(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】温度計
(51)【国際特許分類】
G01J 5/02 20220101AFI20241001BHJP
G01J 5/04 20060101ALI20241001BHJP
G01J 5/05 20220101ALI20241001BHJP
【FI】
G01J5/02 J
G01J5/04
G01J5/05
(21)【出願番号】P 2022500344
(86)(22)【出願日】2021-02-03
(86)【国際出願番号】 JP2021003868
(87)【国際公開番号】W WO2021161862
(87)【国際公開日】2021-08-19
【審査請求日】2023-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2020021813
(32)【優先日】2020-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、農林水産省、知の集積と活用の場に係る委託業務、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100132698
【氏名又は名称】川分 康博
(74)【代理人】
【識別番号】100221372
【氏名又は名称】岡崎 信治
(72)【発明者】
【氏名】中西 保之
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 直博
(72)【発明者】
【氏名】水田 雅夫
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-035326(JP,A)
【文献】特開2003-035601(JP,A)
【文献】特開2001-318003(JP,A)
【文献】特開2001-317996(JP,A)
【文献】特開平06-341906(JP,A)
【文献】米国特許第04904090(US,A)
【文献】特開平10-281864(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0030000(KR,A)
【文献】特開2012-177556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 1/00 - G01J 1/60
G01J 5/00 - G01J 5/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部空間に存在する測定対象から発生する赤外線の強度に基づいて前記測定対象の温度を測定する温度計であって、
前記赤外線を検出する赤外線センサーと、前記赤外線センサーに前記赤外線を受光させるレンズと、
を第3筐体に収納する放射温度計と、
前記放射温度計を内部空間に収納する第1筐体と、
前記第1筐体に設けられ、前記レンズと前記外部空間とを貫通させる第1開口と、
前記第1筐体の内部空間の温度を、前記外部空間の温度で上限となる温度よりも高い第1温度で安定させる温度維持装置と、
前記第1筐体の壁面に接触しないよう内部空間に前記第1筐体を収納する第2筐体と、
前記第2筐体において前記第1開口に対応する位置に設けられ、前記第1開口と共に前記レンズと前記外部空間とを貫通させる第2開口と、
を備える、温度計。
【請求項2】
前記第2筐体を冷却する冷却装置をさらに備える、請求項1に記載の温度計。
【請求項3】
前記赤外線センサーは、
前記赤外線を受光して熱を発生する受光部材と、
基準温度と前記受光部材の温度との差分に応じた熱起電力を発生する熱電対と、
を有する、請求項1又は2に記載の温度計。
【請求項4】
前記放射温度計を載置する載置部材をさらに備え、
前記温度維持装置は前記載置部材に固定される、請求項1~3のいずれかに記載の温度計。
【請求項5】
前記第1筐体の内部空間の温度が前記第1温度よりも所定の温度だけ高い第2温度になったら、前記温度維持装置を停止させる停止装置をさらに備える、請求項1~4のいずれかに記載の温度計。
【請求項6】
前記第1筐体は金属又は樹脂にて構成される、請求項1~5のいずれかに記載の温度計。
【請求項7】
前記測定対象の動きを制限する制限部材をさらに備える、請求項1~6のいずれかに記載の温度計。
【請求項8】
前記外部空間はミストを含む、請求項1~7のいずれかに記載の温度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部空間に存在する測定対象から発生する赤外線の強度に基づいて、測定対象の温度を測定する温度計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物体から発生する赤外線の強度に基づいて、当該物質の温度を非接触にて測定できる温度計が知られている(例えば、特許文献1を参照)。この温度計は、放射温度計と呼ばれている。放射温度計は、物体から発生する赤外線を検出する赤外線センサーと、当該赤外線をセンサーに受光させるレンズと、を備え、非接触にて容易に温度を測定できる。このため、放射温度計は、例えば、各種プラントにて製造されている製品等、温室で栽培されている植物等の温度を測定するために使用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
放射温度計は、非接触にて容易に測定対象物の温度が測定できる一方、設置される外部空間の温度変動が大きいなどの過酷な環境下では、温度を正確に測定できなくなることがある。
また、外部空間に水滴(ミスト)が存在し、これが放射温度計のレンズ表面に付着すると、測定対象物から放出される赤外線を適切に赤外センサーに受光できなくなる。その結果、温度が正確に測定できなくなることがある。
【0005】
特許文献1では、ハウジングの窓部に圧縮気体を排出して、この窓部に付着したダストを除去している。このように窓部に気体を排出すれば、窓部への水滴の付着を防止できるとも考えられるが、放射温度計が測定対象の近傍に配置された場合には、排出された気体が測定対象に当たってしまい、測定対象に対して悪影響を与えるか、測定対象に当たった気体が測定対象の温度を正確に測定できなくする。
【0006】
また、外部空間の温度変動が大きいと、当該温度変動により赤外線センサー自体の温度も変動し、赤外線センサーから出力される信号がこの温度変動に従って変動する。その結果、外部空間の実際の温度とは異なる温度を測定結果として出力することがある。
【0007】
本発明の目的は、過酷な環境下の外部空間に存在する測定対象の温度を、当該測定対象から発生する赤外線に基づいて正確に測定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下に、課題を解決するための手段として複数の態様を説明する。これら態様は、必要に応じて任意に組み合せることができる。
本発明の一見地に係る温度計は、外部空間に存在する測定対象から発生する赤外線の強度に基づいて、測定対象の温度を測定する。この温度計は、放射温度計と、第1筐体と、第1開口と、温度維持装置と、を備える。
放射温度計は、赤外線を検出する赤外線センサーと、赤外線センサーに赤外線を受光させるレンズと、を有する。第1筐体は、放射温度計を内部空間に収納する。第1開口は、第1筐体に設けられ、レンズと外部空間とを貫通させる。温度維持装置は、第1筐体の内部空間の温度を、外部空間の温度で上限となる温度よりも高い第1温度で安定させる。
これにより、第1筐体の内部空間から過剰な流量の気体が排出されるのを回避しつつ、内部空間で暖められた空気が開口を通して排出され、外部からの水滴の浸入を防ぎレンズに水滴が付着することを防止できる。また、上記の温度計では、外部空間の温度が変動しても、内部空間の温度がほぼ一定に保たれるので、赤外線センサーから出力される信号が外部空間の温度変動に従って変動することを回避できる。これらの結果、上記の温度計は、過酷な環境下の外部空間に存在する測定対象の温度を正確に測定できる。
【0009】
温度計は、第2筐体と第2開口をさらに備えてもよい。第2筐体は、第1筐体を収納する。第2開口は、第2筐体において第1開口に対応する位置に設けられ、第1開口と共にレンズと外部空間とを貫通させる。
これにより、第1筐体の内部空間の温度が、外部空間の温度変動の影響を受けることを抑制できる。
【0010】
温度計は、第2筐体を冷却する冷却装置をさらに備えてもよい。これにより、外部空間の温度により、第1筐体の内部空間の温度が影響を受けることを抑制できる。
【0011】
赤外線センサーは、赤外線を受光して熱を発生する受光部材と、基準温度と受光部材の温度の差分に応じた熱起電力を発生する熱電対と、を有してもよい。
第1筐体の内部空間の温度を第1温度に維持することにより、上記基準温度の温度変動を抑制し、測定対象の温度を正確に測定できる。
【0012】
温度計は、放射温度計を載置する載置部材をさらに備えてもよい。この場合、温度維持装置は、載置部材に固定される。
これにより、より確実に放射温度計の温度を第1温度に維持できる。
【0013】
温度計は、第1筐体の内部空間の温度が第1温度よりも所定の温度だけ高い第2温度になったら、温度維持装置を停止させる停止装置をさらに備えてもよい。
これにより、第1筐体の内部空間の温度が第2温度以上と高温になることを抑制して、赤外線センサーにて異常が発生することを抑制できる。
【0014】
第1筐体は、金属又は樹脂にて構成されてもよい。これにより、外部空間が過酷な環境であっても、第1筐体が劣化することを抑制できる。
【0015】
温度計は、測定対象の動きを制限する制限部材をさらに備えてもよい。これにより、放射温度計と測定対象との位置関係を固定して、測定対象の特定部分の温度を連続して測定できる。
【0016】
外部空間はミストを含んでもよい。第1筐体の内部空間の温度を、外部空間の温度よりも高い第1温度に維持することにより、第1筐体の内部空間の圧力を外部空間の圧力よりも高くして、外部空間に含まれるミストが第1筐体の内部空間に侵入することを抑制できる。その結果、放射温度計のレンズに水滴が付着することを抑制できる。
【発明の効果】
【0017】
外部空間の大気の進入を抑制して放射温度計のレンズ表面に水滴が付着するのを抑制しつつ、赤外線センサーが外部空間の温度変動の影響を受けることを抑制できる。これらの結果、過酷な環境下の外部空間に存在する測定対象の温度を正確に測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態に係る温度計が設置される温室の一例を示す図。
【
図7】温度計による測定対象の温度の実測結果の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.第1実施形態
(1)温度計の概略説明
以下、第1実施形態に係る温度計100を説明する。本実施形態に係る温度計100は、例えば
図1に示すような温室G(ビニールハウス)において、育成対象の野菜、果物等が植えられた場所Pに設置される。温度計100は、育成対象の野菜、果物等の葉温、実(果実)の温度を測定する。
図1は、第1実施形態に係る温度計が設置される温室の一例を示す図である。
【0020】
温室Gには、上記野菜、果物等を育成するための設備(例えば、潅水システム、温調設備、ミスト噴霧装置)が設けられている。本実施形態の温室Gは、例えば、高温地帯では育成が困難な野菜(例えば、トマト)や果物(例えば、いちご)を育成するためのものであり、ミスト噴霧がなされる。従って、本実施形態の温度計100は、このようなミストが存在する環境においても葉温や実の温度を適切に測定できる構成を有している。このように、ミストが存在する温室Gにて育成されている野菜、果物等の葉温や実の温度を測定することは、糖度が高いなどの高品質の野菜、果物などを育成するために非常に重要である。
【0021】
(2)温度計の具体的構成
以下、
図2及び
図3を用いて、本実施形態に係る温度計100の具体的構成を説明する。
図2は、第1実施形態に係る温度計の斜視図である。
図3は、第1実施形態に係る温度計の分解図である。
本実施形態に係る温度計100は、放射温度計1を備えている。放射温度計1は、外部空間に存在する測定対象M(例えば、野菜又は果物の実、葉)(
図4)から発生する赤外線IR(
図4)の強度に基づいて、当該測定対象Mの温度を測定する。放射温度計1は、測定対象Mから発生する赤外線を検出する赤外線センサー13(
図4)と、赤外線センサー13に赤外線を受光させるレンズ11(
図4)と、を有する。なお、放射温度計1のより詳細な構成については、後ほど説明する。
【0022】
放射温度計1は、温度計100の内部において金属(例えば、アルミニウム)製の載置部材2に載置されている。載置部材2は、固定部材2aに固定されることで、温度計100の第1底部材4a及び第2底部材5aに取り付けられる。また、この載置部材2の底部にはヒーター3(温度維持装置の一例)が固定されている。さらに、載置部材2には、載置部材2の温度を測定するための温度センサー(例えば、熱電対)(図示せず)が設けられる。
【0023】
ヒーター3は、上記温度センサーにて載置部材2の温度を測定しつつ温度コントローラ3aにより制御されることで、載置部材2の温度を、温度コントローラ3aで設定した所定の温度で安定させる。温度コントローラ3aは、ヒーター駆動部3bに対して温度を調整する制御信号を出力する。ヒーター駆動部3bは、温度コントローラ3aから受信した制御信号に基づいた電力を、ヒーター3に供給する。ヒーター駆動部3bは、例えば、SSR(Solid State Relay)などのヒーター3への電力を調整して出力する装置である。
【0024】
載置部材2の温度を所定の温度で安定させることで、放射温度計1の温度を当該所定の温度で安定とできる。それと同時に、載置部材2の温度を安定させることで、放射温度計1を収納した第1内部空間S1の温度を安定にできる。
【0025】
載置部材2には、サーモスタット3c(停止装置の一例)が固定されている。サーモスタット3cは、載置部材2の温度が過大となることを防止する。具体的には、サーモスタット3cは、載置部材2の温度が第2温度T2(例えば、60°C)以上となったときに、ヒーター駆動部3bからヒーター3への電力供給を停止する。これにより、載置部材2の温度が過大となり、放射温度計1の故障を防ぐことができる。
【0026】
温度計100は、第1蓋部材4bを備える。第1蓋部材4bは、底部が開口した中空の立体形状を有しており、当該底部において第1底部材4aに固定される。第1底部材4aに第1蓋部材4bが固定されることにより、第1内部空間S1を有する第1筐体4が形成される。すなわち、第1筐体4は、第1内部空間S1に放射温度計1を収納する。また、第1筐体4(第1蓋部材4b)は、放射温度計1のレンズ11に対応する位置に第1開口O1を有している。
本実施形態において、第1底部材4a及び第1蓋部材4b(第1筐体4)は、例えば、金属、樹脂等の材料で構成される。これにより、外部空間が過酷な環境であっても、第1筐体4が劣化することを抑制できる。
【0027】
温度計100は、第2蓋部材5bを備える。第2蓋部材5bは、底部が開口した中空の立体形状を有しており、当該底部において第2底部材5aに固定される。第2底部材5aに第2蓋部材5bが固定されることにより、第2内部空間S2を有する第2筐体5が形成される。すなわち、第2筐体5は、第2内部空間S2に第1筐体4(及び放射温度計1)を収納する。また、第2筐体5(第2蓋部材5b)は、放射温度計1のレンズ11に対応する位置に第2開口O2を有している。
本実施形態において、第2底部材5a及び第2蓋部材5b(第2筐体5)は、アルミニウム製である。これにより、温度計100の重量を軽くできる。
【0028】
なお、第2筐体5(第2蓋部材5b)の底部には、三脚固定部6が設けられている。温度計100を所定の高さに固定して使用する場合には、この三脚固定部6に三脚を固定して、温度計100の設置高さを調整できる。
【0029】
上記構成を有することにより、本実施形態に係る温度計100では、放射温度計1が第1筐体4の第1内部空間S1に収納され、当該第1内部空間S1の温度はヒーター3により安定化される。これにより、外部空間の温度が変動しても、第1内部空間S1の温度はほぼ一定に保たれるので、放射温度計1は、外部空間の温度変動に影響されず、かつ、温度が安定化された第1内部空間S1中で動作できる。その結果、放射温度計1の赤外線センサー13から出力される信号が、外部空間の温度変動に従って変動することを回避できる。
また、第1筐体4及び放射温度計1は、第2筐体5の第2内部空間S2に収納されている。すなわち、放射温度計1は、第1筐体4と第2筐体5とによる「入れ子」状の二重構造の最も内側である第1内部空間S1内に収納されている。これにより、第1筐体4の第1内部空間S1の温度が、外部空間の温度変動の影響を受けることをさらに抑制できる。
【0030】
(3)放射温度計の構成
次に、
図4及び
図5を用いて、第1内部空間S1に収納される放射温度計1の具体的な構成を説明する。
図4は、放射温度計の構成を示す図である。
図5は、赤外線センサーの構成を示す図である。放射温度計1は、測定対象Mから発生する赤外線を受光し、受光した赤外線の強度に基づいて、測定対象Mの温度を測定する装置である。
放射温度計1は、レンズ11と、赤外線センサー13と、信号変換器15と、演算部17と、を有する。レンズ11は、測定対象Mから発生する赤外線IRを、赤外線センサー13の受光部材131(
図5)に受光させる。具体的には、レンズ11は、赤外線IRを受光部材131の表面に集光させる。
【0031】
赤外線センサー13は、レンズ11により集光された赤外線IRを検出し、受光した赤外線IRの強度に基づいた信号を出力する。赤外線センサー13は、例えばサーモパイルであり、
図5に示すような構成を有する。すなわち、赤外線センサー13は、受光部材131と、熱電対133と、出力端子135と、を有する。
受光部材131の表面には、レンズ11にて集光された赤外線IRが照射される。受光部材131は、表面に照射された赤外線IRの強度に応じた熱を発生する部材である。なお、受光部材131の赤外線IRが照射される表面には、赤外線IRを吸収しやすい物質(例えば、金の微粒子)が塗布されている。
【0032】
熱電対133は、受光部材131の温度と基準温度(冷接点CPの温度)との差分に基づく熱起電力を出力する。具体的には、熱電対133は、複数の第1金属部材133aと複数の第2金属部材133bとを有する。各第1金属部材133a及び各第2金属部材133bの一端が受光部材131において互いに接続されている。一方、各第1金属部材133a及び各第2金属部材133bの他端が冷接点CP(例えば、放射温度計1の本体)において互いに接続されている。
【0033】
すなわち、熱電対133においては、1つの第1金属部材133aと1つの第2金属部材133bにより構成される熱電対が、受光部材131の温度と冷接点CPの温度との差分を測定している。また、熱電対133においては、1つの第1金属部材133aと1つの第2金属部材133bにより構成される熱電対が、直列接続されている。このような構成により、熱電対133は、赤外線IRの受光強度の変化を敏感に検出して、放射温度計1の温度測定の感度を向上できる。
【0034】
出力端子135は、熱電対133の両端に接続され、熱電対133にて発生した熱起電力を外部に取り出すための端子である。従って、出力端子135には、信号変換器15が接続される。
【0035】
図4に戻り、放射温度計1の信号変換器15は、熱電対133にて発生した熱起電力(アナログ信号)を、デジタル信号に変換する。信号変換器15は、例えば、A/D変換器である。
【0036】
演算部17は、例えば、CPU、記憶装置(RAM、ROMなど)、各種インタフェースと、により構成されるコンピュータシステムである。また、演算部17は、これら構成を有するSoC(System on Chip)であってもよい。演算部17は、信号変換器15から入力したデジタル信号、すなわち、赤外線センサー13の熱電対133にて測定された熱起電力値に基づいて、測定対象Mの温度を算出する。また、演算部17は、放射温度計1及び温度計100の全般的な制御を実行する。
なお、演算部17における測定対象Mの温度の算出、放射温度計1及び温度計100の制御は、演算部17の記憶装置に記憶されたコンピュータプログラムにより実行されてもよい。また、上記の算出及び/又は制御の一部又は全部が、ハードウェア的に実現されてもよい。
【0037】
(4)温度計を用いた測定対象の温度測定方法
以下、上記にて説明した構成を有する温度計100を用いて、ミストが散布される温室G内(外部空間の一例)の測定対象Mの温度を測定する方法を説明する。
最初に、測定対象Mの近傍に温度計100を設置する。測定対象Mが温室Gで育成中の野菜の葉である場合には、例えば、
図6に示すように、三脚固定部6に三脚300を固定して測定対象Mである葉の高さに温度計100を固定し、測定対象Mに温度計100の第2開口O2(第1開口O1)を近づける。
図6は、温度計の設置状態の一例を示す図である。なお、三脚は一例であり、例えば、固定用の枠を用いた固定方法も使用できる。
【0038】
温度計100を設置後、温度コントローラ3aによりヒーター3を動作させる。このとき、温度コントローラ3aの設定温度を、ヒーター3により制御される載置部材2の温度が、温室Gの最高温度よりも高い第1温度T1となるよう設定する。つまり、第1温度T1は、温室Gの温度で上限となる温度よりも高い温度である。例えば、温室Gの最高温度よりも約10°C程度高い温度(例えば、45°C)に設定する。なお、この第1温度T1は、温度計100の使用環境等により適宜変更できる。
載置部材2の温度が第1温度T1にて安定後、放射温度計1を用いて、測定対象Mの温度測定を開始する。
【0039】
上記のように、測定対象Mの温度測定中にヒーター3の制御により載置部材2の温度が第1温度T1で安定され、また、放射温度計1が第1筐体4及び第2筐体5による二重構造の第1内部空間S1内に収納されることにより、放射温度計1の温度が、温度測定中において、外部空間(温室G)の温度変動の影響を受けることなくほぼ一定で安定化される。
温度測定中に放射温度計1の温度が外部空間の温度変動の影響を受けることなくほぼ一定に保たれることで、赤外線センサー13の冷接点CPの温度変動がなくなり、赤外線センサー13から出力される熱起電力が外部空間の温度変動に従って変動しなくなる。その結果、放射温度計1は、外部空間(温室G)の温度変動に影響を受けることなく、測定対象Mの温度を正確に測定できる。
【0040】
また、載置部材2の温度が外部空間の温度で上限となる温度(最高温度)よりも高くなることにより、第1内部空間S1内の空気が載置部材2により加熱され、第1内部空間S1内の温度も、外部空間の最高温度よりも高くなる。
第1内部空間S1は第1開口O1及び第2開口O2により外部空間とつながっているので、第1内部空間S1の温度が外部空間の最高温度よりも高くなることにより、第1内部空間S1から外部空間への空気の流れが生じる。すなわち、第1内部空間S1で暖められた空気が、第1開口O1及び第2開口O2を通じて排出される。
【0041】
また、第1開口O1及び第2開口O2が放射温度計1のレンズ11に対応するよう、つまり、レンズ11と外部空間とを貫通させるよう設けられているので、上記の第1内部空間S1から外部空間への空気の流れは、レンズ11の近傍に生じる。これにより、外部空間の空気がレンズ11に到達することを回避できる。その結果、外部空間の空気がミストを含んでいたとしても、レンズ11にミスト(水滴)等が付着することを防止できる。
【0042】
水は赤外線をほとんど透過しないので、レンズ11に水滴が付着していると、測定対象Mからの赤外線IRが当該水滴で遮られ、放射温度計1により測定対象Mの温度を正確に測定できなくなる。その一方で、本実施形態の温度計100は、上記のように、例えば外部空間でミストが噴霧されており外部空間の空気がミストを含んでいても、測定対象Mの温度測定中にレンズ11に水滴が付着しない構成となっている。その結果、本実施形態の温度計100は、測定対象Mの温度を正確に測定することができる。
【0043】
さらに、第1内部空間S1の温度を外部空間の最高温度よりも高くすることで発生する空気の流れは、レンズ11に外部空間の空気が到達しないようにできる程度の大きさを有する一方、測定対象Mの温度に影響を与えない程度に小さい。
すなわち、第1内部空間S1の温度を外部空間の最高温度よりも高くする構成により、本実施形態の温度計100は、レンズ11に水滴を付着させない一方、測定対象Mの温度に影響を与えない程度の最適な流量の空気の流れをレンズ11の近傍に生じさせて、ミストを含むなどの厳しい環境の外部空間に存在する測定対象Mの温度を正確に測定できる。
【0044】
ミストを噴霧する温室Gにて育成されるトマトの葉温(すなわち、測定対象Mがトマトの葉)を測定するために本実施形態の温度計100を実際に用いた場合、
図7に示すように、温度計100は、実際の葉温に近い測定結果を示していた。なお、
図7において、実線が温度計100による葉温の測定結果である。
図7は、温度計による測定対象の温度の実測結果の一例を示す図である。
【0045】
2.第2実施形態
上記にて説明した第1実施形態に係る温度計100は、ミストが噴霧される温室Gで育成中の野菜(トマト)や果物(いちご)の所定位置(葉、実など)の温度を正確に測定できる。野菜や果物など植物を測定対象Mとする温度測定において、できうる限り、測定対象Mの特定の位置の温度を測定したい場合がある。つまり、温度計100と測定対象Mとの相対的な位置を固定したい場合がある。
【0046】
測定場所の特定をする方法としては、レーザーマーカー又はLEDから照射された光で測定場所を示す方法がある。しかし、この方法は、日中の太陽光の下では太陽光が強すぎ、マーカが非常に見づらいか、又は、マーカが見えない。
また、レーザーマーカーは常時照射することができないので、測定場所を確認する毎にレーザーマーカーを照射する必要がある。測定場所を確認する毎にレーザーマーカーを照射する操作をするときに、測定場所がずれる可能性がある。
【0047】
そこで、第2実施形態に係る温度計200は、測定対象Mとの相対的な位置をできうる限り固定するために、測定対象Mの動きを制限する制限部材20をさらに備える。具体的には、
図8に示すように、温度計200の第2筐体5の左右側面と上面に合計3つの制限部材20が設けられる。なお、第2筐体5の左右側面に設けられた一対の制限部材20の高さ方向の位置は、第2開口O2(第1開口O1)が設けられた位置とすることが好ましい。
図8は、第2実施形態に係る温度計の構成を示す図である。
【0048】
なお、第2実施形態に係る温度計200は、第2筐体5に制限部材20が固定される以外は、第1実施形態に係る温度計100と同じ構成及び機能を有する。従って、ここでは、制限部材20以外の説明は省略する。
【0049】
また、
図9A及び
図9Bに示すように、制限部材20には、複数の目盛り21a~21dが付されている。具体的には、1つの目盛り21aが、第2筐体5の前端(第2開口O2)に対応する位置に付されている。他の目盛り21b~21dは、第2筐体5の前端から離れる方向に等間隔に付されている。
図9Aは、第2実施形態に係る温度計の側面図である。
図9Bは、第2実施形態に係る温度計の上面図である。
なお、
図9A及び
図9Bに示す例では、制限部材20に付する目盛り21a~21dの数は4であるが、温度計200の使用条件等によりこの数は任意とできる。また、2つの目盛りの間隔は温度計200の使用条件等により任意とできる。
【0050】
図8~
図9Bに示すような制限部材20を設けることにより、第2実施形態に係る温度計200は、
図9A及び
図9Bに示すように、制限部材20の内側に測定対象Mを収めて、第2筐体5に対して相対移動可能な範囲を制限できる。その結果、温度計200は、測定対象Mの特定の位置の温度を継続して測定できる。
また、制限部材20に目盛り21a~21dを付することにより、測定対象Mと第2開口O2(すなわち、放射温度計1のレンズ11)との間の距離を視覚的に認識できる。その結果、例えば、測定対象Mとレンズ11との間の距離が温度測定可能な範囲にあるかを視覚的に確認できる。また、例えば、温度測定可能な範囲において、目盛り21a~21dを用いて測定対象Mとレンズ11との距離を調整することで、測定対象Mの温度測定する領域の大きさ(面積)を調整できる。
【0051】
なお、
図8~
図9Bに示すように、上記の第2実施形態では、制限部材20は棒状の部材である。しかし、これに限られず、制限部材20は、測定対象を保持できれば任意の形状(例えば、円形など)とできる。
【0052】
3.他の実施形態
以上、本発明の複数の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施形態及び変形例は必要に応じて任意に組み合せ可能である。
(A)上記の第1実施形態及び第2実施形態で説明した温度計100、200は、ミストが噴霧される温室G以外にも、例えば食品工場などの湯気(ミスト状の水滴)が発生するか、及び/又は、温度変動が激しい生産プラントにおいて、製品の温度を測定するなどの目的に使用することもできる。
【0053】
(B)上記の第1実施形態及び第2実施形態で説明した温度計100、200の温度の測定結果は、例えば、演算部17から他の装置へと送信され、当該装置を制御するために用いられてもよい。例えば、温度計100、200で測定した野菜や果物などの温度の測定結果を温室Gの他の装置を制御するために用いて、当該野菜や果物の育成条件を調整できる。
【0054】
(C)上記の第1実施形態及び第2実施形態で説明した温度計100、200の第2筐体5(特に、第2蓋部材5b)の内側(放射温度計1が収納される側)に、第2筐体5を冷却する冷却装置を設けてもよい。この冷却装置としては、例えば、ペルチェ素子を使用できる。
例えば、外部空間の温度が非常に高温となると、第2筐体5が外部空間により熱せられ、第2内部空間S2の温度が上昇することがある。第2内部空間S2の温度が外部空間の影響を受けると、ヒーター3により第1内部空間S1の温度を一定に調整していても、第1内部空間S1の温度が、第2内部空間S2の温度の影響を受けうる。従って、第2筐体5に冷却装置を設けることで、外部空間の温度により、第1内部空間の温度が影響を受けることを抑制できる。
【0055】
(D)例えば、第1内部空間S1の温度を外部空間の温度よりも高くしても外部空間の空気が流入する場合、及び/又は、第1内部空間S1から外部空間へ大きな流量で空気を流出させても測定対象Mの温度に影響を与えにくい場合などには、第1筐体4及び/又は第2筐体5の背後側(第1開口O1、第2開口O2が設けられた側とは反対側)にファンなどのガス流を発生させる装置を設け、当該装置により第1内部空間S1から外部空間へ空気を流出させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、外部空間に存在する測定対象から発生する赤外線の強度に基づいて、測定対象の温度を測定する温度計に広く適用できる。
【符号の説明】
【0057】
100、200 温度計
1 放射温度計
11 レンズ
13 赤外線センサー
131 受光部材
133 熱電対
133a 第1金属部材
133b 第2金属部材
135 出力端子
CP 冷接点
15 信号変換器
17 演算部
2 載置部材
2a 固定部材
3 ヒーター
3a 温度コントローラ
3b ヒーター駆動部
3c サーモスタット
4 第1筐体
4a 第1底部材
4b 第1蓋部材
S1 第1内部空間
T1 第1温度
O1 第1開口
5 第2筐体
5a 第2底部材
5b 第2蓋部材
S2 第2内部空間
T2 第2温度
O2 第2開口
6 三脚固定部
20 制限部材
21a、21b、21c、21d 目盛り
300 三脚
G 温室
P 場所
M 測定対象
IR 赤外線