(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】光学素子、撮像素子及び撮像装置
(51)【国際特許分類】
H01L 27/146 20060101AFI20241001BHJP
H04N 25/10 20230101ALI20241001BHJP
G02B 5/00 20060101ALI20241001BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
H01L27/146 D
H04N25/10
G02B5/00 Z
G02B5/20 101
(21)【出願番号】P 2022557230
(86)(22)【出願日】2020-10-12
(86)【国際出願番号】 JP2020038459
(87)【国際公開番号】W WO2022079757
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮田 将司
(72)【発明者】
【氏名】根本 成
(72)【発明者】
【氏名】中島 光雅
(72)【発明者】
【氏名】橋本 俊和
【審査官】今井 聖和
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-046020(JP,A)
【文献】特開2010-212625(JP,A)
【文献】特開2009-157390(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0348456(US,A1)
【文献】特開2011-043681(JP,A)
【文献】特開2016-170413(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0255289(US,A1)
【文献】特開2017-092190(JP,A)
【文献】特開2019-184986(JP,A)
【文献】特開2020-051868(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0034500(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0045685(US,A1)
【文献】特開2015-152738(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 27/146
H04N 25/10
G02B 5/00
G02B 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の光電変換素子及び第2の光電変換素子を含む画素を覆うための透明層と、
前記透明層上又は前記透明層内において、前記透明層の面方向に配置された複数の構造体と、
を備え、
前記透明層は、
入射した光を前記第1の光電変換素子に導く第1の領域と、
入射した光を前記第2の光電変換素子に導く第2の領域と、
を含み、
前記第1の領域及び前記第2の領域のうちの少なくとも前記第2の領域に前記複数の構造体が配置され、
前記第1の領域は、前記第2の領域よりも小さ
く、
平面視したときに、前記第1の領域は、前記第2の領域の内側に位置していることを特徴とする、
光学素子。
【請求項2】
前記複数の構造体は、前記複数の構造体どうしの間の部分の屈折率よりも高い屈折率を有する柱状構造体であり、
平面視したときに、前記複数の構造体のうちの少なくとも一部の構造体は、互いに異なる幅を有し、
側面視したときに、前記複数の構造体は同じ高さを有することを特徴とする、
請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記複数の構造体は、前記複数の構造体どうしの間の部分の屈折率よりも高い屈折率を有する柱状構造体であり、
前記複数の構造体のうちの少なくとも一部の構造体は、互いに異なる屈折率を有し、
側面視したときに、前記複数の構造体は同じ高さを有することを特徴とする、
請求項1に記載の光学素子。
【請求項4】
前記複数の構造体の各々は、入射した光に対して、平面視したときに当該構造体が有する幅の大きさに応じた光位相遅延量を与え、
前記複数の構造体の各々は、前記第1の領域に入射した光を前記第1の光電変換素子に導くとともに前記第2の領域に入射した光を前記第2の光電変換素子に導くための光位相遅延量分布を与える幅を有することを特徴とする、
請求項1~3のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項5】
前記複数の構造体の各々は、入射した光に対して、当該構造体が有する屈折率の大きさに応じた光位相遅延量を与え、
前記複数の構造体の各々は、前記第1の領域に入射した光を前記第1の光電変換素子に導くとともに前記第2の領域に入射した光を前記第2の光電変換素子に導くための光位相遅延量分布を与える屈折率を有することを特徴とする、
請求項1~4のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項6】
前記光位相遅延量分布は、光を集光するための光位相遅延量分布であることを特徴とする、
請求項4又は5に記載の光学素子。
【請求項7】
前記第1の領域及び前記第2の領域の一方の領域における前記光位相遅延量分布を考慮しない場合、他方の領域における光位相遅延量分布は対称性を有することを特徴とする、
請求項4~6のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項8】
平面視したときに、前記第1の光電変換素子及び前記第2の光電変換素子は、同じサイズを有することを特徴とする、
請求項1~7のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の光学素子と、
各々が前記第1の光電変換素子及び前記第2の光電変換素子を含む複数の画素と、
を備えることを特徴とする、
撮像素子。
【請求項10】
前記画素と前記光学素子との間に設けられたフィルタ層を備えることを特徴とする、
請求項
9に記載の撮像素子。
【請求項11】
請求項
9又は
10に記載の撮像素子と、
前記撮像素子から得られた電気信号に基づいて画像信号を生成する信号処理制御部と、
を備えることを特徴とする、
撮像装置。
【請求項12】
前記信号処理制御部は、前記第1の光電変換素子の露光期間と前記第2の光電変換素子の露光期間とが異なるように露光制御することを特徴とする、
請求項
11に記載の撮像装置。
【請求項13】
第1の光電変換素子及び第2の光電変換素子を含む画素を覆うための透明層と、
前記透明層上において、前記透明層の面方向に配置された複数の凹部と、
を備え、
前記透明層は、
入射した光を前記第1の光電変換素子に導く第1の領域と、
入射した光を前記第2の光電変換素子に導く第2の領域と、
を含み、
前記第1の領域及び前記第2の領域のうちの少なくとも前記第2の領域に前記複数の凹部が配置され、
前記第1の領域は、前記第2の領域よりも小さ
く、
平面視したときに、前記第1の領域は、前記第2の領域の内側に位置していることを特徴とする、
光学素子。
【請求項14】
前記複数の凹部を構成する材料の屈折率よりも高い屈折率を持つ流体により、
前記複数の凹部の空隙が満たされていることを特徴とする、
請求項
13に記載の光学素子。
【請求項15】
前記複数の凹部を構成する材料が、
1よりも低い屈折率を持つメタマテリアルであることを特徴とする、
請求項
13に記載の光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子、撮像素子及び撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
撮像装置において、ダイナミックレンジの向上が検討されている。例えば、非特許文献1は、サイズの大きい高感度フォトダイオード及びサイズの小さい低感度フォトダイオードを一つの画素に設けることで、ダイナミックレンジを向上させる手法を開示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Boyd Fowler他1名、“Automotive Image Sensors”、[online]、平成30年2月1日、Electronic Imaging 2018、[令和2年8月12日検索]、インターネット<URL:http://www.imaging.org/Site/PDFS/Conferences/ElectronicImaging/EI2018/Keynotes/EI2018_IMSE_Keynote_Fowler_Solhusvik.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように複数のフォトダイオードを設けると、例えばレンズ・ピクセルの開口率が低下し、その分、光利用効率が低下する。光利用効率に関して、非特許文献1ではとくに検討はなされていない。
【0005】
本発明は、ダイナミックレンジの向上と光利用効率の向上との両立を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る光学素子は、第1の光電変換素子及び第2の光電変換素子を含む画素を覆うための透明層と、透明層上又は透明層内において、透明層の面方向に配置された複数の構造体と、を備え、透明層は、入射した光を第1の光電変換素子に導く第1の領域と、入射した光を第2の光電変換素子に導く第2の領域と、を含み、第1の領域及び第2の領域のうちの少なくとも第2の領域に複数の構造体が配置され、第1の領域は、第2の領域よりも小さく、平面視したときに、第1の領域は、第2の領域の内側に位置していることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る撮像素子は、上記の光学素子と、各々が第1の光電変換素子及び第2の光電変換素子を含む複数の画素と、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る撮像装置は、上記の撮像素子と、撮像素子から得られた電気信号に基づいて画像信号を生成する信号処理制御部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ダイナミックレンジの向上と光利用効率の向上との両立を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態に係る光学素子、撮像素子及び撮像装置の概略構成の例を示す図である。
【
図2】
図2は、撮像素子における一つの画素に対応する部分の概略構成の例を示す図である。
【
図3】
図3は、撮像素子における一つの画素に対応する部分の概略構成の例を示す図である。
【
図5】
図5は、構造体の概略構成の例を示す図である。
【
図6】
図6は、構造体の概略構成の例を示す図である。
【
図9】
図9は、光学素子のレンズ設計の例を示す図である。
【
図10】
図10は、光学素子のレンズ設計の例を示す図である。
【
図11】
図11は、光学素子のレンズ設計の例を示す図である。
【
図12】
図12は、PDに導かれる光の量(検出光量)の例を示す図である。
【
図13】
図13は、PDに導かれる光の量(検出光量)の例を示す図である。
【
図14】
図14は、PDに導かれる光の量(検出光量)の例を示す図である。
【
図15】
図15は、各PDに導かれる光の光量比率の波長依存性を示す図である。
【
図16】
図16は、各PDに導かれる光の光量比率の波長依存性を示す図である。
【
図17】
図17は、各PDに導かれる光の光量比率の波長依存性を示す図である。
【
図18】
図18は、光学素子のレンズ設計の例を示す図である。
【
図19】
図19は、光学素子のレンズ設計の例を示す図である。
【
図20】
図20は、光学素子のレンズ設計の例を示す図である。
【
図21】
図21は、光学素子のレンズ設計の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。図面に示される形状、大きさ及び位置関係等は概略的なものに過ぎず、それによって本発明が限定されることはない。同一部分には同一の符号を付して示し、重複する説明は省略する。
【0012】
図1は、実施形態に係る光学素子、撮像素子及び撮像装置の概略構成の例を示す図である。撮像装置10は、物体1(被写体)からの光を入射光として、物体1を撮像する。この例では、物体1は、白抜き矢印として図示される。入射光は、レンズ光学系11を介して、撮像素子12に入射する。撮像素子12は、複数の画素2、及び、複数の画素2に対応する複数の光学素子6を含む。画素2は、波長帯域ごと(例えば色ごと)に設けられる。信号処理制御部13は、撮像素子12に関するさまざまな制御を行う。以下、撮像素子12について
図2以降を参照して詳述し、その後、信号処理制御部13について説明する。
【0013】
図2は、撮像素子における一つの画素に対応する部分の概略構成の例を示す図である。図において、XYZ座標系が示されるとともに、入射光の進行方向が矢印によって模式的に示される。Z軸方向は、後述するPD層4、フィルタ層5及び透明層60の積層方向に相当する。XY平面方向は、それらの層の面方向に相当する。以下、「平面視」は、Z軸方向に(例えばZ軸負方向に)視ることを示し、「側面視」は、X軸方向またはY軸方向(例えばY軸正方向に)視ることを示す。
図2は、側面視したときの撮像素子12の一部の概略構成の例を示す断面図である。
【0014】
撮像素子12は、画素2と、フィルタ層5と、光学素子6とを備える。画素2は、配線層3と、PD(フォトダイオード)層4とを含む。光学素子6の例はメタサーフェスであり、以下では、光学素子6がメタサーフェスである場合について説明する。メタサーフェスは光の波長以下の幅を持った複数の微細構造体からなる素子で、2次元構造でもよいし、3次元構造であってもよい。光学素子にメタサーフェスを用いることで、微細構造体のパラメータを変えるだけで、光の特性(波長・偏波・入射角)に応じて位相と光強度を制御することが出来るというような効果があり、3次元構造にする場合には上記の設計自由度が上がるという効果がある。
【0015】
配線層3及びPD層4のうちのPD層4から述べると、PD層4は、層の面方向(XY平面方向)に設けられるPD41(第1の光電変換素子)及びPD42(第2の光電変換素子)を含む。PD41及びPD42は、半導体基板100に形成される。PD41及びPD42は、平面視したときに、同じサイズ(受光面積)を有してよい。PD41及びPD42は、側面視したときに、同じサイズ(深さ)を有してよい。PD41及びPD42は、同じ形状を有してもよい。PD41及びPD42が同じ形状を有する場合には、製造歩留まりが向上する等のメリットがある。
【0016】
PD41及びPD42で発生した電荷は、図示しないトランジスタ等によって、画素信号の基礎となる電気信号に変換され、配線層3を介して画素2の外部に出力される。配線層3に含まれる配線のうち、PD41に対応するいくつかの配線が配線31として図示され、PD42に対応するいくつかの配線が配線32として図示される。
【0017】
フィルタ層5は、画素2が対応する色の光を通過させるカラーフィルタであり、半導体基板100の上面(Z軸正方向側の面)上に設けられる。この例では、フィルタ層5は、PD層4と透明層60との間に設けられる。フィルタ層5の材料の例は、樹脂などの有機材料である。
【0018】
光学素子6は、PD41及びPD42それぞれに入射光を導く。光学素子6は、PD層4に対向するように設けられ、この例ではフィルタ層5の上面(Z軸正方向側の面)上に設けられる。光学素子6は、透明層60と、複数の構造体70とを含む。なお、
図2に示される例では、複数の構造体70は、後述の複数の構造体71及び複数の構造体72を含む。透明層60は、PD41及びPD42を覆う。透明層60において複数の構造体70が設けられていない部分は、構造体70の屈折率よりも低い屈折率を有してよい。そのような透明層60の材料の例は、SiO
2等である。透明層60は空隙であってもよく、その場合、透明層60の屈折率は空気の屈折率である。透明層60は、領域61と、領域62とを含む。領域61は、領域61に入射した光をPD41に導く第1の領域である。領域62は、領域62に入射した光をPD42に導く第2の領域である。光を「導く」は、光をそのまま透過させること、光の進行方向を変更させること(例えば集光する)等を含む意味である。
【0019】
領域61及び領域62についてさらに説明する。領域61は、複数の構造体71が設けられる領域である。
図2に示される例では、複数の構造体71が透明層60の上面(Z軸正方向側の面)上に設けられており、領域61は、少なくとも、透明層60の上面近傍の部分を指し示す。領域62は、複数の構造体72が設けられる領域である。
図2に示される例では、複数の構造体72が透明層60の上面上に設けられており、領域62は、少なくとも、透明層60の上面近傍の部分を指し示す。領域61と領域62とは、同じ高さ(Z軸方向の同じ位置)に位置してよい。なお、複数の構造体71は存在していなくてもよく、その場合、領域61は、透明層60のうち、複数の構造体72が設けられない部分を指し示してよい。以下、とくに説明がある場合を除き、
図2に示されるように、領域61に複数の構造体71が設けられている形態について説明する。
【0020】
改めて複数の構造体70について述べる。複数の構造体70は、透明層60上又は透明層60内において、透明層60の面方向(XY平面方向)に配置される。2次元方向(2次元状に)配置されるともいえる。上述したように、
図2に示される例では、複数の構造体70は、透明層60の上面上に設けられる。複数の構造体70は、不等間隔配置されてもよいし、設計を容易にする等のために等間隔配置されてもよい。複数の構造体70の各々は、入射光の波長(ナノオーダー)と同程度もしくは入射光の波長よりも小さい寸法を有する微細構造体である。複数の構造体70は、画素2が対応する色、すなわちフィルタ層5の色(通過帯域)の光に対応するように設計される。複数の構造体70は、画素2に集積化されてもよい。なお、複数の構造体70が透明層60内に設けられる場合、領域61は、少なくとも、透明層60内において複数の構造体71が位置する部分を指し示す。領域62は、少なくとも、透明層60内において複数の構造体72が位置する部分を指し示す。
【0021】
複数の構造体70は、PD41及びPD42に入射光を集光するように配置される。透明層60による集光、すなわちレンズ(オンチップレンズ)機能の原理については後述する。本実施形態において、複数の構造体70は、複数の構造体71と、複数の構造体72とを含む。複数の構造体71は、PD41に入射光を集光するように配置される複数の第1の構造体である。複数の構造体72はPD42に入射光を集光するように配置される複数の第2の構造体である。
【0022】
図3は、撮像素子における一つの画素に対応する部分の概略構成の例を示す図である。
図3には、平面視したときの光学素子6、PD41及びPD42のレイアウトの例が示される。複数の構造体70よりも下方(Z軸負方向側)に位置する透明層60の領域61、領域62及びPD層4は、破線で示される。また、複数の構造体70に含まれる複数の構造体71及び複数の構造体72を区別しやすいように、
図2と同様のハッチングを付している。
【0023】
図3に示されるように、平面視したときに、複数の構造体71の配置面積は、複数の構造体72の配置面積よりも小さい。すなわち、領域61は、領域62よりも小さい。なお、この例では、小さいほうの領域61が、対応するPD41の内側に位置するように、PD41と重なっている。複数の構造体71によるPD41への集光光量は、領域62による複数の構造体72によるPD42への集光光量よりも小さい。これについて、
図4も参照して説明する。
【0024】
図4は、光分布の例を示す図である。
図4には、平面視したときのPD層4での集光分布の例が示される。xが0μmの位置は、X軸方向におけるPD41とPD42との中間位置に相当する。yが0μmの位置は、Y軸方向におけるPD41の中心位置及びPD42の中心位置に相当する。すなわち、
図4のおよそ左半分(X軸負方向側の部分)がPD41に相当し、およそ右半分(X軸正方向側の部分)がPD42に相当する。PD41への集光光量は、PD42への集光光量よりも小さい。したがって、PD41の方が、PD42よりも飽和しにくくなる。
【0025】
上述のような異なる集光位置を持つ複数のレンズが混在したレンズ機能を実現することが可能な光学素子6の構成の例について、
図5及び
図6を参照して説明する。
【0026】
図5及び
図6は、構造体の概略構成の例を示す図である。
図5には、構造体70の側面図の例が示される。
図6には、構造体70の平面図(上面図)の例が示される。構造体70は、矩形柱状形状を有する柱状構造体であり、基部70a上に形成される。基部70aは、例えば石英(Quaratz)基板である。
【0027】
構造体70の高さ(Z軸方向の長さ)を、高さHと称し図示する。構造体70の幅(X軸方向の長さ及びY軸方向の長さ)を、幅Wと称し図示する。同じ構造体70において、幅Wは、X軸方向とY軸方向とで同じであってもよいし、異なっていてもよい。以下では、幅WがX軸方向とY軸方向とで同じであるものとする。
【0028】
基部70aの幅(X軸方向及びY軸方向の長さ)は、構造体70の幅Wよりも大きい。例えば、基部70aの幅は、320nm程度であってよい。その場合、構造体70の幅Wは、320nm未満である。構造体70の幅と基部70aの幅との差は、隣り合う構造体70どうしの間の距離(間隔)を与える。構造体70どうしの間隔は、すべての構造体70について一定(等間隔)であってもよいし、異なっていてもよい。
【0029】
構造体70は、他の部分、より具体的には構造体70どうしの間の部分の屈折率とは異なる屈折率を有する。構造体70は、他の部分の屈折率よりも高い屈折率を有してよい。構造体70の材料の例は、SiN、TiO2等である。
【0030】
上述の構造体70は、幅W及び屈折率の少なくとも一方を変えることにより、特性を変化させることができる。幅W及び屈折率のうち、以下では、幅Wによって特性を変化させる例について説明する。構造体70の特性の例は、構造体70を通過する光の透過率及び位相(光位相遅延量)である。これについて、
図7及び
図8も参照して説明する。なお、先に説明した
図2等から理解されるように、入射光は構造体70をZ軸方向に通過するので、以下ではこの方向に光が通過する場合について説明する。
【0031】
図7及び
図8は、構造体の特性の例を示す図である。
図7には、構造体70の幅Wと、構造体70を通過する光の透過率との関係が示される。光の波長は、520nmである。
図7に示されるように、80nm~240nmの幅Wの範囲にわたって、概ね1.0に近い高い透過率が得られる。なお、図中、他の波長よりも透過率が大きく減少する波長が存在するが、これは、構造体70の周期、構造幅等との関係によって生じうる。このような透過率の減少が生じにくいように、構造体70の周期、構造幅等が設計されてよい。
【0032】
図8には、構造体70の幅Wと、構造体70を通過する光の位相との関係が示される。構造体70は、入射した光に対して、幅Wの大きさに応じた光位相遅延量を与える。上述の高い透過率が得られる80nm~240nmの範囲で幅Wを変化させることによって、位相を2π以上変化させることができる。
【0033】
上記の特性を備える構造体70を用いることで、高い光透過率を維持しつつ、2π以上の広範囲な位相制御が行える。光学素子6の各位置で所望の位相特性が得られるように複数の構造体70を透明層60の面方向に配置することで、レンズ機能が得られる。これについて、
図9~
図11を参照して説明する。
【0034】
図9~
図11は、光学素子のレンズ設計の例を示す図である。設計条件は、以下のとおりである。
平面視したときのPD41及びPD42のサイズ:3.2μm×3.2μm
焦点距離:4.8μm
設計波長:520nm
レンズパターンの面積比:0.08(8%)
なお、レンズパターンの面積比は、PD41及びPD42への集光に用いられるパターン面積に占める、PD41への集光に用いられるパターン面積の比率である。
【0035】
所望の集光位置を有するレンズの位相分布(光位相遅延量分布)は、例えば以下の式で表される。
【数1】
上記の式(1)において、λ
dは、設計波長を示す。(x
f,y
f,z
f)は、集光位置を示す。n
subは、透明基板(
図5の基部70a)の屈折率を示す。Cは、任意定数を示す。次に説明する
図9~
図11に示される例では、x
f=±1.6μm、y
f=0μm、z
f=4.8μm(焦点距離)である。位相分布の値は、0~2πの範囲に収まるように変換されている。例えば、-0.5πは1.5πに、2.5πは0.5πにそれぞれ変換されている。
【0036】
図9には、PD41に入射光を集光するための光学素子6の位相分布の例が示される。円形に広がる分布の中心位置(レンズ中心位置)が、PD41の中心位置に対応する。とくに当該円形部分から右側(X軸正方向側)に進むにつれて、位相変化が繰り返される。このうち、四角形の内側に示される位相分布が、複数の構造体71の配置に用いられる。四角形の面積は、複数の構造体71の配置面積(領域61の大きさ)に対応する。この例では、四角形の中心は、PD41の中心に対応する。ただし、四角形の位置は任意に定められてよい。形状も四角形に限られず、これについては後に
図22~
図26を参照して説明する。
【0037】
図10には、PD42に入射光を集光するための光学素子6の位相分布の例が示される。円形に広がる分布の中心位置(レンズ中心位置)が、PD42の中心位置に対応する。とくに当該円形部分から左側(X軸負方向側)に進むにつれて、位相変化が繰り返される。このうち、四角形の外側に示される位相分布が、複数の構造体72の配置に用いられる。四角形の外側の面積は、構造体72の配置面積(領域62の大きさ)に対応する。
【0038】
図11には、PD41及びPD42に入射光を集光するための光学素子6の位相分布の例が示される。この位相分布は、
図9における四角形の内側の位相分布と、
図10における四角形の外側の位相分布とを組み合わせた位相分布である。
【0039】
図11に示される位相分布を与えるように、光学素子6の透明層60において、複数の構造体70、すなわち複数の構造体71及び複数の構造体72が配置される。各構造体70は、
図11に示される位相分布(光位相遅延量分布)を与える幅Wを有する。このため、平面視したときに、複数の構造体70のうちの少なくとも一部の構造体70は、互いに異なる幅Wを有する。複数の構造体70の高さHは、同じであってよい。すなわち、側面視したときに、複数の構造体70は同じ高さHを有してよい。
【0040】
以上のように設計された光学素子6によるPD41及びPD42の集光について、
図12~
図14を参照して説明する。
【0041】
図12~
図14は、PDに導かれる光の量(検出光量)の例を示す図である。ここでは集光光量として説明する。光の波長は、520nmである。光量は、両偏光(例えばX軸方向の偏光及びY軸方向の偏光)の平均光量である。この点は、後述の
図15~
図17も同様である。
図12のグラフの横軸は、複数の構造体71及び複数の構造体72の配置面積(領域61及び領域62の大きさ)に占める構造体71の配置面積(領域61の大きさ)の比率を示す。グラフの縦軸は、入射光の光量で規格化したときの光量を示す。丸プロットを通るグラフ線は、PD41への集光光量を示す。ひし形プロットを通るグラフ線は、PD42への集光光量を示す。三角プロットを通るグラフ線は、PD41への集光光量とPD42への集光光量との合計光量を示す。
【0042】
図12から理解されるように、複数の構造体71の配置面積(領域61の大きさ)が大きくなるにつれて、PD41への集光光量(丸プロット)は大きくなり、PD42への集光光量(ひし形プロット)は小さくなる。このことから、透明層60が、PD41への集光とPD42への集光とを制御することが可能なレンズ機能を備えることが分かる。また、PD全体への集光光量(三角プロット)は0.97(97%)を上回り、高い光利用効率が得られている。
【0043】
図13には、複数の構造体71の配置面積の比率が0.32であるときの集光分布の例が示される。PD41への集光光量は、PD42への集光光量よりも小さい。
図14には、複数の構造体71の配置面積の比率が0.08であるときの集光分布の例が示される。PD41への集光光量は、PD42への集光光量よりもさらに小さい。これらのことからも、複数の構造体71の配置面積によって、PD41及びPD42への集光を制御できることが分かる。
【0044】
上述の光学素子6によるレンズ機能は、PD41及びPD42の対応する色ごとに設計されてよい。光学素子6は、色ごとに設計することで、次に
図15~
図17を参照して説明するように、各画素で用いられる波長範囲(
図15を例にするとBと書かれた破線で囲まれた波長帯)において波長依存性が小さいレンズ機能を実現できる。
【0045】
図15~
図17は、各PDに導かれる光の光量比率(この例では集光光量比率)の波長依存性を示す図である。
図15には、青色(B)に適合するように設計された透明層60によるPD41及びPD42への集光光量の例が示される。中心波長450nmを含む設計範囲が破線で示される。設計波長周辺において大きな波長依存性は見られず、青色に対応する画素を設計し易いことが分かる。
【0046】
図16には、緑色(G)に適合するように設計された透明層60によるPD41及びPD42への集光光量の例が示される。中心波長520nmを含む設計範囲が破線で示される。設計波長周辺において大きな波長依存性は見られず、緑色に対応する画素も設計し易いことが分かる。
【0047】
図17には、赤色(R)に適合するように設計された透明層60によるPD41及びPD42への集光光量の例が示される。中心波長635nmを含む設計範囲が破線で示される。設計波長周辺において大きな波長依存性は見られず、赤色に対応する画素も設計し易いことが分かる。
【0048】
これらの設計波長は各色のカラーフィルタの波長特性に合わせて決定することで、最適な強度比となる構造を設計することが出来る。
【0049】
以上説明したとおりであるので、実施形態に係る撮像素子12では、各画素2において、光学素子6が、PD41及びPD42に入射光を集光するレンズとして機能する。再び
図2及び
図3を参照してさらに述べると、PD41に入射光を集光する領域61が、PD42に入射光を集光する領域62よりも小さいので、PD41への集光光量がPD42への集光光量よりも小さい。したがって、PD41の方がPD42よりも飽和しにくい。このような画素2においては、例えば、PD41を低感度フォトダイオードとして用い、PD42を高感度フォトダイオードとして用いることで、ダイナミックレンジを向上させることができる。PD全体への集光光量の入射光に対する比率が100%に近いことから、高い光利用効率を実現することもできる。
【0050】
再び
図1を参照し、撮像装置10の信号処理制御部13による制御のいくつかの例について説明する。信号処理制御部13は、撮像素子12から得られた電気信号に基づいて画素信号を生成する。電気信号を得るために、信号処理制御部13は、撮像素子12の制御も行う。撮像素子12の制御は、撮像素子12の画素2の露光、PD層4に蓄積された電荷の電気信号への変換、電気信号の読出し等を含む。画素2の露光は、PD41及びPD42の露光を含み、PD41及びPD42それぞれの露光が個別に制御されてよい。上述のように撮像素子12によって高ダイナミックレンジが実現されるので、これを利用した信号処理制御部13による制御のいくつかの例について説明する。
【0051】
信号処理制御部13は、PD41における光電変換によって発生した電荷(検出された光)に応じた電気信号(第1の電気信号)と、PD42における光電変換によって発生した電荷に応じた電気信号(第2の電気信号)とを用いて、画素信号を生成し、さらには画像信号を生成してよい。例えば、第1の電気信号及び第2の電気信号の合成信号に基づいて画素信号が生成されてよい。第1の電気信号を用いることで、明るい場面(高光照度シーン)の撮像に対応することができる。第2の電気信号を用いることで、暗い場面(低光照度シーン)の撮像に対応することができる。一度の撮像で明るい場所と暗い場所の両方を撮像することができるので、低光照度及び高光照度が混在したシーンの撮像が可能になる。例えば内外で明るさの異なるトンネルを通過する車両等に撮像装置10が搭載された場合に有用である。
【0052】
信号処理制御部13は、PD41及びPD42の露光期間が異なるように、PD41及びPD42の露光を制御してよい。例えば、PD41及びPD42の光電変換動作(電荷のリセット、蓄積等)を制御するためのトランジスタ等が、PD41及びPD42ごとに個別に制御可能に設けられてよい。信号処理制御部13は、それらのトランジスタ等を異なるタイミングで駆動することによって、PD41及びPD42を互いに異なる露光期間で露光する。
【0053】
信号処理制御部13は、PD41及びPD42の少なくとも一方の露光期間が、所定の周期よりも長くなるように、PD41及びPD42の露光を制御してよい。所定の周期の例は、照明、信号機等の点滅周期(例えば20ms=1/50Hz)よりも長い周期である。これにより、フリッカーを抑制することができる。
【0054】
信号処理制御部13は、PD41の露光期間が、PD42の露光期間よりも長くなるように、PD41及びPD42の露光を制御してよい。PD42の露光期間を抑制して飽和を回避することで、例えば白飛び等の発生を抑制することができる。
【0055】
以上、本開示の一実施形態について説明したが、実施形態に係る撮像素子及び撮像装置は、実施形態の趣旨を逸脱しない範囲において、さまざまな変形が可能である。いくつかの変形例について述べる。
【0056】
上記実施形態では、レンズ中心位置から片側に向かってのみ位相変化が繰り返される非対称な位相分布に基づいて光学素子のレンズ設計を行う例について説明した(
図3及び
図9~
図11等)。ただし、レンズ中心位置から対称な位相分布に基づいて光学素子のレンズ設計が行われてもよい。これについて、
図18~
図21を参照して説明する。
【0057】
図18~
図20は、光学素子のレンズ設計の例を示す図である。
図21は、撮像素子の概略構成の例を示す図である。
図18には、PD41に入射光を集光するための光学素子の位相分布の例が示される。
【0058】
図18に示される位相分布は、PD41に入射光を集光するための光学素子の位相分布である。この位相分布は、円形に広がる分布の中心位置から両側に向かって位相変化が繰り返される対称な位相分布である。右側(X軸正方向側)に向かって繰り返される位相変化は途中で終了し、その先には、隣の画素のPDに入射光を集光するための位相分布が現れる。
【0059】
図19に示される位相分布は、PD42に入射光を集光するための光学素子の位相分布である。この位相分布は、円形に広がる分布の中心位置から両側に向かって位相変化が繰り返される対称な位相分布である。左側(X軸負方向側)に向かって繰り返される位相変化は途中で終了し、その先には、隣の画素のPDに入射光を集光するための位相分布が現れる。
【0060】
図20には、
図18及び
図19を組み合わせた位相分布が示される。
図21には、
図20に示される位相分布を実現するための光学素子6Aの平面レイアウトの例が示される。光学素子6Aでは、複数の構造体70Aのうち、複数の構造体71Aが領域61Aに設けられ、複数の構造体72Aが領域62Aに設けられる。領域61Aにおける位相分布を考慮しない場合、すなわち領域61A及びこれと対称な位置における位相分布を除いて、領域62Aの領域における位相分布は対称性を有する。領域62Aにおける位相分布を考慮しない場合、すなわち領域62A及びこれと対称な位置における位相分布を除いて、領域61Aの領域における位相分布は対称性を有する。位相分布に従う透明層の設計手法については先に説明したとおりであるので、ここでは説明は繰り返さない。
【0061】
光学素子6Aによれば、位相分布が対称性を有する分、好ましいレンズパターンが得られる可能性が高まる。例えば、レンズ中心よりも右側(X軸正方向側)に入射する光の角度範囲と、レンズの中心よりも左側(X軸負方向側)に入射する光の角度範囲とが揃いやすくなる。
【0062】
上記実施形態では、透明層60において、領域61(複数の構造体71)が矩形形状部分(四角形内)として定められ、領域62(複数の構造体72)が他の部分として定められる例について説明した。ただし、これ以外のさまざまな形状に領域61及び領域62が定められてよい。いくつかの例を、
図22~
図26を参照して説明する。
【0063】
図22~
図26は、構造体の配置領域の例を示す図である。図において、各構造体の形状は示されず、構造体の配置領域のみが模式的に示される。
【0064】
図22に例示される光学素子6Bにおいては、領域61Bが円形形状部分として定められ、領域62Bが残りの部分として定められる。領域61Bは、これまで説明した領域61又は領域61Aに相当する。領域62Bは、これまで説明した領域62又は領域62Aに相当する。
【0065】
図23に例示される光学素子6Cにおいては、領域61Cが中央の矩形形状部分及びそれと離間しつつそれを内側に含む矩形リング形状部分として定められ、領域62が残りの部分として定められる。領域61Cは、これまで説明した領域61又は領域61Aに相当する。領域62Cは、これまで説明した領域62又は領域62Aに相当する。
【0066】
図24に例示される光学素子6Dにおいては、領域61Dが中央の円形形状部分及びそれと離間しつつそれを内側に含む円形リング形状部分として定められ、領域62Dが残りの部分として定められる。領域61Dは、これまで説明した領域61又は領域61Aに相当する。領域62Dは、これまで説明した領域62又は領域62Aに相当する。
【0067】
図25に例示される光学素子6Eにおいては、領域61Eが回転方向に間隔をあけて(この例では90°間隔に)配置された4つの三角形状部分として定められ、領域62Eが残りの部分として定められる。領域61Eは、これまで説明した領域61又は領域61Aに相当する。領域62Eは、これまで説明した領域62又は領域62Aに相当する。
【0068】
図26に例示される光学素子6Fにおいては、領域61Fが回転方向に間隔をあけて(この例では90°間隔に)配置された4つの扇形状部分として定められ、領域62Fが残りの部分として定められる。領域61Fは、これまで説明した領域61又は領域61Aに相当する。領域62Fは、これまで説明した領域62又は領域62Aに相当する。
【0069】
この他にも、図示しないさまざまな形状に2種類の領域が配置されてよい。位相分布の連続性の観点から、2種類の領域どうしの境界が少ない形状が採用されてよい。
【0070】
上記実施形態では、各画素2が、集光光量の異なる2つのPD41及びPD42を備える例について説明した。ただし、集光光量の異なる3つ、4つ又はそれよりも多い数のPDを各画素が備えていてもよい。この場合、光学素子は、各PDへの集光光量に応じて異なる配置面積で配置された複数の構造体を含む。例えば4つのPDが用いられる場合、透明層60においては、異なる面積を有するように4分割された領域に、複数の第1~第4の構造体が配置される。PDは、1次元配置されてもよいし2次元配置されてもよい。
【0071】
上記実施形態では、複数の構造体70が透明層60上に設けられる例について説明した。ただし、複数の構造体70は、透明層60内に設けられてもよい。複数の構造体70は、透明基板の下面に設けられてもよい。この場合、透明層60は、空気層である。また、上記実施形態と同様の、複数の構造体70が透明層60上に設けられている構成は、複数の構造体70に相当する部分が複数の凹部となり、複数の凹部の空隙が複数の凹部を構成する材料よりも高い屈折率を持つことによっても実現される。この、複数の構造体70に相当する部分が複数の凹部となる構成は、複数の凹部の空隙に複数の凹部を構成する材料よりも高い屈折率を持つ流体を満たすことや、複数の凹部を構成する材料が1よりも低い屈折率を持つメタマテリアルであることにより実現できる。
【0072】
上記実施形態では、領域61に複数の構造体71が配置され、領域62に複数の構造体72が配置される例について説明した。ただし、領域61に複数の構造体71が配置されていなくてもよい。この場合、領域61は、入射した光をそのままPD41に導く。このような領域61は、透明層60の材料によって埋められていてよい。先に
図3等を参照して説明したように、平面視したときに領域61がPD41の内側に位置するようにPD41と重なっていれば、複数の構造体71による集光機能がなくとも、領域61に入射した光がPD41に導かれる。
【0073】
上記実施形態では、構造体70の材料としてSiN及びTiO2を挙げたが、これらに限定されない。例えば、波長が380nm~1000nmの光(可視光~近赤外光)の光に対しては、SiN、SiC、TiO2、GaN等が構造体70の材料として用いられてよい。屈折率が高く、吸収損失が少ないため適している。波長が800~1000nmの光(近赤外光)で用いる場合は、Si、SiC、SiN、TiO2、GaAs、GaN等が構造体70の材料として用いられてよい。低損失であるため適している。長波長帯の近赤外領域(通信波長である1.3μmや1.55μm等)の光に対しては、上述の材料に加えて、InP等を構造体70の材料として用いることができる。
【0074】
構造体70が、貼り付け、塗布等によって形成される場合、フッ素化ポリイミド等のポリイミド、BCB(ベンゾシクロブテン)、光硬化性樹脂、UVエポキシ樹脂、PMMA等のアクリル樹脂、レジスト全般などのポリマー等が材料として挙げられる。
【0075】
上記実施形態では、透明層60の材料としてSiO2及び空気層を想定した例を示したが、これらに限定されない。一般的なガラス材料等も含め、構造体70の材料の屈折率より低い屈折率を有し、入射光の波長に対して低損失なものであればよい。透明層60は、複数の材料からなる積層構造を有する透明層であってもよい。また、透明層60は、対応するPDに到達すべき波長に対して十分に低損失であればよいため、カラーフィルタと同様の材質であってもよく、例えば樹脂などの有機材料であってもよい。この場合、単に透明層60がカラーフィルタと同様の材質であるばかりでなく、カラーフィルタと同様の構造を持ち、各々のPDに導かれるべき光の波長に応じた吸収特性を持つよう設計されていてもよい。
【0076】
上記実施形態では、画素2が対応する色として、RGBの3原色を例に挙げて説明したが、画素2は、3原色以外の波長の光(例えば、赤外光や紫外光)に対応していてもよい。
【0077】
上記実施形態では、構造体70の幅Wを変えることによって、光位相遅延量分布を与える例について説明した。ただし、幅Wに代えてあるいは幅Wとともに構造体70の屈折率を変えることによって、光位相遅延量分布を与えてもよい。この場合、屈折率の異なる構造体70それぞれは、屈折率の異なる材料を用いて作られてよい。
【0078】
以上、本発明を具体的な実施の形態に基づいて説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0079】
以上説明した撮像素子は、例えば次のように特定される。
図1~
図3及び
図21~
図26等を参照して説明したように、光学素子6は、PD41及びPD42を含む画素2を覆うための透明層60と、透明層60上又は透明層60内において、透明層60の面方向(XY平面方向)に配置された複数の構造体70とを備える。透明層60は、入射した光をPD41に導く領域61と、入射した光をPD42に導く領域62とを含む。領域61及び領域62のうちの少なくとも62に複数の構造体70が配置される。領域61は、領域62よりも小さい。
【0080】
撮像素子12によれば、領域61が領域62よりも小さい。その結果、PD41に導かれる光の光量がPD42に導かれる光の光量よりも小さくなり、したがって、PD41はPD42よりも飽和しにくい。例えばPD41を低感度フォトダイオードとして用い、PD42を高感度フォトダイオードとして用いることで、ダイナミックレンジを向上させることができる。PD全体に導かれる光の光量の入射光に対する比率が非常に大きい(100%に近い)ことから、高い光利用効率を実現することもできる。よって、ダイナミックレンジの向上と光利用効率の向上との両立を図ることができる。
【0081】
図5~
図11及び
図18~
図20等も参照して説明したように、複数の構造体70は、複数の構造体70どうしの間の部分の屈折率よりも高い屈折率を有する柱状構造体であり、平面視したときに、複数の構造体70のうちの少なくとも一部の構造体70は、互いに異なる幅Wを有し、側面視したときに、前記複数の構造体は同じ高さを有してよい。複数の構造体70のうちの少なくとも一部の構造体70は、互いに異なる屈折率を有してもよい。複数の構造体70の各々は、入射した光に対して、幅W及び/又は屈折率の大きさに応じた光位相遅延量を与えてよい。複数の構造体70の各々は、領域61に入射した光をPD41に導くとともに領域62に入射した光をPD42に導くための光位相遅延量分布を与える幅W及び/又は屈折率を有してよい。光位相遅延量分布は、光を集光するための光位相遅延量分布であってよい。例えばこのような複数の構造体70を配置することで光学素子6にレンズ機能を持たせ、PD41及びPD42に入射光を導く(例えば集光する)ことができる。また、例えば高さの異なる複数の構造体を設ける場合よりも、光学素子6を容易に製造することができる。
【0082】
図18~
図21等を参照して説明したように、領域61A及び領域62Aの一方の領域における光位相遅延量分布を考慮しない場合、他方の領域における光位相遅延量分布は対称性を有してよい。光位相遅延量分布が対称性を有する分、好ましいレンズパターンが得られる可能性が高まる。例えば、レンズ中心よりも右側(X軸正方向側)に入射する光の角度範囲と、レンズの中心よりも左側(X軸負方向側)に入射する光の角度範囲とが揃いやすくなる。
【0083】
図3等を参照して説明したように、平面視したときに、PD41及びPD42は、同じサイズを有してよい。これにより、例えば、異なるサイズのPDを用いる場合よりも、各PDを隙間なく並べることができ、したがって、光利用効率を高めることができる。
【0084】
図3等を参照して説明したように、平面視したときに、領域61は、領域62の内側に位置していてよい。例えばこのようにして、小さい領域61と大きい領域62とを配置することができる。
【0085】
図1等を参照して説明した撮像素子12も、本開示の一態様である。すなわち、撮像素子12は、光学素子6と、各々がPD41及びPD42を含む複数の画素2とを備える。これにより、ダイナミックレンジの向上と光利用効率の向上との両立を図ることができる撮像素子12が得られる。
【0086】
図2等を参照して説明したように、撮像素子12は、画素2と光学素子6との間に設けられたフィルタ層5を備えてよい。これにより、例えば画素2に対応する色の光をPD41及びPD42に導くことができる。
【0087】
図1等を参照して説明した撮像装置10も、本開示の一態様である。すなわち、撮像装置10は、撮像素子12と、撮像素子12から得られた電気信号に基づいて画像信号を生成する信号処理制御部13とを備える。これにより、ダイナミックレンジの向上と光利用効率の向上との両立を図ることができる撮像装置10が得られる。
【0088】
信号処理制御部13は、PD41の露光期間とPD42の露光期間とが異なるように露光制御してよい。例えばPD41及びPD42の少なくとも一方の露光期間を信号機等の点滅周期よりも長くすることで、フリッカーを抑制することができる。例えばPD41の露光期間がPD42の露光期間よりも長くなるように露光制御することで、PD42の露光期間を抑制して飽和を回避し、白飛び等の発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0089】
2 画素
3 配線層
4 PD層
5 フィルタ層
6 光学素子
10 撮像装置
12 撮像素子
13 信号処理制御部
41 PD
42 PD
60 透明層
61 領域
62 領域
70 構造体
71 構造体
72 構造体