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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】静菌用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/519 20060101AFI20241004BHJP
   A61K 36/70 20060101ALI20241004BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20241004BHJP
   A23K 10/30 20160101ALI20241004BHJP
   A23K 20/137 20160101ALI20241004BHJP
   A23K 50/75 20160101ALI20241004BHJP
   A23L 3/3544 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
A61K31/519
A61K36/70
A61P31/04 171
A23K10/30
A23K20/137
A23K50/75
A23L3/3544 502
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021056169
(22)【出願日】2021-03-29
(65)【公開番号】P2022153109
(43)【公開日】2022-10-12
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002480
【氏名又は名称】弁理士法人IPアシスト
(72)【発明者】
【氏名】岩田 剛敏
(72)【発明者】
【氏名】渡部 綾子
(72)【発明者】
【氏名】楠本 正博
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/062861(WO,A1)
【文献】特開2012-125225(JP,A)
【文献】特表2016-520044(JP,A)
【文献】特開2009-114120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,A61P,A23K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリプタンスリンを含有する、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)又はカンピロバクター・コリ(Campylobacter coli)に対する静菌用組成物。
【請求項2】
藍草又は藍草の抽出物を含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
藍草が蓼藍である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
非ヒト動物用の飼料又は飲料の形態である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
非ヒト動物が牛、豚又は家禽である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
非ヒト動物が鶏である、請求項4又は5に記載の組成物。
【請求項7】
トリプタンスリンを含有する組成物を非ヒト動物に摂取させることを含む、非ヒト動物においてカンピロバクター・ジェジュニ又はカンピロバクター・コリを静菌する方法。
【請求項8】
非ヒト動物が牛、豚又は家禽である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
非ヒト動物が鶏である、請求項7又は8に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリプタンスリンを含有する、食中毒の原因となるカンピロバクター属菌に対する静菌用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カンピロバクター(Campylobacter)属菌、特にCampylobacter jejuni(C. jejuni)又はCampylobacter coli(C. coli)によって引き起こされる食中毒は、日本のみならず世界的にも最も発生数の多い細菌性食中毒である。特に、C. jejuni及びC. coliは家畜の腸管内に高率に保菌されていることから、と畜場や食鳥処理場から出荷される食肉、特に鶏肉がこれら細菌で汚染されて食中毒の原因となる事故例が多い。このため、家畜、特に鶏へのカンピロバクター属菌の感染、又はこれらの細菌による食鳥処理場での鶏と体汚染を低減する有効な対策が、強く求められている。
【0003】
家畜を対象としたカンピロバクター属菌の感染への対処として、鞭毛のないカンピロバクター株に対して惹起された抗血清を含むことを特徴とするワクチン(特許文献1)、クロストリジウム・ブチリクムを有効成分とする家禽類または家畜類におけるカンピロバクターの増殖抑制剤(特許文献2)、乳酸菌とオリゴ糖を含む鶏のカンピロバクター感染を制御するための飲用水(特許文献3)、桑葉または桑葉とオリゴ糖を混合することを特徴とする鶏のカンピロバクター感染を制御するための飼料(特許文献4)等が、提唱されている。
【0004】
トリプタンスリン(tryptanthrin、インドロ[2,1-b]キナゾリン-6,12-ジオン)は、青色色素インディゴの原料となる含藍植物(以下、藍草と称する)に含まれる、インドロキナゾリンアルカロイドの1種である。トリプタンスリンは、Bacillus subtilis、Escherichia coli、メチシリン耐性Staphylococcus aureus、Plasmodium falciparum、Leishmania donovani、Trypanosoma brucei、Toxoplasma gondii、Helicobacter pylori等に対して抗菌活性を有しており、藍草が示す抗菌作用の科学的な根拠とされている(非特許文献1)。またトリプタンスリン及びこれを含む藍草抽出物が、Campylobacter rectusやStreptococcus mutansその他の口腔内細菌に対しても抗菌活性を有することが報告されている(特許文献5)。しかし、食中毒の主な原因とされるC. jejuni及びC. coliに対するトリプタンスリンの生理活性は知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】佐々木健郎、東北薬科大学研究誌、第62号、25-37(2015)
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-351735
【文献】特開平04-154727
【文献】特開2012-180304
【文献】特開2012-125225
【文献】WO2008/062861
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、食中毒の原因となるカンピロバクター属菌、特にC. jejuni及びC. coliの増殖を抑制することのできる新たな手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、トリプタンスリン及びこれを含む藍草が、C. jejuni及びC. coliに対して高い静菌活性を有することを見出し、以下の発明を完成させた。
【0009】
(1) トリプタンスリンを含有する、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)又はカンピロバクター・コリ(Campylobacter coli)に対する静菌用組成物。
(2) 藍草又は藍草の抽出物を含有する、(1)に記載の組成物。
(3) 藍草が蓼藍である、(2)に記載の組成物。
(4) 非ヒト動物用の飼料又は飲料の形態である、(1)~(3)のいずれか一項に記載の組成物。
(5) 非ヒト動物が牛、豚又は家禽である、(4)に記載の組成物。
(6) 非ヒト動物が鶏である、(4)又は(5)に記載の組成物。
(7) トリプタンスリンを含有する組成物を非ヒト動物に摂取させることを含む、非ヒト動物においてカンピロバクター・ジェジュニ又はカンピロバクター・コリを静菌する方法。
(8) 非ヒト動物が牛、豚又は家禽である、(7)に記載の方法。
(9) 非ヒト動物が鶏である、(7)又は(8)に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明による静菌用組成物は、動物の腸内細菌叢に望ましくない影響を与えることなく、食中毒の原因となるカンピロバクター属菌の増殖を選択的かつ強力に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に記載する本発明の説明は、代表的な実施形態又は具体例に基づくことがあるが、本発明はそのような実施形態又は具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において、各数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。また、本明細書において「~」又は「-」を用いて表される数値範囲は、特に断りがない場合、その両端の数値を上限値及び下限値として含む範囲を意味する。
【0012】
本発明は、トリプタンスリンを含有する、C. jejuni又はC. coliに対する静菌用組成物を提供する。
【0013】
トリプタンスリン(tryptanthrin、インドロ[2,1-b]キナゾリン-6,12-ジオン)は、下記式(I)で表される化合物である。
【化1】
【0014】
C. jejuni及びC. coliはいずれも、日本におけるカンピロバクター属菌による食中毒の主要な原因菌であり、遺伝的に多様であることが報告されている。トリプタンスリンは、これらC. jejuni及びC. coliの様々な遺伝子型の株に対して、高い静菌活性を選択的に発揮することができる。したがって、トリプタンスリンを含有する組成物は、C. jejuni及びC. coliの静菌のために用いることができ、ヒト及び非ヒト動物、特に家畜に摂取させた場合、腸内細菌叢に対する影響が少ない選択的な静菌活性を発揮することができると考えられる。なお、本発明では、静菌用組成物とは対象とされる細菌の増殖を抑制する、すなわち静菌するための組成物を意味し、また静菌活性は、増殖抑制活性又は抗菌活性と交換可能に用いられる。
【0015】
一つの実施形態において、静菌用組成物は、トリプタンスリンを含む藍草又は藍草の抽出物を含有する。本発明で利用される藍草は、トリプタンスリンを含むものであればよく、その例としては、タデ科(Polygonaceae)の蓼藍(藍蓼とも称される、Polygonum tinctorium)、キツネノマゴ科(acanthaceae)の琉球藍(Strobilanthes cusia)、マメ科(Leguminosae)のインド藍(ナンバンコマツナギ(indigofera suffruticosa)、キアイ(indigofera tinctoria))、アブラナ科(Brassicaceae)のハマタイセイ(Isatis tinctoria var. yezoensis)、タイセイ(Isatis indigotica)及びウォード(Isatis tinctoria)、ガガイモ科(Asclepiadaceae)のアイカズラ(Marsdenia tinctoria)等を挙げることができる。本発明において好ましく利用される藍草は、蓼藍である。
【0016】
本発明で利用される藍草は、野生種であっても栽培品種であってもよい。本発明において好ましく利用される蓼藍の栽培品種としては、小上粉の白花種及び赤花種、赤茎小千本、青茎小千本、千本、大千本、宮城、松江、広島神辺、紺葉、那賀椿、百貫等を挙げることができる。また、藍草は、その栽培方法に制限はなく、従来、藍草の栽培に用いられている方法によって栽培した藍草であっても、天然に自生している藍草であってもよい。
【0017】
藍草は、植物体の全体を用いることも可能であるが、トリプタンスリンが多く存在する葉部分を用いることが好ましい。また、藍草のトリプタンスリン含有量は乾燥により増加することが知られているため、乾燥させた藍草を使用することが好ましい。乾燥は、天日乾燥、熱風乾燥その他の、当業者に知られた方法によって行うことができる。
【0018】
静菌用組成物に含有される藍草は、細断、破砕、磨砕等の処理によって細かくされたもの、特に粉末であることが好ましい。
【0019】
本発明で利用される藍草の抽出物は、好ましくは乾燥されている藍草を、溶媒で抽出することによって調製することができる。抽出処理に用いられる溶媒としては、水、低級アルコール(例としてメタノール、エタノール)、多価アルコール(例としてプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール)等を単独で又は2種以上を適宜混合して使用することができる。蓼藍からの抽出のための好ましい溶媒としては、水、低級アルコール、又は水と低級アルコールを挙げることができ、ここで低級アルコールとしては特にエタノールが好ましい。
【0020】
抽出処理は、藍草と溶媒とを接触させることを含む、植物抽出物を製造する一般的な方法により、行うことができる。使用する溶媒の量、抽出時間、抽出温度等の抽出条件は、当業者によって適宜設定される。例えば、抽出溶媒として水、又は含水率の高い水と低級アルコールとの混合溶媒を用いる場合、抽出効率を上げるため、抽出温度を室温よりも高温にすること、例えば60℃以上、80℃以上、90℃以上にすることが好ましい。なお、本発明における静菌活性を損なわない範囲で、抽出溶媒に界面活性剤等の添加剤を適宜添加してもよい。抽出後、濾過、遠心分離、デカンテーション等の一般的な方法で抽出液を回収することができる。
【0021】
上記の抽出処理によって得られる藍草の抽出物は、抽出液そのままの形態で、又は抽出液の濃縮物若しくは乾燥物の形態で、本発明の静菌用組成物に含有させることができる。抽出液の濃縮及び乾燥の方法に制限はなく、当業者に公知の方法、例えば、加熱や凍結乾燥等によって行うことができる。
【0022】
また、本発明においては、市販の藍草抽出物、例えば藍草を原料とする茶を用いることもできる。
【0023】
別の実施形態において、静菌用組成物は、合成されたトリプタンスリン、又は上記の藍草抽出物等の混合物から精製されたトリプタンスリンを含有する。トリプタンスリンは、当業者に公知の方法によって合成することができ、例えば、青色色素であるインディゴ(2,2’-ビス(2,3-ジヒドロ-3-オキソインドリリデン))を無溶媒で熱分解することによって合成することができる(例として特開2017-1969等)。また混合物からのトリプタンスリンの精製は、当業者に公知の方法、例えば、濾過、遠心分離、溶媒分別、分別沈澱、透析、各種クロマトグラフィー等によって行うことができる。
【0024】
本発明の静菌用組成物の形態に制限はなく、液体形態であっても、粉末、粒状、塊状その他の固体形態であってもよい。また、静菌用組成物は、静菌活性を妨げるものでない限り、トリプタンスリン以外の生理活性物質(抗菌剤、成長促進剤等)、栄養成分(タンパク質、脂質、ミネラル、ビタミン類等)、又は賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤若しくは担体等の成分を含んでいてもよい。
【0025】
本発明の静菌用組成物は、有効量のトリプタンスリンを含有する。ここで有効量とは、C. jejuni又はC. coliを静菌することができる量であり、静菌用組成物が適用される環境、当該環境中のC. jejuni又はC. coliの存在量、静菌用組成物の適用方法等の要因に応じて、当業者により適宜決定される。鶏に経口摂取させる場合を例にすれば、有効量のトリプタンスリンは、1羽あたり、例えば5~2000μg/日、好ましくは10~1500μg/日、より好ましくは20~1000μg/日、特に好ましくは50~750μg/日である。
【0026】
本発明の静菌用組成物は、C. jejuni又はC. coliの静菌が求められる生体外及び生体内の環境に対して適用することができ、特に、C. jejuni又はC. coliを保有している又は保有するおそれのある動物に対して適用することができる。このような動物の例としては、ヒト及び非ヒト動物、例えばマウス、ラット、ハムスター、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、家禽(ニワトリ、アヒル、カモ、ガチョウ、シチメンチョウ、ウズラ等)、サル等を挙げることができる。静菌用組成物は、好ましくは牛、豚及び家禽等の食用に供される家畜に、特に好ましくは鶏に適用することができる。
【0027】
本発明において、静菌用組成物の適用とは、C. jejuni又はC. coliが存在する環境に静菌用組成物を存在させることを意味する。静菌用組成物の動物に対する適用は、静菌用組成物を動物に摂取させることによって行うことができる。例えば、家畜に摂取させるための静菌用組成物は、トリプタンスリン又は藍草若しくは藍草抽出物を含有する家畜用の飼料又は飲料の形態であることが好ましい。このような飼料又は飲料は、一般的な家畜用飼料又は飲用水にトリプタンスリン又は藍草若しくは藍草抽出物を配合することによって調製することができる。家畜用飼料又は飲料の形態とすることで、家畜にストレスを与えることなく簡便に静菌用組成物を摂取させることができ、家畜の腸管内に生息するC. jejuni及びC. coliを静菌することができる。
【0028】
家畜用飼料又は飲料の形態の静菌用組成物は、飼育期間の全体にわたって家畜に摂取させることもできるが、効率性の観点から、C. jejuni又はC. coliの静菌が特に望まれる期間、例えば、食肉用の鶏であればこれらの細菌の出現が確認され始める3週齢頃から出荷のおよそ2~3週間前までの期間に摂取させればよい。
【0029】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0030】
実施例1
・トリプタンスリン溶液の調製
ミューラーヒントン液体培地(Becton Dickinson)を用いて、トリプタンスリン(富士フィルム和光純薬)濃度が100μM~0.05μMの2倍段階希釈液を調製した。
・藍粉抽出液の調製
市販藍粉(蓼藍の葉の乾燥粉末)2gをミューラーヒントン液体培地(Becton Dickinson)100mlに加え、室温で3時間、100rpmで振盪した後、13,000rpmで10分遠心し、上清を0.22μmフィルターでろ過することで2%藍抽出液を作製した。抽出液を2倍段階希釈して藍粉濃度が2~0.0156%の希釈液を調製した。
・最少発育阻止濃度(MIC)の測定
96ウェルプレートに各濃度のトリプタンスリン溶液又は藍粉抽出液を100μLずつ分注した。終濃度が10CFU/mlとなるように供試菌をウェルに接種後、カンピロバクター属菌は37℃、微好気条件下で3日間培養、他の供試菌は37℃、好気条件下で18時間培養した。培養後の試験液の濁りを目視で確認することで、各供試菌に対するトリプタンスリン及び藍粉それぞれのMICを測定した。使用した供試菌とそれぞれに対するトリプタンスリンのMICを表1に示す。カンピロバクター属菌の遺伝子型別は、既報(C. jejuniについてはDingle KE et al., J. Clin Microbiol. 39:14-23 (2001)、C. coliについてはDingle KE et al., J. Clin Microbiol. 43:340-347 (2005)、C. fetusについてはvan Bergen MA et al., J Clin Microbiol, 43:5888-98 (2005)に従って、Multi-Locus Sequence Typing(MLST)法によって実施した。
【0031】
トリプタンスリンのC. jejuni及びC. coli に対するMICは、全ての株で0.78~12.5μMであった。一方、トリプタンスリンのC. fetusに対するMICは、1株を除いて>100μMであった。また、鶏に一般的に認められる腸内細菌であるEscherichia coli、Enterobacter cloacae、Enterococcus faecalis、Klebsiella pneumoniae、Proteus mirabili、Salmonella entericaに対するトリプタンスリンのMICは、いずれも>100μMであった。
【0032】
国際公開パンフレットWO2008/062861によると、口腔内細菌の一種であるC. rectusに対するトリプタンスリンのMICは25μg/ml(約100μM)であった。したがって、トリプタンスリンはカンピロバクター属菌やその他の腸内細菌の中でもC. jejuni及びC. coliに対して選択的かつ高い静菌活性を示すことが確認された。
【0033】
また、藍粉のC. jejuni及びC. coli に対するMICは0.5または1%であり、藍粉のC. fetusに対するMICは1または2%であった。一方、Escherichia coli、Enterobacter cloacae、Klebsiella pneumoniae、Proteus mirabili、Salmonella enterica、Enterococcus faecalisに対する藍粉のMICは、いずれも>2%であった。このことから、トリプタンスリンは藍粉の形態であってもC. jejuni及びC. coliに対して選択的な静菌活性を示すことが確認された。
【表1】
【0034】
実施例3
1日齢の鶏24羽を6群に分け、4羽ずつ各アイソレーターに入れた。終濃度が100μM、10μM、0μMとなるようトリプタンスリン水溶液を調製し、2日齢から試験期間中、各濃度のトリプタンスリン水溶液をそれぞれ2群ずつに飲水投与した。4日齢の鶏にC. jejuni Cj13の菌液を106または103 CFU/羽となるように胃ゾンデにより経口投与した。投与から2週目に動物用イソフルランにより安楽死させて盲腸内容中の菌数を測定した。
【0035】
C. jejuni Cj13を103 CFU/羽となるよう経口投与した3群の盲腸内容物1g中におけるC. jejuni菌数を比較した結果、トリプタンスリン未投与群の菌数(平均2.6×108 CFU/g)と比較して、トリプタンスリン10μM投与群及び100μM投与群の菌数(平均4.0×106 及び2.9×106 CFU/g)は有意に低かった(p<0.05)。また、C. jejuniを106 CFU/羽となるよう経口投与した3群でも、トリプタンスリン未投与群のC. jejuni菌数(平均3.7×108 CFU/g)と比較して、トリプタンスリン100μM投与群の菌数(平均2.4×107 CFU/g)は有意に低かった(p<0.05)。このことから、トリプタンスリンはin vivoでもin vitro同様にC.jejuniに対する静菌活性を示すことが確認された。