(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】フィルム、フィルムの製造方法、および、撥水性フィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20241002BHJP
B29C 59/02 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
B29C59/02 Z
(21)【出願番号】P 2021021727
(22)【出願日】2021-02-15
【審査請求日】2023-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 瑛子
【審査官】大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-028275(JP,A)
【文献】特開2002-192600(JP,A)
【文献】特開2002-042387(JP,A)
【文献】特開2016-088947(JP,A)
【文献】特開2015-025053(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
B29C 59/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含むフィルムであって、
少なくとも一方のフィルム表面に凹凸構造を有しており、
該凹凸構造を有する一方のフィルム表面は、算術平均高さSaの変動係数が0.25以下であり、かつ、要素の平均長さZSmの変動係数が0.082以下であ
り、
前記要素の平均長さZSmが1μm~20μmであり、
前記樹脂がポリオレフィン系樹脂である、
フィルム。
【請求項2】
前記算術平均高さSaの変動係数が0.20以下である、
請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記算術平均高さSaの変動係数が0.15以下である、
請求項2に記載のフィルム。
【請求項4】
前記要素の平均長さZSmの変動係数が0.080以下である、
請求項1~3のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項5】
前記算術平均高さSaが0.002μm~2.5μmである、
請求項1~
4のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項6】
前記凹凸構造は、複数の円錐台状構造または複数の半球状構造が集合して形成される、
請求項1~
5のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項7】
前記ポリオレフィン系樹脂がポリエチレン系樹脂である、
請求項
1~6のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項8】
厚さが10μm以上250μm未満である、
請求項1~
7のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか一項に記載のフィルムからなる、撥水性フィルム。
【請求項10】
表面に凹凸構造を有する金型を用いて、
ポリオレフィン系樹脂を含む原反フィルムの少なくとも一方の表面に凹凸構造を転写する転写工程を含む、フィルムの製造方法であって、
前記転写工程は、温度100℃以上、真空度がゲージ圧で-0.07MPa以下の条件で行う、フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂を含むフィルム、該フィルムの製造方法、および、該フィルムからなる撥水性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品や薬品等の包装材料や工業製品等を構成する部材として、種々のフィルムが使用されている。斯かるフィルムに要求される表面性状としては、撥水性、撥油性、低反射性等が挙げられる。これらの表面性状を有するフィルムとしては、少なくとも一方の表面に微細な凹凸構造を有するものが知られている。このような凹凸構造を有するフィルムの製造方法としては、表面に微細な凹凸を有する金型を用いて、原反フィルムの表面に微細な凹凸構造を転写する方法が挙げられる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のように製造されるフィルムは、撥水性等の表面性状の均一性が比較的低い、という問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、比較的均一な表面性状を有するフィルム、該フィルムの製造方法、および、該フィルムからなる撥水性フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るフィルムは、樹脂を含むフィルムであって、少なくとも一方のフィルム表面に凹凸構造を有しており、該凹凸構造を有する一方のフィルム表面は、算術平均高さSaの変動係数が0.25以下であり、かつ、要素の平均長さZSmの変動係数が0.082以下である。
【0007】
本発明に係る撥水性フィルムは、上記のフィルムからなる。
【0008】
本発明に係るフィルムの製造方法は、表面に凹凸構造を有する金型を用いて、樹脂を含む原反フィルムの少なくとも一方の表面に凹凸構造を転写する転写工程を含む、フィルムの製造方法であって、前記転写工程は、温度100℃以上、真空度がゲージ圧で-0.07MPa以下の条件で行う。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、比較的均一な表面性状を有するフィルム、該フィルムの製造方法、および、該フィルムからなる撥水性フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係るフィルムは、樹脂を含む(例えば、シート状に成形した樹脂から構成される)ものである。
【0011】
(樹脂)
フィルムを構成する樹脂は、重合体のみからなってもよいが、重合体以外に添加剤を含んでもよい。樹脂中の重合体の質量割合は、特に限定されず、例えば、50%以上であってもよく、70%以上であってもよく、90%以上であってもよく、95%以上であってもよい。
【0012】
添加剤としては、例えば、酸化防止剤、耐候剤、滑剤、抗ブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、無滴剤、顔料、フィラー等が挙げられる。
【0013】
また、フィルムを構成する樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、フッ素系樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)系樹脂、AS(アクリロニトリル-スチレン)系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。また、フィルムを構成する樹脂は、これらの樹脂から選択した1種単独であってもよく、複数種の混合物であってもよい。また、フィルムを構成する樹脂は、これらの樹脂の中でも、ポリオレフィン系樹脂が好適である。
【0014】
(ポリオレフィン系樹脂)
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等が挙げられる。
【0015】
(ポリエチレン系樹脂)
ポリエチレン系樹脂は、エチレン系重合体を含む。エチレン系重合体としては、例えば、エチレン単独重合体、エチレンとα-オレフィンとの共重合体、脂環式化合物で置換されたα-オレフィンとエチレンとの共重合体等が挙げられる。また、エチレン系重合体は、エチレン単独重合体と、エチレンとα-オレフィンとの共重合体との混合物であってもよい。また、エチレン系重合体に占めるα-オレフィンに由来する構造単位の量としては、特に限定されず、例えば、4.0~20質量%であってもよい。
【0016】
エチレン単独重合体としては、例えば、ラジカル開始剤を用いて高圧ラジカル重合によって生成される高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)等が挙げられる。高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)は、繰り返し単位のエチレンがランダムに分岐構造をもって結合したものである。また、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)は、例えば、密度が910~935kg/m3であってもよい。
【0017】
エチレンとα-オレフィンとの共重合体としては、例えば、結晶性を有する直鎖状低密度ポリエチレン、結晶性が低くゴム状の弾性特性を有するエチレンとα-オレフィンとの共重合体のエラストマー等が挙げられる。
【0018】
直鎖状低密度ポリエチレンの密度としては、例えば、900~940kg/m3であってもよい。エチレンとα-オレフィンとの共重合体のエラストマーの密度としては、例えば、860~900kg/m3であってもよい。
【0019】
α-オレフィンとしては、例えば、炭素数3~10のα-オレフィン等が挙げられる。炭素数3~10のα-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、3-メチル-1-ブテン等が挙げられ、好ましくは、炭素数4~10のα-オレフィンであり、より好ましくは、1-ブテン、1-ヘキセンまたは1-オクテンである。
【0020】
エチレンとα-オレフィンとの共重合体としては、例えば、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体、エチレン-1-デセン共重合体、エチレン-(3-メチル-1-ブテン)共重合体等が挙げられる。また、エチレンとα-オレフィンとの共重合体は、これらのうちの1種単独であってもよく、2種以上の混合物であってもよい。
【0021】
脂環式化合物で置換されたα-オレフィンとしては、例えば、ビニルシクロヘキサン等が挙げられる。
【0022】
エチレン系重合体の、測定温度190℃、2.16kg荷重下で測定されるメルトフローレート(MFR)は、好ましくは0.5~50g/10分であり、より好ましくは1~30g/10分であり、さらに好ましくは1~20g/10分である。
【0023】
エチレン系重合体は、公知の重合触媒を用いて、公知の重合方法によって製造することができる。
【0024】
重合触媒としては、例えば、メタロセン触媒に代表される均一系触媒系、チーグラー型触媒系、チーグラー・ナッタ型触媒系等が挙げられる。均一系触媒系としては、例えば、シクロペンタジエニル環を有する周期表第4族の遷移金属化合物とアルキルアルミノキサンからなる触媒系、またはシクロペンタジエニル環を有する周期表第4族の遷移金属化合物とそれと反応してイオン性の錯体を形成する化合物および有機アルミニウム化合物からなる触媒系、シリカ、粘土鉱物等の無機粒子にシクロペンタジエニル環を有する周期表第4族の遷移金属化合物、イオン性の錯体を形成する化合物および有機アルミニウム化合物等の触媒成分を担持し変性させた触媒系、上記の触媒系の存在下でエチレンやα-オレフィンを予備重合させて調製される予備重合触媒系等が挙げられる。
【0025】
また、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)の重合触媒としては、ラジカル開始剤を用いることができる。
【0026】
(ポリプロピレン系樹脂)
ポリプロピレン系樹脂は、プロピレン系重合体を含む。プロピレン系重合体としては、例えば、プロピレン単独重合体、エチレンおよび/または炭素数4~10のα-オレフィンと、プロピレンとの共重合体等が挙げられる。また、プロピレン系重合体は、プロピレン単独重合体と、エチレンおよび/または炭素数4~10のα-オレフィンと、プロピレンとの共重合体との混合物であってもよい。
【0027】
プロピレン単独重合体は、測定温度230℃、2.16kg荷重下で測定されるメルトフローレート(MFR)が0.1~50g/10分であってもよい。
【0028】
エチレンおよび/または炭素数4~10のα-オレフィンと、プロピレンとの共重合体は、測定温度230℃、2.16kg荷重下で測定されるメルトフローレート(MFR)が10~200g/10分であってもよい。
【0029】
エチレンおよび/または炭素数4~10のα-オレフィンと、プロピレンとの共重合体の全質量を100質量%としたときに、エチレンおよび/または炭素数4~10のα-オレフィンに由来する構造単位は、0.1~40質量%であってもよく、プロピレンに由来する構造単位は、99.9~60質量%であってもよい。
【0030】
本明細書において、「エチレンに由来する構造単位」のような用語中の「構造単位」とは、モノマーの重合単位を意味する。従って、例えば、「エチレンに由来する構造単位」は、-CH2CH2-なる構造単位を意味する。
【0031】
炭素数4~10のα-オレフィンとしては、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン等が挙げられ、好ましくは、1-ブテン、1-ヘキセンまたは1-オクテンである。
【0032】
エチレンおよび/または炭素数4~10のα-オレフィンと、プロピレンとの共重合体としては、例えば、プロピレンとエチレンとのランダム共重合体、プロピレンと炭素数4~10のα-オレフィンとのランダム共重合体、プロピレンとエチレンと炭素数4~10のα-オレフィンとのランダム共重合体、プロピレンブロック共重合体等が挙げられる。エチレンおよび/または炭素数4~10のα-オレフィンと、プロピレンとの共重合体は、これらから選択される1種単独であってもよく、2種以上の混合物であってもよい。
【0033】
プロピレンと炭素数4~10のα-オレフィンとのランダム共重合体としては、例えば、プロピレン-1-ブテンランダム共重合体、プロピレン-1-ヘキセンランダム共重合体、プロピレン-1-オクテンランダム共重合体、プロピレン-1-デセンランダム共重合体等が挙げられる。
【0034】
プロピレンとエチレンと炭素数4~10のα-オレフィンとのランダム共重合体としては、例えば、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ヘキセン共重合体、プロピレン-エチレン-1-オクテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-デセン共重合体等が挙げられる。
【0035】
プロピレン系重合体は、公知のオレフィンの重合触媒を用いて、公知の重合方法によって製造することができる。
【0036】
重合触媒としては、例えば、チーグラー型触媒系、チーグラー・ナッタ型触媒系、シクロペンタジエニル環を有する周期表第4族の遷移金属化合物とアルキルアルミノキサンからなる触媒系、またはシクロペンタジエニル環を有する周期表第4族の遷移金属化合物とそれと反応してイオン性の錯体を形成する化合物および有機アルミニウム化合物からなる触媒系、シリカ、粘土鉱物等の無機粒子にシクロペンタジエニル環を有する周期表第4族の遷移金属化合物、イオン性の錯体を形成する化合物および有機アルミニウム化合物等の触媒成分を担持し変性させた触媒系、上記の触媒系の存在下でエチレンやα-オレフィンを予備重合させて調製される予備重合触媒系等が挙げられる。
【0037】
(アクリル系樹脂)
アクリル系樹脂は、アクリル系重合体を含む。アクリル系重合体としては、例えば、アクリル酸及びそのエステルなどのアクリル酸誘導体の重合体、メタクリル酸及びそのエステルなどのメタクリル酸誘導体の重合体、及び、アクリル酸誘導体及びメタクリル酸誘導体の共重合体等が挙げられる。
【0038】
アクリル系重合体としては、例えば、炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルに由来する単量体単位のみを含むメタクリル単独重合体;炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルに由来する単量体単位を50質量%以上100質量%未満と、炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルに由来する単量体単位と共重合可能な他のビニル単量体に由来する単量体単位を0質量%を超えて50質量%以下とを有するメタクリル共重合体等が挙げられる。
【0039】
上記「炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキル」とは、CH2=CH(CH3)COOR(Rは炭素数1~4のアルキル基)で表される化合物である。炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルと共重合可能なビニル単量体とは、炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルと共重合可能であり、且つビニル基を有する単量体である。
【0040】
上記炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸sec-ブチル、及びメタクリル酸イソブチル等が挙げられる。上記炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルとしては、好ましくはメタクリル酸メチルである。上記のメタクリル酸アルキルは、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0041】
上記炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルと共重合可能なビニル単量体としては、例えば、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸モノグリセロールなどのメタクリル酸エステル(但し、炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルを除く);アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸モノグリセロール等のアクリル酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの不飽和カルボン酸又はこれらの酸無水物;アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ジアセトンアクリルアミド、メタクリル酸ジメチルアミノエチル等の窒素含有モノマー;アリルグリシジルエーテル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有単量体;スチレン、α-メチルスチレンなどのスチレン系単量体等が挙げられる。
【0042】
上記のアクリル系重合体の製造方法としては、炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルと、必要に応じて、炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルと共重合可能なビニル単量体とを、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の方法で重合する方法が挙げられる。
【0043】
(ポリカーボネート系樹脂)
ポリカーボネート系樹脂は、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む重合体を含む。当該重合体としては、例えば、二価フェノールやイソソルバイドなどのジヒドロキシ化合物とカルボニル化剤とを界面重縮合法や溶融エステル交換法などで反応させることにより得られたもの;カーボネートプレポリマーを固相エステル交換法などで重合させることにより得られたもの;及び、環状カーボネート化合物を開環重合法で重合させることにより得られたもの等が挙げられる。
【0044】
二価フェノールとしては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス{(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチル)フェニル}メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3-メチル)フェニル}プロパン、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチル)フェニル}プロパン、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモ)フェニル}プロパン、2,2-ビス{(3-イソプロピル-4-ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3-フェニル)フェニル}プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3-ジメチルブタン、2,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-イソプロピルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス{(4-ヒドロキシ-3-メチル)フェニル}フルオレン、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-o-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメチルアダマンタン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、及び4,4’-ジヒドロキシジフェニルエステル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
これらの二価フェノールの中でも、ビスフェノールA、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3-メチル)フェニル}プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3-ジメチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、及びα,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼンが好ましい。特に、ビスフェノールAの単独使用や、ビスフェノールAと、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3-メチル)フェニル}プロパン、及びα,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼンからなる群より選択される少なくとも1種との併用が好ましい。
【0046】
カルボニル化剤としては、例えば、カルボニルハライド(ホスゲンなど)、カーボネートエステル(ジフェニルカーボネートなど)、及びハロホルメート(二価フェノールのジハロホルメートなど)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
本実施形態に係るフィルムは、少なくとも一方のフィルム表面(具体的には、一方のフィルム表面のみ、または、両方のフィルム表面)に凹凸構造を有する。一方のフィルム表面の全体の面積に対し、該一方のフィルム表面における凹凸構造が形成された領域の面積の割合は、例えば、80%以上であってもよく、100%であっても(即ち、一方のフィルム表面の全域にわたって凹凸構造が形成されても)よい。また、本実施形態に係るフィルムが備える凹凸構造は、複数の円錐台状構造または複数の半球状構造が集合して形成されたものであってもよい。
【0048】
また、本実施形態に係るフィルムは、一方のフィルム表面(凹凸構造を有するフィルム表面)の算術平均高さSaの変動係数が、0.25以下であり、好ましくは0.20以下であり、より好ましくは0.15以下である。前記算術平均高さSaとしては、好ましくは0.002μm~2.5μmであり、より好ましくは0.04μm~2.0μmである。また、斯かるフィルムは、一方のフィルム表面(凹凸構造を有するフィルム表面)の要素の平均長さZSmの変動係数が、0.082以下であり、好ましくは0.080以下である。前記要素の平均長さZSmとしては、好ましくは1μm~20μmであり、より好ましくは1.2μm~18μmである。なお、算術平均高さSa、算術平均高さSaの変動係数、要素の平均長さZSm、および、要素の平均長さZSmの変動係数は、下記実施例に記載の方法で求めることができる。
【0049】
フィルムの厚さとしては、例えば、10μm以上250μm未満であってもよく、15μm~150μmであってもよい。なお、フィルムの厚さは、凹凸構造を有する領域におけるフィルム全体の厚さである。また、フィルムの厚さは、凹凸構造を有する領域をマイクロメーターで挟み込んで測定することで求めることができる。
【0050】
<フィルムの製造方法>
次に、上記のように構成されるフィルムの製造方法について説明する。斯かるフィルムの製造方法は、表面に凹凸構造を有する金型を用いて、樹脂を含む(例えば、シート状に成形した樹脂から構成される)原反フィルムの少なくとも一方の表面に凹凸構造を転写する転写工程を含む。
【0051】
転写工程で用いる金型としては、特に限定されず、例えば、平板状の金型であってもよく、円柱状の金型であってもよい。また、金型は、原反フィルムを所定温度に加熱可能であることが好ましい。平板状の金型を用いて転写工程を行う場合には、平板状の金型と、表面が平らな金属板との間に原反フィルムを挟み込み、平板状の金型と金属板とで原反フィルムを加圧することで転写工程を行うことができる。また、円柱状の金型を用いて転写工程を行う場合には、円柱状の金型と、ニップローラーとの間に原反フィルムを挟み込み、円柱状の金型とニップローラーとで原反フィルムを加圧しつつ繰り出すことで転写工程を行うことができる。
【0052】
金型が備える凹凸構造は、複数の円錐台状構造または複数の半球状構造が集合して形成されたものであってもよい。また、金型が備える凹凸構造の高さ(具体的には、凸構造の高さ)としては、例えば、0.25μm~4μmであってもよく、0.25μm~1.5μmであってもよく、1.5μm~4μmであってもよい。また、金型が備える凹凸構造の間隔(具体的には、凸構造同士の間隔(ピッチ))としては、例えば、0.25μm~8μmであってもよく、0.25μm~3μmであってもよく、3μm~8μmであってもよい。
【0053】
該転写工程は、100℃以上、好ましくは150℃以上、より好ましくは150℃~200℃で行う。なお、斯かる転写工程の温度は、金型(具体的には、凹凸構造を有する金型の表面)の温度を測定することで得ることができる。また、転写工程は、真空度がゲージ圧で-0.07MPa以下、好ましくは-0.08MPa~-0.1MPaの環境で行う。真空度(ゲージ圧)とは、転写工程を行う環境(以下、転写環境とも記す)と大気圧との差を表すものである。転写環境を所定の真空度に設定する方法としては、転写環境から空気を脱気する方法等が挙げられる。つまり、フィルムの製造方法は、上記の転写工程に加え、転写環境から空気を脱気する脱気工程を備えてもよい。該脱気工程は、原反フィルムが金型と接する前に行うことが好ましい。また、転写工程を行う際には、上記の各種金型と、原反フィルムとの接着を防止するために、金型(例えば、平板状の金型)と原反フィルムとの間に剥離フィルムを挟んでもよく、金型(例えば、平板状の金型や円柱状の金型)に剥離剤を塗布する等の剥離加工を施してもよい。
【0054】
また、フィルムの製造方法は、さらに他の工程を備えてもよい。例えば、転写工程後のフィルムを冷却する冷却工程を備えてもよい。該冷却工程は、転写工程後のフィルムを比較的低温の冷却板の間、または冷却ロールの間に挟み込むことで行うことができる。
【0055】
上記のように構成されるフィルムは、例えば、撥水性フィルムや低反射性フィルム等として用いることができる。これらのフィルム(以下では、「機能性フィルム」とも記す)は、例えば、積層体の最外層として用いることができる。機能性フィルムを積層体の最外層として用いる場合には、凹凸構造を有するフィルム表面が積層体の最外面となるように機能性フィルムを配置する。凹凸構造が積層体の最外面に位置することで、機能性フィルムの表面性状を積層体に付与することができる。また、機能性フィルムは、他の層と積層されることなく単独で使用されてもよい。撥水性フィルムの用途としては、例えば、食品等を包装する包装材料等が挙げられる。具体的には、撥水性フィルムを最外層に備える積層体を包装容器の蓋材や容器本体等の包装材料として用いることができる。撥水性フィルムを包装材料として用いる場合、撥水性フィルムの凹凸構造が内容物側に位置するように包装材料を用いることで、液体、半固体、ゲル状物質等の粘性体を有する内容物の包装材料への付着や残存を抑制できる。また、低反射性フィルムの用途としては、例えば、液晶ディスプレイ等を構成する材料が挙げられる。
【0056】
以上のように、本実施形態によれば、比較的均一な表面性状を有するフィルム、該フィルムの製造方法、および、該フィルムからなる撥水性フィルムを提供することができる。
【0057】
即ち、少なくとも一方のフィルム表面に凹凸構造を有し、該凹凸構造を有する一方のフィルム表面の算術平均高さSaの変動係数および要素の平均長さZSmの変動係数が上記の範囲であることで、比較的均一な表面性状を有するフィルムを提供することができる。
【0058】
また、フィルムを構成する樹脂がポリオレフィン系樹脂であることで、斯かるフィルムを包装材料のヒートシール層に利用できる。
【0059】
また、フィルムを構成するポリオレフィン系樹脂がポリエチレン系樹脂であることで、斯かるフィルムを重量物の包材や冷凍用途の包材に利用できる。
【0060】
また、フィルムの厚さが10μm以上250μm未満であることで、柔軟性のある機能性フィルムを得ることができる。
【0061】
また、上記のフィルムを撥水性フィルムとすることで、比較的均一な撥水性を示す撥水性フィルムを提供することができる。
【0062】
また、フィルムの製造方法において、上記の温度範囲および真空度の範囲の条件で転写工程を行うことで、比較的均一な表面性状を有するフィルムを得ることができる。具体的には、従来、金型を用いて原反フィルムに凹凸構造を転写する場合、原反フィルムと金型との間に空気が入り込み、空気が入り込んだ領域で転写不良が生じることがある。このような転写不良が生じると、フィルムの一部に、所望する表面性状を示さない領域が形成されるため、均一な表面性状を有するフィルムを得ることができない。これに対し、上記実施形態のように、温度が所定範囲であり、且つ、真空度が所定範囲である条件で転写工程を行うことで、金型と原反フィルムとの間に空気が入り込むのを抑制し、均一な表面性状を有するフィルムを得ることができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例および比較例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
<密度(単位:g/cm3)>
ポリエチレン系樹脂の密度は、JIS K6760-1995に記載のアニーリングを行った後、JIS K7112-1980に規定されたA法に従い測定した。
【0065】
<メルトフローレート(MFR、単位:g/10分)>
ポリエチレン系樹脂のMFRは、JIS K7210-1995に規定されたA法に従い、温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定した。
【0066】
<樹脂フィルム表面の算術平均高さSa(単位:μm)の変動係数>
まず、白色顕微鏡(株式会社日立ハイテクサイエンス製、商品名:ナノ3D光干渉計測システムVS1800)を用いて、樹脂フィルム表面を測定した。実施例1~4および比較例1は、対物レンズ50倍、測定モードHiSlope HR(ピエゾ)の条件とし、実施例5は、対物レンズ110倍、測定モードPhase(ピエゾ)の条件とした。次に、日立ハイテク製「VS-viewer」を用いて、得られた樹脂フィルム表面の画像に対して、一次元の面補正(凹凸高さの絶対値の二乗の総和が最も小さくなる領域を計算し、当該領域がZ方向となるように画像の傾きを補正)を実施した。次いで、算術平均高さSaをISO 25178に規定された方法に従って測定した。この方法により、樹脂フィルム表面12カ所(樹脂フィルムを縦方向に5等分割する直線と、樹脂フィルムを横方向に4等分割する直線との交点12カ所)のSaを測定し、これらの変動係数を算出した。
【0067】
<樹脂フィルム表面の要素の平均長さZSm(単位:μm)の変動係数>
まず、白色顕微鏡(株式会社日立ハイテク製、ナノ3D光干渉計測システムVS1800)を用いて、樹脂フィルム表面を測定した。実施例1~4および比較例1は、対物レンズ50倍、測定モードHiSlope HR(ピエゾ)の条件とし、実施例5は、対物レンズ110倍、測定モードPhase(ピエゾ)の条件とした。次に、日立ハイテク製「VS-viewer」を用いて、得られた樹脂フィルム表面の画像に対して一次元の面補正(凹凸高さの絶対値の二乗の総和が最も小さくなる領域を計算し、当該領域がZ方向となるように画像の傾きを補正)を実施した。次いで、Y軸中心に最も近い凸を含んで等間隔に並ぶ凹凸上で、かつ、X軸に最も平行な凹凸上を、画像の左右両辺を含むように線状に選択し、その線における断面プロファイルを得た。得られた断面プロファイルから、樹脂フィルム表面の要素の平均長さZSmをISO 4287に規定された方法に従って測定した。この方法より、樹脂フィルム表面12カ所(樹脂フィルムを縦方向に5等分割する直線と、樹脂フィルムを横方向に4等分割する直線との交点12カ所)のZSmを測定し、これらの変動係数を算出した。
【0068】
<樹脂フィルム表面の凹凸構造の観察>
樹脂フィルム表面の凹凸構造を、反射型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテク製、S-4800)を用いて観察した。
【0069】
<樹脂フィルム表面の水の接触角(単位:°)と、その標準偏差(単位:°)>
まず、樹脂フィルム表面の水の接触角を、接触角測定機(協和界面科学株式会社製、商品名:DM-301)を用いて測定した。具体的には、樹脂フィルム(5cm角)を縦方向および横方向に2等分割した(即ち、樹脂フィルムを4分割した)際の1つの領域において、縦方向に5カ所、横方向に10カ所の計50カ所で水の接触角を測定した。次に、樹脂フィルム表面の水の接触角の標準偏差を算出した。
【0070】
<実施例1:樹脂フィルム1の作製>
ポリエチレン系樹脂(住友化学株式会社製、商品名「スミカセンE(登録商標)FV203N、密度:0.913g/cm3、MFR:2g/10分)からなる厚さ50μmの原反樹脂フィルムを、表面に凹凸構造を有する金型(綜研化学株式会社製、HON70-3000、凹凸構造の高さ:1.5μm、凹凸構造のピッチ:3μm)と、表面が平らな金属板で挟んだ後、手動油圧真空加熱プレス(株式会社井元製作所製、IMC-19E6型)を用いて、150℃、0MPa(真空度がゲージ圧で-0.1MPa)の条件で5分間プレスした。得られた樹脂フィルムを、冷却プレス(株式会社井元製作所製、IMC-19E7型)を用いて、30℃、0.1MPaの条件で5分間プレスして冷却し、表面に凹凸構造を有する樹脂フィルム1を作製した。
【0071】
<実施例2:樹脂フィルム2の作製>
150℃、0.01MPa(真空度がゲージ圧で-0.09MPa)の条件でプレスした以外は、実施例1と同様にして、表面に凹凸構造を有する樹脂フィルム2を作製した。
【0072】
<実施例3:樹脂フィルム3の作製>
150℃、0.02MPa(真空度がゲージ圧で-0.08MPa)の条件でプレスした以外は、実施例1と同様にして、表面に凹凸構造を有する樹脂フィルム3を作製した。
【0073】
<実施例4:樹脂フィルム4の作製>
表面に凹凸構造を有する金型(株式会社TOWA製、マイクロレンズアレイ、凹凸構造の高さ:4μm、凹凸構造のピッチ:8μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして、表面に凹凸構造を有する樹脂フィルム4を作製した。
【0074】
<実施例5:樹脂フィルム5の作製>
表面に凹凸構造を有する金型(綜研化学株式会社製、HON70-250、凹凸構造の高さ:0.25μm、凹凸構造のピッチ:0.25μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして、表面に凹凸構造を有する樹脂フィルム5を作製した。
【0075】
<比較例1:樹脂フィルムC1の作製>
150℃、0.1MPa(真空度がゲージ圧で0MPa)の条件でプレスした以外は、実施例1と同様にして、表面に凹凸構造を有する樹脂フィルムC1を作製した。
【0076】
【0077】
<まとめ>
表1を見ると、各実施例の方が比較例1よりも水の接触角の標準偏差が小さい(即ち、比較的均一な撥水性を有する)ことが認められる。これは、樹脂フィルムの一方の面に凹凸構造が比較的均一に形成されていることを示す。
以上より、原反樹脂フィルムへの凹凸構造の転写を、本発明に係る温度範囲および真空度の範囲で行うことで、比較的均一な表面性状を有するフィルム(即ち、フィルム表面の算術平均高さSaの変動係数および要素の平均長さZSmの変動係数が本発明の範囲となる樹脂フィルム)を得ることができる。