(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】葉面積算出方法及び収穫量予測方法
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
A01G7/00 603
(21)【出願番号】P 2021043548
(22)【出願日】2021-03-17
【審査請求日】2023-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2020049370
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「スマートバイオ産業・農業基盤技術」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】菅原 幸治
(72)【発明者】
【氏名】岡田 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文生
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-231733(JP,A)
【文献】特開2019-216656(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0180549(US,A1)
【文献】特開平8-51839(JP,A)
【文献】特開2019-54779(JP,A)
【文献】村上敏文、他,低高度空撮による投影面積を用いたレタスの新鮮重の推定と処理間差の解析,農研機構研究成果情報,日本,国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構,2013年,https://www.naro.go.jp/project/results/laboratory/narc/2010/narc10-18.html
【文献】菅原幸治、他,レタスの生育予測に基づく週別出荷数量推計アプリケーション,農研機構研究成果情報,日本,国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構,2010年,https://www.naro.go.jp/project/results/laboratory/narc/2010/narc10-18.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1株1収穫物となる野菜を圃場に定植した後、所定の時期に前記圃場の上方から複数の前記野菜を撮影した画像データを基に、前記野菜の葉面積を算出する葉面積算出方法であって、
撮影した前記画像データから、画像処理によって前記野菜の個体を識別する個体識別ステップと、
前記野菜の定植時における、畝間隔又は前記野菜の株間隔の設定値から、撮影した前記画像データのスケールを推定するスケール推定ステップと、
前記スケール推定ステップで推定した前記スケールに基づいて、前記個体識別ステップで識別した前記野菜の前記個体について葉投影面積を算出する葉投影面積算出ステップと
を有
し、
前記スケール推定ステップで用いる前記畝間隔の前記設定値は、対象とする畝について、それぞれの野菜列を前記野菜の中心位置から直線近似し、その直線間の距離と、前記畝を形成したときの間隔から求め、
前記スケール推定ステップで用いる前記株間隔の前記設定値は、前記定植時における移植機で設定された移植間隔値を用いる
ことを特徴とする葉面積算出方法。
【請求項2】
前記個体識別ステップでは、前記野菜の前記個体の外輪を識別し、識別した前記外輪から前記個体の中心位置を推定し、少なくとも一つの畝に並ぶ前記個体をサンプリング対象個体群とし、前記サンプリング対象個体群の数を識別する
ことを特徴とする
請求項1に記載の葉面積算出方法。
【請求項3】
前記葉投影面積算出ステップでは、前記サンプリング対象個体群の前記数と、前記サンプリング対象個体群の一端に位置する一方の前記個体の前記中心位置と前記サンプリング対象個体群の他端に位置する他方の前記個体の前記中心位置との中心間距離と、を用いる
ことを特徴とする
請求項2に記載の葉面積算出方法。
【請求項4】
請求項2又は
請求項3に記載の葉面積算出方法によって算出される前記サンプリング対象個体群の前記個体についての前記葉投影面積を用いて、収穫予定日における前記サンプリング対象個体群の前記個体についての収穫重量を推定する収穫重量推定ステップ
を有する
ことを特徴とする収穫量予測方法。
【請求項5】
前記収穫重量推定ステップでは、
撮影した日を栽培n日目とし、前記葉投影面積とn日目の日射量とを用いてn日目の日当たり受光量を算出し、
算出したn日目の前記日当たり受光量からn日目の葉投影面積増加量及びn日目の収穫重増加量を算出し、
n日目の前記葉投影面積増加量をn日目の前記葉投影面積に加算してn+1日目の前記葉投影面積を算出し、
n+1日目の前記葉投影面積とn+1日目の前記日射量とを用いてn+1日目の前記日当たり受光量を算出し、
算出したn+1日目の前記日当たり受光量からn+1日目の前記
葉投影面積増加量及びn+1日目の前記収穫重増加量を算出し、
n+1日目の前記収穫重増加量をn+1日目の前記収穫重量に加算してn+2日目の前記収穫重量を算出し、
前記収穫予定日まで、日単位で前記収穫重増加量を算出して加算することで前記収穫重量を推定する
ことを特徴とする
請求項4に記載の収穫量予測方法。
【請求項6】
前記収穫予定日を設定する収穫予定日設定ステップを有し、
前記収穫重量推定ステップでは、前記葉投影面積と、撮影した日以降の日別の積算日射量と、平均気温とを用いて、前記収穫予定日設定ステップで設定した前記収穫予定日における前記サンプリング対象個体群の前記個体についての前記収穫重量を推定し、更に前記収穫重量を用いて前記圃場全体の収穫総重量を算出する
ことを特徴とする
請求項4に記載の収穫量予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜の葉面積を算出する葉面積算出方法、及び葉面積算出方法によって算出される葉投影面積を用いる収穫量予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
露地野菜においては、生産者と実需者との契約取引が増加しており、契約に合わせた安定的な出荷を行うことが要求されている。一方、露地生産は天候の影響を受けやすく、これまで正確な生育予測が困難であった。そのため、生産現場では生育量を推定して収穫時期・収穫量を正確に予測する技術が求められている。
作物の収穫時期、収穫量を予測するためには、気象データを利用した生育シミュレーションモデル(例えば非特許文献1、非特許文献2)の入力値として、所定の時期における葉の鉛直投影面積(葉投影面積)の実測値を求めることが必要となる。従来、画像処理により実寸法を求めようとする場合、対象物と基準寸法指標を同時に撮影し、その基準寸法指標を基に対象物の実寸法を算出したり(特許文献1、特許文献2)、撮影装置からスケール画像を投影してスケール画像と共に対象物を撮影し、実寸法を算出することが必要であった(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平08-51839号公報
【文献】特開2015-227787号公報
【文献】特開2011-247810号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】岡田邦彦、他2名,“日射量がレタスの乾物重増加に及ぼす影響のモデル化”,四国農業試験場報告,第61号(50周年記念号),1997,p.67-73
【文献】岡田邦彦、他4名,“日日射量と日平均気温,栽植密度に基づく冬どりキャベツの生育モデル”,野菜茶業研究成果情報,2007年08月31日発行,p.25-26
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1から特許文献3に記載の方法では、圃場を広く撮影した画像を用いて対象物の実寸法を算出することが困難である。すなわちこれらの方法を採用する場合は、個々の対象物を基準寸法指標とともに撮影する必要があり、圃場全体にある作物を撮影するには多大な時間を要する。また、上空から圃場を広く撮影しようとすると、大きな基準寸法指標が必要となるなど現実的ではない。
【0006】
本発明は、撮影した画像データのスケールの推定を容易にすることで葉投影面積を容易に算出できる葉面積算出方法、及びこの葉面積算出方法によって算出される葉投影面積を用いる収穫量予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の本発明の葉面積算出方法は、1株1収穫物となる野菜を圃場に定植した後、所定の時期に前記圃場の上方から複数の前記野菜を撮影した画像データを基に、前記野菜の葉面積を算出する葉面積算出方法であって、撮影した前記画像データから、画像処理によって前記野菜の個体を識別する個体識別ステップと、前記野菜の定植時における、畝間隔又は前記野菜の株間隔の設定値から、撮影した前記画像データのスケールを推定するスケール推定ステップと、前記スケール推定ステップで推定した前記スケールに基づいて、前記個体識別ステップで識別した前記野菜の前記個体について葉投影面積を算出する葉投影面積算出ステップとを有し、前記スケール推定ステップで用いる前記畝間隔の前記設定値は、対象とする畝について、それぞれの野菜列を前記野菜の中心位置から直線近似し、その直線間の距離と、前記畝を形成したときの間隔から求め、前記スケール推定ステップで用いる前記株間隔の前記設定値は、前記定植時における移植機で設定された移植間隔値を用いることを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の葉面積算出方法において、前記個体識別ステップでは、前記野菜の前記個体の外輪を識別し、識別した前記外輪から前記個体の中心位置を推定し、少なくとも一つの畝に並ぶ前記個体をサンプリング対象個体群とし、前記サンプリング対象個体群の数を識別することを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項2に記載の葉面積算出方法において、前記葉投影面積算出ステップでは、前記サンプリング対象個体群の前記数と、前記サンプリング対象個体群の一端に位置する一方の前記個体の前記中心位置と前記サンプリング対象個体群の他端に位置する他方の前記個体の前記中心位置との中心間距離と、を用いることを特徴とする。
請求項4記載の本発明の収穫量予測方法は、請求項2又は請求項3に記載の葉面積算出方法によって算出される前記サンプリング対象個体群の前記個体についての前記葉投影面積を用いて、収穫予定日における前記サンプリング対象個体群の前記個体についての収穫重量を推定する収穫重量推定ステップを有することを特徴とする。
請求項5記載の本発明は、請求項4に記載の収穫量予測方法であって、前記収穫重量推定ステップでは、撮影した日を栽培n日目とし、前記葉投影面積とn日目の日射量とを用いてn日目の日当たり受光量を算出し、算出したn日目の前記日当たり受光量からn日目の葉投影面積増加量及びn日目の収穫重増加量を算出し、n日目の前記葉投影面積増加量をn日目の前記葉投影面積に加算してn+1日目の前記葉投影面積を算出し、n+1日目の前記葉投影面積とn+1日目の前記日射量とを用いてn+1日目の前記日当たり受光量を算出し、算出したn+1日目の前記日当たり受光量からn+1日目の前記葉投影面積増加量及びn+1日目の前記収穫重増加量を算出し、n+1日目の前記収穫重増加量をn+1日目の前記収穫重量に加算してn+2日目の前記収穫重量を算出し、前記収穫予定日まで、日単位で前記収穫重増加量を算出して加算することで前記収穫重量を推定することを特徴とする。
請求項6記載の本発明は、請求項4に記載の収穫量予測方法であって、前記収穫予定日を設定する収穫予定日設定ステップを有し、前記収穫重量推定ステップでは、前記葉投影面積と、撮影した日以降の日別の積算日射量と、平均気温とを用いて、前記収穫予定日設定ステップで設定した前記収穫予定日における前記サンプリング対象個体群の前記個体についての前記収穫重量を推定し、更に前記収穫重量を用いて前記圃場全体の収穫総重量を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、野菜の定植時における、畝間隔又は野菜の株間隔の設定値から、撮影した画像データのスケールを推定するため、葉投影面積を容易に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施例による葉面積算出方法及び収穫量予測方法の処理ステップを示すフローチャート
【
図2】同葉面積算出方法を説明するためのサンプル写真
【
図3】画像データから算出した撮影時の葉投影面積を基にした収穫重量推定方法を示すフローチャート
【
図4】地上部重と結球重について、
図3のフローチャートに基づく生育シミュレーションの推定値と、調査による実測値との比較を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の第1の実施の形態による葉面積算出方法は、撮影した画像データから、画像処理によって野菜の個体を識別する個体識別ステップと、野菜の定植時における、畝間隔又は野菜の株間隔の設定値から、撮影した画像データのスケールを推定するスケール推定ステップと、スケール推定ステップで推定したスケールに基づいて、個体識別ステップで識別した野菜の個体について葉投影面積を算出する葉投影面積算出ステップとを有し、スケール推定ステップで用いる畝間隔の設定値は、対象とする畝について、それぞれの野菜列を野菜の中心位置から直線近似し、その直線間の距離と、畝を形成したときの間隔から求め、スケール推定ステップで用いる株間隔の設定値は、定植時における移植機で設定された移植間隔値を用いるものである。
本実施の形態によれば、野菜の定植時における、畝間隔又は野菜の株間隔の設定値から、撮影した画像データのスケールを推定するため、葉投影面積を容易に算出することができる。
【0011】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による葉面積算出方法において、個体識別ステップでは、野菜の個体の外輪を識別し、識別した外輪から個体の中心位置を推定し、少なくとも一つの畝に並ぶ個体をサンプリング対象個体群とし、サンプリング対象個体群の数を識別するものである。
本実施の形態によれば、サンプリング対象個体群について葉投影面積を算出することで圃場全体についての葉面積算出が容易に行える。
【0012】
本発明の第3の実施の形態は、第2の実施の形態による葉面積算出方法において、葉投影面積算出ステップでは、サンプリング対象個体群の数と、サンプリング対象個体群の一端に位置する一方の個体の中心位置とサンプリング対象個体群の他端に位置する他方の個体の中心位置との中心間距離と、を用いるものである。
本実施の形態によれば、サンプリング対象個体群について正確に葉投影面積を算出することができる。
【0013】
本発明の第4の実施の形態による収穫量予測方法は、第2又は第3の実施の形態による葉面積算出方法によって算出されるサンプリング対象個体群の個体についての葉投影面積を用いて、収穫予定日におけるサンプリング対象個体群の個体についての収穫重量を推定する収穫重量推定ステップを有するものである。
本実施の形態によれば、収穫予定日におけるサンプリング対象個体群の個体についての収穫重量を容易に推定できる。
【0014】
本発明の第5の実施の形態は、第4の実施の形態による収穫量予測方法において、収穫重量推定ステップでは、撮影した日を栽培n日目とし、葉投影面積とn日目の日射量とを用いてn日目の日当たり受光量を算出し、算出したn日目の日当たり受光量からn日目の葉投影面積増加量及びn日目の収穫重増加量を算出し、n日目の葉投影面積増加量をn日目の葉投影面積に加算してn+1日目の葉投影面積を算出し、n+1日目の葉投影面積とn+1日目の日射量とを用いてn+1日目の日当たり受光量を算出し、算出したn+1日目の日当たり受光量からn+1日目の葉投影面積増加量及びn+1日目の収穫重増加量を算出し、n+1日目の収穫重増加量をn+1日目の収穫重量に加算してn+2日目の収穫重量を算出し、収穫予定日まで、日単位で収穫重増加量を算出して加算することで収穫重量を推定するものである。
本実施の形態によれば、撮影時の葉投影面積を基にして、収穫予定日まで、日単位での葉投影面積増加量及び収穫重増加量を算出することで、より精度の高い収穫重量を予測することができる。
【0015】
本発明の第6の実施の形態は、第4の実施の形態による収穫量予測方法において、収穫予定日を設定する収穫予定日設定ステップを有し、収穫重量推定ステップでは、葉投影面積と、撮影した日以降の日別の積算日射量と、平均気温とを用いて、収穫予定日設定ステップで設定した収穫予定日におけるサンプリング対象個体群の個体についての収穫重量を推定し、更に収穫重量を用いて圃場全体の収穫総重量を算出するものである。
本実施の形態によれば、収穫予定日における圃場全体の収穫総重量を容易に推定できる。
【実施例】
【0016】
以下本発明の一実施例による葉面積算出方法及び収穫量予測方法について説明する。
図1は本実施例による葉面積算出方法及び収穫量予測方法の処理ステップを示すフローチャート、
図2は同葉面積算出方法を説明するためのサンプル写真である。
【0017】
本実施例による葉面積算出方法は、圃場の上方から複数の野菜を撮影した画像データを用いて行う。圃場の上方からの撮影は、無人で遠隔操作や自動制御によって飛行できる航空機によって行うことができる。なお、農作業に用いる農業機械から撮影してもよい。
対象となる野菜は、1株1収穫物となる野菜であり、例えば、キャベツ、レタス、ホウレンソウ、ブロッコリーであるが、大根、人参、ネギ、玉ねぎにも適用できる。
画像データは、野菜を圃場に定植した後、所定の時期に撮影したものである。例えば、定植から収穫までの期間が3~4か月であるキャベツでは、定植から1か月ほど経過した頃に撮影を行う。レタスの場合は定植から2~4週間経過した頃に行う。いずれも、隣接する株の葉が接し始める時期に撮影することが好ましい。
【0018】
まず、撮影した画像データから、画像処理によって野菜の個体を識別する。
画像データを入力すると(S1)、画像データから野菜の個体の外輪を識別する。野菜の個体の外輪を識別することで野菜の個体を識別する。土壌又はマルチシート上の野菜を識別するには、画素を2値化することで処理を容易に行える。
隣接する画素間で濃度値を比較し、野菜の個体を土壌又はマルチシートと区別し、個体の外輪を識別する(S2)。
レタスの場合であれば、識別された外輪は、1個体の葉の外接円であると推定する。
識別した外輪(外接円)1の中心を個体の中心とみなして個体の中心位置2を推定する(S3)。なお、葉の投影形状から重心を求め、これを個体の中心とみなしてもよい。
図2では、識別した個体の外輪1と、外輪1から求められた個体の中心位置2を図示している。
中心位置2を推定できた個体の中から、サンプリング対象個体群を特定する(S4)。そしてサンプリング対象個体群の個体数を識別する(S5)。サンプリング対象個体群は隣接する2つの個体であってもよい。なお、サンプリング対象個体群として特定する全ての個体は、中心位置2を推定できた個体であることが好ましいが、中心位置2を推定できない個体が含まれていてもよい。サンプリング対象個体群の特定にあたっては、例えば、作業者が指示する範囲とする方法、予め指定された個体数分だけ離れた作物を対象とする方法、画面の中央付近、即ち画像を複数に分割した中央部分に含まれる中央位置に近い畝を抽出して特定する方法がある。
図2では、7つの個体をサンプリング対象個体群としたものを図示している。
S2からS5が個体識別ステップである。
このように、個体識別ステップでは、野菜の個体の外輪1を識別し、識別した外輪1から個体の中心位置2を推定し、少なくとも一つの畝に並ぶ個体をサンプリング対象個体群とし、サンプリング対象個体群の数を識別する。
【0019】
次に、野菜の定植時における畝間隔又は野菜の株間隔の設定値と、サンプリング対象個体群の数及び画像上の距離とから、撮影した画像データのスケールを推定する(スケール推定ステップ)。
スケール推定ステップ(S7)で用いる株間隔の設定値は、定植時における移植機で設定された移植間隔値とする(S6)。なお、野菜の株間隔に代えて、又は野菜の株間隔とともに、畝立て時の畝間の距離の設定値を用いることもできる。
野菜の株間隔の設定値を入力すると(S6)、画像データのスケールが推定される。推定されるスケールを、撮影された全体画像(例えば
図2)に適用してもよい。
例えば株間隔の設定値が60cmであり、画像データにおける株間隔寸法が6cmであれば、スケール変換係数は0.1と推定され、画像データのスケールは、画像データにおける1cmの寸法が10cmであると推定される。
【0020】
画像データのスケールが推定されると、推定したスケールに基づいて、個体識別ステップ(S5)で識別した野菜の個体について、S2で識別された個体の外輪1を用いて、葉投影面積を算出する(葉投影面積算出ステップ)。
葉投影面積算出ステップ(S8)では、画像データ中の個々の作物に対してスケール変換係数を用いて、個々の作物の実際の葉面積を算出することができ、又は、画像データ中に占める葉の面積を集計し、それに対してスケール変換係数を用いて、画像データ内における葉面積を算出することができる。
葉投影面積算出ステップ(S8)では、サンプリング対象個体群を、1枚の画像の中で複数個所から抽出することが好ましい。サンプリング対象個体群について、その両端の距離と個体数とでスケールを割りだす方法は、作物の中心位置2の推定誤差を軽減することができる。この場合にも、得られたスケールを当該作物群に適用する方法と、圃場全体に適用する方法がある。割り出したスケールとS2で識別された個体の外輪1を用いて葉投影面積を算出することができる。
また、畝に沿って2個ずつ作物群を識別し、当該2個について葉投影面積を算出してもよい。例えば、カメラの特性により、中心部と周辺部で拡大率が異なり、ゆがみが発生したりした場合であっても、その影響を軽減できる。
【0021】
このように、野菜の定植時における、畝間隔又は野菜の株間隔の設定値から、撮影した画像データのスケールを推定するため、葉投影面積を容易に算出することができる。
また、株間隔の設定値として、定植時における移植機で設定された移植間隔値を用いることで、撮影した画像データのスケールを容易に推定できる。
畝間隔を用いる場合には、それぞれの畝に定植された作物が一列に並ぶとは限らず、対象とする畝について、それぞれの作物列を作物の中心位置2から直線近似し、その直線間の距離と、畝を形成したときの間隔からスケールを求めることができる。この場合にも、隣接する畝間だけでなく、離れた畝間を用いてもよい。
また、サンプリング対象個体群の数と、サンプリング対象個体群の一端に位置する一方の個体の中心位置2とサンプリング対象個体群の他端に位置する他方の個体の中心位置2との中心間距離と、を用いることで、サンプリング対象個体群について正確に葉投影面積を算出することができる。
葉面積の算出にあたっては、圃場全体としてとらえる方法もある。すなわち、撮影された画像の株間隔又は畝間隔からスケールを求め、撮影された画像中の葉に相当する画素部分を積算し、画像全体に占める画素に対する比率を算出する。一方、スケールから撮影された圃場の実面積を算出し、圃場全体の面積に対する撮影された圃場の実面積の比を求める。このようにして演算することで、圃場の実面積を基にした圃場全体の葉の実面積を算出することができる。
【0022】
なお、個体識別及び個体数の計測は、以下の方法でもよい。
第1の方法は、撮像された画像中の任意の隣接した2つの株1組を抽出し、その株間の画像データ上の距離を求める。最も簡単に処理できる方法であり、この場合、求められたスケール変換係数を画像全体に適用する場合には、撮影された画像データの中心部に近いところから株を抽出することで、画像データのゆがみ等が軽減される。
一方、例えば撮像された画像データを、例えば中央部、右上部、左上部、右下部、左下部に区分し、それぞれの領域内で2つの株1組を抽出し、それぞれの株1組に対してスケール変換係数を求めることでも、撮像装置による画像データのゆがみによる影響を軽減できる。
第2の方法は、画像データ中から隣接した複数組の株を抽出し、それぞれから得られた株間の画像データ上の間隔値の平均を求める。そして、算出された株間の間隔値を撮像された画像データ全体に適用する。
第3の方法は、同一畝上の複数の作物(個体)から算出する方法であり、
図2に示されるように、複数の株(この場合7個)を抽出したうえで、隣接する株間それぞれの画像データ上の間隔値を算出してそれを平均化する。平均化することにより、誤差を軽減することができ、第2の方法に近い効果が得られる。
第4の方法は、同一畝上の複数の作物(個体)から算出する方法であり、
図2に示されている複数の株の両端の株間の距離を検出し、その間に挟まれた株の個数+1(
図2の場合は5+1)で除すことにより画像データ上の株間の距離を求める。第3の方法よりも手間がかからず、また、離れた2点間の距離を用いることから、誤差を軽減することができる。更に、間に挟まれた株に対して、外輪1が識別(検出)できなかった場合でも、算出が可能となる。
第5の方法は、畝間を算出する方法であり、畝の方向に直角方向に画像データ上の株の間隔を、画像データより畝方向を検出し、それに直角な仮想線を引き、その仮想線に近いところに位置する隣接する一対の株を抽出してその距離を求める。第1の方法の方向を変えたものであり、第2の方法、第3の方法、及び第4の方法にも適用できる。
第6の方法は、畝間を算出する方法であり、
図2に示されているような複数個からなる作物列から、その中心を繋ぐ直線を求める。直線は例えば最小二乗法を用いて求めることができる。これを例えば隣接する二つの畝でそれぞれ直線を求め、その間の距離を求めることで、畝間の画像データ上の間隔を求める。
なお、第3の方法や第4の方法の場合には、予め抽出する作物(個体)の数(又は間に挟む作物(個体)の数)を指定して、自動的に抽出するようにしてもよいし、画像データを見ながら作業者が指定してもよい。
第5の方法や第6の方法の場合は、移植機の移植間隔ではなく、畝立機による畝の間隔となる。
【0023】
次に、収穫予定日を設定する(収穫予定日設定ステップ)。
収穫予定日設定ステップ(S9)で収穫予定日を設定することで、収穫予定日におけるサンプリング対象個体群の個体についての収穫重量を推定することができる(収穫重量推定ステップ)。
収穫重量推定ステップ(S10)では、撮影した日の個体の葉投影面積と、撮影した日以降の日別の積算日射量と、平均気温とを用いて、収穫予定日設定ステップで設定した収穫予定日におけるサンプリング対象個体群の個体についての収穫重量を推定する。
そして、サンプリング対象個体群の個体についての収穫重量を用いて圃場全体の収穫総重量を算出する(S11)。圃場全体の収穫総重量を算出するにあたっては、サンプリング対照群の個体に対して推定された収穫重量、あるいはサンプリング対照群の個体それぞれに推定された収穫重量の平均値を基に収穫総重量を求めることができる。このとき、収穫重量又は収穫重量の平均値と定植数をかけて求めてもよい。また、定植数に代えて、畝間隔又は野菜の株間隔の設定値と圃場面積を用いてもよい。
なお、サンプル対照群の個体について推定される重量によりランク分けを行い、それぞれのランクに収まる比率を算出するとともに、出荷基準に対して大きすぎるランクあるいは小さすぎるランクに含まれる個体を除外するようにしてもよい。この場合、上記比率を用いて収穫総重量からその分を減らすようにしてよい。
【0024】
図3は、画像データから算出した撮影時の葉投影面積を基にした収穫重量(キャベツの場合、結球重)推定方法を示すフローチャートである。
撮影時の葉投影面積を「n日目の葉投影面積」として用いる(S21)。なお、例えばnを、定植1日目としてもよい。
そして、「n日目の葉投影面積」を基に「n日目の葉受光面積」を算出する(S22)。
S22における「n日目の葉受光面積」の算出にあたっては作付圃場における畝間及び株間の設定値を用いる。ここで、隣接する株の葉が接していない状態では、「n日目の葉投影面積」が「n日目の葉受光面積」となる。隣接する株の葉が畝間×株間全体を覆っている場合、すなわち「n日目の葉投影面積」が畝間×株間の面積より大きい状態では、畝間×株間の面積が「n日目の葉受光面積」となる。なお、隣接する株の葉が接しているが、畝間×株間全体を覆っていない状態では、例えば葉受光面積=f(葉投影面積・株間・畝間)の関数を用いて算出することができる。
S22における「n日目の葉受光面積」とn日目の全天日射量とから「日当たり受光量」を算出する(S23)。
S23における「日当たり受光量」から「葉投影面積増加量(ΔVPA)」を算出する(S24)。
S24における「葉投影面積増加量」の算出にあたっては、日射利用効率(radiation use efficiency;以下RUE)に基づく葉面積増加係数(RUE
LA)を用いる。植物体では、日あたり受光量(DIR n)と植物体の増加量とが比例しているとみなすことができ、その比例定数(係数)のことを、日射利用効率(RUE)という。RUEは、日射量と作物の受光態勢について一種の標準化を行っているとみなせるものである。葉面積増加係数(RUE
LA)は、葉面積の増加にかかわる日射利用効率、葉投影面積増加量(ΔVPA)は、日あたり受光量と葉面積増加係数の積であり、葉投影面積増加量(ΔVPA)=日あたり受光量(DIR n)×葉面積増加係数(RUE
LA)となる。
S24における「葉投影面積増加量」を、S21における「n日目の葉投影面積」に加算することで「n+1日目の葉投影面積」を算出することができる(S25)。ここで、隣接する株の葉が接していない状態では、葉面積と葉投影面積は等しいとみなす。
そして、S25における「n+1日目の葉投影面積」を、S21における「n日目の葉投影面積」として、S22からS24までを行うことで、更に「n+2日目の葉投影面積」を算出することができる。
なお、S23の「日当たり受光量」の算出に用いる全天日射量には、予報値や年平均値を用いることができる。
このように、撮影時の葉投影面積を基にして、収穫予定日まで、日単位での「葉投影面積増加量」を算出することで、より精度の高い葉面積を予測することができる。
【0025】
一方、S23における「日当たり受光量」から「地上部重増加量」を算出する(S31)。
S31における「地上部重増加量(ΔTW)」の算出にあたっては、RUEに基づく地上部重増加係数(RUETW)を用いる。地上部重増加係数(RUETW)は、地上部重の増加にかかわる日射利用効率、地上部重増加量(ΔTW)は、日あたり受光量と地上部重増加係数の積であり、地上部重増加量(ΔTW)=日あたり受光量(DIR n)×地上部重増加係数(RUETW)となる。
S31における「地上部重増加量」を、「n日目の地上部重」に加算することで「n+1日目の地上部重」を算出することができる(S32)。ここで、「n日目の地上部重」は、例えば定植日の重量と定植日からの日数を用いて算出することができる。
そして、S32における「n+1日目の地上部重」を、「n日目の地上部重」とし、S25における「n+1日目の葉投影面積」をS21における「n日目の葉投影面積」として算出されたS23における「日当たり受光量」を基に算出した「地上部重増加量」を加算することで、更に「n+2日目の地上部重」を算出することができる。
このように、撮影時の葉投影面積を基にして、収穫予定日まで、日単位での「葉投影面積増加量」及び「地上部重増加量」を算出することで、より精度の高い地上部重(収穫重量)を予測することができる。
【0026】
また、結球開始以降については、S31における「地上部重増加量」から「結球重増加量(ΔDW)」を算出する(S33)。
S33における「結球重増加量」の算出にあたっては、結球分配率(DH)を用いる。結球分配率(DH)は、地上部重増加量(ΔTW)のうち、結球部に分配される重量の割合であり、結球重増加量(ΔDW)=地上部重増加量(ΔTW)×結球分配率(DH)となる。
ここで、結球分配率DHは、キャベツの場合、非特許文献2で開示されている下記の式を用いることができる。
結球分配率=0.3/(1+exp((4-日平均気温)/2))+0.5
S33における「結球重増加量」を、「n日目の結球重」に加算することで「n+1日目の結球重」を算出することができる(S34)。ここで、「n日目の結球重」は、例えば定植日の重量と定植日からの日数を用いて算出することができる。
そして、S34における「n+1日目の結球重」を、「n日目の結球重」とし、S25における「n+1日目の葉投影面積」をS21における「n日目の葉投影面積」として算出されたS23における「日当たり受光量」及びS31における「地上部重増加量」を基に算出した「結球重増加量」を加算することで、更に「n+1日目の結球重」を算出することができる。
このように、撮影時の葉投影面積を基にして、収穫予定日まで、日単位での「葉投影面積増加量」、「地上部重増加量」、及び「結球重増加量」を算出することで、より精度の高い結球重(収穫重量)を予測することができる。
【0027】
図4は、地上部重と結球重について、
図3のフローチャートに基づく生育シミュレーションの推定値と、調査による実測値との比較を示すグラフである。
図4(a)は地上部新鮮重の変化を示し、
図4(b)は結球部新鮮重の変化を示し、グラフ中、折れ線は本実施例による生育シミュレーションの推定値、ドットはサンプリング調査による実測値である。
図4に示すように、地上部新鮮重及び結球部新鮮重のいずれも精度よく推定できている。
【0028】
このように、収穫予定日におけるサンプリング対象個体群の個体についての収穫重量を容易に推定でき、更に、収穫予定日における圃場全体の収穫総重量を容易に推定できる。
なお、収穫予定日におけるサンプリング対象個体群の個体について、重量別にクラス分けすることもできる。更には、野菜一個一個に識別コードを付し、識別コードと収穫重量予測を関連付けることにより、収穫時にその情報を収穫機に提供することで、所定重量に満たない野菜の収穫をスキップ(廃棄)し、分別して収穫し、又は所定重量に満たない野菜について収穫時期を遅らす、などといった対応を行うことも可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明による葉面積算出方法及び収穫量予測方法は、露地野菜等の生産、流通、販売に関わる生産者と実需者の双方で利用できる。
【符号の説明】
【0030】
1 外輪
2 中心位置
S2~S5 個体識別ステップ
S7 スケール推定ステップ
S8 葉投影面積算出ステップ
S9 収穫予定日設定ステップ
S10 収穫重量推定ステップ