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特許7565414空気圧シリンダ及びそれを備えた測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】空気圧シリンダ及びそれを備えた測定装置
(51)【国際特許分類】
   F15B 15/14 20060101AFI20241003BHJP
   G01B 21/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F15B15/14 345Z
G01B21/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023110845
(22)【出願日】2023-07-05
(62)【分割の表示】P 2019003524の分割
【原出願日】2019-01-11
(65)【公開番号】P2023134568
(43)【公開日】2023-09-27
【審査請求日】2023-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】110003535
【氏名又は名称】スプリング弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 愼弥
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-028901(JP,U)
【文献】国際公開第2018/070881(WO,A1)
【文献】特開2001-027502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 15/00-15/28
G01B 5/00- 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部まで貫通する貫通孔を有するシリンダと、
前記シリンダの前記内部を第1室及び第2室に区画し、前記シリンダの軸方向に移動可能に配設されたピストンと、
前記第1室及び前記第2室間を前記ピストンの推力低下を生じさせないように一方向連通に接続する結露防止手段と、を備え、
前記結露防止手段は、前記第1室側に開口する開口部又は前記第2室側に開口する開口部を一方向連通に覆う弾性体を有する、ことを特徴とする空気圧シリンダ。
【請求項2】
前記結露防止手段は、記第1室及び前記第2室を連通する連通孔と前記連通孔及び前記開口部を接続する小孔とを有し、
前記連通孔は、前記ピストン又は前記シリンダの内側に形成され、
前記小孔は、前記連通孔よりも小径である、
請求項1に記載の空気圧シリンダ。
【請求項3】
前記貫通孔は、前記第1室に貫通する第1貫通孔と、前記第2室に貫通する第2貫通孔を有する、請求項1又は2に記載の空気圧シリンダ。
【請求項4】
前記弾性体で覆われる前記開口部が形成された溝は、前記弾性体の移動を案内する傾斜面又はテーパ面を有する、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の空気圧シリンダ。
【請求項5】
一端側に測定子が連結され、他端側に測定ヘッドが接続されたアームと、
前記アームを揺動させるように前記測定ヘッドに搭載された空気圧シリンダと、を備え、
前記空気圧シリンダは、
内部まで貫通する貫通孔を有するシリンダと、
前記シリンダの前記内部を第1室及び第2室に区画し、前記シリンダの軸方向に移動可能に配設されたピストンと、
前記第1室及び前記第2室間を前記ピストンの推力低下を生じさせないように一方向連通に接続する結露防止手段と、を備え、
前記結露防止手段は、前記第1室側に開口する開口部又は前記第2室側に開口する開口部を一方向連通に覆う弾性体を有する、ことを特徴とする測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置のセンサ部の駆動等に用いられる空気圧シリンダ及びそれを備えた測定装置に係り、特に結露防止に好適な空気圧シリンダ及びそれを備えた測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
測定装置のセンサの可動部等を駆動するのに、既存空気源や可搬式の圧縮機等を使用できる利点を有する小型の空気圧シリンダが多用される。空気圧シリンダの作動に用いる圧縮空気は、空気源から空気圧シリンダまで、または空気圧シリンダ自体において、経路の途中に膨張過程が含まれると、断熱膨張により作動空気内の水分が凝縮して結露を生じる場合がある。このような結露は空気圧シリンダの作動不良や空気圧シリンダを備える制御系で使用されるグリースの劣化の一因になるので、発生を止めるかまたは発生の初期段階で、空気圧シリンダを備えるシステムの外部へ排出する必要がある。
【0003】
結露防止を目的とした従来の空気圧シリンダの例が、特許文献1に記載されている。この公報に記載の空気圧シリンダでは、シリンダチューブ内を摺動するピストンに、一対の圧力室を連通させる小径の連通孔を設け、供給側の圧力室に供給された圧縮空気の一部を連通孔から排出側の圧力室に流入させ、この流入空気によって排出側の圧力室の冷えた空気を完全に外部に排出させるとともに、排出側の圧力室を加温している。
【0004】
結露防止を目的とした空気圧配管部品の例が、特許文献2に記載されている。この公報に記載の管継手は、空気圧シリンダで構成されるシステムの結露防止回路の簡素化を図って2個の管継手から構成され、各管継手のボディに二重チューブが接続可能になっている。そして、各管継手のボディ内に、二重チューブの間隙通路に接続可能な外側流路と、二重チューブの内管通路に接続可能な内側流路を形成している。単管またはポートと接続可能な接続部が形成され、管継手の外側流路には間隙通路から連絡流路への流れのみを許す第1チェック弁が配設され、管継手の内側流路には内管通路から連絡流路への流れのみを許す第2チェック弁が配設されている。
【0005】
さらに、空気圧シリンダの近傍に取付けスペースを必要としない空気圧シリンダ用の結露防止回路の例が、特許文献3に記載されている。この公報に記載の結露防止回路は、空気圧シリンダのヘッド側ポートと切換弁のAポートが第1の配管により連通され、空気圧シリンダのロッド側ポートDと切換弁のBポートとが第2配管により連通されている。第1配管の2つの位置間には第1バイパス管が並列に配設され、第2配管の2つの位置間には第2バイパス管が並列に配設されている。第1配管の2つの位置間及び第2配管の2つの位置間には給気の流れのみを許容するチェック弁がそれぞれ配設され、第1バイパス管と第2バイパス管には排気の流れのみを許容するチェック弁がそれぞれ配設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実開平5-92507号公報
【文献】特開2001-317676号公報
【文献】特開平10-9205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載の従来の空気圧シリンダにおいては、2つの作動室間を仕切るピストンに両室間を連通する小孔を設けているので、熱い空気により冷たい空気を加温して結露の防止が期待される。しかしながらこの公報に記載の空気圧シリンダでは、小孔により常時2つの作動空間が連通しているので、空気源から供給される加圧空気の一部が常に漏れた状態にある。そのため、空気圧シリンダ内に保持されるピストンに対する所期の推力が得られない恐れが生じる。空気圧シリンダのピストンをシリンダ内で往復動させる推力が不十分であれば、空気圧シリンダに動作遅れや動作不全が生じ、空気圧制御系の制御が機能しなくなる。
【0008】
また上記特許文献2には、空気圧シリンダそのものではないものの、空気圧制御系において空気圧シリンダとともに用いる管継手の結露防止が開示されている。この公報に記載の二重チューブ用管継手は、空気圧シリンダと併用されるものであるから空気圧シリンダとは別部品となり、空気圧制御系の部品点数を増加させる。また、この管継手は二重管を採用する上にチェック弁をも含むので構成が複雑であり、汎用の測定器のセンサ部に用いるためには小型化が必須であるが、複雑な構造ゆえ小型化が困難になる。
【0009】
特許文献3には、空気圧シリンダ近傍に取付けスペースを設ける必要が無い、結露防止回路が開示されている。この公報に記載の結露防止回路は、バイパス配管を設けることにより排気時の膨張音の伝搬を低減しているが、空気圧シリンダの近傍ではないとしてもいずれかの場所に複数のバイパス配管と切換弁を設ける必要があり、空気圧制御系が複雑化する。小型化が求められる汎用の測定器では、センサ部及びセンサ部と測定器本体間をできるだけ簡素にして計測しやすくすることが求められているが、この公報に記載の結露防止回路ではその様な要求を実現することが容易ではない。
【0010】
本発明は上記従来技術の不具合に鑑みなされたものであり、その目的は、空気圧制御系において空気圧シリンダに配管や排気弁を付加することなく、空気圧シリンダ自身で空気圧シリンダ内に発生する恐れのある結露を防止する、および万一結露が生じたら結露を即座に空気圧シリンダ外へ排出することにある。また上記目的において、空気圧シリンダ内の内部漏れを低減して、ピストンの推力低下を生じさせない結露防止手段を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する本発明の特徴は、以下のとおりである。
[1] 内部まで貫通する貫通孔を有するシリンダと、上記シリンダの上記内部を第1室及び第2室に区画し、上記シリンダの軸方向に移動可能に配設されたピストンと、上記第1室及び上記第2室間を接続する結露防止手段と、を備え、上記結露防止手段は、上記第1室又は上記第2室側の開口部を覆う弾性体を有する、ことを特徴とする空気圧シリンダ。
[2] 上記結露防止手段は、上記シリンダ又は上記ピストンに形成された上記第1室及び上記第2室を連通する連通孔を有する、[1]に記載の空気圧シリンダ。
[3] 上記貫通孔は、上記第1室に貫通する第1貫通孔と、上記第2室に貫通する第2貫通孔を有する、[1]又は[2]に記載の空気圧シリンダ。
[4] 上記弾性体で覆われる上記開口部が形成された溝は、上記弾性体の移動を案内する傾斜面又はテーパ面を有する、ことを特徴とする[1]乃至[3]のいずれかに記載の空気圧シリンダ。
[5] 一端側に測定子が連結され、他端側に測定ヘッドが接続されたアームと、上記アームを揺動させるように上記測定ヘッドに搭載された空気圧シリンダと、を備え、上記空気圧シリンダは、内部まで貫通する貫通孔を有するシリンダと、上記シリンダの上記内部を第1室及び第2室に区画し、上記シリンダの軸方向に移動可能に配設されたピストンと、上記第1室及び上記第2室間を接続する結露防止手段と、を備え、上記結露防止手段は、上記第1室又は上記第2室側の開口部を覆う弾性体を有する、ことを特徴とする測定装置。
【0012】
本発明の他の特徴は、シリンダと、このシリンダの内部を第1室と第2室に区画し、前記シリンダの軸方向に移動可能に配設されたピストンとを備え、前記シリンダ内へ加圧空気を供給する及び前記シリンダ内から空気を排出するために前記シリンダの外壁に形成された第1、第2の空気出入り口を有する空気圧シリンダにおいて、前記ピストンまたは前記シリンダの内側に前記第1室と前記第2室間を一方向連通する結露防止手段を設けることにある。
【0013】
そしてこの特徴において、前記第1室と前記第2室間を一方向連通する前記結露防止手段は、前記第1室と前記第2室間を一方向連通する連通孔と前記連通孔の一方の開口部が面する溝を覆う弾性体を備えるのが好ましく、前記連通孔の一方の開口部が面する溝を覆う前記弾性体は、Oリングであることが望ましい。さらに、前記連通孔の一方の開口部が面する溝を覆う弾性体用の溝を前記開口部の先端部に設け、該溝に前記弾性体を嵌合するとともに、該溝の少なくとも一面を前記弾性体の移動を案内する傾斜面またはテーパ面に形成するのがよく、前記第1、第2の空気出入り口からの空気の流れの向きを切替えることにより前記弾性体が伸縮して、前記結露防止手段が前記第1室と第2室を一方向連通することが望ましい。
【0014】
上記目的を達成する本発明の他の特徴は、測定装置が、ワークに当接する測定子と、この測定子に一端側が連結され他端側が作動トランスを含む測定ヘッドに接続されたアームと、前記アームを揺動可能に保持する保持台と、前記アームを揺動させる揺動手段を備え、前記揺動手段は付勢手段と上記いずれかの特徴を有する空気圧シリンダを含むことにある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、空気圧シリンダの2つの作動室を区画するピストン内部に、2つの作動室間を連通する空気経路を設け、その空気経路の一方の出口を弾性材で覆うようにしたので、弾性材が逆止弁として一方向連通するように作用して、結露防止手段を空気圧シリンダ内に形成する。これにより、空気圧制御系において空気圧シリンダに配管や排気弁を付加することなく、空気圧シリンダ自身で空気圧シリンダ内に発生する恐れのある結露を防止できる。また万一結露が生じても結露を即座に空気圧シリンダ外へ排出できる。さらに、空気圧シリンダ内の内部漏れを低減してピストンの推力低下を生じさせない結露防止手段が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る空気圧シリンダを備えたセンサの使用例を示す図である。
図2図1に示したセンサの縦断面図である。
図3】本発明に係る結露防止手段を備えた空気圧シリンダの一実施例の縦断面図及びその一部拡大図である。
図4】本発明に係る結露防止手段を備えた空気圧シリンダの他の実施例の縦断面図である。
図5】本発明に係る結露防止手段を備えた空気圧シリンダのさらに他の実施例の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下本発明の実施例を、図面を用いて説明する。図1は、本発明に係る外径測定装置60を用いてワークWの外径を測定する様子を示す模式斜視図であり、外径測定装置60は一対の汎用測定ヘッド50と制御器20や圧縮空気源10を含む。各測定ヘッド50には2つの配管系があるが、図1では図面を明瞭化するため、1系統のみ示している。各配管系では、チューブ14および切換弁(例えば三方弁)12を介して圧縮空気源10から加圧空気が供給される。後述するように測定前または測定後に測定子300をワークWから引き離すために空気圧シリンダ100が、各測定ヘッド50に搭載されている。なお、測定時には、測定ヘッド50に信号線22を介して接続された制御器20が、測定ヘッド50の端部に設けた測定子300を制御してワークWに当接させて測定を実行する。
【0018】
測定ヘッド50の詳細を図2に縦断面図で示す。測定ヘッド50は、ほぼ直方体のケース190内に空気圧シリンダ100と作動トランス180を収容しており、ケース190からは測定子300にアーム234を介して接続される軸132が延在している。ケース190と軸132は、軸132の味噌すり運動を可能にするベローズ230を介して封止されている。ケース190内には、揺動軸140が軸132に実質的に直角方向に配置されており、揺動軸140は軸132の長手方向中間部に配設された保持台142に設けた貫通穴144に嵌合している。従って軸132は揺動軸140周りに揺動可能になっている。
【0019】
ケース190の一側面192には開口194が形成されており、この開口194に上述したベローズ230の一端側が気密に保持されている。ベローズ230の他端側は軸132の端部132bに気密に接続されている。軸132のベローズ230取付け側端部132bは、連結具232を介してアーム234に位置調整可能に接続されている。軸132に接続する側とは反対側のアーム234の端部には、測定子300を保持する測定子ホルダ236が取付けられている。測定子ホルダ236に係止する留めネジ238が、測定子300の先端部にある接触子部240を、図2では縦方向に位置調整可能としている。図1に示したような外径測定の場合には、上側に配置した本例の接触子部240を下方に押し付け、下側に配置した本例の接触子部240を上方に押し付けて、挟み込んで測定する。
【0020】
以下、上側の測定ヘッド50について説明するが、下側の測定ヘッド50でも上下反対になる以外は上側の測定ヘッド50と同じである。接触子部240を下方に押し付けるために、ケース190内であって軸132の保持台142よりも反測定子側132aに引張りバネ146が配設されている。引張りバネ146の一端側は、ケース190の内側に突出した支軸148に係止しており、引張りバネ146の他端側は、軸132の長手方向中間部に設けた係止具134に係止している。従って引張りバネ146はその位置で軸132を引き寄せるように作用し、その結果軸132は揺動軸140を中心に揺動し、次いでアーム234を下方に押し付ける。これにより計測が可能になる。以下に詳細を示す作動トランス180と、引張りバネ146及び揺動軸140は、揺動手段を構成する。
【0021】
軸132の反測定子側132aの端部近傍には、軸132に垂直な変位軸182が軸132に取付けられており、この変位軸182を取り囲むようにコイル184が巻回されて作動トランス180を構成している。作動トランス180の信号線22は、まとめて気密に端子処理された端子処理部186として制御器20に接続される(図1参照)。
【0022】
測定終了時や測定準備時には、接触子部240とワークWの双方を保護するために、接触子部240をワークWから遠ざける。そのため、軸132の長手方向であって引張りバネ146と作動トランス180の間に、空気圧シリンダ100が配設されている。空気圧シリンダ100は、キャップ110を備える密封形状のシリンダ112とシリンダ112内を摺動可能なピストン118を主要構成としている。ピストン118の一端側はシリンダ112内に収容され、他端側はシリンダ112から下方に延在している。シリンダ112の下端面は、軸132に設けた当接部130に対向している。
【0023】
測定時のように引張りバネ146の付勢力を作用させる場合には、空気圧シリンダ100は、ピストン118が当接部130から遠ざかるように、ピストン118をシリンダ112の内側へ引き込むように作用する。一方非測定時には、空気圧シリンダ100は、引張りバネ146の付勢力に抗してピストン118の下端が軸132の当接部130に当接するよう、下方へ押し下げる。
【0024】
ところで、空気圧シリンダ100のシリンダ112内をピストン118が往復動すると、シリンダ112内に形成される2つの部屋、すなわち第1室170と第2室172の容積が変化する。その際、これら2つの室170、172に導入された加圧空気が局所的に断熱膨張し、加圧空気に含まれる水分が結露として発生する場合がある。また加圧空気の空気源と空気圧シリンダ100の間の配管系でも加圧空気の断熱膨張現象が生じると結露が生じる。上述したように結露は、汚染の元となったりグリースの流出および劣化を引き起こしたりして、空気圧シリンダ100の動作を遅延させる要因となり得る。従来から結露を防止する手段が設けられているが、確実に結露を防止できるものは装置が大型化する一方、小型化したものや簡素なものは信頼性に乏しい。しかも本発明に係る汎用測定ヘッド50は小型であることが必須要件であるので、小型および簡単な構成で信頼性に富む結露防止手段が必要になっている。このような汎用測定ヘッド50用の空気圧シリンダ100の結露防止手段150について、図3ないし図5を用いて詳述する。
【0025】
図3は、本発明に係る汎用測定ヘッド50に用いる空気圧シリンダ100の一実施例を示す図であり、同図(a)は空気圧シリンダ100の主要部の縦断面図、同図(b)は同図(a)のA部拡大図である。キャップ110を備えるシリンダ112は円筒状に形成されており、その下部には内径が縮径された縮径部115が形成されている。縮径部115の中央部には、ピストン118の軸部119が往復動可能に嵌合する貫通穴113が形成されている。ピストン118の軸部119とシリンダ112を気密に封止するため、シリンダ112の縮径部115にはパッキン128、129が1個または複数個、シリンダ112の軸方向に間隔を置いて配設されている。シリンダ112の上面にはキャップ110が嵌合されており、キャップ110とシリンダ112はニトリルゴムまたはフッ素樹脂等の樹脂製Oリング122により気密に封止されている。
【0026】
ピストン118の上部はシリンダ112の内径より僅かに小径の摺接部120として形成されており、摺接部120の軸方向中間部にはパッキン126を収容する環状溝121が形成されている。環状溝121にはパッキン126が収容されて、シリンダ112内でピストン118を気密に封止する。以上説明したパッキン128、129とOリング122によりシリンダ112は外部に対して気密に封止され、一方パッキン126によりシリンダ112内部では、ピストン118の摺接部120で区画された2つの室170、172が気密に封止される。
【0027】
シリンダ112の軸方向2カ所には、間隔を置いて空気出入り口114、116が形成されており、これらの空気出入り口114、116は、シリンダの内部空間である第1室170と第2室172にそれぞれ連通している。空気出入り口114、116のシリンダ112外表面側は、ネジ穴に形成されており、ホースエルボウが取り付け可能になっている。ホースエルボウをシールテーブ等を介して空気出入り口114、116に取付けることにより、外部空気源10から切換弁12やチューブ14を介して加圧空気が第1室170および第2室172に選択的に供給される(図1参照)。下側の第2の空気出入り口116は、第2室172とシリンダ112の縮径部115の境目に形成されており、詳細を後述する結露防止手段150の一部を形成する連通孔160に連接している。
【0028】
ピストン118の上端部近傍は、摺接部120よりも小径に形成されており、その小径部にはOリング溝123aが形成されている。Oリング溝123aには、弾性体であるフッ素樹脂またはニトリルゴム等の樹脂製のOリング124が嵌合される。ここで、Oリング124はピストン118の軸方向に直角な方向に微小距離移動可能であり、移動した後にすぐ元の位置に戻るよう案内するために、Oリング溝123aの上下いずれかの面、図3では下側の面が、傾斜面またはテーパ面125aで形成されている。Oリング溝123aの背面側の円筒面の周方向1カ所には、小孔162が形成されている。小孔162の直径は、φ0.2mm程度である。第1室170と第2室172が均圧の場合、または第1室170の圧力が第2室172の圧力より高い場合には、Oリング124はその弾性力により、Oリング溝123aの背面側側壁面を覆って閉塞しており、結果としてOリング溝の背面側壁面に形成された小孔162の一方の開口部からの空気の漏出を防止している。
【0029】
小孔162に連接するように、ピストン118の摺接部120には、ピストン118の軸方向に延びる連通孔160が形成されている。連通孔160はピストン118の軸部119よりも外径側であって、周方向に1カ所だけ形成される。連通孔160の直径はφ1mm程度である。さらに、この連通孔160に下側の空気出入り口116が連通するように、ピストン118の摺接部120の下端面には周方向1カ所だけ連通溝117が形成されている。これらの連通溝117や連通孔160、162により、下側の空気出入り口116からOリング124に当接する小孔162までの空気流路が形成され、Oリング124とともに結露防止手段150を構成する。
【0030】
次にこのように構成した結露防止手段150の作用を説明する。図2に示した汎用測定ヘッド50の計測時には、測定子300をワークWに当接させるため空気圧シリンダ100のピストン118の先端部(下端部)は、軸132に設けた当接部130から離れるように動かされる。そのため、ピストン118を上方に動かすように、空気源10からの加圧空気が切換弁12とチューブ14を介して第2の空気出入り口116へ供給され、次いで第2の空気出入り口116から第2室172への流路である連通穴116aを介して第2室172へ供給される。
【0031】
一方、第1室170およびチューブ14内に残留していた冷えた加圧空気または圧力が低下した空気は、第1の空気出入り口114に連通する通路から、チューブ14と切換弁12を介して大気もしくは環境に排気される。この一連の動作において、第2室172に流入した加圧空気は、この加圧空気の圧力によりピストン118を付勢し、速やかにピストン118を上方に押し上げるとともに第2室172の容積を増大させる。
【0032】
ここで、第2の空気出入り口116から第2室172に流入した加圧空気のごく一部を、シリンダ112の縮径部115の上面に形成した連通穴116aとピストン118の摺接部120の底面に形成した連通溝117を介して、ピストン118の軸線方向に延びる連通穴160から小孔162へ導く。小孔162に導かれた加圧空気は、小孔162の端面を塞いでいたOリング124を第1室170の圧力に抗して、小孔162部において半径方向に押し出し、Oリング124との間に隙間を形成する。小孔162に導かれた加圧空気は、この隙間から第1室170に漏れ出る。
【0033】
第1室170に存在していた冷えた空気は、ピストン118の上方への動きによる第1室170の容積低下に応じて押し出されて第1の空気出入り口114を通って外部へ排出される。それとともに、第1室に漏れ出た小孔162に供給された加圧空気も、第1室170の冷えた残留空気とともに空気圧シリンダ100外へ排出される。ここで、第2室172から連通孔160を介して漏れ出した加圧空気は、ピストン118による第1室170内の空気の排出を促進する。
【0034】
なお、小孔162の直径は上述したとおり0.2mm程度であるから、ピストン118の外径に比して十分小さいので、小孔162を通って漏れる加圧空気量は微量である。そのため、第2室172の期待圧力からの圧力低下は無視できる程度であり、第2室172に導かれた加圧空気がピストン118を付勢する付勢力が低下する恐れはない。従って加圧空気の供給時に、切換弁12の切換によりピストン118の応答性を低下させる恐れがなく、空気圧シリンダの制御性が確保される。
【0035】
汎用測定ヘッド50を用いる計測前や計測後に、切換弁12を切替えてピストン118を下方に押し出し、軸132に設けた当接部130に当接させる場合には、加圧空気源10からの加圧空気を第1の空気出入り口114に導く。一方第2の空気出入り口116はチューブ14および切換弁12を介して空気圧シリンダ100の外部に開放されている。このとき、Oリング124が嵌合されたOリング溝123aでは、加圧空気によりOリング124が小孔162に押し当てられ、小孔162への流路を遮断する。
【0036】
汎用測定ヘッド50に空気圧シリンダ100を設けて測定する場合には、測定子300とワークWを保護するために、測定終了直後または測定前の応答性が測定への移行時よりも重視される。そのため、本実施例の空気圧シリンダでは測定終了後または測定前の切換弁12の切換時には、従来の空気圧シリンダ100と同様の構成となるようにして空気圧シリンダ100の応答性を確保し、測定移行時には第1室170の冷えた残留空気を加圧空気で加熱するとともに、連通孔160を通る漏れた加圧空気とともに第1室170の残留空気を空気圧シリンダ100外に排出して、空気圧シリンダ100の障害となる結露の発生の防止しまたは結露を第1室170から無くしている。このように、本実施例による結露防止手段150は、Oリング124の伸縮により、第1室170と第2室172の間を一方向連通する逆止弁の作用をする。
【0037】
次に本発明に係る空気圧シリンダ100bの他の実施例を、図4に示す。図4は空気圧シリンダ100bの縦断面図であり、図3(a)に対応する図である。本実施例が図3に示した実施例と異なるのは、結露防止手段150をピストン118bの摺接部120の下部に設けたことにある。すなわち結露防止手段150を構成するOリング溝123bを摺接部120とシリンダ112の内壁をシールするパッキン126よりも、ピストン118bの軸線方向において下方に配置したことにある。それとともに、Oリング溝123bを形成する上下壁面の内の下方の壁面を傾斜面またはテーパ面125bとし、上方の面を水平面としたことにある。
【0038】
この場合、上記実施例とは異なり、第1室170に導かれた加圧空気の一部が連通孔160b、小孔162bを介してOリング124の背面に導かれる。そして、Oリング124を小孔162b部で伸ばしてOリング124と小孔162b間に隙間を形成し、第2室172内に残留する冷えた空気を空気圧シリンダ100外に排出するのを促進する。
【0039】
本実施例の空気圧シリンダ100では、ピストン118bの上方への動きは従来の空気圧シリンダと同様であるので、上方へのピストン118bの応答性が重視される場合に用いて、好適である。なお小孔162bの直径はシリンダ112の内径に比べて十分小さいので、ピストン118bの下方への応答性の劣化や付勢力の低下は無視できる。本実施例においても、結露防止手段150は、Oリング124の伸縮により、第1室170と第2室172の間を一方向連通する逆止弁の作用をする。
【0040】
次に本発明に係る空気圧シリンダのさらに他の実施例を、図5を用いて説明する。図5は空気圧シリンダ100cのさらに他の実施例の縦断面図である。本実施例では、上記各実施例とは異なり、冷えた残留空気を加熱する加圧空気の経路をピストン118c側ではなくシリンダ112c側に設けている。小型化を維持する構造上、第1の空気出入り口114をキャップ110cに設け、第1の空気出入口114から第1室に連通する空気通路114cをキャップ110c内に曲がった流路で形成している。
【0041】
シリンダ112cの外周壁を2重壁構造とし、内壁165と外壁164間に連通空間162cを設け、この連通空間162cと第2室172間を連通する連通孔160cを内壁165に形成している。さらに、内壁165の上部にはOリング溝123cが形成されていて、Oリング124が嵌合されている。Oリング溝123cの上下壁面ともに傾斜面またはテーパ面125c、125dに形成されており、シリンダの内壁165の周方向1カ所であってOリング溝123c形成部のOリング124の背面側には小孔162dが形成されている。
【0042】
本実施例においても、図3に示した実施例と同様に第2の空気出入り口116に導かれた加圧空気で第1室170に残留する冷えた空気を確実に排出することが可能になる。本実施例は、図3の実施例と同様にピストン118cの下方への動きは従来通りであるから、ピストン118cの上方への応答性が重視される場合に好適である。なお本実施例でも、結露防止手段150は、Oリング124の伸縮により、第1室170と第2室172の間を一方向連通する逆止弁の作用をする。
【0043】
上記各実施例では2室から構成される空気圧シリンダについて、一方の室に供給される加圧空気を用いて他方の室に残留する冷えた空気を加熱するので、空気圧シリンダ内に結露が発生する恐れがないかまたは結露の残留を無くすことが可能になる。それにより、空気圧シリンダで使用されるグリース等の劣化を防止することができる。また、一方の室に導入された加圧空気を他方の室に供給するのは、小孔とOリングを介してのいわゆる逆止弁的作用であるから、ピストンの一方向の動きの応答性は従来通りに確保されるとともに、他方向への動きは小孔からの漏れ量が僅かであるので、応答性を損ねることがない。
【0044】
従って上記各実施例によれば、簡単な構成で信頼性が高く、空気圧シリンダの応答性を確保できる結露防止手段が得られる。
【符号の説明】
【0045】
10…空気源、12…切換弁(三方弁)、14…チューブ、20…制御器、22…信号線、14…チューブ、50…汎用測定ヘッド、60…測定装置、100、100b、100c…空気圧シリンダ、110、110c…キャップ、112、112c…シリンダ、113…貫通穴、114…(第1の)空気出入り口(ホースエルボウ取付け部)、114c…空気通路、115…縮径部、116…(第2の)空気出入り口(ホースエルボウ取付け部)、116a…連通穴、117…連通溝、118、118b、118c…ピストン、119…軸部、120…摺接部、121…環状溝、122…Oリング、123a~123c…Oリング溝、124…Oリング、125a~125d…傾斜面(テーパ面)、126…パッキン、128、129…パッキン、130…当接部、132…軸、132a…反測定子側、132b…(側)端部、134…係止具、140…揺動軸、142…保持台、144…貫通穴、146…引張りバネ、148…支軸、150…結露防止手段、160、160b、160c…連通孔、162、162b…小孔、162c…連通空間、162d…小孔、164…外壁、165…内壁、170…第1室、172…第2室、180…差動変圧器部、182…変位軸、184…コイル、186…端子処理部、190…ケース、192…側面、194…開口、230…ベローズ、232…連結具、234…アーム、236…測定子ホルダ、238…留めネジ、240…接触子部、300…測定子、W…ワーク

図1
図2
図3
図4
図5