(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】温度測定装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/01 20060101AFI20241001BHJP
G01K 13/20 20210101ALI20241001BHJP
G01K 17/00 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
A61B5/01 100
A61B5/01 250
G01K13/20 361C
G01K17/00 Z
(21)【出願番号】P 2023541183
(86)(22)【出願日】2021-08-12
(86)【国際出願番号】 JP2021029723
(87)【国際公開番号】W WO2023017599
(87)【国際公開日】2023-02-16
【審査請求日】2024-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】松永 大地
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄次郎
(72)【発明者】
【氏名】田島 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】瀬山 倫子
【審査官】外山 未琴
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-44624(JP,A)
【文献】特開2018-151322(JP,A)
【文献】特開2016-114467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/01
G01K 1/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体から伝わる熱流の大きさを測定するように構成された検出部と、
前記検出部を覆って前記検出部との間に空間を形成する中空構造の筐体と、
前記筐体の内部の空間に前記検出部を覆うように配置され、前記検出部の外側における前記生体からの熱流束を前記検出部の上部に輸送するように構成された中空構造の熱流補償機構と、
前記熱流補償機構の上に搭載された回路基板とを備え、
前記回路基板は、前記検出部によって測定された熱流の大きさに基づいて前記生体の内部温度を算出するように構成された電子回路を備えることを特徴とする温度測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の温度測定装置において、
前記熱流補償機構は、前記生体から離れた天面の面積が前記生体側の底面の面積よりも小さい錐台の形状であることを特徴とする温度測定装置。
【請求項3】
請求項2記載の温度測定装置において、
前記検出部は、前記熱流補償機構の天面の内壁と接するように配置されることを特徴とする温度測定装置。
【請求項4】
請求項2または3記載の温度測定装置において、
前記検出部は、前記熱流補償機構の錐台の中心線付近の位置に配置されることを特徴とする温度測定装置。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれか1項に記載の温度測定装置において、
前記電子回路は、前記回路基板上の、前記熱流補償機構の錐台の中心線が通る位置から離れて配置されることを特徴とする温度測定装置。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれか1項に記載の温度測定装置において、
前記電子回路に電源電圧を供給するように構成された電池をさらに備え、
前記電池は、前記回路基板上の、前記熱流補償機構の錐台の中心線が通る位置付近に配置されることを特徴とする温度測定装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の温度測定装置において、
前記検出部は、
前記生体の皮膚表面の第1の温度を測定するように構成された第1の温度センサと、
前記生体から離れた位置の第2の温度を測定するように構成された第2の温度センサと、
前記第1、第2の温度センサを保持する固定部材とを備え、
前記第1の温度と前記第2の温度との差を前記生体から伝わる熱流の大きさとして測定することを特徴とする温度測定装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の温度測定装置において、
前記熱流補償機構の直径ΦDと前記筐体内の前記回路基板の上に存在する空間の高さH2との比H2/ΦDは、0.2未満であることを特徴とする温度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体等の内部温度を測定する温度測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体の内部温度(深部体温)を非侵襲に測定する装置が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1に開示された技術では、
図8に示すように生体100と温度測定装置101の熱等価回路モデルを用いて、生体100の深部体温T
CBTを推定する。
図8の102は外気を示している。深部体温T
CBTは、以下の式で算出される。
T
CBT=T
1+A×H ・・・(1)
【0003】
T1は生体100の皮膚表面の温度、Aは比例係数、Hは測定される熱流の大きさである。熱流の大きさHは、次式のように温度T1とT2の差で表される。
H=T1-T2 ・・・(2)
【0004】
T2は温度測定装置101の、生体100と接する面と反対側の上面の温度である。比例係数Aは、測定開始時や測定途中に鼓膜温度計によって測定した鼓膜温度や直腸温度計によって測定した直腸温度をTCBTとして式(1)に代入することにより、次式のように求めることができる。
A=RBody/RSensor=(TCBT-T1)/H ・・・(3)
【0005】
R
Bodyは生体100の熱抵抗、R
Sensorは温度測定装置101の熱抵抗である。特許文献1に開示された技術では、外気の対流が強くなった場合に、温度測定装置101の感温部に流入すべき熱が例えば
図9の103で示すように外気へ流出し、本来測定されるべき熱流の大きさがHからH’に減少する(H’<H)。このため、深部体温T
CBTの推定に誤差が生じるという問題があった。
【0006】
深部体温T
CBTの推定誤差を少なくするために、温度測定装置101の内部に熱伝導率が高い材料からなるカバーを設ける方法が考えられる。以下、このようなカバーを熱流補償機構と呼ぶ。温度測定装置101の内部に熱流補償機構104を設けることにより、熱の流れが
図9に示した103から
図10に示す105へと変わると考えられる。これにより、測定される熱流の大きさH’と真値Hとの差を小さくすることができ、深部体温T
CBTの推定誤差を低減することができる。
【0007】
しかしながら、実際の温度測定装置101では、温度T1,T2を測定する感温部の他に、処理用電子回路と電池などを搭載するための回路基板が必要になる。処理用電子回路は、温度T1,T2から深部体温TCBTの値を算出して外部へ送信する。温度測定装置101に回路基板を組み込む場合、処理用電子回路の発熱が感温部への熱流に影響を与えないようにするために、感温部と熱流補償機構とを収容する筐体と回路基板を収容する筐体とを別にする必要がある。このように筐体を分けた場合、生体に装着するウェアラブルデバイスとして温度測定装置101を使用する場合に、生体への装着面積が増加することになる。また、筐体間を配線を介して電気的に接続する形態となるので、扱いにくくなり、利便性が低下する結果となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、外気の対流状態が変化する場合でも生体の内部温度を精度良く測定することができる小型で取り扱いのし易い温度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の温度測定装置は、生体から伝わる熱流の大きさを測定するように構成された検出部と、前記検出部を覆って前記検出部との間に空間を形成する中空構造の筐体と、前記筐体の内部の空間に前記検出部を覆うように配置され、前記検出部の外側における前記生体からの熱流束を前記検出部の上部に輸送するように構成された中空構造の熱流補償機構と、前記熱流補償機構の上に搭載された回路基板とを備え、前記回路基板は、前記検出部によって測定された熱流の大きさに基づいて前記生体の内部温度を算出するように構成された電子回路を備えることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の温度測定装置の1構成例において、前記熱流補償機構は、前記生体から離れた天面の面積が前記生体側の底面の面積よりも小さい錐台の形状である。
また、本発明の温度測定装置の1構成例において、前記検出部は、前記熱流補償機構の天面の内壁と接するように配置されることを特徴とするものである。
また、本発明の温度測定装置の1構成例において、前記検出部は、前記熱流補償機構の錐台の中心線付近の位置に配置されることを特徴とするものである。
また、本発明の温度測定装置の1構成例において、前記電子回路は、前記回路基板上の、前記熱流補償機構の錐台の中心線が通る位置から離れて配置されることを特徴とするものである。
また、本発明の温度測定装置の1構成例は、前記電子回路に電源電圧を供給するように構成された電池をさらに備え、前記電池は、前記回路基板上の、前記熱流補償機構の錐台の中心線が通る位置付近に配置されることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の温度測定装置の1構成例において、前記検出部は、前記生体の皮膚表面の第1の温度を測定するように構成された第1の温度センサと、前記生体から離れた位置の第2の温度を測定するように構成された第2の温度センサと、前記第1、第2の温度センサを保持する固定部材とを備え、前記第1の温度と前記第2の温度との差を前記生体から伝わる熱流の大きさとして測定することを特徴とするものである。
また、本発明の温度測定装置の1構成例において、前記熱流補償機構の直径ΦDと前記筐体内の前記回路基板の上に存在する空間の高さH2との比H2/ΦDは、0.2未満である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱流補償機構を設けることにより、外気の対流状態が変化する場合でも、測定される熱流の大きさとその真値との差を小さくすることができ、生体の内部温度の推定誤差を低減することができる。また、本発明では、検出部と回路基板を同一の筐体に組み込み、熱流補償機構の上に回路基板を搭載することにより、筐体を分ける構成と比較して、温度測定装置の生体への装着面積を低減することができる。本発明では、筐体が1つになるため、小型で取り扱いのし易い温度測定装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の実施例に係る温度測定装置の断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施例に係る熱流補償機構の一部切り欠き斜視断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施例に係る温度測定装置の電気的構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施例に係る温度測定装置の効果を説明する図である。
【
図5】
図5は、感温部と熱流補償機構を収容する筐体と回路基板を収容する筐体とを別にした温度測定装置の平面図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施例に係る温度測定装置の平面図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施例に係る温度測定装置を実現するコンピュータの構成例を示すブロック図である。
【
図8】
図8は、生体と温度測定装置の熱等価回路モデルを示す図である。
【
図9】
図9は、関連する温度測定装置の問題点を説明する図である。
【
図10】
図10は、温度測定装置の内部に熱流補償機構を設けた構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[発明の原理]
本発明では、熱流補償機構の機能を妨げないようにして感温部と回路基板とを同じ筐体に組み込み一体化することで、温度測定装置の面積を低減する。感温部を囲むように熱流補償機構を設けるために、感温部と同一面に回路基板を集積することはできないので、感温部の上部に新たに空間を設けて回路基板を集積する。
【0016】
[実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施例に係る温度測定装置の断面図である。温度測定装置は、生体100から伝わる熱流の大きさを測定する検出部となる感温部1と、感温部1を覆うように配置され、感温部1の外側における生体100からの熱流束を感温部1の上部に輸送する中空構造の熱流補償機構2と、熱流補償機構2の上に搭載された回路基板3と、感温部1と熱流補償機構2と回路基板3とを収容する筐体4とから構成される。
【0017】
筐体4は、中空構造を有し、その内部は熱抵抗の大きな材料、具体的には空気で満たされている。筐体4の材料としては、熱抵抗が小さく、厚さを薄くできる材料が望ましく、例えばポリエチレンテレフタラート(PET)などを用いることができる。
【0018】
本実施例の温度測定装置は、筐体4の表面に露出する感温部1が生体100の皮膚と接触するように装着される。生体適合性に優れた両面テープやシリコンラバーを用いて温度測定装置を生体100に装着することが望ましい。
【0019】
感温部1は、生体100の皮膚と接触して皮膚表面の温度T1を測定する温度センサ10と、生体100から遠ざかる位置の温度T2を測定する温度センサ11と、温度センサ10,11を保持する例えば円柱状の固定部材12とから構成される。温度センサ10,11としては、例えば、サーミスタ、熱電対、白金抵抗体、IC(Integrated Circuit)温度センサなどを用いることができる。
【0020】
温度センサ11は、温度センサ10の直上に配置される。2つの温度センサ10,11の間隔が大きいほど、温度測定装置の感度が高くなる。2つの温度センサ10,11の相対誤差(同じ温度について温度センサ10,11が出力する値の差)が1/100℃以下のとき、温度センサ10,11の間隔は1.5~4.5mmであることが望ましい。
【0021】
温度センサ10,11の間隔が測定中に変化すると、比例係数Aが変化し、生体100の深部体温TCBTの推定に誤差が生じるため、温度センサ10,11を固定部材12を用いて保持する。固定部材12は、例えば硬質樹脂などの変形し難い材料からなるものが望ましい。固定部材12の熱伝導率が低いほど、温度測定装置の感度が高くなる。ただし、熱流補償機構2内の空気層への熱の漏れを考慮し、固定部材12の材料として、熱伝導率が0.1~1.0[W/mK]の材料を使用することが望ましい。
【0022】
感温部1は、外形が円錐台形状の中空構造の熱流補償機構2によって外気から遮断される。
図2は熱流補償機構2の一部切り欠き斜視断面図である。熱流補償機構2は、生体100から離れた天面の面積が生体100側の底面の面積よりも小さい錐台の形状である。熱流補償機構2は、生体100側の底面が筐体4に固定される。熱流補償機構2を構成する材料としては、熱流束を効率良く輸送するために熱伝導率が高いものが望ましい。例えば、熱流補償機構2は、アルミニウムなどの薄膜を用いて構成することができる。
図1、
図2で例示したように、熱流補償機構2の天面に貫通孔20を形成してもよい。
【0023】
感温部1は、固定部材12の上面が熱流補償機構2の天面の内壁と接するように設けられる。上記のように温度センサ10,11の間隔を1.5~4.5mmとした場合、熱流補償機構2の高さH1は例えば2~5mmである。熱流補償機構2の天面に貫通孔20を設ける場合には、感温部1は貫通孔20の周辺部分において熱流補償機構2と接触することになる。固定部材12の上面は、熱流補償機構2との接触熱抵抗を低減するために、表面が研磨されていることが望ましい。固定部材12の上面と熱流補償機構2との間に熱伝導性シートを挟むようにしてもよい。
【0024】
熱流補償機構2が感温部1に対して十分に大きい場合、熱流補償機構2の底面が感温部1から十分に離れた位置に配置されるので、感温部1の外側において生体100からの熱流束が熱流補償機構2によって集められ、感温部1の上部に輸送される。このように、熱流補償機構2は、感温部1の外側において生体100からの熱流束を上方に輸送することで、感温部1の上部の温度を上昇させるものであり、感温部1から逸れて外気へ流出する熱流束を抑制する機能を果たす。
【0025】
熱流補償機構2は、感温部1から逸れて外気へ流出する熱流束を抑制する効果が、中心線(
図2のL)の付近の位置で最も高くなる。したがって、感温部1を熱流補償機構2の中心線Lの近くに配置することが望ましい。具体的には、中心線Lからの感温部1(温度センサ10,11)の位置ずれを例えば2mm以下とすることが望ましい。
【0026】
本実施例では、外形が円柱状の中空構造の筐体4に対応して、熱流補償機構2を円錐台形状としている。ただし、熱流補償機構2としては、上記の機能を発揮できる形状であれば、円錐台形状に限らず、様々な形状の構成を採用することができる。例えば外形が直方体形状の中空構造の筐体4の場合には、熱流補償機構2を角錐台形状とすることができる。熱流補償機構2を円錐台形状または角錐台形状とすることにより、感温部1の上部に対してより多くの熱流束を輸送し、感温部1の上部の温度上昇の効果を高めることができる。
【0027】
上記のとおり、熱流補償機構2の天面に貫通孔20を形成してもよい。この貫通孔20の大きさを適宜調整することにより、生体100の深部体温TCBTを測定する場合において測定する深さを調整することが可能となる。ただし、熱流補償機構2に貫通孔20を設けることは本発明において必須の構成要件ではない。
【0028】
次に、本実施例では、熱流補償機構2の上に回路基板3を搭載する。熱流補償機構2の天面に貫通孔20を設ける場合には、回路基板3は貫通孔20の周辺部分において熱流補償機構2と接触することになる。熱流補償機構2と回路基板3との接触熱抵抗を低減するために、熱流補償機構2と接する回路基板3の下面の領域には回路部品を配置しないことが望ましい。熱流補償機構2と接する回路基板3の下面の領域に配線が存在する場合には、配線にシルク印刷を施して保護することが望ましい。熱流補償機構2の上面と回路基板3の下面との間に熱伝導性シートを挟むようにしてもよい。
なお、熱流補償機構2のみで回路基板3を支える必要はなく、回路基板3を筐体4に適宜固定してもよいことは言うまでもない。
【0029】
上記のとおり、熱流補償機構2は、感温部1の外側における生体100からの熱流束を感温部1の上部に輸送することで、感温部1に流入すべき熱が外気へ流出してしまうことを防ぐ役割を果たす。ただし、本実施例のように熱流補償機構2が外気と直接触れず、熱流補償機構2の上に回路基板3などを配置する空間が存在する場合、熱流補償機構2から外気への放熱が減る。このため、生体100からの熱流束を感温部1の上部に輸送して外気へ流す熱流補償機構2の機能が妨げられ、結果として生体周囲へ熱の流出が生じてしまい、外気の対流変化時の深部体温TCBTの推定に誤差が生じる。このような理由により、深部体温TCBTの推定誤差は、熱流補償機構2の直径ΦDと筐体4内の回路基板3の上に存在する空間7の高さH2との比H2/ΦDによって左右される。
【0030】
深部体温TCBTの推定誤差を0.1℃以下としたい場合には、H2/ΦD<0.2とする必要がある。推定誤差を0.2℃以下としたい場合には、H2/ΦD<0.5とする必要がある。推定誤差を0.3℃以下としたい場合には、H2/ΦD<0.8とする必要がある。推定誤差を0.4℃以下としたい場合には、H2/ΦD<1.3とする必要がある。推定誤差を0.5℃以下としたい場合には、H2/ΦD<2.0とする必要がある。熱流補償機構2の直径ΦDが30mmの場合、例えば推定誤差を0.1℃以下としたい場合には、空間7の高さH2を6mm以下とすることが望ましい。
【0031】
熱流補償機構2への影響を低減するために、発熱量が大きい処理用電子回路5を、回路基板3上の、熱流補償機構2の中心線Lが通る位置から離して配置することが望ましい。一方、熱伝導率の高い部品である電池6を、回路基板3上の、熱流補償機構2の中心線Lが通る位置付近に配置することが望ましい。
【0032】
図3は本実施例の温度測定装置の電気的構成を示すブロック図である。処理用電子回路5は、AD変換器50と、温度算出部51と、データ保存部52と、データ通信部53と、電源制御部54とを含む。
【0033】
AD変換器50は、温度センサ10,11によって測定された温度T1,T2をデジタルデータに変換する。
温度算出部51は、温度T1,T2と既知の比例係数Aとに基づいて生体100の深部体温TCBT(内部温度)を式(1)、式(2)により算出する。
【0034】
データ保存部52は、温度算出部51によって算出された深部体温TCBTのデータを一時的に記憶する。
データ通信部53は、温度算出部51によって算出された深部体温TCBTのデータを外部端末に無線送信または有線送信する。
電源制御部54は、電池6から処理用電子回路5への電源電圧供給を担う回路である。
【0035】
以上のように本実施例によれば、感温部1の外側における生体100からの熱流束を感温部1の上部に輸送する熱流補償機構2を設けることにより、外気の対流状態が変化する場合でも、測定される熱流の大きさ(T1-T2)と真値Hとの差を小さくすることができ、深部体温TCBTの推定誤差を低減することができる。
【0036】
図4は本実施例の効果を説明する図である。
図4の40は、処理用電子回路5の発熱が感温部1への熱流に影響を与えないようにするために、感温部1と熱流補償機構2を収容する筐体と回路基板3を収容する筐体とを別にした温度測定装置による深部体温T
CBTの推定誤差を示している。
図4の41は本実施例の温度測定装置による深部体温T
CBTの推定誤差を示している。
図4の例では、H2/ΦD<0.2としている。
図4によれば、筐体を分ける構成と同等の推定誤差(±0.1℃)を本実施例において実現できることが分かる。
【0037】
また、本実施例では、感温部1と回路基板3を同一の筐体4に組み込み、熱流補償機構2の上に回路基板3を搭載することにより、筐体を分ける構成と比較して、温度測定装置の、生体100への装着面積を低減することができる。例えば、筐体を分ける構成の面積19.7cm2に対して、本実施例では面積を8.6cm2に低減できる。
【0038】
図5は筐体を分けた場合の温度測定装置を上から見た平面図、
図6は本実施例の温度測定装置の平面図である。
図5の例では、感温部と熱流補償機構を収容する筐体106と回路基板を収容する筐体107間を配線108を介して電気的に接続する。この構成では、生体100への装着面積が増加する。また、筐体が分かれることで扱いにくくなり、利便性が低下する。一方、本実施例によれば、筐体が1つになるため、小型で取り扱いのし易い温度測定装置を実現することができる。
【0039】
本実施例で説明した温度算出部51とデータ保存部52とデータ通信部53とは、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータの構成例を
図7に示す。
【0040】
コンピュータは、CPU200と、記憶装置201と、インタフェース装置(I/F)202とを備えている。I/F202には、温度センサ10,11とデータ通信部53のハードウェア等が接続される。このようなコンピュータにおいて、本発明の温度推定方法を実現させるための温度推定プログラムは記憶装置201に格納される。CPU200は、記憶装置201に格納されたプログラムに従って本実施例で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、生体の内部温度を非侵襲に測定する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1…感温部、2…熱流補償機構、3…回路基板、4…筐体、5…処理用電子回路、6…電池、10,11…温度センサ、12…固定部材、20…貫通孔、50…AD変換器、51…温度算出部、52…データ保存部、53…データ通信部、54…電源制御部。