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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/46 20060101AFI20241001BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
H05H1/46 L
H01L21/302 101C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021095895
(22)【出願日】2021-06-08
(65)【公開番号】P2022187737
(43)【公開日】2022-12-20
【審査請求日】2024-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】河田 祐紀
(72)【発明者】
【氏名】早坂 直人
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-287318(JP,A)
【文献】特開2004-022988(JP,A)
【文献】特開平7-240406(JP,A)
【文献】特開2015-084307(JP,A)
【文献】特開2014-157940(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0187615(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00-1/54
H01L 21/3065
H01L 21/31
C23C 14/35
C23C 16/50
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上壁部と、側壁部と、下壁部と、を有し、内部にプラズマ処理空間を有するプラズマ処理チャンバと、
前記側壁部の外側の周囲に設けられ、上側に開口を有する磁気シールドと、
を備え、
前記上壁部の前記プラズマ処理空間の側の内面の中心点を通り、前記開口の端点を結ぶ線と、前記内面との角度をθ[°]、前記磁気シールドを構成する磁性材料の初比透磁率をμi、厚さをt[m]との積μi×tをPmc[m]とすると、角度θ[°]は、
θ > 764×Pmc-2+179×Pmc-1+21.3
を満たす、
プラズマ処理装置。
【請求項2】
上壁部と、側壁部と、下壁部と、を有し、内部にプラズマ処理空間を有するプラズマ処理チャンバと、
前記側壁部の外側の周囲に設けられ、上側に開口を有する磁気シールドと、
を備え、
前記上壁部の前記プラズマ処理空間の側の内面の中心点を通り、前記開口の端点を結ぶ線と、前記内面との角度をθ[°]、前記磁気シールドを構成する磁性材料の初比透磁率をμi、厚さをt[m]との積μi×tをPmc[m]とすると、角度θ[°]は、
θ > 4200×Pmc-2-96×Pmc-1-3.8
を満たす、
プラズマ処理装置。
【請求項3】
前記磁気シールドは、円筒形である、
請求項1又は請求項2のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
上壁部と、側壁部と、下壁部と、を有し、内部にプラズマ処理空間を有するプラズマ処理チャンバと、
前記側壁部の外側の周囲に設けられ、下側に設けられる第1磁気シールドと、上側に設けられる第2磁気シールドと、
を備え、
前記側壁部の内側面の中間点を通り、前記第1磁気シールドの上端部の端点を結ぶ線を第1線、前記中間点を通り前記第2磁気シールドの下端部の端点を結ぶ線を第2線とし、
前記中間点を通り前記上壁部の前記プラズマ処理空間の側の内面と平行な面に対する前記第1線のなす角度θ[°]は、前記平行な面に対する前記第2線のなす角度と等しく、
前記第1磁気シールド及び前記第2磁気シールドのそれぞれを構成する磁性材料の初比透磁率をμi、厚さをt[m]との積μi×tをPmc[m]とすると、角度θ[°]は、
θ < 25.4-0.265×p+8.35×10-2×Pmc+
(-1.58)×p+5.87×10-3×p×Pmc+
(-5.17)×10-4×Pmc
を満たす、
プラズマ処理装置。
【請求項5】
上壁部と、側壁部と、下壁部と、を有し、内部にプラズマ処理空間を有するプラズマ処理チャンバと、
前記側壁部の外側の周囲に設けられ、下側に設けられる第1磁気シールドと、上側に設けられる第2磁気シールドと、
を備え、
前記側壁部の内側面の中間点を通り、前記第1磁気シールドの上端部の端点を結ぶ線を第1線、前記中間点を通り前記第2磁気シールドの下端部の端点を結ぶ線を第2線とし、
前記中間点を通り前記上壁部の前記プラズマ処理空間の側の内面と平行な面に対する前記第1線のなす角度θ[°]は、前記平行な面に対する前記第2線のなす角度と等しく、
前記第1磁気シールド及び前記第2磁気シールドのそれぞれを構成する磁性材料の初比透磁率をμi、厚さをt[m]との積μi×tをPmc[m]とすると、角度θ[°]は、
θ < 53.2-0.208×p+1.87×10-2×Pmc+
(-0.855)×p+1.75×10-3×p×Pmc+
(-1.19)×10-4×Pmc
を満たす、
プラズマ処理装置。
【請求項6】
前記第1磁気シールド及び前記第2磁気シールドのそれぞれは、円筒形である、
請求項4又は請求項5のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記側壁部は、円筒形である、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
前記Pmc[m]は、20[m]以上100[m]以下である、
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
処理チャンバ及びコイルの外側に位置しており、処理チャンバの周囲を全体的に覆うように設けられている磁気シールドを備えるプラズマ基板処理装置が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-022988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、プラズマ処理装置における外部磁場による影響を抑える技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、上壁部と、側壁部と、下壁部と、を有し、内部にプラズマ処理空間を有するプラズマ処理チャンバと、前記側壁部の外側の周囲に設けられ、上側に開口を有する磁気シールドと、を備え、前記上壁部の前記プラズマ処理空間の側の内面の中心点を通り、前記開口の端点を結ぶ線と、前記内面との角度をθ[°]、前記磁気シールドを構成する磁性材料の初比透磁率をμi、厚さをt[m]との積μi×tをPmc[m]とすると、角度θ[°]は、θ > 764×Pmc-2+179×Pmc-1+21.3を満たすプラズマ処理装置である。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、プラズマ処理装置における外部磁場による影響を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施形態に係るプラズマ処理システムの一例を示す図である。
図2図2は、プラズマ処理装置における地磁気の影響を説明する図である。
図3図3は、プラズマ処理装置における地磁気の影響を説明する図である。
図4図4は、第1実施形態に係るプラズマ処理装置の一例の断面図である。
図5図5は、第1実施形態に係るプラズマ処理装置の一例の断面図である。
図6図6は、第1実施形態に係るプラズマ処理装置の一例の評価結果を示す図である。
図7図7は、第1実施形態に係るプラズマ処理装置の一例の評価結果を示す図である。
図8図8は、第1実施形態に係るプラズマ処理装置の一例の評価結果を示す図である。
図9図9は、第1実施形態に係るプラズマ処理装置の一例の評価結果を示す図である。
図10図10は、第1実施形態に係るプラズマ処理装置の一例の評価結果を示す図である。
図11図11は、第1実施形態に係るプラズマ処理装置の変形例の一例の断面図である。
図12図12は、第1実施形態に係るプラズマ処理装置の変形例の一例の断面図である。
図13図13は、第1実施形態に係るプラズマ処理装置の変形例の一例の断面図である。
図14図14は、第1実施形態に係るプラズマ処理装置の変形例の一例の断面図である。
図15図15は、第1実施形態に係るプラズマ処理装置の変形例の一例の断面図である。
図16図16は、第2実施形態に係るプラズマ処理装置の一例の断面図である。
図17図17は、第2実施形態に係るプラズマ処理装置の一例の評価結果を示す図である。
図18図18は、第2実施形態に係るプラズマ処理装置の一例の評価結果を示す図である。
図19図19は、第2実施形態に係るプラズマ処理装置の一例の評価結果を示す図である。
図20図20は、第2実施形態に係るプラズマ処理装置の一例の評価結果を示す図である。
図21図21は、第2実施形態に係るプラズマ処理装置の一例の評価結果を示す図である。
図22図22は、第3実施形態に係るプラズマ処理装置の一例の断面図である。
図23図23は、第3実施形態に係るプラズマ処理装置の一例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付の図面を参照しながら、本開示の限定的でない例示の実施形態について説明する。添付の全図面中、同一又は対応する部材又は部品については、同一又は対応する参照符号を付し、重複する説明を省略する。
【0009】
また、理解を容易にするために、図面における各部の縮尺と、実際の縮尺とが異なる場合がある。平行、直角、直交、水平、垂直、上下、左右などの方向には、実施形態の効果を損なわない程度のずれが許容される。角部の形状は、直角に限られず、弓状に丸みを帯びてもよい。平行、直角、直交、水平、垂直には、略平行、略直角、略直交、略水平、略垂直が含まれてもよい。
【0010】
〔プラズマ処理システム〕
以下に、プラズマ処理システムの構成例について説明する。図1は、実施形態に係るプラズマ処理システムの一例を示す図である。
【0011】
プラズマ処理システムは、誘導結合プラズマ処理装置1及び制御部2を含む。誘導結合プラズマ処理装置1は、プラズマ処理チャンバ10、ガス供給部20、電源30及び排気システム40を含む。プラズマ処理チャンバ10は、誘電体窓を含む。また、プラズマ処理装置1は、基板支持部11、ガス導入部及びアンテナ14を含む。基板支持部11は、プラズマ処理チャンバ10内に配置される。アンテナ14は、プラズマ処理チャンバ10上又はその上方(すなわち誘電体窓101上又はその上方)に配置される。プラズマ処理チャンバ10は、誘電体窓101、プラズマ処理チャンバ10の側壁102及び基板支持部11により規定されたプラズマ処理空間10sを有する。プラズマ処理チャンバ10は、少なくとも1つの処理ガスをプラズマ処理空間10sに供給するための少なくとも1つのガス供給口と、プラズマ処理空間からガスを排出するための少なくとも1つのガス排出口とを有する。
【0012】
基板支持部11は、本体部111及びリングアセンブリ112を含む。本体部111は、基板(ウェハ)Wを支持するための中央領域(基板支持面)111aと、リングアセンブリ112を支持するための環状領域(リング支持面)111bとを有する。本体部111の環状領域111bは、平面視で本体部111の中央領域111aを囲んでいる。基板Wは、本体部111の中央領域111a上に配置され、リングアセンブリ112は、本体部111の中央領域111a上の基板Wを囲むように本体部111の環状領域111b上に配置される。一実施形態において、本体部111は、基台及び静電チャックを含む。基台は、導電性部材を含む。基台の導電性部材は下部電極として機能する。静電チャックは、基台の上に配置される。静電チャックの上面は、基板支持面111aを有する。リングアセンブリ112は、1又は複数の環状部材を含む。1又は複数の環状部材のうち少なくとも1つはエッジリングである。また、図示は省略するが、基板支持部11は、静電チャック、リングアセンブリ112及び基板のうち少なくとも1つをターゲット温度に調節するように構成される温調モジュールを含んでもよい。温調モジュールは、ヒータ、伝熱媒体、流路、又はこれらの組み合わせを含んでもよい。流路には、ブラインやガスのような伝熱流体が流れる。また、基板支持部11は、基板Wの裏面と基板支持面111aとの間に伝熱ガスを供給するように構成された伝熱ガス供給部を含んでもよい。
【0013】
ガス導入部は、ガス供給部20からの少なくとも1つの処理ガスをプラズマ処理空間10s内に導入するように構成される。一実施形態において、ガス導入部は、中央ガス注入部(CGI:Center Gas Injector)13を含む。中央ガス注入部13は、基板支持部11の上方に配置され、誘電体窓101に形成された中央開口部に取り付けられる。中央ガス注入部13は、少なくとも1つのガス供給口13a、少なくとも1つのガス流路13b、及び少なくとも1つのガス導入口13cを有する。ガス供給口13aに供給された処理ガスは、ガス流路13bを通過してガス導入口13cからプラズマ処理空間10s内に導入される。なお、ガス導入部は、中央ガス注入部13に加えて又はその代わりに、側壁102に形成された1又は複数の開口部に取り付けられる1又は複数のサイドガス注入部(SGI:Side Gas Injector)を含んでもよい。
【0014】
ガス供給部20は、少なくとも1つのガスソース21及び少なくとも1つの流量制御器22を含んでもよい。一実施形態において、ガス供給部20は、少なくとも1つの処理ガスを、それぞれに対応のガスソース21からそれぞれに対応の流量制御器22を介して中央ガス注入部13に供給するように構成される。各流量制御器22は、例えばマスフローコントローラ又は圧力制御式の流量制御器を含んでもよい。さらに、ガス供給部20は、少なくとも1つの処理ガスの流量を変調又はパルス化する1又はそれ以上の流量変調デバイスを含んでもよい。
【0015】
電源30は、少なくとも1つのインピーダンス整合回路を介してプラズマ処理チャンバ10に結合されるRF電源31を含む。RF電源31は、ソースRF信号及びバイアスRF信号のような少なくとも1つのRF信号(RF電力)を、基板支持部11の導電性部材及びアンテナ14に供給するように構成される。これにより、プラズマ処理空間10sに供給された少なくとも1つの処理ガスからプラズマが形成される。従って、RF電源31は、プラズマ処理チャンバ10において1又はそれ以上の処理ガスからプラズマを生成するように構成されるプラズマ生成部の少なくとも一部として機能し得る。また、バイアスRF信号を基板支持部11の導電性部材に供給することにより、基板Wにバイアス電位が発生し、形成されたプラズマ中のイオンを基板Wに引き込むことができる。
【0016】
一実施形態において、RF電源31は、第1のRF生成部31a及び第2のRF生成部31bを含む。第1のRF生成部31aは、アンテナ14に結合され、少なくとも1つのインピーダンス整合回路を介してプラズマ生成用のソースRF信号(ソースRF電力)を生成するように構成される。一実施形態において、ソースRF信号は、13MHz~150MHzの範囲内の周波数を有する。一実施形態において、第1のRF生成部31aは、異なる周波数を有する複数のソースRF信号を生成するように構成されてもよい。生成された1又は複数のソースRF信号は、アンテナ14に供給される。第2のRF生成部31bは、少なくとも1つのインピーダンス整合回路を介して基板支持部11の導電性部材に結合され、バイアスRF信号(バイアスRF電力)を生成するように構成される。一実施形態において、バイアスRF信号は、ソースRF信号よりも低い周波数を有する。一実施形態において、バイアスRF信号は、400kHz~13.56MHzの範囲内の周波数を有する。一実施形態において、第2のRF生成部31bは、異なる周波数を有する複数のバイアスRF信号を生成するように構成されてもよい。生成された1又は複数のバイアスRF信号は、基板支持部11の導電性部材に供給される。また、種々の実施形態において、ソースRF信号及びバイアスRF信号のうち少なくとも1つがパルス化されてもよい。
【0017】
また、電源30は、プラズマ処理チャンバ10に結合されるDC電源32を含んでもよい。DC電源32は、バイアスDC生成部32aを含む。一実施形態において、バイアスDC生成部32aは、基板支持部11の導電性部材に接続され、バイアスDC信号を生成するように構成される。生成されたバイアスDC信号は、基板支持部11の導電性部材に印加される。一実施形態において、バイアスDC信号が、静電チャック内の電極のような他の電極に印加されてもよい。種々の実施形態において、バイアスDC信号は、パルス化されてもよい。なお、バイアスDC生成部32aは、RF電源31に加えて設けられてもよく、第2のRF生成部31bに代えて設けられてもよい。
【0018】
アンテナ14は、1又は複数のコイルを含む。一実施形態において、アンテナ14は、同軸上に配置された外側コイル及び内側コイルを含んでもよい。この場合、RF電源31は、外側コイル及び内側コイルの双方に接続されてもよく、外側コイル及び内側コイルのうちいずれか一方に接続されてもよい。前者の場合、同一のRF生成部が外側コイル及び内側コイルの双方に接続されてもよく、別個のRF生成部が外側コイル及び内側コイルに別々に接続されてもよい。
【0019】
排気システム40は、例えばプラズマ処理チャンバ10の底部に設けられたガス排出口10eに接続され得る。排気システム40は、圧力調整弁及び真空ポンプを含んでもよい。圧力調整弁によって、プラズマ処理空間10s内の圧力が調整される。真空ポンプは、ターボ分子ポンプ、ドライポンプ又はこれらの組み合わせを含んでもよい。
【0020】
制御部2は、本開示において述べられる種々の工程をプラズマ処理装置1に実行させるコンピュータ実行可能な命令を処理する。制御部2は、ここで述べられる種々の工程を実行するようにプラズマ処理装置1の各要素を制御するように構成され得る。一実施形態において、制御部2の一部又は全てがプラズマ処理装置1に含まれてもよい。制御部2は、例えばコンピュータ2aを含んでもよい。コンピュータ2aは、例えば、処理部(CPU:Central Processing Unit)2a1、記憶部2a2、及び通信インターフェース2a3を含んでもよい。処理部2a1は、記憶部2a2に格納されたプログラムに基づいて種々の制御動作を行うように構成され得る。記憶部2a2は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、又はこれらの組み合わせを含んでもよい。通信インターフェース2a3は、LAN(Local Area Network)等の通信回線を介してプラズマ処理装置1との間で通信してもよい。
【0021】
<プラズマ処理装置における地磁気の影響>
最初に、プラズマ処理装置1における外部磁場の影響を説明する。図2及び図3は、プラズマ処理装置1における外部磁場の影響を説明する図である。なお、外部磁場の主な成分は、地磁気、もしくはプラズマ処理装置1に対して水平に透過する磁場である。以下、外部磁場を地磁気として説明する。図2は、プラズマ処理装置1を水平面に平行な平面でプラズマ処理装置1を切断した断面図である。図3は、プラズマ処理装置1を水平面に垂直な平面でプラズマ処理装置1を切断した断面図である。
【0022】
図2以降では、プラズマ処理装置1のプラズマ処理チャンバ10を模式的にプラズマ処理チャンバ200として示す。
【0023】
プラズマ処理チャンバ200は、例えば、アルミニウムにより形成される。アルミニウムは非磁性体であることから、プラズマ処理チャンバ200自体は磁束を遮蔽できない。したがって、地磁気MGは、プラズマ処理チャンバ200の内部に侵入する。
【0024】
例えば、プラズマの内の電子は、プラズマ処理チャンバ200の内部に侵入する地磁気MGにより、地磁気MGに垂直な方向に力FEが発生する。したがって、プラズマの内の電子は、矢印TEに示すように、プラズマ処理チャンバ200の片側に偏り、プラズマ密度の分布が偏ってしまう。すると、プラズマによって生成されるイオン密度分布も偏ってしまうことから、プラズマ処理チャンバ200内の場所によって、エッチングレートの分布が偏る。
【0025】
本実施形態に係るプラズマ処理装置は、プラズマ処理チャンバ200の外側の一部に磁気シールドを備えることにより、地磁気の影響を抑える。
【0026】
<第1実施形態>
第1実施形態に係るプラズマ処理装置120は、プラズマ処理チャンバ200の側面の外周側を特定の条件を満たすように覆う磁気シールド300を備える。
【0027】
図4は、第1実施形態に係るプラズマ処理装置の一例であるプラズマ処理装置120の横から見た断面図である。図5は、第1実施形態に係るプラズマ処理装置の一例であるプラズマ処理装置120の上から見た断面図である。
【0028】
図には、説明の便宜のため、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸(XYZ軸)からなる仮想3次元座標系(XYZ直交座標系)が設定される場合がある。ただし、当該座標系は、説明のために定めるものであって、プラズマ処理装置等の姿勢について限定するものではない。
【0029】
本開示では、特に説明しない限り、X軸方向及びY軸方向は、互いに垂直でプラズマ処理装置の載置面に平行な方向とする。Z軸は、X軸、Y軸に垂直な方向とする。なお、Z軸方向を上下方向という場合がある。また、対象に対して、+Z側を上側、-Z側を下側という場合がある。
【0030】
プラズマ処理装置は、水平方向に載置される。したがって、地磁気の磁界は、X軸及びY軸を含むXY平面に平行となる。
【0031】
プラズマ処理装置120は、プラズマ処理チャンバ200と、磁気シールド300と、を備える。
【0032】
プラズマ処理チャンバ200は、内部に空洞を有する円柱状の外観を有する。プラズマ処理チャンバ200は、上壁部210と、下壁部220と、側壁部230と、を有する。上壁部210及び下壁部220のそれぞれは、円盤状の形状を有する。側壁部230は、円筒状の形状を有する。
【0033】
プラズマ処理チャンバ200は、非磁性材料、例えば、アルミニウム等で形成される。プラズマ処理チャンバ200は、非磁性材料で形成されることから、地磁気はプラズマ処理チャンバ200内に侵入する。
【0034】
プラズマ処理チャンバ200の内側は、プラズマ処理空間200sとなっている。プラズマ処理空間200sは円柱形になっている。
【0035】
そこで、プラズマ処理装置120は、プラズマ処理チャンバ200内の地磁気の影響を除去するために磁気シールド300を有する。磁気シールド300は、磁性材料、例えば、パーマロイ、電磁ステンレス、鉄等により形成される。
【0036】
磁気シールド300は、円筒形の形状を有する。磁気シールド300は、プラズマ処理チャンバ200の側壁部230の周囲に離隔して設けられる。磁気シールド300は、上下が開放されている。すなわち、プラズマ処理チャンバ200の上及び下は、磁気シールド300が設けられていない部分を有する。
【0037】
磁気シールド300は、プラズマ処理チャンバ200のプラズマ処理空間200sを囲むように設けられる。すなわち、磁気シールド300は、側壁部230の外側の周囲に設けられる。磁気シールド300の上側から、地磁気がプラズマ処理空間200sに回り込む。プラズマ処理空間200sにおいて、回り込む地磁気(磁界)の影響を最も受ける場所は、上壁部210のプラズマ処理空間200s側の内面210Sの中心点Paである。なお、下壁部220の内面の中心点も同様である。そこで、中心点Paにおける地磁気の影響を調べた。
【0038】
地磁気の影響は、シミュレーションにより中心点Paにおける磁束密度を求めて、評価を行った。中心点Paにおける地磁気の影響を、磁気遮蔽係数MS(Magnetic Shield)で評価する。磁気遮蔽係数MSは、磁気シールド300がない場合の中心点Paにおける磁束密度B1に対する磁気シールド300がある場合の中心点Paにおける磁束密度B2の比である。具体的には、磁気遮蔽係数MSは、20Log(B1/B2)[dB]で表す。すなわち、磁気シールド300が地磁気を遮蔽している方が磁気遮蔽係数MSは大きくなる。
【0039】
磁気シールド300を構成する磁性材料の初比透磁率μiであるとする。また、磁気シールド300の厚さはt[m]とする。
【0040】
磁気シールドの磁気遮蔽係数MSは、磁気シールドの磁性材料の初比透磁率μiと、磁気シールドの厚さt[m]との積Pms[m]で定まる。例えば、プラズマ処理チャンバ200全体を磁気シールドで覆った場合に、磁気シールドの初比透磁率と厚さの積Pms[m]が20のときは、磁気遮蔽係数MSは約34[dB]である。また、プラズマ処理チャンバ200全体を磁気シールドで覆った場合に、磁気シールドの初比透磁率と厚さの積Pms[m]が60のときは、磁気遮蔽係数MSは約43[dB]である。
【0041】
ここで、中心点Paから磁気シールド300の上端部であって内側の端点Pb、すなわち、磁気シールド300の上側の開口300Uの内側の端の端点Pb、の距離をR[m]とする。また、内面210Sと、中心点Paと端点Pbとを結ぶ直線Lrと、がなす角をθ[°]とする。
【0042】
なお、角度θは、内面210Sに対して、プラズマ処理空間200sの反対側が正、プラズマ処理空間200s側が負とする。すなわち、角度θが正の場合は、磁気シールド300が側面視でプラズマ処理空間200sの上側まで延びていることを表す。角度θが負の場合は、磁気シールド300が側面視でプラズマ処理空間200sを覆わない部分があることを表す。
【0043】
また、内面210Sからの端点Pbの距離を、Hab[m]とする。なお、距離Habは、内面210Sより上側にあるときは正、内面210Sより下側にあるときは負とした。
【0044】
シミュレーションは、磁気シールドの初比透磁率と厚さの積Pms、距離R及び角度θのそれぞれを複数の条件で行いながら、中心点Paにおける磁束密度Bを求めた。そして、求めた磁束密度Bに基づいて、磁気遮蔽係数MSを算出した。
【0045】
具体的なシミュレーションの条件について説明する。プラズマ処理チャンバ200の側壁部230が有する外側面230S1の半径は、270[mm]とした。また、磁気シールド300の上端部の内側の辺の半径を280[mm]から470[mm]まで1[mm]又は2[mm]間隔で変化させた。更に、距離Habを-5[mm]から50[mm]まで1[mm]又は2[mm]間隔で変化させた。
【0046】
シミュレーションでは、磁気シールドの初比透磁率と厚さの積Pmsが、20、30、40、60及び100[m]の場合について、磁気シールド300の上端部の内側の辺の半径と、距離Hab、すなわち、角度θと、を組み合わせで合計341点において、磁気遮蔽係数MSを求めた。
【0047】
シミュレーションを行った結果を、図6図7及び図8に示す。図6図7及び図8のそれぞれの横軸は、角度θ[°]を表す。図6図7及び図8のそれぞれの縦軸は、磁気遮蔽係数MS[dB]を表す。
【0048】
なお、図6は磁気シールドの初比透磁率と厚さの積Pmsが20[m]の場合の結果、図7は磁気シールドの初比透磁率と厚さの積Pmsが60[m]の場合の結果、図8は磁気シールドの初比透磁率と厚さの積Pmsが100[m]の場合の結果、である。磁気シールドの初比透磁率と厚さの積Pmsが30及び40[m]の場合については、グラフは省略する。
【0049】
図6図7及び図8の結果によれば、磁気遮蔽係数MSは、距離Rに依存せずに、磁気シールドの初比透磁率と厚さの積Pms及び角度θの関数となると判断できる。
【0050】
また、図7の磁気シールドの初比透磁率と厚さの積Pmsが60[m]の場合の結果は、シミュレーションのプラズマ処理チャンバ200の大きさの影響を調べるために、プラズマ処理チャンバ200の大きさを半分にしたデータもプロットした。白丸の点は、プラズマ処理チャンバ200の大きさを半分にしたデータを表す。
【0051】
図7より、プラズマ処理チャンバ200の大きさに限らず、同様の結果となった。すなわち、プラズマ処理チャンバ200の大きさに関係なく、同様の結果が得られた。
【0052】
磁気シールドの初比透磁率と厚さの積Pmsが、20、30、40、60及び100[m]のそれぞれの測定結果について、角度θを説明変数、磁気遮蔽係数MSを目的変数として、二次多項式による回帰分析を行った。回帰分析により、下記の式1の係数a、係数b及び係数cを求めた。
【0053】
MS = a×θ+b×θ+c ・・・(式1)
【0054】
求めた係数を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
式1に基づいて、磁気シールドの初比透磁率と厚さの積Pmsが、20、30、40、60及び100[m]の場合に、磁気遮蔽係数MSが20[dB]になる角度θaを求めた。求めた結果を、表2及び図9に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
また、表2の結果を、磁気シールドの初比透磁率と厚さの積Pmsを説明変数、角度θa[°]を目的変数として、二次多項式による回帰分析を行った。その結果を式2に示す。
【0059】
θa = 764×Pmc-2+179×Pmc-1+21.3 ・・・(式2)
【0060】
したがって、下記の式3を満たす角度θ[°]となるように、磁気シールド300を形成することにより、磁気遮蔽係数MSを概略20dB以上にできる。
【0061】
θ > 764×Pmc-2+179×Pmc-1+21.3 ・・・(式3)
【0062】
式3を満たす角度θの磁気シールド300を用いると、磁気遮蔽係数MSが20[dB]程度となる。磁気遮蔽係数MSが20[dB]の場合は、エッチングレートのスキューが0.5~1.2%程度となった。一方、磁気シールド300がない場合は、エッチングレートのスキューが2.8~5.3%程度となった。したがって、磁気遮蔽係数MSを20[dB]程度とすることにより、エッチングレートのスキューを改善することができた。
【0063】
式1に基づいて、磁気シールドの初比透磁率と厚さの積Pmsが、20、30、40、60及び100[m]の場合に、磁気遮蔽係数MSが8[dB]になる角度θbを求めた。求めた結果を、表3及び図10に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
また、表3の結果を、磁気シールドの初比透磁率と厚さの積Pmsを説明変数、角度θbを目的変数として、二次多項式による回帰分析を行った。その結果を式4に示す。
【0066】
θb = 4200×Pmc-2-96×Pmc-1-3.8 ・・・(式4)
【0067】
したがって、下記の式5を満たす角度θ[°]となるように、磁気シールド300を形成することにより、磁気遮蔽係数MSを概略8dB以上にできる。
【0068】
θ > 4200×Pmc-2-96×Pmc-1-3.8 ・・・(式5)
【0069】
<変形例1>
第1実施形態に係るプラズマ処理装置120の変形例であるプラズマ処理装置121について説明する。図11は、第1実施形態に係るプラズマ処理装置の変形例の一例であるプラズマ処理装置121の横から見た断面図である。
【0070】
プラズマ処理装置121は、プラズマ処理装置120の磁気シールド300に換えて、磁気シールド301を備える。
【0071】
磁気シールド301は、筒部301Sと、上面部301Tと、を有する。筒部301Sは、プラズマ処理チャンバ200の外側面230S1に平行に設けられる。筒部301Sは、筒状の形状を有する。
【0072】
上面部301Tは、筒部301Sの上側を覆う。上面部301Tは、中央に開口301Uを有する。
【0073】
プラズマ処理装置121では、中心点Paと、開口301Uの内側の端の端点Pbと、を結ぶ直線Lrにより、角度θを定義する。そして、当該角度θが式3又は式5を満たすように、角度θを定める。
【0074】
<変形例2>
第1実施形態に係るプラズマ処理装置120の変形例であるプラズマ処理装置122について説明する。図12は、第1実施形態に係るプラズマ処理装置の変形例の一例であるプラズマ処理装置122の横から見た断面図である。
【0075】
プラズマ処理装置122は、プラズマ処理装置120の磁気シールド300に換えて、磁気シールド302を備える。
【0076】
磁気シールド302は、筒部302S1と、上面部302T1と、筒部302S2と、上面部302T2を有する。筒部302S1は、プラズマ処理チャンバ200の外側面230S1に平行に設けられる。筒部302S1は、筒状の形状を有する。
【0077】
上面部302T1は、筒部302S1の上側を覆う。更に、上面部302T1に、プラズマ処理チャンバ200の外側面230S1に平行な筒部302S2が設けられる。更にまた、筒部302S2に、上面部302T2が設けられる。また、上面部302T2には、開口302Uが設けられる。
【0078】
上述のように、プラズマ処理装置122の磁気シールド302は、上部に段差を有する。
【0079】
プラズマ処理装置122では、中心点Paと、開口302Uの内側の端の端点Pbと、を結ぶ直線Lrにより、角度θを定義する。そして、当該角度θが式3又は式5を満たすように、角度θを定める。
【0080】
<変形例3>
次に、第1実施形態に係るプラズマ処理装置120の変形例であるプラズマ処理装置123、プラズマ処理装置124及びプラズマ処理装置125について説明する。図13図14及び図15は、それぞれ第1実施形態に係るプラズマ処理装置の変形例の一例であるプラズマ処理装置123、プラズマ処理装置124及びプラズマ処理装置125の上から見た断面図である。
【0081】
プラズマ処理装置120の磁気シールド300は、中心点Paに対して開口が等距離、すなわち、Z軸に対して等距離となっているが、磁気シールドの形状は中心点Paに対して開口が等距離、すなわち、Z軸に対して等距離となる形状に限らない。
【0082】
プラズマ処理装置123は、プラズマ処理装置120の磁気シールド300に換えて、上面視で形状が楕円形となる筒状の磁気シールド311(図13)を備える。また、プラズマ処理装置124は、プラズマ処理装置120の磁気シールド300に換えて、上面視で形状が四角形となる筒状の磁気シールド312(図14)を備える。更に、プラズマ処理装置125は、プラズマ処理装置120の磁気シールド300に換えて、上面視で形状が五角形となる筒状の磁気シールド313(図15)を備える。
【0083】
磁気シールドの中心点Paに対する影響は、角度θが一番小さい場所の影響が大きい。例えば、磁気シールドが上面視で中心点Paに対して等距離ではない場合、磁気シールドの高さが場所によらず一定とすると、中心点Paから一番離れた点で角度θが一番小さくなる。角度θが一番小さい場所が、中心点Paにおける地磁気の遮蔽性能への影響が大きい。したがって、磁気シールドの形状は中心点Paに対して開口が等距離ではない場合は、中心点Paから一番離れた端点Pbにおける角度θが、式3又は式5を満たすように、角度θを定める。
【0084】
<第2実施形態>
第2実施形態に係るプラズマ処理装置126は、プラズマ処理チャンバ200の側面の外周側を特定の条件を満たすように覆う磁気シールド400及び磁気シールド410を備える。プラズマ処理チャンバ200の側面に、磁気シールド400及び磁気シールド410が間隔をあけて設けられる。すなわち、プラズマ処理装置126は、プラズマ処理空間200sの側方にスリットを有する磁気シールドを備える。
【0085】
図16は、第2実施形態に係るプラズマ処理装置の一例であるプラズマ処理装置126の横から見た断面図である。
【0086】
プラズマ処理装置126は、プラズマ処理チャンバ200と、磁気シールド400及び磁気シールド410と、を備える。プラズマ処理装置126は、プラズマ処理チャンバ200内の地磁気の影響を除去するために磁気シールド400及び磁気シールド410を備える。磁気シールド400及び磁気シールド410は、磁性材料、例えば、パーマロイ、電磁ステンレス、鉄等により形成される。
【0087】
磁気シールド400及び磁気シールド410のそれぞれは、厚さtの円筒状である。磁気シールド410は、磁気シールド400との間に、間隔をあけて設けられる。また、磁気シールド400は、磁気シールド410よりZ軸に対して半径が大きくなっている。
【0088】
磁気シールド400及び磁気シールド410は、間隔をあけて設けられる。したがって、プラズマ処理チャンバ200の側面側に、磁気シールド400及び磁気シールド410のいずれもが設けられていない部分を有する。なお、磁気シールド400及び磁気シールド410のそれぞれの上下方向の幅は、地磁気がプラズマ処理チャンバ200内に回り込まないように十分大きいとする。
【0089】
磁気シールド400及び磁気シールド410は、プラズマ処理チャンバ200のプラズマ処理空間200sを囲むように設けられる。磁気シールド400と磁気シールド410の間から、地磁気がプラズマ処理空間200sに侵入する。プラズマ処理空間200sにおいて、侵入する地磁気(磁界)の影響を受ける場所は、側壁部230の内側面230S2の中間点Pcである。そこで、中間点Pcにおける地磁気の影響を調べた。
【0090】
地磁気の影響は、シミュレーションにより行った。中間点Pcにおける地磁気の影響を、磁気遮蔽係数MS(Magnetic Shield)で評価する。磁気遮蔽係数MSは、磁気シールド300がない場合の中間点Pcにおける磁束密度B1に対する磁気シールド400及び磁気シールド410がある場合の中間点Pcにおける磁束密度B2の比である。具体的には、磁気遮蔽係数MSは、20Log(B1/B2)[dB]で表す。すなわち、数値が大きい方が磁気遮蔽係数MSは大きくなる。
【0091】
磁気シールド400及び磁気シールド410のそれぞれを構成する磁性材料の初比透磁率μiであるとする。また、磁気シールド400及び磁気シールド410のそれぞれの厚さはt[m]とする。
【0092】
ここで、中間点Pcから磁気シールド400の上端部であって内側の端点Pdまでの距離をRcd[m]とする。また、中間点Pcから磁気シールド410の下端部であって内側の端点Peまでの距離をRce[m]とする。更に、中間点Pcを通る内面210Sと平行な面と、中間点Pcと端点Pdとを結ぶ直線Lr1と、がなす角と、中間点Pcを通る内面210Sと平行な面と、中間点Pcと端点Peとを結ぶ直線Lr2と、がなす角は、等しく、角度θ[°]とする。
【0093】
また、距離Rcdと、距離Rceとの比、すなわち、Rcd/Rceを、比pとした。
【0094】
シミュレーションは、磁気シールドの初比透磁率と厚さの積Pms、比p、距離R及び角度θのそれぞれを複数の条件で行いながら、中間点Pcにおける磁束密度Bを求めた。そして、求めた磁束密度Bに基づいて、磁気遮蔽係数MSを算出した。
【0095】
具体的なシミュレーションの条件について説明する。プラズマ処理チャンバ200の側壁部230が有する外側面230S1の半径は、270[mm]とした。また、磁気シールド410の距離Rceを10、20及び100[mm]の3条件で変更した。また、比pを1、1.5、2の3条件で変更した。更に、角度θを10[°]から80[°]まで5[°]間隔で変化させた。
【0096】
シミュレーションでは、磁気シールドの初比透磁率と厚さの積Pmsが、20、60及び100[m]の場合について、距離Rceと、角度θと、比pを組み合わせで合計44点において、磁気遮蔽係数MSを求めた。
【0097】
シミュレーションを行った結果を、図17図18及び図19に示す。図17図18及び図19のそれぞれの横軸は、角度θ[°]を表す。図17図18及び図19のそれぞれの縦軸は、磁気遮蔽係数MS[dB]を表す。
【0098】
なお、図17は磁気シールドの初比透磁率と厚さの積Pmsが20[m]の場合の結果、図18は磁気シールドの初比透磁率と厚さの積Pmsが60[m]の場合の結果、図19は磁気シールドの初比透磁率と厚さの積Pmsが100[m]の場合の結果、である。
【0099】
図17図18及び図19の結果によれば、磁気遮蔽係数MSは、距離Rcd及びRceに依存せずに、磁気シールドの初比透磁率と厚さの積Pms、比p及び角度θの関数となると判断できる。
【0100】
磁気シールドの初比透磁率と厚さの積Pmsが、20、60及び100[m]のそれぞれの測定結果について、比pが1、1.5及び2の場合に、角度θを説明変数、磁気遮蔽係数MSを目的変数として、多項式による回帰分析を行った。回帰分析により、下記の式6の係数d、係数e、係数f及び係数gを求めた。
【0101】
MS = d×θ-1+e×θ+f×θ+g ・・・(式6)
【0102】
求めた係数を表4及び表5に示す。
【0103】
【表4】
【0104】
【表5】
【0105】
式6に基づいて、磁気シールドの初比透磁率と厚さの積Pmsが、20、60及び100[m]、比pが1、1.5及び2の場合に、磁気遮蔽係数MSが20[dB]になる角度θcを求めた。求めた結果を、表6及び図20に示す。
【0106】
【表6】
【0107】
また、表6の結果を、磁気シールドの初比透磁率と厚さの積Pms及び比pを説明変数、角度θcを目的変数として、二次多項式による回帰分析を行った。その結果を式7に示す。
【0108】
θc = 25.4-0.265×p+8.35×10-2×Pmc+
(-1.58)×p+5.87×10-3×p×Pmc+
(-5.17)×10-4×Pmc ・・・(式7)
【0109】
したがって、下記の式8を満たす角度θ[°]となるように、磁気シールド400及び磁気シールド410を形成することにより、磁気遮蔽係数MSを概略20dB以上にできる。
【0110】
θ < 25.4-0.265×p+8.35×10-2×Pmc+
(-1.58)×p+5.87×10-3×p×Pmc+
(-5.17)×10-4×Pmc ・・・(式8)
【0111】
また、式6に基づいて、磁気シールドの初比透磁率と厚さの積Pmsが、20、60及び100[m]、比pが1、1.5及び2の場合に、磁気遮蔽係数MSが8[dB]になる角度θdを求めた。求めた結果を、表7及び図21に示す。
【0112】
【表7】
【0113】
また、表7の結果を、磁気シールドの初比透磁率と厚さの積Pms及び比pを説明変数、角度θdを目的変数として、二次多項式による回帰分析を行った。その結果を式9に示す。
【0114】
θd = 53.2-0.208×p+1.87×10-2×Pmc+
(-0.855)×p+1.75×10-3×p×Pmc+
(-1.19)×10-4×Pmc ・・・(式9)
【0115】
したがって、下記の式10を満たす角度θ[°]となるように、磁気シールド400及び磁気シールド410を形成することにより、磁気遮蔽係数MSを概略8dB以上にできる。
【0116】
θ < 53.2-0.208×p+1.87×10-2×Pmc+
(-0.855)×p+1.75×10-3×p×Pmc+
(-1.19)×10-4×Pmc ・・・(式10)
【0117】
なお、磁気シールド400は第1磁気シールドの一例、磁気シールド410は第2磁気シールドの一例である。直線Lr1は第1線の一例、直線Lr2は第2線の一例である。
【0118】
プラズマ処理装置126は、磁気シールド400及び磁気シールド410の2個の磁気シールドを用いているが、磁気シールドの数は、2個に限らず、3個以上あってもよい。すなわち、磁気シールドのスリットの数は、2個以上でもよい。
【0119】
<第3実施形態>
第1実施形態に係るプラズマ処理装置の磁気シールドと、第2実施形態に係るプラズマ処理装置の磁気シールドとの組み合わせた第3実施形態に係るプラズマ処理装置について説明する。
【0120】
図22は、第3実施形態に係るプラズマ処理装置の一例であるプラズマ処理装置127の横から見た断面図である。
【0121】
プラズマ処理装置127は、プラズマ処理チャンバ200と、磁気シールド401及び磁気シールド411と、を備える。
【0122】
磁気シールド411は、開口411Uを有する。第1実施形態において説明したように、開口411Uに寸法については、内面210Sに対する、内面の中心点Paと端点Pbとを結ぶ直線Lrの角度θ1が式3又は式5の角度θを満たすようにする。
【0123】
また、磁気シールド401及び磁気シールド411の間隔は、中間点Pcを通る内面210Sと平行な面と、中間点Pcと端点Pdとを結ぶ直線Lr1と、がなす角と、中間点Pcを通る内面210Sと平行な面と、中間点Pcと端点Peとを結ぶ直線Lr2と、がなす角は、等しく、角度θ2[°]であるとすると、角度θ2が式8又は式10のθを満たすようにする。
【0124】
なお、図23に示すプラズマ処理装置128の磁気シールド402及び磁気シールド412のように、磁気シールド402と、磁気シールド412とで大きさが異なっていてもよい。
【0125】
[作用・効果]
本実施形態に係るプラズマ処理装置の磁気シールドによれば、プラズマ処理装置における外部磁場による影響を抑えることができる。特に、プラズマ処理装置の全体を覆うことなく、磁気シールドによりプラズマ処理装置の一部を覆うことによって、プラズマ処理装置における外部磁場による影響を抑えることができる。
【0126】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【0127】
また、外部磁場として地磁気を例にして説明したが、これに限定されない。例えば、隣接する装置からの漏れ磁場などであってもよい。本実施形態に係るプラズマ処理装置の磁気シールドを用いることによって、これらの漏れ磁場の水平成分の影響に対して同様な効果が得られる。
【符号の説明】
【0128】
1、120、121、122、123、124、125、126、127、128 プラズマ処理装置
10、200 プラズマ処理チャンバ
200s プラズマ処理空間
210 上壁部
210S 内面
220 下壁部
230 側壁部
230S1 外側面
230S2 内側面
300、301、302、311、312、313 磁気シールド
400、401、402、410、411、412 磁気シールド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23