(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】成膜方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/31 20060101AFI20241001BHJP
H01L 21/316 20060101ALI20241001BHJP
C23C 16/42 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
H01L21/31 C
H01L21/316 X
C23C16/42
(21)【出願番号】P 2020208755
(22)【出願日】2020-12-16
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】駒井 優
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-131238(JP,A)
【文献】国際公開第2020/222853(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/045137(WO,A1)
【文献】特開2009-038155(JP,A)
【文献】特開2012-142574(JP,A)
【文献】特開2020-161722(JP,A)
【文献】特開2012-175057(JP,A)
【文献】特開2018-186178(JP,A)
【文献】特開2019-186541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/31
H01L 21/316
C23C 16/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理容器内において基板の表面に形成された凹部にシリコン酸化膜を成膜する方法であって、
(a)基板にシリコン含有ガスを吸着させる工程と、
(b)所望の圧力において、前記基板を、酸素ガス及び不活性ガスを含む酸化ガスから形成されたプラズマに曝露する工程と、
(c)前記工程(a)及び前記工程(b)を繰り返す工程と、
を有し、
前記工程(b)において、前記所望の圧力と、前記処理容器内の圧力ごとに酸素ガスと不活性ガスとの比率とローディング効果に関する情報とが対応付けされた対応情報とに基づいて、酸素ガスと不活性ガスとの比率を決定する、
成膜方法。
【請求項2】
前記工程(b)は、前記処理容器内を真空ポンプによる引き切りの状態で行われる、
請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記不活性ガスは、窒素ガスであり、
酸素ガスと窒素ガスとの比率は、5:1~2:1である、
請求項1又は2に記載の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
室温下の反応管内にジイソプロピルアミノシランと酸素ラジカルとを交互に繰り返し供給することで、ウエハWにシリコン酸化膜を形成する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、所望の圧力におけるローディング効果を改善できる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様による成膜方法は、処理容器内において基板の表面に形成された凹部にシリコン酸化膜を成膜する方法であって、(a)基板にシリコン含有ガスを吸着させる工程と、(b)所望の圧力において、前記基板を、酸素ガス及び不活性ガスを含む酸化ガスから形成されたプラズマに曝露する工程と、(c)前記工程(a)及び前記工程(b)を繰り返す工程と、を有し、前記工程(b)において、前記所望の圧力と、前記処理容器内の圧力ごとに酸素ガスと不活性ガスとの比率とローディング効果に関する情報とが対応付けされた対応情報とに基づいて、酸素ガスと不活性ガスとの比率を決定する。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、所望の圧力におけるローディング効果を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態の成膜装置の一例を示す概略縦断面図
【
図2】実施形態の成膜装置の一例を示す概略横断面図
【
図3】実施形態の成膜装置の制御部の構成例を示す図
【
図5】ローディング効果が改善するメカニズムを説明する図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付の図面を参照しながら、本開示の限定的でない例示の実施形態について説明する。添付の全図面中、同一又は対応する部材又は部品については、同一又は対応する参照符号を付し、重複する説明を省略する。
【0009】
〔成膜装置〕
図1~
図3を参照し、実施形態の成膜装置の一例について説明する。本実施形態では、原子層堆積(ALD:Atomic Layer Deposition)法により、シリコン酸化膜を形成する場合を例に挙げて説明する。
【0010】
成膜装置1は、長手方向が垂直方向に向けられた、有天井で略円筒状の処理容器2を備えている。処理容器2は、耐熱及び耐腐食性に優れた材料、例えば石英により形成されている。
【0011】
処理容器2の一の側方には、処理容器2内のガスを排気するための排気部3が配置されている。排気部3は、処理容器2に沿って上方に延びるように形成され、処理容器2の側壁に設けられた開口(図示せず)を介して、処理容器2と連通する。排気部3の上端は、処理容器2の上部に配置された排気口4に接続されている。排気口4には排気配管(図示せず)が接続され、排気配管にはバルブ(図示せず)や後述する真空ポンプ127等の圧力調整機構が設けられている。圧力調整機構により、処理容器2内のガスが、開口、排気部3、排気口4を介して、排気配管に排気され、処理容器2内が所望の圧力(真空度)に制御される。
【0012】
処理容器2の下方には、蓋体5が配置されている。蓋体5は、耐熱及び耐腐食性に優れた材料、例えば石英により形成されている。蓋体5は、後述するボートエレベータ128により上下動可能に構成されている。ボートエレベータ128により蓋体5が上昇すると、処理容器2の下方側(炉口部分)が閉鎖され、ボートエレベータ128により蓋体5が下降すると、処理容器2の下方側(炉口部分)が開口される。
【0013】
蓋体5の上には、ウエハボート6が載置されている。ウエハボート6は、例えば石英により形成されている。ウエハボート6は、ウエハWが垂直方向に所定の間隔をおいて複数枚、収容可能に構成されている。なお、蓋体5の上部に、処理容器2の炉口部分から処理容器2内の温度が低下することを防止する保温筒や、ウエハWを収容するウエハボート6を回転可能に載置する回転テーブルを設け、これらの上にウエハボート6を載置してもよい。これらの場合、ウエハボート6に収容されたウエハWを均一な温度に制御しやすくなる。
【0014】
処理容器2の周囲には、処理容器2を取り囲むように、温度調整機構、例えば抵抗発熱体からなる昇温用ヒータ7が設けられている。昇温用ヒータ7により処理容器2の内部が所定の温度に設定され、この結果、処理容器2の内部に収容されたウエハWが所定の温度になる。
【0015】
処理容器2の下端近傍の側面には、処理容器2内に処理ガスを供給する、処理ガス供給管8、9が挿通されている。本実施形態では、処理ガスとして、ソースガス、酸化ガス、パージガス等が用いられる。ソースガスは、ウエハWにソース(Si)を吸着させるシリコン含有ガスであり、例えばジイソプロピルアミノシラン(DIPAS)ガスであってよい。ソースガスは、後述する吸着ステップで用いられる。酸化ガスは、吸着されたソース(Si)を酸化するガスであり、例えば酸素(O2)ガスであってよい。酸化ガスは、後述する酸化ステップで用いられる。パージガスは、処理ガスを希釈するガスであり、例えば窒素(N2)ガス等の不活性ガスであってよい。
【0016】
処理ガス供給管8は、処理容器2内に酸化ガス及びパージガスを供給する。処理ガス供給管8は、後述するプラズマ発生部10に挿通されている。このため、処理ガス供給管8から供給される酸化ガス及び希釈ガスは、プラズマ励起(活性化)される。処理ガス供給管8としては、例えば分散インジェクタが用いられる。
【0017】
処理ガス供給管9は、処理容器2内にソースガス及びパージガスを供給する。処理ガス供給管9は、
図2に示されるように、処理容器2の内壁に配置されている。このため、処理ガス供給管9から供給されたソースガス及びパージガスは、プラズマ励起(活性化)されない。処理ガス供給管9としては、例えば分散インジェクタが用いられる。
【0018】
各処理ガス供給管8、9には、垂直方向の所定間隔ごとに供給孔(図示せず)が設けられており、供給孔から処理容器2内に処理ガスが供給される。このため、
図1に矢印で示されるように、処理ガスが垂直方向の複数箇所から処理容器2内に供給される。また、各処理ガス供給管8、9は、後述するマスフローコントローラ(MFC)125を介して、処理ガス供給源(図示せず)に接続されている。なお、
図1では、後述するプラズマ処理を行う処理ガスを供給する処理ガス供給管8(本実施形態では、酸化ガスを供給する処理ガス供給管)のみを図示している。また、
図2では、酸化ガスを供給する処理ガス供給管8と、後述するプラズマ処理を行わない処理ガスを供給する処理ガス供給管9(本実施形態では、ソースガスやパージガスを供給する処理ガス供給管)とを図示している。
【0019】
処理容器2の他の側方、すなわち、排気部3が配置されている処理容器2の一の側方の反対側には、プラズマ発生部10が設けられている。プラズマ発生部10は、一対の電極11等を備えている。一対の電極11間には、処理ガス供給管8が挿通されている。一対の電極11は、高周波電源、整合器(図示せず)等に接続されている。一対の電極11間に高周波電源から整合器を介して高周波電力を印加することにより、一対の電極11間に供給された処理ガスをプラズマ励起(活性化)させ、例えば酸素ラジカル(O*)を生成する。酸素ラジカル(O*)等は、プラズマ発生部10から処理容器2内に供給される。
【0020】
処理容器2内には、処理容器2内の温度を測定する、例えば熱電対からなる温度センサ122及び処理容器2内の圧力を測定する圧力計123が複数本配置されている。
【0021】
成膜装置1は、装置各部の制御を行う制御部100を備えている。
図3に制御部100の構成例を示す。
【0022】
制御部100には、操作パネル121、温度センサ(群)122、圧力計(群)123、ヒータコントローラ124、MFC125、バルブ制御部126、真空ポンプ127、ボートエレベータ128、プラズマ制御部129等が接続されている。
【0023】
操作パネル121は、表示画面と操作ボタンとを備え、オペレータの操作指示を制御部100に伝え、また、制御部100からの様々な情報を表示画面に表示する。
【0024】
温度センサ(群)122は、処理容器2内及び排気配管内等の各部の温度を測定し、その測定値を制御部100に通知する。
【0025】
圧力計(群)123は、処理容器2内及び排気配管内等の各部の圧力を測定し、その測定値を制御部100に通知する。
【0026】
ヒータコントローラ124は、昇温用ヒータ7を個別に制御するためのものであり、制御部100からの指示に応答して、昇温用ヒータ7に通電してこれらを加熱し、また、昇温用ヒータ7の消費電力を個別に測定して、制御部100に通知する。
【0027】
MFC125は、処理ガス供給管8、9等の各配管に配置され、各配管を流れるガスの流量を制御部100から指示された量に制御すると共に、実際に流れたガスの流量を測定して、制御部100に通知する。
【0028】
バルブ制御部126は、各配管に配置され、各配管に配置された弁の開度を制御部100から指示された値に制御する。
【0029】
真空ポンプ127は、排気配管に接続され、処理容器2内のガスを排気する。
【0030】
ボートエレベータ128は、蓋体5を上昇させることにより、ウエハボート6(ウエハW)を処理容器2内にロードし、蓋体5を下降させることにより、ウエハボート6(ウエハW)を処理容器2内からアンロードする。
【0031】
プラズマ制御部129は、プラズマ発生部10を制御するためのものであり、制御部100からの指示に応答して、プラズマ発生部10を制御し、プラズマ発生部10内に供給された、例えば、酸素を活性化し、酸素ラジカル(O*)等を生成させる。
【0032】
制御部100は、レシピ記憶部111と、ROM112と、RAM113と、I/Oポート114と、CPU115と、これらを相互に接続するバス116とから構成されている。
【0033】
レシピ記憶部111には、セットアップ用レシピと複数のプロセス用レシピとが記憶されている。成膜装置1の製造当初は、セットアップ用レシピのみが格納される。セットアップ用レシピは、各処理装置に応じた熱モデル等を生成する際に実行されるものである。プロセス用レシピは、ユーザが実際に行う熱処理(プロセス)毎に用意されるレシピである。プロセス用レシピは、処理容器2へのウエハWのロードから、処理済みのウエハWをアンロードするまでの、各部の温度の変化、処理容器2内の圧力変化、処理ガスの供給の開始及び停止のタイミングと供給流量等を規定する。
【0034】
ROM112は、EEPROM、フラッシュメモリ、ハードディスク等から構成され、CPU115の動作プログラム等を記憶する記録媒体である。
【0035】
RAM113は、CPU115のワークエリア等として機能する。
【0036】
I/Oポート114は、操作パネル121、温度センサ122、圧力計123、ヒータコントローラ124、MFC125、バルブ制御部126、真空ポンプ127、ボートエレベータ128、プラズマ制御部129等に接続され、データや信号の入出力を制御する。
【0037】
CPU(Central Processing Unit)115は、制御部100の中枢を構成し、ROM112に記憶された制御プログラムを実行する。また、CPU115は、操作パネル121からの指示に従って、レシピ記憶部111に記憶されているレシピ(プロセス用レシピ)に沿って、成膜装置1の動作を制御する。すなわち、CPU115は、温度センサ(群)122、圧力計(群)123、MFC125等に処理容器2内及び排気配管内等の各部の温度、圧力、流量等を測定させる。また、CPU115は、この測定データに基づいて、ヒータコントローラ124、MFC125、バルブ制御部126、真空ポンプ127等に制御信号等を出力し、上記各部がプロセス用レシピに従うように制御する。
【0038】
バス116は、各部の間で情報を伝達する。
【0039】
〔成膜方法〕
図4を参照し、実施形態の成膜方法の一例について説明する。実施形態の成膜方法では、前述の成膜装置1を用いて、ALD法により、ウエハW上にシリコン酸化膜を成膜する場合を例に挙げて説明する。
【0040】
実施形態の成膜方法は、吸着ステップと酸化ステップとを含むサイクルを所定の回数(例えば100回)実行する(繰り返す)ことにより、ウエハW上に所望の膜厚を有するシリコン酸化膜を形成する方法である。吸着ステップは、ウエハWの表面にシリコン(Si)を含むシリコン含有物質(以下「シリコン」又は「Si」という)を吸着するステップである。酸化ステップは、ウエハWの表面に吸着したSiを酸化するステップである。本実施形態では、ソースガスとしてDIPASガス、酸化ガスとしてO2ガス、パージガスとしてN2ガスを用いている。
【0041】
以下の説明において、成膜装置1を構成する各部の動作は、制御部100(CPU115)により制御される。また、各処理における処理容器2内の温度、圧力、ガスの流量等は、前述のように、制御部100(CPU115)がヒータコントローラ124(昇温用ヒータ7)、MFC125(処理ガス供給管8、9)、バルブ制御部126、真空ポンプ127、プラズマ制御部129(プラズマ発生部10)等を制御することにより、
図4に示すレシピに従った条件に設定される。
【0042】
まず、ウエハWを処理容器2内に搬入(ロード)する。具体的には、昇温用ヒータ7により処理容器2内を所定のロード温度に維持し、処理容器2内に所定量のN2ガスを供給する。また、ウエハWを収容したウエハボート6を蓋体5上に載置する。そして、ボートエレベータ128により蓋体5を上昇させ、ウエハW(ウエハボート6)を処理容器2内にロードする。
【0043】
搬入ステップの後、吸着ステップを実施する。吸着ステップは、ウエハWにソースガスを供給して、その表面にSiを吸着させる工程である。本実施形態では、ウエハWにDIPASガスを供給することにより、ウエハWにSiを吸着させている。
【0044】
吸着ステップでは、まず、処理容器2内を所定の温度(例えば室温)に設定する。なお、本実施形態では、処理容器2内を室温に設定することから、処理容器2内を昇温用ヒータ7により加熱していない。また、処理ガス供給管9からDIPASガス及びN2ガスを処理容器2内に供給し、処理ガス供給管8からN2ガスを処理容器2内に供給する(フロー工程)。
【0045】
吸着ステップのフロー工程を、所定の時間(例えば1秒~10秒)実施し、ウエハWの表面に所定量のSiが吸着すると、処理ガス供給管9からのDIPASガス及びN2ガスの供給及び処理ガス供給管8からのN2ガスの供給を停止する。そして、処理容器2内のガスを排出すると共に、例えば処理ガス供給管8、9から処理容器2内に所定量のN2ガスを供給して処理容器2内のガスを処理容器2外に排出する(パージ、Vacuum工程)。
【0046】
吸着ステップの後、酸化ステップを実施する。酸化ステップは、Siが吸着されたウエハWを酸化ガスから形成されたプラズマに曝露してSiを酸化する工程である。
【0047】
酸化ステップでは、処理容器2内を所定の温度(例えば室温)に設定する。また、処理ガス供給管8からO2ガス及びN2ガスを所定の比率で処理容器2内に供給し、処理ガス供給管9からN2ガスを処理容器2内に供給する。そして、電極11間に高周波電源(図示せず)から整合器(図示せず)を介して、所定の出力の高周波電力を印加する。これにより、電極11間に供給されたO2ガス及びN2ガスはプラズマ励起(活性化)され、酸素ラジカル(O*)を生成する。このように生成された酸素ラジカルがプラズマ発生部10から処理容器2内に供給される。処理容器2内に酸素ラジカルが供給されると、ウエハW上に吸着されたSiが酸化され、ウエハW上にシリコン酸化膜が形成される(フロー工程)。なお、フロー工程は、例えば処理容器2内を真空ポンプ127による引き切りの状態で行われる。
【0048】
フロー工程では、所望の圧力と、処理容器2内の圧力ごとにO2ガスとN2ガスとの比率とローディング効果に関する情報とが対応付けされた対応情報とに基づいて決定される比率で、処理ガス供給管8からO2ガス及びN2ガスを処理容器2内に供給する。これにより、所望の圧力におけるローディング効果が改善する条件でシリコン酸化膜を成膜できる。対応情報は、例えば後述する実施例による実験、シミュレーション等により算出され、予めレシピ記憶部111、ROM112等に記憶されている。なお、ローディング効果とは、パターンが形成されたウエハWにシリコン酸化膜を成膜したときの面内均一性の指標である。ローディング効果が改善するとは、膜厚の面内均一性、例えばウエハWの中央部の膜厚の落ち込みが改善することを意味する。本実施形態では、ローディング効果を、以下の(1)式の値の中で最も大きい値を指標値として用いて評価している。
【0049】
【0050】
(1)式において、ベアウエハ上の膜厚とは、パターンが形成されていないベアウエハにシリコン酸化膜を成膜したときの膜厚である。パターンウエハ上の膜厚とは、凹部を含むパターンが形成されたパターンウエハに対して、ベアウエハと同じプロセス条件でシリコン酸化膜を成膜したときの膜厚である。ローディング効果は、夫々の膜厚をウエハWの直径上の多数の位置において測定し、膜厚の各測定位置において、(1)式により求められる。ローディング効果の指標値が小さいほど、ベアウエハとの膜厚の差が小さく、ローディング効果が改善されることになる。
【0051】
酸化ステップのフロー工程を、所定の時間(例えば5秒~100秒)実施し、ウエハW上に所望のシリコン酸化膜が形成されると、処理ガス供給管8からのO2ガスの供給を停止すると共に、高周波電源(図示せず)からの高周波電力の印加を停止する。また、処理ガス供給管8、9からのN2ガスの供給を停止する。そして、処理容器2内のガスを排出すると共に、処理ガス供給管8、9から処理容器2内に所定量のN2ガスを供給して処理容器2内のガスを処理容器2外に排出する(パージ、Vacuum工程)。
【0052】
これにより、吸着ステップと酸化ステップとを含むALD法の1サイクルが終了する。
【0053】
続いて、再び、吸着ステップから始まるALD法の1サイクルを開始する。そして、このサイクルを所定の回数繰り返す。これにより、ウエハWの表面にSiを吸着させ、吸着されたSiを酸化することにより、さらにシリコン酸化膜が形成される。その結果、ウエハW上に所望の膜厚を有するシリコン酸化膜が形成される。
【0054】
ウエハW上に所望の膜厚を有するシリコン酸化膜が形成されると、ウエハWを搬出(アンロード)する。具体的には、処理ガス供給管8、9から処理容器2内に所定量のN2ガスを供給して、処理容器2内の圧力を常圧に戻すと共に、昇温用ヒータ7により処理容器2内を所定温度に維持する。続いて、ボートエレベータ128により蓋体5を下降させることにより、ウエハWがアンロードされる。
【0055】
〔メカニズム〕
図5を参照し、実施形態の成膜方法により、ローディング効果が改善するメカニズムについて説明する。
【0056】
図5(a)は、酸化ステップにおいて、酸素ラジカル(O
*)と共にウエハWに供給されるN
2ガスの流量(処理ガス供給管8から供給されるN
2ガスの流量)が適量である場合のウエハWの表面反応を説明するための図である。酸化ステップにおいて、O
*と共にウエハWに供給されるN
2ガスの流量が適量である場合、N
2ガスがO
*の輸送に寄与してO
*の平均自由行程が長くなり、酸化反応が促進されるため、ローディング効果が改善すると推察される。
【0057】
図5(b)は、酸化ステップにおいて、O
*と共にウエハWに供給されるN
2ガスの流量(処理ガス供給管8から供給されるN
2ガスの流量)が少ない場合のウエハWの表面反応を説明するための図である。酸化ステップにおいて、O
*と共にウエハWに供給されるN
2ガスの流量が少ない場合、N
2ガスによるO
*の輸送への寄与が小さくO
*の平均自由行程が短くなり、ウエハWの表面を酸化する前にO
*が失活し、ローディング効果が悪化すると推察される。
【0058】
図5(c)は、酸化ステップにおいてO
*と共にウエハWに供給されるN
2ガスの流量(処理ガス供給管8から供給されるN
2ガスの流量)が多い場合のウエハWの表面反応を説明するための図である。酸化ステップにおいてO
*と共にウエハWに供給されるN
2ガスの流量が多い場合、ウエハWに向かうO
*がN
2ガスにより阻害されるため、ローディング効果が悪化すると推察される。
【0059】
以上のことから、ローディング効果を改善する方法として、O2ガスとN2ガスの流量比率を調整することが有効であると言える。
【0060】
〔実施例〕
実施例1では、成膜装置1において、処理容器2内の圧力(以下「炉内圧力」ともいう。)を変更したときのローディング効果(Loading Effect)への影響を評価した。実施例1では、ベアウエハ及びパターンウエハの夫々に対し、以下の表1に示されるプロセス条件(条件A、B)でシリコン酸化膜を成膜した。
【0061】
【0062】
なお、表1中、「DIPAS」及び「IP-N2(Si)」は、夫々処理ガス供給管9から処理容器2内に供給するDIPASガスの流量及びN2ガスの流量を示す。また、表1中、「O2」及び「IP-N2(O2)」は、夫々処理ガス供給管8から処理容器2内に供給するO2ガスの流量及びN2ガスの流量を示す。また、表1中、「RF」は高周波電源から一対の電極11間に印加する高周波電力の出力を示し、「圧力」は炉内圧力を示す。
【0063】
表1に示されるように、条件A及び条件Bは、夫々酸化ステップのフロー工程における炉内圧力を55.0Pa、36.5Paに設定した条件であり、該炉内圧力を除く他の条件は全て同じである。
【0064】
図6は、実施例1の評価結果を示す図であり、炉内圧力とローディング効果との関係を示す。
図6中、横軸は酸化ステップのフロー工程における炉内圧力[Pa]を示し、縦軸はローディング効果[%]を示す。ローディング効果は、前述の(1)式により算出した。
【0065】
図6に示されるように、酸化ステップのフロー工程における炉内圧力を55.0Pa、36.5Paに設定したときのローディング効果は、夫々25.63%、10.63%であった。この結果から、炉内圧力を低くすることにより、ローディング効果が改善することが示された。
【0066】
実施例2では、成膜装置1において、酸化ステップのフロー工程において処理ガス供給管8から処理容器2内にO2ガスと共に供給するN2ガス(以下「IP-N2(O2)」という。)の流量を変更したときのローディング効果への影響を評価した。実施例2では、実施例1と同様、ベアウエハ及びパターンウエハの夫々に対し、以下の表2に示されるプロセス条件(条件C~E)でシリコン酸化膜を成膜した。
【0067】
【0068】
なお、表2中、「DIPAS」及び「IP-N2(Si)」は、夫々処理ガス供給管9から処理容器2内に供給するDIPASガスの流量及びN2ガスの流量を示す。また、表2中、「O2」及び「IP-N2(O2)」は、夫々処理ガス供給管8から処理容器2内に供給するO2ガスの流量及びN2ガスの流量を示す。また、表2中、「RF」は高周波電源から一対の電極11間に印加する高周波電力の出力を示し、「圧力」は炉内圧力を示す。
【0069】
表2に示されるように、条件C、条件D及び条件Eは、夫々酸化ステップのフロー工程におけるIP-N2(O2)の流量を0.5slm、1slm及び2slmに設定した条件であり、該IP-N2(O2)の流量を除く他の条件は全て同じである。
【0070】
図7は、実施例2の評価結果を示す図であり、
図7(a)はIP-N
2(O
2)の流量とローディング効果との関係を示し、
図7(b)はIP-N
2(O
2)の流量と炉内圧力との関係を示す。
図7(a)中、横軸はIP-N
2(O
2)の流量[slm]を示し、縦軸はローディング効果[%]を示す。
図7(b)中、横軸はIP-N
2(O
2)の流量[slm]を示し、縦軸は酸化ステップにおける炉内圧力[Pa]を示す。ローディング効果は、前述の(1)式により算出した。
【0071】
図7(a)に示されるように、IP-N
2(O
2)の流量を0.5slm、1slm、2slmに設定したときのローディング効果は、夫々9.62%、7.43%、10.14%であった。また、
図7(b)に示されるように、IP-N
2(O
2)の流量を0.5slm、1slm、2slmに設定したときの炉内圧力は、夫々36.27Pa、38.13Pa、41.67Paであった。この結果から、IP-N
2(O
2)の流量を変更することにより、炉内圧力が高い条件でもローディング効果が改善する場合があることが示された。
【0072】
実施例3では、成膜装置1において、酸化ステップのフロー工程において処理ガス供給管8から処理容器2内に供給するO2ガスとN2ガスの総流量を5.5slmに固定し、O2ガスとN2ガスとの比率を変更したときのローディング効果への影響を評価した。実施例3では、実施例1と同様、ベアウエハ及びパターンウエハの夫々に対し、以下の表3に示されるプロセス条件(条件F~J)でシリコン酸化膜を成膜した。
【0073】
【0074】
なお、表3中、「DIPAS」及び「IP-N2(Si)」は、夫々処理ガス供給管9から処理容器2内に供給するDIPASガスの流量及びN2ガスの流量を示す。また、表3中、「O2」及び「IP-N2(O2)」は、夫々処理ガス供給管8から処理容器2内に供給するO2ガスの流量及びN2ガスの流量を示す。また、表1中、「O2:IP-N2(O2)」は、処理ガス供給管8から処理容器2内に供給するO2ガスとN2ガスとの比率を示す。また、表3中、「RF」は高周波電源から一対の電極11間に印加する高周波電力の出力を示し、「圧力」は炉内圧力を示す。
【0075】
表3に示されるように、条件F、条件G、条件H、条件I及び条件Jは、夫々処理ガス供給管8から処理容器2内に供給するO2ガスとN2ガスとの比率を10:1、5:1、4:1、3:1、2:1に設定した条件であり、該比率を除く他の条件は全て同じである。
【0076】
図8は、実施例3の評価結果を示す図である。
図8(a)は、処理ガス供給管8から処理容器2内に供給するO
2ガスとN
2ガスとの比率とローディング効果との関係を示し、
図8(b)は、処理ガス供給管8から処理容器2内に供給するO
2ガスとN
2ガスとの比率と炉内圧力との関係を示す。
図8(a)中、横軸は処理ガス供給管8から処理容器2内に供給するO
2ガスとN
2ガスとの比率を示し、縦軸はローディング効果[%]を示す。
図8(b)中、横軸は処理ガス供給管8から処理容器2内に供給するO
2ガスとN
2ガスとの比率を示し、縦軸は炉内圧力[Pa]を示す。ローディング効果は、前述の(1)式により算出した。
【0077】
図8(a)に示されるように、O
2:IP-N
2(O
2)を10:1、5:1、4:1、3:1、2:1に設定したときのローディング効果は、夫々9.62%、6.8%、5.82%、5.74%、6.47%であった。また、
図8(b)に示されるように、O
2:IP-N
2(O
2)を10:1、5:1、4:1、3:1、2:1に設定したときの炉内圧力は、夫々36.27Pa、36.27Pa、36.23Pa、36.07Pa、35.90Paであった。この結果から、処理ガス供給管8から処理容器2内に供給するO
2ガスとN
2ガスとの比率を変更することにより、炉内圧力を変化させることなく、ローディング効果が改善することが示された。具体的には、O
2:IP-N
2(O
2)を5:1~2:1に設定することにより、ローディング効果が改善することが示された。特に、O
2:IP-N
2(O
2)を3:1にすることにより、ローディング効果が特に改善することが示された。
【0078】
なお、上記の実施形態において、処理ガス供給管8、9はガス供給部の一例であり、ウエハWは基板の一例である。
【0079】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の請求の範囲及びその趣旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【符号の説明】
【0080】
1 成膜装置
2 処理容器
3 排気部
8 処理ガス供給管
9 処理ガス供給管
100 制御部