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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】偏光フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
G02B5/30
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020034837
(22)【出願日】2020-03-02
(65)【公開番号】P2021139934
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-11-24
【審判番号】
【審判請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 淳
(72)【発明者】
【氏名】白川 慶一
【合議体】
【審判長】橿本 英吾
【審判官】清水 康司
【審判官】里村 利光
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-140345(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを作製する偏光フィルムの製造方法であって、
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに処理液を接触させて処理する処理工程と、
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに洗浄液を接触させて洗浄する洗浄工程と、
をこの順に含み、
前記洗浄工程は、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの幅を基準に、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの幅方向の一端を含む一端部と、前記幅方向の他端を含む他端部と、前記一端部および前記他端部よりも前記幅方向において内側となる中央部とに区分した上で、前記一端部の洗浄の程度を、前記他端部の洗浄の程度よりも大きくし、前記他端部の洗浄の程度を、前記中央部の洗浄の程度よりも大きくして前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを洗浄する工程であり、
前記洗浄工程は、下記のi)を満たし、かつ下記のa1)およびb1)の少なくともいずれかを満たすように行い、
前記洗浄工程は、前記洗浄液を放出する放出口を複数備え、
前記放出口から上記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムへ向けて、前記洗浄液を連続的に放出し、
前記洗浄工程は、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを鉛直方向上向きに搬送し、かつ前記中央部に向けて前記洗浄液を放出する前記放出口の高さ位置を、前記他端部に向けて前記洗浄液を放出する前記放出口および前記一端部に向けて前記洗浄液を放出する前記放出口の高さ位置よりも低くし、かつ前記他端部に向けて前記洗浄液を放出する前記放出口の高さ位置を、前記一端部に向けて前記洗浄液を放出する前記放出口の高さ位置よりも低くし、
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは前記幅方向の厚みにバラつきが生じている、偏光フィルムの製造方法。
i) 前記一端部に接触させる前記洗浄液の温度をT1[℃]、前記他端部に接触させる前記洗浄液の温度をT2[℃]、前記中央部に接触させる前記洗浄液の温度をT3[℃]とした場合、前記T1、前記T2および前記T3は、T1>T2>T3の関係を満たす。
a1) 1≦T1-T2≦15
b1) 2≦T2-T3≦30
【請求項2】
前記洗浄工程は、下記のc1)を満たすように行う、請求項1に記載の偏光フィルムの製造方法。
c1) 3≦T3≦25
【請求項3】
前記洗浄工程は、下記のii)を満たすように行う、請求項1または請求項2に記載の偏光フィルムの製造方法。
ii) 前記一端部に接触させる単位幅および単位時間当たりの前記洗浄液の液量をM1[L/m/分]、前記他端部に接触させる単位幅および単位時間当たりの前記洗浄液の液量をM2[L/m/分]、前記中央部に接触させる単位幅および単位時間当たりの前記洗浄液の液量をM3[L/m/分]とした場合、前記M1、前記M2および前記M3は、M1>M2>M3の関係を満たす。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを作製する偏光フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させた偏光フィルムが公知である。偏光フィルムは、例えば偏光板の材料として用いられている。偏光板は、通常、偏光フィルムの少なくとも片面、好ましくは両面にポリビニルアルコール系樹脂の水溶液からなる接着剤を介してトリアセチルセルロース等の保護フィルムが貼合されることにより作製される。偏光板は、例えば液晶テレビ、パソコン用モニター、携帯電話などの液晶表示装置(LCD)において表示画面等として適用されている。
【0003】
偏光フィルムは、その製造工程において、従来から偏光フィルムの幅方向の光学特性のバラつきを抑制するための工夫がなされている。例えば特開2013-140345号公報(特許文献1)および台湾公開特許第201142375号公報(特許文献2)は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに染色等の各処理を施した後、水洗して偏光フィルムを製造する場合において、偏光フィルムの幅方向両端部の水洗温度と偏光フィルムの幅方向中央部の水洗温度とを異ならせることによって上記光学特性のバラつきを抑制することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-140345号公報
【文献】台湾公開特許第201142375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、偏光フィルムの幅方向の光学特性のバラつきを低減することができる偏光フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に示す偏光フィルムの製造方法を提供する。
〔1〕 ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを作製する偏光フィルムの製造方法であって、
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに処理液を接触させて処理する処理工程と、
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに洗浄液を接触させて洗浄する洗浄工程と、をこの順に含み、
前記洗浄工程は、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの幅を基準に、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの幅方向の一端を含む一端部と、前記幅方向の他端を含む他端部と、前記一端部および前記他端部よりも前記幅方向において内側となる中央部とに区分した上で、前記一端部の洗浄の程度を、前記他端部の洗浄の程度よりも大きくし、前記他端部の洗浄の程度を、前記中央部の洗浄の程度よりも大きくして前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを洗浄する工程である、偏光フィルムの製造方法。
〔2〕 前記洗浄工程は、下記のi)を満たすように行う、〔1〕に記載の偏光フィルムの製造方法。
i) 前記一端部に接触させる前記洗浄液の温度をT1[℃]、前記他端部に接触させる前記洗浄液の温度をT2[℃]、前記中央部に接触させる前記洗浄液の温度をT3[℃]とした場合、前記T1、前記T2および前記T3は、T1>T2>T3の関係を満たす。
〔3〕 前記洗浄工程は、前記i)を満たし、かつ下記のa1)およびb1)の少なくともいずれかを満たすように行う、〔2〕に記載の偏光フィルムの製造方法。
a1) 1≦T1-T2≦15
b1) 2≦T2-T3≦30
〔4〕 前記洗浄工程は、前記i)を満たし、かつ下記のc1)を満たすように行う、〔2〕または〔3〕に記載の偏光フィルムの製造方法。
c1) 3≦T3≦25
〔5〕 前記洗浄工程は、下記のii)を満たすように行う、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の偏光フィルムの製造方法。
ii) 前記一端部に接触させる単位幅および単位時間当たりの前記洗浄液の液量をM1[L/m/分]、前記他端部に接触させる単位幅および単位時間当たりの前記洗浄液の液量をM2[L/m/分]、前記中央部に接触させる単位幅および単位時間当たりの前記洗浄液の液量をM3[L/m/分]とした場合、前記M1、前記M2および前記M3は、M1>M2>M3の関係を満たす。
〔6〕 前記洗浄工程は、前記洗浄液を放出する放出口を複数備える洗浄装置を用い、前記放出口から前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムへ向けて、前記洗浄液を連続的に放出する操作を含む、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の偏光フィルムの製造方法。
〔7〕 前記洗浄液を連続的に放出する操作において、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを鉛直方向上向きに搬送し、かつ前記中央部に向けて前記洗浄液を放出する前記放出口の高さ位置は、前記一端部に向けて前記洗浄液を放出する前記放出口の高さ位置および前記他端部に向けて前記洗浄液を放出する前記放出口の高さ位置よりも低い、〔6〕に記載の偏光フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、偏光フィルムの幅方向の光学特性のバラつきを低減することができる偏光フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第一の形態における2段階の洗浄工程の一例を説明するため、上記洗浄工程に用いる洗浄液を放出する放出口を複数備える洗浄装置を示す一部断面斜視図である。
図2】(a)は、第一の形態における2段階の洗浄工程の一例を説明するための上記洗浄装置を示す概略断面側面図であり、(b)および(c)は、上記洗浄装置における洗浄液を放出する複数の放出口を示す概略上面図である。
図3】第二の形態における3段階の洗浄工程の一例を説明するため、上記洗浄工程に用いる洗浄液を放出する放出口を複数備える洗浄装置を示す一部断面斜視図である。
図4】(a)は、第二の形態における3段階の洗浄工程の一例を説明するための上記洗浄装置を示す概略断面側面図であり、(b)、(c)および(d)は上記洗浄装置における洗浄液を放出する複数の放出口を示す概略上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の一態様に係る偏光フィルムの製造方法(以下、「本実施形態に係る製造方法」ともいう)について説明する。
【0010】
〔偏光フィルムの製造方法〕
本発明の一態様に係る偏光フィルムの製造方法(本実施形態に係る製造方法)は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを作製する偏光フィルムの製造方法である。上記偏光フィルムの製造方法は、上記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに処理液を接触させて処理する処理工程と、上記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに洗浄液を接触させて洗浄する洗浄工程と、をこの順に含む。上記洗浄工程は、上記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの幅を基準に、上記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの幅方向の一端を含む一端部と、上記幅方向の他端を含む他端部と、上記一端部および上記他端部よりも上記幅方向において内側となる中央部とに区分した上で、上記一端部の洗浄の程度を、上記他端部の洗浄の程度よりも大きくし、上記他端部の洗浄の程度を、上記中央部の洗浄の程度よりも大きくして上記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを洗浄する工程である。
【0011】
<ポリビニルアルコール系樹脂フィルム>
上記偏光フィルムは、例えば一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素(ヨウ素、二色性染料等)を吸着配向させることにより得ることができる。ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂からなるフィルムを意味し、例えばケン化したポリ酢酸ビニル系樹脂などが例示される。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体(例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体)などが挙げられる。共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類などが挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、通常約1000~10000程度、好ましくは約1500~5000程度である。ケン化度は、通常85モル%以上、好ましくは90モル%以上、より好ましくは99~100モル%である。これらのポリビニルアルコール系樹脂は変性されていてもよく、例えばアルデヒド類で変性されたポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなどを使用することができる。
【0012】
本実施形態に係る製造方法において開始材料となるポリビニルアルコール系樹脂フィルムとしては、厚みが65μm以下(例えば60μm以下)、好ましくは50μm以下、より好ましくは35μm以下、さらに好ましくは30μm以下の未延伸のポリビニルアルコール系樹脂フィルム(原反フィルム)を用いることができる。これにより市場要求が益々高まっている薄膜の偏光フィルムを得ることができる。原反フィルムの幅は特に制限されず、例えば400mm以上8000mm以下であり、好ましくは2000mm以上5500mm以下である。原反フィルムの幅が2000mm以上である場合、偏光フィルムの幅方向において色相等の光学特性がバラつきやすいものの、本実施形態に係る製造方法によって上記バラつきを低減することができる。未延伸のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの厚みは、20μm以上であることが好ましい。原反フィルムは、例えば長尺の未延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルムのロール(原反ロール)として用意される。なお、未延伸のポリビニルアルコール系樹脂フィルム(原反フィルム)は通常、ロール状フィルムとして供給される。
【0013】
上記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、これを支持する基材フィルムに積層されていてもよい。すなわちポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、基材フィルムとその上に積層されるポリビニルアルコール系樹脂フィルムとの積層フィルムとして準備されてもよい。この場合、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、例えば、基材フィルムの少なくとも一方の面にポリビニルアルコール系樹脂を含有する塗工液を塗工した後、これを乾燥させることによって製造することができる。
【0014】
基材フィルムとしては、例えば、熱可塑性樹脂からなるフィルムを用いることができる。具体例としては、透光性を有する熱可塑性樹脂、好ましくは光学的に透明な熱可塑性樹脂で構成されるフィルムであって、例えば、鎖状ポリオレフィン系樹脂(ポリプロピレン系樹脂等)、環状ポリオレフィン系樹脂(ノルボルネン系樹脂等)のようなポリオレフィン系樹脂;トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロースのようなセルロース系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;メタクリル酸メチル系樹脂のような(メタ)アクリル系樹脂;ポリスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂;アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン系樹脂;アクリロニトリル・スチレン系樹脂;ポリ酢酸ビニル系樹脂;ポリ塩化ビニリデン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリアセタール系樹脂;変性ポリフェニレンエーテル系樹脂;ポリスルホン系樹脂;ポリエーテルスルホン系樹脂;ポリアリレート系樹脂;ポリアミドイミド系樹脂;ポリイミド系樹脂等であることができる。
【0015】
<処理工程>
本実施形態に係る製造方法は、上記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに処理液を接触させて処理する処理工程と、上記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに洗浄液を接触させて洗浄する洗浄工程と、をこの順に含む。このうち処理工程は、上述した原反フィルムに対して施す各種の処理として、例えば膨潤処理、染色処理および架橋処理(ホウ酸処理)などを施す工程である。
【0016】
具体的には、上記処理工程としては、原反フィルムに膨潤液を接触させて膨潤処理を行う膨潤工程と、膨潤処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルム(以下、「膨潤フィルム」ともいう)に染色液を接触させて染色処理を行う染色工程と、染色処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルム(以下、「染色フィルム」ともいう)に架橋液を接触させて架橋処理を行う架橋工程と、架橋処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルム(以下、「架橋フィルム」ともいう)に補色液を接触させて色調整処理を行う補色工程とを含むことができる。本明細書において色調整処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを「色補正フィルム」ともいう。
【0017】
上記処理工程においては、上述した膨潤工程などの各工程のいずれかの前またはいずれかの工程中に、フィルムを一軸延伸する操作を含むことが好ましい。例えば上記処理工程としては、未延伸の原反フィルムを空気あるいは不活性ガス中で一軸延伸(乾式延伸)した後、膨潤工程、染色工程、架橋工程および補色工程をこの順に行うことを例示することができる。また未延伸の原反フィルムを用いて膨潤工程、染色工程、架橋工程および補色工程をこの順に行い、上記架橋工程の前またはその工程中に湿式にて上記フィルムを一軸延伸することを例示することもできる。さらに上記処理工程は、本発明の効果を奏する限り、その他の工程を含むことができる。
【0018】
上記処理工程では、例えば上述した原反フィルムを原反ロールから巻出しつつ、従来公知の偏光フィルム製造装置のフィルム搬送経路に沿って連続的に搬送させることにより、上述した膨潤工程、染色工程、架橋工程および補色工程などを行うための各処理槽に収容された各処理液(以下、「処理浴」ともいう)に浸漬させることができる。さらに上記処理槽から原反フィルムを引き出した後、上記偏光フィルムの製造方法では、後述する洗浄工程に移ることができる。上記処理工程は、原反フィルムに処理液を接触させて処理する方法であれば、上述した原反フィルムを処理浴に浸漬させる方法に限定されることはなく、処理液を原反フィルム表面に接触させるその他の方法であってもよい。処理液を原反フィルム表面に接触させるその他の方法としては、処理液のシャワーにより、処理液を原反フィルム表面に接触させる方法が好適である。ここで処理液の「シャワー」とは、複数の放出口から放出された処理液の流れを意味し、上記流れにおいて処理液は、粒状、霧状および液流の何れであってもよい。上記シャワーにより処理液を原反フィルム表面に接触させるには、通常、シャワー装置が用いられる。シャワー装置は、複数の放出口を有し、当該放出口から処理液を放出させて液の流れを作ることができる。一方、上記処理工程を原反フィルムを処理浴に浸漬させる方法によって行う場合、一つの処理(たとえば架橋処理)を行う処理浴は一つに限定されることはなく、例えば二つ以上の処理浴に原反フィルムを順次浸漬させることができる。
【0019】
ここで本明細書において「処理槽」とは、膨潤槽、染色槽、架橋槽および補色槽を含む総称を意味する。さらに「処理液」とは、膨潤液、染色液、架橋液および補色液を含む総称を意味し、「処理浴」とは、膨潤浴、染色浴、架橋浴、補色浴を含む総称を意味する。以下、本実施形態に係る製造方法における処理工程の例示として、上述した従来公知の偏光フィルム製造装置を用いることにより、原反フィルムをフィルム搬送経路に沿って連続的に搬送させて上記膨潤工程、上記染色工程、上記架橋工程および上記補色工程をこの順に行う方法を説明する。
【0020】
(膨潤工程)
膨潤工程は、原反フィルム表面の異物除去、原反フィルム中の可塑剤除去、易染色性の付与、原反フィルムの可塑化等の目的で行われる。処理条件は、上記目的が達成でき、かつ原反フィルムの極端な溶解および失透等の不具合を生じない範囲で決定される。
【0021】
上記膨潤工程では、原反フィルムを原反ロールより連続的に巻出しながら、ガイドロールおよびニップロールによって構築されたフィルム搬送経路に沿って搬送させ、次いで膨潤浴(膨潤槽に収容された膨潤液)に所定時間浸漬した後、上記原反フィルムを膨潤フィルムとして引き出すことによって膨潤処理を行うことができる。膨潤浴に用いる膨潤液としては、純水のほか、ホウ酸(特開平10-153709号公報)、塩化物(特開平06-281816号公報)、無機酸、無機塩、水溶性有機溶媒、アルコール類等を約0.01~10質量%の範囲で添加した水溶液を使用することが可能である。
【0022】
膨潤浴の温度は、例えば10~50℃程度、好ましくは10~40℃程度、より好ましくは15~30℃程度である。原反フィルムの浸漬時間は、好ましくは10~300秒程度、より好ましくは20~200秒程度である。また、原反フィルムが予め気体中で延伸したポリビニルアルコール系樹脂フィルムである場合、膨潤浴の温度は、例えば20~70℃程度、好ましくは30~60℃程度である。原反フィルムの浸漬時間は、好ましくは30~300秒程度、より好ましくは60~240秒程度である。
【0023】
上記膨潤処理では、原反フィルムが幅方向に膨潤するために、膨潤フィルムにシワが入る問題が生じやすい。このシワを取りつつ膨潤フィルムを搬送するための1つの手段として、ガイドロールに拡幅ロール(エキスパンダーロール)、スパイラルロール、クラウンロールのような拡幅機能を有する公知のロールを用いたり、クロスガイダー、ベンドバー、テンタークリップのような公知の拡幅装置を用いたりすることができる。シワの発生を抑制するためのもう1つの手段は延伸処理を施すことである。例えば、フィルム搬送経路に備えられた各ニップロールの周速差を利用することにより、膨潤浴中の原反フィルムに対して一軸延伸処理を施すことができる。
【0024】
上記膨潤処理では、フィルムの搬送方向にもフィルムが膨潤拡大するので、原反フィルムに積極的な延伸を行わない場合、搬送方向のフィルムのたるみを無くすために、例えば膨潤浴の前後に配置するニップロールの速度をコントロールする手段等を講ずることが好ましい。また、膨潤浴中のフィルム搬送を安定化させる目的で、膨潤浴中での水流をシャワー装置で制御したり、EPC装置(Edge Position Control装置:フィルムの端部を検出し、フィルムの蛇行を防止する装置)等を併用したりすることも有用である。
【0025】
上記膨潤処理の後、膨潤浴から引き出された膨潤フィルムは、フィルム搬送経路に沿って次に説明する染色工程において使用される染色浴へ導入される。
【0026】
(染色工程)
染色工程は、膨潤処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムにヨウ素等の二色性色素を吸着させ、これを配向させる等の目的で行われる。処理条件は、上記目的が達成でき、かつフィルムの極端な溶解および失透等の不具合が生じない範囲で決定される。染色工程は、ガイドロールおよびニップロールによって構築されたフィルム搬送経路に沿って搬送されてきた膨潤フィルムを、染色浴(染色槽に収容された染色液)に所定時間浸漬し、次いで染色フィルムとして引き出すことによって染色処理を行うことができる。二色性色素の染色性を高めるために、染色工程に供される膨潤フィルムは、少なくともある程度の一軸延伸処理を施したフィルムであることが好ましく、染色処理前の一軸延伸処理の代わりに、あるいは染色処理前の一軸延伸処理に加えて、染色処理時に一軸延伸処理を行うことが好ましい。
【0027】
二色性色素としてヨウ素を用いることが好ましく、染色浴に用いる染色液としては、例えば、濃度が質量比でヨウ素/ヨウ化カリウム/水=約0.003~0.3/約0.1~10/100である水溶液を用いることができる。ヨウ化カリウムに代えて、ヨウ化亜鉛等の他のヨウ化物を用いてもよく、ヨウ化カリウムと他のヨウ化物とを併用してもよい。また、ヨウ化物以外の化合物、例えば、ホウ酸、塩化亜鉛、塩化コバルト等を共存させてもよい。ホウ酸を添加する場合、二色性色素を含む点で後述する架橋液と区別される。本明細書において水溶液が水100質量部に対し、二色性色素を約0.003質量部以上含む場合、上記水溶液を染色液とみなすことができる。膨潤フィルムを浸漬するときの染色浴の温度は、通常10~45℃程度、好ましくは10~40℃であり、より好ましくは20~35℃であり、膨潤フィルムの浸漬時間は、通常30~600秒程度、好ましくは60~300秒である。
【0028】
二色性色素としてヨウ素に代えて二色性染料を用いてもよく、染色浴に用いる染色液としては、例えば濃度が質量比で二色性染料/水=約0.001~0.1/100である水溶液を用いることができる。この染色液には、染色助剤等を共存させてもよく、例えば、硫酸ナトリウム等の無機塩、界面活性剤などを含有していてもよい。二色性染料は1種のみを単独で用いてもよいし、2種類以上の二色性染料を併用してもよい。
【0029】
上述のように染色工程では、染色浴で膨潤フィルムの一軸延伸を行うことができる。膨潤フィルムの一軸延伸は、染色浴の前後に配置した各ニップロール間で周速差をつけることにより行うことができる。
【0030】
上記染色処理においても、上記膨潤処理と同様にシワを除きつつポリビニルアルコール系樹脂フィルムを搬送するため、上述したエキスパンダーロール、スパイラルロール、クラウンロールのような拡幅機能を有する公知のロールを用いたり、クロスガイダー、ベンドバー、テンタークリップのような公知の拡幅装置を用いたりすることができる。シワの発生を抑制するためのもう1つの手段は、膨潤処理と同様、延伸処理を施すことである。
【0031】
上記染色処理の後、染色浴から引き出された染色フィルムは、フィルム搬送経路に沿って次に説明する架橋工程において使用される架橋浴へ導入される。この場合において染色フィルムは、架橋浴へ導入されるまでにシャワー装置を通過して粗洗浄されることにより、上記染色フィルムに付着している余剰の染色液が洗い流されることが好ましい。
【0032】
(架橋工程)
架橋工程は、上記染色フィルムに対し、耐水性を付与する目的で行われる。上記架橋工程は、1回又は複数回行ってもよい。架橋工程は、ガイドロールおよびニップロールによって構築されたフィルム搬送経路に沿って搬送されてきた染色フィルムを、架橋浴(架橋槽に収容された架橋液)に所定時間浸漬し、次いで架橋フィルムとして引き出すことによって架橋処理を行うことができる。
【0033】
架橋液としては、架橋剤を溶媒に溶解させた溶液を使用することができる。架橋剤としては、例えばホウ酸、ホウ砂等のホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒドなどが挙げられる。これらは一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。溶媒としては、例えば水が使用できるが、さらに、水と相溶性のある有機溶媒を含んでも良い。架橋液における架橋剤の濃度は、これに限定されるものではないが、1~20質量%の範囲にあることが好ましく、4~15質量%であることがより好ましい。
【0034】
架橋液としては、たとえば水100質量部に対してホウ酸を約1~10質量部含有する水溶液であることができる。架橋液は、染色処理で使用した二色性色素がヨウ素である場合、ホウ酸に加えてヨウ化物を含有することが好ましく、その量は、水100質量部に対して、例えば1~30質量部とすることができる。ヨウ化物としては、ヨウ化カリウム、ヨウ化亜鉛等が挙げられる。また、ヨウ化物以外の化合物、例えば、塩化亜鉛、塩化コバルト、塩化ジルコニウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等を共存させてもよい。
【0035】
架橋処理においては、その目的によって、ホウ酸およびヨウ化物の濃度、ならびに架橋浴の温度を適宜変更することができる。例えば、濃度が質量比でホウ酸/ヨウ化物/水=3~10/1~20/100の水溶液であることができる。必要に応じ、ホウ酸に代えて他の架橋剤を用いてもよく、ホウ酸と他の架橋剤とを併用してもよい。染色フィルムを浸漬するときの架橋浴の温度は、通常50~70℃程度、好ましくは53~65℃であり、染色フィルムの浸漬時間は、通常10~600秒程度、好ましくは20~300秒、より好ましくは20~200秒である。また、膨潤処理前に予め延伸したポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対して染色処理および架橋処理をこの順に施す場合、架橋浴の温度は、通常50~85℃程度、好ましくは55~80℃である。
【0036】
架橋処理は複数回行ってもよく、通常2~5回行われる。この場合、使用する各架橋浴の組成および温度は、上記の範囲内であれば同じであってもよく、異なっていてもよい。また、各ニップロールの周速差を利用して架橋浴中で一軸延伸処理を施すこともできる。
【0037】
架橋処理においても、膨潤処理と同様にシワを除きつつポリビニルアルコール系樹脂フィルムを搬送するために、上述したエキスパンダーロール、スパイラルロール、クラウンロールのような拡幅機能を有する公知のロールを用いたり、クロスガイダー、ベンドバー、テンタークリップのような公知の拡幅装置を用いたりすることができる。シワの発生を抑制するためのもう1つの手段は、膨潤処理と同様、延伸処理を施すことである。
【0038】
上記架橋処理の後、架橋浴から引き出された架橋フィルムは、フィルム搬送経路に沿って次に説明する補色工程において使用される補色浴へ導入される。
【0039】
(補色工程)
補色工程は、上記架橋フィルムに対し、色相調整する目的で行われる。上記補色工程は、ガイドロールおよびニップロールによって構築されたフィルム搬送経路に沿って搬送されてきた架橋フィルムを、補色浴(補色槽に収容された補色液)に所定時間浸漬し、次いで色補正フィルムとして引き出すことによって補色処理を行うことができる。補色液としては、例えば、染色液に含まれる二色性色素がヨウ素である場合、濃度が質量比でホウ酸/ヨウ化物/水=1~5/3~30/100の水溶液であることができる。架橋フィルムを浸漬するときの補色浴の温度は、通常20~65℃程度であり、架橋フィルムの浸漬時間は、通常1~300秒程度、好ましくは2~100秒である。
【0040】
補色浴の前後に配置した各ニップロールの周速差を利用して補色浴中で一軸延伸処理を施すこともできる。補色浴から引き出された色補正フィルムは、フィルム搬送経路に沿って次に説明する洗浄工程において使用される洗浄浴へ導入される。
【0041】
(延伸工程)
ここで上述のようにポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、一連の処理工程、および後述する洗浄工程の間(すなわち、いずれか1以上の処理工程および洗浄工程の前後および/またはいずれか1以上の処理工程および洗浄工程中)に、湿式または乾式にて一軸延伸処理されることが好ましい。一軸延伸処理の具体的方法は、例えば、フィルム搬送経路を構成する2つのニップロール(例えば、処理浴の前後に配置される2つのニップロール)間に周速差をつけて縦一軸延伸を行うロール間延伸、特許第2731813号公報に記載されるような熱ロール延伸、テンター延伸等であることができ、好ましくはロール間延伸である。一軸延伸工程は、開始材料であるポリビニルアルコール系樹脂フィルムの原反フィルムから偏光フィルムを得るまでの間に複数回にわたって実施することができる。延伸処理は、フィルムのシワの発生を抑制することに対しても有効である。
【0042】
上記原反フィルムを基準とした偏光フィルムの最終的な累積延伸倍率は通常、4.5~7倍程度であり、好ましくは5~6.5倍である。延伸工程はいずれの処理工程で行ってもよく、2以上の処理工程で延伸処理を行う場合においても、延伸処理はいずれの処理工程で行ってもよい。
【0043】
<洗浄工程>
本実施形態に係る製造方法は、上述のように上記ポリビニルアルコール系樹脂フィルム(以下、単に「フィルム」ともいう)に処理液を接触させて処理する処理工程と、上記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに洗浄液を接触させて洗浄する洗浄工程と、をこの順に含む。このうち洗浄工程は、上述した処理工程の後、例えば上述した補色工程の後に行われる。上記洗浄工程では、上記架橋工程、補色工程等において上記フィルムに付着した余剰のホウ酸、ヨウ素等の薬剤を除去する洗浄処理が行われる。洗浄処理は、例えば補色処理した上記フィルムを洗浄浴に浸漬し、上記フィルムに洗浄液を接触させることにより行うことができる。上記洗浄処理は、洗浄浴に上記フィルムを浸漬することに代えて、シャワー装置から洗浄液を放出することによって上記フィルムに洗浄液を接触させること、若しくは洗浄浴への浸漬とシャワー装置からの洗浄液の放出を併用することによって行うことができる。
【0044】
洗浄処理においても、シワを除きつつポリビニルアルコール系樹脂フィルムを搬送する目的で、上述したエキスパンダーロール、スパイラルロール、クラウンロールのような拡幅機能を有する公知のロールを用いたり、クロスガイダー、ベンドバー、テンタークリップのような公知の拡幅装置を用いたりすることができる。また、上記洗浄処理においてシワの発生を抑制するために延伸処理を施してもよい。上記洗浄工程に用いられる洗浄液としては、水、およびこの種のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの洗浄に用いられる従来公知の洗浄液をいずれも用いることができる。なお上記洗浄工程の後において、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの表面から洗浄液を除去する除液手段としては、例えばニップロールがあり、当該ニップロール以外にも、上記フィルムにエアーを吹き付けて除液を行う手段、上記フィルムに接触して除液を行うスクレイパー等を用いることができる。
【0045】
本実施形態に係る製造方法において、具体的には、上記洗浄工程は、上記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの幅を基準に、上記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの幅方向の一端を含む一端部と、上記幅方向の他端を含む他端部と、上記一端部および上記他端部よりも上記幅方向において内側となる中央部とに区分した上で、上記一端部の洗浄の程度を、上記他端部の洗浄の程度よりも大きくし、上記他端部の洗浄の程度を、上記中央部の洗浄の程度よりも大きくして上記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを洗浄する工程である。上記洗浄工程は、上記フィルムの幅方向の中央から一端および他端にかけて徐々に洗浄の程度を大きくする場合であっても、一端部、他端部および中央部における洗浄の程度の関係が上述した条件を満たす限り、本実施形態の範囲を逸脱するものではない。
【0046】
偏光フィルムの幅方向において光学特性のバラつきが発生する要因は、詳細には明らかではないが、次の要因が推測されている。すなわち上述した処理工程においては、処理液がポリビニルアルコール系樹脂フィルムの表面よりも端面から浸入しやすく、上記フィルムの端部と中心部とで処理液の浸入量に違いが生じる。これにより上記フィルムの端部と中心部とで処理の程度に違いが生じ、もって偏光フィルムの幅方向において光学特性がバラつくと推測される。あるいは、上述した一軸延伸処理等により上記フィルムの幅方向の厚みにバラつきが生じ、この厚みのバラつきに従って処理の程度にも違いが生じることにより偏光フィルムの幅方向において光学特性がバラつくと推測される。本発明者らは、上述のように推測される要因に基づき、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、その幅を基準に「一端部/中央部/他端部」と区分して洗浄することによって上記フィルムの端部と中央部との間で生じる処理の程度の差を均一化する方法を想到し、本発明を完成させた。
【0047】
ここで本明細書において、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの幅方向の「一端」および「他端」については、任意に決定することができる。例えば、上記処理工程を経た長尺のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの「一端」および「他端」については、これを洗浄工程において固定してもよいし、変動させてもよい。この場合において、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの幅方向の「一端」は、上記処理液による処理の程度が大きい側であることが好ましく、上記フィルムの幅方向の「他端」は、上記「一端」に比べて上記処理液による処理の程度が小さい側であることが好ましい。処理液による処理の程度は、例えば直交色相b値に基づいて決定することができる。
【0048】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの幅方向の一端部および他端部は、上記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの幅を基準に、それぞれ5~30%となるようにし、好ましくは5~25%となるようにする。洗浄の程度が中央部よりも大きい一端部および他端部の割合が、それぞれ上記フィルムの幅に対して上記の数値範囲内である場合、色相等の光学特性を幅方向で均一にする本発明の効果を十分に得ることができる。ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの幅方向の一端部および他端部は、それぞれ同じ長さとすることが好ましい。
【0049】
上記洗浄工程におけるより具体的な洗浄方法としては、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを洗浄浴に浸漬するとともに、上記フィルムに向けてシャワー装置から洗浄液を放出することにより、上記フィルムに洗浄液を接触させて行う方法を挙げることができる。特に本実施形態では、上記フィルムの一端部、他端部および中央部において、それぞれ洗浄の程度に差をつけることから、上記フィルムの搬送方向に沿う複数の箇所でシャワー装置から洗浄液を放出することにより、上記フィルムに洗浄液を接触させる方法が好ましく採用される。この場合の洗浄方法としては、好ましくは、まず上記フィルムの搬送方向の上流側で、上記フィルムの中央部の洗浄の程度を一端部および他端部よりも大きくし、あるいは上記フィルムの幅方向のすべてで洗浄の程度を均一とする。さらに上記フィルムの搬送方向の下流側で、上記フィルムの一端部の洗浄の程度を、上記他端部の洗浄の程度よりも大きくし、上記他端部の洗浄の程度を、上記中央部の洗浄の程度よりも大きくする。このような洗浄方法により、洗浄液を接触させた上記フィルムにおいて幅方向の光学特性のバラつきを抑制することができる。
【0050】
(第一の形態)
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの一端部の洗浄の程度を、上記フィルムの他端部の洗浄の程度よりも大きくし、上記フィルムの他端部の洗浄の程度を、上記フィルムの中央部の洗浄の程度よりも大きくするための第一の形態として、次の形態を例示することができる。すなわち本実施形態に係る製造方法において上記洗浄工程は、下記のi)を満たすように行うことが好ましい。
【0051】
i) 上記一端部に接触させる上記洗浄液の温度をT1[℃]、上記他端部に接触させる上記洗浄液の温度をT2[℃]、上記中央部に接触させる上記洗浄液の温度をT3[℃]とした場合、上記T1、上記T2および上記T3は、T1>T2>T3の関係を満たす。すなわち上記i)に示す関係は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに接触させる洗浄液の温度が高いほど、上記フィルムに対する洗浄の程度が大きくなることを意味する。
【0052】
上記洗浄工程は、上記i)を満たし、かつ下記のa1)およびb1)の少なくともいずれかを満たすように行うことが好ましい。上記洗浄工程は、下記のa1)およびb1)の両方を満たすように行うことがさらに好ましい。
a1) 1≦T1-T2≦15
b1) 2≦T2-T3≦30。
【0053】
上記洗浄工程は、上記i)を満たし、かつ下記のc1)を満たすように行うことも好ましい。
c1) 3≦T3≦25。
【0054】
なお、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに接触させる洗浄液の温度は、65℃以下とすることが好ましい。洗浄液の温度が65℃を超えると、本実施形態に係る製造方法により得られる偏光フィルム、およびこれを用いた偏光板の光学性能が低下しやすいからである。さらにポリビニルアルコール系樹脂フィルムに接触させる洗浄液の温度が3℃未満である場合、洗浄が十分ではなくなり、本実施形態に係る製造方法により得られる偏光フィルムにおいて幅方向の光学特性のバラつきを抑制することが不十分となる恐れがある。
【0055】
第一の形態を採用する場合、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの中央部に接触させる洗浄液の温度T3は、上記c1)を満たす温度、すなわち3~25℃であることが好ましい。より好ましくは、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの中央部に接触させる洗浄液の温度T3は、下記のc2)を満たす。
c2) 5≦T3≦20。
【0056】
第一の形態を採用する場合、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの他端部に接触させる洗浄液の温度T2は、上記T3との関係において上記b1)を満たす温度、すなわち2≦T2-T3≦30であることができる。具体的には、上記温度T2は、上記c1)を考慮すれば、5~55℃であることが好ましい。より好ましくは、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの他端部に接触させる洗浄液の温度T2は、上記T3との関係において下記のb2)を満たす。
b2) 2≦T2-T3≦20。
【0057】
第一の形態を採用する場合、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの一端部に接触させる洗浄液の温度T1は、上記T2との関係において上記a1)を満たす温度、すなわち1≦T1-T2≦15であることができる。具体的には、上記温度T1は、上記c1)および上記b1)等を考慮すれば、6~65℃であることが好ましい。より好ましくは、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの一端部に接触させる洗浄液の温度T1は、上記T2との関係において下記のb2)を満たす。
a2) 3≦T1-T2≦10。
【0058】
上記T1、T2およびT3が、T1>T2>T3の関係を満たし、かつ上述した関係[a1)、b1)およびc1)]を満たす場合、処理工程において上記フィルムの端部と中心部との間で生じた処理の程度の差が、洗浄工程においてより一層均一化される。これにより洗浄工程における色相調整の効果が十分に発現され、もって偏光フィルムの幅方向の光学特性のバラつきを低減することができるので好ましい。
【0059】
第一の形態において洗浄工程は、上記洗浄液を放出する放出口を複数備える洗浄装置を用い、上記放出口から上記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムへ向けて、上記洗浄液を連続的に放出する操作を含むことが好ましい。第一の形態においては、具体的にはポリビニルアルコール系樹脂フィルムの搬送方向の上流側で、上記フィルムの中央部の洗浄の程度を一端部および他端部よりも大きくし、上記フィルムの搬送方向の下流側で、上記フィルムの一端部の洗浄の程度を、上記他端部の洗浄の程度よりも大きくし、上記他端部の洗浄の程度を、上記中央部の洗浄の程度よりも大きくする2段階の洗浄工程が行われる。
【0060】
以下、第一の形態における洗浄工程に関し、図1および図2を用いて説明する。図1は、第一の形態における2段階の洗浄工程の一例を説明するため、上記洗浄工程に用いる洗浄液を放出する放出口を複数備える洗浄装置を示す一部断面斜視図である。図2(a)は、第一の形態における2段階の洗浄工程の一例を説明するための上記洗浄装置を示す概略断面側面図であり、図2(b)および図2(c)は、上記洗浄装置における洗浄液を放出する複数の放出口を示す概略上面図である。
【0061】
図1および図2(a)に示すように、ポリビニルアルコール系樹脂フィルム1(以下、単に「フィルム1」ともいう)は、搬送用ガイドロール2により図中の矢印の方向に搬送される。これによりフィルム1は、洗浄浴31中の洗浄液32に浸漬された後、1段目のシャワー装置41、2段目のシャワー装置42を順次通過する。シャワー装置41,42の各々には、複数のシャワーノズル411,421がフィルム1の幅方向に配列されている。フィルム1はシャワー装置41,42を通過した後、水切りロール5に送られ、表面に付着した水分が除去される。ここで洗浄浴31内の洗浄液32と、シャワー装置41,42より放出される洗浄液32は、同じまたは近似の組成であることが好ましい。
【0062】
シャワー装置41,42は、フィルム1の幅方向の位置に応じて洗浄液の温度および放出量を調整して放出することができるように構成されている。上記洗浄工程では、洗浄浴31中の洗浄液32による洗浄処理と、シャワー装置41,42による洗浄処理とが行われることにより、洗浄液を接触させたフィルム1において、その幅方向の端部と中心部との間で生じた処理の程度の差が均一化され、もって偏光フィルムの光学特性のバラつきを低減させることができる。なお第一の形態において、洗浄浴31中の洗浄液32により浸漬処理する洗浄処理とシャワー装置41,42による洗浄処理との順序は、特に限定されない。
【0063】
上記シャワー装置41,42による洗浄処理では、図2(c)に示すように、1段目のシャワー装置41において、シャワーノズル411のうちフィルム1の中央部に対応する部分のシャワーノズル411bから洗浄液32が放出される。さらに図2(b)に示すように、2段目のシャワー装置42において、シャワーノズル421のうちフィルム1の一端部に対応する部分のシャワーノズル421a、およびフィルム1の他端部に対応する部分のシャワーノズル421cから洗浄液32が放出され、フィルム1の中央部に対応する部分のシャワーノズル421bからは洗浄液32が放出されない。
【0064】
上記シャワー装置41,42による洗浄処理では、1段目のシャワー装置41においてシャワーノズル411bからフィルム1の中央部へ放出してフィルム1の中央部に接触させる洗浄液の温度T3を、上記c1)を満たす温度として例えば3~25℃から選択することができる。さらに2段目のシャワー装置42においてシャワーノズル421cからフィルム1の他端部へ放出してフィルム1の他端部に接触させる洗浄液の温度T2を、上記T3との関係において上記b1)を満たす温度、すなわち例えば5~55℃の中から2≦T2-T3≦30を満たす温度を選択することができる。また2段目のシャワー装置42においてシャワーノズル421aからフィルム1の一端部へ放出してフィルム1の一端部に接触させる洗浄液の温度T1を、上記T2との関係において上記a1)を満たす温度、すなわち例えば6~65℃の中から1≦T1-T2≦15を満たす温度を選択することができる。このような洗浄処理が行われることにより、洗浄液を接触させたフィルム1の幅方向における洗浄ムラの発生が抑制される。
【0065】
ここで第一の形態は上述した形態に限らず、1段目のシャワー装置41または2段目のシャワー装置42において、すべてのシャワーノズルからT1>T2>T3の関係を満たしてフィルム1へ洗浄液32を放出する形態を含むことができる。さらに1段目のシャワー装置41のシャワーノズル411aおよび411c、ならびに2段目のシャワー装置42のシャワーノズル421aおよび421cからフィルム1の一端部および他端部のみに洗浄液を放出する形態を含むこともできる。後者の場合、シャワー装置41、42による洗浄処理の前に、フィルム1を洗浄浴31中の洗浄液32による洗浄処理を行うことが好ましい。偏光フィルムの光学特性を調整するために、フィルム1の中央部の洗浄もある程度行うことが好ましいからである。さらに上記洗浄工程は、シャワーノズルから放出して上記フィルムに接触させる洗浄液の温度を、上記フィルムの幅方向の中央から一端および他端にかけて徐々に高くする場合であっても、上記洗浄液の温度がT1>T2>T3の関係を満たす限り、第一の形態を逸脱するものではない。
【0066】
(第二の形態)
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの一端部の洗浄の程度を、上記フィルムの他端部の洗浄の程度よりも大きくし、上記フィルムの他端部の洗浄の程度を、上記フィルムの中央部の洗浄の程度よりも大きくするための第二の形態として、次の形態を例示することができる。すなわち本実施形態に係る製造方法において上記洗浄工程は、下記のii)を満たすように行うことが好ましい。
【0067】
ii) 上記一端部に接触させる単位幅および単位時間当たりの上記洗浄液の液量をM1[L/m/分]、上記他端部に接触させる単位幅および単位時間当たりの上記洗浄液の液量をM2[L/m/分]、上記中央部に接触させる単位幅および単位時間当たりの上記洗浄液の液量をM3[L/m/分]とした場合、上記M1、上記M2および上記M3は、M1>M2>M3の関係を満たす。すなわち上記ii)に示す関係は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに接触させる単位幅および単位時間当たりの洗浄液の液量が多いほど、上記フィルムに対する洗浄の程度が大きくなることを意味する。
【0068】
単位幅および単位時間(分)当たりの洗浄液の液量としての上記M1、上記M2および上記M3の値は、M1>M2>M3の関係を満たす限り特に限定されない。ただし、偏光フィルムの製造効率などの観点から、上記フィルムの単位幅および単位時間当たりの洗浄液の液量としてM1を1~20L/m/分から、M2を1~17L/m/分から、ならびにM3を1~15L/m/分からそれぞれM1>M2>M3の関係を満たすように、選択することが好ましい。
【0069】
ここで第二の形態においても上記洗浄工程は、上記洗浄液を放出する放出口を複数備える洗浄装置を用い、上記放出口から上記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムへ向けて、上記洗浄液を連続的に放出する操作を含むことが好ましい。特に第二の形態では、上記洗浄液を連続的に放出する操作において、上記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを鉛直方向上向きに搬送し、かつ上記中央部に向けて上記洗浄液を放出する上記放出口の高さ位置が、上記一端部に向けて上記洗浄液を放出する上記放出口の高さ位置および上記他端部に向けて上記洗浄液を放出する上記放出口の高さ位置よりも低いことが好ましい。より具体的には、上記洗浄液を連続的に放出する操作を、上記中央部に向けて上記洗浄液を放出する上記放出口の高さ位置を、上記他端部および上記一端部に向けて上記洗浄液を放出する各放出口の高さ位置よりも低くし、かつ上記他端部に向けて上記洗浄液を放出する上記放出口の高さ位置を、上記一端部に向けて上記洗浄液を放出する上記放出口の高さ位置よりも低くした3段階の洗浄工程において行うことが好ましい。これにより上記洗浄装置を用いて行う洗浄工程において、上記ii)に示す関係を容易に満たすことができる。
【0070】
以下、第二の形態における洗浄工程に関し、図3および図4を用いて説明する。図3は、第二の形態における3段階の洗浄工程の一例を説明するため、上記洗浄工程に用いる洗浄液を放出する放出口を複数備える洗浄装置を示す一部断面斜視図である。図4(a)は、第二の形態における3段階の洗浄工程の一例を説明するための上記洗浄装置を示す概略断面側面図であり、図4(b)、図4(c)および図4(d)は、上記洗浄装置における洗浄液を放出する複数の放出口を示す概略上面図である。
【0071】
図3および図4(a)に示すように、フィルム1(ポリビニルアルコール系樹脂フィルム1)は、搬送用ガイドロール2により図中の矢印の方向に搬送される。これにより、フィルム1は、洗浄浴31中の洗浄液32に浸漬された後、1段目のシャワー装置41、2段目のシャワー装置42、3段目のシャワー装置43を順次通過する。シャワー装置41,42,43の各々には、複数のシャワーノズル411,421,431がフィルム1の幅方向に配列されている。フィルム1はシャワー装置41,42,43を通過した後、水切りロール5に送られ、表面に付着した水分が除去される。ここで第二の形態においても第一の形態と同様、洗浄浴31内の洗浄液32と、シャワー装置41,42より放出される洗浄液32は、同じまたは近似の組成であることが好ましい。
【0072】
さらに上記第一の形態と同様、シャワー装置41,42,43は、フィルム1の幅方向の位置に応じて洗浄液の温度および放出量を調整して放出することができるように構成されている。上記洗浄工程は、洗浄浴31中の洗浄液32による洗浄処理と、シャワー装置41,42,43による洗浄処理とが行われることにより、洗浄液を接触させたフィルム1において、その幅方向の端部と中心部との間で生じた処理の程度の差が均一化され、もって偏光フィルムの光学特性のバラつきを低減させることができる。なお第二の形態においても、洗浄浴31中の洗浄液32により浸漬処理する洗浄処理とシャワー装置41、42,43による洗浄処理との順序は、特に限定されない。
【0073】
上記シャワー装置41,42,43による洗浄処理では、図4(d)に示すように、1段目のシャワー装置41において、シャワーノズル411のうちフィルム1の中央部に対応する部分のシャワーノズル411bから洗浄液32が放出され、フィルム1の一端部および他端部に対応する部分のシャワーノズル411a,411cからは洗浄液32が放出されない。次に図4(c)に示すように、2段目のシャワー装置42において、フィルム1の他端部に対応する部分のシャワーノズル421cから洗浄液32が放出され、フィルム1の一端部および中央部に対応する部分のシャワーノズル421a,421bからは洗浄液32が放出されない。さらに図4(b)に示すように、3段目のシャワー装置43では、シャワーノズル431のうちフィルム1の一端部に対応する部分のシャワーノズル431aから洗浄液32が放出され、フィルム1の一端部および中央部に対応する部分のシャワーノズル431b,431cからは洗浄液32が放出されない。
【0074】
上記シャワー装置41,42,43による洗浄処理では、たとえば1段目のシャワー装置41においてシャワーノズル411bからフィルム1の中央部へ向けて放出する単位幅および単位時間当たりの洗浄液32の放出量と、2段目のシャワー装置42においてシャワーノズル421cからフィルム1の他端部へ向けて放出する単位幅および単位時間当たりの洗浄液32の放出量と、3段目のシャワー装置43においてシャワーノズル431aからフィルム1の一端部へ向けて放出する単位幅および単位時間当たりの洗浄液32の放出量とを同じとし、例えば1~20L/m/分とすることができる。フィルム1の一端部、他端部および中央部へ向けて放出する単位幅および単位時間当たりの洗浄液32の量は、より好ましくは3~10L/m/分とする。
【0075】
このような洗浄を行うことにより、フィルム1の一端部に接触させる単位幅および単位時間当たりの洗浄液32の液量M1([L/m/分])を、フィルム1の他端部に接触させる単位幅および単位時間当たりの洗浄液32の液量M2([L/m/分])よりも大きく、かつ上記液量M2をフィルム1の中央部に接触させる単位幅および単位時間当たりの洗浄液32の液量M3([L/m/分])よりも大きくすることができ、M1>M2>M3の関係を満たすことができる。もって、ポリビニルアルコール系樹脂フィルム1の一端部の洗浄の程度を、上記他端部の洗浄の程度よりも大きくし、かつ上記他端部の洗浄の程度を、上記中央部の洗浄の程度よりも大きくすることができる。
【0076】
なぜなら第二の形態では、まずフィルム1を鉛直方向上向きに搬送する。このような搬送状態において、フィルム1の中央部に向けて洗浄液32を放出するシャワーノズルの高さ位置が、フィルム1の他端部に向けて洗浄液32を放出するシャワーノズルの高さ位置よりも低く、かつフィルム1の他端部に向けて洗浄液32を放出するシャワーノズルの高さ位置が、フィルム1の一端部に向けて洗浄液32を放出するシャワーノズルの高さ位置よりも低い。この場合、フィルム1上を洗浄液32が垂れる距離は、一端部が最も長く、他端部が次いで長く、中央部が最も短くなる。これにより上記フィルム1に向けて洗浄液32を放出するシャワーノズル(放出口)の高さ位置が高いほど、フィルム1上で洗浄液32が垂れる距離が長くなる結果、フィルム1に接触させる単位幅および単位時間当たりの洗浄液32の液量を大きくすることができる。なお、フィルム1の一端部、他端部および中央部に接触させる単位幅および単位時間当たりの洗浄液32の液量(M1、M2およびM3)は、いずれもシャワー装置41,42,43からの洗浄液32の放出量の調整およびフィルム1の搬送速度の調整等によって制御することもできる。
【0077】
ここで第二の形態では、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの幅方向の光学特性の均一化の効果をより一層高めるために、シャワー装置から放出される洗浄液の温度を、3段目、2段目、1段目の順に高温としたり、シャワー装置から放出される洗浄液の単位幅および単位時間当たりの放出量を3段目、2段目、1段目の順に多量としたりすることが好ましい。ただし1段目、2段目および3段目のシャワー装置から放出される洗浄液の温度および放出量を同一とした場合であっても、第二の形態では1段目のシャワー装置で中央部に対して洗浄液を放出し、2段目のシャワー装置で他端部に対して洗浄液を放出し、3段目のシャワー装置で一端部に対して洗浄液を放出することにより、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの一端部の洗浄の程度を、他端部の洗浄の程度よりも大きくし、かつ他端部の洗浄の程度を、上記中央部の洗浄の程度よりも大きくすることができる。
【0078】
(第一の形態および第二の形態の選択)
上記洗浄工程では、上述したように、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの一端部、他端部および中央部において洗浄の程度に差を設けるための手段として、上記フィルムに接触させる洗浄液の温度差および上記フィルムに接触させる単位幅および単位時間当たりの洗浄液の液量差を挙げることができる。この場合において、洗浄の程度に差を設けるための手段としては、一般に上記温度差が上記液量差よりも優先される。上記フィルムの一端部、他端部および中央部において接触させる洗浄液に温度差を設けるほうが、洗浄の程度に差が出やすく、得られる偏光フィルムにおいて幅方向の光学特性の均一化が図りやすいからである。
【0079】
このため本実施形態に係る製造方法では、第一の形態を洗浄工程の第一の選択肢とし、第一の形態により洗浄工程を行えない場合、第二の形態を洗浄工程として行うことが好ましい管理形態として推奨される。もちろん第一の形態を洗浄工程として行いつつ、1段目のシャワー装置および/または2段目のシャワー装置により、上記フィルムの一端部、他端部および中央部において、それぞれ接触させる単位幅および単位時間当たりの洗浄液の液量に差を設けることが、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの幅方向の光学特性の均一化の効果をより一層高めるためにさらに好ましい。また第二の形態を洗浄工程として行いつつ、1段目、2段目およびの3段目のシャワー装置の間で上記フィルムの一端部、他端部および中央部において接触させる洗浄液の温度に差を設けることも、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの幅方向の光学特性の均一化の効果をより一層高めるためにさらに好ましい。
【0080】
以上のように、本実施形態に係る製造方法では、処理工程(膨潤工程、染色工程、架橋工程および補色工程等)を経た後の洗浄工程において、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの一端部の洗浄の程度を、他端部の洗浄の程度よりも大きくし、かつ他端部の洗浄の程度を、上記中央部の洗浄の程度よりも大きくする。これにより処理工程においてポリビニルアルコール系樹脂フィルムの幅方向の端部と中心部との間に生じた処理程度の差が、洗浄工程において均一化され、もって偏光フィルムの幅方向の光学特性のバラつきを低減させることができる。
【0081】
<その他の工程>
本実施形態に係る製造方法は、上述した処理工程および洗浄工程以外の工程を含むことができる。追加されうる工程およびその処理の例として、ホウ素化合物を含まず塩化亜鉛等を含有する水溶液への浸漬処理(亜鉛処理工程)等が挙げられる。上記亜鉛処理については、上記架橋工程の後に行うことが好ましい。
【0082】
(乾燥工程)
さらにその他の工程として、洗浄工程の後、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを乾燥させる処理を行う乾燥工程を含むこともできる。上記乾燥工程における乾燥方法については特に制限されないが、例えば乾燥炉を用いて熱風乾燥することができる。この場合において乾燥温度は、例えば30~100℃程度であり、乾燥時間は、例えば30~600秒程度である。ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを乾燥させる処理は、遠赤外線ヒーターを用いて行うこともできる。以上のようにして偏光フィルムを作製することができる。偏光フィルムの厚みは、例えば約5~50μm程度である。
【0083】
<偏光フィルムの幅方向の光学特性の均一性を評価する方法>
本実施形態に係る製造方法により得られる偏光フィルムに関し、その幅方向の光学特性のバラつきが低減されたか否か(幅方向の光学特性の均一性の評価)については、たとえば次の方法を用いることにより評価することができる。まず偏光フィルムの搬送方向の任意の位置において、当該位置の幅方向5点(一端、他端、中央、一端と中央との中点および他端と中央との中点の5箇所)で直交色相b値を求める。次に、上記5点の直交色相b値に関し、最大値(MAX)と最小値(MIN)との差Δ(MAX-MIN)を光学特性の均一性の指標とする。この差Δ(MAX-MIN)の上記最大値(MAX)に対する割合(差Δ(MAX-MIN)/最大値(MAX)×100%)が40%以内である場合、光学特性のバラつきが低減されたと評価され、上記割合が40%を超える場合、光学特性のバラつきの低減が不十分であったと評価される。
【0084】
ここで直交色相b値は、日本分光(株)製の紫外可視分光光度計V-7100にセットした偏光フィルムに対し、透過軸方向の直線偏光を入射した場合と、吸収軸方向の直線偏光を入射した場合とのそれぞれの紫外可視透過スペクトルを測定することによって求めることができる。直交色相b値は、上記紫外可視透過スペクトルの値に基づき、上記紫外可視分光光度計V-7100に組み込まれたソフトウェアが計算することによって算出される。直交色相b値の「b値」とは、ハンターのLab表色系におけるb値を意味する。すなわち直交色相b値とは、2枚の偏光フィルムを吸収軸が直交するように重ね、その一方の面から自然光を入射したとき、反対面へ透過してくる光の色相のb値に相当する。
【0085】
<偏光フィルム>
本実施形態に係る製造方法により、幅方向の光学特性のバラつきが抑制された偏光フィルムを得ることができる。上記偏光フィルムの視感度補正単体透過率Tyは、視感度補正偏光度Pyとのバランスを考慮し、40~47%であることが好ましく、41~45%であることがより好ましい。視感度補正偏光度Pyは、幅方向のいずれの位置においても、99.9%以上であることが好ましく、99.95%以上であることがより好ましい。なお、視感度補正偏光度Pyの幅方向における最大値と最小値との差は、0.0015%以下であることが好ましく、差は小さいほど好ましい。
【0086】
視感度補正単体透過率(Ty)、および視感度補正偏光度(Py)は、次の測定方法により求めることができる。まず上記偏光フィルムに対し、積分球付き分光光度計〔日本分光(株)製の「V7100」〕を用いて波長380~780nmの範囲におけるMD透過率とTD透過率を測定し、下記式:
単体透過率(%)=(MD+TD)/2
偏光度(%)={(MD-TD)/(MD+TD)}×100
に基づいて各波長における単体透過率及び偏光度を算出する。
【0087】
ここで「MD透過率」とは、グラントムソンプリズムから出る偏光の向きと偏光フィルム試料の透過軸とを平行にしたときの透過率をいい、上記式において「MD」として表わされる。また、「TD透過率」とは、グラントムソンプリズムから出る偏光の向きと偏光フィルム試料の透過軸とを直交にしたときの透過率をいい、上記式において「TD」として表わされる。次に、上記単体透過率及び偏光度について、JIS Z 8701:1999「色の表示方法-XYZ表色系及びX101010表色系」の2度視野(C光源)に基づいて視感度補正を行うことにより、視感度補正単体透過率(Ty)、および視感度補正偏光度(Py)を求めることができる。
【0088】
上記偏光フィルムの幅は、例えば、50mm以上5000mm以下であり、好ましくは500mm以上4000mm以下である。得られた偏光フィルムは、巻取ロールに順次巻き取ってロール状としてもよいし、巻き取ることなくそのまま偏光板を作製する工程(偏光フィルムの片面または両面に保護フィルム等を積層する工程)に供することもできる。
【0089】
<偏光板>
偏光板は、以上のようにして作製された偏光フィルムの少なくとも片面に、接着剤を介して保護フィルムを貼合することにより得ることができる。保護フィルムとしては、例えば、トリアセチルセルロースおよびジアセチルセルロースのようなアセチルセルロース系樹脂からなるフィルム;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル系樹脂からなるフィルム;ポリカーボネート系樹脂フィルム、シクロオレフィン系樹脂フィルム;アクリル系樹脂フィルム;ポリプロピレン系樹脂の鎖状オレフィン系樹脂からなるフィルムが挙げられる。
【0090】
偏光フィルムと保護フィルムとの接着性を向上させるために、偏光フィルムおよび/または保護フィルムの貼合面に、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、紫外線照射、プライマー塗布処理、ケン化処理などの表面処理を施してもよい。偏光フィルムと保護フィルムとの貼合に用いる接着剤としては、紫外線硬化性接着剤のような活性エネルギー線硬化性接着剤、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液、またはこれに架橋剤が配合された水溶液、ウレタン系エマルジョン接着剤のような水系接着剤等を挙げることができる。紫外線硬化型接着剤は、アクリル系化合物と光ラジカル重合開始剤との混合物、またはエポキシ化合物と光カチオン重合開始剤との混合物等であることができる。また、カチオン重合性のエポキシ化合物とラジカル重合性のアクリル系化合物とを併用し、開始剤として光カチオン重合開始剤と光ラジカル重合開始剤とを併用することもできる。
【0091】
以上のように、本実施形態に係る製造方法により、幅方向の光学特性のバラつきを低減させた偏光フィルムを得ることができる。このような偏光フィルムが適用された偏光板は、液晶表示装置をはじめとする各種表示装置に有効となる。
【符号の説明】
【0092】
1 ポリビニルアルコール系樹脂フィルム、2 搬送用ガイドロール、31 洗浄浴、32 洗浄液、41,42,43 シャワー装置、411,411a,411b,411c,421,421a,421b,421c,431,431a,431b,431c シャワーノズル、5 水切りロール。
図1
図2
図3
図4