IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電信電話株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-受光素子 図1
  • 特許-受光素子 図2
  • 特許-受光素子 図3
  • 特許-受光素子 図4
  • 特許-受光素子 図5
  • 特許-受光素子 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】受光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/02 20060101AFI20241002BHJP
   H01L 31/10 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
H01L31/02 B
H01L31/10 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023506606
(86)(22)【出願日】2021-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2021010911
(87)【国際公開番号】W WO2022195780
(87)【国際公開日】2022-09-22
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】名田 允洋
(72)【発明者】
【氏名】中西 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】辰己 詔子
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/193892(WO,A1)
【文献】特開2014-011347(JP,A)
【文献】特開2018-098399(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02-31/0224
H01L 31/08-31/119
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に、少なくとも第1のコンタクト層、光吸収層、第2のコンタクト層が順に積層された素子部を有する受光素子において、
前記基板および前記素子部を覆う、高分子材料の第1の絶縁部と、
前記第1の絶縁部の上をさらに覆う、無機絶縁材料の第2の絶縁部であって、電極配線を介して前記第1のコンタクト層と接続された第1のパッドまたは電極配線を介して前記第2のコンタクト層と接続された第2のパッドと、前記素子部との間に、基板面に垂直に構成された1つ以上の壁状の部分を有する、第2の絶縁部
を備え
前記素子部を覆う前記第1の絶縁部と、前記第1のパッドの下方の前記第1の絶縁部は前記壁状の部分によって分離され、かつ、前記素子部を覆う前記第1の絶縁部と、前記第2のパッドの下方の前記第1の絶縁部は、前記壁状の部分によって分離されていることを特徴とする受光素子。
【請求項2】
前記第1のパッドおよび前記第2のパッドは、前記第1の絶縁部の上を覆う前記第2の絶縁部の上に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の受光素子。
【請求項3】
前記素子部は円筒形状のメサ構造を有し、
前記第2のパッドに接続され、前記第2のコンタクト層の上に形成された反射電極を有する半導体受光素子である請求項1または2に記載の受光素子。
【請求項4】
記第2の絶縁部の無機絶縁材料は、SiN、SiO2、WSiNのいずれかまたはこれらの多層膜を含むことを特徴とする請求項1乃至いずれかに記載の受光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受光素子に関する。より詳細には、半導体受光素子の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
受光素子は、入射した光を電気情報に変換する役割を持つ。光通信においては、受光素子は、伝送路の受信端において、光ファイバ内を伝搬した光信号を電気信号に変換するため広く用いられている。
【0003】
光通信へ応用に向け、半導体によって構成される半導体受光素子では、要求条件の内の重要なパラメータとして、受光感度および動作帯域が着目されていた。半導体受光素子がより高い受光感度であれば、より長距離の光ファイバを伝搬した光信号も復調できるため、中継設備の削減に貢献できる。また半導体受光素子がより広帯域であれば、より高い変調速度の光信号を復調することができる。光通信の高速化および低コスト化のために鍵となる要素は、半導体受光素子の高感度化および高速動作化であった。
【0004】
半導体受光素子の中では、アバランシェフォトダイオード(APD)は、素子の内部利得を有するために一般的なフォトダイオードよりも高い感度が実現できる。このためAPDは、例えばメトロ、アクセス網や巨大データセンタ等、長延化された一定距離を無中継で伝送することが要求されるような光ネットワークに応用されてきた。
【0005】
上述の伝送距離の長延化の一方、これまで電気配線により構成されてきた各サーバ間での通信などの近距離通信においても、光通信が用いられるようになってきた。APDが利用される光通信に向けた光トランシーバにおいては、従来と比べ大幅な低コスト化が要求されている。
【0006】
APDに限らず、一般に半導体受光素子では、実際の動作環境において、湿度に対して信頼性を確保することが難しい。これは、素子の表面に付着した水分が半導体表面の変質を加速し、素子の故障につながるためである。従来、レシーバを構成するパッケージ内に半導体受光素子を気密封止することで、光トランシーバ全体として耐湿性を確保してきた。しかしながら、耐湿性を実現するためには、まずパッケージ材料そのものが金属等、湿度に耐性のある材料で構成される必要がある。また気密封止のプロセスそのものに複雑な工程が必要であったため、光トランシーバの低コスト化を阻害してきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2020-174079号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、半導体受光素子において、耐湿性を向上させる新規な構成を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの実施態様は、基板の上に、少なくとも第1のコンタクト層、光吸収層、第2のコンタクト層が順に積層された素子部を有する受光素子において、前記基板および前記素子部を覆う第1の絶縁部と、電極配線を介して前記第1のコンタクト層と接続された第1のパッドまたは電極配線を介して前記第2のコンタクト層と接続された第2のパッドを含むパッド領域と、前記素子部を含む素子領域との間に、前記第1の絶縁部とは異なる材料からなる第2の絶縁部によって基板面に垂直に構成された分離部とを備えたことを特徴とする受光素子である。
【発明の効果】
【0010】
受光素子の信頼性を向上し、光トランシーバの低コスト化を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態1の受光素子の構成を示す図である。
図2】実施形態2の受光素子の構成を示す図である。
図3】実施形態3の受光素子の構成を示す図である。
図4】実施形態4の受光素子の構成を示す図である。
図5】実施形態5の受光素子の構成を示す図である。
図6】パッドへの機械的応力が受光素子耐湿性に与える影響を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の受光素子は、基板上に少なくとも第1のコンタクト層、光吸収層、第2のコンタクト層がこの順に積層された素子部を有する。基板および素子部は、例えば高分子材料により構成される第1の絶縁部によって覆われている。基板面を見て、受光素子の素子部を含む素子領域と、素子外との電気的・機構的な接続を行うパッドを含むパッド領域との間に、基板面に垂直に構成された、第2の絶縁部による分離部を設ける。受光素子の分離部は、第2の絶縁部の材料に充たされた壁状のものであり得る。パッド領域内にあるパッドまたはその近傍に外的な力による損傷が生じても、例えば無機絶縁膜であり得る第2の絶縁部の耐湿性能によって、この損傷による耐湿性の劣化はパッド領域内に止まる。素子部を含む素子領域は、パッドおよび近傍における損傷の影響を受けることなく、第2の絶縁部によって耐湿性が維持される。分離部を含む受動素子の構成は、様々なバリエーションが可能である。
【0013】
以下、本開示の受光素子の基本的な構成から具体的な構成について、図面とともに詳細に説明する。
[実施形態1]
図1は、実施形態1の受光素子の構成を示す図である。図1の(b)は基板面を見た上面図を示し、図1の(a)は上面図のIa-Ia線で基板面を垂直に切った断面図を示している。図1の(a)を参照すれば、受光素子100は、InP基板10上にn型InPコンタクト層11、アンドープInGaAs光吸収層12、p型InPコンタクト層13が、この順に積層された層構造の素子部を有している。p型コンタクト層13の上部には、Auにより反射用のミラー膜17bが形成されており、この反射用ミラー膜17bは、p型コンタクト層13への電極を兼ねている。素子部は概ね円柱状であって、n型コンタクト層11は、光吸収層12およびp型コンタクト層13よりも一回り大きく形成されている。n型コンタクト層11による円柱の上面の周辺部には、リング状のAuによる電極金属16cが形成されている。
【0014】
n型コンタクト層11上の電極16cは、基板面に垂直に構成された電気配線16bを経て、電気信号を外部へ取り出すための第1の電極パッド16aへ接続されている。また、電極17bは、電気配線を経て、電気信号を外部へ取り出すための第2の電極パッド17aへ接続されている。
【0015】
本実施形態の受光素子100の光―電気変換の動作は、従来技術のものと同様である。光吸収層12で光励起により生じた電子は、n型コンタクト層11に到達した後、電極16cへと移動する。一方、正孔はp型コンタクト層13に到達した後、電極17bへと移動する。このように本受光素子100は、光吸収層13に光が入射することにより電流が発生する半導体受光素子として動作する。光は基板10の下面側から入射して、光吸収層12に達するとともに、電極を兼ねる反射用のミラー膜17bで光吸収層12へ反射されて、効率的に入射光が電気信号へ変換される。
【0016】
本開示の受光素子は、以下に詳細に述べる特徴的な素子保護構造によって、半導体受光素子自体の耐湿性を向上し、光トランシーバの低コスト化を実現する。n型コンタクト層11、光吸収層12、p型コンタクト層13を含む素子部および基板10は、第1の材料により形成される第1の絶縁部14a、14b、14cにより全体が覆われている。第1の材料として例えばポリマーを利用することができ、第1の絶縁部は素子保護用の絶縁膜として機能する。さらに第1の絶縁部14a、14b、14cの全体は、第2の材料による第2の絶縁部15によって覆われている。第2の材料として例えばSiNを利用することができ、第2の絶縁部15は、第1の絶縁部および素子部の保護用絶縁膜として機能する。最表面にある2つのパッド16a、17aは、いずれも第2の絶縁部15の上に形成されている。
【0017】
本開示の受光素子では、基板面を見たときに、第1のパッド16aを含むパッド領域31と素子部を含む素子領域30とが、第2の絶縁部の一部によって分離されている。具体的に図1の(a)の断面図を参照すれば、基板10に垂直に形成された壁状の第2の絶縁部15a、15bによってパッド領域31、32および素子領域30が分離されている。図1の(b)の上面図も合わせて参照すれば、壁状の第2の絶縁部15aによって、第1の絶縁部は、点線で示した2つの部分14a、14bに分離され、パッド領域31の第1の絶縁部14aと、素子領域30の第1の絶縁部14bとの間は直接つながっていない。
【0018】
同様に、第2のパッド17aを含むパッド領域32と素子部を含む素子領域30との間についても、基板10に垂直に形成された壁状の第2の絶縁部15bによって分離されている。パッド領域32の第1の絶縁部14cと、素子領域30の第1の絶縁部14bとの間は第2の絶縁部15bによって隔てられ、直接つながっていない。
【0019】
受光素子を気密封止していない状態で使用するためには、受光素子そのものが耐湿性を持っている必要がある。本実施形態の受光素子の最上部を覆っている第2の絶縁部15としては、例えばSiNなど、膜そのものが水分子に対して緻密である無機絶縁膜が利用される。しかしながらこのような無機絶縁膜は、機械的な応力に対しては十分な強度を持っていない。
【0020】
図6は、パッドへの機械的な応力が素子の耐湿性に与える影響を説明する図である。図6の受光素子600は、実施形態1の受光素子100と同じ構造の素子部を有している。パッド16a、17aを含むパッド領域についても、ベースが絶縁部ではなく素子部と同じ積層構造である点を除き、実施形態1の受光素子100と概ね同じ構成を持つ。実施形態1の受光素子との構成上の相違は、素子領域25とパッド領域24、26とが絶縁部14のみで分離されている点である。受光素子を実際に使用する際には、パッド16a、17aの上に試験用プローブを接触させたり、金属ワイヤをボンディングしたりするなどして、パッドからさらに外部へ電気信号を取り出す必要がある。外部への電気経路(配線)を形成する時、応力22によってパッド周辺部の絶縁部15が機械的に破壊されることがある。特にパッド周辺部の絶縁部(絶縁膜)において、微小な損傷であるマイクロクラック23が生じた場合、たとえ微小なものであっても損傷部分から水分が侵入し耐湿性が破られる。
【0021】
金属配線の層間絶縁膜としても用いられるポリマー系材料は、一般的に透湿性がある。このため図6の素子構成では、マイクロクラック23により侵入した水分は、ポリマー系材料の絶縁部14を介して素子部へと到達し、受光素子の信頼性を損なうことになる。
【0022】
本実施形態の受光素子100では、基板10および素子部を覆っているポリマー系材料の第1の絶縁部は、素子領域30の部分14bと、パッド領域31、32の部分14a、14cに空間的に分離されている。受光素子100では、最上部を覆うSiNによる第2の絶縁部の一部であって、基板面に垂直な壁状に形成された分離部15a、15bによって、第1の絶縁部が分離されている。図1の実施形態1の素子保護構造によれば、たとえパッド領域の僅かな損傷により耐湿性が破られたとしても、素子領域30とパッド領域31、32の間の分離部により水分が遮断され、素子部の耐湿性が破られることはない。パッド領域に与えられる応力による損傷が生じても、素子部の耐湿性を確保し、受光素子自体の信頼性を高めることができる。この結果、光トランシーバの耐湿構造をより簡略化し、低コスト化を実現できる。
【0023】
したがって本開示の受光素子は、基板10の上に、少なくとも第1のコンタクト層11、光吸収層12、第2のコンタクト層13が順に積層された素子部を有する受光素子100において、前記基板および前記素子部を覆う第1の絶縁部と、電極配線を介して前記第1のコンタクト層と接続された第1のパッド16aまたは電極配線を介して前記第2のコンタクト層と接続された第2のパッド17aを含むパッド領域31、32と、前記素子部を含む素子領域30との間に、前記第1の絶縁部とは異なる材料からなる第2の絶縁部によって基板面に垂直に構成された分離部15a、15bとを備えたものとして実施できる。
【0024】
また上述の分離部15a、15bは、前記第2の絶縁部の前記材料によって充たされた壁状の形状を有するものとして実施できる。
【0025】
本実施形態の受光素子を実現する工程は、以下の通りである。まず半絶縁性InP基板10上に、有機金属気相成長法(MOCVD)法を用いてn型InPコンタクト層、アンドープInGaAs光吸収層およびp型InPコンタクト層を、この順にエピタキシャル成長する。3つの層を結晶成長させた後、順次フォトリソグラフィおよびエッチングを行う。これによって、n型コンタクト層11、光吸収層12、p型コンタクト層13からなるメサ形状の素子部を形成する。
【0026】
続いて、p型コンタクト層13およびn型コンタクト層11のそれぞれの上に、フォトリソグラフィ、蒸着およびリフトオフにより、電極金属17b、16cを形成する。その後、感光性ポリイミドを用い、ポリイミドの塗布、フォトリソグラフィおよびキュアにより、後にn型コンタクト用電極16b、p型コンタクト用電極および分離部を形成するためのポリイミド(第1の材料)のスルーホールを形成する。ここで、スルーホールとは、円柱状のものだけに限らず、幅を持った溝状のものも含む。さらにSiN(第2の材料)を全体に形成することで、第2の絶縁部の一部である分離部15a、15bを含めてSiNの保護膜15が形成される。その後、ドライエッチングによって、n型コンタクト用電極16bおよびp型コンタクト用電極17bのためにSiNにスルーホールを形成する。最後に、フォトリソグラフィおよび蒸着リフトオフにより、金属配線およびパッド16a、17aを形成すれば良い。
【0027】
図1に示した受光素子の構成では、素子領域の両側にそれぞれパッド領域があって、3つの領域が一直線上に並んだ例を示したが、受光素子の構成はこれだけに限定されない。例えば、素子領域に対して2つのパッドが同じ側にあって、共通の1つの第1の絶縁部内に2つのパッドが構成されていても良い。この構成の場合、図1における2つの分離部15a、15bは単一のもので済む。また、素子領域および2つのパッド領域の3つの領域がL字状に配置されていても良い。
【0028】
本実施形態の素子保護構造を持つ受光素子によって、パッド周辺部の損傷に起因する耐湿性の劣化が生じても、この劣化をパッド領域のみに留めることができ、素子部の耐湿性が維持される。さらに、光トランシーバの耐湿性を高め、光トランシーバの構造の簡略化や低コスト化を実現する。素子領域とパッド領域とを隔てる分離部の構成は、図1に示したもの以外に他の様々なバリエーションが可能である。
[実施形態2]
図2は、実施形態2の受光素子の構成を示す図である。図2の(b)は基板面を見た上面図を示し、図2の(a)は上面図のIIa-IIa線で基板面を垂直に切った断面図を示している。本実施形態の受光素子200は、図1に示した実施形態1の受光素子100と、分離部の構成のみが異なっており、この相違点のみに絞って以下説明をする。実施形態1の受光素子100では、素子領域とパッド領域を隔てる分離部は、素子の最上面を覆う第2の絶縁部の一部として、基板面に垂直な壁状のものとして構成されていた。この分離部は、第1の絶縁部に溝状にスルーホールを形成し、その溝内を第2の絶縁部の材料により充たす工程で形成されていた。この工程によって、実施形態1の受光素子では、パッドが形成される部分を除いて、素子の全面が第2の絶縁部で覆われていた。しかしながら、必ずしもチップの大部分が第2の絶縁部によって覆われている必要はない。
【0029】
本実施形態の受光素子200では、素子領域およびパッド領域は、それぞれの第1の絶縁部の上面および基板面に垂直な側面上を覆う第2の絶縁部15a、15b、15c、15d、15eを有している。素子領域30の第1の絶縁部の側面上を覆う第2の絶縁部15eと、パッド16aを含むパッド領域31の第1の絶縁部の側面上を覆う第2の絶縁部15dとは、向かい合っており、空間によって隔てられている。パッド17を含むパッド領域32と素子領域30との間も、同様の構成を持つ。図2の(a)、(b)から明らかなように、分離部33、34はそれぞれ、基板面に垂直な向かい合う2つ第2の絶縁部と、その間の空間で構成されている。なお最後に述べるように、すべての素子および配線電極を形成した後に第3の絶縁部により素子全体を覆い、パッド部分のみ露出させることで、受光素子にさらに高い耐環境性を与えることもできる。この場合には、図2の分離部33、34における向かい合う2つ第2の絶縁部の間は、空間(空気)ではなく、第3の絶縁部の絶縁材料で充たされる。
【0030】
したがって本実施形態の受光素子は、分離部33が、パッド領域31の側面を覆う膜状の第2の絶縁部15d、素子領域30の側面を覆う膜状の第2の絶縁部15eを有するものとしても実施できる。
【0031】
本実施形態の受光素子を実現する工程は、以下の通りである。まず半絶縁性InP基板10上に、MOCVD法を用いてn型InPコンタクト層、アンドープInGaAs光吸収層およびp型InPコンタクト層を、この順にエピタキシャル成長する。3つの層を結晶成長させた後、順次フォトリソグラフィおよびエッチングを行う。これによって、n型コンタクト層11、光吸収層12、p型コンタクト層13からなるメサ形状の受光素子を形成する。
【0032】
続いて、p型コンタクト層13およびn型コンタクト層11のそれぞれの上に、フォトリソグラフィ、蒸着およびリフトオフにより、電極金属17b、16cを形成する。その後、感光性ポリイミドを用い、ポリイミドの塗布、フォトリソグラフィおよびキュアにより、後にn型コンタクト用電極16b、p型コンタクト用電極を形成するために、素子領域30のポリイミド14bの上にスルーホールを形成する。同時に、素子領域30のポリイミド14bおよびパッド領域31、32のポリイミド14a、14cが分離した島状となるよう、第1の絶縁部の各領域を形成する。さらに第2の絶縁部すなわちSiNを全体に形成し、第2の絶縁部の一部である分離部15d、15eを含めてSiNの保護膜15a、15b、15cが形成される。その後、ドライエッチングにより素子のn型コンタクト用電極16b、p型コンタクト用電極17bのためにSiNにスルーホールを形成する。同時に、素子領域30およびパッド領域31、32が分離した島状になるようにSiNのパターンを形成する。最後に、フォトリソグラフィ、蒸着リフトオフにより、所定の厚みを持つ金属配線およびパッド16a、17aを形成すれば良い。
【0033】
本実施形態の素子保護構造を持つ受光素子200でも、パッド周辺部の損傷に起因する耐湿性の劣化を、パッド領域内のみに留めることができ、素子部の耐湿性が維持される。光トランシーバの耐湿性を高め、光トランシーバの構造の簡略化や低コスト化を実現する。
[実施形態3]
本実施形態では、上述の実施形態2で示した受光素子の素子保護構造に対して、さらに耐湿性および信頼性を向上させる構成を提示する。
【0034】
図3は、実施形態3の受光素子の構成を示す図である。図3の(b)は基板面を見た上面図を示し、図3の(a)は上面図のIIIa-IIIa線で基板面を垂直に切った断面図を示している。本実施形態の受光素子300は、図2に示した実施形態2の受光素子200と、第1の絶縁部および第2の絶縁部の上面パターンのみが異なっており、以下、実施形態2との相違点のみに絞って説明をする。図3の(a)の断面図における構成は、図2の(a)と全く同じである。図3の受光素子300は、基板面を見たときの第1の絶縁部または第2の絶縁部の上面のパターン形状を、いずれの箇所においても2辺のつくる内角が90度よりも大きくなるようにしたものである。
【0035】
配線電極に沿ったIIIa-IIIa線を通る断面図である図3の(a)において、素子領域30と、パッド領域31、32との間を隔てる分離部33、34の構成は、図2の(a)と同じである。図3の(b)の上面図を参照すると、素子領域30およびパッド領域31、32を覆っている第2の絶縁部の上面パターンが実施形態2のように矩形ではなくて、角の部分が短い斜辺20a、20b、20cとなっている。
【0036】
本開示のいずれの受光素子も、素子領域とパッド領域との間で、第1の絶縁部または第2の絶縁部を分離する構成とすることで、素子部における耐湿性を向上させるものである。この耐湿性向上の効果は、第1の絶縁部および第2の絶縁部が、基板や半導体層と強固に密着していることを前提としている。しかしながら実際には、ポリマー系の絶縁膜およびSiNをはじめとする無機絶縁膜のいずれにおいても、InP系半導体層との接触部分が浮いて隙間が生じることがある。この問題は、製造プロセスや実際の光トランシーバなどにおける使用時の熱サイクル、製造プロセスの水洗等による機械的な衝撃などにより生じ得る。このような絶縁膜の浮きは、多くの場合、絶縁膜の応力が集中する膜の端部において生じる。したがって、絶縁膜パターンの端部の成す角度が鋭利であるほど、応力が集中して浮きが発生し易くなる。
【0037】
本実施形態の受光素子300は、図3の(b)に示したように、基板面を見たときの第1の絶縁部または第2の絶縁部のパターン形状を、隣接するいずれの2辺の成す内角が90度よりも大きくなるようにしている。具体的には、前述の実施形態2の受光素子の製造工程で、素子領域30およびパッド領域31、32のそれぞれにおいて、基板面に平行な面(上面)の第1の絶縁部の島状パターンの4隅を切り取って8角形となるようにすれば良い。この場合、各領域のパターン形状の内角は135度となる。第2の絶縁部のSiNの形状についても、同様に8角形とする。応力の集中を防ぐために第1の絶縁部および第2の絶縁部の両方に対して、隣接するいずれの2辺の成す内角が90度よりも大きくなるパターン形状とするのが好ましいが、いずれか一方の絶縁部だけでも良い。
【0038】
本実施形態の受光素子300でも、パッド周辺の損傷に起因する耐湿性の劣化を、パッド領域内のみに留めることができ、素子部の耐湿性が維持される。絶縁部の構造を応力に対してより堅固なものとすることで、受光素子単体での信頼性をさらに高めることができる。さらに、光トランシーバの耐湿性を高め、光トランシーバの構造の簡略化や低コスト化を実現する。
[実施形態4]
本実施形態の受光素子では、上述の実施形態3で示した受光素子の素子保護構造において、第1の絶縁部および第2の絶縁部の基板面に平行面(上面)のパターンの端部を円形とした例を提示する。
【0039】
図4は、実施形態4の受光素子の構成を示す図である。図4の(b)は基板面を見た上面図を示し、図4の(a)は上面図のIVa-IVa線で基板面を垂直に切った断面図を示している。本実施形態の受光素子400は、図3に示した実施形態3の受光素子300について、基板面を見たときの第1の絶縁部または第2の絶縁部のパターンの角の形状を、斜辺から曲面としたものである。図4の(b)に示したように、パッド領域31、32の基板面に平行な面において、第2の絶縁部15a、15cのパターンの4隅を曲面21a、21bとしている。
【0040】
また、基板面に平行な面において、素子領域30における第1の絶縁部および第2の絶縁部のパターンを、それぞれ素子部の円柱状メサを内包するように円形として、素子部の形状・サイズに適合するように第1の絶縁部および第2の絶縁部の大きさを制限している。図4の素子領域30は、頂点を持たない円柱状の形状となっているため、実施形態1~3の直方体の形状をベースとする図1図3の素子領域30の場合と比べて、素子部への応力の集中をさらに軽減できる。本実施形態の受光素子400は、第1の絶縁部および第2の絶縁部の上面パターンを変更するだけで、実施形態3に準じた工程によって実現できる。
【0041】
本実施形態の受光素子400でも、パッド周辺部の損傷に起因する耐湿性の劣化を、パッド領域内のみに留めることができ、素子部の耐湿性が維持される。実施形態3と同様に、絶縁部の構造を応力に対してより堅固なものとすることで、受光素子の信頼性をさらに高めることができる。さらに光トランシーバの耐湿性を高め、光トランシーバの構造の簡略化や低コスト化を実現する
[実施形態5]
実施形態5の受光素子は、素子の表面のパッドと素子の最表面を覆う第2の絶縁部の位置関係が実施形態2~4の受光素子と異なっている。実施形態2~4で示した受光素子の素子保護構造においては、素子領域およびパッド領域は、分離部を備えることまたは素子領域の形状を制限することによって、それぞれ分離した島状に形成されていた。素子領域およびパッド領域の間の領域では第1の絶縁部および第2の絶縁部は除去されているため、基板10が露出した状態となっていた。本実施形態の受光素子では、素子および形成される配線のあらゆる箇所において、第2の絶縁部が、配線および基板の間に形成されている。
【0042】
図5は、実施形態5の受光素子の構成を示す図である。図5の(b)は基板面を見た上面図を示し、図5の(a)は上面図のVa-Va線で基板面を垂直に切った断面図を示している。本実施形態の受光素子500は、図2に示した実施形態2の受光素子200と比較して、第2の絶縁部および配線の位置関係が異なっている。
【0043】
実施形態2~4の受光素子においては、第1の絶縁部および第2の絶縁部は、素子領域30およびパッド領域31、32の間で空間的に分離されていた。このため、素子部とパッド16a、17の間の配線の一部は、基板10の上に形成されていた。
【0044】
一般に基板においては、各種ウェット/ドライエッチングやリソグラフィ工程などにより、半導体表面に表面準位が形成され、電荷が蓄積されることがある。このような状態の基板上に配線を形成した場合、基板上を伝うリーク電流が発生することがある。リーク電流は受光素子の性能や信頼性の劣化につながり得る。そこで実施形態の受光素子500では、最終工程で作成される配線と基板10との間に、第2の絶縁部を形成している。図2の(a)と図5の(a)で各断面図を対比すると、実施形態2の分離部33、34においては、パッド16aおよびパッド17aへの配線が、基板10の上に直接形成されている。これに対して本実施形態の受光素子では、第2の絶縁部15は、パッド領域31、素子領域30、パッド領域32を通して、全面に、切れ目なく一体に形成されている。分離部33、34においては、パッド16aおよびパッド17aへの配線は、第2の絶縁部15の上に形成されている。この構成によって、基板10において金属電極による表面準位の影響は生じない。基板と配線の間に形成された第2の絶縁部により、配線部に起因するリーク電流を減らすことができる。
【0045】
本実施形態の受光素子を実現する工程は、以下の通りである。まず半絶縁性InP基板上に、MOCVD法を用いてn型InPコンタクト層、アンドープInGaAs光吸収層およびp型InPコンタクト層を、この順にエピタキシャル成長する。3つの層を結晶成長させた後、順次フォトリソグラフィおよびエッチングを行う。これによって、n型コンタクト層11、光吸収層12、p型コンタクト層13からなるメサ形状の受光素子を形成する。
【0046】
続いて、p型コンタクト層13およびn型コンタクト層11のそれぞれの上に、フォトリソグラフィ、蒸着およびリフトオフにより、電極金属17b、16cを形成する。その後、感光性ポリイミドを用い、ポリイミドの塗布、フォトリソグラフィおよびキュアにより、後にn型コンタクト用電極16b、p型コンタクト用電極を形成するために、素子領域30のポリイミド14bの上にスルーホールを形成する。同時に、素子領域30のポリイミド14bおよびパッド領域31、32のポリイミド14a、14cが分離した島状となるよう、第1の絶縁部の各領域を形成する。さらに第2の絶縁部すなわちSiNを全体に形成した後、ドライエッチングによりn型コンタクト用電極16c、p型コンタクト用電極のためのSiNのスルーホールを形成する。この工程により、第1の絶縁部はパッド領域31、32と素子領域30との間で分離され、パッド領域の損傷による素子の耐湿性への影響が回避される。さらに、基板10上の全面に第2の絶縁部15を形成する。
【0047】
最後に、フォトリソグラフィ、蒸着リフトオフにより、金属配線およびパッド16a、17aを形成すれば良い。
【0048】
上述の実施形態1~5の受光素子では、第1の絶縁部の材料としてポリイミド、第2の絶縁部の材料としてSiNを例として説明してきたが、本開示の受光素子の素子保護構造は、これらの材料だけに制約されない。例えば第1の絶縁部はベンゾシクロブテン(BCB:Benzocyclobutene)であっても良い。また、第2の絶縁部は、SiOやWSiN、またはこれらの多層膜であっても良い。
【0049】
また、すべての素子および配線を形成後に、第1の絶縁部および第2の絶縁部とは別に、第3の絶縁部(絶縁膜)により素子全体を覆い、パッド部分のみ露出させることで、さらに素子に高い耐環境性を与えることもできる。
【0050】
また上述の各実施形態では、すべて円形の素子部を持つPINフォトダイオードを例として挙げたが、より高感度性を有するアバランシェフォトダイオードでも構わない。また素子部の形状も、受光素子に入射するビーム形状や素子作製上の事情に応じて、楕円形や多角形であっても良い。
【0051】
また上述の各実施形態では、光は基板の下方から垂直に入射するものとして説明してきた。しかしながら、いずれも光導波路型の受光素子であることを考慮すれば、基板面に沿った光導波路からの入射が容易なように、素子部の構造は長方形などの形状であっても良い。本開示の受光素子は、素子領域およびパッド領域に対する複数の絶縁部の特徴的な構成によるものであって、受光素子としての素子部の種類や構造には依存しない。
【0052】
本開示の受光素子によって、受光素子単体で高信頼性化を実現し、気密封止構造を不要として光トランシーバの低コスト化を実現できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6