(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】リグニンスルホン酸、カチオン性高分子およびアルデヒド基を有する化合物を成分とするイオン複合材料
(51)【国際特許分類】
C08L 97/00 20060101AFI20241001BHJP
C08H 7/00 20110101ALI20241001BHJP
C08K 5/07 20060101ALI20241001BHJP
C08L 101/02 20060101ALI20241001BHJP
C08L 79/02 20060101ALI20241001BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20241001BHJP
C09J 197/00 20060101ALI20241001BHJP
C09J 201/02 20060101ALI20241001BHJP
C09J 179/02 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
C08L97/00
C08H7/00
C08K5/07
C08L101/02
C08L79/02
C09J11/06
C09J197/00
C09J201/02
C09J179/02
(21)【出願番号】P 2020081024
(22)【出願日】2020-05-01
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2019104494
(32)【優先日】2019-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牛丸 和乗
(72)【発明者】
【氏名】福岡 徳馬
(72)【発明者】
【氏名】森田 友岳
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-232191(JP,A)
【文献】特表2009-540033(JP,A)
【文献】特開平02-251696(JP,A)
【文献】特表2009-530504(JP,A)
【文献】特開2020-122063(JP,A)
【文献】特開2011-240223(JP,A)
【文献】特開平10-265508(JP,A)
【文献】Guro E. Fredheim et al.,Polyelectrolyte Complex: Interactions between Lignosulfonate and Chitosan,Biomacromolecules,4,2003年,232-239
【文献】リグニンスルホン酸塩の利用,日本製紙グループ 基盤技術研究所,インターネット:<URL:https://www.nipponpapergroup.com/research/organize/lignin/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08H 7/00
C08L 1/00-101/14
C08K 5/00-5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、
(2)カチオン性高分子(ただし、ε-ポリリジンは除く)、その誘導体、またはそれらの塩と、
(3)還元性を
示す糖類またはアルデヒドを含む
、弾性を有するイオン複合材料であって、
前記カチオン性高分子が、ポリ(エチレンイミン)又はポリ(アリルアミン)を含み
、
前記還元性を示す糖類がフルクトース、アラビノース、グルコース、またはラクトースである、イオン複合材料。
【請求項2】
リグニンスルホン酸またはその誘導体の塩が、金属塩である、請求項
1に記載のイオン複
合材料。
【請求項3】
前記金属塩が、ナトリウム塩、カルシウム塩、およびマグネシウム塩からなる群から選択される、請求項
2に記載のイオン複合材料。
【請求項4】
前記カチオン性高分子が、さらに、1級、2級または3級アミノ基、4級アンモニウム基およびイミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を、その分子中に1つ以上
含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載のイオン複合材料。
【請求項5】
前記カチオン性高分子が、ポリ(エチレンイミン)又はポリ(アリルアミン)である、請求項1~
3のいずれか一項に記載のイオン複合材料。
【請求項6】
前記アルデヒドが、脂肪族ジアルデヒドまたは脂肪族アルデヒドである、請求項1~
5のいずれか一項に記載のイオン複合材料。
【請求項7】
前記脂肪族ジアルデヒドが、グルタルアルデヒドである、請求項
6に記載のイオン複合材
料。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか一項に記載のイオン複合材料の製造方法であって、
(1)リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、
(2)カチオン性高分子、その誘導体、またはそれらの塩と、
(3)還元性を示す糖類またはアルデヒドを溶媒中で混合することにより溶媒中でイオン複合材料を形成させる工程と、前記イオン複合材料を含有する溶媒
または懸濁液から溶媒を除去する工程、を含む方法。
【請求項9】
(1)リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、
(2)カチオン性高分子(ただし、ε-ポリリジンは除く)、その誘導体、またはそれらの塩と、
(3)還元性を
示す糖類またはアルデヒドと、(4)有機溶媒により形成される
、弾性を有するイオン複合材料であって
、
前記カチオン性高分子が、ポリ(エチレンイミン)又はポリ(アリルアミン)を含み
、
前記還元性を示す糖類がフルクトース、アラビノース、グルコース、またはラクトースである、材料。
【請求項10】
請求項1~
7のいずれか一項に記載のイオン複合材料または請求項
9に記載の材料から成る
接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質由来のアニオン性高分子であるリグニンスルホン酸、カチオン性高分子およびアルデヒド基を有する化合物を組み合わせてなるイオン複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、植物系バイオマスの有効活用を目的として、植物体を構成する主要な成分の一つであるリグニンもしくはその誘導体を、成形可能な材料として利用する試みが広く行われている。例えば特許文献1ではリグニンとポリスチレン系樹脂との複合化が記載され、特許文献2には、カチオン交換型(すなわちアニオン性)高分子であるリグニンスルホン酸とアニオン交換型(すなわちカチオン性)粘土鉱物から成る成形可能なイオン複合型粘土組成物が記載されている。
本発明者らは、亜硫酸法によるパルプの生産時や、リグニンの硫酸処理などで得ることができるリグニン由来化合物であるリグニンスルホン酸と、カチオン性高分子を水溶媒中で混合することにより形成させた水溶性または水懸濁性のイオン複合体から、多様な形状に成形でき、弾性に富み、かつ、優れた自己修復能を有するイオン複合材料が得られることを見出した(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-152410号公報
【文献】特開2006-133299号公報
【文献】特開2019-112526号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Green Chemistry;2016;18(20);5607-5620
【文献】Progress in Polymer Science;2014;39(7);1266-1290
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、特許文献3に記載された、リグニンスルホン酸とカチオン性高分子を成分として、多様な形状に成形が可能であり、かつ、柔軟性や弾性を有する新たなイオン複合材料に関して、その強度やヤング率、耐水性を劇的に向上させることを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特許文献3に関する研究を進める中で、リグニンスルホン酸とカチオン性高分子にアルデヒド基を有する化合物を組み合わせることによって、特許文献3の実施例に記載された組み合わせのイオン複合材料に比べ、優れた強度やヤング率、耐水性を示すことを見出した。
本発明は、本発明者らによるこれらの知見に基づいてなされたものである。
【0007】
すなわち、この出願は、以下の発明を提供するものである。
[1]リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、カチオン性高分子(ただし、ε-ポリリジンは除く)、その誘導体、またはそれらの塩と、アルデヒド基を有する化合物を含むイオン複合材料。
[2]弾性を有することを特徴とする、[1]に記載のイオン複合材料。
[3]リグニンスルホン酸またはその誘導体の塩が、金属塩である、[1]または[2]に記載のイオン複合材料。
[4]前記金属塩が、ナトリウム塩、カルシウム塩、およびマグネシウム塩からなる群から選択される、[3]に記載のイオン複合材料。
[5]前記カチオン性高分子が、1級、2級または3級アミノ基、4級アンモニウム基およびイミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を、その分子中に1つ以上有する高分子である、[1]~[4]のいずれかに記載のイオン複合材料。
[6]前記カチオン性高分子が、1級、2級または3級アミノ基、4級アンモニウム基およびイミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する単一のモノマーから成る高分子である、[1]~[5]のいずれかに記載のイオン複合材料。
[7]前記アルデヒド基を有する化合物が、還元性を示す糖類、またはアルデヒドである、[1]~[6]のいずれかに記載のイオン複合材料。
[8]前記還元性を示す糖類が、フルクトース、アラビノース、グルコース、ラクトース、マルトース、リボース、キシロース、マンノースまたはガラクトースである、[7]に記載のイオン複合材料。
[9]前記アルデヒドが、脂肪族ジアルデヒドまたは脂肪族アルデヒドである、[7]に記載のイオン複合材料。
[10]前記脂肪族ジアルデヒドが、グルタルアルデヒドである、[9]に記載のイオン複合材料。
[11][1]~[10]のいずれかに記載のイオン複合材料の製造方法であって、リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、カチオン性高分子(ただし、ε-ポリリジンは除く)、その誘導体、またはそれらの塩と、アルデヒド基を有する化合物を溶媒中で混合することにより溶媒中でイオン複合材料を形成させる工程と、前記イオン複合材料を含有する溶媒または懸濁液から溶媒を除去する工程、を含む方法。
[12]リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、カチオン性高分子、その誘導体、またはそれらの塩と、アルデヒド基を有する化合物と溶媒により形成されるイオン複合材料を含有する、溶液または懸濁液。
[13]溶媒が水である、[12]に記載の溶液または懸濁液。
[14]リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、カチオン性高分子、その誘導体、またはそれらの塩と、アルデヒド基を有する化合物により形成されるイオン複合材料であって、さらに有機溶媒を含む材料。
[15][1]~[10]のいずれかに記載のイオン複合材料または[14]に記載の材料から成る接着剤。
【発明の効果】
【0008】
具体的には、リグニンスルホン酸、カチオン性高分子およびアルデヒド基を有する化合物を組み合わせることによって、優れた強度やヤング率、耐水性を示すことを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】リグニンスルホン酸ナトリウム塩、ポリ(エチレンイミン)およびラクトースから成る複合体から得られたダンベル型試験片(8号、JIS K 6251) の形状に打ち抜いた試験片の写真図を示す。
【
図2】リグニンスルホン酸ナトリウム、ポリ(エチレンイミン)および還元糖から成る複合体の耐水性試験の結果の写真図を示す。
【
図3】リグニンスルホン酸ナトリウム塩、ポリ(アリルアミン)およびフルクトースから成る複合体から得られたダンベル型試験片 (8号、JIS K 6251) の形状に打ち抜いた試験片の写真図を示す。
【
図4】リグニンスルホン酸ナトリウム、ポリ(アリルアミン)および還元糖から成る複合体の耐水性試験の結果の写真図を示す。
【
図5】リグニンスルホン酸ナトリウム塩、ポリ(エチレンイミン)およびフルクトースから成る複合体の弾性評価の結果の写真図を示す。
【
図6】リグニンスルホン酸ナトリウム塩、ポリ(アリルアミン)およびフルクトースから成る複合体の弾性評価の結果の写真図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
リグニンスルホン酸は、セルロースなどの多糖類と並んで植物体を構成する主要な成分の一つであるリグニンに由来し、例えば亜硫酸法により植物体からパルプを製造する際に、副産物として、リグニンがスルホン化されることにより生じる。本発明において、リグニンスルホン酸とは、特に限定されることはないが、このようにして副生したリグニンスルホン酸自体でよく、または、これを変性し、あるいは部分脱スルホン化した、変性リグニンスルホン酸や部分脱スルホンリグニンスルホン酸でもよい。
変性リグニンスルホン酸とは、例えばリグニンスルホン酸を酸やアルカリを用いて処理することで、官能基の含有量を変化させたリグニンスルホン酸などが挙げられる。
部分脱スルホンリグニンスルホン酸とは、リグニンスルホン酸の有するスルホ基(-SO3Hまたは-SO3
-)の一部が脱スルホン化しているリグニンスルホン酸のことである。イオン複合材料全体におけるリグニンスルホン酸の脱スルホン化が、部分脱スルホン化がなされていないと仮定した場合のイオン複合材料中の全スルホ基のうちの1%以上の個数のスルホ基の脱スルホン化であることが好ましい。
【0011】
本発明において、リグニンスルホン酸の誘導体とは、例えば、非特許文献1に記されているリグニンのヒドロキシル基をポリエチレングリコールで修飾する手法を適用したリグニンスルホン酸誘導体や、非特許文献2に記されているリグニンのカルボキシル基をエポキシ基含有化合物で修飾する手法を適用したリグニンスルホン酸誘導体、または、非特許文献2に記されているリグニンのフェノール性水酸基を脂肪酸や芳香族カルボン酸で修飾する手法を適用したリグニンスルホン酸誘導体などが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0012】
本発明において、リグニンスルホン酸またはその誘導体の塩は、金属塩であることが好ましく、さらに水溶性の観点から、この金属塩はナトリウム塩、カルシウム塩、およびマグネシウム塩からなる群から選択されることが好ましい。
【0013】
本発明に用いられるカチオン性高分子としては、ε-ポリリジンを含まないこと以外に特に限定されることはないが、例えば、1級、2級または3級アミノ基、4級アンモニウム基およびイミノ基から選択される少なくとも1種の官能基を、その分子中に1つ以上有する高分子を挙げることができる。1級、2級または3級アミノ基、4級アンモニウム基およびイミノ基のうち少なくとも1種以上の官能基を有する単一のモノマーから成る高分子が好ましい。
具体的なこのようなカチオン性高分子としては、例えば、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(アリルアミン)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)キトサン、カチオン化セルロース、カチオン化カルボキシメチルセルロース、カチオン化デンプン、カチオン化ヒアルロン酸、カチオン化グアーガム、α-ポリリジン、α-ポリオルニチン、δ-ポリオルニチン、リジン含有タンパク質、ポリ(ビニルN-メチルピリジン)、ポリ{[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]トリメチルアンモニウム}、ポリ[(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウム]、ポリ{[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム}、ポリ{[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム}またはこれらのカチオン性高分子の1級、2級または3級アミノ基を4級アンモニウム化したものを挙げることができ、さらに、ポリアルギニン、ポリ(ヘキサメチレンビグアニド)、ポリヘキサメチレングアニジン、シアノフィシン、アルギニン含有タンパク質などのイミノ基を有するカチオン性高分子を挙げることができる。カチオン性高分子の重量平均分子量は30
0~10,000,000であることが好ましい。
また、カチオン性高分子の誘導体とは、例えば、カチオン性高分子同士を架橋や縮合することによって高分子量化したカチオン性高分子が挙げられる。
また、本発明に用いられるカチオン性高分子は、水溶性の観点から、上述のカチオン性高分子の、塩酸塩などの無機酸塩、もしくは、酢酸塩などの有機酸塩でもよい。
【0014】
本発明に用いられるアルデヒド基を有する化合物としては、化合物中にアルデヒド基を有する限り特に限定されることはないが、例えば還元性を示す糖類やアルデヒドが挙げられる。
【0015】
還元性を示す糖類としては、例えば、フルクトース、アラビノース、グルコース、ラクトース、マルトース、リボース、キシロース、マンノース、ガラクトース、ジヒドロキシアセトン、リブロース、プシコース、エリトロースや、これらの糖を含むオリゴ糖や多糖類が挙げられる。好ましくは、フルクトース、アラビノース、グルコース、ラクトース、マルトース、リボース、キシロース、マンノースまたはガラクトースであり、より好ましくはフルクトース、アラビノース、グルコースまたはラクトースであり、特に好ましくはフルクトースまたはアラビノースである。
本発明において、オリゴ糖とは、少糖類のことであり、限定されることはないが、2~10個の単糖がグリコシド結合によって結合したものであり、多糖類とは少なくとも2個の単糖がグリコシド結合によって結合したものである。オリゴ糖は多糖類に含まれる。
【0016】
アルデヒドとしては、例えば、脂肪族ジアルデヒド、脂肪族アルデヒド又は芳香族アルデヒドが挙げられる。
脂肪族ジアルデヒドとしては、例えば、グルタルアルデヒドが挙げられる。
脂肪族アルデヒドとしては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、ウンデカナール、ドデカナール、グリセルアルデヒド、イソ吉草酸アルデヒドまたはクロトンアルデヒドが挙げられる。
芳香族アルデヒドとしては、例えば、サリチルアルデヒド、シンナムアルデヒド、フルフラール、メチルフルフラール、ナフトアルデヒド、フェニルベンズアルデヒド、アセトキシベンズアルデヒド、メトキシベンズアルデヒド、トルアルデヒドまたはシリンガアルデヒドが挙げられる。
アルデヒドは、好ましくは、グルタルアルデヒドまたはブチルアルデヒドである。
【0017】
「リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、カチオン性高分子、その誘導体、またはそれらの塩と、アルデヒド基を有する化合物を含む」とは、「リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、カチオン性高分子、その誘導体、またはそれらの塩と、アルデヒド基を有する化合物」以外のいかなる他の構成要素をもさらに包含することが可能である。また、「リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、カチオン性高分子、その誘導体、またはそれらの塩と、アルデヒド基を有する化合物」のみからなることも可能である。
【0018】
イオン複合材料中における、リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、カチオン性高分子、その誘導体、またはそれらの塩との組成割合は、特に限定されることはないが、リグニンスルホン酸の重量またはリグニンスルホン酸の誘導体、リグニンスルホン酸の塩もしくはリグニンスルホン酸の誘導体の塩のリグニンスルホン酸換算値の重量と、カチオン性高分子の重量またはカチオン性高分子の誘導体、カチオン性高分子の塩もしくはカチオン性高分子の誘導体の塩のカチオン性高分子換算値の重量の重量比が好ましくは1:10~10:1、さらに好ましくは1:4~4:1である。
また、イオン複合材料中におけるアルデヒド基を有する化合物の重量は、リグニンスルホ
ン酸の重量またはリグニンスルホン酸の誘導体、リグニンスルホン酸の塩もしくはリグニンスルホン酸の誘導体の塩のリグニンスルホン酸換算値の重量と、カチオン性高分子の重量またはカチオン性高分子の誘導体、カチオン性高分子の塩もしくはカチオン性高分子の誘導体の塩のカチオン性高分子換算値の重量を合計した重量に対して、1/100~1/2の重量であることが好ましく、さらに好ましくは、1/100~1/10の重量である。
【0019】
イオン複合材料中の水分含量は、イオン複合材料全体の3~95重量%、好ましくは5~40重量%、さらに好ましくは10~30重量%である。この水分含量であることによって、イオン複合材料は弾性を有することができる。
水分含量の調整は、リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、カチオン性高分子、その誘導体、またはそれらの塩と、アルデヒド基を有する化合物により形成されるイオン複合体を含有する、溶液または懸濁液を、大気中もしくは制御された湿度条件にて保持することで行われる。この際、恒温槽やホットプレートなどを用いて加熱することで水分の気化を促進してもよい。また、このイオン複合体を含有する溶液または懸濁液を、有機溶媒に滴下することで複合体の沈殿を得た後、得られた複合体を必要に応じて、大気中もしくは制御された湿度条件にて保持することで水分含量を調節してもよい。
【0020】
本発明において、「弾性を有する」とは、材料からダンベル型試験片 (8号、JIS K 6251)を切り出し、その試験片に張力を加え、そのダンベル型試験片が破断しない程度の変形を生じさせたのちまたはそのダンベル型試験片が破断するまで変形を生じさせたのち、その張力を完全に除去して所定時間静置した際に、静置後の変形量が張力印加時の最大変形量の50%以下となる性質のことを言う。静置後の変形量が張力印加時の最大変形量の30%以下の変形量となることが好ましい。張力を完全に除去してから試験片の変形量を測定するまでの所定の静置時間は特に限定されないが、弾性を有することを適切に評価するためには少なくとも1時間程度は静置することが好ましい。具体的には、1時間であってもよく、72時間であってもよく、それら以上の時間であってもよい。
【0021】
本発明のイオン複合材料は、例えばシート状に加工可能である。そのシートの厚さは、特に限定されることはないが、1~10mmであることが好ましい。
【0022】
本発明の他の態様は、イオン複合材料の製造方法である。具体的には、リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、カチオン性高分子、その誘導体、またはそれらの塩と、アルデヒド基を有する化合物を溶媒中で混合することにより溶媒中でイオン複合体を形成させる工程と、前記イオン複合体を含有する溶液または懸濁液から溶媒を除去する工程、を含む方法である。
イオン複合体を形成させる工程とは、特に限定されることはないが、例えば、リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、カチオン性高分子、その誘導体、またはそれらの塩と、アルデヒド基を有する化合物を溶媒中で混合することによりイオン複合体を形成させる工程、またはリグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩を含む溶液と、カチオン性高分子、その誘導体、またはそれらの塩を含む溶液と、アルデヒド基を有する化合物を含む溶液を混合することによりイオン複合体を形成させる工程である。
イオン複合体を形成させる工程において、著しく不均一な組成物を形成しない範囲であれば、各組成物を混合する順番や、温度、湿度または時間といった組成物の混合条件については特に限定されない。
また、溶媒を除去する工程とは、例えば、当該イオン複合体を含む溶液または懸濁液から溶媒を揮発させることにより除去する工程、または、当該溶媒が水である場合は、当該水溶液または水懸濁液を有機溶媒中に投入することにより、イオン複合体を有機溶媒中で沈殿させ、溶媒を除去する工程である。
【0023】
本発明に用いられる溶媒としては、水、または、メタノール、エタノール、イソプロピル
アルコール、エチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジオキサンなどの水と混和する有機溶媒が好ましく、特に水が好ましい。
【0024】
本発明の他の態様は、リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、カチオン性高分子、その誘導体、またはそれらの塩と、アルデヒド基を有する化合物を、溶媒中で混合することにより溶媒中で形成されたイオン複合体を含有する溶液または懸濁液である。
上記イオン複合体を含む溶液または懸濁液は、例えば、リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、カチオン性高分子、その誘導体、またはそれらの塩と、アルデヒド基を有する化合物の水溶液を混合し、あるいは、リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩の粉末をカチオン性高分子、その誘導体、またはそれらの塩およびアルデヒド基を有する化合物の水溶液に混合することで調製することができる。
このようにして調製したイオン複合体を含む溶液または懸濁液を、例えばシャーレなどの平板上に置いたのち、溶媒を揮発させることにより、シート状のイオン複合体を得ることができる。
【0025】
また、溶媒が水である場合、このようにして調製したイオン複合体を含む水溶液または水懸濁液を有機溶媒に加えることで、イオン複合体を沈殿として回収することができる。
【0026】
得られたイオン複合体に対して引張試験を行うことで、最大応力および破断伸びを測定することができる。また、引張試験の結果に基づき、応力-ひずみ曲線の面積として表される靱性(タフネス)を求めることができる。
【0027】
得られたイオン複合体に対して耐水性試験を行うことで、イオン複合体の耐水性のレベルを判断することが出来る。つまり、イオン複合体から任意の質量の試験片を切り出し、この試験片を純水に浸漬し、任意の時間振盪させ、任意時間経過後の上清の着色が少ない程、イオン複合体中のリグニンスルホン酸ナトリウムの溶出量が少ないことを表し、すなわちイオン複合体の耐水性が高いことがわかる。
【0028】
本発明の他の態様は、リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、カチオン性高分子、その誘導体、またはそれらの塩と、アルデヒド基を有する化合物を含むイオン複合材料を含む、接着剤である。
【0029】
接着剤中の水分含量は、特に限定されることはないが、通常、0.1~95重量%、好ましくは2~30重量%である。
【0030】
本発明の接着剤は、一液型接着剤または単一の剤から成る接着剤とすることも可能である。一液型接着剤または単一の剤から成る接着剤とすることで、二液型の接着剤と比較して、接着時の塗りムラが少なく、より安定した強固な接着を行うことができる。
【0031】
本発明のリグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、カチオン性高分子、その誘導体、またはそれらの塩と、アルデヒド基を有する化合物を含む接着剤は、これらを適宜の方法で混合することにより調製することができる。著しく不均一な組成物を形成しない範囲であれば、各組成物を混合する順番や、温度、湿度または時間といった組成物の混合条件については特に限定されない。
【0032】
接着剤の使用方法は、例えば上記方法で調製したイオン複合体を、接着対象となる基材上に静置、もしくは塗布し、基材同士でイオン複合体を挟み込むことで接着を行うことがで
きる。ここで、基材は特に限定されることはないが、例えばステンレス板、アルミニウム板、ポリプロピレン板、木板等を用いることができる。
好ましくは、さらにホットプレスなどの装置で加熱を行いながら圧力を加えることによって接着を行うことができ、これにより強固な接着をより早期に行うことができる。ホットプレス装置において、加熱温度は、特に限定されることはないが、例えば、50~110℃である。加圧力は、特に限定されることはないが、例えば0.01~10MPaであり、または0.05~0.5MPaである。加熱及び加圧の時間は、特に限定されることはないが、例えば、30秒間から3分間である。
さらに、基材同士でイオン複合体を挟み込んだ後、またはホットプレス装置による加温及び加圧を行った後、溶媒を揮発させる操作を行ってもよい。溶媒を揮発させる操作において、温度は特に限定されることはないが、例えば、10~90℃又は大気温である。湿度は特に限定されることはないが、例えば、20~80%である。溶媒を揮発させる時間は、特に限定されることはないが、例えば、1時間以上である。
【0033】
接着強度試験は、特に限定されることはないが、例えば以下の方法により行うことができる。
リグニンスルホン酸ナトリウム塩、カチオン性高分子およびアルデヒド基を有する化合物の複合体9 mgを、重なり合う面積が1cm2になるように二枚の基材(長さ5cm、幅1cm、厚さ2mm)で挟み込む。この基材を80℃、0.2 MPaのホットプレスで2分間加熱する。加熱後の基材を大気中で冷ました後、30℃、湿度50%の恒温恒湿槽で24時間以上溶媒を揮発させる。
得られた接着を行った基材に対して引張試験を行うことで、引張せん断接着強さ(最大応力)を測定し、これを接着強度の指標とすることができる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
実施例1 リグニンスルホン酸ナトリウム塩、ポリ(エチレンイミン)およびラクトースから成る複合体調製
パールレックスNP (日本製紙株式会社製 高純度高分子量リグニンスルホン酸ナトリウム塩) の25重量%水溶液7.68 mLおよびラクトース一水和物 (和光純薬工業株式会社、特級) 253 mgを混合し、ラクトースが完全に溶解するまで撹拌した。この溶液にポリ(エチレンイミン) (和光純薬工業株式会社、分子量10,000) の40重量%水溶液 7.2 mLを加え、均一に混合した。この混合物をフッ素樹脂製シャーレ(サイズ:6cm×6cm)に移して溶媒を揮発させることで厚さ1mm以上のシート状の複合体を得た。得られたシート状複合体をダンベル型試験片 (8号、JIS K 6251) の形状に打ち抜いた試験片の写真を
図1に示す。
【0036】
実施例2 リグニンスルホン酸ナトリウム塩、ポリ(エチレンイミン)およびグルコースから成る複合体調製
実施例1で用いたパールレックスNPの25重量%水溶液7.68 mL、ポリ(エチレンイミン) (和光純薬工業株式会社、分子量10,000) の40重量%水溶液7.2 mLおよびD-グルコース (和光純薬工業株式会社、特級) 240 mgを用い、実施例1と同様の手順で複合体を調製し、シート状の複合体を得た。得られた複合体の外見は実施例1で得られた複合体とほぼ同等であった。
【0037】
実施例3 リグニンスルホン酸ナトリウム塩、ポリ(エチレンイミン)およびアラビノースから成る複合体調製
実施例1で用いたパールレックスNPの25重量%水溶液7.68 mL、ポリ(エチレンイミン) (和光純薬工業株式会社、分子量10,000) の40重量%水溶液7.2 mLおよびD-(-)-アラビノース
(東京化成工業株式会社) 240 mgを用い、実施例1と同様の手順で複合体を調製し、シート状の複合体を得た。得られた複合体の外見は実施例1で得られた複合体とほぼ同等であった。
【0038】
実施例4 リグニンスルホン酸ナトリウム塩、ポリ(エチレンイミン)およびフルクトースから成る複合体調製
実施例1で用いたパールレックスNPの25重量%水溶液7.68 mL、ポリ(エチレンイミン) (和光純薬工業株式会社、分子量10,000) の40重量%水溶液7.2 mLおよびD-(-)-フルクトース (和光純薬工業株式会社、特級) 240 mgを用い、実施例1と同様の手順で複合体を調製し、シート状の複合体を得た。得られた複合体の外見は実施例1で得られた複合体とほぼ同等であった。
【0039】
実施例5 リグニンスルホン酸ナトリウム塩、ポリ(エチレンイミン)およびグルタルアルデヒドから成る複合体調製
実施例1で用いたパールレックスNPの25重量%水溶液7.68 mLおよびグルタルアルデヒド水溶液 (50%溶液、Polysciences社) 192 μLを均一に混合した。この溶液にポリ(エチレンイミン) (和光純薬工業株式会社、分子量10,000) の25重量%水溶液 11.52 mLを加え、均一に混合した。この混合物をフッ素樹脂製シャーレ(サイズ:6cm×6cm)に移して溶媒を揮発させることで厚さ1mm以上のシート状の複合体を得た。得られた複合体の外見は実施例1で得られた複合体とほぼ同等であった。
【0040】
実施例6 リグニンスルホン酸ナトリウム塩ポリ(エチレンイミン)およびブチルアルデヒドから成る複合体調製
実施例1で用いたパールレックスNPを用い、パールレックスNPの25重量%水溶液7.68 mLを新たに調製し、ブチルアルデヒド (和光純薬工業株式会社、特級) 240 μLを均一に混合した。この溶液に実施例1で用いたポリ(エチレンイミン) (和光純薬工業株式会社、分子量10,000) を用い、新たに調製したポリ(エチレンイミン)の25重量%水溶液 11.52 mLを加え、均一に混合した。この混合物をフッ素樹脂製シャーレ(サイズ:6cm×6cm)に移して溶媒を揮発させることで厚さ1mm以上のシート状の複合体を得た。得られた複合体の外見は実施例1で得られた複合体とほぼ同等であった。
【0041】
比較例1 リグニンスルホン酸ナトリウム塩およびポリ(エチレンイミン)から成る複合体調製
実施例1で用いたパールレックスNPの25重量%水溶液7.68 mLおよびポリ(エチレンイミン) (和光純薬工業株式会社、分子量10,000) の40重量%水溶液7.2 mLを均一に混合した。この混合物をフッ素樹脂製シャーレ(サイズ:6cm×6cm)に移して溶媒を揮発させることで厚さ1mm以上のシート状の複合体を得た。得られた複合体の外見は実施例1で得られた複合体とほぼ同等であった。
【0042】
比較例2 リグニンスルホン酸ナトリウム塩、ポリ(エチレンイミン)およびスクロース (非還元糖) から成る複合体調製
実施例1で用いたパールレックスNPの25重量%水溶液7.68 mL、ポリ(エチレンイミン) (和光純薬工業株式会社、分子量10,000) の40重量%水溶液7.2 mLおよびスクロース (和光純薬工業株式会社、特級) 240 mgを用い、実施例1と同様の手順で複合体を調製し、シート状の複合体を得た。得られた複合体の外見は実施例1で得られた複合体とほぼ同等であった。
【0043】
比較例3 リグニンスルホン酸ナトリウム塩、ポリ(エチレンイミン)およびトレハロース (非還元糖) から成る複合体調製
実施例1で用いたパールレックスNPの25重量%水溶液7.68 mL、ポリ(エチレンイミン) (和
光純薬工業株式会社、分子量10,000) の40重量%水溶液7.2 mLおよびトレハロース二水和物 (和光純薬工業株式会社、特級) 265 mgを用い、実施例1と同様の手順で複合体を調製し、シート状の複合体を得た。得られた複合体の外見は実施例1で得られた複合体とほぼ同等であった。
【0044】
比較例4 リグニンスルホン酸ナトリウム塩およびポリ(エチレンイミン)から成る複合体調製
実施例6で用いたパールレックスNPの25重量%水溶液7.68 mLおよびポリ(エチレンイミン) (和光純薬工業株式会社、分子量10,000) の40重量%水溶液7.2 mLを均一に混合した。この混合物をフッ素樹脂製シャーレ(サイズ:6cm×6cm)に移して溶媒を揮発させることで厚さ1mm以上のシート状の複合体を得た。得られた複合体の外見は実施例1で得られた複合体とほぼ同等であった。
【0045】
実施例7 リグニンスルホン酸ナトリウム塩、ポリ(エチレンイミン)およびアルデヒド基を有する化合物から成る複合体の引張試験
実施例1~5および比較例1~3で調製したシート状の複合体を30℃、相対湿度50%の恒温恒湿器の中で5日間静置した後、ダンベル型試験片 (8号、JIS K 6251) の形状に打ち抜き、評価用の試験片を作成した。これらの試験片を用いて引張試験 (大気中、引張速度 50 mm/min) を行った結果を表1に示す(3~5回の試験の平均値)。
表1に示す通り、実施例1~5の試験片において比較例1の試験片に比べ、最大応力に関して1.1~2.1倍の向上が確認できた。すなわち、アルデヒド基を有する化合物を混合したイオン複合体は破断強度が顕著に向上することが示された。
また、実施例1~5の試験片において比較例1の試験片に比べ、ヤング率に関して1.4~2.9倍の向上が確認できた。すなわちアルデヒド基を有する化合物を混合したイオン複合体はヤング率が顕著に向上することが示された。
一方で、比較例2、3においては、比較例1の試験片に比べてわずかなヤング率の向上 (1.2倍) を確認したものの、最大応力の向上は確認できなかった。つまり、非還元糖を混合したイオン複合体は、還元性を示す糖類またはアルデヒドを混合したイオン複合体のように、破断強度またはヤング率といった物性に関して顕著な向上効果を有さないことを確認した。
【0046】
【0047】
実施例8 リグニンスルホン酸ナトリウム塩、ポリ(エチレンイミン)およびブチルアルデヒドから成る複合体の引張試験
実施例6および比較例4で調製したシート状の複合体を30℃、相対湿度50%の恒温恒湿器の中で5日間静置した後、実施例7と同様の手順でダンベル型試験片を作成し、引張試験 (大気中、引張速度 50 mm/min) を行った。引張試験の結果を表2に示す(3~5回の試験の平均値)。
表2に示す通り、実施例6の試験片において比較例4の試験片に比べ、最大応力に関して1.4倍の向上が確認できた。すなわち、ブチルアルデヒドを混合したイオン複合体は破断強度が顕著に向上することが示された。
また、実施例6の試験片において比較例4の試験片に比べ、ヤング率に関して1.4倍の向上が確認できた。すなわちブチルアルデヒドを混合したイオン複合体はヤング率が顕著に向上することが示された。
【0048】
【0049】
実施例9 リグニンスルホン酸ナトリウム塩、ポリ(エチレンイミン)および還元性を示す糖類から成る複合体の耐水性試験
実施例3、4および比較例1~3で作成したシート状の複合体から60 mgの試験片を切り出した。この試験片を1.2 mLの純水に浸漬し、30分間または24時間室温にて振盪させることにより、耐水性試験を行った。上清の着色が少ない程、イオン複合体中のリグニンスルホン酸ナトリウムの溶出量が少ないことが示され、すなわちイオン複合体の耐水性が高いこと
が示される。
耐水性試験の結果を
図2に示す。純水中におけるイオン複合体の振盪時間が30分間の場合は、いずれの上清も着色しておらず、イオン複合体がほとんど溶出していないことが分かった。
また、純水中におけるイオン複合体の振盪時間が24時間の場合は、比較例1~3のイオン複合体を浸漬した上清は濃い茶色に着色しているのに対し、実施例3~4のイオン複合体を浸漬した上清はわずかに茶色に着色するのみであった。すなわち、還元性を示す糖類であるフルクトースまたはアラビノースを用いた場合にはイオン複合体の耐水性の点において顕著な効果を示すことがわかった。
【0050】
実施例10 リグニンスルホン酸ナトリウム塩、ポリ(アリルアミン)およびフルクトースから成る複合体調製
実施例1で用いたパールレックスNPの25重量%水溶液6 mLおよびD-(-)-フルクトース (和光純薬工業株式会社、特級) 225 mgを混合し、フルクトースが完全に溶解するまで撹拌した。この溶液にポリ(アリルアミン) (Polysciences社、重量平均分子量15,000) の15重量%水溶液 20 mLを加え、均一に混合した。この混合物をフッ素樹脂製シャーレ(サイズ:6cm×6cm)に移して溶媒を揮発させることで厚さ1mm以上のシート状の複合体を得た。得られたシート状複合体をダンベル型試験片 (8号、JIS K 6251) の形状に打ち抜いた試験片の写真を
図3に示す。
【0051】
比較例5 リグニンスルホン酸ナトリウム塩およびポリ(アリルアミン)から成る複合体調製
実施例1で用いたパールレックスNPの25重量%水溶液6 mLおよび実施例10で用いたポリ(アリルアミン) (Polysciences社、重量平均分子量15,000) の15重量%水溶液 20 mLを加え、均一に混合した。この混合物をフッ素樹脂製シャーレ(サイズ:6cm×6cm)に移して溶媒を揮発させることで厚さ1mm以上のシート状の複合体を得た。得られた複合体の外見は実施例10で得られた複合体とほぼ同等であった。
【0052】
実施例11 リグニンスルホン酸ナトリウム塩、ポリ(アリルアミン)およびフルクトースから成る複合体の引張試験
実施例10および比較例5で調製したシート状の複合体を30℃、相対湿度50%の恒温恒湿器の中で5日間静置した後、実施例7と同様の手法で引張試験 (大気中、引張速度 50 mm/min)を行った。引張試験の結果を表3に示す(3~5回の試験の平均値)。
表3に示す通り、実施例10の試験片において比較例5の試験片に比べ、最大応力に関して2.
1倍の向上が確認できた。すなわち、アルデヒド基を有する化合物を混合したイオン複合体は破断強度が顕著に向上することが示された。
また、実施例10の試験片において比較例5の試験片に比べ、ヤング率に関して13.5倍の向上が確認できた。すなわちフルクトースを混合したリグニンスルホン酸ナトリウム塩とポリ(アリルアミン)から成るイオン複合体はヤング率が顕著に向上することが示された。
【0053】
【0054】
実施例12 リグニンスルホン酸ナトリウム塩、ポリ(アリルアミン)およびフルクトースから成る複合体の耐水性試験
実施例10および比較例5で作成したシート状の複合体から60 mgの試験片を切り出した。この試験片を1.2 mLの純水に浸漬し、24時間室温にて振盪させることにより、耐水性試験を行った。上清の着色が少ない程、イオン複合体中のリグニンスルホン酸ナトリウムの溶出量が少ないことが示され、すなわちイオン複合体の耐水性が高いことが示される。
耐水性試験の結果を
図4に示す。比較例5のイオン複合体を浸漬した上清は茶色に着色しているのに対し、実施例10のイオン複合体を浸漬した上清ではほとんど着色は見られなかった。すなわち、フルクトースの添加によりイオン複合体の耐水性が向上することがわかった。
【0055】
実施例13 リグニンスルホン酸ナトリウム塩、ポリ(エチレンイミン)およびフルクトースから成る複合体の弾性評価
実施例7の引張試験で破断したリグニンスルホン酸ナトリウム塩、ポリ(エチレンイミン)およびフルクトースから成る複合体の試料を72時間以上静置した後、引張試験を行っていない試料の形態と比較した写真を
図5に示す。引張試験において、試料は、破断するまでに30%(治具間距離 35 mm×30% = 11.2 mm)以上のひずみがその治具間部分に加えられて変形したにもかかわらず、静置後の試料の治具間部分の変形量は、引張試験を行う前の試料における治具間距離の10%(3.5 mm)以下であった。すなわち、引張試験を行った後に静置した試料の長さは、引張試験を行う前の試料と同じくらいの長さまで自発的に形状が回復しており、本複合体が弾性を有していることが示された。
【0056】
実施例14 リグニンスルホン酸ナトリウム塩、ポリ(アリルアミン)およびフルクトースから成る複合体の弾性評価
実施例11の引張試験で破断したリグニンスルホン酸ナトリウム塩、ポリ(アリルアミン)およびフルクトースから成る複合体の試料を72時間以上静置した後、引張試験を行っていない試料の形態と比較した写真を
図6に示す。引張試験において、試料は、破断するまでに30%(治具間距離 35 mm×30% = 11.2 mm)のひずみがその治具間部分に加えられて変形したにもかかわらず、静置後の試料の治具間部分の変形量は、引張試験を行う前の試料における治具間距離の10%(3.5 mm)以下であった。すなわち、引張試験を行った後に静置した試料の長さは、引張試験を行う前の試料と同じくらいの長さまで自発的に形状が回復しており、本複合体が弾性を有していることが示された。
【0057】
実施例15 リグニンスルホン酸ナトリウム塩、ポリ(アリルアミン)およびフルクトースから成る複合体によるステンレス板の接着
実施例10で用いたパールレックスNPの25重量%水溶液0.45 mL、ポリ(アリルアミン)の15重量%水溶液1.75 mLおよびD-(-)-フルクトース37.5 mgを混合した。この混合物をフッ素樹脂製シャーレに移し、150℃のホットプレート上で加熱して水分を除去することで粘稠な複合体を得た。得られた複合体約9 mgを、重なり合う面積が1cm2になるように二枚のステンレス板(長さ5cm、幅1cm、厚さ2mm)で挟み込んだ。このステンレス板を80℃、0.2 MPaのホットプレスで2分間加熱した。加熱後のステンレス板を大気中で冷ました後、30℃、湿度50%の恒温恒湿槽で24時間以上溶媒を揮発させることにより、ステンレス板同士を接着した。接着後のステンレス板を用いて引張試験 (大気中、引張速度 10 mm/min) を行い、引張せん断接着強度を測定したところ、その値は7.67±0.15 MPa(3回の平均値)であった。
【0058】
比較例6 リグニンスルホン酸ナトリウム塩、ポリ(アリルアミン)から成る複合体によるステンレス板の接着
実施例10で用いたパールレックスNPの25重量%水溶液0.45 mLおよびポリ(アリルアミン)の15重量%水溶液1.75 mLを混合し、混合物を実施例15と同様に150℃のホットプレート上で
加熱することで粘稠な複合体を得た。得られた複合体約9 mgを用い、実施例15と同様の手順でステンレス板を接着した。接着後のステンレス板を用いて引張試験 (大気中、引張速度 10 mm/min) を行い、引張せん断接着強度を測定したところ、その値は6.98±0.37 MPa(3回の平均値)であった。
【0059】
実施例15と比較例6の結果から、実施例15の試験片において比較例6の試験片に比べ、引張せん断接着強度に関して約1.1倍の向上が確認できた。すなわちリグニンスルホン酸ナトリウム塩とポリ(アリルアミン)にフルクトースを混合して得られた複合体は、リグニンスルホン酸ナトリウム塩とポリ(アリルアミン)から成る複合体と比較して、引張せん断接着強度が向上することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のイオン複合材料は、多様な形状に成形でき、弾性に富み、かつ、優れた強度や耐水性を有するので、このような特性が必要とされる各種の用途の成形品の素材として利用可能である。