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特許7564357粒子加速用構造体および荷電粒子ビーム装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】粒子加速用構造体および荷電粒子ビーム装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/248 20060101AFI20241001BHJP
   H01J 37/065 20060101ALI20241001BHJP
   H01J 37/07 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
H01J37/248 B
H01J37/065
H01J37/07
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023522188
(86)(22)【出願日】2021-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2021019451
(87)【国際公開番号】W WO2022244268
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 涼
(72)【発明者】
【氏名】谷本 憲史
(72)【発明者】
【氏名】石川 修平
【審査官】後藤 慎平
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-086861(JP,A)
【文献】特開2014-214069(JP,A)
【文献】国際公開第2012/014370(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
H01J 35/00-35/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内壁面により貫通孔が形成されたセラミック体と、
前記セラミック体と接触し前記貫通孔の一端に設けられる陰極と、
前記セラミック体と接触し前記貫通孔の他端に設けられる陽極と、を備え、
前記セラミック体の前記内壁面は、前記陰極と電気的に接続した第1の領域と、前記陽極と電気的に接続した第2の領域と、が電気的に接続された構成となっており
前記第1の領域の表面抵抗率は、前記第2の領域の表面抵抗率よりも低い、粒子加速用構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の粒子加速用構造体を備える、荷電粒子ビーム装置。
【請求項3】
請求項2の荷電粒子ビーム装置において、
前記セラミック体の前記貫通孔内の空間にビーム放出部が設けられ、
前記ビーム放出部は、前記陽極に印加される電圧よりも低く、かつ前記陰極に印加される電圧以下の電圧が印加されることによって、荷電粒子ビームを放出する、荷電粒子ビーム装置。
【請求項4】
請求項3に記載の荷電粒子ビーム装置において、
前記ビーム放出部は、電子ビームを放出する電子銃の構造物であり、
前記第1の領域は、前記セラミック体の内壁において、前記陰極と接触する位置から、前記構造物との距離が所定値となる位置にまで設定されている、荷電粒子ビーム装置。
【請求項5】
請求項3に記載の荷電粒子ビーム装置において、
前記ビーム放出部は、イオンビームを放出するイオン銃の構造物であり、
さらに、前記セラミック体の内壁において、前記陽極と接触する位置から、所定の高さ位置まで或いは前記構造物との距離が所定値に離れる位置までの領域が第3の領域をなし、
前記第3の領域の表面抵抗率は、前記第2の領域の表面抵抗率よりも低い、荷電粒子ビーム装置
【請求項6】
請求項4に記載の荷電粒子ビーム装置において、
前記セラミック体の前記内壁は、内径が相対的に小径な小径部と、内径が相対的に大径な大径部と、を有し、
前記第1の領域は前記小径部に設定され、前記第2の領域は前記大径部に設定されている、荷電粒子ビーム装置。
【請求項7】
請求項4に記載の荷電粒子ビーム装置において、
前記セラミック体の前記内壁は、内径が相対的に大径な大径部と、内径が相対的に小径な小径部と、を有し、
前記第1の領域は、前記陰極と接触する位置から前記大径部の途中の位置まで設定され、
さらに、前記小径部において、前記陽極と接触する位置から、前記構造物との距離が所定値となる位置までの領域が第4の領域をなし、
前記第4の領域の表面抵抗率は、前記第2の領域の表面抵抗率よりも低い、荷電粒子ビーム装置。
【請求項8】
請求項5に記載の荷電粒子ビーム装置において、
前記セラミック体の前記内壁は、内径が相対的に小径な小径部と、内径が相対的に大径な大径部と、を有し、
前記陰極と接触する位置から前記大径部の途中の高さ位置までは前記第1の領域に設定され、前記大径部の残りは前記第2の領域に設定され、前記小径部には前記第3の領域が設定されている、荷電粒子ビーム装置。
【請求項9】
請求項5に記載の荷電粒子ビーム装置において、
前記セラミック体の前記内壁は、内径が相対的に大径な大径部と、内径が相対的に小径な小径部と、を有し、
前記第1の領域は前記小径部に配置され、前記第2の領域は前記大径部に配置されている、荷電粒子ビーム装置。
【請求項10】
請求項2に記載の荷電粒子ビーム装置において、前記第2の領域の表面抵抗率(Ω/□)が1×10~1×1012であり、前記第1の領域の表面抵抗率(Ω/□)は、1×10以上かつ1×10未満である、荷電粒子ビーム装置。
【請求項11】
請求項2に記載の荷電粒子ビーム装置において、
前記セラミック体の内壁には、さらに、前記第1の領域と前記第2の領域とを電気的に接続する第5の領域を含み、
前記第5の領域は、表面抵抗率を前記第1の領域の表面抵抗率から前記第2の領域の表面抵抗率へと連続的に変化させる電界緩和領域である、荷電粒子ビーム装置。
【請求項12】
請求項11に記載の荷電粒子ビーム装置において、
前記電界緩和領域は、前記セラミック体の前記内壁が凸状に屈曲する位置に設定されている、荷電粒子ビーム装置。
【請求項13】
請求項5に記載の荷電粒子ビーム装置において、
前記第1の領域の表面抵抗率(Ω/□)が1×10以上かつ1×10未満、前記第2の領域の表面抵抗率(Ω/□)が1×10~1×1012、前記第3の領域の表面抵抗率(Ω/□)が1×10以上かつ1×10未満である、荷電粒子ビーム装置。
【請求項14】
請求項7に記載の荷電粒子ビーム装置において、
前記第1の領域の表面抵抗率(Ω/□)が1×10以上かつ1×10未満、前記第2の領域の表面抵抗率(Ω/□)が1×10~1×1012、前記第3の領域の表面抵抗率(Ω/□)が1×10以上かつ1×10未満、前記第4の領域の表面抵抗率(Ω/□)が1×10以上かつ1×10未満である、荷電粒子ビーム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子加速用構造体および荷電粒子ビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば電子銃やイオン銃として知られる荷電粒子ビーム装置は、一般に、真空空間内で放出された荷電粒子(電子ビームまたはイオンビーム)を加速するための加速部の構成要素として、中空のセラミック体の表面(内壁面)に抵抗層を備える碍子が使用されている。かかる碍子は、セラミック体に陰極および陽極からなる電極対を接続し、かかる電極対に所定の電圧を印加することにより、セラミック体の内部(真空空間)に生成された荷電粒子を加速して出力する粒子加速用構造体を構成することができる。
【0003】
ところで、上記のような碍子の内壁面では、熱電子や真空空間に配置される構造物から出る反射電子の蓄積(チャージアップ)により、局所的な放電が起き絶縁耐性が低下する問題があった。この問題に対して、例えば特許文献1に記載の従来技術では、抵抗層付きのセラミック体を用いることで、微小な電流を抵抗層に流すことによってチャージアップを抑制してきた。また、チャージアップを抑制するために、抵抗層の表面抵抗率を調整することが行われてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5787902号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、電子銃などの荷電粒子装置用の碍子、すなわち電極対に高電圧を印加して荷電粒子を加速する粒子加速用構造体の碍子では、高電圧の印加により電界集中が発生した場合も、放電を引き起こし絶縁耐性が低下する原因となり得る。したがって、従来技術のような表面抵抗率の調整だけでは電界集中を抑制することが難しいことが分かってきた。
【0006】
なかでも、電極と碍子の接合部は、真空空間を含め3つの要素が連接される「三重点」と呼ばれる部分であり、特に、陰極の近傍で生じる電界集中は、絶縁耐性を大きく低下させる原因となる。このため、三重点、特に陰極側の三重点は、電界集中の抑制が求められる個所となる。
【0007】
また、碍子の内部に他の構造物を含む場合、例えば、上述した電極対とは別の、荷電粒子ビームを生成および制御するための電極や電子源などの構造物を含む場合、当該構造物から近い領域では電界集中が不可避的に発生する。この電界集中を抑制するためには、例えば、碍子全体の形状を変更する、セラミック体の内壁を構造物から離す等の方策が必要となる。しかしながら、このような方策は、碍子の大型化を招くこと、セラミック体の内壁を構造物から離す場合にも自ずと限界(例えば距離的な制限)があり、実際には採用が困難である。
【0008】
したがって、上記の問題を解決するため、碍子の形状を維持しつつ、陰極の近傍と構造物に近接する表面の電界集中を抑制可能な構造体および荷電粒子ビーム装置が求められている。
【0009】
本発明の目的は、陰極部近傍で生じる電界集中を抑制することが可能な粒子加速用構造体および荷電粒子ビーム装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、以下のとおりである。
【0011】
本発明の代表的な実施の形態による粒子加速用構造体は、
内壁面により貫通孔が形成されたセラミック体と、
前記セラミック体と接触し前記貫通孔の一端に設けられる陰極と、
前記セラミック体と接触し前記貫通孔の他端に設けられる陽極と、を備え、
前記セラミック体の前記内壁面は、前記陰極と電気的に接続した第1の領域と、前記陽極と電気的に接続した第2の領域と、が電気的に接続されており、
前記第1の領域の表面抵抗率は、前記第2の領域の表面抵抗率よりも低い。
【発明の効果】
【0012】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0013】
すなわち、本発明の代表的な実施の形態によれば、放電の原因となる電界集中が発生する可能性を最小化することができる。したがって、陰極部近傍で生じる電界集中を抑制することが可能な粒子加速用構造体および荷電粒子ビーム装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】電界集中による放電について説明するための、従来の碍子の構造を示す断面図である。
図2】実施の形態1に係る粒子加速用構造体としての碍子の一具体例を示す断面図である。
図3】実施の形態2に係る荷電粒子線装置の概要を示す図である。
図4A図3に示す電子銃の詳細な構成を説明する断面図である。
図4B】実施の形態2の構成をイオン銃に適用する例を説明するための断面図である。
図5A】実施の形態3に係る電子銃の一例を示し、凸形状の碍子を搭載した場合の断面図である。
図5B】電子銃に逆凸形状の碍子を搭載した場合の断面図である。
図6A】イオン銃に凸形状の碍子を搭載した場合の断面図である。
図6B】イオン銃に逆凸形状の碍子を搭載した場合の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。以下で説明する各実施の形態は、本発明を実現するための一例であり、本発明の技術範囲を限定するものではない。なお、実施の形態2以下の変形例において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は、特に必要な場合を除き省略する。
【0016】
(実施の形態1)
実施の形態1は、電子銃内に含まれる碍子に抵抗層を適用した場合について説明する。なお、以下に説明する構成は、イオン銃に用いられる碍子にも同様に適用できるが、一般に、イオン銃の場合、正の電荷のイオン粒子を放出することから、電極対(陰極および陽極)の配置が電子銃とは逆になる。イオン銃に適用した場合の具体的構成については、図4B等の説明で後述する。
【0017】
初めに、電界集中が放電の原因となる理由について、図1を参照して説明する。図1は、電界集中による放電について説明するための、従来の碍子の構造を示す断面図である。
【0018】
図1に示す従来構成に基づく碍子は、電子銃に搭載される粒子加速用構造体としての機能を担う。具体的には、従来の粒子加速用構造体は、セラミック体1と、セラミック体1の上端および下端に配置された陰極2および陽極3と、セラミック体1の内壁に設けられた抵抗層4と、を備える。
【0019】
セラミック体1は、円筒形状をなす中空構造であり、平面視においてリング状の形状を有する。そして、粒子加速用構造体は、セラミック体1の内壁面および陰極2、陽極3の内面により規定(形成)される貫通孔10を有し、貫通孔10の空間が略真空状態とされた状態で使用される(適宜、図3等を参照)。
【0020】
セラミック体1の表面(内壁面)には抵抗層4が形成され、上側端には陰極2が、下側端には陽極3が接合されている。これら電極(陰極2,陽極3)間は、電源5により高電圧が印加される。
【0021】
ここで、抵抗層4は、チャージアップの抑制や等電位線を均一化する機能を有し、かかる機能により、碍子ひいては粒子加速用構造体の絶縁耐性を向上させる。なお、電極対(2,3)に関し、電圧印加時における電位の高低を区別する場合には、陰極2が「負極」、陽極3が「正極」と呼ばれる場合もある。
【0022】
一方で、上記の高電圧の印加時において、陰極2と抵抗層4と貫通孔10の真空空間による三重点6を含む陰極部近傍では、しばしば電界集中が発生し、図1中に太線で示す領域に強電界領域7が形成される。その結果、強電界領域7から電子放出8が誘発され、沿面放電9により絶縁耐性が低下してしまう問題があった。
【0023】
本発明者らは、上述の問題および解決策に対する鋭意研究を行った結果、以下の知見を得るに至った。
【0024】
セラミック体1の内壁面を抵抗層4とする方策を採用した場合、電極対(2,3)に高電圧が印加された際に、チャージアップの抑制や等電位線を均一化する効果が得られる。一方で、従来の方策では抵抗層4の表面抵抗率が固定(単一の値)であり、このような構成では、局所的な電界集中、特に陰極部近傍21で生じる局所的な電界集中を抑制することは難しい。
【0025】
より詳細には、セラミック体1の内壁面の下端側と陽極3との接続部、およびセラミック体1の内壁面の上端と陰極2との接続部を各々面一に構成(位置決め等)することは困難であり、かかる接続部に角部(例えば段差や凹凸など)ある場合に局所的な電界集中が発生しやすいことが分かった。
【0026】
また、これら接続部は、仮に完全な面一の状態が実現したとしても、熱変形や抵抗層4の欠けなどによる、電極対(2,3)と抵抗層4との接触状態が不均一になりやすいこと等により、局所的な電界集中が不可避的に発生することが分かった。
【0027】
これに対し、抵抗層4の表面抵抗率を、セラミック体1の内壁面の場所、具体的には電極対(2,3)、特に陰極2からの距離に応じて変える構成とすることにより、電極対(2,3)と抵抗層4との接触状態が上記のように均一でない場合でも、局所的な電界集中ひいては陰極部近傍21で生じる局所的な電界集中を抑制できることを見出した。
【0028】
図2は、実施の形態1に係る碍子(粒子加速用構造体)の断面構造図を示す。実施の形態1の粒子加速用構造体は、内壁面により形成される貫通孔10を有するセラミック体1と、セラミック体1における貫通孔10の上端(一端)および下端(他端)にそれぞれ配置された、陰極2および陽極3とを有する点は、図1と同様である。
【0029】
一方、実施の形態1の粒子加速用構造体では、セラミック体1の内壁面の表面抵抗率(Ω/□)は、電界集中の発生のしやすさ(陰極2との距離など)に応じて異なる値に設定される。より具体的には、セラミック体1の内壁面は、陰極2と電気的に接続した第1の領域(上側領域)と、陽極3と電気的に接続した第2の領域(下側領域)と、が公知の電界緩和部材を用いた電界緩和層24により、電気的に接続された構成となっている。ここで、セラミック体1の内壁面における第1の領域(上側領域)の表面抵抗率は、第2の領域(下側領域)の表面抵抗率よりも低い。図2に示す例では、セラミック体1の内壁面の上側領域に低抵抗層22が形成され、下側領域に高抵抗層23が形成されている。
【0030】
一具体例では、セラミック体1の内壁面の表面抵抗率(Ω/□)は、低抵抗層22が1×10~1×1012であり、高抵抗層23が1×10以上かつ1×10未満である。また、低抵抗層22と高抵抗層23との間に接続された電界緩和層24の領域の表面抵抗率(Ω/□)は、上記の電界緩和部材の作用により、低抵抗層22(第1の領域)の表面抵抗率の値から高抵抗層23(第2の領域)における表面抵抗率の値へと連続的に変化する。
【0031】
このように、セラミック体1の内壁において、電界集中が発生しやすい陰極部近傍21へ低抵抗層22を形成し、相対的に電界集中が発生しにくい領域へ高抵抗層23を形成し、かつ低抵抗層22と高抵抗層23とを電気的に接続する構成とすることで、以下のような作用効果が奏される。
【0032】
すなわち、上記構成とすることにより、電源5から電極対(2,3)に高電圧が印加された際に、セラミック体1の内壁面には、弱い電流が、陽極3~高抵抗層23~電界緩和層24~低抵抗層22~陰極2へと流れる(なお、電子の流れは上記とは逆方向である)。この際に、セラミック体1の内壁面に加えられる電位の分布は、不均等になり、表面抵抗値の低い領域の方がより低くなる(オームの法則)。
【0033】
この例では、上側の低抵抗層22に流れ込む電流量(電子の量)が最も多くなることにより、セラミック体1の上側の内面領域(すなわち低抵抗層22の範囲)にかかる電位は、下側の高抵抗層23にかかる電位と比較して、小さくなる。このように、従来よりも表面抵抗率の低い領域を、陰極2の三重点を含むセラミック体1における端側(この例では上側)に設けることで、相対的に電位が小さい(低い)部分を確保し、高電界部の電位分布をセラミック体1の内壁面全体で緩やかにすることができる。この結果、セラミック体1における陰極2の三重点を含む上側の領域における電界集中の抑制を実現することができる。
【0034】
なお、変形例として、電界緩和層24を設けずに、低抵抗層22と高抵抗層23とを電気的に直接接続させる構成としてもよい。一方、この場合、低抵抗層22および高抵抗層23の表面抵抗率の設定値によっては、これら層(22,23)の境界領域で表面抵抗率が段差的に変わること、言い換えると電気的特性が急激に変わることに起因した不具合が発生する場合がありうる。かかる不具合のおそれに鑑みると、上述のように、電界緩和領域としての電界緩和層24を介して低抵抗層22と高抵抗層23とを電気的に接続し、低抵抗層22と高抵抗層23との境界領域の表面抵抗率を緩やかに変化させる(電気的特性が滑らかに変わる)構成とすることが望ましい。
【0035】
上述のような構成を備えた実施の形態1によれば、電極対2,3への高電圧の印加時における陰極部近傍21への電界集中が抑制される粒子加速用構造体が得られる。また、この粒子加速用構造体に、荷電粒子ビームを放出するビーム放出部を設けることにより、稼働時における無用な放電を回避することが可能な、絶縁耐性の高い荷電粒子ビーム装置(電子銃、イオン銃など)を得ることができる。
【0036】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2に係る構成を説明する。実施の形態2は、荷電粒子ビーム装置に搭載される碍子の内部(セラミック体の貫通孔内の空間)に電子銃またはイオン銃を構成する構造物を配置した構成例について説明する。
【0037】
まず、図3を参照して、荷電粒子ビーム装置としての電子銃の構造の一具体例を説明する。電子銃は、セラミック体101(ここでは内壁面の構成には言及しない)の碍子100と、セラミック体101における貫通孔101aの上端および下端にそれぞれ配置された、陰極2および陽極3による電極対と、陰極2に取り付けられた種々の電極を含む構造体(ビーム放出部)と、を備える。
【0038】
上述した図1図2の例と比較して分かるように、図3に示す碍子100では、陰極2に電子銃の一部をなす構造体が配置される等のため、陰極2に設けられた開口の径は、セラミック体101の貫通孔101aの径よりも小さい。また、陽極3にアノード電極112が配置される等のために、陽極3の開口径も、セラミック体101の貫通孔101aの径より小さい。
【0039】
図3に示す例では、陰極2には、図3中の外側から、制御電極104および引出電極103が備えられ、各々、セラミック体101の貫通孔101a内で下方に伸びるように配置されている。制御電極104および引出電極103の各々の先端側は、テーパー状に先細った形状をなし、かつ、平面視における碍子100の中央に向かう方向に屈曲している。
【0040】
制御電極104は、後述する電子源102の周囲の電界を制御する役割を担うものであり、陰極2の下面に配置(電気的に接続)され、引出電圧電源108および加速電圧電源111から供給される電力により高電圧が印加される。
【0041】
一方、引出電極103は、例えば陰極2の開口に嵌め込まれることにより、陰極2と電気的に接続されている。引出電極103の上端(基端部)は、後述する高電圧導入端子106と離間するように、絶縁体の高電圧導入部105に取り付けられている。
【0042】
また、引出電極103の内側には、電子源102と、ヒータ線107と、高電圧導入端子106と、が互いに電気的に接続されて配置されている。このうち、高電圧導入端子106の上端(基端部)は、高電圧導入部105に取り付けられ、加熱電圧電源110および加速電圧電源111と電気的に接続されている。電子源102は、引出電圧電源108によって電子源102と引出電極103の間に電圧が印加されることにより、電子ビーム109を放出する(図3を参照)。ここで、電子源102と引出電極103の間に印加される電圧(第3の電圧)は、図1および図2で上述した電源5によって電極対2,3に印加される電圧と同等またはそれ以下である。より詳しくは、上記の第3の電圧(電位)は、電源5の電圧印加時に陰極2で計測される電位(第1の電圧)と同等またはそれ以下であり、同じく陽極3で計測される電位(第2の電圧)よりも低い。
【0043】
電子源102は、高電圧導入端子106を介してヒータ線107に取り付けられている。ヒータ線107は、高電圧導入端子106およびケーブル等を通じて加熱電圧電源110に接続され、加熱電圧電源110からの電力で発熱することによって、電子源102をフラッシングする。
【0044】
一方で、陽極3の下面側には、陽極3と電気的に接続され電子ビーム109が通過できる程度の径の開口を有するアノード電極112と、アノード電極112を通過する電子ビーム109を導入する真空容器113と、が設けられている。真空容器113内には、試料台114が設けられ、試料台114の上に、電子ビーム109の照射対象となる試料115が配置される。
【0045】
かくして、荷電粒子ビーム装置としての電子銃では、内部空間が1×10-8(pa)以下の超高真空とされた状態で稼働される。そして、電子源102から放出された電子ビーム109は、加速電圧電源111により高電圧が印加されたアノード電極112で加速され、真空容器113内の試料台114上の試料115に照射されることによって、試料115を加工する。このとき、引出電圧電源108によって制御電極104に電圧が印加されることにより、電子源102の周囲の電界が制御され、電子ビーム109の進行方向ひいては試料115への照射位置を調整することができる。
【0046】
次に、図4Aおよび図4Bを参照して、実施の形態2に係る荷電粒子ビーム装置の構成を説明する。図4Aは、図3に示す電子銃の詳細な構成を説明する断面図である。
【0047】
実施の形態2は、実施の形態1と同様に、セラミック体1の内壁面に低抵抗層22および高抵抗層23を設け、かつ、これら抵抗層22,23の間に電界緩和層24を配置して電気的な接続を行っている。他の構成については図3で説明したものと同一であり、図3で上述した真空容器113を使用することができる。
【0048】
上述したように、荷電粒子ビーム装置としての電子銃では、碍子の内部(セラミック体1の内壁面により規定される貫通孔1a内)に、電子源102、引出電極103、制御電極104等、電子銃の主要部をなす導電性の構造物が配置される。
【0049】
そして、電子銃の稼働時には、上記の構造物にも電圧が印加されることから、セラミック体1の内壁面のうち、特に、構造物に近接する領域31(図4Aを参照)で電界集中が発生しやすくなる問題がある。他の観点からは、構造物に近接する領域31は、陰極2と接触する位置から、構造物(この例では制御電極104)との距離が一定値以内である位置、までのセラミック体1の内壁の領域と言うこともできる。
【0050】
このような電界集中を抑制するため、実施の形態2に係る電子銃では、図4Aに示すように、セラミック体1の内壁面のうち、構造物に近接する領域31へ低抵抗層22を形成し、その他の領域は、電界緩和層24を介して高抵抗層23を設ける構成とした。このような構成を備えるとする実施の形態2に係る電子銃によれば、稼働時において、構造物に近接する領域31ひいてはセラミック体1の内壁面全体での電界集中の発生を顕著に抑制することができる。
【0051】
図4Bは、イオンビームを放出するイオン銃の詳細な構成を説明する断面図である。上述したように、イオン銃は、プラスイオンのビームを放出することから、電極の配置が電子銃とは逆になる、すなわち構造物が配置される図中の上側に陽極3が配置され、下側に陰極2が配置される。なお、その他のイオン銃の基本的な構造は、電子銃と同様であることから、同一または類似の部分には同一の符号を付けて、その説明を適宜省略する。
【0052】
一方で、イオン銃の場合は、構造物に近接する領域31で生じる電界集中の抑制と、陰極部近傍21(図4Bを参照)での電界集中の抑制と、の両方が技術的課題となる。すなわち、電極の配置が逆になるイオン銃の場合、構造物に近接する領域31は碍子の上側(陽極3側)であるのに対して、電界集中が発生しやすい陰極部近傍21は碍子の下側にあるため、セラミック体1の内壁面のうち、電界集中が発生しやすい箇所が上側及び下側の両方に存在する。
【0053】
なお、イオン銃の場合、構造物に近接する領域31は、陽極3と接触する位置から、所定の高さ位置まで或いは構造物(制御電極104)との距離が所定値に離れる位置までの、セラミック体1の内壁の領域と言うことができる。
【0054】
かかる課題を解決するため、実施の形態2に係るイオン銃では、図4Bに示すように、セラミック体1の内壁面のうち、構造物に近接する領域31へ低抵抗層22を形成し、その他の領域は、電界緩和層24を介して高抵抗層23を設ける構成とした。このような構成を備える実施の形態2に係るイオン銃によれば、稼働時において、構造物に近接する領域31および陰極部近傍21の両方ひいてはセラミック体1の内壁全面での電界集中の発生を顕著に抑制することができる。
【0055】
以上説明したように、実施の形態2の構造により、内部の構造物が近接する場合でも放電を回避した絶縁耐性の高い電子銃とイオン銃を実現することができる。
【0056】
(実施の形態3)
次に、図5A図6Bを参照して、実施の形態3に係る構成を説明する。ここで、図5Aは、実施の形態3に係る電子銃の一例を示し、凸形状の碍子を搭載した場合の断面図である。
【0057】
一方、図5Bは、電子銃に逆凸形状の碍子を搭載した場合の断面図である。また、図6Aはイオン銃に凸形状の碍子を搭載した場合の断面図であり、図6Bは、イオン銃に逆凸形状の碍子を搭載した場合の断面図である。
【0058】
碍子の絶縁耐性は、内壁面の沿面距離を延長することで電界集中が抑制され、向上することが知られている。実施の形態3で説明する碍子(セラミック体)は、図1図4Bで説明した碍子(セラミック体)よりも沿面距離を伸ばした形状を採用する。かかる形状のさらなる効果としては、電子銃またはイオン銃の小型化に貢献できることが挙げられる。
【0059】
なお、実施の形態3では、上述した実施の形態1,2と同様に、低抵抗層22および高抵抗層23の間に電界緩和層24を配置して電気的に接続している。また、実施の形態3では、上述した実施の形態2と同様の理由から、電極対(陰極2および陽極3)に設けられた開口の径は、セラミック体101の対応する端側の径よりも小さい。
【0060】
上述した図4Aおよび図4Bの構成と比較して分かるように、図5A図6Bに示す実施の形態3は、荷電粒子ビーム装置について、碍子(主としてセラミック体)の形状を、下側が広い凸形状、または上側が広い逆凸形状に変更した構成例となっている。このため、実施の形態3の碍子(セラミック体)の内壁面は、相対的に径が小さい小径部51と、相対的に径が大きい大径部52と、小径部51と大径部52とをつなぐ繋ぎ部53とを備えた中空の構造となっている。
【0061】
そして、図5Aに示す凸形状の碍子を搭載した電子銃では、小径部51の領域に低抵抗層22を設け、大径部52および繋ぎ部53の領域に高抵抗層23を設け、これら抵抗層22,23の境界部分に電界緩和層24を配置する構成とした。より具体的には、実施の形態3における碍子(セラミック体)の内壁は、小径部51と繋ぎ部53との接続箇所が凸状に屈曲する部位となり、高電圧の印加時における当該屈曲部分での電気的特性の安定を図るため、この部分に電界緩和層24を配置している(適宜、図5B図6A図6Bも参照)。
【0062】
上記のような構成を備えた構造体および荷電粒子ビーム装置によれば、碍子の内壁面に形成される電界を分散させることができ、電界集中を抑制することができる。また、図4Aと比較して分かるように、碍子の内面に構造物がより近接する場合でも、放電を回避した絶縁耐性の高い電子銃を実現することができ、かつ碍子の上部および高さを小型にすることができる。
【0063】
一方、図5Bに示す逆凸形状の碍子を搭載した電子銃では、図4Aと比較して分かるように、碍子(セラミック体)の内壁面における小径部51の領域が構造物の先端側により接近することから、従来通りの構成では小径部51の領域で電界集中が発生するおそれがある。また、碍子(セラミック体)の内壁面における大径部52は、構造物からの距離が確保されているものの、上述した陰極側の三重点の状態等によっては、陰極部近傍21の領域で電界集中が発生するおそれがある。言い換えると、図5Bに示す逆凸形状の碍子を搭載した電子銃では、電界集中が発生する可能性のある領域が複数(この例では上下2つの領域)発生する。
【0064】
この場合、図5Bに示すように、電界集中が発生する可能性のある碍子(セラミック体)の内壁面の領域、この場合は構造物に近接する小径部51と、陰極部近傍21と、の各々の領域に低抵抗層22を形成し、その他の領域では電界緩和層24を通じて高抵抗層23を形成する。
【0065】
他の観点からは、図5Bに示す例では、陰極2と接触する位置から大径部52の途中の高さ位置までは、低抵抗層22(第1の領域)が設けられ、大径部52の残りの領域および繋ぎ部53には、電界緩和層24(第5の領域)を介して高抵抗層23(第2の領域)が設けられている。また、小径部22には、電界緩和層24(第5の領域)を介して低抵抗層22(第4の領域)が設けられている。ここで、上(陰極2)側の低抵抗層22(第1の領域)と、下(陽極3)側の低抵抗層22(第4の領域)とでは、表面抵抗率(Ω/□)を同じ値としてもよく、あるいは異なる値としてもよい。低抵抗層22(第1の領域、第4の領域)の表面抵抗率(Ω/□)の設定範囲は、1×106以上かつ1×109未満の範囲である。また、高抵抗層23(第2の領域)の表面抵抗率(Ω/□)の設定範囲は、1×109~1×1012である。
【0066】
上記のような構成を備えた構造体および荷電粒子ビーム装置によれば、碍子の内壁面に形成される電界を分散させることができ、電界集中を抑制することができる。また、図4Aと比較して分かるように、碍子の内面に構造物の先端側がより近接する場合でも、放電を回避した絶縁耐性の高い電子銃を実現することができ、かつ碍子の下部および高さを小型にすることができる。
【0067】
さらに、図6Aに示す凸形状の碍子を搭載したイオン銃では、図5Aに示す電子銃と比較すると、陰極2および陽極3の位置が反対になる点で異なるが、構造部に近接する領域となる小径部51に低抵抗層22を設け、繋ぎ部53に高抵抗層23を設けた点は同様である。一方、図4Bでも上述したように、イオン銃では、碍子(セラミック体)の下側の陰極部近傍21での電界集中を抑制する必要がある。このため、図6Aに示す例では、セラミック体の内壁面の下側の陰極部近傍21の領域にも低抵抗層22を設けている。この結果、低抵抗層22と高抵抗層23との接続領域は、小径部51と大径部52の2か所にあり、かかる2か所の接続領域に電界緩和層24を設けている。
【0068】
他の観点からは、図6Aに示す例では、陰極2と接触する位置から大径部52の途中の高さ位置までは低抵抗層22が配置(第1の領域に設定)され、大径部52の残りは電界緩和層24(第5の領域)を介して抵抗層23が配置(第2の領域に設定)され、小径部51には低抵抗層22が配置(第3の領域に設定)されている。ここで、下(陰極2)側の低抵抗層22(第1の領域)と上(陽極3)側の低抵抗層22(第3の領域)とでは、表面抵抗率(Ω/□)を同じ値としてもよく、あるいは異なる値としてもよい。低抵抗層22(第1の領域、第3の領域)の表面抵抗率(Ω/□)の設定範囲は、1×10以上かつ1×10未満の範囲である。また、高抵抗層23(第2の領域)の表面抵抗率(Ω/□)の設定範囲は、1×10~1×1012である。
【0069】
このような構成とすることで、碍子の内壁面に形成される電界を分散させることができ、電界集中を抑制することができる。また、図4Bと比較して分かるように、碍子の内面に構造物がより近接する場合でも、放電を回避した絶縁耐性の高いイオン銃を実現することができ、かつ碍子の上部および高さを小型にすることができる。
【0070】
また、図6Bに示す逆凸形状の碍子を搭載したイオン銃では、図5Bに示す電子銃と比較すると、陰極2および陽極3の位置が反対になる点で異なるが、構造部の先端側に近接する領域となる小径部51に低抵抗層22を設け、繋ぎ部53に高抵抗層23を設けた点は同様である。さらに、イオン銃の場合、碍子(セラミック体)の内壁面の上端側は陽極3が配置される点で図5Bに示す電子銃と異なり、かつ、図6Bに示す例では内壁面の上端側は大径部52であり構造物からの距離が確保されていることから、低抵抗層22を設ける必要がない。
【0071】
他の観点からは、図6Bに示す例では、低抵抗層22(第1の領域)は小径部22に配置され、高抵抗層23(第2の領域)は、大径部52および繋ぎ部53に配置され、低抵抗層22と高抵抗層23との間の接続領域に電界緩和層24(第5の領域)を設けている。上述と同様に、低抵抗層22(第1の領域)の表面抵抗率(Ω/□)の設定値は、1×10以上かつ1×10未満の範囲、高抵抗層23(第2の領域)の表面抵抗率(Ω/□)の設定範囲は1×10~1×1012とすることができる。
【0072】
かくして、図6Bに示すような構成とすることで、碍子の内壁面に形成される電界を分散させることができ、電界集中を抑制することができる。また、図4Bと比較して分かるように、碍子の内面に構造物の先端側がより近接する場合でも、放電を回避した絶縁耐性の高いイオン銃を実現することができ、かつ碍子の下部および高さを小型にすることができる。
【0073】
このように、実施の形態3の構成によれば、内部に構造物を含み、沿面距離を確保する凸形状および逆凸形状の碍子(セラミック体)を使用することで、絶縁耐性の高い電子銃およびイオン銃を得ることができる。
【0074】
なお、実施の形態3の変形例として、碍子(セラミック体)の内壁面ひいては貫通孔の形状を円錐台状(または逆円錐台状)としてもよい。このような形状とすることにより、上述した凸状に屈曲する部位(小径部と繋ぎ部との接続箇所)がなくなるので、電界緩和層24の配置、ひいては低抵抗層22および高抵抗層23の配置の自由度が増す。この場合、碍子(セラミック体)の内壁面(貫通孔)の最大径および最小径が図5A図6Bの例と同じであると仮定すると、上述と同等の効果を得るために、低抵抗層22等の高さ方向の寸法を以下のように設定することが考えられる。
【0075】
図5Aの構成をベースにした場合、低抵抗層22を、セラミック体の円錐台状の内壁面において、陰極2との接触位置から、電子銃の構造物との距離がある程度離れる高さ位置まで設け(図5Aの例よりも若干短く設定し得る)、内壁面の残りの部分を、電界緩和層24を介して高抵抗層23を設ければよい。また、図5Bの構成をベースにした電子銃であれば、上側(陰極2側)の低抵抗層22を図5Bの例よりも若干長めに設定し、下側(陽極3側)の低抵抗層22を図5Bの例よりも若干短めに設定することができる。また、図6Aの構成をベースにしたイオン銃であれば、主として上側(陽極3側)の低抵抗層22を図6Aの例よりも若干短めに設定することができる。また、図6Bの構成をベースにしたイオン銃であれば、主として下側(陰極2側)の低抵抗層22の高さを図6Bの例よりも若干低めに設定することができる。
【0076】
但し、低抵抗層22および高抵抗層23の面積ないし高さ方向の好適な寸法は、設定する表面抵抗率(Ω/□)ひいては使用する材質や層の厚みなどにより変わり得ることから、必ずしも上記の設定方針に限定されるものではない。概して、高電圧が印加される環境下では、高抵抗層23の高さ寸法を、真空空間内での大電流漏れ(いわゆるショート)が発生しない程度に十分に確保し、低抵抗層22の高さ寸法は、電界集中の発生が最大限に抑制されるような寸法に設定されることが望ましい。
【0077】
上述したように、本開示では、碍子(セラミック体)の内壁へ表面抵抗率が異なる2つ以上の領域を形成したこと、特に、絶縁破壊のリスクが高い三重点を含む陰極部近傍へ低抵抗層22を導入する構成を採用することにより、高電圧の印加時に発生し得る電界集中を効果的に抑制できる粒子加速用構造体を実現した。
【0078】
また、粒子加速用構造体が電子銃やイオン銃の構成要素となる電極などの構造物を備える場合、あるいは粒子加速用構造体の小型化を図ろうとする場合に生じる電界集中ないし強電界についても、低抵抗層22および高抵抗層23との領域分けを行うことにより、内壁全面で電界集中を抑制し、無用な放電を回避できる粒子加速用構造体を実現した。
【0079】
したがって、本開示によれば、陰極部近傍で生じる電界集中を抑制することが可能な粒子加速用構造体および荷電粒子ビーム装置を提供することができる。
【0080】
なお、本発明は上述した実施の形態1、2および3に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態は、本発明を分かりやすく説明するために、電子銃またはイオン銃に特化するように適用した構成に関して詳細に説明したものである。したがって、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 セラミック体
2 電極(陰極)
3 電極(陽極)
4 抵抗層
5 電源
6 三重点
7 強電界領域
8 電子放出
9 沿面放電
10 貫通孔
21 陰極部近傍
22 低抵抗層(第1の領域)
23 高抵抗層(第2の領域)
24 電界緩和層(第5の領域)
31 構造物に近接する領域
51 小径部
52 大径部
53 繋ぎ部
102 電子源
103 引出電極
104 制御電極
105 高電圧導入部
106 高電圧導入端子
107 ヒータ線
108 引出電圧電源
109 電子ビーム
110 加熱電圧電源
111 加速電圧電源
112 アノード電極
113 真空容器
114 試料台
115 試料
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B