏光フィルムは黄変しなかった。
以上から、そのメカニズムは不明であるが、偏光フィルムの黄変には、偏光フィルムの種類によること、また、水素引き抜き型開始剤が影響すること、とりわけ、分子間水素引き抜き型開始剤を含む粘着剤を使用すると変色する偏光フィルムに対して、当該開始剤に代えて分子内水素引き抜き型開始剤(A)を用いることが有効であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明の粘着剤層付き偏光フィルムは、粘着剤層が偏光フィルムに対する耐黄変信頼性を有するため、各種部材を貼り合わせるのに好適である。とりわけ、タッチパネルを有する画像表示装置用として好適に用いることができる。
図1
図2