(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 53/02 20060101AFI20241001BHJP
C08L 23/16 20060101ALI20241001BHJP
C08L 25/04 20060101ALI20241001BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
C08L53/02
C08L23/16
C08L25/04
C08J5/18 CER
(21)【出願番号】P 2022526083
(86)(22)【出願日】2020-11-02
(86)【国際出願番号】 US2020058560
(87)【国際公開番号】W WO2021091828
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2023-06-21
(32)【優先日】2019-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フォスター ヒース
(72)【発明者】
【氏名】大下 晋弥
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-184503(JP,A)
【文献】特開2021-042329(JP,A)
【文献】特開2001-220513(JP,A)
【文献】特開平10-168235(JP,A)
【文献】特開2004-231817(JP,A)
【文献】国際公開第2012/067609(WO,A1)
【文献】米国特許第6180719(US,B1)
【文献】特開2003-003038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 53/02
C08L 23/16
C08L 25/04
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水添ブロック共重合体成分(A)、熱可塑性樹脂成分(B)、およびゴム用軟化剤成分(C)を含む熱可塑性エラストマー組成物であって、
(1)前記水添ブロック共重合体成分(A)は、
(i)芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含有する2個以上の重合体ブロック(a)と、イソプレンに由来する構造単位および/または1,3-ブタジエンに由来する構造単位を含有する1個以上の重合体ブロック(b)とを有し、
前記芳香族ビニル化合物がスチレンであり、
前記重合体ブロック(b)は、イソプレンに由来する構造単位と1,3-ブタジエンに由来する構造単位とを含有するか、または1,3-ブタジエンに由来する構造単位のみを含有し、
(ii)
-65℃~-45℃未満のガラス転移温度(実施例に示されるように測定される)を有し、かつ、
(iii)
-3℃~
15℃の結晶化ピーク温度(Tc)(実施例に示されるように測定される)を有する、
水添ブロック共重合体を含み、
(2)前記熱可塑性樹脂成分(B)は、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、石油樹脂、および水添石油樹脂から選ばれる少なくとも1種であり、
(
3)前記熱可塑性エラストマー組成物は、ポリオレフィンエラストマー成分(D)を更に含み、
前記ポリオレフィンエラストマー成分(D)は、エチレンに由来する構造単位を含有するポリプロピレン系エラストマーを含み、かつ前記エチレンに由来する構造単位の含有量は、前記ポリプロピレン系エラストマーの全質量に対して、13.0質量%~15.9質量%であり、かつ、
(
4)前記熱可塑性エラストマー組成物は、(A)+(B)+(C)+(D)の100質量部に対して、
18~
60質量部の水添ブロック共重合体成分(A)と、
3~
24質量部の熱可塑性樹脂成分(B)と、
3~
25質量部のゴム用軟化剤成分(C)と、
5~
76質量部のポリオレフィンエラストマー成分(D)とを含む、
熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
海相および島相の海島構造を有し、ここで、前記海相は、(i)前記ポリオレフィンエラストマー(D)または(ii)該ポリオレフィンエラストマー(D)以外の成分の一方であり、前記島相は、(i)または(ii)のもう一方であり、かつ前記島相は、平均して
100nm以上
5μm以下の長軸(実施例に示されるように測定される)を有する複数の島を含む、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記島相は、平均して
100nm以上5μm以下の長軸および
1以上3以下のアスペクト比(長軸/短軸)(実施例に示されるように測定される)を有する島を含む、請求項2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記水添ブロック共重合体の前記重合体ブロック(b)は、イソプレンに由来する構造単位および1,3-ブタジエンに由来する構造単位を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
前記イソプレンに由来する構造単位対前記1,3-ブタジエンに由来する構造単位の質量比は、
49.9/50.1~
40.1/59.9である、請求項4に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
前記水添ブロック共重合体(A)の前記重合体ブロック(b)は、1,3-ブタジエンに由来する構造単位のみを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
前記水添ブロック共重合体の中の前記重合体ブロック(a)の含有量は、前記水添ブロック共重合体の全質量に対して、
20質量%~
34質量%である、請求項1~6のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂成分(B)は、ポリスチレン系樹脂を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項9】
前記熱可塑性エラストマー組成物の全質量に対して、
3~
15質量部の水添ブロック共重合体成分(E)を更に含み、ここで、水添ブロック共重合体成分(E)は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を
70質量%超含有する重合体ブロック(x)と、共役ジエン化合物およびイソブチレンからなる群から選択される少なくとも1種に由来する構造単位を
30質量%以上含有する重合体ブロック(y)とを水素添加することによって得られる水添ブロック共重合体を含み、かつ前記水添ブロック共重合体は、
-45℃~
30℃のガラス転移温度(Tg)を有し、かつ前記水添ブロック共重合体における前記重合体ブロック(x)は、前記水添ブロック共重合体の全質量に対して、
4質量%~
30質量%の量で存在する、請求項1~8のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物のフィルムまたはシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、以下に詳説される特定の種類および割合の水添ブロック共重合体(A)、熱可塑性樹脂(B)、ゴム用軟化剤(C)、およびポリオレフィンエラストマー(D)に基づく熱可塑性エラストマー組成物に関する。本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、多岐にわたるフィルムおよびシートの用途において使用するのに適したものとなる、弾性回復性、引き裂き強度、応力緩和性、および異方性の低減(改善)の良好な組み合わせを有する。
【背景技術】
【0002】
水添ブロック共重合体の中でも、水添スチレン系熱可塑性エラストマーは、耐候性、耐熱性、耐衝撃性、柔軟性、および弾性回復性に優れる熱可塑性エラストマーである。水添ブロック共重合体を含有する組成物は、優れた機械的強度、柔軟性、耐候性、耐オゾン性、熱安定性、および透明性を与えるため、自動車用品、家電用品、医療用品、建設用品、玩具、日常品、および雑貨などの幅広い分野で利用されている。
【0003】
特に、フィルムおよびシートなどの用途では、弾性回復性、25℃における引き裂き強度および応力緩和性が要求され、これらの物性を満たすために、水添スチレン系熱可塑性エラストマー、可塑剤および種々の熱可塑性樹脂の混合物を使用する方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1は、一般に、水添スチレン系ブロックコポリマー、熱可塑性樹脂、およびゴム用軟化剤を含む熱可塑性エラストマー組成物を開示している。より詳細には、特許文献2は、特定の数平均分子量および質量比のイソプレン/1,3-ブタジエンを有する水添SEEPSブロックコポリマー55~60重量%と、ポリスチレン(熱可塑性樹脂)7~12重量%と、油(ゴム用軟化剤)15~30重量%と、水添脂肪族炭化水素樹脂(粘着付与剤)5~20重量%とを含む熱可塑性エラストマー組成物を開示している。
【0005】
上記特許文献1および特許文献2に記載のエラストマー組成物では、フィルムおよびシートなどの用途で求められる弾性回復性、引き裂き強度および応力緩和性を十分に満たすことができる。しかしながら、上記組成物は異方性の問題を伴う可能性がある。
【0006】
一般に、異方性とは、加工中の材料内の分子の配向である。この配向は、物品に応力がかかる方向に応じて、完成品の特性に違いを引き起こす。これにより、配向方向における引裂きの容易な活性化、または配向とは反対の特性が弱くなる可能性がある。これらの配向の影響は、設計プロセスで克服することができるが、これらの追加プロセスにより、不要なコストが追加される可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第9321874号明細書
【文献】米国特許第9056975号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、弾性回復性、25℃における引き裂き強度、応力緩和性、および異方性の低減(改善)の良好な組み合わせを有する熱可塑性エラストマー組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下に詳説される特定の種類および割合の水添ブロック共重合体(A)、熱可塑性樹脂(B)、ゴム用軟化剤(C)、およびポリオレフィンエラストマー(D)を含む、弾性回復性、25℃における引き裂き強度、応力緩和性、および低い異方性の良好な組み合わせを有する熱可塑性エラストマー組成物を提供することによって上記課題に取り組んでいる。
【0010】
より詳細には、本発明は、水添ブロック共重合体成分(A)、熱可塑性樹脂成分(B)、およびゴム用軟化剤成分(C)を含む熱可塑性エラストマー組成物であって、
(1)水添ブロック共重合体成分(A)は、
(i)芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含有する2個以上の重合体ブロック(a)と、イソプレンに由来する構造単位および/または1,3-ブタジエンに由来する構造単位を含有する1個以上の重合体ブロック(b)とを有し、
(ii)約-45℃未満のガラス転移温度(実施例に示されるように測定される)を有し、かつ、
(iii)約-3~約15℃の結晶化ピーク温度(Tc)(実施例に示されるように測定される)を有する、水添ブロック共重合体を含み、
(2)熱可塑性エラストマー組成物は、ポリオレフィンエラストマー成分(D)を更に含み、かつ、
(3)熱可塑性エラストマー組成物は、(A)+(B)+(C)+(D)の100質量部に対して、約18~約60質量部の水添ブロック共重合体成分(A)と、約3~約24質量部の熱可塑性樹脂成分(B)と、約3~約25質量部のゴム用軟化剤成分(C)と、約5~約76質量部のポリオレフィンエラストマー成分(D)とを含む、
熱可塑性エラストマー組成物を提供する。
【0011】
一実施形態においては、熱可塑性エラストマー組成物は、海相および島相の海島構造を有し、ここで、海相は、(i)ポリオレフィンエラストマー(D)または(ii)ポリオレフィンエラストマー(D)以外の成分の一方であり、島相は、(i)または(ii)のもう一方であり、かつ島相は、平均して約100nm以上の長軸(実施例に示されるように測定される)を有する複数の島を含む。
【0012】
別の実施形態においては、島相は、平均して約5μm以下の長軸および約3以下のアスペクト比(長軸/短軸)(実施例に示されるように測定される)を有する島を含む。
【0013】
別の実施形態においては、水添ブロック共重合体の重合体ブロック(b)は、イソプレンに由来する構造単位および1,3-ブタジエンに由来する構造単位を含有する。
【0014】
別の実施形態においては、イソプレンに由来する構造単位対1,3-ブタジエンに由来する構造単位の質量比は、約49.9/50.1~約40.1/59.9である。
【0015】
別の実施形態においては、水添ブロック共重合体の重合体ブロック(b)は、1,3-ブタジエンに由来する構造単位のみを含有する。
【0016】
別の実施形態においては、水添ブロック共重合体の中の重合体ブロック(a)の含有量は、水添ブロック共重合体の全質量に対して、約20質量%~約34質量%である。
【0017】
別の実施形態においては、熱可塑性樹脂成分(B)はポリスチレン系樹脂を含む。
【0018】
別の実施形態においては、熱可塑性エラストマー組成物は、(A)+(B)+(C)+(D)+(E)の100質量部に対して、約3~約15質量部の水添ブロック共重合体成分(E)を更に含み、ここで、水添ブロック共重合体成分(E)は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を約70質量%超含有する重合体ブロック(x)と、共役ジエン化合物およびイソブチレンからなる群から選択される少なくとも1種に由来する構造単位を約30質量%以上含有する重合体ブロック(y)とを水素添加することによって得られる水添ブロック共重合体を含み、かつ水添ブロック共重合体は、約-45℃~約30℃のガラス転移温度(Tg)を有し、かつ水添ブロック共重合体における重合体ブロック(x)は、水添ブロック共重合体の全質量に対して、約4質量%~約30質量%の量で存在する。
【0019】
別の実施形態においては、ポリオレフィンエラストマー(D)は、エチレンに由来する構造単位を含有するポリプロピレン系エラストマーを含み、かつエチレンに由来する構造単位の含有量は、ポリプロピレン系エラストマーの全質量に対して、約13.0質量%~約15.9質量%である。
【0020】
本発明は更に、熱可塑性エラストマー組成物のフィルムまたはシートだけでなく、それから作られた物品(例えば、おむつ)も提供する。
【0021】
本発明の上記のおよびその他の実施形態、特徴、および利点は、以下の詳細な説明を読むことで、当業者によってより容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】透過電子顕微鏡(TEM)を用いて撮影された実施例6の熱可塑性エラストマー組成物(フィルム)の断面画像(倍率2000倍)である。
【
図2】透過電子顕微鏡(TEM)を用いて撮影された実施例6の熱可塑性エラストマー組成物(フィルム)の断面画像(倍率5000倍)である。
【
図3】透過電子顕微鏡(TEM)を用いて撮影された実施例8の熱可塑性エラストマー組成物(フィルム)の断面画像(倍率2000倍)である。
【
図4】透過電子顕微鏡(TEM)を用いて撮影された実施例8の熱可塑性エラストマー組成物(フィルム)の断面画像(倍率5000倍)である。
【
図5】透過電子顕微鏡(TEM)を用いて撮影された実施例5の熱可塑性エラストマー組成物(フィルム)の断面画像(倍率2000倍)である。
【
図6】透過電子顕微鏡(TEM)を用いて撮影された実施例5の熱可塑性エラストマー組成物(フィルム)の断面画像(倍率5000倍)である。
【
図7】透過電子顕微鏡(TEM)を用いて実施例3の熱可塑性エラストマー組成物(フィルム)の断面画像を撮影することによって得られた断面画像(倍率2000倍)である。
【
図8】透過電子顕微鏡(TEM)を用いて実施例3の熱可塑性エラストマー組成物(フィルム)の断面画像を撮影することによって得られた断面画像(倍率5000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明を更に詳細に説明する。
【0024】
本明細書の文脈において、本明細書に挙げられる全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、別段の指定がない限り、引用することにより、本明細書に完全に示されているかのように全ての目的についてその全体が明示的に援用される。
【0025】
別段の規定がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野における当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。対立する場合は、定義を含む本明細書が優先されることとなる。
【0026】
明示的に指定されている場合を除き、商標は大文字で示される。
【0027】
別段の指定がない限り、全てのパーセンテージ、部、比率などは質量基準である。
【0028】
別段の指定がない限り、psi単位で表される圧力はゲージ圧であり、kPa単位で表される圧力は絶対圧である。しかしながら、圧力差は絶対圧として表される(例えば、圧力1は圧力2より25psi高い)。
【0029】
量、濃度、またはその他の値もしくはパラメータが範囲、または上限値および下限値の列挙として示されている場合に、これは、範囲が個別に開示されているかどうかにかかわらず、任意の範囲の上限と下限との任意のペアから形成される全ての範囲を具体的に開示していると理解されるべきである。数値の範囲が本明細書に挙げられている場合に、別段の指定がない限り、範囲は、その端点、ならびに範囲内の全ての整数および分数を含むことが意図される。本開示の範囲が、範囲を定義するときに挙げられる特定の値に限定されることを意図するものではない。
【0030】
範囲の値または端点を説明する際に「約」という用語が使用される場合に、本開示は、言及される特定の値または端点を含むと理解されるべきである。言い換えると、「約25~約50」は、「25」および「50」の端点、ならびに「25~50」の範囲を明示的に開示している。
【0031】
本明細書で使用される場合に、「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(has)」、「有する(having)」という用語またはそれらの他の任意の変形形態は、非排他的な包含を対象に含めることが意図される。例えば、要素の列挙を含む、プロセス、方法、物品、または装置は、必ずしもそれらの要素のみに限定されるわけではなく、そのようなプロセス、方法、物品、または装置に明示的に挙げられていない、またはそれらに固有ではない他の要素を含むことができる。
【0032】
さらに、明示的に反対の指定がない限り、「または」および「および/または」は、排他的なものではなく包括的なものを指す。例えば、条件Aもしくは条件B、または条件Aおよび/または条件Bは、以下:Aが真であり(または存在し)かつBが偽である(または存在しない)こと、Aが偽であり(または存在せず)かつBが真である(または存在する)こと、ならびにAおよびBの両方が真である(または存在する)ことのいずれか1つによって満たされる。
【0033】
本明細書における様々な要素および構成要素を記載するための「a」または「an」の使用は、便宜上であって、本開示の一般的な意味を与えるためにすぎない。この記載は、1つまたは少なくとも1つを含むように読まれるべきであり、別の意味であることが明らかでない限り、単数形には複数形も含まれる。
【0034】
本明細書で使用される「主要部分」という用語は、本明細書において別段の規定がない限り、参照される材料の50%超を意味する。指定がなければ、パーセントは、分子(例えば、水素、メタン、二酸化炭素、一酸化炭素、および硫化水素)について言及される場合にはモル基準であり、それ以外は質量基準である。
【0035】
本明細書で使用される「実質的な部分」または「実質的に」という用語は、別段の規定がない限り、使用される文脈において関連技術の当業者によって理解されるように、全てまたは殆ど全てまたは大部分を意味する。これは、産業規模または商業規模の状況において通常行われる100%からの合理的な変動を考慮に入れることが意図されている。
【0036】
「減少した(depleted)」または「低下した(reduced)」という用語は、元々存在していたものから低下したことと同義である。例えば、材料の実質的な部分を流れから除去すると、その材料が実質的に減少した材料減少流れが生成されることとなる。逆に、「富化された(enriched)」または「増加した(increased)」という用語は、元々存在していたものよりも多いことと同義である。
【0037】
「数平均分子量」または「Mn」という用語は、数平均分子量を意味し、「重量平均分子量」または「Mw」という用語は、重量平均分子量を意味し、これらは、標準ポリスチレンの検量線に基づいてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって求められる。測定装置および測定条件は、実施例に示されている通りである。
【0038】
結晶化ピーク温度(Tc)は、本明細書においては、示差走査熱量計(DSC)を使用して求められ、試料を昇温速度10℃/分で30℃から150℃まで加熱した後、降温速度10℃/分で-100℃まで冷却する際に観測される発熱ピークのピークトップ温度として定義される。測定は、実施例に示されている通りである。
【0039】
「熱可塑性」という用語は、その通常の意味を有し、すなわち、関連技術における当業者によって理解されるように、複数のサイクルにわたって、加熱すると可塑性となり、冷却すると固まることができる物質の意味を有する。
【0040】
「エラストマー」という用語も、その通常の意味を有し、すなわち、関連技術における当業者によって理解されるように、弾性特性を有する物質の意味を有する。
【0041】
「実質的に均一な混合物」という用語は、混合物の成分が、質量基準で混合物全体にわたって実質的に一様に分布していることを意味する。混合物は、或る成分の(同じまたは異なるサイズの)不連続ドメインを別の成分の連続ドメイン内に有し、その場合に、不連続ドメインは、連続ドメイン内に実質的に一様に分布することとなる(質量基準で)。均一性の水準は、関連技術の当業者によって認識されるように、商業的に適用可能な条件下で操作される一般的な工業用混合装置によって達成可能である水準であることが意図される。
【0042】
便宜上、本発明の多くの要素は個別に論じられ、選択肢の列挙が示される場合があり、かつ数値が範囲である場合があるが、本開示の目的のためには、それは、そのような別個の構成要素、列挙項目、または範囲の任意の組み合わせの任意の請求項について、本開示の範囲または本開示のサポートに対する制限と見なされるべきではない。別段の指定がない限り、本開示で考えられるありとあらゆる組み合わせは、全ての目的のために明示的に開示されていると見なされるべきである。
【0043】
本明細書に記載されるのと同様または同等の方法および材料を、本開示の実施または試験において使用することができるが、適切な方法および材料は本明細書に記載されている。したがって、本明細書の材料、方法、および例は、例示的なものにすぎず、具体的に指定されている場合を除き、限定することを意図するものではない。
【0044】
水添ブロック共重合体成分(A)
水添ブロック共重合体成分(A)は、(i)芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含有する2個以上の重合体ブロック(a)と、イソプレンに由来する構造単位および/または1,3-ブタジエンに由来する構造単位を含有する1個以上の重合体ブロック(b)とを有するブロック共重合体を水素添加することによって形成される水添ブロック共重合体を含む。得られる水添ブロック共重合体は、約-45℃未満のガラス転移温度(Tg)、および約-3℃~約15℃の結晶化ピーク温度(Tc)を有する。
【0045】
1種類の水添ブロック共重合体を単独で使用することもでき、または2種類以上の水添ブロック共重合体を組み合わせて使用することもできる。
【0046】
水添ブロック共重合体における重合体ブロック(a)は、重合体ブロック(a)の全質量に対して、好ましくは、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を約50質量%以上、または約80質量%以上、または約90質量%以上、または約95質量%以上、または実質的に100質量%含有する。「芳香族ビニル化合物に由来する」とは、構造単位が、芳香族ビニル化合物が付加重合した結果形成される構造単位であることを意味する。以下、「由来する」は同様の用法で用いられる。
【0047】
適切な芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、ビニルトルエン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレンなどが挙げられる。これらの中でも、スチレンおよびα-メチルスチレンが好ましく、スチレンがより好ましい。重合体ブロック(a)は、これらの芳香族ビニル化合物の1種のみから構成されていてもよいし、またはこれらの芳香族ビニル化合物の2種以上から構成されていてもよい。
【0048】
重合体ブロック(a)は、本発明の目的および効果の妨げとならない限り、芳香族ビニル化合物以外の共重合性単量体に由来する構造単位、例えばイソプレン、ブタジエン、2,3-ジメチル-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、ファルネセン、ミルセンなどの共役ジエンに由来する構造単位を含有してもよい。重合体ブロック(a)における他の重合性単量体に由来する構造単位の含有量は、重合体ブロック(a)の全質量に対して、好ましくは、約10質量%以下、または約5質量%以下、または約3質量%以下、または実質的に0質量%である。
【0049】
水添ブロック共重合体における重合体ブロック(b)は、イソプレンに由来する少なくとも1種の構造単位および/または1,3-ブタジエン(以下、単にブタジエンと称することがある)に由来する少なくとも1種の構造単位を含有する。重合体ブロック(b)は、イソプレンに由来する構造単位と、ブタジエンに由来する構造単位とを含有してもよく、ブタジエンに由来する構造単位のみを含有してもよい。
【0050】
水添ブロック共重合体における重合体ブロック(b)は、イソプレンに由来する構造単位およびブタジエンに由来する構造単位の少なくとも1種を、重合体ブロック(b)の全質量に対して、約50質量%以上、または約80質量%以上、または約90質量%以上、または約95質量%以上、または実質的に100質量%の量で含有する。重合体ブロック(b)の重合形態は特に制限はなく、ランダムでもブロックでもよい。
【0051】
さらに、引張強度および応力緩和性の観点から、重合体ブロック(b)におけるイソプレンに由来する構造単位対ブタジエンに由来する構造単位の質量比(イソプレン/ブタジエン)は、好ましくは、約49.9/50.1または約49/51または約48/52~約40.1/59.9または約41/59または約42/58である。該質量比は、実施例に記載の通り、水素添加する前のブロック共重合体を用いてH-NMRスペクトルから算出される。
【0052】
さらに、重合体ブロック(b)がブタジエンに由来する構造単位のみを含有する場合、さらに32℃における引き裂き強度を優れたものとすることができる。
【0053】
さらに、重合体ブロック(b)におけるイソプレンとブタジエンとの結合形態、いわゆるミクロ構造に特に制限はない。例えば、イソプレンは、1,2-結合(ビニル結合)、3,4-結合(ビニル結合)または1,4-結合の形態をとることができ、ブタジエンは、1,2-結合(ビニル結合)または1,4-結合の形態をとることができる。これらの結合形態の1種のみが存在していても、または2種以上が存在していてもよい。さらに、これらのいずれの結合形態があらゆる比率で存在してもよいが、引張強度の見地から、イソプレンおよびブタジエンの構造単位からなる1,4-結合の量は、引張強度の観点からイソプレンおよびブタジエンからの単位の総モルに対して、好ましくは、約50モル%以上、または約60モル%以上、または約80モル%以上、または約90モル%以上である。上限としては、そのような量は、好ましくは、約95モル%以下である。さらに、ブタジエンの構造単位から構成される1,4-結合量は、引張強度および柔軟性の観点から、ブタジエンの総モルに対して、20モル%以上が好ましく、30モル%以上がより好ましく、35モル%以上がさらに好ましく、そして、60モル%以下が好ましく、50モル%以下がより好ましく、45モル%以下がさらに好ましい。
【0054】
本明細書においては、1,4-結合量は、実施例に記載の方法に従って水素添加する前のブロック共重合体を用いてH-NMRスペクトルから算出される。
【0055】
さらに、重合体ブロック(b)は、本発明の目的および効果の妨げとならない限り、(イソプレンとブタジエンとに由来する構造単位以外の)他の重合性単量体に由来する構造単位、例えば、2,3-ジメチル-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、ファルネセン、ミルセンなどの共役ジエンに由来する構造単位、およびスチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-プロピレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、ビニル-ビニル2-ビニル化合物などの芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含有してもよい。重合体ブロック(b)における他の重合性単量体に由来する構造単位の含有量は、重合体ブロック(b)の全質量に対して、好ましくは、約10質量%以下、または約5質量%以下、または約3質量%以下、および/または0質量%である。
【0056】
水添ブロック共重合体における重合体ブロック(b)は、耐熱性、耐候性、および引張強度の観点から、好ましくは、イソプレンおよびブタジエンに由来する構造単位中の炭素-炭素二重結合の少なくとも約50モル%、または少なくとも約80モル%、または少なくとも約90モル%、または少なくとも約95モル%、または少なくとも約96モル%で、最大100モル%が水素添加されている。この値を水素添加率と称することがある。
【0057】
上記水素添加率において、重合体ブロック(b)におけるイソプレンおよびブタジエンに由来する構造単位中の炭素-炭素二重結合の含有量は、水素添加の前後においてH-NMRスペクトルによって測定され、水素添加率は測定値から得られる。より詳細には、その値は実施例に記載の方法に従って測定される。
【0058】
重合体ブロック(b)は炭素-炭素二重結合が水素添加されることによって結晶性を有するようになる。水添ブロック共重合体の結晶化ピーク温度は、重合体ブロック(b)中のブタジエンの含有量、イソプレンとブタジエン連鎖のランダム性、ミクロ構造、水素添加率などを総合的に調整することにより後述の範囲にすることができる。
【0059】
一般に、約12個のメチレン基が直鎖状に連結していると結晶性が認められる。つまり、3個の連なった1,4-連結したブタジエンが生じる場合は、完全に水素添加された連鎖が存在すれば結晶性が認められる。これに対して、1,4-結合したポリイソプレンを完全に水素添加した場合は、エチレン-プロピレン交互共重合体構造となり、結晶性を有しない。したがって、結晶化ピーク温度を高めるためには、ブタジエンの含有量を増やす、ブタジエン連鎖を増加させる、1,4-結合量を高める、および水素添加率を高めることが有効である。逆に、結晶化ピーク温度を下げるためには、イソプレンの含有量を増やす、イソプレン-ブタジエン連鎖のランダム性を高める、1,4-結合量を低減する、および水素添加率を低減することが有効である。
【0060】
さらに、水添ブロック共重合体の結晶化ピーク温度は、重合体ブロック(b)における重合反応時の温度、ならびにイソプレンおよびブタジエンの供給速度にも影響を受ける。そのため、所望の結晶化ピーク温度を得るためには、これらを適宜調整する必要がある。言い換えれば、重合反応時の温度、イソプレンとブタジエンの質量比、ならびにイソプレンおよびブタジエンの供給速度を制御することにより、水添ブロック共重合体の結晶化ピーク温度を後述する特定の値に制御することができる。
【0061】
水添ブロック共重合体における重合体ブロック(a)の含有量は、水添ブロック共重合体の全質量に対して、好ましくは、約20質量%または約25質量%~約34質量%または約33質量%である。水添ブロック共重合体における重合体ブロック(a)の含有量が約20質量%以上であると引張強度に優れ、約34質量%以下であると応力緩和性に優れる。また成形加工性の観点からもこの範囲が好ましい。
【0062】
水添ブロック共重合体における重合体ブロック(a)の含有量は、水素添加後のH-NMRスペクトルから得られた値であり、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0063】
水添ブロック共重合体における重合体ブロック(a)と重合体ブロック(b)との間の結合様式は、直鎖状、分岐状、放射状、またはこれらの任意の組み合わせのいずれであってよい。
【0064】
例えば、重合体ブロック(a)を「A」で、重合体ブロック(b)を「B」で表すとき、「A-B-A」で示されるトリブロック共重合体、「A-B-A-B」で示されるテトラブロック共重合体、「A-B-A-B-A」および「B-A-B-A-B」で示されるペンタブロック共重合体、(A-B)nX型共重合体(Xはカップリング剤残基を表し、nは3以上の整数を表す)などが挙げられる。これらの中でも、製造の容易性の点から、水添ブロック共重合体(A)として、「A-B-A」で示されるトリブロック共重合体および「A-B-A-B」で示されるテトラブロック共重合体が好ましく、「A-B-A」で示されるトリブロック共重合体がより好ましく用いられる。
【0065】
ここで、本明細書においては、同種の重合体ブロックが二官能のカップリング剤などを介して直線状に結合している場合、結合している重合体ブロック全体は一つの重合体ブロックとして取り扱われる。これに従い、上記例示も含め、本来、厳密にはY-X-Y(Xはカップリング残基を表す)と表記されるべき重合体ブロックは、特に単独の重合体ブロックYと区別する必要がある場合を除き、全体としてYと表示される。本明細書においては、カップリング剤残基を含むこの種の重合体ブロックを上記のように取り扱うので、例えば、カップリング剤残基を含み、厳密にはA-B-X-B-A(Xはカップリング剤残基を表す)と表記されるべきブロック共重合体はA-B-Aと表記され、トリブロック共重合体の一例として取り扱われる。
【0066】
水添ブロック共重合体のガラス転移温度(Tg)は約-45℃未満である。水添ブロック共重合体のガラス転移温度が約-45℃以上であると引張強度および引き裂き強度に劣るおそれがある。このような観点から、水添ブロック共重合体のガラス転移温度は、好ましくは、-65℃または約-60℃~約-50℃未満または約-51℃である。
【0067】
上記ガラス転移温度は、JIS K7121:2012に準拠して測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0068】
水添ブロック共重合体の、以下の通りに定義される結晶化ピーク温度(Tc)は約-3℃~約15℃である。
【0069】
水添ブロック共重合体における結晶化ピーク温度が約-3℃未満では引張強度に劣るおそれがあり、約15℃を超えると応力緩和性に劣るおそれがある。このような観点から、結晶化ピーク温度は、好ましくは、約0℃または約2℃または約5℃~約14℃または約13℃または約11℃である。
【0070】
水添ブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは、約50,000または約60,000または約65,000または約70,000~約500,000または約400,000または約300,000または約115,000である。水添ブロック共重合体の重量平均分子量が約50,000以上であると引張強度に優れ、約500,000以下であると成形加工性に優れる。
【0071】
水添ブロック共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、応力緩和性の観点から、好ましくは、1.5以下であり、または約1.01~約1.5もしくは約1.3もしくは約1.2もしくは約1.1もしくは約1.05である。
【0072】
なお、水添ブロック共重合体は、本発明の効果を著しく損なわない限り、分子鎖中および/または分子末端に、カルボキシル基、水酸基、酸無水物基、アミノ基、および/またはエポキシ基などの官能基を1種以上有していてもよい。
【0073】
水添ブロック共重合体の製造方法
水添ブロック共重合体は、例えばアニオン重合法により製造することができる。具体的には、(1)アルキルリチウム化合物を開始剤として用いて、芳香族ビニル化合物と、イソプレンおよびブタジエンとを逐次重合させる方法;(2)アルキルリチウム化合物を開始剤として用いて、芳香族ビニル化合物と、イソプレンおよびブタジエンとを逐次重合させ、次いでカップリング剤を加えてカップリングする方法;(3)ジリチウム化合物を開始剤として用い、イソプレンおよびブタジエン、次いで芳香族ビニル化合物を逐次重合させる方法;などにより重合反応を行った後、水素添加反応を行うことによって製造することができる。
【0074】
イソプレンおよびブタジエンは、別々に反応器へ同時供給して反応器内で混合物としてもよいし、またはイソプレンとブタジエンとを予め混合した状態で反応器へ供給してもよいし、または前者の方法と後者の方法を両方採用してもよい。
【0075】
アルキルリチウム化合物としては、例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、およびペンチルリチウムが挙げられる。
【0076】
カップリング剤の例としては、ジビニルベンゼン;エポキシ化1,2-ポリブタジエン、エポキシ化大豆油、1,3-ビス(N,N-グリシジルアミノメチル)シクロヘキサンなどの多価エポキシ化合物;ジメチルジクロロシラン、ジメチルジブロモシラン、トリクロロシラン、メチルトリクロロシラン、テトラクロロシラン、テトラクロロスズなどのハロゲン化合物;安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸フェニル、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジオクチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、イソフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジメチルなどのエステル化合物;炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジフェニルなどの炭酸エステル化合物;ジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、ビス(トリエトキシシリル)エタンなどのアルコキシシラン化合物が挙げられる。
【0077】
ジリチウム化合物の例としては、ナフタレンジリチウム、ジチオヘキシルベンゼンなどが挙げられる。
【0078】
重合反応は、溶媒の存在下で行うのが好ましい。溶媒としては、開始剤に対して不活性で、反応に悪影響を及ぼさなければ特に制限はなく、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、およびデカンなどの飽和脂肪族炭化水素;ならびにトルエン、ベンゼン、およびキシレンなどの芳香族炭化水素を挙げることができる。重合反応は、通常、ミクロ構造制御の観点から、約0℃または約30℃または約40℃または約50℃~約100℃または約90℃または約80℃で、約0.5時間~約50時間の時間にわたって行われる。
【0079】
さらに、重合反応の際に共触媒としてルイス塩基を用いてもよい。ルイス塩基の例としては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、およびテトラヒドロフランなどのエーテル類;エチレングリコールジメチルエーテルおよびジエチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールエーテル類;ならびにトリエチルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンおよびN-メチルモルホリンなどのアミン類が挙げられる。これらのルイス塩基は、単独で用いてもよいし、または2種以上を併用してもよい。
【0080】
水素添加反応は重合反応に引き続き行ってもよいし、または重合反応後にブロック共重合体を一旦単離してから行ってもよい。
【0081】
重合反応後にブロック共重合体を一旦単離する場合、得られた重合反応液をメタノールなどのブロック共重合体の貧溶媒に注いでブロック共重合体を凝固させるか、または重合反応液をスチームと共に熱水中に注いで溶媒を共沸によって除去(スチームストリッピング)した後、乾燥させることにより、ブロック共重合体を単離することができる。
【0082】
ブロック共重合体の水素添加反応は、ラネーニッケル;白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、またはニッケル(Ni)などの金属をカーボン、アルミナ、または珪藻土などの担体に担持させた不均一触媒;遷移金属化合物(オクチル酸ニッケル、ナフテン酸ニッケル、ニッケルアセチルアセトナート、オクチル酸コバルト、ナフテン酸コバルト、コバルトアセチルアセトナートなど)およびトリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物および有機リチウム化合物の組み合わせからなるチーグラー系触媒;ならびにチタン、ジルコニウム、ハフニウムなどの遷移金属のビス(シクロペンタジエニル)化合物とリチウム、ナトリウム、カリウム、アルミニウム、亜鉛、マグネシウムなどの有機金属化合物とからなるメタロセン系触媒などの水素添加触媒の存在下に実施される。該反応は、約20℃~約200℃の反応温度、約0.1MPa~約20MPaの水素圧力で、約0.1時間~100時間の時間にわたって実施され得る。
【0083】
重合反応と水素添加反応を引き続き行う場合、水添ブロック共重合体は、水素添加反応液を、メタノールなどの水添ブロック共重合体の貧溶媒に注いで凝固させるか、または水素添加反応液をスチームと共に熱水中に注いで溶媒を共沸によって除去(スチームストリッピング)した後、乾燥することにより単離することができる。
【0084】
熱可塑性エラストマー組成物における水添ブロック共重合体成分(A)の含有量は、水添ブロック共重合体成分(A)、熱可塑性樹脂成分(B)、ゴム用軟化剤成分(C)、およびポリオレフィンエラストマー成分(D)の100質量部に対して、約18質量部または約20質量部または約25質量部~約60質量部または約55質量部または約50質量部である。水添ブロック共重合体成分(A)の含有量が、約18質量部未満であると引き裂き強度、引張強度および応力緩和性に劣るおそれがあり、約60質量部を超えると異方性が悪化し、成形加工性が低下するおそれがある。
【0085】
熱可塑性樹脂成分(B)
本発明の熱可塑性樹脂成分(B)において使用するのに適した熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、石油樹脂、水添石油樹脂などが挙げられる。
【0086】
上記石油樹脂とは、石油ナフサなどの熱分解により副生する不飽和炭化水素単量体を含有する留分を重合することにより得られた生成物を意味する。
【0087】
なお、後述するポリオレフィンエラストマー(D)に該当する成分は、熱可塑性樹脂(B)には含まれない。
【0088】
熱可塑性樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、または2種以上を併用してもよい。中でも、熱可塑性樹脂(B)としては、ポリスチレン系樹脂が好適に使用される。
【0089】
ポリスチレン系樹脂としては、ポリスチレン[汎用ポリスチレン(GPPS)および高耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)]、ポリオルトメチルスチレン、ポリパラメチルスチレン、ポリジメチルスチレン、ポリメチルスチレン、ポリクロルスチレン、ポリイソプロピルスチレン、ポリターシャリーブチルスチレン、ポリ-α-メチルスチレン、ポリエチルビニルトルエン、スチレン-マレイミド共重合体、スチレン-N-フェニルマレイミド共重合体、スチレン-N-フェニルマレイミド-アクリロニトリル共重合体、スチレン-N-フェニルマレイミド-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-N-フェニルマレイミド-アクリル酸ブチル共重合体、ゴム強化耐衝撃性ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル-エチレン-プロピレンゴム強化スチレン共重合体(AES樹脂)、アクリロニトリル-ポリアクリル酸エステルゴム強化スチレン共重合体(AAS樹脂)、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体(MS樹脂)、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS樹脂)などが挙げられる。
【0090】
一実施形態においては、ポリスチレン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは、約1,000または約2,000または約3,000~約400,000または約350,000または約300,000の範囲内である。ポリスチレン系樹脂の重量平均分子量が約1,000以上であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物の応力緩和性が向上し、臭気などの問題が低減し、約400,000以下であると熱可塑性エラストマー組成物の加工性が向上する。
【0091】
ポリスチレン系樹脂は、1種のポリスチレン系樹脂、または2種以上のポリスチレン系樹脂の組み合わせ、例えば、高分子量のポリスチレン系樹脂と低分子量のポリスチレン系樹脂との組み合わせであってもよい。
【0092】
そのような高分子量のポリスチレン樹脂の重量平均分子量は、好ましくは、約100,000または約120,000または約150,000~約400,000または約350,000または約300,000の範囲内である。高分子量を有するポリスチレン系樹脂の重量平均分子量が約100,000以上であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物の応力緩和性が向上し、臭気などの問題が低減し、約400,000以下であると熱可塑性エラストマー組成物の加工性が向上する。
【0093】
そのような低分子量のポリスチレン樹脂の重量平均分子量は、好ましくは、約1,000または約2,000または約3,000~約100,000未満または約50,000または約20,000の範囲内である。低分子量のポリスチレン系樹脂の重量平均分子量が約1,000以上であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物の応力緩和性が向上し、臭気などの問題が低減し、100,000未満であると熱可塑性エラストマー組成物の分散性が向上する。さらに、25℃における引き裂き強度が良好となる。
【0094】
そのような低分子量のポリスチレン樹脂のZ平均分子量(Mz)は、好ましくは、約1,000または約2,000または約5,000~約30,000または約11,000または約9,000の範囲内である。低分子量を有するポリスチレン系樹脂のZ平均分子量が上記範囲内であると、25℃における引き裂き抵抗(Slow)およびエルメンドルフ試験の引き裂き強度が良好となる。
【0095】
なお、本明細書において、Z平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定によって求めた標準ポリスチレン換算の値である。
【0096】
そのような低分子量のポリスチレン樹脂のガラス転移温度(Tg)は、25℃における引き裂き抵抗(Slow)およびエルメンドルフ試験の引き裂き強度の観点から、好ましくは、約40℃または約50℃または約60℃~約110℃または約95℃または約80℃である。
【0097】
ガラス転移温度は、JIS K7121:2012に準拠して測定することができる。
【0098】
そのような高分子量のポリスチレン系樹脂は一般的に知られ、市販されており、例えば、Styrolution PS3190(INEOS Styrolution America LLC)である。
【0099】
そのような低分子量のポリスチレン系樹脂は一般的に知られ、市販されており、例えば、Kristalex(商標)5140(EASTMAN Chemical Company)、Kristalex(商標)3100(EASTMAN Chemical Company)、Piccotex(商標)120(EASTMAN Chemical Company)、Piccotex(商標)100(EASTMAN Chemical Company)である。
【0100】
適切なポリエチレン系樹脂の例としては、高密度ポリエチレンおよび低密度ポリエチレンなどのエチレンの単独重合体、ならびにエチレン-プロピレン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-1-ヘプテン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体、エチレン-4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン-1-ノネン共重合体、エチレン-1-デセン共重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、ならびに無水マレイン酸で変性されたエチレンの単独重合体および共重合体などのエチレンが主要単量体成分である様々なエチレン共重合体が挙げられる。
【0101】
適切なポリプロピレン系樹脂の例としては、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、およびブロックポリプロピレンが挙げられる。
【0102】
適切なポリエステル樹脂の例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、およびポリカプロラクトンが挙げられる。
【0103】
適切なポリアミド樹脂の例としては、ポリアミド6、ポリアミド6・6、ポリアミド6・10、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6・12、ポリヘキサメチレンジアミンテレフタルアミド、ポリヘキサメチレンジアミンイソフタルアミド、およびキシレン基含有ポリアミドが挙げられる。
【0104】
熱可塑性樹脂成分(B)の含有量は、水添ブロック共重合体成分(A)、熱可塑性樹脂成分(B)、ゴム用軟化剤成分(C)、およびポリオレフィンエラストマー成分(D)の100質量部に対して、約3質量部または約5質量部または約10質量部~約24質量部または約20質量部または約18質量部である。熱可塑性樹脂成分(B)の含有量が、約3質量部未満であると引き裂き強度が低下するおそれがあり、約24質量部を超えると応力緩和性が低下するおそれがある。
【0105】
ゴム用軟化剤成分(C)
ゴム用軟化剤成分(C)として使用するのに適したゴム用軟化剤の例としては、パラフィン系プロセスオイルおよびナフテン系プロセスオイルなどの鉱物油;落花生油およびロジンなどの植物油;燐酸エステル;低分子量ポリエチレングリコール;流動パラフィン;低分子量エチレン、エチレン-α-オレフィン共重合オリゴマー、液状ポリブテン、液状ポリイソプレンまたはその水素添加物、ならびに液状ポリブタジエンまたはその水素添加物などの合成油が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、または2種以上を併用してもよい。
【0106】
中でも、パラフィン系プロセスオイルおよび流動パラフィンなどのパラフィン系オイルが好適に使用される。パラフィン系オイルは、40℃における動粘度が、好ましくは、約20mm2/sまたは約50mm2/s~約1,500mm2/sまたは約1,000mm2/sまたは約500mm2/sである。
【0107】
ゴム用軟化剤成分(C)の含有量は、水添ブロック共重合体成分(A)、熱可塑性樹脂成分(B)、ゴム用軟化剤成分(C)、およびポリオレフィンエラストマー成分(D)の100質量部に対して、約3質量部または約5質量部または約8質量部または約10質量部~約25質量部または約20質量部または約18質量部または約15質量部である。ゴム用軟化剤(C)の含有量が、約3質量部未満であると成形加工性が低下するおそれがあり、約25質量部を超えると引張強度が低下するおそれがある。
【0108】
ポリオレフィンエラストマー成分(D)
ポリオレフィンエラストマー成分(D)において使用するのに適したポリオレフィンエラストマーの例としては、ポリエチレンエラストマー、ポリプロピレンエラストマーなどの1種以上のα-オレフィン単量体から主に誘導される重合体が挙げられる。
【0109】
ここで、ポリエチレンエラストマーとは、エチレンを過半量(質量基準)含むエラストマーのことをいい、ポリプロピレンエラストマーとはプロピレンを過半量(質量基準)含むエラストマーのことをいう。中でも加工性および耐熱性の観点から、ポリプロピレン系エラストマーを用いることが好ましい。
【0110】
ポリエチレンエラストマーに含まれるエチレン以外に由来する構造単位の例としては、プロピレンに由来する構造単位、1-ブテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ノネン、および1-デセンなどのα-オレフィンに由来する構造単位が挙げられる。中でも、加工性および引き裂き強度の観点から、エチレン/プロピレンランダム共重合体およびエチレン/ブテンランダム共重合体が好ましい。
【0111】
ポリプロピレンエラストマーに含まれるプロピレン以外に由来する構造単位の例としては、エチレンに由来する構造単位、1-ブテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ノネン、および1-デセンなどのα-オレフィンに由来する構造単位が挙げられる。
【0112】
ポリプロピレン系エラストマーとしては、例えば、ホモポリプロプレン、プロピレン/エチレンランダム共重合体、プロピレン/エチレンブロック共重合体、プロピレン/ブテンランダム共重合体、プロピレン/エチレン/ブテンランダム共重合体、プロピレン/ペンテンランダム共重合体、プロピレン/ヘキセンランダム共重合体、プロピレン/オクテンランダム共重合体、プロピレン/エチレン/ペンテンランダム共重合体、プロピレン/エチレン/ヘキセンランダム共重合体などが挙げられる。中でも、加工性および耐熱性の観点から、プロピレン/エチレンランダム共重合体およびプロピレン/ブテンランダム共重合体が好ましく、引き裂き強度の観点から、プロピレン/エチレンランダム共重合体がさらに好ましい。
【0113】
ポリプロピレンエラストマー中のプロピレンに由来する構造単位の含有量は、引き裂き強度および耐熱性の観点から、(ポリプロピレン系エラストマーの全質量に対して)好ましくは、約50質量%または約70質量%または約75質量%または約80質量%を上回って約99質量%または約98質量%または約95質量%または約90質量%までである。
【0114】
ポリプロピレンエラストマーがエチレンに由来する構造単位を含有する場合、その含有量は、引き裂き強度および応力緩和性の観点から、ポリプロピレンエラストマーの全質量に対して、好ましくは、約1質量%または約2質量%または約5質量%または約10質量%~約50質量%または約30質量%または約25質量%または約20質量%である。
【0115】
特に、ポリオレフィンエラストマーが、エチレンに由来する構造単位を含有するポリプロピレンエラストマーを含み、エチレンに由来する構造単位の含有量がポリプロピレンエラストマーの全質量に対して、好ましくは、約13.0質量%または約14.5質量%~約15.9質量%または約14.8質量%である場合、32℃における引き裂き強度および38℃における引き裂き強度の向上に加え、柔軟性のバランスがよくなる。
【0116】
ポリプロピレン系エラストマーは、好ましくは、ASTM D1238に準拠し、温度230℃および荷重2.16Kgの条件で測定して、約1g/10分または約1.5g/10分または約2g/10分~約300g/10分または約100g/10分または約50g/10分のメルトフローレート(MFR)を有する。ポリプロピレンエラストマーのMFRが上記範囲内であると、そのポリプロピレンエラストマーを高速にフィルム・シートなどに成形することができる。
【0117】
ポリプロピレン系エラストマーの密度は、好ましくは、約0.850g/cm3または約0.855g/cm3または約0.860g/cm3~約0.910g/cm3または約0.890g/cm3または約0.880g/cm3の範囲内である。ポリプロピレン系エラストマーの密度が約0.850g/cm3以上であると引き裂き強度に優れ、約0.910g/cm3以下であると応力緩和性に優れる。
【0118】
ポリプロピレン系エラストマーの密度は、ASTM D1505に準拠して測定することができる。
【0119】
ポリプロピレンエラストマーのビカット軟化点は、好ましくは、約40℃または約45℃または約50℃~約100℃または約80℃または約70℃である。ポリプロピレンエラストマーのビカット軟化点が約40℃以上であると耐熱性に優れ、約100℃以下であると応力緩和性に優れる。
【0120】
ポリプロピレン系エラストマーのビカット軟化点は、ASTM D1525に準拠して測定することができる。
【0121】
ポリプロピレンエラストマーの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは、約40,000または約100,000または約200,000~約500,000または約400,000または約350,000である。ポリプロピレンエラストマーの重量平均分子量が約40,000以上であると力学物性に優れ、約500,000以下であると成形性に優れる。
【0122】
ポリオレフィンエラストマーは一般的に知られ、市販されており、例えば、Vistamaxx(商標)6102、6202、3020FL、3980FL、および3588FL(エクソンモービル社)である。
【0123】
ポリオレフィンエラストマー成分(D)の含有量は、水添ブロック共重合体成分(A)、熱可塑性樹脂成分(B)、ゴム用軟化剤成分(C)、およびポリオレフィンエラストマー成分(D)の100質量部に対して、約5質量部または約8質量部または約10質量部または約20質量部~約76質量部または約70質量部または約60質量部または約55質量部である。ポリオレフィンエラストマー成分(D)の含有量が約5質量部未満であると異方性が悪化(増加)するおそれがあり、約76質量部を超えると弾性回復性、引き裂き強度および応力緩和性が低下するおそれがある。
【0124】
さらに、ポリオレフィンエラストマー(D)の含有量が、熱可塑性エラストマー組成物の全量に対して、好ましくは、約55質量%~約70質量%または約65質量%の範囲内にあると、32℃における引き裂き強度、および38℃における引き裂き強度を向上させることができる。
【0125】
水添ブロック共重合体(E)
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、さらに水添ブロック共重合体成分(E)を含むことが異方性を低減する観点から好ましい。
【0126】
水添ブロック共重合体(E)に適した水添ブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を(重合体ブロック(x)の全質量に対して)約70質量%超含有する重合体ブロック(x)と、共役ジエン化合物およびイソブチレンからなる群から選択される少なくとも1種に由来する構造単位を(重合体ブロック(y)の全質量に対して)約30質量%以上含有する重合体ブロック(y)とを有するブロック共重合体を水素添加することにより形成される。
【0127】
1種類の水添ブロック共重合体を単独で使用することもでき、または2種類以上の水添ブロック共重合体を組み合わせて使用することもできる。
【0128】
水添ブロック共重合体における重合体ブロック(x)は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を約70質量%超含有する。芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有量が約70質量%未満であると引張強度および応力緩和性が低下するおそれがある。このような観点から、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有量は、好ましくは、約80質量%以上、または約85質量%以上、または約90質量%以上、または約95質量%以上、または実質的に100質量%である。
【0129】
上記芳香族ビニル化合物としては、水添ブロック共重合体成分(A)の水添ブロック共重合体について使用される芳香族ビニル化合物と同じものを例示することができる。中でも、引張強度の観点から、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、およびこれらの混合物が好ましく、スチレンがより好ましい。
【0130】
重合体ブロック(x)は、本発明の目的および効果の妨げにならない限り、芳香族ビニル化合物以外の重合性単量体に由来する構造単位を、約30質量%以下、または約20質量%以下、または約10質量%以下、または約5質量%以下、または実質的に0質量%(存在しない)の割合で含有していてもよい。他の重合性単量体に由来する構造単位の例としては、水添ブロック共重合体成分(A)の水添ブロック共重合体について使用されるものとして挙げた他の重合性単量体に由来する構造単位と同じものが挙げられる。
【0131】
重合体ブロック(x)が他の重合性単量体に由来する構造単位を含有する場合に、結合形態は特に制限はなく、ランダムまたはテーパー状のいずれでもよい。
【0132】
水添ブロック共重合体は、重合体ブロック(x)を少なくとも1つ有していればよい。水添ブロック共重合体が重合体ブロック(x)を2つ以上有する場合には、それら重合体ブロック(x)は、同一であっても異なっていてもよい。本明細書において「重合体ブロックが異なる」という用語は、重合体ブロックを構成する単量体単位、重量平均分子量、立体規則性、ならびに複数の単量体単位を有する場合には各単量体単位の比率および共重合の形態(ランダム、グラジェント、ブロック)のうち少なくとも1つが異なることを意味する。
【0133】
水添ブロック共重合体(E)における重合体ブロック(x)の含有量(複数の重合体ブロック(x)が含まれる場合はそれらの合計含有量である)は、約4質量%または約8質量%または約10質量%または約11質量%~約30質量%または約25質量%または約20質量%または約15質量%である。重合体ブロック(x)の含有量が約4質量%未満であると加工性が低下するおそれがあり、約30質量%を超えると応力緩和性および異方性が悪化するおそれがある。
【0134】
水添ブロック共重合体(E)における重合体ブロック(x)の含有量は、水素添加後のH-NMRスペクトルにより得られた値であり、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0135】
水添ブロック共重合体(E)における重合体ブロック(y)は、共役ジエン化合物およびイソブチレンからなる群から選択される少なくとも1種に由来する構造単位を約30質量%以上含有する。共役ジエン化合物およびイソブチレンからなる群から選択される少なくとも1種に由来する構造単位の含有量が、約30質量%未満であると引張強度が低下するおそれがある。このような観点から、共役ジエン化合物およびイソブチレンからなる群から選択される少なくとも1種に由来する構造単位の含有量は、好ましくは、約50質量%以上、または約65質量%以上、または約80質量%以上である。
【0136】
水添ブロック共重合体(E)における重合体ブロック(y)は、共役ジエン化合物に由来する構造単位を約30質量%以上含有していてもよいし、イソブチレンに由来する構造単位を30質量%以上含有していてもよいし、または共役ジエン化合物とイソブチレンとの混合物に由来する構造単位を30質量%以上含有していてもよい。重合体ブロック(y)は、共役ジエン化合物1種に由来する構造単位のみを有していてもよいし、または共役ジエン化合物2種以上に由来する構造単位を有していてもよい。
【0137】
重合体ブロック(y)が2種以上の構造単位を有している場合は、それらの結合形態はランダム、テーパー、完全交互、一部ブロック状、ブロック、またはそれらの2種以上の組み合わせからなることができる。
【0138】
共役ジエン化合物の例としては、イソプレン、ブタジエン、ヘキサジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、ファルネセン、ミルセン、およびこれらの混合物が挙げられる。中でも、イソプレン、ブタジエン、およびイソプレンとブタジエンの混合物が好ましく、これらのいずれが使用されてもよく、これらの中でも、イソプレンがより好ましい。ブタジエンとイソプレンの混合物の場合、それらの混合比率[イソプレン/ブタジエン](質量比)に特に制限はないが、好ましくは、約5/95または約10/90または約40/60または約45/55~約95/5または約90/10または約70/30または約65/35または約55/45である。該混合比率[イソプレン/ブタジエン]をモル比で示すと、好ましくは、約5/95または約10/90または約40/60または約45/55~約95/5または約90/10または約70/30または約55/45である。
【0139】
水添ブロック共重合体における重合体ブロック(y)を構成する構成単位が、イソプレンに由来する構造単位、ブタジエンに由来する構造単位、およびイソプレンとブタジエンとの混合物に由来する構造単位のいずれかである場合、水添ブロック共重合体は、それぞれ、ブタジエンの場合には1,2-結合および/または3,4-結合を含むことができ、イソプレンの場合には1,2-結合、3,4-結合および/または1,4-結合を含むことができる。
【0140】
水添ブロック共重合体においては、重合体ブロック(y)中の3,4-結合単位および1,2-結合単位の合計含有量(以下、ビニル結合量と称することがある)は、好ましくは、約20モル%以上、または約40モル%以上、または約50モル%以上である。特に制限されるものではないが、重合体ブロック(y)中のビニル結合量は、好ましくは、約90モル%以下、または約85モル%以下である。ここで、ビニル結合は、実施例に記載の方法に従ってH-NMRを測定することによって算出した値である。
【0141】
重合体ブロック(y)がブタジエンのみから構成される場合には、「3,4-結合単位および1,2-結合単位の含有量」という用語を「1,2-結合単位の含有量」と読み替えて使用する。
【0142】
水添ブロック共重合体における重合体ブロック(y)は、本発明の目的および効果の妨げにならない限り、共役ジエン化合物およびイソブチレン以外の他の重合性単量体に由来する構造単位を含有していてもよい。この場合、重合体ブロック(y)において、共役ジエン化合物およびイソブチレン以外の他の重合性単量体に由来する構造単位の含有量は、好ましくは、約70質量%未満、または約50質量%未満、または約35質量%未満、または約20質量%未満、または約15質量%未満であり、そして5質量%以上である。
【0143】
他の重合性単量体としては、好ましくは、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、ビニルナフタレンおよびビニルアントラセンなどの芳香族ビニル化合物、ならびにメタクリル酸メチル、メチルビニルエーテル、N-ビニルカルバゾール、β-ピネン、p-メンタン-8,9-ジオール、ジペンテン、メチレンノルボルネン、2-メチレンテトラヒドロフラン、1,3-シクロペンタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、1,3-シクロヘプタジエンなどからなる群から選択される少なくとも1種の化合物が挙げられる。中でも、スチレン、α-メチルスチレン、およびp-メチルスチレンが好ましく、スチレンがより好ましい。
【0144】
重合体ブロック(y)が、共役ジエン化合物およびイソブチレン以外の他の重合性単量体に由来する構造単位を含有する場合、その具体的な組み合わせは、好ましくは、イソプレンおよびスチレン、ブタジエンおよびスチレン、イソプレンとブタジエンの混合物およびスチレンであり、より好ましくは、イソプレンおよびスチレン、ならびにイソプレンとブタジエンの混合物およびスチレンである。
【0145】
重合体ブロック(y)が、共役ジエン化合物およびイソブチレン以外の他の重合性単量体に由来する構造単位を含有する場合、その結合形態は特に制限はなく、ランダムまたはテーパー状のいずれでもよい。
【0146】
水添ブロック共重合体は、重合体ブロック(y)を少なくとも1つ有していてもよい。水添ブロック共重合体が重合体ブロック(y)を2つ以上有する場合には、それら重合体ブロック(y)は、同一であっても異なっていてもよい。
【0147】
水添ブロック共重合体における重合体ブロック(x)と重合体ブロック(y)との間の結合様式は、直鎖状、分岐状、放射状、またはこれらの任意の組み合わせのいずれであってよい。中でも、重合体ブロック(x)と重合体ブロック(y)との間の結合様式は直鎖状であることが好ましく、その例としては重合体ブロック(x)を「P」で、また重合体ブロック(y)を「Q」で表すとき、「P-Q」で示されるジブロック共重合体、「P-Q-P」で示されるトリブロック共重合体、「P-Q-P-Q」で示されるテトラブロック共重合体、「P-Q-P-Q-P」および「Q-P-Q-P-Q」で示されるペンタブロック共重合体、ならびに(P-Q)nX型共重合体(Xはカップリング剤残基を表し、nは3以上の整数を表す)が挙げられる。中でも、直鎖状のトリブロック共重合体、またはジブロック共重合体が好ましく、P-Q-P型のトリブロック共重合体が、加工性の観点から好ましく用いられる。
【0148】
水添ブロック共重合体(E)における重合体ブロック(y)は、引張強度の観点から、共役ジエン化合物およびイソブチレンに由来する構造単位中の炭素-炭素二重結合の好ましくは少なくとも約80モル%、または少なくとも約85モル%、または少なくとも約88モル%が水素添加されている。水素添加率の上限値に特に制限はないが、上限値は約99モル%、または約98モル%であってもよい。
【0149】
一方で、架橋または発泡させることを考慮した場合は、水素添加率は約50モル%以下、または約10モル%以下、または約5モル%以下、または約3モル%以下であってもよい。
【0150】
上記の水素添加率は、重合体ブロック(y)中の共役ジエン化合物およびイソブチレンに由来する構造単位中の炭素-炭素二重結合の含有量を、水素添加の前後においてH-NMRスペクトルを使用して測定することによって測定値から算出した値である。より詳細には、これは実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0151】
水添ブロック共重合体のガラス転移温度(Tg)は約-45℃~約30℃である。水添ブロック共重合体(E)のガラス転移温度が約-45℃未満であると異方性が悪化するおそれがあり、約30℃を超えると応力緩和性が低下するおそれがある。このような観点から、水添ブロック共重合体(E)のガラス転移温度は、好ましくは、約-40℃~約10℃または約0℃である。
【0152】
上記ガラス転移温度は、JIS K7121:2012に準拠して測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0153】
水添ブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは、約20,000または約50,000または約70,000または約90,000または約130,000~約800,000または約700,000または約600,000または約500,000または約450,000である。水添ブロック共重合体の重量平均分子量が約20,000以上であると引張強度に優れ、約800,000以下であると成形加工性に優れる。
【0154】
水添ブロック共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは、約1.5以下または約1.4以下または約1.3以下または約1.2以下~約1.0である。
【0155】
なお、水添ブロック共重合体(E)は、本発明の効果を著しく損なわない限り、分子鎖中および/または分子末端に、カルボキシル基、水酸基、酸無水物基、アミノ基、およびエポキシ基などの官能基を1種以上有していてもよい。
【0156】
水添ブロック共重合体(E)の製造方法
水添ブロック共重合体(E)は、溶液重合法、乳化重合法、固相重合法などにより製造することができる。中でも溶液重合法が好ましく、例えば、アニオン重合もしくはカチオン重合などのイオン重合法、またはラジカル重合法などの公知の方法を適用することができる。中でも、アニオン重合法が好ましい。アニオン重合法による製造方法は、水添ブロック共重合体成分(A)の水添ブロック共重合体の製造方法の項で上記したとおりである。
【0157】
水添ブロック共重合体成分(E)の含有量は、水添ブロック共重合体成分(A)、熱可塑性樹脂成分(B)、ゴム用軟化剤成分(C)、ポリオレフィンエラストマー成分(D)、および水添ブロック共重合体成分(E)の全質量に対して、好ましくは、約3質量部または約4質量部または約5質量部~約15質量部または約13質量部または約12質量部である。水添ブロック共重合体(E)の含有量が約3質量部以上であると異方性が低減し、約15質量部以下であると引張強度に優れる。
【0158】
他の任意の成分
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、上記成分に加えて、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、目的に応じて他の成分を配合することができる。
【0159】
他の成分としては、例えば、充填材、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、滑剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、粘着付与剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、架橋剤、導電性付与剤、防菌剤、防黴剤などの各種添加物、上記成分以外の熱可塑性樹脂、上記必須成分以外のエラストマーなどを挙げることができる。これらは、いずれか1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0160】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物中の水添ブロック共重合体(A)、熱可塑性樹脂(B)、ゴム用軟化剤(C)、およびポリオレフィンエラストマー(D)の合計含有量は、熱可塑性エラストマー組成物の全質量に対して、好ましくは、約80質量%以上、または約85質量%以上、または約90質量%以上である。
【0161】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上記水添ブロック共重合体(A)、熱可塑性樹脂(B)、ゴム用軟化剤(C)、ポリオレフィンエラストマー(D)、および必要に応じて配合される水添ブロック共重合体(E)、ならびに他の任意の成分を混合することにより製造することができる。混合方法としては、従来から慣用されている方法を採用することができ、例えば、ハイスピードミキサー、リボンブレンダー、またはV型ブレンダーなどの混合装置を用いて均一に混合した後、ミキシングロール、ニーダー、バンバリーミキサー、ブラベンダーミキサー、または一軸もしくは二軸押出機などの混練装置を用いて溶融混練してもよい。混練は一般的には約120℃~約280℃の温度で行われる。
【0162】
海島構造
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、異方性を低減する観点から、ポリオレフィンエラストマー成分(D)と、ポリオレフィンエラストマー成分(D)以外の成分との樹脂成分の海島構造を有することが好ましい。ここで、海島構造とは、海相中に島相が存在する相分離構造を意味する。ポリオレフィンエラストマー成分(D)が島相、ポリオレフィンエラストマー成分(D)以外の成分が海相であってもよく、ポリオレフィンエラストマー成分(D)が海相、ポリオレフィンエラストマー成分(D)以外の成分が島相であってもよいが、異方性を低減する観点からは、ポリオレフィンエラストマー成分(D)が海相、ポリオレフィンエラストマー成分(D)以外の成分が島相であることが好ましく、引き裂き強度および応力緩和性を改善する観点からは、ポリオレフィンエラストマー成分(D)が島相、ポリオレフィンエラストマー成分(D)以外の成分が海相であることが好ましい。さらに、引き裂き強度の観点から、熱可塑性エラストマー組成物において、ポリオレフィンエラストマー成分(D)と、ポリオレフィンエラストマー成分(D)以外の成分とが微分散していることが好ましい。
【0163】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、異方性を低減する観点から、共連続構造ではないことが好ましい。ここで、共連続構造とは、2成分または2成分以上が連続した相を形成しながら互いに混ざり合っているネットワーク構造を意味する。
【0164】
ポリオレフィンエラストマー成分(D)と、ポリオレフィンエラストマー成分(D)以外の成分とのモルフォロジー(相構造)は、熱可塑性エラストマー組成物中のポリオレフィンエラストマー成分(D)の含有量および成形加工法(温度、速度)により適宜調整することができる。
【0165】
ここで、熱可塑性エラストマー組成物中のポリオレフィンエラストマー成分(D)の含有量が約30質量%~約45質量%であると、該熱可塑性エラストマー組成物は共連続構造をとりやすくなり、引き裂き強度が低下する傾向があることが見出された。さらに、ポリオレフィンエラストマー成分(D)の含有量が上記範囲内の場合に、熱可塑性樹脂としてポリスチレン系樹脂を用いたり、または熱可塑性エラストマー組成物がさらに水添ブロック共重合体成分(E)を含有する場合に、該熱可塑性エラストマー組成物は共連続構造をとりにくくなり、引き裂き強度が向上する傾向があることが見出された。
【0166】
海島構造は、以下の方法により確認することができる。
【0167】
透過電子顕微鏡(TEM)JEM-2100F(日本電子株式会社製)を用いて、熱可塑性エラストマー組成物(フィルム)の断面画像を撮影し、得られた断面画像から熱可塑性エラストマー組成物(フィルム)の断面のモルフォロジーを観察する。シート状に成形した熱可塑性エラストマー組成物を適当な大きさに切り出し、熱硬化性エポキシ樹脂で包埋した後、クライオウルトラミクロトームEM UC7/FC7(ライカマイクロシステムズ株式会社製)を用いて凍結状態で80nmの厚みにスライスし超薄切片を作製し、これを観察試料として使用する。四酸化ルテニウムを用いて室温(23℃)で気相染色処理することで、試料を電子染色処理し顕微鏡観察に供する。観察は、23℃、超高真空下、観察倍率2000倍、観察視野10.6μm×10.6μmの範囲、および観察倍率5000倍、観察視野4.25μm×4.25μmの範囲で行う。
【0168】
海島構造であるか共連続構造であるかは、TEMを用いて撮影したフィルム断面の画像において、観察倍率2000倍、観察視野10.6μm×10.6μmの範囲の撮影サイズで確認し、画像内の90%の分離構造が画像の両端に達している構造を共連続構造と定義する。島構造が微分散であるかどうかは、上記基準で共連続構造ではなく、TEMを用いて撮影したフィルム断面の画像において、観察倍率5000倍、観察視野4.25μm×4.25μmの範囲の撮影サイズで確認し、そのうち代表的な2μm角の範囲の画像から、島の長軸方向の長さをDigitalMicrographソフトウェア(Gatan社)を用いて測定し、1.5μm以下の平均を有する島の長さを微分散と定義する。
【0169】
海島構造を構成する島相は、好ましくは、約100nm以上、または約150nm以上、または約200nm以上で、好ましくは、約5μm以下、または約3μm以下、または約1.5μm以下の長軸を有する。島相の長軸が約100nm以上で、約5μm以下であると引き裂き強度が向上する。
【0170】
上記島相の長軸は、TEMにより撮影されたフィルム断面の画像において、観察倍率5000倍、観察視野4.25μm×4.25μmの範囲で確認し、そのうち代表的な2μm角の範囲の画像から、島の長軸方向の長さをDigitalMicrographソフトウェア(Gatan社)を用いて測定することができる。
【0171】
海島構造を構成する島相は、異方性を低減する観点から、好ましくは、約3以下、または約2.5以下、または約2以下のアスペクト比(長軸/短軸)を有する。アスペクト比の下限は好ましくは約1である。
【0172】
ポリオレフィンエラストマー成分(D)が島相である場合、異方性を低減する観点から、海島構造中の島相の面積割合は、好ましくは、約10%または約20%または約30%~約80%または約70%または約60%である。
【0173】
ポリオレフィンエラストマー成分(D)が海相である場合、良好な引き裂き強度および応力緩和性の観点から、海島構造中の海相の面積割合は、好ましくは、約10%または約20%または約30%~約80%または約70%または約60%である。
【0174】
上記海島構造中の海相の割合および島相の割合は、TEMを用いて撮影したフィルム断面の画像において、観察倍率2000倍、観察視野10.6μm×10.6μmの範囲の撮影サイズで確認し、海相と島相との面積比により測定することができる。
【0175】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物のエレメンドルフ(MD)試験における引き裂き強度は、好ましくは、約300N以上、または約500N以上である。
【0176】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の応力緩和性(長期)は、好ましくは、約60%以上、または約65%以上である。
【0177】
上記エレメンドルフ(MD)試験における引き裂き強度および応力緩和性(長期)は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0178】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の引張試験における応力緩和性は、好ましくは、約27%以下、または約25%以下である。
【0179】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の異方性における応力緩和性は、好ましくは、約2.0倍以下、または約1.8倍以下である。
【0180】
引張試験における応力緩和性および異方性における応力緩和性は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0181】
熱可塑性エラストマー組成物の使用
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、弾性回復性、25℃における引き裂き強度、および応力緩和性が良好であるとともに、異方性を低減することができることから、フィルムおよびシートの用途で、衛生材料部材およびパーソナルケア材料部材、おむつなどの日用品、工業用品、家電用品、食品容器、包装材料、包帯などの医療用品、雑貨、スポーツ用品などの伸縮フィルム、シートなどに好適に用いることができる。
【0182】
また、用途によっては、32℃における引き裂き強度、および/または38℃における引き裂き強度が求められる。32℃における引き裂き強度が求められる用途としては、水着ゴム部材、ゴーグルなど水泳用品、工業用バンジーコード、釣り用ルアー、テニスなどのスポーツグリップ用品、寒冷地および冷凍庫内で用いる使い捨てゴム手袋などのエラスティックフィルム、ならびに運動用ゴムバンドが挙げられる。
【0183】
32℃における引き裂き強度を向上させる手段としては、例えば、水添ブロック共重合体(A)中の重合体ブロック(b)が1,3-ブタジエンに由来する構造単位のみを含有する水添ブロック共重合体を用いる、熱可塑性樹脂(B)として水添石油樹脂を用いる場合、該水添石油樹脂と、オイル〔ゴム用軟化剤(C)〕との配合量を適宜調整する、ポリオレフィンエラストマー(D)の含有量を適宜調整する、ポリオレフィンエラストマー(D)中に含まれるエチレンに由来する構造単位の含有量を適宜調整するなどの方法を挙げることができる。
【0184】
38℃における引き裂き強度が求められる用途としては、衣服のゴム部材(下着、ランジェリー、体型補正用衣服、スポーツ用衣服などのゴム部材、グリップ部材)、衛生材料などの日用品、コンドーム、アダルトトイ、スポーツ用バンテージ、医療用包帯、創傷ケア、医療用止血帯、および腰痛軽減などの医療用補助具が挙げられる。
【0185】
38℃における引き裂き強度を向上させる手段としては、例えば、ポリオレフィンエラストマー(D)の含有量を適宜調整する、ポリオレフィンエラストマー(D)中に含まれるエチレンに由来する構造単位の含有量を適宜調整するなどの方法が挙げられる。
【実施例】
【0186】
以下に実施例および比較例を示して本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。
【0187】
以下の実施例および比較例において、水添ブロック共重合体成分(A)および(E)、ならびに熱可塑性エラストマー組成物の物性は以下の方法により評価した。
【0188】
結晶化ピーク温度およびガラス転移温度の測定方法
示差走査熱量計(DSC)を使用して、結晶化ピーク温度を下記2ndステップの降温過程において観測される発熱ピークから求め、ガラス転移温度を下記3rdステップの昇温過程において観測される吸熱ピークから求めた。
【0189】
装置:DSC6200(セイコーインスツル株式会社製)
昇温速度:10℃/分
降温速度:10℃/分
窒素流量:40mL/分
温度プロファイル:
1st:30℃ → 150℃(5分保持)
2nd:150℃ → -100℃(5分保持)
3rd:-100℃ → 150℃
【0190】
水素添加率、スチレン含有量、重合体ブロック(b)における1,4-結合量、およびイソプレンに由来する構造単位対ブタジエンに由来する構造単位の質量比、ならびに重合体ブロック(y)におけるビニル結合量の測定方法
いずれもH-NMRの1Hスペクトルから取得した。重合体ブロック(b)における1,4-結合量は、水素添加前のブロック共重合体を用いて測定し、1,2-結合および3,4-結合のピーク面積と1,4-結合のピーク面積との合計に対する1,4-結合のピーク面積の比率を算出した。重合体ブロック(y)におけるビニル結合量は、水素添加前のブロック共重合体を用いて測定し、1,2-結合および3,4-結合のピーク面積と1,4-結合のピーク面積との合計に対する1,2-結合および3,4-結合のピーク面積の比率を算出した。さらに、イソプレンに由来する構造単位とブタジエンに由来する構造単位との質量比は、水素添加前のブロック共重合体を用いて測定した。
【0191】
装置:JNM-Lambda 500(日本電子株式会社製)
溶媒:重クロロホルム
測定温度:50℃
【0192】
重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)を求める方法
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)を標準ポリスチレン換算で求めた。
【0193】
装置:GPC-8020(東ソー株式会社製)
溶媒:テトラヒドロフラン
測定温度:40℃
流速:1mL/分
注入量:150μL、濃度:5mg/10cc(水添ブロック共重合体/THF)
【0194】
モルフォロジー
実施例3、実施例5、実施例6、および実施例8で得られた熱可塑性エラストマー組成物(フィルム)について、透過電子顕微鏡(TEM)JEM-2100F(日本電子株式会社製)を用いて、該熱可塑性エラストマー組成物(フィルム)の断面画像を撮影し、得られた断面画像からフィルム断面のモルフォロジーを観察した。シート状に成形した熱可塑性エラストマー組成物を適当な大きさに切り出し、熱硬化性エポキシ樹脂で包埋した後、クライオウルトラミクロトームEM UC7/FC7(ライカマイクロシステムズ株式会社製)を用いて凍結状態で80nmの厚みにスライスし超薄切片を作製し、これを観察試料として使用した。四酸化ルテニウムを用いて室温(23℃)で気相染色処理することで、試料を電子染色処理し顕微鏡観察に供した。観察は、23℃、超高真空下、観察倍率2000倍、観察視野10.6μm×10.6μmの範囲、および観察倍率5000倍、観察視野4.25μm×4.25μmの範囲で行った。
【0195】
図1~
図8は、透過電子顕微鏡を用い、熱可塑性エラストマー組成物(フィルム)の断面画像を、フィルム製造時の機械方向(MD)に沿って切削し観察することで得たモルフォロジー画像である。
【0196】
図1~
図8において、明色の領域はポリオレフィンエラストマー成分(D)に相当し、暗色の領域はポリオレフィンエラストマー成分(D)以外の樹脂成分に相当する。暗色の領域を染色しているのは二重結合を有する構造であり、具体的には、水添ブロック共重合体成分(A)、水添ブロック共重合体成分(E)、Styrolution PS3190およびKristalex(商標)5140である。モルフォロジーは後述の評価基準に従って、各撮影サイズ内の島相の長軸方向および短軸方向の長さを使用し、これをDigitalMicrographソフトウェア(Gatan社)により分析することにより測定し、評価した。
【0197】
引き裂き抵抗(slow)
(1)25℃における引き裂き抵抗
シート状に成形した熱可塑性エラストマー組成物(TD方向)をASTM D882に準拠して50.8mm×25.4mmの大きさにダイを用いて切断し、試験片(6個)を作製した。各試験片の厚さを測定しミル単位で記録した。次いで、各試験片の中央に印を付け、該試験片の端に2mmの切り込みを入れた。Bluehill 3ソフトウェアおよび100Nロードセルを備えたInstron 5567(Instron社)の空気圧フィルムグリップ(1インチライングリップ付き1/2インチパッド)に上記試験片を挿入し、測定温度を25℃に設定し、次いで、クロスヘッドで250mm/分で試験片を175%伸びまで伸ばし、該試験片が裂けたり破損したりしない限り1時間保持した。1時間保持後に、二つに裂けなかった試験片の個数を25℃における引き裂き抵抗の結果とする。二つに裂けなかった試験片の個数が2個以上を合格とする。
【0198】
(2)32℃における引き裂き抵抗
25℃における引き裂き抵抗の試験と同様にして試験片(2個)を作製した。Bluehill 3ソフトウェアおよび100Nロードセルを備えたInstron 5567(Instron社)の空気圧フィルムグリップ(1インチライングリップ付き1/2インチパッド)に上記試験片を挿入し、測定温度を32℃に設定し、次いで、クロスヘッドで250mm/分で試験片を150%伸びまで伸ばし、該試験片が裂けたり破損したりしない限り10時間保持した。10時間保持後に、上記試験片を引っ張り二つに裂けるのに要した時間を測定し、その平均値を32℃における引き裂き抵抗の結果とした。
【0199】
(3)38℃における引き裂き抵抗
32℃における引き裂き抵抗の試験において、測定温度を38℃に変更したこと以外は、上記(2)と同様にして、38℃における引き裂き抵抗を測定した。
【0200】
エレメンドルフ(MD)試験
ASTM D1922に準拠して下記試験を行った。
【0201】
シート状に成形した熱可塑性エラストマー組成物(MD方向)を、ダイを用いてASTM D1922に準拠してスリットの入った試験片(10個)を作製した。各試験片の厚さ(μm)を測定し、各試験片の質量(g)を得た。Elmendorf Tearing Tester(Thwing-Albert社)の試験場所に上記試験片を固定し、試験ボタンを押して振り子をはめ込み、1600gの重りを使用して該試験片を引き裂く操作を行い、得られた結果をgfで記録した。試験の結果、引き裂けなかった試験片の個数を記載し、引き裂けた試験片については引き裂き強度の平均値を算出し、その値を記載した。
【0202】
応力緩和性(長期)
シート状に成形した熱可塑性エラストマー組成物(TD方向)をASTM D882に準拠して50.8mm×25.4mmの大きさにダイを用いて切断し、試験片を作製した。該試験片の厚さを測定しミル単位で記録した。該試験片を用いてBluehill 3ソフトウェアおよび100Nロードセルを備えたInstron 5567(Instron社)で下記手順に従って試験を行い、下記式により応力緩和性を算出した。
【0203】
(1)Instron 5567に試験片をセットし、250mm/分で500%伸びまで該試験片を伸ばし、0%伸びまで戻した。
【0204】
(2)試験片を30秒間リラックスさせるために底部フィルムグリップを離し、再び底部フィルムグリップを閉じた。
【0205】
(3)250mm/分で試験片を50%伸びまで伸ばし、10時間保持した。
【0206】
応力緩和性(%)=50%伸長し10時間保持した引張強度(MPa)/50%伸長した直後の引張強度(MPa)×100
【0207】
引張試験(TD)
シート状に成形した熱可塑性エラストマー組成物(TD方向)をASTM D882に準拠して50.8mm×25.4mmの大きさにダイを用いて切断し、試験片(6個)を作製した。各試験片の中央の厚さ(インチ)を測定した。Bluehill 3ソフトウェアおよび100Nロードセルを備えたInstron 5567(Instron社)の空気圧グリップに上記試験片を挿入し、クロスヘッドで200%伸びに達するまで250mm/分で試験片を伸ばし、200%伸びで30秒間保持し、次いで、60秒間で0%伸びまで戻す操作を行い、下記式により応力緩和性を算出した。なお、100Nロードセルは、空気圧フィルムグリップと共に使用され、該グリップは片側に12.7mm×25.4mmのグリップを有し、反対側に25.4mmのライングリップを有する。
【0208】
応力緩和性(%)=[200%伸長した直後の引張強度(MPa)-200%伸長し30秒間保持した引張強度(MPa)]/200%伸長した直後の引張強度(MPa)×100
【0209】
異方性
シート状に成形した熱可塑性エラストマー組成物(MD方向)をASTM D882に準拠して50.8mm×25.4mmの大きさにダイを用いて切断し、試験片(6個)を作製した。各試験片の中央の厚さ(インチ)を測定した。Bluehill 3ソフトウェアおよび100Nロードセルを備えたInstron 5567(Instron社)を用いて、上記引張試験(TD)において記載された操作に従い上記試験片を試験し、MD方向における応力緩和性を算出した。上記引張試験(TD)で算出したTD方向における応力緩和性(F1)とMD方向における応力緩和性(F2)との間の比(F2/F1)を算出し、これを異方性における応力緩和性とした。
【0210】
製造例1:水添ブロック共重合体(A1)の製造
窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン3000mL、および開始剤として10.5重量%のsec-ブチルリチウム(シクロヘキサン溶液)9.2mLを仕込み、60℃に昇温した後、そこにスチレンを100mL加えて、溶液を60分間重合した。
【0211】
その後、同温度で、イソプレン4.3mLおよびブタジエン5.7mLを同時に加え、同量のイソプレンおよびブタジエンを互いに一気に加えることによって反応を3.8分間繰り返した。最終的にイソプレンを265mL、ブタジエンを360mL加え、その後さらに90分間反応を続けた。
【0212】
さらに同温度でスチレン100mLを添加して60分間重合させた後、メタノール0.52mLで重合を停止させ、ポリスチレン-ポリ(イソプレン/ブタジエン)-ポリスチレントリブロック共重合体を含む反応液を得た。
【0213】
この反応液に水素添加触媒としてパラジウムカーボン(パラジウム担持量:5重量%)を29.3g添加し、水素圧力2MPa、150℃で10時間水素添加反応を行った。放冷、放圧後、濾過によりパラジウムカーボンを除去し、濾液を濃縮し、真空乾燥することにより、ポリスチレン-ポリ(イソプレン/ブタジエン)-ポリスチレントリブロック共重合体の水素添加物(以下、水添ブロック共重合体(A1)と称する)を得た。得られた水添ブロック共重合体(A1)の物性評価を上記方法に従って行った。その結果を表1に示す。
【0214】
製造例2:水添ブロック共重合体(A2)の製造
窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン50kgおよびアニオン重合開始剤としてsec-ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)147g(sec-ブチルリチウム15.4g相当)を仕込み、ルイス塩基としてテトラヒドロフラン128gを仕込んだ。50℃に昇温した後、スチレン(1)2.42kgを加えて1時間重合させ、引き続いて40℃にてブタジエン10.76kgを加えて2時間重合を行い、さらに50℃に昇温した後、スチレン(2)2.42kgを加えて1時間重合することにより、ポリスチレン-ポリブタジエン-ポリスチレントリブロック共重合体を含む反応液を得た。
【0215】
この反応液に、水素添加触媒としてパラジウムカーボン(パラジウム担持量:5質量%)を上記ブロック共重合体に対して5質量%添加し、水素圧力2MPa、150℃で10時間反応を行った。
【0216】
放冷、放圧後、濾過によりパラジウムカーボンを除去し、濾液を濃縮し、さらに真空乾燥することにより、ポリスチレン-ポリブタジエン-ポリスチレントリブロック共重合体の水素添加物(以下、水添ブロック共重合体(A2)と称する)を得た。得られた水添ブロック共重合体(A2)の物性評価を上記方法に従って行った。その結果を表1に示す。
【0217】
製造例3:水添ブロック共重合体(E)の製造
窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン50kgおよびアニオン重合開始剤としてsec-ブチルリチウム(10.5重量%シクロヘキサン溶液)76g(sec-ブチルリチウム8.0g相当)を仕込み、ルイス塩基としてテトラヒドロフラン310gを仕込んだ。50℃に昇温した後、スチレン(1)0.5kgを加えて1時間重合させ、引き続いて40℃にてイソプレン8.2kgおよびブタジエン6.5kgの混合液[イソプレン/ブタジエン(質量比)=55/45]を加えて2時間重合を行った後、スチレン(2)1.5kgを加えて1時間重合することにより、ポリスチレン-ポリ(イソプレン/ブタジエン)-ポリスチレントリブロック共重合体を含む反応液を得た。
【0218】
この反応液に、水素添加触媒としてパラジウムカーボン(パラジウム担持量:5質量%)を上記ブロック共重合体に対して5質量%添加し、水素圧力2MPa、150℃で10時間反応を行った。
【0219】
放冷、放圧後、濾過によりパラジウムカーボンを除去し、濾液を濃縮し、さらに真空乾燥することにより、ポリスチレン-ポリ(イソプレン/ブタジエン)-ポリスチレントリブロック共重合体の水素添加物(以下、水添ブロック共重合体(E)と称する)を得た。得られた水添ブロック共重合体(E)の物性評価を上記方法に従って行った。その結果を表1に示す。
【0220】
【0221】
実施例1~実施例32および比較例1~比較例5
温度T1℃に設定した延長混合セクションを備えた27mmのLeistritz二軸スクリュー押出機を使用し、引き続き、表2A、表2B、表2C、および表2Dに挙げられる種類および量の成分を加えて、予備混合し、次いで、温度T2℃に設定したThermo Fisher 20mm単軸スクリュー機を使用して、熱可塑性エラストマー組成物のフィルムを得た。得られた熱可塑性エラストマー組成物の物性の測定結果を表2A、表2B、表2C、および表2Dに示す。
【0222】
熱可塑性エラストマー組成物の調製に使用した表2A、表2B、表2C、および表2Dに挙げられる各成分の詳細は以下のとおりである。
【0223】
水添ブロック共重合体成分(A):
水添ブロック共重合体(A1)(製造例1)
水添ブロック共重合体(A2)(製造例2)
【0224】
熱可塑性樹脂成分(B):
炭化水素樹脂(水添石油樹脂):Regalite(商標)R1125(EASTMAN Chemical Company社)
ポリプロピレン - P4C5B-030(Flint Hills Resources社)
高分子量のポリスチレン系樹脂 - Styrolution PS3190(INEOS Styrolution America LLC社)(Mw - 250,000)
低分子量のポリスチレン系樹脂 - Kristalex(商標)5140(EASTMAN Chemical Company社)(Mw - 4,900、Mz - 9,800、Tg - 90℃)
低分子量のポリスチレン系樹脂 - Piccotex(商標)120(EASTMAN Chemical Company社)(Mw - 4,100、Mz - 7,200、Tg - 70℃)
低分子量のポリスチレン系樹脂 - Piccotex(商標)100(EASTMAN Chemical Company社)(Mw - 2,400、Mz - 4,100、Tg - 50℃)
低分子量のポリスチレン系樹脂 - Kristalex(商標)3100(EASTMAN Chemical Company社)(Mw - 1,500、Mz - 2,500、Tg - 51℃)
【0225】
ゴム用軟化剤成分(C):
オイル:Krystol(商標)550(Petro-Canada Lubricants LLC社)(40℃における動粘度:105mm2/s)
オイル:Renoil 1700W(Renkert Oil社)(40℃における動粘度:307.7mm2/s)
【0226】
ポリオレフィンエラストマー成分(D):
ポリオレフィンエラストマー - Vistamaxx(商標)6102(エクソンモービル社)(エチレンに由来する構造単位:16質量%)
ポリオレフィンエラストマー - Vistamaxx(商標)3020FL(エクソンモービル社)(エチレンに由来する構造単位:11質量%)
【0227】
水添ブロック共重合体成分(E)
水添ブロック共重合体(E)(製造例3)
【0228】
【0229】
【0230】
【0231】
【0232】
それぞれ特定の条件を満たす水添ブロック共重合体(A)、熱可塑性樹脂(B)、ゴム用軟化剤(C)、およびポリオレフィンエラストマー(D)を含む熱可塑性エラストマー組成物を用いた実施例1~実施例32は、異方性における応力緩和性が2.0倍以下と低く、異方性が低減されていることが分かる。実施例1~実施例32の熱可塑性エラストマー組成物はそれぞれ、フィルムおよびシートなどの用途で求められる引き裂き強度、応力緩和性および引張強度を十分に満たしている。さらに、実施例8、実施例13、実施例15、実施例18、実施例23、および実施例24の熱可塑性エラストマー組成物では、32℃における引き裂き強度が向上しており、実施例5、実施例22、実施例25~実施例32の熱可塑性エラストマー組成物では、32℃における引き裂き強度および38℃における引き裂き強度が向上している。
【0233】
図1および
図2に示す実施例6の熱可塑性エラストマー組成物(フィルム)の断面画像ならびに
図3および
図4に示す実施例8の熱可塑性エラストマー組成物(フィルム)の断面画像から、実施例6および実施例8の熱可塑性エラストマー組成物(フィルム)は、いずれもポリオレフィンエラストマー(D)と、該ポリオレフィンエラストマー(D)以外の成分とが微分散しており、引き裂き強度に優れることが分かる。
【0234】
図5および
図6に示す実施例5の熱可塑性エラストマー組成物(フィルム)の断面画像から、実施例5の熱可塑性エラストマー組成物(フィルム)は、ポリオレフィンエラストマー(D)が海相、ポリオレフィンエラストマー(D)以外の成分が島相であるため、引き裂き強度に優れることが分かる。さらに、
図5のフィルムの断面画像において、観察視野10.6μm×10.6μmの範囲の撮影サイズで確認したところ海相の割合は59.2%であることが分かった。さらに、
図5のフィルムの断面画像において、観察視野を4.25μm×4.25μmの範囲の撮影サイズで確認し、そのうち代表的な2μm角の範囲の画像から、島の長軸方向の長さおよび短軸方向の長さをそれぞれDigitalMicrograph(Gatan社)を用いて測定したところ、島相の長軸は1.8μm、島相の短軸は0.23μmであり、アスペクト比(長軸/短軸)は8であった。
【0235】
図7および
図8に示す実施例3の熱可塑性エラストマー組成物(フィルム)の断面画像から、実施例3の熱可塑性エラストマー組成物(フィルム)は、ポリオレフィンエラストマー(D)と、該ポリオレフィンエラストマー(D)以外の成分とが共連続構造を形成していることが分かる。
【符号の説明】
【0236】
1 ポリオレフィンエラストマー成分(D)
2 ポリオレフィンエラストマー成分(D)以外の成分