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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】給湯システム
(51)【国際特許分類】
   F24H 4/02 20220101AFI20241002BHJP
   F24H 1/18 20220101ALI20241002BHJP
   F24H 15/225 20220101ALI20241002BHJP
   F24H 15/305 20220101ALI20241002BHJP
   F24H 15/375 20220101ALI20241002BHJP
【FI】
F24H4/02 F
F24H1/18 B
F24H15/225
F24H15/305
F24H15/375
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021094086
(22)【出願日】2021-06-04
(65)【公開番号】P2022186061
(43)【公開日】2022-12-15
【審査請求日】2023-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000148357
【氏名又は名称】株式会社前川製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 卓也
(72)【発明者】
【氏名】赤石 拓也
【審査官】大谷 光司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-170750(JP,A)
【文献】特開2016-031199(JP,A)
【文献】特開2008-128527(JP,A)
【文献】特開2014-119229(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24H 15/00 - 15/493
F24H 4/02
F24H 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端口、下位中間口、上位中間口、および上端口を順に備えた密閉型の貯湯槽と、
入口と出口を有し、前記入口から供給された原水を加熱して前記出口から流出させるヒートポンプと、
流路を切り替えるための第1弁、第2弁、第3弁、および混合弁と、
給水源に接続可能とされ、前記貯湯槽の前記下端口、前記ヒートポンプの前記入口、および前記第1弁の一端をつなぐ給水管と、
前記ヒートポンプの前記出口、前記貯湯槽の前記上端口、および前記混合弁の第1ポートをつなぐ熱水管と、
前記第1弁の他端、前記第2弁の一端、前記第3弁の一端、および前記混合弁の第2ポートをつなぐ冷水管と、
前記第2弁の他端および前記貯湯槽の前記上位中間口をつなぐ中温管と、
前記混合弁の第3ポート、温水を供給すべき給湯設備、前記第3弁の他端、および前記貯湯槽の前記下位中間口をつなぐ供給管と、
前記貯湯槽の内部の温度分布に対応する信号を出力する温度センサーと、
前記温度センサーからの前記信号を受けて、前記第1弁、前記第2弁、前記第3弁、および前記ヒートポンプを制御する制御装置とを具備し、
前記制御装置は、前記温度センサーからの前記信号に対応して、下記の運転モード(A)~(F)のいずれかを選択可能にプログラムされていることを特徴とする給湯システム。
(A)循環/HP熱源モード
前記給水管からの原水の供給を停止し、前記ヒートポンプを稼働し、前記第1弁を閉じ、前記第2弁を閉じ、前記第3弁を開くことにより、前記貯湯槽の前記下端口から前記貯湯槽内の冷水を前記ヒートポンプへ供給し、前記ヒートポンプで加熱された熱水の一部を前記熱水管を通じて前記上端口から前記貯湯槽へ流入させるとともに、前記熱水の残部を前記混合弁を通じて前記供給管からの戻り温水の一部と混合して前記供給管へ供給し、前記供給管からの戻り温水の残部を前記下位中間口から前記貯湯槽内に戻す。
(B)循環/高温水+中温水熱源モード
前記給水管からの原水の供給を停止し、前記ヒートポンプを停止し、前記第1弁を閉じ、前記第2弁を開き、前記第3弁を閉じることにより、前記貯湯槽の前記上端口から前記貯湯槽内の熱水を前記混合弁を通じて前記上位中間口から流出した前記貯湯槽内の温水と混合して前記供給管へ供給するとともに、前記供給管からの戻り温水を前記下位中間口を通じて前記貯湯槽内へ戻す。
(C)給湯/HP+高温水熱源モード
前記給水管から原水を供給し、前記ヒートポンプを稼働し、前記第1弁を開き、前記第2弁を閉じ、前記第3弁を開くことにより、前記給水管から供給された原水を前記ヒートポンプ、前記下端口、および前記冷水管へ供給し、前記ヒートポンプで加熱された熱水を前記上端口から流出する熱水と混合して前記混合弁へ導き、前記冷水管からの原水および前記供給管からの戻り温水の一部と混合して前記供給管へ供給し、前記供給管からの戻り温水の残部を前記下位中間口から前記貯湯槽内に戻す。
(D)給湯/HP+中温水熱源モード
前記給水管から原水を供給し、前記ヒートポンプを稼働し、前記第1弁を閉じ、前記第2弁を開き、前記第3弁を閉じることにより、前記給水管から供給された原水を前記ヒートポンプおよび前記下端口へ供給し、前記ヒートポンプで加熱された熱水の一部を前記上端口から前記貯湯槽へ流入させるとともに、前記熱水の残部を前記混合弁を通じて前記上位中間口から流出した温水と混合して前記供給管へ供給し、前記供給管からの戻り温水を前記下位中間口から前記貯湯槽内に戻す。
(E)給湯/高温水+中温水熱源モード
前記給水管から前記下端口を通じて前記貯湯槽内に原水を供給し、前記ヒートポンプを停止し、前記第1弁を閉じ、前記第2弁を開き、前記第3弁を閉じることにより、前記貯湯槽の前記上端口から前記貯湯槽内の熱水を流出させ、この熱水を前記混合弁を通じて前記上位中間口から流出した前記貯湯槽内の温水と混合して前記供給管へ供給するとともに、前記供給管からの戻り温水を前記下位中間口を通じて前記貯湯槽内へ戻す。
(F)給湯/HP熱源モード
前記給水管から原水を供給し、前記ヒートポンプを稼働し、前記第1弁を開き、前記第2弁を閉じ、前記第3弁を開くことにより、前記給水管から供給された原水を前記ヒートポンプおよび前記冷水管へ供給し、前記ヒートポンプで加熱された熱水の一部を前記上端口から前記貯湯槽へ流入させるとともに、前記熱水の残部を前記混合弁を通じて前記冷水管からの原水および前記供給管からの戻り温水の一部と混合して前記供給管へ供給し、前記供給管からの戻り温水の残部を前記下位中間口から前記貯湯槽内に戻す。
【請求項2】
前記温度センサーは、前記下位中間口に対応する位置での水温を測定する下位中間温度センサーと、前記貯湯槽の前記上位中間口に対応する位置での水温を測定する上位中間温度センサーとを具備することを特徴とする請求項1に記載の給湯システム。
【請求項3】
前記温度センサーは、前記貯湯槽の前記下端口に対応する位置での水温を測定する下端部温度センサーと、前記上端口に対応する位置での水温を測定する上端部温度センサーとをさらに具備することを特徴とする請求項2に記載の給湯システム。
【請求項4】
前記供給管を通じて供給される温水の温度を測定する供給温度センサーと、前記供給温度センサーの信号を受けて、前記混合弁の前記第1ポートから第3ポートに到る弁開度、および前記混合弁の前記第2ポートから第3ポートに到る弁開度を制御する温度制御装置を具備することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の給湯システム。
【請求項5】
前記貯湯槽は、低温貯湯槽、中温貯湯槽、高温貯湯槽を有し、
前記低温貯湯槽の下端に前記下端口が形成され、
前記低温貯湯槽の上端と前記中温貯湯槽の下端がつながれて前記下位中間口が形成され、
前記中温貯湯槽の上端と前記高温貯湯槽の下端がつながれて前記上位中間口が形成され、
前記高温貯湯槽の上端に前記上端口が形成され、
前記温度センサーは、少なくとも前記中温貯湯槽の内部の温度分布に対応する信号を出力することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の給湯システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートポンプ(以下「HP」ともいう)および密閉型の貯湯槽を備えた給湯システムに関する。
【背景技術】
【0002】
給湯システムとして、二酸化炭素を熱媒として用いたヒートポンプで水を加熱し、得られた温水を密閉型の貯湯槽に温度成層を形成しつつ貯留して、給湯に用いるものが従来から知られており、ヒートポンプの利用により運転コストが安く、しかも、熱水を空気に触れさせずに貯留できることから衛生的である。
【0003】
例えば、特許文献1に記載された給湯システムは、密閉型の貯湯槽と、貯湯槽内の湯水を加熱するヒートポンプと、貯湯槽内の中間温度の残湯量を検出する残湯センサーと、貯湯槽の中部出湯口からの湯水と給水管からの水道水とを混合する第1の混合弁と、第1の混合弁を経由した湯と上部出湯口からの湯水とを混合する第2の混合弁と、端末から出湯する湯水の温度を設定する温度設定手段とを備えており、貯湯槽の上部出湯口近傍口から暖房用熱交換器に熱水を送り、暖房用熱交換器からの戻り温水を貯湯槽の下部に形成された下部戻し口から戻している。
【0004】
特許文献2の給湯システムは、密閉型の貯湯槽と、その下部から給水可能かつヒートポンプに接続された給水管と、貯湯槽の下部から取り出した低温水をヒートポンプで加熱して貯湯槽の上部に戻す加熱管と、一端が貯湯槽の上部に接続され他端が混合弁に接続された高温水配管と、一端が貯湯槽の中間部に接続され他端が混合弁に接続された中温水配管と、一端が混合弁に接続され他端が給湯先に接続された給湯管と、一端が給水管から分岐し、他端が中温水配管に接続された給水分岐管とを備えている。給湯管には、温水の温度を検出する給湯温度センサーが設けられ、給湯先に供給される給湯の温度が設定温度になるように、混合弁の開度を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4403983号公報
【文献】特許第6351101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の給湯システムは、熱水が供給される暖房用熱交換器からの戻り温水を貯湯槽の下部に形成された下部戻し口から貯湯槽内に戻しているが、この構成では貯湯槽の下端から暖まった水がヒートポンプへ供給されるため、ヒートポンプへの供給水とヒートポンプから出力すべき熱水との温度差が小さくなり、ヒートポンプにおける成績係数(COP)が悪化するという問題がある。特に、二酸化炭素を熱媒として用いるヒートポンプでは、温水入口と温水出口の温度差が大きければ高い効率で運転できるが、温度差が小さくなるに従い加熱効率が低下する。給湯システムにヒートポンプを利用する際はヒートポンプの成績係数により給湯システムの効率が左右されるため、ヒートポンプ性能が低い小温度差での運転をなるべく減らせるようにシステムを構築することが重要になる。
【0007】
また、特許文献2の給湯システムは、比較的小規模な給湯設備を対象としているため、供給管を流れる温水を常に循環させて給湯温度を安定化しつつ、戻り温水を再加熱することはできず、給湯先までの距離がある大規模なビルなどの給湯システムには適していない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明に係る給湯システムは、
下端口、下位中間口、上位中間口、および上端口を、下方から上方へ向けて順に備えた密閉型の貯湯槽と、
入口と出口を有し、前記入口から供給された原水を加熱して前記出口から流出させるヒートポンプと、
流路を切り替えるための第1弁、第2弁、第3弁、および混合弁と、
給水源に接続可能とされ、前記貯湯槽の前記下端口、前記ヒートポンプの前記入口、および前記第1弁の一端をつなぐ給水管と、
前記ヒートポンプの前記出口、前記貯湯槽の前記上端口、および前記混合弁の第1ポートをつなぐ熱水管と、
前記第1弁の他端、前記第2弁の一端、前記第3弁の一端、および前記混合弁の第2ポートをつなぐ冷水管と、
前記第2弁の他端および前記貯湯槽の前記上位中間口をつなぐ中温管と、
前記混合弁の第3ポート、温水を供給すべき給湯設備、前記第3弁の他端、および前記貯湯槽の前記下位中間口をつなぐ供給管と、
前記貯湯槽の内部の温度分布に対応する信号を出力する温度センサーと、
前記温度センサーからの前記信号を受けて、前記第1弁、前記第2弁、前記第3弁、および前記ヒートポンプを制御する制御装置とを具備する。
【0009】
前記給湯システムによれば、前記温度センサーにより前記貯湯槽の内部の中温水が増加したことを検出した場合、前記第2弁を開いて貯湯槽の上位中間口からの温水を、前記ヒートポンプからの熱水および/または前記貯湯槽の上端口からの熱水と混合して、前記供給管へ供給することができる。これにより、前記貯湯槽内の多量の温水を有効に利用して温水域の拡大を防ぎ、温水が前記ヒートポンプへ流れることによる成績係数の低下を防ぐことができる。したがって、中温水を再加熱する動力を減らすことが可能であるとともに、温水域中で繁殖しやすいレジオネラ菌の増殖も抑制することが可能である。
【0010】
また、前記供給管からの戻り温水の少なくとも一部を、前記下位中間口から前記貯湯槽へ戻すため、前記下位中間口よりも下方には比較的多量の冷水が蓄えられた状態が維持され易く、前記上端口から前記貯湯槽内に熱水を蓄える場合にも、前記貯湯槽の前記下端口から冷水が流出するようにし、前記ヒートポンプにおける入口温度と出口温度の差を大きく確保して、この点からもヒートポンプの成績係数を高めることが可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る給湯システムによれば、供給管からの戻り温水を前記貯湯槽の中温領域にバッファすることで給湯(温水消費)に有効利用できるから、ヒートポンプの成績係数の低下を防ぎ、高効率運転を維持できる利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る給湯システムの第1実施形態を示すブロック図である。
図2】第1実施形態における(A)循環/HP熱源モードでの運転状態を示すブロック図である。
図3】第1実施形態における(B)循環/高温水+中温水熱源モードでの運転状態を示すブロック図である。
図4】第1実施形態における(C)給湯/HP+高温水熱源モードでの運転状態を示すブロック図である。
図5】第1実施形態における(D)給湯/HP+中温水熱源モードでの運転状態を示すブロック図である。
図6】第1実施形態における(E)給湯/高温水+中温水熱源モードでの運転状態を示すブロック図である。
図7】第1実施形態における(F)給湯/HP熱源モードでの運転状態を示すブロック図である。
図8】本発明に係る給湯システムの第2実施形態を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の給湯システムの実施形態を詳細に説明する。
図1は第1実施形態の給湯システム1を示し、この給湯システム1は単一の貯湯槽2を有する。この例の貯湯槽2は、鉛直方向に延びる円筒形の側板部と、この側板部の上端および下端をドーム状に塞ぐ天板部および底板部を有し、気密性と断熱性を有している。貯湯槽2の形状は図示のものに限らず、角柱状であってもよいし、内部に水平な層をなす温度成層を形成できれば傾いていてもよいし、複数の貯湯槽を並列または直列に連結したものであってもよい。
【0014】
貯湯槽2の底板部の中央には下端口2Aが設けられ、側板部には下位中間口2Bと上位中間口2Cが下から順に距離をあけて形成され、天板部の中央には上端口2Dが形成されている。貯湯槽2の内部において、下位中間口2Bよりも低い領域を低温領域L、下位中間口2Bから上位中間口2Cまでの領域を中温領域M、上位中間口2Cよりも高い領域を高温領域Hと便宜上呼ぶ。ただし、各領域L、M、Hは必ずしもその領域にある水温と一致するものではない。下位中間口2Bおよび上位中間口2Cのそれぞれに、高さ方向の幅がある場合には、高さ方向における中心位置を、下位中間口2Bおよび上位中間口2Cの高さと定義する。低温領域L、中温領域M、および高温領域Hの容積比は必ずしも限定はされず、実際の運転状況に応じて決定される。
【0015】
貯湯槽2には、低温領域Lの下部の温度を測る下端部温度センサー3Aが設けられ、下位中間口2Bの高さ(低温領域Lと中温領域Mの境界)に対応して下位中間温度センサー3Bが設けられ、上位中間口2C(中温領域Mと高温領域Hの境界)に対応して上位中間温度センサー3Cが設けられ、さらに、高温領域Hの上部の温度を測る上端部温度センサー3Dが設けられている。本発明では、温度センサーの個数は上記のように4基には限定されず、下位中間温度センサー3Bと上位中間温度センサー3Cのみであっても実施は可能であるし、これらを含む3基または5基以上であってもよいし、貯湯槽2の内部全体の温度分布を連続的に捉えるラインセンサーや二次元画像センサーのようなものであってもよい。
【0016】
貯湯槽2の下端口2Aには給水管4が接続され、給水管4の他端は図示しない給水源に接続されて原水が供給されるようにされている。給水管4は分岐して第1弁54の一端に接続されるとともに、ヒートポンプ8の入口8Aに接続されている。
【0017】
ヒートポンプ8は、この種の用途に使用される一般的なものであってよく、熱媒は二酸化炭素であることが環境問題や運転コストの点で現実的であるため以下では熱媒を二酸化炭素とした場合について説明するが、フロンや他の熱媒ガスであっても実施は可能である。ヒートポンプ8は、入口8Aから供給された低温の水を出口8Bへ向けて図示しないポンプで加圧するとともに、図示しない熱媒流路内で断熱圧縮されて高温になった二酸化炭素と原水を熱交換させ、原水を例えば約90℃に加熱する。以後、同様に各部の温度を具体的に記載するが、本発明はこれらの温度に限定されるものではなく、給湯システムの用途に応じて適宜設定されるべきである。
【0018】
ヒートポンプ8の出口8Bには熱水管24が接続され、熱水管24は貯湯槽2の上端口2Dおよび混合弁26の第1ポートに接続されている。混合弁26の第2ポートには冷水管25が接続され、冷水管25は第1弁54の他端に接続されている。混合弁26の第3ポートには供給管28が接続され、この供給管28は、例えばビル内などの給湯設備36(給湯蛇口、温水シャワー、温水暖房設備など)を次々に経由し、その後にポンプ40を経て、貯湯槽2の下位中間口2Bに接続されている。
【0019】
ポンプ40と下位中間口2Bの間には還流管45が接続され、還流管45は第3弁44を経て冷水管25へ接続され、第3弁44を開くと、供給管28から戻り温水が冷水管25へ流れこむようにされている。また、貯湯槽2の上位中間口2Cには中温管47が接続され、第2弁50を経て冷水管25へ接続され、第2弁50を開くと、上位中間口2Cから流出した温水が冷水管25へ流れ込むようにされている。
【0020】
混合弁26にはアクチュエータ34が設けられ、アクチュエータ34は温度制御装置32で駆動される。温度制御装置32には、第3ポート近くの供給管28に設けられた供給温度センサー30が接続され、供給温度センサー30からの信号に応じて、混合弁26の第1ポートから第3ポートに到る弁開度、および第2ポートから第3ポートに到る弁開度をそれぞれ連続的にフィードバック制御するようにされている。これにより、第1ポートに流れ込む約90℃の熱水と、第2ポートに流れ込む冷水または温水の混合量を調整し、第3ポートから供給管28へ約60℃(約65℃の場合もある)の温水が常に流出するようにされている。
【0021】
供給管28の全長は、給湯システム1を設ける施設の規模によっては比較的長距離に達することもある。業務用の給湯では即時給湯が求められるため、給湯設備36へ約60℃(仮に熱媒を二酸化炭素とする場合)の温水を常時供給するために、ポンプ40により常に温水を供給管28に循環させて供給管28内を暖めておく必要がある。温水の循環量は、供給管28からの戻り温水の温度が約60℃から例えば5℃程度低下して約55℃(供給温度が約65℃であれば約60℃)になるように、供給温度や供給管28での放熱量等に基づいてポンプ40の出力が調整される。
【0022】
第1弁54、第2弁50、第3弁44、ヒートポンプ8、およびポンプ40は制御装置5によってそれぞれ制御され、制御装置5には、温度センサー3A~3Dの信号が伝達されるようになっている。制御装置5は、例えば制御プログラムを記憶したコンピューターを備え、温度センサー3A~3Dの信号に基づいて、第1弁54、第2弁50、第3弁44、ヒートポンプ8、およびポンプ40を動作させ、下記のような運転モードを実現するようにされている。なお、必要に応じては、下記の各運転モードの他の運転モードを設けてもよいし、下記の各運転モードでの流路を若干変更することも可能である。また、下記の運転モードを全て実行しなくてもよく、下記のうちn個(nは1~5の整数)のモードを実施する構成としてもよい。
【0023】
(A)循環/HP熱源モード
給湯設備36での温水の消費がなく、供給管28を介して温水を循環させており、貯湯槽2内の熱水量を補う必要があり、中温水量も多くはない場合の運転モードである。図2に示すように、給水管4からの原水の供給を停止し、ヒートポンプ8を稼働し、第1弁54を閉じ、第2弁50を閉じ、第3弁44を開く。これにより、貯湯槽2の下端口2Aから貯湯槽2の低温領域L内の冷水をヒートポンプ8へ供給し、ヒートポンプ8で加熱された約90℃の熱水の一部を熱水管24を通じて上端口2Dから貯湯槽2へ流入させる。熱水の残部を混合弁26を通じて、供給管28からの約55℃の戻り温水の一部と混合し、約60℃の温水として供給管28へ供給する。供給管28からの約55℃の戻り温水の残部を下位中間口2Bから貯湯槽2内に戻す。戻り温水の残部は、貯湯槽2内において中温領域Mの温水と混合されて蓄えられる。この運転モードによれば、貯湯槽2内の熱水量および中温水量を増やしつつ、供給管28を介して温水を循環させることができる。ヒートポンプ8には、低温領域L内の冷水が供給され、ヒートポンプの成績係数が高く、高効率運転を維持できる。
【0024】
(B)循環/高温水+中温水熱源モード
給湯設備36での温水の消費がなく、供給管28を介して温水を循環させており、貯湯槽2内の熱水量は十分にあり補う必要がなく、中温水量も多い場合の運転モードである。図3に示すように、給水管4からの原水の供給を停止し、ヒートポンプ8を停止し、第1弁54を閉じ、第2弁50を開き、第3弁44を閉じる。これにより、貯湯槽2の上端口2Dから貯湯槽2内の約90℃の熱水を混合弁26を通じて、上位中間口2Cから流出した貯湯槽2内の温水と混合して供給管28へ供給する。供給管28からの約55℃の戻り温水を下位中間口2Bを通じて貯湯槽2内へ戻す。戻り温水は、貯湯槽2内において中温領域Mの温水と混合されて蓄えられる。この運転モードによれば、貯湯槽2内の熱水量および中温水量を消費しつつ、供給管28を介して温水を循環させることができる。
【0025】
(C)給湯/HP+高温水熱源モード
給湯設備36で温水が消費されており、貯湯槽2内の熱水量は十分にあり補う必要がないが、貯湯槽2からの熱水のみでは熱量が不足する場合の運転モードである。図4に示すように、給水管4から例えば16℃の原水を供給し、ヒートポンプ8を稼働し、第1弁54を開き、第2弁50を閉じ、第3弁44を開く。これにより、給水管4から供給された原水をヒートポンプ8、下端口2A、および冷水管25へ供給し、ヒートポンプ8で加熱された約90℃の熱水を上端口2Dから流出する熱水と混合して混合弁26へ導き、冷水管25からの例えば16℃の原水および供給管28からの約55℃の戻り温水の一部と混合し、約60℃の温水として供給管28へ供給する。供給管28からの約55℃の戻り温水の残部を下位中間口2Bから貯湯槽2内に戻す。戻り温水の残部は、貯湯槽2内において中温領域Mの温水と混合されて蓄えられる。この運転モードによれば、貯湯槽2内の熱水を消費しつつ、給湯設備36での温水消費をまかなうことができる。ヒートポンプ8には、給水管4からの冷たい原水が供給されるので、ヒートポンプの成績係数が高く、高効率運転を維持できる。
【0026】
(D)給湯/HP+中温水熱源モード
給湯設備36で温水が消費されており、貯湯槽2内の熱水量は不足して補う必要があるが、中温水量は多い場合の運転モードである。図5に示すように、給水管4から原水を供給し、ヒートポンプ8を稼働し、第1弁54を閉じ、第2弁50を開き、第3弁44を閉じる。これにより、給水管4から供給された例えば16℃の原水をヒートポンプ8および下端口2Aへ供給し、ヒートポンプ8で加熱された約90℃の熱水の一部を上端口2Dから貯湯槽2へ流入させるとともに、熱水の残部を混合弁26を通じて上位中間口2Cから流出した温水と混合して供給管28へ供給し、供給管28からの約55℃の戻り温水を下位中間口2Bから貯湯槽2内に戻す。戻り温水は、貯湯槽2内において中温領域Mの温水と混合されて蓄えられる。この運転モードによれば、貯湯槽2内に熱水を補充しつつ、貯湯槽2の中温領域Mの中温水を減らして、給湯設備36での温水消費をまかなうことができる。ヒートポンプ8には、給水管4からの冷たい原水が供給されるので、ヒートポンプ8の成績係数が高く、高効率運転を維持できる。
【0027】
(E)給湯/高温水+中温水熱源モード
給湯設備36で温水が消費されており、貯湯槽2内の熱水量および中温水量は十分にあり、補う必要がない場合の運転モードである。図6に示すように、給水管4から下端口2Aを通じて貯湯槽2内に例えば16℃の原水を供給し、ヒートポンプ8を停止し、第1弁54を閉じ、第2弁50を開き、第3弁44を閉じる。これにより、貯湯槽2の上端口2Dから貯湯槽2内の約90℃の熱水を流出させ、この熱水を混合弁26を通じて上位中間口2Cから流出した貯湯槽2内の温水と混合し、約60℃の温水として供給管28へ供給する。供給管28からの約55℃の戻り温水は、下位中間口2Bを通じて貯湯槽2内へ戻す。戻り温水は、貯湯槽2内において中温領域Mの温水と混合されて蓄えられる。この運転モードによれば、貯湯槽2の高温領域Hの熱水および中温領域Mの中温水を消費しつつ、給湯設備36での温水消費をまかなうことができる。
【0028】
(F)給湯/HP熱源モード
給湯設備36で温水が消費されており、貯湯槽2内の熱水量が不足して補う必要があり、中温水量も多くない場合の運転モードである。図7に示すように、給水管4から原水を供給し、ヒートポンプ8を稼働し、第1弁54を開き、第2弁50を閉じ、第3弁44を開く。これにより、給水管4から供給された例えば16℃の原水をヒートポンプ8および冷水管25へ供給し、ヒートポンプ8で加熱された約90℃の熱水の一部を上端口2Dから貯湯槽2へ流入させるとともに、熱水の残部を混合弁26を通じて冷水管25からの原水および供給管28からの約55℃の戻り温水の一部と混合して約60℃の温水として供給管28へ供給し、供給管28からの戻り温水の残部を下位中間口2Bから貯湯槽2内に戻す。戻り温水の残部は、貯湯槽2内において中温領域Mの温水と混合されて蓄えられる。この運転モードによれば、貯湯槽2に熱水を補いながら、給湯設備36での温水消費をまかなうことができる。ヒートポンプ8には、給水管4および低温領域Lからの冷水が供給されるので、ヒートポンプ8の成績係数が高く、高効率運転を維持できる。
【0029】
以上説明したように、このような給湯システム1によれば、温度センサー3A~3Dにより貯湯槽2の内部の中温水が増加したことを検出した場合、第2弁50を開いて貯湯槽2の上位中間口2Cからの温水を、ヒートポンプ8からの熱水および/または貯湯槽2の上端口2Dからの熱水と混合して、供給管28へ供給することができる。これにより、比較的に簡単な構成により、貯湯槽2内の多量の温水を有効に利用して温水域の拡大を防ぎ、温水がヒートポンプ8へ流れることによる成績係数の低下を防ぐことができる。したがって、中温水を再加熱する動力を減らすことが可能であるとともに、温水域中で繁殖しやすいレジオネラ菌の増殖も抑制することが可能である。
【0030】
また、供給管28からの戻り温水の少なくとも一部を、下位中間口2Bから貯湯槽2へ戻すため、下位中間口2Bよりも下方には比較的多量の冷水が蓄えられた状態が維持され易く、上端口2Dから貯湯槽2内に熱水を蓄える場合にも、貯湯槽2の下端口から冷水が流出するようにし、ヒートポンプ8における入口温度と出口温度の差を大きく確保して、この点からもヒートポンプ8の成績係数を高めることが可能である。したがって、供給管28からの戻り温水を貯湯槽2の中温領域にバッファすることで給湯(温水消費)に有効利用できるから、ヒートポンプ8の成績係数の低下を防ぎ、高効率運転を維持できる利点を有する。
【0031】
[第2実施形態]
次に、図8は、本発明に係る給湯システムの第2実施形態を示している。この第2実施形態では、第1実施形態で用いた単一の貯湯槽2の代わりに、直列に接続された低温貯湯槽60、中温貯湯槽62、および高温貯湯槽64を有することを特徴としており、その他の構成は第1実施形態と同じ機能を果たすため同一の符号を付して説明を省略する。
【0032】
第2実施形態の低温貯湯槽60、中温貯湯槽62および高温貯湯槽64は、互いにほぼ同形状をなし、鉛直方向に延びる円筒形の側板部と、この側板部の上端および下端をドーム状に塞ぐ天板部および底板部を有し、気密性と断熱性を有している。ただし、貯湯槽60~64の形状は図示のものに限らず、互いに容量や寸法が異なっていてもよいし、角柱状であってもよいし、内部に水平な層をなす温度成層を形成できれば傾いていてもよいし、3本が直線状に並べて配置されていてもよい。また、低温貯湯槽60、中温貯湯槽62および高温貯湯槽64の他にサブタンクなどを設けてもよい。低温貯湯槽60、中温貯湯槽62および高温貯湯槽64の容積比は必ずしも限定はされず、実際の運転状況に応じて決定される。
【0033】
低温貯湯槽60の下端には下端口60Aが形成され、第1実施形態の貯湯槽2の下端口2Aと同様に給水管4に接続されている。低温貯湯槽60の上端口60Bは低位中間管66により中温貯湯槽62の下端口62Aに接続されており、低位中間管66は、第1実施形態の貯湯槽2の下位中間口2Bと同様に、供給管28の下流端に接続されている。中温貯湯槽62の上端口62Bは、上位中間管68により高温貯湯槽64の下端口64Aに接続されており、上位中間管68は、第1実施形態の貯湯槽2の上位中間口2Cと同様に、中温管47に接続されている。
【0034】
低温貯湯槽60には低温部温度センサー70が設けられている。中温貯湯槽62には下部、中央部、および上部のそれぞれに低位中間温度センサー72A、中位中間温度センサー72B、上位中間温度センサー72Cが設けられている。高温貯湯槽64には高温部温度センサー74が設けられている。これらの温度センサー70、72A~72C、74は、制御装置5に接続されており、制御装置5はこれらからの信号に基づいて、第1実施形態と同様の制御を行う。
【0035】
低温貯湯槽60の内部は低温領域Lに相当し、中温貯湯槽62の内部は中温領域Mに相当し、高温貯湯槽64の内部は高温領域Hに相当し、第1実施形態のそれらと同様の作用を果たす。
この第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、(A)循環/HP熱源モード、(B)循環/高温水+中温水熱源モード、(C)給湯/HP+高温水熱源モード、(D)給湯/HP+中温水熱源モード、(E)給湯/高温水+中温水熱源モード、(F)給湯/HP熱源モードを行うことができ、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0036】
また、第2実施形態によれば、貯湯槽が3本に分かれているから、貯湯槽の配置の自由度が高く、給湯システム全体の形状の自由度が高く、コンパクト化が図れる利点を有する。
【0037】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれらの実施形態のみに限定されることなく、特許請求の範囲内において構成の削除、既知の構成の付加、置換など自由に行うことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係る給湯システムによれば、供給管からの戻り温水を前記貯湯槽の中温領域にバッファすることで給湯(温水消費)に有効利用できるから、ヒートポンプの成績係数の低下を防ぎ、高効率運転を維持できる利点を有するから、産業上の利用が可能である。
【符号の説明】
【0039】
1: 給湯システム 2: 貯湯槽
2A: 下端口 2B: 下位中間口
2C: 上位中間口 2D: 上端口
L: 低温領域 M: 中温領域
H: 高温領域 3A: 下端部温度センサー
3B: 下位中間温度センサー 3C: 上位中間温度センサー
3D: 上端部温度センサー 4: 給水路
5: 制御装置 8: ヒートポンプ
8A: 入口 8B: 出口
24: 熱水管 25: 冷水管
26: 混合弁 28: 供給管
30: 供給温度センサー 32: 温度制御装置
34: アクチュエータ 36: 給湯設備
40: ポンプ 44: 第3弁
45: 還流管 47: 中温管
50: 第2弁 54: 第1弁
60: 低温貯湯槽 62: 中温貯湯槽
64: 高温貯湯槽 60A: 下端口
60B: 上端口 62A: 下端口
62B: 上端口 64A: 下端口
64B: 上端口 66: 低位中間管
68: 上位中間管 70: 低温部温度センサー
72A: 低位中間温度センサー 72B: 中位中間温度センサー
72C: 上位中間温度センサー 74: 高温部温度センサー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8