(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】窒化ガリウム発光素子の製造方法、及び照明装置
(51)【国際特許分類】
H01L 33/20 20100101AFI20241001BHJP
H01L 33/32 20100101ALI20241001BHJP
H01L 33/46 20100101ALI20241001BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
H01L33/20
H01L33/32
H01L33/46
G03F7/20 501
G03F7/20 521
(21)【出願番号】P 2023090283
(22)【出願日】2023-05-31
【審査請求日】2024-05-28
(73)【特許権者】
【識別番号】500221563
【氏名又は名称】ナイトライド・セミコンダクター株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村本 宜彦
(72)【発明者】
【氏名】西根 達郎
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-075569(JP,A)
【文献】特開2014-086533(JP,A)
【文献】特開2008-016836(JP,A)
【文献】特開2013-162057(JP,A)
【文献】国際公開第2021/208824(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上のエピタキシャル構造を上下反転させ、前記エピタキシャル構造の基板をリフトオフすることで、支持基板上に順次、金属反射膜、p型窒化ガリウム層、多重量子井戸層、n型窒化ガリウム層を
形成するステップと、
前記金属反射膜の
上表面と前記n型窒化ガリウム層の
上表面との間で形成される共振器長を調整することで、射出される光の指向特性を調整するステップと、
を備える、窒化ガリウム発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記共振器長を調整するステップでは、
前記金属反射膜の
上表面と前記n型窒化ガリウム層の
上表面との間の
合計膜厚をd、
平均屈折率をn、射出される光の波長をλ、整数をmとすると、
d=m・λ/n
となるように
合計膜厚dを調整する、請求項1に記載の窒化ガリウム発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記mの値を小さく設定することで、射出される光の指向性を狭める、請求項2に記載の窒化ガリウム発光素子の製造方法。
【請求項4】
サファイア基板上に順次、n型窒化ガリウム層、多重量子井戸層、p型窒化ガリウム層をエピタキシャル成長させてエピタキシャル構造を形成するステップと、
前記p型窒化ガリウム層上にp型電極を形成するステップと、
前記p型電極上に金属反射膜、金属基板及び支持基板を形成するステップと、
前記支持基板が下に、前記サファイア基板が上になるように前記エピタキシャル構造の上下を反転させるステップと、
前記反転のステップにより最上部に位置する前記サファイア基板を剥離して前記n型窒化ガリウム層を表面に露出させるステップと、
前記n型窒化ガリウム層をエッチングして前記金属反射膜の
上表面と前記n型窒化ガリウム層の
上表面との間で形成される共振器長を調整するステップと、
前記n型窒化ガリウム層上にn型電極を形成するステップと、
前記支持基板を剥離するステップと、
を備える、窒化ガリウム発光素子の製造方法。
【請求項5】
前記n型窒化ガリウム層をエッチングするステップでは、
前記金属反射膜の
上表面と前記n型窒化ガリウム層の
上表面との間の
合計膜厚をd、
平均屈折率をn、射出される光の波長をλ、整数をmとすると、
d=m・λ/n
となるようにエッチングする、請求項4に記載の窒化ガリウム発光素子の製造方法。
【請求項6】
前記窒化ガリウム発光素子の発光波長は、380nm~390nmである、請求項1~5のいずれかに記載の窒化ガリウム発光素子の製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法で製造された窒化ガリウム発光素子と、
前記窒化ガリウム発光素子からの光を対象物に照射する照射光学系と、
を備える照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ガリウム発光素子の製造方法、及び照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)を用いた発光素子(LED)チップから出た光の指向角を狭める場合、LEDデバイスにレンズを搭載して集光し、指向角を絞ることが検討されている。
【0003】
しかし、レンズの場合、指向性を少しでも変更する場合には金型を変える必要があり、コストが増大してしまう。また紫外線や深紫外線の場合、レンズの吸収を考慮して石英レンズが用いられることから、レンズも高額となってしまう。
【0004】
そこで、LEDデバイスにレンズを搭載せずに集光して指向性を狭める方法として、LEDチップ表面へ数100nmオーダのホールを数100nmピッチでフォトニック結晶を形成することが検討されている。
【0005】
特許文献1には、窒化ガリウム系フォトニック結晶及びその製造方法に関する発明が記載されている。すなわち、エピタキシャル成長において広い領域で転位密度が低減され結晶性が良好な窒化物半導体を得て、高性能の窒化ガリウム系半導体素子、窒化ガリウム系半導体基板、窒化ガリウム系フォトニック結晶を高い歩留まりで提供することを課題として、基板上に窒化ガリウム系半導体層を形成する工程と、当該窒化ガリウム系半導体層に複数のトレンチを配列して形成する工程と、窒素を含む雰囲気中で熱処理を行い、前記複数のトレンチのうち少なくとも2つ以上の互いに隣接するトレンチを変形させ、変形させた当該トレンチの位置に対応して前記窒化ガリウム系半導体層の内部に連続した空洞を形成し、当該空洞を有する前記窒化ガリウム系半導体層の上に窒化ガリウム系半導体の素子を形成する工程を具備することが記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、長期に亘って劣化しにくく、エネルギー効率及び発光効率の高いフォトニック結晶発光ダイオードを提供することを課題として、第1半導体層、活性層、第2半導体層の3層がこの順に積層され、第1電極が第1半導体層に、第2電極が第2半導体層に、それぞれ電気的に接続された構造を有する発光ダイオードにおいて、3層のうち少なくとも第1半導体層と活性層を貫通する空孔が、フォトニック結晶構造を形成するように2次元周期的に配置されると共に、第1電極が、第1半導体層の、空孔と空孔を囲う第1非電流注入領域とを除いた領域を覆っているフォトニック結晶発光ダイオードが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-111766号公報
【文献】特開2011-54828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、LED等の発光素子を窒化ガリウム(GaN)で構成する場合において、その指向特性を調整する技術は未だ確立されていない。
【0009】
本発明の目的は、指向特性を調整し得るGaN発光素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、基板上のエピタキシャル構造を上下反転させ、前記エピタキシャル構造の基板をリフトオフすることで、支持基板上に順次、金属反射膜、p型窒化ガリウム層、多重量子井戸層、n型窒化ガリウム層を形成するステップと、前記金属反射膜の上表面と前記n型窒化ガリウム層の上表面との間で形成される共振器長を調整することで、射出される光の指向特性を調整するステップと、を備える、窒化ガリウム発光素子の製造方法である。
【0011】
本発明の1つの実施形態では、前記共振器長を調整するステップでは、前記金属反射膜の上表面と前記n型窒化ガリウム層の上表面との間の合計膜厚をd、平均屈折率をn、射出される光の波長をλ、整数をmとすると、
d=m・λ/n
となるように合計膜厚dを調整する。
【0012】
本発明の他の実施形態では、前記mの値を小さく設定することで、射出される光の指向性を狭める。
【0013】
また、本発明は、サファイア基板上に順次、n型窒化ガリウム層、多重量子井戸層、p型窒化ガリウム層をエピタキシャル成長させてエピタキシャル構造を形成するステップと、前記p型窒化ガリウム層上にp型電極を形成するステップと、前記p型電極上に金属反射膜、金属基板及び支持基板を形成するステップと、前記支持基板が下に、前記サファイア基板が上になるように前記エピタキシャル構造の上下を反転させるステップと、前記反転のステップにより最上部に位置する前記サファイア基板を剥離して前記n型窒化ガリウム層を表面に露出させるステップと、前記n型窒化ガリウム層をエッチングして前記金属反射膜の上表面と前記n型窒化ガリウム層の上表面との間で形成される共振器長を調整するステップと、前記n型窒化ガリウム層上にn型電極を形成するステップと、前記支持基板を剥離するステップと、を備える、窒化ガリウム発光素子の製造方法である。
【0014】
本発明の1つの実施形態では、前記n型窒化ガリウム層をエッチングするステップでは、
前記金属反射膜の上表面と前記n型窒化ガリウム層の上表面との間の合計膜厚をd、平均屈折率をn、射出される光の波長をλ、整数をmとすると、
d=m・λ/n
となるようにエッチングする。
【0015】
本発明の他の実施形態では、前記窒化ガリウム発光素子の発光波長は、380nm~390nmである。
【0016】
また、本発明は、上記の方法で製造された窒化ガリウム発光素子と、前記窒化ガリウム発光素子からの光を対象物に照射する照射光学系とを備える照明装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、GaN発光素子の指向特性を調整することができる。特に、GaN発光素子の製造過程において膜厚を調整することにより、射出される光の指向特性を調整し得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】実施形態の製造方法を示す模式的断面図(その1)である。
【
図1B】実施形態の製造方法を示す模式的断面図(その2)である。
【
図1C】実施形態の製造方法を示す模式的断面図(その3)である。
【
図1D】実施形態の製造方法を示す模式的断面図(その4)である。
【
図1E】実施形態の製造方法を示す模式的断面図(その5)である。
【
図1F】実施形態の製造方法を示す模式的断面図(その6)である。
【
図1G】実施形態の製造方法を示す模式的断面図(その7)である。
【
図1H】実施形態の製造方法を示す模式的断面図(その8)である。
【
図1I】実施形態の製造方法を示す模式的断面図(その9)である。
【
図2】実施形態のGaN発光素子の模式的断面図である。
【
図3】実施形態の照明装置及び露光装置の構成を示す図である。
【
図5】実施例のVチップサンプルの位置を示す平面図である。
【
図10】実施例におけるリファレンスの指向性特性測定結果を示す図である。
【
図11】実施例における膜厚調整されたGaN発光素子の指向性特性測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
【0020】
本実施形態の基本原理は、GaN発光素子を構成するGaN積層構造に含まれる共振器構造の共振器長を調整することで、GaN発光素子から射出される光の指向特性が変化し得ることを考慮し、当該共振器長を調整するようにGaN発光素子を製造してその指向性特性を所望の特性に制御するものである。
【0021】
本願発明者等は、基板上に順次成長させたGaN積層構造において、GaN層の表面とその下の金属反射膜の表面との間で形成される共振器長を調整する、具体的には当該共振器長を構成するn型GaN層やp型GaN層の膜厚を調整することで、GaN発光素子から射出される光の指向特性が変化し得ることを見出した。共振器長は、発光波長をλ、屈折率をn、mを整数(m=1,2,3,・・・)とすると、
共振器長=m・λ/n
で与えられるから、当該共振器長を調整することで指向性を制御し得ることを見出した。
【0022】
また、本願発明者等は、膜厚が薄い共振器長ほど、指向性が狭くなることも見出した。このことは、上記の式において、mを小さく設定するほど光の指向性を狭める効果が高いことを意味する。
【0023】
図1A~
図1Iは、本実施形態におけるGaN発光素子(LED)を製造する方法を模式的に示す断面図である。
【0024】
図1Aに示すように、有機金属気相成長(MOCVD)装置を用いてサファイア基板10上に低温バッファ層(不図示)及びアンドープGaN(u-GaN)層(不図示)を積層し、その上にn-GaN層(n型GaN層)12、多重量子井戸(MQW)層14、及びp-GaN層(P型GaN層)16を順次積層して、385nm(380~390nm)で発光するエピタキシャル構造を成長させる。
【0025】
ここで、n-GaN層12は、より詳細には、n-GaNコンタクト層、(AlInGaN)/(InGaN;Si)n―SLS(超格子構造)層、及び(AlGaN;Si)層から構成される。ここで、例えば(GaN;Si)は、SiがドープされたGaNであることを示す。
【0026】
また、多重量子井戸(MQW)層14は、(InGaN/AlGaN)の合計6層のMQW層から構成される。
【0027】
また、p-GaN層16は、より詳細にはp-GaN(GaN;Mg)コンタクト層及び(AlGaN;Mg/GaN;Mg)p-SLS(超格子構造)層から構成される。
【0028】
本実施形態における「GaN層」は、必ずしもGaNの組成の単層を意味するものではなく、GaNを含むAlInGaN、InGaN、AlGaN等の組成の単層あるいは複数層を意味するものである。要するに、GaNを主成分とする単層あるいは複数層を意味する。
【0029】
なお、本実施形態のエピタキシャル層の発光波長は385nmであるが、それより長い波長とする場合、基本的なエピタキシャル構造は同じであるが、バンドギャップエネルギの関係から385nmの方がそれより長い波長に比べて(InGaN/AlInGaN)MQW発光層14のAl含有量を多く、In含有量を少なくする。
【0030】
次に、
図1Bに示すように、385nmで発光するエピタキシャル構造層の上にp-電極(p型電極:ITO等)及び金属反射膜(Ag等)を蒸着する。
図1Bでは、p-電極と金属反射膜をまとめてp-電極及び反射膜18として示す。
【0031】
次に、
図1Cに示すように、p-電極及び金属反射膜18の上に金属基板(CuW、CuMo等)20をボンディングする。
【0032】
次に、
図1Dに示すように、金属基板20の上に支持基板(サファイア、Si基板等)22をボンディングする。
図1Dに示す積層構造は、下から順に、
サファイア基板10/n―GaN層12/MQW層14/p-GaN層16/p-電極及び反射膜18/金属基板20/支持基板22
である。
【0033】
次に、
図1Eに示すように、
図1Dのエピタキシャル構造を上下に180°反転させ、
サファイア基板10が最上部に位置するように配置して、サファイア基板10をレーザで剥がし(リフトオフ)、n-GaN層12を表面に露出させる。すなわち、
図1Dのエピタキシャル構造を上下に180°反転させた積層構造は、下から順に、
支持基板22/金属基板20/p-電極及び反射膜18/p-GaN層16/MQW層14/n-GaN層12/サファイア基板10
であり、このうち一番上のサファイア基板10(及びバッファ層)を剥がす(リフトオフ)ことでn-GaN層12を一番上の表面に露出させる。
【0034】
次に、
図1Fに示すように、表面のn-GaN層12のエッチングを行い膜厚を調整する。このn-GaN層12のエッチングにより、n-GaN層12~p-GaN層16までの合計膜厚が所定の膜厚となるように調整する。
【0035】
次に、
図1Gに示すように、n-GaN層12の表面から金属基板20に達するまでトレンチを形成してエピタキシャル構造を分離する。
【0036】
次に、
図1Hに示すように、分離したそれぞれの領域のn-GaN層12の上にn-電極(n型電極)24を形成する。
【0037】
最後に、
図1Iに示すように、支持基板22を剥がし、ダイシングしてLEDチップ(Vチップ構造LEDチップ:電極を垂直構造で配置した垂直型LEDチップ)が製造される。
【0038】
図2に、以上のようにして製造されるVチップ構造のGaN発光素子の模式的断面図とその膜厚の一例を示す。図において、
a:n-GaN層12の表面から、MQW層14を構成する量子井戸層及び量子バリア層のうち一番下に配置された量子井戸層14aの膜厚までを含む膜厚=1149.23nm
b:MQW層14を構成する量子井戸層及び量子バリア層のうち一番下に配置された量子バリア層の表面(量子バリア層と量子井戸層14aとの界面)から、p-GaN層16の膜厚までを含む膜厚=152.56nm
c:aとbの合計=1301.79nm
である。
【0039】
次に、
図3及び
図4を参照して、上記の実施形態に示した製造方法にて製造されたGaN発光素子を備える照明装置並びに照明装置を備えた露光装置について説明する。
【0040】
図3は、上述の実施形態にかかる製造方法で製造されたGaN発光素子を光源とした照明装置IUを備えた露光装置の構成を概略的に示す図である。
図4(A)は、照明装置IUに露光光を供給する光源ユニット120の構成を概略的に示す平面図であり、
図4(B)は光源ユニット120及び出力光学系130の内部構成を概略的に示す図である。
【0041】
図3において、照明装置IUは、出力光学系130を介した光源ユニット120からの露光光を集光する第1集光光学系140と、第1集光光学系140からの露光光が入射するフライアイレンズFELと、フライアイレンズFELからの露光光を集光して被照射面としてのレチクルREIを照明する第2集光光学系160とを備える。
【0042】
また、露光装置は、照明装置IUと、照明装置IUによって照明されたレチクル上パターン像を被露光基板としてのウェハに形成する投影光学系POとを備えている。
【0043】
次に、
図4を参照して、光源ユニット120及び出力光学系130について説明する。
【0044】
図4(A)において、光源ユニット120は、例えば基板121上に配列された複数(図
4(A)では、5×5)のLED(Light Emitting Diode)チップ123を備える。これらのLEDチップは、上述した実施形態の製造方法で製造されたGaN発光素子である。なお、LEDチップ123の個数は必要に応じて適宜変更してもよい。複数のLEDチップ123のそれぞれは、発光部231を有し、この発光部231から射出される光のピーク波長は380~390nmの範囲内にある。すなわち、発光部231は、紫外線LED(UVLED)である。発光部231から射出され光のピーク波長は385nmであることがより好ましい。発光部231の発光面は正方形であってもよく、長方形や六角形等の多角形であってもよい。なお、LEDチップ123は、基板上ではなく、例えばヒートシンク上に配列されていてもよい。
【0045】
図4(B)を参照して、光源ユニット120及び出力光学系130の構成について説明する。図
4(B)において、LEDチップ123が配列された2方向を、X方向及びY方向とする。X方向とY方向とは直交している。また、X方向及びY方向に直交する方向をZ方向とする。Z方向は、発光部231から射出される光の進行方向とほぼ一致している。なお、
図4(B)では、図面の明瞭化のために、Y方向に沿って一列に並んだ4つのLEDチップ123だけを示している。
【0046】
図4(B)に示すように、出力光学系130は、各LEDチップ123の発光部231の拡大像をそれぞれ形成するための複数の拡大光学系を備えている。それぞれの拡大光学系は、LEDチップ123の配列と対応するように配列されており、発光部231を、拡大倍率のもとで拡大投影する両側テレセントリックな光学系である。なお、
図4(B)では、出力光学系130の各拡大光学系を2枚の正レンズで図示しているが、拡大光学系を構成するレンズ枚数は2枚に限定されない。また、拡大光学系を反射系又は反射屈折系で構成してもよい。そして、出力光学系130は、拡大光学系に代えて、或いは加えて、等倍光学系、縮小光学系を備えていてもよい。
【0047】
図3及び
図4に示す実施形態では、出力光学系130の各拡大光学系は、出力光学系130の最終光学部材の近傍に、発光部231の拡大像を形成する。これにより、出力光学系130の最終光学部材の近傍には、密に配列された複数の光源像が位置する。
【0048】
図3に戻って、照明装置IUの各構成要件について説明する。
【0049】
第1集光光学系140は、光源ユニット120及び出力光学系130によって形成される光源像の位置またはその近傍に前側焦点が位置するように配置され、フライアイレンズFELの入射面をケーラー照明する。
【0050】
フライアイレンズFELは、たとえば正の屈折力を有する複数のレンズエレメントをその光軸が基準光軸AXと平行になるように縦横に且つ稠密に配列することによって構成されている。フライアイレンズFELを構成する各レンズエレメントは、レチクルREI上において形成すべき照野の形状(ひいてはウェハW上において形成すべき露光領域の形状)と相似な矩形状の断面を有する。
【0051】
したがって、フライアイレンズFELに入射した光束は複数のレンズエレメントにより波面分割され、各レンズエレメントの後側焦点面(射出面)またはその近傍には1つの光源像がそれぞれ形成される。すなわち、フライアイレンズFELの後側焦点面(射出面)またはその近傍には、複数の光源像からなる実質的な面光源すなわち二次光源が形成される。
【0052】
ここで、フライアイレンズFELの1つのレンズエレメントに着目すると、この1つのレンズエレメントの後側焦点面(射出面)またはその近傍には、光源ユニット120及び出力光学系130によって形成された複数の光源像の像が形成され、これら複数の光源像の像は、複数のLEDチップ123が配列されている領域と相似形状の領域に分布する。このため、複数のLEDチップ123が配列されている領域とフライアイレンズFELの各レンズエレメントの断面とは互いに相似形状であってもよい。
【0053】
さて、フライアイレンズFELの後側焦点面(射出面)またはその近傍に形成された二次光源からの光束は、その近傍に配置された開口絞り150に入射する。なお、本実施形態においてフライアイレンズFELの後側焦点面(射出面)と、光源ユニット120のLEDチップ配列面とは、光学的に共役である。
【0054】
開口絞り150は、投影光学系POの入射瞳面と光学的にほぼ共役な位置に配置され、二次光源の照明に寄与する範囲を規定するための可変開口部を有する。開口絞り150を介した二次光源からの露光光は、第2集光光学系160の集光作用を受けた後、所定のパターンが形成されたレチクルREIを重畳的に照明する。
【0055】
そして、照明装置IUによって照明されたレチクルREIからの露光光(レチクルREI上の照野内に位置するパターンを介した露光光)は、投影光学系POに入射し、被露光基板としてウェハW上にレチクルREIのパターン像を形成する。これにより、ウェハWの露光領域にはレチクルREIのパターンが露光される。なお、投影光学系POの投影倍率は、縮小倍率であっても拡大倍率であっても等倍であってもよい。また、投影光学系POは、屈折光学系であっても反射光学系であっても反射屈折光学系であってもよい。
【実施例】
【0056】
上記の製造方法に従って、GaN発光素子をウェハ上に製造した。
【0057】
なお、エピタキシャル構造を成長させた後、断面TEM観察にて、p-GaN層16及びMQW層14のうちの最後の量子バリア層の膜厚を計測し、膜厚の計測結果から成長速度を算出した。
【0058】
その後、算出した成長速度に基づいてp-GaN層16の成長時間を調整することで、MQW層14のうちの最後のバリア層からP-GaN層12までの膜厚を所定の膜厚に調整した。
【0059】
各層の膜厚は、以下の通りであった。
n―GaN層12:1098.77nm
MQW層14(量子井戸層と量子バリア層の6ペア):50.46nm
最後の量子バリア層:30.21nm
p-GaN層14:122.35nm
【0060】
また、比較例(リファレンス)として膜厚調整していないGaN発光素子をウェハ上に製造した。リファレンスは、実施例のGaN発光素子と比べて、n―GaN層12及びp-GaN層14のいずれも、より厚い膜厚に設定されている。
【0061】
図5は、実施例のGaNウェハの平面図を示す。
図5において、丸数字の1~5の合計5つの位置でリファレンス(膜厚調整なし)及び膜厚調整済のVチップを抜き取ってAl基板に実装し、電気特性、光出力及び波長を積分球にて測定した。
【0062】
なお、リファレンス(膜厚調整なし)及び膜厚調整済のVチップの外観を観察した結果、その表面状態に違いは見られなかった。
【0063】
図6は、リファレンス(膜厚調整なし)及び膜厚調整済のVチップの電気特性を積分球にて測定した結果を示す。
図6(a)は、IF(順方向電流)=350mAでのリファレンス(膜厚調整なし)及び膜厚調整済のVチップの電気特性として電流、電圧、全放射束、ピーク波長、及びFWHM(半値全幅)を示す。また、
図6(b)は、IF(順方向電流)=500mAでのリファレンス(膜厚調整なし)及び膜厚調整済のVチップの電気特性として電流、電圧、全放射束、ピーク波長、及びFWHMを示す。両者において、電気特性に大きな相違は見られなかった。
【0064】
図7は、リファレンス(膜厚調整なし)及び膜厚調整済のVチップの発光スペクトルを示す。横軸は波長、縦軸は相対出力パワーを示す。
図7(a)は、リファレンス(膜厚調整なし)のVチップの発光スペクトルであり、
図7(b)は、膜厚調整済のVチップの発光スペクトルを示す。両者において、発光スペクトルに大きな相違は見られなかった。
【0065】
図8は、リファレンス(膜厚調整なし)及び膜厚調整済のVチップのI-L特性を示す。横軸はIF(順方向電流)、縦軸は相対光度を示す。
図8(a)は、リファレンス(膜厚調整なし)のVチップのI-L特性であり、
図8(b)は、膜厚調整済のVチップのI-L特性である。両者において、I-L特性に大きな相違は見られなかった。
【0066】
図9は、リファレンス(膜厚調整なし)及び膜厚調整済のVチップのI-V特性を示す。横軸はVF(順方向電圧)、縦軸はIF(順方向電流)を示す。
図9(a)は、リファレンス(膜厚調整なし)のVチップのI-V特性であり、
図9(b)は、膜厚調整済のVチップのI-V特性である。両者において、I-V特性に大きな相違は見られなかった。
【0067】
図10及び
図11は、リファレンス(膜厚調整なし)及び膜厚調整済のVチップの指向特性の測定結果を示す。両図において横軸は相対放射強度、縦軸は相対角度を示す。
図10は、リファレンスのVチップの指向特性であり、丸数字の1~5の合計5つの位置において全て同様の指向特性を示している。
【0068】
他方で、
図11は、膜厚調整済のVチップの指向特性であり、丸数字の1~5の合計5つの位置において指向特性が変化しており、リファレンスと膜厚調整済とでウェハ上の同一位置で比較すると、膜厚調整済の方が指向性においてより狭くなっていることが確認された。
【0069】
なお、膜厚調整済のVチップにおいてウェハ上の位置に応じて指向特性が変化するのは、ウェハ上の位置に応じて膜厚、すなわち共振器長にバラツキが生じ、このバラツキに起因して指向特性が変化したものと考えられる。このことは、膜厚のバラツキを抑制するとともに、共振器長を高精度に制御することで、Vチップの指向特性を高精度に制御し得ることを意味する。
【0070】
さらに、膜厚調整済のVチップでは、全体の出力に対する直上±30度の範囲の出力が、丸数字5の位置においてリファレンスに比べて約7%向上していることが確認された。
【0071】
以上説明したように、本実施形態によれば、GaN発光素子を構成するGaN積層構造に含まれる共振器構造、具体的にはGaN層の表面とその下の金属反射膜の表面との間で形成される共振器長を調整することで、GaN発光素子から射出される光の指向特性を所望の特性に制御することができる。これにより、GaN発光素子から射出される光の指向性を狭め、全体の出力に対する真上の一定角度範囲における出力を向上させることができる。
【符号の説明】
【0072】
10 サファイア基板、12 n-GaN層、14 MQW層、16 p-GaN層、
18 p-電極及び金属反射膜、20 金属基板、22 支持基板、24 n-電極。
【要約】
【課題】指向特性を調整し得るGaN発光素子の製造方法を提供する。
【解決手段】本方法は、サファイア基板10上に順次、n型GaN層12、MQW層14、p型GaN層16をエピタキシャル成長させてエピタキシャル構造を形成するステップと、p型GaN層16上にp型電極、金属反射膜、金属基板及び支持基板を形成するステップと、エピタキシャル構造の上下を反転させるステップと、サファイア基板10を剥離してn型GaN層12を表面に露出させるステップと、表面に露出したn型GaN層12をエッチングして、金属反射膜の表面とn型GaN層12の表面との間で構成される共振器長を調整するステップと、n電極24を形成するステップを備える。
【選択図】
図2