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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】顕微鏡およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/36 20060101AFI20241001BHJP
【FI】
G02B21/36
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022561916
(86)(22)【出願日】2021-11-08
(86)【国際出願番号】 JP2021041029
(87)【国際公開番号】W WO2022102584
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2020190386
(32)【優先日】2020-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】藤掛 陽輔
(72)【発明者】
【氏名】新谷 大和
【審査官】岡田 弘
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-532883(JP,A)
【文献】特開2018-028645(JP,A)
【文献】特開2019-070820(JP,A)
【文献】特表2015-531072(JP,A)
【文献】特開2018-205069(JP,A)
【文献】国際公開第2009/153919(WO,A1)
【文献】特開2018-173507(JP,A)
【文献】特開2011-180290(JP,A)
【文献】C. J. Sheppard, S. B. Mehta, R. Heintzmann,Superresolution by image scanning microscopy using pixel reassignment,Optics Letter,Vol.38,No.15,米国,Optical Society of America,2013年08月01日,2889-2892
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00-21/00
G02B 21/06-21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明光を集光して試料に照明領域を形成する照明光学系と;
前記照明領域が形成された前記試料からの光による像を像面に形成する検出光学系と;
前記検出光学系または前記照明光学系の少なくとも一方の収差状態を設定する収差設定部と;
検出部が複数配列されている検出面が前記検出光学系の前記像面に配置されている検出器と;
複数の前記検出部により検出された検出像の光量分布情報を算出する算出部と;
前記収差設定部により設定された複数の収差状態における前記検出像の前記光量分布情報に基づいて、前記収差設定部が設定すべき前記検出光学系または前記照明光学系の少なくとも一方の収差状態を決定する演算部と;
前記照明領域と前記像面との共役関係を維持して、前記照明領域と前記試料とを相対的に走査させる走査部と;
を備え、
前記照明領域と前記試料との相対的走査に伴って、前記試料の異なる位置が照明された前記照明領域からの光による前記像が前記検出器に連続して形成され、前記検出像は、前記連続して形成された複数の像を前記検出部毎に時間積算して形成され、前記検出像の光量分布情報は、前記照明光学系の点像強度分布と前記検出光学系の点像強度分布との相互相関である顕微鏡。
【請求項2】
請求項1に記載の顕微鏡において、
前記積算は、前記検出器で行う、顕微鏡。
【請求項3】
請求項1に記載の顕微鏡において、
前記積算を行う積算部をさらに有する、顕微鏡。
【請求項4】
照明光を集光して試料に照明領域を形成する照明光学系と;
前記照明領域が形成された前記試料からの光による像を像面に形成する検出光学系と;
前記検出光学系または前記照明光学系の少なくとも一方の収差状態を設定する収差設定部と;
検出部が複数配列されている検出面が前記検出光学系の前記像面に配置されている検出器と;
複数の前記検出部により検出された検出像の光量分布情報を算出する算出部と;
前記収差設定部により設定された複数の収差状態における前記検出像の前記光量分布情報に基づいて、前記収差設定部が設定すべき前記検出光学系または前記照明光学系の少なくとも一方の収差状態を決定する演算部と;
を備え、
前記検出光学系は、前記像面における前記像の大きさを変更する変倍光学系を含み、前記像面における前記像の大きさが、前記検出器の前記検出部が配置されている前記検出面の領域の列方向の長さと前記列方向に直交する行方向の長さとのうち長い方向の長さである領域の幅の所定倍になるように前記変倍光学系を制御する倍率制御部を有し、前記所定倍の下限が0.6から0.7倍であり、前記所定倍の上限が0.9倍から1倍である、顕微鏡。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の顕微鏡において、
前記算出部は、前記光量分布情報として、前記検出像の光量分布の幅に相当する量を算出する、顕微鏡。
【請求項6】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の顕微鏡において、
前記算出部は、前記光量分布情報として、前記検出像の光量分布のn次のモーメント(nは2以上の整数)、または前記検出像の光量分布のn次のモーメントを前記検出像の光量分布の積算値で除算したn次の規格化モーメントを算出する、顕微鏡。
【請求項7】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の顕微鏡において、
前記検出光学系は、前記像面における前記像の大きさを変更する変倍光学系を含む、顕微鏡。
【請求項8】
請求項7に記載の顕微鏡において、
前記像面における前記像の大きさが、前記検出器の前記検出部が配置されている領域の幅の所定倍になるように前記変倍光学系を制御する倍率制御部を有する、顕微鏡。
【請求項9】
請求項4に記載の顕微鏡において、
前記照明領域と前記像面との共役関係を維持して、前記照明領域と前記試料とを相対的に走査させる走査部をさらに備える、顕微鏡。
【請求項10】
請求項9に記載の顕微鏡において、
前記照明領域が走査された前記試料からの光による前記像を積算して、前記検出像として検出する積算部を有する、顕微鏡。
【請求項11】
請求項1から請求項3および請求項7から請求項10のいずれか一項に記載の顕微鏡において、
前記検出光学系の像面に、前記検出光学系の前記像面側における解像度の0.2倍以上、かつ10倍以下の大きさの開口部を有する遮光部と、
前記開口部を通過した前記試料からの光を受光する受光部と、
前記照明領域と前記試料との走査に同期して前記受光部が受光した光の光量を読み込んで、前記試料の画像データを生成する画像データ生成部とを、さらに備える顕微鏡。
【請求項12】
請求項1から請求項11までのいずれか一項に記載の顕微鏡において、
前記収差設定部は、前記検出光学系または前記照明光学系の少なくとも一方に含まれる光学部材の少なくとも一部を移動して収差状態を設定する、顕微鏡。
【請求項13】
請求項1から請求項11までのいずれか一項に記載の顕微鏡において、
前記収差設定部は、前記検出光学系または前記照明光学系の少なくとも一方に含まれる光学部材の少なくとも1つの状態を変化させて収差状態を設定する、顕微鏡。
【請求項14】
請求項13に記載の顕微鏡において、
前記収差設定部は、複数の前記収差状態における前記検出像のそれぞれの検出に際し、前記検出光学系または前記照明光学系の少なくとも一方に、前記検出光学系または前記照明光学系の光束の半径で規格化された光軸からの動径ρ、および方位角θを用いて表される1つ以上の波面収差W(ρ,θ)のうちの1つ、または2つ以上に対して、それぞれ異なる比例係数を掛け合わせた波面収差をそれぞれ設定し、
前記演算部は、1つ以上の前記波面収差W(ρ,θ)に、それぞれ所定の比例係数を掛け合わせて積算した波面収差を、前記収差設定部が設定すべき前記検出光学系または前記照明光学系の少なくとも一方の収差状態として決定する、顕微鏡。
【請求項15】
請求項14に記載の顕微鏡において、
1つ以上の前記波面収差W(ρ,θ)は、0以上の整数n、および絶対値がn以下であり(n-m)が偶数となる整数m、および整数kを用いて式(1)および式(2)で表される波面収差関数Z (ρ,θ)である、顕微鏡。
【数1】
【請求項16】
請求項15に記載の顕微鏡において、
前記算出部は、前記光量分布情報として前記検出像の光量分布のピーク強度に相当する量を算出する、顕微鏡。
【請求項17】
請求項14に記載の顕微鏡において、
1つ以上の前記波面収差W(ρ,θ)は、0以上の整数n、および絶対値がn以下であり(n-m)が偶数となる整数m、および整数kを用いて式(3)、式(4)および式(5)で表される波面収差関数L (ρ,θ)である、顕微鏡。
【数2】
【請求項18】
請求項17に記載の顕微鏡において、
前記算出部は、前記光量分布情報として、前記検出像の光量分布の2次モーメント、または前記検出像の光量分布の2次モーメントを前記検出像の光量分布の積算値で除算した規格化2次モーメントを算出する、顕微鏡。
【請求項19】
制御部により実行されるプログラムであって、
照明光学系による照明光が集光された試料上の照明領域と前記試料とを相対的に走査させ、前記照明領域と前記試料との相対的走査に伴って、前記試料の異なる位置が照明された前記照明領域からの光による像であって、検出光学系の像面に配置された複数の検出部に連続して形成された複数の前記像が前記検出部毎に時間積算して形成される検出像であって、前記照明光学系または前記検出光学系の収差状態が相互に異なる状態での複数の検出像を取得させ;
前記制御部を介して算出部に、複数の前記検出像のそれぞれの光量分布情報を前記照明光学系の点像強度分布と前記検出光学系の点像強度分布との相互相関として算出させ;
前記制御部を介して演算部に、複数の前記光量分布情報に基づいて、前記検出光学系または前記照明光学系に設定すべき収差状態を決定させる、プログラム。
【請求項20】
制御部により実行されるプログラムであって、
照明光学系による照明光が集光されて照明領域が形成された試料からの光による像を、検出光学系に含まれる変倍光学系を制御して、前記検出光学系の像面に配置された複数の検出部が配置されている領域の幅の、下限が0.6から0.7倍であり上限が0.9倍から1倍である所定倍にして、前記複数の検出部により検出した検出像であって、前記照明光学系または前記検出光学系の収差状態が相互に異なる状態での複数の検出像を取得させ;
前記制御部を介して算出部に、複数の前記検出像のそれぞれの光量分布情報を算出させ;
前記制御部を介して演算部に、複数の前記光量分布情報に基づいて、前記検出光学系または前記照明光学系に設定すべき収差状態を決定させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡およびプログラムに関する。
本願は、2020年11月16日に出願された日本国特許出願2020-190386号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
試料に照明光を集光して照射し、試料から生じる蛍光を検出画素が複数配列されている検出器で検出する走査型顕微鏡(以下、Image Scanning Microscope、略して「ISM」とも呼ぶ)が提案されている(特許文献1)。
また、生物顕微鏡用の対物レンズであって、カバーガラス又は透過性を有する標本保持部材の厚さ誤差に伴う収差の変動を補正する収差補正レンズおよび補正環を備えた対物レンズが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第9632296号明細書
【文献】日本国特許第4933706号
【発明の概要】
【0004】
第1の態様によると、顕微鏡は、照明光を集光して試料に照明領域を形成する照明光学系と;前記照明領域が形成された前記試料からの光による像を像面に形成する検出光学系と;前記検出光学系または前記照明光学系の少なくとも一方の収差状態を設定する収差設定部と;検出部が複数配列されている検出面が前記検出光学系の前記像面に配置されている検出器と;複数の前記検出部により検出された検出像の光量分布情報を算出する算出部と;前記収差設定部により設定された複数の収差状態における前記検出像の前記光量分布情報に基づいて、前記収差設定部が設定すべき前記検出光学系または前記照明光学系の少なくとも一方の収差状態を決定する演算部と;前記照明領域と前記像面との共役関係を維持して、前記照明領域と前記試料とを相対的に走査させる走査部と;を備え、前記照明領域と前記試料との相対的走査に伴って、前記試料の異なる位置が照明された前記照明領域からの光による前記像が前記検出器に連続して形成され、前記検出像は、前記連続して形成された複数の像を前記検出部毎に時間積算して形成され、前記検出像の光量分布情報は、前記照明光学系の点像強度分布と前記検出光学系の点像強度分布との相互相関である。
第2の態様によると、顕微鏡は、照明光を集光して試料に照明領域を形成する照明光学系と;前記照明領域が形成された前記試料からの光による像を像面に形成する検出光学系と;前記検出光学系または前記照明光学系の少なくとも一方の収差状態を設定する収差設定部と;検出部が複数配列されている検出面が前記検出光学系の前記像面に配置されている検出器と;複数の前記検出部により検出された検出像の光量分布情報を算出する算出部と;前記収差設定部により設定された複数の収差状態における前記検出像の前記光量分布情報に基づいて、前記収差設定部が設定すべき前記検出光学系または前記照明光学系の少なくとも一方の収差状態を決定する演算部と;を備え、前記検出光学系は、前記像面における前記像の大きさを変更する変倍光学系を含み、前記像面における前記像の大きさが、前記検出器の前記検出部が配置されている前記検出面の領域の列方向の長さと前記列方向に直交する行方向の長さとのうち長い方向の長さである領域の幅の所定倍になるように前記変倍光学系を制御する倍率制御部を有し、前記所定倍の下限が0.6から0.7倍であり、前記所定倍の上限が0.9倍から1倍である
第3の態様によると、プログラムは、制御部により実行されるプログラムであって、照明光学系による照明光が集光された試料上の照明領域と前記試料とを相対的に走査させ、前記照明領域と前記試料との相対的走査に伴って、前記試料の異なる位置が照明された前記照明領域からの光による像であって、検出光学系の像面に配置された複数の検出部に連続して形成された複数の前記像が前記検出部毎に時間積分して形成される検出像であって、前記照明光学系または前記検出光学系の収差状態が相互に異なる状態での複数の検出像を取得させ;前記制御部を介して算出部に、複数の前記検出像のそれぞれの光量分布情報を前記照明光学系の点像強度分布と前記検出光学系の点像強度分布との相互相関として算出させ;前記制御部を介して演算部に、複数の前記光量分布情報に基づいて、前記検出光学系または前記照明光学系に設定すべき収差状態を決定させる。
第4の態様によると、プログラムは、制御部により実行されるプログラムであって、照明光学系による照明光が集光されて照明領域が形成された試料からの光による像を、検出光学系に含まれる変倍光学系を制御して、前記検出光学系の像面に配置された複数の検出部が配置されている領域の幅の、下限が0.6から0.7倍であり上限が0.9倍から1倍である所定倍にして、前記複数の検出部により検出した検出像であって、前記照明光学系または前記検出光学系の収差状態が相互に異なる状態での複数の検出像を取得させ;前記制御部を介して算出部に、複数の前記検出像のそれぞれの光量分布情報を算出させ;前記制御部を介して演算部に、複数の前記光量分布情報に基づいて、前記検出光学系または前記照明光学系に設定すべき収差状態を決定させる。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】第1実施形態の顕微鏡の構成を模式的に示す図である。
図2A】検出面および検出面上に形成される像を示す図である。
図2B】各検出画素により検出された検出像を示す図である。
図3】収差状態を決定するためのフローを説明する図である。
図4A】検出器が検出した検出像の光量分布の一例を示す図である。
図4B】検出器が検出した検出像の光量分布の一例を示す図である。
図5】光量分布情報と収差設定部が設定する収差状態との関係の一例を示す図である。
図6】第2実施形態の顕微鏡の構成を模式的に示す図である。
図7】第2実施形態の顕微鏡において収差状態を決定するためのフローの一例を説明する図である。
図8】受光光学系および制御部の変形例を示す図である。
図9】変形例の検出器の全体を示す図である。
【0006】
(第1実施形態の顕微鏡)
図1は、第1実施形態の顕微鏡1の構成を模式的に示す図である。以下の実施形態において、顕微鏡1は走査型の蛍光顕微鏡であるものとして説明するが、実施形態に係る顕微鏡は、蛍光顕微鏡に限定されない。
【0007】
図1および以下で参照する各図に矢印で示したX方向、Y方向およびZ方向はそれぞれ直交する方向であるとともに、X方向、Y方向およびZ方向のそれぞれは各図において同一の方向を示している。以下では、各矢印の示す方向を、それぞれ+X方向、+Y方向および+Z方向と呼ぶ。+Z方向は、対物レンズ15の光軸AXに平行な下向き方向である。また、X方向の位置をX位置、Y方向の位置をY位置、Z方向の位置をZ位置と呼ぶ。
【0008】
顕微鏡1は、照明光学系10(図1において破線で囲った領域)、検出光学系20(図1において点線で囲った領域)、制御部40、および試料56を載置するステージ57等を備えている。
照明光学系10は、照明光Liの光路に沿って配置されている分岐ミラー11、偏向部12、リレーレンズ13、リレーレンズ14、および対物レンズ15を備えている。照明光学系10は、光源部50からの照明光Liを試料56上の照明領域55に照射する。
【0009】
検出光学系20は、検出光Ldの光路に沿って配置されている対物レンズ15、リレーレンズ14、リレーレンズ13、偏向部12、分岐ミラー11、および受光光学系21(図1において二点鎖線で囲った領域)を備えている。検出光学系20は、試料56上の照明領域55の像28を像面Imp上に形成する。
なお、分岐ミラー11、偏向部12、リレーレンズ13、リレーレンズ14、および対物レンズ15については、照明光学系10と検出光学系20とにより共有されている。
【0010】
制御部40は、CPU、インターフェース部IF、記憶部41、光学ドライブ42、表示部43、画像データ生成部44、算出部45、演算部46、データ取得部47、収差制御部48、および倍率制御部49を備えている。インターフェース部IFには、ネットワークケーブルNWが接続され、ネットワークケーブルNWは、不図示の外部サーバと接続されている。制御部40は、CPUが記憶部41に格納されたプログラムを実行することにより、以下で説明する顕微鏡1の各種の動作を制御する。ただし、以下の説明においては、実行主体であるCPUおよび制御部40の説明は、適宜省略する。
【0011】
光源部50は、レーザー等の光源51を有する。光源51から発せられた光は、レンズ52により整形および平行化され、照明光Liとして光源部50から射出され、照明光学系10に供給される。光源51は、連続発振光を射出するレーザー、もしくはパルス光を射出するレーザーのどちらであってもよい。また、光源51は、レーザーでなくてもよく、LEDや輝線ランプであってもよい。また、光源部50は、相互に異なる波長を発する複数の光源51と、複数の光源から発せられる光を1つの照明光Liに合成する合成光学系とを有していても良い。
【0012】
照明光学系10に入射した照明光Liは、ダイクロイックミラー等からなる分岐ミラー11を透過して、偏向部12に入射する。偏向部12には、一例としてX方向偏向ミラー12aおよびY方向偏向ミラー12bが設けられている。X方向偏向ミラー12aおよびY方向偏向ミラー12bにより反射された照明光Liは、リレーレンズ13により集光されて、第1中間結像点Im1に集光する。
【0013】
照明光Liは、その後、リレーレンズ14を経て対物レンズ15に入射し、対物レンズ15により、ステージ57上に保持されている試料56上に集光される。従って、試料56上には、照明光Liが対物レンズ15の解像限界程度の大きさに集光された照明領域55が形成される。
【0014】
ここで、照明領域55の大きさとは、照明領域55のXY面内の光量の(1/e)全幅である。また、対物レンズ15の解像限界とは、いわゆるエアリディスクの第1暗環の半径に相当し、照明光Liの波長をλ1、対物レンズ15の開口数をNAとするとき、0.61×λ1/NAで求まる数値である。
照明領域55の大きさが、エアリディスクの第1暗環の直径である1.22×λ1/NAより小さい場合に、照明光Liは解像限界まで集光されていると呼ぶ。
【0015】
X方向偏向ミラー12aおよびY方向偏向ミラー12bは、試料56に対して、対物レンズ15およびリレーレンズ13、14を介して、ほぼ対物レンズ15の瞳面Ppの共役面となる位置に配置されている。そして、偏向部12のX方向偏向ミラー12aが所定方向に揺動することにより、照明領域55は、試料56上をX方向に移動(振動)する。また、Y方向偏向ミラー12bが所定方向に揺動することにより、照明領域55は、試料56上をY方向に移動(振動)する。
【0016】
従って、制御部40が制御信号S1により偏向部12を制御する、すなわちX方向偏向ミラー12aおよびY方向偏向ミラー12bの揺動位置を制御することにより、照明領域55を試料56上でXY方向の2次元に走査させることができる。 X方向偏向ミラー12aおよびY方向偏向ミラー12bは、ガルバノミラー、MEMSミラー、レゾナントミラー(共振型ミラー)等で構成することができる。
【0017】
なお、制御部40が、制御信号S3により、試料56を保持するステージ57を制御してX方向およびY方向に移動させることにより、照明領域55とステージ57上の試料56とを相対的に走査させる構成としても良い。また、偏向部12による走査と、ステージ57による走査を、両方行う構成としても良い。
【0018】
偏向部12およびステージ57の少なくとも一方を、照明領域55と像面Impとの共役関係を維持して、照明領域55とステージ57上の試料56とを相対的に走査させる走査部であるということもできる。制御部40は、走査部である偏向部12またはステージ57を制御することにより、照明領域55と試料56との相対位置関係を制御する。
【0019】
第1実施形態の顕微鏡1の観察対象である試料56は生物試料であることが多く、従って試料56の上面(+Z側の面)は、カバーガラスで覆われていることが多い。対物レンズ15等を含む検出光学系20および照明光学系10は、基準の厚さのカバーガラスが使用されるものとして収差補正が行われている。しかし、カバーガラスの厚さが基準値に対して誤差を有していると、検出光学系20および照明光学系10には、カバーガラスの厚さ誤差に起因する収差が生じる。また、カバーガラスから試料56中の観察対象部位までのZ方向の距離が想定する距離から変化した場合にも、試料56中の光路長が変化することに起因して収差が発生する。
【0020】
図1に示したように、対物レンズ15は、カバーガラスの厚さ誤差に起因して生じる収差を補正するための補正環18を有している。対物レンズ15を構成する一例として4枚のレンズ16のうちの少なくとも一部は、保持枠19を介して補正環18により保持されている。補正環18は、高性能な生物顕微鏡用の対物レンズに一般的に備えられている電動補正環と同様であるため、その構成の詳細については説明を省略する。
【0021】
対物レンズ筐体17に対する補正環18の回転等の移動に伴い、保持枠19を介して補正環18により保持されているレンズ16のZ位置がそれぞれ変化し、対物レンズ15の収差補正の状態、すなわち収差状態が変化する。これにより、カバーガラスの厚さ誤差等に起因して生じる収差を補正することができる。
制御部40に備えられている収差制御部48は、補正環18に制御信号S2を送り、対物レンズ15の収差状態を、後述する所定の状態に設定する。
【0022】
補正環18および収差制御部48の双方、またはいずれか一方は、対物レンズ15を含む検出光学系20および照明光学系10の収差状態を設定する収差設定部であるということができる。
なお、補正環18は、上述した電動補正環に限られるものではなく、オペレーターが手動で設定する補正環であっても良い。その場合には、オペレーターは、収差制御部48が決定し、表示部43に表示される指定位置に従って、補正環18の位置を設定する。
【0023】
試料56としては、例えば予め蛍光染色された細胞などを使用するが、必ずしも蛍光を発する物質には限られない。また、試料56としては、蛍光を発する物質を使用する場合には、光源51の波長として、試料56に含まれる蛍光物質を励起する波長を選択することが好ましい。なお、試料56としては、蛍光を発する物質を使用する場合には、光源51の波長として、試料56に含まれる蛍光物質を多光子励起する波長を選択してもよい。
なお、光源部50は、顕微鏡1に交換可能(取り付け可能、取り外し可能)に設けられてもよく、顕微鏡1による観察時などに顕微鏡1に外付けされてもよい。
【0024】
照明領域55への照明光Liの照射により試料56から発せられた光(検出光)Ldは、対物レンズ15に入射し、対物レンズ15により屈折され、リレーレンズ14,13を経て、偏向部12に至る。そして、偏向部12のY方向偏向ミラー12bおよびX方向偏向ミラー12aでそれぞれ反射される。Y方向偏向ミラー12bおよびX方向偏向ミラー12aでの反射により、検出光Ldは光軸に平行な光となり、偏向部12に入射する前の照明光Liとほぼ同じ光路に戻されて(デスキャンされて)、分岐ミラー11に至る。
【0025】
そして、検出光Ldは、分岐ミラー11で反射されて、受光光学系21に入射する。
なお、上記においては、分岐ミラー11は照明光Liを透過し、検出光Ldを反射して光を分岐しているが、分岐ミラー11は照明光Liを反射し、検出光Ldを透過して光を分岐するようなミラーであってもよい。
【0026】
受光光学系21は、バントパスフィルタ等のバリアフィルタ22、集光レンズ23、および変倍光学系24を有している。バリアフィルタ22は、受光光学系21に入射する検出光Ldに混入している照明光Liを遮断し、検出光Ldの波長域を特定の波長域に選択する。検出光学系20に配置されているバリアフィルタ22およびダイクロイックミラーからなる分岐ミラー11の少なくとも一方は、試料56からの光のうち、照明光Liを検出器30に到達させず、照明光Liとは波長の異なる光を検出器30に到達させる波長選択部材と呼ぶことができる。
【0027】
バリアフィルタ22を通過した検出光Ldは、集光レンズ23により集光され、第2中間結像点Im2に集光する。検出光Ldは、その後、変倍光学系24に入射し、像面Impに配置された検出器30の検出面31上に、照明領域55が形成された試料56からの光(検出光Ld)による像28を形成する。検出器30の検出面31は、検出光学系20の像面Impと一致して配置されている。
【0028】
変倍光学系24は、第2中間結像点Im2の像を検出器30の検出面31上に形成するための電動ズームレンズ系である。変倍光学系24は、一例として4枚のレンズ25を備え、複数枚のレンズ25の少なくとも一部は、保持枠27を介して、カム溝等の形成されたズーム鏡筒26により保持されている。
【0029】
不図示のモーターによりズーム鏡筒26が変倍光学系24の筐体に対して回転することにより複数枚のレンズ25のX位置が変わり、変倍光学系24の焦点距離や主点の位置が変化し、中間結像点Im2から検出面31への倍率が変化する。
これにより、検出光学系20の試料56(物体面)から検出面31(像面Imp)への結像倍率Magも変化し、検出面31における像28の大きさが変更される。
【0030】
制御部40に備えられている倍率制御部49は、変倍光学系24に制御信号S5を送り、変倍光学系24の倍率を、後述する所定の状態に設定する。
なお、変倍光学系24の構成は上述した構成に限られるわけではなく、ステッピングモーターと送りねじを用いて各レンズ25を移動させる等の、各種の公知なズームレンズに採用されている構成であっても良い。
【0031】
また、変倍光学系24に含まれるレンズ25の枚数は、上述した4枚に限られるものではなく、他の任意の枚数であっても良い。
同様に、上述した対物レンズ15に含まれるレンズ16の枚数も、上述した4枚に限られるものではなく、他の任意の枚数であっても良い。リレーレンズ13,14および集光レンズ23についても、図示した1枚のレンズに限られるわけではなく、複数枚のレンズから成るものであっても良く、複数枚のミラーを含んでいても良い。
【0032】
図2Aは、検出面31、および検出面31上に形成された像28を示す図である。図1においては、検出面31はYZ面に平行になるように配置されているが、検出面31の向きは、検出光学系20内の反射面(X方向偏向ミラー12a、Y方向偏向ミラー12b、および分岐ミラー11等)の配置によって如何様にも変化する。
【0033】
そこで、検出面31については、図2Aに矢印で示したU方向およびV方向を基準として説明する。U方向およびV方向は、図1に示した試料56上でのX方向およびY方向が、検出光学系20により検出光Ldの光路を通って検出面31にそれぞれ投影される方向である。以降の各図に示されているU方向およびV方向についても、図2Aと同様の方向を示している。
【0034】
検出面31には、一例としてU方向に5個、V方向に5個の計5×5=25個の検出画素32が配置されている。それぞれの検出画素32の中心位置(U,V)は、一例として、図2Aに示した、U方向およびY方向に等間隔で並ぶ(U1,V1)から(U5,V5)までの各位置に一致している。
複数の検出画素32の全体の、-U方向端から+U方向端までの長さを長さLuと呼び、-V方向端から+V方向端までの長さを長さLvと呼ぶ。
【0035】
図2Aに示したとおり、像28は、その中心が複数の検出画素32の配列の中心位置と概ね一致するように形成されている。検出面31における像28の大きさは、変倍光学系24の倍率を変更することにより変更することができる。
【0036】
検出器30としては、例えば、高感度かつ高応答性を備えるアバランシェフォトダイオードアレイを用いることができる。
1つの検出画素32のU方向およびV方向の幅は、検出光の波長をλ2、対物レンズ15の開口数をNAとするとき、試料56上の長さに換算して、例えば、0.25×λ2/NA程度である。
【0037】
なお、検出面31における検出画素32の配置の個数は、上記の個数に限られるものではなく、他の任意の複数個であれば良い。また、それぞれの検出画素32は、必ずしもU方向およびV方向に平行に配置されている必要はなく、検出面31内においてU方向およびV方向から回転した方向に沿って配置されていても良い。
また、それぞれの検出画素32は、U方向およびV方向に等間隔で配置されず、不等間隔で配置されていても良い。また、検出画素32のそれぞれは、検出面31内に密に配置されていなくても良く、離散的に配置されていても良い。また、検出画素32のそれぞれは、2次元的にではなく、1次元に配置されていても良い。
【0038】
像28の光量は、複数の検出画素32によりそれぞれ検出される。すなわち、像28のうち、複数の検出画素32のそれぞれと一致する部分の光量は、それぞれの検出画素32により受光され、光電変換される。複数の検出画素32により検出された像28の光量に対応する電気信号がA/D変換されたデジタルデータを、以下では検出像29aと呼ぶ。また、検出像29aに含まれるデータは、像28の光量の分布(光量分布)に関するデータであるため、以下では、検出像29aに含まれるデータが表す数値のことを、光量とも呼ぶ。
【0039】
図2Bは、検出器30の複数の検出画素32により検出された検出像29aの一例を示す図である。検出像29aは、像28の光量を検出したそれぞれの検出画素32の中心位置である(U,V)=(U1,V1)~(U5,V5)の複数の位置に対応して離散的に分布する数値データである。図2Bにおいては、検出像29aのそれぞれを示す円の面積は、それぞれの位置における検出像29aの光量に対応する大きさを表している。
【0040】
検出器30は、光量信号S4として検出像29aを出力し、制御部40のデータ取得部47は、検出器30から送信される検出像29aを取得する。
制御部40の画像データ生成部44は、照明領域55と試料56との相対的な走査に同期して、データ取得部47に検出像29aを読み込ませる。そして、画像データ生成部44は、照明領域55と試料56との相対位置関係に対する検出像29aの光量との関係である中間画像データを、検出像29aを出力したそれぞれの検出画素32ごとに生成する。
【0041】
画像データ生成部44は、検出画素32ごとに生成した複数の中間画像データを、対応する検出画素32の検出面31(像面Imp)内の位置に応じて位置シフトして加算し、試料56の画像データを生成する。この位置シフトしての加算の処理については、例えば文献、C. J. Sheppard, S. B. Mehta, R. Heintzmann著の「Superresolution by image scanning microscopy using pixel reassignment」, Optics Letter(米国), Volume 38,No.15, 2889, 2013年、に詳述されているので、ここでは説明を省略する。
【0042】
(設定する収差状態を決定するフロー)
図3は、対物レンズ15を含む検出光学系20および照明光学系10の収差状態を決定するためのフローを説明する図である。
第1実施形態の顕微鏡1は、試料56のXY2次元の画像データの生成に先立って、検出像29aから算出した、検出像29aの光量分布の形状に関する光量分布情報に基づいて、対物レンズ15を含む検出光学系20および照明光学系10の収差状態を設定する。収差状態の設定は、対物レンズ15の補正環18の位置を設定することにより行う。光量分布情報の詳細については後述する。
【0043】
初めに、ステップS101において、制御部40の倍率制御部49は、変倍光学系24に制御信号S5を送り、変倍光学系24の倍率を初期値に設定する。変倍光学系24の倍率の初期値は対物レンズの倍率、検出画素32の幅に応じて設定されてもよい。
続いて、ステップS102において、制御部40は、オペレーターに対して、収差状態を決定する処理を行う際に、試料56のどの部分に照明光Liを照射するか、すなわち試料56と照明領域55との相対位置関係の指定位置の入力を促す。制御部40は、オペレーターからの指定位置の入力を受け、制御信号S1を偏向部12に送り、あるいは制御信号S3をステージ57に送り、試料56と照明領域55との相対位置関係を指定された位置関係となるように設定する。
【0044】
ステップS103からステップS111までのループにおいて、制御部40は、対物レンズ15にそれぞれ異なるK通り(Kは3以上の整数)の収差状態を設定し、制御部40のデータ取得部47は、それぞれの状態における検出像29aを取得する。
すなわち、ステップS104において、制御部40の収差制御部48は、対物レンズ15に制御信号S2を送り、対物レンズ15にk番目の収差状態を設定する。ステップS105において、制御部40のデータ取得部47は、それぞれの収差状態における検出像29aを取得する。
【0045】
なお、対物レンズ15の補正環18が電動補正環でない場合には、ステップS104において収差制御部48は、制御部40の表示部43に補正環18を設定すべき位置を表示し、その表示値に従ってオペレーターが補正環18の位置を設定する。
【0046】
なお、試料56からの光による検出像29aは、試料56自体の構造に伴う明暗分布を含むため、必ずしも対物レンズ15等の収差状態を決定するために適した像ではない。
そこで、収差状態の設定に際しては、制御部40は、走査部である偏向部12またはステージ57を制御することにより、照明領域55と試料56との相対位置関係をXY面内の任意の方向に所定の範囲で移動させながら、検出像29aを取得する。
【0047】
照明領域55と試料56との相対位置関係の移動の範囲は、試料56の構造に伴う検出面31内での明暗分布を、平均化して解消できる範囲で良い。従って、検出光Ldの波長をλ2、対物レンズ15の開口数をNAとするとき、一例として、10×λ2/NA程度以上の範囲で移動させれば良い。
【0048】
検出器30の検出画素32は、照明領域55が試料56上を移動する際に、像28の光量を複数回に分けて検出し、得られた複数の検出像29aを制御部40のデータ取得部47に出力しても良い。この場合、出力された複数の検出像29aは、データ取得部47に設けられている積算部47sにより、1つの検出像29aに積算される。
【0049】
あるいは、検出器30の検出画素32は、照明領域55が試料56上を相対的に連続的に移動する際の像28の光量を積算して検出し、その結果を検出像29aとして制御部40のデータ取得部47に出力しても良い。この場合には、検出器30の検出画素32自体が、試料56からの光による像28を積算して検出像として検出する積算部として機能するため、データ取得部47の積算部47sは不要となる。また、検出器30として読出し速度の遅い、すなわち低価格の検出器を使用することができる。
【0050】
検出面31に形成される像28の光量分布が、照明領域55の試料56上の移動に伴って積算された光量分布の形状は、検出光学系20の点像強度分布(PSF)と、照明光学系10の点像強度分布(PSF)との、相互相関に一致する。ここで、照明光学系10の点像強度分布とは、照明光学系10が試料56中に形成するXY面内での点像強度分布であり、検出光学系20の点像強度分布とは、検出光学系20が試料56中の1点からの光により検出面31に形成する点像強度分布を、検出光学系20の倍率を考慮して試料56での分布に換算したものである。
従って、照明領域55の試料56上の移動に伴って積算された像28の光量分布を、顕微鏡1のPSF相互相関像と呼ぶこともできる。
【0051】
なお、試料56における蛍光物質の濃度が一様である場合には、試料56自体の構造に伴う明暗分布が生じないため、検出像29aの取得に際しての、照明領域55と試料56との相対的な走査は不要である。
【0052】
制御部40の算出部45は、データ取得部47から検出像29aを受け取る。算出部45は、公知の手法を用いて、検出像29aをU方向およびV方向の少なくとも一方について補間する補間処理を行なう。この補間処理により、例えば5×5の離散的なデータであった検出像29aから、例えばU方向およびV方向に20以上の分解能を有する、疑似的に連続的なデータである補間検出像29bを生成する。
【0053】
なお、以下の説明においては、算出部45が行う各種の処理は、補間検出像29bに対して行うものとしている。ただし、算出部45は補間検出像29bを生成しなくても良く、この場合には、算出部45が行う各種の処理は、検出像29aに対して行う、または検出像29aの離散的なデータを適宜部分的に補間したデータに対して行えば良い。
【0054】
図4Aは、補間された補間検出像29bと検出面31との仮想的な関係を示す図である。図4Aにおいては、一例として2次元的なデータ列である補間検出像29bを、検出面31の複数の検出画素32に対して重ねて表示している。
【0055】
図4Bは、図4Aに示した補間検出像29bのうち、光量重心29gを通りU方向に平行な線分G上での光量Iの分布(光量分布)を示す図である。光量重心29gの(U,V)座標での位置は、(Ug、Vg)であるとする。補間検出像29bのU方向の光量分布は、ガウス分布に近い、中心部で光量が大きく周辺に向けて光量が漸減する分布となる。なお、球面収差が支配的な場合には、像28の光量分布が概ね回転対称な光量分布を有しているため、検出像29aおよび補間検出像29bの光量分布も、光量重心29gを中心として概ね回転対称な光量分布となる。
【0056】
以下では、補間検出像29bの光量が、最大値である光量Tの所定倍の光量であるスライスレベルSLと一致する位置を、補間検出像29bの外縁29Eと呼ぶ。外縁29Eと線分Gとが交差する2つの点を、それぞれ29El、29Erとしている。
補間検出像29bは、球面収差が支配的な場合には、光量重心29gを中心として概ね回転対称な分布であるので、外縁29Eは、光量重心29gを中心とする円の円周部分に相当する。
【0057】
スライスレベルSLの光量は、光量分布の最大値である光量Tの5%(0.05倍)から25%(0.25倍)程度であり、一例として、光量Tの(1/e)倍、すなわち13.5%であっても良い。なお、外縁29Eの外側にも補間検出像29bの光量は分布している。検出面31において光量重心29gを基準とする補間検出像29b内の各点Qの位置を、位置ベクトルPとして表す。
【0058】
以下では、光量重心29gから外縁29Eの各部までの距離の平均値を、補間検出像29bの半径Raと呼ぶ。 なお、光量重心29gを中心とする半径Rcの小円29cについては、後述する。
【0059】
検出像29aを補間検出像29bに補間する補間処理として、例えば、離散的なデータである検出像29aを、以下の式(1)で表されるガウス関数でフィッティングし、フィッティングされたガウス関数に基づいて補間を行っても良い。
I = b × exp[ -{(U-Uc)+(V-Vc)}/2a
・・・(1)
【0060】
すなわち、まず、式(1)で示される光量Iと検出像29aの各光量との差が最小となるように、最小二乗法等により式(1)の各パラメータa、b、Uc、Vcを最適化する。そして、最適化されたパラメータを用いて式(1)から算出される、任意のデータ位置(U,V)における光量Iを補間検出像29bの光量の値としても良い。
【0061】
このとき、最適化されたパラメータaは、補間検出像29bの光量分布の標準偏差に相当する。また、最適化されたパラメータUc、Vcにより表される位置(Uc,Vc)を、補間検出像29bの光量重心29gの位置としても良い。
【0062】
なお、検出像29aを補間検出像29bに補間する補間処理は、上述したガウス関数を用いたフィッティングに限られるものではない。例えば、ローレンツ関数等の他の関数へのフィッティングにより行っても良く、バイキュビック補間による補間処理や、スプライン補間による補間処理により行っても良い。
【0063】
ステップS106において、制御部40の算出部45は、補間検出像29bの大きさ、すなわち、像28の検出面31面での大きさを算出する。算出部45は、一例として、補間検出像29bの直径に相当する、上述した半径Raの2倍(2×Ra)を補間検出像29bの大きさとしても良い。算出部45は、他の一例として、上述したガウス関数のパラメータa等の、補間検出像29bの光量分布の標準偏差を補間検出像29bの大きさとしても良い。なお、補間検出像29bの大きさは、検出像29aの大きさに相当し、像28の大きさに相当する。
【0064】
検出像29aおよび補間検出像29bの光量分布の形状に関する光量分布情報を精度良く求めるためには、検出面31の複数の検出画素32が配列された範囲に、像28が所定の大きさで形成されていることが好ましい。像28の大きさ、すなわち補間検出像29bの大きさが、所定の大きさに比べて大きい、または小さい場合には、制御部40は、変倍光学系24の倍率を変更して、像28の大きさ、すなわち補間検出像29bの大きさを変更する必要がある。
【0065】
ステップS107において、算出部45は、変倍光学系24の倍率の変更が必要であるか否かを判断する。
ステップS107において、算出部45は、一例として補間検出像29bの上述した直径(2×Ra)が、検出面31上の検出画素32が配置されている領域の幅の0.6倍から0.7倍程度より小さい場合に、倍率の変更(拡大)が必要であると判断する。
【0066】
また、ステップS107において、算出部45は、一例として補間検出像29bの直径(2×Ra)が、検出面31上の検出画素32が配置されている領域の幅の0.9倍から1倍程度よりも大きい場合に、倍率の変更(低下)が必要であると判断する。
ここで、検出面31上の検出画素32が配置されている領域の幅とは、図2Aに示した複数の検出画素32の、-U方向端から+U方向端までの長さLuと、-V方向端から+V方向端までの長さLvのうちの、長い方の長さである。
【0067】
ステップS107において、算出部45が倍率の変更が必要であると判断すると、ステップS108に進み、算出部45は、変倍光学系24に再設定すべき倍率を算出する。再設定すべき倍率とは、補間検出像29bの直径(半径Raの2倍)を、検出画素32が配置されている領域の幅の、下限として0.6倍から0.7倍程度、上限として0.9倍から1倍程度の範囲の所定倍とする倍率である。
【0068】
そして、ステップS108において、制御部40の倍率制御部49は、変倍光学系24に制御信号S5を送り、変倍光学系24の倍率を上述した再設定すべき倍率に設定する。これにより、上述した検出光学系20の試料56(物体面)から検出面31(像面Imp)への結像倍率Magも変化する。
その後、ステップS105に戻り、検出像29aの再取得を行う。
なお、上述した検出画素32が配置されている領域の幅に対する補間検出像29bの直径(半径Raの2倍)の範囲は一例であり、他の値であっても良い。
【0069】
ステップS107において、算出部45が倍率の変更が不要であると判断すると、ステップS110に進み、算出部45は、補間検出像29bの光量分布の広がりの幅等に関する情報である、光量分布情報を算出する。
なお、補間検出像29bは、検出像29aを補間したものであるから、補間検出像29bの光量分布情報は、検出像29aの光量分布情報でもある。
【0070】
光量分布情報は、例えば、補間検出像29bの所定のスライスレベルにおけるスライス幅である。光量分布の最大値である光量Tの50%(半値)のスライスレベルにおける補間検出像29bのスライス幅である半値全幅を、光量分布情報としても良い。
光量分布情報は、補間検出像29bの標準偏差であっても良い。
【0071】
ただし、スライス幅および標準偏差は、いずれも上述した検出光学系20の結像倍率Magによって変動する値である。従って、光量分布情報として使用する際には、これらの値を検出光学系20の結像倍率Magで除算した値、すなわち、試料56上でのサイズに換算した値を使用すると良い。
【0072】
光量分布情報は、補間検出像29bの光量重心29gを中心とする光量分布のn次のモーメント(nは2以上の整数)であっても良い。
光量分布のn次のモーメントとは、補間検出像29b内の各点Qの光量重心29gを基準とする位置ベクトルをPとして表される補間検出像29bの光量分布をI(P)に対して、以下の式(2)によりmとして表される量である。
【数1】
・・・(2)
【0073】
換言すれば、光量分布のn次のモーメントとは、補間検出像29b内の各点Qの光量I(P)に、光量重心29gから各点Qまでの距離(位置ベクトルPの絶対値)をn乗した値を掛けて、積算したものである。nが2以上の整数の場合に、n次のモーメントは光量分布の幅に相当する量となる。
n次のモーメントの算出のために積算を行う点Qの範囲は、上述した補間検出像29bの外縁29Eの内部に限っても良い。あるいは、外縁29Eよりも外側にある点Qについても積算しても良い。
【0074】
なお、式(2)においては、位置ベクトルPの長さである|P|(Pの絶対値)を検出光学系20の結像倍率Magで除算することにより、試料56上のスケールに換算した光量分布のn次のモーメントを求めている。しかし、|P|を結像倍率Magで除算せず、検出面31のスケールで光量分布のn次のモーメントを求めても良い。
【0075】
なお、式(2)より、光量分布のn次のモーメントmは、光量分布の積算値(合計値)に比例する量であるため、検出像29aの検出に際しての露光量を正確に設定する必要がある。
【0076】
光量分布情報として、式(3)で表される、n次のモーメントmを補間検出像29bの光量分布の積算値で除算したn次の規格化モーメントMを使用しても良い。この場合には、検出像29aの検出に際しての露光量が変動しても、光量分布情報としての規格化モーメントには誤差は生じない。
【数2】
・・・(3)
【0077】
光量分布情報は、補間検出像29bのピーク光量に相当する量であっても良い。例えば、式(4)により求まる、図4Aに示した光量重心29gを中心とする、半径Raよりも小さな半径Rcの小円29c内の点Q内の光量を積算した中心光量hpであっても良い。
【数3】
・・・(4)
ここで、Pは、上述したとおり、各点Qの光量重心29gを基準とする位置ベクトルである。
【0078】
また、光量分布情報は、式(5)により求まる、式(4)の中心光量hpを補間検出像29bの全光量で除した、規格化中心光量Hpであっても良い。
【数4】
・・・(5)
【0079】
ステップS103からステップS111までのループにおいて、K通りの収差状態における光量分布情報の算出が終了すると、ステップS112に進む。
ステップS112においては、制御部40は、試料56の観察において照明光学系10および検出光学系20に設定すべき収差状態を算出する。
【0080】
図5は、ステップS103からステップS111までのループにおいて、それぞれ照明光学系10および検出光学系20に設定した収差状態(横軸)と、検出像aおよび補間検出像29bから算出された光量分布情報(縦軸)との関係Ftの一例を示す図である。横軸の収差状態は、補正環18の設定位置であっても良く、あるいは補正環18の設定位置に応じて対物レンズ15に生じる球面収差等の各種の波面収差の量であっても良い。
【0081】
図5に示した例においては、ステップS103からステップS111までのK回のループとして、一例として、5回のループを回した場合の結果を示している。すなわち、制御部40の収差制御部48は、C1からC5までの5通りの収差状態を設定し、それぞれの収差状態において、データ取得部47は検出像29aを取得し、算出部45は5通りの検出像29aの光量分布情報(D1~D5)を算出している。
【0082】
制御部40の演算部46は、図5に示した収差状態と光量分布情報との関係Ftから、光量分布情報の極小値Do(または極大値)を与える収差状態Co(最適値)を決定する。そして、制御部40の収差制御部48は制御信号S2を送り、対物レンズ15の収差状態が概ね収差状態Coに一致するように補正環18の位置を設定する。顕微鏡1は、対物レンズ15への収差状態Coの設定後に、試料56の2次元画像の取得および生成を行う。
【0083】
なお、図5の例においては、使用した光量分布情報の特性から、その極小値Doが最適な収差状態に対応しているが、使用する光量分布情報の特性によっては、収差状態と光量分布情報との関係Ftにおいて、光量分布情報の極大値を与える収差状態を対物レンズ15に設定すべき収差状態(最適値)として決定しても良い。
【0084】
光量分布情報として、上述したスライス幅、標準偏差、n次のモーメント、またはn次の規格化モーメントを用いる場合、これらの光量分布情報の値が小さい程、検出像29a(および補間検出像29b)はシャープであり、すなわち対物レンズ15の収差が少ない。従って、演算部46は、図5に示した関係Ftにおいて、光量分布情報の極小値を与える収差状態を、対物レンズ15に設定すべき収差状態として決定する。
【0085】
一方、光量分布情報として、上述した中心光量hp、または規格化中心光量Hpを用いる場合、これらの光量分布情報の値が大きい程、検出像29a(および補間検出像29b)はシャープであり、すなわち対物レンズ15の収差が少ない。従って、演算部46は、図5に示した関係Ftにおいて、光量分布情報の極大値を与える収差状態を、対物レンズ15に設定すべき収差状態として決定する。
【0086】
ステップS113においては、制御部40の収差制御部48は、制御信号S2を対物レンズ15の補正環18に送り、演算部46が決定した収差状態を、対物レンズ15および対物レンズ15を含む照明光学系10および検出光学系20に設定する。
【0087】
以上で、照明光学系10および検出光学系20の収差状態の設定、すなわち、カバーガラスの厚さ等の変動に伴う収差の補正が完了する。
顕微鏡1は、その後、上述したように照明領域55と試料56との相対的な走査に同期して検出像29aを読み込み、試料56の画像データの生成を行う。
【0088】
なお、以上において、必ずしもステップS101からS113の全てのステップを実行しなくても良い。
例えば、ステップS107における変倍光学系24の倍率の変更が必要か否かの判断は、ループの初回のみに行ない、2回目以降は判断を行わない(否と判断する)ものとしても良い。
【0089】
あるいは、ステップS113において、所定の収差状態を設定した後に、再度、ステップS105、ステップS106、およびステップS110を実行して、照明光学系10および検出光学系20に所望の収差状態が設定されているか否かを確認しても良い。
【0090】
あるいは、ステップS106からステップS109までを省略し、ステップS105の終了後にステップS110に進む処理を行う、すなわち、変倍光学系24の倍率の変更を行わずに、一連の処理を行っても良い。
【0091】
なお、以上の説明において、検出像29aの大きさ、すなわち補間検出像29bの大きさは、スライス幅、または標準偏差で規定するものとしたが、補間検出像29bの大きさは、これらに限られるものではない。
例えば、補間検出像29bの大きさとして、式(6)により表される、検出面31上のスケールでの補間検出像29bの2次のモーメントの平方根である評価指標σ1を用いても良い。
【数5】
・・・(6)
【0092】
あるいは、補間検出像29bの大きさとして、式(7)により表される、検出面31上のスケールでの補間検出像29bの2次の規格化モーメントの平方根である評価指標σ0を用いても良い。
【数6】
・・・(7)
【0093】
補間検出像29bの大きさとして、評価指標σ0または評価指標σ1を用いる場合には、基準となる評価指標の上限値σMAX、および評価指標の下限値σMINを予め決定しておく。そして、ステップS107においては、評価指標σ0または評価指標σ1が、上限値σMAXを上回った場合、あるいは下限値σMINを下回った場合には、変倍光学系24の倍率の変更が必要であると判断すれば良い。
【0094】
あるいは、補間検出像29bの大きさとして、補間検出像29bと基準となる基準検出像との相関値を採用しても良い。この場合、ステップS107においては、相関値が所定の値を下回った場合には、変倍光学系24の倍率の変更が必要であると判断すれば良い。
【0095】
あるいは、補間検出像29bの大きさとして、検出像29aの中心の9個の検出画素32に対応する光量の和(中心和)と、検出像29aの周辺の16個の検出画素32に対応する光量の和(周辺和)との比を用いても良い。
【0096】
以上の説明では、所定の収差状態を設定する収差設定部としての補正環18を含む対物レンズ15は、照明光学系10と検出光学系20とに共有されている。しかしながら、収差設定部は、照明光学系10と検出光学系20とに別々に含まれるものであっても良く、あるいは照明光学系10と検出光学系20のどちらか一方にのみ含まれるものであっても良い。
【0097】
例えば、図1に示した第1実施形態の顕微鏡1において、収差設定用レンズ群を、分岐ミラー11よりも光源部50側、または分岐ミラー11よりも受光光学系21側の少なくとも一方に設けても良い。ここで、収差設定用レンズ群とは、補正環18を含む対物レンズ15と同様に、光軸に沿って配置された複数のレンズを含み、各レンズの位置が移動部材により移動可能なレンズ群である。
【0098】
この場合には、収差設定部としての収差設定用レンズ群は、照明光学系10の収差状態、または検出光学系20の収差状態の少なくとも一方を設定する。また、演算部46は、照明光学系10または検出光学系20の少なくとも一方の収差状態を決定する。
収差設定用レンズ群は、対物レンズ15の補正環18と同様に、収差設定部であるということができる。
【0099】
(第1実施形態の顕微鏡の効果)
(1)以上で説明した第1実施形態の顕微鏡1は、照明光Liを集光して試料56に照明領域55を形成する照明光学系10と、照明領域55が形成された試料56からの光(検出光Ld)による像28を像面Impに形成する検出光学系20と、検出光学系20または照明光学系10の少なくとも一方の収差状態を設定する収差設定部(収差制御部48、補正環18等)と、検出部(検出画素32)が複数配列されている検出面31が検出光学系20の像面Impに配置されている検出器30と、を備えている。さらに、複数の検出部(検出画素32)により検出された検出像29aの光量分布情報を算出する算出部45と、収差設定部により設定された複数の収差状態における検出像29aの光量分布情報に基づいて、収差設定部が設定すべき検出光学系20または照明光学系10の少なくとも一方の収差状態を決定する演算部46と、を備えている。
この構成により、試料56を覆うカバーガラスの厚さ誤差等により生じる収差を簡便に補正することができる。
【0100】
以上の第1実施形態の顕微鏡1において、照明光学系10が試料56上に形成する照明領域55は、必ずしも照明光学系10の開口数(対物レンズ15の開口数)で決まる解像限界まで照明光Liが集光されたものでなく、それより大きなものであっても良い。
これに対し、照明光学系10の開口数で決まる解像限界まで照明光Liを集光して照明領域55を形成することにより、顕微鏡1が生成する画像データの分解能を向上させることができる。
【0101】
また、第1実施形態の顕微鏡1において、波長選択部材としてのダイクロイックミラーからなる分岐ミラー11、およびバリアフィルタ22を設けなくても良い。この場合、分岐ミラー11として、波長選択性の無いハーフミラーを使用する。
これに対し、波長選択部材としてのダイクロイックミラーからなる分岐ミラー11、またはバリアフィルタ22を備えることにより、顕微鏡1は、蛍光による撮像、2光子吸収による撮像、またはラマン散乱光による撮像を行うことが可能となる。
【0102】
また、第1実施形態の顕微鏡1の検出光学系20における変倍光学系24は、上述したズーム光学系に限らず、相互に焦点距離および主点の位置の異なる複数の光学系を、交換して検出光学系20の光路内に配置するものであっても良い。
あるいは、変倍光学系24は設けずに、倍率が変化しない固定焦点の光学系を用いても良い。
【0103】
なお、変倍光学系24を有することにより、像28の大きさを、検出面31上の複数の検出画素32の配列の範囲に対して適した大きさとすることができるので、検出像29a(または補間検出像29b)の光量分布情報を正確に算出することができる。これにより、対物レンズ15に設定する収差状態を正確に決定することができる。
【0104】
変倍光学系24を有する場合においても、倍率制御部49は有さずに、変倍光学系24の倍率の変更はオペレーターが手動で行うものであっても良い。
これに対し、倍率制御部49を有することにより、変倍光学系24の倍率を自動的に変更することが可能になり、カバーガラスの厚さ誤差等により生じる収差を補正するために設定すべき収差状態の決定を簡便に行うことができる。
【0105】
(第2実施形態の顕微鏡)
図6は、第2実施形態の顕微鏡1aの構成を模式的に示す図である。第2実施形態の顕微鏡1aは、その構成の大部分が上述した第1実施形態の顕微鏡1と共通している。従って、以下では、第1実施形態の顕微鏡1と共通する構成には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0106】
第2実施形態の顕微鏡1aは、照明光学系10および検出光光学系20の中の分岐ミラー11と偏向部12との間に、デフォーマブルミラー60等を備えている点が、第1実施形態の顕微鏡1と相違している。第2実施形態の顕微鏡1aにおいては、分岐ミラー11を透過した照明光Liは、リレーレンズ62を経て、折り曲げミラー64で反射され、デフォーマブルミラー60の反射面61に入射する。
【0107】
反射面61で反射された照明光Liは、その後、折り曲げミラー65で反射され、リレーレンズ63を経て、偏向部12に入射する。偏向部12から試料56までの照明光学系10および検出光学系20の構成は、上述した第1実施形態の顕微鏡1におけるそれらの構成と同様である。
【0108】
デフォーマブルミラー60の反射面61は、リレーレンズ14、リレーレンズ13、偏向部12、リレーレンズ63、および折り曲げミラー65を介して、対物レンズ15の瞳面Ppと共役な面、またはその近傍に配置されている。デフォーマブルミラー60の反射面61は、一例としてX方向と直交して配置されている。
【0109】
デフォーマブルミラー60は、外部から加えられる制御信号S6に応じて、反射面61の形状が、反射面61の法線方向(X方向)に所定の範囲内で任意に変形する光学素子である。従って、デフォーマブルミラー60の反射面61で反射された照明光Liには、反射面61の形状に応じた収差(波面収差)が付与される。
【0110】
試料56上には、照明光Liが集光した照明領域55が形成され、照明領域55からの光は検出光Ldとなって、対物レンズ15および偏向部12を経て、リレーレンズ63に入射する。そして、検出光Ldは、折り曲げミラー65で反射され、デフォーマブルミラー60の反射面61に入射する。
【0111】
デフォーマブルミラー60の反射面61で反射された検出光Ldには、反射面61の形状に応じた収差(波面収差)が付与される。
反射面61で反射された検出光Ldは、その後、折り曲げミラー64で反射され、リレーレンズ62を経て、分岐ミラー11に至る。そして、検出光Ldは、分岐ミラー11で反射され、受光光学系21に入射し、検出器30の検出面31上に、像28を形成する。
【0112】
制御部40の収差制御部48は、対物レンズ15の補正環18に制御信号S2を送ると共に、デフォーマブルミラー60に制御信号S6を送り、デフォーマブルミラー60の反射面61の形状を所定の形状とする。これにより、照明光学系10および検出光学系20の収差状態を所定の状態に設定する。
【0113】
第2実施形態の顕微鏡1aにおいても、図3に示したフローにより、検出光学系20および照明光学系10の収差状態を決定することができる。ただし、第2実施形態の顕微鏡1aにおいては、検出光学系20および照明光学系10の収差状態の設定はデフォーマブルミラー60の反射面61の形状を設定することにより行う。なお、デフォーマブルミラー60の反射面61の形状の設定と、対物レンズ15の補正環18の位置の設定とを併用して、収差状態の設定を行っても良い。
【0114】
第2実施形態の顕微鏡1aにおいては、デフォーマブルミラー60の反射面61の形状を変化させることにより、任意の収差状態を設定することができる。すなわち、所定の関数により表現される波面収差を有する収差状態を設定することができる。なお、光学系の波面収差は、光学系の瞳面における波面の基準波面からのずれ量として表されるため、以下においても、デフォーマブルミラー60の反射面61が設定する波面収差を、対物レンズ15の瞳面Pp内における極座標上に換算して表現する。
【0115】
上述したとおり、デフォーマブルミラー60の反射面61は対物レンズ15の瞳面Ppに対して共役な位置に配置されている。従って、対物レンズ15の瞳面Pp内における極座標上の位置を、瞳面Ppから反射面61までの結像倍率を考慮してデフォーマブルミラー60の反射面61上の位置に換算することは、当業者であれば容易に行うことができる。
従って、以下では、デフォーマブルミラー60の反射面61の形状を変形して、対物レンズ15の瞳面Ppにおいて所定の波面収差を生じさせることを、単に、デフォーマブルミラー60の反射面61の形状を変形して、所定の波面収差を生じさせるともいう。
【0116】
なお、照明光Liおよび検出光Ldは、デフォーマブルミラー60の反射面61の法線方向(X方向)に対しZ方向に傾いた方向からの反射面61に入射する。従って、反射面61における照明光Liおよび検出光Ldの形状は、円形ではなく、長軸がZ方向と一致する楕円となる。ただし、このような変形(Z方向への伸長)についても、その変形を補正して、対物レンズ15の瞳面Pp内における極座標上の位置を、デフォーマブルミラー60の反射面61上の位置に換算することも、当業者であれば容易に行うことができる。
【0117】
以下では、対物レンズ15の瞳面Pp内の位置を、極座標(ρ,θ)で表す。極座標の原点(0,0)は光軸AXと瞳面Ppとの交点である。動径ρは、瞳面Pp内の任意の点の原点(0,0)からの距離を、照明光Liまたは検出光Ldの光束の半径で割った値、すなわち、照明光Liまたは検出光Ldの光束の半径で規格化された光軸AXからの距離である。方位角θは、原点(0,0)から瞳面Pp内の任意の点までの方向を、一例として+X方向を基準として、表した左回りの角度である。
この極座標(ρ,θ)を用いて、波面収差を波面収差W(ρ,θ)として表す。
【0118】
デフォーマブルミラー60の反射面61により設定する波面収差W(ρ,θ)の一例として、以下の式(8)から式(10)に示した、いわゆるZernike多項式で表される収差を用いても良い。Zernike多項式は、所定の係数αnmに式(9)により表される波面収差関数Z (ρ,θ) を乗じた項を、複数加算したものである。係数αnmは、一般的にZernike係数と呼ばれる係数である。
【0119】
【数7】
・・・(8)
【数8】
・・・(9)
【数9】
・・・(10)
【0120】
式(8)から式(10)の中の、nおよびmは、それぞれ指数と呼ばれ、指数nは0以上の任意の整数であり、指数mは絶対値がn以下であり(n-m)が偶数となる任意の整数である。式(8)の中の係数αnmは、添字としてnおよびmを付加して示している。式(10)のR (ρ)は、いわゆる動径多項式と呼ばれ、動径ρに対する関数を表す。式(10)のkは整数である。
【0121】
デフォーマブルミラー60の反射面61により検出光学系20および照明光学系10に、式(8)で表されるZernike多項式による波面収差W(ρ,θ)を設定する場合には、図3に示したフローにおいて、以下に説明する処理を行う。
【0122】
ステップS103からステップS111までのループにおいてステップS104が実行される毎に、制御部40の収差制御部48は、デフォーマブルミラー60に制御信号S6を送り、デフォーマブルミラー60の反射面61にk番目の収差状態を設定する。
ループの初回(k=1)においては、収差制御部48はステップS104において収差状態が式(8)における係数αnmの値をそれぞれ所定の値に設定した波面収差W(ρ,θ)を、デフォーマブルミラー60の反射面61に設定する。
【0123】
ループの2回目以降(k≧2)では、収差制御部48はステップS104において式(8)の係数αnmのうち、所定の指数n0およびm0を添字とする係数αn0m0の値のみを毎回変更した波面収差W(ρ,θ)を、デフォーマブルミラー60の反射面61に設定する。
従って、ステップS103からにステップS111までのループがK回実行されると、上述した図5に示したように、係数αn0m0がK通りに変化したK通りの収差状態のそれぞれに対する、光量分布情報が計測される。
【0124】
ステップS112において、制御部40の演算部46は、図5に示した収差状態(係数αn0m0)と光量分布情報との関係Ftから、光量分布情報の極小値Do(または極大値)を与える収差状態Coに対応する係数αn0m0の値を決定する。
そして、ステップS113においては、制御部40の収差制御部48は、決定された係数αn0m0の値を用いて表される波面収差W(ρ,θ)に基づく収差状態を、デフォーマブルミラー60の反射面61に設定する。
【0125】
なお、ステップS104においてデフォーマブルミラー60の反射面61に設定する収差状態は、式(8)の係数αnmのうち、上述した所定の係数αn0m0の値以外の係数αnmを全て0とした波面収差W(ρ,θ)に基づく収差状態であっても良い。
【0126】
なお、デフォーマブルミラー60の反射面61に設定する収差状態を、上述したZernike多項式で表される収差を用いて決定する場合には、上述した光量分布情報として、検出像29aまたは補間検出像29bの光量分布のピーク強度に相当する量を算出すると良い。像28および検出像29aの光量分布のピーク強度は、Zernike係数(係数αn0m0)の変化に対して敏感に変化するためである。
【0127】
以上で説明した方法では、演算部46はZernike多項式中の1つの項におけるZernike係数(係数αn0m0)を決定するのみであるが、以下で説明する方法により、複数のZernike係数(係数αn0m0)を決定しても良い。
【0128】
図7は、第2実施形態の顕微鏡において収差状態を決定するためのフローの一例を説明する図であり、複数のZernike係数(係数αn0m0)を決定するためのフローを表している。ただし、図7に示したフローの大部分は、図3に示したフローと同様である。以下では、図3に示したフローとの共通箇所については、同一の符号を付して適宜説明を省略し、主に相違点について説明する。
【0129】
図7に示したフローにおいては、ステップS102とステップS103との間にステップS200を有し、ステップS111とステップS113との間にステップS201からステップS203を有している。そして、ステップS200からステップS202までは、上述した所定の指数n0、指数m0に関するループを構成している。すなわち、図7に示したフローにおいては、ステップS200からステップS202までのループの各回において、それぞれ異なるZernike係数(係数αn0m0)の値の最適値を求める。
【0130】
所定の指数n0、指数m0に関するループであるステップS200からステップS202までのループには、ステップS103からステップS111までのループが含まれている。ステップS104においては、ステップS103からステップS111までのループの各回において、所定の指数n0、指数m0で指定される係数αn0m0の値についてK通りの異なった設定がなされる。
【0131】
ステップS201においては、ステップS200からステップS202までのループの各回において、演算部46が、K通りの係数αn0m0の値(収差状態)とK通りの光量分布情報との関係Ft(図5参照)に基づいて、最適な係数αn0m0の値を決定する。
従って、所定の指数n0、指数m0に関するループであるステップS200からステップS202までのループが所定回終了した後には、複数の係数αn0m0について、それぞれ最適な値が決定されている。
【0132】
ステップS203において、演算部46は、複数の最適な係数αn0m0に基づいて、式(8)の波面収差W(ρ,θ)からデフォーマブルミラー60の反射面61に設定すべき収差状態を決定する。そして、ステップS113において、収差制御部48は、制御信号S6をデフォーマブルミラー60に送り、上述した収差状態をデフォーマブルミラー60の反射面61に設定する。
【0133】
なお、デフォーマブルミラー60の反射面61により設定する波面収差W(ρ,θ)の一例として、Zernike多項式の代わりに、以下の式(11)から式(13)に示した、いわゆるLukosz-Zernike多項式で表される収差を用いても良い。Lukosz-Zernike多項式も、上述したZernike多項式と同様に、所定の係数αnmに式(9)により表される波面収差関数L (ρ,θ) を乗じた項を、複数加算したものである。
【0134】
【数10】
・・・(11)
【数11】
・・・(12)
【数12】
・・・(13)
【0135】
式(11)から式(13)の中の指数nおよび指数mは、上述した式(8)から式(10)の指数nおよび指数mと同様である。また、式(11)の係数αnmは、添字としてnおよびmを付加して示している。
式(13)のB (ρ)は、いわゆる動径多項式と呼ばれ、動径ρに対する関数を表す。式(13)の中のR (ρ)等は、上述した式(10)のR (ρ)の右上および右下の添字m、添字nに、式(13)の中のR (ρ)等の右上および右下の各添字の値を代入したものを表している。
【0136】
デフォーマブルミラー60の反射面61により検出光学系20および照明光学系10に、式(11)で表されるLukosz-Zernike多項式による波面収差W(ρ,θ)を設定する場合にも、上述したZernike多項式による波面収差関数を設定する場合と同様のフローを適用する。
【0137】
ただし、デフォーマブルミラー60の反射面61に設定する収差状態を、Lukosz-Zernike多項式で表される収差を用いて決定する場合には、上述した光量分布情報として、検出像29aまたは補間検出像29bの光量分布の2次のモーメント、または2次の規格化モーメントを算出すると良い。
【0138】
光量分布の2次のモーメントとは、上述した式(2)で表されるn次のモーメントmにおいて、n=2(2次)として表される量である。または2次の規格化モーメントとは、上述した式(3)で表されるn次の規格化モーメントMにおいて、n=2として表される量である。
【0139】
なお、第2実施形態の顕微鏡1aにおいて、デフォーマブルミラー60に代えて、液晶等を用いた反射型の空間光位相変調器を用いても良い。
あるいは、上述した折り曲げミラー64から、デフォーマブルミラー60、および折り曲げミラー65までの光学部材に代えて、液晶等を用いた透過型の空間光位相変調器を用いても良い。
【0140】
デフォーマブルミラー60は、上述したとおり、光学部材としてのその反射面61の形状を変化させることにより、反射面61で反射する光の収差状態を設定する。
一方、反射型および透過型の空間光位相変調器は、内部の液晶等の屈折率分布を変化させることにより、空間光位相変調器を反射または透過する光の収差状態を設定する。
従って、デフォーマブルミラー60の反射面61、反射型の空間光位相変調器、および透過型の空間光位相変調器は、少なくとも1つの状態(形状、屈折率分布)を変化させて収差状態を設定する光学部材であるということができる。
【0141】
なお、上述したデフォーマブルミラー60の反射面61等の状態が変化する光学部材により、照明光学系10および検出光学系20の収差状態を所定の状態に設定できる場合には、対物レンズ15の補正環18は不要である。
第2実施形態の顕微鏡1aにおいては、状態が変化する光学部材と収差制御部48とを合わせて、または、状態が変化する光学部材と収差制御部48とを合わせて、検出光学系20および照明光学系10の収差状態を設定する収差設定部であるということができる。
【0142】
(第2実施形態の顕微鏡の効果)
(2)第2実施形態の顕微鏡1aは、第2実施形態の顕微鏡1に加えて、収差設定部(収差制御部48、補正環18等、デフォーマブルミラー60等)が、検出光学系20または照明光学系10の少なくとも一方に含まれる光学部材(反射面61等)の少なくとも1つの状態を変化させて収差状態を設定する構成を備えている。
この構成により、検出光学系20または照明光学系10の少なくとも一方に複雑な分布形状を有する波面収差を設定することができ、試料56を覆うカバーガラスの厚さ誤差等により生じる収差をより高精度に補正することができる。
(3)収差設定部(収差制御部48、補正環18等、デフォーマブルミラー60等)は、複数の収差状態における検出像29aのそれぞれの検出に際し、検出光学系20または照明光学系10の少なくとも一方に、検出光学系20または照明光学系20の光束の半径で規格化された光軸AXからの動径ρ、および方位角θを用いて表される1つ以上の波面収差関数(Z (ρ,θ)、L (ρ,θ))のうちの1つ、または2つ以上に対して、それぞれ異なる比例係数(係数αnm)を掛け合わせた波面収差W(ρ,θ)をそれぞれ設定する。そして、演算部46は、1つ以上の波面収差関数に、それぞれ所定の比例係数を掛け合わせて積算した波面収差を、収差設定部が設定すべき検出光学系20または照明光学系10の少なくとも一方の収差状態として決定する。
この構成により、収差関数の多項式を用いて、検出光学系20または照明光学系10に設定すべき収差状態を表すことができ、最適な収差状態を高精度に決定することができる。
【0143】
(受光光学系および制御部の変形例)
図8は、上述した第1実施形態の顕微鏡1および第2実施形態の顕微鏡1aにおける受光光学系21、および制御部40の変形例である受光光学系21a、および制御部40aを示す図である。なお、制御部40aは、上述した制御部40に対して、第2の画像データ生成部44bが付加されたものである。ただし、図8においては、データ取得部47、積算部47s、画像データ生成部44、および第2の画像データ生成部44b以外の構成要素の図示を省略している。
【0144】
変形例の受光光学系21aは、バリアフィルタ22を透過した検出光Ldを反射して検出光学系20(図1図6参照)の第2の像面Imp2に偏向させる反射鏡35を有している。反射鏡35は、保持部36によりZ方向に可動に、すなわち検出光Ldの光路に装脱自在に配置されている。
【0145】
反射鏡35が検出光Ldの光路上に配置された状態(図8に示した状態)では、検出光Ldは反射鏡35により反射され、検出光Ldbとなって集光レンズ23bにより集光され、第2の像面Imp2上に、照明領域55(図1図6参照)の像28bを形成する。
【0146】
第2の像面Imp2には、実質的円形の開口部38が形成された遮光部37が配置されており、検出光Ldbのうち像28bの中心近傍に集光した光は開口部38を透過し、その光量は光量検出器39により検出される。検出光Ldbのうち像28bの像28bの中心近傍以外に分布する光は、遮光部37により遮蔽され、光量検出器39には検出されない。
従って、反射鏡35から集光レンズ23b、遮光部37、および光量検出器39までの構成は、通常のコンフォーカル顕微鏡の受光部と同様の構成となっている。
【0147】
光量検出器39により検出された光量は、光電変換された後にデジタル信号に変換され、光量信号S4aとして出力される。制御部40aの第2の画像データ生成部44bは、照明領域55と試料56との相対的な走査に同期して光量信号S4aを読み込み、照明領域55と試料56との相対位置関係に対する光量信号S4aの光量との関係である第2の画像データを生成する。第2の画像データ生成部44bによる第2の画像データを生成は、通常のコンフォーカル顕微鏡における画像データの生成と同様である。
【0148】
遮光部37に形成された開口部38の大きさ(直径)は、一例として、検出光学系20の第2の像面Imp2側における解像度の0.2倍以上、かつ10倍以下の大きさである。検出光学系20の第2の像面Imp2側における解像度とは、検出光Ldbの波長をλ2、像面Imp2に至る検出光学系20の検出器側の開口数をNAとするとき、0.61×λ2/NAで求まる値である。
【0149】
開口部38の大きさ(直径)が、上記の解像度の0.2倍より小さいと、開口部38を通過する光量が減少するため、第2の画像データのS/Nが低下する。一方、開口部38の大きさ(直径)が、上記の解像度の10倍より大きいと、コンフォーカル顕微鏡としての機能が弱まり、第2の画像データの解像度が低下する。
【0150】
一方、反射鏡35が検出光Ldの光路上から退出した状態では、検出光Ldは直進し、検出光Ldaとなって集光レンズ23aにより集光され、第1の像面Imp1上に、照明領域55(図1図6参照)の像28aを形成する。第1の像面Imp1には、上述した第1実施形態および第2実施形態における受光光学系21と同様に、複数の検出画素32を有する検出器30の検出面31が配置されている。
【0151】
複数の検出画素32により検出された像28aの検出像29a(図1図6参照)は、上述した第1実施形態および第2実施形態の顕微鏡1、1aと同様に、光量信号S4とし制御部40aのデータ取得部47に送信される。
【0152】
制御部40aは、上述した第1実施形態および第2実施形態の制御部40と同様に、検出像29aに基づいて、設定すべき収差状態を決定するとともに、決定した収差状態を照明光学系10および検出光学系20に設定する。そして、制御部40aは、上述したように照明領域55と試料56との相対的な走査に同期して検出像29aを読み込み、試料56の画像データの生成を行う。
【0153】
検出像29aから画像データの生成を行う画像データ生成部44を、上述した第2の画像データ生成部44bと区別するために、第1の画像データ生成部44と呼ぶこともできる。また、検出像29aから生成される画像データを、光量信号S4aに基づいて第2の画像データ生成部44bにより生成される第2の画像データと区別するために、第1の画像データと呼ぶこともできる。
【0154】
なお、検出器30の複数の検出画素32により検出された検出像29aについては、照明光学系10および検出光学系20に設定すべき収差状態の決定だけに使用しても良い。この構成においては、検出器30を画像データの生成には使用しないため、読出しサイクルタイムの遅い、すなわち安価な検出器であっても、検出器30として使用することができる。
【0155】
以上の説明では、所定の収差状態を設定する収差設定部としてのデフォーマブルミラー60は、照明光学系10と検出光学系20とに共有されている。しかしながら、デフォーマブルミラー60は、照明光学系10と検出光学系20とに別々に含まれるものであっても良く、あるいは照明光学系10と検出光学系20のどちらか一方にのみ含まれるものであっても良い。
【0156】
例えば、図6に示した第2実施形態の顕微鏡1aにおいて、デフォーマブルミラー60は、分岐ミラー11よりも光源部50側、または分岐ミラー11よりも受光光学系21側の、少なくとも一方に配置されていても良い。
この場合には、収差設定部としてのデフォーマブルミラー60は、照明光学系10の収差状態、または検出光学系20の収差状態の、少なくとも一方を設定する。また、演算部46は、照明光学系10または検出光学系20の少なくとも一方の収差状態を決定する。
【0157】
(検出器の変形例)
以上の各実施形態では、検出器30は照明領域55の像28の位置に直接配置するものとしている。しかし、例えば特許文献1に開示されるように、照明領域55の像28の位置には、光ファイバー束等の光分配素子の一端(入射端)を配置し、光分配素子の他端(射出端)に光電変換部を配置する構成とすることもできる。
【0158】
図9は、変形例の検出器200の全体を示す図である。変形例の検出器200は、1次元に配置される光電検出器アレイ206と、光電検出器アレイ206に光を供給する光ファイバー束201とを含んでいる。光ファイバー束201は単一の光ファイバー204から形成されている。
【0159】
光ファイバー束201の一端(入射端)202は、照明領域55の像28が形成される面に配置されるとともに、一端202においては、それぞれの単一光ファイバー204は密集して配列されている。光ファイバー束201内の個々の光ファイバー204の他端(射出端)は、1次元方向に延在するプラグ205に沿って配置されている。そして、各光ファイバー204の他端(射出端)は、1次元に配列されている光電検出器アレイ206の各光電変換面208と対向している。光ファイバー束201は、光を分配する光分配素子に相当する。なお、光分配素子は、光ファイバー束に限られず、他の既存の導波路を用いることができる。
【0160】
各光ファイバー204の入射端の直径(正確にはそのファイバーのコアの直径)は、照明光Liの波長をλ、対物レンズ15の開口数をNAとするとき、試料56上の長さに換算して、例えば、望ましくは0.2×λ/NA程度に設定できる。なお、各光ファイバー204への集光効率を高めるため、各光ファイバー204の入射端の前面にマイクロレンズアレイなどの集光素子アレイを配置してもよい。この場合、例えば、集光素子アレイを介して形成される像の位置に各光ファイバー204の入射端が配置されるように構成してもよい。
【0161】
光ファイバー束等の光分配素子を使用することにより、光電変換部の配置の自由度が増し、より大きな光電変換部を使用することが可能となる。これにより、PINフォトダイオードや光電子倍増管等の、高感度かつ高応答の光電変換部が使用可能となり、試料56の2次元画像のS/N比を向上させることができる。
【0162】
光ファイバー束201の入射端202は、その下流に配置された光電変換部により光を検出(光電変換)する光ファイバーの入射端が2次元的に配列されている部分であることから、2次元的に配列されている複数の検出部と解釈することができる。
【0163】
(プログラムの実施形態)
実施形態のプログラムは、既に第1実施形態の顕微鏡1および第2実施形態の顕微鏡1aの説明において説明したとおり、制御部40の記憶部41に格納され、CPUに実行されることにより、制御部40の各部を介して、顕微鏡1、1aを制御する。
【0164】
プログラムは、図3に示したフローまたは図7に示したフロー、および上述したそれらを変形したフローに従って、制御部40を介して顕微鏡1、1aに所定の動作を行わせる。一例として、プログラムは、データ取得部47に、照明光学系10による照明光Liが集光された試料56上の照明領域55の像28を、検出光学系20の像面Imp、Imp1に配置された複数の検出画素32により検出した検出像29aを取得させる。このとき、プログラムは、データ取得部47に、照明光学系10または検出光学系20の収差状態が相互に異なる状態での複数の検出像29aを取得させる。
【0165】
プログラムは、制御部40を介して算出部45に、複数の検出像29aのそれぞれの光量分布情報を算出させ、制御部を介して演算部46に、複数の光量分布情報に基づいて、検出光学系20または照明光学系10に設定すべき収差状態を決定させる。
【0166】
上記の機能を実現するためのプログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムを、光学ドライブ42等から、コンピュータシステムとしての制御部40に読み込ませ、実行させてもよい。
【0167】
なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、光ディスク、メモリカード等の可搬型記録媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0168】
さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持するものを含んでもよい。また上記のプログラムは、前述した各機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した各機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせにより実現するものであってもよい。
【0169】
また、上述したプログラムは、インターネット等のデータ信号を通じて提供することができる。例えば、図1または図6中のCPU、記憶部41を備える制御部40は、ネットワークケーブルNWとの接続機能(インターフェース部IF)を有している。ネットワークに接続されている不図示の外部サーバは上記プログラムを提供するサーバコンピュータとして機能し、記憶部41等の記録媒体にプログラムを転送する。すなわち、プログラムをデータ信号として搬送波により搬送して、ネットワークケーブルNWを介して送信する。このように、プログラムは、記録媒体や搬送波などの種々の形態のコンピュータ読み込み可能なコンピュータプログラム製品として供給できる。
【0170】
上述では、種々の実施形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。また、各実施形態および変形例は、それぞれ単独で適用しても良いし、組み合わせて用いても良い。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。また、法令で許容される限りにおいて、引用した全ての文献(特許文献および論文)の開示を援用して本文の記載の一部とする。
【符号の説明】
【0171】
1,1a:顕微鏡、10,10a:照明光学系、11:分岐ミラー、12:偏向部、13,14:リレーレンズ、15:対物レンズ、18:補正環、20,20a:検出光学系、21:受光光学系、24:変倍光学系、28:像、29a:検出像、29b:補間検出像、30:検出器、31:検出面、32:検出画素、Li:照明光、Ld:検出光、40:制御部、44:画像データ生成部、44b:第2の画像データ生成部、45:算出部、46:演算部、47:データ取得部、47s:積算部、48:収差制御部、49:倍率制御部、50:光源部、55:照明領域、56:試料、57:ステージ、60:デフォーマブルミラー、61:反射面
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9