(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】端末装置、情報取得システム及び情報処理方法
(51)【国際特許分類】
A61B 7/04 20060101AFI20241002BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
A61B7/04 A
A61B7/04 T
A61B5/00 L
(21)【出願番号】P 2022561796
(86)(22)【出願日】2020-11-12
(86)【国際出願番号】 JP2020042330
(87)【国際公開番号】W WO2022102070
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柏野 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】中野 允裕
(72)【発明者】
【氏名】渋江 遼平
【審査官】鳥井 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-179966(JP,A)
【文献】特開2001-327488(JP,A)
【文献】特開2004-181025(JP,A)
【文献】特開2019-103581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/398
A61B 7/00-7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の身体における位置を示す情報をユーザーから受け付ける操作部を備え、
前記対象者の身体に対して略固定的にその位置が維持される複数のセンサーによって得られた生体情報に基づき、前記操作部において受け付けられた前記位置に応じた生体情報を出力
し、
前記対象者の身体に対して略固定的にその位置が維持される複数のセンサーによって得られた生体情報に基づき、前記操作部において受け付けられた前記位置を含む領域に前記センサーが存在した場合に前記センサーでとらえられるべき生体情報を推定して出力する信号処理部を備える、端末装置。
【請求項2】
前記複数のセンサーのうち、前記操作部において受け付けられた前記位置に応じた一部のセンサーによって得られた生体情報が他のセンサーによって得られた生体情報よりも強調された生体情報を出力する、請求項1に記載の端末装置。
【請求項3】
前記対象者の身体に対して略固定的にその位置が維持される複数のセンサーによって得られた生体情報に基づき、前記操作部において受け付けられた前記位置を含む方向から得られた生体情報が他の方向から得られた生体情報よりも強調された生体情報を生成し出力する信号処理部を備える、請求項1に記載の端末装置。
【請求項4】
前記対象者の身体に対して略固定的にその位置が維持される複数のセンサーによって得られた生体情報に基づき、前記操作部において受け付けられた前記位置を含む領域を発生源とする生体情報が他の領域を発生源とする生体情報よりも強調された生体情報を生成し出力する信号処理部を備える、請求項1に記載の端末装置。
【請求項5】
保持具と端末装置とを備えた情報取得システムであって、
前記保持具は、保持具本体と、前記保持具本体において略固定的にその位置が維持される複数のセンサーと、を備え、
前記端末装置は、対象者の身体における位置を示す情報をユーザーから受け付ける操作部を備え、
前記端末装置は、前記対象者の身体に対して略固定的にその位置が維持される複数のセンサーによって得られた生体情報に基づき、前記操作部において受け付けられた前記位置に応じた生体情報を出力
し、
前記端末装置は、前記対象者の身体に対して略固定的にその位置が維持される複数のセンサーによって得られた生体情報に基づき、前記操作部において受け付けられた前記位置を含む領域に前記センサーが存在した場合に前記センサーでとらえられるべき生体情報を推定して出力する信号処理部を備える、情報取得システム。
【請求項6】
対象者の身体における位置を示す情報をユーザーから受け付ける操作部を備えたコンピューターが、前記操作部に対するユーザーの操作に応じて、前記位置を示す情報を受け付けるステップと、
コンピューターが、前記対象者の身体に対して略固定的にその位置が維持される複数のセンサーによって得られた生体情報に基づき、前記操作部において受け付けられた前記位置に応じた生体情報を出力するステップと、
を有
し、
前記出力するステップにおいて、前記コンピューターは、前記対象者の身体に対して略固定的にその位置が維持される複数のセンサーによって得られた生体情報に基づき、前記操作部において受け付けられた前記位置を含む領域に前記センサーが存在した場合に前記センサーでとらえられるべき生体情報を推定して出力する情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端末装置、情報取得システム及び情報処理方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体からの音響信号の取得に関しては、聴診器を用いる聴診が広く用いられている。聴診器の具体例として、チェストピースに管を接続して耳に音を導く形の聴診器や、チェストピースに音響センサーを適用して電気的に耳へ音を導く形の電子聴診器が知られている(例えば非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Shuang Leng 他5名、“The electronic stethoscope”、BioMedical Engineering Online (2015)、DOI 10.1186/s12938-015-0056-y
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の聴診では、医療者が患者に相対して位置し、患者の身体の所望の部位に医療者が聴診器を当てる必要があった。そのため、聴診は医療者と患者が近接した状態で行われていた。このような問題は、聴診器を用いた診察のみに限らず、診察の対象者の身体における情報(生体情報)を取得する作業全般に共通する課題であった。
上記事情に鑑み、本発明は、対象者の身体における所望の部位の生体情報を、対象者に近接することなく取得することができる技術の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、対象者の身体における位置を示す情報をユーザーから受け付ける操作部を備え、前記対象者の身体に対して略固定的にその位置が維持される複数のセンサーによって得られた生体情報に基づき、前記操作部において受け付けられた前記位置に応じた生体情報を出力する、端末装置である。
【0006】
本発明の一態様は、保持具と端末装置とを備えた情報取得システムであって、前記保持具は、保持具本体と、前記保持具本体において略固定的にその位置が維持される複数のセンサーと、を備え、前記端末装置は、対象者の身体における位置を示す情報をユーザーから受け付ける操作部を備え、前記端末装置は、前記対象者の身体に対して略固定的にその位置が維持される複数のセンサーによって得られた生体情報に基づき、前記操作部において受け付けられた前記位置に応じた生体情報を出力する、情報取得システムである。
【0007】
本発明の一態様は、対象者の身体における位置を示す情報をユーザーから受け付ける操作部を備えたコンピューターが、前記操作部に対するユーザーの操作に応じて、前記位置を示す情報を受け付けるステップと、コンピューターが、前記対象者の身体に対して略固定的にその位置が維持される複数のセンサーによって得られた生体情報に基づき、前記操作部において受け付けられた前記位置に応じた生体情報を出力するステップと、を有する情報処理方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、対象者の身体における所望の部位の生体情報を、対象者に近接することなく取得することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の情報取得システム100の第1実施形態のシステム構成例を示す図である。
【
図2】本発明の情報取得システム100の第2実施形態のシステム構成例を示す図である。
【
図3】本発明の情報取得システム100の第3実施形態のシステム構成例を示す図である。
【
図4】本発明の情報取得システム100の第4実施形態において用いられる保持具10の具体例を示す図である。
【
図5】本発明の情報取得システム100の第5実施形態のシステム構成例を示す図である。
【
図6】本発明の情報取得システム100の第6実施形態のシステム構成例を示す図である。
【
図7】本発明の情報取得システム100の第7実施形態のシステム構成例を示す図である。
【
図8】本発明の情報取得システム100の第8実施形態のシステム構成例を示す図である。
【
図9】本発明の情報取得システム100の第9実施形態のシステム構成例を示す図である。
【
図10】本発明の情報取得システム100の第10実施形態のシステム構成例を示す図である。
【
図11】第1実施形態から第10実施形態において端末装置20の操作部(202、210)において使用される操作画面の具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
[第1実施形態]
図1は、本発明の情報取得システム100の第1実施形態のシステム構成例を示す図である。第1実施形態における情報取得システム100は、保持具10及び端末装置20を備える。保持具10は、複数のセンサー101と、出力部102とを備える。保持具10は、身体における情報を取得する対象となる者(以下「対象者」という。)の身体と各センサー101との相対的な距離を略固定的に維持する物である。
【0012】
例えば、保持具10は、対象者の身体に装着される機器であってもよい。具体的には、保持具10は、ヘルメット、サングラス、眼鏡、ヘッドバンド、マスク、腕輪、指輪、脚輪、コルセット、靴等の物品を用いて構成されてもよい。保持具10は、対象者によって着用される衣服であってもよい。具体的には、保持具10は、上着、下着、ティーシャツ、ジャケット、ワイシャツ、ズボン、パンツ、帽子、靴下、手袋、ベルトなどの物品を用いて構成されてもよい。保持具10は、対象者の身体の一部と接することによって使用される物品であってもよい。具体的には、保持具10は、ベッド、ソファー、椅子、壁、特定の板(対象者によって体を押しつけられる板)などの物品を用いて構成されてもよい。保持具10は、対象者の身体と各センサー101との相対的な距離を略固定的に維持することが可能な物品であれば、どのような物品を用いて構成されてもよい。
【0013】
センサー101は、保持具10においてその位置が略固定される。センサー101には、対象者の身体に関する情報(以下「生体情報」という。)が得られるセンサーであれば、どのようなセンサーが用いられてもよい。例えば、センサー101として心電を測定するためのセンサーが用いられてもよいし、血圧を測定するためのセンサー(例えば圧力センサー)が用いられてもよいし、音響を測定するためのセンサー(例えば音響センサー)が用いられてもよい。心電が測定される場合には、生体情報は心電の波形を示す情報である。血圧が測定される場合には、生体情報は血圧を示す情報である。音響が測定される場合には、生体情報は音響を示す情報である。
【0014】
1つの保持具10に対して、1種類のみのセンサー101が用いられてもよいし、複数種類のセンサー101が用いられてもよい。以下の説明では、センサー101として音響センサーが適用される実施形態について説明する。
【0015】
センサー101は、周囲で生じた音響を示す情報(以下「音響情報」という。)を出力部102に出力する。センサー101は、例えば周囲で生じた音響信号を電気信号に変換し、電気信号を出力部102に出力してもよい。この場合、電気信号が音響情報の具体例である。
【0016】
出力部102は、各センサー101から出力された音響情報を、その音響情報が得られたセンサー101が識別できるように端末装置20へ出力する。出力部102は、例えばケーブルを用いた有線通信によって音響情報を出力してもよいし、無線通信によって音響情報を出力してもよい。出力部102は、例えば特に変調処理を実行せずに、センサー101から出力された電気信号をそのまま出力してもよい。この場合は、出力部102は、センサー101毎に割り当てられたケーブルを用いて電気信号を出力してもよい。出力部102は、USB等の有線通信プロトコルを用いて音響情報を出力してもよい。出力部102は、Bluetooth(登録商標)や赤外線通信等の無線通信プロトコルを用いて音響情報を出力してもよい。
【0017】
端末装置20は、スマートフォン、タブレット、スマートウォッチ等のウェアラブル端末、ゲーム機、テレビ受像器等の汎用的な情報機器を用いて構成されてもよいし、専用の装置として構成されてもよい。端末装置20は、入力部201、操作部202及び出力部203を備える。
【0018】
入力部201は、出力部102から出力された音響情報を取得する。入力部201は、出力部102が音響情報を出力する際に用いる出力態様(例えば通信プロトコル)に対応して音響情報を取得できる構成であれば、どのような構成が採用されてもよい。入力部201は、取得された音響情報のうち、操作部202の指示に応じた音響情報を出力する。例えば、操作部202によってセンサー101が直接的に指定された場合には、入力部201は、指定されたセンサー101によって出力された音響情報を選択して出力部203に出力する。例えば、操作部202によって身体の部位などの位置が指定された場合には、入力部201は、指定された位置に応じたセンサー101によって出力された音響情報を選択して出力部203に出力する。指定された位置に応じたセンサー101とは、例えば指定された位置に最も近いセンサー101であってもよいし、指定された位置から所定の範囲内の距離にある1又は複数のセンサー101であってもよい。複数のセンサー101が選択された場合には、入力部201は、それらの音響情報の統計値(例えば平均値)を出力してもよいし、複数の音響情報を合成して出力してもよい。
【0019】
操作部202は、キーボード、ポインティングデバイス(マウス、タブレット等)、ボタン、タッチパネル等の既存の入力装置を用いて構成される。操作部202が、キーボードやポインティングデバイスを用いて構成される場合には、操作を行う対象となる操作画面を表示する表示装置も端末装置20に設けられる。
【0020】
操作部202は、音響情報を取得しようとする者(以下「ユーザー」という。)の指示を端末装置20に入力する際にユーザーによって操作される。操作部202は、入力装置を端末装置20に接続するためのインターフェースであっても良い。この場合、操作部202は、入力装置においてユーザーの入力に応じ生成された入力信号を端末装置20に入力する。操作部202は、マイク及び音声認識装置を用いて構成されてもよい。この場合、操作部202はユーザーによって発話された文言を音声認識し、認識結果の文字列情報を端末装置20に入力する。操作部202は、ユーザーの指示を端末装置20に入力可能な構成であればどのように構成されてもよい。なお、操作部202において入力されるユーザーの指示は、少なくとも直接的又は間接的に対象者の身体の位置を示す情報を含む。例えば、ユーザーの指示は、対象者の体の部位の名前を示す形で構成されてもよいし、対象者の身体を一般化したモデルにおける位置を示す形で構成されてもよいし、1又は複数のセンサー101を指定する形で構成されてもよい。
【0021】
出力部203は、入力部201から出力された情報を他の装置に出力する。出力部203は、例えば有線通信や無線通信を用いて他の装置に音響情報を出力してもよいし、接続されている記憶装置に音響情報を記録してもよい。出力部203は、音響情報を端末装置20の外部へ出力可能な構成であればどのように構成されてもよい。
【0022】
このように構成された第1実施形態における情報取得システム100では、ユーザーが端末装置20の操作部202を操作することによって、対象者の身体の所望の位置における生体情報を取得することができる。その際に得られる生体情報は、保持具10に設けられた複数のセンサー101によって得られた生体情報に基づいた情報であり、センサー101をユーザーが手などを使って直接移動させる必要がない。そのため、対象者の身体における所望の部位の生体情報を、ユーザーが対象者に近接することなく取得することが可能となる。
【0023】
また、医療の現場において対象者を患者、ユーザーを医療者とした状況で情報取得システム100が使用されてもよい。特に、保持具10を患者自らが装着可能に構成することによって、医療者は患者と近接して相対することなく、患者の各部位における生体情報(例えば体表上の各部位の音響)を任意に指定して聴診することが可能となる。
なお、上述した説明では、取得された音響情報のうち操作部202の指示に応じた音響情報を選択して出力する処理は入力部201によって行われていたが、このような選択に相当する処理は入力部201ではなく出力部203によって行われてもよい。その場合、操作部202によって受け付けられた操作内容を示す情報は、入力部201ではなく出力部203に出力されてもよい。
【0024】
[第2実施形態]
図2は、本発明の情報取得システム100の第2実施形態のシステム構成例を示す図である。第2実施形態における情報取得システム100は、端末装置20が信号処理部204をさらに備える点で第1実施形態における情報取得システム100と異なる。この構成の相違に応じて、入力部201は出力部102から得られた音響情報をそのまま信号処理部204に出力してもよい。
【0025】
信号処理部204は、入力部201によって入力された複数の音響情報を用いて信号処理を行い、信号処理によって得られた音響情報を出力部203に出力する。信号処理部204は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサーとメモリーとを用いて構成されてもよい。この場合、プロセッサーは、プログラムを実行することによって、信号処理部204として機能する。なお、信号処理部204の機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されても良い。上記のプログラムは、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記録されても良い。コンピューター読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM、半導体記憶装置(例えばSSD:Solid State Drive)等の可搬媒体、コンピューターシステムに内蔵されるハードディスクや半導体記憶装置等の記憶装置である。上記のプログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0026】
信号処理部204は、操作部202によって入力されたユーザーの指示に応じて、音響情報を出力部203へ出力する。例えば、操作部202によって入力されたユーザーの指示が示す身体の部位に最も空間的に近いと推定される1又は複数のセンサー101の音響情報を選択し、選択された音響情報を主の音響情報として出力部203に出力してもよい。この場合、信号処理部204は、保持具10における各センサー101が対象者の身体に対してどのような場所に位置しているかを示す情報を有していてもよい。例えば、保持具10が対象者によってどのように用いられるかが予め定められている場合(例えば着用される場合)には、各センサー101と対象者の身体上の位置との対応関係が予め定まる。
【0027】
主の音響情報として出力する処理は、例えば選択された音響情報と、他の音響情報との信号強度の相対的な違いを大きくして出力する処理である。例えば、信号処理部204は、主の音響情報を増幅し、他の音響情報を抑制して出力部203へ出力してもよい。例えば、信号処理部204は、単に主の音響情報のみを出力部203に出力してもよい。信号処理部204は、主の音響情報がユーザーによって利用可能に取得される態様であれば、どのような態様で信号処理をおこなってもよい。ユーザーによる利用は、例えば医療における診断や分析であってもよい。
【0028】
例えば、信号処理部204は、操作部202によって入力されたユーザーの指示が示す身体の部位の位置に応じてビームフォーミングを形成し、指向性を有した音響情報を生成してもよい。より具体的には、ユーザーの指示が示す身体の部位を示す方向から届いた音響情報が他の方向から届いた音響情報よりも強い信号となるように信号処理が行われてもよい。さらに、方向のみならず、その方向にある特定の領域において発生した音響の情報が、他の領域において発生した音響情報よりも強い信号となるように信号処理が行われてもよい。
【0029】
信号処理部204は、音場推定を行うことで出力する音響情報を生成してもよい。具体的には以下の通りである。信号処理部204は、ユーザーの指示が示す身体の位置を含む領域にセンサー101が配置されたと仮定した場合にそのセンサー101によって取得される音響情報を推定する。この処理は、例えば、音源を推定した上で、各音源からユーザーによる指定箇所までの伝達関数をかけあわせることで、指定箇所での音響情報を推定することで行われてもよい。信号処理部204は、推定された音響情報を出力部203へ出力する。
【0030】
このように構成された第2実施形態における情報取得システム100では、ユーザーが端末装置20の操作部202を操作することによって、対象者の身体の所望の位置における生体情報を取得することができる。特に、信号処理部204によってビームフォーミングを形成する処理がおこなわれる場合には、特定の方向や特定の領域において発生した音響情報を取得することができる。
【0031】
例えば、上述した信号処理によって、対象者の体内における音を推定して聴取することも可能である。例えば、心臓において、心臓内部の弁に着目し、弁の付近から生じる心雑音に着目して、雑音の程度や態様を聞き取ることができる。このような効果は、従来の聴診器では実現しがたい優れた効果である。
【0032】
[第3実施形態]
図3は、本発明の情報取得システム100の第3実施形態のシステム構成例を示す図である。第3実施形態における情報取得システム100は、端末装置20が出力部203に代えて音出力部205をさらに備える点で第2実施形態における情報取得システム100と異なる。音出力部205は、出力部203の具体的な一態様の例である。この構成の相違に応じて、信号処理部204は出力部203に代えて音出力部205に音響情報を出力する。
【0033】
音出力部205は、信号処理部204によって出力される音響情報をユーザーが聞くことができるように、音響情報を出力する。例えば、音出力部205は、端末装置20に内蔵されたスピーカーとして構成されてもよい。例えば、音出力部205は、端末装置20に接続された外部機器としてのスピーカー(ヘッドホンやイヤホンを含む)に対して音響信号を出力する出力インターフェースとして構成されてもよい。
【0034】
このように構成された第3実施形態における情報取得システム100では、ユーザーが音出力部205を介して端末装置20から対象者の所望の部位の音響を聞くことが可能となる。
【0035】
[第4実施形態]
図4は、本発明の情報取得システム100の第4実施形態において用いられる保持具10の具体例を示す図である。第4実施形態の情報取得システム100は、保持具10の構成を除けば第3実施形態の情報取得システム100と同じである。なお、以下で説明する保持具10の構成の具体例は、必ずしも第3実施形態及び第4実施形態として用いられることに限定する必要は無く、第1実施形態や第2実施形態にも適用可能であるし、後述する第5実施形態から第11実施形態まで適用可能である。
【0036】
図4において、保持具10は対象者が着用可能な物品を用いて構成されている。特に、
図4では保持具10は衣類(より具体的にはティーシャツ)として構成されている。衣類の生地110に対し、複数のセンサー固定器具111が設けられ、各センサー固定器具111に対してセンサー101のハウジング112が取り付けられている。センサー固定器具111は、例えばグロメットを用いて構成されてもよい。ハウジング112は、グロメットにはめ込まれることで衣類の生地110の所定の位置に略固定される。ハウジング112の一部には、センサー101が取り付けられている。ハウジング112の一部には内側から外側へ貫通した穴が設けられており、その穴を通ってセンサー101のコード114が出力部102に接続されている。センサー101に対してコード114を介して電力が供給されてもよい。
【0037】
このように衣類として保持具10が構成されることによって、複数のセンサー101を、対象者の身体上の所定の位置に容易に配置することが可能である。また、対象者は衣類として構成された保持具10を装着するのみでセンサー101が適切な場所に配置されるため、詳細な知識を有した者(例えば医療者やユーザー)が対象者に対して相対して指示などをする必要が無い。
【0038】
[第5実施形態]
図5は、本発明の情報取得システム100の第5実施形態のシステム構成例を示す図である。第5実施形態における情報取得システム100は、中継装置30をさらに備える点と、端末装置20が入力部201に代えて通信部206を備える点で、第3実施形態における情報取得システム100と異なる。この構成の相違に応じて、出力部102は音響信号を中継装置30に出力する。また信号処理部204は、通信部206から音響情報を取得する。
【0039】
中継装置30は、保持具10の出力部102と通信可能に接続される。この点において、中継装置30と出力部102との間の構成は、第1実施形態から第3実施形態における入力部201と出力部102との間の構成と同じであってもよい。中継装置30は、端末装置20との間でデータ通信を行う。中継装置30と端末装置20との間で行われるデータ通信は、例えば構内通信網(LAN)やインターネット等のデータ通信網を介して行われてもよい。中継装置30は、センサー101から出力された音響信号をサンプリング周波数48kHz、量子化精度16bit、リニアPCMとしてデジタル化し、インターネットプロトコルを用いて送信してもよい。
【0040】
このように構成された第5実施形態における情報取得システム100では、対象者とユーザーとがより長い距離で離れていても、対象者の身体における所望の部位の生体情報をユーザーが取得することが可能となる。
【0041】
[第6実施形態]
図6は、本発明の情報取得システム100の第6実施形態のシステム構成例を示す図である。第6実施形態における情報取得システム100は、中継装置30が信号同期部301及び通信部302を備える点で、第5実施形態における情報取得システム100と異なる。
【0042】
信号同期部301は、保持具10の出力部102から出力される音響情報を取得する。信号同期部301と出力部102との間の構成は、第1実施形態から第3実施形態における入力部201と出力部102との間の構成と同じであってもよい。信号同期部301は、センサー101から得られた信号の同期を確保する。
【0043】
センサー101が多数に及んだ場合、センサー101から出力される信号を複数のサブシステムで分けて取得する構成が採用される可能性がある。このような構成が採用された場合、サブシステム同士が個別のクロックで駆動される可能性がある。このように構成された場合、すべてのセンサー101における厳密な同期を確保することが難しい場合がある。同期が確保されなかった場合、後続の信号処理に支障をきたす可能性もある。
【0044】
信号同期部301はこのような問題を解決することができる。信号同期部301は、例えば全てのサブシステムに対して共通に定期的に同一の同期信号を出力してもよい。各サブシステムは、信号同期部301から出力された同期信号に基づいて同期をとる。同期信号は、対象とする信号(例えば音響情報の信号)の観測に支障とならない周波数帯域や時間区間において信号同期部301から出力されてもよい。
【0045】
複数のサブシステムが互いに参照することができるフラグを持つことで、取得された音響情報の信号と実時間との同期をとる方法が採用されてもよい。このような構成は、複数のセンサー101が異種の信号を対象とする場合(例えば、一部のセンサー101が音響信号を出力し、他のセンサー101が心電信号を出力する場合)にも適用することができる。
【0046】
このように構成された第6実施形態における情報取得システム100では、保持具10に設けられたセンサー101の数が多数であった場合にも、取得される情報の精度を高めることが可能となる。
【0047】
[第7実施形態]
図7は、本発明の情報取得システム100の第7実施形態のシステム構成例を示す図である。第7実施形態における情報取得システム100は、信号発生装置40をさらに備える点と、中継装置30が信号調整部303をさらに備える点とで、第6実施形態における情報取得システム100と異なる。
【0048】
信号発生装置40は、信号出力部401を備える。信号発生装置40は、所定の信号(既知の信号)を発生し、信号出力部401からセンサー101が感知可能な態様で信号を出力する。例えば、センサー101が音響センサーである場合には、信号出力部401はスピーカー等の音響を発生させる装置を用いて構成される。信号出力部401から出力された信号はセンサー101によって取得され、センサー101は所定の信号に応じた情報(音響情報)を出力する。所定の信号の具体例として、例えばインパルス信号、チャープ信号、帯域雑音等の信号がある。
【0049】
信号調整部303は、受信された信号と信号発生装置40において発生させた信号とを比較することで、信号発生源(信号出力部401)から各センサー101までの信号伝達時間を計測する。信号調整部303は、計測結果に基づいて、各センサー101の位置を推定する。信号調整部303は、位置の推定結果に基づいて、各センサー101の位置が、正常な範囲内に保持されているか否かについて判定する。
【0050】
また、信号調整部303は、各センサー101の出力信号に対して、測定された周波数特性の逆特性をもつフィルタをかける。このような処理によって、伝達特性を補償することができる。信号出力部401は複数設けられてもよい。また、信号出力部401は、保持具10に設けられてもよい。
【0051】
このように構成された第6実施形態における情報取得システム100では、センサー101の位置にずれが生じてしまった場合には、その位置ずれを検知することが可能となる。例えば信号調整部303が音や光や画像や文字や振動などの出力を行う装置を備えた場合、信号調整部303は、正常な範囲内に保持されていないセンサー101が発生した際にそのことを出力してもよい。このように構成されることによって、対象者がよりより正しくセンサー101の位置を設定することが可能となり、より精度の高い情報を取得することが可能となる。
【0052】
[第8実施形態]
図8は、本発明の情報取得システム100の第8実施形態のシステム構成例を示す図である。第8実施形態における情報取得システム100は、端末装置20がモデル情報記憶部207及び到達時間判定部208をさらに備える点で、第7実施形態における情報取得システム100と異なる。
【0053】
対象者の身体などの生体内部は一様な物質で満たされているのではなく、物性の異なる多くの構造物から成り立っている。それらの構造物の個々において、信号の伝達速度や伝達特性は異なる。その一方で、生体はその種ごとにある程度共通の構造を有している。そこで第8実施形態では、対象者となる生体における構造をモデル化して用いる。例えば、人体の胸部の聴診を想定した場合、人体の胸部には、皮膚及び皮下組織、肋骨、骨、血管、臓器などが所定の配置で存在しており、それぞれの構造物における音響伝達特性は既知とすることができる。そこで、構造物の3次元配置を示す情報を予めモデル情報として定義し、モデル情報記憶部207に記憶させておく。モデル情報記憶部207は、例えば人間の世代や性別の組合せ毎にモデル情報を記憶してもよい。なお、本発明における対象者は、必ずしも人間に限定される必要は無い。そのため、モデル情報記憶部207は、例えば生物学的に異なる種毎に(例えば、猫、犬、馬、牛それぞれの)モデル情報を記憶してもよい。
【0054】
到達時間判定部208は、モデル情報記憶部207に記憶されているモデル情報を用いて、対象者の任意の位置からそれとは別の任意の位置までの信号伝達速度を、経路に存在する構造物とその伝達特性とに基づいて(例えば積和計算により)取得する。このようにして得られた情報を用いることで、信号処理部204の信号処理の精度を向上させることができる。
【0055】
このように構成された第8の実施形態における情報取得システム100では、対象とする生体の構造を考慮した上で、精度よく信号処理を行い、目的とする位置の生体情報を収集することが可能となる。
【0056】
[第9実施形態]
図9は、本発明の情報取得システム100の第9実施形態のシステム構成例を示す図である。第9実施形態における情報取得システム100は、端末装置20が非対象信号判定部209をさらに備える点で、第8実施形態における情報取得システム100と異なる。
【0057】
非対象信号判定部209は、ビームフォーミングの技術を用いることによって、処理の対象となっている信号の信号源が、対象者の生体内であるか生体外であるかについて推定する。例えば、音響信号が処理の対象である場合には、信号到達時間に基づいて音源位置推定が行われてもよい。非対象信号判定部209は、対象者の生体外に信号源が存在している信号については、非対象信号(ノイズ)であると判定し、この信号成分を抑圧して出力する。非対象信号判定部209は、所定の条件を満たす信号(例えば振幅が所定の大きさよりも大きい信号)を処理の対象として、その信号が非対象信号であるか否か判定してもよい。
【0058】
このように構成された第9実施形態における情報取得システム100では、対象者の生体外の信号源による信号(雑音)を抑圧した上で、目的とする位置の生体信号を収集することが可能となる。
【0059】
[第10実施形態]
図10は、本発明の情報取得システム100の第10実施形態のシステム構成例を示す図である。第10実施形態における情報取得システム100は、端末装置20が操作部210、指定領域判定部211及び信号調整部212をさらに備える点で、第9実施形態における情報取得システム100と異なる。
【0060】
操作部210は、ユーザーによる操作(例えば目的位置の指定)の際に、操作において生じた力の強さ(圧力の大きさ)を検知する。例えば、タブレット端末の画面上の指差しによって目的位置が指定される場合、その指先の圧力が検知される。操作部210は、検知された圧力を指定領域判定部211及び信号調整部212に出力する。
【0061】
指定領域判定部211は、検知された圧力に基づいて、生体の奥行き方向の領域の指定を受け付ける。例えば、指定領域判定部211は、検知された圧力が大きいほどより奥の領域の指定であると判定し、検知された圧力が小さいほどより手前の領域(表面に近い領域)の指定であると判定してもよい。例えば、タブレット端末の画面上の指差しによって目的位置を指定する場合、画面が二次元平面であるために、奥行き方向の位置指定を直感的に行うことが難しい場合がある。これに対し、指定領域判定部211は、検知された圧力の大小に基づいて奥行き方向の直感的な位置指定を実現させる。
【0062】
信号調整部212は、検知された圧力の大きさに基づいて、信号の伝達特性(例えば周波数特性や音響伝達特性)を調整する。一般に従来の聴診では、チェストピースを体に当てるときの圧力の大小により、聴取できる音質が異なる。そのため、ユーザーは、対象者の疾病や病態の把握において、様々な圧力でチェストピースを当てる。これと同様に、指先の圧力の大小により周波数特性等の音響伝達特性を変化させることで、従来の聴診器と同様の操作感を実現することができる。なお、変化の特性は、実際の聴診器を用いて圧力変化に伴う伝達特性の変化を測定し、これ信号調整部212が予め記憶してもよい。
【0063】
このように構成された第10実施形態における情報取得システム100では、目的とする位置指定の際の圧力を検知することで、信号の伝達特性の調整や、3次元的な目的位置の直感的な指定を行うことが可能となる。
【0064】
図11は、第1実施形態から第10実施形態において端末装置20の操作部(202、210)において使用される操作画面の具体例を示す図である。
図11において、操作画面の右側には、人体の上半身を模式的に示す画像が表示されている。第一表示領域51には、人体の上半身の前側を模式的に示す画像が表示され、第二表示領域52には、人体の上半身の後側を模式的に示す画像が表示される。ユーザーは、第一表示領域51や第二表示領域52において人体の位置を指し示す操作を行うことによって、信号が取得される目的の領域を指定することができる。操作画面の左側には、取得された情報が表示される。例えば、
図11に示されるように心電波形と音響信号波形とが表示されてもよい。音響信号波形上の点や領域が指定されることによって、その音響信号が音として音出力部205から再生されてもよい。ユーザーは、所見を示す文字を記録してもよい。これにより、他の医療者が生体情報と所見とを合わせて確認することが可能となる。
【0065】
(変形例)
各装置は、複数の筐体に分けて実装されてもよい。例えば、端末装置20は複数の筐体に分けて実装されてもよい。保持具10と中継装置30とは一体に構成されてもよい。保持具10と信号発生装置40とは一体に構成されてもよい。保持具10と中継装置30と信号発生装置40とは一体に構成されてもよい。
【0066】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、生体の情報を取得する技術に適用可能である。
【符号の説明】
【0068】
100…情報取得システム、10…保持具、101…センサー、102…出力部、111…、112…、113…、114…、20…端末装置、201…入力部、202…操作部、203…出力部、204…信号処理部、205…音出力部、206…通信部、207…モデル情報記憶部、208…到達時間判定部、209…非対象信号判定部、210…操作部、211…指定領域判定部、212…信号調整部、30…中継装置、301…信号同期部、302…通信部、303…信号調整部、40…信号発生装置、401…信号出力部