(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】組成物、熱硬化性組成物及びその硬化物、並びに硬化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 18/80 20060101AFI20241001BHJP
C08G 18/50 20060101ALI20241001BHJP
C08G 18/38 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
C08G18/80
C08G18/50 072
C08G18/38 063
(21)【出願番号】P 2020173146
(22)【出願日】2020-10-14
【審査請求日】2023-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】橘 優雅
(72)【発明者】
【氏名】宮本 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】熊木 尚
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-231729(JP,A)
【文献】特開2010-116452(JP,A)
【文献】特開2019-094462(JP,A)
【文献】特開2001-098246(JP,A)
【文献】特開昭55-164825(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00-18/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシ基及びジスルフィド結合を有する化合物と、
光ラジカル発生剤と、
ブロックイソシアネート化合物と、を含有
し、
前記ヒドロキシ基及びジスルフィド結合を有する化合物が、複数個のヒドロキシ基を有し、
前記ブロックイソシアネート化合物が、ブロックされたイソシアネート基を2個以上有する多官能ブロックイソシアネート化合物である、組成物。
【請求項2】
前記ヒドロキシ基及びジスルフィド結合を有する化合物が、ジスルフィド結合及びチオール基を有する化合物とヒドロキシ基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物との反応生成物、ジスルフィド結合及びチオール基を有する化合物とエポキシ基を有する化合物との反応生成物、並びに、ジスルフィド結合及びカルボキシ基を有する化合物とエポキシ基を有する化合物との反応生成物からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
パターン膜の形成に用いられる、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
接着剤に用いられる、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物に光を照射して、前記組成物を軟化させることによって、前記組成物の軟化物を形成する工程と、
前記軟化物を加熱により硬化させて、硬化物を形成する工程と、を備える、硬化物の製造方法。
【請求項6】
光ラジカル発生剤によるヒドロキシ基及びジスルフィド結合を有する化合物の光反応生成物、並びに
ブロックイソシアネート化合物を含有
し、
前記ヒドロキシ基及びジスルフィド結合を有する化合物が、複数個のヒドロキシ基を有し、
前記ブロックイソシアネート化合物がブロックされたイソシアネート基を2個以上有する多官能ブロックイソシアネート化合物である、熱硬化性組成物。
【請求項7】
前記ヒドロキシ基及びジスルフィド結合を有する化合物が、ジスルフィド結合及びチオール基を有する化合物とヒドロキシ基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物との反応生成物、ジスルフィド結合及びチオール基を有する化合物とエポキシ基を有する化合物との反応生成物、並びに、ジスルフィド結合及びカルボキシ基を有する化合物とエポキシ基を有する化合物との反応生成物からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項6に記載の熱硬化性組成物。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の熱硬化性組成物の硬化物。
【請求項9】
請求項6又は7に記載の熱硬化性組成物を加熱により硬化させて、硬化物を形成する工程を備える、硬化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、組成物、熱硬化性組成物及びその硬化物、並びに硬化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光照射によって軟化する光軟化性組成物は、様々な用途に用いられている。例えば、特許文献1には、光軟化性樹脂組成物からなる光軟化性樹脂を有する記録部材を備える画像形成装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一側面は、光照射によって軟化した後に硬化させることができる組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面は、ヒドロキシ基及びジスルフィド結合を有する化合物と、光ラジカル発生剤と、ブロックイソシアネート化合物と、を含有する、組成物に関する。
【0006】
このような組成物は、ヒドロキシ基及びジスルフィド結合を有する化合物と、光ラジカル発生剤と、ブロックイソシアネート化合物と、を含有するため、光照射によって軟化した後に硬化させることができる。
【0007】
上記組成物において、ヒドロキシ基及びジスルフィド結合を有する化合物は、ジスルフィド結合及びチオール基を有する化合物とヒドロキシ基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物との反応生成物、ジスルフィド結合及びチオール基を有する化合物とエポキシ基を有する化合物との反応生成物、並びに、ジスルフィド結合及びカルボキシ基を有する化合物とエポキシ基を有する化合物との反応生成物からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてよい。
【0008】
上記組成物は、パターン膜の形成に用いられてよい。上記組成物は、接着剤に用いられてよい。
【0009】
本発明の他の一側面は、上記組成物に光を照射して、組成物を軟化させることによって、組成物の軟化物を形成する工程と、軟化物を加熱により硬化させて、硬化物を形成する工程と、を備える、硬化物の製造方法に関する。
【0010】
本発明の他の一側面は、光ラジカル発生剤によるヒドロキシ基及びジスルフィド結合を有する化合物の光反応生成物、並びにブロックイソシアネート化合物を含有する、熱硬化性組成物に関する。本発明の他の一側面は、熱硬化性組成物の硬化物に関する。
【0011】
本発明の他の一側面は、上記熱硬化性組成物を加熱により硬化させて、硬化物を形成する工程と、を備える、硬化物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一側面によれば、光照射によって軟化した後に硬化させることができる組成物を提供することができる。本発明の一側面によれば、上記組成物を用いた硬化物の製造方法を提供することができる。本発明の一側面によれば、上記組成物を用いた熱硬化性組成物及びその硬化物並びに該硬化物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本明細書において、「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。また、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0015】
また、本明細書において、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。また、例示材料は特に断らない限り単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
また、本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。「A又はB」とは、AとBとのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。(メタ)アクリロイル基は、アクリロイル基又はメタクリロイル基を意味する。(メタ)アクリル酸は、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。(メタ)アクリレートは、アクリレート又は対応するメタクリレートを意味する。
【0017】
一実施形態の組成物は、ヒドロキシ基及びジスルフィド結合を有する化合物(以下「(A)成分」ともいう。)と、光ラジカル発生剤(以下「(B)成分」ともいう。)と、ブロックイソシアネート化合物(以下「(C)成分」ともいう。)と、を含有する。当該組成物は、膜状(フィルム状)、ブロック状等の固体状であってよい。膜状(フィルム状)又はブロック状に形成する方法は、特に制限されず、公知の方法を適用することができる。
【0018】
(A)成分:ヒドロキシ基及びジスルフィド結合を有する化合物
(A)成分は、特に制限されないが、例えば、ポリマー又はオリゴマーの高分子量成分であってよい。(A)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
(A)成分は、分子内に複数個(2個以上)のヒドロキシ基を有していてよい。(A)成分の分子内に含まれるヒドロキシ基の数は、例えば、1個以上、又は5個以上であってよく、100個以下、又は50個以下であってよい。
【0020】
(A)成分は、分子内に複数(2個以上)のジスルフィド結合(ジスルフィド基)を有していてよい。(A)成分の分子内に含まれるジスルフィド結合の数は、例えば、1個以上、又は3個以上であってよく、100個以下、又は50個以下であってよい。
【0021】
(A)成分は、より一層軟化させやすい観点から、例えば、ヒドロキシ基が直接結合した直鎖状の分子鎖を有し、当該分子鎖中にジスルフィド結合(-S-S-)を有するポリマーであってよい。直鎖状の分子鎖は、直鎖状炭化水素基を含んでいてよい。直鎖状の分子鎖は、エステル結合(-C(=O)-O-)及びエーテル結合(-O-)からなる群より選択される1以上を更に含んでいてよい。
【0022】
(A)成分の分子量又は重量平均分子量は、100以上又は10000000以上であってよく、10000以下又は1000000以下であってもよい。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)で標準ポリスチレンによる検量線を用いたポリスチレン換算値である。
【0023】
(A)成分の含有量は、組成物の全質量を基準として、0.5質量%以上、又は10質量%以上であってよく、99.5質量%以下、又は90質量%以下であってよい。
【0024】
(A)成分は、例えば、ジスルフィド結合及び活性水素基を有する化合物(以下、「(A-1)成分」という場合がある。)と、ヒドロキシ基及び活性水素基と反応可能な置換基を有する化合物(以下、「(A-2a)成分」という場合がある。)、又はエポキシ基を有する化合物(以下、「(A-2b)成分」という場合がある。)とを反応させることによって得られる共重合体を含んでいてよい。(A-1)成分の単量体単位と、(A-2a)成分の単量体単位又は(A-2b)成分の単量体単位を含む共重合体であってよい。
【0025】
(A-1)成分は、ジスルフィド結合及び活性水素基を有する化合物である。活性水素基としては、例えば、チオール基、カルボキシ基、アミノ基、イミノ基が挙げられる。(A-1)成分は、安価に入手しやすい観点、透明性を向上させやすい観点等から、ジスルフィド結合及びチオール基を有する化合物であってよい。
【0026】
(A-1)成分は、活性水素基を複数個(2個以上)有していてよい。(A-1)成分中の活性水素基数は、例えば、1~3であってよく、2であってよい。
【0027】
(A-1)成分の分子量又は重量平均分子量は、100~10000000、1000~2000000、又は2500~1000000であってよい。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)で標準ポリスチレンによる検量線を用いたポリスチレン換算値である。
【0028】
(A-1)成分は、直鎖状の分子鎖と末端基とを有し、当該分子鎖中にジスルフィド結合を有する化合物(例えば、ポリマー又はオリゴマー)であってよい。この場合、(A-1)成分中の末端基が活性水素基であってよい。(A-1)成分がこのような化合物である場合、優れた光軟化性を有する硬化物をより一層形成しやすくなる。(A-1)成分中の分子鎖は、ジスルフィド結合とポリエーテル鎖とを含んでいてよく、ジスルフィド結合とポリエーテル鎖とからなっていてよい。
【0029】
(A-1)成分は、式(1):X-(A-S-S)n1-A-Xで表される化合物であってよい。式中、Xは活性水素基を示し、Aはポリエーテル鎖を示す。複数存在するX及びAは、それぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。n1は、1以上の整数を示す。n1は、例えば、2以上、又は4以上であってよく、100以下、又は50以下であってもよい。
【0030】
Aとしてのポリエーテル鎖は、例えば、ポリオキシアルキレン鎖であってよい。Aとしてのポリエーテル鎖は、例えば、-A1-O-A2-O-A3-で表される基であってよい。A1~A3は、それぞれ独立に、アルキレン基であってよく、炭素数1~2のアルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基)であってよい。Aとしてのポリエーテル鎖の具体例としては、例えば、-CH2CH2-O-CH2-O-CH2CH2-等が挙げられる。
【0031】
(A-1)成分としては、例えば、チオコールLPシリーズ(ジスルフィド結合を有するジチオール、東レ・ファインケミカル株式会社製)、3,3’-ジチオジプロピオン酸(東京化成工業株式会社製)等が挙げられる。これらの(A-1)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
(A-2a)成分は、ヒドロキシ基及び活性水素基と反応可能な置換基を有する化合物である。活性水素基と反応可能な置換基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基が挙げられる。(A-2)成分は、安価に入手しやすい観点、透明性を向上させやすい観点等から、ヒドロキシ基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物であってよい。
【0033】
(A-2a)成分は、活性水素基と反応可能な置換基を複数個(2個以上)有していてよい。(A-2a)成分中の活性水素基と反応可能な置換基数は、例えば、1~3であってよく、2であってよい。
【0034】
ヒドロキシ基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、ブタンジオールモノアクリレート、ブチルグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物(長瀬産業製デナコール(登録商標)DA-151)、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリセロールモノメタクリレート(日油製ブレンマー(登録商標)GLM)、グリセロールモノアクリレート、グリセリンジメタクリレート(日油製ブレンマーGMRシリーズ)、グリセロールトリアクリレート(長瀬ケムテックス製EX-314)、2-ヒドロキシエチルアクリレート(日本触媒製BHEA)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(日本触媒製HEMA)、2-ヒドロキシプロピルアクリレート(日本触媒製HPA)、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート(日本触媒製HPMA)、カプロラクトン変性2-ヒドロキシエチルアクリレート、カプロラクトン変性2-ヒドロキシエチルメタアクリレート、フェノキシヒドロキシプロピルアクリレート(共栄社化学製M-600A)、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート(共栄社化学製G-201P)、日本化薬製カヤラッド(登録商標)R-167、トリグリセロールジアクリレート(共栄社化学製エポキシエステル80MFA)、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、2-アクリロイロキシエチルコハク酸、2-アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-アクリロイロキシエチルフタル酸、2-アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチルフタル酸、2-アクリロイロキシエチルアシッドフォスフェート、2-メタクリロイロキシエチルアシッドフォスフェート、2-メタクリロイロキシエチルコハク酸、2-メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸、4-(2-アクリロイロキシエチ-1-イロキシ)ベンゾイックアシッド、4-(3-アクリロイロキシ-n-プロプ-1-イロキシ)ベンゾイックアシッド、4-(2-メタクリロイロキシエチ-1-イロキシ)ベンゾイックアシッド、4-(4-アクリロイロキシ-n-ブチ-1-イロキシ)ベンゾイックアシッド、4-(6-アクリロイロキシ-n-ヘキシ-1-イロキシ)ベンゾイックアシッド、4-(6-アクリロイロキシ-n-ヘキシ-1-イロキシ)-2-メチルベンゾイックアシッド、4-(6-メタクリロイロキシ-n-ヘキシ-1-イロキシ)ベンゾイックアシッド、4-(10-アクリロイロキシ-n-デシ-1-イロキシ)ベンゾイックアシッド、2-アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、2-メタクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェートが挙げられる。
【0035】
(A-2a)成分に対する(A-1)成分のモル比は、例えば、100:10~100:300又は100:50~100:200であってもよい。
【0036】
(A-1)成分と、(A-2a)成分との好適な組み合わせは、例えば、ジスルフィド結合及びチオール基を有する化合物と、ヒドロキシ基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物との組み合わせである。
【0037】
(A-2b)成分は、エポキシ基を有する化合物である。(A-2b)成分には、エポキシ樹脂を用いることができる。
【0038】
(A-2b)成分は、エポキシ基を複数個(2個以上)有していてよい。(A-2b)成分中のエポキシ基数は、例えば、1~3であってよく、2であってよい。
【0039】
エポキシ樹脂の種類は特に制限されず、組成物の所望の特性等に応じて選択できる。エポキシ樹脂として具体的には、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール化合物及びα-ナフトール、β-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のフェノール性化合物と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等の脂肪族アルデヒド化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化したものであるノボラック型エポキシ樹脂(フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等);上記フェノール性化合物と、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等の芳香族アルデヒド化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるトリフェニルメタン型フェノール樹脂をエポキシ化したものであるトリフェニルメタン型エポキシ樹脂;上記フェノール化合物及びナフトール化合物と、アルデヒド化合物とを酸性触媒下で共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化したものである共重合型エポキシ樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のジグリシジルエーテルであるジフェニルメタン型エポキシ樹脂;アルキル置換又は非置換のビフェノールのジグリシジルエーテルであるビフェニル型エポキシ樹脂;スチルベン系フェノール化合物のジグリシジルエーテルであるスチルベン型エポキシ樹脂;ビスフェノールS等のジグリシジルエーテルである硫黄原子含有エポキシ樹脂;ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルコール類のグリシジルエーテルであるエポキシ樹脂;フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸等の多価カルボン酸化合物のグリシジルエステルであるグリシジルエステル型エポキシ樹脂;アニリン、ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸等の窒素原子に結合した活性水素をグリシジル基で置換したものであるグリシジルアミン型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエンとフェノール化合物の共縮合樹脂をエポキシ化したものであるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;分子内のオレフィン結合をエポキシ化したものであるビニルシクロヘキセンジエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシ)シクロヘキシル-5,5-スピロ(3,4-エポキシ)シクロヘキサン-m-ジオキサン等の脂環型エポキシ樹脂;パラキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるパラキシリレン変性エポキシ樹脂;メタキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるメタキシリレン変性エポキシ樹脂;テルペン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるテルペン変性エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるジシクロペンタジエン変性エポキシ樹脂;シクロペンタジエン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるシクロペンタジエン変性エポキシ樹脂;多環芳香環変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルである多環芳香環変性エポキシ樹脂;ナフタレン環含有フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるナフタレン型エポキシ樹脂;ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂;ハイドロキノン型エポキシ樹脂;トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂;オレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂;フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂をエポキシ化したものであるアラルキル型エポキシ樹脂;などが挙げられる。さらにはシリコーン樹脂のエポキシ化物、アクリル樹脂のエポキシ化物等もエポキシ樹脂として挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
(A-2b)成分に対する(A-1)成分のモル比は、例えば、100:10~100:300又は100:50~100:200であってよい。
【0041】
(A-1)成分と、(A-2b)成分との好適な組み合わせは、例えば、ジスルフィド結合及びチオール基を有する化合物と、エポキシ基を有する化合物との組み合わせ、又はジスルフィド結合及びカルボキシ基を有する化合物と、エポキシ基を有する化合物との組み合わせである。
【0042】
(A-1)成分と(A-2a)成分又は(A-2b)成分とを反応させて、(A)成分である共重合体を得る場合、これらの成分の反応割合は、各成分の官能基及び/又は置換基当量に基づいて、適宜選択することができる。各成分の反応は、加熱しながら行ってもよい。反応温度は、例えば、0~200℃であってよく、反応時間は、例えば、0.1~240時間であってよい。
【0043】
(A-1)成分と(A-2a)成分又は(A-2b)成分とを反応させる場合、必要に応じて、硬化触媒(以下、「(A-3)成分」という場合がある。)を用いてもよい。(A-3)成分は、(A-3)成分の官能基の種類及び(A-3)成分の置換基の種類に合わせて、任意に選択することができる。(A-3)成分として、チオール基を官能基として有する化合物と、(A-3)成分として、ヒドロキシ基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物とを反応させる場合、(A-3)成分は、例えば、アミン系硬化触媒であってよい。
【0044】
アミン系硬化触媒としては、例えば、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン(TEDA)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)、1-イソブチル-2-メチルイミダゾール(IBN)等が挙げられる。
【0045】
(A-3)成分の含有量は、(A-1)成分、(A-2a)成分及び(A-2b)成分の総質量を基準として、0.005~10質量%、0.01~5質量%、又は0.02~3質量%であってよい。
【0046】
(A)成分は、(A-1)成分と(A-2a)成分、又は(A-2b)成分との反応生成物を含んでいてよい。(A)成分は、ジスルフィド結合及びチオール基を有する化合物とヒドロキシ基及び(メタ)アクリロイル基を有するとの反応生成物、ジスルフィド結合及びチオール基を有する化合物とエポキシ基を有する化合物との反応生成物、並びに、ジスルフィド結合及びカルボキシ基を有する化合物とエポキシ基を有する化合物との反応生成物からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてよく、ジスルフィド結合及びチオール基を有する化合物とヒドロキシ基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物との反応生成物からなっていてもよい。
【0047】
(B)成分:光ラジカル発生剤
(B)成分は、組成物に光を照射したときに、発生するチイルラジカルと反応する成分又は光誘起ラジカルを発生する成分であり得る。光ラジカル発生剤としては、光ラジカル重合開始剤等を用いることができる。
【0048】
(B)成分としては、例えば、分子内開裂型の光ラジカル重合開始剤、水素引き抜き型の光ラジカル重合開始剤等が挙げられる。分子内開裂型の光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンジルケタール系光ラジカル重合開始剤;α-ヒドロキシアセトフェノン系光ラジカル重合開始剤;ベンゾイン系光ラジカル重合開始剤;アミノアセトフェノン系光ラジカル重合開始剤;オキシムケトン系光ラジカル重合開始剤;アシルホスフィンオキシド系光ラジカル重合開始剤;チタノセン系光ラジカル重合開始剤;チオ安息香酸S-フェニル重合開始剤;これらの高分子量誘導体等が挙げられる。水素引き抜き型の光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン系光ラジカル開始剤、チオキサントン系光ラジカル重合開始剤、アントラキノン系光ラジカル重合開始剤等が挙げられる。
【0049】
(B)成分の含有量は、ヒドロキシ基及びジスルフィド結合を有する化合物100質量部に対して、5質量部以上、10質量部以上、又は15質量部以上であってよく、50質量部以下、40質量部以下、30質量部以下、又は25質量部以下であってよい。
【0050】
(B)成分の含有量は、組成物の全質量を基準として、例えば、1~30質量%、又は4~20質量%であってよい。
【0051】
(C)成分:ブロックイソシアネート化合物
ブ(C)成分は、ブロックされたイソシアネート基(ブロックイソシアネート基)を有する化合物である。ブロックイソシアネート基は、イソシアネート基が保護基によりブロックされた基である。ブロックされたイソシアネート基は、加熱すると、保護基(ブロック部分)が熱解離して外れ、イソシアネート基を生じる。
【0052】
(C)成分は、ブロックイソシアネート基を2個以上有する多官能ブロックイソシアネート化合物であってよい。(C)成分は、例えば、イソシアネート基を有する化合物と、ブロック剤とを反応させることを含む方法によって製造することができる。
【0053】
ブロック剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、ヘプタノール、ヘキサノール、2-エトキシヘキサノール、シクロヘキサノール、オクタノール、イソノニルアルコール、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、2-エトキシエタノール、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸アミル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、N,N-ジメチルアミノエタノール、N,N-ジエチルアミノエタノール、N,N-ジブチルアミノエタノール等のアルコール類、フェノール、エチルフェノール、プロピルフェノール、ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ニトロフェノール、クロロフェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、キシレノール等のフェノール類、α-ピロリドン、β-ブチロラクタム、β-プロピオラクタム、γ-ブチロラクタム、δ-バレロラクタム、ε-カプロラクタム等のラクタム類、アセトンオキシム、メチルエチルケトンオキシム、メチルイソブチルケトンオキシム、ジエチルケトンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、アセトフェノンオキシム、ベンゾフェノンオキシム等のオキシム類、ピラゾール、3,5-ジメチルピラゾール、3-メチルピラゾール、4-ベンジル-3,5-ジメチルピラゾール、4-ニトロ-3,5-ジメチルピラゾール、4-ブロモ-3,5-ジメチルピラゾール、3-メチル-5-フェニルピラゾール等のピラゾール類、ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、ベンゼンチオール等のメルカプタン類、マロン酸ジエステル、アセト酢酸エステル、マロン酸ジニトリル、アセチルアセトン、メチレンジスルホン、ジベンゾイルメタン、ジピバロイルメタン、アセトンジカルボン酸ジエステル等の活性メチレン系化合物類、ジブチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ-tert-ブチルアミン、ジ(2-エチルヘキシル)アミン、ジシクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、ジフェニルアミン、アニリン、カルバゾール等のアミン類、イミダゾール、2-エチルイミダゾール等のイミダゾール類、メチレンイミン、エチレンイミン、ポリエチレンイミン、プロピレンイミン等のイミン類、アセトアニリド、アクリルアミド、酢酸アミド、ダイマー酸アミド等の酸アミド類、コハク酸イミド、マレイン酸イミド、フタル酸イミド等の酸イミド類、尿素、チオ尿素、エチレン尿素等の尿素化合物類を挙げることができる。ブロックイソシアネート化合物は、ウレトジオン結合(イソシアネート基の2量化)による内部ブロック型であってもよい。
【0054】
(C)成分の市販品としては、例えば、下記製品を挙げることができる。
【0055】
タケネート〔登録商標〕B-815N、同B-830、同B-842N、同B-846N、同B-870、同B-870N、同B-874、同B-874N、同B-882、同B-882N、同B-5010、同B-7005、同B-7030、同B-7075(以上、三井化学(株)製)。
【0056】
デュラネート〔登録商標〕ME20-B80S、同MF-B60B、同MF-B60X、同MF-B90B、同MF-K60B、同MF-K60X、同SBN-70D、同17B-60P、同17B-60PX、同TPA-B80E、同TPA-B80X、同E402-B80B、同E402-B80T、同K6000(以上、旭化成ケミカルズ(株)製)。
【0057】
コロネート〔登録商標〕2503、同2507、同2512、同2513、同2515、同2520、同2554、同BI-301、同AP-M、ミリオネートMS-50(以上、東ソー(株)製)。
【0058】
バーノック〔登録商標〕D-500、同D-550、同DB-980K(以上、DIC(株)製)。
【0059】
スミジュール〔登録商標〕BL-3175、同BL-4165、同BL-4265、同BL-1100、同BL-1265、デスモジュール〔登録商標〕TPLS-2957、同TPLS-2062、同TPLS-2078、同TPLS-2117、同BL-3475、デスモサーム〔登録商標〕2170、同2265(以上、住化バイエルウレタン(株)製)。
【0060】
TRIXENE BI-7641、同BI-7642、同BI-7986、同BI-7987、同BI-7950、同BI-7951、同BI-7960、同BI-7961、同BI-7963、同BI-7981、同BI-7982、同BI-7984、同BI-7986、同BI-7990、同BI-7991、同BI-7992、同BI-7770、同BI-7772、同BI-7779、同DP9C/214(以上、バクセンデンケミカルズ社製)。
【0061】
VESTANAT〔登録商標〕B1358A、同B1358/100、同B1370、VESTAGON〔登録商標〕B1065、同B1400、同B1530、同BF1320、同BF1540(以上、エボニックインダストリーズ社製)。
【0062】
ブロックイソシアネート化合物としては、ブロックイソシアネート基を有する(メタ)アクリレートを単量体単位として含むホモポリマー又はコポリマーを挙げることができる。当該ホモポリマー又はコポリマーは、例えばラジカル重合により得ることができる。ここで、コポリマーとは、2種以上のモノマーを重合して得られるポリマーを意味する。コポリマーは、ブロックイソシアネート基を有する2種以上の(メタ)アクリレートを重合して得られるコポリマーであってもよいし、ブロックイソシアネート基を有する(メタ)アクリレート及びその他の(メタ)アクリレートを重合して得られるコポリマーであってもよい。このようなブロックイソシアネート基を有する(メタ)アクリレートの市販品としては、例えば、昭和電工(株)製カレンズ〔登録商標〕MOI-BM、同AOI-BM、同MOI-BP、同AOI-BP、同MOI-DEM、同MOI-CP、同MOI-MP、同MOI-OEt、同MOI-OBu、同MOI-OiPrを挙げることができる。
【0063】
(C)成分は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
(A)成分のヒドロキシ基に対する(C)成分のブロックされているイソシアネート基の当量比(モル比)(NCO基/OH基)は、例えば、100:10~100:300又は100:50~100:200であってよい。
【0065】
(D)成分:溶剤
組成物は、溶剤(以下「(D)成分」ともいう。)で希釈された組成物のワニスとして用いてよい。(D)成分としては、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン、クメン、p-シメン等の芳香族炭化水素;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;メチルシクロヘキサン等の環状アルカン;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等の環状エーテル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、γ-ブチロラクトン等のエステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の炭酸エステル;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のアミドなどが挙げられる。(D)成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
ワニス中の固形分の含有量、つまり、ワニス中の溶剤以外の合計含有量は、ワニスの全質量を基準として、1質量%以上であってよく、99質量%以下であってよい。
【0067】
組成物は、(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分以外のその他の成分を更に含んでいてもよい。組成物は、その他の成分としては、例えば、カップリング剤等の密着性向上剤、重合禁止剤、光安定剤、消泡剤、フィラー、連鎖移動剤、チキソトロピー付与剤、難燃剤、離型剤、界面活性剤、滑剤、帯電防止剤などの添加剤を含有していてもよい。その他の成分の含有量の総量は、組成物全量を基準として、0~95質量%、0.01~50質量%、又は0.1~10質量%であってよい。
【0068】
組成物は、例えば、(A)成分、(B)成分及び(C)成分、並びに必要により(D)成分及び/又はその他の成分を混合又は混練する工程を備える方法によって調製することができる。混合又は混錬する工程において、溶剤を用いる場合、混合又は混錬する工程後に、溶剤を揮発させる工程を更に含んでいてもよい。混合及び混練は、通常の撹拌機、らいかい機、三本ロール、ボールミル、ビーズミル等の分散機を適宜、組み合わせて行うことができる。
【0069】
本実施形態に係る組成物及びその塗膜は、光照射によって、組成物中のジスルフィド結合(-S-S-)が切断され、ジスルフィド結合を有する化合物が低分子量化して軟化する性質を有している。軟化した組成物中には、ヒドロキシ基を有する光反応生成物と、ブロックイソシアネート化合物が含まれるため、軟化した組成物は、加熱によりウレタン化反応が進行して硬化する性質を有している。軟化した組成物は、熱硬化性組成物ということもできる。
【0070】
光照射における光は、光ラジカル発生剤の種類等に応じて、適宜選択してよい。光照射における光は、例えば、紫外光又は可視光であってよい。光照射における光の波長は、150~830nmであってよい。光照射は、例えば、光照射装置を用いて、照射量100mJ/cm2以上の条件で行うことができる。なお、照射量とは、照度と照射時間(秒)との積を意味する。また、紫外光又は可視光照射用の光源としては、例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、LEDランプ等が挙げられる。光照射は、組成物に対して直接行ってもよく、ガラス等を介して行ってもよい。
【0071】
組成物の光照射は、加熱しながら行ってもよい。加熱条件は、例えば、ブロックイソシアネート化合物の保護基(ブロック部分)が熱解離する温度等に応じて適宜調整することができる。光照射する際の加熱温度は、例えば、40~90℃であってよい。
【0072】
(A)成分と、(B)成分との光反応によって、(A)成分中のジスルフィド結合が開裂する。これによって、ヒドロキシ基を有する化合物を含む光反応生成物が生じる。本実施形態に係る熱硬化性組成物は、光ラジカル発生剤によるヒドロキシ基及びジスルフィド結合を有する化合物の光反応生成物、並びに、ブロックイソシアネート化合物を含有する。光反応生成物は、ジスルフィド結合を有する化合物を含んでいてもよい。つまり、(A)成分と、(B)成分との光反応によって、(A)成分中のすべてのジスルフィド結合が開裂していなくてもよい。光反応生成物は、光ラジカル発生剤に由来する構造を有していてもよい。
【0073】
熱硬化性組成物を硬化させることによって、硬化物が形成される。硬化物は、光反応生成物中のヒドロキシ基と、ブロックイソシアネート化合物から生じるイソシアネート基との反応によるウレタン化反応生成物である。硬化物は、熱硬化性組成物を加熱により硬化させて、硬化物を形成する工程を備える方法によって製造することができる。フィルム状に形成された硬化物は、硬化膜として用いることができる。硬化物の製造方法の一実施形態として、上記組成物に光を照射して、組成物を軟化させることによって、組成物の軟化物を形成する工程と、軟化物を加熱により硬化させて、硬化物を形成する工程と、を備える、硬化物の製造方法が提供される。
【0074】
組成物を軟化後に硬化する際の加熱温度(硬化温度)は、例えば、ブロックイソシアネート化合物の保護基(ブロック部分)が熱解離する温度以上であってよい。硬化温度は、例えば、100℃以上、又は140℃以上であってよく、200℃以下であってよい。上記硬化温度に保持する時間は、例えば、10分間以上であってよく、100分間以下であってよい。
【0075】
本実施形態に係る組成物及びその塗膜は、軟化する性質と、軟化後に硬化する性質とを有するため、例えば、形状追従性(段差追従性等)、浸み込み、濡れ性向上及びパターニングにおいて有利な効果が期待される。
【0076】
組成物の25℃の貯蔵弾性率は、微粘着性又は無粘着性、増粘性、スリット加工性、打ち抜き加工性、遮蔽性に優れる観点から、1kPa以上であってよく、1000kPa以下であってもよい。
【0077】
軟化した組成物(熱硬化性組成物)の25℃の貯蔵弾性率は、折り曲げ性、成形性、耐応力性、防湿性、リペア性等に優れる観点から、500kPa以下であってよく、0.001kPa以上であってもよい。
【0078】
軟化した組成物の硬化物(熱硬化性組成物の硬化物)の25℃の貯蔵弾性率は、接着性、スリット加工性、打ち抜き加工性、遮蔽性、種々の溶剤及び/又は燃料油、酸、アルカリに対する抵抗性に優れる観点から、1kPa以上であってよく、10000kPa以下であってもよい。軟化した組成物の硬化物(熱硬化性組成物の硬化物)の25℃の貯蔵弾性率は、例えば、(A)成分中のヒドロキシ基に対する(C)成分中のブロックされているイソシアネート基のモル比等を制御することによって調整することができる。
【0079】
本明細書において、25℃の貯蔵弾性率は、実施例に記載の方法で測定される値を意味する。
【0080】
本実施形態に係る組成物は、例えば、フォトリソグラフィーのフォトレジスト剤の用途に応用することができる。本実施形態に係る組成物は、光照射(露光)によってパターニングが可能となり、さらには光照射(露光)後に、例えば、水洗で現像が可能となる。本実施形態に係る組成物は、パターン膜の形成に好適に用いることができる。
【0081】
本実施形態に係る組成物は、接着剤に用いることができる。本実施形態に係る組成物は、接着剤であってよい。上述した各成分は、例えば、接着剤セットの態様で用いることもできる。本実施形態に係る接着剤セットは、(A)成分を含有する第1液及び(B)成分を含有する第2液を含み、第1液及び第2液の少なくとも一方が(C)成分を更に含むものであってよい。接着剤セットによれば、第1液及び第2液を混合することによって、(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含む接着剤組成物を得ることができる。
【0082】
本実施形態に係るフィルムは、上述した組成物を含む。フィルムは、例えば、(A)成分、(B)成分及び(C)成分と、溶剤とを含む液状の組成物から溶剤を揮発させて、膜状のフィルムを形成する工程を含む方法によって製造することができる。
【0083】
フィルムの厚さは、特に制限されないが、例えば、1~1000μm、5~800μm、又は10~500μmであってよい。
【0084】
本実施形態に係るフィルムは、例えば、接着剤フィルムとして用いることができる。当該フィルムは、軟化する性質と、軟化後に硬化する性質とを有するフィルムであるため、微細加工及び打ち抜き等の操作をより簡便に行うことができるとともに、形状追従性等の有利な効果も期待される。接着剤フィルムは、例えば、少なくとも一部を軟化させ、その後硬化させることによって、接着することができる。
【0085】
[パターン膜の製造方法]
上述した組成物は、パターン膜の形成に用いることができる。一実施形態のパターン膜は、上述した組成物の塗膜を形成する形成工程と、塗膜の少なくとも一部に光を照射することによってパターニングする露光工程と、パターニングされた塗膜を現像する現像工程と、パターニングされた塗膜を硬化する硬化工程を備える。現像工程は、水洗することによって現像する工程を含んでいてもよい。
【実施例】
【0086】
以下、本発明について実施例を挙げてより具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0087】
300mL四つ口セパラブルフラスコに撹拌羽,熱電対,窒素ラインを接続し,合成装置を準備した。ヒドロキシ基含有ジアクリレート(KAYARAD R-167、日本化薬株式会社製)8.8g、ジスルフィド結合含有ジチオール(チオコールLP-55、東レ・ファインケミカル株式会社製)91.2g、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)0.04g及びトルエン100gをフラスコ内に仕込み、6時間撹拌し合成完了とした。これにより、樹脂分(溶剤以外の成分量)が100.04gであり、ヒドロキシ基及びジスルフィド結合を有する化合物を含むワニス200.04gを得た。
【0088】
ワニス、光ラジカル発生剤(ベンジルケタール、IGM Resins B.V.社製)及びブロックイソシアネート化合物(住友バイエルウレタン株式会社製、スミジュールBL3175)をこの順に規定量はかりとり、よく混合して、これらの混合液を得た。
【0089】
直径29mm厚さ12.5mmの円柱型のくぼみのあるシリコン製の型に混合液を乾燥後の厚みが500μmとなるように流し込んだ。流し込んだ混合液を130℃にて30分乾燥させて、溶媒を揮発させた。これにより、直径29mm、厚さ500μmのフィルム状の試験片を作製した。
【0090】
光照射前、光照射後かつ加熱前、又は、光照射後かつ加熱後の試験片の貯蔵弾性率を測定した。貯蔵弾性率は、粘弾性測定装置(TAインスツルメント製、DISCOVERY HR-2型レオメーター)を用いて、測定温度25℃、周波数1Hz、ひずみ1%で測定した。
【0091】
光照射条件は、LEDランプ(パナソニックデバイスSUNX株式会社製、商品名:Aicure UJ30/ANUJ6186)を用い波長365nm、照度300mW/cm2の条件で60秒照射とした。
【0092】
加熱条件は、25℃から150℃に10℃/minの昇温速度で加温し、150℃到達後20分保温した。
【0093】
光照射前と比較して光照射後かつ加熱前の25℃の貯蔵弾性率が低下した場合、軟化性を有していると判断される。光照射後かつ加熱前と比較して、加熱後の25℃の貯蔵弾性率が上昇した場合、硬化性を有していると判断される。
【0094】
【0095】
表1に示すとおり、実施例1~2の組成物が、光照射によって軟化した後に硬化可能であることが示された。