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特許7563491ビニル系重合体、硬化性組成物、及び硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】ビニル系重合体、硬化性組成物、及び硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/38 20060101AFI20241001BHJP
   C08F 12/00 20060101ALI20241001BHJP
   C08F 20/00 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
C08F2/38
C08F12/00 510
C08F20/00 510
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022574025
(86)(22)【出願日】2021-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2021048536
(87)【国際公開番号】W WO2022149524
(87)【国際公開日】2022-07-14
【審査請求日】2023-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2021002164
(32)【優先日】2021-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】山口 真悠
(72)【発明者】
【氏名】浅井 学文
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 陽
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-517087(JP,A)
【文献】特開2017-062467(JP,A)
【文献】特開2015-067699(JP,A)
【文献】特開平11-124402(JP,A)
【文献】特開2006-282935(JP,A)
【文献】特開2006-176587(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00-2/60、6/00-246/00、301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、i-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ドデシルアクリレート、ステアリルアクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、i-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ベヘニルメタクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、ヘキサヒドロフタル酸2-メタクリロイルオキシエチル、フタル酸2-メタクリロイルオキシエチルから選ばれる1種以上である(メタ)アクリル系単量体の3~20量体の1種以上に由来した末端構造を有し、酸価が35~300mgKOH/gであり、質量平均粒子径が20~2000μmであり、含水率が5.0重量%以下であり、
エポキシ基含有ビニル系単量体を含まない、ビニル系重合体。
【請求項2】
前記末端構造が、連鎖移動剤由来の末端構造である、請求項1に記載のビニル系重合体。
【請求項3】
2種類以上のビニル系単量体由来の構成単位をさらに有する、請求項1又は2に記載のビニル系重合体。
【請求項4】
前記ビニル系単量体の1種以上が酸基を有するビニル系単量体である、請求項3に記載のビニル系重合体。
【請求項5】
前記ビニル系単量体の1種以上が芳香環を有するビニル系単量体である、請求項3又は4に記載のビニル系重合体。
【請求項6】
前記ビニル系単量体の1種以上が(メタ)アクリル系単量体である、請求項3~5のいずれか1項に記載のビニル系重合体。
【請求項7】
前記ビニル系単量体における(メタ)アクリル系単量体が、(メタ)アクリル酸アルキルエステルであり、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルのエステル構造のアルキル基の炭素数が1~18である、請求項6に記載のビニル系重合体。
【請求項8】
重量平均分子量が5000~1000000である、請求項1~7のいずれか1項に記載のビニル系重合体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のビニル系重合体、及び重合性二重結合を有する化合物を含む、硬化性組成物。
【請求項10】
さらに(メタ)アクリル系単量体の3~20量体の1種以上を含む、請求項9に記載の硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インキやレジスト用バインダーとして有用な感光性の樹脂組成物に好適なビニル系重合体と、硬化性組成物及びその硬化物に関する。
本願は、2021年1月8日に日本に出願された特願2021-002164号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
ビニル芳香族化合物とメタクリル酸を含む重合体はインキ、レジストを含め産業的に有用であり、ドライフィルムレジスト用バインダーとして広く用いられている。
ビニル芳香族化合物とメタクリル酸を含む重合体をインキやレジストなどの各種用途に適した粘度、耐水性とアルカリ水可溶性を与えるためには適切な組成で且つ適切な分子量に制御する必要がある。
【0003】
特許文献1にはn-ドデシルメルカプタンやα-メチルスチレンダイマーを連鎖移動剤として使用することで重合体の分子量制御を行う懸濁重合方法が記載されている。特許文献1の方法は、取り扱い性が良好な重合体粒子が得られる点では優れた重合方法であるが、n-ドデシルメルカプタンを使用しているため、溶剤やアルカリ水に対する溶解性が良好ではなく、またn-ドデシルメルカプタン由来の臭気があるため作業性が良好ではなく、作業環境負荷が大きい点に改良の余地が有った。
【0004】
特許文献2には、製造されるポリマーあるいはコポリマーの分子量をより効率的に調節することが可能な連鎖移動剤として末端不飽和メタクリル酸エステルn量体、及びそれを用いた重合方法が記載されている。特許文献2の方法は、アルキルメルカプタン連鎖移動剤を用いていないため、臭気の低減を達成することはできるが、ポリマーが酸基を有していないため、ポリマーをアルカリ水に溶解する際の溶解性が悪く、溶剤溶解性が良好ではないという問題点を有していた。
【0005】
特許文献3には、重合性オレフイン末端基を有する付加ポリマーを製造する方法が記載されている。特許文献3の方法で製造された連鎖移動剤を用いて重合したポリマーは酸基を有していないため、ポリマーをアルカリ水に溶解する際の溶解性が良好ではなく、溶剤溶解性の点に改良の余地が有った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特開平7-102004号公報
【文献】日本国特開2006-176587号公報
【文献】日本国特表2000-514845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、硬化性組成物及びその硬化物に用いうる、溶剤に可溶で且つ作業環境負荷を低減できる低臭気な重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の[1]~[12]を要旨とする。
【0009】
[1](メタ)アクリル系単量体の3~20量体の1種以上に由来した末端構造を有し、酸価が35~300mgKOH/gである、ビニル系重合体。
[2]前記末端構造が、連鎖移動剤由来の末端構造である、[1]のビニル系重合体。
[3]2種類以上のビニル系単量体由来の構成単位をさらに有する、[1]又は[2]のビニル系重合体。
[4]前記ビニル系単量体の1種以上が酸基を有するビニル系単量体である、[3]のビニル系重合体。
[5]前記ビニル系単量体の1種以上が芳香環を有するビニル系単量体である、[3]又は[4]のビニル系重合体。
[6]前記ビニル系単量体の1種以上が(メタ)アクリル系単量体である、[3]~[5]のいずれかのビニル系重合体。
[7]前記ビニル系単量体における(メタ)アクリル系単量体が、(メタ)アクリル酸アルキルエステルであり、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルのエステル構造のアルキル基の炭素数が1~18である、[6]のビニル系重合体。
[8]重量平均分子量が5000~1000000である、[1]~[7]のいずれかのビニル系重合体。
[9]ビニル系重合体が粒子状であり、粒子状のビニル系重合体の質量平均粒子径が20~2000μmである、[1]~[8]のいずれかのビニル系重合体。
[10][1]~[9]のいずれかのビニル系重合体、及び重合性二重結合を有する化合物を含む、硬化性組成物。
[11]さらに(メタ)アクリル系単量体の3~20量体の1種以上を含む、[10]の硬化性組成物。
[12][10]又は[11]の硬化性組成物の硬化物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、硬化性組成物及びその硬化物に用いうる、溶剤に可溶で且つ作業環境負荷を低減できる低臭気な重合体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<ビニル系重合体>
本発明のビニル系重合体は、重合体の末端構造として(メタ)アクリル系単量体の3~20量体の1種以上に由来した構造を有し、酸価が35~300mgKOH/gである。
なお、本発明において「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルの総称である。
【0012】
本発明のビニル系重合体は、重合体の末端構造として(メタ)アクリル系単量体の3~20量体の1種以上を有する。(メタ)アクリル系単量体の3~20量体である末端構造は、(メタ)アクリル系単量体の3~10量体が好ましく、(メタ)アクリル系単量体の3~5量体がより好ましい。
末端構造は連鎖移動剤由来の末端構造であることが好ましい。末端構造はさらに重合性二重結合を有することが好ましい。
重合体の末端構造が連鎖移動剤由来の末端構造であると、溶剤への溶解性が良好となる。また、重合体の末端構造が重合性二重結合を有すると、ビニル系重合体を含む硬化性組成物の硬化性が良好となるので好ましい。重合体の末端構造が連鎖移動剤由来の末端構造であり、かつ重合体の末端構造が重合性二重結合を有すると、重合体の溶剤への溶解性が良好になり、また、ビニル系重合体を含む硬化性組成物の硬化性が良好となるので、より好ましい。
【0013】
(メタ)アクリル系単量体の3~20量体における(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、i-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ドデシルアクリレート、ステアリルアクリレート、グリシジルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルアクリレートなどのアクリル酸エステル類;
メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、i-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ベヘニルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、ヘキサヒドロフタル酸2-メタクリロイルオキシエチル、フタル酸2-メタクリロイルオキシエチルなどのメタクリル酸エステル類;
アクリルアミド、メタクリルアミドなどの重合性アミド類;
ジメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレートなどのジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート類;
が挙げられる。
【0014】
重合時のモノマーとの混和性の点から、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類が好ましく、得られる樹脂のアルカリ水への溶解性と溶剤溶解性が良好となる点から、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、i-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、フェニルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、i-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレートがより好ましく、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、フェニルメタクリレートがさらに好ましい。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
連鎖移動剤由来の末端構造とは、重合性モノマーまたはそれらの混合物から製造される種々のポリマーまたはコポリマーの分子量を調整するために使われる連鎖移動剤に由来する化学構造部分を指す。
【0016】
本発明におけるビニル系重合体は末端構造以外に2種類以上のビニル系単量体由来の構成単位をさらに有することが好ましい。
ビニル系単量体としては、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド類;
アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などの一塩基酸;
フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などの二塩基酸、及びこれらの二塩基酸の部分エステル;
ビニルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸などのスルホン酸基を有するビニル化合物;
スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、o-メトキシスチレン、m-メトキシスチレン、p-メトキシスチレン、p-t-ブチルスチレン、p-t-ブトキシスチレン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェノキシエチルアクリレートなどの芳香環を有するビニル化合物;
が挙げられる。
【0017】
重合体のアルカリ水への溶解性が良好となる点から、ビニル系単量体の1種以上が酸基を有するビニル系単量体であることが好ましい。
【0018】
酸基を有するビニル系単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などの一塩基酸;
フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などの二塩基酸、及びこれらの二塩基酸の部分エステル;
ビニルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸などのスルホン酸基を有するビニル化合物;
が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
重合体の溶剤溶解性が良好となる点から、ビニル系単量体の1種以上が芳香環を有するビニル系単量体であることが好ましい。
【0020】
芳香環を有するビニル系単量体としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、o-メトキシスチレン、m-メトキシスチレン、p-メトキシスチレン、p-t-ブチルスチレン、p-t-ブトキシスチレン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、フェニルアクリレート、ベンジルメタクリレート、ベンジルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレートが挙げられる。得られるビニル系重合体の溶剤に対する溶解性が優れること、また入手し易さの点からスチレンやp-メチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-t-ブチルスチレンが好ましい。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
本発明のビニル系重合体は、酸基を有するビニル系単量体由来の構成単位、及び芳香環を有するビニル系単量体由来の構成単位以外の、重合性二重結合を有するその他の単量体由来の構成単位の1種以上をさらに含んでいてもよい。
【0022】
重合性二重結合を有するその他の単量体としては、酸基を有するビニル系単量体及び芳香環を有するビニル系単量体と共重合可能であれば特に制限されない。
重合性二重結合を有するその他の単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、i-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ドデシルアクリレート、ステアリルアクリレート、グリシジルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルアクリレートなどのアクリル酸エステル類;
メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、i-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ベヘニルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、フェニルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート、ヘキサヒドロフタル酸2-メタクリロイルオキシエチル、フタル酸2-メタクリロイルオキシエチルなどのメタクリル酸エステル類;
アクリルアミド、メタクリルアミドなどの重合性アミド類;
ジメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレートなどのジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート類が挙げられる。
これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明におけるビニル系重合体は、ビニル系重合体を含む硬化性組成物の硬化物に硬度と柔軟性を付与する点から、ビニル系単量体の1種以上が(メタ)アクリル系単量体であることが好ましい。
(メタ)アクリル系単量体は、ビニル系重合体を含む硬化性組成物の硬化物に硬度と柔軟性を付与する点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、(メタ)アクリル酸アルキルエステルのエステル構造のアルキル基の炭素数が1~18であることがより好ましく、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレートがさらに好ましい。
【0024】
本発明のビニル系重合体が酸基を有するビニル系単量体由来の構成単位を含む場合、ビニル系重合体の全単量体由来の構成単位に対する、酸基を有するビニル系単量体由来の構成単位の質量割合は、5~60%が好ましく、10~45%がより好ましく、15~40%がさらに好ましい。前記下限値以上であれば、ビニル系重合体を含む硬化性組成物のアルカリ水に対する溶解性に優れる。前記上限値以下であれば、溶剤に対する溶解性に優れる。
【0025】
本発明のビニル系重合体が芳香環を有するビニル系単量体由来の構成単位を含む場合、ビニル系重合体の全単量体由来の構成単位に対する、芳香環を有するビニル系単量体由来の構成単位の質量割合は、5~80%が好ましく、10~70%がより好ましく、25~60%がさらに好ましい。前記範囲内であれば、ビニル系重合体を含む硬化性組成物を硬化物としたときに耐水性や強度が良好となる。
【0026】
本発明のビニル系重合体の全単量体由来の構成単位に対する、末端構造における(メタ)アクリル系単量体((メタ)アクリル系単量体の3~20量体)由来の構造の質量割合は1ppm~10%が好ましく、100ppm~7%がより好ましく、2000ppm~4%がさらに好ましい。前記下限値以上であれば、ビニル系重合体を含む硬化性組成物の溶剤溶解性が良好となる傾向がある。前記上限値以下であれば、ビニル系重合体の純度が向上する。
【0027】
本発明のビニル系重合体の全単量体由来の構成単位に対する、重合性二重結合を有するその他の単量体由来の構成単位の質量割合は、0~90%が好ましく、5~80%がより好ましく、10~70%がさらに好ましい。前記範囲内であれば、硬化性組成物としたときにビニル系重合体と全単量体の相溶性が良好となる。
【0028】
ビニル系重合体の各単量体由来の構成単位と末端構造における(メタ)アクリル系単量体((メタ)アクリル系単量体の3~20量体)由来の構造の質量割合は、重合原料に用いた各単量体と(メタ)アクリル系単量体の3~20量体との質量比から算出した質量百分率から求めることができる。
【0029】
本発明のビニル系重合体の酸価は35~300mgKOH/gであり、60~300mgKOH/gが好ましく、70~240mgKOH/gがより好ましく、120~200mgKOH/gがさらに好ましい。前記下限値以上であれば、ビニル系重合体のアルカリ水への溶解性が良好となる。前記上限値以下であれば、ビニル系重合体を含む硬化性組成物の硬化物の耐水性が良好となる。
ビニル系重合体の酸価は、フェノールフタレインの変色点を基準にして、重合体をトルエン-エタノール1:1溶液に溶解し、エタノールに溶解したKOHを滴下して滴定し、重合体1gを中和するのに必要なKOHのmg数を測定することで求めることができる。
【0030】
本発明のビニル系重合体は中和して用いてもよい。本発明のビニル系重合体の中和に用いうる塩基としては、例えば、金属水酸化物、アンモニア、アミン化合物が挙げられる。
金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。
アミン化合物としては、例えば、モルホリン、チオモルホリン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジエチルアミン、トリプロピルアミン、ジブチルアミン、アミルアミン、1-アミノオクタン、2-ジメチルアミノエタノール、エチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、1-アミノ-2-プロパノール、2-アミノ-1-プロパノール、3-アミノ-1-プロパノール、1-ジメチルアミノ-2-プロパノール、3-ジメチルアミノ-1-プロパノール、2-プロピルアミノエタノール、エトキシプロピルアミン、アミノベンジルアルコール、ピロリジン、ピペリジンが挙げられる。
【0031】
本発明のビニル系重合体の重量平均分子量(Mw)は5000~1000000が好ましく、5000~200000がより好ましく、6000~120000がさらに好ましく、7000~80000が特に好ましい。前記下限値以上であれば、ビニル系重合体を含む硬化性組成物の硬化物の耐水性や塗膜強度が良好となる傾向がある。前記上限値以下であれば、ビニル系重合体を含む硬化性組成物の粘度を低くすることができ、作業性が良好となる傾向がある。
【0032】
本発明のビニル系重合体は、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が、1.0~5.0であることが好ましく、1.0~3.5がより好ましい。Mw/Mnを前記範囲とすることで、ビニル系重合体を含む硬化性組成物の粘度を低くすることができ、作業性がより良好となる。また、硬化性組成物の硬化物を現像した際に解像度が良好となる。
【0033】
重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)はゲルパーミエーショングロマトグラフィー法(GPC)によって測定し、標準ポリスチレンの検量線を用いて換算することにより測定することができる。
【0034】
GPC測定条件は、以下の通りである。
装置:東ソー HLC-8220GPC(東ソー株式会社製)
カラム:東ソー TSKgel G5000HXL*GMHXL-L(7.8mmφ×300mm)
溶解液:テトラヒドロフラン
試料濃度:0.4重量%
測定温度:40℃
注入量:100μL
流量:1.0mL/分
検出器:RI(装置内蔵)、UV(東ソー UV-8220)
【0035】
本発明のビニル系重合体は、例えば、粒子状、塊状、溶液状であってよい。溶剤やアルカリ水に溶解する際の取り扱い性が容易である点から、粒子状であることが好ましい。
【0036】
ビニル系重合体が粒子状である場合、粒子状のビニル系重合体の質量平均粒子径は、20~2000μmが好ましく、50~800μmがより好ましく、100~600μmがさらに好ましい。前記下限値以上であれば、粉塵爆発による危険性が抑制され配合作業が容易になる。前記上限値以下であれば、重合体の溶剤溶解性が良好となって、溶剤への溶解時間が短縮される。
質量平均粒子径は、標準ふるいを使用して、粒状樹脂20gを5分間振とうさせて分級することで算出することができる。
【0037】
ビニル系重合体の形状が、粒子状又は塊状である場合、ビニル系重合体の含水率は、0.1~5.0重量%が好ましく、0.5~4.5重量%がより好ましい。前記範囲内であると重合体を得た際の重合体の取り扱い性が良好となる。
含水率は、ビニル系重合体を105℃で2時間乾燥した場合の含水率を0%として、105℃で2時間乾燥した時の乾燥前後のビニル系重合体の重量の乾燥減量から算出することができる。
【0038】
<ビニル系重合体の製造方法>
本発明のビニル系重合体は塊状重合、溶液重合、懸濁重合などの通常知られる重合方法によって製造することができる。重合体の取り扱い性が容易な粒子形状の重合体が得られる点で懸濁重合が好ましい。
【0039】
例えば、本発明のビニル系重合体は、懸濁重合法を用いた重合工程と、第一の脱水工程、洗浄工程、第二の脱水工程、乾燥工程とを有する方法で製造することができる。
【0040】
(重合工程)
重合工程は、酸基を有するビニル系単量体と、芳香環を有するビニル系単量体と、必要に応じてその他の重合性二重結合を有する単量体とを懸濁重合し、ビニル系重合体を得る工程である。
懸濁重合の方法としては公知の方法を採用でき、例えば、重合温度制御機能と撹拌機能とを有する容器内にて、酸基を有するビニル系単量体と、芳香環を有するビニル系単量体と、必要に応じて重合性二重結合を有するその他の単量体とを、重合用助剤の存在下、水中で重合させる方法が挙げられる。
【0041】
重合用助剤としては、重合開始剤、連鎖移動剤、分散剤、分散助剤などが挙げられる。
重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイドが挙げられる。
連鎖移動剤としては、1種以上の(メタ)アクリル系単量体の3~20量体を使用する。t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、オクチルチオグリコレート、α-メチルスチレンダイマーと、(メタ)アクリル系単量体の3~20量体の1種以上とを併用してもよい。
分散剤としては、例えば、水中で単量体を安定に分散させる界面活性剤が挙げられ、具体的には、メタクリル酸2-スルホエチルナトリウムとメタクリル酸カリウムとメタクリル酸メチルとの共重合体、3-ナトリウムスルホプロピルメタクリレートとメタクリル酸メチルとの共重合体、メタクリル酸ナトリウムとメタクリル酸との共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。
分散助剤としては、例えば、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、塩化カリウム、酢酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸マンガンが挙げられる。
【0042】
懸濁重合により得られるビニル系重合体は、スラリーの状態で得られる。スラリーを脱水することで通常は真球に近いビニル系重合体粒子が得られる。
【0043】
(脱水工程)
脱水工程は、懸濁重合後のスラリーを脱水機などで脱水してビニル系重合体粒子を反応液から分離する第一の脱水工程と、洗浄工程後のビニル系重合体粒子を脱水機などで脱水してビニル系重合体粒子を洗浄液から分離する第二の脱水工程が挙げられる。各脱水工程には各種の脱水機を使用することができ、例えば、遠心脱水機、多孔ベルト上で水を吸引除去する機構のものなどを適宜選択して使用することができる。脱水機は、1基を使用してもよいし、同一機種を2基用意して各脱水工程で使用してもよいし、複数の異なる機種の脱水機を使用してもよい。製品品質、設備投資費、生産性、運転コストなどの点から目的に沿う機種を適宜選択することができる。製品品質と生産速度のバランスを重視する場合は、各脱水工程でそれぞれ専用の脱水機を使用することが好ましい。
【0044】
(洗浄工程)
洗浄工程により、ビニル系重合体の純度が高まる。
洗浄方法としては、例えば、第一の脱水工程で脱水したビニル系重合体粒子に洗浄液を添加してビニル系重合体を再度スラリー化させて撹拌混合する方法、洗浄機能を有する脱水機内で脱水工程を行った後に、続けて洗浄液を加えて洗浄する方法が挙げられる。これらの洗浄方法を組み合わせて洗浄を行ってもよい。
【0045】
洗浄液は、洗浄工程の目的が達成されるようにその種類や量を選定すればよい。洗浄剤としては、例えば、水(イオン交換水、蒸留水、精製水など)、ナトリウム塩が溶解した水溶液、メタノールが挙げられる。
【0046】
(乾燥工程)
乾燥工程は、第二の脱水工程後のビニル系重合体粒子を乾燥する工程である。
第二の脱水工程後のビニル系重合体粒子の表面には水が残留している。また、ビニル系重合体の内部は飽和吸水に近い状態にある。そのため、ビニル系重合体の含水率をさらに下げるために、乾燥することが好ましい。
乾燥には各種の乾燥機を使用することができ、例えば、減圧下で加温して乾燥を行う乾燥機、加温空気を用いてビニル系重合体粒子を管内空輸しながら同時に乾燥を行う乾燥機、多孔板の下側から加温空気を吹き込み上側のビニル系重合体粒子を流動させながら乾燥を行う乾燥機などが挙げられる。
乾燥工程は、乾燥工程後のビニル系重合体の含水率が0.1~5.0重量%となるように行うことが好ましい。
なお、得られたビニル系重合体の化学構造は、H-NMRや13C-NMRなどを使った公知の分析方法で確認することができる。
【0047】
<作用効果>
本発明のビニル系重合体は、各種溶剤やアルカリ水に対する溶解性が良好で低臭気であることから作業性に優れる。本発明のビニル系重合体を含有する硬化性組成物は組成の均一性に優れることからブツや白濁が生じにくい。
【0048】
<用途>
本発明のビニル系重合体は、例えば、インキ、塗料、セラミック焼成用バインダー、接着剤、ドライフィルムレジストの原料として使用できる。特に、ドライフィルムレジストの原料として好適である。
【0049】
<硬化性組成物>
本発明の硬化性組成物は、本発明のビニル系重合体と重合性二重結合を有する化合物とを含む。必要に応じて任意成分を含んでもよい。
本発明の硬化性組成物は、硬化性組成物の硬化性が良好となる点から、さらに(メタ)アクリル系単量体の3~20量体の1種以上を含むことが好ましい。
硬化性組成物の硬化性が良好となる点から、(メタ)アクリル系単量体の3~20量体としては、(メタ)アクリル系単量体の3~10量体がより好ましく、(メタ)アクリル系単量体の3~5量体がさらに好ましい。
【0050】
重合性二重結合を有する化合物としては、例えば、(メタ)アクリル系単量体の3~20量体、上述したビニル系重合体の製造で使用することができる単量体、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールアジペートジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートヒドロキシピバレート、ジシクロペンタジエニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンタジエニルジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、メチルトリメチルトリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。硬化性と剥離性のバランスから、上述したビニル系重合体の製造で使用することができる単量体、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールアジペートジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートヒドロキシピバレート、ジシクロペンタジエニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンタジエニルジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0051】
任意成分としては、公知の各種添加剤が挙げられる。各種添加剤としては、例えば、溶剤、光重合開始剤、染料、安定剤を挙げることができる。
硬化性組成物の望む物性や性状に応じて、適宜、公知の各種添加剤を選択することができる。
【0052】
本発明の硬化性組成物は、例えば、本発明のビニル系重合体と、重合性二重結合を有する化合物と、必要に応じて任意成分とを通常の撹拌機で混合する方法で製造することができる。
【0053】
本発明の硬化性組成物は、例えば、半導体製造用レジスト、ドライフィルムレジスト、ソルダーレジストに使用できる。
【0054】
本発明の硬化性組成物をドライフィルムレジストに使用する場合は、本発明のビニル系重合体と、重合性二重結合を有する化合物と、溶剤と、光重合開始剤と、必要に応じて任意成分とを混合した組成物が好適である。
【0055】
重合性二重結合を有する化合物としては例えば、上述の硬化性組成物で使用することができる重合性二重結合を有する化合物を挙げることができる。
硬化性組成物中の重合性二重結合を有する化合物の含有量は、硬化性と塗工性のバランスから、本発明のビニル系重合体の総量100質量部に対して5~90質量部であることが好ましい。
【0056】
溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチルの他、本発明のビニル系重合体を中和して用いる際に、本発明のビニル系重合体の中和に用いうる塩基の水溶液が挙げられる。
これらの溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0057】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインアルキルエーテル、ケタール類、アセトフェノン類、ベンゾフェノン、4,4’-ジメチル-アミノ-ベンゾフェノン、4,4’-ジエチル-アミノ-ベンゾフェノン、チオキサントン類、モルホリノ-プロパノン化合物類、2,4,5-トリアリールイミダゾ-ル二量体、2,2’-ビス(2-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール、オキシムエステル類、チオキサントン類を挙げることができる。
これらの光重合開始剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
硬化性組成物中の光重合開始剤の含有量は、重合性二重結合を有する化合物の総量100質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下であることが好ましい。
【0058】
安定剤としては、例えば、p-メトキシフェノール、ハイドロキノン、ピロガロール、ナフチルアミン、t-メチルカテコールが挙げられる。
染料としては、例えば、マラカイトグリーン、ビクトリアピュアブルー、ブリリアントグリーン、メチルバイオレット、ロイコクリスタルバイオレット、ジフェニルアミン、ベンジルアミンを挙げることができる。
その他、任意成分として消泡剤、レベリング剤を使用することもできる。
【0059】
<硬化性組成物の硬化物>
硬化性組成物を例えば乾燥後の厚みで1μm~100μmとなるようにポリエチレンテレフタラートなどのポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの重合体フィルムを支持体として塗布し、揮発成分を除去することで感光性エレメントを形成することができる。感光性エレメントは波長250nm~420nmの範囲の紫外光で露光し、硬化性組成物の硬化物とすることで回路パターンを形成することができる。
【実施例
【0060】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下の記載において「部」は質量部を意味する。実施例及び比較例における各ビニル系重合体は表1に示す原料組成比で合成した。実施例及び比較例で用いた分散剤は後述の方法で製造した。
実施例及び比較例における各物性の測定及び評価は以下の方法で行った。
【0061】
[測定・評価]
<ビニル系重合体粒子の溶剤溶解性の評価>
溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテル70gをフラスコに仕込み、室温で撹拌機にて撹拌しながら、ビニル系重合体粒子30gを少量ずつ添加し、50℃で2時間撹拌した後、室温に冷却して溶解性を溶液の透明性を基に目視にて確認し、以下評価基準で評価した。
【0062】
(溶剤溶解性評価基準)
A:溶液が透明であり、溶解性が非常に優れている。
B:溶解に2時間以上かかるが溶液は透明であるので、溶解性が優れている。
C:溶液の白濁は僅かであり、溶解性が劣る。
D:溶液は白濁しており、溶解性が悪い。
【0063】
<ビニル系重合体粒子のアルカリ水溶解性の評価>
0.5M水酸化カリウム水溶液50mLをフラスコに仕込み室温で撹拌機にて撹拌しながら、ビニル系重合体粒子5gを少量ずつ添加し、50℃で2時間撹拌した後、室温に冷却して溶解性をビニル系重合体粒子の溶け残りの有無を目視にて確認して濁度計(EUTECH社製、ポータブル濁度計 TN100IR)で濁度を測定し、以下評価基準で評価した。
【0064】
(アルカリ水溶解性評価基準)
A:ビニル系重合体粒子の溶解後の水酸化カリウム水溶液の濁度が15NTU未満である。
B:ビニル系重合体粒子の溶解後の水酸化カリウム水溶液の濁度が15NTU以上である。
C:ビニル系重合体粒子の溶け残りが残存しており、溶解性が悪い。
【0065】
<ビニル系重合体粒子の含水率の測定>
ビニル系重合体粒子を105℃で2時間乾燥した場合のビニル系重合体の含水率を0%として、乾燥前後のビニル系重合体の質量の乾燥減量から算出した。
【0066】
<臭気の評価>
ビニル系重合体/アセトン/エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート=30/45/25の質量比で溶解させて得られた塗布液を、アプリケーターでPETフィルム(三菱ケミカル株式会社製、ダイヤホイルR310-16、ポリエチレンテレフタラート製)上へ塗布した。その後、室温で5分間乾燥させた後、40℃の乾燥機に15分間入れた。さらにラミネーターで銅板へ圧着(上下ロール温度:100℃、ロール速度:1m/min、加圧設定:0.3MPa)し、室温まで冷ました。その後、パネリスト7人がPETフィルムを剥がした際の臭気を以下の臭気の評価基準で官能評価を行い、最多人数を臭気の評価結果とした。
【0067】
(臭気の評価基準)
A:全く不快な臭気がない。
B:僅かに不快な臭気がする。
C:激しく不快な臭気がする。
【0068】
[分散剤(1)の製造]
撹拌機、冷却管、温度計を備えた重合装置に、脱イオン水1230g、メタクリル酸2-スルホエチルナトリウム60g、メタクリル酸カリウム10g、メチルメタクリレート12gを加えて撹拌し、重合装置内を窒素置換しながら、重合温度50℃に昇温し、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩0.08gを添加し、さらに重合温度60℃に昇温した。重合開始剤の添加と同時に、滴下ポンプを使用して、メチルメタクリレートを0.24g/minの速度で75分間連続的に滴下し、重合温度60℃で6時間保持した後、室温に冷却して分散剤(1)を得た。分散剤(1)の固形分は7.5重量%であった。
【0069】
[製造例1 MMAトリマーの製造]
冷却管付フラスコに、モノマー1molに対して0.114mmolの酢酸コバルト(II)四水和物と0.228mmolのジメチルグリオキシムを仕込み、ピリジン0.01molとメチルエチルケトン(MEK)166mlをシリンジで加えた。得られた混合物を窒素気流下で3回凍結脱気した後、80℃で30分間加熱攪拌し、触媒混合液を得た。別に、1重量%AIBNの1molメタクリル酸メチル(MMA)溶液を窒素気流下で3回凍結脱気したAIBN混合液を調製し、触媒混合液に80℃を保持しながら5時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間、80℃を保持することで重合混合液を得た。得られた重合混合液を室温まで冷却した後、エバポレーターでMEKを留去した。残渣をトルエンに溶解し、トルエンを展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフにより、MMAトリマーを得た。1H-NMRで純度を確認した。
【0070】
[製造例2 MMA2~13量体の製造]
製造例1で得られた重合混合液を室温まで冷却した後、エバポレーターにてMEKを留去し、1H-NMRで純度を確認した。
【0071】
[製造例3 MMA8量体の製造]
製造例1で得られた重合混合液を室温まで冷却した後、エバポレーターにてMEKを留去した。残渣をトルエンに溶解し、トルエンを展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフにより、MMA8量体を得た。1H-NMRで純度を確認した。
【0072】
[製造例4 BMAトリマーの製造]
モノマーにメタクリル酸n-ブチル(BMA)を用いた以外は製造例1と同様の処方にてBMAトリマーを取得した。純度は1H-NMRで確認した。
【0073】
[実施例1]
撹拌機、冷却管、温度計を備えた重合装置中に、スチレン60質量部、メタクリル酸メチル10質量部、メタクリル酸30質量部を均一に溶解した単量体混合物と;重合開始剤として2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.25質量部と;連鎖移動剤としてMMAトリマー4質量部と;分散剤(1)0.8質量部及び分散助剤として硫酸ナトリウム0.3質量部を均一に溶解した純水200質量部と;を仕込み、撹拌しながら窒素置換を行った。その後、75℃で懸濁重合を開始し、重合発熱のピークを検出した後、85℃で30分さらに重合を行った(重合工程)。
重合後、釜内を常温まで冷却し、生成したスラリーを遠心分離式脱水機にて脱水した(第一の脱水工程)。
得られたビニル系重合体と、洗浄液として純水を質量比(ビニル系重合体粒子:洗浄液)が1:2となるように洗浄用槽に投入し、20分間撹拌混合して洗浄を行った後(洗浄工程)、遠心分離式脱水機にて脱水した(第二の脱水工程)。
脱水後、脱水されたビニル系重合体粒子を50℃に内温設定された流動槽式乾燥機に投入し、含水率が5%以下になるように乾燥した(乾燥工程)。
得られた粉体状のビニル系重合体粒子について、溶剤溶解性及びアルカリ水溶解性を評価した。
結果を表1に示す。
【0074】
[実施例2~23、比較例1~3]
表1~3に示す原料組成比とした以外は、実施例1と同様にして粉体状のビニル系重合体を製造し、各種測定及び評価を行った。
結果を表1~3に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
表1~3で使用した各略号は以下のとおりである。
St:スチレン
MAA:メタクリル酸
MMA:メチルメタクリレート
BzMA:ベンジルメタクリレート
BA:n-ブチルアクリレート
iBMA:i-ブチルメタクリレート
PGM:プロピレングリコールモノメチルエーテル
tDM:t-ドデシルメルカプタン
nDM:n-ドデシルメルカプタン
OTG:チオグリコール酸 2-エチルヘキシル
MMAトリマー(MMA2量体:MMA3量体:MMA4量体:MMA5量体=1.9:97.1:0.7:0.3(質量比))
MMA8量体(MMA6量体:MMA7量体:MMA8量体:MMA9量体=0.5:17.1:70.5:11.9(質量比))
MMA2~13量体(MMA2量体:MMA3量体:MMA4量体:MMA5量体:MMA6量体:MMA7量体:MMA8量体:MMA9量体:MMA10量体:MMA11量体:MMA12量体:MMA13量体=1.9:95.2:0.7:0.4:0.5:0.3:0.1:0.1:0.3:0.2:0.2:0.1(質量比))
BMAトリマー(BMA2量体:BMA3量体:BMA4量体=15.9:83.8:0.3(質量比))
【0079】
表1~3の結果から明らかなように、実施例1~23で得られたビニル系重合体は、溶剤溶解性及びアルカリ水溶解性に優れ、低臭気であった。
【0080】
比較例1で得られたビニル系重合体は、重合体の末端構造として(メタ)アクリル系単量体の3~20量体の1種以上に由来した構造を有さないため、激しく不快な臭気がするものであった。
比較例2及び3で得られたビニル系重合体は酸価が本願規定の範囲外であるため、アルカリ水に対する溶解性が悪かった。
【0081】
[実施例24、比較例2~3]
ビニル系重合体(a)及び(z)、重合性二重結合を有する化合物(b)、光重合開始剤(c)及び染料(d)を表2に示す組成で有機溶剤(e)に溶解し、硬化性組成物である塗布液を調合した。
以下の評価基準で配合適正を評価した。
【0082】
(配合適正評価基準)
A:塗布液の濁り、ブツはなく、良好である。
B:塗布液は僅かに濁りがある。
C:塗布液は強く濁りと溶け残りが残存している。
【0083】
得られた塗布液を、アプリケーターを用いて20μm厚のPETフィルム(三菱ケミカル株式会社製、ダイヤホイルR310-16、ポリエチレンテレフタラート製)上に塗布した。塗布液を塗布したPETフィルムを室温で30分放置した後、50℃の乾燥機中で30分乾燥し、30μmの感光層を形成し、感光性フィルムを得た。PETフィルムが外側となるように、感光性フィルムを銅張積層板上に加熱ラミネーションし、試験板とした。ラミネーション条件はロール温度100℃、ロール速度1m/min、0.3Mpa加圧とした。
高圧水銀灯を光源とした平行露光機により、試験板の感光性フィルムに所定形状のフォトマスクを密着させて露光した。露光エネルギー量は30mJ/cmとした。露光後、PETフィルムを剥離し、濃度1質量パーセントの炭酸ナトリウム水溶液の現像液を用いて現像することによって、未露光部分を溶解除去し、硬化性組成物の硬化物からなる回路パターンを得た。現像は、現像液をスプレーする方法を用い、現像液温度30℃の条件で行った。
以下の評価基準で解像度と現像性を評価した。
【0084】
(解像度評価基準)
A:ライン幅(L)/スペース幅(S)(以下L/Sと略す)が30μm/30μmであるフォトマスクを用い、未露光の部分の現像にかかる最小の時間の1.5倍の時間現像した際に回路パターンが残存する。
B:L/Sが30μm/30μmであるフォトマスクを用い、未露光の部分の現像にかかる最小の時間の1.5倍の時間現像した際に回路パターンが残存しない。
C:硬化物がアルカリ水に溶解しないため、現像できず、評価できなかった。
【0085】
(現像性評価基準)
A:未露光の部分の現像にかかる最小の時間が60秒未満である。
B:未露光の部分の現像にかかる最小の時間が60秒以上である。
C:硬化物がアルカリ水に溶解しないため現像できず、評価できなかった。
【0086】
【表4】
【0087】
表4で使用した各略号は以下のとおりである。
(a)-1:実施例2で得られたビニル系重合体
(z)-1:比較例2で得られたビニル系重合体
(z)-2:比較例3で得られたビニル系重合体
(b)-1:エチレンオキサイドを10モル付加した、ビスフェノールAジメタクリレート(新中村化学社製、製品名:NKエステル BPE500)
(b)-2:トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート(東洋ケミカルズ株式会社、製品名:Miramer M3130)
(c)-1:2,2’-ビス(2-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール
(c)-2:4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン
(d)-1:ロイコクリスタルバイオレット
(d)-2:マラカイトグリーン
(e)-1:メチルエチルケトン
(e)-2:メタノール
【0088】
表4の結果から明らかなように、実施例24は配合適正、解像度及び現像性が良好であった。
【0089】
比較例2及び比較例3は硬化物がアルカリ水に溶解しないため、現像できず、解像度と現像性を評価できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明によれば、硬化性組成物及びその硬化物に用いうる、溶剤に可溶でかつ作業環境負荷を低減できる低臭気な重合体を提供できる。