(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】状態判定方法、状態判定装置、及び記憶媒体
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20241003BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20241003BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01L21/02 Z
H01L21/30 562
G03F7/20 501
(21)【出願番号】P 2023017569
(22)【出願日】2023-02-08
(62)【分割の表示】P 2019005230の分割
【原出願日】2019-01-16
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122507
【氏名又は名称】柏岡 潤二
(74)【代理人】
【識別番号】100171099
【氏名又は名称】松尾 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100212026
【氏名又は名称】中村 真生
(72)【発明者】
【氏名】野上 剛
(72)【発明者】
【氏名】宇▲崎▼ 友哉
【審査官】庄司 一隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-027118(JP,A)
【文献】特開2008-130925(JP,A)
【文献】特開2011-100926(JP,A)
【文献】特開2004-165483(JP,A)
【文献】特開2017-027968(JP,A)
【文献】特開2006-258535(JP,A)
【文献】特開2000-031237(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
H01L 21/027
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板処理装置に搭載されている複数のアクチュエータに含まれる対象アクチュエータの状態を判定する状態判定方法であって、
前記複数のアクチュエータには、前記対象アクチュエータと、前記対象アクチュエータ以外のアクチュエータとが含まれており、
前記複数のアクチュエータそれぞれについて、動作に関する特徴量を取得することと、
前記複数のアクチュエータそれぞれについて、前記特徴量に基づいて確率分布モデルを算出することと、
前記複数のアクチュエータそれぞれの前記特徴量に係る前記確率分布モデルに基づいて、前記複数のアクチュエータに含まれる前記対象アクチュエータの状態を判定することと、
を含む状態判定方法。
【請求項2】
前記特徴量は、アクチュエータの動作速度である、請求項1に記載の状態判定方法。
【請求項3】
前記特徴量は、アクチュエータの動作に関する加速度及びトルクである、請求項1に記載の状態判定方法。
【請求項4】
前記判定することは、
前記複数のアクチュエータそれぞれの前記特徴量に係る前記確率分布モデルから判定の基準となる基準確率分布モデルを求めることと、
前記基準確率分布モデルと、前記対象アクチュエータの前記特徴量に係る前記確率分布モデルである対象確率分布モデルとを比較することにより、前記対象アクチュエータの状態を判定することと、を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の状態判定方法。
【請求項5】
前記基準確率分布モデルは、前記複数のアクチュエータそれぞれの前記特徴量に係る前記確率分布モデルの平均を算出することで得られる、請求項4に記載の状態判定方法。
【請求項6】
前記判定することは、前記対象アクチュエータの前記特徴量に係る確率分布モデルの歪度又は尖度にも基づいて前記対象アクチュエータの状態を判定することを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の状態判定方法。
【請求項7】
前記判定することは、前記対象アクチュエータが異常であるかどうかを判定することであって、
前記対象アクチュエータが異常であると判定された場合に、前記対象アクチュエータが異常であることを示す信号を出力することを更に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の状態判定方法。
【請求項8】
前記判定することは、前記対象アクチュエータが異常状態に近づいているかどうかを判定することであって、
前記対象アクチュエータが異常状態に近づいていると判定された場合に、前記対象アクチュエータが異常状態に近づいていることを示す信号を出力することを更に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の状態判定方法。
【請求項9】
前記複数のアクチュエータの動作対象は共通しており、
前記複数のアクチュエータは、前記基板処理装置に含まれ、共通の処理を実行する互いに異なる処理ユニットに設けられている、請求項1~8のいずれか一項に記載の状態判定方法。
【請求項10】
前記複数のアクチュエータの動作対象は互いに異なっており、
前記複数のアクチュエータは、前記基板処理装置に含まれ、所定の処理を施す単一の処理ユニットに設けられている、請求項1~8のいずれか一項に記載の状態判定方法。
【請求項11】
前記複数のアクチュエータそれぞれは、空気圧によって駆動するエアシリンダである、請求項1~10のいずれか一項に記載の状態判定方法。
【請求項12】
基板処理装置に搭載されている複数のアクチュエータに含まれる対象アクチュエータの状態を判定する状態判定装置であって、
前記複数のアクチュエータには、前記対象アクチュエータと、前記対象アクチュエータ以外のアクチュエータとが含まれており、
前記複数のアクチュエータそれぞれについて、動作に関する特徴量を取得する取得部と、
前記複数のアクチュエータそれぞれについて、前記特徴量に基づいて確率分布モデルを算出する確率分布算出部と、
前記複数のアクチュエータそれぞれの前記特徴量に係る前記確率分布モデルに基づいて、前記複数のアクチュエータに含まれる前記対象アクチュエータの状態を判定する判定部と、
を含む状態判定装置。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一項に記載の状態判定方法を装置に実行させるためのプログラムを記憶した、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、状態判定方法、状態判定装置、及び記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数の基板処理装置のそれぞれで発生する故障を予知する故障予知方法が記載されている。この故障予知方法は、機器の稼働履歴を履歴データとして収集する工程と、収集された履歴データと、故障した機器の履歴データに基づいて更新される故障パターンとに基づいて機器の故障を予知する工程とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基板処理装置には、機器として、部材を動かすための複数のアクチュエータが備えられている。本開示は、アクチュエータの状態を判定するのに適した状態判定方法、状態判定装置、及び記憶媒体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係る状態判定方法は、基板処理装置に搭載されている複数のアクチュエータに含まれる対象アクチュエータの状態を判定する方法である。この状態判定方法は、複数のアクチュエータそれぞれについて、動作に関する特徴量を取得することと、複数のアクチュエータそれぞれについて、特徴量に基づいて確率分布モデルを算出することと、複数のアクチュエータそれぞれの確率分布モデルに基づいて、対象アクチュエータの状態を判定することと、を含む。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、アクチュエータの状態を判定するのに適した状態判定方法、状態判定装置、及び記憶媒体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、基板処理システムの概略構成の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、塗布現像装置の概略構成の一例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、熱処理ユニット内の構成の一例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、状態判定部の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、アクチュエータの動作時間に関する検出結果の一例を示す図である。
【
図6】
図6(a)は、期間ごとのアクチュエータの動作時間に関する推移の一例を示す図である。
図6(b)は、期間ごとの指標値に関する推移の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、制御装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図8】
図8は、状態判定手順の一例を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、異常状態に近づいていることの判定手法の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、種々の例示的実施形態について説明する。
【0009】
本開示の一側面に係る状態判定方法は、基板処理装置に搭載されている複数のアクチュエータに含まれる対象アクチュエータの状態を判定する方法である。この状態判定方法は、複数のアクチュエータそれぞれについて、動作に関する特徴量を取得することと、複数のアクチュエータそれぞれについて、特徴量に基づいて確率分布モデルを算出することと、複数のアクチュエータそれぞれの確率分布モデルに基づいて、対象アクチュエータの状態を判定することと、を含む。
【0010】
この状態判定方法では、複数のアクチュエータそれぞれの確率分布モデルに基づいて、対象アクチュエータの状態が判定される。対象アクチュエータの状態が通常状態から変化していくと、動作に関する特徴量に変動が生じる。このため、複数のアクチュエータそれぞれの確率分布モデルのうちの対象アクチュエータに関する確率分布モデルが変化する。複数のアクチュエータの確率分布モデルに基づいて対象アクチュエータの上記確率分布モデルの変化を捉えることで、対象アクチュエータの状態を判定することが可能となる。すなわち、アクチュエータの状態を判定するのに適した状態判定方法が提供される。
【0011】
上記判定することは、複数のアクチュエータそれぞれの確率分布モデルから判定の基準となる基準確率分布モデルを求めることと、基準確率分布モデルと、対象アクチュエータの確率分布モデルである対象確率分布モデルとを比較することにより、対象アクチュエータの状態を判定することと、を含んでもよい。この場合、複数のアクチュエータそれぞれの確率分布モデルから状態判定の基準となる基準確率分布モデルを作成し、これを状態判定に利用することで、対象アクチュエータの状態判定を容易に行うことが可能となる。
【0012】
基準確率分布モデルは、複数のアクチュエータそれぞれの確率分布モデルの平均を算出することで得られてもよい。この場合、複数のアクチュエータそれぞれの確率分布モデルの平均を用いることで、状態判定により適した基準を得ることが可能となる。
【0013】
上記判定することは、対象アクチュエータの確率分布モデルの歪度又は尖度にも基づいて対象アクチュエータの状態を判定することを含んでもよい。歪度又は尖度にも基づいて状態を判定することにより、対象アクチュエータの確率分布モデルの特徴をより反映した判定を行うことになるため、対象アクチュエータの状態をより確実に判定することが可能となる。
【0014】
上記判定することは、対象アクチュエータが異常であるかどうかを判定することであってもよい。上記状態判定方法は、対象アクチュエータが異常であると判定された場合に、対象アクチュエータが異常であることを示す信号を出力することを更に含んでもよい。この場合、対象アクチュエータが異常状態であると判定されたときに、対象アクチュエータが通常状態である場合と異なる処理を実行することが可能となる。
【0015】
上記判定することは、対象アクチュエータが異常状態に近づいているかどうかを判定することであってもよい。上記状態判定方法は、対象アクチュエータが異常状態に近づいていると判定された場合に、対象アクチュエータが異常状態に近づいていることを示す信号を出力することを更に含んでもよい。この場合、対象アクチュエータが異常状態に近づいていると判定されたときに、対象アクチュエータが通常状態である場合と異なる処理を実行することが可能となる。
【0016】
複数のアクチュエータの動作対象は共通していてもよい。複数のアクチュエータは、基板処理装置に含まれ、共通の処理を実行する互いに異なる処理ユニットに設けられていてもよい。この場合、対象アクチュエータの動作が通常状態から離れていくと、対象アクチュエータの確率分布モデルと他の確率分布モデルとの間にずれが発生するので、対象アクチュエータの状態を判定することが可能となる。
【0017】
複数のアクチュエータの動作対象は互いに異なっていてもよい。複数のアクチュエータは、基板処理装置に含まれ、所定の処理を施す単一の処理ユニットに設けられていてもよい。この場合、アクチュエータの動作に関する特徴量の確率分布モデルに基づいて状態を判定しているので、動作対象が互いに異なっていても、他の確率分布モデルとの間のずれにより対象アクチュエータの状態を判定することが可能となる。
【0018】
複数のアクチュエータそれぞれは、空気圧によって駆動するエアシリンダであってもよい。エアシリンダが通常状態から離れていくと、エアシリンダの動作に関する特徴量は通常状態の値から離れていく。このため、対象アクチュエータとしての対象のエアシリンダの特徴量に基づく確率分布モデルは、他のエアシリンダの確率分布モデルに対してずれてくるので、対象アクチュエータの状態を判定することが可能となる。
【0019】
本開示の他の側面に係る状態判定装置は、基板処理装置に搭載されている複数のアクチュエータに含まれる対象アクチュエータの状態を判定する装置である。この状態判定装置は、複数のアクチュエータそれぞれについて、動作に関する特徴量を取得する取得部と、複数のアクチュエータそれぞれについて、特徴量に基づいて確率分布モデルを算出する確率分布算出部と、複数のアクチュエータそれぞれの確率分布モデルに基づいて、対象アクチュエータの状態を判定する判定部と、を備える。
【0020】
本開示の他の側面に係る記憶媒体は、上述の状態判定方法を装置に実行させるためのプログラムを記憶した、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体である。
【0021】
以下、図面を参照して種々の例示的実施形態について詳細に説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0022】
[基板処理システム]
まず、
図1及び
図2を参照して基板処理システムの概略構成を説明する。基板処理システム1は、基板に対し、感光性被膜の形成、当該感光性被膜の露光、及び当該感光性被膜の現象を施すシステムである。処理対象の基板は、例えば半導体のウェハWである。感光性被膜は、例えばレジスト膜である。基板処理システム1は、塗布・現像装置2と露光装置3とを備える。露光装置3は、ウェハW(基板)上に形成されたレジスト膜(感光性被膜)の露光処理を行う。具体的には、露光装置3は、液浸露光等の方法によりレジスト膜の露光対象部分にエネルギー線を照射する。塗布・現像装置2は、露光装置3による露光処理の前に、ウェハW(基板)の表面にレジスト膜を形成する処理を行い、露光処理後にレジスト膜の現像処理を行う。
【0023】
[基板処理装置]
以下、基板処理装置の一例として、塗布・現像装置2の構成を説明する。
図1及び
図2に示されるように、塗布・現像装置2は、キャリアブロック4と、処理ブロック5と、インタフェースブロック6と、制御装置100とを備える。
【0024】
キャリアブロック4は、塗布・現像装置2内へのウェハWの導入及び塗布・現像装置2内からのウェハWの導出を行う。例えばキャリアブロック4は、ウェハW用の複数のキャリアCを支持可能であり、受け渡しアームを含む搬送装置A1を内蔵している。キャリアCは、例えば円形の複数枚のウェハWを収容する。搬送装置A1は、キャリアCからウェハWを取り出して処理ブロック5に渡し、処理ブロック5からウェハWを受け取ってキャリアC内に戻す。
【0025】
処理ブロック5は、複数の処理モジュール11,12,13,14を有する。処理モジュール11,12,13,14は、塗布ユニットU1と、熱処理ユニットU2と、これらのユニットにウェハWを搬送する搬送アームを含む搬送装置A3とを内蔵している。塗布ユニットU1は、処理液をウェハWの表面に塗布する。熱処理ユニットU2は、例えば熱板及び冷却板を内蔵しており、熱板によりウェハWを加熱し、加熱後のウェハWを冷却板により冷却して熱処理を行う。
【0026】
処理モジュール11は、塗布ユニットU1及び熱処理ユニットU2によりウェハWの表面上に下層膜を形成する。処理モジュール11の塗布ユニットU1は、下層膜を形成するための処理液をウェハW上に塗布する。処理モジュール11の熱処理ユニットU2は、下層膜の形成に伴う各種熱処理を行う。
【0027】
処理モジュール12は、塗布ユニットU1及び熱処理ユニットU2により下層膜上にレジスト膜を形成する。処理モジュール12の塗布ユニットU1は、レジスト膜形成用の処理液を下層膜の上に塗布する。処理モジュール12の熱処理ユニットU2は、レジスト膜の形成に伴う各種熱処理を行う。熱処理の具体例としては、塗布膜を硬化させてレジスト膜とするための加熱処理(PAB:Pre Applied Bake)が挙げられる。
【0028】
処理モジュール13は、塗布ユニットU1及び熱処理ユニットU2によりレジスト膜上に上層膜を形成する。処理モジュール13の塗布ユニットU1は、上層膜形成用の液体をレジスト膜の上に塗布する。処理モジュール13の熱処理ユニットU2は、上層膜の形成に伴う各種熱処理を行う。
【0029】
処理モジュール14は、塗布ユニットU1及び熱処理ユニットU2により、露光後のレジスト膜の現像処理を行う。処理モジュール14の塗布ユニットU1は、露光済みのウェハWの表面上に現像液を塗布した後、これをリンス液により洗い流すことで、レジスト膜の現像処理を行う。熱処理ユニットU2は、現像処理に伴う各種熱処理を行う。熱処理の具体例としては、現像処理前の加熱処理(PEB:Post Exposure Bake)、現像処理後の加熱処理(PB:Post Bake)等が挙げられる。
【0030】
処理ブロック5内におけるキャリアブロック4側には棚ユニットU10が設けられている。棚ユニットU10は、上下方向に並ぶ複数のセルに区画されている。棚ユニットU10の近傍には昇降アームを含む搬送装置A7が設けられている。搬送装置A7は、棚ユニットU10のセル同士の間でウェハWを昇降させる。
【0031】
処理ブロック5内におけるインタフェースブロック6側には棚ユニットU11が設けられている。棚ユニットU11は、上下方向に並ぶ複数のセルに区画されている。
【0032】
インタフェースブロック6は、露光装置3との間でウェハWの受け渡しを行う。例えばインタフェースブロック6は、受け渡しアームを含む搬送装置A8を内蔵しており、露光装置3に接続される。搬送装置A8は、棚ユニットU11に配置されたウェハWを露光装置3に渡し、露光装置3からウェハWを受け取って棚ユニットU11に戻す。
【0033】
(熱処理ユニット)
続いて、熱処理ユニットU2の一例について
図3を参照して詳細に説明する。
図3に示されるように、熱処理ユニットU2は、筐体20と、温度調整機構30と、加熱機構40とを備える。
【0034】
筐体20は、熱処理を行う処理空間(処理室21)を形成する。筐体20は、温度調整機構30及び加熱機構40を収容する。筐体20の側壁には、ウェハWを搬入するための搬入口22が開口されている。筐体20は、処理室21内を上方領域と下方領域とに区画する床板23を有する。上方領域はウェハWの移動領域であり、下方領域はそれ以外の領域である。
【0035】
温度調整機構30は、処理室21内においてウェハWの温度を所定温度に調整(冷却)する機構である。熱処理ユニットU2における熱処理の一つとして、温度調整機構30においてウェハWの温度の調整が行われる。また、温度調整機構30は、外部の搬送装置A3との間でウェハWの受け渡しを行う機能を有する。温度調整機構30は、温度調整プレート31と、連結ブラケット32と、アクチュエータ33とを有する。
【0036】
温度調整プレート31は、載置されたウェハWの温度調整を行うプレートである。具体的には、温度調整プレート31は、加熱機構40により加熱されたウェハWを載置し、該ウェハWを所定温度に冷却するクールプレートである。例えば、温度調整プレート31は、略円板状に形成されていてもよい。温度調整プレート31は、熱伝導性の高いアルミ、銀、又は銅等の金属によって構成されていてもよい。温度調整プレート31は、熱による変形を防止する観点から同一の材料で構成されていてもよい。温度調整プレート31の内部には、冷却水又は冷却気体を流通させるための冷却流路(不図示)が形成されている。
【0037】
連結ブラケット32は、温度調整プレート31に連結されている。連結ブラケット32は、筐体20内を移動可能に構成されている。具体的には、連結ブラケット32は、筐体20の搬入口22と加熱機構40の近傍との間に延びるガイドレール(不図示)に沿って移動可能とされている。連結ブラケット32がガイドレールに沿って移動することにより、温度調整プレート31が、搬入口22の近傍である搬入位置と加熱機構40と一部が重なる位置である加熱位置との間を移動する。
【0038】
アクチュエータ33は、制御装置100の指示に基づいて動作し、連結ブラケット32を水平方向に往復移動させる。アクチュエータ33は、油圧、空気圧、又は磁力等のエネルギーを機械的な動作に変換する装置である。例えば、アクチュエータ33は、空気圧によってピストン(ピストンロッド)を駆動するエアシリンダであってもよく、空気圧によるエネルギーを並進(直進)する動作に変換してもよい。アクチュエータ33により生成された機械的な動作が連結ブラケット32に伝達することにより、温度調整プレート31が筐体20内において搬入位置と加熱位置との間を移動する。すなわち、アクチュエータ33の動作対象は、温度調整プレート31であり、アクチュエータ33の機能(役割)は、温度調整プレート31を搬入位置と加熱位置との間で移動させることである。アクチュエータ33は、制御装置100からの動作指示を受け取って動作を開始すると、搬入位置及び加熱位置のいずれか一方から他方まで機械的な動作が連続するように構成されていてもよい。
【0039】
アクチュエータ33は、動作検出部34を含んでいる。動作検出部34は、アクチュエータ33の動作に関する情報を取得する。動作検出部34は、例えば、アクチュエータ33の動作に関する情報として、アクチュエータの動作開始及び動作終了に関する情報を取得する。一例として、動作検出部34は、アクチュエータ33に含まれるピストンの位置を検出する複数のセンサで構成されてもよい。動作検出部34は、取得したアクチュエータ33の動作に関する情報を制御装置100に出力する。なお、アクチュエータの動作に関する情報について、詳細は後述する。
【0040】
加熱機構40は、処理室21内においてウェハWを加熱処理する機構である。熱処理ユニットU2における熱処理の一つとして、加熱機構40においてウェハWに対する加熱が行われる。加熱機構40は、支持台41と、熱板42と、ヒータ43と、チャンバー44と、アクチュエータ45と、複数(例えば3つ)の支持ピン46と、アクチュエータ47とを有する。
【0041】
支持台41は、中央部分に窪みを有する円板状を呈している。支持台41は、熱板42を支持している。熱板42は、例えば略円板状に形成されており、支持台41の窪みに収容されている。熱板42は、載置面42aを有している。載置面42aに処理対象のウェハWが載置されることで、熱板42はウェハWを支持する。熱板42は、載置されたウェハWを加熱する。熱板42の載置面42aとは反対側の下面には、熱板42を加熱するためのヒータ43が設けられている。例えば、ヒータ43は、抵抗発熱体から構成されている。ヒータ43に対して電流が流れることにより、ヒータ43は発熱する。そして、ヒータ43からの熱が伝熱して、熱板42の温度が上昇する。例えばヒータ43には、制御装置100からの指示に応じた値の電流が流れてもよい。
【0042】
チャンバー44は、熱板42におけるウェハWの載置面42aを囲むように構成されている。チャンバー44は、天板部44aと、側壁部44bとを有している。天板部44aは、支持台41と同程度の直径を有する円板状に構成されている。天板部44aは、熱板42の載置面42aと上下方向において対向するように配置されている。側壁部44bは、天板部44aの外縁から下方に延びるように構成されている。チャンバー44は、ウェハWの加熱処理を行う空間が開かれる上昇位置と、チャンバー44が下降することによって、ウェハWの加熱処理を行う空間が閉じられる(処理空間が形成される)下降位置との間を移動可能に構成されている。
【0043】
アクチュエータ45は、制御装置100の指示に基づいて動作し、チャンバー44を昇降させる。アクチュエータ45は、油圧、空気圧、又は磁力等のエネルギーを機械的な動作に変換する装置である。例えば、アクチュエータ45は、空気圧によってピストン(ピストンロッド)を駆動するエアシリンダであってもよく、空気圧によるエネルギーを並進(直進)する動作に変換してもよい。アクチュエータ45により生成された機械的な動作がチャンバー44に伝達することにより、チャンバー44が上昇位置と下降位置との間を移動する。すなわち、アクチュエータ45の動作対象は、チャンバー44であり、アクチュエータ45の機能(役割)は、チャンバー44を上昇位置と下降位置との間で移動させることである。アクチュエータ45は、制御装置100からの動作指示を受け取って動作を開始すると、上昇位置及び下降位置のいずれか一方から他方まで機械的な動作が連続するように構成されていてもよい。
【0044】
アクチュエータ45は、動作検出部48を含んでいる。動作検出部48は、アクチュエータ45の動作に関する情報を取得する。動作検出部48は、例えば、アクチュエータ45の動作開始及び動作終了に関する情報を取得する。一例として、動作検出部48は、アクチュエータ45に含まれるピストンの位置を検出する複数のセンサで構成されてもよい。動作検出部48は、取得したアクチュエータ45の動作に関する情報を制御装置100に出力する。
【0045】
支持ピン46は、支持台41及び熱板42を貫通するように上下方向に延びており、ウェハWを下方から支持するピンである。複数の支持ピン46は、例えば周方向に等間隔に配置されていてもよい。支持ピン46は、ウェハWを熱板42に載置させる載置位置と温度調整プレート31との間で受け渡しを行う受渡位置との間を昇降可能に構成されている。
【0046】
アクチュエータ47は、制御装置100の指示に基づいて、支持ピン46を昇降させる。アクチュエータ47は、油圧、空気圧、又は磁力等のエネルギーを機械的な動作に変換する装置である。例えば、アクチュエータ47は、空気圧によってピストン(ピストンロッド)を駆動するエアシリンダであってもよく、空気圧によるエネルギーを並進(直進)する動作に変換してもよい。アクチュエータ47により生成された機械的な動作が支持ピン46に伝達することにより、支持ピン46が受渡位置と載置位置との間を移動する。すなわち、アクチュエータ47の動作対象は、支持ピン46であり、アクチュエータ47の機能(役割)は、支持ピン46を受渡位置と載置位置との間で移動させることである。アクチュエータ47は、制御装置100からの動作指示を受け取って動作を開始すると、受渡位置及び載置位置のいずれか一方から他方まで機械的な動作が連続するように構成されていてもよい。
【0047】
アクチュエータ47は、動作検出部49を含んでいる。動作検出部49は、アクチュエータ47の動作に関する情報を取得する。動作検出部49は、例えば、アクチュエータ47の動作開始及び動作終了に関する情報を取得する。一例として、動作検出部49は、アクチュエータ47に含まれるピストンの位置を検出する複数のセンサで構成されてもよい。動作検出部49は、取得したアクチュエータ47の動作に関する情報を制御装置100に出力する。
【0048】
このように塗布・現像装置2において、熱処理を行う単一の熱処理ユニットU2には、動作対象(機能)及び取付位置が互いに異なる複数のアクチュエータ(アクチュエータ33,45,47)が備えられる。また、共通の処理を実行する互いに異なる複数の熱処理ユニットU2には、それぞれアクチュエータ33,45,47が備えられる。
【0049】
(塗布・現像処理手順)
制御装置100は、例えば以下の手順で塗布・現像処理を実行するように塗布・現像装置2を制御する。まず制御装置100は、キャリアC内のウェハWを棚ユニットU10に搬送するように搬送装置A1を制御し、このウェハWを処理モジュール11用のセルに配置するように搬送装置A7を制御する。
【0050】
次に制御装置100は、棚ユニットU10のウェハWを処理モジュール11内の塗布ユニットU1及び熱処理ユニットU2に搬送するように搬送装置A3を制御する。また、制御装置100は、このウェハWの表面上に下層膜を形成するように、塗布ユニットU1及び熱処理ユニットU2を制御する。その後制御装置100は、下層膜が形成されたウェハWを棚ユニットU10に戻すように搬送装置A3を制御し、このウェハWを処理モジュール12用のセルに配置するように搬送装置A7を制御する。これらの制御において、制御装置100は、処理モジュール11内の熱処理ユニットU2に含まれるアクチュエータ33,45,47を駆動させて、それぞれ対応する動作対象の部材を移動させる。
【0051】
次に制御装置100は、棚ユニットU10のウェハWを処理モジュール12内の塗布ユニットU1及び熱処理ユニットU2に搬送するように搬送装置A3を制御する。また、制御装置100は、このウェハWの表面に対してレジスト膜を形成するように塗布ユニットU1及び熱処理ユニットU2を制御する。その後制御装置100は、ウェハWを棚ユニットU10に戻すように搬送装置A3を制御し、このウェハWを処理モジュール13用のセルに配置するように搬送装置A7を制御する。これらの制御において、制御装置100は、処理モジュール12内の熱処理ユニットU2に含まれるアクチュエータ33,45,47を駆動させて、それぞれ対応する動作対象の部材を移動させる。
【0052】
次に制御装置100は、棚ユニットU10のウェハWを処理モジュール13内の各ユニットに搬送するように搬送装置A3を制御する。また、制御装置100は、このウェハWのレジスト膜上に上層膜を形成するように塗布ユニットU1及び熱処理ユニットU2を制御する。その後制御装置100は、ウェハWを棚ユニットU11に搬送するように搬送装置A3を制御する。これらの制御において、制御装置100は、処理モジュール13内の熱処理ユニットU2に含まれるアクチュエータ33,45,47を駆動させて、それぞれ対応する動作対象の部材を移動させる。
【0053】
次に制御装置100は、棚ユニットU11のウェハWを露光装置3に送り出すように搬送装置A8を制御する。その後制御装置100は、露光処理が施されたウェハWを露光装置3から受け入れて、棚ユニットU11における処理モジュール14用のセルに配置するように搬送装置A8を制御する。
【0054】
次に制御装置100は、棚ユニットU11のウェハWを処理モジュール14内の各ユニットに搬送するように搬送装置A3を制御し、このウェハWのレジスト膜に現像処理を施すように塗布ユニットU1及び熱処理ユニットU2を制御する。その後制御装置100は、ウェハWを棚ユニットU10に戻すように搬送装置A3を制御し、このウェハWをキャリアC内に戻すように搬送装置A7及び搬送装置A1を制御する。これらの制御において、制御装置100は、処理モジュール14内の熱処理ユニットU2に含まれるアクチュエータ33,45,47を駆動させて、それぞれ対応する動作対象の部材を移動させる。以上で塗布・現像処理が完了する。
【0055】
なお、基板処理装置の具体的な構成は、以上に例示した塗布・現像装置2の構成に限られない。基板処理装置は、基板処理を行う処理ユニットと、動作対象の部材を移動させる複数のアクチュエータと、これらを制御可能な制御装置100とを備えていればどのようなものであってもよい。
【0056】
[状態判定装置]
続いて、
図4~
図7を参照して、制御装置100の具体的な構成及び機能を例示する。制御装置100は、機能上の構成(以下、「機能モジュール」という。)として、状態判定部200(状態判定装置)を含んでいる(
図3も参照)。状態判定部200は、塗布・現像装置2に搭載されている複数のアクチュエータに含まれる対象アクチュエータ(複数のアクチュエータのうちのいずれか1つ又は複数のアクチュエータ)の状態を判定するように構成されている。具体的には、状態判定部200は、複数のアクチュエータそれぞれについて、動作に関する特徴量を取得することと、複数のアクチュエータそれぞれについて、上記特徴量に基づいて確率分布モデルを算出することと、複数のアクチュエータそれぞれの確率分布モデルに基づいて、対象アクチュエータの状態を判定することと、を実行するように構成されている。
【0057】
図4に示されるように、状態判定部200は、機能モジュールとして、取得部201と、確率分布算出部202と、基準分布算出部203と、指標値算出部204と、判定部205と、出力部206と、を備える。以下の説明において、特徴量の取得対象及び確率分布モデルの算出対象としての複数のアクチュエータは、例えば、単一の熱処理ユニットU2に含まれるアクチュエータ33,45,47である。また、状態判定の対象となる対象アクチュエータは、例えば、当該熱処理ユニットU2内のアクチュエータ33,45,47のうちの少なくとも一つのアクチュエータである。なお、特徴量の取得対象及び確率分布モデルの算出対象としての複数のアクチュエータ及び対象アクチュエータは、これらに限られない。塗布・現像装置2内に複数の熱処理ユニットU2が設けられている場合、複数の熱処理ユニットU2に含まれるアクチュエータを、特徴量の取得対象及び確率分布モデルの算出対象としての複数のアクチュエータ及び対象アクチュエータとすることができる。また、熱処理ユニットU2とは異なるユニットに含まれるアクチュエータについても、上記の複数のアクチュエータ及び対象アクチュエータとすることができる。
【0058】
上述の通り、アクチュエータの種類は特に限定されないが、以下では、複数のアクチュエータはそれぞれ空圧駆動式のアクチュエータ(エアシリンダ)であり、複数のアクチュエータそれぞれから共通の特徴量を取得し、確率分布モデルを算出する場合を例に説明する。また、以下では、特徴量として、エアシリンダの動作時間Tを用いる場合を例に説明する。
【0059】
取得部201は、複数のアクチュエータそれぞれについて、それぞれのアクチュエータの動作に関する特徴量を取得するように構成されている。例えば、取得部201は、アクチュエータ33,45,47それぞれについて、動作検出部34,48,49を介して動作に関する特徴量(例えば動作時間T)を取得する。具体的には、取得部201は、アクチュエータ33に含まれる動作検出部34から、アクチュエータ33の動作開始及び動作終了に関する情報を得てもよい。
【0060】
一例として、取得部201は、動作検出部34から、アクチュエータ33のピストンの位置に関する情報(例えば、センサが検知したピストンの位置情報)を取得することができる。そして、取得部201では、これらの情報を、ピストンによる動作を開始したことを特定する情報、及び、ピストンによる動作を終了したことを特定する情報として用いることができる。また、取得部201において、ピストンによる動作を開始したことを特定する情報、及び、ピストンによる動作を終了したことと特定する情報に、それぞれの動作が発生した時刻を特定する情報を対応付けてもよい。このような構成を有する場合、取得部201は、ピストンによる動作を開始した時刻と、ピストンによる動作を終了した時刻とに応じてアクチュエータ33の動作時間Tを算出することができる。なお、取得部201は、アクチュエータ45,47の動作時間Tについても、アクチュエータ33と同様にそれぞれ取得(算出)する構成としてもよい。取得部201は、アクチュエータの一連の動作が終了する度、すなわち、動作終了を特定する情報を取得したことを契機として、当該アクチュエータの動作時間Tを取得してもよい。
【0061】
図5には、1つのアクチュエータに関する動作時間Tの取得例(検出結果の一例)が示されている。
図5では、横軸が時刻を示しており、縦軸が動作時間Tを示している。
図5に示されるように、取得部201は、複数のアクチュエータそれぞれについて、継続してその動作時間Tを取得する。
図5に示す例では、任意に設定される所定期間ごとに、動作時間Tに関する複数(ここでは、15個)の取得値が分けられている。この所定期間は、後述する確率分布モデルを算出する基本単位である。確率分布モデルを算出する所定期間は、数時間、半日、又は1日単位に設定されてもよい。
図5において、期間「0」は、既に経過した期間のうち直前(直近)の所定期間を示しており、期間「(-k)」は直前の所定期間よりも前の期間を示している。なお、「k」は任意の正の整数である。例えば、所定期間の幅が1時間に設定され、「-k」が「-3」に設定されている場合、期間「-k」は、直前の所定期間の開始時刻から3時間前に開始され、2時間前に終了する期間を示している。
【0062】
取得部201は、所定期間ごとに、当該期間に含まれる動作時間Tの取得値のうちの最大値Tmax及び最小値Tminを算出(取得)してもよい。取得部201は、所定期間ごとに、当該期間に含まれる動作時間Tの取得値の平均値Tmeanを算出(取得)してもよい。なお以降では、動作時間Tに関する情報には、これら最大値Tmax、最小値Tmin、及び平均値Tmeanに関する情報が含まれるものとして説明する。取得部201は、例えば所定期間ごとに、取得した動作に関する特徴量を示す情報(動作時間Tに関する情報)を確率分布算出部202に出力する。
【0063】
確率分布算出部202は、複数のアクチュエータそれぞれについて、取得部201により取得された特徴量に基づいて確率分布モデルを算出する。つまり、確率分布算出部202は、複数のアクチュエータそれぞれの確率分布モデルをアクチュエータごとの特徴量に基づいて算出する。確率分布算出部202は、1つのアクチュエータにつき、所定期間ごとに確率分布モデルを算出する。
図5に示す例において、取得部201から期間「0」における動作時間Tに関する情報を取得した後に、確率分布算出部202は、この期間「0」における動作時間Tに関する情報に基づいて確率分布モデルを算出する。
【0064】
ここで、確率分布モデルについて説明する。特徴量に基づいた確率分布モデルとは、継続的に得られる特徴量に関する入力変数がある確率分布に従うと仮定し、アクチュエータの動作をモデル化したものである。例えば、確率分布モデルは、動作時間Tに基づいて算出される。確率分布算出部202は、所定期間内に得られた複数の動作時間Tを1つの入力変数Xにまとめてもよい。例えば、確率分布算出部202は、下記の式(1),(2)で示されるように、複数の動作時間Tを入力変数Xにまとめてもよい。
【数1】
【数2】
【0065】
式(1)における「Twidth」は、式(2)で示されるとおり、最大値Tmaxと最小値Tminとの差(以下、「動作時間幅Twidth」という。)である。Tmean(0),Twidth(0)は、確率分布モデルの算出対象の期間である直前の所定期間(期間「0」)での動作時間Tの平均値Tmean及び動作時間幅Twidthをそれぞれ示している。また、Tmean(-k),Twidth(-k)は、期間「-k」での動作時間Tの平均値Tmean及び動作時間幅Twidthをそれぞれ示している。
【0066】
なお、入力変数Xは上記の変数に限定されない。すなわち、確率分布算出部202は、入力変数Xとしてアクチュエータの動作時間Tに応じた変数を任意に選択することができる。例えば、確率分布算出部202は、式(1)において、動作時間Tの平均値Tmeanに代えて、最小値Tmin又は最大値Tmaxを用いてもよい。
【0067】
空圧駆動式のアクチュエータ(エアシリンダ)に共通する異常発生の一般的な兆候として、推力の低下又は摺動抵抗の上昇による動作時間の変動(変化)が挙げられる。アクチュエータが一度異常状態に遷移すると、当該アクチュエータが正常状態に自然復帰することは考え難い。また、アクチュエータが異常状態に遷移すると、動作時間Tの変動(変化)は加速すると考えられる。この傾向は、動作時間Tの瞬間的な変化量dTがその時点における動作時間Tに依存することを示している。ここで、その両者の除算値dT/Tを新たな変化量dYと定義した場合に、下記の式(3)の関係が成立する。この結果、除算値dT/T(変化量dY)が正規分布に従うと仮定した場合、動作時間Tそのものは対数正規分布に従う。確率変数(ここでは動作時間T)が対数正規分布に従うとは、確率変数(ここでは動作時間T)の対数が正規分布に従うことを示している。なお、動作時間Tの分布が厳密に対数正規分布にあてはまらなくても、動作時間Tの分布が対数正規分布に類似していれば、経験的に上記仮定が適用可能である。
【数3】
【0068】
対数正規分布に従う確率変数では、確率変数同士の剰余も対数正規分布に従う性質があることが知られている。したがって、式(1)で示される入力変数Xも対数正規分布に従う。このため、確率分布算出部202は、入力変数Xの対数logXが従う正規分布を規定するパラメータを算出することで、複数のアクチュエータそれぞれの確率分布モデルを算出する。具体的には、確率分布算出部202は、上記のパラメータとして、正規分布(対数正規分布)の平均である平均uと、標準偏差σに応じた分散σ
2との2種類を算出する。つまり、確率分布算出部202は、平均uと分散σ
2とを得ることで、1つのアクチュエータに対する確率分布モデルを算出する。確率分布算出部202は、平均u及び分散σ
2の算出方法(推定方法)として、特に限定されないが、例えば公知の最尤法又はベイズ推定等の方法を用いてもよい。確率分布算出部202は、上述した推定手法により対数logXが従う正規分布の平均uと分散σ
2の値を推定することにより、式(4)に示される複数のアクチュエータの個々に紐付く確率分布モデルp
iを算出する。確率分布算出部202は、算出した確率分布モデルp
iに関する情報を基準分布算出部203に出力する。
【数4】
i:アクチュエータごとに割り振られた装置番号(正の整数)
【0069】
基準分布算出部203は、確率分布算出部202から取得した複数のアクチュエータそれぞれの確率分布モデルpiから、対象アクチュエータの状態判定の基準となる基準確率分布モデルpsを算出するように構成されている。つまり、基準分布算出部203は、複数のアクチュエータそれぞれの確率分布モデルpiから、単一の基準確率分布モデルpsを算出する。例えば、基準分布算出部203は、確率分布モデルpiに含まれるパラメータ(平均ui及び分散σi
2)の平均値又は中央値を求めることにより、対数正規分布の基準確率分布モデルpsを算出してもよい。
【0070】
基準確率分布モデルpsを算出する際に、複数のアクチュエータの確率分布モデルpiのパラメータに基づくのは次の理由による。すなわち、塗布・現像装置2内に複数のアクチュエータが含まれていれば、多数のアクチュエータは通常の稼動状態では正常であり、異常状態となるアクチュエータの数は、少数又は1つであるとの見込みによる。更に複数のアクチュエータの確率分布モデルを算出の対象に含めることにより、状態判定のための基準はより確からしくなる。
【0071】
例えば平均値を採用する場合、基準確率分布モデルp
sのパラメータは以下の式(5),(6)のように示される。なお、所定期間内において動作時間Tが略一定にて安定している場合、入力変数Xは1に略等しく、対数logXは0に略等しいので、基準分布算出部203は、平均u
iの平均値u
sを0として算出してもよい。この場合、基準確率分布モデルp
sの算出が簡略化される。このように、基準確率分布モデルp
sは、複数のアクチュエータそれぞれの確率分布モデルp
iの平均を算出することで得られてもよい。基準分布算出部203は、算出した基準確率分布モデルp
sに関する情報を指標値算出部204に出力する。
【数5】
n:複数のアクチュエータの数(正の整数)
【数6】
【0072】
指標値算出部204は、基準確率分布モデルpsと、対象アクチュエータの確率分布モデルpi(以下、「対象確率分布モデルpo」という。)と、を比較することにより、対象アクチュエータの状態を示す指標値を算出する。具体的には、指標値算出部204は、基準確率分布モデルpsと、対象確率分布モデルpoとの確率分布間の距離D(相違度)を算出してもよい。このような確率分布間の距離Dとして、公知のカルバック・ライブラー距離(Kullback-Leibler distance)、ピアソン距離(Pearson distance)、又はL2距離(L2-distance)が用いられてもよく、対象アクチュエータの状態が指標値として数値化されてもよい。指標値算出部204は、算出した指標値に関する情報を判定部205に出力する。
【0073】
判定部205は、指標値算出部204により算出された指標値に基づき、対象アクチュエータの状態を判定する。例えば、判定部205は、指標値に基づき対象アクチュエータが異常状態であるか、正常状態であるかを判定する。
図6(a)には期間の経過に伴う期間ごとの動作時間T(動作時間Tの最大値、最小値、及び平均値)の推移が例示されており、
図6(b)には当該動作時間Tに応じた期間ごとの指標値の推移が例示されている。なお、
図6(a)及び
図6(b)では、所定期間ごとの動作時間Tの最大値Tmax、最小値Tmin、及び平均値Tmeanの取得結果、並びに指標値の算出結果が示されている。
【0074】
図6(a)に示されるように、期間の経過に伴い、対象アクチュエータが異常状態に近づく(異常状態となる)につれて、動作時間幅Twidthが広がり、又は動作時間の平均値Tmeanが上昇していく。このため、指標値が確率分布間の距離Dとして示される場合、
図6(b)に示されるように、当該距離D(指標値)は、対象アクチュエータが異常状態に近づく(異常状態となる)につれて大きくなる傾向がある。なお、対象アクチュエータは確率分布モデルp
iの算出対象である複数のアクチュエータに含まれており、基準確率分布モデルp
sの算出には、対象アクチュエータの対象確率分布モデルp
oも用いられる。この場合であっても、上述した複数のアクチュエータの数を示す「n」の値が大きければ、パラメータの平均値を用いて算出した基準確率分布モデルp
sに含まれる対象確率分布モデルp
oの変動は無視できる程度である。なお、パラメータの中央値を選択して基準確率分布モデルp
sを算出する場合には、「n」の値が十分に大きくなくても、対象確率分布モデルp
oの変動による影響は小さい。
【0075】
判定部205は、対象アクチュエータの異常の判定に指標値を利用してもよい。例えば、判定部205は、指標値が所定の値(閾値Th1)を越えた場合に、対象アクチュエータが異常状態であると判定してもよい。閾値Th1は、アクチュエータが異常状態であるときの指標値を推定又は評価することにより予め設定されてもよい。また、判定部205は、指標値が閾値Th1以下である場合に、対象アクチュエータが正常状態であると判定してもよい。このように、指標値算出部204及び判定部205は、基準確率分布モデルpsと、対象アクチュエータの確率分布モデルである対象確率分布モデルpoとを比較することにより、対象アクチュエータの状態を判定する比較判定部を構成する。判定部205は、対象アクチュエータの状態(正常状態又は異常状態)を示す情報を出力部206に出力する。
【0076】
出力部206は、判定部205により判定された対象アクチュエータの状態を示す情報を状態判定部200の外部に出力する。例えば、出力部206は、対象アクチュエータの状態が正常である場合に、正常であることを示す信号(以下、「正常信号」という。)を、制御装置100内の他の要素(機能モジュール)あるいは制御装置100の外部に出力してもよい。また、出力部206は、対象アクチュエータの状態が異常である場合に、異常であることを示す信号(以下、「異常信号」という。)を制御装置100内の他の要素あるいは制御装置100の外部に出力してもよい。異常信号が制御装置100内の他の要素に出力された際に、制御装置100は、異常と判定される前の通常の制御とは異なる制御を行ってもよい。例えば、制御装置100は、異常信号が出力された際に、対象アクチュエータが異常であることを表示器(不図示)に表示する(オペレータに通知する)ように制御を行ってよい。あるいは、制御装置100は、異常状態となった対象アクチュエータが含まれる熱処理ユニットU2による処理、又は塗布・現像装置2内の処理を一時的に停止してもよい。
【0077】
状態判定部200を含む制御装置100は、一つ又は複数の制御用コンピュータにより構成される。例えば制御装置100は、
図7に示される回路120を有する。回路120は、一つ又は複数のプロセッサ121と、メモリ122と、ストレージ123と、タイマー125と、入出力ポート124とを有する。ストレージ123は、例えばハードディスク等、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体を有する。記憶媒体は、後述の状態判定手順を制御装置100(状態判定部200)に実行させるためのプログラムを記憶している。記憶媒体は、不揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク及び光ディスク等の取り出し可能な媒体であってもよい。メモリ122は、ストレージ123の記憶媒体からロードしたプログラム及びプロセッサ121による演算結果を一時的に記憶する。プロセッサ121は、メモリ122と協働して上記プログラムを実行することで、上述した各機能モジュールを構成する。入出力ポート124は、プロセッサ121からの指令に従って、アクチュエータ33,45,47との間で電気信号の入出力を行う。タイマー125は、例えば一定周期の基準パルスをカウントすることで経過時間を計測する。
【0078】
なお、制御装置100のハードウェア構成は、必ずしもプログラムにより各機能モジュールを構成するものに限られない。例えば制御装置100の各機能モジュールは、専用の論理回路又はこれを集積したASIC(Application Specific Integrated Circuit)により構成されていてもよい。制御装置100は、基板処理に関する制御を行う制御用コンピュータと、当該制御用コンピュータとは別の状態判定用コンピュータ(状態判定装置)とを備えていてもよい。
【0079】
[状態判定手順]
続いて、
図8を参照して、制御装置100(状態判定部200)により実行される対象アクチュエータの状態判定手順を説明する。
図8には、状態判定方法としての状態判定手順を示すフローチャートが示されている。
【0080】
この状態判定手順において、制御装置100は、まずステップS01,S02を実行する。ステップS01では、例えば取得部201が、複数のアクチュエータそれぞれについて、特徴量として動作時間Tを取得する。ステップS02では、例えば取得部201が、所定期間(特徴量の取得単位となる期間)が経過しているかどうかを判断する。所定期間が経過するまで、制御装置100はステップS01,S02の処理を繰り返す。これにより、所定期間(例えば期間「0」:
図5参照)内において実行される各アクチュエータの複数の動作について、それぞれの特徴量(動作時間Tに関する情報)が取得される。ここでは、複数のアクチュエータそれぞれについての特徴量の取得単位(所定期間)が互いに一致する場合について例示しているが、特徴量の取得単位(所定期間)は互いに異なっていてもよい。そして、ステップS02において、所定期間が経過したと判断されると、取得部201は、取得した動作時間Tに関する情報を確率分布算出部202に出力する。
【0081】
次に、制御装置100は、ステップS03を実行する。ステップS03では、例えば確率分布算出部202が、複数のアクチュエータそれぞれについて、期間「0」に含まれる複数の動作時間Tに基づいて確率分布モデルpiを算出する。確率分布算出部202は、上述の式(1)で示される入力変数Xに基づく確率分布モデルpiを算出してもよい。この場合、複数のアクチュエータそれぞれについて、式(1)における「k」は互いに同じ値に設定されてもよい。確率分布算出部202は、確率分布モデルpiを示す情報を基準分布算出部203に出力する。
【0082】
次に、制御装置100は、ステップS04を実行する。ステップS04では、例えば基準分布算出部203が、複数のアクチュエータそれぞれの確率分布モデルpiに基づいて、基準確率分布モデルpsを算出する。基準分布算出部203は、確率分布モデルpiに含まれるパラメータ(平均ui及び分散σi
2)の平均値を求め、当該平均値を基準確率分布モデルpsのパラメータとして設定してもよい。基準分布算出部203は、確率分布モデルpiを示す情報を指標値算出部204に出力する。
【0083】
次に、制御装置100は、ステップS05を実行する。ステップS05では、例えば指標値算出部204が、対象アクチュエータの対象確率分布モデルpoと、基準分布算出部203により算出された基準確率分布モデルpsとを比較する。指標値算出部204は、対象確率分布モデルpoと基準確率分布モデルpsとを比較することで、これらの確率分布モデル間の距離Dを指標値として算出してもよい。指標値算出部204は、指標値に関する情報を判定部205に出力する。
【0084】
次に、制御装置100は、ステップS06を実行する。ステップS06では、例えば判定部205が、指標値算出部204により算出された指標値が、閾値Th1よりも大きいかどうかを判断する。判定部205は、指標値が閾値Th1よりも大きいかどうかの判断結果を示す情報を出力部206に出力してもよい。
【0085】
ステップS06において、指標値が閾値Th1よりも大きいと判断された場合(ステップS06:YES)、制御装置100は、ステップS07を実行する。ステップS07では、例えば出力部206が状態判定部200の外部に対象アクチュエータが異常状態であることを示す異常信号を出力する。なお、ステップS06において、指標値が閾値Th1以下であると判断された場合(ステップS06:NO)も同様に、出力部206は、対象アクチュエータが正常状態であることを示す正常信号を出力してもよい。以上により、一つの所定期間における一連の状態判定処理が終了する。なお、制御装置100は、対象アクチュエータが複数のアクチュエータである場合には、対象アクチュエータごとにステップS05~S07の処理を実行する。以降、制御装置100は、所定期間ごとに、ステップS01~S07の処理を繰り返す。
【0086】
[作用]
以上の実施形態に係る状態判定手順及び状態判定部200(状態判定装置)では、複数のアクチュエータそれぞれの確率分布モデルpiに基づいて、対象アクチュエータの状態が判定される。対象アクチュエータの状態が通常状態から離れていくと、動作に関する特徴量である動作時間Tに変動が生じる。このため、複数のアクチュエータそれぞれの確率分布モデルpiのうちの対象アクチュエータに関する対象確率分布モデルpoが変化する。複数のアクチュエータの確率分布モデルpiに基づいて対象アクチュエータの対象確率分布モデルpoの変化を捉えることで、対象アクチュエータの状態を判定することが可能となる。例えば、対象確率分布モデルpoと、対象アクチュエータ以外のアクチュエータについての確率分布モデルとの間のずれを捉えることで、対象アクチュエータの状態を判定することができる。すなわち、アクチュエータの状態を判定するのに適した状態判定方法及び状態判定装置が提供される。
【0087】
従来の故障予知を含む状態検出では、機器の動作に関する履歴データと、故障した機器の履歴データに基づいて更新される故障パターンとに基づいて機器の故障を予知している。すなわち、この従来の状態検出方法では、実際に故障が生じた際の故障パターンを予め記憶しておき、通常稼働時の機器の履歴データと当該故障パターンとを比較することで、故障が予知されている(機器の状態が検出されている)。この方法では、出現率が低いパターンも含めて種々の故障パターンを予め記憶(取得)しておく必要があるので、準備が煩雑である。さらに、記憶していない初見の故障パターンは検出することができないおそれがある。そのため、アクチュエータの状態を評価する方法としては改善の余地があった。これに対して、本実施形態に係る状態判定方法及び状態判定装置では、アクチュエータの異常により動作時間Tに変動が生じること、及び当該動作時間Tに基づいた確率分布モデルを利用して対象アクチュエータの状態が判定される。このため、予めアクチュエータが通常状態から離れた場合の動作に関する特徴量を収集する必要もなく、また、通常状態から離れた状態が初見であってもアクチュエータの状態が検出され得る。
【0088】
以上の実施形態において、上記判定することは、複数のアクチュエータそれぞれの確率分布モデルpiから判定の基準となる基準確率分布モデルpsを求めることと、基準確率分布モデルpsと、対象アクチュエータの確率分布モデルである対象確率分布モデルpoとを比較することにより、対象アクチュエータの状態を判定することと、を含む。この場合、複数のアクチュエータそれぞれの確率分布モデルpiから状態判定の基準となる基準確率分布モデルpsを作成し、これを状態判定に利用することで、対象アクチュエータの状態判定を容易に行うことが可能となる。
【0089】
以上の実施形態において、基準確率分布モデルpsは、複数のアクチュエータそれぞれの確率分布モデルpiの平均を算出することで得られる。この場合、複数のアクチュエータそれぞれの確率分布モデルpiの平均を用いることで、状態判定により適した基準を得ることが可能となる。
【0090】
以上の実施形態において、上記判定することは、対象アクチュエータが異常であるかどうかを判定することである。上記状態判定方法は、対象アクチュエータが異常であると判定された場合に、対象アクチュエータが異常であることを示す信号を出力することを更に含む。この場合、対象アクチュエータが異常状態であると判定されたときに、対象アクチュエータが通常状態である場合と異なる処理を実行することが可能となる。
【0091】
上記実施形態で説明したアクチュエータ33,45,47の動作対象は、同一の熱処理ユニットU2に設けられているが、動作対象が互いに異なっている。このように、対象アクチュエータの動作の判定に用いる複数のアクチュエータの動作対象は互いに異なっていてもよい。複数のアクチュエータは、基板処理装置に含まれ、所定の処理を施す単一の処理ユニットに設けられていてもよい。複数のアクチュエータの動作対象及び取付位置が互いに異なっていると、通常状態でもそれぞれの動作時間Tは互いに異なる。このため、対象アクチュエータが異常状態に近づいても、異常状態に近づくことに起因した動作時間Tの変動を捉えることができないおそれがある。上記構成では、アクチュエータの動作時間Tに関する確率分布モデルに基づいて状態を判定しているので、動作対象及び取付位置が互いに異なっていても、確率分布モデル間のずれにより対象アクチュエータの状態を判定することが可能となる。
【0092】
複数のアクチュエータそれぞれは、空気圧によって駆動するエアシリンダである。エアシリンダが通常状態から離れていくと(異常状態に近づく、又は異常状態となると)、エアシリンダの動作に関する動作時間Tは通常状態の値から離れていく。このため、対象アクチュエータとしての対象のエアシリンダの動作時間Tに基づく確率分布モデルは、他のエアシリンダの確率分布モデルに対してずれてくるので、対象のエアシリンダの状態を判定することが可能となる。
【0093】
[変形例]
以上、実施形態について説明したが、本開示は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0094】
制御装置100(判定部205)は、指標値に応じて対象アクチュエータが異常状態であるかどうかを判定することに代えて、対象アクチュエータが異常状態に近づいているかどうかを判定してもよい。
図9には、対象アクチュエータが異常状態に近づいているかどうかの判定手法の一例を説明するためのグラフが示されている。例えば、
図9に示されるように、指標値(距離D)は、対象アクチュエータが正常状態から異常状態に遷移する過程において、閾値Th1に向けて徐々に上昇していく。このため、判定部205は、閾値Th1よりも小さい閾値Th2を設定し、指標値が閾値Th2よりも大きいかどうかを判断することで、対象アクチュエータが異常状態に近づいているかどうかを判定してもよい。
【0095】
判定部205により対象アクチュエータが異常状態に近づいていると判断された場合、出力部206は、対象アクチュエータが異常状態に近づいていることを示す信号(以下、「異常近接信号」という。)を制御装置100の他の要素に出力してもよい。異常近接信号が制御装置100内の他の要素に出力された際に、制御装置100は、異常に近づいていると判定される前の通常の制御とは異なる制御を行ってもよい。例えば、制御装置100は、異常近接信号が出力された際に、対象アクチュエータが異常状態に近づいていることを表示器(不図示)に表示する(オペレータに通知する)ように制御を行ってよい。あるいは、制御装置100は、異常状態に近づいている対象アクチュエータが含まれる熱処理ユニットU2による処理、又は塗布・現像装置2内の処理を一時的に停止してもよい。判定部205は、指標値が閾値Th2を越えた場合に、閾値Th2までの上昇期間(グラフC1)における複数の指標値に基づいて予測直線L1(例えば最小二乗法に基づく近似直線)を算出して、予測直線L1が閾値Th1に達する期間(猶予期間La)を予測してもよい。出力部206は、予測直線L1が閾値Th1に達するまでの猶予期間Laに関する情報を出力してもよい。
【0096】
上記方法において対象アクチュエータの状態を判定することは、対象アクチュエータが異常状態に近づいているかどうかを判定することである。上記状態判定方法は、対象アクチュエータが異常状態に近づいていると判定された場合に、対象アクチュエータが異常状態に近づいていることを示す信号を出力することを含む。この場合、対象アクチュエータが異常状態に近づいていると判定されたときに、対象アクチュエータが通常状態である場合と異なる処理を実行することが可能となる。
【0097】
制御装置100(状態判定部200)は、対象確率分布モデルp
oのヒストグラム(histogram)の特徴を正規分布比で表す歪度S(絶対値)又は尖度Pにも基づいて、対象アクチュエータの状態を判定してもよい。例えば、指標値算出部204は、距離Dに、以下の式(7)~式(9)で示される演算を施すことで得られる補正距離D1~D3のいずれかを指標値として算出してもよい。
【数7】
【数8】
【数9】
【0098】
この方法における対象アクチュエータの状態を判定することは、対象確率分布モデルpoの歪度又は尖度にも基づいて判定することを含む。この場合、対象アクチュエータの動作時間Tの変動により歪度又は尖度にも変化が生じるので、確率分布間の距離Dをこれらの歪度又は尖度にて補正することで、対象確率分布モデルpoと基準確率分布モデルpsとの間のずれがより強調される。その結果、対象アクチュエータの状態をより確実に判定することが可能となる。
【0099】
特徴量の取得対象及び確率分布モデルの算出対象としての複数のアクチュエータは、互いに異なる熱処理ユニットU2に含まれ、動作対象が共通するアクチュエータであってもよい。例えば、複数の熱処理ユニットU2に含まれる複数のアクチュエータ33の確率分布モデルがそれぞれ算出され、複数のアクチュエータ33のうちの1つが対象アクチュエータとして設定されてもよい。
【0100】
この例では、複数のアクチュエータの動作対象は共通している。また、複数のアクチュエータは、基板処理装置に含まれ、共通の処理を実行する互いに異なる熱処理ユニットU2に設けられている。この場合、対象アクチュエータの動作が通常状態から離れていくと、他の確率分布モデルとの間のずれが発生するので、対象アクチュエータの状態を判定することが可能となる。
【0101】
状態判定部200(状態判定装置)は、制御装置100とは別の筐体に収容され、制御装置100とは別のコンピュータ(回路)として構成されてもよい。状態判定部200は、複数の塗布・現像装置2に含まれる複数のアクチュエータを対象として、確率分布モデルpiを算出してもよい。
【0102】
アクチュエータの動作対象(機能)は、上述の例示のものに限られない。アクチュエータは、塗布ユニットU1又は他の基板処理を行う処理ユニットに設けられ、部材を水平又は鉛直方向に往復移動させる装置であってもよい。
【0103】
確率分布モデルpiの算出に用いられるアクチュエータの動作に関する特徴量は、動作時間Tに限られない。例えば、アクチュエータの動作に関する特徴量として、アクチュエータの(平均)動作速度、又は動作対象の慣性及び摺動抵抗に抗する合力としての加速度及びトルクを用いることができる。なお、アクチュエータの一動作間に継続して得られる上記特徴量に対してピーク抽出又は平均化等の統計処理を施すことによって、取得部201は一動作ごとの特徴量を取得してもよい。上記実施形態では、取得部201は、アクチュエータの動作に関する情報に基づいて特徴量を算出することで、アクチュエータの動作に関する特徴量を取得しているが、取得方法はこれに限られない。取得部201は、アクチュエータの動作に関する特徴量を示す情報を検出する動作検出部から、当該情報を得ることによって特徴量を取得してもよい。
【0104】
塗布・現像装置2における処理対象の基板は半導体ウェハに限られず、例えばガラス基板、マスク基板、FPD(Flat Panel Display)などであってもよい。
【符号の説明】
【0105】
2…塗布・現像装置、33,45,47…アクチュエータ、100…制御装置、200…状態判定部、201…取得部、202…確率分布算出部、203…基準分布算出部、204…指標値算出部、205…判定部、206…出力部、U2…熱処理ユニット。