(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】信号処理装置、無線通信システムおよび信号処理方法
(51)【国際特許分類】
H04B 7/185 20060101AFI20241002BHJP
H04B 7/0413 20170101ALI20241002BHJP
【FI】
H04B7/185
H04B7/0413
(21)【出願番号】P 2022570938
(86)(22)【出願日】2020-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2020048662
(87)【国際公開番号】W WO2022137493
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 康義
(72)【発明者】
【氏名】糸川 喜代彦
(72)【発明者】
【氏名】五藤 大介
(72)【発明者】
【氏名】坂元 一光
【審査官】鴨川 学
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-277299(JP,A)
【文献】特開2009-135963(JP,A)
【文献】特開2002-044001(JP,A)
【文献】特表2020-536409(JP,A)
【文献】国際公開第2019/012894(WO,A1)
【文献】特開2001-136565(JP,A)
【文献】特開2000-022618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/185
H04B 7/0413
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天体の上空を所定の軌道で移動する無線通信装置が備える複数のアンテナそれぞれが受信した複数の信号を取得する取得部と、
前記天体上に設けられた送信端末の位置と、前記軌道と、前記複数の信号の受信時刻とに基づいて、前記複数の信号の合成パラメータを決定するパラメータ決定部と、
前記合成パラメータに基づいて前記複数の信号を合成する合成部と
を備え、
前記取得部は、前記複数のアンテナそれぞれが受信した前記複数の信号をサンプリングして波形データを生成し
て前記波形データを記憶装置に記録し、
前記合成部は、前記合成パラメータに基づいて、
前記記憶装置に記録された前記波形データが表す複数の波形を合成する
信号処理装置。
【請求項2】
天体上に設けられ、
前記天体の上空を所定の軌道で移動する無線通信装置が備える複数のアンテナそれぞれが受信した複数の信号を取得する取得部と、
前記天体上に設けられた送信端末の位置と、前記軌道と、前記複数の信号の受信時刻とに基づいて、前記複数の信号の合成パラメータを決定するパラメータ決定部と、
前記合成パラメータに基づいて前記複数の信号を合成する合成部と
を備え、
前記取得部は、無線通信により前記無線通信装置から前記複数の信号をそれぞれ受信する
信号処理装置。
【請求項3】
前記送信端末が送信する信号には、前記送信端末の位置を示すデータが含まれ、
前記合成部が合成した信号を復号して前記送信端末の位置を読み出す復号部を備え、
前記パラメータ決定部は、前記読み出した前記送信端末の位置に基づいて前記合成パラメータを決定する
請求項1
または請求項2に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記パラメータ決定部は、前記天体上の複数のエリアのうち前記送信端末が存在するエリアに前記複数のアンテナの受信ビームが向くように、前記合成パラメータを決定する
請求項1
から請求項3の何れか1項に記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記エリアは、前記軌道に対して平行な直線によって区切られる
請求項4に記載の信号処理装置。
【請求項6】
前記無線通信装置に搭載され、
前記パラメータ決定部は、複数のエリアそれぞれにおける前記送信端末の数に応じて、前記複数のエリアそれぞれについて前記複数のアンテナの指向性を向ける時間を決定する
請求項4又は請求項5に記載の信号処理装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れか1項に記載の信号処理装置と、
天体の上空を所定の軌道で移動し、複数のアンテナを備える無線通信装置と、
前記天体上に設けられた送信端末とを備え、
前記送信端末は、
前記天体で観測された観測データを記憶する記憶部と、
前記送信端末の位置を示す位置データを取得する位置取得部と、
前記無線通信装置の軌道に基づいて前記観測データを送信するタイミングを決定するタイミング決定部と、
決定した前記タイミングにおいて前記観測データと前記位置データとを格納した信号を送信する送信部と
を備える無線通信システム。
【請求項8】
天体の上空を所定の軌道で移動する無線通信装置が備える複数のアンテナそれぞれが受信した複数の信号を取得するステップと、
前記天体上に設けられた送信端末の位置と、前記軌道と、前記複数の信号の受信時刻とに基づいて、前記複数の信号の合成パラメータを決定するステップと、
前記合成パラメータに基づいて前記複数の信号を合成するステップと
を有し、
前記取得するステップでは、前記複数のアンテナそれぞれが受信した前記複数の信号をサンプリングして波形データを生成し
て前記波形データを記憶装置に記録し、
前記合成するステップは、前記合成パラメータに基づいて、
前記記憶装置に記録された前記波形データが表す複数の波形を合成する、
信号処理方法。
【請求項9】
天体上に設けられる信号処理装置が、前記天体の上空を所定の軌道で移動する無線通信装置が備える複数のアンテナそれぞれが受信した複数の信号を取得するステップと、
前記信号処理装置が、前記天体上に設けられた送信端末の位置と、前記軌道と、前記複数の信号の受信時刻とに基づいて、前記複数の信号の合成パラメータを決定するステップと、
前記信号処理装置が前記合成パラメータに基づいて前記複数の信号を合成するステップと
を有し、
前記複数の信号を取得するステップでは、前記信号処理装置が、無線通信により前記無線通信装置から前記複数の信号をそれぞれ受信する
信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理装置、無線通信システムおよび信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IoT(Internet of Things)技術の発展により、各種センサを備えたIoT端末を様々な場所に設置することが検討されている。例えば、海上のブイや船舶、山岳地帯など、基地局の設置が困難な場所のデータを収集するためにIoTを活用することも想定されている。一方で、UAV(無人航空機、Unmanned Aerial Vehicle)や静止衛星を用いて、地上の通信装置と無線通信する技術がある(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Wei Feng, et al. "UAV-aided MIMO communications for 5G Internet of Things", IEEE Internet of Things Journal,Volume6, Issue2,2019年,p.1731-1740
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
無線通信装置が上空からデータを収集する場合、無線通信装置の高度が高いほど、地上の送信端末との間の伝搬損失が大きくなり、通信品質が劣化する。
上記事情に鑑み、本発明は、天体の上空を移動する無線通信装置がデータを収集する際の伝搬損失を補償し、通信品質を向上させる信号処理装置、無線通信システムおよび信号処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、天体の上空を所定の軌道で移動する無線通信装置が備える複数のアンテナそれぞれが受信した複数の信号を取得する取得部と、前記天体上に設けられた送信端末の位置と、前記軌道と、前記複数の信号の受信時刻とに基づいて、前記複数の信号の合成パラメータを決定するパラメータ決定部と、前記複数の信号と前記合成パラメータとに基づいて、前記送信端末の送信信号を合成する合成部とを備える信号処理装置である。
【0006】
本発明の一態様は、上記態様に係る信号処理装置と、天体の上空を所定の軌道で移動し、複数のアンテナを備える無線通信装置と、前記天体上に設けられた送信端末とを備え、前記送信端末は、前記天体で観測された観測データを記憶する記憶部と、前記送信端末の位置を示す位置データを取得する位置取得部と、前記無線通信装置の軌道に基づいて前記観測データを送信するタイミングを決定するタイミング決定部と、決定した前記タイミングにおいて前記観測データと前記位置データとを格納した送信信号を送信する送信部とを備える無線通信システムである。
【0007】
本発明の一態様は、天体の上空を所定の軌道で移動する無線通信装置が備える複数のアンテナそれぞれが受信した複数の信号を取得するステップと、前記天体上に設けられた送信端末の位置と、前記軌道と、前記複数の信号の受信時刻とに基づいて、前記複数の信号の合成パラメータを決定するステップと、前記複数の信号と前記合成パラメータとに基づいて、前記送信端末の送信信号を合成するステップとを有する信号処理方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、天体の上空を移動する無線通信装置がデータを収集する際の伝搬損失を補償し、通信品質を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態による無線通信システムの構成図である。
【
図2】第1の実施形態に係るエリアと移動中継局との関係の例を示す図である。
【
図3】第1の実施形態に係るカバレッジ内の存在エリアの変化を示す図である。
【
図4】第1の実施形態に係る無線通信システムの処理を示すフロー図である。
【
図5】第2の実施形態による無線通信システムの構成図である。
【
図6】第2の実施形態に係る無線通信システムの処理を示すフロー図である。
【
図7】第2の実施形態に係るLEO衛星の北上時の軌道とエリアの関係を示す図である。
【
図8】第2の実施形態に係るLEO衛星の南下時の軌道とエリアの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態による無線通信システム1の構成図である。無線通信システム1は、移動中継局2と、端末局3と、基地局4とを有する。無線通信システム1が有する移動中継局2、端末局3及び基地局4それぞれの数は任意であるが、端末局3の数は多数であることが想定される。
【0012】
移動中継局2は、移動体に搭載され、通信可能なエリアが時間の経過により移動する中継装置の一例である。移動中継局2は、例えば、LEO(Low Earth Orbit)衛星に備えられる。LEO衛星の高度は2000km以下であり、地球の上空を1周約1.5時間程度で周回する。端末局3及び基地局4は、地上や海上など地球上に設置される。端末局3は、例えば、IoT端末である。端末局3は、センサが検出した環境データ等のデータを収集し、移動中継局2へ無線により送信する。同図では、2台の端末局3のみを示している。移動中継局2は、地球の上空を移動しながら、複数の端末局3それぞれから送信されたデータを無線信号により受信し、受信したこれらのデータを基地局4へ無線送信する。基地局4は、移動中継局2から端末局3が収集したデータを受信する。
【0013】
移動中継局2として、静止衛星や、ドローン、HAPS(High Altitude Platform Station)などの無人航空機に搭載された中継局を用いることが考えられる。しかし、静止衛星に搭載された中継局の場合、地上のカバーエリア(フットプリント)は広いものの、高度が高いために、地上に設置されたIoT端末との間の伝搬損失が大きいため、受信電力が非常に小さくなり、品質が劣化する。一方、ドローンやHAPSに搭載された中継局の場合、伝搬損失が小さく品質が高いものの、カバーエリアが狭い。さらには、ドローンにはバッテリーが、HAPSには太陽光パネルが必要である。本実施形態では、LEO衛星に移動中継局2を搭載する。よって、伝搬損失が限界内に収まることに加え、LEO衛星は、大気圏外を周回するために空気抵抗がなく、燃料消費も少ない。また、ドローンやHAPSに中継局を搭載する場合と比較して、フットプリントも大きい。
【0014】
しかしながら、LEOに搭載された移動中継局2は、高速で移動しながら通信を行うために、無線信号にドップラーシフトが発生する。また、LEOに搭載された中継局は、ドローンやHAPSに中継局を搭載する場合よりも受信信号の伝搬損失が大きい。そこで、移動中継局2は、端末局3から複数アンテナにより無線信号を受信し、基地局4へ複数アンテナにより無線信号を送信する。複数アンテナを用いた通信のダイバーシティー効果、ビームフォーミング効果により、通信品質を高めることができる。本実施形態においては、移動中継局2は、端末局3から複数アンテナにより受信した無線信号を、MIMO(Multiple Input Multiple Output)により基地局4へ中継する場合を例に説明する。なお、基地局4へ中継する方法は、MIMO以外でもよい。
【0015】
各装置の構成を説明する。
移動中継局2は、複数の第1アンテナ21と、端末通信部22と、基地局通信部24と、複数の第2アンテナ25とを備える。端末通信部22は、複数の受信部221と、合成部222と、復号部223と、記憶部224と、スケジュール決定部225と、パラメータ決定部226とを有する。複数の受信部221は、それぞれ複数の第1アンテナ21に対応して設けられる。各受信部221は、対応する第1アンテナ21を介して信号を受信する。合成部222は、複数の受信部221が受信した信号を、合成パラメータに従って合成することで、端末アップリンク信号を再生する。合成パラメータは、例えば各第1アンテナ21の位相と振幅のオフセットによって表される。復号部223は、合成部222によって再生された端末アップリンク信号からデータを復号する。第1の実施形態に係る移動中継局2は、信号処理装置の一例である。
【0016】
記憶部224は、端末局3の位置データ及びLEO衛星の軌道データを記憶する。端末局3の位置データは、例えば緯度及び経度によって表される。LEOの軌道データは、任意の時刻におけるLEO衛星の位置、速度、移動方向などを得ることが可能なデータである。
【0017】
スケジュール決定部225は、記憶部224が記憶する端末局3の位置データ及び軌道データに基づいて、地上の複数のエリアのうち、複数の第1アンテナ21による受信ビームの指向性を向けるエリアを決定する。第1の実施形態では、各エリアは緯度及び経度に基づいて略直方体状に区切られる。なお、緯線の長さは緯度によって異なるため、各エリアは厳密には直方体ではない。スケジュール決定部225は、複数のエリアのうち、端末局3が存在しているエリア(以下、存在エリア)を特定する。スケジュール決定部225は、軌道データに基づいて時刻毎の第1アンテナのカバレッジを計算し、エリアごとの通信可能時間帯を特定する。スケジュール決定部225は、存在エリアごとの端末局3の数と、通信可能時間帯とに基づいて、時刻毎に複数の第1アンテナ21による受信ビームの指向性を向けるエリアを示す指向性スケジュールを決定する。
【0018】
図2は、第1の実施形態に係るエリアと移動中継局2との関係の例を示す図である。
図2に示す例では、地上が複数のエリアに分けられている。各エリアは、所定の緯線及び経線で区切られている。
図2に示す例では、緯度方向に6分割、経度方向に6分割された36個のエリアが描かれている。
図2に示すエリアは、緯度方向に割り振られた1-6の符号が、経度方向に割り振られたa-fの符号が割り振られ、緯度・経度の符号の組み合わせによって一意に特定される。
図2に示すように、移動中継局2のカバレッジは、地表に円状に投影され、移動中継局2に対し一定の位置関係を保つ。移動中継局2は、所定の軌道に沿って移動する。移動中継局2の軌道は緯度方向及び経度方向に対して傾いている。
【0019】
図2に示す例においては、移動中継局2のカバレッジに属するエリアは、3c、3d、4b、4c、4d、4e、5b、5c、5d、5e、6c及び6dである。ここで、端末局3が地上に多数設置されているとすると、カバレッジ内の存在エリアは、3d、4b、4c、4d、5b及び5cである。
図3は、第1の実施形態に係るカバレッジ内の存在エリアの変化を示す図である。スケジュール決定部225は、LEO衛星の軌道データに基づいて、各時刻における通信可能な存在エリアを特定することで、存在エリア別の通信可能時間を特定することができる。スケジュール決定部225は、記憶部224が記憶する各端末局3の位置データに基づいて、通信可能な存在エリアごとの端末局3の数を特定する。スケジュール決定部225は、各エリアにおける端末局3の数と受信ビームの指向性を向ける時間が比例するように、指向性スケジュールを決定する。なお、指向性スケジュールにおいては、一の時間帯において通信可能な存在エリアのすべてに必ずしも指向性を向けなくてよい。例えば、2022/11/5 23:00-23:02に通信可能な存在エリアは、4c、4d及び5cであるが、2022/11/5 23:00-23:02の間に、4c及び4dに指向性を向け、5cに指向性を向けないものであってもよい。すなわち、スケジュール決定部225は、1走査に係る指向性スケジュールの全体において、各エリアにおける端末局3の数と受信ビームの指向性を向ける時間が比例するように、指向性スケジュールを生成する。
【0020】
パラメータ決定部226は、スケジュール決定部225が決定した指向性スケジュールと時刻とに基づいて、合成部222の合成パラメータを設定する。移動中継局2の位置とエリアと合成パラメータとの関係は、予め計算によって求めておく。
【0021】
基地局通信部24は、端末通信部22が再生した端末アップリンク信号をMIMOにより基地局4へ中継する。基地局通信部24は、記憶部241と、制御部242と、送信データ変調部243と、MIMO送信部244とを備える。記憶部241は、各第2アンテナ25から送信する基地局ダウンリンク信号の送信時刻毎のウェイトを予め記憶している。送信時刻は、例えば、送信開始タイミングからの経過時間で表してもよい。送信時刻毎のウェイトは、LEO衛星の軌道データと、各アンテナ局41の位置とに基づいて計算される。
【0022】
制御部242は、記憶部241から読み出した送信時刻毎のウェイトをMIMO送信部244に指示する。送信データ変調部243は、パラメータ決定部226が出力した復調情報を送信データとして入力し、入力した送信データをパラレル信号に変換した後、変調する。MIMO送信部244は、変調されたパラレル信号に、制御部242から指示されたウェイトにより重み付けを行い、各第2アンテナ25から送信する基地局ダウンリンク信号を生成する。MIMO送信部244は、生成した基地局ダウンリンク信号を第2アンテナ25からMIMOにより送信する。
【0023】
端末局3は、データ記憶部31と、測位部32と、送信部33と、一または複数のアンテナ34とを備える。データ記憶部31は、センサデータ及びLEO衛星の軌道データを記憶する。測位部32は、GNSS(Global Navigation Satellite System)などにより端末局3の位置を示す位置データを取得する。
【0024】
送信部33は、LEO衛星の軌道データに基づいて、端末アップリンク信号の送信時間帯を決定する。すなわち、送信部33は、端末局3が存在するエリアが移動中継局2が備えるアンテナのカバレッジ内に存在する時間帯を、端末アップリンク信号の送信時間帯として決定する。送信部33は、データ記憶部31が記憶するセンサデータ及び測位部32が計測した位置データを端末送信データとして設定した端末アップリンク信号をアンテナ34から無線により送信する。送信部33は、例えば、LPWA(Low Power Wide Area)により信号を送信する。LPWAには、LoRaWAN(登録商標)、Sigfox(登録商標)、LTE-M(Long Term Evolution for Machines)、NB(Narrow Band)-IoT等があるが、任意の無線通信方式を用いることができる。また、送信部33は、他の端末局3と時分割多重、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)、MIMOなどにより送信を行ってもよい。送信部33は、使用する無線通信方式において予め決められた方法により、自局が端末アップリンク信号の送信に使用するチャネル及び送信タイミングを決定する。また、送信部は、使用する無線通信方式において予め決められた方法により、複数のアンテナ34から送信する信号のビーム形成を行ってもよい。
【0025】
基地局4は、複数のアンテナ局41と、MIMO受信部42と、基地局信号受信処理部43と、端末信号受信処理部44とを備える。
【0026】
アンテナ局41は、移動中継局2の複数の第2アンテナ25それぞれからの信号の到来角差が大きくなるように他のアンテナ局41と離れた位置に配置される。各アンテナ局41は、移動中継局2から受信した基地局ダウンリンク信号を電気信号に変換してMIMO受信部42に出力する。
【0027】
MIMO受信部42は、複数のアンテナ局41から受信した基地局ダウンリンク信号を集約する。MIMO受信部42は、LEO衛星の軌道データと、各アンテナ局41の位置とに基づいて、各アンテナ局41それぞれが受信した基地局ダウンリンク信号に対する受信時刻ごとのウェイトを記憶している。例えば、受信時刻は、受信開始のタイミングからの経過時間で表してもよい。MIMO受信部42は、各アンテナ局41から入力した基地局ダウンリンク信号に対して、その基地局ダウンリンク信号の受信時刻に対応したウェイトを演算し、ウェイトが演算された受信信号を合成する。なお、受信時刻によらず同じウェイトを用いてもよい。基地局信号受信処理部43は、合成された受信信号の復調及び復号を行い、復調情報を得る。復調とは、RF信号をベースバンド信号に変換することをいう。復号とは、ベースバンド信号に含まれるシンボルからデータを得ることをいう。基地局信号受信処理部43は、復調情報を端末信号受信処理部44に出力する。
【0028】
端末信号受信処理部44は、端末アップリンク信号の受信処理を行う。端末信号受信処理部44は、端末信号復号部441を備える。端末信号復号部441は、復調情報が示す端末アップリンク信号のシンボルを復号し、端末局3から送信された端末送信データを得る。
【0029】
無線通信システム1の動作を説明する。
図4は、第1の実施形態に係る無線通信システム1の処理を示すフロー図である。端末局3は、外部又は内部に備えられた図示しないセンサが検出したデータを取得し、取得したデータをデータ記憶部31に書き込む(ステップS111)。測位部32は、GNSSなどに基づいて端末局3の位置データを取得する(ステップS112)。送信部33は、ステップS112で取得した位置データとLEO衛星の軌道データに基づいて、現在時刻がアップリンク信号の送信時間帯に含まれるか否かを判定する(ステップS113)。送信部33が現在時刻がアップリンク信号の送信時間帯に含まれないと判定した場合(ステップS113:NO)、端末局3はステップS111に処理を戻す。
【0030】
他方、送信部33が現在時刻がアップリンク信号の送信時間帯に含まれると判定した場合(ステップS113:YES)、データ記憶部31からセンサデータを読み出し、読み出したセンサデータ及びステップS112で取得した位置データを、端末送信データとして端末アップリンク信号に設定する。送信部33は、端末送信データを設定した端末アップリンク信号をアンテナ34から無線送信する(ステップS114)。端末局3は、処理をステップS113に戻す。これにより、端末局3は、送信時間帯の間、アップリンク信号の送信を続ける。
【0031】
移動中継局2のスケジュール決定部225は、記憶部224が記憶する端末局3の位置データ及び軌道データに基づいて、時刻毎に複数の第1アンテナ21による受信ビームの指向性を向けるエリアを示す指向性スケジュールを決定する(ステップS121)。パラメータ決定部226は、スケジュール決定部225が決定した指向性スケジュールと軌道データとに基づいて、現在時刻における合成部222の合成パラメータを設定する(ステップS122)。
【0032】
移動中継局2の複数の受信部221は、端末局3から送信された端末アップリンク信号を受信する(ステップS123)。送信元の端末局3の無線通信方式によって、同一の周波数については時分割で1台の端末局3からのみ端末アップリンク信号を受信する場合と、同一の周波数で同時に複数台の端末局3から端末アップリンク信号を受信する場合がある。合成部222は、複数の受信部221が受信した端末アップリンク信号をステップS122で設定された合成パラメータに従って合成する(ステップS124)。この合成により、指向性スケジュールにおいて指向性を向けるエリアに存在する端末局3が送信した信号が強調され、ランダムに付加される雑音及び他のエリアに存在する端末局3が送信した信号の影響は低減される。復号部223は、合成された信号から端末アップリンク信号を復調・復号し、端末送信データを読み取る(ステップS125)。復号部223は、読み取った端末送信データに含まれる端末局3の位置データによって、記憶部224が記憶する位置データを更新する(ステップS126)。
【0033】
移動中継局2の送信データ変調部243は、復号部223が復調した復調情報を送信データとして入力する。送信データ変調部243は、送信データをパラレル変換した後、変調する。MIMO送信部244は、送信データ変調部243が変調した送信データに制御部242から指示されたウェイトにより重み付けを行って、各第2アンテナ25から送信する基地局ダウンリンク信号を生成する。MIMO送信部244は、生成した各基地局ダウンリンク信号を第2アンテナ25からMIMOにより送信する(ステップS127)。移動中継局2は、ステップS121からの処理を繰り返す。
【0034】
基地局4の各アンテナ局41は、移動中継局2から基地局ダウンリンク信号を受信する(ステップS131)。各アンテナ局41は、受信した基地局ダウンリンク信号を電気信号に変換した受信信号をMIMO受信部42に出力する。MIMO受信部42は、各アンテナ局41から受信した受信信号のタイミングを同期させる。MIMO受信部42は、各アンテナ局41が受信した受信信号を、ウェイトを用いて合成する。基地局信号受信処理部43は、合成された受信信号を復調する(ステップS132)。基地局信号受信処理部43は、復調された受信信号を復号して得られた復調情報を端末信号受信処理部44に出力する。
【0035】
端末信号受信処理部44の端末信号復号部441は、復調情報が示す端末アップリンク信号のシンボルを復号し、端末局3から送信された端末送信データを得る(ステップS133)。なお、端末信号復号部441は、SIC(Successive Interference Cancellation)のように、計算負荷が大きな復号方式を用いることも可能である。基地局4は、ステップS131からの処理を繰り返す。
【0036】
第1の実施形態によれば、移動中継局2は、端末局3の位置、LEO衛星の軌道データ、及び時刻に基づいて、端末局3が存在するエリアへ受信ビームの指向性を向けて端末アップリンク信号を受信する。これにより、移動中継局2は、端末局3との間のアンテナ利得を向上させることができる。また、移動中継局2は、端末局3から位置データを受信し、記憶部224が記憶する端末局3の位置を逐次更新する。これにより、移動中継局2は、端末局3が移動したとしても、適切に受信ビームの方向を端末局3が存在するエリアへ向けることができる。移動中継局2と端末局3との距離は、同じカバレッジにおいてもカバレッジの中心付近と端部付近とで大きく異なる。これに対し、第1の実施形態によれば、移動中継局2が受信ビームを照射することで、移動中継局2と通信対象の端末局3との距離のばらつきを小さくすることができる。これにより、移動中継局2は、端末局3ごとの距離の違いを補償する必要性を低減することができる。
【0037】
また、第1の実施形態によれば、移動中継局2は、各エリアに存在する端末局3の数に応じて、エリアへ指向性を向ける時間を異ならせる。これにより、エリアにおける端末局3の密度によらず、各端末局3の端末アップリンク信号の受信機会を均等化させることができる。
【0038】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る無線通信システム1は、端末アップリンク信号の波形データを蓄積し、蓄積した波形データを設定した基地局ダウンリンク信号を、基地局4に無線送信する。第2の実施形態に係る無線通信システム1を、第1の実施形態との差分を中心に説明する。
【0039】
図5は、第2の実施形態による無線通信システム1の構成図である。第2の実施形態に係る移動中継局2は、第1の実施形態に係る合成部222、復号部223、記憶部224、スケジュール決定部225及びパラメータ決定部226に代えて、波形記憶部227を備える。波形記憶部227は、受信部221が受信した信号の波形データを記憶する。具体的には、波形記憶部227は、第1アンテナ21のIDと信号の受信時刻と波形データとを関連付けて記憶する。各受信部221は、受信した信号の受信波形をサンプリングし、波形記憶部227に記録する。
【0040】
第2の実施形態に係る基地局4の端末信号受信処理部44は、第1の実施形態の構成に加え、さらに記憶部442、パラメータ決定部443及び合成部444を備える。
記憶部442は、時刻毎の端末局3の位置データ及びLEO衛星の軌道データを記憶する。パラメータ決定部443は、復号すべき端末アップリンク信号を送信した端末局3の位置データを記憶部442から読み出し、読み出した位置データとLEO衛星の軌道データに基づいて端末局3が端末アップリンク信号を送信した時間帯を特定する。特定した時間帯に係るLEO衛星の位置に基づいて、端末局3が存在するエリアからの信号強度が強くなるような合成パラメータを決定する。
【0041】
合成部444は、基地局信号受信処理部43が復号して得られた波形データのうち、特定した時間帯に受信されたアンテナ別の波形データを抽出する。合成部444は、抽出した複数の波形データが示す波形をパラメータ決定部443が決定した合成パラメータに従って合成する。端末信号復号部441は、合成部444が合成して得られた波形から、端末アップリンク信号のシンボルを復号し、端末局3から送信された端末送信データを得る。
【0042】
図6は、第2の実施形態に係る無線通信システム1の処理を示すフロー図である。第2の実施形態に係る端末局3は、第1の実施形態と同様の処理を行う。
移動中継局2の複数の受信部221は、端末局3から送信された端末アップリンク信号を受信する(ステップS221)。各受信部221は、受信した信号をサンプリングして波形データを生成し、第1アンテナ21のID及び受信時刻に関連付けて波形記憶部227に記録する(ステップS222)。
【0043】
移動中継局2の送信データ変調部243は、波形記憶部227が記憶する複数の波形データを送信データとして入力する。送信データ変調部243は、送信データをパラレル変換した後、変調する。MIMO送信部244は、送信データ変調部243が変調した送信データに制御部242から指示されたウェイトにより重み付けを行って、各第2アンテナ25から送信する基地局ダウンリンク信号を生成する。MIMO送信部244は、生成した各基地局ダウンリンク信号を第2アンテナ25からMIMOにより送信する(ステップS223)。移動中継局2は、ステップS221からの処理を繰り返す。
【0044】
基地局4の各アンテナ局41は、移動中継局2から基地局ダウンリンク信号を受信する(ステップS231)。各アンテナ局41は、受信した基地局ダウンリンク信号を電気信号に変換した受信信号をMIMO受信部42に出力する。MIMO受信部42は、各アンテナ局41から受信した受信信号のタイミングを同期させる。MIMO受信部42は、各アンテナ局41が受信した受信信号を、ウェイトを用いて合成する。基地局信号受信処理部43は、合成された受信信号を復調する。基地局信号受信処理部43は、復調された受信信号を復号して得られた波形データを端末信号受信処理部44に出力する(ステップS232)。
【0045】
端末信号受信処理部44は、複数の端末局3を1つずつ選択し(ステップS233)、端末局3ごとに以下のステップS234からステップS237の処理を実行する。
端末信号受信処理部44のパラメータ決定部443は、ステップS233で選択した端末局3の位置データを記憶部442から読み出す。パラメータ決定部443は、読み出した位置データとLEO衛星の軌道データに基づいてステップS233で選択した端末局3が端末アップリンク信号を送信した時間帯を特定する。パラメータ決定部443は、特定した時間帯に係るLEO衛星の位置に基づいて、端末局3が存在するエリアからの信号強度が強くなるような合成パラメータを決定する(ステップS234)。
【0046】
合成部444は、ステップS232で復調された波形データのうち、ステップS233で選択した端末局3が端末アップリンク信号を送信した時間帯に係る波形データを抽出する。合成部444は、抽出した複数の波形データが示す波形をステップS234で決定した合成パラメータに従って合成する(ステップS235)。端末信号復号部441は、合成部444が合成して得られた波形から、端末アップリンク信号のシンボルを復号し、端末局3から送信された端末送信データを得る(ステップS236)。端末信号復号部441は、端末送信データに含まれる端末局3の位置データを用いて記憶部442が記憶する端末局3の位置データを更新する(ステップS237)。基地局4は、ステップS231からの処理を繰り返す。
【0047】
第2の実施形態によれば、基地局4は、端末局3の位置、LEO衛星の軌道データ、及び時刻に基づいて、端末局3が存在するエリアからの信号強度が強くなるように波形データを合成する。これにより、基地局4は、端末局3との間の伝搬損失を補償し、通信品質を向上させることができる。また、基地局4は、端末アップリンク信号から位置データを読み出し、記憶部442が記憶する端末局3の位置を逐次更新する。これにより、基地局4は、端末局3が移動したとしても、端末局3が存在するエリアからの信号強度が強くなるように波形データを合成する。これにより、基地局4は、端末局3との間の伝搬損失を補償し、通信品質を向上させることができる。
【0048】
以上、図面を参照して一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、様々な設計変更等をすることが可能である。すなわち、他の実施形態においては、上述の処理の順序が適宜変更されてもよい。また、一部の処理が並列に実行されてもよい。
【0049】
上述した実施形態において、各エリアは
図2に示すように緯度及び経度によって区切られるが、これに限られない。例えば、他の実施形態に係るエリアは、経度に代えてLEO衛星の軌道に平行な線で区切られてもよい。
図7は、第2の実施形態に係るLEO衛星の北上時の軌道とエリアの関係を示す図である。
図8は、第2の実施形態に係るLEO衛星の南下時の軌道とエリアの関係を示す図である。エリアをLEO衛星の軌道に平行な直線で区切ることで、エリアの時間率を均一にすることができる。なお、LEO衛星が準天頂軌道で移動する場合、北上時と南下時で軌道角が異なる。そのため、移動中継局2や基地局4は、エリアと位置との関係を北上時と南下時のそれぞれについて記憶しておき、合成パラメータを生成する際に、LEO衛星が北上しているか南下しているかに応じて端末局3が存在するエリアを判定する。
【0050】
上述した実施形態において、移動中継局2がLEO衛星に搭載されるが、これに限られない。例えば、他の実施形態に係る移動中継局2は、静止衛星、ドローン、HAPSなど他の飛行体に搭載されてもよい。また、上述した実施形態において移動中継局2は地球の上空を移動し、端末局3及び基地局4は、地球上に設けられるが、他の実施形態に係る無線通信システム1は、月など地球以外の天体を対象とするものであってもよい。
【0051】
上述した実施形態において、端末局3は自律的に端末アップリンク信号の送信タイミングを特定するが、他の実施形態ではこれに限られない。例えば、他の実施形態に係る端末局3は、移動中継局2からビーコン信号などによる送信タイミングの通知を受信し、当該送信タイミングに従って端末アップリンク信号を送信してもよい。
【0052】
移動中継局2や基地局4によって実現される信号処理装置は、バスで接続されたプロセッサ、メモリ、補助記憶装置などを備え、信号処理プログラムを実行することによって各処理部を備える。プロセッサの例としては、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphic Processing Unit)、マイクロプロセッサなどが挙げられる。
信号処理プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えば磁気ディスク、光磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ等の記憶装置である。信号処理プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
なお、信号処理装置の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)等のカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を用いて実現されてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。このような集積回路も、プロセッサの一例に含まれる。
【符号の説明】
【0053】
1…無線通信システム 2…移動中継局 21…第1アンテナ 22…端末通信部 221…受信部 222…合成部 223…復号部 224…記憶部 225…スケジュール決定部 226…パラメータ決定部 227…波形記憶部 24…基地局通信部 241…記憶部 242…制御部 243…送信データ変調部 244…MIMO送信部 25…第2アンテナ 3…端末局 31…データ記憶部 32…測位部 33…送信部 34…アンテナ 4…基地局 41…アンテナ局 42…MIMO受信部 43…基地局信号受信処理部 44…端末信号受信処理部 441…端末信号復号部 442…記憶部 443…パラメータ決定部 444…合成部