(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20241002BHJP
C22C 1/04 20230101ALI20241002BHJP
C22C 19/07 20060101ALI20241002BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20241002BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20241002BHJP
H01F 41/18 20060101ALI20241002BHJP
H10N 50/10 20230101ALI20241002BHJP
H10N 52/85 20230101ALI20241002BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C22C1/04 H
C22C19/07 C
C22C33/02 J
C22C38/00 303Z
H01F41/18
H10N50/10 Z
H10N52/85
(21)【出願番号】P 2020022183
(22)【出願日】2020-02-13
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 慶明
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩之
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-215941(JP,A)
【文献】国際公開第2016/140113(WO,A1)
【文献】特開2014-177675(JP,A)
【文献】特開2019-135324(JP,A)
【文献】特開平01-156466(JP,A)
【文献】国際公開第2014/115375(WO,A1)
【文献】特開2012-207274(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/04- 1/059
C22C 19/07
C22C 33/02
C22C 38/00-38/60
C23C 14/00-14/58
H01F 41/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その材質が、Bと、希土類元素と、を含み、その残部が、Co及び/又はFeと、不可避的不純物とからなる合金であり、
上記合金におけるBの含有量が15at.%以上30at.%以下であり、
上記希土類元素が、Sm、Gd、Tb、Dy及びHoからなる群から選択される1種又は2種以上であり、この選択された希土類元素REの合計含有量が、0.1at.%以上10at.%以下であ
り、
Co及び/又はFe並びに上記希土類元素から形成される金属間化合物相であって、無作為に選択された面積3250μm
2
の視野において、直径5μm以上の最大内接円を描くことができる金属間化合物相が1個以下である、スパッタリングターゲット材。
【請求項2】
その材質が、Bと、希土類元素と、を含み、その残部が、Co及び/又はFeと、不可避的不純物とからなる合金である原料粉末を焼結する、焼結工程を有しており、
上記合金におけるBの含有量が15at.%以上30at.%以下であり、
上記希土類元素が、Sm、Gd、Tb、Dy及びHoからなる群から選択される1種又は2種以上であり、この選択された希土類元素REの合計含有量が、0.1at.%以上10at.%以下であ
り、
Co及び/又はFe並びに上記希土類元素から形成される金属間化合物相であって、無作為に選択された面積3250μm
2
の視野において、直径5μm以上の最大内接円を描くことができる金属間化合物相が1個以下である、スパッタリングターゲット材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングターゲット材に関する。詳細には、本発明は、磁性層の製造に用いるスパッタリングターゲット材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ヘッド、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)等の磁気デバイスには、磁気トンネル接合(MTJ)素子が採用されている。MTJ素子は、高いトンネル磁気抵抗(TMR)信号、低いスイッチング電流密度(Jc)等の特徴を示す。
【0003】
磁気トンネル接合(MTJ)素子は、例えば、Co-Fe-B系合金からなる2枚の磁性層で、MgOからなる遮蔽層を挟んだ構造を有している。この磁性層をなす材料として、ホウ素(B)を含む磁性体が知られている。例えば、Co-B、Fe-B、Co-Fe-B、又はこれらにAl、Cu、Mn、Ni等を添加した組成の磁性体である。
【0004】
磁気トンネル接合(MTJ)素子を構成する磁性層は、通常、その材質がCo-Fe-B系合金であるターゲット材を用いたスパッタリングにより得られる。特開2004-346423号公報(特許文献1)には、断面ミクロ組織においてホウ化物相を微細分散化させたCo-Fe-B系合金ターゲット材が開示されている。国際公開WO2015-080009号(特許文献2)では、Bの高濃度相とBの低濃度相とを含み、Bの高濃度相を細かく分散している磁性材スパッタリングターゲットが提案されている。
【0005】
特開2017-057477号公報(特許文献3)では、(CoFe)3B、Co3B及びFe3Bの形成を低減したスパッタリングターゲット材が提案されている。国際公開WO2016-140113号(特許文献4)には、酸素含有量が100atppm以下の磁性材スパッタリングターゲットが開示されている。
【0006】
近年、MTJ素子のさらなる性能向上が求められている。特開2017-82330号公報(特許文献5)及び特開2014-156639号公報(特許文献6)には、希土類(ランタノイド系)元素を含む軟磁性膜層用合金からなるスパッタリングターゲット材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-346423号公報
【文献】国際公開WO2015-080009号
【文献】特開2017-057477号公報
【文献】国際公開WO2016-140113号
【文献】特開2017-82330号公報
【文献】特開2014-156639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献5及び6に示されるように、ターゲット材をなすCoFe系合金への希土類元素の添加により、得られる磁性層の磁気性能が向上して、MTJ素子の高いTMR信号が達成される。しかし、希土類元素を含む合金からなるターゲット材は非常に脆いため、その製造中や使用中に壊れやすく、生産性を阻害するという問題があった。
【0009】
本発明の目的は、希土類元素を含むCo-Fe-B系合金からなり、しかも、耐割れ性に優れたスパッタリングターゲット材及びその製造方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
Co-Fe-B系合金粉末を焼結してなるターゲット材には、合金相であるCoFe相を含む金属組織が形成される。このCoFe相が、ターゲット材の靱性向上に寄与する。本発明者等は、鋭意検討の結果、希土類元素の添加によって、その靱性を担うCoFe相と希土類元素との金属間化合物が生成されることに着目して、本発明を完成したものである。
【0011】
即ち、本発明に係るスパッタリングターゲット材の材質は、Bと、希土類元素(以下「希土類元素RE」または単に「RE」という。)と、を含み、その残部が、Co及び/又はFeと、不可避的不純物とからなる合金である。この合金におけるBの含有量は、15at.%以上30at.%以下である。この希土類元素REは、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy及びHoからなる群から選択される1種又は2種以上である。この合金において、この選択された希土類元素REの合計含有量は、0.1at.%以上10at.%以下である。
【0012】
好ましくは、Co及び/又はFe並びに上記希土類元素から形成される金属間化合物相であって、無作為に選択された面積3250μm2の視野において、直径5μm以上の最大内接円を描くことができる金属間化合物相の数は、1個以下である。
【0013】
他の観点から、本発明に係るスパッタリングターゲット材の製造方法は、その材質が、Bと、希土類元素REと、を含み、その残部が、Co及び/又はFeと、不可避的不純物とからなる合金である原料粉末を焼結する、焼結工程を有している。この製造方法において、この合金中のBの含有量は15at.%以上30at.%以下である。この希土類元素REは、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy及びHoからなる群から選択される1種又は2種以上である。この合金において、この選択された希土類元素REの合計含有量は0.1at.%以上10at.%以下である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るスパッタリングターゲット材は、その材質である合金におけるホウ素及び希土類元素の含有量が適正である。このターゲット材は、耐割れ性に優れている。このターゲット材では、その製造中及びスパッタリング時の破損が回避される。このターゲット材の生産効率は、高い。このターゲット材を用いたスパッタリングにより得られる磁性膜は、磁気性能に優れている。このターゲット材によれば、高性能及び高品質の磁性膜を効率よく得ることができる。このターゲット材は、磁気ヘッド、MRAM等の磁気デバイスに用いる磁性膜の製造に適している。
【0015】
他の観点から、本発明に係る製造方法によれば、磁気性能が向上した磁性膜が得られ、しかも、耐割れ性に優れたターゲット材を、効率よく簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲット材をなす合金の金属組織を示す走査型電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。なお、本願明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。
【0018】
本発明に係るスパッタリングターゲット材の材質は、Bと、希土類元素REと、を含み、その残部が、Co及び/又はFeと、不可避的不純物とからなる合金である。換言すれば、この合金は、希土類元素REを含むCo-Fe-B系合金である。本発明において、希土類元素REは、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy及びHoからなる群から選択される1種又は2種以上である。これら希土類元素REは、得られる磁性膜の磁気性能向上に寄与しうる。本発明の効果が阻害されない限り、この合金は、任意成分として他の元素を含みうる。不可避的不純物としては、O、S、C、N等が例示される。
【0019】
この合金におけるBの含有量は、15at.%以上30at.%以下である。Bの含有量を15at.%以上とすることにより、得られる磁性膜に十分なアモルファス性が付与される。この磁性膜は、磁気性能に優れている。Bの含有量が30at.%以下であれば、希土類元素REを添加した場合にもCoFe相を含む金属組織が形成されうる。
【0020】
この合金における希土類元素REの含有量は、0.1at.%以上10at.%以下である。この合金が、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy及びHoからなる群から選択される2種以上を含む場合、その合計含有量が0.1at.%以上10at.%以下とされる。希土類元素REの合計含有量を0.1at.%以上とすることにより、得られる磁性膜における性能向上効果が十分に発揮される。希土類元素REの合計含有量を10at.%以下とすることにより、金属組織におけるCoFe相の形成が阻害されない。
【0021】
本発明に係るスパッタリングターゲット材は、その材質である合金におけるホウ素B及び希土類元素REの含有量が適正である。この合金の金属組織では、CoFe相の形成が阻害されない。金属組織におけるCoFe相は、ターゲット材の靱性向上及び得られる磁性膜の磁気性能向上に寄与する。このターゲット材は、製造時及び使用時における耐割れ性に優れている。このターゲット材を用いてスパッタリングすることにより、高い磁気性能を有する磁性膜を効率的に製造することができる。この磁性膜を組み込むことにより、MTJ素子の高いTMR信号が達成される。このターゲット材は、磁気ヘッド、MRAM等の磁気デバイスに用いる磁性膜の製造に適している。
【0022】
好ましくは、このスパッタリングターゲット材をなす合金は、下記組成式で示される。
(1-y-z)(Co-xFe)-yB-zRE
【0023】
上記組成式において、xは、この合金におけるCoとFeとの合計に対するFeの比率(at.%)である。本発明の効果が得られる限り、xは、0at.%以上100at.%以下の範囲で適宜選択することができる。Coの前の(1-x)は省略されている。
【0024】
上記組成式において、REは、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy及びHoからなる群から選択される希土類元素の総称である。yは、Co、Fe、B及びRE(即ち、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy及びHoからなる群から選択された希土類元素の総含有量)の合計に対する、Bの比率(at.%)であり、zは、この合計に対するREの比率(at.%)である。
【0025】
本発明に係るターゲット材において、yは、15at.%以上30at.%以下である。磁気特性の観点から、より好ましいyは20at.%以上である。
【0026】
本発明に係るターゲット材において、zは、0.1at.%以上10at.%以下である。磁気特性の観点から、より好ましいzは3at.%以上である。
【0027】
前述の組成式で示される希土類元素REを含むCo-Fe-B系合金では、(CoFe)RE相を含む金属組織が形成されうる。(CoFe)RE相とは、希土類元素REと、Co及び/又はFeとの反応によって形成される金属間化合物(CoFe)REの相である。(Co+Fe)RE相におけるCo及び/又はFeとREとの比率は、希土類元素REの種類によって異なる。本願明細書では、その比率によらず、Co及び/又はFeと希土類元素REとから形成される金属間化合物を(CoFe)REと定義する。
【0028】
希土類元素REを含むCo-Fe-B系合金の金属組織において、(CoFe)RE相の形成及び増大は、ターゲット材の靱性を担うCoFe相の減少及び消失をもたらす。CoFe相の減少及び消失により、ターゲット材の耐割れ性が低下する。(CoFe)RE相の形成及び増大が抑制された金属組織を有し、CoFe相に由来する靱性が阻害されないターゲット材が好ましい。
【0029】
このターゲット材に形成された金属組織を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察するとき、好ましくは、無作為に選択された縦50μm、横65μmの視野(面積3250μm2)において、その内部に、直径5μm以上の最大内接円を描くことができる(CoFe)RE相の数が、1個以下である。「その内部に、直径5μm以上の最大内接円を描くことができる(CoFe)RE相の数が、1個以下」とは、換言すれば、金属組織における(CoFe)RE相の形成及び増大が抑制されていることを意味する。この金属組織を有するターゲット材では、CoFe相に由来する靱性が阻害されない。このターゲット材は、耐割れ性に優れている。この観点から、「その内部に、直径5μm以上の最大内接円を描くことができる(CoFe)RE相の数」は、より好ましくは、ゼロである。
【0030】
(CoFe)RE相の内部に描くことのできる最大内接円の直径は、ターゲット材から採取した試験片のSEM画像を画像処理することにより測定される。画像処理には、市販の画像解析ソフトが用いられうる。
【0031】
図1は、本発明の好ましい実施形態に係るターゲット材について得られた走査型電子顕微鏡画像の一部である。
図1において、白色部分が(CoFe)RE相である。このSEM画像中、最大の(CoFe)RE相が矢印1で示されている。この最大の(CoFe)RE相の内部に描くことができる最大内接円の直径は、5μm未満である。矢印2で示された暗色部分は、Co及び/又はFeとBとから形成されたホウ化物相(CoFeホウ化物相)、及びCo及び/又はFeから形成されたCoFe相である。画像下部には、対比のため直径5μmの円が示されている。
【0032】
本願明細書において、「その内部に、直径5μm以上の最大内接円を描くことができる(CoFe)RE相の数」は、試験片の顕微鏡観察をおこなって、視野面積が3250μm2となるように、例えば、縦50μm、横65μmの視野を無作為に選択して、最大内接円の直径が5μm以上である(CoFe)RE相を計数することにより得られる。
【0033】
本発明の効果が得られる限り、この金属組織が、(CoFe)RE相以外に他の相を有してもよい。この他の相として、(CoFe)2B相、CoFe相等が例示される。
【0034】
本発明に係るスパッタリングターゲット材の製造方法は、原料粉末を焼結する焼結工程を含む。詳細には、この製造方法は、原料である粉末を高圧下で加熱して固化成形する、いわゆる粉末冶金により焼結体を形成する工程を含む。この焼結体を、機械的手段等で適正な形状に加工することにより、ターゲット材が得られる。
【0035】
原料粉末は、多数の粒子からなる。本発明に係る製造方法において、原料粉末をなす各粒子の材質は、Bと、希土類元素REと、を含み、その残部が、Co及び/又はFeと、不可避的不純物とからなる合金である。この合金におけるBの含有量は、15at.%以上30at.%以下である。希土類元素REは、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy及びHoからなる群から選択される1種又は2種以上である。この合金における、選択された希土類元素REの合計含有量は、0.1at.%以上10at.%以下である。
【0036】
この製造方法では、ホウ素B及び希土類元素REの含有量が、それぞれ前述の範囲内にある原料粉末が用いられることにより、この原料粉末を焼結して得られるターゲット材の金属組織における(CoFe)RE相の形成及び増大が抑制される。このターゲット材の金属組織には、靱性に寄与するCoFe相が適正に形成されうる。この製造方法により得られるターゲット材は、耐割れ性に優れている。この製造方法によれば、ターゲット材の製造時の破損が回避されうる。
【0037】
この原料粉末は、アトマイズ法により製造されうる。アトマイズ法の種類は特に限定されず、ガスアトマイズ法であってもよく、水アトマイズ法であってもよく、遠心力アトマイズ法であってもよい。アトマイズ法の実施に際しては、既知のアトマイズ装置及び製造条件が適宜選択されて用いられる。
【0038】
好ましくは、原料粉末は、焼結工程前に篩分級される。この篩分級の目的は、焼結を阻害する粒子径500μm以上の粒子(粗粉)を除去することにある。この原料粉末によれば、粗粉除去以外の粒度調整をしない場合でも、本発明の効果が得られる。
【0039】
ターゲット材の製造に際し、原料粉末を固化成形して焼結体を得る方法及び条件は、特に限定されない。例えば、熱間静水圧法(HIP法)、ホットプレス法、放電プラズマ焼結法(SPS法)、熱間押出法等が適宜選択される。また、得られた焼結体を加工する方法も、特に限定されず、既知の機械的加工手段が用いられ得る。
【0040】
本発明に係る製造方法により得られるターゲット材は、例えば、MTJ素子に使用される磁性薄膜を形成するためのスパッタリングに好適に使用される。このターゲット材によれば、希土類元素を含有するにもかかわらず、スパッタリング時のターゲット材の割れ等が抑制される。これにより、磁気ヘッド、MRAM等の磁気デバイスに適した、高性能かつ高品質の磁性膜を効率良く得ることが可能になる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0042】
[原料粉末の製造]
表1-2に示される組成となるように、各原料を秤量して、耐火物からなる坩堝に投入して、減圧下、Arガス雰囲気又は真空雰囲気で、誘導加熱により溶解した。その後、溶解した溶湯を、坩堝下部に設けられた小孔(直径8mm)から流出させ、高圧のArガスを用いてガスアトマイズすることにより、ターゲット材製造用の原料粉末を得た。
【0043】
[スパッタリングターゲット材の製造]
得られた原料粉末を、以下の手順により焼結して、実施例のターゲット材No.1-12及び比較例のターゲット材No.13-15を製造した。
【0044】
始めに、ガスアトマイズ法で得た原料粉末を篩分級して、直径500μm以上の粗粉を除去した。次に、篩分級後の原料粉末を、炭素鋼で形成された缶(外径220mm、内径210mm、長さ200mm)に充填して真空脱気した後、HIP装置を用いて、温度900~1200℃、圧力100~150MPa、保持時間1~5時間の条件で焼結し、焼結体を作製した。得られた焼結体を、ワイヤーカット、旋盤加工及び平面研磨により、直径180mm、厚さ7mmの円盤状に加工して、スパッタリングターゲット材とした。
【0045】
[走査型電子顕微鏡観察]
実施例のターゲット材No.1-12及び比較例のターゲット材No.13-15から、それぞれ試験片を採取して、各試験片の断面を研磨した。各試験片の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、縦50μm、横65μmの視野(面積3250μm2)の反射電子像を5視野撮影した。その後、画像解析をおこなって、金属間化合物(CoFe)REの相に描かれる最大内接円の直径を測定し、この直径が5μm以上の(CoFe)REの相の数を記録した。得られた結果が、内接円の数Nとして、下表1-2に示されている。この数Nは、5視野で計測した数値の平均値である。
【0046】
[耐割れ性評価]
スパッタリングターゲット材の耐割れ性を、以下の手順で測定した抗折強度に基づいて評価した。
【0047】
始めに、実施例のターゲット材No.1-12及び比較例のターゲット材No.13-15から、それぞれ、ワイヤーカットにより試験片を切り出した。その後、JIS Z 2511「金属粉-抗折試験による圧粉体強さ測定方法」の規定に準拠して、抗折試験をおこなった。試験条件は、以下の通りである。
試験片形状:厚さ2mm、幅2mm、長さ20mm
支点間距離:10mm
【0048】
試験片が破断した時の荷重(kN)を測定し、下記の数式により抗折強度(MPa)を算出した。3回測定して得られた数値の平均が、下表1-2に示されている。
BS = (3 / 2) × P × L / ( t2× W )
BS:抗折強度(MPa)
t:試験片の厚さ(mm)
W:試験片の幅(mm)
L:支点間距離(mm)
P:破断時の荷重(kN)
【0049】
【0050】
【0051】
実施例のターゲット材No.5について5視野撮影して得られたSEM画像の一つが、
図1に示されている。
図1に矢印で示された白色の部分は(CoFe)RE相である。表1に示される通り、実施例No.5のターゲット材の金属組織では、縦50μm、横65μmの視野(面積
3250μm
2)において、最大内接円の直径が5μm以上である(CoFe)RE相の数Nは、0である。
【0052】
実施例のターゲット材No.1-12及び比較例のターゲット材No.13-15を用いて、DCマグネトロンスパッタにて、スパッタリングをおこなった。スパッタリング条件は、以下の通りである。
基板:アルミ基板(直径95mm、厚み1.75mm)
チャンバー内雰囲気:アルゴンガス
チャンバー内圧:圧力0.9Pa
スパッタリング後、各ターゲット材の状態を目視で観察した。
【0053】
実施例のターゲット材No.1-12では、スパッタリング時の割れは認められなかった。一方、抗折強度が90MPa以下である比較例のターゲット材No.13-15には、スパッタリング後に割れが確認された。
【0054】
以上説明された通り、実施例のターゲット材は、比較例のターゲット材に比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上説明されたスパッタリングターゲット材は、種々の用途における磁性層の製造に適用されうる。
【符号の説明】
【0056】
1・・・(CoFe)RE相
2・・・CoFeホウ化物相