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特許7563529ヒートシンク及びその製造方法、及び熱交換器
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】ヒートシンク及びその製造方法、及び熱交換器
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/473 20060101AFI20241001BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241001BHJP
   B22F 1/10 20220101ALI20241001BHJP
   B22F 10/14 20210101ALI20241001BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20241001BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20241001BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20241001BHJP
   B22F 10/38 20210101ALI20241001BHJP
   B29C 64/165 20170101ALN20241001BHJP
【FI】
H01L23/46 Z
B22F1/00
B22F1/10
B22F10/14
B28B1/30
B33Y10/00
B33Y80/00
B22F10/38
B29C64/165
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023092054
(22)【出願日】2023-06-05
(62)【分割の表示】P 2022037444の分割
【原出願日】2022-03-10
(65)【公開番号】P2023123485
(43)【公開日】2023-09-05
【審査請求日】2023-06-05
(31)【優先権主張番号】P 2021185827
(32)【優先日】2021-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 智子
(72)【発明者】
【氏名】辻 真人
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-035998(JP,A)
【文献】特開2021-103060(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0033070(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0333061(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00,1/10,10/00,10/14,10/38
B28B 1/30
B29C 64/165
B33Y 10/00,80/00
H01L 23/473
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流路を有するヒートシンクであって、
前記流路は、前記流体の入口と、前記流体の出口と、前記流路の少なくとも一部に、厚みが非均一な三次元の周期極小曲面を有するジャイロイド構造部と、を含み
前記出口側における前記三次元の周期極小曲面の厚みは、前記入口側における前記三次元の周期極小曲面の厚みより大きいことを特徴とするヒートシンク。
【請求項2】
前記入口側の中央部における前記三次元の周期極小曲面の厚みは、前記入口側の側面部における前記三次元の周期極小曲面の厚みより大きい、請求項1に記載のヒートシンク。
【請求項3】
流体の流路を有するヒートシンクであって、
前記流路は、
前記ヒートシンクの垂直方向の上部に、前記流体の入口と、
前記ヒートシンクの垂直方向の下部に、前記流体の出口と、
前記流路の少なくとも一部に、厚みが非均一な三次元の周期極小曲面を有するジャイロイド構造部と、
を含み、
前記出口側の側面部における前記三次元の周期極小曲面の厚みは、前記出口側の中央部における前記三次元の周期極小曲面の厚みより大きいことを特徴とするヒートシンク。
【請求項4】
前記流体は、液体である、請求項1から3のいずれか一項に記載のヒートシンク。
【請求項5】
前記ジャイロイド構造部は、前記液体が流れやすい部分の厚みを大きくし、前記液体が流れにくい部分の厚みを小さくする、請求項に記載のヒートシンク。
【請求項6】
前記ジャイロイド構造部における厚みが最も小さいセルは、前記ヒートシンクの垂直方向の上部における側面部のセルである、請求項1から5のいずれか一項に記載のヒートシンク。
【請求項7】
前記ジャイロイド構造部における厚みが最も大きいセルは、前記ヒートシンクの垂直方向の下部における側面部のセルである、請求項1から6のいずれか一項に記載のヒートシンク。
【請求項8】
流体の流路を有するヒートシンクであって、
前記流路は、前記流体の入口と、前記流体の出口と、前記流路の少なくとも一部に、厚みが非均一な三次元の周期極小曲面を有するジャイロイド構造部と、を含み、
前記入口側の前記三次元の周期極小曲面の厚みは、前記入口から、前記入口と前記出口とを結ぶ直線に対して垂直な方向に向かって離れるほど小さくなることを特徴とするヒートシンク。
【請求項9】
前記ヒートシンクにおける入口は、1つのみである、請求項8に記載のヒートシンク。
【請求項10】
前記ジャイロイド構造部は、金属を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のヒートシンク。
【請求項11】
前記三次元周期極小曲面は、以下の数式1で表される、請求項1から10のいずれか一項に記載のヒートシンク。
sin(X*P1)cos(Y*P2)+sin(Y*P2)cos(Z*P3)+sin(Z*P3)cos(X*P1)=0・・・数式1
【請求項12】
請求項1に記載のヒートシンクの製造方法であって、
粉体を積層して粉体層を形成する粉体層形成工程と、
前記粉体層に対して造形液を付与する造形液付与工程と、を含むことを特徴とするヒートシンクの製造方法。
【請求項13】
流体の流路を有する熱交換器であって、
前記流路は、前記流体の入口と、前記流体の出口と、前記流路の少なくとも一部に、厚みが非均一な三次元の周期極小曲面を有するジャイロイド構造部と、を含み、
前記出口側における前記三次元の周期極小曲面の厚みは、前記入口側における前記三次元の周期極小曲面の厚みより大きいことを特徴とする熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシンク及びその製造方法、及び熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
立体造形物を造形する立体造形物の製造装置としては種々の方式が知られている。例えば、特許文献1は粉体層を積層して立体造形物を造形するものが知られている。しかしながら、特許文献1は熱性能を向上させるために、どのような立体造形物としてのヒートシンクの構造にするかについては検討がなされていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、熱性能の大幅な向上を実現できるヒートシンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の課題を解決するための手段としての本発明のヒートシンクは、流路を有するヒートシンクであって、前記流路の少なくとも一部が、ジャイロイド構造部を有し、前記ジャイロイド構造部は非均一な厚みを有する。
【発明の効果】
【0005】
本発明によると、熱性能の大幅な向上を実現できるヒートシンクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、ジャイロイド構造体の一例を示す概略斜視図である。
図2図2は、図1のジャイロイド構造体を矢印Aの方向から見た図である。
図3図3は、ジャイロイド構造体における最小厚み(肉厚)を示す図である。
図4図4は、ジャイロイド構造体の厚みと静圧の関係を示すグラフである。
図5図5は、本発明のヒートシンクの一例を示す概略斜視図である。
図6図6は、図5のヒートシンク2つを連結部品で組み合わせることにより一体化した状態を示す概略斜視図である。
図7図7は、本発明のヒートシンクの製造方法又はジャイロイド構造体の製造方法に用いられる立体造形装置の一例を示す概略平面説明図である。
図8図8は、本発明のヒートシンクの製造方法又はジャイロイド構造体の製造方法に用いられる立体造形装置の一例の概略側面説明図である。
図9図9は、本発明のヒートシンクの製造方法又はジャイロイド構造体の製造方法に用いられる立体造形装置の造形部の断面説明図である。
図10図10は、本発明のヒートシンクの製造方法又はジャイロイド構造体の製造方法に用いられる立体造形装置の制御部の概要の説明に供するブロック図である。
図11図11は、本発明のヒートシンクの製造方法又はジャイロイド構造体の製造方法に用いられる立体造形装置の一例を示す全体外観図である。
図12A図12Aは、本発明のヒートシンクの製造方法又はジャイロイド構造体の製造方法に用いられる立体造形装置の動作の一例を示す概略図である。
図12B図12Bは、本発明のヒートシンクの製造方法又はジャイロイド構造体の製造方法に用いられる立体造形装置の動作の他の一例を示す概略図である。
図12C図12Cは、本発明のヒートシンクの製造方法又はジャイロイド構造体の製造方法に用いられる立体造形装置の動作の他の一例を示す概略図である。
図12D図12Dは、本発明のヒートシンクの製造方法又はジャイロイド構造体の製造方法に用いられる立体造形装置の動作の他の一例を示す概略図である。
図12E図12Eは、本発明のヒートシンクの製造方法又はジャイロイド構造体の製造方法に用いられる立体造形装置の動作の他の一例を示す概略図である。
図13図13は、比較例1のヒートシンク本体を示す概略斜視図である。
図14A図14Aは、比較例1のヒートシンクにおける左、中央、右の断面位置を示す図である。
図14B図14Bは、比較例1のヒートシンクにおける左、中央、右の断面位置での断面図である。
図15図15は、比較例1のヒートシンクを2つ積層したヒートシンクモデルの一例を示す概略斜視図である。
図16図16は、図15のヒートシンクモデルの中央部における概略断面図である。
図17図17は、実施例1のヒートシンク本体を示す概略斜視図である。
図18図18は、実施例2のヒートシンク本体を示す概略斜視図である。
図19図19は、実施例3のヒートシンク本体を示す概略斜視図である。
図20A図20Aは、実施例3のヒートシンクにおける左、中央、右の断面位置を示す図である。
図20B図20Bは、実施例3のヒートシンクにおける左、中央、右の断面位置での断面図である。
図21図21は、実施例4のヒートシンク本体を示す概略斜視図である。
図22図22は、実施例5のヒートシンク本体を示す概略斜視図である。
図23図23は、比較例2のヒートシンク本体を示す概略斜視図である。
図24図24は、実施例1~5のジャイロイド構造部における厚みが一番薄いところと一番厚いところのセルの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(ジャイロイド構造体)
本発明のジャイロイド構造体は、所定の面を有し、非均一な厚みを有する。
ジャイロイド構造体は、下記数式1で表される面を有することが好ましい。
sin(X*P1)cos(Y*P2)+sin(Y*P2)cos(Z*P3)+sin(Z*P3)cos(X*P1)=0 ・・・数式1
ただし、前記数式1中、X、Y、Zは-πからπの実数、P1、P2、P3は0より大きい実数である。
【0008】
上記数式1の三角関数で示されている通り、ジャイロイド構造体はX、Y、Zの3方向に無限に連結される構造である。
P1、P2、P3が1の場合、1周期はそれぞれ2πである。一方で、P1及びP2が1で、P3のみが2の場合、Zの周期はπとなるため、X,Y方向と比較して、Z方向は半分の周期で連結した形状となる。肉厚やセルサイズに加えて、流れの方向等によってこれらP1、P2、P3の値を適切に設定するとよい。
【0009】
本明細書において、X軸とY軸とZ軸とは、互いに直交する。Z軸は鉛直に定義される。X軸及びY軸は水平に定義される。なお、X軸、Y軸及びZ軸が延びる方向はこの例に限らない。
【0010】
ジャイロイド構造体は立体造形装置で造形可能な特有の形状であり、金型では製作ができない。
ここで、ジャイロイド構造体は、三次元の周期極小曲面を有する。周期極小曲面は、異なる三方向に無限に連結可能であり、空間を二つの領域に分ける極小曲面である。ジャイロイド構造体の周期極小曲面は、X軸に沿う方向、Y軸に沿う方向、及びZ軸に沿う方向に無限に連結可能である。即ち、ジャイロイド構造体は、最小限の材料で最大限の空間充填性を有する形状である。
【0011】
ここで、図1は、ジャイロイド構造体の一例を示す概略斜視図である。図2は、図1のジャイロイド構造体を矢印A方向から見た図である。
ジャイロイド構造体は、図1に示すように、3方向に無限に連結した3次元の周期極小平面であり、三角関数を用いて上記数式1で表すことができる。P1,P2,P3が1の場合、1周期はそれぞれ2πである。
ここでセルサイズを、1周期分のジャイロイド構造を構成する立方体のサイズで定義する。例えば、セルサイズ10とは、10mm×10mm×10mmの空間に、1周期分のジャイロイド構造が構成されていることを示す(図2参照)。
上記数式1を充たすXYZは面(サーフェイス)であり、厚みを持たない。
図3に示すように、面の法線方向両端に、±t/2オフセットした面をそれぞれ設け、それらの面によって囲まれた領域により体積を持つジャイロイド構造体が得られる。このときの厚みをtとする。
【0012】
本発明のジャイロイド構造体は、所定の面を有し、非均一な厚みを有しており、各種分野に用いられるが、以下に説明するように熱交換器及びヒートシンクに好適に用いられる。厚みの設定は、厚さが一定のもとで計算した静圧値に対応した厚みに設定する(図4参照)。
【0013】
(熱交換器)
本発明の熱交換器は、本発明のジャイロイド構造体からなるジャイロイド構造部を有する。熱交換器とは、温かい流体から冷たい流体へ熱を移動させる(熱交換させる)機器である。流体としては水又は空気などが使用される。熱交換器としては、例えば、ヒートシンク、ラジエーター、ボイラーなどが挙げられる。
【0014】
(ヒートシンク)
本発明のヒートシンクは、流路を有するヒートシンクであって、流路の少なくとも一部が、ジャイロイド構造部を有し、ジャイロイド構造部は非均一な厚みを有する。
【0015】
近年、半導体等の電子部品の高集積化により高発熱化が進み、ヒートシンクに対しても更に大型化することなく、高い冷却能力が求められている。
本発明のヒートシンクは立体造形装置により造形することにより、非均一なジャイロイド構造を有し、更に熱性能を大幅に向上させることができる。
【0016】
ヒートシンクの流路を流れる流体としては、液体、気体、固体などが挙げられる。これらの中でも、液体が好ましい。液体としては、例えば、水、エチレングリコール、又はこれらの混合液などが挙げられる。液体の20℃での粘度は、1mPa・s~100mPa・sであることが好ましい。
【0017】
本発明においては、流路の少なくとも一部が、非均一な厚みのジャイロイド構造部を有する。非均一な厚みのジャイロイド構造部は、均一な厚みのジャイロイド構造部に比べて、流路の流れを適正化し、圧力損失の低下及び熱性能の向上を両立でき、更にはヒートシンクの小型化が可能となる。
本発明のヒートシンクは、流路の少なくとも一部が非均一な厚みを持つジャイロイド構造部を有していればよく、本発明の目的及び効果を達成し得る範囲内であれば均一な厚みのジャイロイド構造を有していても構わない。
【0018】
本発明の一態様において、ジャイロイド構造部は、流路が所定の面を含み、前記面の厚みが非均一であることが好ましい。均一なジャイロイド構造部であると、例えば、水などの液体は流れやすい部分に多く流れてしまうため、冷却にばらつきが生じる。一方、非均一なジャイロイド構造部であると、水が流れやすい部分の肉厚を厚くして流れにくくでき、また、水が流れにくい部分の肉厚を薄くして流れやすくすることにより、流れが全体的に均一になり、側面まで均一に冷却できるという効果が得られる。
【0019】
本発明の一態様において、ジャイロイド構造部における少なくとも一部の最小厚み(肉厚)は1mm以上が好ましく、1mm以上15mm以下がより好ましく、3mm以上10mm以下が更に好ましい。ジャイロイド構造部における少なくとも一部の最小厚み(肉厚)が1mm以上であると、ヒートシンクからの水漏れ発生や製造時の破損を防止できる。
【0020】
本発明の一態様において、ジャイロイド構造部を形成する単位セルのセルサイズは5mm以上が好ましく、5mm以上15mm以下がより好ましく、8mm以上12mm以下が更に好ましい。ジャイロイド構造部を形成する単位セルのセルサイズが5mm以上であると、ヒートシンクを立体造形する際の粉抜け性の向上が図れる。
【0021】
本発明の一態様において、ジャイロイド構造部を形成する単位セルのセルサイズとジャイロイド構造部における少なくとも一部の最大厚みとの比(セルサイズ/最大厚み)は2.5以上が好ましく、2.5以上10以下がより好ましく、2.5以上5以下が更に好ましい。比(セルサイズ/最小厚み)が2.5以上であると、ヒートシンクを立体造形する際の粉抜け性の向上が図れる。
【0022】
本発明の一態様において、連結部を有する。連結部は給水口及び排水口に取り付けてチューブ配管と接続する部品であり、その部分での圧力損失が大きいため、ヒートシンク本体と一体化させることにより、圧力損失の低減化を図ることができる。
【0023】
本発明のヒートシンクは、流路を有するヒートシンク本体を有し、更に必要に応じてその他の部材を有する。
ヒートシンク本体の一端に流路の一端部に連通する給水口が設けられていると共に、他端に排水口が設けられている。
給水口から液体をヒートシンク本体内に供給すると、液体は流路を流れ、排水口からヒートシンク本体外に排出される。なお、液体は給水口と排水口の間を循環させてもよい。
液体としては、例えば、水などが挙げられる。なお、水はエチレングリコール等の添加剤を含有していてもよい。
【0024】
ここで、図5は、本発明のヒートシンクの一例を示す概略斜視図、図6は、図5のヒートシンク2つを連結部品で組み合わせることにより一体化した状態を示す概略斜視図である。
ここで、図5は、本発明のヒートシンクの一例を示す概略斜視図、図6は、図5のヒートシンクから連結部を外した状態を示す概略斜視図である。
図5及び図6に示すヒートシンク100は、ヒートシンク本体101と、給水口102と、流路103と、ジャイロイド構造部104と、排水口105とを有している。
給水口102は、流体が入る入口である。流体は、流路103に設けられているジャイロイド構造部104を垂直方向(図5及び図6中のY軸方向)へ流れる。
排水口105は、給水口102から入ってきた流体が排出される出口である。
図5及び図6に示されるヒートシンク100では、一例として、給水口102は、ヒートシンクの垂直方向の上部に位置し、かつ、水平方向(図5及び図6中のX軸方向)の中央部に位置する。また、排水口105は、ヒートシンクの垂直方向の下部に位置し、かつ、水平方向の中央部に位置する。給水口102から入ってきた流体は、中央部から側面部に流れると同時に、垂直方向と奥行き方向(図5及び図6中のZ軸方向)にも流れる。つまり、流体は、ヒートシンクの上流から下流へ流れる。
【0025】
ヒートシンク100は、給水口102から液体を、流路103を介してヒートシンク本体内に供給すると、液体は流路103に設けられている上記数式1で表されるジャイロイド構造部104を流れ、排水口105からヒートシンク本体外に排出される(図6中矢印A方向)。
液体は、発熱体からの熱を受け取って温められ、図示を省略しているポンプによってラジエーターに送られる。温められた液体は、ラジエーターの空冷ファンによって冷やされ、熱を空気中に放散して、再びヒートシンク100に戻るように循環される。
【0026】
(ヒートシンクの製造方法及びジャイロイド構造体の製造方法)
本発明のヒートシンクの製造方法は、本発明のヒートシンクを製造する方法であって、粉体を積層して粉体層を形成する粉体層形成工程と、粉体層に対して造形液を付与する造形液付与工程と、を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0027】
本発明のジャイロイド構造体の製造方法は、本発明のジャイロイド構造体を製造する方法であって、粉体を積層して粉体層を形成する粉体層形成工程と、粉体層に対して造形液を付与する造形液付与工程と、を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0028】
本発明のヒートシンクの製造方法及びジャイロイド構造体の製造方法は、立体造形物としてのヒートシンク及びジャイロイド構造体を、立体造形装置を用いて造形するものである。
【0029】
<粉体層形成工程>
粉体層形成工程は、粉体を積層して粉体層を形成する工程である。
粉体としては、(1)基材を有する場合、(2)基材と有機材料とを有する場合がある。
(1)基材を有する場合としては、基材からなることが好ましい。(2)基材と有機材料とを有する場合としては、基材の表面が有機材料によって被覆されている構成が好ましい。
【0030】
-基材-
基材としては、粉体乃至粒子の形態を有する限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、その材質としては、例えば、金属、セラミックス、カーボン、ポリマー、木材、生体親和材料、砂、磁性材料などが挙げられるが、極めて高強度な立体造形物を得る観点から、最終的に焼結処理(工程)が可能な金属、セラミックスなどが好ましい。
【0031】
金属としては、材質として金属を含むものであれば特に限定されるものではなく、例えば、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、鉛(Pd)、銀(Ag)、インジウム(In)、錫(Sn)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ネオジウム(Nd)、又はこれらの合金などが挙げられる。これらの中でも、ステンレス(SUS)鋼、鉄(Fe)、銅(Cu)、銀(Ag)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、あるいはこれらの合金などが好適に用いられる。 アルミニウム合金としては、例えば、AlSi10Mg、AlSi12、AlSiMg0.6、AlSiMg、AlSiCu、Scalmalloy、ADC1などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム及びこれらの合金から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0032】
セラミックスとしては、例えば、酸化物、炭化物、窒化物、水酸化物などが挙げられる。
酸化物としては、例えば、金属酸化物などが挙げられる。金属酸化物としては例えば、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、チタニア(TiO)などが挙げられる。ただし、これらは一例であって、これらに限定されるものではない。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
基材としては、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、純Al(東洋アルミニウム株式会社製、A1070-30BB)、純Ti(大阪チタニウムテクノロジーズ社製)、SUS316L(山陽特殊製鋼株式会社製、商品名:PSS316L);AlSI10Mg(東洋アルミニウム株式会社製、Si10MgBB);SiO(株式会社トクヤマ製、商品名:エクセリカSE-15K)、AlO(大明化学工業株式会社製、商品名:タイミクロンTM-5D)、ZrO(東ソー株式会社製、商品名:TZ-B53)などが挙げられる。
なお、基材は、有機材料との接着性の向上及びコーティング性の向上を行う目的で公知の表面処理(表面改質処理)を施してもよい。
【0034】
基材の体積平均粒径としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、2μm以上100μm以下が好ましく、8μm以上50μm以下がより好ましい。
基材の体積平均粒径が、2μm以上であると、凝集の影響が増加することを防ぎ、基材への樹脂コーティングを行いやすくなり、歩留りの低下、立体造形物の製造効率の低下、基材の取扱性、及びハンドリング性の低下を防止することができる。また、平均粒子径が100μm以下であると、粒子同士の接点の減少や空隙の増加を防ぐことができ、立体造形物、及びその焼結物の強度が低下することを防ぐことができる。
基材の粒度分布としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、粒度分布はよりシャープである方が好ましい。
基材の体積平均粒径及び粒度分布は、公知の粒径測定装置を用いて測定することができ、例えば、粒子径分布測定装置マイクロトラックMT3000IIシリーズ(マイクロトラックベル社製)などが挙げられる。
【0035】
基材の外形、表面積、円形度、流動性、濡れ性などについては、目的に応じて適宜選択することができる。
【0036】
基材は、従来公知の方法を用いて製造することができる。粉体乃至粒子状の基材を製造する方法としては、例えば、固体に圧縮、衝撃、摩擦等を加えて細分化する粉砕法、溶湯を噴霧させて急冷粉体を得るアトマイズ法、液体に溶解した成分を沈殿させる析出法、気化させて晶出させる気相反応法等が挙げられる。
基材としては、その製造方法に制限されないが、より好ましい方法としては、例えば、球状の形状が得られ、粒径のバラツキが少ない点からアトマイズ法が挙げられる。アトマイズ法としては、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、遠心アトマイズ法、プラズマアトマイズ法などが挙げられ、いずれも好適に用いられる。
【0037】
-有機材料-
有機材料としては、上記(1)の場合に用いられ、反応性官能基を有し、造形液に溶解し、造形液に含まれる架橋剤と反応して共有結合による架橋構造を形成できるものであればよい。
有機材料の溶解性がある(可溶)とは、例えば、30℃の造形液を構成する溶媒100gに樹脂を1g混合して撹拌したとき、その90質量%以上が溶解することを意味する。
有機材料としては、基材として活性の高い金属(高活性金属)粉体に対して反応性が低く、造形前(固化前)の有機材料は有機溶媒に溶解可能(可溶)であり、造形後(固化後、架橋後)の有機材料は有機溶媒に溶解しない(不溶)ことが好ましい。特に、水に対しての溶解性が低い有機溶媒に可溶であることがより好ましい。
有機材料が基材表面を被覆することにより、基材粒子の大きさが小さい場合に生じる粉塵爆発を抑制することができる。また、有機材料が、基材として活性の高い金属(活性金属)粉体に対して反応性が低く、造形液付与前の有機材料は有機溶媒に溶解可能(可溶)であり、造形液付与後(架橋後)の有機材料は有機溶媒に溶解しない(不溶)ものであると、基材が高活性金属、即ち禁水材料(例えば、アルミニウム、チタンなど)であっても適用することができ、製造した固化物(立体造形物)を溶剤系の溶液に浸漬しても崩壊することを防止することができる。
【0038】
反応性官能基としては、架橋剤と反応して共有結合を形成できるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸基、カルボキシル基、アミド基、リン酸基、チオール基、アセトアセチル基、エーテル結合などが挙げられる。
これらの中でも、基材との密着性の向上や架橋剤との反応性の点で、有機材料としての樹脂が水酸基を有していることが好ましい。
【0039】
更には、焼結の際に有機材料が立体造形物に残存して焼結阻害を起こさないように、有機材料は、樹脂単独を450℃で加熱した場合に、95質量%以上が熱分解するものであることが好ましい。
【0040】
有機材料としては水酸基を有する樹脂が好ましい。樹脂としては、例えば、ポリビニルアセタール(ガラス転移温度:107℃)、ポリビニルブチラール(ガラス転移温度:67℃)、ポリアクリルポリオール(ガラス転移温度:80℃)、ポリエステルポリオール(ガラス転移温度:133℃)、ポリブタジエンポリオール(ガラス転移温度:-17℃)、エチルセルロース(ガラス転移温度:145℃)、ニトロセルロース(ガラス転移温度:50℃)などが挙げられる。他にも、酢酸ビニル共重合体(塩化ビニル-酢酸ビニルやエチレン-酢酸ビニル等)の部分鹸化体やポリエーテルポリオール、フェノール系ポリオールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ポリアクリルポリオールが好ましい。
【0041】
有機材料の中でも、分子末端ではなく分子内に水酸基が多数存在するもの、重量平均分子量及び水酸基価が一定以上であることが好ましい。
重量平均分子量としては、100,000以下が好ましく、2,000以上100,000以下がより好ましく、重量平均分子量が100,000以下で常温固体であることが好ましい。
水酸基価としては、50mgKOH/g以上が好ましく、100mgKOH/g以上がより好ましい。
【0042】
有機材料としては、市販品であってもよい。市販品としては、例えば、ポリアクリルポリオール(DIC株式会社製、アクリディックWFU-580等)、ポリエステルポリオール(DIC株式会社製、ポリライトOD-X-668等、株式会社ADEKA製、アデカニューエースYG-108等)、ポリブタジエンポリオール(日本曹達株式会社製、GQ-1000等)、ポリビニルブチラール(株式会社クラレ製、モビタールB20H等)、ポリビニルアセタール(積水化学工業株式会社製、エスレック BM-2,KS-1等)、エチルセルロース(日進化成株式会社製、ETHOCEL等)、ポリアクリル(共栄社化学株式会社製、オリコックスKC-3000等)などが挙げられる。
【0043】
粉体は、基材の表面が有機材料で被覆されているものが好ましい。
有機材料による基材の被覆厚みとしては、平均厚みで、5nm以上1,000nm以下が好ましく、5nm以上500nm以下がより好ましく、50nm以上300nm以下が更に好ましく、100nm以上200nm以下が特に好ましい。
本発明では、架橋剤による架橋反応を利用するために、従来のものより被覆厚みを小さくすることが可能であり、薄膜でも強度と精度の両立が可能である。
被覆厚みとしての平均厚みが、5nm以上であると、粉体に造形液を付与して形成した粉体(層)による固化物の強度が向上し、その後の焼結等の処理乃至取扱い時に型崩れ等の問題が生じることがない、1,000nm以下であると、粉体に造形液を付与して形成した粉体(層)による固化物の寸法精度が向上する。
平均厚みは、例えば、粉体をアクリル樹脂等に包埋した後、エッチング等を行って基材の表面を露出させた後、走査型トンネル顕微鏡STM、原子間力顕微鏡AFM、走査型電子顕微鏡SEMなどを用いて、任意の10箇所の厚みを測定及びその平均値を算出することにより得ることができる。
【0044】
基材の表面積に対して有機材料が基材の表面を被覆する割合(表面被覆率)としては、本発明の効果を奏することができる程度に被覆していればよく、特に制限はないが、例えば、15%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、80%以上が特に好ましい。
表面被覆率が、15%以上であると、粉体に造形液を付与して形成した粉体(層)による固化物の強度が充分に得られ、その後の焼結等の処理乃至取扱い時に型崩れ等の問題が生じることがなく、また、粉体に造形液を付与して形成した粉体(層)による固化物の寸法精度が向上する。
表面被覆率は、例えば、粉体の写真を観察し、二次元の写真に写る粉体について、任意の10個の粒子について、粉体の粒子の表面の全面積に対する、有機材料で被覆された部分の面積の割合(%)を測定し、その平均値を算出してこれを表面被覆率としてもよいし、また、有機材料で被覆された部分をSEM-EDS等のエネルギー分散型X線分光法による元素マッピングを行うことにより、測定することができる。
【0045】
-その他の成分-
その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、流動化剤、フィラー、レベリング剤、焼結助剤、高分子樹脂粒子などが挙げられる。
流動化剤は、粉体からなる層等を容易にかつ効率よく形成し得る点で好ましい。
フィラーは、主に粉体の表面に付着させたり、粉体間の空隙に充填させたりするのに有効な材料である。効果としては、例えば、粉体の流動性の向上や、粉体同士の接点が増え、空隙を低減できることから、立体造形物の強度やその寸法精度を高めることができる。
レベリング剤は、主に粉体の表面の濡れ性を制御するのに有効な材料である。効果としては、例えば、粉体への造形液の浸透性が高まり、立体造形物の強度アップやその速度を高めることができ、形状を安定に維持させることができる。
焼結助剤は、得られた立体造形物を焼結させる際、焼結効率を高める上で有効な材料である。効果としては、例えば、立体造形物の強度を向上でき、焼結温度を低温化でき、焼結時間を短縮できる。
【0046】
粉体を支持体上(造形ステージ上)に配置させて粉体層を形成する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、薄層に配置させる方法としては、特許第3607300号公報に記載の選択的レーザー焼結方法に用いられる、公知のカウンター回転機構(平坦化ローラ)などを用いる方法、粉体をブラシ、ローラ、ブレード等の部材を用いて薄層に拡げる方法、押圧部材を用いて粉体の表面を押圧して薄層に拡げる方法、公知の粉体積層造形装置を用いる方法などが好適に挙げられる。
【0047】
また、粉体を支持体上に薄層に載置させるには、公知の立体造形物の製造装置を用いて自動的にかつ簡便に行うこともできる。立体造形物の製造装置は、一般に、粉体を積層するためのリコーター(平坦化ローラ)と、粉体を支持体上に供給するための可動式供給槽と、粉体を薄層に載置し、積層するための可動式造形槽とを備える。粉体積層造形装置においては、供給槽を上昇させるか、造形槽を下降させるか、又はその両方によって、常に供給槽の表面は造形槽の表面よりもわずかに上昇させることができ、供給槽側からリコーターを用いて粉体を薄層に配置させることができ、リコーターを繰り返し移動させることにより、薄層の粉体を積層させることができる。
【0048】
粉体層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、一層当たりの平均厚みで、30μm以上500μm以下が好ましく、60μm以上300μm以下がより好ましい。
平均厚みが、30μm以上であると、粉体に造形液を付与して形成した粉体(層)による固化物(焼結前駆体)の強度が充分であり、その後の焼結等の処理乃至取扱い時に型崩れ等の問題が生じることがない、500μm以下であると、粉体に造形液を付与して形成した粉体(層)による固化物の寸法精度が向上する。
なお、平均厚みは、特に制限はなく、公知の方法に従って測定することができる。
【0049】
粉体層形成手段として、カウンター回転機構、ブラシ乃至ブレード、押圧部材などを用いて、支持体上に粉体を薄層に載置させるには、例えば、以下のようにして行うことができる。
即ち、外枠(「造形槽」、「型」、「中空シリンダー」、「筒状構造体」などと称されることもある)内に、外枠の内壁に摺動しながら昇降可能に配置された支持体上に粉体を、カウンター回転機構などを用いて載置させる。このとき、支持体として、外枠内を昇降可能なものを用いる場合には、支持体を外枠の上端開口部よりも少しだけ下方の位置に配し、即ち、粉体層の厚み分だけ下方に位置させておき、支持体上に粉体を載置させる。以上により、粉体を支持体上に薄層に載置させることができる。
【0050】
<造形液付与工程>
造形液付与工程は、粉体層に対して造形液を付与する工程である。
本発明で用いられる造形液は、粉体に付与して、該粉体の粒子同士を固化させるものであり、(1)粉体が基材と有機材料とを含有する場合には、造形液が架橋剤を含有し、有機溶媒及び界面活性剤を含むことが好ましく、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
(2)粉体が基材を含有する場合には、造形液が有機材料を含有し、架橋剤、有機溶媒及び界面活性剤を含むことが好ましく、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
【0051】
上記(1)においては、粉体に含まれる有機材料に造形液が付与されると、有機材料は造形液に含まれる有機溶媒により溶解すると共に、造形液に含まれる架橋剤の作用により架橋する。
上記(2)においては、粉体に造形液が付与されると、造形液に含まれる有機材料が有機溶媒の揮発により析出し粉体が固化する。
【0052】
-有機材料-
上記(2)の場合における造形液に含まれる有機材料としては、基材である金属と有機材料との界面の密着性の観点から、水酸基を有する樹脂が好ましい。
水酸基を有する樹脂としては、例えば、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ポリアクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリブタジエンポリオール、エチルセルロース、ニトロセルロース、ポリビニルピロリドン、酢酸ビニル共重合体(塩化ビニル-酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル等)の部分鹸化体、ポリエーテルポリオール、フェノール系ポリオールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
有機材料の含有量は、造形液の全量に対して、1質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0053】
有機溶媒としては、例えば、n-オクタン、m-キシレン、ソルベントナフサ等の脂肪族炭化水素又は芳香族炭化水素、ジイソブチルケトン、3-ヘプタノン、2-オクタノン等のケトン類、酢酸ブチルや酢酸アミル、酢酸n-ヘキシル、酢酸n-オクチル、酪酸エチル、吉草酸エチル、カプリル酸エチル、オクチル酸エチル、アセト酢酸エチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチル、コハク酸ジエチル、アジピン酸ジエチル、マレイン酸ビス2-エチルヘキシル、トリアセチン、トリブチリン、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエステル、ジブチルエーテル、1,2-ジメトキシベンゼン、1,4-ジメトキシベンゼン等のエーテル、ジメチルスルホキシド、ジヒドロターピニルアセテートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
こちらに記載のない化合物においても、25℃において、蒸気圧が2,000Pa以下であり、水に対して不溶又は微溶なものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0054】
有機溶媒の含有量は、造形液の全量に対して、30質量%以上90質量%以下が好ましく、50質量%以上80質量%以下がより好ましい。有機溶媒の含有量が30質量%以上90質量%以下であると、樹脂の溶解性を向上させ、立体造形物の強度を向上させることができる。また、装置の不動作時(待機時)にノズルが乾燥することを防ぎ、液詰まりやノズル抜けを抑制できる。
【0055】
-架橋剤-
架橋剤は、上記(1)の場合には、粉体の有機材料(樹脂)の反応性官能基と共有結合を形成することにより架橋構造を形成し、得られる固化物の強度をより一層高め、耐溶剤性を向上させることができる。
また、上記(2)の場合には、粉体に造形液が付着後、熱や紫外線によって架橋剤を架橋させて、得られる固化物の強度をより一層高め、耐溶剤性を向上させることができる。
なお、本発明において、「架橋剤」は「硬化剤」と同義である。
【0056】
架橋剤としては、特に制限はなく、イソシアネート、酸無水物、エポキシ、及びフェノールアルデヒドの中から適宜採用することができ、いずれかを分子内又は分子末端に2以上有することが好ましく、3以上有することがより好ましい。
【0057】
イソシアネートとしては、例えば、ジイソシアネート、ポリイソシアネートなどが挙げられる。
ジイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメリックMDI(MDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、ナフタリンジイソシアネート(NDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、パラフェニレンジイソシアネート等の芳香族もしくは芳香族由来のポリイソシアネート;イソフォロンジイソシアネート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)等の脂肪族イソシアネート;リジンジイソシアネート(LDI)、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリイソシアネートとしては、例えば、ジイソシアネートのアダクト体やイソシアヌレート体、アロファネート体などが挙げられる。
【0058】
酸無水物としては、例えば、酸二無水物などが挙げられる。
酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸無水物、3,4’-オキシジフタル酸無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、4,4-カルボニルジフタル酸無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ジフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、ジフェニル-2,3,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、meso-ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-テトラリン-1,2-ジカルボン酸無水物、5,5’-(エチン-1,2-ジイル)ビス(イソベンゾフラン-1,3-ジオン)、5,5’-(9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス(2-ベンゾフラン-1,3-ジオン)、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸無水物)、1,2,3,4-テトラメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、オクタヒドロビフェニレン-4a,8b:4b,8a-テトラカルボン酸二無水物、ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボン酸)1,4-フェニレン、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-エチレンビス(2,6-モルホリンジオン)、N,N-ビス[2-(2,6-ジオキソモルホリノ)エチル]グリシンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0059】
エポキシとしては、例えば、ジエポキシド、ポリエポキシドなどが挙げられる。ジエポキシドとしては、例えば、1,3-ブタジエンジエポキシド、1,5-ヘキサジエンジエポキシド、1,7-オクタジエンジエポキシド等の脂肪族エポキシモノマーや、ビスフェノールAジグリシジルエーテル等のエポキシモノマー、イソシアヌル酸トリグリシジル、4,4’-メチレンビス(N,N-ジグリシジルアニリン)等の多官能エポキシモノマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0060】
架橋剤の含有量は、造形液の全量に対して、1.0質量%以上50質量%以下が好ましく、10質量%以上30質量%以下がより好ましい。架橋剤の含有量が、1.0質量%以上50質量%以下であると、得られる立体造形物の強度が不足することを防止でき、造形液の粘度の上昇、あるいはゲル化することを防止でき、液保存性や粘度安定性が低下することを防ぐことができる。
【0061】
-界面活性剤-
界面活性剤は、造形液の表面張力などを調整する目的で添加することが好ましい。
界面活性剤としては、例えば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤などが挙げられる。
【0062】
-造形液の物性等-
造形液の粘度は、25℃で、3mPa・s以上20mPa・s以下が好ましく、5mPa・s以上10mPa・s以下がより好ましい。粘度が、3mPa・s以上、或いは、20mPa・s以下であると、インクジェットノズルからの吐出が安定化し、粉体層に造形液を付与して形成した固化物の強度が充分に得られ、寸法精度が良好である。
なお、粘度は、例えば、JIS K7117に準拠して測定することができる。
【0063】
粉体層形成工程において薄層に載置させた粉体に対し、造形液を作用させると、当該層が固化する。
ここで得られた薄層の固化物上に、上記と同様にして、粉体を薄層に載置させ、薄層に載置された粉体(層)に対し、造形液を作用させると、粉体の固化が生じる。このときの固化は、薄層に載置された粉体(層)においてのみならず、その下に存在する、先に固化して得られた薄層の固化物との間でも生じる。その結果、薄層に載置された粉体(層)の約2層分の厚みを有する固化物が得られる。
【0064】
粉体(層)に造形液を付与する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ディスペンサ方式、スプレー方式、インクジェット方式などが挙げられる。なお、これらの方式を実施するには公知の装置を固化物形成手段として好適に使用することができる。
これらの中でも、ディスペンサ方式は、液滴の定量性に優れるが、塗布面積が狭くなり、スプレー方式は、簡便に微細な吐出物を形成でき、塗布面積が広く、塗布性に優れるが、液滴の定量性が悪く、スプレー流による粉体の飛散が発生する。このため、本発明においては、インクジェット方式が特に好ましい。インクジェット方式は、スプレー方式に比べ、液滴の定量性がよく、ディスペンサ方式に比べ、塗布面積が広くできる利点があり、複雑な立体形状を精度よくかつ効率よく形成し得る点で好ましい。
【0065】
インクジェット法による場合、固化物形成手段は、インクジェット法により造形液を粉体層に付与可能なノズルを有する。なお、ノズルとしては、公知のインクジェットプリンターにおけるノズル(吐出ヘッド)を好適に使用することができ、また、インクジェットプリンターを固化物形成手段として好適に使用することができる。なお、インクジェットプリンターとしては、例えば、株式会社リコー製のSG7100、などが好適に挙げられる。インクジェットプリンターは、ヘッド部から一度に滴下できる造形液量が多く、塗布面積が広いため、塗布の高速化を図ることができる点で好ましい。
【0066】
本発明においては、造形液を精度よく、かつ高効率に付与可能なインクジェットプリンターを用いた場合においても、造形液が、粒子等の固形物や、樹脂等の高分子の高粘度材料を含有しないため、ノズル乃至そのヘッドにおいて目詰り等が発生せず、腐食等を生じさせることもなく、また、粉体層に付与(吐出)された際、粉体における有機材料に効率よく浸透可能であるため、立体造形物の製造効率に優れ、しかも樹脂等の高分子成分が付与されることがないため、予定外の体積増加等を生じることがなく、寸法精度のよい固化物が容易にかつ短時間で効率よく得られる点で有利である。
【0067】
<その他の工程>
その他の工程としては、例えば、粉体除去工程、焼結工程、表面保護処理工程、塗装工程などが挙げられる。
【0068】
-粉体除去工程-
粉体除去工程は、固化物に付着する粉体を固化物から除去する工程である。固化物に付着する粉体を固化物から除去する方法としては、固化物を粉体除去液に浸漬させる方法が好ましい。固化物を溶解せず(軟化させず)かつ粉体における有機材料を溶解する粉体除去液に、固化物を浸漬することにより、固化物の表面や内部に付着した余剰な粉体を除去することができる。
即ち、粉体除去液に固化物を浸漬することにより、粉体に対して造形液が付与されて固化された造形部は溶解させず(軟化させず)、粉体に対して造形液が付与されかった領域である非造形部を溶解させることができる。
【0069】
固化物が積層した立体造形物(グリーン体)は、造形液が付与されていない非造形部(未固化の粉体)に埋没した状態で存在する。この埋没した状態からグリーン体を取り出すと、グリーン体の周りには余剰(未固化)の粉体がグリーン体の表面や構造の内部に付着しており、簡便に除去することは難しい。グリーン体の表面の凹凸が複雑なものや、内部が流路のようになったものの場合はなおさら困難である。一般的なバインダージェッティング方式では、グリーン体の強度が高くないため、エアーブローの圧力を高く(0.3MPa以上)するとグリーン体が崩壊する恐れがある。
本発明に用いる粉体及び造形液によって造形された固化物が積層した立体造形物(グリーン体)は、造形液に含まれる、加熱によって反応活性基を発現可能な化合物によって、基材を被覆する有機材料がより溶解及び凝固することにより、エアーブローの圧力に耐えうる強度を有する。
【0070】
粉体除去液は、有機溶媒を含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
粉体除去液に含まれる有機溶媒としては、固化物を溶解せずかつ粉体における有機材料を溶解する有機溶媒であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、ケトン、ハロゲン、アルコール、エステル、エーテル、炭化水素、グリコール、グリコールエーテル、グリコールエステル、ピロリドン、アミド、アミン及び炭酸エステルから選択される少なくともいずれかを用いることができる。
【0071】
その他の成分としては、更に必要に応じて、界面活性剤、消泡剤、防腐防黴剤、pH調整剤、キレート剤、防錆剤等の添加剤を添加することができる。
【0072】
-乾燥工程-
乾燥工程は、造形液付与工程において得られた固化物が積層した立体造形物(グリーン体)を乾燥させる工程である。乾燥工程において、グリーン体中に含まれる水分のみならず、有機物を除去(脱脂)してもよい。乾燥手段としては、例えば、公知の乾燥機、恒温恒湿槽などが挙げられる。
【0073】
-焼結工程-
焼結工程は、造形液付与工程において得られた固化物が積層した立体造形物(グリーン体)を焼結する工程である。焼結工程を行うことにより、グリーン体を緻密化及び一体化された金属乃至セラミックスの造形物(立体造形物の焼結体)とすることができる。焼結手段としては、例えば、公知の焼結炉などが挙げられる。
【0074】
-表面保護処理工程-
表面保護処理工程は、造形液付与工程において得られた固化物が積層した立体造形物(グリーン体)に保護層を形成等する工程である。この表面保護処理工程を行うことにより、固化物を例えばそのまま使用等することができる耐久性等を固化物の表面に与えることができる。保護層の具体例としては、耐水性層、耐候性層、耐光性層、断熱性層、光沢層、などが挙げられる。表面保護処理手段としては、公知の表面保護処理装置、例えば、スプレー装置、コーティング装置などが挙げられる。
【0075】
-塗装工程-
塗装工程は、造形液付与工程において得られた固化物が積層した立体造形物(グリーン体)に塗装を行う工程である。塗装工程を行うことにより、グリーン体を所望の色に着色させることができる。塗装手段としては、公知の塗装装置、例えば、スプレー、ローラ、刷毛等による塗装装置などが挙げられる。
【0076】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図7は、本発明のヒートシンクの製造方法又はジャイロイド構造体の製造方法に用いられる立体造形装置の一例を示す概略平面説明図、図8は、ヒートシンクの製造方法又はジャイロイド構造体の製造方法に用いられる立体造形装置の一例を示す概略側面説明図、図9は、ヒートシンクの製造方法又はジャイロイド構造体の製造方法に用いられる立体造形装置の造形部の断面説明図、図10は、ヒートシンクの製造方法又はジャイロイド構造体の製造方法に用いられる立体造形装置の制御部の概要の説明に供するブロック図、図11は、ヒートシンクの製造方法又はジャイロイド構造体の製造方法に用いられる立体造形装置の一例を示す全体外観図である。
【0077】
本発明のヒートシンクの製造方法又はジャイロイド構造体の製造方法に用いられる立体造形装置は、粉体(粉末)が結合された層状造形物である造形層30が形成される造形部1と、造形部1の層状に敷き詰められた粉体層31に対して造形液10を吐出して立体造形物(ヒートシンク又はジャイロイド構造体)を造形する造形ユニット5とを備えている。
【0078】
造形部1は、粉体槽11と、平坦化手段である回転体としての平坦化ローラ12などを備えている。なお、平坦化手段は、回転体に代えて、例えば、板状部材(ブレード)とすることもできる。
【0079】
粉体槽11は、造形槽22に供給する粉体20を保持する供給槽21と、造形層30が積層されて立体造形物が造形される造形槽22とを有している。
【0080】
供給槽21の底部は供給ステージ23として鉛直方向(高さ方向)に昇降自在となっている。同様に、造形槽22の底部は造形ステージ24として鉛直方向(高さ方向)に昇降自在となっている。造形ステージ24上に造形層30が積層された立体造形物が造形される。
【0081】
供給ステージ23は、例えば、図11に示すように、モータ27によって矢印Z方向(高さ方向)に昇降され、造形ステージ24は、同じく、モータ28によって矢印Z方向に昇降される。
【0082】
平坦化ローラ12は、供給槽21の供給ステージ23上に供給された粉体20を造形槽22に移送して供給する。平坦化手段である平坦化ローラ12によって造形槽22に供給した粉体20の表面を均して平坦化して、粉体層31を形成する。
【0083】
この平坦化ローラ12は、造形ステージ24のステージ面(粉体20が積載される面)に沿って矢印Y方向に、ステージ面に対して相対的に往復移動可能に配置され、往復移動機構25によって移動される。また、平坦化ローラ12は、モータ26によって回転駆動される。
【0084】
一方、造形ユニット5は、造形ステージ24上の粉体層31に粉体20を結合させる造形液10を吐出して(与えて)、粉体20が結合された層状造形物としての造形層30を形成する液体吐出ユニット50を備えている。
【0085】
液体吐出ユニット50は、キャリッジ51と、キャリッジ51に搭載された2つ(1又は3つ以上でもよい。)の液体吐出ヘッド(以下、単に「ヘッド」という。)52a、52bを備えている。
【0086】
キャリッジ51は、ガイド部材54及び55に移動可能に保持されている。ガイド部材54及び55は、両側の側板70、70に昇降可能に保持されている。
【0087】
このキャリッジ51は、後述するX方向走査機構550を構成するX方向走査モータによってプーリ及びベルトを介して主走査方向である矢印X方向(以下、単に「X方向」という。他のY、Zについても同様とする。)に往復移動される。
【0088】
2つのヘッド52a、52b(以下、区別しないときは「ヘッド52」という。)は、造形液を吐出する複数のノズルを配列したノズル列がそれぞれ2列配置されている。一方のヘッド52aの2つのノズル列は、シアン造形液及びマゼンタ造形液を吐出する。他方のヘッド52bの2つのノズル列は、イエロー造形液及びブラック造形液をそれぞれ吐出する。なお、ヘッド構成はこれに限るものではない。
【0089】
これらのシアン造形液、マゼンタ造形液、イエロー造形液、ブラック造形液の各々を収容した複数のタンク60がタンク装着部56に装着され、供給チューブなどを介してヘッド52a、52bに供給される。
【0090】
また、X方向の一方側には、液体吐出ユニット50のヘッド52の維持回復を行うメンテナンス機構61が配置されている。
【0091】
メンテナンス機構61は、主にキャップ62とワイパ63で構成される。キャップ62をヘッド52のノズル面(ノズルが形成された面)に密着させ、ノズルから造形液を吸引する。ノズルに詰まった粉体の排出や高粘度化した造形液を排出するためである。その後、ノズルのメニスカス形成(ノズル内は負圧状態である)のため、ノズル面をワイパ63でワイピング(払拭)する。また、メンテナンス機構61は、造形液の吐出が行われない場合に、ヘッドのノズル面をキャップ62で覆い、粉体20がノズルに混入することや造形液10が乾燥することを防止する。
【0092】
造形ユニット5は、ベース部材7上に配置されたガイド部材71に移動可能に保持されたスライダ部72を有し、造形ユニット5全体がX方向と直交するY方向(副走査方向)に往復移動可能である。この造形ユニット5は、後述するY方向走査機構552によって全体がY方向に往復移動される。
【0093】
液体吐出ユニット50は、ガイド部材54、55とともに矢印Z方向に昇降可能に配置され、後述するZ方向昇降機構551によってZ方向に昇降される。
【0094】
ここで、造形部1の詳細について説明する。
【0095】
粉体槽11は、箱型形状をなし、供給槽21と造形槽22と、余剰粉体受け槽29の3つの上面が開放された槽とを備えている。供給槽21内部には供給ステージ23が、造形槽22内部には造形ステージ24がそれぞれ昇降可能に配置される。
【0096】
供給ステージ23の側面は供給槽21の内側面に接するように配置されている。造形ステージ24の側面は造形槽22の内側面に接するように配置されている。これらの供給ステージ23及び造形ステージ24の上面は水平に保たれている。
【0097】
供給槽21上には後述する粉体供給装置554が配置される。造形の初期動作時又は供給槽21の粉体量が減少した場合に、粉体供給装置554を構成するタンク内の粉体を供給槽21に供給する。粉体供給のための粉体搬送方法としては、スクリューを利用したスクリューコンベア方式や、エアーを利用した空気輸送方式などが挙げられる。
【0098】
平坦化ローラ12は、供給槽21から粉体20を造形槽22へと移送供給して、表面を均すことで平坦化して所定の厚みの層状の粉体である粉体層31を形成する。
【0099】
この平坦化ローラ12は、造形槽22及び供給槽21の内寸(即ち、粉体が供される部分又は仕込まれている部分の幅)よりも長い棒状部材であり、往復移動機構25によってステージ面に沿って、供給槽21及び造形槽22上をY方向(副走査方向)に往復移動される。
【0100】
この平坦化ローラ12は、モータ26によって回転されながら、供給槽21及び造形槽22の上方を通過するようにして水平方向に往復移動する。これにより、粉体20が造形槽22上へと移送供給され、また、平坦化ローラ12が造形槽22上を通過しながら粉体20を平坦化することで粉体層31が形成される。
【0101】
次に、本発明のヒートシンクの製造方法又はジャイロイド構造体の製造方法に用いられる立体造形装置の制御部の概要について図10を参照して説明する。図10は立体造形装置の制御部のブロック図である。
【0102】
制御部500は、この立体造形装置全体の制御を司るCPU501と、CPU501に本発明に係わる制御を含む立体造形動作の制御を実行させるためのプログラムを含むプログラム、その他の固定データを格納するROM502と、造形データ等を一時格納するRAM503とを含む主制御部500Aを備えている。
【0103】
制御部500は、装置の電源が遮断されている間もデータを保持するための不揮発性メモリ(NVRAM)504を備えている。また、制御部500は、画像データに対する各種信号処理等を行う画像処理やその他装置全体を制御するための入出力信号を処理するASIC505を備えている。
【0104】
制御部500は、外部の造形データ作成装置600から造形データを受信するときに使用するデータ及び信号の送受を行うためのI/F506を備えている。なお、造形データ作成装置600は、最終形態の造形物を各造形層にスライスした造形データを作成する装置であり、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置で構成されている。
【0105】
制御部500は、各種センサの検知信号を取り込むためのI/O507を備えている。
【0106】
制御部500は、液体吐出ユニット50のヘッド52を駆動制御するヘッド駆動制御部508を備えている。
【0107】
制御部500は、液体吐出ユニット50のキャリッジ51をX方向(主走査方向)に移動させるX方向走査機構550を構成するモータを駆動するモータ駆動部510と、造形ユニット5をY方向(副走査方向)に移動させるY方向走査機構552を構成するモータを駆動するモータ駆動部512を備えている。
【0108】
制御部500は、液体吐出ユニット50のキャリッジ51をZ方向に移動(昇降)させるZ方向昇降機構551を構成するモータを駆動するモータ駆動部511を備えている。なお、矢印Z方向への昇降は造形ユニット5全体を昇降させる構成とすることもできる。
【0109】
制御部500は、供給ステージ23を昇降させるモータ27を駆動するモータ駆動部513と、造形ステージ24を昇降させるモータ28を駆動するモータ駆動部514を備えている。
【0110】
制御部500は、平坦化ローラ12を移動させる往復移動機構25のモータ553を駆動するモータ駆動部515と、平坦化ローラ12を回転駆動するモータ26を駆動する516を備えている。
【0111】
制御部500は、供給槽21に粉体20を供給する粉体供給装置554を駆動する供給系駆動部517と、液体吐出ユニット50のメンテナンス機構61を駆動するメンテナンス駆動部518を備えている。
【0112】
制御部500は、粉体後供給部80から粉体20の供給を行わせる後供給駆動部519を備えている。
【0113】
制御部500のI/O507には、装置の環境条件としての温度及び湿度を検出する温湿度センサ560などの検知信号やその他のセンサ類の検知信号が入力される。
【0114】
制御部500には、この装置に必要な情報の入力及び表示を行うための操作パネル522が接続されている。
【0115】
なお、造形データ作成装置600と立体造形装置(粉体積層造形装置)601によって造形システムが構成される。
【0116】
次に、本発明のヒートシンクの製造方法又はジャイロイド構造体の製造方法に用いられる立体造形装置の動作について図12A図12Eを参照して説明する。
図12A図12Eは、造形の流れの説明に供する模式的説明図である。ここでは、造形槽22の造形ステージ24上に、1層目の造形層30が形成されている状態から説明する。
1層目の造形層30上に次の造形層を形成するときには、図12Aに示すように、供給槽21の供給ステージ23を上昇させ、造形槽22の造形ステージ24を下降させる。
このとき、造形槽22における粉体層31の表面(粉体面)の上面と平坦化ローラ12の下部(下方接線部)との間隔(積層ピッチ)がΔt1となるように造形ステージ24の下降距離を設定する。間隔Δt1は、特に制限されるものではないが、数十~100μm程度であることが好ましい。
【0117】
次いで、図12Bに示すように、供給槽21の上面レベルよりも上方に位置する粉体20を、平坦化ローラ12を逆方向(矢印方向)に回転しながら造形槽22側に移動することで、粉体20を造形槽22へと移送供給する(粉体供給)。
【0118】
更に、図12Cに示すように、平坦化ローラ12を造形槽22の造形ステージ24のステージ面と平行に移動させ、造形ステージ24の造形槽22上で所定の厚さΔt1になる粉体層31を形成する(平坦化)。このとき、粉体層31の形成に使用されなかった余剰の粉体20は余剰粉体受け槽29に落下する。
粉体層31を形成後、平坦化ローラ12は、図12Dに示すように、供給槽21側に移動されて初期位置(原点位置)に戻される(復帰される)。
【0119】
その後、図12Eに示すように、液体吐出ユニット50のヘッド52から造形液の液滴10を吐出して、次の粉体層31に所望の形状の造形層30を積層形成する。
【0120】
次いで、上述した粉体層形成及び造形液吐出を繰り返して新たな造形層30を形成する。このとき、新たな造形層30とその下層の造形層30は一体化して固化物の一部を構成する。以後、粉体層形成及び造形液吐出を繰り返し行い、固化物(グリーン体)の造形を完成させる。
【実施例
【0121】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0122】
(比較例1)
<ヒートシンクの作製>
図13は、比較例1のヒートシンク本体を示す概略斜視図である。図14Aは、比較例1のヒートシンクの左、中央、右の断面位置を示す図である。図14Bは、比較例1のヒートシンクの左、中央、右の断面位置での断面図である。
この図13の比較例1のヒートシンクは、下記の寸法を有し、下記数式1で表されるジャイロイド構造部104aであり、均一な厚さを有している。
sin(X*P1)cos(Y*P2)+sin(Y*P2)cos(Z*P3)+sin(Z*P3)cos(X*P1)=0 ・・・数式1
ただし、前記数式1中、X、Y、Zは-πからπの実数、P1、P2、P3は0より大きい実数である。
上記数式1で表されるジャイロイド構造部104aは、図14A及び図14Bに示すように、左から右に向かって均一な厚肉であり、上から下に向かって(給水口103から排水口105に向かって)均一な厚肉であり、全体として均一な厚さであることがわかる。
【0123】
-ヒートシンク寸法-
・外形:100mm×60mm×18mm
・ジャイロイド構造部:60mm×54mm×12mm
・冷却液の入口及び出口の穴径:φ6mm
【0124】
<ヒートシンクモデルの作製>
図15に示すように、2つの比較例1のヒートシンク(第1のヒートシンク110aと第2のヒートシンク110b)を積層し、両者の連結部分112を直径6mmの流路とした。
次に、図16に示すように、第1のヒートシンク110aと第2のヒートシンク110bの間に熱源111を設置した。熱源111のサイズは50mm×44mm×3mmである。以上により、比較例1のヒートシンクモデル120を作製した。
【0125】
次に、比較例1のヒートシンクモデル120について、下記のシミュレーション条件に基づきシミュレーションを行い、比(セルサイズ/最大厚み)を求め、以下のようにして、熱抵抗及び圧力損失を求めた。結果を表1に示した。
【0126】
<シミュレーション条件>
-ソフトウェア-
熱流体解析システムSTREAM(株式会社ソフトウェアクレイドル製)
-メッシュ条件-
メッシュ形状:非構造格子
-物理モデル-
・乱流(k-εモデル)
・伝熱 流れ 定常
-材料物性-
・ヒートシンク:アルミニウム(A6063)
・熱源:銅(純銅)
・冷却液:エチレングリコール水溶液
-境界条件-
・冷却水温度:20℃
・流量:10L/min
・発熱量:600W
【0127】
<熱抵抗>
下記数式に基づき、熱抵抗Rhsを求めた。
【数1】
・発熱量(Q) 設定値:600W
・冷却液の入口温度(T) 設定値:20℃
・ヒートシンクの表面温度(T) 熱源の接触面(両面)の面平均
【0128】
<圧力損失>
下記数式に基づき、圧力損失ΔPhsを求めた。
【数2】
・入口圧力(Pin) 入口中央の1点の値
・出口圧力(Pout) 設定値:0Pa
【0129】
(実施例1~5及び比較例2)
比較例1のシミュレーション結果から得られた静圧分布を用いて、実施例1~5及び比較例2のヒートシンクモデルをそれぞれ作製し、比較例1と同様にして、シミュレーションを行い、比(セルサイズ/最大厚み)、熱抵抗及び圧力損失を求めた。結果を表1に示した。
実施例1のヒートシンク本体の概略斜視図を図17に示した。実施例2のヒートシンク本体の概略斜視図を図18に示した。実施例3のヒートシンク本体の概略斜視図を図19に示した。実施例4のヒートシンク本体の概略斜視図を図21に示した。実施例5のヒートシンク本体の概略斜視図を図22に示した。比較例2のヒートシンク本体の概略斜視図を図23に示した。
実施例1~3は、表1に示すようにジャイロイド構造部における少なくとも一部の最小厚み(肉厚)を変化させたものである。実施例4~5は、表1に示すようにジャイロイド構造部を形成する単位セルのセルサイズを変化させたものである。
実施例1~5のジャイロイド構造部は、下記数式1で表される面を有し、非均一な厚みを有している。
sin(X*P1)cos(Y*P2)+sin(Y*P2)cos(Z*P3)+sin(Z*P3)cos(X*P1)=0 ・・・数式1
ただし、前記数式1中、X、Y、Zは-πからπの実数、P1、P2、P3は0より大きい実数である。
【0130】
図20Aは、実施例3のヒートシンクの左、中央、右の断面位置を示す図である。図20Bは、実施例3のヒートシンクの左、中央、右の断面位置での断面図である。
実施例3における上記数式1で表されるジャイロイド構造部104は、図20A及び図20Bに示すように、上から下に向かって(給水口102から排水口105に向かって)厚肉となり、全体として非均一な肉厚であることがわかる。
図24に、実施例1~5のジャイロイド構造部における厚みが一番薄いところと一番厚いところのセルの拡大図を示した。ヒートシンクのジャイロイド構造部104の厚みは、流体シミュレーションにより肉厚が均一の際の流路内の圧力を計算し、圧力が大きい部分は肉厚を薄くし、圧力が小さい部分は肉厚を厚くするようになっている。この結果、実施例1~5におけるヒートシンクにおいて、厚みが一番薄いセルは、上流の側面部である。つまり、厚みが一番薄いセルは、垂直方向の上部における側面部のセルである。上流には水平方向に複数のセルが配置されている。上流に配置されるセルについて、中央部より側面部のほうがセルの厚みが薄くなっている。
厚みが一番厚いセルは、下流の側面部である。つまり、厚みが一番厚いセルは、垂直方向の下部における側面部のセルである。下流には水平方向に複数のセルが配置されている。下流に配置されるセルについて、中央部より側面部のほうがセルの厚みが厚くなっている。
【0131】
【表1】
表1中の「*1」:実施例2~5の圧力損失及び熱抵抗は、実施例1の圧力損失及び熱抵抗と同レベルの結果であった。
表1の結果から、比較例1(肉厚均一)と実施例1~5(肉厚非均一)は、ほぼ同レベルの圧力損失であるが、比較例1(肉厚均一)の熱抵抗に比べて、実施例1~5(肉厚非均一)の熱抵抗は小さく、熱性能が優れていることがわかった。
【0132】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> 流路を有するヒートシンクであって、
前記流路の少なくとも一部が、ジャイロイド構造部を有し、前記ジャイロイド構造部は非均一な厚みを有することを特徴とするヒートシンクである。
<2> 前記ジャイロイド構造部が、下記数式1で表される、前記<1>に記載のヒートシンクである。
sin(X*P1)cos(Y*P2)+sin(Y*P2)cos(Z*P3)+sin(Z*P3)cos(X*P1)=0 ・・・数式1
ただし、前記数式1中、X、Y、Zは-πからπの実数、P1、P2、P3は0より大きい実数である。
<3> 前記ジャイロイド構造は、流路が所定の面を含み、前記面の厚みが非均一である、前記<1>から<2>のいずれかに記載のヒートシンクである。
<4> 前記ジャイロイド構造部における少なくとも一部の最小厚み(肉厚)が1mm以上である、前記<1>から<3>のいずれかに記載のヒートシンクである。
<5> 前記ジャイロイド構造部を形成する単位セルのセルサイズが5mm以上である、前記<1>から<4>のいずれかに記載のヒートシンクである。
<6> 前記ジャイロイド構造部を形成する単位セルのセルサイズと前記ジャイロイド構造部における少なくとも一部の最大厚みとの比(セルサイズ/最大厚み)が2.5以上である、前記<5>に記載のヒートシンクである。
<7> 連結部を有する、前記<1>から<6>のいずれかに記載のヒートシンクである。
<8> 前記<1>から<7>のいずれかに記載のヒートシンクを製造する方法であって、
粉体を積層して粉体層を形成する粉体層形成工程と、
前記粉体層に対して造形液を付与する造形液付与工程と、
を含むことを特徴とするヒートシンクの製造方法である。
<9> 前記粉体が、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム及びこれらの合金から選択される少なくとも1種である、前記<8>に記載のヒートシンクの製造方法である。
<10> 前記造形液の25℃における粘度が5mPa・s以上50mPa・s以下である、前記<9>に記載のヒートシンクの製造方法である。
<11> 所定の面を有し、非均一な厚みを有することを特徴とするジャイロイド構造体である。
<12> 下記数式1で表される面を有する、前記<11>に記載のジャイロイド構造体である。
sin(X*P1)cos(Y*P2)+sin(Y*P2)cos(Z*P3)+sin(Z*P3)cos(X*P1)=0 ・・・数式1
ただし、前記数式1中、X、Y、Zは-πからπの実数、P1、P2、P3は0より大きい実数である。
<13> 前記<11>から<12>のいずれかに記載のジャイロイド構造体からなるジャイロイド構造部を有することを特徴とする熱交換器である。
<14> 前記<11>から<12>のいずれかに記載のジャイロイド構造体を製造する方法であって、
粉体を積層して粉体層を形成する粉体層形成工程と、
粉体層に対して造形液を付与する造形液付与工程と、
を含むことを特徴とするジャイロイド構造体の製造方法である。
【0133】
前記<1>から<7>のいずれかに記載のヒートシンク、前記<8>から<10>のいずれかに記載のヒートシンクの製造方法、前記<11>から<12>に記載のジャイロイド構造体、前記<13>に記載の熱交換器、及び前記<14>に記載のジャイロイド構造体の製造方法によると、従来における諸問題を解決し、本発明の目的を達成することができる。
【符号の説明】
【0134】
1 造形部
5 造形ユニット
10 造形液
12 平坦化ローラ(平坦化手段、回転体)
20 粉体
21、21A、21B 供給槽
22 造形槽
23 供給ステージ
24 造形ステージ
30 造形層(層状造形物)
31 粉体層(層状の粉体)
50 液体吐出ユニット
51 キャリッジ
52 液体吐出ヘッド(造形液用)
100 ヒートシンク
101 ヒートシンク本体
102 給水口
103 流路
104 ジャイロイド構造部
105 排水口
107 組み立て用の穴
108 ジャイロイド構造体
【先行技術文献】
【特許文献】
【0135】
【文献】特開2020-108975号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図13
図14A
図14B
図15
図16
図17
図18
図19
図20A
図20B
図21
図22
図23
図24