(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】液晶ポリマー樹脂組成物、及び、その製造方法、並びに、半導体搬送用キャリア
(51)【国際特許分類】
C08L 101/12 20060101AFI20241002BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20241002BHJP
C08K 7/04 20060101ALI20241002BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20241002BHJP
C08K 11/00 20060101ALI20241002BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C08L101/12
C08K7/06
C08K7/04
C08K3/04
C08K11/00
C08J5/04 CEZ
C08J5/04 CFD
(21)【出願番号】P 2020091374
(22)【出願日】2020-05-26
【審査請求日】2023-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】相馬 英典
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-127038(JP,A)
【文献】特開平09-087418(JP,A)
【文献】国際公開第02/082592(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(A)、成分(B’)、及び、成分(C)を含む液晶ポリマー樹脂組成物であって、
(A)液晶ポリマー
(B’)重量平均繊維長が150μm未満である炭素繊維
(C)体積抵抗率が10
2~10
10Ω・cmである炭素前駆体
前記成分(B’)の含有割合が、成分(A)100質量部に対して10~30質量部であり、前記成分(C)の含有割合が、前記成分(A)100質量部に対して5~35質量部であり、前記成分(B’)及び前記成分(C)の合計の含有割合が、前記成分(A)100質量部に対して25~60質量部であ
り、
さらに、成分(D)導電性カーボンブラックを含み、
前記成分(B’)、前記成分(C)及び前記成分(D)の合計の含有割合が、前記成分(A)100質量部に対して25~60質量部である、液晶ポリマー樹脂組成物。
【請求項2】
請求項
1に記載の液晶ポリマー樹脂組成物からなる本体部を有する半導体搬送用キャリア。
【請求項3】
以下の成分(A)、成分(B)、及び、成分(C)を溶融混練する液晶ポリマー樹脂組成物の製造方法であって、
(A)液晶ポリマー
(B)重量平均繊維長が3000μm未満である炭素繊維
(C)体積抵抗率が10
2~10
10Ω・cmである炭素前駆体
前記成分(B)の配合割合が、前記成分(A)100質量部に対して10~30質量部であり、前記成分(C)の配合割合が、前記成分(A)100質量部に対して5~35質量部であり、前記成分(B)及び前記成分(C)の合計の配合割合が、前記成分(A)100質量部に対して25~60質量部であ
り、
前記液晶ポリマー樹脂組成物は、さらに、成分(D)導電性カーボンブラックを含み、
前記成分(B)、前記成分(C)及び前記成分(D)の合計の配合割合が、前記成分(A)100質量部に対して25~60質量部である、液晶ポリマー樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリマー樹脂組成物、及び、その製造方法、並びに、半導体搬送用キャリアに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂に導電性充填材を分散させた半導電性樹脂組成物は、帯電防止性、塵埃吸着防止性、電磁波シールド性などの機能に優れている。半導電性樹脂組成物は、これらの機能を生かして、半導体ウエハ、半導体素子等を搬送又は保管するための半導体搬送用キャリアの用途に利用されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
一方、液晶ポリマーから得られた成形体は、高強度であり耐熱性が高いこと、また寸法精度が高いことから、種々の電子部品の形成材料として用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、液晶ポリマーに導電性充填材を分散させた半導電性樹脂組成物は、高強度・高耐熱性の半導体搬送用キャリアの用途が期待できる。半導体搬送用キャリアでは、1.0×105~1.0×1011Ωの適度な静電気拡散領域(国際電気標準化会議(IEC)61340)の表面抵抗値を有することが要請されている。また、半導体搬送用キャリアは、半導体搬送用キャリアに表示用の強粘着の付箋テープを貼り、剥がして、繰返し使用されることが多い。
【0006】
しかしながら、従来の液晶ポリマー樹脂組成物から得られる成形体では、適度な静電気拡散領域の表面抵抗値を示すものは、強粘着の付箋テープを剥がした際に表面のスキン層がはがれてしまう。すなわち、従来の液晶ポリマー樹脂組成物から得られる成形体の多くは、テープ剥離性に難がある。逆に、優れたテープ剥離性を有するものは、適度な静電気拡散領域の表面抵抗値を示さない。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、適度な静電気拡散領域の表面抵抗値を示し、かつ、優れたテープ剥離性を有する成形体を成形することができる液晶ポリマー樹脂組成物、及び、その製造方法、並びに、半導体搬送用キャリアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の構成を採用する。
【0009】
[1]以下の成分(A)、成分(B’)、及び、成分(C)を含む液晶ポリマー樹脂組成物であって、
(A)液晶ポリマー
(B’)重量平均繊維長が150μm未満である炭素繊維
(C)体積抵抗率が102~1010Ω・cmである炭素前駆体
前記成分(B’)の含有割合が、前記成分(A)100質量部に対して10~30質量部であり、前記成分(C)の含有割合が、前記成分(A)100質量部に対して5~35質量部であり、前記成分(B’)及び前記成分(C)の合計の含有割合が、前記成分(A)100質量部に対して25~60質量部である液晶ポリマー樹脂組成物。
[2]さらに、成分(D)導電性カーボンブラックを含み、
前記成分(B’)、前記成分(C)及び前記成分(D)の合計の含有割合が、前記成分(A)100質量部に対して25~60質量部である、前記[1]に記載の液晶ポリマー樹脂組成物。
[3]前記[1]又は[2]に記載の液晶ポリマー樹脂組成物からなる本体部を有する半導体搬送用キャリア。
【0010】
[4]以下の成分(A)、成分(B)、及び、成分(C)を溶融混練する液晶ポリマー樹脂組成物の製造方法であって、
(A)液晶ポリマー
(B)重量平均繊維長が3000μm未満である炭素繊維
(C)体積抵抗率が102~1010Ω・cmである炭素前駆体
前記成分(B)の配合割合が、前記成分(A)100質量部に対して10~30質量部であり、前記成分(C)の配合割合が、前記成分(A)100質量部に対して5~35質量部であり、前記成分(B)及び前記成分(C)の合計の配合割合が、前記成分(A)100質量部に対して25~60質量部である液晶ポリマー樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、適度な静電気拡散領域の表面抵抗値を示し、かつ、優れたテープ剥離性を有する成形体を成形することができる液晶ポリマー樹脂組成物、及び、その製造方法、並びに、半導体搬送用キャリアを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の半導体搬送用キャリアの一例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<液晶ポリマー樹脂組成物>
本実施形態の液晶ポリマー樹脂組成物は、以下の成分(A)、成分(B’)、及び、成分(C)を含む。
(A)液晶ポリマー
(B’)重量平均繊維長が150μm未満である炭素繊維
(C)体積抵抗率が102~1010Ω・cmである炭素前駆体
【0014】
(A)液晶ポリマー
本実施形態において、液晶ポリマー樹脂組成物は、成分(A)液晶ポリマーを含む。液晶ポリマー(LCP)とは、溶融状態で分子の直鎖が規則正しく並んだ液晶様性質を示す熱可塑性樹脂をいう。液晶ポリマー(LCP)を含む液晶ポリマー樹脂組成物も、溶融状態で液晶性を示すことが好ましく、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。液晶ポリマー樹脂組成物は、液晶ポリマーを含むことにより、高強度であり耐熱性が高く、また寸法精度が高い。
【0015】
本実施形態で用いられる液晶ポリマー(LCP)としては、液晶ポリエステルであってもよいし、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。本実施形態で用いられる液晶ポリマー(LCP)としては、液晶ポリエステルが好ましく、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが、特に好ましい。
【0016】
本実施形態で用いられる液晶ポリエステルの典型的な例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミンおよび芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合(重縮合)させてなるもの、複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミンおよび芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合させてなるもの、およびポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルと芳香族ヒドロキシカルボン酸とを重合させてなるものが挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミンおよび芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部または全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0017】
芳香族ヒドロキシカルボン酸および芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基またはアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、およびカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオールおよび芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシアミンおよび芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0018】
本実施形態で用いられる液晶ポリエステルは、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)とを有することがより好ましい。
【0019】
(1)-O-Ar1-CO-
(2)-CO-Ar2-CO-
(3)-X-Ar3-Y-
(式(1)~(3)中、Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表し、Ar2及びAr3は、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar1、Ar2及びAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)-Ar4-Z-Ar5-
(式(4)中、Ar4及びAr5は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0020】
本実施形態で用いられる液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)、繰返し単位(2)又は繰返し単位(3)で表される繰返し単位を含み、
繰返し単位(1)の含有割合が、繰返し単位(1)、繰返し単位(2)又は繰返し単位(3)の合計量に対して30モル%以上100モル%以下であり、
繰返し単位(2)の含有割合が、繰返し単位(1)、繰返し単位(2)又は繰返し単位(3)の合計量に対して0モル%以上35モル%以下であり、
繰返し単位(3)の含有割合が、繰返し単位(1)、繰返し単位(2)又は繰返し単位(3)の合計量に対して0モル%以上35モル%以下であることが好ましい。
【0021】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基およびn-デシル基が挙げられ、その炭素数は、1~10が好ましい。前記アリール基の例としては、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、1-ナフチル基および2-ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、6~20が好ましい。前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar1、Ar2またはAr3で表される前記基毎に、それぞれ独立に、2個以下が好ましく、1個以下がより好ましい。
【0022】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n-ブチリデン基および2-エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は1~10が好ましい。
【0023】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。好ましい繰返し単位(1)としては、Ar1がp-フェニレン基であるもの(p-ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、およびAr1が2,6-ナフチレン基であるもの(6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が挙げられる。
なお、本明細書において「由来」とは、原料モノマーが重合するために、重合に寄与する官能基の化学構造が変化し、その他の構造変化を生じないことを意味する。
【0024】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。好ましい繰返し単位(2)としては、Ar2がp-フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Ar2がm-フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Ar2が2,6-ナフチレン基であるもの(2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、およびAr2がジフェニルエーテル-4,4’-ジイル基であるもの(ジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が挙げられる。
【0025】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミンまたは芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。好ましい繰返し単位(3)としては、Ar3がp-フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p-アミノフェノールまたはp-フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、およびAr3が4,4’-ビフェニリレン基であるもの(4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニルまたは4,4’-ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が挙げられる。
【0026】
繰返し単位(1)の含有割合は、全繰返し単位の合計量(液晶ポリマーを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、30モル%以上100モル%以下が好ましく、30モル%以上80モル%以下がより好ましく、40モル%以上70モル%以下がさらに好ましく、45モル%以上65モル%以下とりわけ好ましい。
【0027】
繰返し単位(2)の含有割合は、全繰返し単位の合計量に対して、0モル%以上35モル%以下が好ましく、10モル%以上35モル%以下がより好ましく、15モル%以上30モル%以下がさらに好ましく、17.5モル%以上27.5モル%以下がとりわけ好ましい。
【0028】
繰返し単位(3)の含有割合は、全繰返し単位の合計量に対して、0モル%以上35モル%以下が好ましく、10モル%以上35モル%以下がより好ましく、15モル%以上30モル%以下がさらに好ましく、17.5モル%以上27.5モル%以下がとりわけ好ましい。
【0029】
液晶ポリエステルの繰返し単位(1)の含有割合、液晶ポリエステルの繰返し単位(2)の含有割合および液晶ポリエステルの繰返し単位(3)の含有割合の和は、100モル%を超えない。
【0030】
繰返し単位(1)の含有割合が多いほど、溶融流動性や耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、成形に必要な温度が高くなり易い。
【0031】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、0.9/1~1/0.9が好ましく、0.95/1~1/0.95がより好ましく、0.98/1~1/0.98がさらに好ましい。
【0032】
尚、本実施形態で用いられる液晶ポリマーは、繰返し単位(1)~(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。また、液晶ポリマーは、繰返し単位(1)~(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有割合は、全繰返し単位の合計量に対して0モル%以上10モル%以下が好ましく、0モル%以上5モル%以下がより好ましい。
【0033】
本実施形態で用いられる液晶ポリマーは、繰返し単位(3)として、XおよびYがそれぞれ酸素原子であるものを有することが好ましい。すなわち、所定の芳香族ジオールに由来する繰返し単位を有することが、溶融粘度が低くなり易いので、好ましく、繰返し単位(3)として、XおよびYがそれぞれ酸素原子であるもののみを有することが、より好ましい。
【0034】
本実施形態で用いられる液晶ポリマーは、それを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(以下、「プレポリマー」ということがある。)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリマーを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモンなどの金属化合物や、4-(ジメチルアミノ)ピリジン、1-メチルイミダゾールなどの含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0035】
本実施形態で用いられる液晶ポリマーの流動開始温度は、280℃以上が好ましく、280℃以上400℃以下がより好ましく、280℃以上380℃以下がさらに好ましい。
本実施形態で用いられる液晶ポリマーの流動開始温度が高いほど、液晶ポリマー樹脂組成物から得られる成形体の耐熱性並びに強度及び剛性が向上する傾向がある。一方で、液晶ポリマーの流動開始温度が400℃を超えると、液晶ポリマーの溶融温度や溶融粘度が高くなる傾向がある。そのため、液晶ポリマーの成形に必要な温度が高くなる傾向がある。
【0036】
本明細書において、液晶ポリマーの流動開始温度は、フロー温度または流動温度とも呼ばれ、液晶ポリマーの分子量の目安となる温度である(小出直之編、「液晶ポリマー-合成・成形・応用-」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。流動開始温度は、毛細管レオメーターを用いて、液晶ポリマーを9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下4℃/分の速度で昇温しながら溶融させ、内径1mmおよび長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度である。
【0037】
前記液晶ポリマー樹脂組成物において、前記成分(A)の含有割合は、前記液晶ポリマー樹脂組成物100質量%に対して60~80質量%であることが好ましく、61~79質量%であることがより好ましく、62~78質量%であることがさらに好ましく、65~77質量%であることがとりわけ好ましい。
【0038】
(B’)重量平均繊維長が150μm未満である炭素繊維
本実施形態において、液晶ポリマー樹脂組成物は、成分(B’)「重量平均繊維長が150μm未満である炭素繊維」を含み、前記成分(B’)の含有割合が、成分(A)100質量部に対して10~30質量部である。
【0039】
液晶ポリマー樹脂組成物中の炭素繊維として、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系(石炭ピッチ系、石油ピッチ系)、セルロース系、リグニン系などの各種炭素繊維を使用することができる。これらの中でも、PAN系炭素繊維及びピッチ系炭素繊維からなる群より選ばれる少なくとも一種の炭素繊維が特に好ましい。
【0040】
液晶ポリマー樹脂組成物中の炭素繊維の重量平均繊維長は150μm未満のものであれば特に制限がない。
【0041】
液晶ポリマー樹脂組成物中の炭素繊維の重量平均繊維長は、次の手順で求めることができる。初めに、液晶ポリマー樹脂組成物を空気雰囲気下において加熱して樹脂を除去し、炭素繊維を含む灰化残渣を得る。灰化残渣を界面活性剤入りの水溶液に分散させ、純水で希釈して、希釈試料液を得る。粒子形状画像解析装置を用い、得られた希釈試料液をフローセルに通過させて、液中を移動する炭素繊維を1個ずつ撮像する。得られた画像を二値化処理し、処理後の画像における30000本の炭素繊維の外接矩形長径を測定し、下記式(5)により、液晶ポリマー樹脂組成物中の炭素繊維の重量平均繊維長を求める。
Lw=Σ Li2 / Σ Li ・・・(5)
Lw:重量平均繊維長
Li:i番目の炭素繊維の外接矩形長径
【0042】
液晶ポリマー樹脂組成物中の炭素繊維の重量平均繊維長は150μm未満であり、前記成分(B’)の含有割合が、成分(A)100質量部に対して10~30質量部である。これにより、液晶ポリマー樹脂組成物を成形してなる成形体の優れたテープ剥離性を保ちつつ、液晶ポリマー樹脂組成物を成形してなる成形体の表面抵抗値を1.0×105~1.0×1011Ωの適度な静電気拡散領域の値に制御し易くする。優れたテープ剥離性を保ちつつ、液晶ポリマー樹脂組成物を成形してなる成形体の表面抵抗値を1.0×105Ω以上の適度な値に制御し易くできることから、液晶ポリマー樹脂組成物中の炭素繊維の重量平均繊維長は、146μm以下が好ましく、142μm以下がより好ましく、138μm以下がさらに好ましい。優れたテープ剥離性を保ちつつ、液晶ポリマー樹脂組成物を成形してなる成形体の表面抵抗値を1.0×1011Ω以下の適度な値に制御し易くできることから、液晶ポリマー樹脂組成物中の炭素繊維の重量平均繊維長は、60μm以上が好ましく、70μm以上がより好ましく、80μm以上がさらに好ましい。
【0043】
液晶ポリマー樹脂組成物中の炭素繊維の重量平均繊維長は60μm以上146μm未満が好ましく、70μm以上142μm以下がより好ましく、80μm以上138μm以下でさらに好ましく、90μm以上135μm以下が特に好ましい。
【0044】
液晶ポリマー樹脂組成物中の炭素繊維の平均径は、好ましくは3~15μmである。
炭素繊維の平均径が3μm未満であると、補強材としての効果が小さくなる傾向がある。また、炭素繊維の平均径が15μmを超えると、成形性が低下し、成形体の表面の外観が悪化する傾向がある。
【0045】
本実施形態の液晶ポリマー樹脂組成物において、前記成分(B’)の含有割合は、前記成分(A)100質量部に対して10~30質量部であり、11~29質量部が好ましく、12~28質量部がより好ましく、22~27.5質量部がさらに好ましい。
【0046】
(C)体積抵抗率が102~1010Ω・cmである炭素前駆体
本実施形態の液晶ポリマー樹脂組成物は、成分(C)「体積抵抗率が102~1010Ω・cmである炭素前駆体」を含み、前記成分(C)の含有割合が、前記成分(A)100質量部に対して5~35質量部である。
【0047】
体積抵抗率が102~1010Ω・cmである炭素前駆体は、例えば、特開2002-121402号公報(特許文献1)に記載の方法により、有機物質を不活性雰囲気中400℃~900℃の温度で焼成することにより得ることができる。炭素前駆体は、例えば、(i)石油タール、石油ピッチ、石炭タール、石炭ピッチなどのピッチやタールを加熱して、芳香族化と重縮合を行い、必要に応じて、酸素雰囲気中において酸化・不融化し、さらに、不活性雰囲気において加熱・焼成する方法、(ii)ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニルなどの熱可塑性樹脂を酸素雰囲気中において不融化し、さらに、不活性雰囲気中で加熱・焼成する方法、(iii)フェノール樹脂、フラン樹脂などの熱硬化性樹脂を加熱硬化後、不活性雰囲気中で加熱・焼成する方法などにより製造することができる。
【0048】
炭素前駆体は、これらの処理によって、炭素の含有割合が97質量%以下の完全には炭素化していない物質である。炭素前駆体の炭素の含有割合は80~97質量%が好ましく、85~97質量%の範囲内がより好ましい。これにより、完全には炭化していない状態の体積抵抗率が102~1010Ω・cmの炭素前駆体を得ることができる。炭素前駆体の体積抵抗率は、103~109Ω・cmが好ましく、104~108Ω・cmがより好ましい。
【0049】
炭素前駆体の体積抵抗率は、次の様に測定することができる。
炭素前駆体を、加圧成形して、板状の成形体を得る。この板状の成形体を、窒素気流中の580℃で1時間熱処理して測定試料とする。JIS K 7194に準拠して、この測定試料の体積抵抗率を測定する。
【0050】
液晶ポリマー樹脂組成物中の炭素前駆体の体積抵抗率が102~1010Ω・cmであり、前記成分(C)の含有割合が、前記成分(A)100質量部に対して5~35質量部であることで、液晶ポリマー樹脂組成物を成形してなる成形体の優れたテープ剥離性を保ちつつ、表面抵抗値を1.0×105~1.0×1011Ωの適度な値に制御し易くする。
【0051】
液晶ポリマー樹脂組成物を成形してなる成形体の表面抵抗値は、例えば、米国、PROSTAT社製の抵抗測定システムを用いて測定することができる。
【0052】
本実施形態の液晶ポリマー樹脂組成物において、炭素前駆体は、通常、粒子または繊維の形状で使用される。炭素前駆体粒子の平均粒径は、1mm以下であることが好ましい。炭素前駆体粒子の平均粒径が大き過ぎると、液晶ポリマー樹脂組成物を成形した場合に、良好な外観の成形物を得ることが難しくなる。炭素前駆体粒子の平均粒径は、通常0.1μm~1mm、好ましくは1~800μm、より好ましくは5~500μmである。多くの場合、5~50μm程度の平均粒子径の炭素前駆体粒子を使用することにより、良好な結果を得ることができる。
【0053】
本実施形態の液晶ポリマー樹脂組成物において、前記成分(C)の含有割合は、前記成分(A)100質量部に対して5~35質量部であり、5~32質量部が好ましく、6~32質量部がより好ましく、6.5~14質量部がさらに好ましく、6.5~11質量部がとりわけ好ましい。
【0054】
本実施形態の液晶ポリマー樹脂組成物において、前記成分(B’)及び前記成分(C)の合計の含有割合は、前記成分(A)100質量部に対して25~60質量部であり、28~58質量部が好ましく、28~50質量部がさらに好ましく、28~40がより好ましい。
【0055】
本実施形態の液晶ポリマー樹脂組成物は、液晶ポリマー樹脂組成物中の炭素繊維の重量平均繊維長が150μm未満であり、液晶ポリマー樹脂組成物中の炭素前駆体の体積抵抗率が102~1010Ω・cmであり、前記成分(B’)の含有割合が、成分(A)100質量部に対して10~30質量部であり、前記成分(C)の含有割合が、前記成分(A)100質量部に対して5~35質量部であり、前記成分(B’)及び前記成分(C)の合計の含有割合が、前記成分(A)100質量部に対して25~60質量部であるので、適度な静電気拡散領域の表面抵抗値を示し、かつ、優れたテープ剥離性を有する成形体を成形することができる。
【0056】
(その他成分)
本実施形態の液晶ポリマー樹脂組成物は、必要に応じて、前記成分(A)、前記成分(B’)、及び前記成分(C)の他の、(D)導電性カーボンブラック、熱可塑性樹脂、充填材、添加剤等の成分を1種以上含んでもよい。
【0057】
・(D)導電性カーボンブラック
本実施形態の液晶ポリマー樹脂組成物は、(D)導電性カーボンブラックを含有していてもよい。
ここで用いる導電性カーボンブラックは、どのような製法により得られたものでもよいが、その具体例としては、チャネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラックなどが挙げられる。またその平均粒子径は、液晶ポリマー樹脂組成物中における分散性の観点からすると、30μm以下であることが好ましい。
【0058】
前記成分(D)の含有割合は、前記成分(A)100質量部に対して0~20質量部であることが好ましく、0.5~18質量部であることがより好ましく、1~15質量部であることがさらに好ましい。
【0059】
前記成分(B’)、前記成分(C)及び前記成分(D)の合計の含有割合は、前記成分(A)100質量部に対して25~60質量部であることが好ましく、28~60質量部であることがより好ましく、30~50質量部であることがさらに好ましい。
【0060】
本実施形態の液晶ポリマー樹脂組成物は、液晶ポリマー樹脂組成物中の炭素繊維の重量平均繊維長が150μm未満であり、液晶ポリマー樹脂組成物中の炭素前駆体の体積抵抗率が102~1010Ω・cmであり、前記成分(B’)の含有割合が、成分(A)100質量部に対して10~30質量部であり、前記成分(C)の含有割合が、前記成分(A)100質量部に対して5~35質量部であり、前記成分(B’)及び前記成分(C)の合計の含有割合が、前記成分(A)100質量部に対して25~60質量部であり、前記成分(B’)、前記成分(C)及び前記成分(D)の合計の含有割合が、前記成分(A)100質量部に対して25~60質量部であることで、適度な静電気拡散領域の表面抵抗値を示し、かつ、より優れたテープ剥離性を有する成形体を成形することができる。
【0061】
・熱可塑性樹脂
前記液晶ポリマー樹脂組成物に含まれる液晶ポリマー以外の熱可塑性樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリアミド、液晶ポリエステル以外のポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド等の液晶ポリマー以外の熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0062】
液晶ポリマー以外の熱可塑性樹脂の含有割合は、前記成分(A)100質量部に対して0~20質量部であってもよく、0~10質量部であってもよく、0~5質量部であってもよく、0質量部であってもよい。
【0063】
・充填材
充填材としては、板状充填材、球状充填材その他の粒状充填材を含んでもよい。また、充填材は、無機充填材であってもよいし、有機充填材であってもよい。
【0064】
板状無機充填材の例としては、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、硫酸バリウム、炭酸カルシウムが挙げられる。マイカは、白雲母であってもよいし、金雲母であってもよいし、フッ素金雲母であってもよいし、四ケイ素雲母であってもよい。
【0065】
粒状無機充填材の例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、窒化ホウ素、炭化ケイ素、炭酸カルシウムが挙げられる。
【0066】
・添加剤
添加剤の例としては、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤、難燃剤、着色剤が挙げられる。
【0067】
本実施形態の液晶ポリマー樹脂組成物は、以下の側面を有する。
【0068】
「1」以下の成分(A)、成分(B’)、及び、成分(C)を含む液晶ポリマー樹脂組成物であって、
(A)液晶ポリマー
(B’)重量平均繊維長が150μm未満である炭素繊維
(C)体積抵抗率が102~1010Ω・cmである炭素前駆体
前記成分(B’)の含有割合が、前記成分(A)100質量部に対して10~30質量部であり、前記成分(C)の含有割合が、前記成分(A)100質量部に対して5~35質量部であり、前記成分(B’)及び前記成分(C)の合計の含有割合が、前記成分(A)100質量部に対して25~60質量部である液晶ポリマー樹脂組成物。
【0069】
「2」前記成分(B’)の含有割合が、前記成分(A)100質量部に対して、好ましくは11~29質量部であり、より好ましくは12~28質量部であり、さらに好ましくは22~27質量部である、「1」に記載の液晶ポリマー樹脂組成物。
【0070】
「3」前記成分(C)の含有割合が、前記成分(A)100質量部に対して、好ましくは5~32質量部であり、より好ましくは6~32質量部であり、さらに好ましくは6.5~14質量部であり、とりわけ好ましくは6.5~11質量部である、「1」又は「2」に記載の液晶ポリマー樹脂組成物。
【0071】
「4」前記成分(B’)及び前記成分(C)の合計の含有割合が、前記成分(A)100質量部に対して、好ましくは26~60質量部であり、さらに好ましくは28~50質量部であり、より好ましくは28~36である、「1」~「3」のいずれかに記載の液晶ポリマー樹脂組成物。
【0072】
「5」さらに、成分(D)導電性カーボンブラックを含み、
前記成分(B’)、前記成分(C)及び前記成分(D)の合計の含有割合が、前記成分(A)100質量部に対して25~60質量部であり、好ましくは25~60質量部であり、より好ましくは28~60質量部であり、さらに好ましくは30~50質量部である、「1」~「4」のいずれかに記載の液晶ポリマー樹脂組成物。
【0073】
「6」前記成分(D)の含有割合が、前記成分(A)100質量部に対して0~20質量部であり、好ましくは0.5~18質量部であり、より好ましくは1~16質量部である、「5」に記載の液晶ポリマー樹脂組成物。
【0074】
本実施形態の液晶ポリマー樹脂組成物は、例えば、成分(A)、成分(B’)、及び、成分(C)と、必要に応じてその他成分とを混合することで、製造することができる。また、本実施形態の液晶ポリマー樹脂組成物は、次に示すとおり、溶融混練することで、製造することができる。
【0075】
<液晶ポリマー樹脂組成物の製造方法>
本実施形態の液晶ポリマー樹脂組成物の製造方法は、以下の成分(A)、成分(B)、及び、成分(C)を溶融混練する液晶ポリマー樹脂組成物の製造方法であって、
(A)液晶ポリマー
(B)重量平均繊維長が3000μm未満である炭素繊維
(C)体積抵抗率が102~1010Ω・cmである炭素前駆体
前記成分(B)の配合割合が、前記成分(A)100質量部に対して10~30質量部であり、前記成分(C)の配合割合が、前記成分(A)100質量部に対して5~35質量部であり、前記成分(B)及び前記成分(C)の合計の配合割合が、前記成分(A)100質量部に対して25~60質量部である。
【0076】
本実施形態の液晶ポリマー樹脂組成物の製造方法では、更に、前記成分(D)導電性カーボンブラックを配合することができ、必要に応じて前述のその他成分を配合することができる。
【0077】
本実施形態の液晶ポリマー樹脂組成物の製造方法において、各成分の配合割合は、得られる液晶ポリマー樹脂組成物の前述の各成分の含有割合と同じである。
【0078】
すなわち、本実施形態の液晶ポリマー樹脂組成物の製造方法において、前記成分(B)の配合割合が、前記成分(A)100質量部に対して10~30質量部であり、前記成分(C)の配合割合が、前記成分(A)100質量部に対して5~35質量部であり、前記成分(B)及び前記成分(C)の合計の配合割合が、前記成分(A)100質量部に対して25~60質量部であることにより、得られる液晶ポリマー樹脂組成物から、適度な静電気拡散領域の表面抵抗値を示し、かつ、優れたテープ剥離性を有する成形体を成形することができる。
【0079】
本実施形態の液晶ポリマー樹脂組成物の製造方法において、前記成分(B)の配合割合が、前記成分(A)100質量部に対して10~30質量部であり、前記成分(C)の配合割合が、前記成分(A)100質量部に対して5~35質量部であり、前記成分(B)及び前記成分(C)の合計の配合割合が、前記成分(A)100質量部に対して25~60質量部であり、前記成分(B)、前記成分(C)及び前記成分(D)の合計の配合割合が、前記成分(A)100質量部に対して25~60質量部であることで、適度な静電気拡散領域の表面抵抗値を示し、かつ、より優れたテープ剥離性を有する成形体を成形することができる。
【0080】
例えば、前記成分(A)、成分(B)、及び、成分(C)と、必要に応じてその他成分とを混合し、二軸押出機で脱気しながら溶融混練し、得られる混合物を、円形ノズル(吐出口)を経由してストランド状に吐出させ、次いで、ストランドカッターにてペレタイズして、ペレット形状の液晶ポリマー樹脂組成物とすることができる。
【0081】
ペレット形状の液晶ポリマー樹脂組成物中の液晶ポリマーの組成及び特性は、原料の液晶ポリマーの組成及び特性から変化しないと理解することができる。
ペレット形状の液晶ポリマー樹脂組成物中の炭素前駆体の体積抵抗率も、原料の炭素前駆体の体積抵抗率から変化しないと理解することができる。
ペレット形状の液晶ポリマー樹脂組成物中の炭素繊維の重量平均繊維長は、ペレット形状の液晶ポリマー樹脂組成物の製造条件により異なるが、成分(B)の原料の炭素繊維の重量平均繊維長から、およそ0%~95%短くなる傾向がある。
【0082】
液晶ポリマー樹脂組成物中の炭素繊維の重量平均繊維長を、好適に調整できることから、成分(B)の炭素繊維の重量平均繊維長は、3000μm未満であり、1000μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。成分(B)の炭素繊維の重量平均繊維長は、60μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、140μm以上がさらに好ましい。成分(B)の炭素繊維の重量平均繊維長は、60μm以上3000μm未満が好ましく、100μm以上1000μm以下がより好ましく、140μm以上200μm以下がさらに好ましい。
【0083】
成分(B)の炭素繊維の重量平均繊維長は、次の手順で求めることができる。成分(B)の炭素繊維を界面活性剤入りの水溶液に分散させ、純水で希釈して、希釈試料液を得る。粒子形状画像解析装置を用い、得られた希釈試料液をフローセルに通過させて、液中を移動する炭素繊維を1個ずつ撮像する。得られた画像を二値化処理し、処理後の画像における30000本の炭素繊維の外接矩形長径を測定し、下記式(5)により、成分(B)の炭素繊維の重量平均繊維長を求める。
Lw=Σ Li2 / Σ Li ・・・(5)
Lw:重量平均繊維長
Li:i番目の炭素繊維の外接矩形長径
【0084】
ただし、成分(B)の炭素繊維の重量平均繊維長が、1000μmを超える場合は、次の手順で求めることができる。成分(B)の炭素繊維を界面活性剤入りの水溶液に分散させ、試料液を得る。試料液の一部を取り出してマイクロスコープで観察し、500本を超える炭素繊維の長さを測ることで、前記式(5)により、成分(B)の炭素繊維の重量平均繊維長を求める。
【0085】
二軸押出機を用いてペレット形状の液晶ポリマー樹脂組成物を製造する際に、原料として同じ重量平均繊維長の炭素繊維を用いたときであっても、二軸押出機のスクリュー構成を変更することにより、ペレット形状の液晶ポリマー樹脂組成物中の炭素繊維の重量平均繊維長を制御することができる。二軸押出機のニーディングゾーン(混練り部)の長さが短いと、ペレット形状の液晶ポリマー樹脂組成物中の炭素繊維の重量平均繊維長は、長くなる傾向がある。ペレット形状の液晶ポリマー樹脂組成物中の炭素繊維の短い重量平均繊維長はニーディングゾーン(混練り部)の長さを長くすることで達成することができる。
【0086】
本実施形態の液晶ポリマー樹脂組成物の製造方法は、以下の側面を有する。
【0087】
「101」以下の成分(A)、成分(B)、及び、成分(C)を溶融混練する液晶ポリマー樹脂組成物の製造方法であって、
(A)液晶ポリマー
(B)重量平均繊維長が3000μm未満である炭素繊維
(C)体積抵抗率が102~1010Ω・cmである炭素前駆体
前記成分(B)の配合割合が、前記成分(A)100質量部に対して10~30質量部であり、前記成分(C)の配合割合が、前記成分(A)100質量部に対して5~35質量部であり、前記成分(B)及び前記成分(C)の合計の配合割合が、前記成分(A)100質量部に対して25~60質量部である液晶ポリマー樹脂組成物の製造方法。
【0088】
「102」前記成分(B)の配合割合が、前記成分(A)100質量部に対して、好ましくは11~29質量部であり、より好ましくは12~28質量部であり、さらに好ましくは22~27.5質量部である、「101」に記載の液晶ポリマー樹脂組成物の製造方法。
【0089】
「103」前記成分(C)の配合割合が、前記成分(A)100質量部に対して、好ましくは5~32質量部であり、より好ましくは6~32質量部であり、さらに好ましくは6.5~14質量部であり、とりわけ好ましくは6.5~11質量部である、「101」又は「102」に記載の液晶ポリマー樹脂組成物の製造方法。
【0090】
「104」前記成分(B)及び前記成分(C)の合計の配合割合が、前記成分(A)100質量部に対して、好ましくは28~60質量部であり、より好ましくは28~55質量部であり、さらに好ましくは28.5~50質量部である、「101」~「103」のいずれかに記載の液晶ポリマー樹脂組成物の製造方法。
【0091】
「105」さらに、成分(D)導電性カーボンブラックを含み、
前記成分(B)、前記成分(C)及び前記成分(D)の合計の配合割合が、前記成分(A)100質量部に対して25~60質量部であり、好ましくは25~60質量部であり、より好ましくは28~60質量部であり、さらに好ましくは30~50質量部である、「101」~「104」のいずれかに記載の液晶ポリマー樹脂組成物の製造方法。
【0092】
「106」前記成分(D)の配合割合が、前記成分(A)100質量部に対して0~20質量部であり、好ましくは0.5~18質量部であり、より好ましくは1~16質量部である、「105」に記載の液晶ポリマー樹脂組成物の製造方法。
【0093】
(成形体)
本実施形態の液晶ポリマー樹脂組成物から、公知の成形方法により、1.0×105~1.0×1011Ωの適度な静電気拡散領域の表面抵抗値を有する成形体を得ることができる。液晶ポリマー樹脂組成物から成形体を成形する方法としては、溶融成形法が好ましく、その例としては、射出成形法、Tダイ法やインフレーション法などの押出成形法、圧縮成形法、ブロー成形法、真空成形法およびプレス成形が挙げられる。中でも射出成形法が好ましい。
【0094】
例えば、液晶ポリマー樹脂組成物を成形材料とし、射出成形法により成形する場合、公知の射出成形機を用いて、液晶ポリマー樹脂組成物を溶融させ、溶融した液晶ポリマー樹脂組成物を、金型内に射出することにより成形する。
公知の射出成形機としては、例えば、日精樹脂工業社製の油圧式横型成形機UH1000、PS40E5ASE型などが挙げられる。
【0095】
射出成形機のシリンダー温度は、液晶ポリマーの種類に応じて適宜決定され、用いる液晶ポリマーの流動開始温度より10~80℃高い温度に設定することが好ましく、例えば320~400℃である。
【0096】
金型の温度は、液晶ポリマー樹脂組成物の冷却速度と生産性の点から、室温(例えば23℃)から180℃の範囲に設定することが好ましい。
【0097】
成形体の液晶ポリマー樹脂組成物中の液晶ポリマーの組成及び特性は、原料の液晶ポリマーの組成及び特性から変化しないと理解してよい。
成形体の液晶ポリマー樹脂組成物中の炭素前駆体の体積抵抗率も、原料の炭素前駆体の体積抵抗率から変化しないと理解してよい。
ペレット形状の液晶ポリマー樹脂組成物から射出成形により得られる成形体の液晶ポリマー樹脂組成物中の炭素繊維の重量平均繊維長は、ペレット形状の液晶ポリマー樹脂組成物中の炭素繊維の重量平均繊維長から変化しないと理解してよい。
【0098】
本実施形態の液晶ポリマー樹脂組成物を成形してなる成形体は、適度な静電気拡散領域の表面抵抗値を示し、かつ、優れたテープ剥離性を有するので、静電気の制御、帯電防止、電磁波シールド、塵埃吸着防止などが要求される広範な分野に好適に適用することができる。例えば、前記成形体は、半導体搬送用キャリアの用途に好適に適用可能である。
【0099】
<半導体搬送用キャリア>
本実施形態の半導体搬送用キャリアは、前記液晶ポリマー樹脂組成物からなる本体部を有する。
【0100】
前記液晶ポリマー樹脂組成物から得られる成形体は、1.0×105~1.0×1011Ωの適度な静電気拡散領域の表面抵抗値を示し、かつ、優れたテープ剥離性を有する成形体を成形することができるので、前記液晶ポリマー樹脂組成物は、半導体搬送用キャリアの用途に好適に適用可能である。
【0101】
半導体搬送用キャリアとしては、ウエハキャリア、ウエハカセット、ICチップトレー、ICチップキャリア、IC搬送チューブ、保存用トレー、搬送装置部品、MRヘッドキャリア、GMRヘッドキャリア、液晶パネルキャリアなどが挙げられる。
【0102】
図1は、本実施形態の半導体搬送用キャリアの一例を模式的に示す斜視図である。本実施形態の半導体搬送用キャリア1は、前記液晶ポリマー樹脂組成物からなる本体部11、及び、本体部11の外側の目視可能な位置にテープ貼着部12を有する。本体部11は、前記液晶ポリマー樹脂組成物を成形してなる。本体部11は、ウエハ、IC、MRヘッド、GMRヘッド、液晶パネルなどの半導体部品又は半導体製品を、搬送又は保管することができるようにできている。
【0103】
半導体搬送用キャリア1のテープ貼着部12は、1.0×105~1.0×1011Ωの適度な静電気拡散領域の表面抵抗値を示し、かつ、優れたテープ剥離性を有する。したがって、半導体搬送用キャリア1は、帯電防止性及び塵埃吸着防止性に優れるとともに、テープ貼着部12に表示用の強粘着の付箋テープを貼り、剥がして、繰返し使用することができる。
【0104】
半導体搬送用キャリア1のテープ貼着部12の表面抵抗値は、1.0×105~1.0×1011Ωであり、4×105~4×1010Ωが好ましく、1.0×106~1.0×1010Ωがより好ましい。
【実施例】
【0105】
以下、具体的な実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0106】
(A)液晶ポリマー
<液晶ポリマーの製造>
[製造例1:液晶ポリマー(L1)の製造]
撹拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p-ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、テレフタル酸299.0g(1.8モル)、イソフタル酸99.7g(0.6モル)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、1-メチルイミダゾール0.18gを加え、窒素ガス気流下で撹拌しながら、室温から150℃まで30分かけて昇温し、150℃で30分間還流させた。
次いで、1-メチルイミダゾール2.4gを加え、副生した酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から320℃まで2時間50分かけて昇温し、トルクの上昇が認められた時点で、反応器から内容物を取り出して、室温まで冷却し、固形物であるプレポリマーを得た。
次いで、粉砕機を用いてこのプレポリマーを粉砕し、得られた粉砕物を窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から295℃まで5時間かけて昇温し、295℃で3時間保持することにより、固相重合を行った。
得られた固相重合物を室温まで冷却して、粉末状の液晶ポリマー(L1)を得た。得られた液晶ポリマー(L1)の流動開始温度は327℃であった。
【0107】
(B)炭素繊維
下記市販品の炭素繊維フィラーを原料として用いた。
(B-1)米国、Zoltek社製、PANTEX35-MF150(重量平均繊維長:150μm、直径7μm)
(B-2)三菱ケミカル株式会社製、DIALEAD(登録商標)K233HE(重量平均繊維長:6.0mm、直径11μm)
【0108】
<原料の炭素繊維の重量平均繊維長の測定>
原料の炭素繊維フィラー((B-1)米国、Zoltek社製、PANTEX35-MF150)0.3gを50mLの純水に投入し、分散性を良くするために界面活性剤(0.5体積%のmicro-90(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製)水溶液)を加え、混合液を得た。得られた混合液を5分間超音波分散させて、炭素繊維を溶液中に均一に分散させた試料液を得た。次に、得られた試料液を5mL採取し、サンプルカップに入れ、純水にて5倍に希釈し、希釈試料液を得た。粒子形状画像解析装置(株式会社セイシン企業製の「PITA3」)を用い、得られた希釈試料液をフローセルに通過させて、液中を移動する炭素繊維を1個ずつ撮像した。なお、この測定方法においては、測定開始時点から積算した全炭素繊維の個数が30000本に達した時点を測定終了時点とした。得られた画像を二値化処理し、処理後の画像における炭素繊維の外接矩形長径を測定し、下記式(5)により、原料の炭素繊維の重量平均繊維長を求めた。その結果、原料の炭素繊維の重量平均繊維長は、(B-1)150μmであった。
Lw=Σ Li2 / Σ Li ・・・(5)
Lw:重量平均繊維長
Li:i番目の炭素繊維の外接矩形長径
測定本数:30000本
【0109】
(B-2)三菱ケミカル株式会社製、DIALEAD(登録商標)K233HE)0.3gを50mLの純水に投入し、分散性を良くするために界面活性剤(0.5体積%のmicro-90(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製)水溶液)を加え、混合液を得た。得られた混合液を5分間超音波分散させて、炭素繊維を溶液中に均一に分散させた試料液を得た。その後、試料液の一部を取り出してマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、VH-Z25)を使用し倍率10~20倍で繊維を撮影した。撮影した画像を画像処理ソフト(三谷商事株式会社製、WinROOF2018)を用いて以下の様に繊維長を測る。
【0110】
(繊維長の測り方)
(a) 撮影された画像に対して、モノクロ画素化処理を行う。
(b) 撮影した炭素繊維のみに色がつくように二値化処理を実施する。
(c) 画像処理ソフトの針状分離機能を用いて繊維長測定を行う。
(d) (c)で二値化できなかった繊維や湾曲した繊維の繊維長を多点間計測により測定し、画像の淵に接している繊維は測定しないこととする。
ただし、n>500、繊維の測定本数nが500を超えない場合、マイクロスコープ画像を追加撮影し、nが500を超えるまで測る。
得られた測定結果を用いて下記式(5)により、原料の炭素繊維の重量平均繊維長を求めた。その結果、原料の炭素繊維の重量平均繊維長は、(B-2)6.0mmであった。
Lw=Σ Li2 / Σ Li ・・・(5)
Lw:重量平均繊維長
Li:i番目の炭素繊維の外接矩形長径
【0111】
(C)体積抵抗率が102~1010Ω・cmである炭素前駆体
株式会社クレハトレーディングから購入した、クレファイン(登録商標)KH-CP、(体積抵抗率:3×107Ω・cm、平均粒径22μm)を原料として用いた。
【0112】
<炭素前駆体の体積抵抗率の測定>
炭素前駆体(クレファイン(登録商標)KH-CP)15gを断面積80cm2の円筒金型に充填し、圧力200MPaで成形して、円板状の成形体を得た。この円板状の成形体を、窒素気流中の580℃で1時間熱処理して測定試料を得た。JIS K 7194に準拠して、この測定試料の体積抵抗率を測定した。その結果、体積抵抗率は3×107Ω・cmであった。
【0113】
(D)導電性カーボンブラック
ケッチェンブラック(登録商標)EC-300J(ライオン株式会社製)一次粒径39.5nm
【0114】
<液晶ポリマー樹脂組成物の製造方法>
ペレット形状の液晶ポリマー樹脂組成物を製造するにあたっては、上流部に主原料フィーダーと、下流部にサイドフィーダーを有する二軸押出機(池貝鉄工株式会社製、「PCM30-HS」)を用いた。
【0115】
(実施例1)
表1に示す配合比に従い、二軸押出機の主原料フィーダーから前記液晶ポリマー(L1)及び前記炭素前駆体(クレファイン(登録商標)KH-CP)を供給し、サイドフィーダーから前記炭素繊維フィラー((B-1)PANTEX35-MF150)を供給した。各原料を、シリンダー温度:340℃、スクリュー回転数150rpmにて溶融混練し、押出量を300kg/hで直径3mmの円形ノズル(吐出口)を経由して、ストランド状の液晶ポリマー樹脂組成物を吐出させた。
その後、冷却し、ペレタイズして、円柱形状(長さ3mm、すなわち、ペレット形状)の、実施例1の液晶ポリマー樹脂組成物を作製した。
【0116】
(実施例2~5、10、比較例1~3、6、8)
同様にして、表1に示す配合比に従い、実施例2~5、10、比較例1~3、6、8の、ペレット形状の液晶ポリマー樹脂組成物を作製した。
【0117】
(実施例6)
表1に示す配合比に従い、主原料フィーダーから上記の(A)液晶ポリマー及び(C)体積抵抗率が102~1010Ω・cmである炭素前駆体及び(D)導電性カーボンブラック(導電性CB)、サイドフィーダーから(B)炭素繊維の、各原料を供給した。各原料を、シリンダー温度:340℃、スクリュー回転数150rpmにて溶融混練し、押出量を300kg/hで直径3mmの円形ノズル(吐出口)を経由して、ストランド状の液晶ポリマー樹脂組成物を吐出させた。
その後、冷却し、ペレタイズして、円柱形状(長さ3mm、すなわち、ペレット形状)の、実施例1の液晶ポリマー樹脂組成物を作製した。
【0118】
(実施例7~9、比較例4~5、7、9)
同様にして、表1に示す配合比に従い、実施例7~9、比較例4~5、7、9の、ペレット形状の液晶ポリマー樹脂組成物を作製した。
【0119】
(比較例10)
実施例1の炭素繊維フィラーを(B-2)三菱ケミカル株式会社製、DIALEAD(登録商標)K233HE)に変更したことの他は、実施例1と同様にして、表1に示す配合比に従い、比較例10の、ペレット形状の液晶ポリマー樹脂組成物を作製した。
【0120】
<樹脂組成物中の炭素繊維の重量平均繊維長の測定>
実施例及び比較例のペレット形状の液晶ポリマー樹脂組成物のうち、それぞれ、5gをマッフル炉(ヤマト科学株式会社製、「FP410」)にて空気雰囲気下において600℃で4時間加熱して樹脂を除去し、炭素繊維を含む灰化残渣を得た。灰化残渣0.3gを50mLの純水に投入し、分散性を良くするために界面活性剤(0.5体積%のmicro-90(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製)水溶液)を加え、混合液を得た。得られた混合液を5分間超音波分散させて、灰化残渣に含まれる炭素繊維を溶液中に均一に分散させた試料液を得た。次に、得られた試料液を5mL採取し、サンプルカップに入れ、純水にて5倍に希釈し、希釈試料液を得た。粒子形状画像解析装置(株式会社セイシン企業製の「PITA3」)を用い、得られた希釈試料液をフローセルに通過させて、液中を移動する炭素繊維を1個ずつ撮像した。なお、外接矩形長径30μm未満のものは炭素前駆体又は導電性カーボンブラックの灰化残渣であったので、この測定方法においては、外接矩形長径30μm未満を画像取り込み時に除外する様に設定し、測定開始時点から積算した全炭素繊維の個数が30000本に達した時点を測定終了時点とした。得られた画像を二値化処理し、処理後の画像における炭素繊維の外接矩形長径を測定し、下記式(5)により、ペレット形状の液晶ポリマー樹脂組成物中の炭素繊維の重量平均繊維長を求めた。結果を表1に示した。
Lw=Σ Li2 / Σ Li ・・・(5)
Lw:重量平均繊維長
Li:i番目の炭素繊維の外接矩形長径
測定本数:30000本
【0121】
<射出成形試験片の作製>
実施例1~10、比較例1~10のペレット形状の液晶ポリマー樹脂組成物を、シリンダー温度340℃の射出成型機UH1000(日精樹脂工業)に投入し、金型温度120℃の金型内へ、射出速度20mm/s、スクリュー回転数100rpm、保圧50MPa、背圧3MPaにて射出することにより、64mm×64mm×3mmtの射出成形試験片(表面粗さRa=3μm)を作製した。
【0122】
<射出成形試験片の表面抵抗値の測定>
米国、PROSTAT社製の抵抗測定システム(PRS-801)及びセンサー電極(PRF-912)を用いて、実施例1~10及び比較例1~10の樹脂組成物からなる64mm×64mm×3mmtの射出成形試験片のそれぞれの表面抵抗値を測定した。結果を表1に示した。
【0123】
<テープ剥離性試験>
実施例1の樹脂組成物からなる64mm×64mm×3mmtの射出成形試験片に、幅25mmの電気メッキテープ(3M社製、470 Electroplating Tape S10258)を、試験片の成形方向(MD)に、JIS Z0237に準じて質量2.0kgの圧着ローラを用いて貼り付け、24時間放置した後に剥がして、射出成形試験片の表面の液晶ポリマーのスキン層の剥離の有無を観察した。同じ箇所に、試験片の成形方向(MD)に、前記電気メッキテープを同様に張り付け、24時間放置した後に剥がして、射出成形試験片の表面の液晶ポリマーのスキン層の剥離の有無を観察することを4回、合計5回繰返した。
同じ射出成形試験片の同じ箇所に、試験片のMDと垂直方向(TD)に、前記電気メッキテープを同様に張り付け、24時間放置した後に剥がして、射出成形試験片の表面の液晶ポリマーのスキン層の剥離の有無を観察することを5回繰返した。
10回の剥離試験について、次のテープ剥離性判断基準にて、評価した。
テープ剥離性判断基準
E(Excellent):スキン層の剥離無しがN=10中、9枚以上10枚以下の場合
G(Good):スキン層の剥離無しがN=10中、5枚以上9枚以下の場合
F(Failure):スキン層の剥離無しがN=10中、5枚未満の場合
【0124】
実施例2~10及び比較例1~10の樹脂組成物からなる64mm×64mm×3mmtの射出成形試験片についても、同様に評価をした。結果を表1に示した。
【0125】
【0126】
表1の結果から理解される様に、前記成分(B’)の含有割合が、成分(A)100質量部に対して10~30質量部であり、前記成分(C)の含有割合が、前記成分(A)100質量部に対して5~35質量部であり、前記成分(B’)及び前記成分(C)の合計の含有割合が、前記成分(A)100質量部に対して25~60質量部である、本発明を適用した実施例1~10の液晶ポリマー樹脂組成物からは、1.0×105~1.0×1011Ωの適度な静電気拡散領域の表面抵抗値を示し、かつ、優れたテープ剥離性を有する成形体を成形することができることが示された。
【0127】
これに対して、表1に示される様に、比較例1、5、7~8、10の液晶ポリマー樹脂組成物からなる成形体は、優れたテープ剥離性を有するけれども、1.0×105~1.0×1011Ωの適度な静電気拡散領域の表面抵抗値を示さなかった。比較例2~4、6、9の液晶ポリマー樹脂組成物からなる成形体は、1.0×105~1.0×1011Ωの適度な静電気拡散領域の表面抵抗値を示すけれども、テープ剥離性に難があった。
【0128】
したがって、本発明の液晶ポリマー樹脂組成物は、半導体搬送用キャリアの用途に好適に適用可能である。
【符号の説明】
【0129】
1・・・半導体搬送用キャリア、11・・・本体部、12・・・テープ貼着部