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特許7563634WC系超硬合金、WC系超硬合金作製用混合粉末、WC系超硬合金部材、及びWC系超硬合金部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】WC系超硬合金、WC系超硬合金作製用混合粉末、WC系超硬合金部材、及びWC系超硬合金部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 29/08 20060101AFI20241001BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241001BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20241001BHJP
   B22F 10/34 20210101ALI20241001BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20241001BHJP
   C22C 27/04 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
C22C29/08
B22F1/00 Q
B22F10/28
B22F10/34
B33Y10/00
C22C27/04 101
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023575329
(86)(22)【出願日】2023-01-24
(86)【国際出願番号】 JP2023002100
(87)【国際公開番号】W WO2023140387
(87)【国際公開日】2023-07-27
【審査請求日】2024-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2022008541
(32)【優先日】2022-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 富生
(72)【発明者】
【氏名】菅原 潤樹
(72)【発明者】
【氏名】小関 秀峰
(72)【発明者】
【氏名】大沼 寛
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-156645(JP,A)
【文献】特開2019-151873(JP,A)
【文献】国際公開第2021/039912(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00,10/25,10/28,10/34
B33Y 10/00,70/00
C22C 1/051,27/04,29/08,30/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
10%以上40%以下のCoと、
5%以上15%以下のCuと、を含み、
残部が、Ti、Zr及びCrからなる群から選択される少なくとも一種、並びにW、B、C及び不可避不純物からなる、WC系超硬合金。
【請求項2】
モル比で、
Bの含有量がTiの含有量の1.5倍以上3倍以下であり、
Cの含有量がWの含有量の0.5倍以上2倍以下である、請求項1に記載のWC系超硬合金。
【請求項3】
質量%で、
Tiの含有量は、0%超15%未満であり、
Bの含有量は、0%超6.0%未満であり、
Wの含有量は、23%超75.5%以下であり、
Cの含有量は、1.5%超5%以下である、請求項1又は2に記載のWC系超硬合金。
【請求項4】
Ti、W及びCを含む第1の相と、
W、B及びCoを含む第2の相と、
Coを含む第3の相と、を有し、
断面観察における前記第1の相の面積率が0%超50%以下である、請求項3に記載のWC系超硬合金。
【請求項5】
WC系超硬合金を作製するために複数種類の粉末を混合して得られた混合粉末であって、
前記混合粉末を構成する成分を平均した組成は、質量%で、10%以上40%以下のCoと、5%以上15%以下のCuと、を含み、残部が、Ti、Zr及びCrからなる群から選択される少なくとも一種、並びにW、B、C及び不可避不純物からなる、WC系超硬合金作製用混合粉末。
【請求項6】
WC系超硬合金で形成された部材であって、
前記WC系超硬合金は、質量%で、10%以上40%以下のCoと、5%以上15%以下のCuと、を含み、残部が、Ti、Zr及びCrからなる群から選択される少なくとも一種、並びにW、B、C及び不可避不純物からなる、WC系超硬合金部材。
【請求項7】
硬さが45HRC以上であり、熱伝導率が10W/(m・K)以上である、請求項6に記載のWC系超硬合金部材。
【請求項8】
基材と、
前記基材の表面に形成された超硬合金部と、を含み、
前記超硬合金部は、WC系超硬合金で形成されたものであって、
前記WC系超硬合金は、質量%で、10%以上40%以下のCoと、5%以上15%以下のCuと、を含み、残部が、Ti、Zr及びCrからなる群から選択される少なくとも一種、並びにW、B、C及び不可避不純物からなる、WC系超硬合金部材。
【請求項9】
混合粉末に熱源ビームを照射し、前記混合粉末を溶融させた後、凝固させる溶融凝固工程を有し、
前記混合粉末を構成する成分を平均した組成は、質量%で、10%以上40%以下のCoと、5%以上15%以下のCuと、を含み、残部が、Ti、Zr及びCrからなる群から選択される少なくとも一種、並びにW、B、C及び不可避不純物からなる、WC系超硬合金部材の製造方法。
【請求項10】
複数種類の粉末をそれぞれ個別に搬送ガスとともに圧送し混合して前記混合粉末とする粉末混合工程と、
前記混合粉末を供給する混合粉末供給工程と、を更に有する、請求項9に記載のWC系超硬合金部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、WC系超硬合金、WC系超硬合金作製用混合粉末、WC系超硬合金部材、及びWC系超硬合金部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホットスタンプ製法は、高温に加熱した被加工材をプレス成型すると同時に、金型内で冷却することで焼入れを行う製法である。ホットスタンプ金型では、焼入れ性の向上や生産の高効率化を図るために、金型材料の熱伝導率の向上が望まれている。また、高温に熱せられた被加工材に付着したスケールによる金型の損傷を小さくするために、耐摩耗性が必要とされる。
【0003】
例えば、熱伝導性と耐摩耗性を両立する材料として、Coなどの金属結合相中に硬質なWCを分散させた複合材料である超硬合金(以下「WC系超硬合金」という。)が挙げられる。WC系超硬合金は、耐摩耗性に優れるため、切削工具等に使用されている。一方で、熱伝導性も優れており、WC系超硬合金の熱伝導率は、工具鋼と比較して高い。
【0004】
特許文献1には、炭化タングステン粒子がコバルトまたはコバルト合金の結合相で結合されてなるWC系超硬合金であって、コバルトまたはコバルト合金の含有量が35~50質量%であり、微細な炭化タングステン粒子が所定の分布を示すものが開示されている。
【0005】
特許文献2には、WC粒子と、Cuと、Co、FeおよびCrのうちの少なくとも1つからなる金属結合相と、を含む積層造形体であり、WC粒子の含有量が40質量%以上であり、Co、FeおよびCrのうちの少なくとも1つの含有量が25質量%以上60質量%未満であり、Cuの含有量aと、Co、FeおよびCrのうちの少なくとも1つの含有量bの割合a/bが0.070≦a/b≦1.000を満たす、WC系超硬合金部材が開示されている。
【0006】
非特許文献1には、分子動力学法と密度汎関数理論を組み合わせることにより、共有結合システム及び金属システムの両方のシミュレーションを可能にしたことが記載されている。
【0007】
非特許文献2には、シリコンの理想的な強度について、密度汎関数理論を用いていくつかの荷重経路に沿って予測することにより応力-ひずみ曲線を得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-160500号公報
【文献】国際公開第2021/039912号
【非特許文献】
【0009】
【文献】R. Car, M. Parrinello, Unified Approach for Molecular Dynamics and Density-Functional Theory. PHYSICAL REVIEW LETTERS VOLUME 55, NUMBER 22, 2471-2474 (1985)
【文献】S. M.-M. Dubois et al., Ideal strength of silicon: An ab initio study. PHYSICAL REVIEW B 74, 235203 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載のWC系超硬合金は、合金組織中に分布する炭化タングステン粒子を微細にすることにより、コバルトの増量によって向上させた靱性を損なわずに、硬度を高くすることを可能にしている。しかしながら、結合相の増加に伴う熱伝導率の低下が課題として残っている。
【0011】
特許文献2に記載のWC系超硬合金部材は、Cuの含有量が多く、熱伝導率は高くなっている。しかしながら、硬度を更に高くすることが求められている。
【0012】
本開示の目的は、高熱伝導性に有利な構成を採用しつつ、高耐摩耗性を備えたWC系超硬合金を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示のWC系超硬合金は、質量%で、10%以上40%以下のCoと、5%以上15%以下のCuと、を含み、残部が、Ti、Zr及びCrからなる群から選択される少なくとも一種、並びにW、B、C及び不可避不純物からなる。
【0014】
また、モル比で、Bの含有量がTiの含有量の1.5倍以上3倍以下であり、Cの含有量がWの含有量の0.5倍以上2倍以下であることが好ましい。
【0015】
また、質量%で、Tiの含有量は、0%超15%未満であり、Bの含有量は、0%超6.0%未満であり、Wの含有量は、23%超75.5%以下であり、Cの含有量は、1.5%超5%以下であることが好ましい。
【0016】
また、質量%で、Tiの含有量は、15%以上35%以下であり、Bの含有量は、6.0%以上16%以下であり、Wの含有量は、0%超61.5%以下であり、Cの含有量は、0%超4%以下であることが好ましい。
【0017】
また、Ti、W及びCを含む第1の相と、W、B及びCoを含む第2の相と、Cоを含む第3の相と、を有し、断面観察における第1の相の面積率が0%超50%以下であることが好ましい。
【0018】
また、Ti、W及びCを含む第1の相と、W、B及びCoを含む第2の相と、Cоを含む第3の相と、を有し、断面観察における第1の相の面積率が30%以上60%以下であることが好ましい。
【0019】
また、本開示は、WC系超硬合金を作製するために複数種類の粉末を混合して得られた混合粉末であって、混合粉末を構成する成分を平均した組成は、質量%で、10%以上40%以下のCoと、5%以上15%以下のCuと、を含み、残部が、Ti、Zr及びCrからなる群から選択される少なくとも一種、並びにW、B、C及び不可避不純物からなる、WC系超硬合金作製用混合粉末である。
【0020】
また、WC系超硬合金は、モル比で、Bの含有量がTiの含有量の1.5倍以上3倍以下であり、Cの含有量がWの含有量の0.5倍以上2倍以下であることが好ましい。
【0021】
また、WC系超硬合金は、質量%で、Tiの含有量は、0%超15%未満であり、Bの含有量は、0%超6.0%未満であり、Wの含有量は、23%超75.5%以下であり、Cの含有量は、1.5%超5%以下であることが好ましい。
【0022】
また、WC系超硬合金は、質量%で、Tiの含有量は、15%以上35%以下であり、Bの含有量は、6.0%以上16%以下であり、Wの含有量は、0%超61.5%以下であり、Cの含有量は、0%超4%以下であることが好ましい。
【0023】
また、本開示は、WC系超硬合金で形成された部材であって、WC系超硬合金は、質量%で、10%以上40%以下のCoと、5%以上15%以下のCuと、を含み、残部が、Ti、Zr及びCrからなる群から選択される少なくとも一種、並びにW、B、C及び不可避不純物からなる、WC系超硬合金部材である。
【0024】
また、WC系超硬合金は、モル比で、Bの含有量がTiの含有量の1.5倍以上3倍以下であり、Cの含有量がWの含有量の0.5倍以上2倍以下であることが好ましい。
【0025】
また、WC系超硬合金は、質量%で、Tiの含有量は、0%超15%未満であり、Bの含有量は、0%超6.0%未満であり、Wの含有量は、23%超75.5%以下であり、Cの含有量は、1.5%超5%以下であることが好ましい。
【0026】
また、WC系超硬合金は、質量%で、Tiの含有量は、15%以上35%以下であり、Bの含有量は、6.0%以上16%以下であり、Wの含有量は、0%超61.5%以下であり、Cの含有量は、0%超4%以下であることが好ましい。
【0027】
また、硬さが45HRC以上であり、熱伝導率が10W/(m・K)以上であることが好ましい。
【0028】
また、本開示は、基材と、基材の表面に形成された超硬合金部と、を含み、超硬合金部は、WC系超硬合金で形成されたものであって、WC系超硬合金は、質量%で、10%以上40%以下のCoと、5%以上15%以下のCuと、を含み、残部が、Ti、Zr及びCrからなる群から選択される少なくとも一種、並びにW、B、C及び不可避不純物からなる、WC系超硬合金部材である。
【0029】
また、WC系超硬合金は、モル比で、Bの含有量がTiの含有量の1.5倍以上3倍以下であり、Cの含有量がWの含有量の0.5倍以上2倍以下であることが好ましい。
【0030】
また、WC系超硬合金は、質量%で、Tiの含有量は、0%超15%未満であり、Bの含有量は、0%超6.0%未満であり、Wの含有量は、23%超75.5%以下であり、Cの含有量は、1.5%超5%以下であることが好ましい。
【0031】
また、WC系超硬合金は、質量%で、Tiの含有量は、15%以上35%以下であり、Bの含有量は、6.0%以上16%以下であり、Wの含有量は、0%超61.5%以下であり、Cの含有量は、0%超4%以下であることが好ましい。
【0032】
超硬合金部は、硬さが45HRC以上であり、熱伝導率が10W/(m・K)以上であることが好ましい。
【0033】
また、本開示は、混合粉末に熱源ビームを照射し、混合粉末を溶融させた後、凝固させる溶融凝固工程を有し、混合粉末を構成する成分を平均した組成は、質量%で、10%以上40%以下のCoと、5%以上15%以下のCuと、を含み、残部が、Ti、Zr及びCrからなる群から選択される少なくとも一種、並びにW、B、C及び不可避不純物からなる、WC系超硬合金部材の製造方法である。
【0034】
また、複数種類の粉末をそれぞれ個別に搬送ガスとともに圧送し混合して混合粉末とする粉末混合工程と、混合粉末を供給する混合粉末供給工程と、を更に有することが好ましい。
【0035】
また、本開示は、円錐台形状の混合部と、混合部に接続された複数の配管と、を有し、混合部の上底面の直径は、混合部の下底面の直径よりも大きく、混合部は、円錐台の斜面部分として外形的に視認される外壁部と、外壁部の内側に挿入された円錐台の斜面部分に相当する内挿部と、で構成され、外壁部と内挿部との間に形成された空間は、複数の配管から供給される複数種類の粉末の流路であり、複数の配管は、混合部の上底面の外縁部に接続され、複数種類の粉末は、WC系超硬合金の原料であって混合粉末の構成要素であり、混合粉末は、混合部の下部から流出するように構成されている、WC系超硬合金作製用混合粉末の製造装置である。
【0036】
また、混合粉末を構成する成分を平均した組成は、質量%で、10%以上40%以下のCoと、5%以上15%以下のCuと、を含み、残部が、Ti、Zr及びCrからなる群から選択される少なくとも一種、並びにW、B、C及び不可避不純物からなることが好ましい。
【0037】
また、空間の上部の断面積は、複数の配管の断面積の総和よりも大きいことが好ましい。
【0038】
また本開示は、混合粉末に熱源ビームを照射するヘッド部と、混合粉末を供給する混合粉末供給部と、を有し、混合粉末を構成する成分を平均した組成は、質量%で、10%以上40%以下のCoと、5%以上15%以下のCuと、を含み、残部が、Ti、Zr及びCrからなる群から選択される少なくとも一種、並びにW、B、C及び不可避不純物からなる、WC系超硬合金部材の製造装置である。
【0039】
また、ヘッド部は、混合粉末供給部を有し、熱源ビームの外側に混合粉末を流出するように構成されていることが好ましい。
【0040】
また、搬送ガスとともに圧送される複数種類の粉末を混合して混合粉末とする円錐台形状の混合部を更に有することが好ましい。
【発明の効果】
【0041】
本開示によれば、高熱伝導性に有利な構成を採用しつつ、高耐摩耗性を備えたWC系超硬合金を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】WC系超硬合金を作製するために用いる粉末を混合する装置の要部の一例を示す斜視図である。
図2】WC系超硬合金部材の製造装置の一例を示す全体構成図である。
図3】WC系超硬合金部材の一例を示す側面図である。
図4】実施例の試験片No.1のEPMAによる元素マッピング分析結果及び反射電子像を示す図である。
図5】実施例の試験片No.2のEPMAによる元素マッピング分析結果及び反射電子像を示す図である。
図6】実施例の試験片No.3のEPMAによる元素マッピング分析結果及び反射電子像を示す図である。
図7】せん断破壊エネルギーとCuの濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本開示は、ホウ化物を添加したWC系超硬合金、WC系超硬合金作製用混合粉末、WC系超硬合金部材、WC系超硬合金部材の製造方法、WC系超硬合金作製用混合粉末の製造装置、及びWC系超硬合金部材の製造装置に関する。
【0044】
以下、図面を参照して、本開示の実施形態を詳しく説明する。なお、本明細書において「~」の数値範囲は、前後の数値を「以上」、「以下」で含む範囲とする。また、数値に「超」、「未満」を付した場合、その数値を含まないものとする。なお、図中、同一または類似する部分には同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0045】
(WC系超硬合金)
本開示の実施形態に係るWC系超硬合金は、質量%で、10%以上40%以下のCoと、5%以上15%以下のCuと、を含み、残部が、Ti、Zr及びCrからなる群から選択される少なくとも一種、並びにW、B、C及び不可避不純物からなることを特徴の一つとするものである。
【0046】
[Co:10質量%~40質量%]
Co(コバルト)は、金属結合相を構成する。このため、Coの含有量を増やすことで、WC系超硬合金部材の靭性が向上する。例えば、WC系超硬合金部材の製造に用いるWC系超硬合金では、質量%で、金属結合相の含有量を10%以上40%以下とすることにより、WC系超硬合金の硬度低下を防ぐことができる。なお、硬度低下の防止に関しては、Co以外に、FeやCrを追加してもよい。
【0047】
[Cu:5質量%~15質量%]
Cu(銅)は、金属結合相に分散し、WC超硬合金部材の熱伝導率を高める役割を果たす。Cuを含むWC超硬合金部材であれば、熱伝導率を高めることができる。なお、熱伝導率を高めるためには、Cuに加えて、Al等を追加してもよい。
【0048】
また、Bは、WやTiのホウ化物を形成する。これらのホウ化物はいずれも、硬さ及び熱伝導率の向上に寄与する。一方、WやTiのホウ化物は、炭化物と比較して靭性が低い。そのため、過剰に入れると、靭性が低下する。B(ホウ素)の含有量は、TiBの形で存在させるため、Tiの2倍前後とすることが適切であり、モル比で、Tiの含有量の1.5倍以上3倍以下であることが好ましい。一方、TiBが多すぎると脆くなりやすいため、TiBの比率は全体の5~20質量%とすることがさらに好ましい。その場合のTiBに包含されるホウ素の添加量は、1.6~6.0質量%程度である。また、Cの含有量は、WCの形で存在させるため、Wの1倍前後とすることが適切であり、モル比で、Wの含有量の0.5倍以上2倍以下であることが好ましい。
【0049】
[WC系超硬合金の構造]
WC系超硬合金は、W(タングステン)とC(炭素)との炭化物である硬質なWC(タングステンカーバイト)の粒子を金属結合相で一体化した複合材料としての構造を有する。WC系超硬合金部材に占めるWCの量が多いほど、硬度が高くなる。例えば、WCを40質量%以上含むことが好ましい。
【0050】
また、本実施形態のWC超硬合金においては、上述した元素の他、原料、資材および製造設備等の状況によって持ち込まれる元素、例えば、Na,Mg,Al,Si,P,S,Ca,Ti,Mn,Ni,Zn,Ga,As,Se,Br,Cd,Sn,Sb,Te等の混入が許容されうる。これらの元素の含有量は、少ないほうが好ましく、その合計が200ppm以下であれば許容できる。また、これらの元素以外に、O、N及びArが混入する場合がある。O、N及びArについてはそれぞれ、質量%で、Oが0.5%以下、Nが0.5%以下、Arが0.5%以下であることが好ましい。
【0051】
上記の元素は、許容される限度において混入する場合があるが、要因によっては避けられない場合があり、不可避不純物に含まれるものとする。
【0052】
WC系超硬合金は、上記のCo及びCu以外の構成元素を、次の合金組成Iまたは合金組成IIで示す含有量とすることが望ましい。特に熱伝導性を優先する場合には合金組成Iを、特に硬さを優先する場合には合金組成IIを選択することができる。
【0053】
<合金組成I>
[Ti:0質量%超15質量%未満]
WC系超硬合金がTiを含む場合、熱力学的に安定なTiCを形成するため、硬さが増大する。また、TiC中にWCが固溶し、(W,Ti)C固溶体炭化物(β相)を形成するため、耐酸化性が向上する。
【0054】
TiCは、岩塩型構造をとり、構造体として強度と靭性を兼ね備える。TiCは、非化学量論組成をとり、広い組成範囲で安定な結晶構造を保つ。また、強度の割に比重が小さいため、比強度の向上に寄与する。一方、Tiの炭化物は、Wの炭化物と比較して熱伝導率が小さい。そのため、過剰に入れると、熱伝導率が低下する。そのため、Tiは、質量%で、0質量%超15質量%未満が好ましく、3.4質量%~14質量%が更に好ましい。
【0055】
[Zr:0質量%超17.0質量%以下]
WC系超硬合金にZrを添加すると、Co中に微量だけ固溶し、高温強度の向上に寄与する。また、ZrBとしてWC系超硬合金中に分散することで熱伝導率の向上も見込める。
【0056】
一方、Zrは、酸素との結びつきが強く、ZrOが生成しやすい。これによって靭性の低下が生じる。そのため、Zrは、0質量%超17.0質量%以下が好ましく、4.0質量%~17.0質量%が更に好ましい。
【0057】
[Cr:0質量%超15.0質量%以下]
WC系超硬合金にCrを添加すると、Crの多くは結合相中に固溶し、耐食性及び耐酸化性の向上に寄与する。また、積層造形のように急冷凝固を行う場合には、Crは、Coに固溶する量が多くなる。さらに、このような急冷凝固を行うと、WC系超硬合金中に分散される炭化物やホウ化物の粒径が細かくなるため、低温から高温に至るまでの抗折力が高くなり、強さの低下を抑制できる。
【0058】
一方、Crは、Wの炭化物やCoと比較して熱伝導率が小さい。そのため、過剰に入れると熱伝導率の低下が生じる。そのため、Crは、0質量%超15.0質量%以下が好ましく、3.5質量%~14.5質量%が更に好ましい。
【0059】
[B:0質量%超6.0質量%未満]
Bは、WやTiのホウ化物を形成する。これらのホウ化物はいずれも、硬さ及び熱伝導率の向上に寄与する。一方、WやTiのホウ化物は、炭化物と比較して靭性が低い。そのため、過剰に入れると、靭性が低下する。そのため、Bは、0質量%超6.0質量%未満が好ましく、1.6質量%~6.0質量%が更に好ましい。
【0060】
[W:23質量%超75.5質量%以下]
Wは、炭化物やホウ化物を形成する。WCは、硬さと靭性を兼ね備える。また、ヤング率が高いのが特徴であり、構造材に用いた場合に、たわみにくいのが特徴である。WBも、WCと同様の特性を有するため、これらを基材とした材料は、金型や切削工具などの治工具に好適である。そのため、Wは、23質量%超75.5質量%以下が好ましく、42質量%~57質量%が更に好ましい。
【0061】
[C:1.5質量%超5質量%以下]
Cは、炭化物を形成する元素である。各組成において適量のC量があり、Cが少ないとη相等の脆化層が生じ、過剰に入れるとフリーカーボンの生成につながる。いずれも部材の破壊の起点となりやすく、これらを抑制することが好ましい。そのため、Cは、1.5質量%超5質量%以下が好ましく、2.7質量%~3.7質量%が更に好ましい。
【0062】
<合金組成II>
合金組成IIは、合金組成Iに比べ、硬さ及び比強度の向上を図っている。各元素の効果は、上述のとおりである。
【0063】
[Ti:15質量%以上35質量%以下]
TiCは、硬さ及び比強度の観点から、合金組成Iに比べて含有量を多くする。そのため、Tiは、15質量%~35質量%とする。
【0064】
[B:6.0質量%以上16質量%以下]
Bは、WやTiのホウ化物を形成する。これらのホウ化物はいずれも、硬さ及び熱伝導率の向上に寄与する。一方、WやTiのホウ化物は、炭化物と比較して靭性が低い。そのため、過剰に入れると、靭性が低下する。硬さ及び比強度の観点から、合金組成Iに比べて含有量を多くする。そのため、Bは、6.0質量%~16質量%とする。
【0065】
[W:0質量%超61.5質量%以下]
Wは、WC及びWBを形成することにより硬さと靭性を兼ね備える特性を有することから、Wは、0質量%超61.5質量%以下とする。
【0066】
[C:0質量%超4質量%以下]
WC-Co超硬合金は合金炭素量が、WCの結合炭素量に等しいかその近傍であるならば、WC+Co結合相の二相となる。しかし、わずかに多くなるとフリーカーボン(C)を加えた三相になり、わずかに少なくなるとη相(CoC)を加えた三相となる。
これらの相は、有害相と呼ばれ、機械的性質を低下させる。よって、Cは、0質量%超4質量%以下とする。
【0067】
なお、上記の元素量は、例えば、ICP-OESやICP-MSで分析できる。また、XRF、EPMA、EDXのような表面分析の手法で定量的に分析できる。
【0068】
[合金組織]
本実施形態のWC系超硬合金は、Ti、W及びCを含む第1の相と、W、B及びCoを含む第2の相と、Cоを含む第3の相と、を有する。第1の相、第2の相及び第3の相は、例えば、電子プローブマイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)を用いて評価することができる。
【0069】
第1の相は、Ti、W及びCを含む硬質相(「WTiC相」ともいえる。)とも称することができる。第2の相は、W、B及びCoを含む硬質相(「WBCo相」ともいえる。
)とも称することができる。第3の相は、質量%でCoが最も多い金属相(Coリッチ相)で構成されている金属相とも称することができる。なお、第1の相においては、含有量の多い上位三元素がTi、W及びCである。
【0070】
合金組成Iの場合、第1の相の面積率が0%超50%以下であることが好ましい。また、合金組成IIの場合、第1の相の面積率が30%以上60%以下であることが好ましい。
【0071】
[面積率]
本明細書でいう面積率は、合金の断面を観察し、EPMA等を用いた元素マッピングを基にした画像処理から、観察領域における面積率を算出すればよい。例えば、W、Ti及びCが濃化して検出されている相を第1の相、W、B及びCoが濃化して検出されている相を第2の相、主にCoが検出される相を第3の相として、面積率を算出すればよい。
【0072】
観察条件としては、EPMA(例えば、EPMA-1610、株式会社島津製作所製)を用いる場合には、例えば、加速電圧:15kV、照射電流:100nA、Data pоintをX:400、Y:400、StepsizeをX:0.300μm、Y:0.300μm、ビーム径:1μm、計数時間:20msecとして観察すればよい。
【0073】
(WC系超硬合金粉末)
WC系超硬合金粉末は、上記のWC系超硬合金の組成を有する粒子の集合体である粉末、すなわち予め合金化されている合金粉末を用いることができる。予め合金化されている合金粉末の製造方法としては、合金造粒した粉末をプラズマなどの高温領域に通過させる精錬方法である、熱プラズマ液滴製錬により真球度を高めて、流動性を向上させることが望ましい。なお、造粒粉末だけでなく、ガスアトマイズ法や水アトマイズ法によって製造した粉末を使用してもよい。例えば、造形精度を高めるために粉末の流動性(JIS Z2502に準拠して測定した値)は、10~40sec/50gであることが望ましく、より望ましくは10~30sec/50g、さらに望ましくは10~25sec/50gである。
【0074】
また、WC及びCoを含むWC-Co粉末と、WC粉末と、Cu粉末と、WB、TiB、ZrB及びCrBのうちの少なくとも一種のホウ化物粉末と、を用いることができる。WC-Co粉末は、Coの比率が10~40%のWC-Co粉末を用いることができる。また、WC粉末とCo粉末のみを使用してもよく、W粉末とCo粉末とC粉末とを各々で添加してもよい。さらには、WC-Co粉末を用いたうえで、WC粉末やCo粉末を用いることもできる。
【0075】
また、例えば、WC系超硬合金用粉末として、W、Cо、Cu、Ti、B及びCの各粉末を、所望の組成範囲になるように混合した粉末であってもよいし、予め上記の元素を2種以上含む合金粉末に、残る元素の粉末を混合してもよい。もちろん、予め上記の元素を2種以上含む合金粉末同士を混合してもよい。
【0076】
図1は、WC系超硬合金を作製するために用いる粉末を混合する装置の要部の一例を示す斜視図である。
【0077】
本図において、混合粉末製造装置100(混合粉末の製造装置)は、円錐台形状の混合部110に複数の配管120が接続された構成を有する。混合部110は、上底面の直径が下底面の直径よりも大きくなっている。混合部110は、円錐台の斜面部分として外形的に視認される大径部112(外壁部)と、大径部112の内側に挿入された円錐台の斜面部分に相当する小径部114(内挿部)と、で構成されている。大径部112と小径部114との間に形成された空間116が、配管120から供給される粉末132、134の流路である。配管120は、混合部110の上底面の外縁部に接続されている。粉末132、134は、WC系超硬合金の原料である。
【0078】
複数種類の粉末132、134は、異なる配管120を介して搬送ガスとともに空間116に流入し、破線の矢印136のように空間116を通過する過程で混合され、空間116の下部から流出するようになっている。なお、矢印136は、単に下向きに表されているが、実際の粉末132、134は、空間116を旋回しながら流下する。このため、複数種類の粉末132、134が自然に混合され、混合粉末138となる。混合粉末138は、混合部110の下部から流出する。搬送ガスは、不活性ガスまたは圧縮空気であることが好ましい。
【0079】
本図に示す混合粉末製造装置100を用いる、混合粉末138の製造方法は、次の工程を含む。
【0080】
配管120を介して複数種類の粉末132、134をそれぞれ個別に搬送ガスとともに空間116に圧送する(第1の工程)。圧送された複数種類の粉末132、134及び搬送ガスを空間116に噴出させて混合し、混合粉末138を得る(第2の工程)。ここで、空間116の上部の断面積は、複数の配管120の断面積の総和よりも大きい。
【0081】
空間116の下部に設けられた吐出口から混合粉末138を吐出する(第3の工程)。
【0082】
なお、第1の工程及び第2の工程、又は第1の工程、第2の工程及び第3の工程を合わせて「粉末混合工程」と呼んでもよい。
【0083】
粉末132、134の種類などは、特に制限されない。粉末132、134の粒径は、平均粒径(D50)が0.1~300μm程度であることが好ましい。例えば、メタルデポジション方式では、レーザ回折法によって求められる、体積基準による粒子径の積算分布曲線において、平均粒径(D50)が30~250μmであることが好ましく、更に好ましくは60μm~150μm程度である。
【0084】
図2は、WC系超硬合金部材の製造装置の一例を示す全体構成図である。
【0085】
本図において、付加製造装置200(WC系超硬合金部材の製造装置)は、混合粉末製造装置100(混合粉末製造部)と、複数の粉末供給部210と、ヘッド部240と、を備えている。混合粉末製造装置100と粉末供給部210とは、配管120(粉末供給路)により接続されている。また、混合粉末製造装置100とヘッド部240とは、配管230(混合粉末供給路)により接続されている。
【0086】
それぞれの粉末供給部210からは、混合粉末の構成要素である粉末が搬送ガス220(図中破線の矢印で示す。)により圧送される。
【0087】
混合粉末製造装置100においては、それぞれの粉末供給部210から送られた複数種類の粉末が、図1で示すようにして混合され、混合粉末となる。
【0088】
ヘッド部240からは、基材320に向けて、熱源ビーム250が照射されるとともに、配管230を介してヘッド部240に送られた混合粉末が供給される。図中、混合粉末は、熱源ビーム250の外側に点線で示している。熱源ビーム250は、レーザ、電子ビーム、プラズマ、アークなどである。特に、レーザは、照射スポットを比較的小さくすることができ、また、大気圧下で施工できるので好ましい。
【0089】
混合粉末は、基材320の表面で熱源ビーム250により加熱されて溶融し、積層され、超硬合金部310となる。
【0090】
なお、超硬合金部310が形成される際、基材320の一部も、熱源ビーム250により加熱されて溶融する場合がある。この場合、超硬合金部310は、混合粉末と基材320の成分とが混合した物質を含むことになる。このような場合であっても、混合粉末を更に供給することにより、超硬合金部310を所定の厚さ以上に積層すれば、その部分は、基材320の成分が溶け込まない領域となる。このようにして超硬合金部310を形成することにより、超硬合金部310の露出部分を、所望の硬さ及び熱伝導率を有する超硬合金で構成することができる。
【0091】
(WC系超硬合金部材)
WC系超硬合金部材の例としては、上述のように、基材と、基材の表面に形成された超硬合金部と、を含むものがある。超硬合金部は、WC系超硬合金で形成されたものであって、質量%で、10%以上40%以下のCoと、5%以上15%以下のCuと、を含み、残部が、Ti、Zr及びCrからなる群から選択される少なくとも一種、並びにW、B、C及び不可避不純物からなる。なお、超硬合金部は、膜状に形成されたものであってもよい。
【0092】
図3は、WC系超硬合金部材の一例を示したものである。
【0093】
本図においては、WC系超硬合金部材300は、基材320の表面の一部が超硬合金部310で覆われた構成を有する。
【0094】
また、WC系超硬合金部材は、上述のような基材と一体となっているものから超硬合金部を分離したものであってもよい。分離の方法は、特に限定されない。この場合、WC系超硬合金部材は、基材を含まず、WC系超硬合金のみからなるものである。
【0095】
[硬度]
超硬合金部材の硬度は、例えば、ロックウェル硬さで45HRC以上であり、50HRC以上が好ましく、60HRC以上が更に好ましく、70HRC以上が特に好ましい。
【0096】
[硬さの測定方法]
硬さの測定方法としては、ロックウェル硬さ試験法を用いることができる。
【0097】
超硬合金部を切断し、その切断面をエメリー紙及びダイヤモンド砥粒を用いて鏡面まで研摩して、試験片とする。そして、室温にて、ロックウェル硬さ試験機によって初期荷重10kgf、2秒を負荷した後、荷重60kgf、保持時間4秒で硬さを測定する。測定は3回行い、3回の平均値を硬度とする。
【0098】
[熱伝導率]
熱伝導率は、10W/(m・K)以上であり、好ましくは20W/(m・K)以上であり、更に好ましくは30W/(m・K)以上である、特に好ましくは40W/(m・K)以上である。
【0099】
[熱伝導率の測定方法]
合金部材の熱伝導率の測定方法としては、熱拡散率α、密度ρ及び比熱cを測定し、以下の式(1)より熱伝導率λを求めることができる。
【0100】
λ=α・ρ・c …式(1)
熱拡散率は、Xeフラッシュ法熱拡散率測定装置(Bruker-axs社製、型式:Nanoflash LFA447 NETZSCH)を用いて測定することができる。
例えば、熱拡散率の測定に用いたサンプル(試験片)をサイズは、9.5mm×9.5mm×1.5mmであり、耐水エミリー紙で#600まで研磨し、スプレーでグラファイト微粉末を塗布して黒化処理を行ったものを試料として使用すればよい。
【0101】
比熱は、例えば、示差走査熱量分析(DSC:Differential Scanning Calorimeter)を用いて測定することができる。
【0102】
[耐摩耗性の評価]
耐摩耗性は、摩擦摩耗試験機によって評価できる。例えば、ボールオンディスク、ピンオンディスク、ブロックオンリング、往復摺動試験などがある。
【0103】
これらの耐摩耗性評価試験においては、旋盤を用いることもできる。旋盤を用いれば、旋盤の回転力を利用して、回転する鋼片を試験片に接触させて摺動させ、一定数摺動した時の摩耗深さを測定し、評価することができる。このとき、鋼片が旋盤の回転軸に対して偏心して回転するようにするとよい。
【0104】
<用途>
本実施形態のWC系超硬合金及びWC系超硬合金部材は、高い熱伝導率及び高い耐摩耗性を両立するものである。したがって、例えば、切削工具や金型などの治工具、軸受け、摺動面のガイド、ギヤなどの耐摩耗部材に適用することができる。特に、超高張力鋼(Ultra High Tensile Steel)の成形するホットスタンプ用の金型に適用した場合、金型の熱伝導率向上により冷却時間が短縮されるメリットが大きく、生産性向上に寄与するために最適である。
【0105】
(WC系超硬合金部材の製造方法)
WC系超硬合金部材の製造方法としては、付加製造方法がある。以下、図2を用いて説明する。なお、以下の説明においては、予熱工程以外の工程をまとめて「付加製造工程」と呼ぶ場合がある。
【0106】
本図に示すように、基材320を用意し、必要に応じて予熱する(予熱工程)。
【0107】
つぎに、粉末供給部210から混合粉末製造装置100に原料となる粉末を圧送する(原料粉末供給工程)。送られた粉末を混合粉末製造装置100において混合して、混合粉末を調製する(混合粉末調製工程)。
【0108】
そして、ヘッド部240から基材320に向けて熱源ビーム250を照射するとともに、配管230を介してヘッド部240に送られた混合粉末を供給する(混合粉末供給工程)。混合粉末は、基材320の表面で溶融し、その後、熱源ビーム250の照射エネルギー量の調整又はヘッド部240の移動により、溶融した部分が凝固する(溶融凝固工程)。
【0109】
混合粉末供給工程及び溶融凝固工程を繰り返すことにより、所望の形状を有する超硬合金部材(符号310)を作製することができる。
【0110】
なお、混合粉末をあらかじめ基材320等の表面に配置し、熱源ビーム250を照射することにより混合粉末を溶融させた後、凝固させてもよい。また、混合粉末は、熱源ビーム250を照射するヘッド部240とは別に設けられた吐出部(混合粉末供給部)から供給してもよい。この場合、熱源ビーム250を照射する工程とは分けて、混合粉末を吐出部から供給する工程を「混合粉末供給工程」と呼んでもよい。
【0111】
混合粉末は、複数種類の原料粉末を混合したものであるが、本開示に係るWC系超硬合金部材を製造するためには、混合粉末を構成する成分を平均した組成は、質量%で、10%以上40%以下のCoと、5%以上15%以下のCuと、を含み、残部が、Ti、Zr及びCrからなる群から選択される少なくとも一種、並びにW、B、C及び不可避不純物からなるものとする。なお、混合粉末は、「WC系超硬合金作製用混合粉末」とも呼ぶ。
【0112】
基材320が不要な部材の場合は、超硬合金部310を切り出すなどして基材320から分離することにより、WC系超硬合金のみからなる部材を作製する。
【0113】
なお、原料粉末供給工程及び混合粉末調製工程は、事前に実施して、適切な混合粉末を準備しておいてもよい。このように混合粉末を準備することにより、超硬合金部310の作製時間を短縮することができる。
【0114】
以上が、WC系超硬合金粉末を用いて造形物全体を付加製造する方法の一例である。
【0115】
混合粉末供給工程及び溶融凝固工程を繰り返す工程は、造形物積層形成工程と呼んでもよい。
【0116】
上述の付加製造方法は、従来の液相焼結法に比べ、瞬時に、かつ、局所的な溶融・凝固で造形するため、造形時の自重による変形を抑制することができ、好ましい。
【0117】
本開示に係る付加製造方法は、上述のような熱源ビームを用いる方法に限定されるものではなく、例えば、レーザメタルデポジションなどの指向性エネルギー堆積方式、粉末床溶融結合方式、プラズマ粉体肉盛等を用いてもよい。
【0118】
上述の付加製造方法によれば、複数種類の粉末を所望の混合比で精確かつ迅速に混合しながら、付加製造をすることができる。
【0119】
なお、予熱工程は、基材を350℃以上の温度に予熱する工程であり、必要に応じて実施する。予熱は、例えば、高周波誘導加熱、ガスバーナー、赤外線電気ヒーター、加熱炉、電子ビームまたはレーザの照射等を用いて行うことができる。予熱工程においては、基材を500℃以上の温度に予熱することが更に好ましく、700℃以上の温度に予熱することが特に好ましい。また、予熱工程においては、自重による変形を防止する観点から、基材の温度を1300℃以下とすることが好ましく、更に好ましくは1000℃以下である。
【0120】
予熱工程において、基材を350℃以上の温度に予熱することで、次の付加製造工程において、WC系超硬合金造形体と基材との間の割れ、剥離の発生、造形部(超硬合金部310)の微小な亀裂の発生等を抑制することができる。具体的には、予熱工程において基材を一定の温度以上に予熱することで、付加製造工程において、付加製造時のWC系超硬合金造形体及び基材の温度勾配が緩やかになり、熱応力による変形の抑制と残留応力の緩和が可能になる。また、予熱工程において基材を500℃以上の温度に予熱することで、熱応力が更に緩和され、付加製造工程における割れ、剥離、亀裂等の発生を更に抑制することができる。
【0121】
また、得られたWC系超硬合金部材に熱処理を施してもよい。例えば、1200℃以上で0.5~10時間程度の熱処理を施すことが好ましい。また、温度を1300℃以上とするときは、不活性ガス雰囲気下又は真空にて熱処理を施すことが好ましい。また、温度を1200℃以上とするときは、加圧処理、例えば、熱間等方圧加圧(Hot Isostatic Pressing:HIP)を用いて熱処理することが好ましい。
【0122】
熱処理を施すことで、WC系超硬合金部材に含まれるW、Ti及びCoにCを固溶させることができ、フリーカーボンを抑制することができる。これにより、比強度の向上も期待できる。また、600℃~900℃で1~24時間の時効処理をしてもよい。もちろん、WC系超硬合金について上記熱処理を施してもよい。
【0123】
以下、実施例を用いて本開示の内容を更に具体的に説明する。なお、本開示は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0124】
[WC系超硬合金部材(No.1~3)の作製]
原料粉末を混合し、溶融凝固させて、WC系超硬合金片部材を作製した。
【0125】
原料粉末としては、日本新金属株式会社製のWC-Co粉末、WC粉末及びTiB粉末並びにヒカリ素材工業株式会社製のCu粉末を用いた。
【0126】
表1は、WC系超硬合金部材(試験片)を作製する際に用いた原料粉末の比率を示したものである。表中の数字の単位は、無次元である。
【0127】
表2は、作製したWC系超硬合金部材(試験片)の組成を示したものである。表中の数字の単位は、質量%である。
【0128】
【表1】
【0129】
【表2】
【0130】
[造形条件]
付加製造方式としては、指向性エネルギー堆積方式を用いた。造形条件は、出力1800W、走査速度800mm/minとした。基材には、YAG300(日立金属株式会社製、YAGは日立金属株式会社の登録商標)を用いた。
【0131】
表1及び表2に示す実施例の試験片No.1~3について、EPMAを用いて組織の分析を行った。試験片No.1~3はいずれも、合金組成Iに該当する。
【0132】
いずれの試験片についても、分析条件は、以下の通りである。
・装置名:EPMA-1610(株式会社島津製作所製)
・加速電圧:15kV
・照射電流:100nA
・Data pоint(X:400、Y:400)
・ビーム径:1μm
・計数時間:20msec
[結果]
図4図6に、EPMAによる元素マッピング分析結果及び反射電子像を示す。EPMAによる元素マッピング分析結果を示す図は、同一視野中に観察される元素の濃度が相対的に濃い箇所を有色、薄い箇所を黒色で示している。
【0133】
図4は、実施例の試験片No.1のEPMAによる元素マッピング分析結果及び反射電子像を示す図である。
【0134】
本図においては、反射電子像402(BEI)とともに、ホウ素404(B)、炭素406(C)、コバルト408(Co)、銅410(Cu)、チタン412(Ti)及びタングステン414(W)の分布を示している。ここで、図4~6の左下(Wの横)に示すカラーバーは、バー上方にいくほど同一視野中に観察される元素の濃度が相対的に濃いことを示す。
【0135】
図4に示す通り、試験片No.1は、W、Ti及びCが分布している箇所は重複している箇所が多く、それらの重複箇所は、第1の相(WTiC相)を構成しているものと考えられ、第1の相が構成されていることにより、硬さ及び耐酸化性の向上に寄与していると考えられる。また、B、Co及びWが分布している箇所が重複しており、B、Co及びWは化合物を形成して塊状に分布している、すなわち第2の相(WBCo相)を形成していると考えられる。また、Coについての元素マッピング分析の結果、有色具合が濃く、Coが濃化している箇所、すなわち第3の相(Coリッチ相)が形成されているとする結果を得た。また、Cuは、Bの濃度が低い領域に多く分布していることがわかった。これらのCuは、熱伝導率の向上に寄与していると考えられる。また、W、Ti及びCoのいずれの分布とも重複しない箇所にCが分布している領域があったが、固溶していないC(フリーカーボンとも呼ぶ。)が存在すると考えられる。フリーカーボンについては、例えば、1250℃で5時間熱処理を行うことで、W、Ti又はCoにCを固溶させることができ、フリーカーボンを抑制することができる。これにより、部材の比強度の向上が期待できる。
【0136】
図5は、実施例の試験片No.2のEPMAによる元素マッピング分析結果及び反射電子像を示す図である。
【0137】
本図においては、反射電子像502(BEI)とともに、ホウ素504(B)、炭素506(C)、コバルト508(Co)、銅510(Cu)、チタン512(Ti)及びタングステン514(W)の分布を示している。
【0138】
図6は、実施例の試験片No.3のEPMAによる元素マッピング分析結果及び反射電子像を示す図である。
【0139】
本図においては、反射電子像602(BEI)とともに、ホウ素604(B)、炭素606(C)、コバルト608(Co)、銅610(Cu)、チタン612(Ti)及びタングステン614(W)の分布を示している。
【0140】
図5及び図6についても、図4と同様、W、Ti及びCが分布している箇所は重複している箇所が多く、それらの重複箇所は、第1の相(WTiC相)を構成しているものと考えられ、第1の相が構成されていることにより、硬さ及び耐酸化性の向上に寄与していると考えられる。また、B、Co及びWが分布している箇所が重複しており、B、Co及びWは化合物を形成して塊状に分布している、すなわち第2の相(WBCo相)を形成していると考えられる。また、Coについての元素マッピング分析の結果、有色具合が濃く、Coが濃化している箇所、すなわち第3の相(Coリッチ相)が形成されているとする結果を得た。また、Cuは、Bの濃度が低い領域に多く分布していることがわかった。これらのCuは、熱伝導率の向上に寄与していると考えられる。また、W、Ti及びCoのいずれの分布とも重複しない箇所にCが分布している領域があったが、固溶していないC(フリーカーボンとも呼ぶ。)が存在すると考えられる。フリーカーボンについては、例えば、1250℃で5時間熱処理を行うことで、W、Ti又はCoにCを固溶させることができ、フリーカーボンを抑制することができる。これにより、部材の比強度の向上が期待できる。
【0141】
表3は、試験片No.1~3のそれぞれについて、第1の相の面積率の平均値を示したものである。
【0142】
本表に示すように、No.1よりもNo.2、No.2よりもNo.3の方が第1の相(W、Ti及びCを含む相)の面積率が多い。すなわち、Tiを多く含むほど、第1の相の面積率が増加することを確認した。面積率の平均値は、120μm×120μmの測定視野にて3回測定し、算出した。
【0143】
【表3】
【0144】
表4は、試験片No.1~3のそれぞれについて、ロックウェル硬さ試験機を用いて硬さを測定した結果を示したものである。
【0145】
本表に示すように、No.1よりもNo.2、No.2よりもNo.3の硬さが高くなっている。すなわち、Ti及びBを多く含むほど、硬度が高くなることがわかる。
【0146】
【表4】
【0147】
以下、熱伝導性の向上に寄与するCuについて、その濃度が変化することによって、本開示に係るWC系超硬合金のもう一つの効果である耐摩耗性がどの程度変わるかを説明する。
【0148】
これを示すために、非特許文献1に記載されている分子動力学シミュレーションを本開示に係るWC系超硬合金に適用して、非特許文献2の図2に示されているような応力-ひずみ曲線を作成した。そして、縦軸の応力が最大になるところまでの、グラフの曲線と横軸とグラフの最大値の点から横軸におろした直線で囲まれる面積によってせん断破壊エネルギーを算出した。
【0149】
図7は、上記の方法により算出したせん断破壊エネルギーとCuの濃度(質量基準)との関係を示すグラフである。図中、No.1を●印、No.2を■印、No.3を▲印で表している。
【0150】
また、Cuの濃度を変化させた場合に合金に含まれる他の元素の割合は、No.1~3のそれぞれの組成を元にして、Cuの濃度の変化分を比例配分により他の元素の濃度の変化分として設定している。また、No.1~3のそれぞれについて、Cuの濃度がゼロである場合にせん断破壊エネルギーが1であるとして規格化した。
【0151】
本図から、Cuの濃度が5%以上15%以下では、せん断破壊エネルギーが、Cuの濃度が5%未満の領域及び15%を超える領域よりも顕著に高く、この濃度範囲にあることが有効であることがわかる。Cuが5%未満の場合には、硬度は高いものの、せん断変形が進むと延びることができず、脆性的な破壊を示すためにせん断破壊エネルギーが低くなる。また、Cuが15%を超えると、低い応力で簡単に変形してしまうため、延びがあってもせん断破壊エネルギーが大きくならない。
【0152】
以上より、Cuの濃度は、5%以上15%以下であることが必要といえる。
【0153】
以上に説明したように、本開示によれば、高熱伝導性と高耐摩耗性に優れたWC系超硬合金部材を製造可能なWC系超硬合金粉末、WC系超硬合金部材及びWC系超硬合金部材の製造方法を提供できることが示された。
【0154】
なお、本開示は上述の実施例に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない限り、本開示の技術思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本開示の範囲内に含まれる。例えば、上述の実施例で例示した構成及び処理は、実装形態や処理効率に応じて適宜統合または分離してもよい。また、例えば、上述の実施例及び変形例は、矛盾しない範囲で、その一部または全部を組合わせてもよい。
【符号の説明】
【0155】
100:混合粉末製造装置、110:混合部、112:大径部、114:小径部、116:空間、120、230:配管、132、134:粉末、138:混合粉末、200:付加製造装置、210:粉末供給部、220:搬送ガス、240:ヘッド部、250:熱源ビーム、300:WC系超硬合金部材、310:超硬合金部、320:基材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7