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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】銀付調人工皮革及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/14 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
D06N3/14
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020196791
(22)【出願日】2020-11-27
(65)【公開番号】P2022085218
(43)【公開日】2022-06-08
【審査請求日】2023-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100133798
【弁理士】
【氏名又は名称】江川 勝
(74)【代理人】
【氏名又は名称】古川 通子
(72)【発明者】
【氏名】芦田 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】原 寛斉
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-150649(JP,A)
【文献】特開2004-051778(JP,A)
【文献】特開平05-044173(JP,A)
【文献】特開2014-065980(JP,A)
【文献】特開2008-057062(JP,A)
【文献】特開平02-242979(JP,A)
【文献】特開2010-229267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N 1/00ー7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維絡合体及び、前記繊維絡合体に含浸及び積層されて一体化された、表層の厚さ方向の断面において、5μm以下の径を有する小さな空孔を多数含むが、10μm以上の径を有する空孔を含まない厚さ10~20μmのスキン層と、最長の幅が10μm以上である多数の大きな空孔を含む内層と、を有する湿式ポリウレタン多孔質層を備える基材を準備する工程と、
前記湿式ポリウレタン多孔質層の表面を、平均15μm以上の径を有する開放孔を露出させないようにバフィングする工程と、
離型紙上に形成された厚さ10~50μmのポリウレタン表皮層を準備する工程と、
前記ポリウレタン表皮層またはバフィング後の前記湿式ポリウレタン多孔質層の表面に水性ポリウレタン接着剤を塗布した後、乾燥することによりポリウレタン接着層を形成する工程と、
バフィング後の前記湿式ポリウレタン多孔質層と前記ポリウレタン表皮層とを前記ポリウレタン接着層を介して貼り合わせるためのプレス工程と、を備えることを特徴とする銀付調人工皮革の製造方法。
【請求項2】
前記水性ポリウレタン接着剤はポリウレタン会合型増粘剤を含有する請求項1に記載の銀付調人工皮革の製造方法。
【請求項3】
繊維絡合体と、前記繊維絡合体に含浸及び積層されて一体化された湿式ポリウレタン多孔質層と、前記湿式ポリウレタン多孔質層にポリウレタン接着層を介して積層された厚さ10~50μmのポリウレタン表皮層とを含み
前記湿式ポリウレタン多孔質層は、表層の厚さ方向の断面において、5μm以下の径を有する小さな空孔を多数含むが、10μm以上の径を有する空孔を含まない厚さ10~20μmのスキン層と、最長の幅が10μm以上である多数の大きな空孔を含む内層と、を有し、
前記スキン層の表面には、平均15μm未満の孔径の開放孔が存在し、前記ポリウレタン接着層が水性ポリウレタン接着剤に由来することにより、前記湿式ポリウレタン多孔質層の前記ポリウレタン接着層との界面が溶解されていないことを特徴とする銀付調人工皮革。
【請求項4】
記ポリウレタン接着層はポリウレタン会合型増粘剤を含有する請求項3に記載の銀付調人工皮革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維絡合体と繊維絡合体に含浸及び積層されて一体化された湿式ポリウレタン多孔質層と湿式ポリウレタン多孔質層にポリウレタン接着層を介して積層されたポリウレタン表皮層とを備える銀付調人工皮革及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鞄や衣料や靴等の表皮材として用いられている、天然皮革に似せた銀付調の外観を有する銀付調人工皮革が知られている。このような銀付調人工皮革として、繊維絡合体と繊維絡合体に積層された湿式ポリウレタン多孔質層と湿式ポリウレタン多孔質層にポリウレタン接着層を介して接着されたポリウレタン表皮層とを備える銀付調人工皮革が知られている。
【0003】
例えば、下記特許文献1は、ステープル繊維からなる3次元絡合不織布及び水性樹脂分散体により付与された高分子弾性体からなる基体層の少なくとも片面に水性ポリウレタン樹脂分散体によって形成される銀面層を有する銀付調人工皮革において、銀面層と基体層とが水性ポリウレタン樹脂分散体と架橋剤とからなる架橋系ポリウレタンを用いて接着されており、かつ架橋系ポリウレタンが基体層表面から150~400μm下の基体層内部まで浸透している銀付人工皮革を開示する。
【0004】
また、例えば、下記特許文献2は、繊維基材層にポリウレタン溶液を塗布し、湿式凝固させることにより繊維基材層の表面に湿式ポリウレタン多孔質層を積層し、湿式ポリウレタン多孔質層の表面をバフィングした後、その表面にポリウレタン表皮層を溶剤系接着剤から形成されたポリウレタン接着層を介して接着する工程を備える銀付調人工皮革の製造方法を開示する。
【0005】
また、例えば、下記特許文献3は、合成皮革の製造に用いられる水系接着剤として、水性ポリウレタン樹脂を含む主剤と、ポリイソシアネート化合物を含む硬化剤とを含み、ポリイソシアネート化合物が、ビウレット結合を有するか、または、トリメチロールプロパンにより変性されている二液硬化型水系接着剤を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-155672号公報
【文献】特開2018-150649号公報
【文献】特開2010-229267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
湿式ポリウレタン多孔質層にポリウレタン接着層を介して厚さ10~50μm程度の薄いポリウレタン表皮層を接着した構成を有する銀付調人工皮革が知られている。このような銀付調人工皮革においては、薄いポリウレタン表皮層を湿式ポリウレタン多孔質層に接着するために、ポリウレタン接着層による接着力が低い場合には湿式ポリウレタン多孔質層からポリウレタン表皮層が経年劣化により剥離しやすくなることがあった。そのために、ポリウレタン接着層としては、高い接着強度が得られやすい有機溶剤を含む溶剤系接着剤が広く用いられていた。溶剤系接着剤によれば、接着剤に含まれる有機溶剤が湿式ポリウレタン多孔質層の表層を溶解して荒らすために、アンカー効果による高い接着性を保持させることができる。
【0008】
しかし、ポリウレタン接着層を形成するために溶剤系接着剤を用いた場合、得られる銀付調人工皮革がカール(内巻き)するという問題があった。各種製品に仕上げるために、人工皮革に縫製等の後加工を施す場合、人工皮革のカールを矯正して平坦にしなければ作業性が低下するという問題があった。
【0009】
また、別の問題として、人工皮革の製造工程において用いられるポリウレタンの溶剤としてN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等の揮発性有機化合物(VOC)が使用されている。近年、大気汚染の抑制の観点から、法的規制や自主規制等によりVOCの排出量の低減がますます厳しく求められている。
【0010】
人工皮革の製造工程においては、繊維基材に含浸させるためのポリウレタン溶液の溶媒としてDMF等の有機溶剤が使用されている。また、銀付調人工皮革の製造においては、繊維基材に銀面調の樹脂層を接着するために、有機溶剤を含むポリウレタン系接着剤が用いられていることが多い。人工皮革の製造工程においては、各種規制に適合させるために、工程内で発生する有機溶剤をできる限り回収することが求められている。
【0011】
しかしながら、得られる人工皮革にも、不可避的に微量の有機溶剤が残留することがある。そのために、人工皮革の製造工程においては、できる限り有機溶剤を使用しないクリーンな工程として、繊維基材の製造工程の水系化や、繊維基材にポリウレタンを含浸させる工程において水を主体とするエマルジョンを用いる水系化等が進められている。しかし、全ての人工皮革の製造工程から有機溶剤を完全に排除することは現時点では実現されていない。そのために、有機溶剤を使用する工程においては、工程内で有機溶剤をできる限り回収して、人工皮革の製品中に有機溶剤を残留させないように処理する工程の開発も求められている。
【0012】
本発明はこのような問題を解決すること、すなわち、湿式ポリウレタン多孔質層にポリウレタン表皮層を、ポリウレタン接着層を介して接着した構成を有する銀付調人工皮革において、製造直後のカールの発生を抑制できる銀付調人工皮革を提供することを目的とする。また、副次的には、銀付調人工皮革中の有機溶剤の残留量を低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上述したような銀付調人工皮革の製造において、製造直後のカールの発生を抑制することを目的として検討した結果、溶剤系接着剤を用いて薄いポリウレタン表皮層を接着した場合、溶剤系接着剤中の溶剤が揮発しにくくなり、湿式ポリウレタン多孔質層の表層を溶解させ過ぎて、多孔構造が消失して、その部分が減容することにより、ポリウレタン多孔質層が収縮して銀付調人工皮革がカールすることに気付いた。また、カールを防ぎながらポリウレタン表皮層を充分に接着させるためには、ポリウレタン多孔質層の表面を、大きな気孔がほとんど存在しないスキン層を残す程度にバフィングして荒らすことにより、カールが形成されにくくなることを見出し、本発明に想到するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の一局面は、繊維絡合体及び、繊維絡合体に含浸及び積層されて一体化された、表層の厚さ方向の断面において、5μm以下の径を有する小さな空孔を多数含むが、10μm以上の径を有する空孔を含まない厚さ10~20μmのスキン層と、最長の幅が10μm以上である多数の大きな空孔を含む内層と、を有する湿式ポリウレタン多孔質層を備える基材を準備する工程と、湿式ポリウレタン多孔質層の表面を、平均15μm以上の径を有する開放孔を露出させないようにバフィングする工程と、離型紙上に形成された厚さ10~50μmのポリウレタン表皮層を準備する工程と、ポリウレタン表皮層またはバフィング後の湿式ポリウレタン多孔質層の表面に水系ポリウレタンを含む水性ポリウレタン接着剤を塗布した後、乾燥することによりポリウレタン接着層を形成する工程と、バフィング後の湿式ポリウレタン多孔質層とポリウレタン表皮層とをポリウレタン接着層を介して貼り合わせるためのプレス工程と、を備える銀付調人工皮革の製造方法である。
【0015】
上述した製造方法によれば、大きな気孔がほとんど存在しないスキン層を残すように湿式ポリウレタン多孔質層の表面をバフィングして荒らすことにより、湿式ポリウレタン多孔質層には、強度の高いスキン層が残される。また、湿式ポリウレタン多孔質層とポリウレタン表皮層とを貼り合わせる際に、湿式ポリウレタン多孔質層とポリウレタン表皮層とを水性ポリウレタン接着剤で接着することにより、湿式ポリウレタン多孔質層の表層のスキン層が溶解されない。その結果、製造直後の銀付調人工皮革にカールが発生しにくくなる。また、副次的には、このような製造方法によれば、ポリウレタン接着層に由来するVOCの残留量を低減させることができる。
【0016】
また、水性ポリウレタン接着剤はポリウレタン会合型増粘剤を含有することが、ポリウレタン表皮層を充分に接着する厚さを有するポリウレタン接着層を形成させやすい点から好ましい。
【0017】
また、本発明の他の一局面は、繊維絡合体と、繊維絡合体に含浸及び積層されて一体化された湿式ポリウレタン多孔質層と、湿式ポリウレタン多孔質層にポリウレタン接着層を介して積層された厚さ10~50μmのポリウレタン表皮層とを含み、湿式ポリウレタン多孔質層は、表層の厚さ方向の断面において、5μm以下の径を有する小さな空孔を多数含むが、10μm以上の径を有する空孔を含まない厚さ10~20μmのスキン層と、最長の幅が10μm以上である多数の大きな空孔を含む内層と、を有し、スキン層の表面には、平均15μm未満の孔径の開放孔が存在し、ポリウレタン接着層が水性ポリウレタン接着剤に由来することにより、湿式ポリウレタン多孔質層のポリウレタン接着層との界面が溶解されていない銀付調人工皮革である。ポリウレタン接着層との界面が溶解されていない湿式ポリウレタン多孔質層においては、大きな気孔を含まない、スキン層を表層に存在させることができる。具体的には、例えば、湿式ポリウレタン多孔質層の表層の厚さ方向の断面において、10μm以上の幅を有する気孔が存在していない、10~20μmの厚さのスキン層が存在する。このような銀付調人工皮革によれば、製造後にカールが発生しにくくなる。また、副次的には、ポリウレタン接着層に由来するVOCの排出を低減させることができる。
【0018】
また、ポリウレタン接着層はポリウレタン会合型増粘剤を含有することが、ポリウレタン表皮層を充分に接着する厚さのポリウレタン接着層を形成させやすい点から好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、湿式ポリウレタン多孔質層に薄いポリウレタン表皮層を、ポリウレタン接着層を介して接着した構成を有する銀付調人工皮革において、製造直後のカールの発生を抑制できる銀付調人工皮革が得られる。また、副次的には、銀付調人工皮革中の有機溶剤の残留量を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施形態の銀付調人工皮革の断面模式図である。
図2図2は、実施例1で得られた銀付調人工皮革の厚さ方向の断面の表層付近を走査型電子顕微鏡(SEM)により800倍で観察したときの画像であり、合計0.8mm程度の幅になる5枚のSEM画像である。
図3図3は、比較例1で得られた銀付調人工皮革の厚さ方向の断面の表層付近を走査型電子顕微鏡(SEM)により800倍で観察したときの画像であり、合計0.8mm程度の幅になる5枚のSEM画像である。
図4図4は、実施例1で得られた銀付調人工皮革の製造に用いられた湿式ポリウレタン多孔質層のバフィング後の表面をマイクロスコープにより200倍で観察したときの画像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る銀付調人工皮革の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、銀付調人工皮革10の模式断面図を示す。図1中、1は繊維絡合体であり、2は繊維絡合体1に含浸及び積層されて一体化された湿式ポリウレタン多孔質層であり、3は湿式ポリウレタン多孔質層2に接着されたポリウレタン接着層であり、4はポリウレタン接着層3に積層されたポリウレタン表皮層である。
【0022】
このような銀付調人工皮革10は、例えば、次のような工程により製造される。繊維絡合体の一面に湿式凝固するポリウレタン溶液を含浸し、さらにその上にポリウレタン溶液を塗布し、それを、ポリウレタンを凝固させるための凝固液に浸漬して、ポリウレタン溶液から湿式ポリウレタン多孔質層を湿式凝固させる。そして、湿式ポリウレタン多孔質層の表面を後述する所定の程度にバフィングすることにより、表層に大きな空孔を含まないスキン層を残すように表面を荒らす。一方、離型紙上にポリウレタン表皮層のフィルムを形成する。そして、離型紙上に形成されたポリウレタン表皮層またはバフィング後の湿式ポリウレタン多孔質に、水性ポリウレタン接着剤を塗布し、完全または不完全に水を乾燥させて半硬化状態にして、ポリウレタン接着層を形成する。そして、バフィング後の湿式ポリウレタン多孔質層とポリウレタン表皮層とをポリウレタン接着層を介して貼り合わせて熱プレスする。そして、所定の時間加熱することによりポリウレタン接着層を硬化させた後、離型紙を剥離することにより、銀付調人工皮革が得られる。
【0023】
繊維絡合体の形態は特に限定されないが、不織布、織物、編物、またはそれらを組み合わせた絡合体が用いられ、好ましくは不織布が用いられる。また、繊維絡合体の厚さは、特に限定されないが、例えば、300~3000μm、さらには500~1500μm程度であることが好ましい。また、繊維絡合体を形成する繊維の種類は特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、変性ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリトリエチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、等の芳香族ポリエステル系樹脂、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリヒドロキシブチレート-ポリヒドロキシバリレート共重合体等の脂肪族ポリエステル系樹脂等のポリエステル繊維;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド10、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6-12等のポリアミド系樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、塩素系ポリオレフィン、エチレン酢酸ビニル共重合体、スチレンエチレン共重合体、などのポリオレフィン系樹脂;エチレン単位を25~70モル%含有する変性ポリビニルアルコール等から形成される変性ポリビニルアルコール系樹脂;及び、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマーなどの結晶性エラストマー等が挙げられる。これらの中では、ポリアミド系樹脂や芳香族ポリエステル系樹脂が各種特性のバランスに優れる点から好ましい。
【0024】
繊維の繊度や形態は特に限定されない。例えば、繊度は1dtex超のようなレギュラー繊維であっても、1dtex未満の極細繊維であってもよい。また、繊維の形態は、中実繊維であっても、中空繊維やレンコン状繊維のような空隙を有する繊維であってもよい。
【0025】
湿式ポリウレタン多孔質層は、繊維絡合体の表面に湿式凝固するポリウレタン溶液を含浸させた後、さらにその上に、銀付調の樹脂層を形成させるためのポリウレタン溶液を塗布した後、水系の凝固液中で凝固させることにより形成される。
【0026】
ポリウレタン溶液に含まれるポリウレタンは、分子末端に2個以上の水酸基を有するポリマーポリオール、分子内に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物、及び鎖伸長剤として短鎖ポリオールまたはポリアミン化合物を含むポリウレタン原料として重合反応させて得られるポリウレタンまたはポリウレタンウレアである。
【0027】
ポリマーポリオールの具体例としては、例えば、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリ(3-メチル-1,5-ペンチレンカーボネート)ジオール、ポリペンタメチレンカーボネートジオール、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリオクタメチレンカーボネートジオール、ポリノナメチレンカーボネートジオール、ポリデカメチレンポリカーボネートジオール、ポリドデカメチレンポリカーボネートジオール等のポリカーボネート系ジオールまたはそれらの共重合体;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリメチルテトラメチレングリコール等のポリエーテル系ジオールまたはそれらの共重合体;ポリブチレンアジペートジオール、ポリブチレンセバケートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリ(3-メチル-1,5-ペンチレンアジペート)ジオール、ポリ(3-メチル-1,5-ペンチレンセバケート)ジオール、ポリカプロラクトンジオール等のポリエステル系ジオールまたはそれらの共重合体;ポリエステルカーボネートジオール等の高分子ジオールが挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
また、ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等の脂環族ジイソシアネート;2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;イソシアヌレート型、ビウレット型、アダクト型等の3官能や4官能のイソシアネート等の分岐構造を与える多官能性化合物である、多官能イソシアネートやそのイソシアネートブロック体、等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
また、鎖伸長剤としては、例えば、ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンおよびそれらの誘導体;アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のジアミン;ジエチレントリアミン等のトリアミン;トリエチレンテトラミン等のテトラミン;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4-シクロヘキサンジオール等のジオール;アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコール等のアミノアルコール等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
ポリウレタンは、上記ポリウレタン原料を用いて、溶媒の存在下で溶液重合させる方法等により製造される。溶液重合に用いられる溶媒としては、親水性溶媒であるジメチルホルムアミド(DMF)、疎水性溶媒であるジメチルホルムアミド(MEK)、これらの混合溶媒等が挙げられる。
【0031】
また、水系の凝固液としては、水または水とDMF、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の有機溶剤との混合液が用いられる。ポリウレタン溶液を凝固液に浸漬させることにより、ポリウレタン中の溶媒と凝固液とのポリウレタンの溶解度差により、ポリウレタンが凝固する。ポリウレタンの凝固速度を調整することにより、湿式ポリウレタン多孔質層の空孔径を調製することができる。
【0032】
なお、凝固中にポリウレタン溶液中のDMF等の有機溶剤が水中に混入することにより、水中の有機溶剤濃度が次第に上昇して凝固速度が低下する。このような凝固速度の低下を抑制して粒径を制御するために、凝固液としては、水とDMFの混合液、とくには、水/DMF(質量比)が90/10~70/30であるような凝固液を用いることにより空孔の径が調整される。また、凝固浴の温度はとくに限定されないが、20~50℃の範囲であることが適度な径を有する空孔が形成されやすい点から好ましい。
【0033】
湿式ポリウレタン多孔質層の形成においては、ポリウレタン溶液から水系の凝固液によって湿式ポリウレタン多孔質が凝固されるときに、ポリウレタン溶液が最初に凝固液と接触する表面は、瞬間的にポリウレタンが凝固して極めて小さい、具体的には、5μm以下の径を有する小さな空孔を多数含むが、10μm以上の径を有するような大きな空孔を含まない、スキン層が膜を張るように形成される。そして、スキン層から内部に凝固液が徐々に侵入するようにして、スキン層よりも内側の層の凝固が進行する。そして、このようにして形成されるスキン層の表面は光沢を有する実質的に無孔の表面である。また、スキン層よりも内層に向かうにつれて徐々に空孔の径が大きくなる。このような内側の層には、最長の幅が10μm以上になる涙状の断面を有する大きな空孔が多数含まれる。
【0034】
なお、ポリウレタンの凝固速度は化学構造にも影響を受けることがある。具体的には、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオールの比率が高くなった場合には、ポリウレタンの親水性が高くなり、凝固速度が低下する傾向がある。
【0035】
また、ポリウレタン溶液には、必要に応じて、酸化チタン、カーボンブラックなどの着色剤、紫外線吸収剤や酸化防止剤などの各種安定剤、炭酸カルシウムなどの充填剤、および公知の凝固調整剤などを添加してもよい。
【0036】
このようにして形成される湿式ポリウレタン多孔質層の厚さは、例えば、100~600μm、さらには200~400μm程度であることが好ましい。
【0037】
湿式ポリウレタン多孔質層は、平均15μm以上の径を有する開放孔を露出させないように表面をバフィングされることにより、表層に大きな開放孔を露出させないスキン層を残すようにして表面が荒らされる。バフィングは、例えば、200番手以下のような細かいサンドペーパーを用いて、好ましくは0.01~120μm程度、さらに好ましくは0.05~30μm程度、とくに好ましくは0.5~15μm程度の厚さを除去することにより、湿式ポリウレタン多孔質層の内層に含まれる大きな空孔を開口させず、スキン層を残すようにして行われる。
【0038】
バフィングを行うことによって形成される、湿式ポリウレタン多孔質層の表面は、バフィング後の湿式ポリウレタン多孔質層の表面をマイクロスコープで、200倍で観察したときに、平均15μm以上、好ましくは10μm以上の径を有する開放孔を露出させないように調整されている。このようなバフィング後の湿式ポリウレタン多孔質層の表面に存在する孔の径の範囲としては、2~15μm、さらには5~10μm程度であり、それらの平均が15μm未満であることが好ましい。また、微細な開口の密度としては、1mmあたり125個以上、さらには150~250個程度であることが好ましい。
【0039】
一方、本実施形態の製造方法においては、湿式ポリウレタン多孔質層の表面に接着されるポリウレタン表皮層のフィルムを離型紙上に形成する。ポリウレタン表皮層のフィルムは、例えば、以下のような乾式造面により形成される。
【0040】
離型紙上にポリウレタン表皮層を形成するためのポリウレタン溶液または溶融樹脂を塗布し、固化させることによりポリウレタン表皮層のフィルムを形成する。
【0041】
ポリウレタン表皮層を形成するためのポリウレタンの種類は、上述したポリウレタンと同様の種類のものが用いられるが、表皮を形成するために、ポリカーボネート系ポリウレタンを用いることが耐傷性に優れている点からとくに好ましい。また、ポリウレタン表皮層は、無多孔性であっても、多孔性であってもよい。また、ポリウレタン表皮層は、単層であっても、中間層とトップ層とからなるような複層構造を有するものであってもよい。また、ポリウレタン表皮層は、必要に応じて、着色材やその他の添加剤等を含有してもよい。また、離型紙はとくに限定されないが、好ましくは、表面にシボ模様を付与するために凹凸を有するようなものが用いられる。
【0042】
ポリウレタン表皮層の厚さは10~50μmであり、15~50μm、さらには、20~40μmであることが好ましい。ポリウレタン表皮層が10μm未満の場合には、表面の耐摩耗性が低下する。また、ポリウレタン表皮層が50μmを超える場合には、ポリウレタン表皮層の剛性が高くなりすぎてカールが発生しやすくなるとともに、経時的に剥離しやすくなる。
【0043】
そして、離型紙上のポリウレタン表皮層の表面に、水性ポリウレタン接着剤を塗布した後、完全または不完全に水を除去して乾燥させる。このようにして、離型紙上のポリウレタン表皮層の表面に、ポリウレタン接着層が形成される。なお、ポリウレタン接着層は、離型紙上のポリウレタン表皮層のフィルムに形成させる代わりに、バフィングされた湿式ポリウレタン多孔質層の表面の側に形成してもよい。
【0044】
水性ポリウレタン接着剤は、水性媒体中に水系ポリウレタンの粒子が分散されたエマルジョンやディスパーションであり、必要に応じて、架橋剤、顔料等の着色剤、増粘剤、消泡剤等を含んでもよい。
【0045】
水性ポリウレタン接着剤に含まれる水性媒体としては、水を90~100質量%含有し、必要に応じて、少量のグリコール類、アルコール類を含有する混合溶媒が挙げられる。
【0046】
また、水性ポリウレタン接着剤に含まれる水系ポリウレタンの種類は特に限定されず、芳香族ポリカーボネート系ポリウレタン等のポリカーボネート系ポリウレタン、ポリカーボネート-ポリテトラメチレングリコール共重合体系ポリウレタン、ポリエステルグリコール系ポリウレタン、ポリプロピレングリコール系ポリウレタン、ポリテトラメチレングリコール系ポリウレタン、等が挙げられる。これらの中では、芳香族ポリカーボネート系ポリウレタンが耐摩耗性に優れる点から特に好ましい。
【0047】
また、水系ポリウレタンは架橋性を有することにより、耐剥離性や耐溶剤性に優れたポリウレタン接着層を形成することができる点から好ましい。このような架橋性を有するポリウレタンとしては、末端や側鎖に水酸基、カルボシキル基、イソシアネート基等の反応性を有する基をもつポリウレタンが挙げられる。このような架橋性を有する水系ポリウレタンを用いる場合には、水性ポリウレタン接着剤には架橋剤が配合される。
【0048】
水性ポリウレタン接着剤に配合される架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、アジリジン系架橋剤等が挙げられる。これらの中では、接着強度及び耐水性を向上させる点からイソシアネート系架橋剤がとくに好ましい。
【0049】
また、水性ポリウレタン接着剤には、塗布される水性ポリウレタン接着剤の塗膜の厚さを調整しやすくするために、増粘剤を含むことが好ましい。このような増粘剤としては、少量で高粘度が得られることや、粘度の安定性に優れる点から、ポリウレタン会合型増粘剤が特に好ましい。ポリウレタン会合型増粘剤の具体例としては、例えば、アルコールアルコキシレート及び/又はポリエーテルポリオールとイソシアネート又はポリイソシアネートとを反応させることによって生成するポリマーが挙げられる。ポリウレタン会合型増粘剤の添加量は、ポリウレタンに対して0.1~1質量%であることが好ましい。
【0050】
水性ポリウレタン接着剤の溶液粘度としては、B型粘度計で20℃の条件で測定された溶液粘度が3~10Pa・sであることが好ましい。
【0051】
このようにして形成されるポリウレタン接着層の厚さとしては、5~200μm、さらには30~70μmであることが好ましい。ポリウレタン接着層が厚すぎる場合には耐屈曲性が低下して接着強度が低下する傾向がある。
【0052】
そして、剥離紙上に形成されたポリウレタン表皮層のフィルムに積層されたポリウレタン接着層をバフィング後の湿式ポリウレタン多孔質層の表面に貼り合せてプレスした後、ポリウレタン接着層を硬化させることによりポリウレタン接着層を介して湿式ポリウレタン多孔質層とポリウレタン表皮層とが接着される。プレスの温度は特に限定されないが、表面温度70~100℃に設定される。また、ポリウレタン接着層を完全に硬化させるために、通常、45~65℃の温度で、30~70RH%の環境に数時間から数日間放置される熟成期間が設けられることが好ましい。
【0053】
接着されたポリウレタン表皮層とポリウレタン接着層との合計厚さとしては、10~300μm、さらには30~200μm、とくには50~100μm程度であることが、機械的特性と風合いとのバランスを維持することができる点から好ましい。
【0054】
そして、ポリウレタン表皮層の表面から剥離紙を剥離することにより、ポリウレタン表皮層を有する銀付調人工皮革が得られる。
【0055】
このようにして得られる銀付調人工皮革は、湿式ポリウレタン多孔質層とポリウレタン表皮層とを水性ポリウレタン接着剤で接着するために、湿式ポリウレタン多孔質層のポリウレタン接着層との界面が溶剤で溶解されない。そのために、表層の厚さ方向の断面において、長さ10μm以上の幅を有する気孔が横断していない、10~20μmの厚さのスキン層を有する湿式ポリウレタン多孔質層を形成することができる。
【0056】
ここで、表層の厚さ方向の断面において、長さ10μm以上の幅を有する気孔が横断していない、10~20μmの厚さのスキン層を有する湿式ポリウレタン多孔質層について図2を参照して説明する。
【0057】
図2は、後述する実施例1で得られた銀付調人工皮革の厚さ方向の断面の表層付近の5か所をランダムに選択して走査型電子顕微鏡(SEM)により800倍で観察した5枚の画像である。
【0058】
図2においては、銀付調人工皮革の厚さ方向の断面における湿式ポリウレタン多孔質層とポリウレタン接着層との界面を示す曲線L1が示されている。また、曲線L1から厚さ20μmを隔てた曲線L2が示されている。
【0059】
図2に示すように、本実施形態の銀付調人工皮革においては、湿式ポリウレタン多孔質層のポリウレタン接着層との界面L1から20μm隔てた界面L2の領域には、5μm以下の径を有する小さな空孔が多数観察されるが、10μm以上の径を有するような大きな空孔が存在しない。
【0060】
一方、図3は、後述する比較例1で得られた銀付調人工皮革の厚さ方向の断面の表層付近の5か所をランダムに選択して走査型電子顕微鏡(SEM)により800倍で観察した5枚の画像である。図3においても同様に、湿式ポリウレタン多孔質層とポリウレタン接着層との界面に曲線L1を引いている。図3に示すように、ポリウレタン接着層を形成するために溶剤系接着剤を用いた比較例1で得られた銀付調人工皮革の厚さ方向の断面においては、湿式ポリウレタン多孔質層のポリウレタン接着層との界面L1を横切るように10μm以上の径を有する大きな空孔Vが多数存在している。また、このような湿式ポリウレタン多孔質層のポリウレタン接着層の表層は、溶剤で溶解されているために、大きなうねりを有する界面が形成されている。溶剤で溶解された部分は、ポリウレタンが溶解して減容しながらポリウレタン接着層が接着するために内部応力が集中しやすい。そのために、バフィング後の湿式ポリウレタン多孔質層にポリウレタン表皮層を、ポリウレタン接着層を介して貼り合わせるためのプレス工程、または、その後の接着を熟成する処理において、内部応力が徐々に解放されることにより、得られる銀付調人工皮革にカールが発生しやすくなる。なお、このような大きいうねりを有する湿式ポリウレタン多孔質層に接着されたポリウレタン表皮層の表面は、うねりを反映した平滑性の低いうねりのある表面が形成されやすくなる。
【0061】
このような銀付調人工皮革のポリウレタン接着層は、湿式ポリウレタン多孔質層のポリウレタン接着層との界面が溶解されていない。また、好ましくは、銀付調人工皮革の厚さ方向の断面の表層付近を走査型電子顕微鏡(SEM)により800倍で観察したときの画像において、湿式ポリウレタン多孔質層とポリウレタン接着層との界面から20μm離れた仮想線を引いたとき、大きな空孔を含まないスキン層が溶解されずに存在する。好ましくは、湿式ポリウレタン多孔質層の表層の厚さ方向の断面において、長さ10μm以上の幅を有する大きな気孔が横断していない、10~20μmの厚さのスキン層を有する。
【0062】
ここで、湿式ポリウレタン多孔質層の表層の厚さ方向の断面において、長さ10μm以上の幅を有する気孔が横断していない、10~20μmの厚さのスキン層について説明する。図2を参照すれば、このようなスキン層は、湿式ポリウレタン多孔質層とポリウレタン接着層との界面L1に平行に仮想線L2を引いた場合、長さ10μm以上の幅を有する気孔が横断しない仮想線L2の界面L1からの距離が10~20μmになる層を意味する。なお、その判定は、まんべんなく選択された5か所の断面を撮影した5枚の画像によって判定される。
【0063】
長さ10μm以上の幅を有する気孔Vが横断する仮想線L2が、界面L1からの距離の10μm未満の範囲に存在する場合には、湿式ポリウレタン多孔質層の表層のスキン層が溶解されており、長さ10μm以上の幅を有する気孔が横断していない、10~20μmの厚さのスキン層が存在しない。このような場合には、湿式ポリウレタン多孔質層の表面に接着されたポリウレタン接着層に内部応力が残留し、製造工程中に付与される熱により、残留した内部応力が開放されて、得られる銀付調人工皮革がカールしやすくなる。
【0064】
以上説明した、本実施形態の銀付調人工皮革は、それを表皮材として鞄や衣料や靴等を製造する場合、銀付調人工皮革のカールを矯正せずに、そのまま縫製等の加工に供することができる。また、副次的には、それらの製品に含まれる、銀付調人工皮革中の有機溶剤の残留量を低減させることができる。
【実施例
【0065】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0066】
(バフィング後の湿式ポリウレタン多孔質層の表面の開放孔の平均径の測定)
バフィング後の湿式ポリウレタン多孔質層の表面をマイクロスコープにより200倍で観察し、そのときの画像を保存した。そして、保存した画像を印刷し、印刷された画像から、無作為に抽出した200μm四方に存在する開放孔の平均径を求めた。なお、開放孔が楕円状の場合は、長径と短径の平均値を計測した。図4に実施例1で用いたバフィング後の湿式ポリウレタン多孔質層の表面の画像の一例を示す。
【0067】
(湿式ポリウレタン多孔質層の表層の厚さ方向の断面の観察)
銀付調人工皮革の厚さ方向の断面を走査型電子顕微鏡で800倍で観察し、そのときの画像を保存した。なお、撮影は、ランダムに選択した5か所で行った。そして、得られた5枚の画像について、湿式ポリウレタン多孔質層にポリウレタン接着層との界面から10μm離れた箇所に仮想線を引いた。具体的には、ポリウレタン接着層と湿式ポリウレタン多孔質層との界面に沿って界面を示す曲線L1を引いた。そして、この曲線に平行に10~20μm離れた曲線L2を引いた。そして、仮想線L2に対して幅10μm以上を横切る空孔の有無を確認した。測定は、5枚の画像を用いて行った。10μm離れた曲線L2に対して幅10μm以上を横切る空孔がない場合、10μmの厚さのスキン層が形成されていると言える。
【0068】
(カール発生評価)
銀付調人工皮革から長さ20cm、幅10cmの断片を切り抜いて試験片とした。そして試験片を、20℃45%RHの環境に24時間放置した。そして、24時間放置後の、幅方向の両端間の距離を3か所測定し、その平均値を求めた。カールが発生している場合、カールによって両端が近づく。そして、幅10cmに対する、24時間放置後の両端間の距離の割合を求めた。カールの発生が大きければ大きいほど、両端間の距離の割合が小さくなる。
【0069】
[実施例1]
6-ナイロン45質量部(海成分)とポリスチレン55質量部(島成分)からなる海島型複合繊維を溶融紡糸により得た。これを3倍に延伸し、繊維油剤を付与し、機械捲縮をかけた後、乾燥した。得られた捲縮繊維を51mmにカットして3デシテックスのステープルとし、ウェッブを形成した後に、両面から交互に合わせて約500パンチ/cmのニードルパンチングを行って不織布を得た。この不織布の目付は350g/m、見かけ比重は0.17であった。この不織布をポリビニルアルコールの4%水溶液で処理し、厚さを約1.3mmに圧縮固定し、表面をバフ掛けして平滑化した。
【0070】
一方、次のようにしてポリウレタン溶液を調製した。N,N-ジメチルホルムアミド5650質量部に数平均分子量2000のポリブチレンアジペート1000質量部、数平均分子量2000のポリヘキシレンカーボネート249質量部、エチレングリコール70.4質量部を投入して溶解し、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート415質量部をNCO/OH=0.94になるように、攪伴下に徐々に添加して、80℃で3時間反応を行って、実質的に末端がOHの中間体を得た。続いて、数平均分子量20000のポリエチレングリコール125質量部を投入し、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネートを徐々に添加、反応を行い、NCO/OH=1.05になった所で溶液粘度(30℃)が40Pa・sとなったところで冷却し、ポリカーボネート/ポリエステル系ポリウレタンの溶液を得た。
【0071】
そして、得られたポリウレタン溶液を13%濃度のジメチルホルムアミド溶液に調製し、不織布に含浸した。さらにその表面に同じポリウレタンの25%濃度のジメチルホルムアミド溶液を固形分で80g/mになる量をバーコーターで塗布した後、温度30℃の水/DMF=75/25の質量比の混合液の中に浸してポリウレタンを多孔質状に湿式凝固させた。そして、熱トルエン中で島成分を溶出除去して複合繊維を中空繊維に変換することにより湿式ポリウレタン多孔質層を積層された繊維絡合体を得た。マイクロスコープによる観察によれば、湿式ポリウレタン多孔質層の厚みは300μmであった。
【0072】
そして、湿式ポリウレタン多孔質層の表面を180番手のサンドペーパーを用いてスキン層を残すようにバフ掛けした。図4に、湿式ポリウレタン多孔質層の表面をマイクロスコープにより200倍で観察したときの写真を示す。開放孔の径は平均8.3μmであった。
【0073】
次に、離型紙(大日本印刷(株)製DE-125)の上に、無黄変ポリカーボネート系ポリウレタン溶液(樹脂分25%)100質量部、セイカセブンBS780黒(大日精化工業(株)製)20質量部、DMF30質量部、及び、メチルエチルケトン30質量部を含む溶液を乾燥後の厚さが15μmになるように塗布し、乾燥することによりポリウレタン表皮層を構成するトップ層を形成した。そして、トップ層に、1液型ポリエーテル系ポリウレタン(大日精化工業(株)製レザミンME8116)100質量部およびレザミンDUT4790黒 20質量部を含むDMF溶液を乾燥後の厚さが20μmになるように塗布し、乾燥することにより、ポリウレタン表皮層を構成するポリウレタン中間層を形成した。このようにしてポリウレタン表皮層を形成した。得られたポリウレタン表皮層の厚さは、35μmであった。
【0074】
そして、ポリウレタン表皮層の表面に、ポリウレタン樹脂水性分散体配合液である水性ポリウレタン接着剤を150g/m塗布した。なお、水性ポリウレタン接着剤は、架橋性芳香族ポリカーボネート系ポリウレタン(DIC(株)製ハイドランWLA-515AR)100質量部、イソシアネート系架橋剤(Covestro製BayhydurXP2655)8質量部、ポリウレタン会合型増粘剤(Borchers製Borch Gel 0626)1質量部を有効成分として含む濃度45質量%の水性接着剤であった。
【0075】
水性ポリウレタン接着剤を塗布されたポリウレタン表皮層を110℃で2分間乾燥し、さらに、130℃で2分間乾燥させて水分をほぼ蒸発させてタックのある半乾燥状態のポリウレタン接着層を形成した。そして、ポリウレタン表皮層を半乾燥状態のポリウレタン接着層により湿式ポリウレタン多孔質層の表面に接着させて表面温度80℃のロールプレスを通過させ、さらに110℃に加熱したドラムシリンダーに10秒間接触させて積層中間体を形成した。そして、積層中間体を45℃で3日間熟成処理することにより、ポリウレタン表皮層と湿式ポリウレタン多孔質層との接着を熟成させた。そして、離型紙を剥がすことにより銀付調人工皮革を得た。図2に、実施例1で得られた銀付調人工皮革の厚さ方向の断面の表層付近を走査型電子顕微鏡(SEM)により800倍で観察したときの5枚の画像を示す。そして、上述した評価方法に沿って評価した。
【0076】
得られた銀付調人工皮革は、湿式ポリウレタン多孔質層のポリウレタン接着層との界面が溶解されておらず、湿式ポリウレタン多孔質層の表層の厚さ方向の断面において、長さ10μm以上の幅を有する気孔が横断していない、10~20μmの厚さのスキン層が形成されていた。また、フラット性を評価すると、97%であった。
【0077】
[比較例1]
実施例1で製造されたものと同じ、湿式ポリウレタン多孔質層を積層された繊維絡合体及び離型紙上に形成されたポリウレタン表皮層を準備した。
【0078】
そして、ポリウレタン表皮層の表面に、溶剤系ポリウレタン接着剤を130g/m塗布し、120℃で15秒間乾燥させて溶剤を蒸発させた後、湿式ポリウレタン多孔質層に貼りあわせた積層中間体を得た。なお、溶剤系ポリウレタン接着剤は、架橋型ポリウレタン(TA205FT、大日精化工業(株)製)100質量部に架橋剤及び架橋促進剤を加えた組成物を接着剤成分として含有し、溶媒としてDMF40質量部を含有する濃度50質量%の溶剤系接着剤であった。
【0079】
そして、得られた積層中間体を表面温度80℃のロールプレスを通過させてプレスすることにより圧着させながらポリウレタン接着剤を湿式ポリウレタン多孔質層に浸透させた。そして、130℃で3分間乾燥した後、50℃で3日間熟成処理した。そして、剥離紙を剥離することにより、銀付調人工皮革を得た。図3に、比較例1で得られた銀付調人工皮革の厚さ方向の断面の表層付近を走査型電子顕微鏡(SEM)により800倍で観察したときの5枚の画像を示す。そして、上述した評価方法に沿って評価した。
【0080】
得られた銀付調人工皮革は、湿式ポリウレタン多孔質層のポリウレタン接着層との界面が大きなうねりを有するように溶解されていた。また、5枚中3枚の画像で、湿式ポリウレタン多孔質層の表層の厚さ方向の断面において、界面から10μm隔てて引いた仮想線L2に長さ10μm以上の幅を有する気孔が多く横断しており、10μmを超えるスキン層が連続して形成されていなかった。また、フラット性を評価すると、70%であった。
【0081】
[比較例2]
実施例1において、180番手のサンドペーパーを用いてスキン層を残すようにバフ掛けして平均8.3μmの径の開放孔を形成させた代わりに、120番手のサンドペーパーを用い、バフ掛けの時間を長くすることにより、平均25μmの開放孔を形成させた以外は同様にして銀付調人工皮革を得、評価した。
【0082】
得られた銀付調人工皮革は、界面から10μm隔てて引いた仮想線L2に長さ10μm以上の幅を有する気孔が多く横断しており、10μmを超えるスキン層が連続して形成されていなかった。また、スキン層が多く除去されたために、湿式ポリウレタン多孔質層内への接着剤の浸透が過剰になり、湿式ポリウレタン多孔質層の表面に残る接着剤が少なくなって、剥離強力の低下が見られた。なお、フラット性を評価すると、95%であった。
【符号の説明】
【0083】
1 繊維絡合体
2 湿式ポリウレタン多孔質層
3 ポリウレタン接着層
4 ポリウレタン表皮層
10 銀付調人工皮革
V 気孔
L1 界面
L2 仮想線
図1
図2
図3
図4